魔法少女
学園都市でまことしやかに面白おかしく囁かれている都市伝説の一つ。
曰く、妖精が少女の前に現れて願いを叶えてくれるとか
曰く、その代償に魔法少女として魔女と戦い続ける羽目になるとか
噂話に疎い自分も何度か耳にする機会があったくらい流行った話だ
が、所詮噂話
科学の最先端を行く学園都市でオカルトめいた話が流行るなんて皮肉ね、と鼻で笑って見下してすらいた。
そもそも噂を流している者も面白半分、ふざけ半分で信じる気など毛頭ない……そんな者が大半を占めているのではないだろうか。
都市伝説なんてその程度のものだ。
会話を盛り上げるツールに過ぎない。
……そう、信じていた。
一ヶ月前までは
この物語に幻想殺しの少年は登場しない
登場しないのか…
7月19日 午後11時 学園都市 第七学区
少女「はぁっ……はぁ!」タタタタッ
電車やバスといった主要な交通機関がとっくに運行を終えたこの街で、少女が一人息を切らしながら走っていた。
少女「な、なんで!?何でついてくるの?!」
少女は走りながらも、器用に横目で後ろを見やり情けない叫び声をあげる。
どうやら何かに追われているようだった。
「おい!大丈夫か!!」ダダダダッ
「ったく。どこのグループの奴等だ!」ダダダダッ
即座に少女の悲鳴を聞きつけた数名の男達が駆け寄って来る
???「エントロピーって知っているかい?」
学園都市の治安は非常に悪い。
この街に住んでいるのは基本的に学生だけだ。
血気盛んな思春期の少年少女達を大人から切り離した空間で共同生活を強いているのだから、仕方のないことなのかもしれない。
とにかく、真夜中にそんな物騒な場所で女子の悲鳴が響き渡れば当然、人目を引く。
だが
「……帰ろうぜ。浜面」
「最近暑いもんなぁ」
少女の身を案じて駆けつけた男達の目から数秒で心配の色が消え失せ、代わりに何か哀れなモノを見るような……憐憫の色が浮かび上がる。
何故なら少女は誰に追われている訳でもなく、走りながら何もない空間に向かって叫んでいただけだからだ
少女(うぅっ……このっ!!)
チクショウ!と絶叫したい衝動を歯ぎしりしながらもどうにか押さえ込み、少女は真夜中の学園都市をひたすら駆け抜ける
少女の名前は暁美ほむら。
外見はいかにも古い漫画やアニメに出てきそうな時代錯誤な真面目委員長風の三つ編み眼鏡。
普段は内気で大人しそうな雰囲気をまとっている彼女が珍しく鬼のような形相を浮かべていた。
ほむらはやはり耐え切れなくなったように背後に向かって再び叫ぶ。
ほむら「や、やめてください!ついて来ないでください!!」タタタタッ
QB「「「「「「「「「「何故だい?ちょっと話を聞いて貰うだけでもいいんだよ??」」」」」」」」」」」タタタタッ
ほむら「あなたたち、前もそういって五時間くらい解放してくれなかったじゃない!」タタタタッ
QB「「「「「「「「「「キュップイ!!」」」」」」」」」」」タタタタッ
ほむら「わ、訳が分からないこと言わないでください!」タタタタッ
ほむらの絶叫に言葉を返したのは
キュウべぇ。
一見猫のような可愛いらしい外見。それに白く触り心地がよさそうな毛並みを持っていて、一部の人間にしか視認出来ない謎の生物。
何故かことあるごとにほむらを執拗に付け狙ってくる。
ほむら(何でこんなことに……!!)
ことの発端は約一ヶ月前
6月20日
一人暮らしにも学校生活にもすっかり慣れたほむらはたまには遠くに出向いてみよう、と自身が住んでいる第七学区から第六学区の学園都市有数の大規模デパートへ足を運んだ。
そこで偶然出くわした鹿目まどかと共に魔女の結界に捕らわれ、巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子の三名に救われたのだ。
……ここまでは良かった
むしろ以前から中々声をかけられなかったクラスメートの鹿目まどかと接点を持てたのは、ほむらにとって僥倖だったと言えるだろう。
しかしマミ達に同伴していたQBに目を付けられたのが運の尽き。
その日以来、ほむらとQBは顔を突き合わせる度にこうして不毛な鬼ごっこを繰り広げている。
ほむら(今日は巴さんの家で美味しいお茶を飲んで、まどかとたくさんお話して、一杯笑って……)
ほむら(コイツにさえ会わなければ最高に幸せな一日だったのにっ)
QB「「「「「「「「「「僕と契約して魔法少女になってよ!!」」」」」」」」」」」タタタタッ
ほむら「これじゃ不幸過ぎるよ!!」
ヒュンッ
ほむら「!!」
目の前を影が横切った……とほむらが認識した次の瞬間にはQB達の首が宙を飛んでいた
ザンッ!!
