安斎都「怪盗ヨリコと」古澤頼子「探偵ミヤコ」(32)


少し前に、とあるところで持ち上がり「そんなら書くわ」と安請け合いしてしまったネタです。

今回あまり怪盗要素ないのはスイマセン。

地の文アリ。


―――聖靴学園大講堂

『―――私たち学生一人一人が』

「なぁなぁ、会長ってさ、物静かであんま主張しないタイプの人だけど、よく見ると美人じゃね?」

「はぁ?今さら気づいたのかよ、ダッセー」

「…はぁ」

ここは、私立聖靴学園の大講堂。
今は生徒総会の時間というやつで、会長が演壇に立って話しています。

私の前に座っている男子は、会長のスピーチの内容よりも会長の容姿に興味津々なようです。

「彼氏とかいんのかな」

「あの会長にか?ないだろ。容姿端麗、品行方正、成績優秀なお嬢様だぜ?そんなもん相手の男が委縮しちまわぁ」

「お、俺、アタックしてみよっかな」

「やめとけやめとけ、伝説残したいなら別だけどな」

「…品行方正なお嬢様、ねぇ」


私は男子の言葉を聞きながら演壇に立つ生徒会長を見つめる。
それなりに距離があるはずなのに、なぜか目があった気がしました。

『以上で、私からの話を終わります』

生徒会長、古澤頼子先輩は一歩下がって頭を下げると、顔をあげてニコリと微笑んだ。
誰に?多分、私に。

でも、そんなこと誰にもわからないし、前の男子は「おいおい、会長の笑顔めっちゃかわいくね!?」とか騒いでいます。

やっぱり誰も信じないですよねぇ…。

『古澤生徒会長、ありがとうございました。続いては校長先生から―――』

司会の生徒の言葉を背に、静かに演壇を降りる頼子先輩を眺めながら私は思う。

あの古澤頼子先輩が、今巷を騒がす大泥棒怪盗Yで…。

ピローン♪

【メッセージ1件:放課後、生徒会室によろしくお願いしますね(^_-)】

私がその片棒を担がされてるってこと!


―――放課後、生徒会室への道すがら

私は安斎都。
この聖靴学園高等部の一年生で、別段変わったところもない普通の女子です。

趣味というか、好きなものは探偵小説。
いつか、ホームズの様な名探偵になることに憧れています。

…まぁ、現実にあんな探偵がいないっていうのもわかっていますけど。

それが高じて、入学してすぐに探偵クラブなんてものも作ったけど、仲間内でワイワイやるのが楽しいくらいですかね。

そんな私が出会ったのが怪盗Y。
最近世間で噂の大泥棒で、狙った獲物は逃がさない。
現代によみがえったアルセーヌ・ルパンだなんて騒ぎ立てられている大怪盗です。

大胆にも予告状を送りつけ、厳重な警備を潜り抜けて獲物を奪っていく。

まるで小説の中から飛び出してきたかのようなその犯行に、私は夢中になりました。

「絶対に、怪盗Yを私の手で捕まえてやる!」

ここ最近のクラブ活動も、もっぱら怪盗Yの手口や次の獲物について話し合うのが日課となっていたりします。
新聞のスクラップを集めたり、実際に現場の近くへ行ってみたり…。

