凛「くるりん!回って飛び出せば~♪」 (62)

太陽がお空の真上に上った頃、少し落ちつかない手付きで凛ちゃんが待っている部屋のドアを開きます。

ちょっとだけ寄り道をしていたら、いつの間にかお昼になっちゃってたから慌てて走ってきたの。

ごめんね、凛ちゃん待ちくたびれちゃったよね。

夏が近付き暖かくなってきた所為もあるのかな、部屋の中はちょっとだけ蒸し暑い。

それでも凛ちゃんは花陽の心配なんてお構いなしで、気持ち良さそうに寝てるんだもん。

何だかおかしいけど、それも凛ちゃんらしかなって思います。

あとで窓を開けておかなくっちゃ。

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「おまたせ凛ちゃん、今日は遅くなっちゃってごめんね」

「今日はね、凛ちゃんにお花を持ってきたの」


花陽の声で目を覚ましたらしい凛ちゃんの瞼がゆっくり開く。

凛ちゃんのくりっとした可愛らしい目のどちらの前に花束を差し出そうかちょっと迷っちゃったけど、

やっぱり少し離れた所で正面から見せてあげることにしました。

「綺麗だよね、それにとってもいい香り」

「今日は暖かくて、風も気持ちいいから窓際に置いておくね」


窓から吹き込む風に乗って、優しい香りが部屋を通り抜けていきます。

ほかの人たちよりとっても鼻が効く凛ちゃんなら、香りを楽しんでくれるかな?

お外の空気を吸って、凛ちゃんも心なしか嬉しそうです。

暗い話なのか四肢切断的な話なのか判断できない…

「凛ちゃん、今日も元気にしてた?お腹すいてない?」

「うぅ……やっぱりそうだよね、花陽だったら我慢できないかも……」


そう言うや否や小さな地響きが……!

って、これは花陽のお腹の音でした……

うぅ……恥ずかしいなぁ、凛ちゃんの方がお腹ぺこぺこのはずなのに……

限りなく嫌な予感がするんですけど

「花陽より先に凛ちゃんのご飯だよね、すぐ準備するからね!」

「でも、まず先にうがいをしようね」

「ごめんね、ちょっと息苦しいかもしれないけど我慢してね」


こればっかりは何度やっても慣れません……

凛ちゃんの喉に付いてる呼吸器を外すと、凛ちゃんが聞こえたかどうかわからない程の呻き声を上げました。

「凛ちゃん大丈夫?ごめんね、すぐ終わるからね!」


喉の穴から吸引器の管を差し込んで、溜まった涎や痰を吸い取ります。

他の人たちなら自分で吐き出すことができるけど、凛ちゃんにはそれができないの。

でも、凛ちゃんには花陽が居るから大丈夫だよ。

次は吸引器を口の中に入れて、同じようにお口を洗ってあげるね。

凛ちゃんが唯一変える表情はこの時の辛そうな顔だけです。

凛ちゃんのそんな顔を見てると、花陽も辛い気持ちになっちゃうけど、

一番辛いのは凛ちゃんなんだから、凛ちゃんが少しでも早くあの最高に可愛い笑顔を見せてくれるように

花陽はいつも精一杯の笑顔で凛ちゃんに話しかけます。


「凛ちゃん、綺麗になったよ!気持ちいいでしょ」


でも凛ちゃんは今日も何も答えてくれません。

「おまたせ凛ちゃん、ご飯にしよっか」

「今日はお粥だよ!花陽おすすめのお米で作ったんだ!」

「上手に炊けたからお米の食感が絶品で……」


あ、ダメダメ……違うんです、そんなつもりじゃなくて……


「え、栄養たっぷりなんだよ!……次は、一緒に食べようね……?」

専用の大きな注射器で、ミキサーしたお粥を吸い上げて

凛ちゃんのお腹の穴から胃にゆっくりと流し込みます。


「どうかな凛ちゃん、おいしい?」

「喜んでくれると嬉しいな」

「これを食べ終わったら、デザートにバナナもあるんだよ!」


……お口から食べられるようになったら、一緒に凛ちゃんの大好きなラーメンを食べに行こうね。

「ごちそうさま、凛ちゃん」

「花陽もお腹すいちゃったからごはん食べるね」

「凛ちゃんの隣で食べてもいいかな?」

「やっぱり一緒に食べられると嬉しいから」

「でも食べてばっかりじゃなくてちゃんと運動もしなきゃダメだよ?」


そんなこと言っちゃっても実は……

花陽も最近ちょっと太っちゃったから、今度一緒にダイエットに付き合ってほしいだけなんだけどね。

凛ちゃんはちょっとだけ顔とお腹の周りがぽっちゃりしてきただけで、

もともとスリムで可愛いから、本当はダイエットなんて必要ないんだけど。

親父が倒れて同じように口洗う時
苦しそうだった表情思い出して
涙が出た

支援

思ったより短くなりそうだけど続きは後日書きます

スレタイからは想像もできないような重たい話だったでござる

おっ交通事故かな?とか思いながら開いたらマジで暗い話でわろえなかった

>>1は介護とかやってるのかな?

