にこ「魔法少女……?」マミ「ラブライブ……?」 (173)
魔法少女まどか☆マギカとラブライブ!のクロスオーバーです。
ラブライブは基本アニメ設定。まどか☆マギカはThe different story要素もあるかも。
また地の文はあったりなかったりです。
SSは初投下となりますので、至らぬ所は多々でてくるでしょうが、よろしくお願いします。
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◇
これは少女たちの物語。
永遠でも、叛逆でもない。
世界の理を変える、宇宙の理を変える、少女たちのキセキ―――、
◇
もう嫌だった。
何をしても上手くいかない。
かつていた仲間たちは次から次へと私のもとを去って行った。
私の熱意が高まるほどに、周りの熱意は冷めていって。
最後には一人ぼっちの私だけがいた。
それでも、と。
それでもと、私は活動を続けた。
少しでも、一人でも誰かを救うことができればと。
活動を続けた。
アイドルマミか
そして、知ってしまった。
誰かを救い、それでも満たされぬ心を見て、不意に気付いてしまった。
いや、わざと見ないようにしていたのだ。
それを改めて思い知らされた。
結局は、
結局はそうだったんだんだと。
私は誰かを救いたかった訳ではない。
仲間が、友人が、欲しい―――この孤独感を払拭してほしかったのだ
でも、気付いてしまった。
こんな自分に、『普通』とは大きく違ってしまった自分に、友人など出来る訳がない。
私は―――一人だ。
◇
マミ「スクールアイドル、かぁ」
人でごった返した繁華街。
私は一人、ビルに備え付けられた大型の液晶画面を見あげていた。
スクールアイドル。
プロのアイドルとはまた違った、学校で独自に形成されたアイドルグループ。
部活動の延長線上にあるものだが、そのトップともなればプロと遜色がないとも言われている。
マミ(アイドル……憧れてたこともあったっけ)
液晶の中では三人組のスクールアイドルが歌い、踊っている。
最近、売出し中の期待の新人ユニットらしい。
衣装も可愛らしく、踊りも複雑なものなのに、一糸乱れずに統率されている。
何より激しい動きの中で息も切らさずに、笑顔で歌い続けている。
相当な練習を積んでいることが、画面の前からでも伝わってくる。
「ほええ。やっぱりA-RISEは凄いよお」
「かよちーん。また見とれてるよー」
「だってだって! A-RISEの人気はうなぎ上り! 結成一年と経っていない今だって、既に人気は全国レベルとすらされていて―――」
「また始まったにゃー。でも、そんなかよちんも凛は大好きだよー」
群衆の中で聞こえてきた会話。
本当に楽しそうにスクールアイドルについて語っている。
私だってそうだった。
アイドルの姿に目を輝かせて、普通の女子高生が抱くように憧れを持っていた。
でも、今の自分にそれはない。
アイドルグループを見ていても、仲睦まじげな会話を聞いていても、抱く感情は同じだ。
嫉妬。
醜い、醜い感情が湧き上がるのを止めることができない。
私はあんな目にあったのに。
私はこんな目にあっているのに。
私は―――一人なのに。
なのに、何であの子たちには友人がいて、仲間がいて、スクールアイドルなんてものが出来て……。
マミ「もう、疲れちゃったな……」
見上げた空は本当に狭くて、狭くて。
私の心を表しているかのようだった。
QB『マミ。今日は魔女退治に出ないのかい?』
マミ「……出ない」
QB『どうして? てっきり魔女退治のためにこんな遠出をしたのかと思ったよ。最近は見滝原も魔女の出現が少ないからね』
マミ「……そうかしら」
QB『そうだよ。そして、それは君のおかげだよ。巴マミ。君が魔法少女として努力したおかげで、見滝原の人々に平穏がもたらされているんだ』
マミ「……そう、うれしいわ」
QB『君は魔法少女として才能を有している。経験を積み、力の使い方も覚えてきている。それはとても喜ばしいことだよ』
マミ「そうね。でもね、今日はお休み。たまには息抜きもしないとね」
肩に乗ったキュゥべえと頭の中だけの会話。
表情の一つも変えない、そっけのないもの。
キュゥべえはいつも傍にいてくれる。
魔法少女の相棒として。
キュゥべえには感謝している。
話し相手になってくれるし、それに命の恩人でもある。
あの時、キュゥべえがいなければ私は死んでいた。
燃え盛る車内で、両親とともに。
マミ(そう、私だけが助かった……)
それが、ほんの数か月前の出来事。
それが、私の運命を大きく変えた出来事。
あれから全てが変わった。
ただの少女だった女の子は、魔法少女となって生き続けている。
マミ(あの時、なんで私はあんな願い事をしちゃったのかなあ)
時々、後悔してしまう。
あの時、両親も助けてと願っていれば、もっと違う日々になったのだろうかと。
そもそもあの時、助けてと願わなければ、こんな辛くて痛くて寂しい日々は送らずに済んだのだろうかと。
思わずには、いられない。
いられないのだ。
マミ「はぁ……」
思わず漏れた溜め息。
今日、遠出した理由もそうだ。
見滝原を離れて、少し心を休めたかった。
両親の思い出が多すぎる街。今の私にはあまりに眩しすぎる街。
ここなら誰も私を知らないし、私も誰も知らない。
ただただ人でごった返し、様々な喧騒に包まれた大都会が、とても居心地が良く感じる。
とても―――気楽だ。
マミ「キュゥべえ。少し一人にして貰っても良いかしら? 行きたい所があるの」
QB『分かったよ。気を付けてね、マミ』
マミ「ええ、ありがとう」
行きたい所なんてある訳がない。
電気機械に興味がある訳でもないし、アニメやゲームに興味がある訳でもない。
この街はその分野において聖地とされるらしいが、あいにく私にそんな趣味もない。
ただ一人になりたかっただけ。
マミ(ふふっ、おかしいわね。いつも一人な筈なのに、こんな風に思うなのに)
自虐的に笑いながら、群衆に飲まれていく。
キュゥべえの姿は既にない。
魔法少女の素質をもった少女でも探しにいったのだろう。
この人に溢れた街で一人っきり。
でも、心は久し振りに軽かった。
マミ「キュゥべえ。少し一人にして貰っても良いかしら? 行きたい所があるの」
QB『分かったよ。気を付けてね、マミ』
マミ「ええ、ありがとう」
行きたい所なんてある訳がない。
電気機械に興味がある訳でもないし、アニメやゲームに興味がある訳でもない。
この街はその分野において聖地とされるらしいが、あいにく私にそんな趣味もない。
ただ一人になりたかっただけ。
マミ(ふふっ、おかしいわね。いつも一人な筈なのに、こんな風に思うなんて)
自虐的に笑いながら、群衆に飲まれていく。
キュゥべえの姿は既にない。
魔法少女の素質をもった少女でも探しにいったのだろう。
この人に溢れた街で一人っきり。
でも、心は久し振りに軽かった。
◇
もう嫌だった。
何をしても上手くいかない。
かつていた仲間たちは次から次へと私のもとを去って行った。
私の熱意が高まるほどに、周りの熱意は冷めていって。
最後には一人ぼっちの私だけがいた。
それでも、と。
それでもと、私は活動を続けた。
少しでも、一人でも誰かを笑顔にすることができればと。
活動を続けた。
そして、知ってしまった。
誰もいない観客席を見て、自分一人だけのステージに立って、不意に気が付いてしまった。
いや、わざと見ないようにしていたのだ。
それを改めて思い知らされた。
結局は、
結局はそうだったんだんだと。
私に誰かを笑顔にすることなんて出来やしない。
私は―――一人だ。
◇
見慣れた雑踏の中を歩く。
上を見上げればビルに設置された巨大スクリーンの中で見慣れた三人組が踊っている。
道行く人の誰しもがそれを見上げ、感嘆の声を零す。
その瞳は羨望に煌めき、頬は微笑みに緩む。
私もそれを見ている。
なのに、私の胸中にはどす黒い感情しか浮かんでこない。
少し前は違った。
彼女達に心底から憧れ、尊敬し、並ばんと努力していた。
でも、私は現実を知った。思い知らされた。
一人、また一人と減っていく仲間達に。
たった一人で立つステージの孤独さに。
私は、知った。
彼女たちのようにはなれないのだ、と。
面白い
にこ「何が、いけなかったのかな」
自問するも答えは返ってこない。
当然だ。
その答えを知っていれば、とっくのとうに実行している。
分からない。いくら考えても分からない。
画面の中の彼女達と自分。
何が違い、どうすれば良かったのか。
自分は全力でやってきたつもりだ。
人一倍頑張り、皆を引っ張ろうとしてきたつもりだ。
なのに、なぜ自分は一人になってしまったのか。
にこ「精一杯、やったんだけどな……」
視界が滲む。
両眼にたまった熱いものを零さぬよう上を向いた。
にこ「……ううん。まだ諦めるのは早いわ」
そして、自らを鼓舞する。
今までと同じだ。
折れそうになる心を、何とか奮い立たせる。
にこ「私はまだ一年生。チャンスはいくらでもあるはずよ! そう、何たって私は宇宙ナンバーワンアイドルにこなんだから!」
空元気なのは自分が一番わかっている。
でも、それでも折れてしまう訳にはいかない。
小さな頃からの夢を、憧れを、捨てたくない。
人々を笑顔にする―――そうありたいと願う心を捨てたくはなかった。
気付けば市街地の中心からも離れて、周囲に人はいなくなっている。
夕焼けに照らされた世界で、まるで自分しかいないようで。
そんな中で、己を励まし続ける。
にこ「また明日から頑張るわよ! まずは同級生を片っ端から勧誘しましょう。それでメンバーを増やしてーーー」
その時だった。
『―――本当に、それでうまくいくと思ってるの?』
悪魔の囁きが聞こえたのは。
にこ(え……?)
『本当は自分が一番分かっているんでしょ。今更どう動いたところで仲間なんて増えやしないんだって』
にこ(だ、誰よ! な、なんなのよ、この声!)
『あなたの活動に付いてきてくれた人なんていない。観客も減ってる、仲間だって離れていった。
それが今更、そんなに都合よく付いてきてくれる人が出てくると思う?』
にこ(う、うるさい! そんなことあんたに言われなくたって―――)
『分かっているんだ。あなたはなれっこしない。A-RISEのようになんて、アイドルになんてなれやしない』
にこ(そ、そんなこと……)
『―――あなたは、人を笑顔にさせる存在になんてなれやしない』
にこ(あ―――)
『誰も見てくれない。誰も付いてきてくれない。孤独で寂しくて、あんなに好きだったアイドルだって嫉妬心を通してでしか見ることができない』
『無理する事ないんだよ。ねぇ、楽になっちゃおう。全部を捨てて、新しいあなたを始めるの』
にこ(―――)
『行こう。矢澤にこ』
マミ「だいぶ歩いたわね」
ふと気付けば人もまばらな通りを歩いていた。
大都会、といっても少し裏路地を進めばこんなものなのか。
閑散とした雰囲気。
何か察するものがある。
魔法少女としての職業病みたいなものか。
この雰囲気は、魔女や使い魔が好むものだ。
マミ(あら……?)
ビルの一角。
ふと見上げたそこに、一人の少女が立っていた。
虚ろな瞳で、眼下の地上を見下ろしている。
そこからの動きは殆ど反射的なものだった。
変身し、地面を蹴る。
それと同時に、少女が屋上から身を投げた。
人間離れした脚力で駆け抜ける。
右手から赤色のリボンを発現させ、少女へと伸ばす。
マミ(間に合って―――!)
果たしてリボンは、少女に届いた。
身体をがんじがらめにして、落下速度を減衰させる。
マミ「ギリギリね……」
優しく地面へと降ろしながら、少女の姿を観察する。
その首元に残されたのは漆黒の刻印だ。
魔女の口づけ。
魔女のターゲットとされた人間に現れる印。
つまり、それの意味することは……、
マミ「そう休ませても貰えないって訳ね……いいわ、管轄外だけど相手してあげる」
ソウルジェムをかざした先に現れた扉。
苛立ちに任せて、扉を潜り抜けた。
◇
夢を見ていました。
夢の中のおぼろげな視界。
そこでは可愛らしい少女が、グロテスクな巨人と相対し、可憐な蝶のように舞っていました。
巨人の攻撃の全てを躱し、手にしたマスケット銃から次々に銃弾を浴びせていく。
それはまるで御伽噺のような光景。
自分よりも幼い少女が華麗に舞い続ける姿に、私は見とれていて、それでいて胸が痛くなるのを止められませんでした。
少女が、とても辛そうな表情をしていたから。
相手は気味の悪い巨人です。
恐くない訳がない。
少女は、今にも泣きだしそうに顔を歪めながら、それでも恐怖を押し殺して舞い続けます。
そして、ついに巨人を撃破して、少女は―――、
にこ「はっ、夢オチ……!?」
そこで私は目を覚ました。
にこ「……何だか、頭の悪い夢を見た気がするわ。ってどこよ、ここ」
頭がズキズキと痛む。
自分は何でこんな道の真ん中で寝ているのか。
記憶を遡ろうとするが、頭痛がそれを阻害する。
まるで直前の記憶を思い出させたくないかのようだ。
??「目が覚めましたか?」
そんな中で唐突に声を掛けられた。
視線を向けるとそこには少女がいた。
にこ「えっ……」
夢の中で会ったような少女が、そこにいた。
にこ「あ、あんた……」
??「すみません。道の真ん中で倒れてるところを発見したもので。気分は悪くないですか?」
にこ「え、ええ、大丈夫よ―――」
と、答えた瞬間だった。
記憶が奔流する。
堰を切ったように思い出されてしまった。
霞の果てにあった記憶が。
『―――本当に、それでうまくいくと思ってるの?』
『本当は自分が一番分かっているんでしょ。今更どう動いたところで仲間なんて増えやしないんだって』
『あなたの活動に付いてきてくれた人なんていない。観客も減ってる、仲間だって離れていった。
それが今更、そんなに都合よく付いてきてくれる人が出てくると思う?』
『分かっているんだ。あなたはなれっこしない。A-RISEのようになんて、アイドルになんてなれやしない』
『―――あなたは、人を笑顔にさせる存在になんてなれやしない』
『誰も見てくれない。誰も付いてきてくれない。孤独で寂しくて、あんなに好きだったアイドルだって嫉妬心を通してでしか見ることができない』
『無理する事ないんだよ。ねぇ、楽になっちゃおう。全部を捨てて、新しいあなたを始めるの』
『行こう。矢澤にこ』
にこ「い、いやぁぁぁぁあああああああああああああ!!」
絶叫を抑えることができない。
自分は何をしていたのだ。
まるで言葉に操られるかのように、ビルの屋上に立ち、飛び降りた。
嘘だ。嘘。
辛くて、苦しいことばかりだけど、死にたいと思ったことなど一度もない。
なのに、何故、何故、自分はあんな行動をとってしまったのか。
飛び降りなんて。
自殺なんて。
何で、何で、何で―――、
??「落ち着いてください。大丈夫です、もう大丈夫ですから」
ふと身体が温もりに包まれた。
抱きしめられたのだ、眼前の少女に。
伝わる温もりは本当に暖かくて、止めどなく溢れる涙を受け止めてくれる。
??「もう、悪い夢は覚めましたから」
自分より一回り幼い少女の胸で、私は泣き続けた。
◇
??「落ち着きました?」
にこ「……うん。ありがと」
あれから一時間くらいは経過しただろうか。
周囲はすっかり暗闇に包まれている。
私達がいるのは無人の公園だった。
まばらに灯された街灯を頼りに、横へ座る少女を見る。
大人びた印象はあるが、その顔には幼さが残っている。
おそらく自分より年下であろう。
にこ「……私は矢澤にこ。あなたは?」
問い掛けに、少女は困ったような顔を浮かべた。
少し考える時間を置いて、口を開く。
マミ「私は巴マミと言います。見滝原中学の一年生です」
にこ「……あんた中一なの?」
にこ(……それにしては色んな所が発達しすぎな気もするけど)グヌヌ…
にこ「ありがとう。何がなんなのかまだ良く分からないけど、あなたが助けてくれたんでしょう?」
マミ「……はい」
所在なさげに視線を逸らしながら、マミは答えた。
どこまで覚えているのだろうか、と探っているような瞳だ。
にこ「ねぇ、失礼を承知で一つ聞いてもいい?」
マミ「……何でしょう」
にこ「マミ。あなたは一体何者なの?」
マミの目が見開かれる。
マミ「私は―――」
表情も何もかもを止めた状態で、口だけが動いていた。
しかしながら、全てを言い切る寸前で、マミは我を取り戻したかのように口を閉じてしまう。
マミ「私は、ただの女子中学生ですよ。矢澤さん」
優しげな微笑みと共に紡がれた言葉。
その微笑みは、その言葉は寂しげに揺れているように見えた。
にこ(誤魔化そうとしてるのが丸わかりね……)
にこ「私、ぼんやりとだけど覚えてるわ。夢かとも思ったけど、今なら確信して言えるわ。
あなた、何かと戦っていたでしょ。不思議で、気味の悪い何かと」
マミ「……それは夢ですよ。私はただ通りすがっただけです」
にこ「じゃあ、何でビルから飛び降りた筈の私が無事にいるのよ。それもあなたが何とかしてくれたんでしょう」
マミ「さぁ、何のことでしょうか? 私が見た時は、既に矢澤さんは地面に倒れてましたよ」
にこ(あくまでしらばっくれようってのね)
にこ(そんな寂しそうな顔をして―――)
マミ「もう大丈夫そうですね。大分遅くなってしまったし、私は帰ります」
にこ(そんな辛そうな顔をして―――)
マミ「もう会うこともないでしょう。気をつけて帰ってくださいね、矢澤さん」
にこ(今にも泣きだしそうな顔をして―――)
マミ「さようなら」
にこ(―――命の恩人を、そんな表情で帰せる訳ないじゃない!)