何か手がかりを見つけられるわけじゃないけど、物語の中の名探偵たちの仲間入りができたような気がして楽しかったですね。


さて、そんな私がなぜ冒頭で述べたみたいに怪盗Yの片棒を担いでいるのかというと…。

ガラッ




「あら、都ちゃん。わざわざ足を運ばせてしまって、ありがとうございます」




お淑やかにほほ笑む生徒会長こと、古澤頼子先輩のせいと言って間違いありません。

「それで、今日はなんのお手伝いをさせられるんでしょうか」

「ふふ…今日のお願いはね」

…話は数日前にさかのぼります。


―――放課後、人けの少ない学校

「はぁー、私のアホ!なんであんな大事な書類を部室においてきちゃうかなぁ…」

あの日、私は部活動に関する公的な書類を部室に忘れてきたことに気づき、取りに戻っていました。
提出期限は翌日。

印鑑が必要なので、家に持ち帰るべきなのは明らかです。

「学校に印鑑持ってくるのはちょっと勇気が要るし、しかたありませんよね…」

帰る途中で気付いたからまだよかったですけど。
これで家でくつろいでる時に気づいたとかだったら悔やんでも悔やみきれません。

出来たばっかりの部活なんだから、こういうところはちゃんとしてますってアピールしないといけません。

幸いにも校門が閉まる前に戻ってこられた私は、急いで部室棟最上階最奥の探偵クラブ部室を目指しました。
ちらほら残っている人もいますが、それはみんな部活の後片付け。

早く用事を済ませないと私も「いつまで残っているんだ」と怒られてしまいます。

遠い部室へ早足でたどり着いた私は、すぐさま自分がやらかしたことに気づきました。


「あぁ!部室のカギを借りてこないと!」

そうです。
部活動に使用する教室は通常施錠されていて、使用の際に顧問の先生から許可を取って鍵を借り受けるのが決まりなのです。

職員室は本校舎一階。こことは学内で一番離れているといってもいい距離です。

「参ったなぁ…二度手間…」

肩を落とし、鍵を借りに行かなきゃと思いつつも往生際悪くしてしまうのが人間の性。
扉をゆすってみた私は妙なことに気づきました。

「あれ…開いてる?」

今日の部活終了後、私は確かに施錠して先生に鍵を返しました。
なのに、今ゆすってみた扉は少しばかり開いています。

「先生が来てるのかな…?」

ゆっくり扉をあけながら中の様子をうかがってみますが、誰もいません。
妙です。

「鍵をかけ忘れた?…いやいや確かに確認したはずです」

そう、私だって自分が完ぺきじゃないことはよーくわかっています。
ですが、ここの鍵をかけ忘れたなんてことはほとんどありえません


なぜなら、長らく使われていなかったこの部屋も鍵もすこしばかり傷んでいて、施錠しづらいのでいつもきちんとかかったかの確認を皆でしているから。

「開いていた鍵…誰もいない部室…泥棒?」

自分で考えたその説を、私は即座に否定しました。
なぜって、ここは校内でも一番来るのに苦労する部室棟最上階の最奥です。

おまけに、貴重な物なんてあるはずもない弱小部活動の部室。

わざわざこんなところを狙うくらいなら、もっと他に狙うべきところがあるはずです。

では、誰かがいたずらで窓から入って、中から鍵を開けて出て行ったか。

「窓のカギは閉まってる…入った後に内側から閉めればいいとしても…なんでそんなことを?」

そう、窓から入って入り口から出たならこの謎はそれで解けるのですが、なんでそんなことをしたのか意味が分かりません。
施錠ミスを理由に探偵クラブを潰そうという陰謀?

ありえません。だってできたばかりで大して活動しているわけでもない部活動をなんの必要があって潰さなくてはいけないんでしょうか。

一応窓の周辺を虫眼鏡でくまなく調べてみましたけど、誰かが窓枠を踏みつけたりしたような跡は見当たりませんでした。


「事件かと思ったけど…ホームズのようにはいきませんね…」

「あら…あなたそこで何をしているの?」

「はいっ!?」

集中していた私は、突然自分にかけられた声に必要以上に驚いてしまいました。
声の主はこの学園の生徒会長、古澤頼子先輩です。

穏やかな雰囲気の美女、お嬢様という言葉が良く似合う人です。
なにか運動でもしていたのかその額にはうっすら汗が浮かび、良く見ると、襟元からバッグの紐が引っ掛かっていたような跡がちらりとみえました。

頼子先輩には、部活を立ち上げるに当たり何度かお世話になりました。

「大丈夫?」

「あ、あぁ、いえ、忘れ物を取りに戻ったのですが、鍵を閉めたはずの扉があいていたので捜査を…」

「捜査…あぁ、探偵だものね」

頼子先輩はそういってくすっと笑いました。

「でも残念、安斎さんが望んでいるような事件は起こってませんよ」

「なんでそんなことが?」

「ここの鍵を開けたのは…私だから」


そう言って、頼子先輩は『50番』というプレートの付いた鍵を私にチラリと見せてくれました。
この『50番』とは部室棟の部屋に割り当てられた番号で、すなわちこの教室のことを指します。

