武術家「なぜウチの道場に門下生が一人もいないんだ!?」 (30)

<道場>

武術家「だあっ!」シュッ

娘「でやっ!」バシッ

武術家「うむ、なかなかやるようになったな。父として鼻が高いぞ」

娘「オス! お父さんこそ、ますます技に磨きがかかってるね!」

武術家「ふふふ、まだまだ若い者には負けられんよ」

武術家「……しかし」

武術家「なぜだ!?」

武術家「なぜウチの道場には門下生が一人もいないんだ!?」

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武術家「ようやく念願だった道場を開いたまではよかったが、誰一人入門してくれない!」

武術家「なぜだ!? どうしてなんだぁぁぁ!?」

娘「お父さん……このままじゃマズイよ……」

武術家「うむ、日雇い労働でどうにか食ってはいるが、このままではそっちが本業になってしまう!」





男「お困りのようですね」

武術家「貴様、何者だ!?」

娘「まさか入門希望者!?」

男「あ、いえ……私、こういう者です」スッ

武術家「“何でも屋”……?」

男「はい、文字通りどんな依頼でも引き受けます。おっと犯罪は除きますが」

娘「何でも屋さんがウチの道場になんの用? なにも依頼なんかないわよ?」

娘「まさか門下生を増やしてくれる、なんてことはないだろうし」

男「そのまさか、だといったら?」

武術家&娘「え!?」

男「私に任せていただければ、この道場はすぐにでも繁盛いたしますよ」

武術家「そんなことができるのか!?」

男「できます」

娘「どうやって!?」

男「宣伝をするのです」

武術家「なるほど、宣伝……!」

娘「そんなこと考えたこともなかったわ!」

男「とりあえず、近所の公園で演武をしてみるというのはどうでしょう?」

男「なるべくゆったりしたペースで型稽古をこなすのです」

武術家「うむ……やってみるか!」

男「私に任せていただければ、この道場はすぐにでも繁盛いたしますよ」

武術家「そんなことができるのか!?」

男「できます」

娘「どうやって!?」

男「宣伝をするのです」

武術家「なるほど、宣伝……!」

娘「そんなこと考えたこともなかったわ!」

男「とりあえず、近所の公園で演武をしてみるというのはどうでしょう?」

男「なるべくゆったりしたペースで型稽古をこなすのです」

武術家「うむ……やってみるか!」

武術家「我が流派に伝わる型、始めっ! ゆったりとな!」

娘「オス!」

武術家「……」ユラー

娘「……」ユラー





「プッ、だっさーい」 「なにあれ?」クスクス 「ラジオ体操じゃね?」

武術家「全然ダメだったじゃないか!」

娘「笑い物にされて……むしろ評判が悪くなった気がするわ!」

男「うーむ……型稽古は素人には分かりにくかったようですね」

男「なら次は筋肉を見せつけましょう!」

男「武術家さんの体にたっぷりオイルを塗って、肉体美を披露するのです!」

武術家「たしかに体つきには自信がある……やってみるか!」

武術家「むんっ!」ムキッ

武術家「ぬんっ!」ムキキッ

武術家「ふんっ!」ムキキキッ





「すっげーガタイ!」 「すごいけど気持ち悪い……」 「今時マッチョってのもねえ」

武術家「気持ち悪いっていわれちゃったぞ! どうしてくれる!」

娘「あれじゃお父さんが可哀想よ!」

男「落ち着いて下さい。まだ方法はあります」

武術家「どんな方法だ?」

男「エンターテイメント性を追求するのです」

男「お二人で、踊りながら瓦を割るというのはいかがでしょうか?」

武術家「ホップ!」パリーンッ

娘「ステップ!」パリンッ

武術家「ジャーンプ!」パリリーンッ





「うさんくせー」 「ああいうのってインチキなんだろ」 「瓦さん、かわいそう……」

武術家「宣伝どころか、インチキ呼ばわりされてしまったぞ!」

娘「笑い物を通り越して、詐欺師父子みたいな評判が立っちゃってるわよ!」

男「でしたらいっそ開き直って、もっとわざとらしくしましょう」

男「お二人でヒーローショーのような戦いをやるのです!」

男「きっと子供にはバカウケですよ!」

武術家「パーンチ!」ペチッ

娘「あーれー!」ドサッ





「ひっでえなぁ……なにあれ」 「あの武術家、ここまで落ちぶれたのか」 「もう見てらんないよ……」

<道場>

武術家「――なんなんだ、あの何でも屋は!?」

武術家「あの男のいうとおりにしてたら、どんどんひどくなるばかりだ!」

娘「うん、昔は門下生こそいなかったけど、一応武術家父子として一目置かれてたところがあったけど」

娘「今やそういう評価すら失いつつあるわ……」

武術家「しかも……今日はなぜかあの男は姿を現さないし……どこへ消えた!?」





刑事「あの――」

娘「あなたは?」

刑事「私、こういう者です」スッ

武術家「警察手帳……刑事さんか。いったいなんの用です?」

刑事「実は私、悪質な地上げグループを追っておりまして、捜査をしている最中なのです」

武術家「地上げグループ?」

刑事「はい、色んな店に出向いては評判を落とすような工作をしたり」

刑事「時には暴力に訴えて、人を立ち退かせ、その土地をよそに売り払うというグループです」

娘「……暴力団ってやつ?」

刑事「いえ、近頃の暴力団はそういった直接的な手段は使いません」

刑事「グループの中核をなしているのは、いわゆる“半グレ”と呼ばれる若者たちです」

武術家「腕力と知恵に自信がある若造たちが徒党を組んでいるわけか。けしからんことだ」

