弟「朝起きたら、俺は何故か軍艦島の中にいた」(66)

~軍艦島・神社~

「ねぇ、起きて……」

「ねぇ、起きてよ、弟君……」

「弟君……」

弟「……?」

姉「……」

弟「……」

父「ふぅ、ようやく起きたみたいだな、相変わらず暢気な奴だ」

弟「……」

父「とりあえず、ここを移動するぞ」

父「ここにいたら、かなり危ないからな」

姉「うん」

弟「……はい?」

弟「姉さん、少し質問して良いか?……」

弟「ここは、一体どこなんだ?……」

弟「ここ、本当に日本なのか?……」

姉「うん。そうみたい……」

父「ちなみに、ここは俺の予想だと軍艦島だ」

父「以前、俺はここに観光で来た事がある」

父「とりあえず、ここを移動するぞ」

父「また、変なのがうろうろしてたらたまらない」

父「あいつら、半魚人みたいな姿をしていたからな」

姉「うん。そうだね」

弟「……」

弟(夢なら、覚めてほしい……)

数分後――

姉「どう? いる?」

姉「さっき見た、変な生き物いる?」

父「いや、いない」

姉「だったら、ここをすぐに移動しようよ」

姉「私達、上下ともにジャージとスニーカーのみなんだし」

姉「早くここを出ようよ」

弟「……」

父「ああ、分かってる」

父「お前達、決して俺の側から離れるなよ」

父「今の俺達は、完全に丸腰」

父「更には、親子三人揃って今現在無職なんだからな」

姉・弟「……」

ストストストッ……

ストストストッ………

姉「弟君、後ろ気を付けてね……」

姉「なるべく、後ろは警戒していてね……」

弟「ああ」

姉「それと、生きて無事に弟君がここから帰れたら、この間の件は許してあげる……」

姉「私が、仕事を辞める羽目になったのは弟君が原因なんだし……」

姉「いい加減、“三食mreレーションのみだけ”は許してあげるね……」

弟「……」

父「……」

ストストストッ……

ストストストッ……

~軍艦島・神社前~

しばらくして――

姉「何か、別れ道に出ちゃったね」

姉「それで、どっちに行くの?」

姉「どっちが、早く出やすいの?」

父「分からん」

姉「え?」

弟「親父、ここに来た事があったんじゃないのか?」

父「ああ、そうだ」

父「だが、この辺一帯は観光コースから大きく外れてるんだ」

父「それに、観光船が停まる桟橋は島の東側」

父「ここからだと、少し遠回りになるな」

姉「そんな……」

弟「それで、どっちに行くんだ?」

弟「一体、どっちが桟橋に近くなるんだ?」

姉「……」

父「右だ」

父「右なら、確か学校側に着くはずだ」

弟「どうして?」

父「ただの、男の勘だ」

父「お前にはまだ分からないかもしれないが、俺は60年も生きてきた」

父「だから、俺の勘を少しは信用しろ」

父「そしたら、必ずここから出る事が出来るのだからな」

弟「……ああ、了解した」

姉「とても、不安だわ……」

父「……」

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

ピタッ……

弟「ちょっと、待て」

父「うん。どうした?」

姉「何かあったの?」

弟「親父、ちょっとトイレに行って良いか?」

弟「さっきから、やたらとトイレに行きたいんだが」

姉「……え? こんな時に?」

父「……」

弟「出来れば、テイッシュもくれたら物凄く有り難い」

弟「今の俺、ここ最近便秘だったし……」

弟「どうやら、久し振りに大きいのが出そうだから……」

姉「……お父さん。どうする?」

姉「弟君、置いてく?……」

父「好きにしろ」

弟「!?」

姉「とりあえず、私達先に行ってるから気を付けてね♪」

姉「だから、さよなら。弟君♪」

姉「短い間だったけど、ほんの少しくらいは楽しかったよ♪」

姉「それじゃあ♪」

スタスタスタッ……

弟「ちょ、ちょっと待って~~っ!」

弟「ちょっと、待って~~っ!」

スタスタスタッ……

~軍艦島・59号棟+16号棟の間~

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

ピタッ……

父「うむ。俺の勘が当たったな」

父「これで、早く出れそうだな」

姉「……」

父「ん? どうした? 嬉しくないのか?」

姉「……」

弟「親父、ここからすぐ移動した方が良い……」

弟「どうやら、奴等に気づかれた……」

弟「あれが、姉さん達の言っていた変な生き物なんだな……」

弟「さすがに、かなり不気味だろ。あれ……」

謎の生物「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

