少女「君は爆弾に恋をした」 (203)
金木犀の強い香りがようやく静まる頃
肌に染みる冷たい風が吹き始める、そんな季節
小学生くらいの子供達が風船を奪い合って僕らの高校のフェンスの外を走り回っている
眺めていると女の子がうっかり風船から手を離した
ヘリウムの風船は気圧に押され空へと舞い上がり
僕の傍らにいたはずの小さな君は
三・五メートルのフェンスの上に立ち、その風船を捕まえていた――
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1414239236
――朝――
二学期も始まったばかりだと言うのに僕にはやる気が無い
今日も登校時間ギリギリに目を覚ました
どうせグズな自分は遅刻する運命が決まっているのだ
飢えを抑えるために無理矢理口に詰め込んだのはスクランブルエッグ
歯を磨いたら運動が苦手でも走り出さなければならない
間に合わない
漫画なら同じく食パンをかじりながら走る少女とぶつかるようなシチュエーションもあるが
僕は良くも悪くも何事もなくホームルームの時間までに自分の席に辿り着いた
机に汗塗れで突っ伏していると中学からの友達の女達が賑やかに何かの話をしている
話の節々から、転校生が来るという事だけ分かった
僕の数少ない男の友達は女の子が来ると騒いでいるが
どうして自分と縁がないと決まっている女子の事で騒いでいるのだろう、などと酷い事をぼんやり思う
いや、友達がモテないのはこの際どうでもいい
問題は空いてる席が何故か自分の右隣に有ることだ
男「女の子か……」
頭の隅でまだ夢を見ているような感覚がある
だからか、少し漫画のような甘い展開に期待してしまっている
しかし僕も小柄で、友達と同じくモテるタイプではない
男「眠い……」
どうせ何も有るわけはない
今は授業が始まる前にどうにかしてこの眠気を処理しておきたかった
しかし、担任の先生と共に入ってきた少女が、その悩みを晴らしてくれた
担任「じゃ、自己紹介して」
先生に促され、少女がトコトコと前に出る
少女「少女と言う。 よろしくお願いする」
言葉遣いこそ妙だが、真っ白なワンピースを纏う彼女は、一足早く舞い降りた雪の妖精のように可愛かった
一気に目が覚めるほどに
教室全体がざわざわと騒がしい
ゆっくりと歩く小さな彼女が何かくすぐったいような雰囲気を放つ
席を縫って彼女が自分の隣まで来た
担任「彼女はまだ制服が来てないので今日は私服だが、いじめないようにな~」
担任「教科書もまだだから……え~と、男が見せてやれ」
男「え、はい」
なんだろう
自分は何か悪いことをしたか
いや、何か良いことをしたか
雪の妖精は自分の席に着いてこちらをじっと見ている
男「よ、よろしく」
少女「うん、はい、私もよろしくお願いする」
やっぱり言葉遣いはおかしい
しかし可愛い
大きな瞳に白い肌、サラサラの銀髪を片方束ねている
一時間目、彼女が自分の席から体を乗り出すように僕の教科書を覗き込む
女子と席をくっつけていると言うだけで何か悪いことをしている気がする
クラス中の男子に睨まれているような気もするが、自分で決めた事じゃないし
どうしようもない
僕は彼女の甘い香りにドキドキ
触れる度にドキドキ
男(おかしくなりそう)
こんな幸運は何か悪いことの前触れだ
既にクラス中の男子に恨みを買っていてもおかしくない
僕がそっと彼女の顔を見ると、彼女はにっこり笑う
電撃が走る
……やがて休み時間になった
女「ねーねー、少女ちゃんてどこから来たの?」
少女「瀬戸内の島」
少女「……内緒にしていて欲しい」
女「?」
男「?」
女子が彼女を質問責めしているのだが、所々おかしな答えが返ってくる
好きな音楽は何だと聞けば、今まで聞いたことが無い、と言い
趣味は何だと聞けば畳の目を数えることだと言い
好きな物は何かと聞けば核ミサイルと言う
極めつけに
少女「私にあまり近づかない方が良い。 爆発する」
不思議ちゃんと言う奴だろうか
少女の話を聞いていて、女は突然笑い出した
女「あっはっは、可愛い!」
女「ね、友達になってよ!」
少女「……友達?」
少女「私のような危険物が恐ろしくないなら、構わない」
やっぱりおかしい
まるで自分は爆弾だと言わんばかりだ
いずれその言動の意味が解るとしても、今は奇異でしかなかった
女「んで男」
男「はい?」
何故か女が突然こちらに振ってくる
女「放課後彼女と出掛けるから男も付き合うように」
……強引だ
昔からこの女はこういう所があった
何か決めると周りの迷惑を考えずに地球の裏側にすら突っ走っていきかねない
クラスの男達の冷たく痛い視線が更に強く突き刺さってくる
貴様は美少女の隣の席と言う幸運だけでは飽きたらず、初デートまでやるつもりか、と
全く全て自分の責任ではない!と教壇に立って叫びたかった
そんな視線を気にもかけず、その後も彼女は僕に肩がぶつかるほど近付いて教科書を覗き込む
サラサラな長い髪が僕の肩に触れる
彼女の可愛さとクラス中の視線の痛さに、一日中気が気では無かった
授業の内容もまるで頭に入らないで、一日が終わる
いや、まだ終わりではなかった
女「ほら、行くよ、男、少女ちゃんも」
少女「分かった」
男「し、仕方ないな……」
女の行動は嬉しいが、困る
友「俺も一緒に行っちゃ駄目?」
女「魂だけなら着いてきて良いよ」
友「よっしゃ、幽体離脱、っておい!」
女と友のショートコントに、少女がくすくすと笑う
その場にいた全員がその可愛さに硬直したのが分かった
女友「私も行きた~い」
女「良いね、いこいこ!」
女友「どこ行く~?」
女「カラオケ……は歌を知らないらしいから……ゲーセンかな?」
女「仕方ない、友もボディーガードで連れて行くか」
友「いやっほう!」
結局五人でゲームセンターへ向かう事になったらしい
女の決めるまま、僕たちは遊びに行く
結論から言えば、彼女は強かった
強いなんてものでは無かった
ゲームはほとんどパーフェクト
反射神経が人間のように思えなかった
そして
柄の悪い不良が運の悪い友に絡んでいた時
不良A「おうおう、てめえどうしてくれんだよ!」
不良B「あーあ、こりゃ骨が折れてるな」
古臭い恐喝を始めた不良たちに少女が近付いて行く
何を思ったか、少女はいきなり不良の手を握る
少女「私は生物学にそこそこ詳しいつもりだが、これは折れていない」
不良A「な、なんだてめぇ……」
不良B「可愛いじゃねーか、お前が俺達の相手してくれんの?」
少女「相手?」
少女は突然不良の腕をその肩の後ろに回して、締め上げる
少女「女と喧嘩したがる男には初めてあったが、分かった」
少女はその場でゲームで見るキャラクターのような動きで不良二人をボコボコに打ちのめした
女友「つ、つよ~」
女「普通じゃないよ……あの子」
尚も不良に追い討ちをかけんとする少女を、僕と女は必死に止めた
少女「喧嘩を売られたようなので買った。 喧嘩を売っていいのは死ぬ覚悟が有る者だけだ」
女「今時そんなサムライいないよ!?」
男「も、もうそこまでにしてやりなよ!」
女友と友は大分引いている
しかし、すぐに友は持ち前のスケベ心……不屈のスピリットで立ち直った
友「あ、あの、助けてくれてサンキュな!」
少女「怪我はないか?」
男「……なにこの男前……」
友「キュン……」
少女「……」
少女「私が喧嘩に強いことも、内緒にして欲しい」
女「?」
女「少女ちゃんってたまに不思議な事言うよね」
少女「?」
少女「そうだろうか?」
女友「今のって何? なんか格闘技やってたの?」
少女「何も」
友「怪力で取り押さえたようにも見えたけど……」
男「き、気のせいだろ」
女「こんなに小さくて細いのに……」
少女「私の基礎運動力とは関係ないが爆発時の最大出力は百テラジュールらしい」
女「??」
少女「長崎型原爆より少し強い程度で大したことはないが」
女友「???」
友「それじゃまるで人間じゃないみたいじゃね?」
男「また不思議な冗談言うなあ……」
女「あ、そっか、冗談か」
少女「……」
少女「冗談だ」
女友「あははっ、面白~い!」
女「ほんと不思議ちゃんなんだから」
少女「すまないな」
その時、彼女が落ち込んだように目を伏せたのを、僕は見逃さなかった
彼女はその後もそんな調子で、だんだんと友達やファンを増やしていく
僕たちは親友になり、彼女と放課後、良く出掛けた
そんなある日、女がいつものように突然言う
女「男、少女ちゃんと付き合えば?」
男「はあっ!?」
女友「あ、お似合いかも~」
そんなハズがない
自分のような万年遅刻ぎりぎりのチビな駄目男が、妖精のような彼女と付き合って良いはずがないんだ
いや、彼女が来てから遅刻は無くなったけど……
少女「男君が良ければ」
恥じらいもせず、彼女は言い放った
僕はそんな彼女たちの勢いに逆らえなかった
男「よ、良ければも何も……いいの?」
少女「男君が良ければ、別に恋愛は禁止されてない」
少女「と、言うか博士も推奨してくれた」
女友「博士?」
少女「お母さんの事だ」
女「あはは、出たね少女ちゃんジョーク」
少女「わはは」
友「ストップスト~ップ!」
友「少女ちゃんと付き合う権利は全ての男子生徒に有るはず!」
友の宣言に教室中の男子と、何故か眼鏡の女子が賛同して、拍手が起こる
眼鏡「女子にもあるはずだ!」
友「いや、それはねーよ!」
女「そっか、私の彼女にしよっか」
男「待て待て……」
少女「私は男君がいい」
彼女の宣言に、一瞬クラスが真っ暗になったように見えた
その日は一日針の筵でしたよっ
ある日の放課後、彼女と僕たちはカラオケに出掛けた
女が彼女にCDやプレイヤーを貸して聞かせていたらしい
彼女は渋々ではあったが、参加
結果から言えば、すごい音痴だった
友「声はすげー可愛いのに」
女「音程もリズムも酷い……」
男「ゲームはあんなに上手いのに……」
少女「……」
彼女はすごく恥ずかしそうに俯く
可愛い
良いんだろうか、こんな可愛い子を彼女にして
女「じゃあ彼女送ってあげなよ」
家路についてから、女が言い出す
はっきり言って自分より彼女の方が喧嘩強いんだけど
でも女の子である事は間違いない
男「分かった」
正直、彼女の家に興味があった
女達と別れ、彼女と二人きりで歩く
少女「女がな、恋バナが出来たら皆ともっと仲良くできると言ったんだ」
少女「あ、あ、言われたからじゃない」
少女「その、君に興味があったんだ」
男「僕に?」
少女「そうだ、聞く所によると自分を僕と呼ぶ男君はレアキャラだと……」
男「ぶっ」
僕は思わず飲んでいた缶コーヒーを吹いた
少女「あ、あ、それだけじゃないんだ、その」
少女「君はいつも私に優しいから……」
こんな妖精のような彼女に優しくしない男なんてこの前彼女がボコボコにした不良くらいのものだろう
でも彼女は続ける
少女「いつも教科書を見せてくれて、ありがとう」
少女「いつも遊んでくれてありがとう」
少女「こんな変な私を笑わないでくれて」
少女「ありがとう」
男「……どういたしまして」
思わず顔が真っ赤になるのを感じた
二人で公園に立ち寄ると、子供たちがボール遊びをしている
僕は何となく聞いてみた
男「君は子供好き?」
少女「好きだよ、可愛いな」
男「そっか」
そんな話をしてどうしようと言うのか
いまいち恋人同士になりきれない二人の距離を縮めたかったのかも知れない
しかしこの後、彼女との距離が少し遠くなるような出来事があった
それは子供たちがボールを公衆トイレの屋根に乗せてしまった時
少女「あ」
男「あーあ、あれは取れないな」
僕が頭を掻いていると、彼女が走り出す
そして、トイレの屋根に飛び乗る
唖然とした
人間の跳躍力じゃ無い……
やがて天井からボールがいくつか落ちてくる
彼女が顔を出した
少女「君たちのボールはあった?」
子供A「あったー!」
子供B「ありがとう、お姉ちゃんすごいね!」
少女「あ、この事はお母さんたちには内緒にな!」
僕が唖然としている横に彼女は飛び降りてきて、髪を耳の後ろにかきあげた
少女「行こうか」
男「あ、ああ」
平静にしていたが、頭の中は大混乱していた
今のは何だ
今の彼女の動きはなんなんだ
今まで彼女が冗談としてきた言葉を思い出す
百テラジュール
長崎型原爆より少し強い程度
危険物
爆発する
爆発する!?
こんな可愛い彼女が?
僕は思わず彼女を見つめた
少女「あ……あの……」
少女「そんなに見つめないでくれ……」
男「あ、ごめん」
さっき異常事態に触れたばかりなのに僕の顔は熱くなった
また見つめる
今度は違う意味で
白い頬をほんのり桃色に染める彼女が、とても可愛い
少女「あの……君なら内緒にしてくれるだろう?」
今の、と言うことだろう
男「え、ああ、もちろん」
もちろん、言えるはずがない
体育の時間はどうしてるんだろう
そう言えば女子たちが大騒ぎしていた気がする
また彼女を見つめた
少女「も、もう……」
照れくさそうにつぶやいた後、彼女がこちらに向き直る
少女「ここが私の家だ」
そこは裏通りにある、小さな安アパートだった
少女「送ってくれたお礼、していいか?」
男「え、いいよべつ……」
言い終わる前に、彼女は僕の右頬にキスをしてきた
少女「ちょっとコーヒー味、あはっ」
さっき吹いた時についていたらしい、いや、そんなことどうだっていい
卒倒しそうになるのは、人生初めてだったかも知れない
なにこの妖精
なにこの天使
なにこの女神様
そして今の柔らかい感触――
少女「ま、また明日な!」
少女もまた、顔を耳まで焼けたように真っ赤にしていた
彼女は振り返ると凄まじい速さで駆けていった
僕の彼女は、何者だろうか
解らないけど、それでもいい
可愛い
可愛いよ~
そのままふらふらとした足取りで家まで帰ったが、その後のことは覚えていない
朝、気がつくと学生服のまま右頬に触った体制で目を覚ました
彼女なんだ
こういうことが有って良いんだ……
目が覚めてもまだドキドキしていた
今日はここまでにしておきます
今回の作品はSF恋愛物です
ベタベタな甘ーいお話を書いていきますので、嫌いならそっとじしてください
レスがもらえたら犬のように喜びます
乙、期待してる
期待
乙
これは期待
>>15-17
ありがとう御座います!
色々未熟ですがよろしくお願いします
更新します
母「男ちゃんがこんな早く起きてくるなんて珍しいわね」
母「昨日は帰ってからそのまま寝ちゃったみたいだけど、どうしたの?」
男「ど、どうだって良いだろ」
母「彼女できた?」
男「……!」
僕は思わずお茶を吹きそうになったがこらえた
母「バレバレだね、男ちゃんは」
母はカラカラと笑う
母「ほっぺたずっと押さえてたけどキスでもされたの?」
男「ぶっ!」
母「汚~い」
今度は耐えられず吐き出した
母「良かったら家に連れてきなさい」
母「今晩は三人分ご飯用意するからね」
女に似て、母も思い立ったら周りの迷惑も省みず、宇宙にでも旅立ちかねない
だけど僕も今度は彼女を自分の家に招きたかった
思い切って声をかけることにしよう
少女「男君の家?」
少女「行きたい」
女「ついに最後まで……」
男「行かないよ!」
女「なんだ」
友「この裏切り者!悪魔!ひょうろくだま!」
男「なんだひょうろくだまって?!」
その日も針の筵……
しまった、放課後に言えば良かった
少女は家に電話をかけ、遅くなると告げる
少女「博士が泊まってこいって……」
男「勘弁して」
どうも彼女のお母さんも女やうちの母に似た匂いが……
いや、本当に博士なのかも知れないのか……
ふと考え込んでしまった
少女「どうかした?」
男「えっ?」
男「あ、いや、何でもない」
女「いやらしい」
男「なにが?!」
友「くそう……くそう……」
男「友に刺されそうだから、行こうか」
少女「うん、はい」
少女「あの、迷惑ではないだろうか、こんな爆弾娘」
男「うん、吹き飛ぶなら町のどこに居ても吹き飛ぶし」
女「男、もう少女ちゃんジョークうつってるね~」
男「僕の彼女は破壊力あるだろ?」
女「惚気るね~」
本当はジョークで済まないかも知れないが、そう言う事にしておこう
そうしないと大騒ぎでは済まない
彼女はなんでも内緒にしたがる
ひょっとしたら誰かから逃げているからかも知れない
なら騒ぎにしない方が良いに決まってる
その日の帰り道、二人きりになった時
少女「あの、男君……」
男「ああ、うん、なに?」
少女「手を……繋ぎたい」
世間知らずにも見える彼女がどこからこんな知識を仕入れているのだろう
いや、女か……あの野郎グッジョブ
男「い、良いよ」
僕は真っ赤になりながら彼女の手に触れた
一瞬冷たい感触がしたが、手のひらは温かかった
人の手だ
とっても小さい、柔らかい、普通の
友が見ていたら爆発しろと言われたことだろう
いや、爆発したら困るんだが
爆発しそうだ、僕の心臓が
男「僕も爆発したらごめん」
少女「爆発しそうだね、別の意味で」
良かった、この心臓の鼓動で彼女が爆発することは無いようだ
ヤバい、何を考えてるか分からない
この時間がずっと続けば良いのに
そう思った途端、家に着く
畜生家近い!
中からカレーの香り
もし彼女を連れてこなくても大丈夫なように計算しているあたりが我が母である
男「ただいま~」
少女「お邪魔します……」
母はバタバタと玄関まで走ってきた
母「可愛い~!嘘~!」
開口一番これである
我が母ながら酷いではないか
確かに彼女は僕なんかにはもったいない美少女だが
母「いらっしゃ~い!」
少女「お邪魔します……」
母「お邪魔なのはお母さんの方だから気にしないでね!」
本当にこういう時、母親と言う存在は邪魔である
少女「君のお母さんは、なんだか可愛い感じの人だな」
男「そう?」
男「見た目が若いだけで中身は完全にオバサンだよ?」
少女「お父さんは?」
男「単身赴任」
少女「そう、大変だね」
男「父さんはね、僕らは気楽だよ」
実際うちの父親は少しうるさい人物だ
騒がしいと言う意味で
母「まだ出来ないから部屋に行ってきたら?」
男「ええっ!」
少女「見たい」
男「分かった、掃除するから少し待ってて」
母「エッチな本はちゃんと押し入れに……」
男「無いよ!」
僕は部屋を一通り片付けると、クッションを敷いて彼女を招き入れた
少女「広くて綺麗な良い部屋だね」
男「そう?」
そう言えば彼女の家は安アパートだ
普通の一軒家でも広く見えるかも知れない
男「じゃあ、座って」
少女「ありがとう」
自分の部屋に女の子を入れたのは夏休みに女たちが押し掛けて来た時以来
あの時は散々散らかされたっけ
男「そうだ、飲み物……」
少女「お構いなく」
男「いや、僕が飲みたいから」
少女「……優しいね」
男「そ、そんなこと無いよ」
僕は慌てて部屋から飛び出た
僕が適当に冷蔵庫から飲み物を出していると母が何かと聞いてくる
どんな子か、何が好きか
言えない……核ミサイル好きだなんて
吃っていると母はこう言ってくる
母「ちゃんと色々知り合ってからエッチするのよ?」
男「しないよ!!」
母「しないの?」
男「ま、まだ……」
母「まあ、今時純愛って……良いわねそれも」
どうやら母は頭の中で青春を思い返しているようだ
早々にその場を離れる事にした
男「……お待たせ」
部屋に戻ると彼女は窓際に立って外を眺めていた
何だか絵になるな、と思う
少女「エッチな本は発見できなかった」
ガクってなった
女の入れ知恵だろう
いつか必ずお返ししてやる
男「そんなの無いよ」
少女「女ちゃんの話では無くても捜索するのが彼女の役目らしいが……」
男「そんな役目はない、断じて」
少女「そうなのか、また騙された」
男「また?」
少女「うん、この前は……」
二人でいる緊張感も忘れて楽しく話していたら、やがて母から声がかかる
三人でカレーを食べながら談笑した
母も彼女を気に入ったらしい
母「それじゃ彼女さんは爆弾娘って呼ばれてるの?」
男「転校してきて初日に『爆発する』って言い出してさ」
母「恥ずかしすぎて爆発しそうになることあるわね~」
男「そうそう、それに……」
少女「恥ずかしい」
母「ごめんね、この子も子供の頃ね~」
男「その話は止めてよ、母さん」
母「あ、もうこんな時間、送ってあげなさい」
男「ああ、行こうか」
少女「楽しかった、ありがとうお母さん」
母「あらやだ、もっとお母さんって呼ばれたい!」
男「はいはい」
母と彼女が親密なのは良いことだけど、色々バラされたら痛い
すぐにでも逃げよう
僕は彼女を送る
そして
また手を握った
胸はドキドキ、彼女の手は温かい
彼女もなんだか嬉しそうに見える
色々話したいこともあったけれど今はそれよりこうして何も話さずに彼女の手を感じていたい
少女「もう金木犀が香りだしたね」
男「本当だ……強い香りだけど好きだな」
少女「私も好きだ」
男「そう言えば言ってなかった」
少女「何を?」
男「好きだ」
少女「んっ」
我ながら変なタイミングだと思った
彼女の答えは……
少女「私も……好き」
もうすぐ彼女の家に着いてしまう
その前にまた公園に立ち寄ろう
二人で居たい
何も言わずに二人で公園に入って、ベンチに座る
男「そろそろ夜は冷え込んでくるね」
少女「そうだね……」
少女「寒いからこうしたい」
彼女が僕に肩を寄せてくる
僕は彼女を抱きしめる
この時に終わりが来るとしても、今はこうして居たかった
しかしそれからも僕らの平和な時間は続いた
女「男~、今日どっか遊びに行こうよ?」
男「ああ、他は?」
女「いつものメンバーだよ」
友「たまには眼鏡も誘うか?」
男「そうだね」
少女「皆で出掛けるのか?」
女「モールの方行ってみる?」
男「そうだな、あっちは行った事無かったっけ?」
少女「うん」
友「楽しいよ~」
少女「楽しみだ」
女友「まあゲーセンとかお店回るだけだけどね」
女「たまにはいいじゃん」
女友「いつものとこじゃマンネリだしね~」
眼鏡「私も久しぶりに行くなあ」
少女「眼鏡さんとお出掛けは初めてかも」
眼鏡「初デート……うしゃしゃ」
男「そう言えばデートらしいデートしてなかったな」
女「何!キスまでしたのに?」
少女「頬にだよ!」
男「あ~あ、女に話しちゃったか~」
友「世界中の人に知られるぞ」
女「そこまでお喋りじゃないよ!?」
眼鏡「私ならネットで拡散……」
男「やめてくれよ!?」
みんなで騒いでいる間にショッピングモールに着いた
男「う~ん」
女「何悩んでんのよ?」
男「どこにデートに行こうかと」
女「寒くなってきたから室内でデートとか~」
男「室内か……」
女「私がコース組もうか?」
男「アイデアだけくれたら良いよ」
眼鏡「浮気とはけしからんけしからん」
男「してないよ!」
眼鏡「少女ちゃんゲットのチャンス!」
男「やめて~!」
女「真面目な話彼女スポーツ万能だしボウリングとか体動かす系が良いかもよ?」
男「ふむふむ、参考になる」
少女「私なんでも良いよ」
男「聞いてた?」
少女「うん、楽しみ」
女「そうだ、登山なんか良いんじゃない?」
男「そろそろ紅葉シーズンだし、良いかも」
少女「じゃあそうしよう」
少女「私が爆発しても被害が少ない山に行こう」
女「久々に聞いたよそれ」
少女「どっかーん」
女「きゃー、バラバラ」
男「何その遊び」
女友「爆発ごっこ」
男「流行ってるの?」
眼鏡「少女ちゃんがどっかーんと言ったら皆がリアクションしないといけない禁断の遊び」
男(遊んじゃってて本当に爆発したり……しないよな)
少女「どっかーん」
男「うわあー」
友「俺も混ぜてくれよ~」
少女「みんなでどっかーん」
女友「ひゅ~、どっかーん」
友「花火かよ」
男「友は既にバラバラだ」
友「なにそれこわい」
少女「私は特定のバイオ薬を服用しない限り爆発しない、誤爆は有り得ない」
女「少女ちゃんの不思議設定は細かいね~」
男(そうなんだ)
女「まあ本当に人間が核爆発に匹敵する爆発したらテロが酷い事になりそう」
男(……そう言う組織が彼女を作ったのかな……?)
