ネクロくんとマンサちゃん (20)
雨は嫌いだ。あの日の事を思い出してしまうから。
キミがボクの腕の中で、冷たくなっていったあの日を。今でもずっと、忘れられないあの日を。
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「……おはよう」
ボクはいつものように彼女に朝の挨拶をする。
彼女はボクの方を見てふわぁ、と大きな欠伸をすると、
「おはよう、今日も早いね」
右手をひらひらと振りながら、そう挨拶を返した。
ボサボサの髪を見た感じ、起きてきたのはついさっきだろうか?いや、ボクがいないといつでもボサボサの気もするけど。
ボクは荷物を玄関にどすんと降ろし、そのまま脱衣所へと向かう。自分でも分かるぐらいに臭っている服を乱暴に投げ、ボクは水を浴びる。
「……どう?」
よほどお腹が空いていたのだろう、彼女はボクの言葉にしばらく答えず器を貪っている。
やがて器の中身を空にしてからボクの方を見て、
「……おかわりは、ある?」
そう上目遣いに聞いてきた。
保存用に取っておいた分はあるのだが、保存用はあくまでも保存用だ。そう言葉を返したかったが、彼女の上目遣いを耐え続けられるボクではなく、冷蔵庫に入れていた残り半分を彼女に献上することとなった。
キミは食べないの?おいしいよ?」
流石の彼女もおかわりの時は周りを見る余裕があるのか、器から顔を上げてこちらを見ながらそんなことを言った。
「……大丈夫。お腹、減ってないから」
「ふーん……そっか」
結局おかわりも皿を舐めるまで堪能した彼女は、満足そうに満面の笑みを浮かべるとソファーで横になった。
ボクは器を片付けながら、明日のことについて思慮を巡らせる。流石に連日はマズい気がするが……かと言って代用品もそうそう見つかるものではない。色々と悩むボクの背中に、ふわっと柔らかな感触。
お腹いっぱいになったら、眠たくなっちゃった……」
もう既に半分寝入りそうな声で彼女が言う。
言葉に続きはないが、ボクを離そうとはしない彼女が続けようとしたであろう言葉は一つだろう。
彼女に引っ付かれたまま、さっきまで寝ていたソファーまで彼女と移動すると、ボクもそのまま横になった。
まだ臭わないか少し心配だったが、彼女はそんなこと気にしていないのかぐりぐりとボクの背中に頭を擦りつけて、
「んー……」
と、幸せそうに声をあげている。ボクはと言うと、そんな幸せそうな彼女を堪能しながら目を閉じた。
自分でも気づかないほど疲れていたのか、ゆっくりと睡魔が僕の体を這い上がり包み込む
その感覚に逆らわぬよう、僕はゆっくりと眠りに落ちて行った。
……ん」
体に重みを感じて、ボクは目を開ける。目の前に広がる白い布と、豊満な胸。彼女がボクの上に圧し掛かっている、と理解するのに数秒かかった。
「ご、ごめん。重かった?」
僕が目覚めたことに気付き、素早く飛びのく彼女。あまりにも勢いよく飛びのいたので、そのまま自分の服の裾を踏んでずでんと転ぶ。
噛まれた肩をぱんぱんと払い、僕は彼女に手を伸ばす。そのまま彼女の体を抱きかかえると、真っ直ぐ立たせた。
「えへへ、どじっ……」
彼女が頭を掻こうと上げた腕がふわりと宙を舞う。そのまま腕は壁まで綺麗な弧を描き、ごとんと音を立てて落ちた。
「……」
「……」
無言のままボクはその腕を拾うと、付いている方の彼女の手にそれをポンと渡す。
やはり先延ばしにするべきではなかったらしい。さっきまで表情豊かだった彼女が、虚ろな瞳でボクを見つめ返している。
「……少し出かけてくるね」
聞こえているかは分からないが、彼女にそれだけ言い残しボクは玄関へと急ぐ。
あの状態なら、まだ外へ出ていくことはないだろう。荷物を背中に背負ってからもう一度振り返り、ボクはそう確信して家を後にする。
昨日の今日なもので、あまり派手な行動をしたくないボクは悩んでいた。代用品だって簡単に見つかるものでは無いし、何より代用品の方が取るのに手間がかかる。
頭を捻らせながら森を歩いていると、普段は人気の無い花畑に一人の少年の姿が見えた。ボクはそこで立ち止まり、しばらく少年の姿を観察する。
お目当ての花でもあるのか、地面とにらめっこを続けている少年。周囲への警戒は一切なく、熊でも現れない限りは気付かないだろう。
「……」
ボクは荷物を降ろすと、中身を取り出す。子供は初めてだが、大人とそう勝手が違うという事は無いだろう。予想より早く済みそうで、ボクは小さくほくそ笑んだ。