父「あ、あいつは……!?」

父「あいつは、あの時の……!?」

姉「あ……ああ……」

弟「姉さん、今すぐ逃げるぞ……」

弟「あいつら、かなりの数に上ってるぞ……」

姉「……」

弟「姉さん……?」

姉「……」

父「気絶しているな」

父「立ったまま気絶するとは、かなり器用な奴だ」

弟「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「親父、姉さんを頼む……」

弟「姉さんを背負って、ここから逃げるぞ……」

姉「……」

父「すまん、俺はここ最近腰痛に悩まされている」

父「さすがに、この歳ではもう無理だ」

姉「……」

弟「なら、俺が姉さんを背負うからすぐに手伝ってくれ」

弟「今の姉さん、完全に気絶してるし」

弟「このまま行くと、あの変なのに捕まってしまうぞ」

父「ああ、そうだな」

姉「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「よし、背負えた」

弟「それで、どっちに行くんだ」

姉「……」

父「右だ」

父「右に向かって、全力で走るんだ」

父「幸い、奴等は歩くのが遅い」

父「今なら、まだ撒けるかもしれん」

弟「了解した」

姉「……」

謎の生物「……」

>>4のストストストッっていう効果音は何だったんだろう……

>>13
そこは、神社にある石段を降りている時の音です。

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

父「なっ!?」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「か、囲まれた……!?」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

父「くっ、反対側からも来たか……」

父「ここは、中央突破しかないな……」

父「行くぞ!」

弟「おう!」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ムクッ……

カクン……

ムクッ……

カクン……

父「……何してる?」

弟「ごめん。親父……」

弟「ここ最近、俺はまともに運動すらしていなかった……」

弟「その所為か、姉さんの事をまともに背負う事すら出来てない………」

父「なん……だと!?……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

父「お前、ふざけてんのか!?」

父「お前、それでも23か!?」

弟「うん。そうだよ……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

父「はぁ……仕方ない。こうなったら、俺が背負う」

父「所詮、お前はただの駄目息子……」

父「こんな時にも関わらず、全く役に立たなかったとわな……」

弟「ああ。悪かったな……」

姉「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

十数秒後――

ゆらっ、ゆらっ……

カクン……

父「うっ……」

ゆらっ、ゆらっ……

カクン……

ゴキッ!

父「ううっ……!?」

ドサッ……

バタッ……

弟「お、親父……?」

弟「親父――――――――っ!?」

姉「……」

弟「親父、大丈夫か!?」

弟「まさか、本当に腰痛だったのか!?」

父「ううっ、ううっ……」

ピクピクピクッ……

弟「くそっ、気がついたら完全に奴等に追い付かれてた!」

弟「間近で見たら、本当に不気味で気色悪い!」

弟「お前ら、一体何なんだ!?」

弟「一体、何が目的なんだ!?」

謎の生物「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ぴたっ……

『それは、こっちの台詞だ』

『何故、我々の支配する領域に侵入をして来た』

父・弟「!?」

『ここは、我々の生活の拠点とするエリア』

『この島の観光エリア以外には、一切の立ち入りを禁止しているはずだ』

父・弟「……」

『どうした? 何も答えられないのか?』

『お前達には、口と言う物はないのか?』

父・弟「……」

『まぁ、良いだろう』

『どうせ、お前達はここで死ぬのだ』

『親子三人仲良くあの世にまで送ってくれる』

父・弟「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ぴたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ぴたっ……

