魔王「もし儂の味方になれば、有給をやろう」 勇者「ゆうきゅう」 (37)



魔王♂「ふふふ、様式美に則るならば『世界の半分を』と言いたいところだがな」


勇者♂「世界の半分だと!?そんなものになびく俺ではない!」


魔王「いや『世界の半分』については、ほんの軽口だ。本気にしないでくれ」


僧侶♀「初めて言葉の通じる魔族に出会ったと思ったら、さっそく私たちを籠絡するつもりですか!」


僧侶「言葉さえ通じれば、分かり合える・・・そう信じていた、私の考えは甘かったのですね!」


戦士♂「ところで、『ゆうきゅう』ってなんだ?魔法使い」


魔法使い♀「わ、わたしに聞かないでよ!」


僧侶「意味は分かりませんが、なんと魅惑的な響きなのでしょうか・・・」


勇者「ゆうきゅう・・・そうかっ!」


勇者「魔王を打ち滅ぼさんがために、世界を旅してきた勇者パーティーである俺たちに」


勇者「与えられるものは、悠久の時・・・」


勇者「すなわち『死』である・・・そう言いたいんだな!魔王よ!」


魔王「いや違う、そうじゃない」

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魔王「すまぬ・・・側近、説明をしてやってくれ」


側近♀「仰せのままに、魔王様」


側近「一言で申しましょう、有給休暇とは給料のもらえる休暇の事です」


戦士「うーん!わからん!」


魔王「もちっと、詳しく説明してやれ」


側近「つまりですね、一日仕事を休んだとしても、一日分の給料を差し上げますよってことです」


魔法使い「魔王軍に入ったら、その有給がもらえるってこと?」


僧侶「ま、魔法使いさん!」


魔法使い「ちょっと、聞くだけよ」


魔王「とりあえずは、半年毎に10日。あとは勤務年数によって随時増えていく」


勇者「俺たちは勇者だ!勇者とは仕事ではない、勇者とは心のありよう!」


勇者「そもそも俺たちは王国から雇われているわけではない!ただ世界平和のために貴様を打倒さんとするのだ!」



勇者「そんな俺たちを、そのようなもので籠絡しようとは笑止千万!語るに落ちたな魔王よ!」


魔王「ん・・・儂の持っている情報とは違うな」


側近「変ですね・・・」


側近「勇者殿は、王国に雇われているわけでないと申されましたね?つまり給与も、もらっていないと?」


勇者「もちろんだ!俺は傭兵ではない!」


側近「他の皆さんも同じですか?」


戦士「ああ、そうだ」


魔法使い「ええ」


僧侶「あ、わたしは教会に所属しているので、そっちで貰えてるはずです」


魔法使い「え?そうだったの?」


僧侶「ええ、ただ旅の間は受け取りにいけないですから、銀行の預かり口座に入金されているはずです」


魔王「ならば、この魔王城まで如何にしてやってきたのだ?路銀は、どうしたのだ?」



勇者「そんなもの魔物を狩って稼ぎながら来たに決まっているだろう!」


戦士「まあ、飯はそのへんの食える草を食ったりしてたし、宿もとらずに野営ばっかりしてたしな」


魔王「な、なんと・・・・痛ましい」


魔法使い「時には村を襲った魔物を倒し、お礼としてお金をもらったこともあったわね」


魔法使い「あの時は、久々のベッドに思わず感涙しちゃったわよね」


僧侶「そ、そうでした、あの時の村は魔王の放った魔物に恐怖していました!」


僧侶「みなさん、私たちはまんまと口車に乗せられています!私たちがするべきことは、魔王と語らうことではありません!」


魔王「まあ待て、まあ待て。魔物と言っても、全てが儂の指示で動いているわけではない」


勇者「責任逃れをする気か!?」


側近「事実です。だいたい言語を解する魔族は少数ですからね、私たちが従えているのは、ほんのわずかです」


側近「意思疎通ができない魔物は、獣といっしょですよ。そこまで責任を追及される謂れはありません」


戦士「そうだったのか・・・」



魔王「話を戻そう。儂らの情報では、『勇者』は一事業として予算が組まれ王国議会でも承認されている」


側近「予算額は、50万ゴールド。勇者をサポートする行政部署も新設されるほどですから、王国の本気度が伺えますね」


勇者「そんなもの、貰った覚えはないし!サポートを受けた覚えもない!」


戦士「支給されたのって・・・こん棒と薬草と・・・」


魔法使い「50Gだけだったわね・・・」


側近「・・・現場に支給が行き渡っていないなら、つまるところ新設された部署に流れているか」


魔王「誰かの懐に収まったか・・・だな」


勇者「・・・そうなのか」



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大臣「ぶえっくしょん!」


王「お、大臣、風邪か?うつすでないぞ」


大臣「いえ、どこかで噂されているのかもしれません・・・」


王「ほっほっほ、もてる男はつらいのお」


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僧侶「ま、待ってください皆さん!私たちは金額に惑わされているだけです!」


