ロールシャッハ「シンデレラガール?」 (68)
DCコミック「WATCHMEN」のロールシャッハとアイドルマスターシンデレラガールスのクロスのような何かです
注意:
ペースは非常にゆっくりです
元ネタの都合上多少エログロが発生する可能性があります
キャラ崩壊、設定の齟齬、口調の違和等が発生する場合があります
WATCHMEN側の登場人物はロールシャッハのみとなります
何か違和感を感じたり誤字を発見した場合は教えていただけるとありがたいです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1414336002
『日誌 2×××年 ○月△日 ロールシャッハ記
何故、俺はこんな場所にいるのだろうか。
俺の記憶はあの時から途切れ、この路地裏でまた始まった。
持ち物はあの時と同じ、顔も無事だ。俺が記憶する限りでは南極で粉々になったはずなのに。
近くの男に尋ねたところ、ここは俺の生きた時代より50年ほど先の日本。
なぜ俺はそんな場所にいるのか、なぜ言葉が通じるのか、なぜ俺は生きているのか、ヴェイトの野望は? 情報が足りない、情報を集めなくては…』
ゴミを漁り見つけたノートにとりあえず日記を記す。
上空には月が浮かび、油と生ゴミの臭いが広がっている。
どこも路地裏は変わらない。街の排泄物が凝り、俺に情報を与えてくれる。もっとも、あの街とは違い、この街には暴漢の類がほとんどいないのだが。
治安は安定しているという事だろう。それは時代によるものかそれともこの国が極端なのか…
…考えている暇はない、まずは塒を探さねば。このままでは、顔を置いておく場所さえ見つからない。
ちひろ「今夜の宿をお探しですか、ウォルター・コバックス?」
ロールシャッハ「…!? 誰だ」
路地の入口から一人の女が現れる。蛍光グリーンが月の光を受けていた。
この女は一体誰だ。なぜコバックスを知っている。
ちひろ「突然すいません、コバックスさん。用事というほどのものではないですが、アナタが困っているのではないかと思いましてね、保護の申し出でも、と思いまして」
女は気味の悪い笑みを浮かべ、ペラペラと話し続ける。
ロールシャッハ「俺はロールシャッハだ」
ちひろ「ああ、そうでしたね。失礼、Mr.ロールシャッハ。…話を戻しましょう、アナタを保護しよう、という提案なんですが…用心深いアナタの事です、ほかに質問したいことがあるでしょう?」
女が質問を促すように手を広げてみせた。
ロールシャッハ「…現在状況を教えろ」
ちひろ「えーっと、ここがアナタの生きた時代より未来の日本であることは分かってますね?」
ロールシャッハ「ああ」
ちひろ「で、先に言ってしまいますと此処はアナタの生きた世界ではありません」
…何だと?
ロールシャッハ「…? どういうことだ?」
ちひろ「簡単に言ってしまえば別世界です。Dr.マンハッタンを見たアナタなら信じてもらえるとは思いますが…。というより信じてもらわないと話が進まないんですよね」
…女の目は嘘を言ってはいない。だが、ここが異世界?
少なくとも俺の知ったメルヘンやファンタジーではないことは確かだ。
しかし、マンハッタンの名前を持ち出されると、素直に否定することは難しい。ふざけた手を使う女だ。
ロールシャッハ「…」
ちひろ「とりあえず話を進めましょう。この世界とアナタの世界に大きな違いはありません。例えば、この世界ではヒーローが存在せず、同時にキーン条例も施行されていません」
ロールシャッハ「!?」
キーン条例が施行されていない? ならばダニエルは? ミス・ジュピターは? ヴェイトは? Dr.マンハッタンは?
ちひろ「驚きましたか。つまりこの世界はDr.マンハッタンも存在しておらず、技術もアナタの時代より少し進んでいる程度。あ、ベトナム戦争はアメリカが負けましたよ」
おお、シャッハさんか。
期待してます
ロールシャッハ「…お前は誰だ」
ちひろ「私の名前は千川ちひろ。しがない事務員です」
女、センカワの目に嘘の色が初めて点った。
ロールシャッハ「…答えろ」
ちひろ「…秘密のある女でいたいんですけどね。時が来れば、話すこともあるでしょう。さて、申し出を受けますか?」
ロールシャッハ「…断る」
誰が女の言葉など信じるものか。
だが、センカワはそう返されると分かっていたかのようにため息を吐き、肩を竦めるかのように俺に続けて質問を浴びせた。
ちひろ「でしょうねえ、ですが、ロールシャッハ、アナタは何か持っていますか? お金は? 食料は? 住居は?」
ロールシャッハ「必要ない、俺にはこの顔がある」
ちひろ「…ハァ、まあ、アナタならそう言うか。ならば一つだけお願いをしてもいいでしょうか」
ロールシャッハ「…何だ」
ちひろ「私の勤めている事務所で最近ちょっとした事件が起こっていましてね、その解決を頼みたいんですよ」
ロールシャッハ「…」
ちひろ「その報酬として、住居を用意しましょう。それくらいならいいでしょう?」
ロールシャッハ「俺は俺のするべきことをするだけだ」
ちひろ「…住所と電話番号、ひとまず前金と携帯電話を渡しておきます。それでは、お願いしますね」
センカワは俺に向かい封筒を投げつけ、街へと消えていく。
俺達を照らすのは狂ったようにがなり立てるネオン。星の消えた空には月が浮かんでいた。
『日誌 2×××年 ○月◇日 ロールシャッハ記
忌々しい事だが、俺はセンカワの言う事務所を見張ることにした。
現在の俺の状況を深く知る奴なら、何かしらの情報を握っているだろう。
そして何より、奴の言うクズが本当に存在するのか確かめる必要がある。
奴の言う事務所とは、アイドル事務所のようだ、…性を売ることに関しては淫売と何ら変わりはない。
唯一の救いがあるとするならば、そこにいる子供の目が純粋な輝きを宿していることか。
少なくとも、俺のいたあの街よりは』
センカワの渡した住所を辿り、奴の言う事務所を見上げた。
蔦の蔓延った雑居ビルが街灯の光に照らされている。そこから響く声に曇りは見えない。
…幼いころを思い出した。そう、非常階段で過ごした冬の夜を。
P「うおっ、と!」
身体に衝撃が走る。見ると、眼鏡の優男が誤ってぶつかったようだ。
男の抱えていたと思われる書類が道路に散らばっている。
尻餅をついていた男は俺にぶつかったのだと理解するや否や飛び上がって頭を下げた。
俺の顔に怯えることもなく…律儀なことだ。
P「あぁ、すいません! ちょっとよそ見をしていたもので」
ロールシャッハ「いや、構わない」
P「いえ、本当に…すいませんでした! って、あれ? どうしたんですか、ちひろさん?」
ロールシャッハ「…!?」
男の声に背後を振り向く。
そこにはあの路地裏と変わらない蛍光グリーンの事務服を着たセンカワが立っていた。
ロールシャッハさんだー!