学校側が管理の為につけているプレートで間違いないでしょう。
でも、私はその鍵に違和感を覚えました。

「でも、なんでウチの部室に生徒会長が?」

「あなた達の部室に、というより部室の物置に用があってね」

私たち探偵クラブの部室には、物置部屋が付随している。
そこは、この教室の立地も手伝い、なんの部活が使っていたんだかわからないほど雑多なものが置かれている。

頼子先輩曰く、そこに昔の生徒会の資料があるかもしれないので探しに来たらしい。

「学園祭で昔の部活が何をやっていたかの資料が見当たらなくて…もしかしたらここかもって」

「こんな辺境にですか?」

「あなたも知っているように、この部屋は空き部屋になったりならなかったりしているわ。部室として使用されていないときは、この部屋を学校行事の運営委員会が会議に使ったりもしていたの」

なるほど。


「見つかりました?」

「ぞれが全然。本当にここにあったとしても、ちょっと探し出すのは難しそうだわ」

頼子先輩はため息を吐く。

「手伝いましょうか?」

「ふふ、探偵さんが一緒であれば心強いですね…でも、大丈夫。他にも当時のことを知る方法は色々あるもの」

やけにあっさりしているけど、見つかる当てもない物に時間をかけるより、他を当たった方が無駄がないですよね。
でも、私はなんとなくそれだけじゃない気がしていた。

「今ちょうど、私がお手洗いで席を外していたところに安斎さんが来てしまった…そういうことですね。ところで安斎さんの方は、用事は済みました?」

「そ、そうだ!肝心なものを忘れていました!」

私はあわてて机の上に置き去りにされていた目的のプリントを取り上げます。
これを忘れちゃ戻った意味がありません。

「すいません、これでオッケーです!」

「では、出ましょうか。そろそろ門も閉まるころです」

頼子先輩に促されて、私は部室を出ました。
頼子先輩は窓が閉まっているのを確認すると、部室の扉を閉め、カチャリと施錠しました。


ここは部室棟最上階。
とりあえず一階まで降りないと学校から出ることもできません。

私と頼子先輩は、他愛もない話をしながら階段を下りていきました。


―――部室棟昇降口

「じゃあ、私は生徒会室に寄って行くから、ここでお別れね」

「あ、部室の鍵…」

「私が借りたものだもの、私が責任を持って返します。安心して」

ニコリとほほ笑む頼子先輩。
だけど私は、その笑顔に騙されない。

「本当に返すんですか?」

「…どういうこと?」

私の質問に、頼子先輩は眉をしかめて聞き返す。





「言い方を変えます。本当に『返せる』んですか?その鍵を、先生に」

「どうしたのかしら、安斎さん。これは学校の備品よ…?返さなくてはいけないに決まってるじゃありませんか」




「その鍵、いつも私たちが使ってる鍵じゃありませんよね?」

私は、さっきの頼子先輩の行動を思い起こしながらゆっくりと言葉を発する。

「何を言っているんでしょうか…?ほら、これは学校の備品ですよ。プレートにも」

「鍵が綺麗なんですよ。普段使っているやつより」

「それは、先生が磨きでもしたんじゃないかしら?」

「あのズボラなP先生がですか?多分ないと思います」

P先生とは私たち探偵クラブの顧問の茂庭先生の事。
なぜか教師になる前はアイドルのプロデューサーをやってたとかで、みんなから「Pさん」「P先生」と呼ばれています。

ノリが良くて面白い先生ですが、抜けてるところがあって、よく千川先生に怒られています。

「それに、決定的なのはさっき頼子先輩が教室の施錠をした時です」

「なにかおかしなところがあったかしら」

「あの教室の扉、鍵も鍵穴も古くて毎回閉めるのに苦労しているんですよ。でも、頼子先輩の持っている鍵ではスムーズに閉まりました。いつもの鍵を使っているならこうはいきません」