僧侶「勇者とは心のありようでしょ!?お金に目がくらんで平和を裏切るんですか!?」


魔法使い「・・・一人だけ給料もらってる人に言われてもね」


僧侶「だいたい、魔王の情報が正しいとも限りません!」


戦士「まあ、確かにそうだな」


勇者「魔王!その情報元を明かしてみろ!俺たちは、そう簡単には騙されないぞ!」


魔王「側近、持ってこい」


側近「既に」


側近「こちらが、今年度の王国予算の写しです。あと新設部署と勇者一行に関する組織図等です」


魔法使い「王国議会の承認印、日付、議長の署名・・・本物の写しのようね」


戦士「お、俺たちのパーティー構成や技、出自まで記載されていやがる!」


勇者「な、なぜそんなものが!」



側近「いえ、普通に情報公開制度を利用して役所に発行してもらいました」


魔王「写しをもらうのに、多少金がかかったがな・・・」


戦士「国が、俺たちを売ったってことか・・・?」


側近「い、いえ、通常の手続きで貰えるんですけど・・・」


勇者「・・・一体いくらだ」


勇者「いくら金を積んだんだ!王国民は善良な人々とは言え、皆が欲望に抗えるわけではない!」


勇者「多少金がかかったと言ったな!言え!いくら掛かったんだ!!!」


魔王「・・・発行手数料で50Gほどだ」


魔法使い「いやああああああああああああああああああああああ!!」


勇者「うわああああああああああああああああああ!50G!たったの50Gで俺たちは売られたのか!!!」


戦士「な、なんてことだ・・・」


僧侶「落ち着いてください!ごく普通の手続きです!王都に居れば、誰でも手に入る情報です!」



僧侶「!」


僧侶「そうです、これらの情報は王都に魔族が潜入している証ではありませんか!王都の危機ですよ皆さん!」


側近「いえ、王都には普通に数百の魔族が暮らしていますよ」


勇者「な、なんだと!」


魔法使い「ど、どういうこと!?既に王都は魔族に占領されてしまったっていうの!?」


魔王「お、お主らは何も知らんのだな・・・」


側近「言ってしまえば、組織の最末端・・・いわゆる鉄砲玉みたいな扱いだったのかもしれませんね」


魔王「ま、まあ、単独でここまで来るんだ力はあるし、何よりその名声に期待をしよう」


勇者「ま、まだ!貴様らに与すると決めたわけではないぞ・・・っ!」


魔王「まあ、もう少し話を聞け。王都に魔族が暮らしている理由だったな、側近頼む」


側近「近年、我が魔族も文化というものに興味が湧いてきてですね、まあ特に魔王様がですが」


魔法使い「文化?」



側近「ええ、人間たちの絵画や彫刻といった芸術や、音楽、料理、服飾、その他もろもろです」


側近「ただ、文化を取り入れるには多大に金がかかる」


側近「そこで私たち魔族は、王国の技能実習生制度を用いて多くの魔族を王都に送り出しました」


側近「王都の魔族たちは、働きながら文化を学び、数年後には魔王城に帰ってくる予定です」


魔王「本当は、儂自身が行きたかったのだが・・・残念なことに魔王城は強力な結界で封印されていてな」


魔王「儂は、この魔王城から出ることが叶わぬのだ」


魔王「先代の勇者め・・・死して尚、儂を苦しめるとは・・・」


側近「先ほどの情報は、王都にいる魔族に連絡をとって、仕事の合間に役所に行ってもらったのです」


戦士「そ、そんな制度があったのか・・・知らなかった・・・」


勇者「だが、俺は王都で魔族を見たことはないぞ・・・?」


側近「まあ、姿かたちは私たち同様、人間と大して変わりませんから」


戦士「勇者!」



戦士「あのパブにいた、角と羽の生えた娘!もしかして魔族だったのかも!」


勇者「ちょっと肌が青い娘も居たな!そうか、てっきり店の趣向かと思っていた!」


魔法使い「・・・ちょっと、その話知らないんだけど?いったいどんな店に通ってたの・・・?」


戦士「い、いや!ななななんでもない!!!」


勇者「・・・なるほど、魔王の話は事実らしいな」


勇者「だが、それすらも貴様らの王都壊滅の企みだと否定できない!」


勇者「現に、俺たちは貴様らが次の春に王都を襲撃するという情報を大臣から聞かされている!」


魔王「・・・春だと?」


側近「それって『春闘』のことかと」


勇者「ほら見たことか!春に闘うだと!」


魔王「ああもう!面倒くさいやつらだ!」


側近「我ら魔族は、文化に限らず人間の経済についても疎くてですね」