この人突き抜けたナショナリズムかつ女性蔑視甚だしいんだが、大丈夫だろうか…w
ちひろ「あら、やっぱり来てくれたんですね」
ロールシャッハ「Huum…」
ちひろ「そんな警戒しなくても。どうですか? 我が事務所きっての敏腕プロデューサーは」
センカワは男を指差した。なるほど、コイツはセンカワの言う事務所の職員というわけか。
P「あ、あの、ちひろさん。この人は…」
ちひろ「あ、紹介がまだでしたね。今日からこの事務所の警備員をお願いする方です」
ロールシャッハ「…!? 待て」
俺の静止を躱し、センカワは男…プロデューサーと話し続ける。
P「あ、そうだったんですか。…あの件ですよね」
ちひろ「ええ、あの件です」
ロールシャッハ「待て」
ちひろ「とりあえず説明をしましょうか、どうぞ、事務所へ、Mr。…スイート・チャリオットの角砂糖も用意していますよ?」
事務所の一室、そこで俺はセンカワ、プロデューサーと顔を突き合わせる。
外観に反し、事務所内は清潔で防音もしっかりなされているようだった。
ちひろ「気にせず座ってください。あとで消臭しますので。では、まず事件についてお話ししましょうか」
P「警備員さん、コーヒーはどうですか?」
ロールシャッハ「角砂糖だけで十分だ。前書きはいい、とっとと本題に入れ」
蛍光灯が点滅する中、センカワはあの日と同じように肩を竦めた。
プロデューサーは困惑したようにポットを持ち、部屋をうろついている。
ちひろ「まったく。…では率直に、この事務所に所属するアイドルに偏執的なストーカーがまとわりついているんです」
P「…」
ロールシャッハ「…付け回されている、という事か」
俺の言葉にセンカワは眉根を上げ、プロデューサーは怒りに近い表情を見せた。
ちひろ「ええ、最初の内は微々たるものだったのですが、最近は異常性を増してきていまして」
P「…まあ、なんです。あまり公にできないような行為を繰り返されることもありまして」
ちひろ「そこで、警備員を雇おうという運びになったんですが…」
ロールシャッハ「断る」
誰かに雇われるなどまっぴらだ。俺は俺のするべきことをする。
P「えっ!」
ちひろ「でしょうね。…でも、こんな話を聞いてアナタが動かないとは思えません」
ちひろ「ですから、こちらはアナタを警備員という扱いにして、便宜を図ろう、…こう言っているんです」
センカワが俺の顔を見つめる。
…この女が俺をどう呼ぼうと変わらない。
だが、もし俺を駒だとでも思っているのならば。
ロールシャッハ「用件はそれだけか」
P「えーっと、ちょっと待ってください…少ないですが、これがそのストーカーについての資料です」
立ち上がった俺にプロデューサーはそう紙の束を渡す。
不鮮明な男の写真と今までの事例が簡潔に纏められているようだ。
ロールシャッハ「…」
ちひろ「では、よろしくお願いしますね?」
センカワがドアを出る俺に声をかける。
ビル風にコートがたなびく。ポケットにくすねた角砂糖が転がった。
???「いらっしゃいませー♪ あ、いつものでよろしいでしょうか?」
ロールシャッハ「ああ、チリドッグを一つ」
???「かしこまりました、少々お待ちください」
ロールシャッハ「…」
この街に来てから数日が経った。店の馴染みになるには十分な日が過ぎたという事だろう。
今のところ奴は現れていない、しかし、情報がまだ手に入れられていないのも事実だ。
今夜は方向を変え、西を探ることにしよう。
銃に封入するガスも探さなくては…。
???「いらっしゃいませー♪」
P「あ、志保ちゃん、こんにちは」
地図を広げ、経路を確認しているとプロデューサーが入店してきた。
そもそもこの店に入り浸るようになった理由はこの男の調査のためだ。
鴨を追いかけ、狂犬が身内に潜んでいたなど笑いごとではない。
志保「あ、Pさん、またですか?」
P「いやあ、ね、志保ちゃんもまんざらじゃないんでしょ?」
志保「まあ、それは…でもいきなり『ティンと来た!』って言ってスカウトしますか?」
スタッフ「槙原さーん」
志保「あ、はーい! じゃあ、すいません、Pさん。スカウトの件、近いうちに連絡します」
P「うん、無理にとは言わないから」
ヘラヘラとふやけた笑顔を浮かべウエイトレスに手を振るプロデューサー。
数日の間顔を脱いで足取りを追ったが、その行動は典型的な勤め人に過ぎなかった。
…もっとも、調査するまでもなく、この男にそれほどのことができるとは思っていなかったが。
あっすごい好きな雰囲気だ
期待
『日誌 2×××年 ○月◆日 ロールシャッハ記
何処の街も歓楽街は変わらない、狂った獣がただ、貪りあう。
狂犬病はこの国では撲滅されているようだがそれは事実だろうか。
輝く立看板は噴霧器だ、正常と異常の判別を失わせる。
プロデューサーから手に入れた情報を手に、新たな情報を集める。
不鮮明な写真だが、ニューヨークよりは遙かに鮮明だ。
どうやらこの街でも俺の顔は知られるようになったらしい。
クズどもは道を空け、通行人は訝しげに俺を見つめる。
奴は慎重な相手のようだ。
