ゴルゴ「キュウべえだと…?」(1000)
魔法少女父「そうだっ!失踪した私の娘の日記を見るとあの子はキュウべえというやつに魔法少女にされて、それからおかしくなってしまったんだ!
初めは楽しげな内容だったのに徐々に様子がおかしくなっていく。そして私たち両親があの子の異変に気づき始めた頃とも合致するんだ」
ゴルゴ、葉巻の煙を吹きだす
ゴルゴ「その日記はあるのか…?」
父「もちろん持ってきてある!読んでみてくれ!」
(パラパラ)
ゴルゴ「・・・」
父「どうだっ!?世界的スナイパーの君にこういう話をしても荒唐無稽と思われるかもしれないが、私にはその日記は真実を書いているとしか思えないのだ!」
パラパラ
ゴルゴ「わかった・・・依頼を受けよう・・・」
父「おおっ!感謝するっ!Mr.トウゴウ!」
夜8時、ゴルゴは国道を通って車で見滝原市に入る
ブォーッ
ゴルゴ「・・・」
「!!」
通過中の廃屋の壁に奇妙なものを見つけたゴルゴは車を止めて確認するために降りる
バタンッ!
シュボッ
フゥー
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴが奇妙なカビのようなものに手を触れようとしたところで急に周りの景色がぐにゃりとゆがむ
ゴルゴ「!!?」
夏の夜の薄闇の中で急に周りが極彩色の景色に覆われる
ゴルゴ「・・・!!」
銃に手をかけ身構えるゴルゴ
奇妙な丸い小動物達が周囲に次々と現れ、ゆっくりながら確実に彼を包囲し、迫ってくる
ズギューン!
ゴルゴ「!!!」
ゴルゴ「(銃が…きかない…!?)」
完全に包囲されたゴルゴだが頭上に奇妙に垂れ下がるロープをつかんで小動物の上を飛び抜ける
小動物たちは方向転換をし、またも彼をゆっくりと追いすがっていく
走るゴルゴ
ゴルゴ「!!!」
ゴルゴ「(行き止まりか…」
ズギューン!ガギューン!
ゴルゴ「・・・!!」
ゴルゴの額から汗が出る
ダーンダーン!
銃声が響く
本能的に身構えるゴルゴだが、その銃声に違和感を覚えもする
ゴルゴ「(これは・・・マスケット銃か…?)」
見ると彼を包囲していた小動物たちがなぎ倒されている
???「危なかったですわ、おじさま」
ゴルゴ「!!!」
マミ「私の名前はマミ。信じられるかわかりませんけど、魔女たちを退治する役目ですの。もっともこの結界は使い魔たちだけのようですけどね
めぼしいのは全部倒しましたしもうそろそろ結界が元に戻る頃ですわ」
ゴルゴは厳しい眼でマミと名乗る少女を見つめている
すると徐々に周囲の風景が戻り、また元の見滝原市のぽつぽつと街灯が立っている街外れの道路上の宵闇に立っていた
マミ「しかしおじさま、使い魔たち相手とはいえ結界の中で逃げおおせるなんて…
それにその銃…」
ゴルゴ「!!!」
ゴルゴは思わず手に握っていた銃を見つめる
目を細めるマミ
マミ「何か特殊なご職業のようですわね。私は詮索いたしませんが…くれぐれもここで物騒なことはなさらないでください」
銃を懐に戻すゴルゴ
ゴルゴ「遅くなったが礼を言う…」
マミ「いえ、どういたしまして」
そこに耳の長い奇妙な白い動物がひょこっと現れ、マミの肩に乗る
???「マミ、何とか間に合ったようだね。お手柄じゃないか」
ゴルゴ「!!?」
マミ「もう、おじさまが驚いているじゃないの!
