試合会場
桃「本日は急な申し込みにも関わらず、試合を受けて頂き感謝する」
ダージリン「構いませんことよ」
みほ「よ、よろしくお願いします」
ダージリン「こちらこそ。騎士道精神でお互い頑張りましょう。とはいえ……」
みほ「え?」
ダージリン「どんな走りをしようとも、我が校の戦車は一滴たりとも紅茶をこぼしたりはしませんけれど」
カエサル「どういう意味だ」
梓「絶対に負けるはずがないってことですか?」
ダージリン「さぁ。どのように受け取ってもくださっても結構ですわ」
典子「それだけ自信があるってことか……!! 流石強豪聖グロリアーナ……!!」
桃「では、もし一滴でも溢したら?」
ダージリン「ですわね……。万が一、紅茶を一滴でも溢したらわたくしたちの負けでよろしくてよ」
みほ「……」
ダージリン「そんなことになるとは考えられませんけど。ふふっ」
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桃「言ってくれる……!! 西住!! 絶対に勝つぞ!!」
カエサル「そうだ。この一戦、負けられないんだ」
典子「負けたら……!!」
杏「あんこう踊りぃ」
梓「やだぁ……!!」
みほ「待ってください」
ダージリン「はい?」
みほ「私たち、この試合には負けられないんです」
ダージリン「負けて良い試合なんて、一戦たりともありませんわ」
みほ「いえ、あ、確かにそうなんですけど……。あの、私たちは真剣なんです。だから、手を抜かれると困るというか……」
ダージリン「手を抜く? そんなことはありませんわ」
みほ「でも、今、紅茶を一滴でも溢したら負けでいいって……」
ダージリン「ええ。でも、それは貴方たちに対して手を抜いている、或いはハンディキャップを設けるという意味ではありませんの」
みほ「それじゃあ……」
ダージリン「結果として、一滴も溢すことなく試合は終了する。そういうことですわ」
典子「なにぃ……」
桃「おのれ……グロリアーナめ……!!」
杏「まぁ、うちら弱小も弱小だしね」
みほ「すごい自信ですね……」
ダージリン「気に触ったのなら、ごめんなさい」
オレンジペコ「あの、あまり挑発しないほうが……」
カエサル「そこまでの自信があるなら、貴方が紅茶を溢したときはあんこう踊りをしてもらうというのはどうかな?」
ダージリン「あんこう踊り……? なんですの、それは」
杏「大洗の祭りでよくやるダンスだよ。結構、楽しいんだ、これが」
ダージリン「そう……。あんこう踊り……。まぁ、いいですわ。やりましょう」
オレンジペコ「えぇぇ……!!」
ダージリン「心配はいりませんわ。わたくしたちが負けるわけがありませんもの」キリッ
杏「あーあ、言っちゃったねぇ。リンちゃん」
ダージリン「リンちゃん? わたくしのことですの?」
杏「本当にやるんだね、あんこう踊り?」
ダージリン「約束は約束です。守りますわ」
桃「確認するぞ。こちらは全車両が走行不能になれば負け、そちらは紅茶が一滴でも溢したら負け。いいな?」
ダージリン「はい」
オレンジペコ「それはいくらなんでも!!」
ダージリン「わたくしが信頼できないの?」
オレンジペコ「そういうことではなくて……!!」
ダージリン「さぁ、始めましょうか」
オレンジペコ「あぁぁ……」
杏「さぁーて、どうしようか?」
桃「奴らを蛇行運転させれば余裕です、会長」
杏「西住ちゃんの意見は?」
みほ「……会長」
杏「なぁに?」
みほ「作戦を変更させてください」
杏「いいよ」
チャーチル車内
ダージリン「どんな戦術で来るのか、楽しみですわね」
オレンジペコ「本当によかったのですか、あのような条件を呑んで」
ダージリン「ええ。わたくしが一滴の紅茶を溢し、チャーチルを汚したことがあるかしら?」
オレンジペコ「あったような……」
ダージリン「全車、前進」
オレンジペコ「大丈夫ですか……」
ドォォォン!!
ガシャーン!
オレンジペコ「……仕掛けてきまわしたね」
ダージリン「こちらもお相手しますか」
オレンジペコ「はい」
ダージリン「ふふ。このような砲撃で紅茶を溢すとでも思っているのかしら。それはそうと新しく紅茶を淹れてもらえる?」
オレンジペコ「あの……」
ダージリン「全車、撃ち方用意」
Ⅳ号戦車内
華「すみません。外してしまいました」
みほ「大丈夫。目的は撃破じゃないから」
沙織「今ので紅茶溢したんじゃない?」
麻子「ありえるな。私だったらカップごと落としてる」
優花里「しかし、綺麗な隊列を維持したままですから、溢していない可能性のほうが高くないですか?」
みほ「あれだけの自信があったんだから、これぐらいで溢しているとは思えない」
沙織「じゃ、あの作戦だね」
みほ「うん」
華「みなさんが上手くやってくれていればいいのですが」
みほ「そこは信じるしかないよ。麻子さん、できるだけジグザグに走行して」
麻子「了解」
ドォォォン!!!
沙織「ひゃぁ!! うってきたぁ!! あぁぁ!!! ペットボトルがたおれたぁ!!! 鏡が割れたぁ!! もーやだー!!」
麻子「やはり私物を持ち込むのは無理があったな」
田尻さんあかんやつや
チャーチル車内
オレンジペコ「どこかに誘い込もうとしているようですわね」
ダージリン「見え透いた囮作戦ですわね。もう少し作戦を練ってくると思ったのに……」
ドォォォン!!
ダージリン「ふふっ。二度起こることは三度目もあるといいますが、二度目がなければ三度目もありませんわ」
オレンジペコ「よく耐えましたね」
ダージリン「量を変えれば、何も問題はありませんわ」
オレンジペコ「なるほど」
ダージリン「前のⅣ号に集中砲火」
ドォォォン!!!