家へ戻ると、彼女は朝に見た姿そのままで立っていた。虚ろな瞳は完全に何も映さなくなっており、ボクの事にもまったく気付いていないようだが、もちろん死んでいるわけではない。その証拠に、ボクの荷物から漂う臭いに反応して指先がピクピクと動いている。
「……待っていてね、今すぐ準備するよ」
彼女にひらひらと手を振って、ボクは厨房へ進む。今日はそこまで分解に手間取らないだろうと思っていたのだが、意外と肉が硬くなってやり辛い。大きさは関係なく時間経過に問題があるのだ、とボクは変に納得しながら器を運ぶ。
「……」
ボクは器に口を付け、それを一欠片口に含むと、そのまま虚ろな瞳であらぬ方向を向く彼女の口へと運んだ。
柔らかい彼女の唇の感触を楽しみながら、欠片を彼女の口へと流し込む。きちんと飲み込んでくれるか毎度不安なこの方法だが、今回もちゃんと喉が鳴った。
「……あ」
ゆっくりと彼女の瞳に光が戻り、ボクの顔をしっかりと捉えると、
「……おかえり」
優しい表情で、彼女が微笑んだ。ボクはそんな彼女の口元から垂れた血を袖で拭い、
「……ただいま」
そう言葉を返して、小さく微笑み返す。彼女の視線は既にボクの元を離れて器の方へ向いていたので、あまり意味は無かったが。
満足そうに眠る彼女を見ながら、ボクは壁にもたれて溜息を吐く。ここの所、彼女の食事のペースが速くなっている。いや、実はこれが普通の速度で、今まで彼女が我慢していただけかもしれないが。
「……むぅ」
とりあえず彼女が寝ている間に、食料を確保してこなければ……寝起きの度に噛まれていてはたまらないし。
ボクは彼女の寝顔に少し触れてから、また荷物を持って家を出た。
「今度は子供か……」
「獣の仕業にしちゃ連日過ぎるよな、やっぱ」
近くから聞こえてきた声に、ボクは咄嗟に身を屈めた。幸いボクはあまり体格がいい方ではないので、二人の男はボクに気付かず通り過ぎる。
先程の会話、昨日の事を言っているのは明らかだ。やはり間髪開けずにやってしまうとこうなることは分かっていた。分かってはいたが、こんなに早く足が付くなんて。
荷物を木にもたれさせ、一息吐きながら今後について考える。このままでは、隠れ家が見つかるのも時間の問題だろう。となれば、転居も視野にいれないといけない。この辺りを気に入っていただけに、あまり気は進まないが。
「……移動するとなると、多目に保存食が必要だよね」
先程の二人が行った方を見て、ボクは呟くように言う。二人相手は厳しいかもしれないけれど、今は四の五の言っていられない状況なわけで。ゆっくりと荷物を持ち上げ、とことことボクは歩を進めた。
ボクは自分の貧弱さが気に入らないのだが、こういう時は本当に役立つから憎らしい。
いつもより二倍重い荷物を引きずりながら、ボクはそんなことを考えていた。
「……重い」
最悪の場合、途中で解体して持って帰るのも視野に入れねばならないだろう。そんなことを思いながら帰路に付いたボクは、すぐに後悔することになる。
蹴破られたドアに慎重に近づき、ボクは荷物を玄関脇に降ろすと、出来るだけ物音を立てないように中へと進む。踏み荒らされた玄関、靴跡を見るに相手は一人だ。
(……無事でいて)
リビングが見えたところで、誰かの気配にボクは身を隠す。ドアの端から部屋を覗くと彼女の足が見えてきた。少し視線を上にずらすと、真っ赤な水溜りの上に一人の男が立っていて。
「……っ!」
頭に血が上ったボクは、武器を手に取るのも忘れてドアの端から飛び出すと、そのまま男に向って体当たりを食らわせた。
ボクに気付いていなかったのだろう、もろに体当たりを受けた男はその場に倒れ込む。
そのままマウントを取って追撃しようとしたボクの腹部に思い切り衝撃が走り、そのままボクは壁に叩きつけられた。
「いってぇ……なんだこのガキ?」
男は水溜りを踏みつけながら立ち上がると、そのままボクの方へと歩を進めた。受けた衝撃が大きかったのか、ボクの体は言う事をきかない。男に髪を乱暴に掴まれ、そのまま無理矢理立たされるボクの体。
「血の臭い……まさか、お前が……?」
何とかボクの意思が体に伝わり、男の金的を狙って足を振り上げようとした。しかし、その足は男の体を捉える事はなく、ボクの体が再び宙を舞う。今度は彼女の近くにごろごろと転がり、血の水溜りの上で止まった。
「気持ち悪いガキだぜ……こんなガキが、連続殺人犯なのか?」