気づけば掴んでいた。
背中を向け、去ろうとした少女の腕を。
マミ「……まだ何か?」
訝しげな視線。
だけど、やっぱり眉根は寂しげに寄っていて。
その表情が、どこまでも悲しげで―――。
にこ「―――にっこにっこにー!」
マミ「!?」
絶対に笑顔にしてやるんだって、私は思った。
にこ「あなたのハートににこにこにー! 笑顔を届ける矢澤にこにこ!」
にこ「にこにーって覚えてラブにこ!」
宇宙ナンバーワンアイドルのウルトラ笑顔を振り撒いて、決めポーズ。
家族以外にやるのは本当に久し振りのにこにこにー。
ライブでの反応は薄く、かつての仲間たちにも苦笑いを貰った。
相対する少女も鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしている。
にこ(は、外したかしら……)
思わず冷や汗が頬を伝わりかけたその時だった。
マミ「ぷ、っぷぷ……」
マミ「アハハハハ! や、矢澤さん、何ですか。いきなりそんな……あははは!」
笑ってくれた。
堪え切れないように噴出して、笑い声は段々と大きくなっていって。
けらけらと、ころころと、お腹を抱えながら、マミは笑ってくれた。
にこ「ふふふ……あははははははは!」
そんなマミの笑顔を見ていたら、にこも笑いがこみあげてきた。
二人で笑い合う声が、どこまでもどこまでも響き渡る。
にこ「はぁ、久し振りにこんなに笑ったわ」
マミ「私もです。すみません、我慢できなくて」
にこ「マミちゃんもマジメね。そんな事で謝らなくたっていいのに」
にこ「むしろ嬉しかったわ。笑ってくれて」
それからまた数分の時が過ぎて、私とマミちゃんは並んで座っていた。
にこ「……私、スクールアイドルやってるの」
マミ「そうなんですか? 矢澤さんに凄く似合ってそう」
そういうマミちゃんの瞳はキラキラと輝いていた。
にこ「そうでもないわよ……全然うまく行かなくてね。ファンだっている訳じゃないし」
にこ「それに最初いた仲間は、みんな辞めちゃった。付いていけないんだって言ってた」
思わず、語ってしまった。
無人の公園に二人きりという雰囲気にのまれてか。
いや、違う。
この子になら、マミちゃんになら打ち明けてもいいと思えたのだ。
誰にも言わないと思っていた想いが、自然と紡がれる。
にこ「さすがにショックでね。何がいけなかったんだろうって考えながらブラブラしてたら―――あんな事になっちゃった」
にこ「あーあ、にこってアイドルに向いてないのかなあ」
溜め息を吐き、軽い調子で言ったが、実際に口にすると瞳に熱いものが込み上がる。
でも、それを零す訳にはいかない。必死に我慢する。
誰も笑顔できなくて、結局はこんな事になっちゃって―――、
マミ「そんな事ありません!」
思考を遮るように、声が響いた。
そこには真剣な表情でにこの言葉を否定するマミちゃんの姿が。
マミ「―――私、魔法少女なんです」
にこ「ま、魔法少女ぉ……?」
マミちゃんは意を決したように話し始めた。
魔法少女。そして、魔女。
希望を振りまく存在と、絶望を振りまく存在のお話。
それは本当に御伽噺のよう。
だけど、マミちゃんの言葉を嘘だとは思えなかった。
恐る恐る、こちらの表情を伺うように語るマミちゃん。
その挙動を見て、嘘を付いているようには思えない。
むしろ全て合点がいった感じだ。
私は魔女の標的とされ、命を奪われそうになり、それを救ってくれたのがマミちゃん。
私が夢と思っていた光景は、マミちゃんと魔女が戦っていたものらしい。
マミ「私も、同じなんです」
マミ「魔法少女として戦い続けて……でも怖くて、苦しくて……」
マミ「何度も仲間をつくろうとしました。一緒に協力して人のために戦い続けようって」
マミ「でも、皆、直ぐに去っていってしまう」
マミ「考え方が他の子たちと違うみたいで、結局誰も付いてきてはくれませんでした」
マミ「それで、もう何もかも嫌になっちゃって……ここに逃げてきたんです」
同じだった。
まるでもう一人の私を見ているかのよう。
頑張ろうと息巻く程に、仲間との温度差が浮き彫りとなり、去って行ってしまう。
そして結局、一人になってしまって。
マミ「でも、今ならここに来てよかったって思えます。矢澤さんを助けることができて、矢澤さんと知り合えて、また頑張ろうって思えました」
マミ「私、救われました。必死に私を笑わそうとしてくれた矢澤さんに。その姿に」
マミ「久し振りにあんなに笑って。ああ、私はまだこんな風に笑う事ができるんだって実感できて。全部、矢澤さんのおかげです!」
マミ「あの時、あの瞬間―――矢澤さんは私の最高のアイドルでした」
それは本当に、嘘のように心に染み渡った。
今度こそ、頬を涙が伝った。
熱く、温かい涙が。
それはマミちゃんも同様だった。
ポロポロと涙を零している。
抱え込んでいたのだろう。
その小さな両肩に、魔法少女としての使命を、誰にも打ち明けられぬ秘密を、全てを背負って、今日のような戦いを続けてきたのだろう。
にこ「マミちゃんこそ、にこのヒーローだよ」
言って、優しく抱きしめてあげた。
私にそうしてくれたように、少しでも温もりを伝えられれば、と。
この孤独な少女が少しでも救われるなら、と。
抱きしめる。
一人ぼっちの二人で傷を舐めあう。
にこ「ねぇ、マミちゃん。にこがスーパーアイドルになったら、ライブを開いてあげる」
にこ「それはマミちゃんだけのものではないわ。マミちゃんと、マミちゃんの仲間たちを招待しての特別ライブ」
にこ「だから、私がスーパーアイドルとして有名になるまでに仲間を集めておきなさいよ。にこもマミちゃんに負けないように全力で頑張るから―――」
にこ「いつかまた会いましょう。私はスーパーアイドルとして、マミちゃんは魔法少女の仲間たちを連れて、最高のライブを見せてあげるから!」
マミ「! ―――はい!」
暗闇の中、私たちは誓った。
スクールアイドルと魔法少女の誓い。
そして、時は過ぎる―――、
一端投下終了です。
こんな稚拙なSSにレスをしていただきありがとうございます。
また書き溜めできたら、投下していくつもりです。遅くなるとは思いますが、よろしくお願いします。
乙
The different storyとかいう二次創作を元にした三次創作とか、こりゃ駄作の臭いしかしませんわ
期待
乙
乙
楽しみにしてます
期待
君の作品だからな、自分がやりたいようにやれや。
自分は応援してるゾ
皆様レスありがとうございます。
少し短いですが投下していきます。
―――二年後、音乃木坂学園 アイドル研究部部室
にこ「魔法少女ぉ……?」
ほのか「そう! 今度のライブは魔法少女をコンセプトにして行こうよ!」
それは私の後輩が唐突に提案してきたことだった。
いっつも思い付きで行動する子だが、まさかこんな案を出してくるとは思わなかった。
予想の斜め上である。
絵里「ま、魔法少女?」
花陽「魔法少女って、あの日曜朝にやってるあんな感じの?」
ほのか「そうだよ! 昨日久し振りに見てたらね、ピキーンときちゃって! 衣装も可愛いし、どうかな?」
ことり「衣装なら大丈夫だよ! もうほのかちゃんの提案聞いてからアイディアが沢山湧いてくるの!」
凛「凛は魔法少女姿のかよちんも見たいにゃー!」
花陽「あはは……凛ちゃんも似合うと思うよ」
真姫「なによ、魔法少女って……イミワカンナイ」カミノケクルクル
凛「もちろん真姫ちゃんの魔法少女姿も見てみたいよ!」
真姫「ヴェェ……いいわよ、私は」
凛「あー! 恥ずかしがってるにゃー!」
真姫「ウルサイ!」
希「うちも面白いと思うよ。確かにああいうフリフリな衣装も可愛いやん」
絵里「の、希。魔法少女ってどんな格好なの?」
希「なんや。エリチは魔法少女もの見たことないんか? こういう感じやね」ケイタイガゾウケンサクポチー
絵里「……」
希「……どうしたん、エリチ?」
絵里「……ハラショー」
絵里「ハラショー、希! いい、すごくいいわ! 可愛い!」
……しかも、皆すごい乗り気だし。
ほのか「みんな賛成だね! じゃあ次回のライブは―――」
にこ「―――却下よ」
でも、それはダメ。
私に、その案をのむことはできない。
ほのか「えー! 何でー!」
凛「なんでにゃー!」
にこ「却下は却下。誰が何と言おうと魔法少女だけは認められないわ」
ほのか「ぶー、にこちゃん冷たい~」
にこ「ぶーたれてもだめ」
絵里「にべもないわね。案としては悪くないと思うけど」
にこ「駄目ったら駄目なの」
絵里「それじゃあ皆納得できないわ。理由を言ってちょうだい」
にこ「う……」
希「えりち、よっぽど気に入ったみたいやねえ。声に凄い熱が入っとるよ」
絵里「い、良いじゃない。今度のラブライブに向けてのアピールにもなるし………可愛いし」
にこ「べ、別にプリ○ュアとか○ーラームーンとかは良いのよ。コスプレもアイドルとしての話題作りにはもってこいだし」
にこ「でも、魔法少女だけはダメよ」
にこ「だって―――」
ほのか「だって?」
だって、魔法少女は本当にいるんだもの。
なんて言える訳がなかった。
これは私だけの秘密。
いくらμ'sの仲間たちと言っても、それを話す事はできない。
にこ「……なんでも無いわよ」
ほのか「えー、気になる気になる~!」
にこ「う、うるさいわね、とにかくダメなの!」
にこ「……それより海未はどうしたのよ。今日は休み?」
苦しくなった私は話を逸らす。
それは今この場にいない一人のメンバーの話。
普段は穂乃果の横で暴走を止める役なのだが、今日は影も形もない。
休むにしても誰かしらに伝言を頼む筈なのだが。
ほのか「うっ……」ビクッ
私の一言に分かり易く動揺したのは、他ならぬ穂乃果であった。
隣にいることりも表情を曇らせる。
絵里「どうしたの? 海未と何かあったの?」
にこ「もしかして喧嘩~? どうせ、また穂乃果が何かやったんでしょう。あんたもこりないわね~」
いつものパターンだろうとタカをくくっての発言。
だが、一瞬後、私はこの発言を後悔することとなる。
穂乃果「うっ……うう……」
穂乃果「うぇぇえ~~~~~~~~ん!!」
あの穂乃果が、さめざめと泣き始めたのだ。
これには私も、私以外の全員も驚いてしまう。
花陽「ほ、ほのかちゃん!?」
凛「ど、どうしたの!? お腹でも痛いのかにゃ!?」
真姫「そ、そんな事ある訳ないでしょ! これはどう見ても、にこちゃんの発言が……」
にこ「わ、私のせい!? ご、ごめん、穂乃果! 言い過ぎたわ!」
絵里「酷いわ、にこ……」
希「これはにこちゃん、ワシワシマックスの刑やな……」
にこ「そ、そういう流れ!? あ、謝るから泣き止んでよ、ね? ほら、にこと一緒ににっこにっこにー!」
穂乃果「びぇぇええええ~~~~~!!」
にこ「逆効果だったーーー!!」
やばい、やばい、やばい。
私の軽はずみな発言でこんなことになるなんて!
ど、どうすれば良いのよ!
ことり「―――違うの」
そこで救世主が降臨した。
ことりがしょげた顔で、告げる。
それは今朝の出来事だったらしい。
―――数時間前、登校道
ことり「おはよう、穂乃果ちゃん」
穂乃果「おっはよー、ことりちゃん!」
穂乃果「今日も良い朝だね―――って、あれ? 海未ちゃんは?」
ことり「まだ来てないの。お寝坊さんかな?」
穂乃果「ほほう、珍しい事もあるもんですな。これは雪でも降るかなぁ?」
ことり「あはは。とりあえず携帯に連絡してみよっか。今からならまだ間に合うだろうし」
穂乃果「これは大慌ての海未ちゃんが見れるかなぁ~」ニヤニヤ
ことり「そうだね~」
prrr prrr prrr―――
ことり「うーん。出ないよお」
穂乃果「携帯に気付かないほど熟睡してるとか? それとも風邪でも引いて寝込んじゃってるのかなあ」
ことり「どうしよう。お家の方にも電話かけてみる?」
穂乃果「そうだね。じゃあ、穂乃果が掛けてみるよ!」
prrr prrrr
海未母「はい。園田ですが」
穂乃果「あ、おばさん。お早うございます! 穂乃果です!」
海未母「あらあら、穂乃果ちゃん。朝からどうしたの?」
穂乃果「あの、海未ちゃんってまだ寝てますか? このままじゃ遅刻しちゃうと思って、連絡したんですけど」
海未母「あら、海未ならもう出ましたよ。いつもと同じ時間だったけど……」
穂乃果「そうなんですか? おかしいなあ~。海未ちゃん、先に行っちゃったのかなあ」
海未母「……穂乃果さんですから言いますけど、何だか昨日から海未の様子がおかしくてね」
穂乃果「様子が?」
海未母「普段からそう明るい子ではないけど、思い詰めているというか、塞ぎ込んでいるというか」
海未母「私じゃどうにもならない事も、穂乃果ちゃんなら何とか出来るんじゃないかと思うの」
海未母「穂乃果さん、お願いします。あの子の力になってあげて欲しいの」
穂乃果「分かりました、任せてください!」
穂乃果「朝早くから電話してしまってすみませんでした。海未ちゃんと一杯お話してみますね!」
ことり「どうだった、海未ちゃん?」
穂乃果「先に行っちゃったみたい。おばさんが言うには、何だか落ち込んでるんだって」
ことり「そうなんだ。先週はいつも通りだったのにね」
穂乃果「うーん。土日の休みに何かあったのかなあ」
ことり「とりあえず学校いこっか。このまま話してたら私達が遅刻しちゃうよ」
穂乃果「え、わー! もうこんな時間!? ダッシュだよ、ことりちゃん!」
ことり「わ、待ってよ、穂乃果ちゃ~~ん!」
穂乃果「あれ、海未ちゃんだ!」
ことり「え? 本当だ」
穂乃果「よーし……おーい、海ー未ーちゃーん!」ダキツキ
ことり(わわ、後ろから抱き着くなんて、穂乃果ちゃん大胆……)
穂乃果「ひどいよ~。穂乃果たちのこと置いてくなんて~」ギュウウ
海未「…………おはようございます。穂乃果、ことり」
ことり「おはよう、海未ちゃん。追い付けて良かったよぉ」
穂乃果「さ、行こう! 遅刻しちゃうよ! 昨日の朝テレビみてて、今度のライブについて穂乃果いいこと考えついちゃったんだ~。後で海未ちゃんにも教えてあげるね!」
海未「……そう、ですか」
ことり「……海未ちゃん? 大丈夫?」
穂乃果「やっぱり何かあったの? だったら無理しないで今からでも帰って、ゆっくり休んだ方が―――」
海未「何ですか、それ」
穂乃果「―――え?」
海未「私が休んで、私が帰って、二人はどうするんですか?」
海未「生徒会の仕事はどうするんです? μ'sの練習はどうするんです? 二人だけで生徒会の仕事ができるんですか? ミューズの練習だって私がいなくてマジメにできますか?」
穂乃果「だ、大丈夫だよ……。穂乃果だって」
海未「嘘は、吐かないでください」
穂乃果「う、嘘じゃないよ! 海未ちゃんが休んでても、生徒会やμ'sのことちゃんと出来るもん!」
海未「―――嘘は吐かないでください!」ドン
穂乃果「きゃ……!」
ことり「う、海未ちゃん! 突き飛ばすなんていくらなんでもやり過ぎだよ!」
海未「……何なんですか……」
海未「―――何なんですか、あなたたちは!」
穂乃果「ひっ……!」
ことり「う、海未ちゃん……」
海未「生徒会の仕事もサボってばかりで! μ'sの練習でも辛い、厳しいの愚痴しか言わない!」
海未「休めるなら、私だってそうしてますよ!」
海未「でも、今の状況で休めると思いますか? ラブライブも近い。歌詞も作らなくちゃいけない。生徒会の仕事だって山のようにある!」
海未「家に帰ったら舞や剣道の稽古だってあります! 休める訳、ないじゃないですか!