胃瘻とか話聞くだけで怖いんだが

暗い話が続くけど所詮は便所の落書きだから気楽に読んでね

ふと気が付くと、あの臭いがしました。


「あっ、凛ちゃん気がつかなくてごめんね」

「すぐ取り替えてあげるからね!」

「ごめんね、いつもいつも恥ずかしいよね?」

「凛ちゃんも女の子だし、辛いと思うけど我慢してね……」


凛ちゃんのおむつを外して、綺麗に拭きとります。

新しいものに取り換えると、凛ちゃんも安心したようです。

「じゃあちょっとこれ捨ててくるから待っててね、凛ちゃん」


廊下に出ると少し早めに歩きます。

できるだけ下を向いて、誰にも出会いませんように、と祈りながら。


「あら、小泉さんこんにちは、毎日大変ね」

「星空さんの様子はどうかしら?」

「あ、こ、こんにちは……」

「り、凛ちゃんはいつも通り……です……」


あぁ、やだなぁ……

介護士さんとはいえ、やっぱりあまり見られたくないものなんだけど……

それにこの人はいつもお喋りが長いし、ちょっとだけ苦手です。

「はい、そうですね」

ああ、早く終わらないかな……

「いえいえ、私なんて全然」

早く凛ちゃんのおむつを捨ててしまいたいんだけど……

「好きでやっていることですので」

いつまで続くんだろう……

「お互い様ですよ」

仕事はいいの?あなたを待ってる人が居るんじゃないの?

「そうなんですか、大変ですねぇ」

早く凛ちゃんのところに戻りたい……

「小泉さんが居てくれて、星空さんも喜んでるわね」

「小泉さんが居ないと、何だか元気がなさそうだから」


は?

あなたに凛ちゃんの何がわかるの?

凛ちゃんのことは花陽に任せっきりのくせに。

あなたが花陽と凛ちゃんの何を知ってるの?

他所者が知ったような口を利かないで!


ああダメダメ、まただよ、そんなこと考えちゃダメだってば。

この人だって悪気があるわけじゃないのに。

あなたは悪くないの、花陽の一方的なやつあたりなんです……

花陽は悪い人になっちゃったのかな……

こんなんじゃ凛ちゃんに嫌われちゃうよ……


「そ、そうですかね……」

そんな花陽の気持ちに気付いたかどうかはわからないけれど、

介護士さんは花陽が右手に提げたビニール袋を一瞥すると、

星空さんのことよろしくね、と告げて足早に立ち去って行きました。

頭ではわかっているんだけど、何だか凛ちゃんが辱められているようで、

さっきまでの自己嫌悪以上に胸が苦しくなります。

「凛ちゃんただいま、寝ちゃってるかな?」


凛ちゃんはいつもごはんを食べるとすぐ眠っちゃうの。

小さい頃からずっとそう。

学校でもよく居眠りして先生に怒られてたっけ。

でも今日は珍しく起きてるみたいです。

「良かった、それじゃあちょっとお話しよっか」

「今日のお花はどうかな?気に入ってくれた?」

「ご飯はおいしかった?また明日も作ってくるね!」

「あぁ、花陽のことはいいんだよ、おにぎりさえあれば満足だから!」

「この部屋、1階だけど窓から見えるお庭が綺麗でいいよね」

「凛ちゃん見て見て、猫さんがお昼寝してるよ!可愛いね」


ふと気付くと、凛ちゃんの瞼が落ちてきています。

昼下がりの陽気と、窓の風が気持ちいいもんね、誰だって眠たくなっちゃうよ。


「それじゃあ、お昼寝の時間にしよっか」

「おやすみ、凛ちゃん」

凛ちゃんの頭をそっと撫でてあげると、凛ちゃんは気持ち良さそうに目を閉じたように見えました。

「ふぁ~ぁ……」


あっ、いけないいけない!花陽まで眠たくなってきちゃった。

こんなに大きなあくびが出ちゃって恥ずかしいな……

でも、ほんの少しだけならいいかな?

こんなに気持ちのいい天気なんだし、凛ちゃんと一緒にお昼寝できたら幸せだよね!

