<勇者の自宅>
勇者(魔王め……三年前に倒したばかりだってのに)
勇者(まさか、こんなにも早く復活するとは思わなかったな)
勇者(まぁいいや……。世界の平和を脅かすのなら、何度だって倒してやる!)
勇者(準備も整ったし、そろそろ出発──)
コンコン
勇者(ノック? だれだ、この忙しい時に……)
勇者「はい」ガチャッ…
白スーツ「おはようございます」ニコッ…
勇者「お、おはよう……」
勇者(なんだこの男は……。見たこともない服を着ているが……)
勇者「俺になにか用か?」
白スーツ「わたくし、セールスマンでございます」
勇者「セールス? つまり、物を売りたいってこと?」
白スーツ「はい」
勇者「悪いんだけど、俺すぐに出かけなくちゃいけなくて──」
白スーツ「魔王退治の旅に、ですか? 勇者様」
勇者「!」
勇者「なんで俺のことを……」
白スーツ「ハッハッハ、ご謙遜なされる」
白スーツ「今この世界に住む者であなたを知らない者はいないでしょう」
白スーツ「なにしろ三年前、魔王を倒し、世界を救われた方なのですから」
勇者「知らない者はいないって……。さすがに褒めすぎだよ」
勇者(……悪い気はしないけど)
勇者「だけど、だとしたら俺がここで立ち止まってるヒマがないことも分かるだろ?」
勇者「アンタのいうとおり、俺は今すぐ魔王退治に出かけなきゃならない」
勇者「だから──」
白スーツ「だからです。だからこそ、このわたくしが参ったのです」
勇者「? ──ってことはもしかして……」
白スーツ「はい、わたくしは魔王退治の役に立つ道具を売りにきたのです」
勇者「へえ……」
勇者(ちょっとうさん臭いけど……一応話だけでも聞いてみるか)
白スーツ「まずはこちら」スッ
勇者「これは……?」
白スーツ「『携帯通信機』でございます」
白スーツ「これを持っている方同士なら、いつでもどこでも」
白スーツ「気軽に連絡し合うことができます」
勇者「へぇ~」
白スーツ「連絡方法は、このボタンを押しながら相手の名を呼ぶだけでいいのです」
白スーツ「これを仲間同士で持ち合えば、はぐれてしまった際にも安心です」
白スーツ「また、これを使って高度な作戦を立てることも可能となるでしょう」
白スーツ「続いてこちらは、『生命体データ測定器』です」
白スーツ「名前のとおり、生命体のデータを測定する装置でございます」
勇者「生命体のデータって?」
白スーツ「たとえば、ほら」ピッ
白スーツ「あなたは身長178cm、体重75kgですね?」
勇者「あ、当たってる……」
白スーツ「いたって健康体でいらっしゃいますが、右わき腹に古傷があり」
白スーツ「そこを攻撃されるのは避けたい、といったところでしょうか……」
勇者「そんなことまで分かるのか……! すごいな……!」
白スーツ「このように、この測定器を使えば」
白スーツ「たとえ初めて出会うモンスターであっても、すぐにデータが分かります」
白スーツ「弱点なども分かりますので、戦いを有利に進めることができます」
勇者「へぇ~、すごいなぁ。こんなの世界中どこの店でも売ってなかったぞ」
勇者「まだ、こういう道具があるのかい?」
白スーツ「はい、もちろんです」
白スーツ「続いての品物は──」
白スーツ「『探索レーダー』です」
白スーツ「自分の周辺にいる生体反応を即座にキャッチします」
白スーツ「これさえあれば、モンスターの待ち伏せも恐れることはありません」
白スーツ「また、一度出会った生命体であれば」
白スーツ「その姿を思い浮かべることで、居場所を探り当てることもできます」
白スーツ「つまり、モンスターに逃げられても簡単に追跡することができるのです」
勇者「すごいすごい!」
白スーツ「それから、こんな商品はいかがでしょう?」
白スーツ「こちらは、『迷宮ナビゲーション』です」
白スーツ「これがあれば、どんなにダンジョンでも迷わず進むことができます」
白スーツ「トラップの解除装置や、暗号の解読機能もついていますので」
白スーツ「難解な仕掛けがあってもすぐに解決することができます」