男(ただ身体能力が高いだけの女の子なら良いのにな……)
女友「何黙っちゃってんの?」
男「僕も爆発する設定考えてた、頭頂部にスイッチあるとか」
女友「マジマジ?えいやっ」
男「どっかーん」
少女「きゃー」
女「ばらばら」
友「うわあ~」
眼鏡「眼鏡がはじけた」
女友「みんなバラバラになってしまった。 生き残ったのは私だけ……」
男(本当に爆発したらどこにいても助からないだろうな)
男(でも、彼女が爆発しなきゃいけない日は来ない)
男(彼女の秘密が守られるか、追っ手と僕が戦えばいい)
男「体鍛えておかないとな~」
女「何唐突に」
男「だって彼女が爆発しないように僕が戦わないと」
女「お、漢だね~」
男「不良くらいには勝ちたいな~」
女「彼女不良二人も楽勝だったけど?」
男「強過ぎだよね」
男(軽々と三メートルを超えるジャンプが出来るもんなあ……)
比べてはいけないのかも知れない
絶対あそこまで強くなんかなれない
ショッピングモールを一周して僕らはバラバラに帰ることにした
女たちは買い物を続け、僕と彼女は一緒に帰り、友は何故か眼鏡と帰った
友と眼鏡とは胡散臭い取り合わせだが、今の僕は彼女と二人きりになれた幸せでいっぱいだ
また手を握る
またドキドキしている
不思議だ
いつまでもこんな風にドキドキするのかな?
この幸せはいつまでも続くのかな?
彼女と僕は山登りの話をした後、公園で別れた
紅葉が始まったとニュースで流れ始めた
僕らはついに二人で山登り計画を実行に移すことにした
まず僕の部屋で細かい計画を話し合う
少女「人の少ない所で窪地になっていて、安全に爆発できそうな所を見つけた」
男「なんで爆発するの前提?」
少女「機密を守らなければ、私がテロに使われたら世界が滅茶苦茶になるのは解るだろう」
男「そうかも知れないけど……」
僕は最近筋トレを始めていた
どうにか彼女を守るために、心も体も頭も、もっと強くしたかった
だから爆発することが決まっているように言う彼女が、寂しかった
男「そもそもどう言う原理で爆発するのさ?」
少女「生物学的元素転換で核物質を体内で合成したり、同原理の応用で核融合反応を起こす」
男「そんなこと可能なら大ニュースになってると思うけど」
少女「逆だ、出来るから隠蔽された」
少女「私を作った機関も国家機関だったと言う話だ」
男「じゃあ情報は闇に葬られるわけだ」
少女「複雑な利権も絡むし、研究が遅れたらそれこそ致命的な大研究なんだ」
少女「だから世界中で秘密裏に研究が行われている」
何か信憑性が増した気がする
彼女の説明は淀みがなかったし矛盾点も僕には感じられなかった
しかしそうなると、彼女を狙う者も一人や二人ではあるまい
それこそ世界中の組織が狙っているかも知れない
彼女自身の身体能力が異常に高いのも、機密を守るために生物学的に改造されているのだとしたら頷ける
少女「私のような存在は、私一人でいい」
少女「博士は私の情報を全て焼却し、隠れ住む方法を選んだ」
男「でも実際君が生まれたなら、時間の問題で他の国も君みたいな子を作るかもよ?」
少女「どこの国も核テロリズムの標的になんかされたくないだろうし、データはどこの国も公にはしないだろう」
少女「結果使われるとしたら、戦争だ」
戦争……平和ボケの僕には遠い世界のお話に聞こえる
でも彼女を手に入れたら?
誰にも分からないように戦争を始め、終わらせることが出来る
敵がなんであれ、容易にできるだろう
恐ろしい話だった
男「でも僕は、君に爆発して欲しくない」
男「恐いからでも命が惜しいからでもない」
男「好きだから……」
少女「……ありがとう」
少女「私の彼氏はかっこいい」
そんなこと言われたら僕の顔が爆発する
山登りの計画をまとめると、次に僕らは買い物の計画を立てた
登山グッズと言っても軽い装備だが、新しく買い足さないと駄目な物も多い
お金には問題ないと、彼女は言う
多分博士には貯えがあったのだろう
彼女が自由に生きられる程度の……
もしその貯えが無くなるなら、僕が彼女たちを養わなければ
僕は彼女を家に送り、自分の家に戻ると勉強を始めた
ふとパソコンで彼女に聞いた言葉を調べてみる
生物学的元素転換……
なんと何件もヒットした
セシウムを無害化出来る、とか最後の錬金術、だとか、怪しげな言葉が並んでいる
研究していたのはかなり実績のある科学者だったようで、ノーベル賞候補にもなったらしい
現在でも僅かに研究されてはいるものの、とんでも学説の扱いを受けているようだ
当たり前だ
彼女の言ってることが本当なら人間が手を着けて良い世界を大きく超えている
人類の倫理が未完成の世界でこんな……
彼女が世界に出てしまったら……
僕はそっとパソコンの電源を落として、勉強を再開した
ご飯を食べ、筋トレをして、お風呂に入って寝る
そんな生活を続けていると、少し身体つきも変わっていく
小さいのは仕方がないが
そして彼女と買い出しに出掛ける日が来た
これもデートだな、と考えると少し顔が熱くなる
浮き上がるような気分で家を出ると、いつもの公園に向かう
彼女が桃色の笑顔で手を振ってきた
可愛いなあ、もう!
僕が、初めてのデートだね、と言うと
桃色の顔が真っ赤になった
彼女が人間じゃないわけがない
普通に暮らさせてあげたい
僕たちは普通の、初めてのデートを開始した
男「登山グッズってどこで売ってるんだろう」
少女「ホームセンターやアウトドアグッズ専門店で売ってるらしい」
少女「あと初心者は専門的な装備を揃えなくても良いって」
少女「とりあえず靴と懐中電灯、リュックは必要らしい」
男「火とか起こせた方が良いのかな?」
少女「遭難した時のために火を起こす装備は必須」
男「遭難はしたくないけど、隠れ住めるような所に行ってみたいな~」
少女「木を隠すなら森の中、田舎より都会の方が隠れやすいらしい」
だから彼女は僕たちの町に来たんだよな
僕は思う
今まで生きてきて、町に感謝したのは初めてだ
男「でもサバイバルも面白そうなんだけどな~」
少女「防寒装備が無いと、これからの時期は厳しいかもね」
男「そっか、寒いよね」
少女「ふふ、あなたとならサバイバルも幸せそう」
男「そうかも知れないね」
僕は彼女と見つめ合う
だけどここは街中だ
二人で顔を真っ赤にして、手を繋いで歩いた
アウトドアグッズと看板に書かれた店に二人で入っていく
寝袋や何か鉄製の器具がいくつも置いてあるが、この辺りは必要ないだろう
懐中電灯も高い
こんなに高いのは必要ない気がする
結局何も買わずに店を出た
ちょっと罪悪感を感じるけれど
少女「ホームセンターに行ってみよう」
男「うん」
ホームセンターには意外と色々なアウトドアグッズが揃っている
カッパや懐中電灯に、寝袋からテントまで置いてある
少女「必要な物はだいたい揃っちゃうね」
男「そうだなあ、最初にこっちに来たら良かったかな?」
少女「でも一緒に色々探すのは楽しかった」
男「僕も!」
これがデートなのを忘れてた
一通り買い物を終えると、僕は彼女とハンバーガーを食べることにした
安いけど、すごく美味しく感じる
二人でお互いの食べている物がどんな味だとか話しているだけで幸せを感じる
男「この後どうする?」
少女「映画とか見てみたいかな」
男「行こう!」
少女「本当?」
彼女は多分あまり外出していないんだろう
僕たちが誘わなければ
映画……
彼女と映画!?
少女「わくわくする……」
僕たちはとりあえず今流行の戦争映画を見に入った
評判は良い映画だから、おそらく外れはないだろう
デート向きかは分からないけれど
映画は恋愛描写の後、戦争が起こり、最後は恋敵との戦闘で終わるという物語だった
感動しつつも良くある話だな、と、僕は思ったが
彼女は涙を流していた
綺麗だ……
少女「あは、私泣きすぎだな!」
僕は何も言えなかった
だって可愛すぎる
僕は悶え死にそうになりながら次のプランを考えた
帰りにまたあの公園に寄ろう
何か食べながらでもいい
少女「もう終わりなんだな、初デート」
そうだよね、何かもったいない気がする
コンビニで適当に食べ物を買い、公園まで走って行く
彼女は寒そうにしている
百テラジュールの熱量も、彼女を暖められないなら意味がない
僕は彼女を抱きしめた
少女「……」
白い肌が真っ赤だ
それだけで嬉しくなる
コーヒーを飲みながら、彼女に肩を当てる
彼女も僕に肩を当てる
吹き飛ぶかと思ったが踏ん張った
なんて不便なエネルギーの持ち主なんだろう
笑った
二人で笑った
何もないのに、楽しかった
終わらないと、いいな
二人で公園のベンチで肩を寄せ合っていると、知らない女性が近付いてきた
少女は僕の肩に頭を乗せて眠っているように動かない
それを正面から女性に見つめられて、恥ずかしくて赤くなる
博士「君が男君か」
男「はい!?」
その瞬間気がついた
この人が彼女のお母さん、博士だ
彼女は目を覚ますと、博士を見た
少女「あ、お母さん」
博士「うひっ」
何か嫌な予感が迸った
博士「いい男じゃないか我が娘!」
少女「抜かりない」
彼女はグッと親指を立てる
博士「君ぃ!実験してみないかね!」
マッドサイエンティストだ
僕の直感が危機を告げる
博士「遺伝子変えてみないかね? 爆弾抱えてみないかね?」
みません
博士はものすごく興奮しているようだ
少女の方は温もりが名残惜しいのか僕の右腕にしがみつく
待って、頭がまわらないよ!
右腕が暖かい!
前から変質者!
博士「いつもありがとうな……」
男「へう?!」
何か変な声が出た
博士「私は酷い人間だ」
博士「人間の遺伝子を弄んで……その子の人生も台無しにしてしまった」
男「……台無しになんかさせませんよ」
少女「私は今、幸せだ」
彼女の言葉を聞いて、彼女の母は優しい顔になった
博士「私の言いつけさえ守れば、何も悪いことは起こらない」
博士「いいか、その彼氏と幸せになりたかったら」
博士「私に何かがあっても見捨てること」
男「!」
そうか、如何にデータを消したとしても博士の記憶までは消せない
博士を誘拐し拷問にかければ……
僕はそこまで考えて、ぞっとした
男「み、見つからなければ良いんですよね」
博士「そうだな、戸籍は完全に改竄してある」
博士「私たちを探し出すのは砂漠から砂粒を探すほど難しいだろう」
博士「だがもし見つかったら、逃げろ」
博士「お前たち二人が生き抜けるだけの金はある」
少女「お母さんも一緒に」
男「そ、そうですよ」
博士「私と一緒だと人体実験するぞ?」
脅しか冗談か分からない
まさかいきなり解体はされないだろうけどやりそうな人だ
いやいや、まさか
少女「どうしても逃げられないなら誘拐に来た組織と一緒に爆発する」
男「爆発なんかさせないから……」
博士「……彼女を守ってやってくれ」
男「はい……彼女の方が強いですけど」
博士「ははっ、それはそうだ」
博士「並みの軍隊なら壊滅させられる程度は強くできてる」
……どうやっても彼女を超えるのは不可能だと思った
僕の役目は彼女の邪魔にならないように彼女を心で支えること
そう決めた
彼女たちと別れ、帰り道
今日のデートを思い出して、余韻に浸る
可愛かったなあ、彼女
次の休日に僕たちは山に行くことに決めた
学校で二人きりになるといつも前のデートの話と次のデートの話をしている
山登りの次はどこに行こうかな、なんて気の早い話をしてみたりもした
女「盛り上がってるね~」
男「おう」
少女「すごく楽しみだ」
男「ん」
少女「どうした?」
男「女にお返ししないとなって」
少女「そうだな、私たちを付き合わせてくれて、ありがとう」
彼女の真っ直ぐなお礼に、女は真っ赤になった
女との付き合いは中学からだが、こんな風に動揺したのを初めて見た
僕は追い討ちをかけてみた
男「女って誰か好きな人いないの?」
女「いないよ、みんなと遊んでるの楽しいし、恋愛は、私は、どうでも」
どうやら主導権はこちらにあるようだ
何かいいお返しのアイデアはないかな
男「誰もいないなら友と付き合ってみたら?」
女「ファッ!?」
女「じょじょじょじょ……」
女「冗談でしょあんなダメ男!」
うん、友達だけどそう思う
脈無しじゃ仕方ないな
女「あ、あいつがどうしてもって言うなら、か、考えなくも、ないかも……」
おや……?
そう言えば僕らはずっとグループで遊んでいたのに、女が少女と僕につき合うように言ってきたのは妙だ
グループの中にカップルが出来たらどうなるか
つまり女は僕には興味がない事を示し
恋愛に興味がある事を示した
あのグループの中で僕以外の男は友だけだ
ひょっとしたらずっと女は友が好きだったんじゃないだろうか
だとしたら友の方をその気にさせる必要があるだろう
女は強情なのだ
男「ま、この話は登山の後だな」
僕は女に助け船を出した
確実に女を落とすためには一度こちらが引いて見せるのは効果的だろう
女「そうね、まあこんな話もうしないで欲しいけどね」
動揺は隠せてないよ
女はくるりと背を向けると上機嫌で去っていった
僕らにまた新しい楽しみが出来た
少女「君は策士だったのだな」
男「もっと色々考えないとさ」
男「君を守るためにも……」
少女「ん……」
少女「ありがとう……ありがとうな」
僕は彼女を爆発させたりしない
絶対に
男「僕は君が好きだ」
少女「……ずるいな」
男「ずるいかな?」
少女「私からも言わせて欲しい……」
少女「あなたが好き」
心臓が止まるかと思った
もう一回は、好きと言われていたのに
何故かすごくドキドキした
男「……」
少女「……」
友「はいはいそこまで~!」
眼鏡「こんにちは、少女ちゃんフリー化連盟です」
なんか来た
友「公衆の面前でいちゃいちゃするなど二人の罪状はめいはくうううう!」
眼鏡「我々は少女ちゃんをゲットしたいと言う欲求を包み隠しもせず行動するものである!」
友「そこ言っちゃダメええええ!」
バカだった
僕はすかさず頭を回し、友も女も落とせる方法を考えた
まずは軽く
男「友さ、女と付き合ってみない?」
友「ファッ!?」
女とおんなじ反応した
眼鏡「貴様、我らが血盟を裂こうと画策するか!?」
眼鏡が邪魔だ
とりあえず無視するか
男「女の方は脈ありなんだけど、こういうことって男子から言うべきだと思うんだよな」
男「ほら、僕の場合逆だったからさ」
自分が不利になるかも知れない条件を梃子にして相手にダメージを与えていく
友「ででででででででで……」
友「でもあいつ凶悪だし!」
否定はしない
眼鏡「友殿!惑わされてはなりませぬ!これは奴の策略なりますぞ!」
眼鏡邪魔だな
僕はこっそり少女に耳打ちした
奴の眼鏡を奪い追いかけっこだ!
我ながら黒い
黒いな~
少女「ラジャ!」
少女は眼鏡からトレードマークを奪い、追いかけっこを始めた
もちろん少女を捕まえるのは不可能だ
少女「ほら、こっちだよ~」
眼鏡(眼鏡無し)「待って愛しのマイエンジェル!」
眼鏡って眼鏡取ったら可愛いじゃないか
恐らく視界が悪いのだろう、ふらふらと走る眼鏡を見送って
僕は友を落としに行く
男「女は友をずっと待ってるんだぞ」
男「モテたいとか言いながらお前は自分がヘタレだと思わないのか?」
友「ぐふうっ!」
ここでトドメを刺してしまうか
男「女が言ってたぞ」
男「友が好きって言ってくれたら素直になれる、って」
ギリギリ嘘では無いはずだ
友がガタガタ震え始めた
男「お膳立てはしてやる、お前は心を決めるだけだ!」
崖っぷちの友の背中を爽やかに押してやった
友「ししししし……し、仕方ねえな~~」
よし、勝った
僕は彼女との登山の後、二人をくっつけることにした
話がまとまった所で彼女が帰ってくる
少女「ただいま」
遙か後ろで眼鏡がぜえぜえと、今にも倒れそうな状態で帰ってきた
悪いな、彼女は僕のものだ
少女「私の彼はだーくさいどだったのだ」
男「だーくさいどではないよ」
少女「んふふ……」
少女「あなたのお陰で、毎日楽しい」
僕もだよ
僕らはまた、人目もはばからず抱き合ったりした
やがて登山デートの日になった
いい天気だった
僕は彼女といつもの公園で待ち合わせした
少女「いつも私の家の近くで待ち合わせで、悪いな」
男「気にしなくていいよ、ここまで歩く時間も楽しいし」
少女「そうか」
少女「いい天気だな……爆発日和だ」
なんとなく分かる
今回のは冗談だ
男「あはは、もう僕は手を繋いだだけで爆発する自信あるよ!」
少女「爆発したら困るけど、手を繋ぎたい……」
男「ん……」
手を繋いだ
なんで何回繋いでもドキドキするんだろう……
僕たちは近くの駅から電車に乗る
まずは色々食べ物を買い込んだ
二人でお弁当やおやつを選ぶのも、すごく楽しい
発車時刻よりかなり早く、僕らは駅のベンチに座る
体を寄せ合う
温かいって……幸せだ
電車が着き、彼女と座席に座る
発車までは二人でとりとめもない話をして、笑いあう
発車少し前に一つお菓子を開けてみた
少女「甘いね」
たった一言がなんだか心に染みる
男「お、動き出した」
少女「しゅっぱ~つ」
男「しゅっぱ~つ」
あはは、恥ずかしいよりなんだか楽しい!
変わりゆく景色は住宅地、商店街を経て、山の中へ向かう
まず住宅地
少女「高いマンションがいっぱいだな」
男「ああ言うとこ住みたい?」
少女「どうかなあ? 私は色々な所に行ってみたいな」
分かる気がする
二人で、色々な所で暮らしたい
この電車には何度も乗っているのだが、二人で見る景色は全く別の世界だった
商店街
男「あ、あそこ初デートした映画館」
少女「そうなんだ、電車から見るとなんだか違う感じだな!」
男「違う街みたいだよね」
彼女が歌う
少女「もっともっと走って、僕らの思い出を~、もっと楽しい世界に広げていって~♪」
少女はゲームなら無敵だ
別にリズム感が無いわけじゃない
今の歌は上手かった
男「……」
少女「あ、ごめん……下手な歌歌って……」
男「いやいや、上手かった」
少女「ほんとに?」
男「君の歌が下手だったのは曲を覚えてなかったからなんだよ、リズム感は抜群だもん」
少女「そ、そうか」
真っ赤だ、可愛い
僕は彼女と肩を重ねあった
……幸せだな……
男「まだ五つくらい駅があるんだよね」
少女「まだそんなに……」
少女「……爆発しちゃう」
僕もだよ
幸せだな~
美しい山々の合間に、海が見える
季節が一巡りして夏になれば、彼女の水着も見られるのかな
俄然やる気になってきた
例え敵が世界でも、僕らの世界は守り抜く!
二人を乗せた電車は山並みを縫っていく
いよいよ目的地が近い
僕らはもう一つお菓子を開けた
少女「普通の芋チップだけど、なんだろう」
男「すごく美味しいね、ただの塩味なのに」
少女「うん」
少女「あなたといると、なんで全てが美味しくて綺麗なんだろう……」
男「……」
僕だって同じだよ
目的地に着いた
これから更に山に登るんだな、と思っていると
君は元気に走り出す
秋の終わりに彩る山々が僕らを迎える
鮮やかに明るい
毎年訪れる季節、毎年違う景色
今だけの景色
足下は砂利道
山奥へ続く道
いくらかの家族連れやカップルの登山客を横目に、僕らは彼女が爆発できる窪地を目指した
風の匂いが心地いい……
温かい彼女の掌
少し寒い山の中で、唯一頼れるもののような気がする
小さな川が流れている
男「魚釣れるかな?」
少女「こういうとこでキャンプして、焼き魚とか食べたら美味しいだろうな……」
男「空気も最高だしね」
ずっと先まで僕らは一緒だ
だから僕はずっと先まで僕らのデートの計画を練ろう
道が少し悪い
君も少し歩きにくそうだ
僕が珍しく君をリードしている
男「気をつけて」
少女「うん」
風が少し冷たくなる
道を間違えたか、標高が高くなったのを感じる
男「爆発するならこの谷間かな?」
少女「そうだね、ちょっとここからだと降りづらそう」
男「まあ今回はもう少し登ってみようか」
少女「うん」
綺麗だ
鮮やかな紅葉
彼女もそれに気付き、二人でずっと下の森を眺めて
深呼吸する
彼女は被ってる帽子を押さえた
もう片方の手は僕が握って
君は山の下を見ている
その横顔も可愛い
僕はその時、一つの計画を思い付く
我ながら頭の悪い計画
男「もうすぐ山頂だよ」
少女「窪地を目指してたのに登っちゃったな」
男「山が綺麗だったからね」
少女「綺麗だった」
少女「綺麗だったね……」
山頂についた
僕らはそこから見える絶景に感激した
僕は少女に微笑みかける
彼女もまた
僕は
彼女を抱き寄せ、その唇に……キスをした
計画完了……
ん?あれ?
なんだか、自分が負けてる気がする
キスって、気持ちいい……
少女「ん……ぷはっ」
男「あ……」
男「ごめん、急に」
少女「ううん……」
少女「すごく……幸せ感じた……」
彼女は自分からもキスをしてきた
ああ、僕は彼女に完敗してた
好きだ
最初から負けてた
山頂でお弁当を食べると、僕らはそれから手を離すことなく山を降りていく
僕は君が見せる色々な顔が好きだ
君は僕の瞳が好きだという
僕たちはキスで何か変わったかな?
