スタッフ「本番まで5……4……3……2……」 (95)

スタッフが大きく腕を回す

観客はそれを合図に拍手をする

そしてスポットライトを裂くようにして

登場するのはこの人

俺と

お前と


司「レディースアンジェントルメェーン」

司「今夜も生放送でお送りしまーす」

司会者は丁寧にお辞儀を繰り返す

スポットライトを相変わらず独占

カメラは中央に

大五郎


司「今日は少し元気ないようだね」

周囲の状況を見ながら言う

観客からはそんな事無いよと言う

司「まあ、どっちでもいいんだよ」


司「来てくれるだけ僕のマネーになるからね」

笑いがおきる

一度掴んだら離さない


司「この前体調おかしくて病院行ったんだ」

ここから暫しフリートーク

司会者はゆっくりと且つハッキリと言葉を出す

観客は各々好きな表情で聞いている

それをカメラは撮し

またカメラは中央へ


司「でさ、検査結果なんだけど」

と言ってから違う話題に飛んでいく

いつものことである

それでも観客は付いて来る

まるでリールに繋がれてるかのように

ただ話に従っていく


司「さて、そろそろ行きましょうか」

司「今夜も始まります」

そう言うとカメラは司会者を外し

ステージに下ろされた横断幕に

其処にはこう書かれている


【世界の○○者に密着】


いつの間にか用意されている赤いソファー

そこに足を組み座っている

手には一枚の紙

司「さて、今日はどん方なんでしょうか」


そして、また会話は脱線する

なかなか紹介しない

司「ってか、そこの貴女はもしかして」

突然観客を指差した

観客弄りも得意だ

カメラは指先の観客に

ライトも追いつく


司「この前僕と一緒に週刊誌載ったけ?」

先日週刊誌で取り上げられた事をネタにする


生放送故に一度発言したら皆の耳に

スタッフ含め観客も笑いが

司「あっ、違ったか」

司「でも、あとでLINEのID教えてね」

また笑いが


司「さて今回は」

カメラが司会者に

ゆっくりと紙開く

司「珍しい」

司「顔出しOKで実名ですね」

観客からは驚きの声が


司「【西中島 南方】さん、実業家の32歳」

実業家……金持ちだね、と司会者

観客からはブーイング

司「まあまあ、僕がお金あるのは当然でしょ?」

笑いが起きる


飽きること無く笑いは起きる

カメラはその都度観客へ

そして中央へ


司「通称【あてる男】です」

あてる

あたる

当たる

当たりは嬉し外れは悲し

誰かが当たれば誰かは自ずと外れる


司「どういう事なんでしょうか」

司「そう言えば最近何か当たった覚えが」

司会者が何かを思い出そうとした

ライトは変わらずそこを照らし

カメラは観客から司会者へと

最初はロック…


司「あっ、そうだ」

司「腹痛の原因がサバであたったんだ」

笑いが起きる

観客はお腹を抱えて笑う

うちの近くに西中島南方って駅があったような・・・


司「では早速彼の一日を見ていきましょう」

スタジオはゆっくりと暗くなり

モニターが映し出す

黒い背景に白文字で


【あてる男】

>>22
はい、間違いなく
最寄り駅でございます


━━━はじめまして

男「今日はよろしくお願いします」

男「あれ、少し緊張してるように見えますが」


━━━はい、少しだけ緊張しています

男「おかしな人達だな」

男「緊張するのは僕の方だろ?」


━━━そうなんですが、なんと言いますか

━━━この様な場所はなかなか来ないので

男「ああ、そんなこと」

男「ここのフランス人オーナーが気さくでね」

男「腕も一流口も一流で頻繁にくるんだ」


━━━なるほど、リラックス出来るんですね

男「そうだね、ここは仕事をオフに出来る場所」

男「特別なんだ」


━━━主役のリクエストを出来る範囲で答えますが、なかなか、その

男「いきなりお金の話ですか」


━━━あっ、そんなつもりは、気分を害されたらすいません

男「イヤ、そんな事無いですよ」

男「大丈夫ですよ、ここは僕が出すんで」

男「オーナー、美味しいワインを彼達に」


━━━いえいえ、仕事なので

男「主役のリクエストは答えてくれるんだよね」

男「これが範囲外だったら全て外に当てはまるんだけど」

男「僕の中では、ね」


━━━すいません、御言葉に甘えさせて頂きます

男「話がわかる人で良かった」

男「早速この番組に出て良かったと思わされたよ」


━━━ありがとうございます

男「礼を言いたいのは僕さ」

男「司会者の彼が僕を見つけ出したんだろ?」


━━━そこら辺は内緒と言うことで

男「まあ、いいよ」

男「あまり期待はしてかなかったしね」
 
男「僕はね、あてるんだ」


━━━あてる?