勇者「へぇ~」
勇者「だけど、最短ルートで進んじゃうと宝箱とかを取り逃しちゃうんじゃ……」
白スーツ「その場合、この『宝物発見器』を併用すればよろしいでしょう」
白スーツ「これを使えば、宝箱を取り逃がす心配はなくなります」
勇者「さっすがぁ!」
白スーツ「最後にこちら」ジャキッ
勇者「なんだこりゃ?」
白スーツ「こちらは『万能武具』でございます」
白スーツ「このように、剣にもなりますし」ジャキーン
勇者「おおっ!?」
白スーツ「盾にもなります」ジャコンッ
勇者「おおおっ!?」
白スーツ「非常に頑丈な素材でできていますので、壊れる心配はまずありません」
勇者「これ一つあれば、いちいち武器屋に寄らなくて済むな!」
白スーツ「そのとおりでございます」
白スーツ「もちろん、今ご紹介した製品以外にも便利な品はさまざまありますが」
白スーツ「本日は手始めということで……いかがでしょう?」
勇者「そんなの決まってる! 買う! 買うよ! 買うに決まってる!」
勇者「三年前の魔王退治で報酬をだいぶもらって、蓄えは十分にあるからね」
勇者「今の道具があれば、魔王軍との戦いがだいぶ楽になる!」
勇者「いやぁ~、魔王退治の旅も便利になったもんだなぁ」
白スーツ「ありがとうございます」ニコッ
勇者「はい、代金」ジャラッ…
白スーツ「たしかにいただきました」
勇者「今日はもう出発するけど、他にも色んな商品を紹介してくれよ!」
白スーツ「かしこまりました」
勇者「なんだか、自分だけ数百年先の未来に来ちゃったみたいだ」
勇者「魔王軍の手の内は三年前に把握しているし──」
勇者「もう時代遅れの魔王軍なんか怖くもなんともないな!」
白スーツ「ええ、そのとおりでございます……」ニヤッ
──
────
──────
<宇宙船>
白スーツ「そちらはいかがでしたか?」
黒スーツ「おう、バッチリよ」
黒スーツ「俺たちが復活させた“魔王”に色々と売りつけてやったよ」
黒スーツ「基本的にはお前と同じ品物だが──」
黒スーツ「『兵士自在配備装置』『洗脳マシーン』『防御マント』とかも売ってやった」
黒スーツ「これで、この惑星ではかつてないレベルの戦いが繰り広げられるってわけだ」
白スーツ「そうすれば、戦争による特需が発生し──」
白スーツ「勇者と魔王はさらにわたくしどもの商品を求めることになりますねぇ」
黒スーツ「そういうことだな」
黒スーツ「この惑星の貨幣は、宇宙全体でも貴重なレアメタルでできているからな」
黒スーツ「ったく、あの程度の道具にこんなに金を払ってくれるなんて」ジャラッ…
黒スーツ「野蛮人のやるこたぁ、ホント分からねぇな」
黒スーツ「もっともそのおかげで、俺たちは助かるわけだがな」
黒スーツ「奴らの戦いを高みの見物しながら、じっくりカモにさせてもらおうや」
黒スーツ「そうすりゃ俺たちの生活は当分安泰だ」
白スーツ「ええ、そうしましょう」
白スーツ「奇しくもわたくしの客であった勇者のいうとおりです」
白スーツ「時代遅れの彼らなど、怖くもなんともないのですから……」ニヤッ
勇者「ふん、そんなことだろうと思ったよ」ザッ…
魔王「やはりなァ……」ズンッ…
白スーツ&黒スーツ「!?」ギョッ
黒スーツ「魔王!? な、なんでお前がここに……!?」
白スーツ「ゆ、勇者!? 魔王退治の旅に出かけたはずでは……!」
勇者「最初から、お前たちの考えなんてお見通しだったんだよ」
黒スーツ「な、なんだとぉ……!?」
勇者「──ってのは冗談だけどな」
白スーツ「へ?」
勇者「実は出発直後、試しに『携帯通信機』を魔王に向けて使ってみたんだ」
勇者「そしたら繋がっちゃってさ。ビックリしたよ、ホント」
勇者「それで、魔王のところにも似たようなセールスマンが現れたと知ったわけだ」
白スーツ「ま、まさか……そんなことするなんて……!」
黒スーツ(普通、いきなり敵の大将に連絡取ろうとするか!? 信じられねえ!)
黒スーツ(これだから野蛮人のやることは分からねえってんだ……!)