弟「あ、ああ……」

弟「ああ……そ、そんな……」

父「……」

『総員、戦闘用意!』

『侵入者を一人残さず始末せよ!』

『掛かれ!』

シュタ、シュタ、シュタッ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

父「っ――――!?」

ガクン……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「き、来た……」

弟「来た……!?」

ぴたっ……

『どうやら、完全に囲まれてしまった様だな』

『所詮、人間など武器なしではとても無力な生き物』

『我々の敵ではないわ!』

『待て、そやつらに手を出すな!』

『そやつらは、妾が呼び出した客人じゃ!』

弟「!?」

『相変わらず、半魚人はせっかちじゃな』

『ほれ、よく見てみろ。そやつらは何の武器も持っとらん』

『まぁ、色々と誤解をさせた妾にも非があるのじゃが……』

『妾の顔に免じて、今日の所はお引き取り願おうか』

弟「……」

『ふん。仕方なかろう……』

『今回だけは、貴様の言う通りにしてくれる』

『その代わり、次はないと思え!』

『次、我々に無断でここに侵入をさせてきたのなら……』

『貴様の首も一緒に、一人残らず討ち取ってくれるわ!』

『総員、退却せよ!』

『そこの三人は、あの化け猫の客人だ!』

『皆、決して手を出すな!』

謎の生活達「……」

クルッ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「!?」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「……」

