モバP「安価でアイドル候補生スカウトの旅」 (126)

 
20XX年、○月×日——

俺ことPは、部屋で荷物を整理していた。

ちょっとしたミスから社長の不興を買った俺は地方へ左遷されることとなり、
アイドル候補生をスカウトするまで東京に帰ってこれないのだ……。



P「……っと。これで大体片付いたな」ドサッ

P「……まさか、宴会で社長の物真似を披露したくらいで左遷されるなんてな……」

P「ちひろさんが庇ってくれたけど力及ばず……あんなすまなさそうな顔したちひろさん、初めて見たな」

P「……ともあれ、これから>>3で新生活か……」


>>3
1.横浜
2.千葉
3.埼玉
4.大阪
5.京都
6.神戸
7.広島
8.福岡
9.名古屋
10.北海道
11.仙台
 

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2

5

 
○月△日——

俺は京都での新居への引っ越しを終えた。

京都に来るのは高校の修学旅行以来だ。
いつかまた個人的に行きたいと思っていたが、
まさかこんな形で来ることになるとは予想だにしていなかった。



P「まっ、気持ちを切り替えてスカウトに勤しむか!」

P「有望そうな子をスカウトしてくれば社長も許してくれるに違いない。そうすりゃ東京に帰れる」

P「さあて、誰かよさそうな子はいないかなっと」

 
 
 
1.塩見周子

2.及川雫
3.関裕美
4.浜口あやめ
 

安価は>>7

何故紗枝ちゃんがいないのか踏み台

 
○月□日——

京都に来てから数日。
何度も警察に通報されそうになりながらも、俺はスカウトを続けていた。
しかし、なかなか「これは」という子に巡り合えずにいた。

こっちでの暮らしにそれなりに慣れてきた頃、俺にも新しい友達ができた。

 
 
 
P「よーし、あやめ! 今日は伝説のカラテ技、サマーソルト・キックを見せてやる!」


あやめ「おお! 流石はカラテチャンピオンのP殿! お見事にございます!」



今日も俺は、浜口あやめちゃんとニンジャごっこをして遊んでいた。
 

 
P「ふぅ……久しぶりに全力でサマーソルトしたなぁ」

あやめ「ふふっ……P殿、あまりご無理をなされませぬよう」

P「なんのなんの、俺だってまだ若いんだぞ」

あやめ「P殿ほどの武芸者とはいえ、無理は禁物ですよ?」

P「ん……まあ、そうかもな。アイドル候補生のスカウトもまだできてないわけだし」

あやめ「そういえば、P殿は芸能事務所のプロデューサーでしたね」

あやめ「……それなのに、わたくしと遊んでいてよろしいのですか?」
 

  
P「こういう時は焦っても仕方ないもんさ……なるようになる」

P「いずれ巡り合えるよ。アイドルに相応しい子に」

P「そもそもあんな小さなことで怒る社長が悪い! 器が小さすぎる!」

あやめ「宴席で社長の物真似を披露して、社長の逆鱗に触れて左遷されたとおっしゃっていましたが……」

P「くそう、あの物真似でドッカンドッカン笑いを取れてたのに! 俺の人生の絶頂だったのに!」

あやめ(なんとしょうもない絶頂……)

P「……でもまあ、それがきっかけであやめと知り合えたんだから、人生万事塞翁が馬ってやつだな」
 

  
あやめ「……では」

P「ん?」

あやめ「ではP殿の目から見て、あやめはどう映っておりますか?」

P「なに、お前アイドルになりたいの?」

あやめ「い、いえいえ。でも私としては、忍者としてなかなか様になっていると自負しておりますゆえ」

P(どう贔屓目に見ても単なるコスプレだけどな)

あやめ「むっ、なんですかその冷めた目は!」

P「いやいや、似合ってると思うぞ。とりあえず忍者としか形容のしようがない程度には」
 

 
P「……いやでも、考えてみれば忍者アイドルってのも悪くないかもなぁ」

P「あやめ。お前、アイドルやってみないか?」

あやめ「う……しかし、わたくしは忍者であるからして、目立つのは」

P「いやいや、これでも結構行けそうだと思ってるんだよ。役になりきる演技力はありそうだし」

あやめ「そ、そうですか?」

P「声も可愛いしスタイルもいいし、時代劇好きっていう渋い趣味もいいな」

あやめ「そ、そんなに褒められても何も出ませんから!」

P(かわいい)
 

 
P「ははは、まあ考えといてくれよ。もし興味が湧いたらいつでも言ってくれ」

P「そうすりゃ俺も東京に帰れるしな……」

あやめ「……やはり、P殿は東京に帰りたいのですか?」

P「そりゃあな。ここもいいところだけど、やっぱり住み慣れた場所が一番だし」

P「スカウトをするのは仕事だからって以上に、早く帰りたいからだしなぁ……」

あやめ「主君の命に従うのが忍びの掟とはいえ、P殿も大変ですね」

P「ああ……なんか忍びっていうか何でも屋みたいなもんだけどな……」
 

 
○月▽日——

 
 