海未「いくら疲れてても、頑張るしかないじゃないですか!」
穂乃果「ご、ごめん……私、そんなつもりじゃ……」
ことり「海未ちゃん……」
海未「……お言葉に甘えて、今日は帰らせてもらいます」
海未「皆に今日は練習は出れないと伝えておいてください」
海未「―――では」クルリ
穂乃果「う、海未ちゃん……」
海未「…………」スタスタ
穂乃果「待ってよ、海未ちゃん……海未ちゃぁぁん」
穂乃果「う、うう……うわぁぁぁぁあああああん!!」
ことり「こんな事があったの……」
絵里「信じられないわ。海未が穂乃果にそんなことを……」
希「具合が悪かったにしてもなあ。そんなこと言う子やないと思うけど……」
花陽「私も信じられないよ。海未ちゃん、厳しいけど優しい人だもん」
凛「かよちんの言う通りだよ。海未ちゃんが穂乃果ちゃんを怒鳴ったり突き飛ばすなんて想像できないよ」
真姫「でも、信じられないことのようだけど、本当のことなんでしょ?」
ことり「うん……」
穂乃果「穂乃果が……穂乃果が悪いんだ。生徒会の仕事もミューズの事も海未ちゃんに任せきりにしてたからあ! うわ~~~~ん!」
にこ「……あんた達、昨日は会わなかったの?」
ことり「うん……土日は用事があるって海未ちゃん言ってて」
にこ「用事ね」
にこ「ちなみにどんな用事って言ってた?」
ことり「親戚の家に行くんだって言ってたよ。あれから海未ちゃんのお母さんに、聞いてみたんだけど親戚の所では普段通りだったって」
にこ「場所は?」
ことり「そこまでは……」
穂乃果「穂乃果、知ってるよ。海未ちゃんから聞いたもん。確か―――」グズグズ
穂乃果「―――見滝原市ってところに行くんだって、言ってた」
一旦投下終了です。
また書き溜めができたら投下します。
乙
μ'sのメンバーで魔法少女になれる資格があるのはことりだけ
乙
待ってる
皆様レスありがとうございます。
では、書き溜め分を投下します。
◇
あれから結局練習はせずに解散となった。
み様子のおかしい海未をおいて、練習をする気にはなれなかったのだ。
穂乃果とことりは海未の家へ行き、もう一度謝罪をすると言っていた。
一年生トリオは三人仲良く帰宅し、絵里と希は二年生三人が抜ける分、生徒会の手伝いをしていくと学校へ残った。
夕焼け空を見つめながら、ゆっくりと自宅への道を歩いていく。
にこ「見滝原、か……」
聞き覚えのある単語だった。
何処で聞いたものか忘れてしまったが、とても重要なワードように思える。
にこ「見滝原……見滝原……うー、聞いたことはある気がするんだけど……」
記憶の棚をひっくり返すが、どうにも思い出せない。
宇宙ナンバーワンアイドルであっても弱点はあるのだ。
矢澤にこ。こう見えても、記憶力には自信がない。
にこ(それにしても、海未は大丈夫かしら?)
普段ならば気にすることもない。
海未と穂乃果の喧嘩なんてよくあることだし、なんだかんだで直ぐに仲直りをしてしまう二人だ。
幼馴染というのは伊達ではないのだろう。
にこ(その筈なんだけど……)
だが、今回の件からは不穏な雰囲気しかしない。
何時ぞやの留学騒ぎとはまた別のベクトルでの、薄気味の悪い不穏さ。
海未が唐突に見せたという豹変。
確かに海未は様々なものを背負っている。
アイドルと弓道部を兼部し、μ'sでは作詞を担当し練習メニューも考案。
更には家業である舞や武術などにも打ち込み、学業だって成績優秀のまさに文武両道を絵で書いたような人物だ。
加えて最近は生徒会役員にまで任命され、最近はてんてこ舞いの忙しさであったであろう。
にこ(だからって、あの海未が……)
それでも、海未が穂乃果に手を出し、怒鳴り散らすとは考え難い。
そもそも海未自身、穂乃果の世話を焼くことを楽しんでいる節があった。
それが週末のたった二日間で豹変し、親友の二人に激怒するようなことがあるのか。
にこ(……まさかね)
脳裏に過る『可能性』を首を振って否定する。
あんな異常な出来事がそう何回も発生する訳がない。
にこ(……念のため、穂乃果達に海未と離れないよう伝えておこうかしら)
だが、否定したくとも、どうしても否定しきれない。
携帯電話と取り出し、海未の元へ向かっている筈の穂乃果へと連絡をする。
―――Prrr Prrrr
寸前で、着信音が鳴り響いた。
宛名は、今まさに連絡しようとしていた高坂穂乃果であった。
穂乃果『どうしよう、にこちゃん~~~~~~!! 海未ちゃんが、海未ちゃんが~~~~!!』
嫌な予感を感じつつも、電話に出ると今にも泣きだしそうなキンキン声が響き渡った。
にこ「ちょっと落ち着きなさい! 海未がどうしたのよ!」
穂乃果『海未ちゃんが家に帰ってないの! 今朝出かけたっきりずっと家に戻ってないって、おばさんが~~~~!』
にこ「――――」
思わず思い出される記憶。
脳裏に響く仄暗い声。
人を死へと導く魔女の声。
病んだ精神を蝕む、悪魔の囁き。
にこ「穂乃果! あんたとことりは今すぐ見滝原に向かいなさい!」
穂乃果『に、にこちゃん?』
にこ「他のメンバーにも連絡して見滝原へ向かわせるわ! とにかくあんた達は少しでも早く見滝原に!」
にこ「海未を探すの! できるだけ……そうね、人通りの少ない、暗い雰囲気の場所を探して!」
穂乃果『……うん! 分かったよ!』
にこ(お願い。どうか外れていて、私の予感……!)
他のメンバーへ連絡を飛ばしながら、走り出す。
見滝原。
海未をおかしくさせた『何か』が潜む街へと。
◇
―――見滝原
マミ「ラブライブ……?」
まどか「そうです。今巷で話題になってるんですよ。ラブライブが―――スクールアイドルの祭典がまた開催されるって!」
さやか「くー、噂には聞いていましたがまたもや開催されるとは! こりゃあテンションも上がりますよ!」
マミ「そ、そんなに凄いイベントなの? そのラブライブって……」
まどか「勿論です!」
さやか「そりゃあ勿論ですよ!」
まどか「スクールアイドルにとっては甲子園のような存在! まさにライブを愛するものたちが集う夢の宴!」
さやか「さらに今回は規模も大幅に拡大! 地区予選から始まり、全国大会へと至るまさに日本一を決める戦い!」
まどか・さやか「「―――それがラブライブなんです!」」
マミ「そ、そうなの。ごめんなさい、そういう話には疎くって」
まどか「楽しみだね、さやかちゃん」
さやか「うん。絶対にチケットとってやろうね。初回特典とか付くのかな? あぁ、そのためにもお小遣い溜めとかなくちゃ!」
まどか「私もお母さんからお小遣い前借しちゃおっかなあ」
マミ「スクールアイドルかぁ」
わいわちと語り合う後輩たちを見ていると、昔のことを思い出す。
矢澤にこさん。
落ち込んでいた私を励ましてくれたアイドル。
あれから二年ほどの時間が経過したけど、約束は果たせていない。
私にはまだ仲間がいない。
一人仲間になりかけた子はいたけど、その子も様々な事情が重なって結局は私の元から去ってしまった。
今の私は二年前と変わらず一人っきり。
でも、後輩ができた。
……正確には、できそう、といった段階だが。
今はまだ魔法少女ではないけれど、もしかしたら仲間になってくれるかもしれない二人。
大切な大切な後輩に。
さやか「やっぱり優勝はA-RISEかなあ」
まどか「うーん。そうだよねえ。他にも注目のグループはいるけど」
まどか「midnight catsとかEast Heartとか―――」
まどか「―――μ'sとか」
さやか「おおー、確かにそこら辺は上位に食い込んできそうだよね! 特にμ'sは最近大注目だよ!」
まどか「あのグループを見てると何だか、すごい元気を貰えるんだよねえ」
さやか「そういえばこの間またライブやったらしいよ。動画もあがってたよ!」スマフォポチー
まどか「わ~、見たい見たい! マミさんも見ましょうよ。ライブ見たらもうファンになっちゃうこと間違いなしですよ」
マミ「フフ、そんなに凄いのね。楽しみだわ」
そして、美樹さんの携帯に映し出された映像。
そこには9人組のユニットが可愛らしいフリフリの衣装を着て、踊っている姿が映されていた。
マミ「わぁ、本当に綺麗ね。歌も上手いし、踊りもプロみたい―――」
そこで、言葉が途切れた。
9人の少女が並ぶ、その右端。
そこに、いた。
黒髪のツインテール。
少女のような童顔。
あの時と何も変わっていないアイドルが、いた。
マミ「矢澤……さん……?」
眩しいくらいの笑顔で、元気いっぱいに踊る矢澤さんの姿が、そこにあった。
さやか「あ、マミさん。にこにーがお気に入りですか? にこにーは凄いですよ。まさにアイドルの鏡のような人なんです!」
まどか「これ、にこさんの鉄板芸なんです。見てください」スマフォポチー
にこ『にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにー! 笑顔を届ける矢澤にこにこ!』
まどか「あぁ、かわいいなぁ……」ウットリ
さやか「どうですか、マミさん―――って、マミさん泣いてる!?」
まどか「ど、どうしたんですか、マミさん……?」オロオロ
マミ「ごめんね……」
マミ「大丈夫……大丈夫だから……」
溢れだす涙を我慢することが出来なかった。
矢澤さんが、あの時救い出すことのできた少女が、今や皆に愛されるスクールアイドルとなっている。
こんなにも仲間ができて、こんな沢山の人々から歓声を浴びて―――、
マミ(良かった……良かったね、矢澤さん……)
マミ(本当に、おめでとう……!)
こんなにも暖かい涙を流すのは久し振りであった。
涙を流す私に察するものがあったのだろう。
二人は私を心配しながら見守ってくれていた。
格好いい先輩である続ける筈が、いきなりこんな姿を見せてしまった。
でも、たまには良いよね。
こんな風に友達を想って、涙を流すのも―――。
そして、数時間後。
私達は夕暮れの見滝原を歩いている。
先導役は私。ソウルジェムを掲げて魔女の気配を辿っていく。
さやか「いやー。でも、凄いなあ。マミさんがあのにこにーと知り会いだったなんて」
まどか「本当です。良いなあ。魔法少女になるとそういうこともあるんだあ」
決してそう良い事ばかりではないのだが、それを告げる事も憚れて、私は曖昧な笑みを浮かべる。
美樹さんとまどかさんはスクールアイドルのファンであるらしい。
二人とも、とても可愛らしい女子だ。
それこそスクールアイドルでもやれば良いのに、と思ってしまう。
マミ「偶然であっただけよ。私も驚いちゃった」
矢澤さんと知り合いだという事は教えたが、出会った時の出来事は伝えていない。
それは決して人に知られて嬉しいものではない。
それにここまで有名になっているのだ。
プロのアイドルではないにせよ、そういう事情は秘密にしていた方が良いだろう。
さやか「凄いなあ。にこにーからサイン欲しいなあ」
まどか「私は生にっこにこにーが見たいな! 想像しただけで鳥肌がたっちゃいそう」
マミ「二人とも本当にスクールアイドルが好きなのね」
まどか・さやか「「もちろん(です)!!」」
さやか「今時の女子中学生の憧れといったらスクールアイドルですよ!」
まどか「憧れちゃうよね~。あんなキラキラで可愛い衣装を着て、皆を笑顔にすることが出来て」
さやか「まどかなんか似合うと思うけどなあ。どう? 魔法少女になったらそれを売りにしてデビューしちゃうとか!」
まどか「え~? 私にアイドルなんて無理だよぉ」
さやか「魔法少女+アイドルなんて鬼に金棒だよ! くぅ~、そしたらさやかちゃんがファン第一号ね!」
まどか「さやかちゃんこそ似合うと思うけどなあ」
さやか「ないない! こんな性格だしさ。でも、誰よりも一番アイドルに向いてそうなのは―――」
まどか「もちろん―――」
まどか・さやか「「―――マミさん!」」
まどか・さやか「「だよね~」」
マミ「わ、私……?」
まどか「マミさん似合いますよ。大人っぽいし、スタイルも良いし、優しいし! まさに理想のアイドル像って感じです!」
さやか「何というかオーラが出てるよね! 本当にスクールアイドルやってみたらどうですか? A-RISEを越えちゃうかもですよ!」
マミ「……そうね。確かに憧れではあるわ。舞台の上で歌って踊って、皆を笑顔にして……本当に素敵なことだと思うわ」
マミ「でも、私は今で精一杯だから……」
魔法少女として生きる性。
願いの代償として魔女と戦い続けることを運命づけられた存在。
スクールアイドルをする時間はない。
さやか「もったいないなあー」
まどか「見てみたいよね。マミさんのアイドル姿」
言うなれば、私たち魔法少女は日陰の存在だ。
スクールアイドルのような陽光の只中で舞う者とは違う。
暗闇の中で誰にも知られず舞い、そして儚く消えていく者。
私は、彼女達のようには、なれやしない。
なろうと願うことすら、おこがましい。
マミ「さぁ、二人ともお喋りはそこまで。魔女の反応が大きくなってきたわ」
心の中に湧いた羨望を打ち消す。
私は魔法少女。
魔法少女として、魔法少女のすべきことをなしていく。
そう、魔女と戦い、人々を守るのだ。
それが私達の役目。
私たちの軌跡なのだ。
まどか「マミさん! あそこ!」
ふと横を歩く鹿目さんが声を張り上げた。
鹿目さんの指先へ視線を動かすと、そこには一人の少女がいた。
場所はビルの屋上。
先日助けたOLの女性と、二年前に助けた矢澤さんと、同様のシチュエーション。
地面を蹴りぬき、接近する。
ただ、先の二つと違うことが一つだけある。
それは―――、
マミ(ッ、距離が……離れすぎてる!)
あと十秒、いや五秒でも早く気付けていれば可能性はあった筈だ。
今の自分が立つ位置からは遠すぎる。
魔法少女の姿へ変身する一瞬すらもどかしく感じる程の、長く引き伸ばされた数秒。
全力で地面を蹴り、懸命に魔力で形成したリボンを伸ばす。
マミ(だめ。これじゃ―――)
だが、どう足掻いても間に合わない。
リボンが届くよりも早く、少女は地面へと激突してしまう。
その、時であった。
??「―――ダメぇぇぇぇええええええええ!!」
ビルの屋上から、飛び降りた少女へと手を伸ばす者がいた。
サイドテールの少女。
屋上から身を伸ばして、先に飛び降りた少女の手を掴む。
いや、身を伸ばすという表現は誤りか。
サイドテールの少女は、殆ど自分も飛び降りるかのようにして必死に手を伸ばしたのだ。
そのかいもあってか、なんとか先に飛び降りた少女の腕を掴み取る。
しかし、バランスの崩れた体勢で痩躯とはいえ人間一人の重さを支え切れる筈がなく……、
サイドテールの少女もまた、引きずり込まれるように宙に身を投げた。
その行動は無謀であった。
無謀であったが―――無駄ではない。
サイドテールの少女が手を掴んだことで、ほんの一瞬だけ落下速度が弱まった。
マミ(これなら!)
