過去に暮らした土地を訪れると吐き気しかしない

歩く道には、花が散り青々とした葉がところ狭しとぶら下がる街路樹が立ち並ぶ。
この道を歩くのもいつ以来だろうか。
都会でもないのに、視線が左右に泳いでしまう。

あの頃、僕はこの道を何も考えずに歩いていた。
毎日退屈で、歩き飽きたこの道には目もくれず、ただ見えない何かに向かっていた。
この年になって、改めて気づくこともある。
不細工な仏像、地面から盛り上がった木の根、日の光を反射して、無数の光の結晶を作り出す川……
その全ては、前にもあったものだろう。だけどなぜか、とても新鮮に思えた。

それは僕が大人になったせいなのだろうか。
それとも、ただ単に忘れていたことを思い出してるせいなのだろうか。
……どちらでもいい。
今はとにかく、緩やかに流れるこの景色を見ていよう。

そんなことを思いながら、その道を歩く。
肩にかけた膨らんだスポーツバッグは、足の動きと連動して、右に左に動いていた。

しばらく歩くと、そこには公園があった。
子供の頃、よく遊んでいた公園だ。
今日は休日ということもあり、土の上を大勢の子供たちが走り回る。そしてそれを見つめる親達。

よくある光景なのかもしれない。
だけど足は止まり、僕の視線は走る子供に向けられていた。

何かあるわけじゃない。
ただ何となく、昔の自分を投影していた。
何者にも縛られず、目の前のボールを追いかけていた日々。
いつも何かに夢中で、何をしても楽しくて、ただ笑っていた日々。

……あんな顔をしなくなったのは、いつからだろうか。
そう考えると、顔を伏せてしまいそうになる。

しばらく公園を眺めた後、横を通りすぎた車の音を合図に、再び足を踏み出した。

ふと、道の向こうから男が歩いてきた。
どこかで見たことのある風貌だった。

彼もまた、僕の顔を見返す。
お互いにチラチラと顔を見ながらすれ違おうとした時……

「……あれ？」

「……ん？」

彼は突然、僕の顔から目を離さなくなり、声を上げた。
咄嗟に僕も、声を溢す。

「もしかして……宗太か？」

男は、僕の名前を読んだ。その声を聞いた瞬間、僕の脳裏にも彼の名前が浮かび上がる。

「寛司？お前、寛司か？」

「おお！やっぱり宗太！久しぶりだな！帰ってきてたのか！？」

「今しがたね。……でも、本当に久しぶりだね」

僕と寛司は、道の真ん中で声をかけあう。

彼は小、中、高同じ学校に通った、いわゆる腐れ縁と呼ばれる男だ。
少しの間話した僕らは、そのまま横並びで歩き始めた。

乙！面白かった

「――まったく、帰ってくるなら連絡くらいしろよ」

「ごめんごめん。ふと思い立ってね」

歩きながら、寛司はそう言ってきた。
今回の帰省は、誰にも言っていない。正直帰省というほどのものでもないし、あまり長居をするつもりもない。
……強いて言えば、ケジメを付けに来た、といったところだ。