あっ、おじさま、紹介しますわね。こちら私の友達のキュウべえ」
ゴルゴ「!!!(キュウべえだと・・・・!?」
キュウべえ「危ないところだったね、マミが駆けつけなければ君はやられていたよ」
口を開くキュウべえだが、マミから紹介された時のゴルゴの驚愕に気づき、目を細めてじっと彼を見つめる
厳しい目で見返すゴルゴ
ゴルゴ「・・・」
シュボッ
見滝原ビジネスホテルの一室にカポラル葉巻の紫煙が立ち込める
ゴルゴは下着一枚の姿でベッドに座り、部屋の電灯の他サイドテーブルのランプもつけてその明りの下依頼者である父親から受け取った日記を見返している
あのあとマミとは特にやり取りをすることなく別れた。訊きたいことがないわけでもなかったが、キュウべえとのお互いの警戒から避けたのだ
彼女は自分は中学三年とだけ名乗ったが、また接触する機会があるだろう
失踪した少女は親元を離れてここ見滝原市の隣野中学の寮に入っていたらしい
日記の内容は初めは好きなお菓子のことなど少女らしい他愛もないものだが、途中でキュウべえに出会い、魔法少女になったなどと書いてある。そしてそこからは魔女との戦いなど
すでに何度も見返した内容だが、実際に先ほどの経験をすると、魔法少女や魔女というのが単なる諷喩でなく、実体験を描いたものだということがわかる
途中から日記の感情は激変し「死にたい死にたい死にたい」など悲嘆の言葉が書かれ、最後は「ソウルジェムがまっ黒」などという言葉が
彼女は魔女との戦いに敗れて命を落としたのか?
ソウルジェムの他グリーフシードなどという言葉もありゴルゴにはいまだ理解不能であった。
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは天井を見上げて息を吹き、煙が立ち上るのを見上げながらしばし黙想し、葉巻を灰皿に押し付け、服を着て出かける準備をした
見滝原の繁華街のバー。夜11時
ゴルゴは一人でカウンターでバーボンを飲んでいる。
郊外の街で発展しているが、都市部ほど騒がしくもないこの街らしく、バーもやや騒がしくはあるが、乱れた風はなく、至って落ち着いた風情である
他人の発話は周囲から飛び込んでき、耳をすませば内容も聞き取れるが、特に気になるというほどでもない
ゴルゴ「・・・」
彼がコップを傾けていると、同じカウンターの右の方から少し騒がしい声が聞こえる
見ると、眼鏡をかけた30過ぎの女が悪酔いしているらしく、バーテンに絡んでいる
女「だーかーらー、目玉焼きが半熟か固焼きかなんて気にする男とは付き合えないわけ!
わかる?こっちから振ってやったのよ?フン、どうせ母親がいつも半熟にしてくれたとかそんなのでしょ、あのマザコン野郎」
バーテンはこういう酔客の相手は慣れているらしく、適当に相槌を打ちながら手際よくコップを磨いていっている
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴの視線に気づいた女が興味を持ったように半笑いでスツールの上を体を滑らせてきた
女「あらー?おじさま、お一人?よかったら一緒に飲まないー?」
ゴルゴ「・・・」
黙ってコップを傾ける彼の横顔を見て同意と受け取った女はカウンターの上のつまみ一式とグラスを彼の隣の席の位置に移し、自分もちょこんと座った
和子「私、早乙女和子。中学の教師をやってるのよ」
ゴルゴが身を起こし、彼女を見つめる
彼の興味を引いたことに満足を覚えたらしく、彼女は満足そうに微笑みながら続けて口を開いた
和子「おじさまアスリートか何か?すごい体つきね。もうスーツの上からもわかるほどパッツンパッツン。ちょっと触っていいかしら?」
ゴルゴ「・・・」
和子「わっ、すごい。ほんと筋肉の塊って感じ。あのひょろひょろしたマザコン野郎とは大違い。
ねっ、聞いて、別れた彼氏ったらね・・・キャッ!」
ゴルゴはコップを傾けると彼女の腕を取り、自らが立つと同時に彼女を無理やりに立たせた
和子「えっ・・・ちょっと・・・いきなり・・・・!?」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴの視線を見上げるうちに彼女の眼は徐々にとろんとしていき、彼に引かれるままバーを共に出て行った
和子「アオオーッ!アオオオーッ!こ、こんなの初めて!お願いっ!私にあの男のことを忘れさせて!
