魔王「勇者がなかなか来ない」(31)

~魔王城・玉座~

魔王「あ~ぁ、暇だな」

側近「そうですね」

魔王「勇者は今、どの辺かな?」

側近「さぁ?」

魔王「」

側近「」

魔王「…ぇ?知らないの?」

側近「はい」

魔王「ぇ、だって王国に密偵を忍ばせてたよね?」

側近「その密偵から何の報告も無いので」

魔王「ぇえ?密偵何やってんのさ!」

側近「最後に来た報告は『地下牢なう』でした」

魔王「捕まってんじゃん!…もういい!」スクッ

側近「魔王様、どちらに?」

魔王「私が直々に偵察してくる!」

側近「そうですか、ではお気を付けt…」
魔王「引き止めないの!?」

側近「え?なんですか?引き止めて欲しいんですか?」

魔王「いや…そこまででは無いけど…」ブツブツ

側近「お土産、期待してますね~」

魔王「私、魔王だよね!?」

~王国・城下町~

魔王(城下町の入り口に門番が居ないとか、警備ぬるすぎだろ)スタスタ

老人「おや?見掛けない顔じゃが、お前さん旅人かね?」

魔王「え!?…えぇ、そう、です」

老人「旅人じゃったら腕も立つじゃろ?今、お城で勇者を募集しとるんじゃよ」

魔王「勇者を、募集??」

老人「先代の勇者が当時の魔王に呪いを架けられたらしくての、子孫を残せなくなってしもうたのじゃ」

魔王「あぁ、なるほど!本来なら生まれる筈の勇者が生まれなくなったから代わりを一般公募する事になったと」

老人「城下町に住んどるもんは、戦いなんぞ知らん者ばかりでの…城内で働いとる兵士らは攻めるでなく守るのが専門じゃからと」

魔王「勝手が違うから役に立たない、と」

老人「そこで、どうじゃろ?ここで会ったのも何かの縁、テストを受けてはくれんかの?」

魔王「…そうですね、勇者が居ないんじゃ話が始まりませんし」

老人「本当か!ありがたや、ありがたや…あんたはまるで仏様のような御方じゃ」

魔王(…ホトケ様?って誰?)

~王国・城門前~

兵士a「勇者試験を受ける方はこちらにサインをお願いします」

兵士b「押さないで下さい!試験は正午から始まります」

魔王(うわぁ、凄い数の人達…これ全員、勇者候補?)

魔王(ひぃふぅみぃよぉ…ざっと50人は居る気がする)

兵士a「次の方、サインをお願いします」

魔王(あ、私の番だ)

魔王「」(汗

兵士a「…どうされました?」

魔王(流れでここまで来ちゃったけど、なんて書けばいいんだ?『魔王』とは書けないし…)

兵士a「…旅の方?」

魔王「」ハッ!

「旅人」カキカキ

兵士a「はい、承りました!では他の方と同じく奥の道突き当たりを左の部屋でお待ち下さい」

魔王「は、はい」(冷汗

~城内~

魔王(突き当たりを…左…あ!ここだ)ガチャ

扉を開けると、屈強な男達が自慢の筋肉を見せつけあっていた

魔王(む、むさ苦しい)オェ

*「…もし…もし…!」

魔王「ん?呼んだ?」クルッ

声がした方に振り向くと見知った顔だった

魔王「あぁ~っ!!お前は!」

*「!!しぃっ!静かに…!大声出したらバレちまいますよ…!」キョロキョロ

声をかけてきたのは地下牢に放り込まれている筈の密偵だった

魔王(お前、こんなとこで何やってんだ)ヒソヒソ

密偵(そりゃ、こっちのセリフですぜ魔王様)ヒソヒソ

小声で会話してるのが不審に思われるのでトイレに向かった

~男性トイレ~

魔王「で?何やってたんだ?」

密偵「いやぁ、それが無銭飲食やらかしちまいやして…」

魔王「」ハァ?