何も変わってない気もする
やっと山を降りた
不思議と体力を使った感覚がない
それどころか空も飛べそうだ
好きだ
好きだ
愛している
少女「……二回目のデートも、もうすぐ終わりか……」
男「また、デートしよう」
少女「楽しみ」
男「ずっとずっと、二人でいたい」
少女「私……」
少女「私は……」
少女「もう絶対爆発なんてしたくない……!」
僕は逆だった
君が爆発する運命の爆弾として生まれてきたと言うなら
一緒に死にたい
でも分かった
どんな運命を辿るとしても、僕たちは一緒だ
ずっとずっと一緒だ
男「……愛してるよ」
少女「……!」
少女「危うく爆発する所だった」
男「あははっ」
二人の周りには世界は無かった
二人の世界だけだった
僕たちはもう周りの景色など意識していなかった
ただ、キスした
時が止まるような
世界の全てが二人の物になるような……
電車が来るまでキスしてた
……流石に周りから見たらバカップルだったんじゃなかろうか
電車の中
二人で夕焼けを眺めた
二人でおやつを食べた
二人で笑いあった
もうすぐ今日が終わる
男「いつか旅行に行こうか?」
少女「行きたい」
男「近所の公園でも幸せだけど」
少女「うん、すごい好き」
一日が終わる
なんてもったいないんだろう
電車は止まる
僕たちはここから歩いて帰る
ちょっと公園に寄って
キスした
あれ、なんか僕たち壊れてる?
キスした
子供達が走り回ってる公園なんだけど
ベンチに座り、お互いの顔を見ていた
この子が好きなんだ
少女「……あなたが好き……」
男「君が、好きだ……」
どうしたらもっと世界が僕たちを認めてくれるだろう
どうしたら終わりの日が来ないのだろう
どうしたら
…………
次の日から、僕たちは女と友を結びつけることを目標にした
少女「私の彼氏が悪い顔をしている」
男「むしろキューピッドです」
少女「私はもう胸を撃たれてるが」
男「その愛を友と女に分けるんだよ」
少女「それは賛成」
柔らかな微笑み
可愛い
溶ける
なんとか固体としてふらふらしながら、友に向かう
男「恋愛って最高だぞ」
友「お前頭ショートしてねえか?」
しまった、あんまりにも自分自身が彼女にふらふらにされてしまっていた
今は女の為に頑張らないと
僕は深呼吸して冷静に作戦を思い出した
男「女を待たせてある」
友「お、おう」
男「恋愛したいだろ?」
友「う、おう」
男「昨日彼女と……キスした」
友「ほあああっ!?」
男「僕たちは幸せだ……」
果たして恋愛経験のない友に伝わるかは分からないが
自分にしては必殺の一撃を放った
友「きききききき……」
ああ、刺激強すぎたか
友「キスしたい!」
良かった、変態で
男「まあ待てよ、がっつくとモテないぞ」
まるで恋愛ベテランのように喋る自分がおかしくなくはない
男「まずは告白」
男「まずは告白だ」
友「う……」
女の気持ちは分かっている
友に対してはただ告白させるよう仕向けるだけだ
同時刻、僕の彼女は女を誘導
少女「待っていたらいい」
少女「恋愛って……すごいぞ!」
少女は今までにない圧力を放っている
女「う、うん」
女はいつも核弾頭のように先陣を切って突っ走るタイプだが、今回ばかりは恋愛の先輩である少女に従わざるを得ない
少女「なあ女……、キスってすごいな」
女「ななななななな……」
少女「あ、ごめん」
少女「でもキスって女が動揺するくらいすごいんだな」
女「男と……キスしたの?」
少女「十回くらいした」
女「じゅーーーーーーーーーっ!?」
少女「一日で……止まらなかった……止まれなかった……うふふっ」
女「……」
彼女の惚気が大爆発だ
女「余裕ぶって二人の恋愛をサポートしてたのに……」
少女「私が先輩だ」
女「よろしくしゃっす、先輩……」
少女「うふふ……」
少女「でも、恋愛って素敵だな!」
女「……」
女「そうかもね……」
女もその時はすごくドキドキしていたはずだ
僕らは知ってる
そのドキドキのエネルギーはすごい
少女「あ、来たな」
僕はゾンビを引っ張るようにふらつく友を引っ張っていく
男「しっかりしろよ」
友「でもよおお……」
男「ほら、二人とも待ってるから!」
男「お前がビシッと決めなきゃお話が始まらないだろ!」
友「ううう……」
友は大いにグズった
その友を無理矢理女の前に引きずり出す
と、女が一歩前に出る
女「友!」
女「私と付き合いなさい!」
男「……」
友「……」
男「ほあっ!?」
友「うきゃっ!?」
カウンターパンチを食らった
僕も友も妙な悲鳴を上げて凍りついた
女「いいの、駄目なの!?」
友「……参りました」
何故か友は降参した
流石は女だ
女が爆弾なら僕の彼女より破壊力があるかも知れない
少女「ふんふ~ん♪」
上機嫌な彼女
作戦としては上手くいったとは言い難いが、これでカップル成立だ
男「じゃ、ダブルデートすっか」
僕は二人の仲をより親密にするためにデートを提案した
少女「私の彼は抜かりないな」
男「まあいきなり二人っきりでデートするよりやりやすいだろうし」
少女「ドキドキし過ぎて死ぬ、爆発できる」
友「……」
友「俺大丈夫かなあ……」
男「どこまでもヘタレだな」
女「どこ行こっか?」
男「遊園地行ってみるか?」
少女「行ってみたい!」
友「遊園地……」
女「良いと思うな」
僕と彼女のデートとしても、初めての感動が味わえそう
僕らは四人でカフェに入り、計画を立てた
少女「山登りみたいに前準備がないのが少し寂しい気がする」
男「そうかもね」
女「下見しても仕方ないしなあ」
友「遊園地とかちょっと恥ずかしい……」
男「ヘタレめ」
女「ヘタレだね」
少女「これがヘタレか」
友「キュウ……」
男「そうだ、当日着ていく服を買いに行かないか?」
少女「良いな」
女「それが初デートかあ」
友「ドキドキする……色んな意味で」
男「いつものナンパしてた勢いはどこ行った?」
友「でもよお……」
友「くそっ、これ以上ヘタレてられん!」
男「おおっ」
少女「ようやく覚悟を決めた」
女「ちゃんとリードしてよね、ダーリン!」
友「ぐはあっ」
男「ああ、友が倒れた!」
女「もう、何年付き合ってんのよ!」
友と女は僕より古い付き合いのはずだ
それでも恋人となると勝手が違うんだろう
少女「女はこんなヘタレが彼氏で幸せなのか?」
少女の無垢な爆撃が友を吹き飛ばした
女「良いんだよ、グズでヘタレなのは十分知ってるし」
女は死体に爆薬を仕掛けて発破するタイプだった
男「もう友は虫の息なんだが……」
友「僕の遺骨は海にまいて下さい……ぐふっ」
もう完全に尻に敷かれるコースだよな、これ
女「友は面白いのがいいとこなんだよ」
友「……」
友「そっかあ?」
生き返った
やっぱり恋は偉大だな
そんなこんなで、四人で服を買いに出掛けることになった
買い物は次の日曜日、遊園地はその次の週の日曜日
それだけ決めると僕らはそれぞれ帰宅した
その時遥か後ろから黒塗りの怪しい車が近付いていたが、デートの話で盛り上がっていた僕らは気付くことがなかった
黒服A「あの女か?」
黒服B「分からんが、あの女が転校生らしい」
黒服A「大きな地域で転校生ってだけではなかなか絞り込むのも難しいな」
黒服B「今回もハズレかもな」
黒服A「そもそも学校には入ってない可能性もあるしな」
黒服A「だがもともと砂漠で砂粒を探すようなものなんだ」
黒服B「……本当に人間が核爆発なんかするのかねえ……?」
黒服A「政府の秘密研究所の職員が資料を焼却して脱走したんだ、それなりの理由があったんだろうよ」
黒服A「調べる価値はある」
黒服B「それが上の判断か」
黒服A「ただの一般人なら不味い、慎重に行くぞ」
黒服B「だな」
僕らはまるで気付かなかった
空が少し曇り始めたことに
待ちわびた日曜日になった
彼女とは公園で待ち合わせ、女たちが待っている学校まで二人で手を繋いで歩く
毎日ドキドキしてるなあ
少女「楽しみだな!」
男「うん、君はどんな服が似合うかな?」
学校に着くと、友と女は深刻そうな顔をしていた
男「どうした?」
女「うん、なんかストーカーがいるみたいなんだ」
女「変な黒服の二人組なんだけど……」
男「二人組でストーカー?」
少女に遂に追跡者が現れたのかも知れない
事前に知れたのは良いことだが、もちろん本当に女をストーキングしてる可能性はある
男「警察には?」
女「一応電話を入れたけど、なんだか真剣に聞いてくれてる感じじゃなかったな」
男「心当たり無いんだもんな……」
女「そうなんだよ」
こっちには心当たりが有るのだが
彼女が作られたのは国家機関と言う話だから、国家の追跡者が対象を間違うとは考えにくい
別の組織かストーカーなら犯罪者として告発してしまえばいい
男「度々ストーキングされるようなら直に警察に行くしかないな」
男「友、毎日女と帰ってやれよ」
友「分かった」
ヘタレでも流石に彼女を守る為には躊躇しないようだ
今回はここまでです
色々デートさせて終わりをのばすことも考えていますが、短く終わるかもしれません
最後のシーンだけは考えています
途中で改行しすぎって三回くらい怒られた……
おい
ハッピーエンド以外認めないぞ
おい
ハッピーエンド以外認めないぞ
>>57-58
ハッピーエンドになるかバッドエンドになるかは秘密ですが、もうちょっといちゃいちゃしますので……
ゆっくり更新します
男「とりあえずさ、四人居たら襲われたりはしないだろ」
男「初めてのデートなんだから、楽しく行こう!」
僕の言葉で二人は状況を思い出したようで、赤くなる
四人でショッピングモールに向かう
僕と彼女が手を繋いでいると、二人もそわそわし始めた
男「手くらい繋げばいいのに」
女「う、そうよね……」
そう言えば色々女にはお返ししなくてはならない事があったっけ
僕は彼女を抱き寄せて見せた
友「うお……」
女「もう完璧に恋人同士だね……」
少女「幸せだぞ?」
彼女は攻撃力高いな
女「う~」
流石の女も踏み切れないでいるようだ
しかし友は
友「しししし……仕方ないな……」
震えながらも女の手を取った
やるじゃないか
女「うわっ、なんかじっとりしてる」
友「女だって汗かいてるじゃんか!」
少しずつ距離も縮まって行くんだろうけど、今の二人ではこんなものかも知れない
僕は再び彼女と手を繋いで、ちょっと駆けだしてみた
友「お、おい、待てよ」
男「ははっ!」
少女「あははっ!」
女「行くよ、ほら」
友「お、おう」
ダブルデートって意外に面白い
僕と彼女も楽しいし、二人も早く仲良くなれるだろうし
少女「服、どんなのが良いかな?」
女「もう暖かい服じゃないと辛いよね、冬物探そうか?」
服を選びはじめると女は余裕を取り戻したようだ
もう少し混乱してたら面白かったのに
友「服か~」
男「友はあんまりこだわりないのか?」
友「こういう所より古着とかのが好きなんだよな」
男「ああ、逆か」
女「古着なんてやめてよ?」
友「仕方ないな……」
まあここはそれぞれの彼女に合わせるべきだろう
男「僕はどんな服が似合うと思う?」
少女「黒系かな?」
女「黒ばっかりも面白くないから藍色とか入れてみるとか」
男「ああ、なるほど」
友「じゃあこっちの……」
少女「私はどんなのが似合うかな?」
男「白、絶対白」
女「転校してきた時のワンピ似合ってたもんね~」
男「そう、雪の妖精みたいだった」
少女「そうか」
あ、赤くなった
友「女は赤だな」
女「返り血の色が分からないからね、っておい」
男「黒の方が分からないぞ」
女「別に返り血の色は隠さなくて良いから!」
少女「女は今まで何人殺したんだ?」
女「ん~、だいたい……って殺してないわっ!」
男「そうだよ、闇に葬ってるんだよ」
女「同じだっ!」
友「そうだよな、殴ったら死んだだけで」
女「どこのゴリラだっ!」
少女「女は面白いな」
彼女が笑うと女も笑い出した
四人でいるとにぎやかだな~
まあちょっと彼女と二人きりになりたい気持ちもあるけれど
お昼になったのでレストランに入る
ここで僕は提案してみた
男「二人ずつで席分けない?」
女「え~、ん~、まあ仕方ないか」
友「二人きりか……」
少女「まあ同じ店に入るんだ、いいじゃないか」
どうも彼女も僕と同じ気持ちだったようだ
二人ずつ別れて店に入る
席は隣になった
あんまり変わらないかな?
でも店内はにぎやかで、隣の席でも声はあまり聞こえない
男「何食べる?」
少女「たらこパスタ!」
男「好きなの?」
少女「うん~、和風なのが好き」
男「まあ全く和風でなくもないけど」
男「じゃあ僕も何か和風のメニューにするからお互いのを食べてみようか」
女「……あっちはレベル高いなあ」
友「もうキスまでしてるんだもんな……」
女「うう……とてもそこまでは行けない」
友「だ、段階を踏まなきゃな」
女「……そう言えば私あの子に、送ってもらったお礼に頬にキスしなさい、とか手を繋ぎなさい、とか色々アドバイスしたんだよね~」
友「人にアドバイスするのと自分がやるのは違うわな……」
女「ま、まあしばらくは、ね」
友「ま、まあな」
女たちの話が少し聞こえた
あのキスも女の仕込みだったのか
それもそうか
少女「女の作戦は大成功だった」
男「大成功だったね」
少女「……唇にキスは言われてやったわけじゃないが」
男「……そうだね」
少女「……ちゅっ」
男「わっ!」
いきなりキスされてびっくり
短いキスだったけど、ドキドキする
男「意外と大胆だね」
少女「……」
真っ赤だ
自分でしてきたのに、可愛いな~
女「……」
友「……見せつけられたな……」
女「恐ろしい……恋は人をあそこまで変えるのか……」
友「恐ろしいな……」
注文したメニューが少しずつ出されてくる
僕のは塩鯖定食だ
少女「ん~、いい香りだな」
男「少し食べてみる?」
僕は少し鯖を割いて、自分の箸で彼女の口に運ぶ
少女「ん、美味しい」
女「……レベル高い……レベル違いすぎる……」
友「……こ、こっちに集中するか」
女「そ、そうだね」
あちらの二人も自分たちの食事を始めたようだ
男「うん、美味しい」
少女「美味しいね、これ少し食べるか?」
男「いただきます」
かなり積極的になってる僕たち二人
これも女たちのお陰かな?
ダブルデートは僕たちにも良い影響が有ったようだ
食事を終えると僕らは十分な買い物を済ませて、それぞれ家路に着く
男「くれぐれも気をつけろよ、友」
友「ああ、忘れてないよ」
女「ありがとう、友」
友「お、おう」
少女「今日だけでも私が着いて行くか?」
女「いや、それは二人に悪いから」
男「悪いな、気を使わせたみたいで」
女「友が居たらそうそう手を出せないと思うし」
男「そうだな、見た目だけならヘタレに見えないからな」
友「骨の髄がヘタレなだけで……ってほっとけ」
男「自分で言うな」
少女「あははっ」
でもこれは本当なら僕たち二人の問題だ
友たち二人に迷惑がかからなければ良いのだが……
帰りに色々と彼女と話をする
男「平日に一度女の家まで行ってみるか」
少女「後を着いて行くんだな?」
男「うん、出来ればさっさと捕まえて警察に突き出したい」
少女「私が捕まえよう」
男「いや、君の力がバレたらまずい」
少女「そうか……、難しいな」
男「とりあえずその二人組がストーキングしてる証拠写真でも撮って警察に見せる」
少女「なるほどな」
だいたい彼女を狙うような組織がまともな組織のはずがない
拳銃でも出てくれば刑務所行きだ
危険だが、最初から分かっていること……
何か僕は少し度胸がついた気がする
隣にいつも爆弾がいるんだから
大好きな爆弾が
少女「またそうやってじっと見つめる……ずるい……」
男「はは、だって可愛いんだもの」
少女「ずるいずるい」
彼女はポカポカと殴ってくる
本気で殴られたら骨が折れるだろうが、ちゃんと手加減してくれてる
それでも痛いけど
男「あいたたた……」
少女「知らないっ」
男「仕返しっ」
僕は彼女にキスする
少女「……本当、ずるい」
男「お昼の分の仕返し」
少女「あはは……思い出すと恥ずかしい」
彼女の家に着くまで、ずっとこんな調子で
変なストーカーの話さえ無ければ、幸せだったのになあ……
絶対ぶっちめてやる!
次の日、女たちとも打ち合わせして、二人の後から女の家に向かう事にした
組み合わせを変えて、彼女と女が先に行き、後から僕と友で追跡する事にした
友「少女ちゃんが一番強いしな……」
男「しかも相手が油断するだろうし」
女「うん、良い作戦」
少女「よし、行くか」
男「週末までに片を付けたいな」
女「だね!」
二人が校門を出てしばらくすると、黒い車が止まって、黒服の男が一人降りてくる
僕はそのシーンを写真に撮り、車のナンバーも写真に収めた
友「お前盗撮の才能あるんじゃね?」
男「そんな才能はいらないな」
しかし黒服って目立つな
よくあんな格好でストーキングするよ
バレバレじゃないか
相手方が三流の組織なら簡単に潰せるかも知れない
根っこまで引っこ抜いてやる
この時、僕は少し簡単に考えすぎていたかも知れない
とりあえず女たちは無事に家まで着いた
彼女がこちらに駆けてくる
間にいる黒服の横を素知らぬ顔で通り過ぎる
彼女の写真を撮るふりをして黒服を撮った
黒服は慌てて顔を逸らす
もう遅いが
少女「ダーリン!」
……新鮮だ
彼女が僕に抱きついてくる
そのまま僕たちは友と三人で家路に
着くふりをして、交番に向かった
警官が話を聞いてくれるが、流石にこれだけでは逮捕できないらしい
男「職質だけでも良いんですが……」
警官「そうだねえ、とりあえず君たちの連絡先を教えて」
ここは正直に教えるしかない
とりあえず僕の携帯番号と住所、学校を教える
警官「約束はできないけど、君たちの帰宅する時間帯にパトロールはしてみるよ」
男「ありがとうございます」
やはりこれで安心、とはならないようだ
それと同時に僕は嫌な想像をしてしまう
女が転校生じゃないとばれるのは時間の問題じゃないか……
今日彼女は黒服に顔を見られてしまった……
男「すみませんお巡りさん、彼女の家もパトロールしてもらえませんか?」
警官「?」
警官「話が見えないな」
それは当然だ
僕は頭を回す
男「もしこいつらが女さんを狙っているなら友達の彼女を誘拐して言うことを聞かせようとするかも分からないですから」
警官「ん~、ストーカーの狙いも分からんから有り得ないとは言えないけど、それだけで人を割くのはなあ……」
困った
そうだ、それなら
男「学校の方をパトロールするのはどうでしょうか?」
警官「なるほど」
警官「分かった、学校の巡回をしてみよう」
男「ありがとうございます!」
職質しただけでボロを出すとは思えないが、警察に睨まれたら派手なことはできないはずだ
とりあえずはこれで良しとするしかない
少女「私があいつらをやっつけられたら簡単なんだがな……」
男「確かに」
友「覆面して襲うとか」
警官「よく君ら警官の前でそんな話できるな」
男「でも正当防衛なら良いですよね?」
警官「まあ、やりすぎなければね」
そうだ、もっと色々考えておくべきだ
最悪彼女の正体がばれても、組織さえ解体させられるならそれでいいんだ
僕たちはそれぞれ帰宅する
ただ、僕は念の為彼女を送る
……本当は二人でいたいだけだけど
少女「友も気をつけろ」
友「ああ、じゃあまた明日!」
男「ああ」
友と別れるとまた二人で手を繋いだり、キスをしたり……
女と友には悪いけど幸せだ
いつもの公園で二人でベンチに座る
少女「私たちの問題だ」
男「うん」
少女「私たちであいつらをストーキングできないだろうか?」
意外な発想だが、向こうは車だ
発信機でも付けられたら別だが、そもそもいちいち組織まで帰らずにホテルなどに泊まっているかも知れない
男「……無理かな」
そもそもこちらから動かなければ諦めて他に行くかも知れない
そうだ、こちらが尻尾を出さなければ分かるはずがない
我慢比べになるのは癪に触るが、我慢するしかない
彼女を探す組織が現れる度戦うわけにもいかない
警官に連絡先をもらっているし、本当に危険なら彼女もいる
男「とにかく今は我慢するしかない」
少女「悔しいな」
少女「私の百テラジュールはこんな時にマッチほども役に立たない……」
それは仕方が無いことだ
まさかあの二人を倒すために爆発するわけにもいかない
男「僕も何もできなくて悔しい」
少女「……いっそ捕まってしまうか?」
男「危なすぎるよ……」
……いや、ひょとしたらそういう作戦も有るのか
…………
博士「二人で何を話してるんだ?」
男「あ、お母さん……」
博士「うひっ!」
博士「い~い響きだ~!」
博士の変態的態度にはあえて触れず、ストーカーのことを彼女に話してみる
博士「ふむ、簡単じゃないか」
博士「私が捕まればいい」
男「それは危険すぎますって!」
博士「ふむ、まあいい」
博士「君たちだけが悩む必要はない、とりあえず週末のデートは何も気にせずに行ってこい」
博士「向こうもそんなに不確かな情報にいつまでもしがみついていないさ」
男「そうでしょうけど……」
博士「まあそんなことより男君、この子のことなんだが……」
少女「私?」
博士「普通に人間と生殖できるからそこは心配するな」
男「考えたこともないよ!」
なぜ自分の周りの保護者たちはこんな人物ばかりなんだろうか
博士「純愛か……いいな、それも」
そこまで一緒か
そして僕たちは何もできないまま、週末を迎えた
男「もう、今日はめちゃくちゃ楽しむぞ!」
女「もち!」
友「とりあえずお巡りさんのお陰で学校にはストーカー来なくなったしな」
少女「……楽しみだ」
男「まあ遊園地で襲ってくる程バカじゃないだろ」
女「逆に捕まえられるよね」
少女「こんな幸せな日に襲ってきたら全身の骨を砕いてやる!」
怖い怖い
彼女ならできるのが怖い
友「期末試験前のストレスも解消するぞ!」
男「思い出させるな!」
女「次のデートは勉強会だね」
少女「それも楽しそう!」
男「じゃあ今日は遊ぶぞ!」
友「おう!」
女「おーっ!」
少女「わ~いっ!」
むう、やっぱり二人で来たかったかも
彼女の可愛さに悶えたい!
男「よし、今日は半日は四人で、残りは二人で回ろう!」
女「ああ、それでいいよ」
友「二人っきりになったら絞め殺される!」
女「ふふ、今すぐ絞めるよ?」
少女「まあ二人のコントは置いといて」
変わったな……彼女
男「せっかく晴れたし楽しもう」
少女「うん!」
まず四人で向かったのは定番のジェットコースターだ
正直僕も苦手だが、彼女たちはノリノリだからこれは外せない……
友「ひいいい……」
あ、僕よりヘタレがいたか
少女「ヘタレ~!」
女「ヘタレ~!」
友「うう、ぐすんぐすん」
男「まあ僕もちょっと怖いけど」
少女「大丈夫だよ、何かあったら私が助ける!」
そんなに高性能なのか?