QB「「「「「「「「「「キュウ!?」」」」」」」」」」」
さやか「おーす、転校生。さっきぶりー。今日は何かと元気だねぇ」
ほむら「美樹さん!」
颯爽と現れほむらを窮地から救ったのは美樹さやか。
ほむらのクラスメートでまどかの友人だ。
さやか「ったく、一応女の子なんだから夜道は気を付けなよー?偶然私が近くに居たからいいものを」
ほむら「あ、あの助けてくれてありがとうございます」
さやか「……なーに今更猫被ってんのよ。ほれ!さっきみたいに氷川きよしのモノマネしてみろ」
ほむら「あ、あれは罰ゲームだからノーカンです。忘れて下さい!」
さやか「あんなはっちゃけてた転校生見たの初めてだよ」プププ
ほむら「全力でブレイクダンス踊ってた人に笑われたくない! 」
どうやらお茶会という名目で、彼女たちはマミの家で相当ドンチャン騒ぎを繰り広げていたらしい。
さやか「……前から言おうと思ってたんだけどさあ?私達同い年なんだから敬語は無しにしようよ」
ほむら「え?……うん。分かった」
ほむら「で、でも私も前から言いたかったことがあるの」
さやか「なになに?」
ほむら「私、転校生でも何でも無いんですけ……だけど」
ちなみに彼女たちは現在中学二年生。
ほむらもちゃんと一年前の入学式から同じ学校に通い続けている。
もっと言うと、一年次の時もさやかとほむらは同じクラスだった。
さやか「あ~、ごめん。アンタって何か影が薄いじゃん?だからつい」
ほむら「一年半近くクラスメートやって来た知り合いに向ける言葉じゃないでしょう!」
さやか「へ?何言ってんの?多めに見積もっても半年くらいでしょ」
ほむら「……」
ほむら(真顔だ)
さやか「それはともかくさぁ」
ほむら(地味に傷付いた……)
さやか「あんた。いつまで見学に来る気なの?」
ほむら「えっ」
さやか「ぶっちゃけ契約するつもりはさらさらないんでしょ?」
ほむら「……うん」
さやか「いや、アンタが武器なり爆弾なり工夫して私達の負担にならないように色々努力してるのは知ってるよ?」
さやか「でも魔法少女になる気もないのにいつまでも首突っ込むってのはあまり関心しないなぁ。やっぱ危険だし」
ほむら「それは……」
QBと契約して魔法少女になれば願いを叶えることが出来る。
これは一ヶ月前にマミから聞いた話だ。
いつの日かほむらが耳にした都市伝説とほとんど差異はない。
しかしほむらは命を賭けてまで叶えたい願いなど持ち合わせていなかったし、QBに対してどこか不信感を拭えなかった。
そのため彼女には鼻っからQBと契約する意思が微塵もないのだ。
では何故ほむらが魔法少女に関して深入りしているのかというと……
さやか「まどかが心配だから?」
ほむら「……!!」
ほむほむが幻想をぶっ殺すのかな(´・ω・`)?
そう。
契約に消極的なほむらとは対照的に、まどかは明らかに魔法少女に憧れを抱いていた。
恐らく彼女も特に叶えたい願いがある訳ではないのだろう。
ただ純粋に、他人の役に立ちたいと考えているのではないだろうか。
少なくともほむらの目にはそう映った。
マミ達もそれを察して「魔法少女はそんな甘いものではない」と遠回しに説いたが、それで己を曲げるまどかではない。
結局、まどかの熱意に負けたマミ達は仕方なしに「魔法少女見学」という形で魔女退治に彼女を同伴することになり、そのままズルズルと今に至ってしまったのだ。
ほむら「えと……その……」
さやか「いや、今更隠さなくていいから。まどかも多分気付いてるだろうし」
ほむら「うぅ……」
さやか「問題はそこじゃないんだよ」
さやか「まどかが心配なのは分かるけどさ、だからってアンタが来ても何の足しにもならないのは分かるよね?」
さやか「私達からすると護る対象が増えるだけだし、逆にまどかの危険が増えるだけだと思うんだけど?」
ほむら「っ…………」
ほむらは何も言い返せない。
言い方はキツイが、ぐうの音が出ないほどの正論だった
が
さやか「……くっ」ニヤニヤ
ほむら「……?」
さやか「アハハ!な~にマジになって考えこんじゃってるの!?いくら私でもいきなりアンタをハブるような真似はしないって!!」プププ
ほむら「か、からかったんですね!」
さやか「うん!」キリッ
さやかはドヤ顔でそう言い放った。
その顔が余計にほむらの神経を逆撫でする。
うんじゃねぇよ、と内心毒づきながら更に言葉を紡ごうと口を開くと同時に
ピカッ
ゴロゴロゴロッ!!!!
さやか「ひッ!?」ダキッ
ほむら「えっ?!」
凄まじい閃光と耳をつんざくような轟音がほとばしった
さやか「……」
ほむら「……」
さやか「……」バッ
ほむら「……」
さやか「な、何ニヤけてんのよ!こっち見んな!!」
ほむら「ひぃぃ」ボソッ
さやか「ちょ……おまっ…この!!」
ほむら「佐倉さんが知ったら大爆笑確実だろうなぁ」
さやか「やめて!お願いだからやめて!!」
ほむら「ふふ。雷、苦手なんだ?中学生にもなって?」
さやか「……いい性格してるね、アンタ」ハァ
からかわれた報復に成功し、満足したほむらはすみません、とにこやかに謝った
さやか「くそぅ……覚えてろよ」
ほむら「だからすみません、って言ってるじゃないですか」クスッ
しばらく歩いていると別れ道にぶつかる。
ほむらとさやかの家はそれぞれ別方向だ。
さやか「……ねぇ、さっき言ったこと覚えてる?」
ほむら「……うん」
さやか「そう。ならいいんだ。よし!また明日!」
さやか「じゃあね!ほむら」
ほむら「ええまた明日。み……さやか」フリフリ
深夜。
しんと静まり返った第七学区の一角。
一人ポツンと取り残されたほむらは立ち竦みまどかについて考える。
ほむら(さっき美樹さんは茶化していたけれど……)
ほむら(……確かに、私は巴さん達の足手まといでしかない。これは事実)
ほむら「でも、だからってどうすればいいのよ」ボソッ
それでも何故か……理由は分からないが、ほむらにはどうしてもまどかを放って置くことが出来ないのだ。
かといってまどかに契約しないよう説得することも出来ない。
まどかは自分で決めたことは意地でも貫き通すだろうし、そもそも他人が横から口を出して許される問題ではないとほむらはちゃんと理解していたからだ。
泥沼。
考えれば考えるほど、染み渡る様に無力感が全身に広がって行く。
ほむら(下手に考えても気分が沈むだけだね……やめよう)
ほむら(美樹さんも言ってたじゃない。"今すぐどうにかする必要は無い"って)
ほむら(……そういえば、美樹さんとあんなに長く二人きりで話したの始めてだなぁ)
美樹さやか。
ほむらは先刻まで一緒に歩いていたクラスメートの顔を思い浮かべる。
愚直で感情豊かで、内気なほむらとは真逆の人間。
気に入らないことがあれば、先程のように容赦無くグイグイ突っ込んで来る。
正直苦手なタイプではあるが嫌いではない。
何だかんだほむらは彼女と上手くやっていけそうな気がしていた。
ズキッ
ほむら(またっ…………!!)
