真姫「おめでとう」 (19)

地の文ありで、星空凛誕生日ss真姫ちゃん目線
祝いたいという気持ちだけ伝わって欲しい。短め

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りんりん、とベルがなる。あと二月待てばタイムリーなその音が聞こえてくるのはすぐ後ろ、細身の二輪車から。

凛「ねーえー、真姫ちゃん真姫ちゃん」

がちゃがちゃした歯車が一杯なその自転車は、彼女曰く早く走るためには必須なアイテムが詰め込んである宝物らしいわね。けれど、今の使い道はその真逆。

凛「―――ペダル重い!凛二等兵はギアチェンを希望する!」

真姫「却下よ」

凛「即答にゃあー!?」

―――平坦な道に重いギア。こうでもしないとこの猫娘は暴走してとっとと先にいってしまうから、これは仕方のない措置なの。諦めて欲しいわ。

そして私と同じく、そういった現状を理解している猫娘の飼い主は、そのさらに後ろからどうどうと宥めてくれる。……この表現でも大して違和感を覚えないのは、きっと二人の関係の成せるワザ、かしら。

花陽「凛ちゃん凛ちゃん、私と真姫ちゃんはあんまり速く走れないから―――ね?我慢して欲しいなあ……」

凛「むー…だって、凛は行き先も何にも知らないでずっと漕いでるんだから、ペースとか考えられないしもうヘトヘトだよー。そもそもハロウィンの次の日の夜に行く場所って何処?オバケの国?」

凛お菓子なんて持ってない――と、そこで途切れた言葉を追ってなんとか振り返れば、器用にハンドルから両手を離し、ふるふると頭を振る凛の姿があった。
こんなことをする余裕がある人間を、私は疲れてると呼びたくはないわ。

確かに、長距離を漕いでいるのも、そろそろ弱音を吐きたいのも――でも、目的地まであと少しなのも事実。かれこれ三十分以上漕いでいれば、もう、車も時折しか見掛けないような、街灯すら殆ど無いような道になってしまって。
下見の時は明るかったから、速く感じた一本道も、今はどうにも長く感じるような。
もともと暗いのは苦手だし、ああ、本当にオバケの国に辿り着いたり――?なんて、じわりじわりと滲むように広がりかけた不安を破って言葉を紡いでくれるのは、花陽だった。

花陽「――そうだね、ハロウィーンの夜だし、かぼちゃのライトとかあったらそれっぽいねぇ。……オバケの国には行きたくないけれど」

凛「提灯なら直ぐに調達できるんじゃない?海未ちゃん持ってきてたしさ」

人知れずほう、と息を吐いた。からからと笑いながら凛が言っているのは、昨日、無計画もいいところで昼休みから放課後続けて行った、μ'sハロウィーンパーティーの話、でしょうね。
パンプキンランプをどう勘違いしたのか、お化け提灯を持ち死に装束で表れた海未により、危うくエリーに間違ったハロウィーンがインプットされる惨事に陥りかけたりとか、和菓子ばっかり持ってきた穂乃果のせいで部室内が緑茶の香りに包まれたりとか、また、そんな和な雰囲気に調子に乗った希が、その流れで日本の怪談話なんて始めたりして――ああ、思い出したくもない!

別の意味でぶるりと肩を震わせれば、丁度段差に乗っかったのか、ガタンとかごの中の箱が跳ねる。仲良くね、とこれを託してくれた穂乃果の顔が脳裏をよぎった。三人で仲良くね―――なんて。折角誘ったのに。なんで、断られちゃったのかなあ。


凛「……………ねえ、真姫ちゃん」

ふと遠く。ぼうっと、街灯でない灯りが見えた。脳内の考え事が、みんなその光りに溶けていく気分。

凛「あのさ、まだ行くの――?」

ここまで、一言も行き先について問わなかった凛からついにその言葉が出た。少し震えた声に、なんで今まで聞かなかったのか少し不思議だけど、まあ好都合。そして、ナイスタイミング。敢えて凛をスルーして。