「たまたまということもあるのではなくて?」

「今まで数十回鍵の開け閉めをしてきた私が一回も体験してないのにですか?」

「そういうこともあるかもしれないわ」

「ではもうひとつ。頼子先輩、あの教室に来たのは、資料探しに来たからではないんじゃないですか?」

私は別の観点から頼子先輩に質問します。

「鍵のことはどうしたの?それと、なんでそんなウソをつく必要があるのかしら?」

「それはわかりません。でも、そう思った根拠はいくつかあります。まず、頼子先輩が資料探しに関してあまりにあっさりと引き下がったこと」

「あの散らかった部屋を一から捜索するのは効率的ではないです。だから他を当たる。そういったと思いますけど」

「ならば、なぜわざわざあそこまで行く必要があったんですか?頼子先輩はあの部屋の状態を知っていたはずです。私が部活立ち上げの申請をしたときにも、部室の下見に付き合ってくださいましたしね」

そう、頼子先輩はあの物置がどれだけ無秩序にあるかを知っていたのです。

「あの部屋の状態を知っていたら、『もしかしたら案外すぐに見つかるかもしれない』とは思いません。少なくとも、一人であそこを探し回るなんて非効率の極みです。頼子先輩はそんな無駄なことをする人だとは思えません」


「買いかぶりすぎですよ、安斎さん」

「絶対に必要なわけではない古い資料を探すなんて、本来会長が単独で率先してやるようなことじゃありません。それも、他の生徒会員が全員帰宅した後に」

「…」

なんというか、実は内心すごく自分が頭良くなったような気がしています。
なんでこんなにすらすら言葉が出てくるんでしょう。

名探偵安斎都の誕生ですか!?

「そして、これが最後です」

「まだありますか?」

「頼子先輩、その制服の襟から覗いてるみみずばれはどうしたんですか?」

「…!」

私の指摘に、初めて頼子先輩が少し動揺を見せました。

「最初はちらっと見えた時、鞄を肩にかけてて紐の跡が付いたんだろうと思いました。ですが、頼子先輩は私と出会った時から鞄を持っていません。まぁ鞄はどこかの教室に置いてあるんでしょうし、そこはいいです。問題は、その赤い筋がいつまでたっても消えない事です」


頼子先輩と出会って、話をして、この昇降口に来るまででもう三十分は経っています。
ただの紐の跡ならもう薄れているはずです。

ところが、頼子先輩の肩の跡は薄れるどころか赤みを増しているようにも見えました。

「それに、頼子先輩はさっき、『お手洗いに行っている間に安斎さんが来たんだろう』と言いましたけど、それも私は嘘だと思っています」

「なぜ?」

「頼子先輩の額に汗が浮かんでいたからです。息こそ上がってはいませんでしたが、今日は別に暑いわけでもありませんし、今までなんどかお会いした感じでも、頼子先輩が特別汗かきだという印象はありません。むしろ、あまり汗をかかないイメージすらあります」

私の推測に、頼子先輩は何も言いません。

「私の考えはこうです。頼子先輩は、何らかの目的で探偵クラブ部室の合鍵を作り、今日の放課後侵入した。だが、目的を果たす前に私がここに来てしまったのを察知した。先輩がここにいる言い訳ならどうとでもなるかもしれませんが、鍵が二つあることは知られるとマズイ。証拠を片付け、女子トイレにでも身をひそめようとしたあなたに、予想外のことが起こります」


「あなたが鍵を借り忘れた事ね」

「そうです。本来、職員室で鍵を借りてここまで来るとなると校舎の端と端でかなり時間がかかります。ところが鍵を忘れた私は、先輩の想定していた時間の半分とかからずここにたどり着いてしまいそうになった。先輩があそこで何をしようとしていたのかは知りませんが、十分な証拠の隠滅が出来ていない状態であそこに入られるのはあまり喜ばしくない。加えて、閉門の時間も迫っている。いくら生徒会長でも理由不明で閉門後の校舎をうろうろしていていいわけはありません。そこで、一芝居打ってさっさと私を帰してしまおうとしたんです。私がいなくなった後にゆっくりと目的を果たすために。先輩の額に汗がにじんでいたのは、予想外な私の行動でもろもろのことを急がざるを得なかったから」

