佐久間まゆ「初恋の思い出」 (22)
まゆ「初恋……ですか?」
P「覚えてたら話してもらえないかな。俺と会う前のまゆのこと知りたくなってさ」
まゆ「ふふ、分かりました。良いですよ」
まゆ「初恋は確か……小学校低学年の頃です。6~7歳くらいですね」
まゆ「パパとママと3人でお祭りに行って、迷子になってしまって……」
まゆ「パパ……ママ……どこ?」キョロキョロ
まゆ「……」
まゆ「…………」
まゆ「あっ……パパ? パパ、待ってぇー」トテトテ
まゆ「パパー」ギュッ
少年「ん?」
まゆ(パパじゃない……)
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少年「僕に何か用?」
まゆ「あっ、あの……パパと間違えました。ごめんなさい」
少年「パパを探してるの?」
まゆ「うん。ママも」
少年「一緒に探そうか?」
まゆ「ほんとー?」
少年「ほんとほんと」
少年「そうだ、綿菓子あるんだけど食べない?」
まゆ「ママが、知らない人から物をもらっちゃいけませんって……」
少年「じゃあ……僕の名前は――っていうんだ。君は?」
まゆ「まゆ」
少年「まゆちゃん、よろしく。はい、握手」
少年「これでもう知らない人じゃないよね? 一緒に綿菓子食べよう?」
まゆ「……うんっ」
少年「やっと笑ったね」
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パパと間違えて声をかけた男の子が、一緒に両親を探してくれることになったんです。
多分中学生くらいですね。
今思えば、身長や体格も違ったんでしょうけど……
見た目じゃなくて雰囲気や歩き方が似てたのかもしれません。
残念ながら顔や名前は覚えてないんです。
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少年「まゆちゃんのお父さん、いませんかー?」
まゆ「パパー」
少年「まゆちゃんのお母さん、いませんかー?」
まゆ「ママー」
少年「……なかなか見つからないねぇ」
少年「この辺りまでは一緒にいたんだよね?」
まゆ「うん。まゆね、金魚すくい見てたの」
まゆ「すごく上手な人がいて、金魚をどんどんつかまえてて……」
まゆ「うわーすごーいーって見てて」
まゆ「ねーパパ、すごいね~って言おうとしたら、パパもママもいなくなっちゃってた……」
少年「うーん、そっか。手はつないでなかったの?」
まゆ「最初はつないでたけど……あれー? いつ離しちゃったんだろ?」
少年「なにか夢中になって離しちゃったのかな」
まゆ「……お兄ちゃん、まゆ疲れちゃった」
少年「歩き疲れた? じゃあ……ここじゃ休憩も出来ないね。人の少ないところまで行こう」
少年「おんぶしてあげる。ほら、乗って」
まゆ「ありがとう、お兄ちゃん」
まゆ「ねえ……お兄ちゃんはどうしてまゆに優しくしてくれるの?」
少年「困ってる人は助けてあげなきゃ。まゆちゃんだってそうするでしょ?」
まゆ「まゆは……恥ずかしくてそういうの出来ないよぉ」
少年「そっかー、恥ずかしいかー」
少年「でもさ、もし今僕が一緒にいなかったら寂しくない?」
まゆ「……寂しい」
少年「一人でパパとママ探せる?」
まゆ「ううん、まゆどうしていいか分からないと思う」
少年「ほらね? 困ってる人を助けるって、一緒にいるだけでもいいんだよ」
まゆ「あ……うんっ」
少年「よしっ、ここならゆっくりできるかな。下ろすよ」
まゆ「はい」
少年「実は僕も、一人ぼっちで寂しかったんだ。だからまゆちゃんと一緒で、今嬉しいよ」
まゆ「本当? まゆ、お兄ちゃんを助けられてる?」
少年「ああ、もちろん」
まゆ「良かったぁ……えへへ」
まゆ「でも一緒にいるだけじゃダメなときもあるよね? そういうときはどうすれば良いの?」
少年「そのときまゆちゃんにできることならなんでも良いと思うよ」
少年「例えばそうだな……まゆちゃんはどんなことしてるときが楽しい?」
まゆ「楽しいのは……日高舞ちゃんのお歌聞いてるとき!」
少年「日高舞か、デビューしたばっかりなのにすごい人気だよね」
少年「歌を聞くと元気になったり勇気をもらえたりするよね」
少年「元気のない人がいたら元気が出る歌を歌ってあげるといいよ」
まゆ「まゆも日高舞ちゃんみたいに出来る?」
少年「ああ、まゆちゃんの歌を聞いたら絶対元気になるよ」
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歌うことの素晴らしさをその人に教えてもらって……
もしかしたらしばらく忘れていたかもしれません。
でもPさんと出会って、小さい頃の憧れを思い出したんです。
それからは……言うまでもないですよね?