刑事「ちなみにメンバーの一人は……この男だということが分かっています」ピラッ

刑事「表の顔は“何でも屋”で、現在どこかの店の評判を落とす工作をしているらしいのです」

武術家「――こ、こいつは!?」

娘「あの男じゃない!」

刑事「……ご存じでしたか!」

武術家「刑事さん、この男は今どこにいるんだ!?」

刑事「この男……というよりグループは町外れの廃ビルに巣食っているらしいのです」

刑事「ですが人数も多く、逃がしてしまうと元も子もないので、我々としても手を出しづらく……」

刑事「しかし、近いうちに必ず逮捕してみせますので!」スタスタ



武術家「そうか……ヤツは地上げグループの手先として、この道場の評判を落としていたのだな!」

武術家「むうう、許せん!」

娘「警察なんかに任せておけないよ! 叩き潰してやろう!」

<廃ビル>

リーダー「おい何でも屋……あのボロ道場の連中、本当にもうすぐ立ち退くんだろうな?」

男「ああ、大丈夫だ」

男「俺の工作で評判はだいぶ落ちたから、あとはアンタら全員でボコってやればいい」

男「そうすりゃ、あいつらも恥ずかしいやら情けないやらで道場を畳むしかなくなるさ」

男「なあに、奴らは武術家といっても三流。こんだけ人数いればやれるさ」

リーダー「へっへっへ、そうだな」

リーダー「あの道場の立地なら、高く買い取ってくれる連中はいっぱいいるぜ」

リーダー「これだから地上げはやめらんねえ!」

武術家「――見つけたぞ!」ザッ

娘「あんた、わざと私たちの道場の評判が落ちるよう仕組んでたのね!?」ザッ



男「!」

男「よくここが分かったな……その通りだよ」

男「俺は何でも屋として、この人たちから道場の評判を落とすよう依頼されていたのさ」

リーダー「へっへっへ、わざわざ道場までボコりにいく手間がはぶけたぜ」

リーダー「安心しろよ。てめえらの道場があった土地は、俺たちが高く売りさばいてやっから!」

武術家「貴様ら……!」

男「あとはお前らがボコられるシーンをこのカメラに撮って、動画サイトにアップすれば仕事は完了する」ジーッ

男「道場の評判は地の底まで落ちて、立ち退くしかなくなり、地上げ完了ってわけだ」

男「さあ、やっちまってくれ」

リーダー「おう! やっちまえ!」



武術家「ふん……お前たち、我々をナメすぎだ!」

娘「いっとくけど、手加減しないからね!」

武術家「どりゃあっ!」

ドゴッ! バキッ! ガッ!

「ぐほぉっ!」 「うげえっ!」 「いたぁい!」

娘「だあっ!」
 
バキッ! ベキッ! ドッ!

「ぐええっ!」 「ぎゃああっ!」 「ぐわぁっ!」



リーダー「なんだこいつら!? メチャクチャつええじゃねえか!?」

男「30人をあっさりと……!」ジーッ

武術家「あとは貴様らだけだな」

リーダー「く、くそうっ! ブッ殺してやる!」ダッ

ボゴッ!

リーダー「ぐはぁぁっ!」ドサッ

武術家「さあ、ラストは貴様一人だ! 何でも屋!」

男「……ふっ」

男「あいにく俺は勝てない喧嘩はしない主義だ。ここは退散させてもらうよ」ヒョイッ

武術家「ああっ! ビルから飛び降りた!」

娘「なんて身軽さなの!?」

武術家「くそっ、逃がしたか……!」

武術家「まあいい、こいつらは全員あの刑事さんに突き出してやろう」



リーダー「あうう……」ピクピク…

<道場>

武術家「うまい話に騙されかけたが……結局、門下生を劇的に増やす方法なんてのはないんだ」

武術家「これからも地道に鍛錬を続けていこうじゃないか」

娘「そうだね、お父さん!」



ワイワイ…

「あの動画、メチャかっこよかったです!」 「弟子にして下さい!」 「見学したいんですけど……」

ワイワイ…



娘「お父さん……門下生になりたいって人がいっぱい来てるよ!」

武術家「これは……どういうことだ!?」

娘「お父さん、お父さん!」

娘「有名な動画サイトに私たちの戦いがアップされてる!」

武術家「……本当だ!」





 【動画】武術家父子が悪質な半グレ地上げグループ相手に無双!

 再生数 11,598,154

 コメント:DQNどもざまあwwwwww

 コメント:俺も格闘技経験者だけどこの二人は本物だわ

 コメント:まるでカンフー映画みたいだ!

 コメント:スカッとする動画

 コメント:TUEEEEEEEEEEE!!!





武術家「一体誰がこんなことを……?」

<警察署>

刑事「――今回の依頼“地上げグループ壊滅”の成功報酬だ」パサッ

男「毎度どうも」

刑事「しかし、うまくやったものだな。あの父娘に地上げグループを退治させるなどと」

男「地上げグループがあの道場の土地を欲しがってたんでね」

男「何でも屋として双方に近づいて、うまくぶつけてやったまでですよ」

男「刑事さんにも廃ビルへの案内役として、ご協力いただきました」

刑事「ところで……あの動画をアップしたのはお前だろう?」

男「ええ、利用させてもらったので……ささやかな恩返しといったところです」

男「きっと今ごろ、あの道場は繁盛してることでしょう」

男「よく食い物のCMは“うまそうに食ってるところを見せるのが一番”って言いますけど」

男「武術のCMだって“メチャクチャ強いところを見せるのが一番”に決まってますからね」





おわり

以上で終わりです

>>5が二重投稿になってしまいました
失礼いたしました

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