ほむら(何なのこの違和感っ…!?)
ここ一ヶ月、時折ほむらは自分が創り物の世界に住んでいるような……そんな奇妙な感覚に苛まれていた
ほむら「うぅ……これじゃ頭の中がイタイ人みたいじゃない!」
ほむらは尊敬するドリルヘアーの先輩を思い出しながら呟き、家路についた
学園都市
総面積は東京の三分の一を占め、総人口は約230万人。
学生が人口の8割を占める学生の街。
また超能力開発を授業の一環として取り入れ、学生全員に超能力開発を実施している。
反面、学園都市は研究機関としての側面も強く、文明レベルが外部より2,30年進んでいる
医療技術も"外"とは比較にならないほど進んでおり、幼い頃から病弱体質で入退院を繰り返していたほむらは、両親の強い勧めもあって昨年の四月からこの街で一人、暮らしていた。
人気のない寂れた路地裏。
夏だと言うのに身を切り裂くような冷たい風が吹きあれ、そこに一人佇む少女の黒髪を揺らす。
「安心して、大丈夫よ」
答える声はない。
黒髪の少女の腕の中、また別の少女が虚ろな瞳を虚空に投げかけていた。
首は僅かに傾げられ、黒髪の少女の胸に当てられている。その上から腕に支えられるように優しく抱き締められていた。
繰り返し、語りかけるように同じ言葉を呟き続ける黒髪少女の胸の中、彼女はぴくりとも動きもせずその身を任せていた。
瞳に意思の色はない。簡単に折れてしまいそうなほど細い手足をまるで壊れた人形のように放り出している。
「大丈夫……大丈夫だから」
そして黒髪の少女もまた、壊れたラジオのように何度も同じ言葉を繰り返していた。
「大丈夫」
少女は何度も何度も性懲りも無く……繰り返す。
おつー期待
続き投下していきます
7月20日 午前6時 ほむホーム
ほむら「まどかっ……!?」バッ
夏休み初日。
惰眠を貪る予定だったほむらは悪夢にうなされ早朝に目を覚ました。
ほむら「淫獣風情がまどかにあれこれするなんてっ……」フゥ
どうやら夢の内容は昨日のショックと自身の欲望が織り交ぜになったものらしい。
ほむら「……とにかくアノ白いのにはしばらく会いたくないな」
そう呟き、ほむらは熱気の篭った部屋の換気をしようと身体を起こす。
昨日の落雷で電化製品の8割が故障してしまったらしく、クーラーが使えなくなったため暑くて堪らないのだ。
熱中症になりかねない。
昨日は散々追い回された疲れで家についた途端死んだように眠ってしまったようだが。
こぴぺ?
ほむら(まあお金には困ってないし、電化製品は買えばどうにかなるけど、面倒ね)ググッ
ほむら(さてとっ)
立ち上がり……伸びをする。
全身に血液が行き渡り、寝ぼけた頭がやや覚醒する。
そしてほむらは窓辺まで歩いていきカーテンに手を掛け一気に開いた。
のだが
ほむら「…………」
インデックス「…………」
ベランダに何やら白いモノが引っ掛かっていた。
ほむらは自分の部屋の窓から見える風景を気に入っていた。
とりわけ絶景が見える訳でも南向きな訳でもなく、一般的な団地から見える平凡でありふれた景色が広がっているだけなのだが
それでも高層ビルが立ち並ぶ近未来的な学園都市において、その景色は郷愁を誘うのだった
しかし
インデックス「…………」
目の前の光景は明らかに凡俗なんて言葉で言い表して良いものではない。
異常だ。
ほむら「……」サッ
ほむらは無表情のままカーテンを閉めた。
ほむら(何あの白いの……)
 ̄ ̄夢の中で会ったような
ほむら(……QBに追い回されたのが相当効いたみたいだね。幻覚にまで出て来るなんて)
ほむら(うん、もう一度寝ましょう。寝て疲れを取ろう)
ほむら(その前に窓を開かないと暑くてやってられないよ。……流石に同じ幻覚を二度見ることはないよね?)
――そのはずだ
意を決し、再びカーテンを開く。
サッ
すると
インデックス「お腹がへったんだよ」ニコッ
ほむら「…………へっ?」
相変わらずベランダにボロ雑巾のように引っ掛かっていた銀髪碧眼のシスターがほむらに向かって微笑んだ。
>>25
9Gエディターから誤字ないか確認してからコピペしてるよ
ほむら(外国人みたいだけど日本語を話せるの?……というより、白いけど着てるのは修道服だよね?何で学園都市に……いやそれ以前に)
ほむら「な、何をやってるんですか!?」
インデックス「?」キョトン
ほむら「キョトンじゃないですよ!危ないでしょう!」バッ
ほむらは慌ててベランダに引っ掛かっているインデックスを持ち上げ部屋の中に連れ込む。
インデックス「ねぇねぇ」
ほむら「何ですか?」
インデックス「お腹が空いたんだよ?」
ほむら「明らかに今それ所じゃないでしょ!」
シスターの割に随分と欲望に忠実な少女だった。
インデックス「むむむ、でもこの国のことわざには腹が減っては戦が出来ぬって便利な言葉があるって聞いたんだよ!」
インデックス「それとも何かな?君には飢え死にしそうな哀れな子羊を救う慈悲の心すらないのかな?」
ほむら「子羊を救うのはあなたの仕事じゃないんですか!?」
最早シスターと呼んで良いのかも危うい。
ほむら「ご飯なら後でいくらでもあげるけど、それより何でベランダに……」
グギュ~グルルグルルルリル
ほむら「…………」
インデックス「……えへへ」グゥ~キュルル~キュプッキュパーギュゴロロロ~
──────
────
──
ほむら「はぁ……」ジュー
結局、ほむらは冷蔵庫に入っていた残りものを適当に炒めてインデックスにご馳走することにした。
ほむら(あ……そういえばこの冷蔵庫一晩中止まってたんだっけ? 大丈夫かな?)チラッ
インデックス「ごはん♪ ごはん♪まっだかな♪」
ほむら(……まあいっか)
ほむら(それにしても、あの子はどうやってここまで登って来たんだろう?)