 
あやめ「私がアイドル、か……P殿はどこまで本気なんだろう」テクテク


あやめ「興味が湧いたらいつでも、と言ってたけど……」

あやめ「……」

あやめ「……アイドル、かぁ」
 

 
公園



P「よっ、あやめ。今日は制服か」

あやめ「こんにちは、P殿! あやめは学校帰りにございまする」

あやめ「……ところでP殿は毎日この公園におりますが、お仕事の方は」

P「……聞くな。察しろ」

あやめ「あっ……(察し)」
 

ちょっと中断

 
P「でも制服のあやめも可愛いよな。どうだ、やっぱり俺にスカウトされてみないか?」

あやめ「そ、その件についてはもうしばらく考えさせてくだされ」

P「そっか……まあいいや。で、今日は何して遊ぶ? カラオケでも行くか?」

あやめ「いえ、今日はひとつ見て頂きたい術があります!」

P「術?」

あやめ「よく見ていてください。この日常のいでたちからドロンと変化いたします!」

P「おおっ、なんか凄そうだな!」
 

 
あやめ「忍法、早着替えの術! ニンニン!」

バサァッ

あやめ「浜口あやめ、参ります♪」

P「バ、バカな!? マジで瞬きする間に制服から忍者装束に!?」

あやめ「ふふん、どうですかP殿! 駆け抜けること風のごとき早着替えの術です!」

P「こ、これはマジで凄いんじゃないか……? 一体どうやったんだ」

あやめ「それについては忍者のトップシークレットでありますゆえ」
 

  
P「あやめ、もう一回! もう一回やってみせてくれ。アンコール! アンコール!」

あやめ「ふふふ、そこまでおっしゃられるのであれば致し方なし。では刮目してご覧あれ!」

あやめ「浜口あやめ、舞い忍びます!」

バサァッ

P「おおっ! やはり目にも留まらぬ早業で服が脱げ、別の姿に……」

P「別の姿に……」

P「……別、の……?」

あやめ「? どうなされました、P殿……って……」



あやめ・P「きゃあああああああああ!?」
 

 
あやめ「ってなんでP殿も一緒に叫ぶのですか!?」

P「バ、バカ! なんで全裸なんだよ! それじゃ早脱ぎの術だろ!」

あやめ「し、下に衣装を仕込んでないのを忘れてて……ダ、ダメですっ! 見ちゃダメっ!」アタフタ

P「と、とりあえず服着ろ! 人が来る前に!」アタフタ

あやめ「あ、あうぅぅ……」カァァァ

P「ほら、とりあえず俺の上着をかけて……」

 
 
 
警官「君達! そこで何をやっているのかね!」


P「\(^o^)/」
 

  
○月◇日——

俺はおまわりさんに無実を訴えたが、そりゃ白昼堂々全裸の女子高生と一緒にいたら
何か猥褻な行為をしたのだろうと疑われるのも無理からぬ話であって。

結局俺は連行され、留置場で夜を明かすという初めての体験をした……。

 
 
 
警官「これからは外でそういうプレイはしないでね、まぎらわしいから」


P「うるせぇバカ野郎! 誤認逮捕だ! 人権侵害で訴えてやる! 弁護士を呼べ!」

警官「あぁ? 京都府警を甘く見るなよ若造」

あやめ「P殿、落ち着いて!」
 

 
P「まったく、ろくに確認もしないで連行だなんて日本の警察はどうなってやがる」

あやめ「いえ、あやめが迂闊だったのが悪いんです。P殿にウケたのが嬉しくて、つい調子に乗って……」

あやめ「P殿、本当に申し訳ありませんっ」ペコッ

P「いいんだよ。あやめがちゃんと証言してくれたおかげで出てこれたし」

P「でもあの術は凄いな。ああいう特技があればバラエティでもウケそうだし……」

あやめ「また、アイドルの話ですか?」

P「あっ、ごめん。つい……」
 

 
あやめ「P殿はいつでもアイドルのことを考えておられるのですね」

P「その言い方だと俺が熱烈なアイドルオタクみたいにも聞こえるけど……まあ、仕事だしな」

P「いや、俺自身、アイドルが大好きだからってのもあるな。だから考えずにはいられないんだ」

P「ステージの上でキラキラ輝いてるアイドル達を支えるのが、俺の誇りだからな」

あやめ「……なんと言いますか。P殿はご立派な方です」

P「よせやい」

あやめ「いえいえ、御謙遜なさらず」
 

 
あやめ「そういう風に自分のやりたいことに向かって一直線に頑張ってる人は素敵だと思います」

あやめ「恥ずかしながらあやめは、高校に進学したはいいものの、進路のことも考えておりませんでしたし」

あやめ「自分が何をやりたいのか、何になりたいのか。いまだ五里霧中の心持ちです」

P「それくらいの歳だったらみんなそんなもんだよ。俺だってそうだったさ」

あやめ「P殿にもそういう時期が?」

P「ああ。思い返せばくだらないし悲しいし恥ずかしいし」

P「……でも、最高に楽しかった。それは確信を持って言えるな」
 

 
P「だからあやめも、どうすれば一番楽しくなるかを考えればいいさ」

あやめ「楽しい……ですか」

P「ああ。結果がどうあれ、多分それが一番いい選択肢なんだ。少なくとも俺はそう思うよ」

あやめ「……」

あやめ「ありがとうございます、P殿。なんだか道が見えたような気がします」

P「そりゃよかった。じゃ、俺は引き続き女の子をスカウトしてくるから」

あやめ「今度は通報されぬよう、お気をつけて」

P「わかってるわかってる。それじゃあな」ヒラヒラ
 

 
あやめの家



あやめ「……」

あやめ「……どうすれば、一番楽しいか……かぁ」

あやめ「……」

あやめ「……はぁ」

あやめ(……P殿は忍者が好きって言っても子供っぽいって笑わなかったし)

あやめ(それどころか、一緒になって忍者ごっこして遊んで)

あやめ(むしろP殿こそ一番子供っぽいんじゃないかってくらいで)
 

 
あやめ(でも……)

あやめ(……楽しかった)

あやめ(学校の友達とか、男子とか……周りにいる人達とはまた違った楽しさだった)

あやめ(だから、毎日P殿のいる公園まで足を運んで)

あやめ(早着替えの術を披露してはしゃいじゃったりして)

あやめ(結果的には……あ、あんな失敗しちゃったけど……)カァァァ

あやめ(……)
 

 
——————————

P「ねえ、ちょっと君、アイドルに興味はない?」

P「え、いや、怪しい者じゃないって。芸能プロダクションの者なんだけど」

P「ふむふむ……へぇ、忍者が好きなのか」

P「いや、わかるよ。俺も子供の頃は割と本気で忍者になりたいと思ってたもん」

P「そうそう、ジャンプ力を鍛えるために苗木を植えて……いやぁ、わかってくれるか!」

P「ああ。カッコいいもんな!」



P「俺はP。君の名前は?」
 
——————————
 

 
あやめ(……何が一番楽しいか)

あやめ(……)

あやめ「……」

あやめ「……そんなの、最初からわかってることだったんだ」
 

 
○月▲日——

あやめがアイドルになりたいと言ってくれた。

声をかけた女の子達からなかなか色よい返事を貰えず、
どうしたものかと考えていた矢先のことだった。

 
 
 
P「本当か!? あやめもアイドルに興味持ってくれたんだな」


あやめ「はい。これからアイドルを志す者として、何卒よろしくお願い申す」ペコッ

P「これから忙しくなるぞ。親御さんへの挨拶とか細かい手続きとかあるしな」

 
   