側近「年々、学習を進める中で、我ら魔族に支払われている賃金が不当に低いことが最近わかりまして」


側近「王国に是正を求める運動を開始したのです。春闘とはその一環で、団結して王国側と交渉しようとしているのです」


戦士「武力をもって戦うわけではないと?」


側近「もちろん・・・。ただ、こうして魔王様を討つために勇者を派遣している以上、王国側にその意思はないようですが」


魔王「そこでだ、勇者よ」


魔王「お主もまた、不当な賃金で働かされている者の一人として、儂らと共に共闘してほしいのだ」


魔王「名声もあるお主なら、王国に賃金是正の風を巻き起こすことができるであろう!」


勇者「・・・魔族が純粋たる悪ではないということはわかった」


僧侶「・・・勇者様」


勇者「だが、俺には国王には義理もある・・・あの方は、俺にとって父親のような存在・・・」


勇者「裏切ることはできん!」


戦士「よく言った勇者!俺はお前についていくぜ!」



魔法使い「リーダーは勇者だもんね!私も勇者に従う!」


僧侶「もちろん私もです!」


魔王「父親のような存在か、まあある意味そうかもな・・・」


勇者「意味ありげだな・・・?」


側近「こっちの資料によると、勇者様は旅の途中で侯爵家の娘と御結婚をされていますね」


僧侶「結婚!?どういうことですか勇者様!いつの間に!!!」


勇者「なななななんだとっ!ししし知らんぞ!どういうことだ!」


魔王「やはり、お主の知るところではなかったか」


側近「まあ、普通に考えれば政略結婚でしょうねえ」


魔王「父親のような存在なのだろう?親が勝手に結婚を決めても、問題はあるまい」


勇者「まままままあ、国王がそうしたと言うのなら・・・し、従うしか・・・」


僧侶「そ、そんな!困ります!」



勇者「ち、ちなみに侯爵家の娘って、どんな感じ?」


側近「美人で有名ですよ」


勇者「な、ならば従うしかあるまい・・・?」


戦士「露骨だな勇者・・・」


魔法使い「見損なったわ・・・」


僧侶「ゆ、勇者さまぁ・・・」


側近「御年50幾つ、妙齢のご婦人です」


勇者「王うううううううううううううううううううううううううううううううっ!!!!」


勇者「許さんっ!絶対に許さんぞぉおおぉおおおぉおぉおぉおおおお!」


戦士「50の婆か・・・どこが妙齢なんだ・・・」


側近「私たち魔族にとっては若すぎるぐらいですけどねえ」


勇者「に、人間どもめ!人間どもめええええええええええええええ!!」



勇者「魔王は悪であると、人間よがりの知識を俺に植え付け!あまつさえ俺たちの50万ゴールドを横領し!!」


勇者「俺たちの情報を、わずか50Gで魔族に売り渡した上に!!」


勇者「なにより!この俺を50の婆と結婚させただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


魔王「お、おお・・・ならば・・!」


勇者「・・・!」


勇者「魔王様・・・いえ!社長!なんなりと御命じ下さい!」


戦士「ま、聞く限り王国の仕打ちは酷すぎるしな、ちょっと不安だが勇者についていくぜ」


魔法使い「魔王討伐後は、王国に研究職に取り立ててもらえる予定だったけど・・・まあこっちで就職するのもいいか」


僧侶「勇者様を政争の具にするとは!許せません!私もずっと勇者様の御傍にいます!」


魔王「ふはははは!頼もしい限りだ!勇者よ、さっそく王都に戻り!啓蒙活動に勤しんでもらおうぞ!」


勇者「お任せください!」


魔王「だが・・・」





魔王「もう5時だ!今日はもう帰ってよい!」




有給休暇の誘惑に抗うも、王国の非道の行いに怒り


魔王と手を結び、巨悪と戦うことを誓った勇者一行


勇者一行の正義の戦いは、まだまだ終わらない


ただし就業時間内には、いったん終わる

おわりです。お先に失礼します。

>勇者「許さんっ!絶対に許さんぞぉおおぉおおおぉおぉおぉおおおお!」

>勇者「に、人間どもめ!人間どもめええええええええええええええ!!」

ここ最高に悪役

前作もこの作品も面白かったです
よろしければどうやってストーリーを作っているかなど教えて頂けないでしょうか
よろしくお願いします

>>32
言わせたい台詞とやりたい場面だけ考えて、あとは後付けでストーリを取り繕ってます。

トリップでググってもらえれば、出てくると思います。

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