ほむら(この部屋は7階にあるし、そう簡単に登って来れる高さじゃないと思うんだけど……)
ほむら(じゃあ上から降りて来たとか?この学生寮は8階建てだから不可能ではないはず)
ほむら(いやでも仮にそうだとしても何でわざわざ家のベランダに? あの高さから落ちたら……)
 ̄ ̄ほぼ間違いなく死んでしまうのに
インデックス「あれ、これは何かな?」
ほむら「!!」
インデックスの呟きがほむらを思考の淵から引き戻した。
砕けた一円玉、業務用サンポール、うがい薬……その他諸々が乱雑に置かれているほむらの机。
インデックスはそんなほむらの机に置いてある"何か"に興味を示し、手を伸ばしかけている。
ほむら「待って!それに触っては駄目!!」
ズゴォオン!!
直後、学生寮に爆音が響き渡った。
ほむら「あ……あぁ…」
机の上に置いてあったのは
三ヨウ化窒素。
通称ヨウ素爆弾。
ヨウ素とアンモニアの反応で出来る大変不安定な物質。
衝撃に敏感で軽く触れただけでも爆発してしまう。
取り扱いが難しい反面
キンカンやうがい薬等の日用品で簡単に作れる上に比較的威力が高い爆弾。
インデックス「」
ほむら「だ、大丈夫!?」タタタタッ
日頃から彼女の家に訪問者が極端に少なかったことも災いしたのだろう。
ほむらはその日に限ってうっかり作り立ての爆弾を机の上に放置していた。
ほむら(駄目っ……動かない!)
ほむら(け、警察を呼ばないと!……いやそれより先に救急車をっ……!?)
しかもほむらは対使い魔用に殺傷力を高める工夫を施している。
至近距離から生身で爆発を受けた人間が無事でいられる程生易しい破壊力ではない。
インデックス「び……びっくりしたんだよ」ノクッ
……はずだった
ほむら「なっ……!?」
ムシャムシャムシャムシャムシャ
ほむら「どうなってるの……」
ゴックン
インデックス「ごちそう様! 美味しかったんだよ!」ニコッ
ほむら(何でこんなに元気なの?)
インデックス「?……どうしたの?」キョトン
不思議そうに首をかしげる彼女に無理をして怪我を隠している気配はない。
そもそも"あの爆発"は痩せ我慢でどうにか出来るレベルを超えていた。
ほむら(……ありえない)
そう。
本来なら腕の一本や二本で済めば不幸中の幸い……と言っても過言ではないくらいの大惨事なのだ。
インデックスに何の外傷も見当たらないのは絶対におかしい。
だがほむらはこれを説明出来るオカルトめいた力に一つだけ心当たりがあった。
ほむら「えと…あなたもしかして……魔法少女なの?」
インデックス「魔法……少女? う~ん、女性魔術師のことを君達はそう呼ぶのかな? だとしたら正解かも」
ほむら「そ、そうなんだ……つまりさっき無事だったのはあなたが魔法少女だったからなのね?」
ほむら(魔術師?)
インデックス「それは半分正解だけど半分外れだね」
インデックス「私自身は魔力を持ってないんだよ。正確にはこの"歩く教会"の防御結界が上手く作用しただけなんだよね」
ほむら(魔力がないってどういうこと?それに歩く教会って何なの……)
時折インデックスの口から理解出来ない単語が飛び出してくるがほむらはあえて突っ込まず、スルーを決め込む。
ほむら(これで謎が一つ解けた)
ほむら(この子が魔法少女ならマンションの7階……大体20mくらいかな?その程度の高さものともしないはず)
ほむら(だけどそうなると気になるのは)
ほむら「じゃあ何でベランダに引っ掛かっていたの?」
インデックス「布団ごっこ」
ほむら「何故今そんなしょうもない嘘を……」
本当にしょうもない
インデックス「何で嘘って分かったのかな?」キョトン
ほむら「馬鹿にしないで」
本気でシラを切れると思っていたのだろうか。
インデックスは真顔だ。
インデックス「うぅ……黒髪の口調がだんだん厳しくなっていくんだよ」
ほむら「黒髪ってそれもうただの髪じゃない。それにあなたの態度じゃ厳しくしたくもなるよ」
インデックス「三つ編み眼鏡が名前を教えくれないのがいけないんだよ!人にものを尋ねる前にまずは自分の名を明かせって習わなかったのかな!?」
ほむら「……確かに自己紹介がまだだったね。 私の名前は暁美ほむら」
インデックス「暁美ほむら?かっこいい名前だね」
ほむら「あなたは?」
インデックス「私の名前はね。インデックスって言うんだよ」
ほむら「それで、本名は?」
インデックス「これは本当なんだよ!!」
ほむら「……そこはかとなく信じてるよ」
インデックス「むっきー! それほぼ信じてないってことじゃない!」
インデックス「私の名前は本当にインデックスなんだよ!正式名はIndex-Librorum-Prohibitorum。魔法名はDedicatus545(献身的な子羊は強者の知識を守る)で……かくかくしかじか」
ほむら(……うん、これで確信した)
ほむら(やっぱり巴さんの犠牲者かな?)