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まゆ「……ねえ、お兄ちゃん」
少年「どうしたの?」
まゆ「このままパパママに会えなかったら……」
少年「大丈夫、絶対会えるよ」
まゆ「うん……」
『迷子のお知らせをします……』
少年「あっ……そうか、放送してもらえばよかったんだ! なんで気づかなかったんだ!」
少年「まゆちゃん、もうすぐパパとママに会えるよ」
まゆ「ほんとっ?」
少年「えーと、どこで頼めばいいんだ? ちょっと聞いてくるからまゆちゃんはここにいて」
少年「すぐ戻るからね」
まゆ「うんっ」
まゆ「……」
まゆ「…………」
まゆパパ「……まゆ!」
まゆ「え? あ……パパ、ママ~!」タタタ
ギュッ
まゆママ「もうっ、心配させて。もしはぐれたらそこでじっとしてなさいって言ったでしょう?」
まゆ「ごめんなさい……」
まゆパパ「見つかったから良いじゃないか。さあ、もう遅いからな、すぐ帰ろう」
まゆ「あ、でも……」
まゆ(お兄ちゃんが……)
まゆママ「まだ遊びたいの? ダメよ、明日学校あるでしょう?」
まゆ(あっ、お兄ちゃん戻ってきた……まゆのこと探してる?)
まゆパパ「また別のお祭り連れて行ってあげるからな」
まゆママ「まゆ、どこ見てるの?」
まゆ(お兄ちゃん、まゆに手を振ってる……気付いてくれたんだ)
まゆ(えへへ、ありがとうー。また会おうね~)フリフリ
まゆ「一緒に探してもらったんですけど、最後はお別れも出来ないままになってしまって……」
まゆ「また会いたいなぁって、しばらく思ってました」
まゆ「それだけ、なんですけどね。あとから思うと、あれが初恋だったのかなぁって」
P「そのお祭って、ひょっとして藻羽鱒神社の夏祭りじゃない?」
まゆ「あっ、そうです。どうして分かったんですか?」
P「今の話の中学生って俺だから」
まゆ「えっ!?」
P「まゆの話と俺の記憶がほぼ一致するから間違いないと思う」
まゆ「ほ、本当に……? まゆを驚かせようと思って冗談言ってるんじゃないですよね?」
P「うーん……証拠話そうか?」
P「両親を探してるうちにまゆがトイレに行きたくなって」
P「でも公衆トイレが混んでたから、我慢できなくて茂みで……」
まゆ「わーっ! わーっ!」
まゆ「うう、すっかり忘れてたのに思い出しちゃいました……」///
まゆ「なんでそんなこと覚えてるんですかぁ……」
P「いやー、忘れてたんだけどまゆの話聞いてるうちに思い出したんだ」
まゆ「ヤブヘビでした……」
P「藻羽鱒神社か、懐かしいなー。俺、まゆと出会ったあのときしか夏祭り行ったことないんだよな」
まゆ「次の年もその次の年も、まゆは行ったんですよ」
まゆ「また会えないかと思って……お礼も言えずに別れてしまったから」
P「感動の再会に水を差すのも悪いかと思ってさ」
P「それに結局大したことしてないし」
まゆ「そんなことないですよ。Pさんが一緒でどれほど心強かったか」
まゆ「……あらためて、その節はお世話になりました」ペコリ
P「いえいえ」
まゆ「本当に……あのときのお兄ちゃんが、Pさんなんですね」ウルッ
P「え、ちょ、なんで泣くの」
まゆ「だって初恋の人と再会出来たんですよ。しかもそれが、大好きなPさんだなんて……」
まゆ「だんだん実感がこみ上げてきて……こんなに嬉しいことないです、ぐすっ」
P「あのときは一人ぼっちでも泣いてなかったのに」
P「泣き虫になったんじゃないか?」
まゆ「むっ、そんなことないですよぉ。これは嬉し泣きですから」
P「そうか」
まゆ「そうです」
P「……」
まゆ「ひょっとして納得できませんか?」
P「いや、正直言うと……あのときの女の子がまゆだったって、実感がわかなくて」
まゆ「……じゃあ思い出させてあげます。ちょっと向こう向いてください」