シュタッ……

巨大猫「……」

『お主達、命拾いしたな……』

『あ奴等に食われずに、本当に良かったな……』

弟「……」

『どうした? 何か文句でもあるのか?』

『今お主らの事を助けたのに、礼の一つすらないのか?』

弟「……」

「まぁ、今のお主達が何を言いたいのかは分かるつもりじゃ」

「妾は、この島に住む猫又の一種」

「元々は、別の土地から連れてこられた挙げ句に捨てられた猫達」

「その猫達の恨みが積もりに積もって、今の妾が生まれたのじゃ」

弟「……」

ストン……

『とりあえず、ここじゃなんじゃし、妾の住み処にでも向かおうか』

『ここにいては、あ奴等はいくらでも隙あればお主達の事を襲う』

『元々、あ奴等は人間が嫌いじゃ』

『あ奴等は、元の世界でも幾度もなく迫害を受けてきたからじゃ』

弟「……」

『それと、そこの女……』

『お主は、昔世話になった女とよう似ておるな……』

『あ奴もまた、お主の様な愚かな弟を持っておったな……』

『と言っても、もう四十年以上も前の事なのじゃがな……』

弟「……」

バタッ……

ドサッ……

巨大猫「……?」

三十分後――

「では、弟君の事をよろしくお願いします」

「ここなら、弟君も過ごし易いと思いますし」

「たとへ、弟君が死んだとしても別に悔いはありませんからね」

弟「……」

「ああ。そうだな」

「ここなら、別に悔いはないだろうな」

「それで、ここからの脱出ルートは?」

「やはり、神社からの方がベストか?」

『ああ、そうじゃ』

『そこなら、奴等は何も言ってこん』

『元々、お主達の侵入ルートはそこ』

『そこは、妾の住み処の一つじゃからな』

「なら、そこまで俺達の事を案内してくれ」

「今回の事、色々と気になる事が多過ぎる」

「あの謎の生物、どこかに見覚えがある」

弟「……」

「それと、お前はあの時の猫なのか?」

「過去に従姉妹が可愛がっていた、あの時の猫なのか?」

『うむ。そうじゃ』

「……そうか」

「それで、俺達の事をここに呼んだのか……」

「やはり、猫は末代まで祟ると言う事か……」

「……お父さん……」

弟「……」

『さて、無駄話もそれくらいにして、そろそろ妾達も行くぞ』

『そうせねば、こやつが起きてしまう』

『そうなれば、そなた達にとっても色々と都合が悪かろう』

『ただでさえ、何も出来ない穀潰しの癖に』

『ここに置いて行けば、そう簡単には脱出は出来ないのじゃからな』

弟「……」

「ああ。そうだな」

「その方が、こいつにとっても良いからな」

「さて、俺達は俺達でもう帰るぞ」

「ただでさえ、色々と腰が痛いのに……」

「こいつの所為で、俺の腰がかなりヤバくなってしまったからな」

「うん。そうだね」

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

ぴたっ……

クルッ……

「さよなら。弟君♪」

「これから、色々と苦労すると思うけど頑張ってね♪」

「さよなら♪」

「達者でな」

弟「……」

~軍艦島・地獄段~

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

ぴたっ……

姉「結構、この辺の道は狭いんだね」

姉「よく、こんな所に人が通ってたよね」

父「ああ。そうだな」

姉「それで、巨大三毛猫さん……」

姉「ここには、一人で住んでるの?」

姉「もう既に、仲間は誰もいなくなっちゃったの?」

『ああ。そうじゃ』

姉「……そうなんだ」

姉「一人で、寂しくないの?」

姉「ずっと、貴女もここに生活しておくの?」

『うむ。そのつもりじゃよ』

姉「……」

『まぁ、お主の事じゃから、妾の事を猫島かどこかに移住させようと考えておるのじゃな?』

『幸い、ここには理解者がおる』

『島の外にも、妾の元に新鮮な魚を届けてくれる漁師や釣り人がおる』

姉「え?」

『何じゃ、お主は何も知らぬのじゃな』

『ここにいた猫達は、もう妾の様な猫又になって全て全滅した』

『皆、あの時は自分達の事を捨てた人間達の事を恨んでいてのぅ』

『それを不憫に思った漁師や釣り人が、捨てられた猫達によく餌をやっておった』

姉「……」

『じゃから、お主は何も心配はいらんぞ』

『元々、妾もあ奴等も表には出れん』

『もし仮に、妾達が世に出た場合には……』

『一生、妾達は人間達の良い実験材料になるのじゃからな』

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

スタスタスタッ……

~軍艦島・59号+16号棟の間~

その頃――

弟「……」

弟「……」

弟「……」

弟「……」

ムクッ……

弟「……」

弟「……」

弟「……」

弟「……」

キョロ、キョロッ……

弟「あれ? 姉さん達は?……」

弟「姉さん達、どこに行ったんだ?」

弟「姉さん、親父!」

弟「一体、どこに行った?」

弟「まさか、あいつらに食われたのか?」

弟「もしかして、俺だけ放置されてしまったのか?」