本社に連絡を入れると、向こうもまさか数日でアイドル候補生のスカウトに成功すると

思っていなかったのか、電話に出たちひろさんも驚いていた。

ともあれ、これで本社へ凱旋というわけだ。
  

  
P「……ところで、あやめはどうしてアイドルになるって決めたんだ?」

あやめ「昨日、よくよく考えたのですが……やはりあやめは、P殿と共にあるのが一番楽しいのです」

あやめ「わたくしにとって一番楽しい道は、P殿と共にある道だと思えたから、そう決めたのです」

P「……そっか」

P「俺も、あやめといると楽しいからな。そう言ってくれると嬉しい」

あやめ「忍びは主君に仕え、尽くす者でありますが……あやめはP殿と志を同じくし、共に往きたいと思います」
 


あやめ「共に真のアイドルを目指しましょうぞ、P殿!」
 

お気づきの方もいらっしゃるかもわかりませんが、>>4で提示した4人は
お仕事の京都エリアで初登場した4人です
エリアボスと衣装レアとお仕事で出現するアイドルってわけですね

なので、京都出身ではありますが初出がガチャの紗枝はんは選択肢になかったわけです

 
○月◎日——

 
 
 
ちひろ「おはようございます、プロデューサーさん」


P「おっ、ちひろさん。すいませんね、わざわざこんなところまで来てもらっちゃって」

ちひろ「いえ、こちらも大事な用があってのことですから」

 
 
 
京都での住まいを引き払い、東京へ戻る日のこと。

本社からちひろさんが寄越され、諸々の手続きの手伝いをしてくれることになった。
 
あやめは一足先に東京へ行き、我が社の所有する女子寮へ入寮することになっている。

社長の怒りも鎮まり、俺も晴れて本社へ復帰というわけだ。
 

 
ちひろ「それにしても物が少ないですね」

P「まあ、仮の住まいみたいなもんですから。さっさと本社に戻りたいって思ってましたし」

ちひろ「社長もプロデューサーさんのこと褒めてましたよ。思ったより有能だって」

P「ははは……それじゃあ、行きますか。新幹線のチケットは手配してくれてるんですよね?」

ちひろ「あっ、待ってくださいプロデューサーさん」

P「はい?」

ちひろ「その前に、これに目を通してください」

P「? なんですか、コレ」

ちひろ「本社からの新しい辞令です」

P「え?」

  
 
 
ちひろ「プロデューサーさんにはこれから、>>36に行ってアイドル候補生のスカウトをしてもらいます」

 

1.横浜
2.千葉
3.埼玉
4.大阪
5.京都 (済)
6.神戸
7.広島
8.福岡
9.名古屋
10.北海道
11.仙台

京都以外からお選びください

2

10
北海道へ、いってらっしゃい

 
ちひろ「プロデューサーさんにはこれから、千葉に行ってアイドル候補生のスカウトをしてもらいます」

P「……は?」

P「えっ、いや、ちょっと待って? 千葉? 千葉行くって行ったか今」

ちひろ「新居の手配はこちらでやっておきました。住所等は辞令に添付してありますから……」

P「待ってくださいよちひろさん! おかしいですよね!? 俺ちゃんとスカウトしてきましたよね!?」



ちひろ「……プロデューサーさんが!」

ちひろ「報告書の隅っこに、社長の似顔絵なんて描いて送らなきゃこんなことにはならなかったんです!」

P「」

 
 
 
かくして、俺は本社へ帰ることを許されず——


新たなる赴任地、千葉へと向かうことになった。
 

ご愁傷様

>>41
1.浜川愛結奈
2.水木聖來
3.大槻唯
4.五十嵐響子
5.佐々木千枝
6.柳瀬美由紀
7.姫川友紀
8.相原雪乃

2

話ぶったぎって悪いけど頼子さんや清良さんなど親愛度ボーナス出身のアイドルはどうなるの?

7

>>42
多分出さないかなぁと
今回は東京(原宿〜池袋)以外の各エリアが初出のアイドルに限るので

ウサミンを期待してとっさに千葉を選択しちゃったけど
出ないっぽいのかな

なので>>32で言ったように、
例えば北海道出身の杏は初出がお仕事じゃないので北海道の選択肢に入りませんし、
仙台出身のまゆも仙台の選択肢に入りません(でも広島で選択肢に入る)

少々ややこしいかもしれませんがまあそんなもんだと思ってくだされば

さて、丁度新エリアが追加されたな

>>47
北海道Bで止まってる俺ンゴwwwww

夜に再開します

秘密のケンミンショーのドラマみたいになるのか

小須田部長ワロタ

かわいそうに
P殿といっしょにいたくてアイドルになったのに
P殿帰ってこねえ

 
○月●日——

千葉へ赴任して数日。
東京へ帰れると思っていた期待を裏切られ、俺はここ数日死人のような生活をしていた。

最初のうちは外へ出る気にもなれず、買い置きのカロリーメイトをサクサクする日々。
どうしてこんなことに——
落胆のあまりに生きる気力さえ失いかけていた。

しかし、いつまでも閉じこもっているわけにもいかない。
無為に過ごした数日を、休暇を取って英気を養ったのだと思うことにして、
俺はスカウトのため街へ出かけて行った。
 

 
P「前向きに考えよう。あやめをスカウトした功績はちゃんと評価されていたんだ」

P「この千葉でちゃんとアイドル候補生をスカウトしさえすれば、東京に帰れるはず」

P「何より、俺と一緒にトップアイドルを目指すと言ってくれたあやめのためにも」

P「さっさと東京に帰ってプロデュースに専念したいからな……」

P「……ん?」
 

 
橋を渡っていると、下を流れる川に何かが流れているのが見えた。

目を凝らしてみれば、それは小さめの段ボール。
そしてその段ボールの中には、茶色い毛並みの動物らしきものが入っていた。

俺は携帯と財布をズボンのポケットから取り出し、上着を抜いてネクタイを外し、
橋の歩道の上に放り出す。

そして、俺は叫んでいた。

 
 
 
P「アイキャンフラ—————————イ!!」

 

 
橋上から川に飛び込んだ俺は、ゆるやかに流れる川の水をかき分けながら
どんぶらこっこと流されていく段ボールへ取りついた。
そのまま段ボールを抱えながら岸へと辿り着き、ずぶ濡れの身体で川から上がる。

まったく、動物を川に流すとはとんでもない野郎もいたものだ。
俺が見つけたからいいようなものを。

義憤に駆られつつも、段ボールの中で丸まっている茶色の毛玉に目を落とすと、

 
 
 
なんとまあ可愛らしいテディベアが鎮座していましたとさ。

 