こんなことを考えるなんて、花陽はやっぱり悪いことをするようになってしまいました……

ごめんなさい、でも今日だけでもいいから

凛ちゃんとお昼寝することを許して下さい。


『あっ!かよちんだ!かよちーん!』

『かよちんかよちんかっよちーん!』

きゃあっ!どうしたの凛ちゃん、急に抱きついてくると危ないよぉ。

『かよちんあのね、聞いて聞いて!あのね!あのね!』

り、凛ちゃん聞くから、ちゃんと聞くから落ちついてぇ……

『あのね!真姫ちゃんと海未ちゃんがね!凛の歌を作ってくれたの!』

本当に!やったね凛ちゃん!

『すっごく嬉しいにゃー!』

そうだね、真姫ちゃんも海未ちゃんも凛ちゃんの大好きなμ'sのメンバーで

真姫ちゃんも海未ちゃんも凛ちゃんのことが大好きで、

そんな2人が作った歌だもん、それはすっごく素敵な歌なんだろうなあ。

『それでね!どうしても最初はかよちんに聞いてほしくてね!』

『まだ練習してないけど、かよちんを探しにきたの!』

あはは、もう、海未ちゃんに怒られちゃうよ?

『だからね!覚えてるところまでだけど、かよちんに聞いてほしいにゃー!』

もちろん聞くよ!花陽は凛ちゃんの歌が大好きだもん!

『そ、そんなに真剣な顔で見られると恥ずかしいにゃー……』

ご、ごめんね凛ちゃん……

『それじゃあ聞いてね!いっくよー!』

『ちゃ-んちゃんちゃちゃーんちゃっちゃーんちゃららっちゃーちゃららー♪』

あはは、イントロも歌うんだ……

『新しい自分で踊れそう!くるりん!回って飛び出せば~♪』

えーっと、この続きは……忘れちゃった!』

『えへへ、かよちん、どうだったかにゃ?』

すごい!すごいよ凛ちゃん!すっごく可愛かったよ!

『そんな、照れるにゃー』

ううん、すごくいい歌だったよ!いっぱい練習してμ'sのライブで歌おうよ!

『ええっ!無理だよ無理無理!恥ずかしいよぉ!』

そんなことないよ!だって凛ちゃんすっごく可愛いんだもん!

『そうかな……?でも、か……んが……そ……ら……よ』

うん!その意気だよ凛ちゃん!練習頑張ろうね!

『うん……、……ね……』

『…………、………………』



「……グ……、……グゴッ……、カハッ……!」

どこかで聞いたような音で目が覚めました。

居眠りしちゃって夢まで見ちゃってたみたい。

凛ちゃんが幸せそうで楽しい夢だったなぁと、寝ぼけ眼を擦っていると

最初にその目に飛び込んできたのは、目を見開いた苦悶の表情を浮かべ、

喉から異音を発する凛ちゃんの姿。

次に見えたのは、その凛ちゃんのお腹の上で気持ち良さそうに眠る1匹の猫。

あれ?どうして?どうして凛ちゃんが苦しんでるの?

猫が居るからだよ。

どうして猫が居るの?

花陽が窓を開けていたからだよ。

どうしてこんなことになったの?

花陽が居眠りをしてたからだよ。

どうして花陽は居眠りをしちゃったの?


それはね、


花陽が悪い子だからだよ。

「きゃあああああああああ!!」


自分でも驚くほどの大きな悲鳴を上げ、汚い野良猫を凛ちゃんの上から払い落すと、

猫はふぎゃっと間抜けな声を上げて、窓から逃げて行きました。


「凛ちゃん!大丈夫凛ちゃん!しっかりして!」


凛ちゃんはまだ苦しんでる、こういうときはどうすればいいんだっけ!?

ああもうわからない!このままじゃ凛ちゃんが!


「誰か!誰か助けてぇ!」


結局、情けないことに最後に取った花陽の選択は他人に助けを求めることでした。

自分に自信が無くて弱虫だった高校生のときと同じだね。

花陽の悲鳴を聞いた介護士さんが救急車を呼んでくれたみたいで、

凛ちゃんは随分と久しぶりに、ずっと暮らしてた施設を出て、病院に運ばれて行きました。

それからのことはあんまりよく覚えていません。


病院に着くと、そこで真姫ちゃんが待っていて、

他のお医者さんたちと一緒に凛ちゃんをどこかへ連れて行っちゃった。

その後まもなく凛ちゃんのお父さんとお母さんがやって来て、看護師さんに何かを言っていました。

しばらく待っていると、真姫ちゃんたちが帰ってきました。

凛ちゃんのお父さん、お母さんはお医者さんたちと二言三言話すと、

その場にぺったりと座り込んでしまいました。

そんなところに座ると汚いよ?