創り出されたのは僅かな猶予。
必死に駆け、リボンを伸ばす。
そして―――掴んだ。
落下する二人の身体を、宙に縫いとめる。
まどか「やったあ!」
さやか「さすがマミさん!」
後ろで見ていた二人は気付いていないのだろう。
無邪気な声援を送ってくれる。
違う。
今回、その命を救ったのは―――
??「海未ちゃん、海未ちゃん、海未ちゃん……!」
まだ助かったことに気付かず、目をぎゅっと閉じ、必死に親友を抱き締めている一人の少女だった。
投下終了です。
中々展開が進まなくて申し訳ありません。もっと早く書きためできると良いんですが…。
また書き溜めできしだい投下していきます。
面白い、期待。
失踪すると>>1がマミる呪いをかけました
乙です
>>1は剣士のSSを書いてた人?
>>65
ありがとうございます。何とか完結できたらと思います。
>>66
剣士のSSというのがどの作品を指すのか分かりませんが、多分違うと思います。
台本形式のSSを書くのは今回が初めてなので。
皆様レスありがとうございます。
では続きを投下していきます。
◇
私が海未ちゃんを見つけたのは偶然でした。
ことりちゃんと二人で見滝原に向かって、二手に別れて海未ちゃんを探し始めて。
にこちゃんの言う通り、人気のない所を探し続けて。
そして、海未ちゃんの後ろ姿を見つけました。
ふらふらとした、普段のしっかりとした足取りとはまるで別人のような覚束ない足取り。
声を掛けても、海未ちゃんは振り返ってくれなくて。
寂れた廃ビルの中に入っていってしまいました。
何で海未ちゃんがそんな所に入っていったのか、穂乃果には想像もつきません。
ただ怖くて。
このままじゃ海未ちゃんが何処か遠くに行ってしまう気がして。
怖くて怖くて堪らなくて。
私は泣きそうになりながら、その背中を追いかけました。
廃ビルの中ではカツンカツンと足音が響き渡っていました。
段々と、遠ざかっていく足音。
一心不乱に足音の方へと走っていきます。
そこにあったのは錆ついた階段で―――嫌な予感しかしなくて―――、
必死に階段を駆け上がりました。
屋上へと続く扉が開いています。
その先には―――、
柵を乗り越えて、真っ赤な空を見詰める海未ちゃんの姿が、ありました。
頭が真っ白になって、私は全力で走りました。
それでも海未ちゃんは振り返ってくれなくて、そのまま空に身を投げてしまって、
穂乃果「―――ダメぇぇぇぇええええええええ!!」
気付けば、私も空に身を投げて、海未ちゃんの手を掴んでました。
浮遊感。
脳裏に様々なことが浮かびます。
家族のことや、友達のこと、そして―――μ'sのこと。
怖くて、怖くて、
でも、穂乃果は海未ちゃんのことを離しませんでした。
ギュッと抱きしめて、ギュッと目をつぶって。
恐怖の中で、それでも海未ちゃんを助けなくちゃと思って。
そして、
そして、
そして、
??「怪我は、ありませんか?」
そこにすごく可愛い女の子がいました。
一瞬、穂乃果は死んでしまったのだと思いました。
ここは天国で、目の前の女の子は天使なんだと。
黄色い髪の天使の後ろには、ピンクと青髪のこれまた可愛らしい天使がいます。
三人は心配そうな顔で私を見詰めていました。
??「安心してください。あなたもお友達も無事ですよ」
穂乃果「お友達……?」
言われて、穂乃果は慌てて身体を起こします。
穂乃果「―――海未ちゃん!」
周囲の景色は夕暮れから暗闇に変わっていました。
場所もビル街ではなく、無人の公園になっていて。
私はベンチに寝かせられていました。
隣のベンチには―――可愛らしい寝息をたてる親友の姿が、ありました。
穂乃果「う、ううううううう~~~~!! 海未ちゃん、海未ちゃん、海未ちゃん~~~~!!」
海未「ふわぁ!? ほ、穂乃果!?」
その無事な姿にまた涙があふれ出てきて、穂乃果は湧き上がる感情に任せて海未ちゃんに抱き着きました。
海未ちゃんも目を覚まして、驚いたような表情を見せます。
それはいつも通りの海未ちゃんで。
そのいつも通りの反応が嬉しくて、嬉しくて仕方なくて。
穂乃果「うう、よかった、よかったよ~~~。うえぇぇええええええん……」ボロボロ
海未「穂乃果……」
海未「私、怖い夢をみていました……穂乃果やことりを傷つけ……世の中すべてに絶望してしまう夢を……」
海未「私は、本当にひどいことを二人に言って―――」ボロボロ
海未「ごめんなさい……ごめんなさい、穂乃果……」ボロボロ
穂乃果「違うの……私こそごめんね……海未ちゃんに全部押し付けて……全部抱え込ませちゃって……何も気付けなくて……ごめんなさい、ごめんばさい~~~……」ボロボロ
一人の涙に、もう一人の涙が重なって。
私達は縋り合いながら、泣き続けていました。
まるで赤ちゃんに戻ったかのように、泣き続けていました。
◇
目の前には親友を抱き締め、泣き続ける少女が二人。
何も声を掛ける必要はなかった。
私が言わずとも、二人は絶望を乗り越えて、絆を深めていて。
親友。そんな言葉ですら足りないような絆が、二人を繋いでいるのだろう。
そんな二人が私には眩しすぎて―――ほんのちょっぴり羨ましいという気持ちを感じてしまい、思わず苦笑する。
さやか「ねぇ、まどか。あの人たちって……」ヒソヒソ
まどか「そ、そう、だよね。間違いないと思うよ……」ヒソヒソ
隣では鹿目さんと美樹さんがひそひそと話し合っている。
二人とも顔見知りなんだろうか?
抱き合う二人を見て、少し緊張した面持ちでいる。
確かに言われてみればどこかで見たことがある気もするけど……。
穂乃果「ぐすっ……あなた達が海未ちゃんを助けてくれたんだね。ありがとう……」
サイドテールの少女……穂乃果と呼ばれていた少女が、声をかけてくる。
真っ赤に腫れた両目からまだ涙を流しながら、親友の両肩に抱き着いたまま決して離そうとせずに、話しかけてきた。
マミ「いいえ。この方を助けたのはあなたです」
穂乃果「私?」
マミ「ええ。あなたがいたからこそ、彼女は助かったんです」
マミ「私だけではどうにもならない状況でした」
マミ「あんなことは誰しもが出来る事ではありません。もっと誇って良いんですよ」
穂乃果「そんな……穂乃果はただ無我夢中だっただけで……」
マミ「それでもです。確かに危険極まりない行動でしたけど……私は尊敬します、あなたの行動力を」
穂乃果「そ、そうかなあ」
心底からの想いを伝える。
あの状況で、あの行動をとれる人間などいるのだろうか。
魔法少女の力を有する私なら、そんな選択肢もあるだろう。
だが、もし魔法が使えないただの女子中学生だとしたら―――果たしてあんな行動をとれるだろうか。
親友を救いたいが一心で宙に身を投げるという行為を。
マミ「えっと……穂乃果、さんに海未さん……。これだけは伝えておきます」
マミ「ここ数日間あなた達に降りかかった異変は、災いのようなものです」
マミ「常識と掛け離れたところから降りかかって来た、どうしようのないものです」
マミ「だから、どうか全て忘れて今まで通りの日常を送ってください。これは私からのお願いでもあります」
マミ「……あなた達には必要のない助言かもしれませんけどね」クスッ
抱き合う二人を見て、確信をする。
この二人なら大丈夫なのだろうと。
魔女にターゲットにされた絶望すらも糧として、より一層に仲を深めていくのだろうと。
マミ(本当に……憧れちゃうな)
二人に対する羨望を思いながら、私は二人に背を向けた。
マミ「行きましょう。鹿目さん、美樹さ―――」
穂乃果「あ、あの!」
そして、立ち去る寸前で、声が掛かる。
穂乃果「わ、私達、スクールアイドルをやっているの! 今度、時間がある時で大丈夫だから連絡をちょうだい!」
穂乃果「あなた達にお礼がしたいの! だから……私たちに出来る精一杯はそれだけだから……私たちのライブを観に来てくれませんか?」
海未「私からもお願いします。お礼をさせてください、私達からの精一杯のお礼を。観に来てくれませんか、私たちのライブ」
穂乃果「私達―――μ'sの!」
ドクン、と心臓が跳ねた気がした。
思い出したのだ。
浅い、浅い、記憶。
数時間前に知ったスクールアイドル。
何故、気付かなかったのだ。
そう、あの時見せて貰ったライブ映像。
あの映像の中でセンターポジションにて太陽のような笑顔を振りまいていた少女。
まさに、そうだ。
あの少女が、目の前にいた。
マミ「μ'sって……矢澤さんの……」
穂乃果「にこちゃんのこと、知ってるの!?」
何の偶然なのか。
私が出会った二人目のスクールアイドルは、あの矢澤さんの仲間で。
その人が、私たちの為にライブに招待してくれると言ってくれて―――、
穂乃果「あ……」
まどか「マミさん!?」
さやか「どうしたんですか!?」
私は気付いたら走り出していた。
まるで逃げるように、怯えるように。
全力で矢澤さんの仲間から、遠ざかってしまっていた。
だって、
だって、
だって、そうじゃない。
マミ(私に彼女たちのライブを、矢澤さんのライブを―――)
マミ(―――見る資格なんて、ない)
『約束』を守れずにいる私に、そんな資格なんてないんだから―――、
◇
海未「本当に申し訳ありませんでした!」
海未「穂乃果やことりはもちろん、皆にも心配を掛けてしまったみたいで……」
海未「本当に……本当に申し訳ありません……」
あれから数日して、海未は普段通りに登校してきた。
その様子に変わった感じはなく、いつもどおりの海未だった。
絵里「もう、心配したのよ。海未」
真姫「そうよ。ストレスが溜まってるなら爆発させる前に誰かに相談しなさいよね、もう」
真姫「凛や花陽なんて、にこちゃんから連絡うけたら泣いちゃって。なだめるのに大変だったんだから」
花陽「うう、だってこのまま海未ちゃんに会えなくなっちゃうのかと思ったら……」
凛「訳わかんなくなっちゃって、涙がとまらなくてなっちゃったんだよぉ……」
花陽「すごく怖かったんだからね、海未ちゃん」
凛「そうだよ! 次同じ事したら許さないんだから!」
海未「凛……花陽……」
希「あれ~。他人事みたいに言ってるけど、真姫ちゃんも目真っ赤にしてたような~」
真姫「ヴェ!?」
絵里「確かにそうね。真っ赤なお目めで必死に海未のこと探してたもんね」
希「絵里ちもな」
絵里「ちょ、ちょっと希!?」
希「まぁ、冗談はさておき。本当に心配したんよ、皆」
希「一人で抱え込まんと、皆を頼らなあかんよ。私達は仲間なんやから」
海未「真姫……絵里……希……」
ことり「良かったよぉ、本当に。何だかあの時、海未ちゃんが海未ちゃんじゃなくなっちゃうような気がして……」
ことり「ことりも怖くて、泣きそうになっちゃって……」
海未「ことり……」
海未「うぅ、本当にすみませんでした……」
穂乃果「まぁまぁまぁ! こう無事にまた揃えたんだし、気にしない気にしない!」
穂乃果「それでは早速練習を―――と言いたいところですが、皆に相談があるの!」
穂乃果「今回の海未ちゃんの件でね。すごく力になってくれた人達がいるの! その人達にお礼として特別ライブをしたいんだけど、どうかな!」
絵里「力になってくれた人たち……?」
真姫「良いんじゃないの。誰かさんが迷惑かけた分、皆でお礼はしないといけないし」
海未「うぅ……」
凛「凛も賛成にゃー! たっぷりお礼するよ!」
花陽「わ、わたしも……」
希「私も賛成や~」
ことり「ことりも賛成だよお。海未ちゃんを救ってくれた人たちってどんな人かなあ」
穂乃果「ふっふっふ、それは会ってのお楽しみだよ!」
ことり「楽しみ~」
穂乃果「にこちゃんはどう?」
にこ「………」ジーッ
海未「あ、あの、にこ……?」
海未「そうずっと見つめられてると恥ずかしいというか、その……」
にこ「………」ジーッ
海未「あの、その……」
穂乃果「」スゥー
穂乃果「にこちゃ~~~~~~~~~ん!!」
にこ「きゃあ! な、なによ、いきなり! びっくりするじゃない!」
穂乃果「何度も話しかけてたよ! 海未ちゃんのことジーッと見詰めて、穂乃果の話聞いてないんだもん!」
にこ「き、聞いてたわよ。失礼ねえ」
穂乃果「むっ。じゃあ、さっきまで穂乃果がなんて言ってたか答えてよ」
にこ「え、えーと、それは~……」
穂乃果「ほら、聞いてないじゃん!」
穂乃果「ライブをやろうって言ってたの! ラ・イ・ブ!」
にこ「ラ、ライブね、ライブ。良いんじゃないの、別に」
穂乃果「よし、じゃあ皆賛成だね。日にちは―――」
そのままとんとん拍子に話は進んでいく。
正直、ぼんやりしていたのは事実だ。
普段通りの海未。穂乃果の態度も変わりない。
あの日、あれから海未や穂乃果たちに何があったのかは知らない。
ただ、今いる二人は普段の和気あいあいとした様子を見せている。
にこ(心配のしすぎだったのかしらね……)
考えてみれば、そうだ。
あんな異質な事がそうほいほいと起こってたまるものか。
そう、考えたら何だか肩の荷が下りた気分であった。
張りつめていた何かが解れていくのを感じる。
そうとなれば、次のライブに全力で望まなければならない。
何たって私は宇宙ナンバーワンアイドル。
どんな相手であろうと笑顔にさせる、それがにこにーなんだから―――、
穂乃果「あ、そういえば、にこちゃん―――」
穂乃果「―――巴マミちゃんって知ってる?」
―――瞬間、息が止まった。
息だけじゃない。
まるで心臓すら止まってしまったかのように、身体が動きを忘れた。
巴マミ。
何故、その名前が穂乃果の口から出たのか。
穂乃果「やっぱり知ってるんだね」
まさか、
まさか、
にこ「まさか、海未の力になった人って―――」
穂乃果「そう、巴ちゃんだよ!」
―――私は気付いたら走り出していた。
まるで逃げるように、怯えるように。
全力で穂乃果から、遠ざかってしまっていた。
穂乃果「にこちゃん!?」
だって、
だって、
だって、そうじゃない。
にこ(私にマミちゃんに、マミちゃんの仲間たちに―――)
にこ(―――ライブを見せる資格なんて、ない)
『約束』を守れなかった私に、そんな資格なんてないんだから―――、
投下終了です。
再び書き溜めができしだい投下していきます。
面白い
お疲れ様
待機
レスありがとうございます。
書き溜め分、投下します
◇
『ねぇ、マミちゃん。にこがスーパーアイドルになったら、ライブを開いてあげる』
『それはマミちゃんだけのものではないわ。マミちゃんと、マミちゃんの仲間たちを招待しての特別ライブ』
『だから、私がスーパーアイドルとして有名になるまでに仲間を集めておきなさいよ。にこもマミちゃんに負けないように全力で頑張るから―――』
『いつかまた会いましょう。私はスーパーアイドルとして、マミちゃんは魔法少女の仲間たちを連れて、最高のライブを見せてあげるから!』
『! ―――はい!』
かつて、かわした約束。
一時たりとも、忘れたことはない―――……、
◇
あれから直ぐに鹿目さんが家に訪ねてきてくれた。
私を心配する声。
かっこいい先輩として振舞うつもりだったのに、調子がくるってばかりだ。
そんな自分にまた自己嫌悪を感じて、まるで渦を巻くようにぐるぐると嫌な気持ちが募っていく。
マミ(……矢澤さん……)
矢澤にこさん。
かつて私に笑顔を取り戻させてくれた友人。
彼女と二年前に交わした約束。
一時たりとも忘れたことはない。
私は仲間をつくり、矢澤さんは一流のスクールアイドルになって、そしてまた再会しようという約束。