インデックス「うんぬんかんぬん……って聞いてるの!?」
ほむら「ええ。聞いてるよ」
ほむら(かわいそうに)
インデックス「可哀想なものを見るような目は辞めて欲しいんだよ!」
ほむら「……それで?さっきから必死に誤魔化そうとしていたみたいだけれど、結局なんでベランダに引っ掛かっていたの?」
インデックス「バレちゃ仕方ないんだよ」
インデックス「本当は屋上から屋上に飛び移るのに失敗しちゃったんだよね」
ほむら「また嘘を吐いて」
インデックス「……」
ほむら「……る訳じゃなさそうだね」
ほむら(でもこの学生寮の屋上から隣のマンションの屋上に飛び移る、なんてやろうと思えば私でも出来そうだし......魔法少女の彼女が失敗するとは思えない)
ほむら(そういえば「自分には魔力がない」って言っていたけど、何か関係あるのかな?)
ほむら(いやそれより)
ほむら「どうしてそんなことを?」
インデックス「追われていたからね」
ほむら「追われていた?」
だとしたらインデックスは相当必死になって逃げ回っていたのだろう。
そうでなければ、他人の家のベランダに引っ掛かったりはしない。
卓越した力を持つ魔法少女。
そんな彼女をそこまで追い詰められる存在がいるとすれば……
ほむら「魔女に……?」
インデックス「これも半分正解……かな?」
インデックス「魔女という単語が成人した女性魔術師を指すなら、だけど」
インデックス「それにしても君は結構魔術に詳しいのかな? ちょっと驚いたかも。この国の人は比較的信仰心が薄いって聞いたんだけど」
ほむら「半分正解って……つまりどういうこと?」
インデックス「正確に言うと、私は男女ペアの二人の魔術師に追われていたんだよ」
ほむら(二体の魔女に同時に襲われて命からがら結界から逃げ出したってことかな?)
だがほむらは同じ場所に二体同時に魔女が出現する、なんて事態見たことも聞いたこともなかった。
ほむら(それに"魔術師"って……)
ほむらは先程のインデックスの言葉を思い出す。
ほむら(インデックスはさっき自分を"魔術師"と呼んだ。つまり彼女は"魔法少女"に追われていたの?)
ありえない話ではない。
魔法少女の世界はその名に見合わずシビアだ。
魔法少女同士の縄張り争いで命を落とす……なんてことも日常茶飯事
らしい。
ほむら(けど"男女ペア"の魔術師ってどういうことだろう……実は男の子も魔法少女になれたりするのかな?)
何かが噛み合わない、とほむらが頭を抱えていたその時。
インデックス「じゃ、私はそろそろ行くね?」
>>35
訂正
何度もミスって済まぬ
ほむら(インデックス……目次って絶対に偽名だよね?)
インデックス「むむ! そこはかとなく疑ってるね」
ほむら「……そこはかとなく信じてるよ」
インデックス「むっきー! それほぼ信じてないってことじゃない!」
インデックス「私の名前は本当にインデックスなんだよ!正式名はIndex-Librorum-Prohibitorum。魔法名はDedicatus545(献身的な子羊は強者の知識を守る)で……かくかくしかじか」
ほむら(……うん、これで確信した)
ほむら(やっぱり巴さんの犠牲者かな?)
インデックス「うんぬんかんぬん……って聞いてるの!?」
ほむら「ええ。聞いてるよ」
ほむら(かわいそうに)
インデックス「可哀想なものを見るような目は辞めて欲しいんだよ!」
ほむら「……それで?さっきから必死に誤魔化そうとしていたみたいだけれど、結局なんでベランダに引っ掛かっていたの?」
インデックス「バレちゃ仕方ないんだよ」
インデックス「本当は屋上から屋上に飛び移るのに失敗しちゃったんだよね」
ほむら「また嘘を吐いて」
インデックス「……」
ほむら「……る訳じゃなさそうだね」
ほむら(でもこの学生寮の屋上から隣のマンションの屋上に飛び移る、なんてやろうと思えば私でも出来そうだし......魔法少女の彼女が失敗するとは思えない)
ほむら(そういえば「自分には魔力がない」って言っていたけど、何か関係あるのかな?)
ほむら(いやそれより)
ほむら「どうしてそんなことを?」
インデックス「追われていたからね」
ほむら「追われていた?」
だとしたらインデックスは相当必死になって逃げ回っていたのだろう。
そうでなければ、他人の家のベランダに引っ掛かったりはしない。
卓越した力を持つ魔法少女。
そんな彼女をそこまで追い詰められる存在がいるとすれば……
ほむら「魔女に……?」
インデックス「これも半分正解……かな?」
インデックス「魔女という単語が成人した女性魔術師を指すなら、だけど」
インデックス「それにしても君は結構魔術に詳しいのかな? ちょっと驚いたかも。この国の人は比較的信仰心が薄いって聞いたんだけど」
ほむら「半分正解って……つまりどういうこと?」
インデックス「正確に言うと、私は男女ペアの二人の魔術師に追われていたんだよ」
ほむら(二体の魔女に同時に襲われて命からがら結界から逃げ出したってことかな?)
だがほむらは同じ場所に二体同時に魔女が出現する、なんて事態見たことも聞いたこともなかった。
ほむら(それに"魔術師"って……)
ほむらは先程のインデックスの言葉を思い出す。
ほむら(インデックスはさっき自分を"魔術師"と呼んだ。つまり彼女は"魔法少女"に追われていたの?)
ありえない話ではない。
魔法少女の世界はその名に見合わずシビアだ。
魔法少女同士の縄張り争いで命を落とす……なんてことも日常茶飯事
らしい。
ほむら(けど"男女ペア"の魔術師ってどういうことだろう……実は男の子も魔法少女になれたりするのかな?)