「いつまでいるんだ？」

「あ、ああ……すぐに帰るつもり。仕事もあるし」

「そうか……大変だな、宗太も」

「寛司ほどじゃないよ。親父さんの店、引き継いだんだろ？」

「まあな。嫌々ではあるけどな」

寛司の実家は、代々八百屋を経営している。
彼は長男であるがゆえ、学生時代から親父さんに店を継ぐことを言いつけられていた。

もっとも、学生時代の彼は、それに反発していた。
やりたいことも見つかってないのに、人の将来を勝手に決めるな――
それが、彼の口癖だった。

しかし、そんな彼も今や店を任されている。
最初は手伝いだけだったが、親父さんはあっさりと彼に店を継いだ。
きっと親父さんも、嬉しかったんだろう。

嫌々と彼は言う。それでもその表情は、まんざらでもないように見える。
それが彼の人生なのだろう。彼は立派に、自らの足で時計の針を進めている。

……片や、僕はどうだろう。自分の足で、歩けているだろうか。
考えるまでもない。それはきっと、“否”だ。

僕の時計は、あの日から止まったままだ。
それが自分でもよく分かるからこそ、握り締める手に、自然と力が入った。

またレス乞食の登場！！！
昼間にレスがつかなかったから夕方にわざわざあげて更新し始める乞食ｗｗｗ

「――じゃあ、僕はこの辺で……」

三叉路にさしかかったところで、僕は寛司が足を踏み出した方向とは別の方向を指し示す。

「あ？何でだよ。お前の家、こっちだろ？」

「そうなんだけど……こっちに、ちょっと……」

それ以上の言葉は、言わなかった。寛司はその方向に視線を送る。

「そっちって、確か……」

そして、何かを察した彼は、体の力を抜いた。

「……そうか。そうだよな」

「……うん」

「悪かったよ。それなら、一人の方がいいよな？」

「うん。そうしてもらえたら助かる」

すると彼は、足早にその場を去り始めた。

「……用件終わったら連絡してくれよ！飲みに行こうや！」

彼の言葉に、手を振って答えた僕は、再び一人で歩き始めた。

僕はとある場所に行き着いた。
住宅街から少し離れた丘の上に、そこはあった。人の姿は疎らにあった。
緑色の木々はそこを囲み、枝を揺らしながら風の到来を知らせる。
心なしか、鳥達の鳴き声も小さい。気を使ってるのだろうか。
段々となっているその一角を、僕は目指す。
片手には、途中で購入した花束。

心臓が少しだけ冷たく脈動するのを感じた。緊張しているのだろうか。
それでも足は歩みを止めない。ただ一直線に、体をそこへと誘っていく。

「……」

辿り着いた場所の前に、立ち止まる。
風は優しく頬を伝う。少し汗ばんだこともあり、とても涼しい。

未だ躊躇する僕の口は、ようやく動き始めてくれた。

「……久しぶりだね」

声を届けた相手は、何も答えない。
それでも、語りかけるのを止めることはなかった。

「来るのがずいぶん遅れたよ。もしかして怒ってる？」

答えない相手への言葉は続く。
これまで話したかったことの全てを、そこに置くつもりだった。
地元を離れてからのこと。仕事のこと。私生活のこと……
物言わぬ相手は、ただ僕の話を受け続けた。

しばらく話した話した後、ふと思い出した。

「――……そうだった。すっかり忘れてた。花束、持ってきてたんだよ」

一歩下がり花を添え、静かに合掌した。

――墓前に置かれた花びらは、返事をするように風に揺られていた。

墓地を出た後、僕は実家を目指す。
思いの外足は重い。独り暮らしを始めて以降、家に帰るのはこれが初めてだった。
連絡もロクに取らなかったこともあり、半ば家出同然の状態だった。

家が嫌なわけではない。これは単なる、僕のワガママだ。
いつの間にか実家を避けるようになったのは、全てを思い出したくなかったから。
その理由は、親には言ってない。
でもきっと、分かってるんだと思う。その証拠に、家に帰るような催促はされたことはない。

色々心配をかけていることに、申し訳なさを感じてしまう。

俺は待ってるぞ

その家の前に、僕は立つ。
久しぶりに見上げた家は、あの頃よりも少し古びて見える。こうして対面すると、とても不思議な気分だ。
家の中に入っていきたい。でもそれを躊躇する自分もいる。
色々な面を持つ思いは、螺旋状に頭の中を巡る。

――その時、突然玄関のドアは開かれた。

「……！」

動揺する僕の目の前に現れたのは、懐かしい顔だった。

「……あら？」

その人は、僕の顔を見た瞬間に首を傾げる。目を点にさせ、一歩、また一歩と近づきながら顔を覗きこむ。
そして僕が誰なのか分かったのだろうか。驚いていた表情は朗らかになり、優しい笑顔見せた。
口元と目元には、記憶の中にある表情よりも皺が増えていた。
黒く艶のある髪には、白い筋が混じる。