男「まあ、見ててよ」

━━━徐にポケットからコインを取り出した


男「投げて裏か表か出るよね」

男「僕は絶対に当てるよ」

━━━二分の一だとは言え絶対と言う強気の言葉を使う自信


男「いくよ」

━━━指で弾いたコインは天井スレスレまであがる

━━━それは落ちるや彼の手の甲に綺麗に収まった

━━━そして言い当てた


男「ほらね」

━━━それを一度のみならず何度もトスをして

━━━全部当ててしまった

男「これで理解してもらえたかな?」


━━━はい、スゴいですね

男「まあ、二分の一だけどね」

男「それ以上は当たらないんだ」


━━━強運とはまさにこの事ですね

男「強運……とは違うかな」


━━━と、言いますと

男「運も実力のうちなんだって思ってる」

男「権力とかさ、なんたらとか」

男「全て兼ね備えている中の運があるんだって」

男「勿論運だけで成り上がるなんて夢物語だけど」

男「それが無いと夢すらも語れない」


━━━なるほど、全てはご自身の力あってこそ

男「まあ、要約すればね」

男「それよりさ……」


━━━はい

男「後ろの人大丈夫かな」

男「僕がコイントスしてるときに入ってきたんだけど」

男「急に顔色悪くして肩で息をしてる」


━━━お連れ様の方も同じようにしてますね

男「オーナーに知らせておこう」

男「すいませーん」



━━━数分後救急車が来た

━━━腹痛を訴えていた両名は

━━━運ばれいった

━━━このレストランに入り

━━━直後だった為特に問題視はされなかった



━━━いや、驚きましたね

男「また、だ」

━━━また?

男「僕が何か喜ぶと誰かが目の前で不幸になってる」

男「そんな気がするんだ」

男「まあ、考えすぎなんだろうけど」


━━━頻繁に救急車を呼ぶんですか?

