美鈴「…というわけで、美人で勇敢な中華娘は悪いドラゴンを退治して王子様と結婚し」
美鈴「一生幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
フラン「あー、おもしろかったー。王子様と結婚できるなんて素敵ね」
美鈴「楽しんでいただけたようで何より。それじゃあフラン様そろそろおねんねの時間ですよ」
フラン「えー、まだ眠くなーい!なんかお話して-」
美鈴「仕方ありませんね、あと一つだけですよ」
フラン「わーい、めーりん大好き」
美鈴「ふふ、じゃあとっておきのお話です。むかしむかしあるところに…」
むかしむかしあるところにーと言っても実はそれほど昔の事ではないのですが、一人のやまびこがおりました
そのやまびこの娘は、仮にエコーと呼ぶことにいたしますが、あるお寺の門前で毎朝掃き掃除などをしておりました
やまびこというのは人の声真似をするのと大きな声を出すのが大好きでございます。エコーは誰かに会うと、いつも明るく大きな声であいさつをするので、寺に住む人々や参拝客たちからとても好かれていました
ところが世の中には、そういった元気さや明るさを疎ましく思うひねくれ者もいるものです
その日は運悪く、一匹のわがままで凶暴な悪魔がなぜか参拝にやってきました
いつものようにエコーは大声で元気よくあいさつをします
エコー「おはようございます!」
悪魔「うわっ、何よ!?うるさいんだけど」
エコー「おはようございます!」
悪魔「耳がキンキンする…」
エコー「朝のあいさつは大事だよ!」
悪魔「ちょっと静かにしなさいったら!喉笛噛み千切るわよ!」
エコー「…!?」ビクッ
エコー(あいさつしただけなのに…この人怖い…)
悪魔はすでにだいぶ腹を立てていて、恐ろしい目つきでやまびこの娘をにらみつけていました
エコーはすっかり脅えてしまって、小さな声で(もっとも私たちにとってはまだ大声ですが)尋ねました
エコー「何かごようですか?」
悪魔「この寺のやつらは新参者のくせに私のところに挨拶の一つも寄越さないんで、こっちから出向いてやったのよ」
悪魔「一番偉い奴を呼んできな。あんたみたいな下っ端に用はないよ」
エコー「『あんたみたいな下っ端に用はないよ』」
悪魔「な、なんですって!」
やまびこの娘は悪魔をますます怒らせてしまいました。けれども彼女には悪気はないのです。
きれいな言葉も汚い言葉も、区別なくのべつ幕なしに繰り返してしまうのがやまびこの性なのですから
悪魔「馬鹿にしてからに…お尻の青いちんちくりんの小娘が!」
エコー「『お尻の青いちんちくりんの小娘が!』」
悪魔「バーカ、バカバカバカバーカ!」
エコー「『バーカ、バカバカバカバーカ!』」
それからしばらくの間、水面に映った自分の姿に向かって吠えたてる獣のように、悪魔はますます激しくエコーを罵りました
悪魔「…きーっ!腹立つ何なのよこいつ!」
エコー「やまびこだよ!」
疲れ切った悪魔とは対照的に、たくさん声真似できたエコーは上機嫌です
悪魔「あぁ、やまびこ?なるほどどうりで…」
何かを思いついたのか、悪魔は意地の悪い笑みをうかべました
悪魔(くっくっく、何でもオウム返しにするだけの馬鹿な妖怪が、恥ずかしい目にあわせてやる)
悪魔「私はこの年になっても時々おねしょをしています!」
エコー「…」
悪魔「ちょ、なんで真似しないのよ!」
悪魔「ほら、私はこの年になっても時々おねしょをしています!」
その時偶然お寺の住職が通りがかりました
住職「あらあらまあまあ」
悪魔「なっ…!? ち、違っ…///」
恥ずかしいセリフを聞かれてしまった悪魔は真っ赤になってしどろもどろになり、何とか誤解を解こうとしましたが「そのくらいの歳ではおねしょするのはおかしいことじゃないのよ」とか優しく慰められて涙目になりながら館へと逃げ帰っていきました
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