P「こう?」
まゆ「……お兄ちゃん」←背中にぴとっ
P「おうっ!?」
まゆ「どうですか、あのときのおんぶと同じでしょう? これで実感わきましたよね?」
P「あー……」
P「……いや、ダメだな。だってあのときは無かった膨らみがある」
まゆ「も、もうっ、えっち!」///
まゆ「じゃあいいですよ、ちゃんと実感わくまでお兄ちゃんって呼びますから」
P「その必要はないよ、完全に実感わいた」
まゆ「えぇー……」
P「なんでがっかりするんだよ」
まゆ「お兄ちゃんって呼ばれるの嫌ですか?」
P「変な誤解を招きそうな気がする……」
P「あ、でも実感わいたのは本当だから」
P「その柔らかい言い方、まさしくあのときの子だって分かったよ」
P「大きくなったなぁ」
まゆ「ふふ、おじいさんみたいですよ?」
P「あれ? ってことは……まゆにアイドル目指すきっかけ与えたのって俺なのか?」
まゆ「あ……そうですね。なんだかスゴイです」
まゆ「実は小さい頃からプロデュースされてたなんて……」
まゆ「やっぱりPさんは、まゆだけのプロデューサーさんですね」
まゆ「あーあ、もっと早く分かってたら思い出の夏祭りに行けたのに」
P「今年はもう終わってるか……来年は絶対一緒に行こう」
まゆ「本当ですか!? 約束ですよ?」
P「ああ、約束する」
まゆ「Pさんと一緒に……ふふ」
まゆ「そういえば……Pさんはあの日、家族と一緒に?」
P「いや……友達と」
まゆ「……本当に友達ですか?」
P「なんで?」
まゆ「特に理由は無いです。しいて言えば女の勘です」
P「女の勘すごいな……まあ、友達で間違いはないんだけど」
P「正確に言うと、特に仲の良かった女の子だったんだ」
まゆ「まゆと会ったときは、その人いなかったですよね?」
まゆ「恋人……だったんですか?」
P「だから友達だって。祭りの最中に告白したけど振られたんだ」
P「仲は良かったんだけど、ほかに好きな人がいたらしい」
P「そのまま一緒にも居づらくて、一人帰る途中でまゆに会ったんだよ」
まゆ「当時のPさんには悪いですけど、そのとき振られなかったら、今こうしていなかったかもしれませんね」
まゆ「Pさんを初めて見かけたとき……あっ、小学生の頃じゃなくて、ですよ?」
まゆ「初めてのような気がしなくて、これが運命の出会いなのかも、って思ったんです」
まゆ「実際初めてじゃなかったわけですけど……」
まゆ「やっぱり小さい頃の出会いがあったからこそ、運命を感じたんだと思います」
P「まゆは運命って好きだよなぁ」
まゆ「ふふ、だって素敵じゃないですか。運命の出会いって」
まゆ「初恋の人が今大好きな人で」
まゆ「アイドルを目指すきっかけを与えてくれた人が今私をプロデュースしている」
まゆ「どう考えても運命ですよ」
まゆ「そのお話をまゆの誕生日に聞けたのも、きっと運命です」
まゆ「とっても素敵な誕生日プレゼントになりました」
P「あっ、そう? じゃあせっかく用意したけどプレゼントいらない?」
まゆ「ええっ、そんな!?」
P「ははは、冗談だよ」
まゆ「むぅ……開けていいですか?」
P「どうぞ」
まゆ「わあ、ネックレス。綺麗……」
まゆ「この宝石2つって……」
P「まゆと俺の誕生石だよ」
まゆ「じゃあこっちがPさんですね」
P「ひょっとして誕生石知ってた?」
まゆ「知りませんけど、上に配置されてますから」
P「……なんで上だと俺なんだ? 単純に年上だから?」
まゆ「いえ。だってPさん……」
まゆ「上になる方が好きでしょ?」///
以上で終了です
まゆ誕生日おめでとう!
乙!!!
「やって」しまった後なのかそうでないのか
それが問題だ
ピロートークかな?
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