男「まあ、そうだね」

男「大抵はああ言った腹痛なんだ」

男「だから、あまり気にもしてなかった」


━━━人命救助に一役買ってるんですね

男「いや、そんなことないよ」

男「一度だけ助け出せなかったこともある」


━━━差し支えなければお話下さい

男「いいよ、もう何年も前だ」

男「取り敢えずワインをおかわりしよう」

男「みんな僕に付き合ってくれ」


━━━グラスにワインをそそぐ

男「さて、僕にはね」

男「この仕事する時最愛の人がいたんだ」


━━━はい

男「当時、この会社を立ち上げて間もなくてね」

男「それこそ成功するか失敗するかの二者択一だった」

男「結果的には成功したんだけどね」


━━━そうですね

男「でも、その彼女は僕の成功を隣で見守ってくれなかった」

男「事故したんだ」

男「彼女飲酒運転して赤信号を無視して交差点に入っていった」

男「トラックが横から出てきて」

男「それで、ね」


━━━━なるほど

男「奇跡的にトラックの運転手は無傷だったんだ」

男「でも、おかしいんだ」

男「彼女普段はアルコールを呑まない」

男「ましてや、車の免許あれどペーパードライバーだった」

男「なんで突然そんなことしたんだろう」


━━━なんと言えばいいか……

男「返答に困るよね」

男「十中八九彼女が悪いわけだし」

男「運転手が無傷だけだっただけでも残された方は救われただろうし」


━━━不運の連鎖、ですね

男「不運、か」

男「運が実力だとしたら」

男「不運はどうなんだろう」

男「今もふと思い出して考えるんだ」

男「でも、どうやら僕には答えはわからない」

男「だって僕には実力があるから」

━━━彼はそう笑った

━━━それでもやはり寂しそうな笑みだった

【BGM】



スタジオが明るくなる

カメラは観客から中央にいる司会者へ

司「なるほどね」

司「強運の持ち主は、それを実力と呼ぶ」

司「そうでない人間は、どうか」


観客は考える

カメラも沈黙を克明に映し出す

司「強運の彼が、もし不運を招いてたとしたら」

司「そんなことあるんでしょうか」


ざわめきが起きた

まさかの発言だったようだ

彼のせいで誰かが不運な目にあうなんて

司「それでは一旦CMです」

【BGM】

続けてもいいですか
ありがとうございます
すいません
お願いします


【BGM】

司「早速後半を見ていきましょう」

スタジオは暗くなり

フワリとモニターの明かりだけが

スタジオに映し出された 


━━━まだワインはグラスに残っていた

━━━なんと言ってこれを飲みきればいいのだろう

男「そうだ」

━━━━彼は残った力で笑みを作り出していた


男「それで僕は恋なんてしないなんて思ってたんだ」

男「だけど、この度婚約することにした」

男「僕の過去を優しく力強く包み込んでくれるような人」

━━━それはおめでとうございます

━━━ワインを飲むタイミングが出来た


男「ありがとう」

男「まだ不安だけどでも僕が不安だなんて似合わないしね」

━━━彼はやっと普通に笑っていた

男「それにね」


男「新しい事業に挑戦しようかなって」

男「そう思ってるんだ」

━━━と、言いますと

男「今ね、再度人生の分岐点にいるんだ」

男「成功か、失敗かの」

男「この新しい事業するか否かはまだ決めてないんだ」


━━━新たな一歩ですか

男「あっ、そうだ」

男「今度この番組に出させてよ」

━━━今出られてますが

男「違うよ」

男「そうじゃなくて、スタジオに呼んでよ」


男「その時に挑戦するか否か決めるし」

男「なんだったら婚約者も連れていくよ」

━━━なるほど、それは面白い


司「と言うことで」

突然明かりがついて

座っていた司会者が立っている

モニターは消えている


司「ご紹介しましょう」

司「盛大な拍手でお出迎え下さい」

スタッフが腕を回す

観客は割れんばかりの拍手を


司「【西中島 南方】さんです」

紹介されてゆっくりと歩いて登場する

落ち着いた赤のスーツが似合っている

隣には婚約者がいる


司「はじめまして」

男「会えて光栄です」

互いに握手する

司「お美しい方だ」

司会者が婚約者を誉める

一段と俯く

観客からは顔を見せてとリクエストが


男「すまない、彼女恥ずかしがり屋なんだ」

司「貴方とは違うタイプですね」

男「だから惹かれたんだ」

観客からは笑いが

カメラが忙しなく動く


司「さあ、お掛けください」

いつの間にか対面式に置かれた赤いソファー

司「改めまして【西中島南方】さんと婚約者の【桃山南口】さんです」

拍手が沸く

ライトは二人を照らす

懐かしい文体


男「まさか本当に出させて頂けるとは」

司「この番組始まって以来初めてのゲストですよ」

男「なんと、僕は運がいいようだ」

司「ん?どなたが腹痛になられた方いらっしゃいませんか?」

観客からは笑いが

二人も笑っている

カメラは二人を離さない


司「運も実力で手に入れた貴方だから実感ないでしょうが」

司「僕がこのステージにあげるなんて本当珍しいんですよ」

司「スタッフにすら立たせたくないくらいだ」

男「それはそれは」

>>73
ありがとうございます
懐かしんでもらえて光栄です


二人の男の会話に周囲は夢中になる

内容も豊富で飽きが来ない

旬な二人

ライトは相変わらず真上に


司「さて、こんな無駄話は収録後にして」

観客からは笑い

司「そろそろ先程決めかねていた決断を」

男「わかったよ」

男は立ち上がった

女は相変わらず俯いて恥じらっている

時に男に目をやる以外は下を


男「この度僕はスマートフォン業界に参戦します」

そう言った時から

彼が成功するのは決まっていた

それはもう止めれない運命

彼の決めた運命

故に代償を


司「なるほど、そうですか」

司会者が言った時

頭上で不信な音

見上げる三者

墜ちてくる照明機材


司「代償はこれか」

時間はゆっくりと動いた

誰もが目線をずらさずにそれを見ていた

隣にいた男ですら

見ていただけだった

数秒後悲鳴が響きわたる

カメラは終始を収めていた

彼女の頭上に墜ちるまでを


男「う、嘘だろ」

飛び散っている赤い液体

彼のスーツにも恐らくついてるであろう

スタッフは慌てている

観客は絶叫を


司「あっ、なるほど」

番組が終わる頃

一言こぼした

司「だから【あてる男】か」

司会者の声が耳に残る












【あてる男】

終わり






駄文で大変申し訳ございません
以前から此方で時々書かせて頂いております故
もしお気に召して頂ければ検索して下さい
すいません
ありがとうございます

何かございましたら
お願いします

よかったよ

>>85
ありがとうございます
そう言って頂けて光栄です
すいません

わくわくしない(´・ω・`)

当てにならない男

不思議な空気感はある
ザ・クイズショウを思い出した

でも盛り上がりがなかった
気づいたら終わってた
伏線が全て不発に終わってる

>>89
これ

貴重なご意見ありがとうございます
今後このような形のSSを投下していきたいと思いますので
参考にし、また皆様が楽しく読めるように努めていきます
本日は大変お見苦しい作品を投下してしまい申し訳ございませんでした
ありがとうございます

乙!
独特の雰囲気がめっちゃよかった!

>>1
中だし展開と思ったわ

はずかちぃ//

雰囲気小説
文才はある

またかいてね

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