女「出たね、少女ちゃんジョーク」
友「本当に乗るんだな?地獄行きの列車に」
男「怯えすぎてて引くわ」
結局女性陣の意見に逆らうことはできず、僕らは何分間か恐怖を味わうことになった
まあ安全なのは分かってるんだが
その後も色々なアトラクションを巡り、マスコットキャラクターと写真を撮り、ティーカップで回ったりして、お昼になった
友「酔った」
うん、予想通りの展開だ
男「午後は僕らは植物園の方に行こう」
少女「植物も好きだからいいよ」
女「私らはもうちょっとアトラクション回ろうか」
友「死ぬ」
男「まあ適当なところで解放してやって?」
女「仕方ないな~」
そう言えば最近彼女の好きなものがどんどん分かってきた
子供が好き
和食が好き
植物が好き
核ミサイルだけじゃないんだ
普通の女の子のようにちゃんと色々好きなものがあるんだ
男「他に好きなものってある?」
少女「桃のジュースとか好きかな~?」
男「趣味はなんか増えた?」
少女「最近映画のDVD良く観るよ」
男「どんな映画?」
少女「恋愛物が多いかな」
男「観て泣いてるの?」
少女「いじわるい、泣いてるけど」
少女「あ、音楽も聞いてるよ?」
男「どんな?」
少女「女ちゃんにすすめられて女の子の歌聞いてる」
男「カラオケ用か」
少女「こ、今度は上手く歌うもん……」
どんどん君は普通の子になっていく
それが何故か幸せだ
君は今まで知らなかった沢山の世界を知っていく
僕らといる事で
君の世界をこれからも広げて行こう
みんなで
少女「私も大分変わったな……」
男「いい変化だと思うよ」
少女「私もそう思う」
少女「でも変わらないことも多いかな?」
男「どんなこと?」
彼女は僕の手を握る
少女「これだけで、ドキドキする」
……
僕もだ
変わらないのも良いことだな……
女「ご飯行こう~」
男「何食べる?」
友「こういう所ってなんでも高いからなあ」
少女「ん~、そこでハンバーガー売ってるけど」
女「こういう所のハンバーガーは不味い」
男「高い上に不味いよな」
女「まあいっか、他に無さそうだし」
男「コーヒーあるかな?」
少女「君はコーヒー好きだな」
男「甘い奴だけど」
女「太るよ?」
男「ブラック飲もうかな……」
少女「太っても好き」
男「僕が嫌だな~」
友「う~ん、ホットドッグにするか」
男「あ、僕も」
女「じゃあ私はこのベーコンサンド」
少女「ん~、どれが美味しいかな~」
女「フィッシュバーガーあるよ」
少女「あ、それにする~」
男「魚も好き?」
少女「見るのも食べるのも好き」
男「また一つ君の好きなものが分かったな」
少女「シーフードはだいたい好きだよ」
四人でテーブルに着くと集合時間と場所を決めてからご飯を食べた
うん、不味い
少女「塩気も何もない……魚のたんぱくな味しかしない……」
男「それも不味そうだな」
コーヒーもアメリカンで香りも悪い
ブラックで飲んだら駄目なコーヒーだな……
友たち二人と別れ、僕らは植物園に行く
良く知らない南国の植物や花がたくさんある
少女「秋だから菊の花を展示してある」
男「詳しいの?」
少女「あんまり詳しくない、動物の方が詳しい」
男「へえ……」
男「今度は水族館や動物園もデートコースにしようか?」
少女「いいね」
彼女と二人で散歩するのも楽しい
途中で池や南国の野鳥を見ながら歩く
明るい花のたくさん咲いてる場所でベンチに座る
男「最後に観覧車に乗って帰ろうか?」
少女「うん」
なんとなくほっとしてる
何もなくこうやって二人で居られるのが、嬉しい
この先また何かの組織が来ても、二人ならきっと乗り越えられる
そう思えた
少女「……」
少女「結構色んな音がしてるのに、静かだ……」
男「心が静かなんだろうね」
少女「今日も幸せで、楽しい」
男「僕もだよ」
少女「いつまでも続くかな?」
男「いつまでも」
やがて夕暮れ時が近付いてくる
男「観覧車行こうか」
少女「うん」
二人で観覧車に乗る
男「もっと色んなアトラクション回っても良かったかな?」
少女「充分楽しかったよ」
男「ならよかった」
少女「観覧車止まったらどうする?」
男「キスする」
少女「止まらないとしないの?」
男「止まらなくてもするけど」
彼女は赤くなって遠くを眺める
夕日が綺麗だ
別に観覧車が止まってしまっても良かった
最後まで二人で居たい
頂上についたあたりで君はこちらを向いた
そのままキスをする
……
長い時間
少女「……ふう……」
男「ん……」
少女「えへへ」
気が付くともう地上が近付いていた
長いキスだったなあ
また来よう
僕らは二人と合流すると帰宅することにした
一応周囲に気を張るがどうやら怪しい人間は居ないようだ
バスに乗って帰途に着く
女「明日からは勉強会だよ」
友「どこに集まる?」
女「うちか男んち」
男「女の家で頼む」
女「ええ、後始末面倒なんだけど」
僕も面倒だよ!
女「まあいっか、勉強頑張ろう」
友「えー」
少女「んー」
男「おー」
次の日
僕はいつものようにはっきりと覚めない頭を引きずるように起きた
そんな状態でも彼女のことを思うとすぐ目が覚めるようになった
朝ご飯をゆったり食べていると母が言う
母「いつの間に私の息子はこんなにたくましくなったのかしら?」
男「昔からだよ」
母「それはない」
酷いなあ……
母「今日は彼女連れてこないの?」
男「今日から勉強会」
母「あら、ほんとしっかりしちゃって」
母「あ、そうだ、来週からお母さんお父さんの所行ってくるから」
男「ああ、うん」
母「家事とか大丈夫?」
男「いつもやってるから大丈夫」
母「彼女連れ込んじゃダメよ?」
僕は味噌汁を吹いた
連れ込みません
僕は逃げるように家を出た
でも来週から一人か、寂しくなくはない
学校でその話をすると
少女「そう言えばお父さん単身赴任だったか」
女「合宿に家を使ったらダメかな?」
男「家に女子を泊めるのはなんだかな……」
女「まあ無理は言わないけど聞いてみてよ」
男「なんで乗り気?」
女「楽しそうだし」
男「でも五人か……泊まれなくはないけど」
女「私が頼もうか?」
やめて欲しい
女と母は絶対意気投合する
少女「お泊まりしてみたいかも」
さすがの爆弾発言だ
女友「きゃー!」
女「大胆ねえ」
眼鏡「許せん、男ーっ!」
女子うるさい
どうせまだキス以上には進むつもりはない
でも合宿はできるか聞いてみても良いだろう
楽しそうだし
まず六人で女の家に行く
女友「私も彼氏欲しいー」
僕たちと友たちは無意識に手を繋いでいた
眼鏡「ちくしょーっ!」
普通にコンタクトにして彼氏作ればいいのに
僕ら四人は結局手を離すことはなかった
女の家は大きい
六人入っても広々している
僕の家ならギュウギュウになりそうだ
女「でももう一人くらいグループに男がいてもいいかもね」
友「俺の友達ってデブと茶髪しかいねー」
男「男友達は友と委員長くらいだなあ」
女友「ハーレム展開のラノベの主人公みたいだね」
男「モテないけどね」
女友「男は少しくらい毒気が無いとね」
眼鏡「男などいらぬ!」
男「美人なのにもったいないぞ」
眼鏡「き、貴様、ハーレムルートを狙って……」
男「ません」
少女「あなたは私だけほめて」
なんか可愛い生き物がいる
男「君が一番に決まってる」
女友「うわっ、惚気はノーサンキュー」
眼鏡「爆発しろ!」
少女「どかーん」
眼鏡「眼鏡が吹き飛んだ」
女「私の家で爆発しないでください」
男「勉強しようぜ」
女友「もっともだ……」
六人で教えられる教科を選ぶ
彼女は科学全般と数学
僕は古文と地理が得意だ
女「少女ちゃん中間テストの理系だけトップだったらしいよ」
男「初めて聞いたんだけど」
女友「女子の間では有名だけどね、体育と理系はトップの転校生って」
少女「正直昔は読む物が科学関連の書物しか無かったのだ」
女「お母さん博士だもんね」
少女「今は無職だけどな、ゲームばかりしてる」
女「よく暮らしていけるね……」
少女「貯えはたくさんあるらしい、三人が遊んで暮らせるって言ってたから十億は下らないんだろうな」
女「うわっ、それはニートでも文句言えないね」
男「まあちゃんと働けるなら働いた方が良いけど……」
博士みたいな優秀な研究者がガチで働いたら足がつきやすくなるよなあ……
少女「家事はしてくれるから助かっている」
男「あんまり似合わなそう」
少女「確かに」
女「家事だけして寝てたら太りそう」
少女「最近ダイエットを始めたらしい、よく公園で散歩してる」
それで公園でよく遭遇するのか
僕らはお互いに問題を出しあって勉強を開始した
女友「英語は任せて~」
女「うーん、現国と歴史はなんとか」
友「俺にできる科目があると思ったか!」
男「自慢になるか?」
眼鏡「私は科学系だけど少女ちゃんには負けるからな……」
男「よし、始めるか」
六人でわいわいと勉強を始める
女がジュースやお菓子を用意した
男「次から持ち込むよ」
女「気にしないでいいよ」
少女「女は金持ちなのだな」
女「普通より少しはね、まあ一応親は会社やってるし」
男「何の?」
女「株とか扱ってるらしいよ」
眼鏡「実はすごい金持ちなんじゃ……」
女「株価が上がってるから今だけはね~」
少女「お金はあった方がいい」
男「まあね、さあ勉強勉強!」
友「女に釣り合うくらい勉強しないと!」
少女「おお、恋愛パワーだな」
女友「遅刻男が遅刻しなくなったパワー」
男「ほっとけ」
その後も話を脱線させながらも勉強を進めていく
やっぱり分かる人に聞いた方が勉強ははかどるな
特に彼女だと、なおさら
少女「ATP……アデノシン三リン酸が筋肉を動かすエネルギーに……」
少女「ここはデオキシリボ核酸な」
うん、やっぱりよく分からない
とりあえず片っ端から記憶する
でもこういうのも楽しいな
少女「古文ってなんとなく読めちゃうな」
男「うう……彼女の方が賢い……」
女「頑張れ男、君が彼女を支えるんだ!」
友「うおーっ、わからん!」
少女「数学はパズルだから方程式を覚えるんだ、ここはだな……」
眼鏡「少女ちゃん無双……」
女友「ここで使われてるseeは見るって意味じゃなく分かるって意味があって……」
眼鏡「うわっ、女友ちゃんにも負けるっ」
男「記憶物は何とかなるかな……」
少女「私は記憶力あんまり無いぞ」
女「好きこそ物の上手なれだっけ」
男「そうだなあ」
少女「漢字とか苦手意識があるんだが」
女「でも漢字も部首とか覚えると面白いよ、クイズしようか」
少女「よろしく頼む」
一週間こんな調子で勉強していると、少し賢くなった気がする
たぶん気のせいだけど
その間例の男たちも現れなかった
もう諦めたのか、見限って他に行ったのかな?
それからしばらくは僕らは平和に暮らせるのだった
男「それで、母さんがいない間僕と友達五人で合宿できないかって話になったんだけど……」
母「あら、いいわよ」
母「空いてる部屋を女の子たちが泊まれるようにして、私の部屋は彼女さんや女ちゃんになら使ってもらってもいいし……」
母「友くんは男ちゃんの部屋にお布団を敷いて……」
男「うん、それなら布団が五つあれば大丈夫か」
母「待ってて、確か親戚の叔父さん一家が泊まった時用の布団があるからクリーニングしておくから」
男「ごめん」
母「それで息子の成績が上がるんだから問題無し」
男「ありがとう!」
早速学校で合宿ができることを女に話した
女「そっか、迷惑かけるね」
男「まあ僕も面白そうだと思ったしね」
女「ちょっと楽しみだね!」
少女「彼氏の家にお泊まり……」
やめて可愛いの、顔が爆発する
五人と合宿の準備で話し合って、帰宅することにした
彼女と二人きりの時間
最近にぎやかだから、特に大事に思える
少女「えっへへ!」
すごく上機嫌な彼女
僕も嬉しくなる
公園に立ち寄る
少女「この公園が一番落ち着ける気がする」
男「分かる分かる」
少女「もうすっかり冬だね……」
男「クリスマスはどうしようか?」
少女「……」
彼女が真っ赤になった
本当に可愛い……
少女「やっぱり二人でこの公園に居たいかも」
男「じゃあ二人で夜までデートの予定を立てておくからね」
少女「う……」
男「ん?」
少女「楽しみ過ぎて泣きそう」
男「そんなに楽しみにしてくれて嬉しいよ」
期末テスト前の合宿
冬休みの予定
楽しみがいっぱいだ
頼むから何も邪魔が入りませんように
彼女とこれから僕が予定している事を話す
年末年始は恋人の予定詰め合わせだ
僕も盛り上がらずにはいられなかった
クリスマスイブにデート
冬休みはみんなで遊びに出かけて
大晦日にデート
一緒に年越し
お正月に参拝
またデートしてみんなで遊んで
少女「なんていっぱいイベントが詰まってるんだ……」
男「四季ごとに楽しいことはいっぱいあるよ」
少女「……」
少女「一緒に、生きていきたい」
男「うん」
それからもしばらく勉強会をしていたが、女の要請で委員長を勉強会に参加させることになった
委員長は中学からの友人だが成績も良く、家は合気道の道場だそうで身体能力も高い
正に委員長をやるために生まれてきたような人物だ
委員長「みんなで勉強会?」
委員長「最近君は真面目になってきたと思ったけど、そんなことまでしてるんだね」
男「参加してくれるかな?」
委員長「俺で良ければ、力になるよ」
女「悪いね、ちょっと六人でも分からない所がたまにあるから委員長が参加してくれたら心強い」
友「デブや茶髪は参加させても無駄だしな」
デブ「酷いデブー」
友「いきなり出てくるな!」
委員長「そう言えばまた転校生が来るんだってさ」
男「二学期ももう終わるのに今頃?」
友「男だからどーでもいいや」
委員長「転入試験はかなり好成績だったらしいよ?」
男「じゃあうちのグループに入れようか?」
委員長「そうだね、転入早々仲間外れにならないで済む」
委員長「俺からもお願いしよう」
男「まあどんな人間かにもよるからな?」
委員長「そうだな、まあ成績優秀なようだし、真面目な人物だと思うが」
女「さてさて、どんな男子かな?」
女友「イケメンらしいから期待」
眼鏡「男はいらんなあ……」
委員長「眼鏡さんは美人なのにもったいない」
眼鏡「ぬう……イケメン委員長に孕まされるルートも悪くないか……」
委員長「性格は改善しようか」
少女「なんだか一気ににぎやかになるな」
男「楽しくて良いじゃない」
少女「うん、だな」
女「勉強会の戦力も増えるし、順調だね~」
少女「二人きりの時間は減りそうだ」
男「なるべく時間作るよ」
少女「うん」
少女「私の彼は優しい」
女友「もう冬なのに熱いんですけど~」
今日はここまでにします
また明日更新しますね
更新しま~す
そして、朝のホームルームが始まる
クラスの女子たちがザワザワと騒ぎだす
担任「転校生の銀髪君です、はい、自己紹介」
銀髪「どうも、銀髪です、銀と呼んで下さい」
銀の髪……その面影はどこか彼女に似ている
僕はちらりと彼女の方を見た
少女「……どうした?」
男「いや、ちょっと気になって」
少女「そうか」
男「また後で話するよ」
少女「分かった」
休憩時間、とりあえず銀髪の少年を誘うのは女に任せて、僕は彼女を連れて屋上に出た
風が冷たいが、お陰で他に人がいない
男「今日の転校生、ちょっと君に雰囲気が似てただろ」
少女「そうだね」
男「うん、もしかして君を作った組織の他にも同じ研究をしていた組織があったんじゃないかなって思ったんだ」
男「普通に考えたらそんな重大なプロジェクト、博士一人でやっていた訳もないし……」
男「他の研究者が君のことを見つけたら分かるし」
男「同時進行で君のような人工的に遺伝子を書き換えられた兵士がいてもおかしくないかも知れない……」
少女「……重大だな……」
男「転校してきた時期も変だし、気をつけた方がいい」
少女「博士に電話して聞いてみる」
男「うん」
少女「……」
少女「ああ、お母さん」
少女「……で……、そうだ」
少女「そうなのか?」
少女「……もしかしたら……そうか」
少女は電話を切った
少女「私の遺伝子のベースになってるのは他の研究施設から提供された物らしい」
少女「つまり私のような個体が別にいてもおかしくないと」
少女「ただ爆弾として遺伝子改良されたのは私だけらしい」
少女「あと、もちろん私の担当をしていた研究者はお母さんだけじゃないんだが、その人たちはお母さんに協力してくれたそうだ」
少女「その線から割れた可能性はないと……」
男「そうか……でも君と同じ程度の戦闘力を持った人間もいるかも分からないんだな」
注意するに越したことはないか
しかしあの少年が追跡者ならこの間の黒服よりずっと厄介だ
僕が太刀打ちできる相手じゃない……
少女「……逃げきれないのか……」
男「いや、まだ手は有るはずだ」
男「それにわざわざ転校してきたのは敵対する為じゃ無いからかも知れない」
少女「そうか、誘拐するなら闇討ちした方が良いものな」
僕はとりあえず様子を見て、彼に話を聞いてみることにした
しかし彼が作られた人間だとして、何のために現れたんだろうか?
何でもいい……僕たちの世界を壊さないでくれたら
休憩時間も終わるので僕らは教室に帰った
女「そう言うわけで、私らのグループで一緒に勉強しない?」
銀髪「俺もこの学校の授業がどこまで進んでるか分かるし、助かる」
男「ただいま」
女「ああ、男」
女「ちょうど今話がついたとこ」
男「そうか、僕は男、よろしくね!」
銀髪「君もグループの人か、よろしく」
少女「私もだ」
顔を観察していたが特に反応したようには見えなかった
銀髪「よろしく」
男「君はどこから転校して来たんだい?」
銀髪「北陸の方から……」
銀髪「俺は転校したくは無かったんだが、親の都合で仕方なく」
男「転校は初めて?」
銀髪「いや……元々は瀬戸内の島に住んでた」
銀髪「……悪いがその頃のことは話したくない」
どうやら当たりのようだ
しかし北陸に住んでいたとなると、彼女と同じ脱走組かも知れない
その頃博士の方にも訪問してきた人物がいた
博士「君は……」
研究者「久し振りだね、博士」
研究者「お互い上手く逃げ延びたようだな」
博士「なるほど、謎の転校生は基礎個体だったか」
研究者「一緒にいた方が抵抗も容易だと思ってね」
博士「確かに彼女のレベルの存在が二人もいたら人間に捕まえられる物ではないな」
研究者「まあ銀髪二人は目立つかも分からないが、そう言うわけだ、心配しないでくれ」
博士「心強いよ」
博士「組織の方はどう動いてるか分かるか?」
研究者「大金を積んで作ったお宝だ、探してないとは考えにくい」
研究者「特にあの老人はご執心だったからな」
博士「分かるな」
博士「もし捕まるとしたら私だろうな……」
研究者「君が捕まれば奪還させるさ、私の息子にね」
博士「殺しはいかんぞ?」
研究者「分かっているさ、私も息子にはそう教育している」
研究者「どうせなら私と結婚していたことにして、あの子らは元々兄妹だったことにして一緒に住むのもいいかな?」
博士「いやいや、やめてくれ」
研究者「ふられたか」
博士「そう言うことだ」
その日の放課後、僕らはいつものように女の家で勉強会を開く
女「じゃあこのあたりは分かるんだね」
銀髪「うん、俺は文系も理系も好きだし、基礎は大丈夫」
女友「転入試験良かったらしいし~」
委員長「しかし初めて来たけど女さんの家は大きいね」
女「あれ、そうだっけ?」
男「中学から一緒だったのに知らなかったのか?」
委員長「俺は道場があるから毎日すぐに帰っていたからね」
女友「今日は大丈夫なの~?」
委員長「期末試験が近いから勉強会なら構わないって……弟もしっかりしてきたしね」
男「じゃあ合宿も通いなら大丈夫か」
委員長「合宿? 本格的だね」
女「まあ少女ちゃんがお泊まりする口実だけどね」
少女「違う」
男「それでもいいけど」
友「まあ女子の方が多いから男子が増えて助かった」
銀髪「俺なんかがお邪魔して良いのかな……?」
どうも追跡者では無さそうな雰囲気だ
僕は少し気を許していた
男「まあ男子二人だとつまらないし、僕は構わないよ」
男「布団が足りるかな……」
女「少女ちゃんと男が同じ布団で寝たら」
男「寝ません」
帰りにいつものように彼女を送る
途中で公園に寄るのも習慣になっていた
寒いが握っている手は温かい
公園に入るといつものベンチに知らない男性と博士が座っていた
男「博士、その人は?」
博士「今日転校生が来ただろ?」
博士「その父親をやってる研究者だ」
博士と彼の父親は知り合いだったのか
それなら銀髪の彼は敵対者では無い
僕はようやく安心した
研究者「何かあればあの子を頼るといい、戦力になる」
味方が増えたんだ
助かる
博士「おっと、二人の邪魔になるから私らは帰るか」
研究者「そうだな」
男「あ、いや、二人で何か話が有ったんじゃ?」
博士「だいたい終わった」
研究者「君も遺伝子強化してみるか?」
みません
話の内容は聞かない方が良さそうだ
二人を見送り僕らはしばらくそこで抱き合っていた
軽くキスをして見つめ合う
いつもこうしてるのに飽きないと言うか
ドキドキするのが変わらない
少女「二人の時間……」
男「そうだね……」
少女「みんなといるのも楽しいけど」
男「二人の時間もないとだよね」
ベンチに座っていると公園の前を見知った銀髪の少年が通る
銀髪「ん?」
銀髪「あれ、君たち……」
銀髪「あ、悪い、邪魔しちゃって」
男「いや、いいよ」
男「こんな時間にどうかした?」
銀髪「ん、研究者……父親を迎えに」
男「今帰ったみたいだよ?」
銀髪「そうか、行き違いになったみたいだな」
銀髪「俺の父親を知ってるって事は、じゃあ俺が何故この街に来たかも……」
男「彼女を守ってくれるんだろう?」
銀髪「と、言うか、機密をね」
銀髪「君はどこまで知ってるんだ?」
男「だいたい全部」
銀髪「信頼されてるわけだ」
男「まあ……ね」
少女「せっかく自分たちで人造遺伝子の秘密を隠蔽したのに私たちの方から漏れたら困るってことだろう?」
銀髪「そう言うこと」
なるほど、そちらの方が信頼できる
彼らもまた自分たちの研究を隠し通すのが目的なんだ
男「じゃあ君も軍用に開発されたんだね」
銀髪「ああ、だが父も博士も情が移ったようだね」
銀髪「俺たちは本来彼女のような爆弾にせずとも十分な戦闘力があるんだ」
銀髪「機密が漏れれば、また悲劇の子供が生まれてくるだろう……」
男「それは阻止したい……か」
銀髪「そもそも無人兵器の研究もされているらしいから、俺たちなんかいらないだろう、と」
銀髪「俺は戦争の力を蓄えるのに反対はしない」
銀髪「自分が駒にされるのが嫌なだけさ」
確かに自分の命を賭ける事を他人任せにしたくはない
自分の信念の為に賭けたいな
銀髪「おっと、お邪魔なようだから行くよ?」
男「あ、連絡先貰っとこう」
銀髪「ああ、そうだね」
男「僕の家の場所も教えておくよ」
銀髪「ああ、合宿するんだったか」
銀髪「君たちのグループは仲が良いんだな」
男「まあね、これからは君も仲間だ」
銀髪「なんだかワクワクするよ」
銀髪「前の学校でも友達はいたが、その時はずいぶんズレてたみたいで不思議君って呼ばれてた……」
男「彼女は今も不思議ちゃんだよ」
少女「ひどいな、ちょっとはマシになっただろ!」
男「まあそう言うとこ好きなんだけど」
少女「も、もうっ」
銀髪「見せつけるね~、俺もう帰るわ」
男「あ、すまない、またね!」
銀髪「ああ」
銀髪「……」
彼は何を考えたか、バック転から、トイレの屋根に飛び乗った
見事な身体能力だ
銀髪「じゃあね!」
少女「う~ん、派手だな」
男「一応信頼してくれたのかな?」
少女「味方だと思えば頼もしいな」
男「でも博士と研究者さんはどうやって連絡を取り合ったんだろうな?」
少女「足がつかないようにはしているはず」
男「だよね」
男「あ、僕ももう帰るよ」
少女「あ……、寂しいなあ」
男「また明日もあるよ!」
少女「ふふっ」
少女「また明日!」
桃色の頬で手を振る彼女に見送られて、僕はジョギング代わりにダッシュで帰った
体力をつけても流石に彼らには負けるだろうけど
やがて合宿の日が訪れる
放課後それぞれ荷物を取りに帰ってから夜に僕の家に集合
僕は家で合宿に必要な物をチェック
していると、みんな来たらしい
僕は玄関まで急いで出て行く
委員長「お邪魔します」
男「構わず上がってくれよ」
友「夏休み以来かぁ?」
男「そうだな」
女友「あの時はジュースこぼしたり男の本引っ張り出したり……」
男「今回はあんまり散らかさないでくれよ?」
女「ふんふん、やっぱりこの家はいいね」
男「狭いだろ?」
銀髪「お邪魔するよ」
男「ああ、気にせず上がってくれ」
眼鏡「男の家……男子の家に初めて訪れた……孕む……」
男「孕まねえよ!」
少女「こんばんは……」
少女「この家はいつも暖かい雰囲気……」
男「……いらっしゃい」
人数が増えたとは言え、委員長は通いだし、他のメンバーも着替えを取りに帰ったりする
合宿のメリットは遅くまで勉強できる点だ
だが
女「せっかくだしこのグループの団結を高めるために遊ぼうか!」
委員長「いきなり遊ぶのか……」
男「あ、飲み物がいったら持ってくる、何がいい?」
女「紅茶」
女友「炭酸ある?」
友「俺コーヒー」
委員長「俺はブラックで、悪いな」
銀髪「なんでも好きだが紅茶で」
眼鏡「普通に緑茶」
少女「私も」
男「よし、誰か手伝ってよ」
女「はいよ」
ポットとコーヒーや紅茶、砂糖などを部屋に持ち込んで自分の好きな物を飲めるようにした
部屋に冷蔵庫があればジュースも置けるのだが
女友「私のわがままで男くんに苦労を……死んで詫びる~」
生きろ
飲み物が揃った所でみんなで芋チップなどをつつきながらカードゲームをする
八人もいると色々ゲームできるし、すぐに終わる
委員長がそろそろ、と声をかけて
僕らは勉強を始めた
少女「カモノハシは哺乳類に分類されるがクチバシがあり卵生で、オスは爪に毒を持ち……」
銀髪「電子はマイナスの電荷を持っているから電子を受け取ると陰イオンに……」
眼鏡「超質量の恒星が超新星爆発を起こした後中性子星やブラックホールが……」
女友「つまりこの例文だと過去完了になり私が~時には~していた……」
女「千四百六十七年に始まった応仁の乱は約十年続いて……」
男「ここの文を現代語訳すると神々しく高く貴い……」
委員長「……みんな結構真面目にやってるじゃないか」
友「わからねえ……」
八人の勉強は滞りなく進んでいく
効率が良いのも確かだが楽しい雰囲気がいい
やがて女子たちは晩御飯を作るために部屋を出た
食材は予め話し合って各々が持ち寄っていた
今日は親子丼らしい
委員長もご飯を食べてしばらく勉強してから帰宅する
委員長が帰るとまたカードゲームが始まった
オセロの駒を賭けて大富豪したり、色々楽しんだ後お風呂に順番に入って三室に別れて眠る
翌朝僕は早めに起きて台所でコーヒーを飲んでいた
彼女が降りてくる
少女「おはよー」
男「おはよう」
少女「朝早いんだな?」
男「君が来る前は遅刻魔だったんだけどね」
少女「そうなのか?」
男「ドキドキして早く目が覚めちゃうんだよね」
少女「うふふ……」
そこに女が降りてくる
女「あー、朝からいちゃいちゃ……」
男「してない……ことはないか」
女「くそう、友起こしてくる」
男「銀を起こさないようにな~」
僕らは合宿中に銀髪の少年を銀と呼ぶようになっていた
少女「さて、朝ご飯の準備するか」
男「手伝うよ、焼き鮭で良いよね」
少女「大好き!」
良かった
合宿が始まってからは学校でもグループが固まり、朝から晩までとても賑やかだ
二人の時間が作れないのは寂しいが、楽しい
委員長「なんだか楽しいよ……こんな気分になるのは初めてかも知れない」
男「委員長は真面目すぎたんだよ」
委員長「そうかも知れない、やっぱり息抜きは重要だな」
男「委員長がいないと息抜きが骨抜きになるのは困るかな」
委員長「上手いな、ははは」
友「勉強できる俺ってどうよ」
男「いいんじゃね?」
友「反応薄い!」
男「俺が反応してどうする」
女「まだまだだけどね」
少女「みんなレベル上がってるからな」
女友「テスト終わんないと上がってるか分かんないけど~」
銀髪「俺もついていけてるか心配だな」
女友「銀ちゃんはもうちょっと英語頑張ろうか~」
銀髪「面目ない」
女「他はできてるけどね」
男「銀も彼女も頭は良いからなあ……」
女「委員長を除けば一番レベル高いもんね」
男「頑張ってるんだけどなあ」
眼鏡「ダントツ最下位でないだけいいだろう」
友「うう……」
ダントツ最下位が泣いている
僕らの一週間の合宿も、もうすぐ終わりだ
一週間って短い
そして期末試験が始まった
期末試験の結果は中間と違い、上位五十位まで掲示板に張り出される
頑張るぞ!