アオオオーッ!」
ゴルゴ「・・・」
和子のマンションの一室、ベッドのスプリングが激しく軋む
30分後、二人は布団を上体半ばまでかぶったまま、和子は横向きにゴルゴに寄り添うようにし、その和子を横にしながらゴルゴは仰向けになって寝転がり、カポラル葉巻を吸っていた
和子「ああ、あなた、最高だったわ。これでようやくあの男のことを忘れられそう」
フゥー
ゴルゴ「・・・
先ほど中学の教師だと言ったが…」
和子「え?ああそうよ。ほんと毎日夕方から夜に残って問題作りや書類仕事やばっかり。居残りなんて言葉今は生徒じゃなく私たちのためにある言葉よ
でもやりがいはある仕事ね。生徒たちが慕ってくれたらうれしいし、みんなの成長を見れるんですもん」
ゴルゴ「ここに来る途中、この街で中学生の失踪騒ぎがあったという噂を聞いたが…」
和子「あ・・・あれね・・・でもあれは隣野中学のことで私の勤務する見滝原中学ではないわ。でもやっぱり騒ぎになって、こちらでも親御さんたちが心配したわね
この街では時々中学生女の子がいなくなるの…犯罪の痕跡もないしいったいどうなっているのかしら・・・」
ゴルゴ「・・・」
和子「ねっ、それより抱いて!私を朝まで寝かせないで!」
朝7時
和子「それじゃ私は仕事に行くけどゆっくりしていってね。
あとこれが合鍵。ここに置いていくわね。あなたの滞在予定は知らないけどいつでも来てくれていいのよ」
ゴルゴ「約束はできないが…気が向いたら来よう…」
バタンッ
支度を終え、出かけて行った和子を確認すると、ゴルゴは下着姿のまま起き上がり、机や書類のラックを調べ始めた
ゴルゴ「・・・!!」
彼が見つけたのは一冊の卒業アルバムだが、そこに移っている少女たちの姿を見てゴルゴは視線を定めた
昨日巴マミとかいう金髪の魔法少女が変身を解いた時と同じ制服だ
和子はマミの中学に勤務しているのか
シュボッ
カポラル葉巻を口にくわえながらゴルゴは黙々と資料を調べていく作業に没頭した
昼の3時
ゴルゴが道を歩いていると制服の男女が下校してくるのと多くすれ違った。
女子は昨夜マミが着ていたのと、また彼が朝に和子のマンションでチェックしたのと同じ制服で、すでに頭に入っている見滝原市の地理からも見滝原中学の方向から下校しており、その生徒たちなのは間違いないだろう
???「ねー、まどか。今日先生目に隈が出来ていたけどすっごく機嫌よくなかった!?それに肌つや良かったし。あれ絶対新しい男が出来たんだよ」
まどか「えー、そうなのかなー、てか、さやかちゃんほんとそういうの目ざといよね…ウェヒヒ・・・」
???「先生のためにも良かったですわ。今度は長続きすればいいのですけれど」
さやか「まーどうせまた長く持って3か月とかでしょ。今度はご飯の炊き方がどうとかで喧嘩したりして」
まどか「さすがにそれはないと思うけど…ウェヒヒ」
???「クスクス・・・あら・・・」
ゴルゴ「・・・」
灰緑色の髪の毛の女の子が彼女たちに軽く視線を乗せているゴルゴのもとに駆け寄る
???「あの、よそから来たお方ですか?何かお探しのようですが、お困りならご案内しましょうか?」
さやか「仁美っ?」
ゴルゴ「・・・
いや・・・その必要はない…」
仁美「そうですか・・・もしお手伝いできることがあれば何かおっしゃってくださいね」
立ち去ってゆく三人
さやか「いきなり知らない人に話しかけるなんて勇気あるねーっ」
仁美「ええ・・・でも何か気になって…」
まどか「あはは・・・確かにちょっと変わった人だけど…」
三人がちらちらとゴルゴの方を見ながら小声で会話する。しかし少女の嬌声は甲高く、遠くまで響いてくる。
さやか「まさか仁美…!ああいうのが好みなの…!?」
まどか「ええっ!?仁美ちゃん!??」
仁美「えっ・・・いえっ・・・あの、その・・・確かにご立派な体格で素敵だとは思いますけど…」
さやか「ははーん。一目惚れってやつだな。しかしこれでまどかは私一人のものだーっ!」
まどか「きゃっ!ちょっ・・・さやかちゃん・・・・!」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは街外れに向かって歩みを進めてゆく