俺の存在に気づいたからか、ここ数日はアナグマのようになりを潜めている。
プロデューサーはこのまま諦めてくれればというがそうはいくまい。
餌の味を覚えた獣がそう簡単に餌場を手放すとは思えないのだから。
幾度目かの訪問先でガキの鼻っ柱と引き換えに有力な情報を得た。
男のプロフィールは判明しなかったが、最近まで浮浪者を狩っていた連中の一人らしい。
彼らの溜まり場を当たる必要があるだろう。
厄介なのは標的が絞られていることだ。
その為にベビーシッターの真似事をしなければならないとはな…』
ちひろ「首尾はどうですか?」
ロールシャッハ「相手は尻尾を見せない。だが、同じ穴に巣食うクズどもからある程度の情報を得た」
ちひろ「そうですか、では、引き続きよろしくお願いしますね、あと、アイドルを監視するならもう少し穏便に」
ロールシャッハ「必要なことだ」
ちひろ「…はぁ。分かってますよ、Mr.ロールシャッハ。あなたはあなたのするべきことをするだけなんでしょう?」
とりあえず見た目が清潔であることを願うw
志保「あ、いつものですね♪」
ロールシャッハ「ああ」
いつもの店に行き、変わらないメニューを注文する。
この世界はジャンクフードに限り進歩していると言うほか無い。
バーガー&ボルシチのゴミは比べるまでもなく、栄養を手に入れるには十分だ。
志保「はい、チリドッグです♪」
ウエイトレスが俺の前に皿を運んでくる。
ゴミ箱を漁った戦利品をしまい、湯気の出るチリドッグに手を伸ばす。
ロールシャッハ「…?」
皿の上には二つチリドッグが置かれている。
俺は一つしか頼んでいないが…?
ウエイトレスを見上げると、俺の疑問に気づいたのか満面の笑みで答えを返してきた。
志保「あ、えーっと、それ、サービスです! お客さんこの前プロデューサーさん、えーっとあの眼鏡の人がいた時にいましたよね」
ロールシャッハ「ああ」
志保「えへへ、なら話は早い! 私ね、アイドルになろうと思うんです」
ロールシャッハ「…! そうか」
このウエイトレスもまた、世界の腸を眺め、女へと変わっていくのだろう。
その切っ掛けを与えるのはあの男。…女を扱う仕事、そう思うとあの優男は地獄の獄吏だ。
せめてこのウエイトレスがキティ・ジェノヴァースにならないことを祈る。
志保「はい! だからこのお店も辞めることになって。だから、今日のこれはおまけです♪」
ロールシャッハ「…何故俺に?」
志保「だって、お客さんここのところほとんど毎日来てくれてますし、最後に感謝も込めてって♪」
ウエイトレスの顔が一瞬、一人の女に被る。
あの被害者は決して幸せにはなれないだろう、このウエイトレスも同じ道を辿るのか?
地獄への道を? ご注文は?
ロールシャッハ「…ああ、ありがたくいただこう」
チリドッグのソースがスクランブルエッグに垂れる。
それは、歪なスマイルマークに見えた。
アメコミとのクロス、期待
今回はここまで。
続きは不定期にあと四回くらい。
シャッハさん難しい、あと服装はあのまま、ちひろさんたちに警備員と呼ばれているときは顔着用です。
つまりプロデューサーと志保さんが寛大すぎるだけ。
良い感じにシャッハさんっぽい期待
くさそう
アイマスともコラボできるなんて。シャッハさん、以外に汎用性あったり?
くさそう(残念)
ロールシャッハの脳内ボイスの再現度がぱない
ハンターとクロス描いた人?
流石ぶれないシャッハさん
いきなりアイドル相手に尋問(物理)したりしないだろうな……?
雰囲気の再現性しゅごい…ハンターとのクロスの人を思い出すが同じ人かな?
『日誌 2×××年 □月△日 ロールシャッハ記
この世界に来てからおおよそ一か月が経過した。
様々な事が異なるこの世界だが、カレンダーの進みが同じだったことと、追い出されない店を発見できたことは幸運だ。
今日は相手が襲撃したというホームレス達に当たる。
何かいい情報が手に入ればいいが…』
街灯を頼りに河川敷を進む。
一見清浄に見える水の流れは死体共が溺れるガンジスだ。
いくら浄化したところで街の排泄物が流れていることには変わりはない。
目的の場所に着いた。湿った段ボールと黴の臭い。
扉代わりのボロ布を押し上げ、中をのぞき込む。
ロールシャッハ「すまない」
ホームレス「はいよ、な、何だねアンタ。そんな気味の悪いお面被って」
ロールシャッハ「…この男に見覚えはないか」
ホームレス「ん? こ、こいつはちょっと前にここいらを荒らしてた糞餓鬼だ!」
ホームレスの男が大げさに顔を歪め、悪魔でも眺めるように写真を睨む。
その顔がまるで悪魔そっくりなのは悪いジョークだ。
ロールシャッハ「そうか、何か知っていることは無いか?」
ホームレス「お前さん、何モンだね?」
ロールシャッハ「答えろ」
ホームレス「ヒッ! わ、わかった、そんなに脅かさんでくれ。そうさな、俺は知らんが直接襲われたって人を知ってるよ。付いてきな」
男の先導で湿った草の中を進む。靴にぬかるみがまとわりつく。
…奴は何を思って猟銃の向きを変えたのだろうか。老いさらばえた獣では相手にならなかった?