期末試験の間も僕らは女の家に集まって次の日の試験対策をした
お陰でかつて無いくらいテストが簡単に思えた
試験最終日の午後
友「終わったーっ!」
委員長「今回トップ取れたかも知れない」
男「委員長かなりみんなに質問してたよね」
少女「委員長の質問はコアだったから私も理系は再びトップが取れそうだ」
彼女の方が頭がいい……
身体能力は百パーセント負けるのに……
友「俺も掲示板に乗れるかも」
女「友が百七十人中五十位以内と言うことか……」
友「な、ないかな?」
女「あるんじゃない?」
眼鏡「まあうちのグループは掲示板に入るだろ」
友「だよな?だよな?」
銀髪「オチとしては友君だけ入ってないのがいいな」
男「銀は分かってるな」
結果
一位・委員長
五位・少女
十位・銀髪
十八位・眼鏡
二十二位・男
二十五位・女
三十七位・女友
四十三位・友
うう……彼女と差が付きすぎ……
友「け、掲示板に乗った……」
友が掲示板に乗るより僕が彼女に勝つのがはるかに難しいだろうことが分かった
少女「文系は全く自信が無かったのだが、選択問題がたまたま当たったようだ」
それでも五位以内……
うう、二十位代じゃとても勝てない……
一学期からは十位以上上がったが、三学期には彼女に勝てるようになるだろうか?
何か一つ勝たないと守るなんて言えない……
でも試験が終わった
冬休みにみんなで遊ぶ計画を立てる
委員長がわりと乗り気で新鮮だった
僕は彼女とのクリスマスデートの計画を練った
少女「ばくはつするーっ!」
少女「楽しみすぎてばくはつするーっ!」
僕の彼女が世界を滅ぼしそうな勢いで過熱してる
可愛い……可愛い……
とりあえず冬休み初めは彼女とクリスマスデートだ
そのあとみんなでカラオケに出かけて
大晦日から新年は彼女と一緒に
年が明けたらまたみんなで映画にでも……
そう言えば黒服の男達はどこに行ったんだろう?
まあいいか、楽しもう、全力で冬休みを!
僕は彼女とクリスマスイブの計画を練った
最後は公園だけど、お昼はどうしよう
映画もいいかな?
少女「そうだね、商店街を回ってから映画を見て、レストランで夕食を食べて……」
男「映画のあと時間が開くからショッピングでもしようか?」
少女「うん、いいかも」
終業式が終わり、冬休みになった
そして、クリスマスイブのデートがはじまる
少女「~~~♪」
二人で恋愛映画を観た
タイムスリップしてきた武士と恋愛する映画……ラブコメだ
映画の後ショッピングモールのクリスマス飾りを見て回る
少女「あは……クリスマスイブだなあ……」
男「映画だと家に取り残された少年が泥棒と戦ったりするクリスマスイブだな」
少女「なんとなくだけどそれは古いな」
分かるんだ
少女「見て見て、あのサンタひげ長い」
男「トナカイ足短い」
少女「……」
少女「二人っきり……久しぶり」
男「……ふふっ、今夜は逃がさないよ?」
少女「うう……っ」
少女「なんだか体中から幸せホルモンが出てくるぅ……」
男「うん」
まずは手をつないだ
ああ、試験から解放された幸せが更に上乗せされて
幸せだ……
少女「今晩はレストランなんだよね……」
男「抜かりなく予約していますよ、姫」
少女「~~~!」
レストランに着くと、店員に奥の席に案内された
男「何を食べようか?」
少女「クリスマスだから鶏肉だな……」
男「七面鳥もあるみたいだけど……」
少女「正式には七面鳥なんだが、私はあんまり好きじゃないな」
男「食べたことあるんだ?」
少女「うん、去年な、お母さんと……」
男「今回はクリスマスプレートを頼もうか」
少女「無難だな」
少女「でも……楽しいよ」
男「うん」
平和なクリスマスイブ
周りもカップルばかりだ
そっか
今年が初めて彼女と暮らすクリスマスイブ
思わずニッコリすると彼女も嬉しそうだ
男「あ、お母さんがケーキ用意してくれてるんだった」
少女「君のお母さんとクリスマスイブもいいかな」
男「君が良いなら家に帰ろうか」
少女「いいよ!」
美味しいクリスマスディナーを食べると、僕らはゆっくりショッピングモールをまわりながら家路に着く
少女「やっぱり綺麗だな……クリスマスの街並み……」
男「今日のデートは濃密だなあ」
少女「うん」
少女「でも何か物足りなくないか?」
男「え?」
彼女は僕が振り向くと同時にキスをしてきた
男「~~!」
まったく、まったく、
勝てる気がしないっつの!
家に帰ると母はやる気まんまんのクリスマスディナーを用意していた
今日ご飯食べて帰るって言ったのに……
博士も家に招かれて来ていた
いつの間に母と博士は連絡を取り合う仲になっていたんだろう?
僕らは四人で楽しく色々な話をしながら、そのディナーを平らげた
幸せだとお腹が空くんだなあ
四人でケーキを食べる
半ホイール残ったけど明日食べたらいい
僕は彼女を送る
博士は遠慮したのか、お母さんと話して後から帰ると言う
僕らは約束通り
公園に寄る
もちろん
キスした
キス
キス
えっ?
キスしてキスしてキスしてキスしてキスしたおした
この公園には明日跡が残っているだろう
灼熱の愛に溶けた僕の焼け跡が
少女「んふっ♪」
男「……溶けて無くなるっ!」
少女「無くなったらやだ」
二人でベンチに座る
不思議だ
全く寒くない
少女「今日は雪の予報だったんだけど」
科学的に考えてしまえば降雪前に湿度が上がり体感温度が高まっているとか説明はつくのだが……
暖かい
君のお陰で
それが全てだった
やがて
空から雪が降ってくる
冬休みは友達との予定も山積みで
少女「楽しみだね!」
いつかこの幸せが壊れるとしても
僕らはこの手をけして離さない
少女「メリークリスマス!」
男「メリークリスマス!」
翌日、女から連絡が入り、僕らはグループで遊ぶことになった
こういう行動力は本当に助かるなあ
銀や委員長をグループに加えて初めての外出だ
僕は彼女を迎えに行き、手を繋いで駅前に集合した
女「おーい、こっちこっち」
男「ああ、おはよ」
友「やっと来たな」
男「お前らクリスマスデートした?」
友「した……」
女「なんとか頬にキスまでは進んだ……」
雪中行軍か
女「別に無理矢理やったりしてないから!」
友「いきなりだったけど……」
男「幸せか?」
友「当たり前だろ……」
少女「お、惚気か」
女「どうせあんたたちの方がラブラブだったんでしょ?」
男「二十回くらいキスしたかな?」
友「猿か!」
少女「猿はキスしないぞ!」
委員長「おはよ、にぎやかだなカップル組は」
男「おはよう」
眼鏡「おはよう諸君」
銀髪「俺が最後?」
女友「ごめーん、遅れた」
八人でまずはカラオケに入り、午後の予定を決めた
女「スケート行かない?」
少女「あ、楽しそう」
委員長「体を動かしたいな」
銀髪「せっかくだし女の子と滑りたいな」
女友「は~い、立候補~」
銀髪「良いよ」
お、カップル成立の予感
まわりがカップルの方がいちゃいちゃしやすいから頑張って欲しい
眼鏡「ぬう……これ以上リア充が増えたら孤立してしまう」
委員長「仕方ないから俺たちもつき合ってるふりをしよう」
眼鏡「ななな……っ」
眼鏡「良かろう……貴様がその気なら血の一滴まで絞り尽くしてくれるわ!」
委員長「怖い」
眼鏡「いきなり告白されても戸惑うだろう!」
委員長「告白はしてないな」
男「とりあえず人数は合うな」
女「まだまだ楽しみは尽きないね」
男「年末年始はどうする?」
女「とりあえずお正月のお昼に現地集合で神社に参拝に行こう」
男「うん、悪くない」
ところで、彼女の歌は大分上手くなっていた
人数が多いのであまり聞けなかったのは残念だ
女「人は日々成長するもんだね」
友「欠点がどんどん無くなっていくな」
男「二人でいるといろいろ欠点も見せてくれるけど」
委員長「なんだかうらやましい関係だな」
眼鏡「私は欠点の塊だぞ」
委員長「それもどうかと思う」
銀髪「女友さんは?」
女友「欠点無いように見える~?」
銀髪「見えないな」
女友「事実だけど~」
そう言えば銀も十位か……
頑張ろう……
少女「じゃあスケート行こうか」
男「よし、出よう」
僕らはスケートに向かった
少女「うう、初めてだ」
男「気をつけて」
スケートリンクは広い
それぞれのカップルに分かれて滑り出す
彼女は最初はフラフラしていたが、持ち前の運動神経であっという間に上手くなっていく
男「本当に僕の彼女万能すぎ」
少女「一緒に滑ろう?」
男「うん」
手袋越しに伝わってくる彼女の体温が、幸せだ
直に繋げないのがちょっと残念
でも
男「キスならできるよね」
少女「んっ」
キスしながら滑った
転んだら危ないかな
少女「やっぱり気持ちいいし幸せ……」
友「うわあ……」
女「うわあ……」
女友「良いなあ」
銀髪「うらやましいね」
銀髪「……」
銀と彼女は言うなれば同じ存在だ
やはり普通に生きられることに憧れがあるんだろうな……
もう少しこのグループで遊んだら、銀と女友をつきあわせてもいいかも知れない
眼鏡「委員長陛下……拙者腰がガクブルでござる……」
委員長「陛下ではないけど、捕まって良いよ」
眼鏡「かたじけない」
あれもなんだかバランスの良いカップルに見えるな~
少女「みんながカップルなら好き放題いちゃいちゃできるな」
男「もうしてると思うけど」
少女「そうか?」
男「うん」
僕はまた彼女を抱きしめて、キスをした
少女「してたな」
男「うん」
眼鏡「けしからんけしからん」
委員長「危ないよ」
眼鏡「ぬう……手を繋いでしまった……」
委員長「けっこう良いものだね」
銀髪「さあ、僕らも行こうか」
女友「うん~」
銀髪「なかなか上手いね」
女友「銀君も流石に上手い~」
銀髪「あはは、何度かやったことあるから」
順調にカップルが出来上がっているようだ
結局夕方まで八人で遊んで、それぞれカップルで帰ることにした
少女「次のイベントは何かな?」
男「大晦日は博士と二人でうちに来るだろ?」
少女「お邪魔します」
男「母さんもこの前博士と話せて喜んでたよ」
少女「博士も楽しかったって」
男「家族ぐるみの付き合いって良いね」
少女「あ、そう言えばお父さんは?」
男「今年は忙しくて帰れないらしい」
少女「残念だな」
男「まあね、母さんはこの前一週間ベッタリしてたらしいけど」
少女「私たちもいつまでもそんなラブラブカップルでいたいね」
男「もちろん」
今年はもうすぐ終わる
でもすぐに新しい年がやってくる
そうやって僕らは一緒の時間を積み上げて行く
どんどん寒くなってくるけど、それがお互いの体温を感じさせて
僕らの距離はどんどん縮まって行く
少女「初日の出はどこで見るの?」
男「いつもは家から見てるけど、今年はどこかに出かけてもいいかな?」
少女「今年と言うか来年だけど」
男「そっか」
少女「どこに行こうか?」
男「あんまり遠くには行けないからなあ」
少女「ここから東だと高い山が見えるね」
男「そこの麓までは遠いから手前の川まで行こうか」
少女「寒いから厚着していかないとだな」
男「うん」
僕たちはいつもの公園でいつものようにキスをして別れた
それにしても平和だ
いつまでも続けばいいのに
大晦日、朝から僕らは大掃除を始めた
今年は空き部屋を使ったし、皆がまた来ても良いように綺麗にしておかないと
まずは自分の部屋の掃除に取りかかる
窓を開けると冷たい空気が入って
普段掃除しない所まで綺麗にして行くと、気分も良くなってきた
自分の部屋を一通り掃除すると空き部屋に取りかかる
お昼には彼女たちが来るので半日で片付けないといけない
下の階では母がドタバタ走り回っている
掃除を終えるとちょうど二人が訪れた
少女「こんにちは」
博士「すみません、お世話になります」
母「いえいえ、二人だと寂しいですからね」
博士「あ、これオードブルですが」
母「まあまあ、お気を使わせてすみません」
母「じゃあお母さん買い物してくるからお客さんよろしくね」
男「わかった」
少女「お邪魔します」
博士「悪いね、いつも」
穏やかに僕と彼女の年越しが始まる
今回はここまでです
もうすぐ終わるかな?
次回更新はちょっと時間かかります
乙です
>>113
ありがとうございます!
今回少し手こずっているので更新もう少しかかります
すみません
待ってるよ
>>115
ありがとうございます
頑張って更新します
大晦日
二人をリビングに招いて飲み物を用意していると彼女が出てくる
男「待ってたらいいよ」
少女「ん、手伝う」
博士「あ、私は少しでかけてくるから二人分だけで良いぞ」
男「え、どこに?」
博士「いや、酒を買いにな」
男「酒?」
博士「今夜は君のお母さんと二人で飲む約束をしてるんだ」
そう言うと博士はにこやかに外出した
うちの母もまあまあお酒を飲むのだが博士もお酒が好きなようで
僕は急に彼女と二人で残されてしまって、焦る
男「じゃ、じゃあ部屋で待ってようか」
少女「うん……」
彼女が微妙に緊張している気がする
僕も少し緊張してしまう
前にも二人きりで部屋にいたことはあるんだけど……
部屋に戻るとしばらく沈黙してしまった
男「また一年が終わるね」
少女「うん、でも君と一緒に年越しするのは初めてだね」
男「来年もよろしく」
少女「まだ早いよ」
彼女はくすくす笑う
う~ん、可愛いなあ……
男「そうだ、こたつ出そう」
少女「こたつあるのか」
男「今日は大掃除したから片付けてた」
少女「私も大掃除したぞ」
はたきを持ってかけまわる彼女を想像して、少しほっこりする
……やっぱり彼女といると、空気が柔らかくなる効果があるみたいだ
男「来年のデートはどうしようかな?」
少女「今からレストラン予約とかは、無理だな……」
男「そうだね」
少女「そういえば親戚の人は来ないの?」
男「父さんが帰ってこないからね」
少女「そうなのか、従兄弟とかいないのか?」
男「いるけど、まだ小さい子だよ」
少女「そうか、遊びたかったかも」
男「うん……、でもまあ親戚が来たら二人を呼べなかったけどね」
少女「そっか」
二人でこたつに入って緩く過ごしていると母たちが帰って来た
賑やかに
母「まあ、こんなに良いんですか?」
博士「いやいや、お邪魔しているんだから気にしなくていいよ」
母「今夜はたっぷり飲めますね~」
博士「楽しみだ」
二人が仲が良いのは良いことだけど、今夜は賑やかになりそう
でも四人で年越しも楽しそうでいいかな~
とりあえず彼女と一階に降りた
博士「お、酒の肴が来た」
母「まあまあ、あんまりいじったら可哀想ですよ」
撤回しよう、嫌な予感しかしない
母「うちの子は奥手なのかしら?」
博士「私も推奨しているのだがな」
母「推奨!?」
母「うちは男の子だからあんまり押したら無理矢理とかやっちゃいそうだし……」
博士「うちの子も相思相愛ラブラブ惚気まくりだから大丈夫だと思うが」
母「まあ女は度胸よね!」
今すぐ彼女に爆発する薬品を飲ませたい
どうしてそう言う方向に話を持って行きたがるのか
和食を食べてるのにコーラをぶっかけたがるようなものではないか
よく分からないが彼女と僕はまだそう言う関係では無いのだ
ふと横を見ると彼女は真っ赤になってモジモジしていた
駄目だ、これ以上この二人を喋らせては
僕はテーブルに並ぶお酒を掴むと蓋を開け、母に向ける
男「もうちょっと飲んだら?」
さっさと酔い潰すべきだ
母「いっとくけどお母さんチューハイだと三リットル飲んでも酔わないわよ?」
酒豪か
博士もかなり飲みそうだが博士の方にもそそぐ
博士「桃味にライム味を足しちゃ駄目だ」
ミックスジュースみたいなものだろ
母「チャンポンは悪酔いの元だから~」
良く分からないが、混ぜたらより酔いやすいようだ
混ぜよう
僕は二人の隙を見ては様々なアルコール度数も高めのお酒をお酌して行った
しかし年越しに寝てしまうわけにいかないらしく二人の飲む速度は落ちてくる
そのうち博士は一人で日本酒を飲み始め、母は年越し蕎麦の準備を始めた
一時休戦だ
しきりにお酒を勧めたからかあまり喋らなかったのは幸いだ
少女「お蕎麦を食べたら君の部屋に行こう……」
今二人きりになるのもどうかと思ったがそうしよう
キッチンでカタコト音がするのを聞いてると眠くなってくる
男「ちょっと眠いね」
博士「私も寝る」
博士は言うやいなやその場で突っ伏した
少女「だらしないなあ」
男「ちょっと飲ませすぎたかな?」
少女「まあこれでしばらく喋らないだろうから放っておこう」
男「うん」
やがて良い香りがし始めた
母「はい、おまたせ」
少女「ありがとう」
母「熱いから気をつけて」
博士を起こしてお蕎麦を食べ始める
もう今年も終わりなんだなあ、と改めて感じる
少女「美味しい」
博士「私らには作れないな、料理を教えて欲しい」
母「喜んで」
毎日食べていると気にならないが、母は料理が上手いらしい
すみません、ちょっと休憩します
なんとか更新したいと思います
あんまり面白くないですけど……ww
蕎麦をすすった後歯を磨いてから二階に上がる
自分の部屋に帰ってくると沈黙が怖いのでテレビをつけた
少女「あはは」
男「んー、やっぱり年越しはこたつみかんだね」
少女「こたつ暖かいな」
男「あー、来年のデートはどうしようかなあ」
少女「なんでもいいぞ、二人で居られたら」
男「じゃあ大きい公園があるから行ってみようか」
少女「良いな」
公園でのんびりしたらまた映画も良いかな
その後何か買い食いして
色々計画を立てていると熟練カップルのような気分になってくる
まだ付き合い始めて数ヶ月しか経ってないんだなあ
思い返せば一瞬だけど
少女「今年は色々あったから一瞬だった」
男「楽しかったね」
少女「うん」
少女「来年も……よろしくな」
男「もちろん」
数時間後もおんなじ会話してるんだろうなあ
男「あ、飲み物とおやつ用意してあるんだ」
少女「ありがとう」
男「ちょっと待っててね」
下に降りると二人の話し声が聞こえてくる
母「私の若い頃はね~」
博士「私はあんまり恋愛はしなかったな」
母「あら、旦那さんとも?」
そう言えばどういう設定なんだろう?