……だけど、その暖かい笑顔は、何も変わっていなかった。
その笑みを見ていると、思わず僕も顔が綻んだ。

少し照れ臭さを感じながらも、その人の笑顔に声をかける。

「……ただいま、母さん」

母さんは笑っていた。そしてそのまま、優しい口調で答える。

「……お帰り、宗太」

「――いったいどうしたの？こんなに急に帰って来て……」

居間に座る僕にお茶を出しながら、母さんはそう訊ねる。

「ああ、ちょっとまとまった休みが取れたんだよ。で、思い切って帰ってきた」

「家に帰るのに、思い切りなんているの？」

母さんは笑いながら話す。何だかばつが悪くて、痒くもない頬を指で数回かいてみた。

……そして母さんは、僕の隣に座る。

「……ほら、ゆっくりする前に、父さんに挨拶をなさい。宗太の帰り、待ってたんだからね」

「……うん」

ゆっくりと立ち上がり、とある部屋に進む。
歩く廊下は所々軋んでいた。家の中はあまり電気をつけていないためか、昼間なのにやや薄暗い。
でも決して不気味なわけじゃない。とても、温かみのある影だった。

その部屋についた僕は、座布団に正座して手を合わせる。

「……ただいま、父さん。久しぶりに、帰ってきたよ」

――仏壇に飾られた父さんの遺影は、母さんと同じように優しく微笑んでいた。

父さんは、僕が中学の時に病気で他界した。
それから母さんが女で一つで僕を育ててくれた。母さんには感謝してもしきれない。
仕事のせいか、母さんの両手にはシミや傷跡が目立つ。
それでもその手は、とても暖かくて、とても柔らかい。

……でも、感謝の裏側にあるのは、罪悪感だった。
僕は故郷を離れ一人暮らしをした。そんな母さんを、一人家に残して。
本当は寂しかったのかもしれない。本当は心細かったのかもしれない。
それでも僕は、自分の都合を優先させた。

両手を合わせながら、心の中で父さんに謝る。
母さんを残したこと。逃げ出したこと。全部……

「……ご飯まだでしょ？今から作るけど、食べる？」

仏間を覗き込んだ母さんは、そう話しかけて来た。
静かに目を開けた僕は、母さんの顔を見返した。

「……うん。食べるよ」

そして僕と母さんは、７年ぶりに食卓を囲んだ。
仕事のことを言ったり、向こうでの友達のことを言ったり……積もる話を、ひたすらに話しかけた。
母さんは、ただ僕の話を聞いていた。とても、幸せそうな顔で。

食事を終えた後、僕は街を歩いた。
寛司との約束、彼の仕事の関係上、夕方以降となった。

時間を持て余した僕は、ただ道路を歩く。
何か目的があるわけじゃない。こうして歩くことで、心の中の色んなものを整理したかった。
人は歩くことで頭の整理が捗るらしい。僕も、それに準じていた。

（――あ）

ふと、道の反対側を女性が歩いて来ることに気付く。
その顔を見た瞬間、僕はすぐに分かった。忘れたくても、忘れられない顔だった。
咄嗟に僕は、目を逸らす。

……でも、その時にはもう遅かった。

「……ん？キミは……」

その女性は、足を止めて僕の顔を見る。僕も彼女に合わせ、足を止めた。
そして、恐る恐る頭を下げる。

「……」

女性は何も言わず、僕の顔を見ていた。
そして……

「……そうか。夏香の墓に花を置いたのは、キミか……」

「はい。……お久しぶりです、秋良さん……」

彼女は、ただ険しい顔を、僕に向けていた。

「――何をしに、戻って来たんだ？」

「……」

彼女の問いに、僕は沈黙を返す。

「答えないのか？」

「……いえ」

答えに困る僕に、秋良さんは溜め息を吐いた。

「キミがどういうつもりかは分からない。ただの帰省かもしれない。
　……でも、こうして夏香のところへ行かれるのは、はっきり言って迷惑だ。
　悪いけど、私は……私達は、キミを許したわけじゃない。キミが他所へ逃げた後も、私達の苦悩は続いているんだ」