何かが噛み合わない、とほむらが頭を抱えていたその時。
インデックス「じゃ、私はそろそろ行くね?」
ほむら「ちょ、ちょっと待ってよ!」
インデックス「何かな?」
ほむら「お、追われてるんでしょ?だったらこの家にまだいた方がいいんじゃないの?」
インデックス「……え?」
ほむら(私何言って……)
インデックスを追っている者が魔女なのか魔法少女なのかそれ以外の何かなのかは分からない。
いずれにせよ、インデックスが何か厄介事に巻き込まれているのはほぼ確実だ。
そして恐らくそれは彼女一人では対処し切れない程の難題なのだろう。
だがそれと同時に
ほむら(何にせよ、私じゃ足手まといになるのが関の山なのに……)
インデックス「遠慮しとくんだよ」
ほむら「な、なんで?遠慮なんかしなくても…」
ほむらの思考とは裏腹に、彼女の口が勝手に動いて言葉を紡ぐ。
インデックス「巻き込みたくないんだよ。もう自分のせいで誰かが傷付く所なんてみたくない」
インデックス「君がそう言い出しかねないから、追われてることを話したくなかったんだよ?」
ほむら「いやでも」
ほむらはさらに食い下がろうとしたが
インデックス「じゃあ……」
――私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?
ほむら「……っ!?」
凍りつくような笑顔と共にインデックスが放った一言に、ほむらは思わず何も言えなくなる。
インデックスは言外にこう言っているのだ。
邪魔だ。
こっち来んな。
インデックス「……じゃあね」トトト
インデックスが玄関に向かって歩いていく
インデックス「ご飯、美味しかったんだよ。ありがとね……ほむら」
ほむら「え……あっ…」
バタンッ
と扉が閉じると共に、たった今繰り広げられていた奇妙な非日常が終わりを告げた。
ほむら(……何も言えなかった)
誰もいなくなった部屋でほむらは一人考える。
ーー何故自分はあの時インデックスを引き止めようとしたのだろうか?
ほむら(そっか、あの子根っこが似てるんだ……まどかに)
ほむら(誰かのために平気で自分を犠牲に出来る辺り、特に)
要するにほむらはインデックスとまどかを重ねていたのだ。
重ねて……ただ確信を得たかった。
自分でもまどかを護れる、と
ほむら(その結果がこれ、か)
ほむら(結局、私なんかじゃ誰も助けられないってことないってことだよね)
ほむらを突き動かしたのは善意とは似て非なるもの。
インデックスに気圧されて声を発することすら出来なかったのが、いい証拠だった。
自分勝手で打算的な自身の本心に気付き、ほむらは激しく自己嫌悪する。
ほむら(でも……)
インデックス『私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?』
ほむら(でも、もしあの時あの子の手を取っていたら……何かが変わったのかな?)
ほむらは昨夜と同じように何も出来ない自分に無力感を抱きながら、ただぼんやりとインデックスが平らげて空になった皿を見つめていた。
7月20日 午前11時 ファミレス
ほむら「……ってことがあったんですよ」
さやか「……」ポカーン
まどか「……」ポカーン
杏子「……けっ」
まどか達の間で待ち合わせ場所としてお馴染みになっている第七学区のとあるファミレス。
そこでほむらは彼女達に今朝の出来事を"要点だけ"かいつまんで打ち明けたのだが
ほむら「えと……その、皆さん?」
杏子「……いやなんつーか、ツッコミ所が多過ぎてどこから切りこめばいいのか分からないんだけど」
さやか「えー……もしかして昨日地味とか言っちゃったの気にしてるの? だからって今更サイコで電波さんのフリされても対応に困るっていうか」
まどか「さやかちゃん!ほむらちゃんは真剣に悩んでるんだから茶化したらかわいそうだよ!それにほむらちゃんは陰キャラなんかじゃないよ!!」バンッ
さやか「私そこまで酷い言い方してないよ?」
返って来た反応はイマイチだった。
誰も信じていないようだ。
だが朝起きたらベランダに女の子が引っ掛かっていた。なんて、あまりにも突飛で現実味がない話だ。無理もない。
ほむら「ちょ、ちょっと待ってください!!別に冗談を言ったつもりはありませんよ!?さっきの話は本当に……」
マミ「ありえないわね」
今まで思案顔で黙りこくってただほむらの話を聞いていたマミが呟く。
ほむら「だからさっきの話は本当のことだと言って「いえ暁美さんの話を疑ってる訳ではないの」」
マミ「誤解を招く言い方をしてごめんなさい」
ほむら「なら、ありえないって一体何が……」
マミ「魔女が同じ時間、同じ場所に結果を張るなんて……ありえないの」
杏子「あたしもそれなりに長いこと魔法少女やってるけど、んな場面出くわしたことないね」
ほむら「じゃあ、あの子は魔法少女に追われて?」
マミ「恐らくそれもないわ。第七学区は私たちの縄張りなのよ? 縄張り目当ての争いなら、私たちの誰かを襲うはずじゃない」
さやか「そもそもここら辺で他所の魔法少女同士がドンパチやってたら、流石の私でも気付くって」
まどか「それにいくらなんでも男の子は魔法少女にはなれないと思うな」
ほむら「で、でも! インデックスは確かに爆弾の爆発を無傷で耐えたんですよ?! あの子が魔法少女なのはほぼ間違いありません! 」
さやか「幻覚でも見たんじゃないの~? ほらここの所暑いし」
さやか「んん?幻覚と言えば杏子のイタズラって線もありうる……かも??」
杏子「あたしはさやかと違って、んな馬鹿みたいな魔法の使い方しないっての」