街外れ、国道から脇にそれた見滝原市への入り口の一つ
昨夜彼が使い魔たちに襲われた場所だ。
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは昨夜のカビらしきものがへばりついていたあたりを黙視し、手で撫でてみるが、何の痕跡もない。
昨夜マミに救われた後街灯の弱い灯りの下確認した通りだが、昼間のはっきりした光の下で見ても特に手がかりらしきものはなかった
ゴルゴ「・・・」
???「何物かしら?」
ゴルゴ「!!」
ゴルゴが半分腰を下ろした状態から素早く身を起こし、ひるがえすと、見滝原中学の制服を着た長い黒髪の少女が立っていた
彼女は冷たい眼で彼を見上げながら言う
???「あなたよそ者ね?まとっている空気が違うわ。こんな場所で何をしているの?」
ゴルゴ「・・・
私は建築業のものだ。この廃屋の地質と傾き具合、セメント面の劣化が気になるので少し調べてみたまでだ…」
???「ふうん・・・」
ゴルゴ「・・・」
少女は成人男性の中でもずば抜けて体格のいい彼を見上げて、彼の視線を受けながら物怖じ一つしない。
ゴルゴ「・・・」
???「待ちなさい」
ゴルゴが立ち去ろうとすると、少女は厳しい声を彼にかける
???「あなたそのスーツの下…ホルスターに銃をかけているわね?それにその左足、重心の掛け具合が不自然だわ。
サバイバルナイフでも忍ばせているってとこかしら」
ゴルゴ「!」
ゴルゴは立ち止まり、振り返って彼女を厳しい眼で見据えるが、彼女は真っ直ぐその視線を受け止める。
ゴルゴ、???「・・・」
先に口を開いたのは少女だった
彼女はため息をついて
???「あなたが何の目的でこの街の、こんな場所にいたかはいいわ。
ただ-」
彼女の冷たい目が厳しくなる
???「-この街にいてもろくなことはないと思うわよ。よそから来たのなら早々に立ち去るのが身のためね」
ゴルゴ「・・・」
最後に厳しい視線を交わした後、ゴルゴは身を翻して、来るとき使った道を街の中心部に向けて歩き出した
すぐれた姿勢と身のこなし、彼と彼の視線を前にして一歩も物怖じしない態度、そして何より厳しく冷たい眼
ゴルゴ「(あれも魔法少女か…)」
--------------------------------------------------
???「昨夜ここに使い魔がいたらしいから改めて調べに来たけど…あれは何者かしら・・・」
(「まどか・・・助けてまどか…!」)
まどか「誰?誰なの!?」
ショッピングモールの改装中の立ち入り禁止フロアに入るまどか。非常灯だけが照らし出す薄暗い空間の中に耳の長い白く、細長い生物が傷だらけで横たわっている。
まどか「ひどい・・・」
???「そいつから離れなさい」
まどか「あなたは・・・。ひどいよ。どうしてこんなことするの!?」
???「あなたには関係のないことよ」
現れた黒髪の少女がまどかと白い小動物に近づく。
プシューッ!
???「!!?」
さやか「まどか!こっちこっち!」
黒髪少女に吹きかけた消火器を放り出し、小動物を抱きかかえたまどかとさやかは走り出す。
さやか「今度はサイコな電波女かよ!
ところでそれなに?ぬいぐるみじゃないよね?生き物?」
まどか「う・・・うん・・・私もよくわからないんだけど…」
ズギューン
まどか、さやか「!!!」
さやか「何・・・今の銃声」
まどか「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
さやか「うわっ!」
まどかが抱いていた小動物の小さい額に風穴が空いている
まどか「どうしよう!きっと死んじゃった!」
さやか「うわ・・・あまり血は出てないけど・・・これは死んだかも。とにかく急いでここから出てお医者さんに見せよう!」
まどか「うん!」
---------------------------------------------------
ズギューン
???「!!!