オレンジペコ「くっ……。狙いがいいですわ。相手の砲手には気をつけたほうが……」
ダージリン「そのようね。三杯目を注ぎましょう」
オレンジペコ「誰が掃除すると……」
ダージリン「攻撃の手は緩めないように」
アッサム「了解」
Ⅳ号戦車内
沙織「あぁぁ!! もう!! 撃たれるたび置いてるモノが落ちてメチャクチャになっちゃうんだけどー!!」
麻子「それは仕方ないな」
優花里「ですから、私物の持込はあまりよくないと」
沙織「ぶぅー!! 拾っても拾ってもキリがないじゃん!!」
華「それにしても走行の振動だけでも相当ですから、向こうの紅茶は既に零れているかもしれませんね」
みほ「どうなんだろう……。あっさり私たちの条件を呑んだから、これぐらいのことは想定していると思うし」
優花里「そういえば、聞いたことがあります。車を運転するとき、コップ一杯に水を入れて、その水が零れないように運転の訓練をするとか」
沙織「なにそれすごい!!」
麻子「漫画で見た」
優花里「グロリアーナは戦車で同じような訓練をしているのではないですか?」
華「それなら、この程度では溢してはいないでしょうね」
みほ「そうだね。……そろそろ目的のポイント。麻子さん、十分に注意して」
麻子「分かっている」
沙織「あぁ、もう、落ちたの拾うのやめた! 邪魔にならないように一箇所にあつめとく!」
チャーチル車内
ダージリン「あちらの操縦手も中々の手並みですわね」
オレンジペコ「……」
ダージリン「これだけの砲撃を軽々とかわしながらの走行はおみごとですわ」
オレンジペコ「……ん?」
ダージリン「ですが、こちらの操縦手はその上を行く技能を有して――」
ガガガガガガガ……!!!
ダージリン「おぉお、おおりりり、まますわよよよ」ガタガタガタ
オレンジペコ「ど、どうして……こんなに道があれて……!!」
ダージリン「服が濡れてしまいました」フキフキ
オレンジペコ「大きな岩が転がっていたり、地面を掘ったようなあとがありますね」
ダージリン「まさか。悪路を意図的に作ったと?」
オレンジペコ「そう考えるのが自然ではないですか?」
ダージリン「ふふ。やってくれますわね。ですが、そんなことでは紅茶は溢しませんわよ」ズズッ
オレンジペコ「……」
めっちゃ溢れてるんだよなぁ……
Ⅳ号戦車内
みほ「すごい悪路……。みんなに感謝しなきゃ」
優花里「まさか短時間でこのような道を作るとは!! 流石ですぅ!!」
麻子「だが、やりすぎだ。どうみても地面や崖を砲撃してる。弾数は残っているんだろうな」
沙織「そこまではしてないと思うけど」
みほ「Aチーム。敵を引き付けつつ、あと3分で到着します」
華「流石にもう溢しているのでは?」
沙織「一応、聞いてみる? 確か、敵チームと無線は繋いでもいいんだよね」
優花里「はい。何かアクシデントがあったときのため相手との会話もできるようになっています。通話は全車両、審判員にも聞こえてしまいますけど」
沙織「えーと……」カチッ
沙織「えー、こちら大洗女子学園のAチームです。応答してください」
ダージリン『どうかされましたか?』
沙織「いえ、そろそろ紅茶が零れたかなと思いまして……」
ダージリン『いやですわ。溢したら即試合を終了させ、あんこう踊りを披露します』
沙織「あ、それもそうですね。失礼しました」
沙織「みぽりん、まだ溢してないって」
みほ「やっぱり……」
麻子「だが、嘘をついている可能性もあるぞ」
華「嘘……?」
沙織「はっ! 確かに!! 私たち確認のしようがなくない!?」
麻子「最初に気が付け」
みほ「……」
優花里「西住殿、どうされましたか?」
みほ「ううん。騎士道精神でお互いに頑張ろうって言ってくれた人が、嘘を付くなんて思えない」
沙織「だよねぇ。麻子、人を疑う前にまず信じなきゃ!!」
麻子「はいはい……」
華「沙織さんの言うとおりですねぇ」
優花里「はい!! 嘘なんてつくわけがありません!! あんなにも誠実そうな人でしたのに!!」
みほ「……沙織さん、お願いがあるの」
沙織「なになに? なんでもいってね」
チャーチル車内
オレンジペコ「あのぉ……」
ダージリン「なにか?」
オレンジペコ「いえ……」
ダージリン「私は紅茶を溢していないわ。その証拠もない」
オレンジペコ「……」
ダージリン「こんな格言を知ってる?イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」
オレンジペコ「騎士道精神はどうしたのですか……」
ダージリン「さぁ、なんのことやら」
オレンジペコ「……」
ダージリン「それよりも早くあのⅣ号の撃破を――」
麻子『だが、嘘をついている可能性もあるぞ』
ダージリン「おや……?」
オレンジペコ「向こうからですね。間違ってスイッチが入ってしまったのでは?」
ダージリン「困ったものですわね。慣れていないチームにはよくあることですが。このままだと無線が使えませんから注意しておきませんと」
華『嘘……? あの誠実そうなダージリンさんが嘘をついているというのですか?』
ダージリン「……」ピクッ
沙織『でも確かに私たちには確認する術がないよね』
麻子『ああ。向こうは既に紅茶を溢しているのに、溢していないと言い張っているだけかもしれない』
オレンジペコ「あぁ……」
ダージリン「好き勝手に言ってくれますわね。抗議しておきますか」
優花里『そんなわけありませんよ!!!』
ダージリン「……!!」
みほ『そうだよ!! どうしてそんなこというの!?』
麻子『だが……』
優花里『ダージリン殿は騎士道精神で私たちに挑んでくれているのですよ!! 明らかな格下である私たちにです!!』
みほ『そんなに正々堂々としたダージリンさんが、嘘をつくわけないよ!!』
華『そうですね。あのような素敵なかたを疑うのはやめましょう。私たちはダージリンさんを信じ、正面から戦うだけです』