 
P「ぬいぐるみじゃねぇかッ! 誰だこんな悪戯したアホはッ!」



まあ一番のアホはまんまと引っ掛かって川に飛び込んだ俺であろう。

あまりの脱力感に、背筋に寒気が走り、大きなくしゃみが出た。
だいぶ暖かくなってきたとはいえ、全身ずぶ濡れになっていては風邪をひいてしまう。
帰って着替えるか? しかし、部屋から結構遠くまで足を伸ばしているし、
ずぶ濡れの状態で電車やバスに乗るのも憚られる。

どうしたものかと考えていると、川べりの遊歩道から声がした。
 

 
??「ねぇっ、君大丈夫? いきなり川に飛び込むからビックリしちゃった」

 
 
 
子犬を連れた女の子が俺の方へ駆け寄ってきた。

高校生くらいだろうか? 快活そうな雰囲気の可愛い娘だ。
しかしこんな平日の真昼間から犬の散歩とは。

 
 
 
P「いや、大丈夫。こっちにも色々事情があってさ」


??「ふ〜ん……つまりそのテディベアをレスキューしてたってわけ?」

P「なっ、ち、ちげーし! 別に引っかかったとかそんなんじゃねーし!」
 

 
??「いいのよ、隠さなくて。最近ここら辺の小学生の間で流行ってる悪戯なんだって」

P「最近のガキどもはなかなか手の込んだことをやりやがるな」

??「その子をわんこかにゃんこと見間違えたんでしょ?」

P「まあ、遠目からわかりづらかったしな……俺そんなに視力よくないし」

??「それにしたって、躊躇いなく川に飛び込むなんて、優しいのね」

P「よせやい……ああ、そうだ。この辺に銭湯か何かある?」

??「銭湯? うん、この先にお風呂屋さんあるけど」

P「すまないけど案内してくれないか。最近越して来たばかりでこの辺は全然わからないんだ」
 

 
??「う〜ん……まあ、いいかっ。動物が好きな人には悪い人はいないし」

P「そりゃどうも。ところで、自己紹介がまだだったな」

P「俺はP。こう見えても芸能事務所でプロデューサーやってるんだ」

??「プロデューサー? へぇ〜、偉い人なんだ」

P「いや、偉いというか……まだ若輩者だし、何でも屋がせいぜいだな。それで、君の名前は?」

??「アタシ?」

 
 
 
聖來「アタシは、水木聖來だよ。セイラって呼んでいいからね!」

 

今日はここまで

乙乙、聖來さん若く見えるよなー

おつおつ

 
○月■日——
 
千葉での暮らしにも慣れてきた。
東京が目と鼻の先にあるにも関わらず帰れないのは歯がゆい思いを禁じ得ないが、
それでも挫けずにいられるのは、この地でできた新しい友人のおかげだろう。

水木聖來。
ダンスが得意でわんこが大好きな彼女とは、川での一件以来すぐに仲良くなり、
街を歩いていると彼女が飼い犬の散歩をしているのによく出くわすようになった。
 

 
P「おはよう、セイラ」

聖來「あっ、プロデューサーさん! おはよっ!」

わんこ「わんわん!」

P「ははは、今日もわんこは元気だな」

聖來「プロデューサーさん、今日も昼間からブラブラしちゃって。まだいい子見つからないの?」

P「昼間からブラブラしてるのはお前もだろ。まあ、セイラが首を縦に振ってくれりゃあすぐなんだけど」
 

 
聖來「う〜ん……もうちょっと考えさせて?」

P「そうか? まだ迷っちまうものか」

聖來「千載一遇のチャンスだとは思うんだけどね。アタシ、ダンス以外はちょっと自信ないし」

 
 
 
聖來はダンサーを目指して都内のダンススクールに通っているという。

俺のスカウトに対してなかなかいい反応を見せてはくれたものの、
彼女自身が言うように、ダンス以外の分野に自信がないという理由で二の足を踏んでいるようだ。

しかし、俺としては彼女の人となりを気に入っているので、是非首を縦に振ってもらいたいと思っている。
 

 
聖來「それはそうと、今日もお願いできるかな? ダンスレッスン!」

P「ん? ああ、いいぞ。どうせ今日もよさげな子は見つからなかったしな」

聖來「やった、ありがとう! Pさんのレッスン、すっごくためになるんだもん」

P「そりゃあ痩せても枯れてもプロデューサーだしな。指導くらいできなくてどうする」

P「まあ本職のトレーナーさんに比べれば大したことはないけど……」

聖來「そんなことないよっ。アタシ、プロデューサーさんに見てもらってすごく良くなったし」

聖來「この間だって先生に絶賛されちゃったしねっ!」
 

 
聖來と知り合ってから、時折こうして彼女のダンスを見てやることがある。

アイドルのダンスと、ダンサーのダンスはまた色々違うのではないかと思うが、
どうやら彼女にとっていい刺激になっているようだ。

こうして屈託のない笑顔を向けられると、やはり彼女はアイドルに向いていると思うのだが、
しかし結論を出すのは聖來自身だ。急かすのもよくないだろう。

それに俺の方も、なんだかんだ言って二度目の左遷である。
あやめのためにも早く帰らねばという気持ちはあるが、焦りはなかった。
だからこそトレーナーの真似事をするくらいの心の余裕もあるというわけだ。
 

 
×月○日——
 
ここにきて面白い情報を手に入れた。

なんでも、千葉には10年以上若々しいまま姿の変わらない女性がおり、
自称永遠の17歳でしかもアイドル志望だという。
「吸血鬼か何か?」と思ったが、よくよく考えればウチにも容姿と実年齢が食い違いまくりの者が
何人かいるわけで、正直今更だった。

とはいえ、スカウトできれば有力なアイドル候補生になりうるかもしれない。

そんなわけで、最近は探偵さながらに情報収集に精を出していると聖來に話した。
 

 
聖來「へ、へぇ〜……そうなんだ、すごいね……」

わんこ「わふぅ」

P「おい引くな。わんこも興味なさそうに鼻を鳴らすな」

聖來「普通にドン引きだよ。警察のお世話にはならないように気をつけなよ?」

P「京都府警……全裸……うっ、頭が……」

 
 
 
少なくとも、留置場はあまり快適な環境ではないのは確かである。

 