人が獣を狩ることと人が人を狩ることは何が違う?
違うに決まっている、人を狩ることは悪だからだ。
悪は裁かなくてはならない。誰も裁かないのならば、俺の手で。
ホームレス「…ここさ、おい、いるかね」
老ホームレス「はいはい、ちょっと待ちな。よう、久しぶりさな。…後ろの人は?」
ホームレス「何でも爺さんを襲ったあの糞餓鬼を探しとんのだと」
先ほどと変わらない塒から出てきた男に改めて写真を差し出す。
男の白髪まみれの頭皮には、新しく生々しい傷跡があった。
ロールシャッハ「…この男で間違いはないか」
老ホームレス「…ああ、コイツさね。お兄さん、興信所か何かかい?」
ロールシャッハ「何かコイツについて知っていることは無いか」
老ホームレス「さあなあ…何せ突然のことだもの。まったく、最近の餓鬼は人を人とも思わねえ…」
男の顔に悲哀が混じる。
…用件は済んだ。男の寝床を去ろうと扉を押し開ける。
背後で男が何かを思いついたというように声を上げた。
老ホームレス「ああ、そうだそうだ、そういやあ、そいつの着とった制服の学校なら知っとるぞ」
ロールシャッハ「…教えてくれ」
…河川敷から帰り、そろそろ灯りの消えそうな事務所付近を見回る。
極彩色に染め上げられた頭髪の餓鬼どもを見かけた以外に変化は無い。
やはり、教えられた学校を当たるべきだろう。
…思考がうまく回らない。
睡眠が足りていないのか。ここ数日眠っていないことを思い出した。
仕方があるまい、いったん塒へ帰り、休息を取るべきだ。
そう思い踵を返すと、俺の前に一人の子供が立ちふさがった。
身長は低め、特徴的な外ハネの髪、どこか高圧的な目。
???「アナタが噂の警備員さんですね!」
ロールシャッハ「違う」
その一連の会話でこの子供のことを思い出す。
センカワの事務所にいるアイドルの一人だ。やけに騒々しい声で騒いでいたのを覚えている。
???「え、違うんですか」
ロールシャッハ「アイツらが勝手にそう呼んでいるだけだ」
???「そうだったんですか。…まあいいです、ボクはアナタに言う事があって来たんですから!」
ロールシャッハ「…何だ」
子供は俺を指差す。
そして壊れたラジオの様にガリガリと耳障りな音をたてた。
まったく、眠気で痛む頭にジリジリと響いてくれる。
???「見るたびに思っていたんですが、アナタは汚すぎますよ! そのコート! 変なマスク! 近寄るだけでおぞましい臭いがします!」
ロールシャッハ「…」
???「そこでですね、このボクが特別にそのコートを洗ってあげようというんですよ!」
???「フフーン! なんて優しいボク! アナタも光栄でしょう、このボク、輿水幸子に、って、アレ? ど、何処に行ったんですか!?」
こういった思い込みの激しいガキは相手にしないに限る。
自分が正しいと思い込んでいるのが余計に厄介だ。
薬でも決めていたら即座に腹を殴っているのだが…。
名前は覚えた、コシミズ、悪い子供ではなさそうだが、接触は控えることにしよう…。
本日はここまで。
ハンターのクロス書いてた人とは影響受けてはいますが別人です。
最近は、諸事情で酉を変えていますが、モバマスで何も始まらない中二コピペネタを書いてました。
ハンターハンターとのクロス、そういえばあったな!
たしかオークション編までは終わってたはず。
山路和弘ボイスで再生される
渋すぎるんだよなぁ、俳優の声も好きだけど
ハンターのクロスってなんてタイトル?
>>30
ロールシャッハ「HURM・・・・・・ここがハンター試験会場か」
シャッハさんの腹パンとかシャレにならないな
これは映画版のかっこいいシャッハさん
いっそのことシャッハさんがアイドルやればいいのに
『日誌 2×××年 □月●日 ロールシャッハ記
この世界に来て何日経っただろうか。
身体はすっかり馴染んでしまったが、どこかで違和感を覚える。
それは歴史の認識かもしれないし、肺に巣食う空気かもしれない。
9・11の話を聞いたときは腸が煮えくり返るかと思った、いかれたアラブ人ども、焼き殺されたとて止むをえまい。
機会があれば行くことも考えるが戸籍すらない今の身では難しい。
…何より俺には今やらなければならないことがある。
情報をもとに、その学校とやらを見張ることにしよう…』
顔を脱いだ状態で外壁を一周する。
この国では一般的な造形をした校舎。
汚れ一つないところを見るに、比較的新しく建てられたのだろう。
こっそり抜き取っておいたパンフレットを確認すると、『勤勉』『清純』『夢』といった嘘が並んでいる。
もしこれが真実なら、この世界はパラダイスだ。
全ての人間の頭がそんな嘘に腐り、呆けた楽園など俺はまっぴらだが。
まもなく日が暮れ、徐々に校門から生徒が吐き出されていくだろう。
そろそろ顔をつけ、目ぼしい生徒に質問することにしよう。
ロールシャッハ「…すまない」
男子生徒「はい? って、うわっ! な、何だアンタ!」
ロールシャッハ「…この男を知らないか」
男子生徒「ちょ、ちょっと待ってくれよ! アンタいったい」
ロールシャッハ「答えろ」
男子生徒「ヒッ! わ、わかりました…、ん? コイツA組の…」
ロールシャッハ「何か知っているのか?」
男子生徒「…あんまり関わりたくないな、いい噂聞かないんですよ」
ロールシャッハ「…というと」
男子生徒「まあ、噂話の範疇ですけど…何でもここら一体の不良をまとめてるとか」
ロールシャッハ「Huum…、何か他には」
男子生徒「いや、もう…ああ、そういや何か溜まり場があるとか」
ロールシャッハ「教えろ」
男子生徒「あ、ハイ…教えたら、帰ってもいいですか?」
一通り、情報の取集には成功したようだ。
あとは詳しいプロフィールが欲しいところだが…加えて例の溜まり場とやらにも寄らなければいけない。
そんなことを考えながら光の濁流をかき分けていると歪な電子音が響いた。
ポケットの中にセンカワから渡された電話があることに気づき、取り出す。
やはり鳴っていたのはそれだった。
ボタンを押すと灯りが点る。
画面は割れているが機能に支障はないようだ。
ロールシャッハ「こんばんは、誰だ?」
ちひろ「…千川です、至急事務所付近の警備をお願いします」
センカワの声には明らかな動揺がある。
まさか、ヤツが何かを仕出かしたのか?