密偵「いや、だって『魔貨』が使えねぇってんですぜ?」

魔王「…当たり前だろ」(呆

魔王(『魔貨』は魔界でのみ流通している貨幣で、人間のを真似た…いわば偽造貨幣だ)

密偵「そんで、背負っ引かれちまって働いて返済してる訳です」

魔王「お前…よく魔族だってバレなかったな」

密偵「ちょいと派手好きな旅芸人て言ったら信じてくれやして」

魔王(純粋すぎだろ!この町の住人…てか役人)

密偵「それで魔王様は何故ここに?」

魔王「ん?あぁ、ひとつはお前を救出に…あとは勇者を探しに」

密偵「勇者を探しに?なんでまた」

魔王「いや、お前を忍び込ませてから、どんだけ待っても来ないから、何やってんだ~って」

密偵「なるほど…しかし魔王様、先代様が先代勇者に掛けた呪いで…」

魔王「うん、老人から聞いた」

密偵「でしたら、このまま帰りましょうぜ?勇者が来ない理由は分かった事ですし」

魔王「」ウ~ン

密偵「何を迷っておられるんです?」

魔王「魔王という立場上、勇者は生まれませんでした~で納得できん!」

密偵「納得できないと仰られても…こればかりはどうにもなりやせんぜ?」

魔王「いや…私が勇者になればいいんじゃないかな?と」

密偵「」ポカ~ン

密偵「と…殿が御乱心じゃ~!」

魔王「トノって誰だよ」

魔王「魔王は勇者に倒されるもの。先代魔王…私の祖父は、先代勇者と大食い勝負をして、地獄極楽饅頭を喉に詰まらせ死んだ」

魔王「祖父が死んだ事で祖先が悪戯で残した術式が発動し、先代勇者に子孫根絶の呪いを掛けた」

魔王「つまり、この現状を引き起こしたのは私の家系という事だ…だから私が責任をとって」

密偵「魔王様…ただ単に勇者に憧れてる訳では無いんですね?」

魔王「!!ばっ!馬鹿にゃ事を抜かすな!私は魔王だぞ!勇者に憧れる訳無いではありませんか!?」

密偵「絵に描いたように動揺してますが…まぁ、魔王様の判断に任せます」

*「旅人さん、どちらにいらっしゃいますか?試験が始まりますよ」

魔王「おっと!もう、そんな時間か」

密偵「魔王様、御武運を」

~試験会場・予選~

ついに勇者選抜試験が始まった、総勢75人の勇者候補の中から本選に行けるのは僅か5人

魔王は持ち前の魔力(チート)を武器に予選を勝ち抜いていく

そして、夜が明けた

~試験会場・本選~

魔王(予選ではできるだけ魔王とバレないように、身体強化のみで潜り抜けてきたが…私以外の4人は、本当に人間なのか?)

ダンボール傭兵「」

赤い配管工「」

ガチャ○ン「」

謎のローブ「」

魔王(あのローブの奴、魔界の魔力を感じる…が、人間の気配もする)ウ~ン

司会「国王様が入場されます、皆様拍手でお迎え下さい」パチパチ

パチパチ パチパチ

国王「本日は、大変お日柄もよく…」

国王「今日というよき日に勇者が誕生する事は…」

魔王(あれ?あの国王の顔、どこかで見た気が…)

『仏様のようじゃ…』

魔王(はっ!あの時の老人!)

国王「そんな事よりおうどん食べたい…」

魔王(は…ハメられた…?)

司会「国王様、ありがとうございました。では本選のルール説明を…」

魔王「」ブツブツ

司会「…以上がルールとなります」

魔王「え!?…しまった、聞いてなかった」

司会「では、第一試合!ダンボールの傭兵vs赤い配管工!」

*「すまぶらに出てたね」

魔王「すまぶらとはなんだ?」

司会「勝者!赤い配管工!」

赤い配管工「ヒヤウィゴー!」

解説「肉薄した戦いでしたね」

実況「はい、配管工が火の玉を投げたのには驚きましたが、傭兵がダンボール箱から全く出てこなかったのにも驚きましたね」

司会「続きまして、第二試合!恐竜の着ぐるみvs漆黒のローブ!」

解説「実況さん、この戦いをどう見ますか?」

実況「着ぐるみの方は順路に仕掛けられた罠という罠を巧みな身体能力で回避していましたし、ローブは上級な魔導師のようですねぇ」

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