 
聖來「それでさ……その人をスカウトしたら、プロデューサーさんはどうするの?」

P「ん? まあ、プロデュースせにゃならんから東京に戻るだろうな」

聖來「帰っちゃうんだ、やっぱり」

P「元々アイドル候補生をスカウトするために千葉に来たわけだしな」

P「でも実際にその人に会ってみないことには何も始まらないわけだし……」

聖來「取らぬ狸の皮算用ってやつだね」

P「あちこちで聞き込みしてるけど、やっぱ永遠の17歳ってだけじゃわかんねぇよなぁ」
 

 
聖來「……それよりさ! アタシ、今度オーディションに出るんだ」

P「オーディション?」

聖來「といっても、バックダンサーのだけどね。でもプロデビューの第一歩になるかもだよ!」

P「おお、マジか! 頑張れよ!」

聖來「え〜、それだけ〜?」

P「わかってるわかってる。レッスンしてくれってんだろ?」

聖來「もちろん! オーディションに向けて詰めていきたいからね」

P「じゃあ、いつもの公園でいいか?」

聖來「いいよ! プロデューサーさん、いつもありがとねっ!」

わんこ「わんっ」
 

 
その日も、俺は聖來と一緒にダンスレッスンを行った。
聖來のダンスはここ数日の間にもメキメキと上達しており、正直俺の方こそ教わることが多い。

それにしても、スカウトの仕事もそこそこに、自分とこの事務所とは何の関係もない子に
毎日のようにレッスンをしてやるなんて、同業者が見たらどう思うだろうか。
やはり、お人好しなアホに見えるのだろうか。

しかし、聖來はいい友人だ。左遷されて参っていた時に心の支えになってくれた。

それに俺はアイドルのプロデューサーなのだ。
夢に向かって頑張っている女の子を応援してやりたいと思うことが、おかしなことだとは思わない。

いずれ別れる時が来るとしても、後悔などしないし、するべきではない。
この選択、この行動こそが、今を一番楽しくしてくれるのだから。
 

 
×月×日——
 
ついに噂の永遠の17歳との接触に成功した。

オーディションに応募したりする傍ら、都内のメイド喫茶でバイトしながら生活しているという
彼女に遭遇できたのはまさに僥倖としか言いようがなかったが、仮にも17歳を名乗るなら
ファーストコンタクトが上下ジャージで缶ビールの入ったコンビニの袋を携えているというのは
正直どうなのだろうか。

彼女の名前は安部奈々。ウサミン星出身、永遠の17歳。
俺が芸能事務所のプロデューサーで、アイドル候補生のスカウトをしていると言うと、
彼女は未だかつて見たことがないほど猛烈に喰いついてきた。

聞けば17歳の頃に声優アイドルを志し、17歳の頃に大学を卒業、その後上京して数年間。
メイド喫茶では古株のリーダー的存在で、現在17歳で……

色々気になる点はあるが、まあ些細なことだろう。
 

 
流石に夜半にジャージ姿のままで詳しい話を、というのも野暮なので、
後日改めて会うことにし、街中のオープンカフェで待ち合わせした俺達は、
色々と仕事についての話をしていたわけだ。

 
 
 
P「とりあえず菜々さん。色々書類の手続きとかもありますから、まず契約書に目を通して頂いて」


菜々「い、いやですねぇプロデューサー! ナナは17歳なので敬語で話さなくてもいいですよ」

P「あ、それから住所と出身地はちゃんと書いてくださいね。千葉って」

菜々「ナナはウサミン星出身ですから! 千葉はウサミン星への経由地ですから!」

P(この人、イジられキャラで行けそうだな)
 

 
菜々「ところで、面接とかはいつ頃になりますか?」

P「そうですね……ひとまず本社にも報告しますから、正式に決まったら日時を……」

 
 
 
<わん! わん!

 
 
 
P「……ん?」


わんこ「わんわん!」

菜々「わぁっ、可愛いワンちゃんですねぇ。プロデューサーの?」
 

 
P「いえ、こいつは知り合いの飼い犬で……どうしたんだ? セイラとはぐれたのか?」

わんこ「わうぅ……!」グイッグイッ

P「お、おい、引っ張るなって! 一体なんだってんだ?」

菜々「何かプロデューサーに伝えようとしてるみたいですよ」

P「……ひょっとして、セイラに何かあったのか?」

わんこ「わん!」

P「……そうか。わかった。案内してくれ」
 

 
P「菜々さん、すいません。俺行かないと……」

菜々「……いいですよ。お友達に何かあったんなら、行ってあげてください」

P「いいんですか?」

菜々「ナナ、履歴書とか書くのに結構時間かかっちゃうタイプですから」

P「……ありがとうございます!」ペコッ

 
 
 
財布から5000円札を抜いてテーブルに置き、俺はわんこに導かれるまま駆けだした。


聖來の身になにかあったのかもしれないなら、こんなところでじっとしてはいられない。
息を切らせて走るのは、かなり久しぶりのことだった。
 

寝ます

千葉ということで期待された方がいらっしゃったようなのでウサミン星人をねじ込んでみましたが
今後もこういうことがあったりなかったりするかもわかりません

 
河原

 
 