ロールシャッハ「何があった」
ちひろ「通り魔です」
その発言を受け、俺は足を速める。
No,No,Nononononono…! 俺としたことが、完全に裏目をかかれた!
ロールシャッハ「…ヤツか」
ちひろ「…不明です」
ロールシャッハ「誰がやられた」
ちひろ「…」
ロールシャッハ「答えろ」
ちひろ「…コシミズサチコちゃんです」
『日誌 2×××年 □月×日 ロールシャッハ記
やられた、俺としたことがとんだミスを犯した!
ヤツは潜んでいるものだとタカをくくっていた!
幸いコシミズは軽傷で済んだ。
俺が到着した際も震えながら『遅いですよ! 何をしていたんですか!?』等と生意気な口を叩けるほどには。
なんでもプロデューサーが身を挺して庇ったらしい。
少なくとも、死人が出なかったことはよしとしよう。
ついに狂犬が牙を剥いたのだ。
…だが、おかしい。変態行為が目的ならばナイフを使う必要はない。
もちろん“そういうこと”のために使った可能性もあるが傷を見る限り明確に傷つけようとしていた。
…奴の目的は? 単なるサディストなのか? 脳味噌が嘘で腐ったのか?
…どうであろうと事態は深刻になったと言わざるを得ない。
一刻も早くその牙をへし折らなくては、一刻も早く』
時計の針は進んだ。その針は刻一刻と終末へと向かっていく。
…俺一人に何ができる? 針を止めることができるのか?
自分の意味すら記せない俺に?
…いいや、違う。できるかできないかではない。やるんだ。
センカワいわくこのプロダクションが企画するライブが数日後に開催される。
おそらくそこをヤツが謝肉祭にすることは想像に難くない。
ならば、その前に止めるまでだ。俺が、この手で…。
???「やあ、Mr.ロールシャッハ」
ロールシャッハ「誰だ」
情報の場所に向かおうとすると背後から声をかけられた。
振り向くと男のような女が立っている。悪趣味だ。
これも大気中を覆うダイオキシンの影響か?
???「そんな怖い顔をしないでくれよ、私は木場真奈美、あのプロダクションに所属するアイドルさ」
ロールシャッハ「…何故俺の名を?」
真奈美「…? 何? 本当に君はロールシャッハというのか。これは失礼」
…どうやらこの世界においても俺の顔に意味を見出す事は変わらないようだ。
ロールシャッハ「何の用だ」
真奈美「いや、一度礼を言っておこうと思ってね。幸子もそうだが、こんなゴタゴタの中警備を担当してもらっているのだから」
ロールシャッハ「そんな仕事をした覚えはない」
真奈美「おや、そうか。…君は私より年上だね、敬語を使った方がいいのかな」
ロールシャッハ「結構だ」
無駄話はたくさんだ。
これ以上針を進ませる気はない。
真奈美「…どこに行くんだい」
ロールシャッハ「おれのするべきことをするために」
真奈美「…あまり無茶をしてはいけない、君は非常に危うい人間だ」
危うい? 何を言っている。
マトモなのは俺だけだ。だから俺が記さなければならない。
正義を。
ロールシャッハ「知った口を」
真奈美「…ああ、お節介さ。君を止める気は無い。…ライブには来てくれるのかい?」
ロールシャッハ「…」
女、キバを無視して俺はヤツの溜まり場に向かう。
空はどす黒い雲に覆われた。それはまるで頭のいかれた宗教家の言う黙示録を思わせる。
忘れてました、今日はここまで。
ちょっと構成練ってるので次はだいぶ間が空くと思います。
あと、シャッハさんは字幕でも吹き替えでも漫画でもカッコいい、はい復唱。
シャッハさんがカッコいいのは言うまでもない
次を待つ
イカレポンチなところがかっこいいロールシャッハ
シャッハ兄貴、黄色人種の女とか見た瞬間指折りそうだが、大丈夫か?
極度の女嫌いではあるけど、一応悪党じゃなければ暴言くらいで留まるんじゃないか?