博士「私は強引に押し切られた感じで、あの子ができたらすぐに別れたよ」
母「あら、もったいない」
まあ実子なわけがないが、そう言う話にした方が良いのだろう
しばらく二人の話を聞きながらお茶の準備をして二階に上がる
彼女はこたつでそのまま眠ってしまっていた
男「風邪引くよ」
少女「ん」
男「お茶を用意したから飲もう」
少女「うん」
二人で熱いお茶をすすっていると目も冴えてきた
少女「落ち着く」
男「そうだね」
少女「ドキドキしたり落ち着いたり、恋愛は忙しいな」
男「あはは」
やがて年越しを告げる鐘の音が鳴ってきた
男「明けましておめでとう」
少女「おめでとう」
男「今年もよろしく」
少女「よろしくな」
彼女は眠そうだ
男「五時くらいまで寝ようか?」
少女「そうだな」
僕はアラームをセットすると、そのままこたつで横になる
寒いな
すぐ体を起こすとベッドから毛布を剥ぎ取り、彼女に渡す
少女「いいのか?」
男「うん、寒いし」
少女「ありがとう」
少女「君の匂いがする……」
何か照れる
僕は押し入れからもう一枚毛布を出してくるまった
こたつに入ると彼女の足に当たる
少女「あ、悪い」
男「う、うん、ごめん」
これから二人で一つの部屋で眠るんだ……
静かになると色々想像してしまって、なかなか眠れそうになかった
少ししてトイレに起きる
男「やっぱり緊張するなあ……」
二階に上がろうとするとまだ二人の話し声がしている
あのまま徹夜するのだろうか?
それにしてもよく話のネタがあるものだ
同じような話を繰り返している気もするが
二階に帰るとまたこたつに、彼女に当たらないよう潜り込んで眠りについた
やがてアラームの音で目を覚ます
少女「おはよ……」
男「うん、おはよう」
少女「まだ真っ暗だ」
男「明るかったら困る、初日の出見ないと」
少女「それもそうか」
まだ彼女は眠そう
僕も……あくびをすると外出の準備をする
彼女もベッドに置いてあったマフラーを着けたり準備をした
男「さ、行こうか」
少女「うん」
母たちはテーブルで眠っているようだ
家を出て彼女と手を繋ぐ
手袋越しの温もりが優しくて、また眠くなってきて、あくび
少女「大きな口……ふわあ……」
男「あくびうつったね、あはは」
街灯の灯りのある道を選んで、僕らは東に歩いた
神社に向かうのか、いくらか人が歩いている
いくつか交差点を横切ると、やがて目的の川岸にたどり着く
まだ少し早いようだ
少女「寒いね~」
男「うん、寒い」
僕は彼女を抱き寄せた
少女「ふふっ、温かい」
男「ん……ちょっと明るくなってきた」
少女「うん」
彼女の白い息が見える
ゆっくりと
今年初めての太陽の輝きが射してくる
男「明けましておめでとう」
少女「明けましておめでとう!」
彼女は嬉しそうに橋を駆けて行く
元気だなあ
彼女の体温が無くなった代わりに太陽の熱が強まってくる
風が無くて良かった
歩いて彼女の後を追っていく
男「待ってよ」
僕が声をかけると、彼女はこちらに走ってきて、抱きついてきた
そのまま山を乗り越えつつある太陽を背景に
キスをした
少女「明けまして初キス」
男「なにそれ」
ちょっと笑う
またキス
そのまましばらく
……君の体温を感じて……
男「……帰ろっか」
少女「うん……」
帰るまでにこの体が溶けないといいけど
家に着くと味噌の香りがしている
少女「お雑煮か」
男「歩いたらお腹減ったね」
少女「うん、それにしてもいい香り」
家に入ると博士が顔を出して
博士「二人とも、明けましておめでとう」
少女「おめでとう、お母さん」
男「明けましておめでとうございます」
今日はあと何回明けましておめでとう、と言うだろうか?
母「おめでとう」
少女「おめでとうございます」
男「おめでとう」
三人でテーブルに着く
博士「これ、少ないが」
博士がお年玉をくれた
ずいぶん分厚いな……
男「あ、ありがとうございます、すみません」
博士「ほら、お前も」
少女「ありがとう」
博士「デートで使い切るなよ」
少女「う~ん、たぶん使い切る」
博士「まあそれも良いな」
その後母からもお年玉をもらうと、お雑煮を食べた
部屋に戻り、お昼まで二人でみかんを食べたり今までのデートの話をしたり、新しいカップルの話をする
お昼前になって、出かけることにした
少女「現地集合だっけ」
男「うん」
外に出ると、彼女が腕を組んできた
温かいなあ
神社に近づくにつれ、人が増えてくる
みんなと合流できたら良いけど
そう思いながらうろうろしていると銀が僕らを見つけて声をかけてくる
全員集まっているようだ
新年の挨拶を済ますと鳥居を抜けて階段を上がっていく
委員長「すごい人だね、はぐれないように」
眼鏡「委員長閣下、手をお繋ぎ下さい」
委員長「閣下ではないけど、いいよ」
銀髪「じゃあ僕らも」
女友「ちょっと恥ずかしい~」
女「エスコートよろしく」
友「お、おう」
久しぶりに賑やかになった気がする
少女「こういうのも、いいな」
男「うん」
にぎやかな時があった方が二人の時間も盛り上がるしね
全員でおみくじを引く
友「おわっ、大吉出た!」
女「マジで!?」
委員長「凶だ……」
眼鏡「私は中吉ですぞ」
女「私は末吉……これいいのかな?」
女友「私も末吉~」
銀髪「調べたけど吉より良いらしいよ、僕は吉」
少女「私は凶だ……君は?」
男「……」
男「大凶」
友「マジ!?」
女「入ってるんだ大凶……」
委員長「早く木の枝に結びつけに行こう」
少女「悪いのは木に結ぶと神様と縁が結ばれるんだったか?」
眼鏡「大凶はこれより下がないから吉兆と言う話もありますぞ!」
男「そ、そうだな」
少女「すごい木の枝真っ白なんだが」
女友「凶の人こんないっぱいいるの~?」
僕はなんとか良いことが有るように祈りつつおみくじを枝に結びつける
みんなで参拝した後にそれぞれ帰宅した
僕らは二人で手を組んで帰る
男「大凶か……」
少女「だ、だいじょうぶだぞ、眼鏡も吉兆って言ってたし」
少女「その、私が守るから!」
男「大丈夫、ありがとう」
男「たかがおみくじだもんな……」
少女「ち、注意していれば大丈夫!」
人ごみに酔ってふらふらになりながらも家に着く
男「ただいま~」
少女「ただいま~」
母「はあい、お帰りー」
博士「おもち食べるか?」
少女「うん、お腹空いた」
男「いただきます」
おもちでお腹を満たすと、二人でまた部屋に籠もる
テレビを見て笑う彼女の声を聞いていると、落ち込んだ気分も少し落ち着いた
少女「私たちもそろそろ帰らなくちゃ……」
男「三日までいても良いよ?」
少女「ん~、ご迷惑じゃないか?」
男「大丈夫」
少女「そうか」
少女「なあ、今から少し散歩しないか?」
男「え、いいけど」
少女「部屋で二人もいいんだけど……こたつだとちょっと距離が遠いかな?」
ドキッとした
もう、この爆弾娘は今年も大爆発だな!
僕らは一応母たちに三日まで泊まることを確認してから、公園まで散歩に出かける
彼女と手をつなぐ
少女「手袋を忘れてきた」
男「うん……でもこの方がいいな」
少女「体温が直に伝わってくるな」
男「うん」
ドキドキしている……
まだドキドキしている……
彼女の小さい手
温かい体温
鼓動
さっきまでの言い知れぬ不安感が溶けていく
男「なんだかドキドキするのに落ち着いて、変な感じだね」
少女「うん、くすぐったいような」
手を繋ぎ、肩を寄せる
手を持ち替えて腕を絡めるように組む
公園までの道、言葉はいらなかった
公園では子ども達が凧揚げをしていた
それを眺めながら公園の中をぐるっと一周する
人目に付かない場所を見つけて、見つめ合う
好きだ
好きだな
少女「……」
何も言わず頬を染める彼女
ゆっくりとキスする
何か悪いことがあるとしても、二人で居たら乗り越えられる
そんな気がする
その後公園を一周すると家に帰った
四人で御節を食べてから、二人でまたこたつに入る
少女「ふ、二人で同じ所に入ると狭いかな?」
男「うん、ちょっと……」
少女「ち、ちょっとだけ……」
これ以上ドキドキしたら死んじゃう
彼女は足先だけこたつに入れて僕の背中に抱きついた
……
あったかい、やわらかい、困る!
このまま三日も一緒にいたら……
いやいや
僕は悪い考えを頭から振り払った
男「四日はみんなで遊ぶから、デートは五日かな?」
少女「うん……」
男「さ、寒くない?」
男「毛布かぶろうか」
僕は少し彼女から離れて
でも二人で毛布をかぶったら……
少女「……近すぎてドキドキが止まらないよ……」
だよね……
しばらくドキドキした後、ふと彼女は立ち上がりまた対面に座る
少女「やっぱりこれ以上はムリ……」
真っ赤だ
たぶん僕も同じ顔をしている
彼女とはゆっくりと仲を深めていきたい……
今の手を繋ぐだけでドキドキする関係を壊したくなかった
たびたびすみません
ちょっと休みます
今日は寝ます
また明日更新します
すみません
乙!
きてたか
何か起きそうで俺もドキドキがとまらない
乙
この甘い日常が続いてくれ
>>134-135
ありがとうございます!
まだもうちょっと日常が続きます
ではゆっくりですが更新します
その後二日間、なるべく四人でいるようにした
彼女も時々甘えてくるし、キスもしたけど、なんとか耐えた
三日、彼女たちが帰ることになった
その段階になってすごく名残惜しくなってくる
もう少し一緒に居たかったな……
少女「また明日な!」
男「また明日!」
博士「お世話になりました」
母「いえいえ、こちらこそ」
二人を見送ると、母が呟いた
母「最後まで行けた?」
男「行ってないよ!?」
母「三日も同じ部屋に泊まったのに?」
母は呆れたようにため息をついた
母「よく耐えるわね~、若いくせに」
男「……でも……まだだから」
母「……いいと思うわよ?」
意外にも母は二人が今の関係を維持することを認めてくれているようだ
色々片付けてからその日は久しぶりに一人で、冷たい布団で眠ることにした
この四日間にあった色々なことを思い起こす
ひたすら彼女が温かかったことしか思い出せない……
なんだか自分が情けない
少し頭をクリーンにしたい
色々考えているうちに布団も暖まってきて、僕はゆっくりと眠りについていた
朝、ご飯が終わった頃を見計らうように女から電話がかかってきた
女「とりあえず駅前に集合で」
男「分かった」
今日はどこに遊びに行こうかな?
みんなで遊ぶ時間、大切にしよう
女「せっかくカップルできそうだし水族館あたり行ってみようかなって」
いいかも
電車に乗り一駅
僕らは海際の水族館にたどり着いた
友「着いた~!」
女「ここから解散~!」
どうも友たち二人の仲が深まってるように見える
キスでもしたのかな?
女友「銀ちゃん~」
銀髪「は~い」
あっちももうカップルしてるな
委員長「このメンバーの中じゃ浮いちゃいそう」
眼鏡「もっ、もっとくっついて良いんですぞ!」
委員長「ん~、まあ眼鏡さんがいいなら」
あそこはまだ難しそうだな
そして気が付いたら僕と彼女だけ取り残されていた
少女「……行こうか」
男「うん」
チケットを買うと、彼女の手を握る
寒いのに彼女は手袋をしていない
つながっていたい気持ちなんだろうな
二人で大きな淡水魚の水槽を見る
アロワナ……ピラルク……アリゲーターガー
彼女がどんどん説明してくれる
こうやって彼女のことを知っていく時間が、すごく大切に思えた
少女「こういった熱帯の淡水魚の中には違法に放流されて根付いていたりするのもいるんだよな」
男「アリゲーターガーとか怖すぎるね」
少女「食べられるのかな?」
男「う~ん、たぶん」
淡水魚コーナーの一角にナマズのコーナー
少女「キャットフィッシュは熱帯魚としても飼われてるから、綺麗だな」
男「なんかすごい顔してるのもいるけど」
少女「あはは、ほんとだ」
平たい顔のナマズの水槽を抜けると周囲を取り囲むような海水魚の巨大水槽
海の中を泳いでいるような壮大な景色……
僕らはゆっくりと海の中を漂う
彼女の手の温度が感じられる
今はこれで十分幸せで
巨大水槽を抜けるとクラゲや深海魚のコーナー
暗い幻想的な世界が広がっている……
二人で何も言わず光るクラゲの水槽の前で立ち止まる
少女「……綺麗」
男「うん」
二人でいろんな景色を見てきたね
こうしてまた一ページ
男「写真撮っておこう」
少女「綺麗に撮れるかな?」
男「フラッシュが反射しちゃうか」
少女「つけないと暗いしな」
男「難しい」
何枚か写真を撮って僕らはクラゲの水槽を離れた
明るい場所にでると、海亀やカワウソなどの動物のコーナー、珊瑚やナマコのコーナーがあった
少女「可愛いな~、カワウソ」
男「ご飯食べてる顔は怖いけど」
少女「え~、可愛いだろ?」
男「ナマコってグロテスクだよな……」
少女「なぜ人類はナマコを食べる気になったのだろう……」
男「タコも食べない国はあるしな」
少女「イカが食べたい」
男「お年玉有るし、回転寿司なら行けるかな」
少女「いいね、生きてる魚を見た後に魚を食べるのもどうかと思うが」
やがて一通り見て終わると他のメンバーと合流した
やっぱりこういう穏やかなデート、いいな
女「アシカショー見て帰るよ?」
男「うん、この後はそれぞれ別行動?」
女「まあ明日もデートするんだけどね」
そう言えば僕らも最初はとにかく二人っきりになりたかったなあ
今は二人っきりになると意識しすぎてしまう……
でもそれも良いかな
これからも二人でいる時間は増えていきそうだし、慣れないと
彼女の顔を見る
にっこり笑う彼女
最初から変わらないな
彼女の笑顔は可愛い
委員長「俺たちはどうしようかな?」
眼鏡「委員長猊下、我、デートを要請する!」
委員長「ええっ!」
委員長「……猊下じゃないけど、いいよ」
眼鏡「やったでござる!」
どうやらカップルが出来たようだ
なんかすごく変な告白を見た気がする
銀髪「じゃあ俺たちもここで」
女友「また来週ね~」
女「またね!」
にぎやかにカップルたちは去っていった
男「……行こうか?」
少女「うん」
二人で回るお寿司屋さんに入る
少女「いかっ」
少女「たこっ」
少女「かいばしらっ」
男「結構マニアックだね」
少女「そうか?」
僕は卵とアナゴ、鉄火巻きを取った
少女「それもマニアックな取り方だと思うが」
久しぶりに食べるお寿司は美味しかった
少女「ふう……お寿司の後のお茶ってすごく美味しいな……」
男「うん、落ち着いた」
落ち着いた所でこれからどうするか、明日はどうするかと話し合う
今日は帰って、公園に寄る
明日は大きな公園を散歩して、映画を見て、街を歩く
少女「じゃあそれで」
駅に着いた所で、銀たちと委員長たちと偶然合流した
委員長「君たちも今帰り?」
銀髪「うん、たまたまだね」
男「電車の時間があるからね」
銀髪「なるほど、それもそうか」
この駅から自分たちの街までの電車は一時間に二本しかない
女と友はもう少し遊んで帰るのだろう
女友「ごはん美味しかった~」
少女「何を食べたんだ?」
銀髪「俺たちは普通にレストランに入ったよ」
委員長「俺たちはお好み焼き屋に……」
眼鏡「青海苔ついてないですかい?」
少女「大丈夫」
六人で色々話しているとやっぱりデートっていいな、と思う
……その時、いつか見た不良たちがまわりを取り囲んできた
不良A「お、お前ら!」
不良B「あの時は世話になったな、ねーちゃん!」
まだ今年も始まったばかりなのにむさい不良ばかり十人近く集まっている
彼女がいなかったらこいつらみたいに寂しい年始だったのかな、と思った
不良は彼女の手を捕まえようとするが彼女はスルスルかわす
頭に来たのか不良は彼女に殴りかかった
不良A「このくそアマッ!」
委員長「感心しないな」
不良の手を逆に委員長が捕まえる
不良A「ああ?なんだてめ」
不良たちは喧嘩を売る相手を最初から間違えている
委員長「え、と」
殴りかかったはずの不良は地面を舐めていた
委員長は合気道の師範クラスなんだよね……
不良B「て、てめえ!」
残る不良たちが一斉に襲いかかってくるが
彼女も銀も武器を持った軍隊を制圧するための兵器である
不良十人では荷が重いのではないか
瞬きをした後には、全員うなり声を上げていた
委員長「……強いな君たち」
う、委員長にはさすがにバレたのでは……
取り押さえた不良たちを駅員さんに突き出して僕らは電車に乗り込んだ
委員長「……」
男「あのさ、委員長」
委員長「ん?」
男「ああ、いや」
委員長「さっきのことなら気にしないでいいよ、少し驚いたけど」
委員長「銀君も少女さんも強いんだな」
さすがに委員長でも二人が兵器だとは思わないようだ
少女「出来れば内緒に……」
委員長「?」
委員長「まあ俺は噂を流すタイプでは無いから……」
委員長は眼鏡と女友を見た
眼鏡「拙者もわりと口は固い方ですぜ」
女友「友達を売るのはクズだと思う~」
良かった
うちのグループは見た目と違って良識派ばかりだった
このグループなら彼女たちが少しくらいボロを出しても大丈夫だろう
今後もこういうことが無いとは限らない
ふと自分が引いた大凶のおみくじを思い出した
何事も有りませんように
女友「今日は楽しかった~」
銀髪「またデートに誘っても良いかな?」
女友「えと~、うん……」
銀髪「良かった」
眼鏡「またデートに誘っても良いでござるか?」
委員長「しゃべり方治したらね」
委員長は苦笑
そりゃそうだ
この二人が正式にカップルになるのはもう少し先のようだ
さっきの出来事も忘れて、楽しく電車に揺られて僕らの街に帰った
少女「……」
少女「君と居ると私は自分が爆弾だと言うことを忘れそうになる……」
彼女はまわりに聞こえない声で呟く
男「忘れていいよ」
男「忘れて欲しい、かな」
少女「そうか」
彼女は少し微笑んだ
好きだ
守りたい……彼女を……彼女の秘密を……
翌日も彼女とデートをする
前に訪れた植物園よりも大きな公園を一緒に散歩する
池を泳ぐ錦鯉に餌を与えたりしてのんびりすごした
映画を見て、レストランで食事
公園でキスをして、次は新学期に会うことにして別れた
いつも通りの平凡で平和な一日
しかし、僕らの悲しい運命の歯車が回り始めるのは、それから少ししてからのことだった――
始業式
僕は彼女と待ち合わせて一緒に登校する
少女「お待たせ」
男「あんまり待ってないよ」
少女「いつも悪いな」
男「僕が待たせることもあるから」
少女「いこう!」
男「うん」
新学期に起こるだろう色々な出来事に思いを巡らしながら僕らは手をつないで登校する
少し冬休みに遊び過ぎたから勉強の計画も練らないと
横を見ると真っ直ぐな目線で綺麗な顔立ちの少女が歩いている
ふとこちらを見て柔らかく笑う
それだけでまた強くなれる気がした
女「おはよー!」
男「おはよ、元気だな」
女「まあねー」
男「友と上手くいってるんだな」
女「とと、友は関係ないよ!」
少女「そうだぞ、いつも無意味に元気だぞ」
女「それじゃ脳天気みたいでしょうがっ」
男「曇りなのか、女の脳は薄曇りか」
女「晴天です、ぺっかぺかの晴天です」
友「やっぱり脳天気じゃないか」
女「おう、おはよー!」
少女「脳天気カップルおはよう」
友「今日も脳みそ乾燥注意報……ってひどいっ!」
少女「何もそこまで言ってないが」
男「あははっ」
委員長「おはよう、みんな」
男「おはようー」
友「聞いてくれよ委員長……」
委員長「聞いてたよ、乾燥気味のスポンジ脳なんだって?」
友「酷くなってない?」
眼鏡「マッチで火をつけたら良く燃えそうですな」
友「人の脳を固形燃料みたいにっ!」
友とのコントを終えると委員長が僕に耳打ちしてきた
委員長「前に君たちがストーカーに会ったって言ってたよね?」
委員長「さっき校門の前に見慣れない黒い車が止まっていたんだが……」
男「本当に?」
僕は校門に目をやる
確かに黒い車が止まっていたが、すぐに走り去って行った
男「黒服の男が二人乗ってた?」
委員長「いや、三人で一人は白衣、一人は老人、運転手は普通の会社員風だった」
男(……また違う組織?)
男(杞憂だと良いけど……)
委員長「どう思う?」
男「今の段階じゃ分からないな、たまたま止まってただけかもね」
委員長「そうか」
委員長「でもストーカーが捕まってないなら気をつけないとね」
男「うん、確かに」
休みの間は忘れていたが、僕らは狙われる立場なのだ
委員長のお陰でまた気持ちを張り直すことができた
委員長「なんならボディガードするから気兼ねなく言ってくれ」
男「たぶん大丈夫、ありがとう」
生身の人間の中では一番頼りになる仲間だ
銀髪「おはよう」
男「おはよう銀!」
女友「おはよー」
少女「おはよっ」
銀は何か知らないだろうか?