矢澤さんは約束を守ってくれた。
『μ's』というスクールアイドルグループを形成し、ラブライブという大会で有力視されるほどの人気を得ている。
そこにかつて夢を諦めかけていた少女の姿はなく、人々を笑顔にさせるアイドルがいた。
そこに至るまでにどれだけの苦労があったのか、私には想像すらできない。
この二年間、努力し続けたのだろう。
マミ(なのに、私は……)
私は、どうだ。
かつて仲間ができかけたこともあった。
短い期間だけど志をともにし、共に歩んでいけると信じた少女が。
私より二つ下の赤髪の少女。
だが、彼女も在る事件をきっかけに私から離れていった。
それからは孤独なままに魔法少女として戦い続けた。
そう、多分私は諦めてしまっていた。
矢澤さんとの約束から目を逸らし、仲間をつくるということを諦めていた。
彼女ですら、結局は離れていったのだ。
例えどれほど通じ合える相手と出会えたとしても、どうせいつかは私のもとから離れてしまう。
あんなにも辛い別れを経験するなら、いっそ出会わない方がマシだ。
私みたいな人間と、共に歩んでくれる者などいないのだ。
だから、私は諦めた。
別離という辛い出来事から己を守るために、矢澤さんとの約束を果たそうともせずに、諦めた。
保身のために、約束を反故にした。
マミ(最低ね……私って……)
再び、呼び鈴が鳴る。
モニターの前には鹿目さんと美樹さんが、心配そうな顔で立ってる。
出れば、鹿目さんが何を言うのかは分かっている。
ライブに行こうと、誘ってくれるのだろう。
私と矢澤さんに何かがあったことを、彼女たちは察しているだろう。
それでも、誘ってくれるのだ。
彼女たちは信じているのだろう。
私が強く、逞しい魔法少女であると。
違う。
違うのだ。
私は強くもなければ、逞しくもない。
友人との約束から目を背ける、弱い弱い人物でしかない。
私は、どうしようもなく弱い―――。
◇
場所は屋上。
ぐちゃぐちゃになった頭で走り続けたら、この場にいた。
赤焼けに染まろうとする空を見上げながら、考える。
にこ(あの日、交わした約束……)
かつて交わした約束。
あれから二年の時が経つが、忘れたことなど一度もなかった。
そう、なのに、
なのに、私は折れてしまった。
活動を諦め、仲間を増やすことを諦め、ただ己の世界の中でスクールアイドルを観察してきた。
スーパーアイドルになると誓ったのに。
ライブを開くと約束したのに。
なのに、私は諦めてしまったのだ。
約束を反故にし、傷付くことを恐れて、孤独に閉じこもった。
そんな私を引き上げてくれたのは『μ's』という存在。
もっと言えば、高坂穂乃果という人間。
彼女が廃校を阻止しようとスクールアイドルを目指し、『μ's』を形成した。
彼女がいなければ、私はまだ薄暗い私だけの世界に閉じこもっていたのだろう。
一人きりの部室で、ただスクールアイドルに嫉妬心を燃やす醜い少女でいたのだろう。
そんな私に、
そんな私が、
にこ(マミちゃんと会うことなんて―――許されない)
二年の時を経て、海未を救ったという彼女。
彼女は魔法少女として命懸けの活動を続けてきたのだろう。
穂乃果の話からすると海未を救ってくれた人物は複数いるとのこと。
つまり、彼女は約束を果たしていたのだ。
『仲間』をつくり、魔法少女として戦い続けて。
かわした約束を果たした。
にこ(それに比べて私は……)
ただ他のスクールアイドルが落ちぶれていく様を観て、自分を慰め続けてただけだ。
改めて思い知らされた。
己の醜さ、弱さを。
にこ「ライブ、か……」
好きで好きで仕方のない筈のライブが、今はとても嫌なものに思えてしまう。
皆を笑顔にするという最高の場が、今の私には重すぎる。
あの場に立つ事ができる気がしない。
にこ「マミちゃん……」
穂乃果の語った日にちは、そう遠くはないもの。
溜め息だけが、零れ続ける。
???「探したよ、にこちゃん」
そんな私に声を掛けるものがいた。
高坂穂乃果。
少し息をきらしたその様子からすると、走って追いかけてきたのだろう。
穂乃果「何で逃げたの、にこちゃん」
にこ「……あんたには関係ないわよ」
穂乃果「関係あるよ。巴ちゃんは私達の命の恩人で、にこちゃんは仲間だもん」
迷いなく告げるその口調。
力強く、こうと決めたら揺らがない芯はある。
それは、多分私にはないもの。
それは、多分彼女がμ'sを創り上げた大きな要因。
にこ「別に何もないわよ。私はとある理由でマミちゃんとは会えないってだけ」
にこ「だから、今度のライブはパスさせてもらうわ。あんた達なら問題ないでしょ」
その方がマミちゃんの気も楽でしょうし、とまでは言わなかった。
見詰める穂乃果の双眸は、普段のそれとは少し違っていた。
おちゃらけた普段の様子とはまるで別の―――怒りの感情が微かに、だが確かにある。
穂乃果「いやだよ。私達は9人でμ'sだよ」
にこ「今までだって9人全員が揃わない状況でライブしたことあったじゃない。それと同じよ」
穂乃果「いやったらいや。巴ちゃん達には全力のμ'sを見てもらいたいから」
穂乃果「だって、巴ちゃん達は……海未ちゃんの命の恩人だよ?」
そう、彼女はそうだ。
容易く人の、命の恩人となれる存在。
それが魔法少女。
そんな彼女に、こんな私がライブを見せるなんて出来やしない。
穂乃果「ねえ、にこちゃん」
にこ「……何よ」
穂乃果「何で―――何で、そんな辛そうな顔をしてるの?」
問い掛けは、核心に踏み込んでいた。
何で辛そうな顔をしてるのかって?
当たり前じゃない。辛いに決まってるじゃない。
穂乃果「ねえ、にこちゃん。本当は―――マミちゃんに会いたいんじゃない?」
にこ「―――ッ!!」
そうよ。
その通りよ。
私はマミちゃんに会いたい。
辛い戦いを続けてきたマミちゃんに、笑顔を届けたい。
私の頑張った証を、μ'sのライブを見せてあげたい。
にこ「だから……何なのよ」
穂乃果「……にこちゃん……?」
にこ「いくら会いたくても、会える訳ないじゃない」
にこ「約束を破った私に! マミちゃんに会う資格なんてないんだから!」ボロボロ
にこ「合わせる顔なんて、ある訳ないじゃない!」ダッ
穂乃果「にこちゃん!」
また走り去る。
涙が込み上げるが、必死に歯を食いしばりこらえる。
後ろから私を呼び止める穂乃果の声が聞こえるが、決して振り返らなかった。
私が、あんたの立場だったら。
スクールアイドルを設立し、絶望にも折れずついにはμ'sというグループを創り上げた、高坂穂乃果の立場であったのなら。
会うことができたのだろう。
胸を張って、マミちゃんと対面することができたのだろう。
でも、違う。
私は折れてしまったのだ。
仲間をつくることを諦め、孤独な殻に閉じこもっていた弱虫なのだ。
だから、会えない。
マミちゃんに会う事は、できない―――。
◇
音之木坂学園 下校道
希「にこっち、どうしたんやろか……」
絵里「穂乃果から巴さんって名前を聞いた瞬間、顔色が変わったけど……」
花陽「あんな表情のにこちゃん初めて見たよ……」
凛「凛も……」
ことり「穂乃果ちゃんも、にこちゃんのこと追いかけていっちゃったけど」
真姫「穂乃果なら何とかしてくれるかしら……」
絵里「そうだと良いけど……」
ことり「ねえ。海未ちゃん、その巴さんってどんな人なの?」
海未「優しげで大人びた人でしたよ。彼女の友人から話を聞く限りでは、私達の二つ下ですかね。それでも正直、凛よりも大人びた方でした」
凛「あー、海未ちゃんひどいにゃー!」
海未「ふふ、ごめんなさい。でも、凛はその子どもっぽいところが長所でもあるんですよ」
凛「そ、そうなのかなあ?」
海未「ええ、そうですとも」
真姫「その巴ちゃんとにこちゃんは知り会いだったのよね。……昔、何かあったのかしら?」
海未「……こういう事をあまり人に伝えてしまって良いものか分かりませんが……」
海未「巴さんもにこの名前を聞いた時、目に見えて動揺してました」
海未「その後の行動もまるで同じで、それきり私達の前から去ってしまって……」
花陽「希ちゃんや絵里ちゃんは聞いたことないの? 巴さんのこと」
希「知らんなぁー」
絵里「私もよ。私はμ'sに入る前は、そんなににこと親しかった訳ではないから」
ことり「巴さんとにこちゃんはあまり会いたくないのかな?」
絵里「どうなのかしらね。二人の様子からすると互いにそんな感じだけど」
希「思ったよりもデリケートな問題なのかもしれんなあ」
真姫「二人の仲を知らない私達がどうこう騒いでもねえ……」
凛「うーん、ならにこちゃんに直接聞いてみるとか?」
海未「それはどうでしょう。二人の様子からすると、他人にあまり触れてほしいものでもなさそうでした」
海未「それに……凛なら聞くことができますか? あんな雰囲気のにこに」
凛「……無理にゃー」
花陽「で、でも、何とかしないと……」
真姫「そうね。穂乃果が約束したライブの日もそう遠くはないわ。それまでに何とかしないと……」
真姫「……にこちゃん抜きでライブをすることになるわ」
絵里「……最悪の場合も想定して練習しておきましょう」
海未「絵里……」
絵里「にこと、その巴さんに何か深い因縁のようなものがあるのは分かったわ」
絵里「それを知った以上、今のにこにライブを強要することはできないわ。仮に強要したところでパフォーマンスはがた落ちする筈よ」
絵里「そんなライブを見せることはできないわ」
花陽「で、でも……」
絵里「それに巴さんもにこと会いたくない様子だったのでしょう? なら、8人で動く練習もしておいた方が良いわ」
絵里「……海未も、それで良いでしょう?」
海未「そう……ですね」
ことり「………」
絵里「……海未、本音は?」
海未「全員でライブがしたいです……」
絵里「そうよね……でも……」
??「―――あ、あの」
??「すみません。μ'sの皆さんですよね」
希「ん……? はいはい。絵里ち、ストーップ」
希「ファンの子の登場やで。話はまた後でね」
??「あ……す、すみません! タイミング悪く来ちゃったみたいで……」
海未「あ……」
海未「あなたは……」
まどか「お、お久し振りです、海未さん」
海未「鹿目さん……! どうしてここに!」
まどか「その、穂乃果さんと海未さんに……いえ、皆さんに話したいことがあって……すみません、練習終わりに呼び止めちゃって」
まどか「今度のライブなんですが―――」
まどか「―――中止にしていただいても良いですか?」
海未「え……」
まどか「それが、その……マミさん全然家から出てきてくれなくて……」
まどか「一度だけ顔を出してくれた時も、マミさん、ライブには行けないとしか言ってくれなくて……」
まどか「海未さんを助けてくれたのはマミさんなんです。だから、私とさやかちゃんだけでライブを楽しむ訳にはいかなくて……」
まどか「マミさんが……マミさんがいないとダメなんです」
まどか「だから―――本当にごめんなさい! 私達の勝手で、せっかく誘っていただいたのに……」
希「えと、鹿目ちゃんやったね。仕方あらへんよ。都合がつかないんなら。そんな謝らんといて」
海未「鹿目さん、私達のことは気にしないでください。無理に誘ったのは私達の方なんです」
海未「巴さんによろしく伝えておいてください。それと一言、申し訳ありませんでしたと」
海未「そのにこと巴さんの関係も知らないで、安易な誘いをしてしまって……」
まどか「そ、そんなこと……!」
まどか「マミさんは決して皆さんや矢澤さんの事を嫌いな訳じゃないんです!」
まどか「マミさん、矢澤さんのライブステージを見て泣いてたんです」
まどか「すごく嬉しそうに、優しく微笑みながら泣いてたんです……」
まどか「だ、だから、だから何か理由が……」グスグス
海未「鹿目さん……」
海未「泣かないでください、鹿目さん。私達は巴さんを責めてる訳じゃないんです」
海未「それをあなたが責任に感じて泣く事なんてありません」
まどか「海未さん……」
海未「優しいんですね、あなたは」
まどか「そ、そんなこと……」
絵里「鹿目さん。気が変わったのなら、また声を掛けてちょうだい。私達はいつでもライブができるよう待ってるから」
希「そうやで。何なら練習中とかに来てもかまわへんで」
凛「そうそう! 凛たちはいつでも待ってるよ!」
花陽「は、花陽も……」
真姫「何たって海未ちゃんを救ってくれた恩人なんだからね」
ことり「巴さんにも、そう伝えてくれると嬉しいな」ニコッ
まどか「皆さん……」
まどか「は、はい……!」
◇
海未宅
海未「どうしたんですか、穂乃果? いきなり訪ねてきて」
穂乃果「うん。海未ちゃんに相談したいことがあって」
穂乃果「あのね。あれからにこちゃんと話したの」
海未「そうですか……どうでした、にこの様子は」
穂乃果「……辛そうだったよ。今にも泣きだしそうだった」
穂乃果「でも、言ってた。巴ちゃんに会いたいんだって」
穂乃果「会いたいけど、会えないんだって、言ってた」
海未「会いたいけど会えない……ですか」
穂乃果「約束を破った私が会える訳ないんだって、言ってた」
海未「約束……」
海未「……あれから、私達のもとにも鹿目さんが訪ねてきたんですよ」
穂乃果「まどかちゃんが?」
海未「ライブを中止にして欲しいとのことでした」
海未「ですが、巴さんは決してにこの事を嫌っている訳ではないのだと、鹿目さんは言っていました」
穂乃果「……そう、なの?」
海未「どうしますか?」
海未「正直、私には分かりません。二人の間に何があったのか」
海未「巴さんは私の恩人です。にこもμ'sの大切な仲間です」
海未「力になりたい……でも、どうすることが二人の為になるのかが、分からないのです」
海未「……穂乃果、話を聞いてますか?」
穂乃果「……そっか、そうなんだ……」ブツブツ
海未「穂乃果、どうかしましたか? 穂乃果!」
穂乃果「海未ちゃん!」ガバッ
海未「ひゃ、ひゃい!」
穂乃果「さっきの話本当? 鹿目さんの話!」
海未「ライブを中止に、という話ですか? 残念ですが、本当で―――」
穂乃果「違うよぉ! 巴ちゃんがにこちゃんを嫌ってないって話!」
海未「は、はあ……鹿目さんの予想でしかないですが……」
穂乃果「……そっか、予想なんだ……」シュン
海未「ほ、穂乃果?」
穂乃果「……そうなんだぁ……」
海未「で、ですが、こうも言ってましたよ。」
まどか『マミさん、矢澤さんのライブステージを見て泣いてたんです』
まどか『すごく嬉しそうに、優しく微笑みながら泣いてたんです……』
海未「―――と」
海未「鹿目さんは言ってました」
穂乃果「………」プルプル
海未「穂乃果? 一体どうしたと―――」
穂乃果「よーーーーーーし!!」ガバァ!
穂乃果「それ、ホントにホントなんだね、海未ちゃん!」
海未「は、はい」
穂乃果「二人は嫌い合ってる訳じゃない! なら、話は簡単だよ!」
穂乃果「明日、もう一度にこちゃんと話してみる!」
穂乃果「ありがとう、海未ちゃん! また明日ね!」
海未「……出ていってしまいました。一体なんだったんでしょうか……」
海未「でも、ああなった穂乃果は……」
海未「手強いですよ、にこ」クスッ
◇
次の日 音ノ木坂学院
私、矢澤にこは悩んでいた。
気まずい。
昨日の別れ方を考えると、非常に気まずかった。
あんな調子で出ていってしまった私。
今更どのような顔で皆の前に顔を出せばいいのか。
わざと明るく行くか? 開幕伝家の宝刀(にっこにっこにー)で流れをもっていく?