ナショナリストだけど差別主義者とまではいかなさそうだし
子供相手に暴力は振るえないだろ
聞き込みされた男子学生の指が折られなくてなにより
ヒーロー大好きな光はロールシャッハについてどう思うんだろう
ヒーローっつっても、光の言うヒーローは勧善懲悪のほうで、ロールシャッハはピカレスクの主人公みたいな感じだろ。
ロールシャッハ「…ここか」
雑草がまばらに生えた廃工場。
打ち捨てられて何年も経っているのだろう。
僅かな錆と油の臭いに腐った木の臭いが混ざっていた。
…いつかの光景が瞼の裏に浮かび、一瞬でそれを打ち払う。
ガサリと物音がした。…誰かがいる、当りのようだ。
その方向に向かい声をかける。
ロールシャッハ「…こんばんは、ジャバウォッキー共」
それを切っ掛けにしたかのように四方八方からクズどもが躍り出てきた。
手にはバットやバールなどの武器。
そしてその顔は…。
ロールシャッハ「コケにしてくれる」
雑誌から切り取ったのだろう。
プロダクションのアイドルの顔を張り付けていた。くりぬかれた眼下に狂った光が映る。
生気を伴わないアイドルの、…女の顔がジリジリと距離を詰めてきた。
それは冒涜的で、どこか淫靡な、悪夢の世界だ。
ロールシャッハ「…!」
狙いを定め、突進する。不意を突かれたのか間合いを完全に違えた一撃が空を切る。
顎に拳を打ち込み、堕ちたそいつを盾にしながら他のヤツに突撃を駆ける。
チンピラ「ぐえぇっ…!」
腹に一発、他のヤツらはようやく脳味噌が回り始めたのか、俺の周囲を取り囲み始めた。
ロールシャッハ「…」
コートから銃を取り出しその内の一人に射出。胸骨を砕き、そのワイヤーでやってくるクズどもに足払いをかける。
チンピラ「…げっ!」
倒れ込んだ奴らの頭を片端から踏み潰す。
鈍い音と共に一人ずつ地面にめり込ませ動きを止めていく。
そうすれば、顔を見ずに済む。
…さあ、お次は誰だ?
最後の一人の腕を取る。
ロールシャッハ「…ヤツは何処だ、何の為にアイドルを襲う」
チンピラ「へへっ、知らねえなあ…ギィッ!」
薄笑いを浮かべていた男の顔が苦悶に歪み、唇の端に泡が溜まる。
ロールシャッハ「小指を折った。次はどの指がいい?」
チンピラ「や、止め、ギヤアァァ!」
薬指をへし折る。
男の目に涙が浮かび始めた。
ロールシャッハ「次は中指だ」
チンピラ「し、知らない! 俺達はアイツに金を渡されて!」
ロールシャッハ「本当か?」
チンピラ「ほ、本当だ、だから…!」
男の声に嘘は無い。
手を離し、後頭部に一撃を入れてから立ち上がる。
上空には気味が悪いくらい輝く月。僅かな照り返しによって生まれた死の光。
色の無い空、何処までも続く虚無、意味の無い世界。
…さて、ヤツは何処に。
銃声。
腹に焼いた鉄棒を差し込まれたような熱が広がる。
撃たれたと理解するまでに少々の時間がかかった。
銃声の方向には過ぎたオモチャを構え、にやけた笑みを浮かべる男。
ヤツだ。
ロールシャッハ「…!?」
男「初めましてだな、警備員さん?」
男の頬が上がる。その顔には狂気にも似た何かが纏わりついている。
ロールシャッハ「…ッ、お前、は」
男「ああ、お前の探していた犯人だよ」
腹部からの熱が徐々に体を蝕んでいく。
死力を振り絞り、ヤツに向かい声を飛ばす。
ロールシャッハ「…何のためにこんなことをする」
男「さあね、でもお前はどうせここで死ぬんだよ」
熱が全身に回る。
視界が眩み、世界が蕩ける。
死んだ光の中、ヤツの笑みが一面に広がる。
俺の顔は、何に見える? クソッたれが…。
ロールシャッハ「…Guuuu」
ヤツが倒れ込んだ俺に近づく。俺の意識はそこで途切れていた。
エタノールの臭いに目を覚ます。
視界には淡い緑色の天井が広がっていた。
ロールシャッハ「…ここは」
ちひろ「目覚めましたか」
その声に目をやるとセンカワがこちらを見つめている。
そして、脳細胞が急激に活動を再開した。
ベッドから飛び降り、点滴を剥ぎ取りながらセンカワに問う。
ロールシャッハ「…ヤツは! 俺の顔は! 俺はどれだけ眠っていた!?」
ちひろ「…今日はライブ当日です。例の男はアナタの顔と共に行方不明」
…それだけの情報が聞けたなら十分だ。
ベッドの脇に置かれていた服を抱える。
顔を取り戻さなくては、俺がロールシャッハであり続けるために、戦い続けるために。
ロールシャッハ「…」
視線を感じて目をやるとセンカワがこちらを見つめている。
その目には、気味の悪い感情が浮かんでいた。腹に巻かれた包帯を見つめ、センカワはようやく口を開く。
ちひろ「死にますよ、その傷。」
ロールシャッハ「大丈夫だ、もう癒えている」
ため息を吐き、目を伏せるセンカワを無視し、病院の窓に片足を乗せる。
跳ぼうとしたその時、センカワがまた質問を投げかけてくる。
ちひろ「…アナタはアイドル、あの子たちをどう思いますか?」
ロールシャッハ「哀れなコマーシャル。流されるだけのバルーンだ」
そうだ、あの子供たちはいずれ知る。世界を、何の意味もない人生を。
だが、センカワの一言が俺の思考を途切れさせた。
ちひろ「違います」
言うや否や、センカワは俺の胸ぐらをつまみ上げた。
大きな瞳が俺を見つめている。
ちひろ「アナタがこの世界にインクを垂らすように、彼女たちも色とりどりのインクで染め上げようとしている。それはこの数週間で分かったでしょう?」
ロールシャッハ「何が言いたい」
脳裏にマキハラの、コシミズの、キバの言葉が浮かぶ。だが、そんなものは俺には関係ない。俺は俺の…
ちひろ「アナタはきっと変わらない。どこまでもロールシャッハであり続ける」
ロールシャッハ「…」
ちひろ「それでいいんです、ロールシャッハ。アナタはアナタのやり方でこの世界に意味を刻み付けて」
ロールシャッハ「お前は…」
ちひろ「だけど、この無意味な世界に意味を付ける役目はアナタだけじゃない。…思い上がるな、ロールシャッハ」
センカワの言葉に怒気がこもる。
センカワの目に、表情一つ変えない男が映っている。だが、センカワはその男を見ていない。
この女が見ているのは…。
そして、センカワは俺を放した。
ちひろ「私は可能性、あの日壊れなかった腕時計、落とされなかった精密部品。どうか、ご武運を、ミスター」
ロールシャッハ「…」
センカワは頭を下げ、とっとと病室を去って行った。…淫魔め。
窓から飛び出すと、縛り上げたカーテンを使い地面に下りる。
予備の顔はどこにもない、ヤツから取り返さねば。
…ヤツのいる場所は分かっている。
騒々しく、くだらなく、淫蕩で、間抜けな、夢の吹き溜まりだ。
そこはきっと、七色に染め上げられていることだろう…。
今日はここまで。
乙
素晴らしい雰囲気
『日誌 2×××年 □月○日 ロールシャッハ記
久々にペンを走らせる。この手帳もようやく日記らしくなってきた。
向かう場所は桃源郷だ。諦めと退廃の後に辿り着く一抹の夢。
馬鹿げている。それに囚われる人間も、それを生み出すあの子供たちも。
あの男もその口だろう、夢に溺れ、この世界を受け入れた狂人だ。
『輝きの向こう側へ』
会場の入口にはそんな文句が記されている。…星の輝きなど一瞬だ、人ならなおさらに。
シンデレラは幸せだったか? 灰を被り、母を殺し、何もせぬまま、ただ流された淫売が?』
そこまでペンを走らせたところで肩を誰かに叩かれた。
振り向くとプロデューサーが立っている。コシミズを庇うときに負ったと思われる傷は包帯で隠されていた。
…待て、何故この男が俺の肩を叩く?