そういえば、凛ちゃんはどこかに座るときはいつもハンカチを敷いてたなぁ。

そんなところが素敵だったな。

凛ちゃんは誰より女の子らしくて可愛いの。

それから凛ちゃんのお父さんとお母さんが花陽の手を握って、涙を流しながら何か喋っていました。

どうしてそんなに泣いてるの?

お父さんとお母さんが泣いてると花陽も悲しいよ?

凛ちゃんも悲しいよ?


あれ?そういえば凛ちゃんはどこだろう?

もうすぐご飯の時間だから凛ちゃんのところに行かなくちゃ……



「花陽!聞いてるの?ねえ花陽!」

「真姫……ちゃん……?」

「花陽、よかった……やっと応えてくれたわね」

「凛のご両親の話聞いてた?」

「あはは、ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてたみたいで……」

「やっぱりそうなのね、辛いと思うけどよく聞いて」

「お通夜は家族だけで過ごしたいそうよ」

「お葬式については追って連絡するから、って」

「それと、『花陽ちゃん今まで凛のためにありがとう』って」

凛ちゃん?そうだ凛ちゃんだよ!

どうしたんだっけ?

ええっと、一緒にお昼寝してて、起きたら猫さんが居て、凛ちゃんが苦しんでて……


「あ、あああ!凛ちゃんが!凛ちゃんが!」

「そうね、辛いわよね、大丈夫よ花陽」


そう言うと真姫ちゃんは、花陽を優しく抱きしめてくれました。

真姫ちゃんの白衣はお薬の臭いがして、とっても暖かくて

今まで止まっていた涙と言葉が一度に溢れ出してしまいました。

「りっ、凛ちゃんっがああっ!ああああのね、花陽、が、いけないの!」

「はっ、花陽が!悪い子だからっ!居眠りしちゃったから!」

「窓が!窓があ!あいてたの!花陽が!」

「ま、窓を閉めなかったの!猫が!居るって!わかってたのに!」

「花陽ね!しっ知ってた!知ってたの!」

「凛ちゃんが、猫アレルギーだってええ!」

「わかってたのにいいいい!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

「花陽がいけないの!花陽が悪い子だから!」



凛ちゃんが、死んじゃったよぉ……

涙と鼻水で服をべとべとにされながらも、真姫ちゃんはずっと花陽を抱きしめていてくれて、

花陽が落ちつくまで、ずっと頭を撫でていてくれました。

その優しい手付きと、時折聞こえてくる優しい言葉

――花陽は何も悪くないのよ、凛は誰も恨んだりなんかしてないわ――

それが嬉しくて、でもそんな自分が情けなくて。

真姫ちゃんの優しさに甘えていると、ふっと意識が遠のいていくのがわかりました。


『かよちんどうしたの!?』

何?花陽はどうもしてないよ?

『嘘だよ!かよちん泣いてるもん!何か辛いことでもあったの?』

泣いてる?あれ?どうして泣いてるんだろう?

『ねえどうしたの?お腹すいちゃったの?凛のお弁当分けてあげるよ!』

ああ、ありがとう凛ちゃん。凛ちゃんは優しいね。

そうだ、でも違うの、凛ちゃんに謝らなくちゃいけないの。

『謝るって何が?凛はなんともないよ?』

ごめんなさい凛ちゃん、花陽のせいで凛ちゃんが……!

『うーん、よくわからないけど、かよちん元気出して!』

『かよちんが泣いてると凛も悲しいよ』

ごめんなさい凛ちゃん、花陽がいけないの。

凛ちゃんはまだ生きていられるはずだったの。いつか幸せになれるはずだったの。

『かよちん、難しいことばっかり言っててよくわかんないにゃー』

ごめんなさい……

『もう!ごめんなさい禁止!謝られてもわかんない!』

うぅ……ごめんね凛ちゃん……

『ああ!また言ってる!』

それと、凛は今も幸せだよ?だってかよちんが居るんだもん!』

でも!もう一緒に居られないんだよ!