否、さすがに昨日の温度差からに伝家の宝刀(にっこにっこにー)は使えない。
いっそ、今日もさぼってしまおうか。
せめて、もう一日クッションが欲しい。
授業中や休み時間は、幸い希や絵里も用事があったのか―――それとも向こうも気まずさを感じてか―――そう、話しかけてくることはなかった。
なら、今日一日、今日一日だけ、練習を休んでも良いだろう。
皆が屋上で練習している間、神田明神あたりで自己練習をしていれば大きく遅れる事はないだろう。
にこ(よし! そうと決まれば誰かに見つかるより早く―――)
希「にーーーこっちぃーーーー!!」ガバッ
にこ「きゃあああああああああああああ!?」
希「にひひ、相変わらずツルペタな胸やなあ」ワシワシ
にこ「な、な、希ぃ~~~~!! あんた、何してんのよ!」
希「わしわしマックスに決まってるやろ。昨日、練習さぼった罰やで~♪」
にこ「な、な、なんで今更! もう放課後よ!」
希「それともう一つ。今さっき、今日も練習さぼろうとしたやろ。それ込みでわしわしマックス発動や!」
にこ「ど、どうして今日もサボるって分かったのよ~!」
希「そりゃまあ、にこっち分かり易いしなあ」
にこ「うっ……」
希「とまぁ、これは建前やけど」
にこ「建前ぇ!? 人様の胸もんどいて建前で済ますんじゃ―――」
希「本当はな、リーダーから頼まれたんや」
希「にこちゃんを逃さないでってな」
にこ「……リーダーって……穂乃果のこと?」
希「そうや。話があるって言ってたで」
にこ「私はあいつに話なんてないわよ」
にこ「わしわしでも何でもしなさいよ。私はあいつと話す気なんてないわ」
希「―――また、逃げるん?」
希「そうやってまた逃げて、一人で抱え込むん?」
希「今回の件、正直私には何が何だか分からへん」
希「海未ちゃんがおかしくなった理由も、鹿目ちゃんや巴さんのことも、何でにこちゃんの態度が豹変したのかも、」
希「私には、何も分からへん」
希「絵里ちも同じや。いや、絵里ちだけじゃない」
希「真姫ちゃんも、凛ちゃんも、花陽ちゃんも、ことりちゃんも、海未ちゃんや穂乃果ちゃんでさえも、」
希「誰も、分からへんのや」
希「でも、皆ひとつだけ分かってることがある」
希「にこっちが何かに苦しんでいる―――それだけは、皆分かってるんや」
希「何とかしてあげたい。でも、何も分からない以上、どうすれば良いか分からない」
希「多分いまにこっちを救えるのは、穂乃果ちゃんだけや」
希「穂乃果ちゃんだけ、ふっきれたような顔をしていた」
希「皆知っとるんや。ああいう風になった穂乃果ちゃんは強い」
希「私たちの誰よりも強く行動することができる」
希「だから、私はにこっちを逃さへん。にこっちを救うために、穂乃果ちゃんと引き合わせる」
にこ「希……」
希「屋上で待ってるよ、穂乃果ちゃん」
希「行ってあげて。多分それがにこっちのためになる筈やから」
にこ「……仕方ないわね」ポツリ
にこ「行ってあげるわよ! 行けばいいんでしょう!」
にこ「別にあんたの説得を聞いたから行く訳じゃないわよ! えと……そう! わしわしされたくないから行くの! 分かった!?」
希「にこっち……」
希「ふふ……分かってるで、にこっち」
にこ「ふん! ………ありがとね、希」ボソッ
希「行ってらっしゃい、にこっち」
私は屋上へと続く階段を歩いている。
希には励まされた。
確かに心が軽くなった気はする。
だが、マミちゃんの問題はまるで別の話だ。
私にマミちゃんに会う資格はない。
それを誰に言われたところで、揺らぐことはない。
私が約束を破ったことは事実でしかないからだ。
屋上へと続く扉が現れる。
ドアノブを回し、扉を開ける。
そこには、いた。
高坂穂乃果が、優しげな微笑みと共に立っていた―――。
書き溜め分投下終了です。
今回のパートはどう展開させようか非常に悩みました…。
ともかく後2、3回ほどの更新で、このSSは一応完結となる予定です。
できるだけ早く更新できればと思いますので、よろしくお願いします
乙
気長に待ってるで
レスありがとうございます。
では書き溜め分、投下します。
穂乃果「待ってたよ。にこちゃん」
にこ「……別に私は会いたかった訳じゃないわよ」
穂乃果「知ってるよ。にこちゃん、頑固だもん」
高坂穂乃果は優しげに言う。
全てを見透かした様子で、まるで迷いのない様子で、彼女は立っている。
穂乃果「……ねぇ、にこちゃん」
穂乃果「何で巴ちゃんと会わないの?」
そして、迷いなく踏み込んできた。
私の、私たちの、秘め事に。
穂乃果「まどかちゃんから言ってたってよ。巴ちゃん、ライブの映像みて泣いてたって」
穂乃果「嬉しそうに……本当に嬉しそうに微笑みながら、泣いてたって」
穂乃果「ねぇ、にこちゃん―――何で巴ちゃんと会わないの?」
再びの問い掛け。
有無を言わさぬ雰囲気を、今の穂乃果は持っていた。
にこ「……約束を、したのよ」
そんな穂乃果に根負けしたように、私は話し始めていた。
誰にも語るまいと思っていた、誰にも語ることのないだろうと思っていた、約束。
私とマミちゃんの、二人だけの秘密。
にこ「スーパーアイドルになって、マミちゃんのためにライブを開くって」
にこ「マミちゃんは仲間をつくって、それを聞きにくるって」
にこ「約束したの、私達」
あの時の光景が思い出される。
薄暗闇の中、孤独な二人で寄り添い合い、交わした約束。
あれから二年。
もう、二年もたったのだ。
にこ「でもね、にこはダメだった。あんたも知ってるでしょう?」
にこ「一人だけのアイドル研究部……あれが私の結末よ」
にこ「約束を果たすことも諦めて、一人きりで自分だけの世界に閉じこもって……」
にこ「本当、どうしようもないわ」
にこ「何が宇宙ナンバーワンアイドルよ。何がスーパーアイドルよ」
にこ「一人じゃ何もできやしないで、大切な友達との約束も破って……最低よ」
一度漏れてしまえば、もう止める術はなかった。
自己に対する想いを吐き捨てる。
醜悪な自分を、吐き捨てる。
にこ「今の私があるのはアンタのおかげよ、穂乃果」
にこ「あんたがμ'sを結成し、皆を引っ張ってきたの」
にこ「私はそれに乗っかっただけ。自分から何かをした訳じゃない。ただ運が良かっただけよ」
自嘲の微笑みを浮かべて、穂乃果を見る。
穂乃果は、ただ私の吐露を聞いていた。
穂乃果「ねぇ、にこちゃん」
穂乃果「それは違うよ」
そして、一言零した。
優しげな微笑みで、私の考えを否定する。
穂乃果「穂乃果、知ってるもん」
穂乃果「今のμ'sがあるのは―――にこちゃんのおかげだって」
―――は?
穂乃果「ねぇ、にこちゃん。ちょっと出かけようか」
当惑する私を置いて、穂乃果はそう言って歩き出した。
私はその背中をぼんやりと眺めながら付いていく。
連れられた先は―――、
にこ「ここは……」
穂乃果「そ、神田明神」
神田明神。
よく練習場として借りてもいる神社に、私達は来ていた。
目の前には体力を付けるためにと良く使っている急な階段がある。
穂乃果「いやー、いつみても急な階段だねえ」
穂乃果「よーし! にこちゃん、上まで競争だよ!」
にこ「は、はあ!?」
穂乃果「よーい、どん!」
にこ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
唐突に始まった競争。
準備も何もなく宣言されたスタートに反応できる訳がない。
何とか追い付こうとするが、この短い階段で出遅れを挽回できるはずもない。
競争は穂乃果の勝ちで終わった。
穂乃果「わーい、穂乃果の勝ち!」
にこ「あ、あんたねえ……」ゼイゼイ
まさか、いきなり全力ダッシュをさせられるとは思ってなかった。
ほんのり紅く染まった空を見上げながら、必死に息を整える。
穂乃果「ねえ、覚えてる? ここでにこちゃんが穂乃果に言ってくれたこと」
にこ「ここで……?」
穂乃果「そう、ここで」
男坂を登り切った、数歩も歩けば神田明神へと入るその場所。
その景色を見詰めていると、ふと思い出した。
穂乃果「思い出した?」
あれは確か、そう。
ことりの留学話からμ'sが活動停止になった時の―――、
穂乃果「そう。あの時、確かにμ'sは一度バラバラになりかけた」
穂乃果「ラブライブに出場も出来なくなっちゃって……ことりちゃんも留学に行くことになっちゃって……」
穂乃果「私も自分勝手にスクールアイドルを辞めようとした」
穂乃果「たぶん皆あきらめかけていた。海未ちゃんも、絵里ちゃんも、希ちゃんも、真姫ちゃんも、花陽ちゃんも、凛ちゃんも……」
穂乃果「でも、ただ一人スクールアイドルを続けようとしていた人がいる」
穂乃果「その人は皆に声を掛けて、後輩を引っ張りながらアイドルを続けようとしていた」
穂乃果「その人に言われたんだ」
穂乃果「私はアイドルが大好きだって」
穂乃果「みんなの前で歌って、ダンスして、みんなと一緒に盛り上がって、
また明日から頑張ろうって、そういう気持ちにできるアイドルが大好きだって」
穂乃果「教えてくれた。言ってくれた」
穂乃果「あの言葉があったから穂乃果は気付けたんだよ」
穂乃果「廃校を阻止するためだけじゃない。ラブライブにでたかったからだけじゃない」
穂乃果「私もそうなんだって」
穂乃果「歌って、踊って、みんなと盛り上がって、みんなを笑顔にすることができて―――」
穂乃果「そんなアイドルが大好きなんだって」
穂乃果「ねぇ、にこちゃん」
穂乃果「あの言葉があったから、私はまたスクールアイドルになれた―――またμ'sを続けられたんだよ」
穂乃果の言葉を、私は黙って聞いていた。
声など出せる訳がなかった。
穂乃果「にこちゃんが言ってくれなかったら、アイドルを辞めたままだったと思う」
穂乃果「自分の殻に閉じこもって、自分を責め続けて……」
穂乃果「だから、今の私が―――今のμ'sがあるのは、にこちゃんのおかげ」
声を出したら、
穂乃果「だから、そんな風に言わないで」
穂乃果「乗っかっただけなんて、運が良かっただけなんて、言わないで」
声を出してしまったら、
穂乃果「にこちゃんは、μ'sのスーパーアイドルなんだから」
涙が我慢できなくなってしまうから。
穂乃果「」スゥー
穂乃果「だって、可能性感じたんだ~♪」
穂乃果「そうだ、ススメ~♪」
穂乃果「後悔したくない 目の前に、僕らの道がある~♪」
唄が響き渡る。
それは心にも響き渡って、
穂乃果「行って、にこちゃん」
穂乃果「巴ちゃんが―――マミちゃんが、待ってるよ!」
私は走り出していた。
目の前に広がった道へ。
何も言わず、走り出した。
穂乃果「にこちゃ~~~~~~~ん!!」
後ろから掛かる声。
穂乃果「―――ファイトだよ!」
その声に押されるように、走り続ける。
◇
にこ『みんな~、いっくよ~!!』
にこ『にっこにこにー!』
パソコンの画面の中、眩しい笑顔をふりまく女性がいる。
女性の声掛けにファンの人々も応えて、大合唱となって会場に響き渡った。
にっこにこにーという掛け声が、今は何十もの人に唱えられている。
あの時とは違う。
私だけしか聞く者のいなかった二年前。
今はこんなにも大勢の人々に聞かれている。
マミ「矢澤さん……」
薄暗い部屋の中、パソコンだけが光源となっていた。
私は膝を抱えながら、パソコンを見詰めている。
パソコンの中の矢澤さんを。
スーパーアイドルとなった矢澤さんを。
孤独な魔法少女が。
見詰めている。
―――ピンポーン!
ふと、呼び鈴がなった。
モニターに映ったのは鹿目さん。
やはり心配そうな表情で、扉の前に立っている。
あれから数日が経った。
結局、鹿目さん達とはあれから面と向かって話してはいない。
学校では避けてしまっていたし、あんな姿を見られた今、魔法少女体験コースにも誘いづらくなってしまった。
思わずため息が出る。
せっかく出来そうな後輩だったのに、全て台無しになってしまった。
それどころか鹿目さんや美樹さんに心配ばかりを掛けてしまっている。
マミ「………駄目ね、こんな風にしてちゃ」
パソコンを閉じ、部屋の照明をつける。
矢澤さんとの約束は果たせなかったけど、私が魔法少女ということに変わりはない。
彼女に会えなくても、彼女と会うことが許されなくても、それで足を止めていい理由にはならない。
それに、ずっと前から知っていたことだ。
私は魔法少女。
決して日向にでることのない、影の存在なんだから。
マミ「いらっしゃい、鹿目さん」
まどか「マミさん……」
だから、私は精一杯の笑顔で、心の中を悟られないよう表情を創って、
鹿目さんを出迎えた。
もう大丈夫なんだと、心配しなくても良いんだと、告げるように笑顔をつくる。
マミ「ごめんなさい。心配させちゃったよね」
マミ「でも、もう大丈夫。大丈夫だから」
嘘。
本当は大丈夫なんかじゃない。
矢澤さんに会いたい。
約束を果たせなかった自分が許せない。
辛い。苦しい。逃げ出したい。
まどか「マミさん……」
マミ「ちょっと待っててね。お茶の準備をするわ」
マミ「ふふっ、最近おいしいケーキ屋さんを見つけたのよ。鹿目さんも食べてちょうだい」
心配そうな鹿目さんの瞳を、正面から見ることができなくて。
私は台所へ逃げるように、向かった。
暗い台所。
そこに逃げ込んだ私は、その場に座り込んでしまった。
作った筈の覚悟は、一瞬で揺らいでしまっていた。
私に力をくらた彼女に、支えてくれた彼女に、会いたい。
マミ「うう………ぐすっ………」
気付けば涙が溢れだしていて、
止めることなんて到底できなくて、
まどか「……マミさん」
そんな私を見下ろしている、鹿目さんがいた。
マミ「……ごめんね。幻滅したよね」
マミ「これが本当の私……怖くて、辛くて、泣いちゃって……」
マミ「鹿目さんや美樹さんの前では先輩ぶってカッコつけてたけど……本当はただやせ我慢をしてるだけで」
涙が、止まらない。
鹿目さんの前だというのに、体裁を保つこともできない。
溢れだす感情が、つもりつもった感情が、止められない。
まどか「良いんですよ、マミさん」
不意に身体が温もりに包まれる。
見下ろしていた筈の鹿目さんが、私を抱き締めていた。
まどか「辛いことも、悲しいことも、抱え込まなくて良いんです」
まどか「誰だって、そうなんです。一人で抱え込んだらパンクしちゃう。それは決して悪いことなんかじゃない」
まどか「だから、良いんですよ。マミさん」
その言葉は暖かくて、優しくて。
冷え切った私の心に温もりを与えてくれて。
今度こそ、涙が止まらなくなって。
マミ「う、うううう……」
マミ「私、矢澤さんと約束したの」
マミ「仲間をつくって矢澤さんのライブを観に行くって……」
マミ「なのに……なのに……私は、諦めて……」
マミ「仲間ができても、直ぐにみんな離れていってしまって……」
マミ「別れが辛くて、別れた後の孤独が辛くって……結局、約束から目を逸らして……」
マミ「矢澤さんは頑張っていたのに……」
マミ「矢澤さんはスーパーアイドルになったのに……私は、私は……!」
全てを打ち明けていた。
これまで抱えていた全てを吐き出すように。
まどか「大丈夫、大丈夫ですよ。誰もマミさんを責めたりなんてしません」
まどか「にこさんだって、そうです」
まどか「約束が果たせなかったからってマミさんのことを嫌う訳ないいじゃないですか」
マミ「鹿目さん……」
まどか「それともあなたの知っているにこさんは、そんな人ですか?」
マミ「違う! そんな訳……ない」
それだけは違うと断言できる。
二年前にあった彼女は優しく、強い人だった。
一度は拒絶しようとした私を引き留め、笑顔をくれた人。
まどか「なら、そうなんですよ」
まどか「約束なんて関係ありません。会いたいなら、会えばいいんです。矢澤さんもきっと喜んでくれる筈ですよ」
まどか「それに、もうマミさんは一人じゃありません」
まどか「私も―――」
と、鹿目さんが続けようとした時だった。
―――Prrrrr Prrrr
鹿目さんの携帯が音をたてた。
まどか「何だろう、さやかちゃんからだ」
まどか「すみません、マミさん。出ちゃいますね」
美樹さんの着信にでる鹿目さん。
すると見る見る内にその表情が驚愕に染まっていく。
まどか「マ、マミさん!」
まどか「さ、さやかちゃんが孵化しかけのグリーフシードを病院で見つけたって!」
それは、魔女の襲来を告げる後輩からの知らせ。
私は一つ頷き、涙を拭う。
マミ(愚痴は充分こぼした)
マミ(泣き言も沢山いった)
マミ(私には後輩ができた)
マミ(私の愚痴を聞いてくれて、私の泣き言を包み込んでくれる後輩が)
マミ(……もう一人じゃない)
マミ(矢澤さん、私にもできたよ)
マミ(魔法少女の、ではないけれど)
マミ(優しい仲間ができたよ……!)