真姫「はなよー、見えたわ」

花陽「はぁーい♪」

凛「二人とも……?」

真姫「そこでいいわよね?」

花陽「うん。凛ちゃん、そこに自転車止めて」

凛「にゃ……」

道路横の、長らく使われてないだろう寂れきった駐車場に、私は自転車のスタンドを立てた。人気の無いここならば、誰かに咎められることもないでしょう。ここまで自力で自転車を漕いできたなんて―――少し前まで乗ることさえ困難だった私にしては、凄い進歩だとくすり微笑むと。
続けて自転車から降りた花陽が、お疲れ様真姫ちゃん、頑張ったね、と声をかけてきて――心を読まれたのかとドキッとしたけれどそんなことはないのね。
最後に凛が自転車から降りたらしい――砂利をざくざく踏みながら、こちらに近づいてくる。

凛「ほ、本当にここどこ?ねえ、真姫ちゃんかよちん――」

キョロキョロと、辺りを見渡しながら。心細そうな声に、何かしてあげられるわけでもないから―――取り合えず大丈夫よ、と私は微笑んでみせる。

それでもなお、でも、と頼りない声で狼狽える凛に、あまり不安がられても困ってしまうしどうしたものかと毛先をいじくっていれば。
花陽がこちらを見てちっちゃくウインクした後、唐突に凛の右手を握りしめた。びくり、と凛が跳び跳ねる。

……そういうことかしら。私も、凛の左手にそっと手を伸ばす。

凛「………あったかいにゃ」

花陽「でしょー?」

真姫「………」

段々胸の奥がじりじりと熱く、恥ずかしくなって、そうっと離そうとすれば向こうからぎゅっと握りしめられた。逃げられない。

にやにやと笑みを浮かべる二つの気配に、はあ、と一つため息をついて、赤くなった頬を隠すように、二人の一歩先を歩いた。

ああ、夜風はあんまり冷えてない。

建物の看板を見れば直ぐに分かったらしい。ぽつりと呟く凛の声。

凛「ぷらねた……りうむ」

真姫「……すみませーん」

そう呼べば、はいはいと奥から出てきた管理人のお祖父さん。予め通してあった話通り、貸しきりの部屋に連れていってもらう。凛も、ようやっとここで事態を理解したみたい。

凛「あ……前、星空が見たいって、凛……」

花陽「うん。みんな、真姫ちゃんが頑張ってくれたんだよ?」

真姫「冗談。花陽が居なければ、秋葉原の近くにこんな所があったなんて、一生分からなかったわよ――」

私が天体観測が趣味だと話した時、凛は散々自分の名字なのに、それと縁がないのだと愚痴っていたから。見せてあげようと思った。

とはいえ、都内で星空が見られる所なんてそうそうないから――だから、花陽と二人で探したのだ。誕生日だし、せっかくなら静かに――貸切状態で星空が見られる場所。秋葉原には、そもそもこういう場所は全然無いのだから、望み薄だったけど。

でもまさか、こんな夜遅くに、どこの女子高生とも分からない子供のワガママが、チケット代を払うだけでまかり通るような――そんなスポットが存在するなんて、一体誰が信じるだろうか?
昔ここに来たことがあるという、花陽が居なければ――本当にこの計画は叶わなかった。

薄暗い灯りに包まれた場内の、特等席に凛をエスコート。さっき手を繋いだ順に、普通よりも傾き気味なふかふかの椅子に腰かけ、先ずは告げてなかった一言を。

真姫「凛」

花陽「凛ちゃん」

「「お誕生日、おめでとう!」」

凛「……あ、ありがとにゃ」

照れくさそうに頭をかく凛に、花陽はせめてものと、背中に背負った大きなリュックサックから夜食のお握りを差し出した。
私もおこぼれを貰ってぱくつきながら、今日は土曜日だから、連休明けにでも改めてパーティーをしようとμ'sの皆と話していること、そこでちゃんと物のプレゼントを渡すことを伝えると、凛はさらに嬉しそうに口もとを緩めた。

真姫「あ、でも――フライングで、これは渡してくれって。穂乃果から。学校に持っていくには大きすぎるからって」

花陽「私それ気になってたんだ!開けてみて凛ちゃん!」

凛「わ、何かにゃ何かにゃ?」

前かごに乗っけていた大きな箱を差し出すと、首をかしげながらも楽しそうにリボンを解いていく。興味津々の花陽が見守るなか、出てきたのは――

花陽「ラーメン、の、ぬいぐるみ?」

凛「………………もふもふだから許す」

真姫「あの子はなに考えてんのよ……」

微妙そうな顔で唸りながら、凛がぬいぐるみに勢いよく顔面を押し付けたのとほぼ同時。天井の古ぼけたスピーカーから、ブーーー、と今にも壊れそうなブザーが鳴り響いた。ゆらゆらと暗くなる場内。