ダージリン「……」
オレンジペコ「あの……どうされますか……?」
みほ『人を疑うよりも、信じないといけない。私はそう思うよ』
沙織『そうだね……。ダージリンさんがそんな卑怯なことするわけないもんね』
麻子『……そうだな』
優花里『ダージリンさんに謝りましょう。ここからでは聞こえないですが』
華『申し訳ありません、ダージリンさん。ほんの少しだけ疑ってしまいました』
沙織『ごめんなさい、ダージリンさん』
麻子『ごめんなさい』
優花里『すみませんでした!!!』
みほ『ダージリンさんはそんなことしないって、私たち信じてます』
ダージリン「……」
オレンジペコ「良い人ばっかりですわ……」ウルウル
ダージリン「ふ……ふふ……ふふふ……」
ダージリン「こんなもの、向こうの作戦に決まっていますわ。……もしもし、無線が入ったままですわよ」
沙織『え!? あ、ごめんなさい!! すぐにきります!!!』ブツッ
ダージリン「全く……これだから素人は……こ、ここまりますわわ……」ガタガタガタ
そこはかとない小者臭が素敵です
オレンジペコ「あ、あぁ……体が震えて零れてますいます……紅茶がたくさん……」
ダージリン「気にしてはならないわ。このような精神攻撃でどうにかなると思っていらっしゃるのでしたら、相当なお間抜けさんですわね」
オレンジペコ「でも、大洗の人たちは無線が入っていることに気が付いていないようでしたが……」
ダージリン「わざとスイッチをいれ、今の会話をわたくしたちの耳にいれたのでしょう。そして良心に訴えた。そういう作戦ですわ」ズズッ
オレンジペコ「あの……人を疑う前に信じたほうがいいと、大洗の人たちも言っていましたから……」
ダージリン「作戦ですわ。そう思いなさい」
オレンジペコ「いいのですか?」
ダージリン「構わないわ。全車、撃ち方用意」
『あのぉ、隊長?』
ダージリン「なにか?」
『溢して、ないですよね?』
ダージリン「わたくしを疑うの? ふふ、溢したところを見たことがあって?」
『いえ、ないですけども』
ダージリン「知っているかしら? 確認できないことは存在していないも同然だということを」
オレンジペコ「それは暗に認めているのですか……?」
Ⅳ号戦車内
沙織「何も応答がないね」
麻子「まぁ、これで認めてくれるなら本当に良い人だが、普通は言わないだろうな」
優花里「待ってください!! どうしてそんな溢していることを前提に話しているのですかぁ!! 本当に溢していないという可能性は十分すぎるほどあります!!」
みほ「うん。ダージリンさんは溢していないと言っている以上、それを疑うのはやめよう。ここからだと確認はできないから」
麻子「では、どうする?」
みほ「当初の予定通り、キルゾーンへ誘導します。こちらAチーム、聞こえますか?」
杏『きこえるよぉ』
みほ「あと1分で到着です。そのときは……」
杏『隊長車を集中攻撃でいいんだよね』
みほ「はい。お願いします」
杏『でも、さっき道を荒らすときに結構な弾数使ってさぁ、余裕あんまないけど、いい?』
柚子『桃ちゃんが撃ち過ぎるからぁ』
桃『桃ちゃんとよぶなぁ!!!』
みほ「大丈夫です。落ち着いて、隊長車のみを砲撃してください。あと忘れないでください。私たちは相手の紅茶を一滴でも落とさせれば勝ちです。条件としては破格過ぎるほど有利ですから」
チャーチル車内
オレンジペコ「前方、敵車両確認しました」
ダージリン「うふふ。やはりですか。こんな安直な囮作戦、わたくしたちには通用しないわ」
ドォン!! ドォォン!!! ドォォン!!!
オレンジペコ「うぅ……!! 敵全車両の狙いは……!!」
ダージリン「隊長車みたいね」
ドォォン!!! ドォン!!!
オレンジペコ「あの、このままでは……」
ダージリン「構わないわ。そのまま進みなさい。近くに着弾はしても直撃はしない」
ドォォン!!!
ガシャーン!!
ダージリン「……新しいカップはどこかしら?」
オレンジペコ「くぅ……!! 厳しいです……!!」
ガガガガガ……!!
ダージリン「ちょっと。紅茶が上手く淹れられないわ。もう少しエレガントな操縦を心がけなさい」ドボドボドボ
Ⅳ号戦車内
華「これだけ撃ちこんでも溢さないのですか……!!」
優花里「流石はダージリン殿ですね!! 西住殿!!」
みほ「……おかしい」
優花里「え?」
みほ「いくらなんでもこの状況で溢していないなんて、おかしいよ」
優花里「ですが、グロリアーナは特別な訓練もしているでしょうし」
みほ「隊列を組んで進んでいるだけならまだわかるよ。でも、これだけの砲撃を受ければ、普通車内は左右に大きく揺れるはず」
麻子「その状態でカップに入ったものを溢さないのは物理的に不可能だな。理論上は可能だが、そうなると戦車の揺れに合わせてダージリンさんも体を揺らしていることになる」
華「まるで音に反応する玩具みたいですね。そういうのありましたよね?」
沙織「それは知らないけど、ダージリンさんが車内で面白い動きをしているのは想像できちゃう」
優花里「まさに達人に域です!!」
みほ「沙織さん、ダージリンさんに繋いで」
沙織「オッケー」カチッ
みほ「……ダージリンさん、聞こえますか?」
ダージリン『なにか? 降伏でもしてくれるのかしら?』
みほ「紅茶はまだ溢していませんか?」
ダージリン『溢したら即試合を終了し、あんこう踊りを披露すると言ったはずですが』
みほ「そうですね。すみません。でも、どうしても不思議なんです。こんな状況でも溢さずにいられるのが」
ダージリン『そんなことよりもご自分の心配をなさってはどうです? 着実に追い詰められていますわよ?』
みほ「……!?」
典子『すごいアタック……!!』
あや『ありえない!!』
みほ「落ちついてください!! 攻撃、やめないで!!」
あゆみ『むりです!!』
優季『もうやだぁ!!』
梓『逃げちゃダメだってばぁ!!』
ドォォォン!!!