心は少し晴れていた。
全てを打ち明けた今、心中にあった重荷は軽くなっている。
なら、今度は本来の役目を果たす番だ。
魔女と、戦う。
それが私の役目。
それが魔法少女の役目。
マミ「行くわよ、鹿目さん」
マミ「かっこ悪いところばかり見せちゃったからね。今度は少しかっこいいところも見せてあげる」ニコ
まどか「! ……は、はい!」
頼れる後輩を連れて、私は家を飛び出す。
病院まではそう遠くない。
十数分ほど走り続け、私達は病院へとたどり着いた。
駐輪場の直ぐ近く。そこに魔女の結界はあった。
魔女の場所は、美樹さんと共にいるキュゥべえが知らせてくれる。
危険ではあるが、被害を最小限に抑えるには適した行動。
それに報いるのが、先輩の役目だ。
マミ「行くわよ、鹿目さん」
まどか「わ、分かりました……」
恐怖の入り混じった表情。声も震えている。
私はその手をぎゅっと握る。
少しでも安心を与えらればと、そう考えながら手を握り、結界へと足を踏み入れた。
???「―――待って!」
その瞬間、世界が止まったようだった。
聞き覚えのある声。
それでいてとても、とても懐かしい声。
???「よ、ようやく見つけたわ……見滝原じゅう走り回っちゃったじゃない」ゼイゼイ
私は、知っている。
この声を。
この暖かい声を。
にこ「久し振りね。マミちゃん」
マミ「矢澤……さん……」
振り返ったそこにはいた。
矢澤にこ―――私のスーパーアイドルが、そこにいた。
◇
目の前には彼女がいた。
会いたいと思い続け、会えないと絶望し、ようやく出会えた彼女。
彼女は、今にも進もうとしていた。
異質に染まった壁。
その壁の中に、彼女の敵がいるのだろう。
彼女はまた守ろうとしているのだろう。
誰かの命を。
彼女はまたなろうとしているのだろう。
誰かの命の恩人に。
私の時のように、海未の時のように。
マミ「矢澤……さん……」
彼女は魔法少女。
他を守るヒーロー。
止めることはできない。
止められない。
なら、私が言う事は一つだ。
にこ「マミちゃん。無事に帰ってきて」
送り出す。
束の間の再会の中で、それだけを交わす。
にこ「帰ってきたらライブを開くわ。あなたのために」
限られた時間の中で、それだけを交わす。
にこ「だから、お願い。―――無事に帰ってきて」
返答は、なかった。
ただ一度マミちゃんは頷いた。
涙を一杯に溜めた瞳で、満面の笑顔で、頷いた。
そうして彼女は扉を潜っていった―――、
◇
彼女は、瞳いっぱいに涙をためながら、口を開く。
にこ「マミちゃん。無事に帰ってきて」
彼女は察したのだろう。
私の前に広がる魔女の結界への入り口。
切羽詰まった様子の私達に。
深くは知らない魔女の知識の中で察したのだろう。
だから、多くは語らない。
ただ涙を溜めて、言ってくれた。
にこ「帰ってきたらライブを開くわ。あなたのために」
そう、言ってくれた。
約束を果たせなかった自分に。
何も問わず、そう告げてくれた。
限られた時間の中で、それだけを交わす。
にこ「だから、お願い。―――無事に帰ってきて」
心の中に何かが湧き上がるのを感じた。
熱く、突き上がるような感情。
私はただ一度だけ頷いて、結界の中へ入っていった。
おどろおどろしい空間。
恐怖や不快感しか与えぬ、その空間の中で、それでも私は感じていた。
確かに、そう感じていた。
―――もう何も怖くない、と。
◇
???「これは一体……?」
???「今までのループであんな子が出てきたことはない……」
???「イレギュラー……ただ、どこかで見た事のあるような……」
???「少し、様子を見ましょうか」
投下終了です。
また書き溜めができしだい投下します
乙
レスありがとうございます。
書き溜め分完成したので投下していきます。
一応、今回で完結となります。
◇
私は、進んでいく。
魔女の結界。
私たちの戦いの場。
押し寄せる使い魔を蹴散らしながら、後輩の手を引いて、進んでいく。
マミ(矢澤さん……)
結界の外で待っているだろう彼女。
彼女は言ってくれた。
ライブを開くと、約束してくれた。
話したいことが沢山ある。
謝りたいことも沢山ある。
聞きたい。
彼女のライブを。
スーパーアイドルのライブを。
会いたい。
矢澤さんに、会いたい。
今の私に出来る事は一つだけ。
手早く魔女を片付け、無事に矢澤さんの元へと帰還するだけだ。
まどか「―――着いた!」
視界が開ける。
そこには物陰に隠れる美樹さんとキュゥべえの姿。
そして、天へと伸びる椅子へと座る小柄な魔女。
マミ「大丈夫? 美樹さん、キュゥべえ」
油断なく魔女に視線を向けながら、美樹さんのもとに駆け付ける。
見たところ二人に怪我はなさそうだ。
ならば、後の問題は……あの魔女だ。
今のところ動く様子はない。
これまで戦ってきた魔女と違って、とても小柄な見た目。
拍子抜けするほどに、威圧感はない。
マミ「悪いけど……一気に決めさせてもらうわよ!」
相手が動かないのであれば好都合だ。
反撃する暇も与えず、打ち倒す。
マミ(このまま―――攻め落とす!)
マスケット銃を振り抜き、椅子の足をへし折る。
落下してきた魔女へともう一発、マスケット銃のフルスイングをお見舞い。
吹き飛んだところへマスケット銃を掃射し、倒れ伏す魔女へゼロ距離から発砲。
魔弾から発生したリボンで宙に縫い付け、動きを封じる。
マミ「ティロ―――」
発現した巨大な砲門へ更に魔力を込めていく。
もっと強く、強く。
魔女を打ち滅ぼす最後の射撃を、準備する。
マミ「―――フィナーレ!!」
そして、引き金を引き絞った。
放たれた砲弾は狙いを外すことなく魔女の胴体を射抜く。
私は、勝利を確信した。
確信して―――しまった。
マミ「え……」
直後にあった変化に、私は反応することが出来なかった。
魔女の口から現れた、巨大な白色。
それは顔であった。
虹色に染まった瞳。
小悪魔のような笑みをたたえた、白塗りの巨大な顔。
それがほんの一瞬で間近へと接近し、その口を開く。
大きな、大きな口。
人一人など容易く丸呑みにできるのではないかと思う程の、巨大なものだ。
上顎と下顎には、これまた人の胴体ほどはある巨大な歯が並んでいる。
そんなものが私へと徐々に、徐々に、迫ってきて、
私は、
にこ『だから、お願い。―――無事に帰ってきて』
彼女の声を、聴いた気がした。
脳裏に過る彼女の姿。
涙を堪えて、私を送り出した、その姿。
またなのか。
私は、また約束を果たせないのか。
マミ(そんなのは―――嫌)
引き伸ばされた時の中で、私は動こうとした。
それが回避行動であるのかすら、分からない。
ただ、がむしゃらに動こうとした。
実際に動けたのかも分からない。
ただ、嫌だった。
彼女と会うんだ。
彼女に、
マミ(矢澤さんに―――)
そして、一瞬後。
衝撃が、身体中を走り抜けた。
◇
彼女は異質であった。
今まで何度も繰り返してきた時の中で、初めて見た存在。
ツインテールに結わった黒髪に、子供っぽさの残る顔立ち。
私は彼女を知っている……と思う。
ほんの少し記憶の片隅に引っ掛かりがある。
何処で見たのかまでは思い出せない。
それでも見た事がある気がするのだ。
彼女は待ち続けている。
マミの消えた結界の扉を見守り続けている。
彼女は、マミに声を掛けていた。
無事に帰ってきて、と。
帰ってきたらライブを開くわ、と。
何の事かは、分からない。
だが、
だが、だ。
???(このまま時間が過ぎれば、高確率でマミは……)
この戦いで彼女が生存する確率は著しく低い。
お菓子の魔女。
相性が悪いのか、これも因果的な巡り合わせなのか、マミはこの戦いで死亡するケースが多い。
少女は動かない。
マミと共闘をしないという事は、おそらく魔法少女ではないのだろう。
ただの少女。
それともまどかやさやかと同様に、魔法少女としての才覚を有した少女なのか。
???(無事に帰ってきて、か……)
少女は泣きそうな表情でマミを送り出していた。
その姿にほんの少し重なる者がいた。
三つ編みの気弱で内気な女の子。
彼女は何時も魔法少女たちを見守る側で、魔法少女たちの無事な帰りを祈っていた。
そんな少女の姿と、今マミを待っている少女との姿が何処か重なる。
三つ編みの少女の前に、魔法少女たちは遂に帰ってはこなかった。
二人とも街を守るために戦い続け、そして死亡したからだ。
そして、三つ編みの少女は願った。
全てをやり直す事を。
願い、彼女は終わりの見えぬ戦いに身を投じることとなった。
???(……何を思い出してるのかしら)
少し自嘲を感じながら、私は一歩を踏み出した。
マミを待ち続けるイレギュラー。
彼女はこの終わらぬ世界に何か変化を投じてくれるのかもしれない。
この止まない雨を晴らしてくれるのかもしれない。
???(そう、なら最大限に利用するべきだわ……役に立つ、立たないは分からないけれど)
???(………そう。その筈よ)
イレギュラーの元へ、一歩一歩と近付いていく。
???「そこのあなた」
そして、声を掛ける。
振り向く彼女を正面から見据えながら、私は言葉を紡いでいく。
これまでの世界では存在しなかった邂逅が、始まった。
◇
???「そこのあなた」
戦場へと消えていった魔法少女。
彼女の無事を祈って待ち続ける私に、声を掛けるものがいた。
にこ「あなたは……?」
振り向くとそこには見知らぬ少女が一人立っていた。
腰まで伸びた黒髪。
表情は無表情で、そこから感情らしき感情は読み取れない。
その容姿はどことなく海未に似ているか。
とはいえ海未よりもずっと不愛想な雰囲気を纏っているが。
???「あなた、さっきマミと話をしていたわね」
???「マミの知り合い?」
愛想笑いの一つもなく紡がれた、何かを探るような問い掛け。
私はどう答えれば良いのかが分からない。
この少女は何者なのか。
何故、私とマミちゃんのことを聞いてくるのか。
意図も何もかもが分からない。
???「……あなたに、一つ忠告するわ」
困惑に押し黙ってしまった私に、少女は続けた。
???「ここでマミを待っていても無駄よ。さっさと家に帰った方が身のためよ」
にこ「……何よそれ。どういう意味よ」
???「言葉通りの意味よ。ここで待っていてもマミは帰ってこないわ。高確率でね」
にこ「その言葉の意味が分からないって言ってるの! マミちゃんが帰ってこないって、どういう意味よ!」
待っていても無駄? 帰ってこない?
何を……何を言っているのだ、この少女は。
マミちゃんが帰ってこない訳がない。
約束をしたのだ。
ライブを開くと。
今度こそ、ライブを開くと。
ようやく約束できたのだ。ようやく再会できたのだ。
彼女は帰ってくる。
私の願い通りに無事に帰ってくる。
そして、今度こそライブを開くのだ。
彼女のための、ライブを―――、
???「彼女は、この戦いで―――死ぬわ」
少女は言い切った。
全てを見透かすように、告げた。
その言葉を耳にして、私は胸の中の感情が沸騰するのを感じた。
にこ「ッ―――ふざけないで!」
にこ「マミちゃんはずっと昔から魔法少女をやってきたのよ! 私と出会う前から、ずっと魔女と戦い続けてきたの!」
にこ「私を救ってくれたし、海未だって助けてくれた! 凄い子なの、強い子なの!」
にこ「そんなマミちゃんが負ける筈ない! 死ぬなんて……そんなの有り得ない!」
気付けば、私は叫んでいた。
溢れだす感情が我慢しきれずに吐き出される。
少女は、やはり顔色一つ変えることはなかった。
私の叫びを聞き、ただポツリと返した。
???「知ってるわよ、全部」
???「マミがどれだけの戦いを経験してきたのか、どれほど強い魔法少女で……どれほど弱い魔法少女なのかも」
???「あなたよりも、ずっとね」
私の激情と比べて余りに落ち着き払った返答で、
その余りの落ち着きぶりが言葉の信憑性を深めていって、
???「でもね。そんなものなのよ」
???「どんなに頑張ろうと、どんな意志をもってようと、呆気なくいなくなってしまう」
???「そんなものなのよ―――魔法少女なんて」
儚げな物言いだった。
それこそ、言った本人が今にも消えてなくなってしまいそうなほど、儚い呟きだ。
少女は続けていく。
???「あなたも忘れなさい。マミのこと、魔法少女のこと……それは普通の人間が知らなくても良いこと」
???「忘れて、普通の平凡で暖かな生活を送りなさい」
???「その方が、マミも喜ぶ筈だから」
それだけを言い残し、少女は私へと背を向けた。
進んでいく方向は、マミちゃんが消えていった異色に光る扉。
話しぶりから分かる。
彼女もまた魔法少女なのだろう。
戦いにいくつもりなのだ。
魔女と。
私は、その背中を見詰め続けていた。
見つめ、見つめ、見つめ―――、
???「なっ……!?」
その背中を、追い抜いた。
私は進んでいた。
踏み込んでいた。
彼女たちの領域に。
魔法少女の戦場に。
子どもの落書きから無邪気さを取り除いたような、気味の悪い空間。
そこを私は走っていく。
???「待ちなさい!」
不意に腕を掴まれる。
掴んだのは、先程の少女。
追い抜いた筈なのだが、一瞬で追い付かれてしまっていた。
???「今の話を聞いてなかったの? ここにはマミも敵わないような強力な魔女が―――」
少女は僅かに語気を荒げて言った。
視線は射抜くように鋭くなっていて、
私を掴む手も強く強く握り締められている。
にこ「―――そんなの関係ないわ!」
だが―――そんな事は関係なかった。
にこ「やっと再会できたの、やっと話すことができたの!」
にこ「忘れるなんて出来る訳ない! だって、彼女は、マミちゃんは、」
にこ「私の初めての―――親友だから!」
私は叫ぶ。
ここが危険な場所だろうが、何だろうが。
魔法少女だろうが、魔法少女じゃなかろうが関係ない。
見ているだけなんて出来る訳がない。
マミちゃんの危機に何もしないでいられるなんて、そんな事ができる筈がない。
彼女は―――親友なのだから。
???「……はぁ」
少女は一つ溜め息を吐いた。
何時の間にか無表情だったその顔には感情が灯っていた。
呆れたように、でもその表情はほんの少しだけ柔らかくて、微笑みをたたえていて。
でも、それも一瞬。
少女の表情は、すぐに不愛想なものに戻ってしまった。
???「私の手に掴まりなさい」
にこ「え?」
???「マミのところまで案内するわ。放って置いても、あなたは止まらないでしょうし」
???「ただし、向こうでは大人しくしていなさい。本当に危険よ」
にこ「あ、ありがと」
少女に右手に掴まる。
すると、世界が静寂に包まれ、色彩を失った。
色も音ない世界。
そんな中を、少女に手を引っ張られながら駆けていく。
そして、辿り着いた。
おどろおどろしい世界の深淵へ。
そこで私が見た景色。
それは―――、
にこ「ああ……!」
右肩から夥しいほどの鮮血を撒き散らしながら、舞い続ける魔法少女の姿であった。
顔は青ざめ、表情は苦悶に染まっている。
動きも覚束ない様子で、今にも倒れてしまいそうで、
人なんて丸呑みにしてしまいそうな巨大な怪物に、翻弄されている。
巨大な魔女はその巨体のままに宙を飛び、何度もマミちゃんへ体当たりを繰り返す。
何とか直撃を避けようと駆けるマミちゃんであったが、動作が余りに重い。
避けきれず何度も身体が宙を浮き、地面に叩き付けられる。
それでも何とか立ち上がり、致命的な一撃を喰らわないように走り出す。
それを見て魔女もまた宙を駆けながら、マミちゃんへと迫る。
まるで、それは弱った獲物を嬲るかのように見えて、