「……分かってます」

「すまないな。キミも辛いだろうけど、それでもキミに笑顔を向けるのは難しいんだよ」

そう言い残した彼女は、足早にその場を去って行った。
残された僕は、小さくなる彼女の背中を見つめていた。

そして彼女の姿が視界から消えたあと、黒い路上に向けて声を吐き捨てた。

「……クソ……」

それは決して彼女に対するものではない。不甲斐ない、自分に対してのものだった。

ほう

クソワロタwwwwwww

昼寝から起床
続き

道の途中にある河原に座り込んだ。
川の水面は光を太陽の光を乱反射させるが、少し眩しすぎる。
川のせせらぎも聞こえるが、それ以上に車の雑音が耳をついていた。

「……」

脳裏に浮かぶのは、秋良さんの言葉。

――私達は、キミを許したわけじゃない――

その言葉は、心の奥底まで突き刺さっていた。体の真ん中の奥深くから、じわじわと痛みを与えて来る。
座り込む僕は、無意識に足元の雑草を引きちぎっていた。

いったい何のためにここに来たのだろうか――
そんなことを考える。
二度と戻りたくないと思ったこともあった。それでも戻って来た。
でも、結局こうして河原で座り込むことしか出来ていない。

（気持ちの整理もつかず、何の準備もなく、思い付きで行動した結果がこれか……）

不甲斐ない――今の自分に嫌悪感を覚えてしまう。
……それでも、僕は動くことが出来なかった。
秋良さんからの言葉は、まるで足枷のように、足を地面に縛り付けていた。

「――宗…太くん？」

ふと、後ろから声がかかる。

「ん？」

振り返る先の畔道には、自転車を手押しする女性が僕を見ていた。
とても驚いた表情。口を少しだけ開け、大きな目で僕を見つめる。長い黒髪は風になびき、ユラユラと波を打つ。
……その人物もまた、見知った顔だった。

「……優里？」

僕が名前を告げると、彼女は微笑みを送る。

「うん。……久しぶり」

正直、どういう表情を返せばいいのか分からなくなった。

だから僕は、とりあえず頭を下げた。

道端に自転車を止めた彼女は、僕の隣に座り込んだ。
ワンピースの裾は揺れて、僕のズボンに当たる。

「……帰って、来てたんだね」

「……うん。今日だけどね」

「いつまでいるの？」

「さあ……長くはないけど」

「そう…なんだ……」

静かに、囁くように会話をする僕達。
彼女は、言葉の線をなんとか繋げようとしているようだった。でも僕は、逆にそれを解いていく。
何を言ったらいいのか分からない。どういう表情を向ければいいのか分からない。
必死に言葉を探すように目を泳がす彼女を知りながら、僕はその場から逃げ出したかった。

……でも、彼女を残すのは忍びない気もする。
どうすればいいのか分からないからこそ、惰性に流れた僕の心と体は、その場に座り込み不愛想に答えることを選択していた。

「……優里は、今何してるの？」

しばらく空返事を続けていた僕は、絞り出すようにようやく彼女へ話かける。

「働いてるよ。実家暮らしだけど」

「そう……買い物帰り？」

「うん。晩御飯、作らなきゃいけないし……」

「そっか……なら、早く帰ってあげないと」

遠回しに、彼女に帰宅を促す。
彼女はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと立ち上がった。

「……うん、そうだね。また今度、ゆっくり話していい？」

髪をかき上げながら、僕を見下ろした彼女は訊ねる。
僕は口を開くことなく、頷くことでそれに答えた。

そんな僕を見た彼女は、笑顔を向けて来た。……どことなく、寂しさを漂わせる笑みだった。

「……じゃあ、私行くね」

「ああ。気を付けて」

「ありがと……」

最後にそう言葉を交わした後、優里は帰って行った。立ち去る彼女を見つめる。
彼女は何度か後ろを振り返りながら、名残惜しそうに歩いて行った。

（……まるで初めて会話するみたいだな）

さっきの自分は、あまりにも不愛想過ぎた。
彼女はただ純粋に、久しぶりに僕と会話をしていただけなのに、まるでそれが迷惑かのように振舞ってしまった。

（……最低だな、僕は）

そして僕はまた、自己嫌悪の渦に沈んでいった。

とぼとぼと、帰り道を歩く。
空の群青は西の空から色を変え始めていた。黄色と青が入り混じる空は、どこか寂しく見える。
これから、夜の帳が訪れる。

（……こんなはずじゃなかったんだけどな）

ふと、そんなことを思ってしまった。
ここに来る途中は、もっとしっかりするつもりだった。
だけど、実際はこのザマだ。
理想と現実はいつも程遠いものだ。でも、ここまで酷いと逆に笑えてくる。