まどか「まあでもほむらちゃん、ここ最近魔法少女見学に風紀委員(ジャッジメント)のお仕事で大変そうだったし、少し肩の力を抜いた
方がいいんじゃないかな?」
ほむら「まどかまで……」
マミ「私は信じるわよ?暁美さんの話」
杏子「ちょっとちょっと。今さっきありえないって言ってたのは何だったのさ」
マミ「暁美さんの言葉を疑ってる訳ではない、とも言ったでしょ?」
マミ「それに暁美さんが嘘を吐いているようには見えないもの」
さやか「まあ確かに転校生が冗談を言うとは思えないけど……」
マミ「それに、あなたはその子を助けたいんでしょ?」
ほむら「え?」
マミ「だからわざわざ私達に打ち明けた。それってつまり私達を信用してくれたってことよね? なら私達も全力で応えるしかないじゃない」
まどか「でも、そのベランダに引っ掛かってた子を追い詰めたのは魔女でも魔法少女でもないんですよね?」
マミ「ええ。恐らくね」
まどか「じゃあ一体誰が?」
マミ「魔術師よ」
まどか「へ?」
まどか「でも、そのベランダに引っ掛かってた子を追い詰めたのは魔女でも魔法少女でもないんですよね?」
マミ「ええ。恐らくね」
まどか「じゃあ一体誰が?」
マミ「魔術師よ」
まどか「へ?」
マミ「魔術師とはその名の通り魔術を扱う者のことよ。タロットカードの一種としても有名ね。魔術師のタロットカードが示す意味は色々あるけど……そうね。強いてあげるなら『物事の始まり・起源』って意味が一番メジャーかしら?」
ほむら「マミ……さん?」
マミ「そもそも魔術というのは英語でマジック、フランス語ではマギカ、ドイツ語ではマジーと呼ぶの。 ただ今は呼び方なんてどうでもよくて、魔術とは何かについて説明しないとね。ごめんなさい、つい話が逸れてしまったわ。魔術とは大きく分けて二種類。白魔術と黒魔術の二つに区別されるの。これはRPGとかのゲームでもよく使われる分類だから皆知ってると思うけど。ただこれは便宜的に二種類に差別化が図られてるだけで厳密には……うんぬんかんぬん」
さやか「また始まったよ……」ヒソヒソ
杏子「お前のせいだぞ!どうにかしろよ」ヒソヒソ
ほむら「わ、私のせいですか!?」ヒソヒソ
まどか「マミさん魔女と戦ってる時はあんなにカッコいいのに……」ヒソヒソ
マミ「かくかくしかじか……つまり私が言いたいのは本当に魔術師が存在するならとても心躍ることだと思うの」キラキラ
さやか「なるほどなるほど。 あ!そういえば、私今日とびっきりの都市伝説仕入れて来たんですよ!心躍るような 」
まどか「え!聞きたい聞きたい!どんな話なの!心踊らせたい!」
ほむら「わ、私も聞きたいです」
マミ「え?私の話まだ終わってないんだけど……」
マミの話が一区切りつくと、すかさずさやかが話題を切り替えようと横槍を入れ、まどかとほむらもそれに便乗する。
ただ……
杏子「さやかの話す都市伝説もマミと同じくらい面倒くせぇんだよなぁ」ボソッ
さやか「ふふん。よくぞ聞いてくれました!なんとね……」
さやか「ついにレベル6が誕生したらしいんだよ!!」
学園都市では能力者を能力の強さに応じてレベル0~レベル5に分類している。
中でも最高位であるレベル5は人口約230万人を誇る学園都市の中でも7人しかおらず、一人で軍隊に匹敵する程の力を発揮するという。
だがそれでもレベル6に到達した人間は未だかつて一人も存在しない。
まどか「……」
ほむら「……」
杏子「……」
マミ「そ、そんな?!"あの計画"が実行されたというの!?いくらなんでも早過ぎる!」
さやか「あ、あれ?マミさん以外皆反応薄くない??」
まどか「流石にそれはガセネタだと思うな。本当だったらニュースになると思うし」
さやか「ニュースにならないのは学園都市が秘密裏に開発したから公表してないの! 本当なんだってば! 現に証拠だってたくさん見つかってるし」
ほむら「証拠って?」
さやか「お!転校生にしてはいい所突くねぇ。それがね? 学園都市中の至る所で多重能力者(デュアルスキル)が残したとしか思えない痕跡が見つかってるんだよ」
多重能力者。
二つ以上の能力を持つ能力者の呼称。
脳の負担が大き過ぎるため実現不可能と既に証明されている。
実際に存在するならば、確かにその人物はレベル6と言えるかもしれない。
杏子「多重能力者が残したとしか思えない痕跡ってなんだよ。 つーか、この前も『学園都市はレベル6を創るための実験をしてる~最近研究所が軒並み潰れてるのはその証拠だ~』とかなんとか言ってたな」
さやか「私そんなウザい話し方してないでしょうが!」
さやか「前話したのは『レベル6を創る実験』じゃなくて『第一位をレベル6に進化させる実験』、ね。その話と今回の話はどうやら無関係みたいだけど」
マミ「"あの計画"が完遂された訳ではないってこと? つまり"あの計画"はブラフ。本命はこっちだったって訳? くっ……してやられたわ」
まどか「えと、そもそもレベル6の定義ってなんだっけ?」
マミ「『神ならぬものにて天上に辿り着く者』への第一歩、って言われてるわね」
まどか「そうそうそれです。つまり神様みたいなものなんでしょ?そんなのが実在するとは思えないよ」
まどか「学者さんが理屈をこねくり回して遊ぶための思考ゲームみたいなものなんじゃないかな」
ほむら「私もちょっと信じられないかな……」
さやか「ぐぬぬ」
さやか「なんなのさ!? 皆して私の話頭ごなしに否定して!!」
まどか「そんなこと言われても……」
杏子「なあ?」
バンッ!!