ダージリン『ふふ……。敵とお喋りしている時間はないようですわね。それでは』ブツッ
みほ「……沙織さん、各車状況を確認してください」
典子『私たちどうしたら!?』
エルヴィン『隊長殿!! 指示を!!』
桃『撃って撃って、撃ちまくれ!!!』
みほ「このままいてもやられるだけ……」
華「隊長は西住さんです」
沙織「私たち、みほの言うとおりにする!」
麻子「どこへだって行ってやる」
優花里「西住殿! 命令してください!」
みほ「……B・Cチーム、私たちの後についてきてください!」
典子『わかりました!』
エルヴィン『心得た!!』
桃『なに!? 許さんぞ!!』
みほ「これから移動をしつつ作戦を伝えます。この作戦はみなさんのチームワークがなければ成立しません。私に力を貸してください」
典子『チームワークならまかせてください!!!』
妙子『がんばりまぁす!!』
チャーチル車内
ドォォォン!!!
ダージリン「逃げ出したの? 追撃するわよ」
オレンジペコ「あの、いい加減、拭いてください」
ダージリン「おかしなことを。何も溢していないわ」
オレンジペコ「確かに拭いたところであまり意味がないかもしれませんが」
ダージリン「それにしても、こう方向は市街地ね」
オレンジペコ「市街戦に持ち込む気ですね」
ダージリン「面白いわ。たとえ市街地であろうとも、わたくしたちが膝をつくことなどありえない」
オレンジペコ「……」
ダージリン「さぁ、追いなさい」
オレンジペコ「了解」
ダージリン「さて……。次はもう少しまともな作戦を期待させてもらうわね」
オレンジペコ「あら……敵車両が……」
ダージリン「消えた……?」
ダージリン「こういう場所ではゆっくり、慎重に進みなさい。相手には車高の低いⅢ突がいるのだから、そのあたりも十分に警戒しなさい」
『了解!!』
ダージリン「わたくしたちは紅茶でも飲みながら吉報を待ちましょう」
オレンジペコ「……良心が痛みます」
ダージリン「なぜかしら?」
オレンジペコ「だって、大洗の人たちはまだ紅茶を一滴も溢していないと思ってくれているのに……」
ダージリン「ふっ。わたくしは溢していないわ。文字通り、一滴もね」
オレンジペコ「では、足下の水溜りはなんですか」
ダージリン「あら? 雨漏り? 買い換え時かしら」
オレンジペコ「うぅ……」
沙織『やっぱりさぁ、もう溢してるんじゃないかなぁ?』
オレンジペコ「あ、また……」
ダージリン「また見え透いたことを……」
華『いくら操縦が上手いからと幾らなんでも溢していると思います』
優花里『ですから!! あのダージリン殿が約束を破ってまで勝利しようとはしないはずです!!! そんな卑怯で下劣で姑息なことはしません!!! 何を言っているんですか!!!』
訂正
>>1
ダージリン「ですわね……。万が一、紅茶を一滴でも溢したらわたくしたちの負けでよろしくてよ」
↓
ダージリン「そうですわね……。万が一、紅茶を一滴でも溢したらわたくしたちの負けでよろしくてよ」
>>5
オレンジペコ「……仕掛けてきまわしたね」
↓
オレンジペコ「……仕掛けてきましたわね」
>>25
華『いくら操縦が上手いからと幾らなんでも溢していると思います』
↓
華『いくら操縦が上手いといっても流石に溢していると思います』
溢れてないなぁ
お…俺の目からみても…こ、こぼれてない…な
麻子『信用したいのは山々だが、あれだけ車体を揺らされて紅茶を一滴も溢さないというのは超人でもないと無理だろう』
優花里『その超人がダージリンさんなんじゃないですかぁ!!』
オレンジペコ「……」
ダージリン「その手には乗らないわ」ズズッ
沙織『だけど、私たちには確認ができないし、実際ダージリンさんの車内はどうなっているのか……』
華『そうですよね。せめて車内を覗かせてくれたらいいのですが』
オレンジペコ「疑われてますね……」
ダージリン「こんな格言を知っている? 嘘をついてしまったら、二度嘘をつけ、三度嘘をつけ。しかし、いつも同じ嘘でなければならない」
オレンジペコ「あ、認めました?」
ダージリン「相手がどう思おうと関係ありませんわ。わたくしたちはわたくしたちの騎士道を貫くのみ」
麻子『西住さんも不審に思ったからこそ、先ほどダージリンさんと会話をしたのだろう?」
ダージリン「そうですわ。信じているなんて真っ赤な嘘。本当に酷い人たちですわね」
オレンジペコ「貴方がそれを言うんですか」
みほ『……正直に言って、ダージリンさんの言っていることには疑うところがいくつかあるのは確かだよ』
ダージリン「ほら、御覧なさい。そう簡単に他人を信じることができる人間なんていませんわ」ズズッ
>>29
優花里『その超人がダージリンさんなんじゃないですかぁ!!』
↓
優花里『その超人がダージリン殿なんじゃないですかぁ!!』
みほ『でもね、戦車道を嗜む淑女がそんな小さな嘘をついてまで勝とうとするかな? 勿論、戦略上相手を騙すことも嵌めることもある。けれど、それはあくまでも戦車戦術での話』
ダージリン「……!」
オレンジペコ「……確かに」
みほ『もし、もしもだけど、ダージリンさんが嘘をついているのなら、今すぐ戦車道を辞めるべきだと思うな』
優花里『普通に考えれば、戦車道を愛する人がそんなことで勝ちを得ようとするなんてプライドが許さないはずですし。矜持の問題ですよね』
みほ『優花里さんの言うとおり、あんなに礼節を重んじるダージリンさんがこんな勝ち方をして嬉しいと思うかどうか、考えてみて』
華『……思いませんわ』
麻子『私も、思わない』
沙織『そういわれちゃうと、ダージリンさんがそんなことするなんて思えないけど』
オレンジペコ「本当にいい人ばかり……うぅ……」
ダージリン「ダメよ。相手のペースに呑まれてはいけないわ。これも……あ、ああ……あいての戦略……でで、ですわわわ……」ガタガタガタ
アッサム「あの、とっても零れてます」
みほ『だから私は信じるよ。ダージリンさんはまだ紅茶を一滴も溢していないって!!』
優花里『私も信じます!! 同じ戦車道を歩む者として!! また心から尊敬できる選手であるダージリン殿を疑うことも私にはできませんからぁ!!!』
ダージリン「……」ガタガタガタ
『大洗チーム!! いつまで共通無線で会話をしているのですか!! アクシデント以外では使わないように!!』
沙織『わぁ!! またスイッチがはいってたぁ!! すみません!!!』ブツッ
ダージリン「わ、わざとらしい……。わたくしたちの心を掻き乱すには演技力が……不足していますわね……」ガタガタガタ
オレンジペコ「あの、もう、負けを認めるわけには……?」
ダージリン「負け? わたくしたちが負けるときは全車が走行不能になったときだけですわ。紅茶がこぼれたときではありませんもの。……あら? 紅茶がいつの間にかなくなっている。いずこへ?」
オレンジペコ「でも、限界です!! あんなに良い人たちを騙しているなんて!!」
ダージリン「騙してなどいないわ!! ただ黙っているだけで!!」
オレンジペコ「い、いっしょです!!」
ダージリン「どちらにせよ、もうすぐ試合は終わる。試合さえ終了すれば全てはうやむやになる。時間が解決してくれるわ」ズズッ
オレンジペコ「申し訳ありません……大洗のみなさん……オレンジペコは悪い子です……」
ダージリン「そろそろ吉報が耳に入るころ――」
『こちら攻撃受け、走行不能!! すみません!!』
『こちら被弾につき現在確認中!!!』
ダージリン「なっ……!!!」ガシャーン!!!!