そこまで一気にしゃべり終えて、私は頼子先輩の目をまっすぐに見つめる。

「違いますか、頼子先輩」

「…」

「今すぐ戻って部室の物置の扉を開けてみれば、おそらく先輩の隠したかった何かが散らかっていると思われますけど」

頼子先輩は、否定も肯定もせず、静かに私を見つめ返しています。

「…正直、頼子先輩がなんで合鍵なんか作ってこそこそしてるのかはわかりません。でも、みんなの憧れの生徒会長が、いけないことをしてるなんて嫌なんです。ねぇ先輩、何をしてるんですか?」

名探偵のような気分に舞い上がってまくしたてちゃいましたけど、ふと我に返ってみると、今私は全校憧れの生徒会長の重大な秘密を暴こうとしていることになります。
頼子先輩はしばらく黙っていましたが、観念したように口を開きました。


「安斎さん…私は…」


「そこの子たちちょっといーかな?」


もう!誰ですか!今重大な話をしているのに…。
振り返るとそこには、背は低いけどなかなかグラマラスなスーツ姿のお姉さんが立っていました。

…誰?

「えっと…お姉さんは…」

「あ、ゴメンゴメン、あたしはこういう者です」

お姉さんはスーツの胸ポケットから手帳のようなものを取り出す。
ってコレもしかして…。

「『警視庁特殊犯罪対策課 警部補 片桐早苗』…!?」

「警察の方が、当学園になんのご用でしょう」

生徒会長のいけない秘密を暴こうとしていた矢先に現れた刑事さんに、私は慌てふためきますが、当の頼子先輩は落ち着いたものでした。

「実はね、とある筋から怪盗Yがこの学校に忍び込んだって話を聞いてさ。捜査に来たってわけ」


「か、怪盗Yが!?ここここの学校にですかっ!?なんで!?」

「それが分からないから捜査に来てるんじゃない。あなた達、この学園の生徒でしょ?なんか怪しい影とか見なかった?」

「み、見てません!私は何にも見てません!」

さっきまでの頼子先輩とのやり取りを思い出して、大げさに騒ぎ立てる私の様子に怪訝そうな顔をする刑事さんだけど、どうやら怪盗Yの名前に興奮している野次馬根性旺盛な女子高生にしか見えなかったみたいです。

「キミは?」

「私も何も…」

頼子先輩は申し訳なさそうな顔をして見せている。
その後、頼子先輩は生徒会長であることを明かし、学校側の許可が出たうえでの捜査であることの確認をしたり、学内の様子についててきぱきと話を進めていた。

だけど、私は途中から嫌な予感がし始めてあまり話を聞いていませんでした。

生徒会長古澤頼子先輩の秘密。
それが暴かれるか否かというタイミングで怪盗Yが学校に逃げ込んだという情報。

現れた刑事さんに「不審なことは何もなかった」と言う、まさに不審なことについての話をしていた女子生徒二人。
これって、情報の隠匿とかそういう罪になりませんよね…?


いや、もっと恐ろしいことがあります…さっき頼子先輩を追い詰めて活性化していた脳細胞が、なにやらとんでもない結論をはじき出そうとしています。

ダメダメダメダメ!
それ以上考えちゃダメ!止まって私の脳みそ!