勇者「そしたらあとはもう簡単だ」
勇者「お前たちの道具と、俺たちの魔法を駆使したら、あっさりここにたどり着けた」
勇者「高度な文明を持っているようだけど、自衛手段はかなりお粗末だったな」
勇者「これは昔、旅の途中に捕まえた泥棒から聞いた話だけど──」
勇者「空き巣に入りにくい家ほど、財布や宝石は分かりやすい場所に置いてあるらしい」
勇者「それと似たようなものなのかな」
魔王「まぁ、無理もなかろう」
魔王「こやつらにとって、ワシらなど警戒にすら値せぬ原始人のようなもの」
魔王「ワシらとて、道具を購入した時には互いに“敵はもう時代遅れ”と」
魔王「有頂天になっていたわけだしな」
魔王「しかし、そのおごりが……ワシらをここに招いてしまったのだ」
白スーツ「くっ……」サッ
勇者「おっと動くなよ」ジャキッ
勇者「『生命体データ測定器』によると、生身のお前たちはさして強くない」
勇者「今この場で戦闘になったら、確実に俺たち二人が勝つ」
勇者「だからこそ、物を売りつけるなんて平和的な手段をとったんだろうしな」
白スーツ「ううっ!」
黒スーツ「ち、ちくしょう……!」
魔王「さて、聞かせてもらおうか。なぜこんなマネをしたのかをな」
黒スーツ「俺たちにだって、文明人、商人としてのプライドはある……!」
黒スーツ「なにも好き好んでお前たちをだましたわけじゃねえ……」
黒スーツ「仕方なかったんだ……!」
黒スーツ「お前たちのこの惑星には、魔王や国王といった支配者がいるように……」
黒スーツ「俺たちにも支配者ってもんがいる。それも、とびきりの暴君がな」
黒スーツ「“宇宙王”に逆らったら、星ごと滅ぼされちまうんだ!」
勇者「宇宙王? なんだそいつは?」
魔王「“王”だと?」ピクッ
白スーツ「わたくしどものような宇宙進出レベルの文明を持った種族は」
白スーツ「全て“宇宙王”によって支配されています」
白スーツ「宇宙王の配下となった種族は、定期的に高級品を上納せねばなりません」
白スーツ「たとえば、あなたがたの貨幣に使われてる金属、のようなね」
黒スーツ「生半可な品じゃ、宇宙王の怒りを買うからな……」
白スーツ「だからわたくしどもは、この惑星のような場所を探していたのですよ」
白スーツ「手軽に上納品に値する物品を手に入れられる場所を」
白スーツ「残念ながら、今回は失敗に終わってしまいましたが……」
黒スーツ「こうなった以上、さっきもらった金は返す! もうこの星にも来ねえ!」
黒スーツ「だから、今回は見逃して──」
勇者「宇宙王か……。許せないな、勇者として!」
魔王「うむ、ワシも魔王として、ワシ以上に偉そうにしている輩は許せん!」
白スーツ「え!?」
勇者「決めたぞ、俺は宇宙王を倒す!」
魔王「奇遇だな、勇者! ワシもそう考えていたところだ!」
黒スーツ「えええ!?」
勇者「ちょうど四人いるし、この四人でパーティーを組めばいいんじゃないか?」
魔王「うむ、そうだな。そうしよう。そうに決まった!」
白スーツ&黒スーツ「ええええええええええ!!?」
白スーツ「む、無茶いわないで下さい! 勘弁して下さいよ!」
白スーツ「宇宙王はわたくしどもより、ずっとすごい兵器を持っているんですよ!?」
黒スーツ「そうだ! 文明的に遅れてる俺たちじゃ、逆立ちしても勝てやしねえ!」
魔王「なにをいっておるか。ワシらはこうしておぬしらを屈服させたではないか」
白スーツ「うぐっ! それはそうですけどぉ……」
黒スーツ「だけど、それとこれとは次元がちがうっていうか……」
勇者「それに……俺だって、絶対に勝てないといわれた戦いをいくつも制してきた!」
勇者「三年前の魔王との戦いだってそうだ!」
勇者「敵が強大であればあるほど、やりがいがあるってもんだ!」
勇者「そうと決まれば、さっそく出発だ!」
白スーツ「い、いいんですね?」
白スーツ「もう二度とこの惑星に帰ってこれないかも──」
魔王「かまわん! 後のことは部下に託してきたし、もはやワシの標的は宇宙王のみ!」
勇者「同じく!」
黒スーツ「くそぉ、これだから野蛮人の考えることは分からねえってんだ!」
黒スーツ「もうどうにでもなりやがれ!」ポチッ
シュゴォォォォォ……!
こうして勇者たちは宇宙へと旅立った。
これが後に全宇宙において“宇宙の四英雄”と称えられることとなる四人の
まだ若き日の姿であった……。
おわり
以上で完結です
乙
面白かった
面白かった
大航海時代に原住民に殺された開拓者みたいな感じか
乙、よかった
乙
これは宇宙編も見てみたい
なんとなくCivilizationsを想い出した
乙乙
おつ!なんかよかった
面白い。乙
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