ダージリン「お、おやりになるわね……。でも、わたくしは紅茶を絶対にこぼさなくてよ……」
絶対ち○ぽに負けたりしない!みたいな奥ゆかしさを感じる。
良いと思います。
Ⅳ号戦車内
みほ「応答はないですね」
沙織「ここまで言っても何も言わないなんて、本当に溢してないか、最悪な人のどっちかだね」
麻子「どちらにしても、紅茶云々で勝敗が決まることはなさそうだな」
華「敵車両はあと何両残っているんですか?」
優花里「えーと、BチームとCチームが1両ずつ撃破してくださいましたから、あと3両ですね」
エルヴィン『Cチーム!! 走行不能!!』
典子『Bチーム!! 敵撃破失敗!! 及び走行不能!! すみません!!』
みほ「え……!」
優花里「あぁ!! ということは残っているのは我々だけで、あと4両残っていることに……!!」
麻子「敵が来たぞ。どうする?」
みほ「囲まれたらまずい……。とにかく敵を振り切って」
麻子「ほい」
沙織「ダージリンさんには正直にいってほしいよね」
華「もういいではないですか。みほさんも言っていましたが溢していないといわれたら、わたくしたちはその言葉を信じるほかありませんから」
>>34
優花里「あぁ!! ということは残っているのは我々だけで、あと4両残っていることに……!!」
↓
優花里「あぁ!! ということは残っているのは我々だけで、相手はあと4両残っていることに……!!」
(飲み干せばいいんじゃね?)
チャーチル車内
オレンジペコ「Ⅳ号戦車を追い詰めました」
ダージリン「自ら袋小路に入ってくれるとは、ふふふ、助かりましたわ」ズズッ
オレンジペコ「……」
ダージリン「最後のごあいさつをしておきましょうか」
ダージリン「――ここで終わりですわね。ここまで健闘したこと、素直に」
みほ「……」
ダージリン「こんな格言を知っている? 多くの犠牲と苦労を経験しなければ、成功とは何かを決して知ることはできない」
みほ「どういう意味ですか?」
ダージリン「それは自分で考えなさい」
みほ「悩んでいるんですか?」
ダージリン「誰が?」
みほ「ダージリンさんが」
ダージリン「悩み!? ふ、ふふふ。悩みなんてないわ。このあとに味わう紅茶は何にしようかと悩んでいるぐらいかしら」
みほ「……あの、ダージリンさんの服にシミがあるような気がするんですけど、試合開始前はそんなシミありませんでしたよね?」
何故顔出したし
ダージリン「あら。お恥ずかしい。わたくし、汗っかきなもので。こういうシミはよくできてしまうの。とくに脇なんてもう、お見せでない有様で」
みほ「今持っているカップも形が違うような」
ダージリン「その手には乗りませんわ。あなたは最初のカップがどのような形だったのか、知らないはず」
みほ「最初は? まるで複数あったみたいな言い方ですね」
ダージリン「……!」ポロッ
ガシャーン!!!
オレンジペコ「きゃ!? 紅茶がふってきましたわ!!」
みほ「あ……」
ダージリン「今のは紅茶ではありませんの。ただのお水。そう色のついたお水ですのよ。綺麗でしょう? うふふ」
みほ「ダージリンさん……」
ダージリン「戦車道を嗜む淑女として、誓います。わたくしは、一滴たりとも紅茶は溢していないと!!」
みほ「わかりました。やはり、戦車道で決着をつけましょう」
ダージリン「最初からそれ以外にないですわ」キリッ
みほ「そうですね」
ダージリン「撃ち方、用意」
みほ「……」
ダージリン「あら? 撃ち方、用意といっているでしょう? なにをしているの?」
『隊長……。溢してないんですか?』
ダージリン「溢していません」
『本当ですか? もう開始直後から溢していたんじゃ……』
ダージリン「溢していないと言っているでしょう。早くⅣ号に砲撃を開始しなさい」
みほ「麻子さん、今のうちに前進!! 一撃で離脱して、路地左折!!」
ダージリン「しまっ――」
ドォォォォン!!!!
ダージリン「くっ……。やってくれますわね……」
オレンジペコ「あのぉ」
ダージリン「なにか?」
オレンジペコ「今の衝撃で、ポットが落ちてめちゃくちゃに……」
ダージリン「なぁ……!! も、もう手加減はできませんわよ……!! 回りこみなさい!! 至急!!」
オレンジペコ「謝りませんか?」
ペコさん序盤からずっと謙虚だし災難や………
Ⅳ号戦車内
みほ「大通りに出て、先に路地を押さえます! 右折したら壁に沿って進んで急停止!!」
麻子「ほいっ」
みほ「――撃てっ!」
ドォォォン!!