 
聖來「……」


P「セイラ!」

聖來「! プロデューサーさん……? どうしてここに……」

わんこ「わん!」

P「こいつが教えてくれたんだ。セイラに何かあったって」

わんこ「くぅーん……」

聖來「……そっか。わんこってば、お節介なんだから」ナデナデ
 

  
P「どうしたんだ、浮かない顔して。何かあったのか?」

聖來「……うん。ちょっとね」

P「セイラのそういう顔、初めて見るよ。何があったか話してくれないか?」

聖來「……」

聖來「……実はね。プロデューサーさん。アタシ……」

聖來「……オーディション、落ちちゃったの」

P「……そう、か。今日だったのか……」

聖來「プロデューサーさんにも見てもらって、完璧な仕上がりだったのに……選ばれなくってさ」
 

 
P「……悔しい気持ちはわかるさ。俺だって、担当の子と一緒に何度も泣いたから」

P「でもオーディションの成否は時の運もある。次はきっと……」

聖來「違うの」

P「え?」

聖來「アタシがイヤだって思ったのは、そういうことじゃないの」

聖來「確かに不合格は悔しいけど、それはアタシの実力不足だから。もっともっと練習しようって思うけど」

P「じゃあ、どうして」

聖來「なんていうか……アタシ、心のどこかでホッとしてたんだ」

P「ホッとしてた……?」
 

 
聖來「オーディションに受かったら忙しくなって、会えなくなるかもしれないでしょ?」

聖來「なんか、それがすごく寂しく思えて……結果的には落ちちゃったけど、なんかホッとしたんだ」

P「……」

聖來「……プロデューサーさんって、仕事で失敗して東京を追い出されたんでしょ?」

P「というより、帰ってくるなと言われたというか……」

聖來「それで、アイドルになる子をスカウトするまで東京に帰れないんだよね」

P「まあ、そういうことになる」

聖來「……てことはさ。アタシがスカウトに応じずにいれば、ずっとここにいてくれるのかなって」

P「俺が?」

聖來「そうすればこれからもレッスンしてもらえるし……」

聖來「それにいざって時はプロデューサーさんに頼れば、どうにかしてくれるかもって」
 

 
P「セイラ……」

聖來「あはは……ごめんね、プロデューサーさん。アタシ、イヤな子だよね」

聖來「自分の都合でプロデューサーさんを利用しようって考えて……」

聖來「……それが何か、すごくイヤな気分で……」

聖來「……ごめんね」

P「……」

聖來「……」

P「……」
 

 
P「……いいじゃないか」

聖來「え……?」

P「そんなの気にするな。大いに利用しろよ、俺を」

聖來「そんな……でも」

P「俺はな、夢に向かって頑張ってる子が好きなんだ。そういう子はキラキラ輝いてて、すごく綺麗なんだ」

P「俺はそういう子達を応援したくてこの仕事やってるんだ。生半可な伊達や酔狂じゃないぞ」

P「それは何もアイドルに限った話じゃあない。セイラのことだってそうさ」

P「水臭いこと言ってくれるな。俺達は友達だろ? 応援させてくれよ、俺にも」
 

 
聖來「プロデューサーさん、いいの?」

P「嫌だなんて誰が言うもんか。俺に任せろ、セイラ」

P「ウチの事務所に来い。ウチの所属の新人ってことにすれば、色々サポートもしてやれる」

聖來「それって、アイドルってこと?」

P「まあ、俺がスカウトする以上はアイドル候補生ってことになるけど……」

P「とにかく、お前がそう望むのなら、お前の夢のために俺を利用しろ」

P「望むところだ。プロデューサーってのはそれが仕事なんだから」
 

 
聖來「……ふふっ、あははは」

P「おっ、ようやく笑ったな。やっぱりセイラにはそっちの方が合ってるよ」

聖來「プロデューサーさん……ズルイよ。そんなこと言われたら甘えちゃうじゃん」

P「おう、甘えろ甘えろ。俺にできることがあったら何でもしてやるよ」

聖來「……ありがと、Pさん」

  
  
  
聖來「ビリビリ痺れるプロデュースを期待してるよっ、Pさん!」

 

 
×月△日——

聖來と菜々さん——
この千葉の地において、俺は二人のアイドル候補生を発掘した。

今度こそ、俺は東京へ帰れるのだ——まさしく感無量であった。

そして今日、再び本社からちひろさんが寄越され、引越しの手伝いをしてくれることになった。

 
 
 
ちひろ「すごいですね、プロデューサーさん! いっぺんに二人もスカウトするなんて」


P「いやぁ、なんのなんの。でもすいませんね、わざわざ引越しの手伝いに来てもらって」

ちひろ「いえ、プロデューサーさんお一人では大変でしょう? これくらい手伝わせてください」
 

 
とはいえ、物が少ないのは相変わらずだ。
書類や衣類を片付けると、いくつかの段ボールにまとまる程度だ。

俺は段ボールに詰める最後の荷物を手に取った。

 
 
 
ちひろ「可愛いテディベアですね。プロデューサーさん、どうしたんですかそれ」


P「……そうですね。こいつのおかげで、スカウトに成功したようなもんですから」

ちひろ「?」

P「さあ、これで荷物もまとまりましたし、東京に戻りましょうか!」

ちひろ「あ、すみませんプロデューサーさん。その前にこれを」スッ

P「えっ?」

ちひろ「本社からの新しい辞令です」

P「……えっ?」

 
 
 
ちひろ「プロデューサーさんにはこれから、>>90に行ってアイドル候補生のスカウトをしてもらいます」


1.横浜
2.千葉 (済)
3.埼玉
4.大阪
5.京都 (済)
6.神戸
7.広島
8.福岡
9.名古屋
10.北海道
11.仙台
 

6

北海道!

6

 
ちひろ「プロデューサーさんにはこれから、北海道に行ってアイドル候補生のスカウトをしてもらいます」

P「北海道!?」

ちひろ「北海道支社に話はつけてありますので、あとはプロデューサーさんが向かうだけです」

P「ちょっと待ってくださいちひろさん! なんで北海道なんですか!?」

P「俺だってまさか津軽海峡渡るとは思ってないんですよ!? なんでまた左遷されるんですか!?」

 
 
 
ちひろ「……プロデューサーさんが!」


ちひろ「社長の誕生日に、歳の数だけほねっこなんて贈るからいけないんですよ!」

P「……アレかぁ……!」

 
 
 
数時間後——

俺は失意のままに新千歳空港に到着していた。

 
 
 
>>94

1.アナスタシア
2.棟方愛海
3.堀裕子
4.白菊ほたる
 

1

1

一旦中断
夕方〜夜に再開


アーニャナイス!

社長の誕生日に洒落の効いた贈り物送って左遷てブラックすぎやしませんかねぇ

今まで東京にいたんだからこれまで我慢してた社長がとうとうキレたんじゃね?

いるものいらないものどうでもいいものBOXの出番はまだですか?

あまりにスピード勧誘してくるもんだから使えると思って難癖つけて送り込んでる可能性

宴会で社長の物真似をする
報告書の隅っこに社長の似顔絵を描く
社長の誕生日に年の数だけほねっこを贈る

社長短気すぎやしませんかねぇ

ちひろさんがいるプロダクションだぞ。
ブラックに決まっている。
ブラック企業ってワンマン社長だし。


他にも言ってる人いたけど笑う犬を思い出して笑った

 
×月□日——

試される大地、北海道。

北海道イメージアップキャンペーンで北海道庁が使っているらしいキャッチフレーズ。
手垢のついたフレーズだが、あながち誇張でもない。
なにしろ気候的に普通に凍死者を出しうる地域だ。
今年3月には猛吹雪の影響で9人が死亡したのは記憶に新しいところだろう。