『うーん……それは確かに辛いけど……』

『でもね、それなら凛が居なくてもかよちんには笑っていてほしいにゃー!』

『かよちんが幸せだと凛も幸せなんだよ!かよちんはそんなことも知らないの?』

『今まで、凛のためにありがとう!すっごく嬉しかったにゃ!』

『だからね、これからは凛がかよちんの幸せを祈るね!』

『凛のことなら、ほんの少しだけ覚えてくれてれば十分だから』

『だからね、幸せになってねかよちん!』

目を開けるとまず見覚えの無い天井が目に映りました。

ふと隣を見ると、椅子に座ったままうつらうつらと舟を扱ぐ真姫ちゃんの姿。

花陽が起き上がると、真姫ちゃんも目を覚ましたようです。


「花陽、もう落ちついたかしら?」

「うん……ありがとう真姫ちゃん」

「眠っちゃったから、私の家に連れて来させてもらったわ」


ここが真姫ちゃんのお家かぁ……

大きな部屋だけど細かいところが散らかってるのが、何だか真姫ちゃんらしいな。

「今日はこのまま泊まっていきなさい」

「ええっ、そんな悪いよぉ」

「こんなときまで遠慮しないの!いいから医者の言うことを聞きなさい!」

「それに、友達としても今の花陽を1人で帰すなんてことできないわ」


真姫ちゃんの優しさにまた涙が出そうになります。


「ごめんね、ありがとう真姫ちゃん……」

「お礼を言いたいのはこっちの方よ、凛のこと、今までありがとう」

「そんな、花陽はただ凛ちゃんと居たかっただけで……」

「それが凄いって言ってるの!」

「凛がああなってから、花陽は介護士になって凛に自分の人生を捧げてきたじゃない」

「並大抵の覚悟でできることじゃないわ」

「違うの、褒めないで……」

「花陽は凛ちゃんが居ないと駄目なの……凛ちゃんに依存してただけなの……」


これが本当の気持ちです。

凛ちゃんがああなってしまってから、

目の届くところに凛ちゃんが居ないとどうしようもなく不安で、苦しくて、何も考えられなかったの。

「それでもよ、昔から花陽は自分を卑下しすぎよ」

「ありがとう、真姫ちゃん……」


でも、今は不思議と落ちついた気分です。


「凛はこんなに想ってくれる人が居て、幸せだったと思うわ」

「だからね花陽、今はまだ気持ちの整理がつかないと思うけど」

「冷静に考えられるようになったら、花陽の幸せを考えてみて」

「花陽の……幸せ……?」


そんなこと考えたこともなかったなぁ。

だって凛ちゃんが居れば花陽は幸せだもん。

「そう、花陽はもう十分すぎるくらい頑張って、凛を幸せにしてあげたわ」

「だからね、次は花陽が幸せになる番じゃないかしら」

「凛のことを忘れろとは言わないわ」

「ただ、凛じゃなくてあなた自身にとっての幸せを考えてもいいはずよ」

「凛だってそれを望んでいるはずだわ……もちろん私もよ」


ああ……どうして忘れてたんだろう。

花陽には凛ちゃんだけじゃなくて、素敵な友達がたくさん居たんだってことを。

『でもね、それなら凛が居なくてもかよちんには笑っていてほしいにゃー!』

なんだろう、これ……

『かよちんが幸せだと凛も幸せなんだよ!かよちんはそんなことも知らないの?』

いや、もうわかってるはずなの……

『今まで、凛のためにありがとう!すっごく嬉しかったにゃ!』 『だからね、これからは凛がかよちんの幸せを祈るね!』

だって自分の見た夢だもん……

『凛のことなら、ほんの少しだけ覚えてくれてれば十分だから』

これが都合の良い妄想だって……

『だからね、幸せになってねかよちん!』

でも、今だけは甘えてもいいよね?

凛ちゃんを悲しませないためにも、いつかきっと立ち直ってみせるから。

きっとできるよね……

だって、花陽の幸せを願ってくれる素敵な友達が、2人も居るんだから。

だけどね、最後にもう1度だけ甘えてもいいかな?

ほんの少しだけど気持ちの整理がつくと、今日初めて正面から真姫ちゃんを見つめます。

真姫ちゃんは花陽の顔を見ると、少し安心したように息を吐いて、両手を広げ微笑んでくれたの。

そのままゆっくりと真姫ちゃんに抱きつくと、暖かい腕の中で花陽はまた声上げて泣きました。


おわり

お疲れ様・・・
凄く心に響いたよ

ハッピーでもバッドでもない不思議な感じだな
切なかったけどかよちんの独白とかすごい良かった、乙

おつ

結局凛ちゃんはなんでそんな状態になったの?

読んでくれてありがとう
介護の件は伝聞なんでおかしなところがあるかも
細かい描写を勉強して次はもうちょっと楽しい話を書きます


泣いた

死にネタは扱いが難しいけれど、このSSはお上手だと思うわ

死ネタだけどこういうのは胸糞悪くはならないな


なんとも言えない気持ちになった


良かった

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