謎の生物「……?」

弟「とりあえず、姉さん達を探さないと……」

弟「ここじゃあ、俺は生きていけない……」

弟「ただでさえ、夢なら覚めて欲しいのに……」

弟「姉さん達、一体どこに行ってしまったんだよ……」

謎の生物「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「でも、一体どこを探せば……」

弟「姉さん達、俺を置いて桟橋に向かったのか?……」

謎の生物「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「ああ、そこのあんた……」

弟「俺と一緒にいた、男と女の人を見なかったか?……」

謎の生物「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

弟「ああ、分からないか……」

弟「さすがに、人の言葉が全く分からないのか……」

謎の生物「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ぴたっ、ぴたっ、ぴたっ………

謎の生物1「……」

謎の生物2「……」

謎の生物3「……」

『どうやら、お前はここに取り残された様だな……』

『あの化け猫達に、完全に見捨てられたみたいだな……』

弟「……」

『それで、お前はどうする?』

『お前は、一体どうする?』

弟「分からない……」

弟「今の俺、本当にどうして良いのかが全く分からない……」

謎の生物「……」

『……そうか』

『お前は、あの化け猫に会いたいのか?』

『あの化け猫に会って、ここから出たいのだな?』

弟「……」

『なら、再びお前がいたここの神社に迎え』

『つい先程、そこにあの化け猫達が向かった』

『どうやら、あの二人をここから出すらしい』

『お前を置いて、ここから出るつもりらしい』

弟『!?』

『まぁ、今更行ったとしてももう手遅れだろうな』

『今のお前は、ここに放置された』

『もう二度と、生まれ故郷には戻れなくなってしまった』

弟「……」

『所詮、人間なんてこんなもの』

『俺達もまた、人間には幾度もなく裏切られてきたからな』

『今のお前の気持ちは、痛い程良く分かる』

『本当に、今のお前はかなり暗い顔をしている』

弟「……」

『さて、無駄話もこれくらいにして、そろそろ始めようか?』

『どうやら、あの化け猫も今のお前の事を放棄したみたいだし』

『そろそろ、今のお前を死なせてやるとするか』

弟「……」

~軍艦島・神社~

シュ――――ッ……

シュン……

ギギギギッ……

ギギギギッ……

バン……

シュ――――ッ……

父「……」

姉「……」

巨大猫「……」

父「……」

姉「……」

巨大猫「……」

『さて、門が開いたぞ』

『これで、お主達は自宅に帰る事が出来るぞ』

姉「……」

『うむ、どうした?』

『今更、あ奴の事が恋しくなったか?』

姉「……いいえ」

『なら、早くここを抜けられよ』

『どうやら、あ奴はもう起きたみたいじゃからな』

『早くせねば、あ奴に追い付かれてしまうぞ』

姉「……」

父「娘よ。行くぞ」

父「いつまでも、あいつ何かに未練を垂らすな」

姉「うん。そうだね」

姉「それじゃあ、巨大猫さん。さようなら」

姉「短い間でしたが、色々とお世話になりました」

姉「今度、ここに観光に来た時には、沢山の新鮮なお魚を持ってきます♪」

姉「貴女もまたお元気で♪」

姉「それじゃあ♪」

『達者でな』

父「……世話になった」

ペコッ……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

ギギギギッ……

ギギギギッ……

バタン……

シュ――――ッ……

シュン……

巨大猫「……」

巨大猫「……」

巨大猫「……」

巨大猫「……」

『(これで、良かったのじゃ……)』

『(あ奴には悪いが、ここで死んでもらう……)』

『(もし仮に、恨むのなら自身の実の父を恨め……)』

『(全ては、あ奴の父の犯した過ち……)』

『(その所為で、あ奴は生け贄にされたのじゃからな……)』

~無職親子の自宅・リビング~

カチャ……

ギィーーーーッ……

バタン……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

ストン……

ドサッ……

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

スッ……

ピッ……

tv『新年、明けましておめでとうございます』

tv『2013年も、よろしくお願い致します』

ワーーーーッ……

ワーーーーッ……

姉「本当に、帰って来れたんだね」

姉「あれ、一体どうやったのかな?」

姉「もしかして、本当に魔法か何かだったのかな?」

父「さあな」

姉「お父さん。何か飲む?」

姉「私、今からコーヒー入れるけど」

父「ああ。貰う」

姉「それに、弟君は今日からいなくなっちゃったんだね」