真姫「………でも、穂乃果やエリーも来てくれれば………」

口に出してからしまったと思ったけれど、もう遅い。花陽が、ぽつりと相槌をくれる。

花陽「………確か、断られちゃったんだよね?」

真姫「……ええ。何でかしらね」

凛「そーなの?……むー、折角だから皆で見たかったなあ……。あ、真姫ちゃん解説宜しくね!」

しかし、当の凛は大して気にしてないようだ。心が広いのか、雑把なのか、どっちかしら。

真姫「……いやいや、こういうところのって、大抵ナレーションが有るものよ?」

凛「ええ、被せる感じでいいからさ!お願い真姫ちゃん!」

花陽「わあ、ど、どっちのナレーション聞けばいいのかなあ?……やっぱり真姫ちゃん?」

真姫「う、私に聞かれても………!」

貸しきりだからこそか、いつも通りか―――辺りを気にせずやいのやいのと騒いでいると、すっかり暗くなった場内にやはりスピーカーからの、星座の素晴らしさを伝えるナレーションが流れだす―――








『『『『『『凛ちゃん、ハッピーバースデー!!!』』』』』』





「「「―――へ?」」」

こんなの―――聞いてない。

思わず揃ってぽかーんとしていると、入れ替わり立ち替わりに、色々な聞き慣れた声が聞こえてきた。

『にっこにっこにー!凛ちゃ―――ちょ、駄目ですよにこ―――ヤッホー凛ちゃん、おめでとさ―――ハラショー!凛本当に――ーメンぬいぐるみはどうだったかな凛ちゃ―――キィーン!!!!』

凛「え、ほ、穂乃果ちゃん!?みんなっ!?なんで天井から声が――」

『ガガ――ええっとですね!今日はμ'sの二年生と三年生が、お誕生日の星空凛ちゃんのために、『星空』の紹介をしていっちゃいまーす!――真姫ちゃんと花陽ちゃんも、楽しんでいってなー?』

音量上限を突破するくらい、こちらの数倍騒ぐ向こう側で何が起きているのかありありと想像がついて――――呆気に取られる前に、納得した。これが、彼女たちなりのサプライズ――――なのでしょうね。


真姫「……ああ、だから一緒に来れないって……ことなのね。こんな風に、することがあったから……」

花陽「……μ'sの皆、らしいね……」

真姫「らしいというか、無茶苦茶よ……ここまで、よくやらせてくれたわね、ここのお祖父さん……」

凛「み、みんな、ありがとにゃー!!!嬉しいにゃー!!」

聞こえているのか、いないのか。立ち上がって天井に向かって叫ぶ凛に、にこちゃんが立ってる人は危ないから座るにこー?なんて返してきた。慌てたように凛が座席に座ると、いよいよ中心の機械に光源が灯り―――満天の星空が、辺りを照らす。

まあ、突っ込みどころ満載のナレーションによって、ロマンチックな雰囲気なんて微塵も感じられないけれど――それでも、食い入るように空に見とれる凛を眺めていれば、私と花陽の、ささやかな誕生日プレゼントはこれでよかったのかな、なんて思った。これは凛の誕生日な訳だもの。でも、次見るならば―――

凛「みんな、本当に嬉しいにゃ。ありがと―――」

『テステス―――凛!大変なの!よく考えたら――こっちには星空ガイドできる人間がいないわ!一年生三人で見てもらおうと思ってたところ悪いけど……真姫を寄越して!変わりに穂乃果を向かわせるから!―――ちょ、絵里ちゃあん!?穂乃果が何をしたっていうのさー!』

凛「……………」

花陽「凛ちゃん落ち着いて!イラっとしないでー!」

本物の空を、皆で並んで見たいわね――――


――もちろん、静かに、ね!

間に合わなかった、ごめん凛ちゃん。今年一年も幸せに過ごしてくれ……

おつ

おつおつ


まだ他にも書くなら、一行が長くて読みにくいところがあるから900dotくらい(75文字くらい)を目安に改行すると読みやすいと思うよ

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