勇者「勇者なのにハゲてしまった」(18)


魔王「余の術を頭にくらってなお、立ちあがるか」

勇者「この程度でやられるわけないだろうが」

姫「いえ、思いっきりやられてます」

勇者「え?」

姫「髪の毛を、ごっそりと」


勇者「オレの髪が消えた、だと……!?」

魔王「いや、あるにはあるぞ。しぶとく頭にくらいついてる髪が」

姫「だけど……」

魔王「ああ。吹けば消えること確実。風前の灯のようだ」

姫「わ、わたくしをかばったせいで……」

勇者「あ、あああぁぁ……」



勇者(今思えば、オレの人生はこの瞬間に狂ったんだと思う)


◆一ヶ月後


僧侶「わたしたちは、どうして地下牢に幽閉されたのでしょうか?」

勇者「オレが聞きたいよ」

僧侶「では、僭越ながらわたしの予想を言わせていただきます」

勇者「どうぞ」

僧侶「勇者さまがハゲてるから」

勇者「……」


勇者「……たしかにハゲてるよ、オレは。ええ、ハゲてますよ?」

勇者「でもこれは名誉のハゲなんだぞ!」

僧侶「たしかに。身をていして姫様をかばった結果ですからね」

勇者「なのに、この村の連中ときたらっ!」

勇者「勇者って名乗った瞬間、手錠かけて地下牢にブチこむなんて……!」

僧侶「牢屋に入れるまでの流れがあざやかで、驚きましたね」


勇者「アレか!? 勇者なのにハゲてるからか!?」

勇者「ハゲって罪か!?」

勇者「だからオレをこんな場所にぶちこんだのか!?」

勇者「だったらもう一度言うぞ! オレのハゲは名誉のハゲだ!」


僧侶「結局、姫様はさらわれましたけどね」

勇者「……まあ、そのとおりなんだけど」

僧侶「とりあえず落ち着いてくださいまし」

僧侶「下手に騒いでストレスをためると、残っている髪まで抜けますよ?」

勇者「……うい」


勇者「そうだな。今はハゲのことを気にしても仕方ない」

僧侶「さすが勇者様。いい意味で開き直るのが早い」

勇者「あったぼうよ」

勇者「それに戦士と魔法使いは、村の連中を上手にまいたんだ」

勇者「いずれはアイツらが助けにくるだろ」

僧侶「ええ。脱出の好機は、一時間もしないうちに訪れるでしょう」

僧侶「せっかくなので、今のうちに勇者様に聞いておきたいことが」

勇者「なんだよ?」

僧侶「頭に回復系の魔術、使わなかったんですか?」

勇者「……………使ったよ」

僧侶「使ったんですか」


勇者「ありったけの魔術をふりかけてもらったんすよ」

僧侶「どなたに?」

勇者「国直属の賢者」


僧侶「賢者の回復魔術をあびた人間は」

僧侶「天へとのぼる階段から、転げ落ちるとさえ言われてますけど」


勇者「オレの頭には効かなかったよ」

僧侶「まあ、ハゲって言ってみれば毛根が死んでる状態ですからね」

僧侶「どんな魔術を駆使しても、死は覆らないってことですね」

勇者「言っとくが。まだオレはあきらめてないぞ」

蘇生呪文ならどうだ?


勇者「オレはこの旅で、必ず髪の毛を取り戻す手段を見つけ出す」

僧侶「魔王をたおすという、本来の目的。忘れないでくださいね」


魔法使い「そうだよ、勇者」


勇者「……魔法使い、いつの間に?」

魔法使い「戦士がうまく見張りを誘導してくれてね」

魔法使い「そのスキをついて、こっそり侵入したってわけ」

勇者「なるほど。で、理由はわかったのか?」

魔法使い「なんの?」

勇者「なんでこの村の連中が、オレらを捕まえたのか」

魔法使い「理由はあとで話すわね。まずは、ここから脱出しないと」

その道の達人の、波○さんに聞くとか。


僧侶「勇者様、脱出の前にこれを」

勇者「なにこれ?」

僧侶「バンダナです」

僧侶「勇者様の頭は目立ちすぎるので」

勇者「……」

僧侶「いい意味で、ですよ?」

魔法使い「うんうん。あたしもつけたほうが、いいと思う」

勇者(なぜだろう。素直にこれをつけたいと思えない)





勇者「意外と簡単に脱出できたな」

僧侶「今が夜であることが幸いしましたね」

魔法使い「ちがうよ。バンダナのおかげだよ」

勇者「うるせえわ。それより、オレたちがしょっぴかれたワケは?」

魔法使い「ここの村、ほとんどの子どもがいなくなってるの」

僧侶「子どもがいない? なぜ?」

魔法使い「予想だけど、たぶん、魔物にとらわれてる」

勇者「じゃあ、ひょっとして……」

魔法使い「うん。子どもを人質にとられて、
      魔物の言いなりになってるんだと思う」


僧侶「村の大人たちは、魔物の言いなりってことですね」

勇者「そしてその魔物の命令でオレをとらえようとした、と」

魔法使い「頭が理由で捕まったんじゃないからね、安心してね」

勇者「わかってるっつーの」

僧侶「そうだとすると、その魔物は魔王の手先でしょうか?」

魔法使い「ピンポイントで勇者を狙ってきてるあたり、その可能性は高いね」

魔法使い「それから、人質の子どもは村のはずれに隔離されてるみたい」

勇者「だったら二手にわかれる必要があるな」

つづく

ハゲ乙

ハゲやめーや

闇堕ち待ったなし

保守

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