後で話を聞いてみよう
それにしても何故だか、いつの間にかみんな僕の周りに集まるようになってるな
自分が一番無力な気がするのだが
委員長に少し鍛えてもらいたいくらい
始業式を終え、銀に声をかける
銀髪「ん、ストーカーか……」
男「組織と関係があるかな?」
銀髪「話を聞いた感じだけど、冬休み前のストーカーはどうも俺たちを作った組織とは関係無さそうだな」
銀髪「それより今日校門の前に止まってたっていう車の方が気にかかる」
銀髪「父さんからは老人に気をつけろと言われてるからな」
男「組織の人間なのか?」
銀髪「実質的なトップだよ、俺や彼女さんもたぶん面識がある」
男「見つかったら一発アウトか……」
銀髪「……それはね」
男「本人が確認に来た可能性があると……」
銀髪「否定はできない」
女友「あ、二人ともこんなとこにいた~」
銀髪「ああ、待たせちゃったね」
男「早めに帰ろう」
二人が見つかったらどうなる……
まさか連れ去られたりはしないだろう
戦闘力が違いすぎる
銀髪「気をつけないといけないのは親たちだな……」
男「注意喚起はしておこう」
少女「……分かった」
僕らはいつものようにグループで帰った
銀髪「じゃあ俺は彼女を送るから」
女友「ありがとう~」
委員長「じゃあ解散で」
委員長「くれぐれも気をつけて」
男「ありがとう、分かってる」
少女「かえろっ」
彼女と二人で手をつないで帰った
公園で少し話をする
少女「冬休みで油断していたな」
男「うん、すごく平和だったから」
少女「……あの老人が出てきたなら……決着を着けないと駄目かもな……」
彼女は鞄を開けてその中から透明の、わずかにピンク色に濁った液体が満たされている試験管を取り出した
割れないように金具やゴムで物々しい封印がしてある
男「それが例の薬?」
少女「……」
少女「こんなもの、出来れば飲みたくないが……」
男「……」
男「もしそれを飲むなら、その時は僕も一緒だよ?」
少女「……ありがとう」
少女「起爆剤を飲んでも三十分から、最長二時間は爆発しないから」
少女「その間にキスをして欲しいな……」
男「うん……」
少女「出来る限りは逃げるけどね」
男「もちろんだよ」
出来ればこの幸せを失いたくはない……
少女「週末のデートの計画でも練ろうか?」
男「うん、そうだね」
それから二人でデートの話で盛り上がった後、帰った
とても寒い
家までの道が少し遠いような気がした
……僕ができることなんて多くはない
せめて最後の時は二人でいることくらいだ
二人が付き合い始めてからのことを思い返した
頬にキスされたこと
初めて手をつないだこと
彼女をうちに誘って三人でカレーを食べて
買い物デートしたり
登山デートでは初めてキスしたこと
四人でダブルデートした遊園地
食べ物不味かったな……
合宿や勉強会も楽しかった
クリスマスにデートして
年末年始はずっと二人でいた……
気が付くと僕は泣いていた
どうして世界は僕らを放っておいてくれないんだろう……
死にたくないと言うより、幸せが壊れてしまうのがとても怖かった
冷たい風が強まる中、僕はたぶん顔を真っ赤にして
家に帰るとすぐに寝てしまう
だが、変化はすぐには訪れなかった
始業式の時の老人もそれからしばらくは姿を見せることはなくて
安心できるはずは無いけれど、そんな、かも知れない、程度の些細なことでペースを乱すのが悔しかったのもある
僕は後悔しないように彼女とのデートの計画を練った
しかしもうだいたいのデートはしてしまった気がする
女たちにヒントをもらおうかな?
女「う~ん、すっかりベテランカップルだね~」
男「でもいざデートってなるとだいたいやり尽くした感があって」
女友「またみんなで遊びに行きたいね~」
男「もちろん、また行こう」
女「変に凝ったデートしようとしないでももういい気はするけど」
男「って言うと?」
女「例えばいつものモールでも二人でいたら幸せじゃないかな?」
男「確かに」
友「灯台下暗しってとこ?」
少女「友がおかしい」
友「今まともなこと言ったよね!?」
男「そうだよ、おかしいのはいつもだよ」
友「まともだよ?! 至極まっとうだよ?!」
女「また面白い顔して」
友「地ですよ?!」
少女「地が面白い顔なのか」
友「面白くないから、イケメンだから!」
女「自分でイケメンとか引くわ~」
友「彼氏ー俺は君の彼氏ー!」
男「まあ友の顔はどうでもいいとして」
友「散々いじったくせに!」
男「とりあえず次のデートはモールでいいかな?」
友「スルーかよっ!」
少女「まあそれでいいよ、また行きたい所が出来たら相談しよう」
男「うん」
女「私たちはどこに行こうかな~、ねえ友……」
友「……もういいもん……どうせ面白い顔だもん……」
女「あはは、また面白い顔してみんなを笑わせようと」
友「落ち込んでるんですーっ!」
銀髪「じゃあ俺たちとダブルデートしない?」
男「お、デートするのか?」
少女「いいぞ」
女友「お邪魔だけどよろしく~」
男「他のカップルを見るのも新鮮だから気にしなくていいよ」
少女「ダブルデートは面白いからな」
女「熟練カップルにだいぶ当てられるけどね~」
男「女たちだってもう熟練カップルだろ」
女「まあね」
男「お、余裕ですか」
女「そうだ、せっかく四組カップルがあるんだから午前午後で組み合わせ変えてみても面白いかも」
委員長「え、俺たちも?」
眼鏡「行きたいで……す」
男「眼鏡がまともにしゃべった!」
委員長「ん……、まともにしゃべったら付き合う約束だし、仕方ないな」
少女「実はちょっと楽しみなんだな」
委員長「そりゃ俺も健全な男子だからね」
女「じゃあ決まり、お昼で交代ダブルデートね」
少女「楽しくなってきた」
ほんと楽しみだ
うん、やっぱり楽しいのが一番だな
まだ授業も始まったばかり
あっと言う間に週末が来た
僕と彼女はいつものように公園で待ち合わせ
その後モールまで歩いていく
そう言えば銀は彼女に全てを打ち明けただろうか?
別に話さなくてもいいような気もするが
モールに着くともう既に三組のカップルが待っていた
女「さて、どこを回ろうかな?」
友「とりあえずゲーセン行こうぜ」
委員長「いいけど」
眼鏡「ゲームは得意で……す」
ぎこちないな
男「じゃあ僕らはショッピングしよう」
銀髪「分かった」
女友「服を選んでもらおうかな~?」
少女「お昼は?」
男「お昼はレストランに集まればいいんじゃない?」
女「今日はどこのレストラン入ろうかな?」
友「イタ飯屋でいいんじゃね?」
少女「うん良いな、楽しみだ」
その後銀たちと四人で服を見て回る
少女「せっかくのデートだし、楽しもう」
男「もちろん」
彼女と手をつなぐ
腕を組む
少女「んふふっ」
彼女が幸せそうだとこっちも幸せになってくる
銀髪「はあ、やっぱりレベル高いな」
女友「あっちは熟練カップルだし~」
女友「こっちも手、つなご?」
銀髪「うん……、緊張するね」
女友「私も~」
僕は後ろから着いてくる二人を少し気にしながら店に入る
少女「旅行鞄とかスポーツバッグを置いてるな」
男「どこか旅行に行きたいね」
少女「うん」
二人で旅行……
年末年始の時は四人でいられたが、二人で旅行となると
歯止めが効かなくなりそう……
まだ少し怖いかな?
少女「行くとしたら春休みかな……?」
男「うん……、どこか花の綺麗な所に行こうか?」
少女「楽しそう」
銀髪「二人で旅行ねえ……」
女友「私らはまず二人でデート~」
銀髪「だね」
少女「山登りの時みたいに何か次のデートの準備してもいいかも?」
男「う~ん、寒いからアウトドアってわけにも行かないかな……?」
銀髪「冬場のアウトドアって言えばスキーとかだけど」
男「このあたりスキー場は無いんだよね……」
銀髪「釣りならオールシーズン行けるけど」
男「詳しいの?」
銀髪「俺は瀬戸内の小島の出身だよ?」
そうだった
と、言うことは彼女も釣りができるんだろうか?
少女「釣りかぁ」
女友「餌がグロテスクだよね~」
銀髪「魚の切り身や海老でも良く釣れるよ」
女友「それなら触れそう~」
男「でも道具がないよ?」
銀髪「行くなら揃えておくよ?」
少女「うん、いつか二人で海に行きたいとは思っていたんだ」
男「彼女が賛成なら僕も構わないよ」
女友「私お魚触れるかな~?」
銀髪「まあそれは任せてくれたら」
男「じゃあ今日は防寒具探そうか」
銀髪「寒いのは間違いないからね」
少女「温かい飲み物を入れられる水筒が欲しいな」
男「二人でちょっと出かけるのにも良いよね」
男「こうやって色々見て回るだけでもデートのアイデアが湧くもんだね……」
少女「困ったらモールデートだな」
お昼まで服なんかを見て回り、四人で集合場所のイタリアンレストランに入った
二人ずつ隣の席に座る
少女「イカ~エビ~貝~ペスカトーレ~♪」
機嫌がいいなあ
男「じゃあ僕はカルボナーラで」
少女「また食べさせてね?」
男「いいよ」
銀髪「ふうん……」
女友「私らも~やる?」
銀髪「うん、やってみよう」
女たちみたいに動揺しないのか
二人は積極的なカップルのようだ
男「何かサラダを頼んで分けようか?」
少女「うん、カプレーゼ、カルパッチョもいいかな?」
イタリアン好きなのかな?
でも楽しそうで良かった
少女「今頃だとメバルやカサゴが釣り頃かな~」
少女「煮付けにしても唐揚げにしても美味しいぞ」
男「いいね、釣りたての新鮮な魚なら美味しそうだ」
少女「そう、美味しいんだ」
彼女は本当に魚が好きなようだ
僕もちょっと勉強しようかな?
男「あ、来た」
少しお喋りしていると料理が出てきた
う~ん、美味しそうだ
少女「いい香りだな……」
男「はい、あ~ん」
少女「んぐっ」
不意打ちでパスタを彼女の口に入れる
もごもごしながら小さな手で口元を隠す仕草が可愛い
好きだな
少女「仕返しえいっ」
男「マグっ!」
少女「あははははっ」
少女「えいっえいっ」
次々具を放り込まれる
君が食べる分無くなっちゃうよ?
銀髪「うわあ……」
女友「流石……ていっ」
銀髪「うくっ」
女友「油断した~!」
銀髪「やったな……」
銀髪「ん、男君……」
男「ん?」
銀髪「ふぇいんとー!」
女友「むぐっ!」
おお、なかなかのバカップルだ
女友「むぐ~ぅ!」
そろそろ普通に食べようか
少女「食べ物で遊んだらバチが当たるんだぞえいっ!」
男「うぐっ!」
少女「私のエビが無くなっちゃうよ」
男「普通に食べなよ」
少女「始めたのは君だが」
女「なんだか楽しそうにやってるわね」
ようやく残り二組が到着した
友「いや~参った参った」
おっさん臭いな
男「どうしたの?」
女「いやあ……委員長カップルがなかなかのくせ者でね……」
委員長「な、何か変だったかな?」
眼鏡「変じゃ……ないです……」
女「ね、眼鏡ちゃんずっとこんな感じ」
どうやら素だと恥ずかしくて耐えられないようだ
いつもキャラクターを作ってるのは照れ隠しか
眼鏡「あの……何に……しますか?」
委員長「うん、俺は……クリームパスタ」
眼鏡「私は……ボロネーゼで……」
委員長「他に何か頼む?」
眼鏡「ミモザサラダ……」
委員長「美味しそうだね」
男「普通のカップルになってるな」
女「ねー、可愛い感じ」
友「俺たちが見せつけるつもりが……」
少女「ヘタレはまた負けたのか」
友「はっきり言っちゃ駄目っ」
女「はあ、私らも注文するよ」
友「うん……なんにしようかな……」
男「僕ももう一品何か頼もうかな……」
少女「まだ時間がかかりそうだしな」
銀髪「まあのんびりやろうよ」
男「急ぐことも無いし」
少女「お昼からは本屋さんに行こうか?」
男「いいよ」
食事を終えると委員長と眼鏡を連れて四人で本屋に向かう
ちょっと食べ過ぎた……
眼鏡「うう……新刊……」
委員長「これ小説?」
眼鏡「ライトノベル……です……」
男「完全に違うキャラなのに中身はそのままなんだ」
少女「そりゃそうだろう」
男「君はいつもどんな本を読んでるの?」
少女「時代小説が好きだが最近はエッセイも良く読んでる」
男「へえ……僕はSF小説やミステリーばっかりだよ」
委員長「面白いのあれば教えてよ」
男「僕が好きだったのは……」
少女「私のおすすめはこの辺りの……」
眼鏡「うう……好きなラノベはとてもおすすめできない……」
委員長「ん~ライトノベルも一作くらい読んでみたいかな」
眼鏡「ま、ほ、……本当?」
眼鏡頑張ってるなあ
委員長も鬼じゃないんだからそろそろいつも通りに喋ったらいいのに
男「そう言えば委員長は釣りしたことある?」
委員長「好きだよ」
男「そうなんだ?」
少女「今度は釣りデートするらしいぞ」
委員長「釣りデート?」
委員長「青イソメとか使って?」
少女「釣りをしたことがない女の子に青イソメとかやめた方がいいぞ」
委員長「それはそうか……」
男「魚の切り身やエビを使うらしいよ」
委員長「するとターゲットは根魚か……」
何か詳しそうだ
男「委員長は何でもできるんだな」
委員長「そんなわけないだろ、色々不器用で困ってるよ」
帰りに一旦全員で集まる
八人もいるとちょっとした混雑だ
女「釣りデートね、面白そう」
友「俺も一応竿とクーラーは用意できるぞ」
少女「釣った魚を食べるまでがデートです!」
友「おお、ノリノリ?」
男「って事で、道具が用意できない人は委員長か銀に頼むように」
眼鏡「釣り……考えたら初めての経験……初めて……」
そろそろ眼鏡の限界が近付いてるのではないか
デートの予定が決まった所で解散する
彼女といつもの公園に立ち寄る
少女「海か……」
何か懐かしかったりするのだろうか?
彼女は子供の頃どんな生活をしていたのだろう?
瀬戸内海のいくつかの無人島でそれぞれ様々な兵器の研究がされていたと言う……
小さな彼女が研究施設を抜け出して海を眺めていたり、研究者の一人に釣りを教わったりしている状況が目に浮かぶ
少女「そんな感じだな」
男「その研究者うらやましいなあ」
少女「そうか?」
少女「その頃は青イソメも怖くなかったな」
少女「振り回して遊んでた」
可愛いな
青イソメと言うとすごくグロテスクだけど
少女「実際に竿を持って魚を釣り上げた時は興奮したな」
男「僕も子供の頃釣りに連れて行ってもらったことがあるけど」
男「アジのサビキ釣りだからいきなり三匹釣れて、才能あるんじゃないかと思った」
少女「あははっ、アジは釣れだしたらどんどん釣れるからな」
男「うん、みんなでたくさん釣り上げたよ」
男「だから釣りは嫌いじゃないけど……寒いのはなあ……」
少女「海際はすごく寒いから一枚か二枚余分に着た方がいいぞ」
少女「寒い中わざわざ出かけるのは嫌?」
男「君のことがまた一つ分かるから、嫌じゃないよ」
少女「うん」
こんなに寒いのに彼女は赤くなる
好きだ
……
彼女にも積み上げてきた思い出がある
大切な家族がいる
彼女が爆発するとしたら、それは全て消え失せてしまう
逃げ出した博士たちの気持ちが分かる
彼女の記憶を、彼女の思い出を、彼女自身を失いたくない
少女「……」
僕が悩んでいるのを察して、君はキスをしてくる
失いたくない、そう思ったら強く抱きしめてしまう
少女「痛い」
男「うん……ごめん」
少女「いや、いい……」
そのまましばらく抱き合っていた
少女「……帰る」
彼女は僕の頬にキスをして立ち上がる
少女「このまま君しか見えない世界にいられたらいいのに」
そんなことを言われたら顔が熱くなる
僕は初めて君に頬にキスされたことを思い出しながら帰宅した
ひっくり返った砂時計
砂は止めようもなく落ちていく
こちらの寂しい気持ちなんか知ることもなく
運命は流れていく
これが最後かも知れないから
僕は君を大切に、記憶に刻みたい
例えこれがいつか物理的に失われる気持ちだとしても
やがてまた一週間が過ぎて、釣りデートの日が来た
僕らは駅にクーラーボックスを持って集まった
大きなクーラーボックスだが、ほとんど釣れなかったら寂しいな
少女「冬場だから厳しいけど、潮は悪くないよ」
男「潮?」
少女「満潮に向かって徐々に満ちていく時間帯だ」
少女「潮が引くと岩場が砂浜になったりするぞ」
委員長「これから行くのは堤防だけど、今がちょうど干潮時刻だから水がどれくらい動くか分かるよ」
友「まあ満潮まではいられないかなあ」
銀髪「そうだね、二、三時間釣って帰ろう」
男「アウトドアは一日潰れるなあ」
少女「そうだな、自然を眺めて一日のんびり過ごすのがアウトドアだからな」
女「潮風が寒いかも」
女友「あんまり風が無くて良かった~」
銀髪「海際は風が強いと思うけどね」
銀髪「気をつけて」
女友「うん~」
海に落ちて亡くなる人もいるらしいから、ほんと気をつけないと
少なくともこんな所では死ねない
眼鏡「魚……触れるかな……」
委員長「俺がやるから気にしないで」
眼鏡「でも自分で釣った魚……さばきたいかもです」
委員長「う~ん、根魚なら鱗を落としてはらわたを抜いたら、後は煮ても唐揚げにしても美味しいと思うよ?」
委員長「なんならそこまで俺がやってもいいし」
眼鏡「ん……頑張ります……自分でさばく……」
委員長「そう、やりたいならやってみたらいいよ」
魚か……
魚をさばいたこと無いなあ
彼女が大きな鯛を釣り上げてさばいてくれって言われたらどうしよう
釣れるわけないけど
根魚ってなんだろうと思って調べたら魚の生息域などでグループ分けして名前がつけられているらしい
根魚は岩礁などに隠れ住むカサゴやメバルなどの魚の総称だそうだ
鯛は三十から二百メートルの深海に住む魚で、陸から釣れることもあるが一般的には沖に船を出さないと釣れないらしい
銀髪「根魚だけだと釣果が心配だから投げ竿とサビキ仕掛けも用意したよ」
友「俺らは青イソメで女の子たちはアジの切り身やエビで釣り分けるんだな」
委員長「色々釣れた方が面白いからね」
銀髪「カサゴしか釣れなかったら飽きそうだし、アミエビなら色々釣れるだろうから」
友「ひさびさだから楽しみだな」
男「餌はどこで調達するの?」
委員長「現地の釣具屋さんで買うよ」
銀髪「一応魚の切り身だけは用意してある」
友「イソメ見たら流石の女もびびるだろうな」
友が意地悪そうに笑う
青イソメ……
僕にしてもとても触りたくはない虫だ……
節のあるミミズと言うか、足の溶けたムカデのような容姿に黒い牙……
しかし多分彼女はほいほい掴むだろう
怯んではいけない
少女「楽しみだな」
男「うん」
イソメさえ無ければ
しかし彼女の手前友よりヘタレて見せるわけにはいかない
電車に乗る前におやつやお弁当を買う
少女「飲み物は持ってきた」
男「何?」
少女「コーヒー、甘いの」
僕にあわせてくれたのかな?
嬉しい
委員長「一応お茶と紙コップも買っておくか……」
男「僕が買うよ、竿のレンタル代って事で」
委員長「悪いな」
少女「紙コップ忘れてたな」
女「二人なら間接キスくらい何ともないでしょ」
改めて言われると割とドキドキする
少女「私は構わないけど……」
男「僕も構わないけど……」
眼鏡「さっそくいちゃつきおってけしからん」
おい、言葉
眼鏡「うっ、つい……」
委員長「いいよ、もう気楽にしてよ」
眼鏡「ありがとうです……」
男「普通に緊張してるみたいだな」
電車に揺られて一駅、水族館のあった海際に着いた
途中にある釣具店に八人でぞろぞろと入る
委員長「青イソメは千円分あれば足りるか?」
友「良いんじゃね?」
銀髪「エビはパックの奴二セットあればいけるか……」
委員長「メインはサビキ釣りだからそれくらいで、仕掛けも買っておこう……後撒き餌買わないとな」
銀髪「アミエビブロック意外と安いね」
委員長「バケツとか道具は用意してるから……」
みんな結構詳しいな……
準備を終えると海に向かう
厚着していて良かった……かなり潮風が冷たい
男「釣れるのかな?」
少女「釣れなかったら海を見ていたら良いんだ」
男「せっかくのアウトドアだしね」
今は潮が満ち始めた所らしい
海面までの距離を高く感じる
これはこれでいい眺めだ
委員長「さて」
友「まずは適当に投げといてサビキとちょい投げ教えるか」
女「お手柔らかに……これすごい臭い……」
友「まあ手は汚さないようにな」
委員長「タオルはいくつか」
さすが委員長、準備がいいなあ
少女「コーヒー飲みながらゆっくりやろう、はい」
男「ありがとう」
女友「こっちもちょうだい~」
少女「はい」
友たちが投げ竿で遠投した後、エビや魚の切り身で足元を探る釣りを教わる
青イソメも
うわっ、絡まってうにうにしてる……
友「この釣りが気楽で良いよな~」
委員長「バス竿でもできるし、道具を問わないからね」
銀髪「じゃあ俺は女の子たちにサビキ釣りを教える」
委員長「適当に釣りはじめるか」
とりあえず委員長のやり方を見て、同じようにやってみる
餌はエビだ
青イソメは無理だった
委員長は青イソメを使うようだ
委員長「こっちの方が色々釣れるんだよ」
釣れなかったら覚悟を決めて青イソメに手を出すか……
しかし、意外とすぐ釣れた
男「……これ、鯛?」
委員長「おお、文字通り海老で鯛を釣ったね」
男「陸からは釣れないんじゃ……」
委員長「いや、小さいのはわりと良く釣れるよ?」
友「ビギナーズラックだな~」
その後はあまり釣れなかったが、委員長たちはどんどんアイナメだとかカサゴだとか釣り上げて行く
委員長「あっちにプロがいるんだが……」
委員長が指す方を見るとライフジャケットに帽子を深くかぶった彼女が見えた
あれは何だろう、ルアーと言う奴だろうか?
友「餌木かよ」
銀髪「アオリイカ狙いか」
男「イカ?!」
見ていると何度も同じ場所でその尻尾にとげが逆さに生えたエビのような物を投げ入れていく
投げては巻き上げてを何度も繰り返している
男「すごく様になってる……声をかけづらい……」
委員長「俺もルアーでやってみるか」
銀髪「小さいミノーか……俺はソフトルアー使うかな」
友「俺もルアータックル持ってくるんだったな……」
女「友、あっちの竿魚かかったみたい!」
友「はいよ!」
友は投げ竿を巻き上げて行く
ハゼだろうか、薄い茶色の魚が釣れてきた
友「キスだな」
女「キス?」
女は何を思ったか友にキスした
友「魚の名前だよ!」
女友「こっちいっぱい釣れだしたんですけど~」
眼鏡「魚取ってくらはい」
委員長「はいはい、こっちも忙しいな」
僕も魚の切り身でカサゴを釣っていく
流石に取ってくれとは言えないので自分で取る
委員長「赤いのや知らない魚が釣れたら触らないで教えてくれ、毒がある魚もいるからな」
男「分かった、助かる」
釣れてくると面白い
僕は色々やり方を試してみた
青イソメにもチャレンジする
銀色の良く知らない魚が釣れた
ぬめぬめしている……毒は無い……よな?