優花里「やりましたぁ!!」
みほ「一度通り過ぎたと見せかけて、急転回で回り込んで!」
麻子「了解」
みほ「――撃て!!」
ドォォォン!!!
沙織「やったぁ!! これであとはダージリンさんの隊長車だけだねぇ!!」
みほ「相手の車両が見えたら砲撃!!」
華「はい!!」
みほ「見えた!! 撃て!!」
ドォォォン!!!
チャーチル車内
ドォォォン!!!
オレンジペコ「きゃぁ!?」
ダージリン「ぶふっ!?」
オレンジペコ「あぁ……大丈夫ですか……?」
ダージリン「少し、紅茶が鼻から逆流しただけですわ」
オレンジペコ「もう……優雅さも欠片もない……」
ダージリン「なにか?」
オレンジペコ「いえ……なんでも……」
ダージリン「相手が来ますわね」
オレンジペコ「まさか突撃してくるつもり……!?」
ダージリン「回りこんで接射するつもりでしょう。そうでもないとこの装甲は抜けませんもの」
オレンジペコ「では、これで決着をつけるつもりなのですね」
ダージリン「来る……!! 相手の動きに合わせて砲塔を動かしなさい。そして相手が止まったところで……」
ダージリン「――撃ちなさい」
会場内
優花里「負けてしまいましたね」
麻子「いいところまで行ったんだけどな」
華「はぁ、でも、なんだか楽しかったです」
沙織「確かに楽しかったけど、負けたのは悔しいよね」
みほ「ごめんなさい」
優花里「やめてください!! 西住殿がいたからこそ、あの聖グロリアーナとここまで戦えたのですよ!!」
沙織「そうだよ、みぽりん」
みほ「ありがとう」
ダージリン「――貴女が隊長さんですわね」
みほ「あ、はい」
ダージリン「貴方、お名前は?」
みほ「えと……西住……みほです……」
ダージリン「西住? もしかして西住流の? 随分、まほさんとは違うのね」
沙織「あれ、ダージリンさん。服が汚れてるみたいだけど、車内でなにかあったんですか?」
ダージリン「これは汗です。わたくし、汗っかきなもので」
麻子「その隣にいる人もなのか?」
オレンジペコ「え!?」
華「そういえば、汚れていますね。足にもシミのようなものが……」
オレンジペコ「こ、これは……その……あの……」オロオロ
ダージリン「無論、この子もよく汗をかくのよ。ね?」
オレンジペコ「えぇ……」
ダージリン「ね? そうよね?」
オレンジペコ「は、はい……」
麻子「そうなのか。戦車内は蒸し暑くなるからな」
みほ「ダージリンさん、今日はありがとうございます」
ダージリン「いえいえ。こちらこそ」
みほ「弱小校相手にも力の限り戦ってくれて、本当に嬉しいです!!」
ダージリン「え、ええ……。聖グロリアーナは騎士道精神で戦うことが美徳としています。サンダースやプラウダのように下品な戦い方はしたくありませんもの」
優花里「流石です!! やはりダージリン殿は全国を代表する選手といっても過言ではありませんね!! こんなにも公明正大な人は中々していませんよぉ!!」
ダージリン「ふふ……う、うれしいわ……そこまでいってもらえると……」ガタガタガタ
麻子「どうした、震えているぞ」
ダージリン「いえ。武者震いというものですわ」
麻子「今更?」
華「それにしても試合中、本当に一滴も紅茶を溢さなかったのですね」
オレンジペコ「あぅ……」
ダージリン「と、当然ですわ。もし溢していれば、即座に伝え負けを認めていますもの」
優花里「ですよねー! ダージリン殿のような誉れ高い人がそんなことしませんよね!!」
ダージリン「も、もも、もちろんですわ……」ガタガタガタ
みほ「私、ダージリンさんに謝らないといけないことがあります」
ダージリン「な、なんでしょう?」
みほ「試合中、何度かダージリンさんを疑ってしまいました。とっても素敵な人なのに、そんなズルいことをするような人なんかじゃないのに」
ダージリン「あ……えぇ……う、疑われるのは……心外ですわ……」
沙織「あれだよね、牛も殺さない人ってダージリンさんのことを言うんだよね? 同じ女としても憧れちゃうなぁ」
華「それは虫です」
オレンジペコ「あのぉ……あの……」
ダージリン「顔に出してはダメよ。顔は言葉よりも雄弁に心を語るのだから」
オレンジペコ「わ、わたくし……もう……たえられませんわ……」ウルウル
ダージリン「耐えるの……耐えなければならないわ……」
みほ「あのぉ?」
ダージリン「こちらの話ですから、気にしないで。それではまた」
みほ「待ってくださいっ!」
ダージリン「ま、まだなにか?」
みほ「あのぉ……できれば……サインを……」モジモジ
優花里「あー!! それいいですねー!! 私にも是非!!」
沙織「あーん!! みぽりんとゆかりんだけずるーい!! 私もダージリンさんのサインほしい!!」
ダージリン「あ、あの……ちょっと……」
みほ「今回の戦いでダージリンさんのファンになりました。だから、その、お願いします!!」
優花里「お願いします!! ダージリン殿のサインを家宝にしたいんです!!!」
ダージリン「あ……ぅ……あの……その……」ガタガタガタ
オレンジペコ「あ……あの……あのですね……」
ダージリン「やめなさい!!」
オレンジペコ「もう大洗の人たちをみていられません!! 私たち、最低です!!」
ダージリン「か、考えてもみなさい。ここで真実を語っても誰も幸せにはなりませんわ」
オレンジペコ「こんなに良い人たちをいつまで騙すおつもりですか!?」
ダージリン「こんな格言をしっている? 良い結果をもたらす嘘は、不幸をもたらす真実よりいい」
オレンジペコ「こんな格言も知っています。人間は真実を見なければならない。なぜなら真実は人間を見ているからだ、と」
ダージリン「う……!?」
オレンジペコ「謝りましょう……! いえ、このオレンジペコに謝らせてください……おねがいします……うぅぅ……ぐすっ……」
ダージリン「あぁ……そんな……泣かないで……」
みほ「あ、あの……なにか……?」