にこ「マミちゃん!!」
気付けば私は駆け出しそうになっていた。
???「落ち着きなさい」
だが、それを阻んだのは隣に立つ、もう一人の魔法少女であった。
???「言ったでしょう、ここに来たら大人しくしてなさいと」
にこ「は、離して! マミちゃんが……マミちゃんが!」
???「行って、どうするつもり? マミの邪魔になるだけよ」
にこ「う……」
???「安心しなさい。私が何とかする。あなたはまどか達の所で隠れてなさい」
言い残し、少女は跳んだ。
助走も何もないたった一度の跳躍で、マミちゃんの近くまで迫っていく。
そして、何処からともなく銃器を取り出して、怪物に向けて引き金を引き絞る。
たまらず宙空へ避難する怪物。
発声した猶予に、マミちゃんと少女が言葉を交わす。
にこ「マミちゃん……」
何を喋っているのかは分からない。
ただマミちゃんは私が来た事に気付いた様子であった。
驚きに顔を染め、こちらに視線を向ける。
ぶつかり合う視線。
彼女は、微笑んだ。
蒼ざめた表情で、それでも私を安心させるように、笑った。
微笑みのまま、口が動く。
声は届かない。
ただ、何かを語り掛けるように動いた。
こんな状況なのに、辛いのはマミちゃんの方なのに、
それでも魔法少女は、微笑んだ。
それからまた少女の方へ、顔を向け、何かを語る。
今度は少女が驚く番であった。
ポーカーフェイスを崩し、焦った様子でマミちゃんへ声を掛けるが、マミちゃんは首を横に振るだけだった。
そんな押し問答が、十数秒続き、
だが、問答は怪物の襲撃で打ち切られる。
上空から迫った怪物は、大きな口を開けて二人を捕食しようとする。
地面が揺れるほどの衝撃。
砂煙(?)が巻き上がり、二人の姿が見えなくなる。
???「―――マミ!」
少女が砂煙を突き破って、こちらへと跳躍してくる。
視線は先程まで二人がいた地点を睨み、大声を掛ける。
マミ「三人は任せたわよ、暁美さん!」
砂煙の向こう側からも声が届く。
マミちゃんの声。
マミちゃんも無事のようだ。
???「くっ、馬鹿……」
少女は手を強く握り締めながら、マミちゃんの声がした方を睨み続ける。
にこ「ど、どうしたのよ」
???「……私はあなたとまどか達を守るわ」
にこ「は、はあ!? じゃあ、あの化け物はどうするのよ!」
???「マミが一人で相手すると言ってたわ」
にこ「なっ……!? だって、マミちゃんはあんなにボロボロで……」
???「……頼まれたの」
にこ「頼まれた……?」
???「一人で戦わせて、と」
???「今度こそ約束を果たさせてちょうだい、と」
???「―――頼まれたの」
にこ「そんな……」
砂煙が晴れる。
そこには変わらぬボロボロの姿のマミちゃんが、立っていた。
宙に浮かぶ怪物へと、左手に握ったマスケット銃一本で相対している。
動き出す両者。
やはり戦いはマミちゃんの劣勢であった。
???「大丈夫よ。これ以上無理と判断したら、私が介入するわ」
僅かに眉根を寄せて、少女はそう言った。
それは今にも駆け寄りたいのを我慢しているようにも見えた。
にこ「マミちゃん……」
マミちゃんは戦っている。
皆を守るために、あんなにも傷付いて。
皆を守るために、あんなにも巨大な敵に立ち向かっている。
おぼろげな意識の中で見た覚えはある。
話として聞いたことはある。
だが、実際に見て、本当の意味で理解した。
命懸けという言葉の意味を、
魔法少女という存在が辿る過酷な道程を、
にこ(なのに、私は……)
私は立ち尽すだけであった。
親友の危機に息巻いて飛び出して、
守らなくちゃと思っていたのに、
今はただ立ち尽くすだけ。
約束も果たせず、何も出来ずに、何もせずに、彼女を見守るだけ。
にこ(私は……)
嫌だ。
そんなのは、嫌だった。
必死で戦う親友を見ているだけなんて、立ち尽くすだけなんて、嫌だった。
私は、矢澤にこ。
スクールアイドルの女子高生。
そんな私が、この場で出来ること。
考える。考える。考える。
そして―――、
にこ「―――にっこりの魔法~ 笑顔の魔法~♪」
気付けば、私は唄いだしていた。
μ's皆のではない。
私の、
矢澤にこの唄を、
唄い出していた。
にこ「笑顔のまほう 涙さよなら にっこにっこにこにこーだよ~♪」
それは場違いなほどに明るい唄で。
でも、あなたに届いて欲しい本心を伝えたもので。
私は、唄い続ける。
魔法の唄を、唄い続ける。
◇
唄が、聞こえる。
重い身体。まとまらない思考。
ぼんやりとした意識の中で、だが確かに、その唄は聞こえてきた。
「にっこりの魔法~ 笑顔のまほう~♪」
明るくて、聞いているだけで心が明るくなるような唄。
視線の端に、その少女はいた。
胸の前で手を組み合わせ、まるで祈るように唄い続ける少女。
魔女の結界という絶望の空間の中で、彼女だけが隔絶されていた。
祈り、唄い、周囲に希望の声色を届けている。
マミ(にこさん―――)
死を覚悟した一瞬、私は何とか致命傷を避けることができていた。
それはにこさんの言葉があったから。
あの無事に帰ってきてという言葉があったから、その言葉を思い出したから、
私は動くことができた。
是が非でも帰るんだという想いが、無意識の内に身体を動かしていた。
逃げるように身体を捻り、その牙を避ける。
その動作があってか、本来ならば頭部を噛み砕いていた一撃は、右肩を抉るだけに終わった。
私は命を拾った。
彼女はいたからこそ、私はまだ戦える。
戦えるのだ。
魔女の結界という危険な場所で、彼女が叫んでくれたから。
マミちゃん、と。
泣きそうな表情で、叫んでくれたから。
魔女の結界という危険な場所で、彼女が唄ってくれるから。
魔法の唄を
涙をこらえて、唄ってくれるから。
私は、まだ戦える。
魔法少女として、
彼女のヒーローとして、
戦える―――いや、戦わねばならない。
マミ(私は―――)
戦う。
そして、帰るのだ。
彼女の元へ、
彼女との約束を果たすために、
彼女の唄を聞き続けるために、
マミ(私は―――)
生き抜くのだ。
果たせなかった約束を、果たすために。
彼女のライブを観るために。
私のスーパーアイドルのライブを観るために、
マミ(私は―――)
私は―――、
マミ「私は―――負けない!!」
奮い立つ感情に任せて、全てを出し切る。
振るわれたリボンに伴い、宙へ出現する三つの大型砲門。
余力も何もない。魔力のセーブなんて考えてもいない。
残存する全ての魔力をこの一撃に注ぎ込む。
正真正銘、これが私の全力全開。
マミ「―――ティロ・フィナーレ!!」
全てを賭けた最後の射撃が、放たれた―――、
◇
???「ッ……!」
お菓子の魔女を爆炎が包み込む。
見れば、分かる。
この一撃はお菓子の魔女を屠るに充分すぎるものだ。
だが、これは余りにも……、
???「マミ……」
その一撃は、あまりに強大すぎた。
お菓子の魔女を撃破することには成功したかもしれない。
しかし、その一撃に込められた魔力は如何ほどのものか。
ただでさえ満身創痍の身を、魔力で回復させながら無理矢理に動いていたのだ。
殆ど魔力は底をつきかけていたに違いない。
その状態で、全力の魔力行使。
……結末は目に見えていた。
???「あなたは大馬鹿よ、巴マミ……」
撃鉄を起こし、身構える。
魔力が底を付いた魔法少女に訪れるものを、私は知っている。
死よりも恐ろしい、絶望の始まり。
私が始末を付ける。
マミのそんな姿を、まどかに、この少女に見せたくはなかった。
まどか・さやか「「マミさん!」」
にこ「マミちゃん!」
最後の射撃を終え、倒れ伏すマミ。
駆け寄るまどかや少女と共に、私も近寄っていく。
いつでも能力を発動できるよう、いつでも拳銃を放てるよう警戒しながら、近付いていく。
そこにはあった。
真っ黒に染まったソウルジェム―――ではない。
鈍く穢れを限界まで溜めこみながらも、ほんの僅かに黄色に光るソウルジェムが。
そこには、あった。
マミ「にこさん……」
にこ「マミちゃん、マミちゃん、マミちゃ~~~~~~~ん! よかった、よかったよ~~~~!!」
マミに抱き着く少女。
まどかとさやかも駆け寄り、マミの無事に喜んでいる。
そんな中で私は当惑に身を固めてしまっていた。
私の視線はただ一点を見詰めている。
マミの髪飾り。そこに備え付けられた宝玉。
私はそれだけを凝視し続けていた―――。
◇
あれから全てがてんやわんやで過ぎていった。
重傷を負ったマミちゃんであったが、魔法の力とは凄まじいもので3日程で傷は完治した。
穢れかけていたソウルジェムという魔法少女の力の源も、魔女が落としていったグリーフシードというもので何とかなった。
あの時私を助けてくれた少女は、いつの間にかその場から消えていた。
結局、名前も聞けず終いであった。
伝え切れぬほどの感謝の気持ちがあるのに、一言すら礼を言う事ができなかった……。
……そうして、マミちゃんも全快したある日、私達は会う約束をした。
その時、互いの二年間のことを語り合った。
私も全てを語った。
一度約束を諦めたこと、孤独に過ごした二年間のこと。
μ'sと出会い、救われた事。
μ'sの中であった様々な出来事も、赤裸々に語った。
マミちゃんも全てを語ってくれた。
一度約束を諦めたこと、孤独に過ごした二年間のこと。
まどかやさやかと出会い、救われた事。
まどかに強く励まされたという事も、語ってくれた。
私達は笑い合った。
二人して同じ様な勘違いをしていたことを。
互いに相手が約束を守ったと思い、勝手に自分を責めていたこと。
私達は、思った。
私達は、どこか似ているんだと。
そう、思った。
私達は夜が明けるまで語り続けた。
二年間の空白を埋めるように、語り続けた。
そして―――、
―――10日後、音乃木坂学園 屋上
さやか「いやぁー、何か緊張してきちゃったね……」
まどか「それにしても本当に良かったんですか、私達まで招かれちゃって」
マミ「良いのよ。一人だけじゃあ逆に落ち着かないし、二人には一杯迷惑かけちゃったから、そのお詫びよ」
マミ「それに何より……二人とも私の大切な仲間だから」ニコッ
まどか・さやか「マミさん……」
さやか「私もそう思ってますよ! マミさんはかっこよくて素敵な先輩で―――仲間です!」
まどか「わ、私も! 私もそう思います!」
マミ「ふふ、ありがとう。さぁ、目一杯たのしみましょう!」
~♪
まどか「わぁ、音楽が流れてきたよ!」
さやか「始まる! 始まるんだね!」
マミ「そう、始まるのよ!」
マミ「私達だけに開いてくれる―――」
マミ「―――矢澤さんの―――」 まどか・さやか「―――μ'sの―――」
マミ・まどか・さやか「――――特別ライブ!!」
◇
海未「うう、何だか緊張してきました……」
穂乃果「ええ~、海未ちゃん、またぁ?」
ことり「いつも通り精一杯、頑張れば大丈夫だよお」
海未「それは分かっているのですが……相手が巴さん達だと意識してしまうと変に気張ってしまって……」
穂乃果「大丈夫だよ! 穂乃果、知ってるもん。海未ちゃんが今日に向けて沢山練習してきたって!」
穂乃果「恩人である彼女達に最高のライブを届けるのです! ってね」
海未「穂乃果……」
凛「海未ちゃん凄い気合い入ってたにゃ~」
真姫「まぁ、それで暴走してちゃ意味ないけどね」
花陽「合宿ばりの練習メニューを見せられた時はびっくりしたよぉ……」
ことり「気合いが入りすぎちゃったんだね」アハハ…
海未「うう……」
真姫「穂乃果とことりが止めてなければ、どうなっていたことか……」
絵里「まぁ、それにしても間に合って良かったわ」
希「にこちゃん、帰ってくるなり。ライブをするって言い始めたからね」
希「あんなに反対してたのにな~」ニヤニヤ
にこ「べ、別にいいでしょ! 気が変わったのよ!」
希「目を真っ赤に腫らして帰ってきて……結局、あの日は何があったのかな~」ニヤニヤ
にこ「の、希ぃ!」
穂乃果「あ~、穂乃果も気になる、気になる!」ニヤニヤ
にこ「くっ、穂乃果まで……」
ことり「私も気になるなあ~」
海未「私もです」
凛「凛も!」
真姫「気になるわね」
花陽「気になります……!」
絵里「さぁ、教えてもらえるかしら、にこ?」ニッコリ
にこ「~~~~~~~~~~~!!」
にこ「い、良いのよ! もうこの話はおしまい! 今はライブに集中するの! 分かった!?」
希「何や、にこっちのいけず~」
にこ「うるさい!」
穂乃果「……そろそろ時間だね」
にこ「……そうね」
にこ「ねぇ、穂乃果。あなたに言っておくことがあるわ」
穂乃果「私に?」
にこ「その―――ありがとう」ボソリ
穂乃果「……ううん、私はお礼を言われるようなことはしてないよ」
穂乃果「本当に頑張ったのはにこちゃんだもん。私は背中を押しただけだから」
にこ「ッ……あんたは本当にもう……」
にこ「出来過ぎなのよ―――リーダー」
穂乃果「ふふっ、頑張ろうね。にこちゃん」
にこ「当然よ!」
にこ「さぁ、皆いくわよ!」
にこ「今日彼女達を―――ううん、彼女たちをこの二年間で一番の笑顔にするわよ!」
にこ「―――μ's―――」
全員「―――ミュージック―――」
にこ・全員「―――スタート!!」
まどか「すごい、すごいよ、さやかちゃん!!」
さやか「うわ~、穂乃果さん、海未さん~~~!!」
マミ「にこさ~~~~~~~ん!!!」
矢澤にこと巴マミ。
魔法少女とスクールアイドル。
擦れ違いから離れかけた心は、彼女達を支える者達によって、また結びつき、
本来交わる筈のない点が交錯した。
穂乃果(マミちゃん達、すごい喜んでくれてるね!)
海未(ええ……!)
にこ(あったりまえじゃない! この宇宙ナンバーワンアイドルにこにーが部長のμ'sを見にきてくれてるのよ!)
これは始まりの物語。
永遠でも、叛逆でもない。
にこ「マミちゃ~~~~ん、いっくよ~~~~~~!!」
マミ「きゃあああああああ、にこさ~~~~~~ん!」
にこ「にっこにっこにー!」
マミ「にっこにっこにー!」
まどか「あはは……マミさん、完全に入り込んじゃってるね」
さやか「いいのいいの! こういうのは楽しんだもの勝ちなんだから!」
世界の理を変える、
宇宙の理を変える、
少女たちのキセキ―――、
まどか「それにしても意外だなあ」
まどか「―――キュゥべえもスクールアイドルに興味があるなんて!」
―――その始まりの、物語。
キュゥべえ「―――そうだね、まどか」
キュゥべえ「彼女たちは―――非常に興味深いよ」
まどか☆マギカ×ラブライブ!
第一部 完
以上で投下終了です。
更新も遅々となり、話も長々となってしまいましたが何とか完結することができました。
レスをくれた方、他サイトにてタグ付けや評価、コメントをしてくれた方、本当にありがとうございました。
皆様のおかげで何とかモチベーションを保つことができた次第であります。
ノリで第一部完と付けてしまいましたが、続けるかは今のところ未定です。
またモチベーションがあがってきたらゆっくりと書き溜めしていきたいと思います。
数日したらHTML化要望を出していきます。
それでは、最後にもう一度。本当にありがとうございました。
乙!
乙なのです
最高だった!
出来ることなら第二部も読みたいです
このSSまとめへのコメント
いいねぇ、こういうの待ってた
すごくよかったとしか言い表せないわ
本当に最高だった…
メインではないのに、ほのかとにこの関係性が今まで見たどのほのにこSSよりも良かったw
何だこれは
どっちも中途半端だ
いや、素晴らしかった