モバP「犯人は誰だ?」 (27)
最近……思うんですよねぇ。
皆して……プロデューサーさんにくっつき過ぎなんじゃないかって。
勿論、プロデューサーさんが優しい人なのは、私も分ってますし……それが良いところだって思いますけど……。
それでも限度ってものがありますよねぇ。
本当はこんなことはしたく無いんですけどねぇ。
……そっちが悪いんですよぉ?
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??????????
「うわっ! なにこれ?」
とある日の午後、事務所で凛が大袈裟に声を上げるのを背中で聞いた。
「どうした? ガラにもねー声出して」
「突然なに? ビックリしちゃったじゃん」
近くにいた奈緒と加蓮がそれに反応して、凛に声をかけた。
「もう、どうしたもこうしたもないよ」
どうやら甚く憤慨しているようだ。俺は座っていた事務椅子をクルリと回転させて、声のする後ろを向いた。
僕だ!
お前だったのか
見ると、凛奈緒加蓮の三人は、備え付けの冷蔵庫の前に固まっていた。
「うわっ! マジかよ……うぇ~」
奈緒も声を上げて、顔を顰めた。手にはペットボトルを持っている。
「おっ、大丈夫か大丈夫か?」
俺が声をかけると、凛は、
「ねぇ、プロデューサー。これ誰の仕業か知ってる?」
と、俺を咎めるような目で見た。
「一体何があったってんだ? それが分らなきゃ何も知らないも同然だぞ」
俺は諌めるつもりで言った。
「ヒドいよねー。プロデューサーもこれ飲んでみてよ」
いつの間にペットボトルは加蓮の手に渡っていたのか、それを俺に差し出してきた。
見たところ何の変哲もない麦茶。口をつける。その瞬間。
暇を持て余した
麦茶が蕎麦つゆに!
「事件ですか?事件ですね!
探偵の出番ですね!」
「……うげっ」
しょっぱい。
何てことはない、めんつゆである。
成る程、古典的なトラップだ。俺はどこかノスタルジーな思いに襲われた。
「おーい、プロデューサー? その辺でやめとけって、しぬぞー、おーい」
奈緒の声で現実に引き戻される。気づけば、2センチほどめんつゆを飲んでしまっていた。そう思った途端、俺は咳き込んだ。
「大丈夫ですかぁ? プロデューサーさん」
俺がゲホゲホやっていると、同時に事務所に居合わせていたまゆが、背中をさすってきた。ありがたい、心なしか落ち着いてくる。
「……おお、悪いな、まゆ……」
いいんですよぉ、とまゆは何でもないことのように言う。
ようやく咳も鎮まってきた。俺は気を取り直して言った。
「全く、タチの悪い悪戯だな。しっかしよくもまあこんな古臭いことを……」
「ホントですよねぇ」
「最悪だよ、私のお茶が」
「やだなぁ、私じゃなくてよかった」
「えっ、そういう問題か?」
口々に俺の言葉に反応して、少し姦しい。それはそうとして。
「誰がやったんだか知らんが、凛以外の皆も気をつけとけよ。こういうヤツは大抵何度でもやるんだ。765さんとこの……」
おっと、口を滑らせそうになった。
「とにかく、物の管理には注意しておけ。誰がやったか分ったら、きつく叱っておいてやるよ」
アイドル達はハーイ、と揃って返事をした。やけに子供っぽい統率だったが、微笑ましかった。
レイナだな
??????????
また別のある日のことだ。
「……いつになく浮かない顔だな」
事務所のソファーで、どこか腹立たしげな顔で携帯ゲーム機に向う紗南の姿があった。
「ん? あ、プロデューサー! もう見てよこれー!」
そう言って紗南は、こちらの話も聞かずに手にしたゲーム機を俺の眼前に突き出してきた。
「見てよも何も俺はこういうのには疎いんだぞ、……ん?」
実際、俺は紗南が普段やってるゲームについての詳細はよく知らない。多少向こうから話を振られるので、その度毎にGoogle先生の力を借りることはあったが、その程度なので、何かしら問題が起きていても大抵はチンプンカンプンなのだが。
『ウメコブチャ』
『ウメコブチャ』
『ウメコブチャ』
『ウメコブチャ』
『ウメコブチャ』
『ウメコブチャ』
「……何だこりゃ?」
「見ての通りだよ!」
画面には何かキャラクターらしき絵の横に『ウメコブチャ』の字が添えられている、それが6つ並んでいる。確かこのゲームは……バギーモンスターとかいったな。
「あたしのバギモンのニックネームが全部『ウメコブチャ』にされちゃったんだよ~!」
地味。
何とも地味である。
大罪だろ
紗南の様子を見る限り、成る程、紗南にとってはぞっとしないことなのだろうが、俺にしてみれば内外何の実害も出ていないのだから、そう目くじらを立てることとは思えない。
「名前の付け直しだよ~、めんどくさいよ~、そもそもこんなことする時間がいつあったんだよ~」
「それくらいプレイ時間見ればすぐわかるだろ」
「いやー、あたしもうカンストしちゃってるから」
あ、そうですか。
ふと、先日の事件を思い出す。確かあれは、凛の麦茶がめんつゆにすり替えられるという悪戯だった。
今回のこれも同一犯なんだろうか。
ちっひならゲームへのクラッキングくらい簡単やろ(適当)
悪戯か嫌がらせか微妙なとこをついてくるな
凛のときは、どうせたった一回ぐらいの軽い悪戯だし、大したレスポンスもないのだからこれで終わるだろう、と思っていた。こういうのは、多少なりとも反応するから向こうも面白がって続くのだ。
しかし、これが同一犯で、そういった都合も何もなく繰り返しているのだとしたら、本腰を入れて対策をした方がいいということになる。
「……まったく、厄介なこったな」
「ヒドいよねー! そもそも『ウメコブチャ』って何? センスない! 『トンヌラ』よりセンスない!」
「ウン、そうですね」
とりあえず、紗南が何を言っているやらよく分らなかったのでスルーした。
??????????