ダージリン「あ、その……これは……えーと……」
杏「いやぁー、負けちゃったね。ドンマイ」
みほ「会長。どうだったんですか?」
杏「あぁ、さっき河嶋に頼んだからもうすぐ来ると思うよ」
ダージリン「貴方は……」
杏「いやぁ、リンちゃん。さすがだねぇ。まぁ、試合はうちらの完敗ってことで」
ダージリン「え、えぇ……」
杏「でも、勝負には勝ったかもね」
ダージリン「え……?」
桃「会長。現像が終わりました」
杏「早いねー」
桃「コンビニが近くにありましたから」
杏「じゃ、早速みてみよっかぁ」
ダージリン「なんの写真なんですの……?」
杏「んー? グロリアーナの隊長車に興味あったからさぁ、こっそり隠し撮りをね」
ダージリン「い、いつの間に……!?」
桃「市街地に入ったとき、暫く静観していただろう? それが仇になったな。実は私たちのチームには忍道を受講していたものがいてな」
左衛門佐「ニンニン」
ダージリン「なぁ……!! で、では、まさか……!?」
こういう中途半端なクズが追い詰められるのすき
杏「おー。チャーチルの中ってこうなってるんだぁ、すっげー」
おりょう「ほほう。お茶会を開いているぜよ」
カエサル「しかし、優雅さは微塵も感じられない」
左衛門佐「中を覗き込んだときは鉄と油の匂いよりも、紅茶の香りが先にしたほどだった」
杏「つまり、盛大にこぼしていたと?」
左衛門佐「そう考えるのが自然かもしれない」
ダージリン「そ、そんなの……捏造に……」
杏「捏造? なら、これ、今からバラまいたっていいんだけどなぁ?」
ダージリン「お、横暴ですわ!!」
桃「横暴は生徒会に許された権利だ」
ダージリン「な……なな……」
オレンジペコ「ど、どうするのですか……?」
ダージリン「わ、わたくしは……その……」
杏「どうなの? 一滴も溢してないって、この写真を見てもいえるの? えぇ? どーなの? まだ水だとか言い張る気? なら、今から戦車の中調べたっていいけど?」
ダージリン「うぅ……うぅぅ……ご、ごめんなさい……ずっと……うそを……ついておりました……」
オレンジペコ「申し訳ありません!! 本当にすみませんでした!!!」
みほ「いや、そんな、頭を上げてください。オレンジペコさんは何も悪くないですから」
オレンジペコ「でも……私も片棒を担いでいたのは……事実ですから……」
みほ「気にしてません」
オレンジペコ「み、みほさん……」
みほ「大丈夫。オレンジペコさんのことは私、尊敬してますっ」
オレンジペコ「みほさん!!」ギュッ
桃「さて、どうしますか。会長?」
ダージリン「……」
杏「そうだねぇ。まぁ、予定通り、あんこう踊りはやってもらおうか」
ダージリン「なにとぞ……お手柔らかに……」
杏「小山ぁ」
柚子「はぁーい。ダージリンさんのスリーサイズをはかりまーす」
優花里「あぁ……ダージリン殿が……嘘を……ショックです……ショックがつよすぎて、なにも考えられません……」
沙織「やっぱり嘘だったんだぁ。もー」
オレンジペコ「あの、ダージリンさんもずっと自分の心と戦っていたことだけは分かってください」
麻子「ずっと震えていたしな」
華「では、どうしてすぐに溢したと報告してくれなかったのですか? それはそれで試合は続行できたはずですのに」
オレンジペコ「きっと、後には引けなかったのだと思いますわ」
麻子「よくある話だ」
優花里「つまりダージリン殿も人間の性に支配されてしまった被害者というわけですね」
みほ「そうなの?」
沙織「まぁ、おかげで私たちのあんこう踊りがなくなったんだし、結果オーライってことで」
杏「なくなった? なんで?」
沙織「なんで!?」
杏「試合には負けたんだから、ちゃんと罰ゲームしなきゃね」
沙織「えぇぇぇぇ!?!?」
カエサル「あのあんこう踊りを……!?」
典子「しまった!! どこでゲームセットになっていたんだ!!!」
みほ「あははは……ごめんなさい……」
桃「ここに全員分の衣装も用意している」
優花里「あぁぁ……。い、いや!! これも負けてしまった我々に責任があります!! やりましょう!!!」
沙織「もーやだー!! お嫁にいけなーい!!!」
麻子「さいあくだ……」
華「これも社会勉強だと思えば……」
みほ「こんな衣装で踊るんですか……!?」
杏「そだよ。あ、西住ちゃんはあんこう踊り知らないのか。んじゃ、リンちゃんと一緒に練習しなきゃね」
みほ「練習ですか……」
柚子「着替え、終わりましたぁ」
ダージリン「……」モジモジ
オレンジペコ「ダージ……リン……さ……!?」
アッサム「なんという格好……」
杏「西住ちゃんもちゃちゃっと着替えてね。すぐに練習はじめっから」
みほ「あぅぅ……」
ダージリン「この衣装は……いったい……」
みほ「恥ずかしい……ですね……」
ダージリン「ええ……本当に恥ずかしいですわ……」
みほ「ですよね。いくらなんでも、この衣装はちょっと」
ダージリン「わたくし自身が、恥ずかしいですわ」
みほ「え?」
ダージリン「みほさんたちがわたくしたちのことをどう見てくれているのかは、試合中に嫌と言うほど聞きましたわ」
みほ「あ……」
ダージリン「あんなにもわたくしに敬意を持ってくれていたのに、終始貴方たちに無礼な振る舞いをしていました」
みほ「……」
ダージリン「戦車道を嗜む者として、恥ずべきことだと思います」
みほ「あ、その……」
ダージリン「純真なみほさんたちを謀り、卑しい方法で敗北を隠そうとしてしまった。もうわたくしは戦車道から外れてしまった、外道そのものですわね」
みほ「ちが……その……」
ダージリン「もう戦車道からは足を洗います。わたくしのような穢れた者は戦車道の名をも穢してしまいますもの。本当に申し訳ありませんでした」
みほ「あ、そんな……あの……えっと……」オロオロ
ダージリン「この辱めも今のわたくしには相応しい罰ですわ」
みほ「あの!! ちがうんです!!」
ダージリン「はい?」