姉「私達、何も間違ってないよね?」

父「ああ。そうだな」

スッ……

パカッ……

シュッ、シュッ……

ジョーーーーッ……

ジョーーーーッ……

ポチョン、ポチョン……

カチャ、カチャ、カチャ……

カチャ、カチャ、カチャ……

ストッ……

姉「はい。お父さん、コーヒー」

姉「いつもの感じで良かったよね?」

姉「砂糖、多めにしといたよ」

父「すまん」

スッ、スッ……

ズズズッ、ズズズッ……

ストン、ストン……

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

tv『えーっ、最初のお年玉チャレンジはダーツです』

tv『このチャレンジで獲得できる賞金は、一等が1万、二等が五千』

tv『三等が三千、四等が千円』

tv『五等が、タワシとなっております』

ピッ……

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

姉「……」

父「……」

姉「ねぇ、お父さん」

姉「あの猫さんと、昔知り合いだったの?」

姉「その所為で、私達はあそこにいたの?」

父「ああ。まあな」

姉「……そっか」

姉「それで、私達はあそこにいたんだ」

姉「あの時は、すぐにあそこから出たい一心だから、まともに頭が回らなかったな」

父「……」

姉「まぁ、もう全て終わった事なんだし」

姉「弟君は、ここにはもいない」

姉「今日からは、私達二人だけの生活」

姉「今年は、かなり良い年になりそうだね」

父「ああ。そうだな」

父「それで、娘よ」

父「お前は、もう良いのだな?」

父「あんな奴、もう死んでも構わないのだな?」

姉「うん」

父「なら、あいつの事はもう話に出すな」

父「ただでさえ、色々とあったのに……」

父「気がついた時には、俺の腰の痛みすら何故かすぐに吹き飛んでたな……」

姉「……あっ……」

父「とりあえず、コーヒー以外にもお茶か何かを」

父「それと、正月なんだしお節料理とかも頼む」

父「今年も、また寒くなりそうだし」

父「ついでに、熱かんもつけてくれ」

姉「うん。分かった」

スッ……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

ガチャ……

バタン……

スタスタスタッ……

スタスタスタッ……

ガチャ……

バタン……

父「さらば、馬鹿息子……」

父「今年は、本当に良い年になりそうだ……」

父「あはははははっ!」

父「あはははははっ!」

~軍艦島・16号+59号棟の間~

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

タッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

ピタッ……

謎の生物1「……」

謎の生物2「……」

謎の生物3「……」

『どうやら、こ奴は死んだようじゃな』

『かなり、エグイ死に方じゃな』

『ああ。まあな』

弟「……」

『それで、何の用だ?』

『今更、文句でも言いに来たのか?』

『いや、違う』

『そうか……』

『やはり、こいつは家族や貴様に見捨てられていたか』

『こいつの死体、我々が引き取らせてもらう』

『今後は、我々の仲間として活用をさせてもらうつもりだ』

『うむ。構わんぞ』

弟「……」

『言ったな?』

『我々は、我々のルールに則っただけだ』

『所詮、貴様も我々と同じ』

『結局は、同じ穴の狢と言う訳か』

『ふふっ、そうじゃな……』

『妾もまた、お主達と同じじゃったな……』

『こやつの死体、いつ変異する?』

『大体、死後何日で今のお主達の様な姿になるのじゃ?』

弟「……」

『死後三日だ』

『三日経てば、こいつは俺達と同じになる』

『俺達もまた、こいつみたいに捨てられたからな』

『唐突に、政府の命令で人体実験をされた挙げ句に、ここにまで流れて来たのだからな』

弟「……」

巨大猫「……」

謎の生物達「……」

『とりあえず、こいつはもう我々のものだ』

『今の貴様は、何も文句は言うな』

『ああ。分かっておる』

『それと、また新鮮な魚が届き次第、我々にも回せ』

『ここ最近、貴様の回りには多くの新鮮な魚が届く』

『実際、我々は我々で海に出にくい』

『何やら、複数回武装した連中がここに上陸をしているみたいだからな』

『ああ。そうじゃな』

謎の生物1「……」

謎の生物2「……」

謎の生物3「……」

巨大猫「……」

弟「……」

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

タッ……

トコトコトコッ……

トコトコトコッ……

タッ……

弟「……」

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひょい……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひたっ、ひたっ、ひたっ……