この男の前で俺が顔を脱いだことは無い。まさか、コイツもあの男の仲間か?
その疑問に答えるようにプロデューサーは慌てたように手を離した。
P「あ、すいません…知っている人に見えたもので」
ロールシャッハ「…いや、構わない」
俺の答えにプロデューサーは首をかしげる。
P「…あれ、でもその声、いや、違うよな、…警備員さんはちゃんといたし」
その言葉は、聞きのがすことは出来ない。
プロデューサーの肩を掴み、問いかけた。
ロールシャッハ「…そいつは何処へ行った」
P「へ? け、警備員さんのことですか?」
ロールシャッハ「ああ」
P「関係者通路で見かけましたけど…あの特徴的なマスクで顔パス状態になっているので…」
…俺の顔を持ち去ったのはそういうことか。クズが。
もっとも、俺の顔を盗んだところでヤツには何も出来はしまい。
あれは、俺の顔なのだから。
準備は万全だ、関係者通路に目星をつけ、走り去る。
だが
P「警備員さん、お気をつけて!」
プロデューサーがそう叫ぶと共に『STAFF』と記されたカードを投げてくる。
ロールシャッハ「…」
何故分かった? 俺の考えを読んだのか、初めて会った時と同じ表情でプロデューサーは答える。
P「あはは、職業柄人を見る目には少し自信がありまして。アナタは最初に会った時から凄く強い何かがありましたから。間違えるはずはないですよ」
腑抜けた笑み。だが、その眼鏡の奥は凛と光を持っている。センカワの目とは対照的な、しかし同じ光。
P「そうだ、このライブが終わったら、アイドルになってみませんか?」
ロールシャッハ「断る」
何を言い出すかと思えば、この男は少し頭がトンでいるのかもしれない。
P「…でしょうね、でも、アナタにはあの子たちと同じものを感じる」
ロールシャッハ「…何?」
P「何かを変えたい、残したい、伝えたいという強い思い、…なんて。気障ですかね」
俺は答えを返さない。センカワの言葉が一瞬思い出された。
…馬鹿な、ふざけたことを。俺とアイドルが似ている? 笑わせてくれる。
P「…終わったら帰ってきてください。アナタと同期の志保ちゃんも、アナタに生意気を言っていた幸子も、アナタに興味を持っていた真奈美さんも、心配していましたし待っていますよ」
背中を向けた俺にプロデューサーは最後に告げる。
…おそらく俺が帰ることは無いだろう。
解
ロールシャッハ「…何処だ」
目の眩むような極彩色のスポットライト。
熱に浮かされたかのように叫ぶ群衆と立ち込める湿気の中を掻き分けヤツを探す。
壇上にはマキハラの姿。ウエイトレスを模した衣装で黄色のライトを浴びている。
志保「みんなー! 初めまして♪ 新入りだけどみんなに負けないくらいがんばっていくよ!」
ロールシャッハ「…簡単に目に入るところにいるとは考えづらい」
プロデューサーの証言を信じ、薄暗い路地裏のような関係者通路を迂回する。
だが、ヤツの姿は見つからない。
壇上にはコシミズ。傷は癒えたのだろう、相変わらずの仕草で桃色に染められている。
幸子「フフーン! ボク、完全復活! みなさん、ボクに染め上げられてくださいね!」
ロールシャッハ「…あそこか!」
関係者通路の奥、デッドスペースとなった小部屋。
獣が隠れ、獲物を狙うには絶好の場所だろう。
そこへ向かう刹那、舞台のキバが叫ぶ。相変わらず男のような面が青く輝いていた。
真奈美「フフ、覚悟していくといい、私たちの動きを焼き付けていけ!」
飛び込んだ暗闇、そこにはやはり俺の顔を被ったヤツがいた。
侵入に気づいたのか、俺の方向へ『顔』を向ける。
歪に動くその顔は、とりとめのない形を漏れこむ七色で彩っていた。
ロールシャッハ「…Hallo、顔を返してもらおうか」
男「…よく生きてたな、で? 何だって? 顔? まあ、こんな臭いマスクいらないからな、くれてやるよ」
男は顔を脱ぎ、投げつけてくる。拾おうと屈んだところを鈍器で殴りかかってきた。
だが、そんなものは読めている。
左手で軽くいなし、軌道をそらす。
大きく傾いたヤツに足払いをかけ、体勢を崩させる。
男「…やってくれるな、そろそろ」
ロールシャッハ「ああ、さようならだ」
顔を被る。
ようやく俺は本当の俺に戻れた。何も意味のない白紙の世界に意味を叩き付けるロールシャッハへと。
男「それはこっちの台詞だ、インポ野郎!」
男が銃を取り出す。この場所はそうそう目に入らない、物音や銃声もライブの轟音で掻き消されることだろう。
ああ、誰にも迷惑は掛からない。…さて、お楽しみの時間だ。
ロールシャッハに向けられた銃口が火を噴いた。
ロールシャッハは横跳びにそれを避け、その勢いを殺さぬまま男へと飛び込んでいく。
志保『あ、警備員さんですか? 初めまして! 私、警備員さんと同期ですね♪ …? 何処かで会ってませんか?』