みほ「あの、優花里さんは別なんですけど、私は最初からおかしいなって思っていて……」
ダージリン「……」
みほ「それで、わざとダージリンさんに聞こえるように……人間性とかを褒めれば本当のことをいってくれるかもしれないって考えて……」
ダージリン「まぁ……」
みほ「だ、だから、私も同じなんです。ダージリンさんを騙していましたから……」
ダージリン「そうでしたの……」
みほ「ごめんなさい……」
ダージリン「いえ。みほさんが謝罪することはありませんわ。わたくしに全ての責があるのですから」
みほ「私も人のことは言えないんです。戦車戦術とは別のことで相手を嵌めてしまったんですし」
ダージリン「貴方は本当に優しいのね」
みほ「だから、戦車道をやめないでください。今度は公式戦でダージリンさんと戦いたいです」
ダージリン「みほさん……ありがとう……こんなわたくしのために……。ええ、いつか戦いましょう。今度は正々堂々と戦うことを誓いますわ」
みほ「ダージリンさん……!」
ダージリン「みほさん……!」
杏「仲いいね」
みほ「会長!?」
ダージリン「盗み見とははしたない」
杏「まぁ、とにかく踊りの練習ねー」
ダージリン「みほさんと一緒ならどんなことでもできそうですわ!!」
みほ「そ、そうですか?」
杏「踊り自体は何も難しくないから。じゃ、いくね。私のあとについてきて」
ダージリン「いいですわ!!」
みほ「どうしてそんなにやる気に……?」
ダージリン「貴方という友に出会えましたから、かしら。ふふ」
みほ「あ、はい」
杏「アアアン、アン、アアアン、アン」フリフリ
みほ・ダージリン「「アン、アン、アン」」フリフリ
祭り会場
おりょう「いくぜよ!!」
左衛門佐「そーれっ!!」ドンッドンッドンッ
『あの子 会いたや あの海越えて』
沙織「やだもー!!」
優花里「仕方ありません!!!」
華「恥ずかしいと思えば余計に恥ずかしくなります!」
麻子「……」フリフリ
みほ「あぁ……わぁぁ……」フラフラ
ダージリン「うふふ。みほさん、これは愉快な踊りですわね。気に入りましたわ」フリフリ
みほ「えぇぇ……?」
ダージリン「是非、グロリアーナでも取り入れましょうか」
杏「いやぁー。今日は試合もできてあんこう踊りもできて、最高だねー」
ダージリン「ええ。得るものが多い1日でしたわ。わたくし、生まれ変わることができたかもしれません」フリフリ
杏「まぁ、できてるかもね」
夕方
ダージリン「貴方と出会えて本当によかったわ。ありがとう」
みほ「いえ」
ダージリン「もう紅茶を一滴も溢さないなんていいませんわ。そんなことできっこないもの」
麻子「それがいいな」
ダージリン「あと、これ紅茶を」
優花里「いいのですか!?」
沙織「なんでそんなにびっくりしてるの?」
優花里「聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶を贈らないんですよぉ!!」
ダージリン「数々の無礼のお詫びとしては不釣合いですけど、是非受け取ってほしいわ」
みほ「勿論です」
ダージリン「では、また会えるときを楽しみにしていますわ。みほさん」
みほ「私もです」
オレンジペコ「ありがとうございました」ペコッ
みほ「こちらこそ、ありがとうございました」
聖グロリアーナ 学園艦
ダージリン「ふぅー……」
オレンジペコ「良い人たちでしたわね」
ダージリン「こんな格言を知っている?」
オレンジペコ「はい?」
ダージリン「イギリスはすべての戦いに敗れるであろう。最後の戦いを除いては」
オレンジペコ「ウィンストン・チャーチルの言葉ですね」
ダージリン「試合が楽しみですわね」
オレンジペコ「はいっ」
ダージリン「さてと……」ゴソゴソ
オレンジペコ「あの……なにを……」
ダージリン「貴方の分ももらっておきましたわ」
オレンジペコ「そ、それは……!?」
ダージリン「わたくしとみほさんの友情の証となった、あんこう踊り。これからは紅茶と併用して、士気を高めるときに踊りましょう。ふふふ」
オレンジペコ「い、いやぁ……!!」
数週間後 試合会場
ダージリン「御機嫌よう、西住まほさん」
まほ「……」
ダージリン「今回のわたくしたちは、一味も二味も違いますわよ」
まほ「……」
ダージリン「わたくしには、みほさんの力がありますから」
まほ「……」
ダージリン「さぁ、試合前に士気を高めますわよ」
オレンジペコ「はい……」
ダージリン「アアアン、アン、アアアン、アン」
オレンジペコ「波に揺られてアン、アン、アン」
まほ「……行こう」
エリカ「はい」
ダージリン「ふふ。恐れをなしたようね、黒森峰のみなさん。これで勝てるわ」
オレンジペコ「アンアンアン……」
このダージリンさんなら黒森峰にも勝てそう
大洗学園艦
優花里「あー。聖グロリアーナは負けてしまったみたいですね」
沙織「残念だねぇ」
華「敗因はなんでしょうか?」
麻子「色々あるが……」
みほ「士気が低いままで戦ったのが一番の原因かも」
優花里「何故、士気が下がっていたのでしょうか。あのときのように紅茶を飲めばなんとかなったのでは?」
沙織「紅茶を切らせたとか?」
華「紅茶を飲もうとしても戦車の中では上手く飲めなかった」
麻子「黒森峰の猛攻にあえば難しいだろうな」
優花里「なるほど。士気をあげる暇すらもなかったわけですね。流石は常勝の黒森峰です」
みほ「ダージリンさんとはもう一度、戦いたかったなぁ……」
優花里「でも、このまま戦車道を続けていればいつかまた真剣勝負ができますよ。西住殿!」
みほ「そうだね。そのためにも今は、プラウダ戦をがんばらなきゃ。……ダージリンさん、オレンジペコさん、きっといつかまた試合をしようね」
おしまい。
乙
面白かった
いやーこぼさんなー
黒森峰が恐れをなすのもわかるわ
また君か溢れるなぁ
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