モバP「葡萄酒の香りに誘われて」 (7)


「Pさん、今日は予定空いてるかしら?」

 ワイングラスを傾けながら話しかけてきたのは柊志乃さん。うちのアイドルだ。
 最初に出会った頃からお酒を持っていたのには面を食らったが、今ではお酒を持っている姿に慣れてしまってお酒を持ってないときを見たほうが驚くくらいである。
 普段はお酒を当然のように飲んでるし、それどころかレッスン中やインタビュー中もワイン片手にこなす。流石に見かねて一声かけたが、

「これは私の血よ? これがなかったら私動けなくなって倒れちゃうわ」

と言われてしまった。
 なので、精一杯の抵抗に「次のライブでファンの受けが悪かったらライブのときだけはお酒を飲むのをやめてもらう」と条件をつけて止めようとしたのだがこれがまずかった。
 志乃さんがメインのライブを行うときには志乃さんが「いつもワインを飲むアイドル」として知れ渡っており、いつも赤く染まってる頬や惜しげもなく披露される色気がファンを沸かせて、ライブは大成功してしまった。プロデューサーとしてはライブが成功して嬉しかったが個人的には苦い思いをした。そのとき志乃さんに言われた

「私の勝ちね。もっとも、負けるとは微塵にも思ってなかったけど」

という台詞と勝ち誇った顔が今でも鮮明に思い出せる。悔しかったが、それ以上に美しかった。


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「Pさん、今日は予定空いてるかしら?」

 ワイングラスを傾けながら話しかけてきたのは柊志乃さん。うちのアイドルだ。
 最初に出会った頃からお酒を持っていたのには面を食らったが、今ではお酒を持っている姿に慣れてしまってお酒を持ってないときを見たほうが驚くくらいである。
 普段はお酒を当然のように飲んでるし、それどころかレッスン中やインタビュー中もワイン片手にこなす。流石に見かねて一声かけたが、

「これは私の血よ? これがなかったら私動けなくなって倒れちゃうわ」

と言われてしまった。
 なので、精一杯の抵抗に「次のライブでファンの受けが悪かったらライブのときだけはお酒を飲むのをやめてもらう」と条件をつけて止めようとしたのだがこれがまずかった。
 志乃さんがメインのライブを行うときには志乃さんが「いつもワインを飲むアイドル」として知れ渡っており、いつも赤く染まってる頬や惜しげもなく披露される色気がファンを沸かせて、ライブは大成功してしまった。
 プロデューサーとしてはライブが成功して嬉しかったが個人的には苦い思いをした。そのとき志乃さんに言われた

「私の勝ちね。もっとも、負けるとは微塵にも思ってなかったけど」

という台詞と勝ち誇った顔が今でも鮮明に思い出せる。悔しかったがそれ以上に美しかった。


「…ねぇ、聞いてる?」

 その声で思い出から現実に戻る。スケジュールを確認して、今日は予定が空いてないと志乃さんに伝える。

「そう……楓さんはどうだったかしら…」

 眉を寄せてそう呟いた志乃さんは、顔を背けてグラスに残っていたワインを一気に飲み干した。これまでの付き合いで判明した志乃さんの不機嫌であるサインだ。
 そして勢いよく立ち上がると彼女は、

「レッスンの時間だから…行ってくるわね」

と、まっすぐブレない歩みで事務所を出て行った。今思うと、あの人が酔って千鳥足になったところを見たことがない。
 そして、志乃さんが不機嫌なままレッスンに行ったということは、またトレーナーさんが犠牲になるかもしれない。
 以前志乃さんがレッスンのときにワインを飲んでてトレーナーさんに注意されたときはしれっと

「これはスッポンの生き血よ。スタミナがつくからあなたも飲んでみる?」

なんて言ってトレーナーさんに飲ませて酔わせてレッスンがままならなくなったときがある。

「まぁ…赤ワインで割ってあるのだけどね?」

と、飲んでから補足した志乃さんを見たトレーナーさんは、後日僕に言った。

「最近、志乃さんによくお酒を飲みに行くお誘いをされるようになりました…悪いことではないんですが……」

 トレーナーさんはどうやら志乃さんに気に入られたらしい。羨ましい。


「戻ったわ」

 レッスンから帰ってきた志乃さんは上機嫌だった。トレーナーさんをいじり倒してきたのだろうか。

「ただいま帰りました」

 そう言って志乃さんに続いて楓さんが事務所に現れた。なるほど、飲む相手が見つかったから上機嫌なんだな。
 よく見ると二人ともじんわり汗をかいていて、正直とても色っぽい。デスクに向かって平静を装ってはいるが、心の内はリオのカーニバル状態である。この魅力を強く語りたい。
 カチンと音がしたので振り向くと、志乃さんと楓さんが飲み始めていた。
 小さい子が帰ってきたらやめてくださいねと言ったら

「はーい、子どもの前ではお酒は避けましょう…ふふっ」
「はーい、子どもの前ではお酒は避けましょう…んふ」

最後の笑いの部分だけズレたがきっちりハモってくれた。もう何度もしたやり取りである。
 そのあと、すっかり日も暮れて、昼間は賑わっていた事務所の中も静かになった。
 僕がキーボードを叩く音と、志乃さんと楓さんが新しくグラスにワインを注ぐたびにカチンとなる乾杯の音だけが存在感を出している。


「じゃあ私、そろそろ帰りますね」

 楓さんがとうとつにそう言ってソファから立ち上がった。あれ、今日は志乃さんと飲むのではなかったのだろうか?

「そうね…楓さん、付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ」

 志乃さんがそう言ったので、やはり今日、楓さんと志乃さんの二人で飲む予定はないらしい。
 楓さんがゆるく手を振りながら僕の横をすり抜けて事務所から出ていく。これでこの事務所には二人だけとなった。
 志乃さんがもったいぶってゆっくり帰り支度してるのを見ながら僕は変わらずキーボードを叩き続ける。

「ねぇ、Pさん。私も出るけど…いえ、なんでもないわ……お疲れ様」

 支度を終えた志乃さんが楓さんと同じように僕の横を通り過ぎた。
 そのとき、葡萄酒の香りがはなをくすぐって、思わず僕は志乃さんを呼び止めた。
 朝に誘われたときから予想はしていたが、僕が志乃さんからのお誘いを断り切れるわけがないのだ。
 呼び止められた志乃さんは、こちらを振り向いてから数度まばたきしてから

「じゃあ……行きましょうか」

と、いつもの調子を装いながら言った。そして事務所からは誰もいなくなった。

最後に、事務所から出たら口元に手を当てて笑う楓さんが僕たちを見ていた。

おしまい。


たった4レスですがこれでおしまいです。1レス目は見なかったことにしてください。
それではhtml依頼出してきます。志乃さんもっと流行れ

もっと書いていいんじゃよ
1年くらいかけよう(提案

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