とはいえ、春先の今日この頃はそう過酷でもない。涼しくて過ごしやすいくらいだ。

それに左遷されて早々不謹慎かもしれないが、正直俺はラッキーとさえ思っていた。
 

 
確かに書類上は北海道支社への出向という形になってはいるものの、それはあくまでも書類上の話。
別にわざわざ出社していく必要もなければ、こっちの業務に直接関わる必要もない。

従って。
「プロダクションクラッシャー」の異名で知られる不幸体質の女の子が履歴書を出してきて
北海道支社に激震が走ろうが、女の子の柔らかいところが大好きな
セクハラ魔神が入社してデビュー早々共演者のアイドルに狼藉を働こうが、
街でスカウトされた自称エスパーがスプーンを曲げようとしてテレビ塔を倒壊させようが。
俺には関係ないったら関係ないのである。

ぶっちゃけた話、半ば休暇みたいなものだと俺は理解していた。
そりゃあ社長の怒りを買って津軽海峡の向こう側へ渡る羽目になったものの、その社長の目も
流石に北海道にまでは届かないのだから。

俺もポジティブシンキングがうまくなったものである。
 

 
P「さて、アイドル候補生をスカウトするのに要した期間は京都が9日に千葉が15日」

P「候補生一人当たりの日数で言えばむしろ減っている。これはつまり、今回もうまく行くってことだ」

P「セイラも菜々さんも俺のプロデュースを待っている! 早く戻れるよう、頑張るか!」

 
 
 
三度目の左遷ともなれば、気持ちの切り替えにも慣れたものである。


ともあれ、俺は今年に入ってから幾度目かの新生活をスタートしたのだった。
 

 
×月▼日——
 
北海道へ来てから一週間が経過したが、しかし今回のスカウトは難航していた。

北海道支社や、このエリアの同業他社にも腕のいいスカウトがいると見える。
一目見てティンと来そうな子は大体どこかの事務所が囲い込んでいた。

札幌近郊に見切りをつけた俺は、少し遠くの方に足を伸ばすことにした。

思い切ってキャンピングカーをレンタルし、街から街へと。
北海道も広いので、アイドル候補生を見つけるのにも時間がかかりそうだ。
 
まあ、悪い方に考えるよりは楽観主義を貫こう。楽しい方が優先だ。
今までもそれで何とかなってきたのだから。
 

 
×月◆日——
 
北海道に来てから十日が経った。
装備も整えていよいよ本格的な一人旅の様相を呈しており、正直楽しくなってきていた。
勿論、スカウトも手を抜いているつもりはないが。

 
 
 
陽も落ちて薄暗くなってきた頃、俺はとある自然公園に到着した。


ちょうど次の街への通り道にあったので立ち寄ってみたのだが、奇遇なことに
今夜は天体観測のイベントがあるという。せっかくなので参加してみよう。

あまり星には詳しくないが、この時期に見られる星座というと蟹座とか獅子座だろうか。

共感してくれる人も多いだろうが、蟹座や魚座に生まれた男子は生来負け組だった。
この点に関して車田御大の功罪はあまりにも大きい。冥王ハーデス編は地獄であった。
近年では悪しき星座カーストの見直しも進められているというが……
 
いや、今はどうでもいい話か。
 

  
参加者は皆、自前の望遠鏡などを持参していたが、当然俺はそんなものは持ち合わせていない。
キャンピングカーに積み込んである荷物だってたかが知れた量だ。

とはいえ、満天の星空を肉眼で眺めるのも悪くない。
空の明るい都市部では決して見られない美しい星空だ。
左遷に次ぐ左遷で北海道くんだりまで来てしまったとはいえ、天体観測を楽しむくらいの
心の余裕は常に確保しているつもりなのだ。

イベントが始まってどれくらいの間か、俺は草の絨毯の上に座り込んでぼんやりと空を見上げていた。

 
 
 
P(綺麗だなぁ……まあ星座とか、そういうのはよくわかんねぇんだけど)


P(……星って、大きかったり、小さかったり、色とか光り方も異なっているけど)

P(星を見て綺麗だって思う感性は、まあ、多分、多くの人が共有してるんだろうな)

P(……似てるかもなぁ。色々と……)
 

 
アイドルというのは、天蓋のように空を埋め尽くす星達に例えることができるかもしれない。

距離も大きさも輝きもそれぞれ違っていて、そしてそのそれぞれが美しい。
たまにその位置が近かったり、規則的な並びに見えたりして、人はそこに形を見出し意味を求める。
普通の人には遠すぎて手が届かないってことも含めて、似ているかもしれない。
ふと、そんなことを思う。



P(じゃあ、なにか。アイドル達が星ならプロデューサーは天文学者か何かか?)

 
 
 
だとしても、俺は星座の名前ひとつわからないインチキ天文学者だけれど。


我ながらおかしな気分になりながら、すっくと立ち上がる。
そろそろ休もう。綺麗な星空のおかげで、今夜は気持ちよく眠れそうだ。
 

  
そして、駐車場に停めてあるキャンピングカーに戻ろうと踵を返したその時。

 
 

どんっ



P「っ」

????「きゃっ……!」

 
 
 
不覚にも、見も知らぬ誰かとぶつかってしまった。

 

 
ぶつかった衝撃の軽さと声のトーンからして、相手は明らかに女性である。

 
 
 
P「ご、ごめん! 怪我はない?」

 
 
 
すぐさま相手の女性への平謝り体勢へ移行。

この目にも留まらぬ早業は通報によるポリス沙汰を避けるためのものである。
この業界のプロデューサー諸氏ならば当然身につけているであろうスキルのひとつだ。

しかし、そんな状況判断も、彼女と顔を合わせた瞬間霧散してしまった。

  
  
 
????「ダー……ニチヴォー。大丈夫、です」

 

 
P「えっ?」

????「イズヴィニーチェ……あっ、ごめんなさい、つい。ロシア語、わかりませんでしたか?」

P「いや……その」

 
 
 
その通り、申し訳ないがロシア語はサッパリである。

というより、その耳慣れない言葉がロシア語だというのもたった今初めて知ったが、
そんなことはどうでもいい。言語のひとつやふたつはこの際問題ではなかった。

 
 
 
????「ズヴェズダ……星に夢中になってしまって。前方不注意でした」

   
P「……君!」
 

 
無意識のうちだったかもしれない。
気が付いたら、その子の手を取っていた。

 
 
 
????「っ!? ……シトー?」


P「君……アイドルに興味はないかな?」

????「え……?」

  
  