今のは…銃声…?」
タッ
???「足音…あの去っていく人影は…!」
黒髪少女の周りの景色がぐにゃりとゆがむ
???「くっ・・・こんな時に…」
マミ「あなたたち危ないところだったわね。私は巴マミ。あなたたちと同じ身滝原中学の3年生よ
!!!」
使い魔たちを追い払ったマミはまどかが抱きかかえている小動物の異変に気づき、駆け寄る。
マミ「これは・・・!ひどい・・・!」
そこに黒髪の少女が現れる。
マミ「!!!
キュウべえをこんなにしたのは…あなたなの…!?この頭の傷…もう死んだかもしれないわよ」
???「その傷はあたしのじゃ…-」
マミ「いいからさっさと立ち去りなさい。こんなにまでして・・・これ以上あなたを見ていたらあなたを許す自信がないわ」
???「・・・」
立ち去る黒髪の少女。
まどか「あの・・・この子…知ってるんですか…?」
マミ「ええ、私の友達よ。ちょっと待ってね、もう無理かもしれないけど何とか治療してみるわ」
パアァァァァッ!
マミが手にした宝石のようなものから出る光で小動物の体の痛みがぐんぐん治癒していき、額の傷も塞がっていく
さやか「うわっ・・・!」
まどか「すごい・・・!」
キュウべえ「ふう、助かったよマミ。今回は危ないところだった」
マミ「なんとかなったようね。よかったわ」
モール内の喫煙コーナーで葉巻を吸っているゴルゴに黒髪の少女が近づく
???「つけられていたとはね…しかもあなたの目的がキュウべえだったとは…」
ゴルゴ「・・・」
???「あなたはどこかの政府の特殊工作員?それともヒットマンというところかしら」
ゴルゴ「・・・
答える必要はない…どちらにせよもう俺には関わりのないことだ」
灰皿に葉巻を押し付け、火を消し、捨てて立ち去ろうとするゴルゴに少女が話しかける
???「待ちなさい。これであいつを殺ったと思わないことね」
ゴルゴ「・・・」
振り向くゴルゴの厳しい視線を少女はまたも真っ直ぐ受け止める。
今度は先に口を開いたのはゴルゴだった
ゴルゴ「俺は・・・確かに眉間を撃ち抜いたはずだ…」
少女が初めて軽く微笑む
???「認めたわね。でも無駄よ。あいつはあんな程度じゃ殺せない。私も何度も試したもの」
ゴルゴ「・・・」
???「おそらくあなたの射撃の腕は相当なものでしょうけど、あいつは一発の銃弾で到底殺せる相手じゃないわ。
たとえ全身蜂の巣にしようと無駄だもの」
ゴルゴ「・・・
やつは・・・普通の生物ではないのか…?」
???「そうよ。しかしあなたの意図がどうか知らないけどどうやらあたしの障害になる存在ではなさそうね。
私は暁美ほむら。あなたの名前もいいかしら?」
ゴルゴ「・・・デューク・東郷だ…」
ほむら「そう、東郷。あなたの目的がキュウべえを殺すだけかは知らないけどまた会うかもしれないわね。その時はよろしくね」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴはゆっくりとその場を立ち去ってゆく
夜9時
見滝原市の外れ、大きな和風屋敷の前に見滝原中学の制服を着た灰緑色の髪の少女がたたずんでいる
仁美「はあ・・・。お父様遅いですわね。遅れるとは連絡があったものの、こうやってずっと立って待つのはなかなかに辛いですわ。
お茶の先生に作法の後に遅くまでご厄介になるのも迷惑でしょうし」
男1「ねーねー、君ー。可愛いねー。一人?」
男2「その制服中学生?中学生の可愛い女の子が夜一人でいたら危ないよー。家どこ?お兄さんたちが送ってあげようか?」
男3「ヒヒヒ・・・」
声を掛けられた仁美の体がびくんと固まる。目を合わせないようにと直立のまま前を向き続けた彼女だが、男たちはそんな彼女の周りにまとわりつき、首を傾けて彼女の正面の視線に目を置こうとする
男1「へい、どうしたのー?つれないじゃーん」
男2「いいからお兄さんたちといいことしようよー」
男3「ヘヘヘ・・・やめときなよこの子怖がってるじゃーん」
男2「おいおい、俺は怖がらせてるつもりはないぜ?お前らやめろよー」
男たちの間で卑猥な笑い声が上がる
男1「いいからさっさと来いっつってんだよ!あ?」
男の一人が仁美の細い手首をつかみ引っ張る
仁美「やっ・・・!」
このあたりは敷地の広い住宅が並んでおり、彼らの声は周囲の住宅内部の住民まで届くことはない。
仁美が先ほどまで習っており、門の外で待っていた屋敷にしても塀の内部の敷地から母屋までは相当の距離がある
仁美「やめてくださいっ・・・!」
男3「あーん?