男「委員長~」
委員長「はいはい」
委員長「ヒイラギだな」
男「食えるの?」
委員長「俺は食べないけど美味いらしいよ?」
男「一応キープしておくか」
銀髪「ヒット、メバルだね」
委員長「本命来たね」
眼鏡「委員長様~」
委員長「俺の釣りができないな……」
銀髪「俺が全部釣っておくよ」
委員長「うう、残しててくれよ……」
みんな釣り好きなんだな
僕も特に趣味がないから魚釣りを趣味にするのもいいかも知れない
竿が震え、引き込まれる感触が気持ちいい
彼女の方を見ると餌木に取り付いたイカを海から引き抜いている所だった
銀髪「デカい……」
男「彼女に釣りを教わろうかな……?」
銀髪「こんなにいろんな種類の釣りを一度にやったのは初めてだ」
男「これだけ色々できると面白いな」
銀髪「俺の彼女が釣り好きならダブルデートするんだけど」
男「難しいんじゃない?」
銀髪「彼女は都会派っぽいもんね」
女友「銀ちゃん魚取って~」
銀髪「は~い、委員長は……バトル中か」
委員長はなにやら大物と格闘していた
委員長「スズキ……セイゴサイズだけど」
本当に色々釣れるなあ
帰ってから食べるのも楽しみだ
昼になったのでお弁当を食べることにした
男「たくさん釣れた?」
少女「イカは三杯だけだった」
男「難しい釣りなんだ?」
少女「そりゃ餌釣りの方が楽だな」
男「楽しそうだけど」
少女「難しいから面白いぞ」
女「友が釣り好きみたいだし、たまにはいいかな?」
男「まあまあ楽しいよね、手は汚れるけど」
委員長「それは仕方ないかな?」
男「釣りを始めるのはお金かかるかな?」
委員長「それはね、一万もあれば十分だけど最初は五千円くらいでも」
眼鏡「魚を上手にさばける女は好きですか?」
委員長「え?うん、だね」
眼鏡「頑張ります……」
その後もう少し釣ると、餌も少なくなったので帰ることにした
委員長はもちろん、銀や友もかなりの数を釣り上げたようだ
女友「アジいっぱい釣れたよ~」
銀髪「帰ったらアジフライかな?」
女友「美味しそう~」
銀髪「自分で釣った魚は格別に美味しいよ」
女友「楽しみ~」
少女「イカとカサゴとヒイラギか……唐揚げにしようか煮付けにしようか」
男「食べたいな」
少女「じゃあ作りに行く……お母さんに電話してくる」
男「うん」
彼女の手料理……嬉しいな
料理は科学と言うし得意なのかも知れないな
銀髪「俺はどうしようかな?」
女友「私作りに行くよ~」
銀髪「魚さばける?」
女友「わりと料理できる~」
意外だな
女「じゃあ私も行かないとね」
友「えっ、マジで?」
女「私は料理はあまりできないけど……」
友「いやいや、俺やるし」
男「友って料理できるのか」
友「塩焼きとか簡単なのはな~、自分で釣ったら料理したいしなあ」
男「僕も釣りとあわせて料理も始めようかな?」
友「まずは青イソメに慣れないとな」
青イソメは当分ご遠慮願いたい
無事に家に着く
彼女と
まずは魚臭い手を洗う
母はクーラーボックスを開けて中を見ている
母「カサゴにアジにイカかあ」
男「アジはもらった、カサゴは僕が釣った奴、イカは彼女」
母「良いわね、食費が助かるわ」
少女「台所お借りします」
母「あらあら、それも助かるわね」
少女「油使っても大丈夫ですか?」
母「アジフライとか唐揚げ?」
少女「その予定です」
彼女と母が料理を始める
僕は魚のさばき方だけ見るとテーブルに座って待つことに
やがていい音と香り……
食欲がわいてくるなあ
しばらくして、テーブルの上にサラダと唐揚げ、フライが並べられた
美味そう!
母「じゃあいただきます!」
男「いただきまーす」
少女「いただきます」
僕はまず自分の釣ったカサゴを食べてみた
うん、すごく旨味があって食感もしっかり硬めで美味しい!
味付けもちょうどいい!
母「美味しいわ~」
少女「良かった」
男「これは釣りにハマりそう」
少女「ぜひ、また行こう」
こうして僕たちは楽しい一日を過ごした
……しかし、その幸せを打ち砕く事件はその日のうちに起こったのだった……
今回はここまでです
時間かけた割りに推敲甘かったな……
日常を描くのはすごく難しいですね
いつか釣りSS書こうかな
次回、いよいよ大詰めです
終わらない物語なんか無いですし、最後まで気合いを入れて頑張ります
乙
日常に食傷ぎみなので
次回期待
>>175
ありがとうございます
終わるとなると一気に終わるのが分かってたので、ちょっともったいなくて引き延ばしてしまいました
更新します
僕は彼女を送って帰る
母は残ったイカでお酒を飲んでいた
男「ちょっと遅くなったかな」
少女「うん、電話入れておこう」
帰り道、彼女は博士に電話をかけた
……
……
…………?
少女「?」
少女「おかしいな、まだ寝てはいないはずだが……」
彼女は携帯に電話している
外出ではない……
……さっき食べた油物が胃の中をのたうっている
いや
胸騒ぎ……!
男「は、早く帰ろう」
少女「……うん!」
僕と彼女は走った
彼女のアパートの階段を駆け上がる
酒に酔っているらしい住民から怒号が飛ぶ
構わず彼女は部屋に走り込む
少女「お母さん!」
彼女の家は酷く散らかっていた
彼女らがいつもこんな風に部屋を散らかしているとは考えにくい
彼女たちはいつも清潔できっちりしているのに……
少女「……お、お母さんっ!」
彼女は取り乱し、あたりの紙を蹴散らして押し入れを開けたり、トイレを開けたり、お風呂を覗いたりした
男「お、落ち着いて!」
僕はひとまず彼女を落ち着かせようと、抱きしめた
彼女が暴れればすぐに振り解かれるだろうが、どうにか彼女は落ち着いたようだ
少女「そうだ……、あの人がそんなにあっさりさらわれる訳がない」
男「落ち着いて考えよう」
少女「考える……そうだ、考えよう……」
彼女は僕から離れるとしばらくブツブツと呟いている
少女「さらわれた時は……逃げろと言っていたが……」
少女「私が独りで逃げるとは思っていないはず……」
少女「しかし急にさらわれたら準備する範囲も限られているはず」
少女「お母さんがさらわれたら……どうなる?」
少女「簡単には分からない方法で隠しているはずだ……見つける方法を……」
少女「どうやって、どこに隠す?」
男「落ち着いて」
少女「うん、ありがとう……落ち着いてる……」
少女「まず」
少女「お母さんがさらわれたら困る人がいるだろう」
男「……君、……ではなくて……」
男「銀たちか」
少女「彼らに何かを託しているかも知れない」
男「とにかくここで二人で話していても仕方ない、銀の家に行こう」
少女「場所は分かるの?」
男「連絡先はわかる」
僕はすぐに銀に連絡した
彼らにしてみれば自分たちの秘密をバラされては困る
そして博士も彼らにはそれを食い止めるチャンスを与えているはず
推測に過ぎないが他にすがる物もない
銀はすぐに電話に出た
銀髪「こんばんは~、魚美味かったね」
男「ああ、美味かったね」
男「じゃなくて、すまない、落ち着いて聞いてくれ」
銀髪「……何かあった?」
男「博士が……さらわれたかも」
銀髪「……!」
その後電話口で銀と研究者さんが何か話しているのが聞こえてきた
銀髪「分かった、すぐにそちらに向かう!」
銀はそう言うと電話を切った
男「銀たちが来てくれるらしい」
少女「そうか……」
しばらく僕と彼女は立ち尽くしていた
僕はふと彼女を抱き寄せてキスをした
落ち着いているふりをしているものの、僕だって落ち着いてない
彼女の体温が僕の頭を澄み渡らせる……
少女「……」
少女「こんな時なのに、うっとりしてしまった……」
うっ
……可愛いな
僕はそのまま彼女を抱き締めた
少女「……」
少女「ごめん」
少女「……」
少女「ここに居てくれて……ありがとう」
彼女の瞳からボロボロと大粒の涙が流れる
……
これで?
男「これで最後かよ……」
少女「……うっ」
少女「うう~っ!」
彼女はすごい力で僕に抱きついてくる
ちょ、リミッターが外れている!
死ぬ!死ぬ!
少女「う、うわっ、ごめん!」
男「天国が見えた」
少女「本当にすまん」
でも離さないんだ
ううううう……
あったかい、柔らかい、幸せ……!
ううっ
離したくない!
僕は彼女を強く抱き締めて
どれくらいの時間が過ぎたか抱き締めて
銀髪「それ以上見せ付けられたら燃え尽きそうだから止めさせてもらう」
銀、もうきてた
研究者「若いってうらやましいっ!」
研究者「私は一発でふられたのにっ!」
なんか男版眼鏡が来た
研究者「そもそも愛とはっ!それは世界!」
この人こんなキャラだっけ?
銀髪「はいはい父さん、今はそれ所じゃないんだよ」
委員長「そうですよ、早く対応策を考えないと」
あれ?
委員長いたのか
委員長「話は車の中で聞かせてもらったよ」
男「どうして二人が一緒に?」
委員長「彼女たちを連れて四人で魚料理大会をやってたんだ」
銀髪「そこに君から電話が来たってことさ」
男「眼鏡たちは?」
委員長「流石に置いてきたよ、と、それより」
そうだ、そんなことは些細な問題だった
博士を探す方法は分かるのだろうか?
研究者「残念ながら教わってない」
研究者「だが」
だが?
研究者「彼女一人さらわれたら私たちが平和になれるとは思わない」
研究者「そもそも私は彼女に研究した遺伝子データの全てを渡したわけではなく自分の研究が汎用化されるのを懸念した結果、研究データは一切渡さず出来上がった遺伝子そのものだけを彼女に送ったのだ」
研究者「彼女が如何に天才でも遺伝子データ全てを読み取れるはずがないッッ!」
早口で何を言ってるか分からないがどうやら彼なりのプライドがあるようだ
研究者「はあっ、はあっ」
銀髪「ごめん父さん、何言ってるか分からない」
研究者「つまり彼女にしても私たちが危険にさらされるのは分かっていたと言うことだ」
研究者「彼女はそれを回避するために、多少難解でも我々が彼女を」
研究者「彼女を救えるチャンスを」
研究者「与えているはずだ!」
銀髪「彼女が死ぬ気ならどうするんだ?」
研究者「いいや、それでもだ!」
研究者「少女ちゃんの遺伝子を確保すれば全ての謎は明らかになりうるッ!」
男「話を遮ってすまないけど研究者さんお酒飲んでる?」
銀髪「魚が美味しいからってずいぶんお酒が進んだみたいだよ」
研究者「私の話を聞けッ!」
男「はい」
銀髪「へい」
研究者「つまりは彼女だって秘密が守られる世界の方が秘密が守られない世界より望ましいんだよ」
研究者「彼女は妥協しない」
研究者「天才は妥協しない、全てを計算の内に入れる」
研究者「つまり」
研究者「彼女が今最も親しい人物に彼女は鍵を託している」
男「それは研究者さんでは?」
研究者「私は彼女にふられたんだよおおおおお!」
少女「殴ってもいいか?」
男「君が殴ったら死んじゃう」
少女「そうか」
僕が殴る
研究者「へぐっ!?」
男「って言うかこの人飲酒運転した?」
銀髪「タクシーだよ、一応」
委員長「……ちょっと話について行けなかったが……タクシーには待っててもらってるよ」
研究者「博士の居場所のヒントは博士が一番親しい、研究に携わってない人が持ってるはずだ……誰だ?」
男「!」
少女「!」
銀髪「心当たりが?」
男「……母さん?」
少女「だな」
そう、博士は何故か僕の母には心を許していた
おそらくは孤独だったはずの博士
今の彼女にとっての世界の大きな部分に僕の母はある
だが博士はギリギリの選択をするらしい
最善を尽くす彼女はギリギリの選択を
したはずだ
僕らはタクシーにぎゅうぎゅうになりながら乗り込んだ
委員長「五人も乗れないな」
少女「家は分かってるから私と銀は走って行こう」
彼女たちは先に走り出した
僕と委員長、研究者さんを乗せ、タクシーは僕の家に向かった
最短距離を飛ぶように進んだ二人は、信号に度々捕まった僕らより先に家に着いていた
僕らは家に飛び込む
男「母さん!」
母「ほわっ!?」
男「何か博士さんに預かってる物はない?」
母「ん?」
母「……もう大変な状況になっちゃったの?」
男「何かあるの?!」
母「ん~」
母「こんなものなんだけどね」
母はタンスからハンカチにくるまったものを取り出す
男「これは……」
少女「USBメモリか」
研究者「貸してみたまえ」
男「はい」
少し時間が経って研究者さんも酔いが覚めてきたようだ
手持ちのノートパソコンを凄まじい速さでタイピングする
研究者「これで暗号化は解けた……アドレス……?」
研究者「ネットに接続して……」
後ろからのぞき込むと地図が出てくる
その中に光る点
博士はそこにいる?
研究者「光点が動いているな」
委員長「GPSか……」
銀髪「なるほど、やっぱりさらわれた時のために準備をしていたんだな」
男「……追いかけよう!」
研究者「少し待ってくれ、タクシーをもう一台呼ぶ」
母「私がお酒飲んでなかったら運転するんだけど……」
流石に母さんを連れては行けない
銀髪「父さん、ノートパソコンを貸して」
研究者「む」
研究者「お前たちだけで行くつもりか?」
少女「研究者さんはどこかに隠れていて」
研究者「……」
研究者「ちゃんと帰ってくるんだぞ?」
銀髪「もちろん」
銀髪「行こう」
少女「委員長はどうする?」
委員長「俺も力になりたいが、仕方ない」
委員長「だが絶対に帰ってきて欲しい、……待ってる」
少女「……」
少女「分かった」
多分……
僕らは無事には帰れない
男「母さん……」
母「……何か大変なことが起こってるのね……」
男「うん」
母「行っておいで」
男「……ありがとう」
男「……行こう」
銀髪「ああ」
少女「こんな研究は……全て無かったことにする」
男「……仕方ない、ね……」
もちろん納得できるはずがないが
僕らは三人でタクシーに乗り込む
銀髪「運転手さん、指示する方に行ってください」
銀の指示にそって、タクシーは走り出す
町を外れ、山間に入る
真っ暗な、うねる山道を走る
やがて大きな屋敷が見えてくる
数時間はかかったとは言え、こんな近くにアジトがあるのか……
いや、空き家を買い取るなどして用意したのだろう
老人は彼女たちを見つけてから、これだけの準備を進めてきたのだ
つまり、侵入は容易では無いはず……
男「僕が居ても大丈夫?」
正直足手まといのはずだ
少女「最後は一緒に居てほしい……」
男「……」
男「もちろん!」
覚悟はとっくに決めている
タクシーを帰らせると、大きく開け放たれた門に入っていく
屋敷のまわりにいた警備員を彼女と銀が目にも留まらない速さで倒す
僕は二人の後から着いていく
ぐえっ、とかうぎゃっ、と小さな悲鳴が聞こえるが、静かに速やかに彼女たちは侵入していく
少女「どこだ……」
少女「どこにいる!」
上手く進入できているが、彼女は若干焦っている
あまりにも広い屋敷だ
僕は息を切らせつつ彼女の後を追いかけたが、少しずつ離されてしまう
老人「迷いネズミが」
男「!?」
僕は
激しい腹部の痛みと共に気を失った
銀髪「待て、少女さん!」
銀髪「彼が着いてきてない!」
少女「!」
少女「……しまった……!」
その時不意に声がかかり、彼女たちは振り返る
老人「ずいぶんと暴れてくれたのう」
少女「お前は……」
少女「彼と……お母さんを返せ!」
老人「連れてこい」
警備員「はっ」
僕は警備員と白衣の男に連れられて歩く
博士も一緒に連れてこられた
男「ごめん……」
せっかく体を鍛えたのに、情けない
博士「言ったろう、逃げろって」
少女「逃げるわけないだろう」
博士「逃げて幸せになる選択肢も有ったはず」
少女「お母さんが拷問にかけられてるかも知れないのに?」
少女「逃げられないよ、逃げても幸せになれない」
こうなることも博士の計算のうちのはずだ
何を考えているのだろう?
博士「ふふ……」
老人「ふん……ようやく儂の元に戻ってきおったわ」
老人「兵器が情に流されるとは滑稽だの……精神を改造する手法も考えるべきかのう」
外道が……
博士「ここに私の研究成果は全てそろった」
博士「全てを焼き尽くす」
男「!」
少女「……」
少女「ごめん、覚悟はできてる……?」
彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめてきた
覚悟はとっくに決まっている
決まっている……筈だった
でも実際にこの事態になると、冷や汗が出てくる
しかし、逡巡していても彼女の決意が鈍るだけだ
僕が彼女を迷わせたく無い
少女「仕方がない」
少女「君は爆弾に恋をした」
老人「……ま、まさか」
老人「馬鹿な、死ぬ気か!?」
男「僕は」
男「君と一緒にいる!」
僕の言葉を聞くと彼女は一つ頷き、懐から封印された試験管を取り出す
バラバラと封印を外す
老人「と、止めろ!」
警備員「はっ!」
白衣「ひ、ひいっ」
白衣の男は事情を知っているのか、腰を抜かした
警備員は彼女に飛びかかる
銀髪「……俺がいるの忘れてないか?」
警備員は後頭部に手刀を食らい、倒れた
銀髪「ふう……これで終わりか」
銀髪「君たちと彼女のお陰で……楽しかったよ」
銀髪「……やれ!」
銀に促されて、彼女は一つ頷くと試験管に満たされた薄桃色の液体を
ゆっくりと飲み干した
老人「ひっ、ひいっ!」
白衣「うわああっ」
銀が警備員を揺り起こす
銀髪「……行け」
警備員「ひいっ!」
警備員は銀に怯んで逃げ出した
彼女が爆発するまで、まだ時間がある
僕はゆっくりと彼女の元に歩いていく
約束を果たすために
少女「……ありがとう……」
男「約束だから」
僕はゆっくりと
彼女にキスをした
銀髪「はあ、やれやれ」
博士「ふふふ……」
銀髪「これで老人たちは大丈夫なんでしょうか?」
博士「この技術が内部分子によってテロに使われる危険性はこれで十分伝わったはずだ」
博士「人を使う以上は、必ず予期しない事態が起こる」
博士「もちろん脳の無い体だけを作ることもできるが、使うのは人間だ」
博士「テロの危険性は消えない……あの老人もそこまで馬鹿ではないだろう」
二人の会話を横で聞きつつも思う
僕らは最後に世界を平和に近づけたのだと
これで最後
最後だから……
僕は彼女をしっかりと抱き締めて目を閉じる……
その桃の香りがする唇を……感じて……
女は教室に誰もいなくなったような静けさを感じていた
大切な友達が三人、今日は登校してこなかった
委員長の話では三人は何かのトラブルに巻き込まれたらしい
しかし、帰ってくると
委員長は確かに言った
だから少し寂しいが、女は待っている
女「帰ってくるよね……」
女友「銀ちゃん~……」
眼鏡「寂しいです……」
委員長「帰って来るさ」
友「……でもよお……」
友「トラブルってこの前のストーカー絡みじゃねえの?」
女「……私のせいなのかな……」
委員長「いや、それはないと断言しておく」
委員長「詳しくは話せないが」
待っている
三人は自分の大切な友達だから
待っている
やがて午後の授業が始まる
寒い教室
雪も降ってくる
女が降ってくる雪を眺めていると
校門の所に三人の影が見えた気がした
――終わり――
通りすがりであれだけどタイトルどっかで見たことあるな司書のやつ
>>191
そうなんですか?
一応全くのオリジナルです
さて、何か反応が欲しかったんですが消化不良にさせても悪いのでエピローグをば
エピローグ
彼女の体内で激しい勢いで精製される核物質はやがて臨界量を迎える
まず発生した中性子線は辺りの全ての命を奪い去る
暴走する中性子線
失われたおよそ一グラムの質量による巨大な核爆発が起こり
百テラジュールの炎は山間を埋め尽くし……全てを焼いていく……
ぶっちゃけて言おう
そんなことは無かった
彼女の唇から漂う桃の香りと共に僕はあることを思い出していた
少女「桃のジュースとか好きかな~?」
確かに言ってたけど
確かに桃色だったけど……、え~~~
少女「すまんな」
博士「初めから薬品なんか処分してるわ、誰が大切な娘を爆発させるものか」
少女「お母さん」
彼女は博士を抱きしめた
博士「ぬくい」
ちょっ
男「ちょっと待て~っっ!」
少女「ごめん」
銀髪「敵をだますにはまず味方から、か」
少女「なんでもするから、許して欲しい」
いや、良かったけど、死なずにすんで良かったけど……
男「じゃあもう一回キスすること」
少女「……うん!」
キスした
最後じゃなかった
それから、資料を処分してから僕らは歩いて山を降りていく
途中、谷底が明るく輝いていた
博士「馬鹿め、事故を起こしたか……」
男「……こんな風に終わるなんて……」
それから警察を呼んで色々と事情を話した
お陰で凄く眠いのに、帰れなかった
だが、これで本当に終わり
そのまま僕らは警察で寝てしまった
慌てて帰宅し、着替えてから学校に向かう
三人で待ち合わせして、三人で登校
放課後、友たちに色々聞かれたが、何も話せることはない
仕方なく話を捏造する
銀も彼女もその話に乗ってきた
彼女のお母さんが夜遅くまで帰ってこなかった
僕らは彼女を探して走り回った
明け方になって家に帰ったら酔っ払った彼女のお母さんが帰ってきていた
僕らはそのまま寝てしまったので今になって登校
……無理があるかな?
とりあえず博士は悪者にしておいた
女「心配したんだから」
男「ごめん」
少女「すまんな、人騒がせな母で」
銀髪「まあ帰ってきて良かったよ」
少女「うん」
友「ラーメンでも食いに行こうぜ」
男「ああいいな、疲れたからラーメン食べたい」
女友「行こう~」
眼鏡「三人のおごりですかい?」
少女「し、仕方ないな」
委員長「学校帰りに寄り道か」
委員長「……たまにはいいね」
男「委員長には迷惑をかけたからな、ぜひ奢らせてくれ」
委員長「無理はしないでくれよ?」
僕らは美味しいと評判の町外れの小さなラーメン屋さんに入った
八人で二つのテーブルを埋めると、店員たちは忙しく走り回った
ラーメンが来る
熱い湯気が顔にかかる
濃厚な豚骨スープにニンニクの香り
熱いスープが喉を通る度に疲れがほどけていく
卵の味の強い麺をすする
女「あ、あれ!」
女がテレビを指す
テレビでは例の黒服二人が隣県で逮捕されたというニュース……!
キャスター「なお、二人は爆弾を探していたなどと意味不明な供述を繰り返しており……」
キャスター「本日二人が所属する組織に家宅捜索が……」
女「くくっ」
少女「あははっ!」
男「間抜けだなあ……」
委員長「良かった、ストーカーは逮捕されたんだね」
女友「良かったね~」
女「あんがと!」
これで肩の荷が降りた
全く彼女を追う者がいなくなった訳では無いはずだが、もう大きな脅威は無いはずだ
僕と彼女はいつもの公園に立ち寄る
少女「……これからも……よろしく」
男「うん」
ずっと
これからもずっと離さない
少女「えっと……」
少女「今キスしたらニンニク臭いかも」
男「確かに」
男「じゃあ今日はやめとこう……」
少女「……あ……」
……フェイントで頬にキスをした
だって寂しそうな顔するんだもの
少女「わっ!」
少女「うう……」
彼女は真っ赤になって何度かうなった後、一言
少女「爆発する……!」
――終わり――
みじかっ
これで終わりです、今度は本当に終わりです
また同じキャラでいちゃラブギャグでも書きたいなあ
設定倒れな気もしますが、色々勉強になりました
なにかもったいないですが、次のお話を書きたいので仕方ないですね
見かけたら読んでやってください
ではまた
乙
邦画でいけそうなお話だったな
面白かった。
おつ
>>198-200
ありがとうございます
次が出来たのでHTML化依頼出してきます
明日までには投稿したいです
>>199
SFとは名ばかりなのでCGちょろっと使えば普通に映像は作れそうですね
ありがとうございます
あ、トリつけてなかった
すみません
HTML化依頼出しました
素晴らしすぎる。
乙
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません