あずさ「露華」 (24)


眠れない夜。
窓を叩く雨の音と、時計の針が動く音だけが、真っ暗な部屋の中に響きます。

「もう23時……」

普段21時には床に着く私にとっては、こんな時間まで起きていたら明日の朝が心配になってきます。
けれど、心配したところで眠気はやって来ません。


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仕方なく電気を付けて冷蔵庫から牛乳を取り出し、カップに注いで電子レンジで温めます。
できあがったホットミルクを口に運ぶ。

「はぁ……」

その暖かで柔らかい風味に思わず息が零れました。


もう何日もずっと雨。
空はずっと暗く淀んでいます。
だからかしら?
こんなにも、気分が薄暗くなってしまうのは。

降り止まない雨にため息をついた時、雨と時計の音に、もう一つの音が混ざりました。
携帯電話がその身を震わせて音を立てています。

手に取って音を止めながら画面に目をやると、一通のメール着信の報せが。
ボタンを操作してメールを開くと、音無さんからでした。


From:音無さん
Subject:何だか眠れなくて……

まだ起きてますか?


たった一言、それだけが書かれたメールに、何故か心が軽くなっていくのを感じました。
私と同じっていうのが、嬉しいのかもしれません。

送られてきたメールに、すぐに返信を送る。



To:音無さん
Subject:Re:何だか眠れなくて……

私も眠れなくて、まだ起き
ています。


短めの文を打ち込んで返信。
メールが送信され、数分後、すぐに返事が返ってきました。

送られてきたメールに目を通します。


From:音無さん
Subject:Re:Re:何だか眠れなくて

雨、本当に嫌になっちゃい
ますよね。
洗濯物も溜まりますし(笑)

期待


どうやら音無さんも、この長雨に気が滅入ってしまっているようでした。

すぐに返事を返すため、携帯電話のボタンを操作します。
窓を叩く雨音と、時計の針が時を刻む音に、ボタンを押す音が混じり合います。


To:音無さん
Subject:Re:Re:Re:何だか眠れな

分かります。気分も暗くな
っちゃいますよね……。私
は眠れなくて、今ホットミ
ルクを飲んでいます。
温かくて落ち着きますね。


他愛のない話。
けれど、とても心地よい時間が流れています。
ホットミルクの暖かさと、音無さんからのメールが私に安らぎを与えてくれました。
振り続ける雨で鬱々とした気分が晴れていくような、そんな感覚です。

色んな話をメールでやりとりしていたら、気がついた時にはもう間もなく日付が変わりそうな時間に。
気持ちが落ち着いてきたからか、少しずつ眠気がやって来ました。


From:音無さん
Subject:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re

あ、もうこんな時間!
すみません長々と付き合わ
せてしまって……。

あずささんとメールするの
がすごく楽しくってついつ
い長引いてしまいました。



何だか気を使わせてしまいましたね。
すぐに返事を返しましょう。



To:音無さん
Subject:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re

大丈夫ですよ。
気にしないでください。私
も音無さんとメールするの
楽しかったです。

明日の朝が起きれるか心配
ですけれど(笑)

また眠れない時はメールし
ましょうね~。
勿論そうでない時も。


送信ボタンを押して携帯電話を閉じる。
カップの中身はいつの間にか空っぽになっていました。
空になったカップをシンクに置いて、蛇口の水を入れておきます。

ベッドに戻って布団に入ります。
枕元には携帯電話と、数個の目覚まし時計。
朝が弱い私は、こうしないとなかなか目が覚めません。

寝る準備を整えたところで、携帯電話が鳴りました。


From:音無さん
Subject:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re

遅刻が心配なので朝迎えに
行きますね。

楽しんでもらえたなら嬉し
いです!またメールしまし
ょう!

それでは遅くまでありがと
うございました。おやすみ
なさい。

またあとで?(笑)



少しお茶目な内容に、思わず頬が緩んでしまいました。
あまり長くなっても悪いので、こちらこそおやすみなさいとだけ返して布団に身を沈めます。

電気を消して、目を閉じたらあれだけ眠れなかったのが嘘みたいに、すぐに眠れました。




数個の目覚まし時計が、けたたましく鳴り響き朝を告げます。
眠い目を擦りながら目覚まし時計を止めて、布団から抜け出しました。

閉じたカーテンを開くと、昨日までの雨が嘘みたいに綺麗な空。

いつまで降っていたのでしょうか、道路はまだ濡れていて、ところどころに水たまりが残っています。
着替えて、朝食を食べた頃、家の呼び鈴が鳴りました。

扉を開けると、昨夜の宣言通り音無さんの姿があります。


「来ちゃいました」

いつも通りの素敵な笑顔がでそう言った音無さん。

出かける準備を終えて、二人で事務所を目指します。

「雨、止んで良かったですね~」

綺麗に晴れた空の下、二人並んで歩く道はとても気持ちが良いです。


「えぇ、やっぱり晴れてる方が気分いいですね」

そう話す音無さんの顔も、この空のように晴れ渡っています。

生い茂る草木には雨の名残のように、露が日差しを浴びて、キラキラと輝きを放っていました。



おしまい

終わりです。

雨ばかりで嫌になりますね。
今日もゲリラ豪雨でしたし。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。

乙です

乙!

今夜はホットミルク飲んで寝るか…

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