「おはようございます、おはようございます……、あ、ごめんな凛、待たせたな」
「もう、遅いよプロデューサー」
「ちょっと事務所でゴタゴタしてな……」
紗南はあの後ずっとブツクサ言っていたが、結局地道に名前を付け直す作業を続けることに落ち着いた。
「ゴタゴタ? 何かあったの?」
「それが、紗南がな……」
俺は事務所であったことを凛に話した。以前被害にあった凛はこの話を聞いて、思うところがあるようだった。
凛は、考え込む素振りを見せてから、ややあって、
「ねぇ、それって私のと同じ人がやったのかな?」
と真剣な眼差しを向けてきた。やっぱり、こう考えるのが一先ずは自然なのだろう。
「どうとも言えないな、証拠があるわけじゃないし」
俺は慎重に答えた。断定はできない。
「でも、こんな悪戯が立て続けに、それも偶然別々の人間にされるなんて変じゃない?」
確かに事実、凛の言い分は尤もだと思える。
これが全く別の人間のやったことだとするなら、違和感のある点は幾つもある。
まず第一に、凛も俺も考えたように、別々の人間が何の関係もなく別々に悪戯を働くとは考えにくいこと。勿論、軌を一にした複数犯という考え方もあるが、それだと結局単独犯と大して変わりはない。
便乗犯の説は考えにくい。自慢じゃないが俺は実際のところ、凛のめんつゆ事件のあと特別行動を起こしたわけでもなかったし、積極的に誰かに触れ回るでもなかった。だから、この事実はあの時事務所にいた面々しか知らないのである。便乗するネタを知らなければ便乗犯なんてやりようもない。
アイドルを積極的に疑うのは厭だが、それにしたって悪戯しそうなのは一人ぐらいしか思い浮かばないし、その子は結果をその目で見たがるタイプだ。前2件とはタイプが違う。
……要するに、誰がやったんだか、まだてんで見当がつかない。
「プロデューサー」
「ん?」
思わず考え込んでしまっていて、凛の声で我に返った。
「とりあえず、皆にちゃんと気をつけるように言った方がいいよ。何かまた起こってからじゃ遅いんだから」
「ああ、そうするよ」
……正直、内容としては大した被害でもないので、他の皆が従順になるかは自信がなかった。が、当の被害者がこう言っているのだし、無碍に断る理由は毫もなかった。
レイナサマー
??????????
「アンタ何してんの?」
「ほれ、読んでみ」
「どれどれ……」
『イタズラに注意!』
「このレイナサマへのあてつけってわけ?」
「違うって」
凛との仕事を終えた俺は、事務所で早速注意喚起を実行した。といっても、コピー用紙の裏紙に筆太にこう書きつけただけの代物だ。
「何があったのよ? 言ってみなさい、参考にしてやるわ!」
「俺に向って高らかに宣言するべきじゃないな、そりゃ」
とりあえず俺は、凛の件と紗南の件とを話した。話を聞いていた麗奈は、だんだんつまらなそうな表情に変わっていった。
「何よそれ? ジミね、ハデさが足りないわね!」
「ってことはお前じゃないんだな? やったのは」
「当然じゃない。アタシだったら、ペットボトルが開けた途端に爆発するぐらいの手間暇はかけてやるわよ!」
何とも無駄な職人気質だ。だが、予想通りの反応でもあった。
「そもそもそういうのは、最後には自分の名を知らしめるためにやるものよ! そんなコソコソしたマネは小者のやることね、レイナサマがその程度で終わるワケないわよ!」
この大胆な犯行予告に、俺は一つ確信した。
麗奈じゃないな。
やっぱり前二件は麗奈には柄じゃない犯行だ。こいつはチマチマした嫌がらせめいたことをやるような子じゃない。
「ありがとう麗奈、参考になったよ」
「え? 何がよ?」
「まあ、何だっていいだろ」
俺は、腑に落ちない様子の麗奈の頭に手を置いて、
「じゃ、楓さんと志乃さんの現場行ってきます。ちひろさん、帰るときは戸締りお願いしますね」
と言いながら立ち上がった。
「分りました、頑張ってきてくださいね!」
「頑張るのは俺じゃなくて、二人のほうですよ」
ちひろさんに返辞して、俺は事務所を出た。麗奈がちひろさんに何か言うのが背中で聞こえた。
『高垣楓と柊志乃のクールナイトジャパン』の生収録が終ると、彼女達二人で反省会と称した打ち上げを朝までやるのが常だ。
「何でやる必要なんかあるんですか」
こんな言葉は通用しない。余程のことがない限り、毎週欠かさず行われるイベントだ。ラジオ局すぐ近くの居酒屋で朝まで飲むというシンプルかつ少し過激なものだが、不思議とと言うべきか、事件事故の類は起きたことがない。というより起こさせない。
何故そういうかといえば、その場には俺が一緒にいる、というのもまた恒例だからである。
基本的にわざわざついていく必要があると思ってはいない。片方はああ見えてなかなかにちゃらんぽらんであり、もう片方は飲んだくれと呼んで差し支えないとはいえ、そこはそれ、まがりなりにも立派な大人なのだから、その点は心配はあるがまだ信頼はしている。
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