ぴこーん♪

漫画だったらそんな効果音と共に、私の頭上へ電球が出ていたことでしょう。
でも、ひらめきの光の明るさに反して、私の顔は引きつりそうです。

「…うんうん、あたしから聞きたいことは以上!ごめんねー、もう下校時間過ぎてるのに手間とらせちゃって」

「いえ、警察への協力は、市民の義務ですから」

「はー、あなたその年でしっかりしてるわよねぇ。流石生徒会長って感じ?」

続く刑事さんの言葉に、私は乾いた愛想笑いを浮かべるしかありませんでした。

「でも、二人のどっちかが怪盗Yだったらあっさり逮捕で仕事も終わって楽なんだけどねー、なんつって!あっはっはっはっは!」

「あ、あはははは!そ、ソウデスネー!」

笑いながら私はちらりと頼子先輩の方を盗み見る。
あ、目が合っちゃった。






「ふふ、それは残念ですね…ねぇ、都ちゃん?」

あぁ…バレてる…。





―――現在、生徒会室

回想終了です。

あの後、黒塗りの車が現れ拉致された挙句連れて行かれた頼子先輩のお宅で、先輩が怪盗Yその人であると打ち明けられました。

もう笑うしかありません。

おじいさんの代から続く怪盗業は、弱きを助け強きをくじく義賊的な活動を旨とし、これまでにも多くの恵まれない人たちを救うために活躍してきたそうです。

まぁ、窃盗自体は犯罪であるというのは正しく理解しているらしく、自分たちの所業をむやみと持ち上げたりしないのは少し意外でした。

義賊と言えば聞こえはいいですが、高邁な理想を掲げる自分たちに酔っているだけな気がしていたので。

とにかく、故あって怪盗業を継がなくてはならない頼子先輩は、怪盗Yと名乗りあくどい稼ぎ方をしている企業やお金持ちの人たちを狙って盗みを働いているそうです。

ここだけの話、明るみに出ていない事件も多いのだとか。

『公にできないお金だからこそ、私が盗み出す意味があるんです』

そして、そこまでの暴露話を聞かされた私は、協力を迫られてしまいました。
その協力の内容と言うのが…。


「それで、今日はどうするんですか?歯医者に行くとでも言っておきますか?」

「それでいいです。後はお願いしますね」

頼子先輩のスケジュールとアリバイの管理だ。
頼子先輩は、成績優秀で生徒会長もこなす超エリート。とても忙しい。

ところが、先輩の事情を知る人はいないから、裏の顔に関することで時間を作りたくても大変に苦労する羽目になる。

そこで、身内でもなんでもないのに事情を知ってしまった私の出番だ。

生徒会の書記として突然抜擢された私は、頼子先輩が自由に動ける時間を作るためにいろいろと手を打つはめになってしまったのです。

探偵に憧れる身で、こんなことしていていいんでしょうか…。

ならば断わればいいという人もいるんでしょうけど、あんなお屋敷の一室に閉じ込められてニコニコニコニコと笑顔で威圧されて自分の言いたいことを言えるほど、私の精神は太くないのですよ!
あぁぁ…ホームズ様…申し訳ありません…都はまだまだ修行不足のようです…。

それに。


『都ちゃんも気づいてしまったように、私は犯罪者。ですが、今捕まるわけにもいきません。そうなると、自分の身を守る必要がありますね?』

『な、なにをするんですか?』

『協力して頂けない場合には、私は怪盗としての能力と生徒会長としての権限をフルに使って探偵クラブを廃部へと追い込みます。それに、先ほどの刑事さんに無用な隠し立てをしてしまった事…お忘れじゃありませんよね?』

こういわれちゃあとりあえずうなずくしかありませんよね…。

「今日は何をお目当てに?」

「それを探るのが、都ちゃんのお役目ですよ?ふふ…頑張ってくださいね」

優雅にほほ笑んで、頼子先輩は言ってしまいました。
そう、私と頼子先輩…いや、怪盗Yとの間に交わされた約束。

『もちろん、ずーっと都ちゃんに協力しろとは言いません。だから、ゲームをしましょう』

『ゲーム?』

『もしこの先、都ちゃんが私の計画を暴き、怪盗Yの犯行を阻止する事が出来たら…あなたを解放してあげます。それができないうちは、あなたは怪盗のお仲間よ』

怪盗Yを止められたら、私は自由。
なにより、これは立派な探偵修行です。


その時、委縮していた私の心に火が付きました。





『受けて立ちますよ、怪盗ヨリコ!』

『私を捕まえられるかしらね…探偵ミヤコ』









こうして、稀代の大泥棒怪盗ヨリコと、駆け出し探偵ミヤコの戦いは始まったのです。






つづく?


これはミステリーの皮を被った娯楽作品です。
謎解きとかトリックとか、そういうモノの穴には目をつぶっていただけると嬉しいなーって。

続くとすれば次からは頼子さんにカッコよく怪盗してもらいましょう。

失礼しました。

素晴らしい(頼子P並の感想)

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