男は一瞬慌てたものの、落ち着き、ロールシャッハの脳天に肘鉄を喰らわせる。
ロールシャッハの体がふらつき、その機を逃さぬよう男の回し蹴りがロールシャッハの側頭部を弾き飛ばす。
幸子『まったく、警備員さんがやられてどうするんですか! ボクを守る役目も必要でしょう!』
吹き飛び、備品を撒き散らしながら壁に激突するロールシャッハ。
男は追撃をかけようと、拾った鉄パイプを片手に走り寄る。
真奈美『無茶をしないほうがいい、君は君だ』
だが、ロールシャッハの握る消火器から出た白煙が部屋を埋め尽くす。
男の対応は間に合わず、視界は真っ白に潰れる。
煙を掻き分け、男はロールシャッハの倒れていた壁へと向かった。
しかし、そこにロールシャッハはいない。
壁に一文、こう書かれているだけ。
『BehInD YoU .┓┏.』
男が背後を振り向いたときは既に遅い、ロールシャッハは男の両手を捻りあげ、その顔を掴んでいた。
志保『私は…やっぱり色んな人を笑顔にしたくって♪』
男は初めてロールシャッハの顔を間近で見つめる。
流動する白と黒。そこには意味など無い、意味を付けるのはそれを見た人間に過ぎない。
まさにそれは人しか持ちえぬ幻想、『偶像』。
幸子『決まっています! ボクのカワイさを届け、って何処に行くんですか!』
ロールシャッハは冷や汗を垂らす男に問う。
その顔には、最前の男の様な色は無い。
ロールシャッハ「…俺の顔は、何に見える?」
男は、恐怖した。
真奈美『そうだな、まあ、義理もあるが、生きた意味を残すには一つ大きな手段だ』
意味は無い、ただ、そこには深淵と呼ぶより他にない何かがあった。
男「き、きれいなチョウチョ!」
ロールシャッハ「…Too Bad」
ロールシャッハの顔が奇妙に歪んだ。
男の意識はそこで途切れる。
『『『輝きの向こう側に行ってみたくて』♪』!』ね』
男を縛り付け、部屋から出る。
ライブは既にクライマックスのようだ。
アイドル達が舞台に上がり、一丸となって何かを喚いている。
大団円、幕が下がり、アンコールの声、スタッフロール…。
愚かで、間抜けで、卑しい。
七色の光が俺の顔すら染め上げる。
マキハラと目が合った、コシミズが手を振った、キバが微笑んだ。
アイドル達の声に、動きに、染め上げられたこの空間。
灰被りは決して幸せになれない。ガラスの靴はすぐに砕けてしまうだろう。
反吐が出る。しかし、俺はその光景を…
『日誌 2×××年 △月○日 ロールシャッハ記
空はインクを垂らした水の様に澱んでいる。
降り続いた雨はようやく止み、あちこちに汚水が溜まっている。
降水で水量が増加しているかもしれない。下水道の探索は早めに済ませてしまうべきだろう。
この手帳にペンを走らせるのは初めてだ。
俺としたことが、あの場所で手帳を落としていたらしい。
あの事件以降、俺はプロダクションには顔を出していない。
センカワから何回か通信があったようだが、最近では全く来なくなっている。
昨日、俺の塒にこの手帳といくらかの現金、そして手紙が置かれていた。
そこまで突き止めているなら会えばいいものを。
やはり得体の知れない女だ。
…手紙はまだ封を切っていない』
ロールシャッハ「…」
少し悩んだ末、手紙を開いた。
そこに書かれていたのは今回の件に関しての礼状と事件が収束したという連絡。
あの男はブタ箱で「面白いことがしたかった」などとほざいているらしい。世も末だ。
…どうやら手帳はセンカワに拾われたようだ。
コシミズが清書しているとか。…ふざけた真似を。
手紙の最後にはプロデューサーとアイドル達が俺の帰還を待っていると書かれていた。
…何を言っている。俺はまだやらなければならないことがある。
例え、この世界が俺の知った世界でなくとも。
…そう、そして、アイツたちにも。
手紙を引き破る。粉々になった紙片が風に流され飛んで行った。
空を見上げ、手紙の最後に添えられた言葉を呟く。
ロールシャッハ「But,Who will watch the watchmen?」
誰が見張りを見張るのか。
誰が。
見上げた空には七色の虹がかかっていた。
了
これにて終了。
支援ありがとうございました。
乙
乙
おつおつ
楽しかった。よかった
乙一
乙
ロールシャッハのらしさ全開で楽しかったです
また、気が進んだらロールシャッハで書いてほしい
乙
よくモバマスとのクロスでここまで違和感無く仕上げられるなと思った、素晴らしい
ロールシャッハは変わらないからこそロールシャッハなんだよな
アイマス関係まったく知らないんだけど、何で千川さんはシャッハさんの正体知ってたん?
原作がある世界だから?
運営の犬だから
このSSまとめへのコメント
ロールシャッハが原作っぽくて
かっこよかった