何語を喋ろうが、どこの国の人間だろうが、そんなことは些細なことだ。
俺の仕事は、キラキラ輝くアイドルの卵を見つけ出すことなのだから。
細かいことにこだわるより、直感を信じること。それが俺のメソッドだ。

 
 
 
——かくしてインチキ天文学者は、地上の星を見つけたのである。

 

寝ます

あと2エリアくらいで終わらせる予定ですが次から選択肢に愛媛入れときます

Pが完全に開き直って左遷をエンジョイしてるなw


さりげなく存続の危機にたたされている北海道支社ww

しかしこれ現地妻が本社で鉢合わせしてるな。

モバマスのPって日本にいる時は日本全国出張だらけだし
たまにライブツアーのために海外に行ったりもするんだよな

案外本当に左遷なのかも

 
×月◎日——
 
天体観測イベントの翌日、俺は朝一番で車を出し、札幌へと急いだ。
向かう先はCGプロダクション北海道支社である。

アーニャの番号とアドレスをゲットできたのは僥倖だった。
これがなければ何も始まらないところだった。だが逆に言えば、これさえあれば大いに可能性はある。
彼女をアイドル候補生にする可能性が。

業者にキャンピングカーを返却した後、地下鉄を乗り継いで最寄りの駅まで移動し、
さらに十五分ほど歩いて支社のビルに到着した。
 

 
本社に比べれば手狭だが掃除の行き届いたオフィスに入り、俺は声を上げた。

 
 
 
P「よう、久しぶり」


CoP「ん……? Pじゃないか。これはまたずいぶんな重役出勤だな」

 
 
 
声をかけられてデスクから顔を上げたのは、北海道支社の支社長兼チーフプロデューサーだ。

元々は本社所属だったが、支社を立ち上げるに当たってこちらへ移った者の一人だ。
本社にいる時はよく組んで仕事をしていた仲で、常に手堅い仕事をする奴だった。

 
 
 
P「まだ9時だろう。遅刻というほどではないと思うけどな」


CoP「いいや、遅刻さ。丸7日分、しめて168時間の遅刻だ。季節外れの冬眠でもしていたか?」
 

 
P「こっちに着いてから挨拶に来なかったのは悪かったよ。俺にも色々あってな」

CoP「そんなことを言って、本当は休暇気分であちこちフラフラしていたんだろう」

CoP「お前は仕事ぶりは確かに有能かもしれんが、その分、私生活がだらしないからな」

P「それは……まあ、アレだ。良き会社人が良き夫とは限らないだろ?」

CoP「ものは言いようだな。不出来な宴会芸で不興を買ったと聞いたが?」

P「なっ……何故それを! 誰から聞いた!?」

CoP「……カマをかけたんだが、本当にその通りだとは俺も思わなんだぞ」
 

 
CoP「……まあ、それはともかくとしてだ」

CoP「今になってここを訪ねたということは、何か用があるんだろう。言ってみるがいい」

P「ああ、そのことなんだがな」

 
 
 
俺はCoPに、北海道まで左遷された経緯をざっと説明した。

流石に左遷の理由までは詳しく話さないまでも、この一週間の間はスカウトのため
あちこちを走り回っていたというところを強調しておいた。

そしてつい昨日、とても有望なアイドル候補生を見出したということも。

 
CoP「ふむ……まあお前の眼鏡に適ったということは、非凡な才覚の持ち主に違いあるまい」

P「ああ、ビジュアルは文句のつけようがない。やるならクール系のアイドルかな」

CoP「それで、お前は俺にどうして欲しいのだ?」

P「北海道支社に最近入社した子……確か3人ほどいたよな」

CoP「白菊ほたる、棟方愛海、堀裕子か。ひと癖もふた癖もある連中だ」

P「彼女達は今、ユニットとして活動してるんだったな」

CoP「ああ。彼女らを御する方法を模索するための方便という側面もあるが」

P「この3人で、できるだけ早いうちにLIVEバトルの予定を組んで欲しい」
 

 
CoP「それは構わんが……何故その3人なのだ。ウチには他にも売れっ子のアイドルがいるというのに」

CoP「デビューして間もないユニットだ。実力的にはアマチュアより多少マシという程度だが?」

P「だからいいのさ。むしろ俺としては、下手に技術や実績のある方をこそ避けたい」

CoP「LIVEバトルの相手はこちらで選ばせてもらうが、いいか?」

P「勿論。極端な格上にぶつけようとか、そんなことは考えちゃいない」

CoP「今は地盤を固める時期だ。同格の者を相手に、負けない戦を仕掛けていかねばならんからな」

P「相変わらず堅実なやり方だな」

CoP「当然だ。以前にもまして手堅くやらねばならん立場にある」

CoP「それで、何日以内とか、会場の規模などの注文はあるか?」

P「場所は問わないが、できれば一週間以内だ」

CoP「無理難題を言ってくれるな。だがまあ、任せておけ」
 

 
——————————
昨日の夜

 
 
 
アーニャ「アイドル……ですか?」


P「ああ。君を一目見てティンと来た! 君ならきっとトップアイドルになれる」
 
アーニャ「ンー……でも、急に言われても……パパやママにも話してみないと」

P「ああ、そうだよな。とりあえず、名刺渡しておくから。ここが俺の連絡先ね」

アーニャ「ダー……うん? ああ、YESです。はい」

P「そういえば、アナスタシアは……」

アーニャ「私のことは、アーニャでいいですよ」

P「そうか? じゃあ、アーニャはどこら辺に住んでるんだ?」

アーニャ「札幌です。今日はここに泊まって、明日の朝にバスで帰ります」

P「札幌……そうか。なるほど」

アーニャ「グジェ ヴイ ジヴョーチェ? ……あなたはどこにお住まいなんですか?」

P「一応、社宅は札幌にあるんだけどね。最近はもっぱらキャンピングカーで寝泊まりしてる」
 

 
アーニャ「プラーウダ リー エータ? どうしてそんなことを」

P「君みたいな子に巡り合うためさ」キリッ

アーニャ「ふふっ……ヴィ ナヴェールナヤ シュチーチェ……冗談でしょう?」

P「それが大マジなもんでね。青春の伊達と酔狂があらぬ方向に向かった人間ってのは、結構いるもんさ」

P「それより、アーニャが札幌に住んでるってんなら都合がいい」

アーニャ「?」
 
P「近いうちに連絡したいから、君の連絡先も教えてくれないか」

 
 
 
P「君に、面白いものを見せてあげられるかもしれないからさ」

 
 
 
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