ひょい……

幽霊弟「所詮、俺の迎えた運命はこんなものか……」

幽霊弟「結局、俺なんて生きてちゃいけなかったのか……」

死神「……」

幽霊弟「一体、俺が何をしたんだ?」

幽霊弟「俺は、何でこんな所で死ななきゃいけなかったんだ?」

お迎え人「……」

幽霊弟「……まぁ、今更もうどう足掻いたって無駄みたいだな」

幽霊弟「これから、俺の向かう場所はあの世」

幽霊弟「どうやら、もう既にお迎えすら来てしまってるし……」

幽霊弟「今後は、向こうの世界でじっくりと考えようとするとするか……」

死神「……」

お迎え人「……」

幽霊弟「それで、俺はどっちに連れてかれるんだ?」

幽霊弟「黒い衣装を着た、あんたに連れてかれるのか?」

死神「ああ。そうだ」

幽霊弟「そっか……」

幽霊弟「出来れば、そちらの白い衣装を着た女の人が良かったな……」

幽霊弟「俺は、これから地獄にまで向かうのか?……」

死神「ああ。そうだ」

幽霊弟「……」

お迎え人「残念ですが、貴方は私と一緒には行けません」

お迎え人「私は、貴方が変異しなければ連れていきました」

お迎え人「それについては、これも神によるご意志」

お迎え人「それは、貴方自身がよく理解しているはずです」

幽霊弟「え?」

死神「さぁ、無駄話もそれくらいにして、さっさと行くぞ!」

死神「これから、今のお前は地獄に向かう!」

死神「所詮、お前はただの穀潰し!」

死神「地獄で、じっくり色々な奴等から可愛がって貰うのがお似合いなんだよ!」

幽霊弟「……」

お迎え人「あ、それと、もし仮に恨むのなら私達でなくご自身を恨んで下さいね」

お迎え人「今までの貴方は、ろくな人生をの歩んでこなかった」

お迎え人「ただてさえ、色々と家族にご迷惑を掛けていたのに……」

お迎え人「それにも関わらず、貴方はずっと今の自分自身を改善しようとはしませんでしたからね!」

死神「ああ。そうだな」

ガシッ……

幽霊弟「……」

死神「それじゃあ、俺はお先に失礼する」

死神「あんたは、これからどうするつもりなんだ?」

死神「まだ、ここにいとくつもりか?」

お迎え人「はい。そのつもりですよ」

お迎え人「まだ、私は帰るつもりはありませんよ」

死神「なら、例の化け猫の元にも挨拶だけはしておけ」

死神「あの化け猫、かなりヤバイからな」

死神「本気で、自身を捨てた人間達に対して、末代まで祟るつもりらしい……」

死神「元々、こいつが死んだのもその化け猫が原因……」

死神「以前は、ただの猫だったらしいが……」

死神「こいつの親父の所為で、今みたいな感じにまでなってしまったみたいだからな」

弟「!?」

お迎え人「あぁ、ご忠告感謝致します……」

お迎え人「やっぱり、私も今から帰る事にします……」

お迎え人「なんか、色々と急用を思い出しましてね……」

お迎え人「それじゃあ、お二人ともお元気で……」

スッ……

シュン……

死神「あいつ、逃げたな……」

死神「さては、あいつの朝食は魚料理か……」

死神「さて、俺達も行くぞ!」

死神「地獄では、色々と覚える事が多い!」

死神「覚悟だけはしとくんだな!」

幽霊弟「……」

幽霊弟(結局、俺は不要な存在なのか……)

幽霊弟(俺は、家族からは完全に見放されたんだな……)

幽霊弟(まぁ良い……)

幽霊弟(もう良い……)

幽霊弟(いつか、必ず姉さん達に復讐だけはしてやる……)

幽霊弟(いつか、必ず姉さん達に報いを受けさせてやる……)

幽霊弟(そう、それもあの化け猫の様に……)

幽霊弟(いつか必ず、姉さん達に対して復讐だけはしてやるんだからな!……)

スッ……

シュン!

弟「朝起きたら、俺は何故か軍艦島の中にいた」/完

これで、このssは終わりです。

このssを読んでくださった方、本当にありがとうございました。

……?
訳がわからないよ

>>65
分かりにくくてすみません。

昔、猫嫌いな父親が従姉妹の飼っていた猫を無断で捨てました。

その猫は、他の捨て猫達と一緒に船で海を渡り、軍艦島にそのまま捨てられました。

その時の軍艦島は、もう既に閉山中。

軍艦島ではろくに食料を得る事は出来ず、次々と島に連れてこられた捨て猫達は、短期間の間に餓死していきます。

やがて、軍艦島にいた猫達は自分達を捨てた人間の事を強く恨み、長い年月を経て一匹の化け猫になりました。

化け猫となった後は、自分達を捨てた人間達に対して復讐を開始。

自分達を捨てた+それに荷担した者達を次々と不幸のどん底に突き落としていき、無職姉弟の父親もその復讐対象に入っています。

その後、40年以上経った時に父親はその時捨てた猫に復讐をされ、自身の穀潰しの息子を保身の為に生け贄として化け猫に差し出します。

その結果、弟は姉と父によって厄介払いをされ、保身に走った父と姉は元の生活に戻れました。

そう言うお話です。

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