キョン「声真似?」ハルヒ「声真似!」 (11)
「なぁ、ハルヒ。話があるんだ」
「な、何よ突然?似合わない真面目な顔しちゃってさ」
「俺――ハルヒのことが好きだ」
「はぁ!?え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!何よ、そ、それは告白ってこと?」
「そうだ」
「い、いきなり過ぎるわよ!もうちょっとムードとかそういうの、ほら、いろいろあるでしょ!バカキョン!」
「……それで、どうなんだ?」
「……キョンは馬鹿だし、みくるちゃんにはすぐデレデレするし、あたしの言うこと全然聞いてくれないし、文句ばっかり。
そ、それなのに本当にあたしのこと好きなの?」
「ああ、好きだ」
「し、仕方ないわね!あ、あたしはキョンのことなんか全然まったくこれっぽっちも好きじゃないけど、
キョンが可哀想だから付き合ってあげるわ!感謝しなさいよ」
まず最初に、誤解だと言っておく。
上記の恥ずかしい台詞の連発は俺であって俺じゃない
。DIOのスタンドを目の当たりにしたポルナレフの気持ちとでも言えば、現在の俺の心境は伝わるだろうか。
とにかく、パニック状態に陥っているわけだ。何が何だかまったくわからないが、一応現在に至る流れなんかを説明しておく。
遡ること5分前、掃除が終わって何時ものように部室に向かっている途中のことだ。
ハルヒを除いたSOS団の団員が揃いも揃って俺の前に現れた。
またハルヒが何かやらかしたのかと古泉に聞いたところ、
「いえいえ、貴方が心配するようなことは何も」
キザったらしいにやけスマイルで古泉はそう言った。詳しく――というほど難解な話ではないのだが――話を聞くと、
どうやら三人が三人とも定時連絡らしい。
「それで、貴方から涼宮さんに今日は行けないということを伝えてもらいたいのですが、構いませんか?」
古泉だけなら自分で連絡しろと言い捨てるのだが、長門や朝比奈さんからの頼みごととなるなら話は別だ。
ふむふむ④
「わかった。伝えておくよ」
「キョン君ありがとう」
そうにっこりと微笑まれた朝比奈さん。その笑顔を見れただけで対価としては十分過ぎる程だ。
「感謝」
長門は長門で無表情に見えるのだが、その無表情の中に感謝の気持ちが見て取れる。
「それでは、失礼します」
三人と別れ部室へと向かい、その扉を開こうとしたところで冒頭に戻る。中から声が聞こえてくるので、鶴屋さんでも来ているのかと最初は思った。
しかし、どうも様子がおかしい。ドアノブに手をかけたままハルヒの声に耳を澄ますとなにやら声を真似しているようだった。
物真似の練習をしているなら何の問題もない。
練習をしているところを見られたり聞かれたりするのはいささか恥ずかしいが、ただそれだけだ。
だが、物真似をしている人物に問題があった。もうお分かりだろう。
ハルヒは、何を思ったのか俺の口調と声を真似ていたのだ。
しかも、だ。恥ずかしい台詞を連呼している。
「……愛してるよハルヒ」
「あたしもよ、キョン……」
聞こえない。何も聞こえない。いったいハルヒはどこを目指しているのだろうか。
俺の真似をするのは百歩譲っていいとしよう。しかしながら、俺の真似をしながら愛の台詞を囁くってのはいかがなものだろう。
「好きだ!好きだハルヒ!大好きだ!」
「ああ、キョン!大好きよ!」
「……何をやってるんだ?」
流石に耐えきれなくなり、俺は部室の扉を開けた。
そこで俺が見たのは、部屋の中央でまるで自分を抱き締めるかのように両手を胸の前で交差させているハルヒであった。
「…………」
「…………」
ハルヒは顔面を完熟トマトのようにして、そのままの姿勢で固まってしまっている。
俺は俺でそんなハルヒに二の句を告げられないでいた。
互いに見つめ――いや、睨み合ったまま数秒が経過した。沈黙が部室内を占拠する。
「…………」
「……おい、何事もなかったかのように自席へ座るな」
窓のほうを向いたままハルヒが再び固まる。
「ぬ、盗み聞きなんて趣味悪いんじゃないの?」
「聞くつもりはなかったし、聞きたくもなかった。でもな、あんなでかい声を出してたせいで廊下にまで丸聞こえだったぞ」
ひょっとしたらコンピ研の連中にも聞かれてしまったかもしれない。そのことを考えると、鬱になる。拳銃はどこにしまったかな。
「ね、ねぇ。ど、どの辺りから聞いてたの?」
「『なぁ、ハルヒ。話があるんだ』ってとこからだ」
「……」
結構最初のほうからじゃないという呟きが聞こえたような気がする。あまり深く追及はしたくないのだが、そういうわけにもいかないわけで……。
「あのな、ハルヒ」
「な、何よ?」
こっちを向かないハルヒに聞こえないようにやれやれと呟く。
「別に俺の真似をするなとは言わん。でもな、恥ずかしい台詞で練習するのだけはよしてくれ」
そう言ったところでハルヒが急に振り向いた。その表情を見る限り、かなりご立腹のようだ。
「あ、あんた本当に馬鹿なんじゃないの!?意味わかんない!何でそうなるのよ!違うでしょ!
キョンの物真似がしたいわけじゃないってことくらい気付きなさいよ!バカ!アホ!鈍感!スケベ!」
物凄い剣幕でハルヒがそうまくしたてる。さっきまでのピンク色の空気はどこへやら。
レッドゾーンへ即突入といった具合か。
「あたしが!キョンのことを!好きだから!真似してたのよ!」
肩を怒らせながら近づいて来たハルヒが、一言一言を区切りながら学校中に響き渡るんじゃないかというぐらいの大声でそう言い放った。
ちょっと待て。今、物凄いことを言われたような気がするんだが……。
「ホントはキョンに言ってもらいたかったの。でも、絶対に言ってくれないから。
だから、自分で真似してたのに、それなのに、それなのにキョンは――」
ほんの数瞬前まで怒っていたハルヒが、今度はポロポロと大粒の涙を流し始めた。
言葉の終わりは嗚咽で何を言っているのかわからない。鈍感と罵られた俺。
それでも。それでも今何をすべきなのはわかっているつもりだ。
「悪かった。だから、泣くなよ」
そっとハルヒを抱き寄せて、優しく頭を撫でてやる。想像以上に柔らかく、あんまり力を入れると壊れてしまいそうな程にハルヒは華奢だった。
ハルヒも女の子なんだなと変に実感した。
「バカ……キョンのバカ……」
泣き止まぬハルヒを何も言わずに撫で続ける。優しく、優しく、包み込むように。
「もっと優しくしてよ。もっとあたしのことだけを考えてよ。キョンが好きなの」
女の子、それもハルヒみたいにとびっきり可愛い女の子にそんな風に言ってもらえるなんて、俺は幸せ者なんだろう。
「キョンはあたしのこと好き?」
さて、どうしたものか。腕の中のハルヒが不安そうな瞳で俺を見つめている。
そんな上目遣いでその台詞は卑怯だ。
「……ああ、好きだ」
「そ、良かった……」
ああ、まったく。展開が早すぎやしないだろうか。しかし、そんなことはどうだっていい。
腕の中のハルヒが可愛い。今の俺にはそれだけが真実ってわけだ。
「ねぇ、キョン――」
紡がれた言葉。答えはいつも俺たちの胸に――
終わり
乙なかなかよかった
懐かしいな
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