歩く僕の脳裏には、あの日々のことが甦る――

『――夏香！待てよ！』

彼女は僕の前を走る。なだらかな丘は、上へ上へと伸びていく。
桜の花が舞い、風に踊るようだった。

『宗太早く！この上から見る景色って、凄く綺麗なんだよ！』

『分かったからちょっとペース落とせ！』

高校の制服姿の僕らは、ただ坂を駆けあがる。
その先にあるものを、横に並んで見るつもりだった。

放課後すぐということもあり、その道には人はいなかった。
ガードレールが引かれた道の真ん中を、彼女は走る。
活発で明るい彼女。本当は男の僕が引っ張るべきなんだろうけど、いつも彼女が僕をどこかへ連れ出していた。
それは少し悔しくもあった。でも、それが僕らの形だった。

彼女が前を行くなら、僕は後ろから見守ろう――子供ながら、そんなことを考えていた。

……僕は本当に、子供だった。

坂を上りきった先には、何もない道路だった。でもそこは、街を見下ろせる高台になっていた。

『……どう？』

彼女は、自慢げに僕の顔を覗きこむ。

『……うん。綺麗だ……』

自然と、僕の口はそう呟く。

丘の上から街を見下ろせば、遠くまで建物が建ち並んでいた。
小さく動く車。大きな建物は目立たない街並み。少しだけ、物寂しい景色。
そんな風景に、道端に植えられた桜の木が花びらを舞わせ、彩を付け加える。
単調な景色の中に、ほんのりと浮かび上がる桜色の花びら……それは、まるで一つの絵画のようだった。

『私さ、ここから見る街が好きなんだよね。特にこの季節は最高。桜の花びらが、喜ぶように揺れているし』

『詩人みたいなこと言うなぁ。……でも、本当に綺麗だ』

『でしょ？お姉ちゃんが教えてくれたんだ』

『秋良さんが？』

『そうそう。……でも、ここに男の子を連れて来たのは、宗太が初めてなんだからね。感謝してよ？』

『はいはい。ありがとう』

『またそうやって聞き流す……』

夏香は、ふてくされたように前を見ていた。
それでも、すぐに笑みを戻す。その顔を横目で見た僕も、自然と笑みが零れていた――

「――しっかし、宗太もすっかり社会人になったもんだな」

居酒屋の片隅で、寛司はビール片手にそう話す。

「なんだよ改まって……それは、老けたって言いたいのか？」

「違いない。俺らも、もうすっかり歳くったな」

「まだ２５だろ。言う程でもないよ」

「まあな。でも、クラスの連中は結婚してる奴もいるぞ？鈴木とか棚原とか」

「マジで？あの二人が？」

「そうそう。鈴木とか、すげえ美人の奥さんだぞ？」

とりとめのない、くだらない話を続ける僕ら。
この時ばかりは、心の中にあるものを忘れていた。ただ話に花を咲かせ、セピア色の思い出を心のアルバムから引っ張り出す。
それを互いに披露し合い、また笑う。

とても、落ち着く時間だった。

何でここで書くんだろうな？

>>29
何となく
特に理由はないから気にせんでくれ

俺は見てるぞ
④する

「……そう言えば、ちゃんと話しできたか？」

突然、寛司は神妙な顔を見せた。
それまでとは違う表情に少し驚いたが、それでも、彼が言いたいことは分かった。

「……うん。きちんと話してきた」

「そっか……もう、７年か……」

「……」

「……」

周囲の喧騒を他所に、僕らの周りは静まり返っていた。
寛司は困ったように頭をかく。触れてはいけなかったのかもしれない……そんなことを考えているのだろうか。

気を遣わせてしまったのかもしれない。

「……寛司、今はそれは忘れよう。ホラ、もっと飲めよ」

「あ、ああ……そうだな！」

寛司はようやく笑顔を取り戻した。
そして僕らは、夜遅くまで酒を交わした。

家に帰り、母さんが用意してくれた布団に横になる。

薄暗い部屋の中は、静寂に包まれる。
聞こえてくるのは時計の針が進む音……そして、心臓の鼓動。
一定のリズムで鳴り響くその音は、僕の意識を緩やかに微睡の中に落としていく。

今日のこと、これまでのことが、頭の中で映像として再生される。
その最後には、夏香の笑顔があった。

毎日のように見ていた、あの笑顔が――