男が銃口をボクに向けながら、独り言のように呟く。ボクはその言葉に何も返さず、銃口をじっと見つめ返した。
「まぁいいか。どうせ見られたからには生かして返さねぇんだし」
男はそう言って、引金に指を掛ける。轟音が響いて、ボクの頭にかつてない衝撃が走った。ぐわんぐわんと視界が揺れて、彼女の血とボクの血が混ざりあう。もう一度轟音が響き、ボクの体が床にたたきつけられた。
何度も見慣れていたはずの血の色が、今日はやたらと鮮やかに映えて見える。
「……気持ちわりぃガキだぜ、全く」
男が銃を懐にしまい、ボクから視線を外す。外した視線が次に捉えたのは、もちろん彼女の方。
「連れていく前に少しぐらい楽しむのは役得だよな……身なりは悪いが上玉だぜ」
男が伸ばした手に抵抗しようとするが、女の子の力ではどうしようも無く、そのまま彼女は組み伏せられた。カチャカチャと金属の擦れる音がする。
「……」
のんきに寝ている場合ではない。ボクは力の抜けた全身に、ゆっくりと力を込める。
「へへへ……」
男は完全に彼女に夢中で、ボクの方を気にする様子は無い。そのままボクはゆっくりと立ち上がり、彼女が飲んでいたであろう牛乳の入っていたコップを握ると、そのまま叩きつける。ガシャン、と大きな音を立ててコップが割れた。
「……あ?」
突然の音に振り返った男の首元に、ボクは思い切り割れたコップを突きたて、そのまま横へと振り抜く。真っ赤な血が弧を描いて噴き出した。
さっき見た血よりも汚らしい、見るに堪えない血。
「か……は?」
何が起きたか分からない、と言った表情の男にボクは再度コップを突き刺す。何度も、何度も、何度も。やがてコップの中身がトマトジュースだったと思えるほどになってからボクはコップを脇へ投げた。
「ば……け、も……」
まだ声が出ることに驚いたが、どうやら最後の断末魔だったらしく男はすぐに動かなくなった。男が動かなくなったのを確認して安堵したのか、彼女がボクの元へと駆け寄ってきた。不快な返り血がべったりと付いた服で彼女を受け止めるのは気が引けたが、今は彼女を安心させるのが最優先だ、とボクはそのまま彼女を抱きしめた。ふんわりと柔らかい彼女の髪が、ボクの頬に触れる。
「怖かった……怖かったよぉ……」
ボクは彼女の頭をぽんぽん、と優しく撫でてあげる。しばらくボクの胸で縮こまっていた彼女だが、やがて落ち着いたのかボクの胸を離れて椅子に座った。ボクの方へ物欲しそうな視線を向けている所を見ると、そう言う事なのだろう。
ボクは汚い血の付いた服を脱ぐと、そのままゴミ箱へ放った。本当は一風呂浴びてから着替えたかったが、彼女を待たせるわけにはいかないのでそのまま替えの服を着る。
やはり硬さは鮮度に依存するらしく、今回は簡単に解体することが出来た。
「もぐもぐ……本当にキミは食べなくていいの?」
「……うん、お腹空いてないから」
いつもの会話をしながら、ボクは天井を見ていた。考えている事は、今後どうするかについて。先程の男は、きっと近隣の村に雇われてきたのだろう。しばらくすれば今日よりもっと多くの人がここへ来ることになる。そうなると流石に面倒だ。
「……引っ越そうか?」
「……私のせい?」
器から顔を上げた彼女の瞳が、ボクの方を見る。悪いことをした子供のような、不安そうな瞳。ボクはそんな彼女の頭をまたぽんぽんと撫でて
「……うぅん、ボクのせい」
とだけ返して、微笑む。そう、彼女がこうなったのはボクのせいなのだから。だから全部、ボクのせい。
本日快晴、お日柄もよく。ボクと彼女は手を繋いで道を歩いていた。
保存用に加工した食料はしばらく持つし、久しぶりに彼女と散歩気分で歩くのは気分がいい。彼女もそうなのか、ボクの方を見てニッコリ笑った。
「次はどんなところかな?」
「……うーん」
どこまでも続いて見える道を見つめてから、ボクは彼女の方を見て笑う。
「キミと一緒なら、どこでもいいよ」
尾張
よそで書いたけど誰にも読んでもらえなかったので
こっちでも読まれなかったらもうどうしようもないな
ちょっと気になったが、この話の「きみ」は「ぼく」が蘇生させた「人肉を食わないと機能停止するゾンビのようななにか」で、「ぼく」は「殺しても死なないなにか」という解釈でいいの?
>>18
そんな感じです
一応設定は作ってますが続き物臭くしようとして書いてません
まぁ続き必要無かったわけですが……
続き欲しいな
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