ムキになったさやかがファミレスの机を思い切り叩き付けて勢いよく立ち上がり
「「本当にレベル6は存在するんだって!!」」
二つの怒声がファミレス内に響き渡った
さやか「え?」
声を発した人物は二人いる
一人はもちろん美樹さやか
そしてもう一人は
佐天「へ?」
佐天涙子。
まどか達としきりで分けられた隣のテーブルで、彼女は頬を紅潮させ何か興奮した様子で立ち上がっていた
御坂「は、ハロー……」
黒子「はぁ……よりによってこんな恥ずべき場面を同僚に見られてしまうとは、黒子一生の不覚ですの」
初春「……」ズズズ
ほむら「し、白井さん達じゃないですか!隣にいたんですか!?今日二人とも当番じゃ……」
ほむらは風紀委員(ジャッジメント)という学生グループに属している。
風紀委員とは名ばかりで、その目的は学園都市の治安維持。
つまり、学生によって形成された警察のようなものだ。
その繋がりでほむら達と御坂達は面識があり、何度か一緒に談笑しながら食事に共にしたこともある。
ただ
初春(この場では出くわしたくなかった)
白井「あ~…確か暁美さんは今日非番でしたわよね? わたくしと初春は午後からですの。だからそれまで時間を潰そうと……」
と白井が言い掛けた時。
佐天「やっぱり美樹先輩なら分かってくれると思ってました! さすがです!」
さやか「佐天さんはもの分かりがよくて助かるよ! というか佐天さん。 美樹先輩だとむず痒いから美樹さんって呼んでくれていいよ?」
佐天「いえ、敬意を表して美樹先輩と呼ばせて下さい!是非!!」
さやか「あはは、いやぁ~何というか照れますなぁ。……ん、せっかくだから他のネタも大公開しちゃおっかな!」
佐天「本当ですか!? 」
傍で馬鹿二人が馬鹿騒ぎを始めた。
御坂「私佐天さんに先輩って呼ばれたことないんだけど」
初春「御坂さんは御坂さんですからね」ズズズ
杏子「つーかさぁ」
退屈そうに二人のやりとりを眺めていた杏子が口を広く
杏子「はやくここ出ちゃわない?」
さやか「いきなり何言って……あっ」
佐天「え?……っ!」
気が付くと店内にいる客の視線が佐天とさやか達に注がれていた。
あれだけ騒げば注目を浴びるのも仕方ない。
まどか達はすぐさま逃げるようにファミレスを後にした。
7月20日 午後4時 第七学区 木の葉通り
太陽は傾き、あと何時間かしたら夜が訪れるであろう、そんな時間。
やけに人通りが少ない学園都市の大通りをほむらと御坂はとぼとぼと歩いていた
御坂「ふぅ。結構盛り上がったわね」
ほむら「はい、あまりああいう所に行く機会なかったんで楽しかったです」
ファミレスを出たすぐ後、白井と初春が風紀委員の仕事の為離脱し、残されたまどか達がどうしようかと相談し合った結果ゲームセンターで遊ぶことに決まったのだ
御坂「それにしても佐倉さん、ゲーム上手いのね。驚いたわ」
御坂「まさか私がダンスゲーで負けるとは思わなかったなぁ」
ほむら「佐倉さんも御坂さんもお上手でしたよ?」
ほむら(私はそれより美樹さんのバカでかい声援を聞いて、あの佐倉さんが嬉しそうに顔真っ赤にしてたことに驚いたかな)
夏休み初日だというのにやはり御坂とほむら以外人影が見当たらない。
他の者は皆、思い思いの場所で友人や恋人と休日を満喫しているのだろうか。
ミンミンと鳴く煩わしいセミの声だけが大通りに響く。
御坂「……もうちょっと遊んでいたかったんだけどなぁ」
そもそも何故二人で寂しく帰宅しているのかというと
まず佐天が今日発売の予約していたCDを取りに行くと言って抜け。
まどか、さやか、マミ、杏子も、それに続くようにマミの家で集まってお茶会をする……と御坂たちに別れを告げてゲームセンターを去り。
そしてほむらと御坂だけ取り残されて今に至る。
ほむら「ま、また一緒に来ましょうよ」ニコッ
御坂「ありがと。でも無理に私に付き合わなくても良かったのよ?」
ほむら「……え?」
御坂「ほら、あの子たち。また集まってお茶会するって言ってたじゃない。もしかして気を遣わせちゃった?」
ほむら「あ、あぁそういう……いえ、違うんです。私もちょっと用事があって」
御坂「そっか。なら良かった」
嘘だった。
別段ほむらにこれといった用事はない。
そもそもまどかたちがゲームセンターから抜け出したのはお茶会を開く為ではない。
本当の理由は近くに魔女が現れたからだ。
ほむら(まどかたち……大丈夫かなぁ)
ほむら(出来たらついて行きたかったけど……)
ほむらは今朝の出来事を思い起こす。
我が身可愛いさでインデックスに手を差し伸べることが出来なかったあの瞬間を
ほむら(……ダメだ。今日の一件ではっきりしたじゃない)
ほむら(生半可な覚悟しか持ってない私が首を突っ込んでも足手まといになるだけだ、って)
だからほむらはまどか達に今日の"見学"は休むと伝えた。
その際さやかは何か言いたげな……非難するような視線をほむらに向けていた気がするが、恐らくそれはほむらの気のせいだろう。
だって"見学"に来ないよう勧めたのは他ならぬさやかなのだから。
ほむら(そうだよ。今までがむしろ異常。心配し過ぎだったんだ)
ほむら(マミさん達と一緒なら、まどかに危険が及ぶ事態にはまず陥らないはず)
ほむら(それにあの子……インデックスのことだってマミさん達に伝えたし、何とかするとも言ってもらえた。きっとマミさん達なら本当にどうにかしてくれる)
ほむら(どの道私に出来ることなんてもうない)
ほむら(だから……これでいい。これが正解なんだ)
――本当に?
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え?嘘だろ!おわり!?