ん???」
男たちの一人が視線をふと道の先を見ると、街灯の明りの下一人の大男が立っている。
頭は角刈り、濃い眉毛の厳しい顔立ちをしており、肩幅の広いスーツを着こなした下から盛り上がる筋肉がスーツを内部から圧迫しているのがわかる
男1「何見てんだよおっさん」
手首をつかんでいた男が下に放り投げるようにして手首を放し、角刈りの男に近づいてゆく
手首を振り下ろされる形になった仁美は以前男二人に囲まれてガクガク震えながらも角刈りの男の方に目をやって
仁美「(あっ・・・あの方は…)」
ゴルゴ「・・・」
男1「何とかいえや、おっさん。あ~ん?」
自分より体格のいい相手に向かって拳を振り上げた男だが、ゴルゴは向かってくる拳を体ごと外側に避け、手刀を男の延髄に打ち付けた
ビシーッ
その一撃で意識を飛ばされた男がくず折れると、残りの二人が、一人は手にジャックナイフを持ってゴルゴにかかる
バシッ ゴキッ
一人は顎にストレートをくらい、ナイフでかかった男は肩関節を逆に極められ、嫌な音とともに倒れ伏した
肩を外された男の低いうめき声があたりに響く
仁美「ありがとうございます。助かりました。えっと・・・前見滝原中学のそばでお会いした方ですわね?」
ゴルゴ「・・・」
ブォーッ
車のエンジン音とともに双眸のヘッドライトが辺りを照らし、近づいてくる
仁美「あっ、お父様の車ですわ」
ゴルゴ「・・・」
立ち去ろうとするゴルゴに仁美が呼びかける
仁美「あの・・・お父様とお礼をしたいのですけど・・・」
ゴルゴ「けっこうだ・・・」
立ち止まるそぶりも見せずに身を遠ざけていくゴルゴの背に向かって仁美はなおも呼びかける
仁美「あの・・・お名前だけでも…」
ゴルゴ「・・・デューク・東郷・・・」
仁美「東郷さま…」
ズザーッ
ライトで辺りを照らしまわしながらそばに停車した父の車の横で、仁美は立ち去るゴルゴの姿をじっと見つめていた
土曜の夜8時
マンションの自室で和子がデスクに向かってノートPCに打ち込んでいると
ピンポーン
来客を告げるチャイムの音が鳴った
和子「こんな夜に誰かしら…?」
椅子から立ち上がり、自動ロックで閉じられているマンションエントランスの扉上に設置された監視カメラの画像を眺めると
和子「!!!」
彼女は大急ぎでロックを解除した
同時にだらしなくなっている室内着の身だしなみを大急ぎで整え、髪の乱れも両手で軽く叩いてセットした
ピンポーン
今度はマンションの各室扉横に備え付けられたインターホンの音が鳴る
和子は大急ぎでドアに飛びつき、ドアのロックを外して扉を開けた
和子「来てくれたのね…もう会えないかと思っていたわ」
かすかに息が弾み、かすれる声でしゃべる和子が上気した顔で見上げた先には、部屋前の廊下に立ったゴルゴがいた。
和子「あああああ~っ!もっと!もっと!あなたは最高の男よ!あなた以上に満たしてくれる男を知らない!
東郷!東郷ぅ~!
あああああ~っ!」
ゴルゴ「・・・」
1時間後、ベッドで共に横たわっている二人。和子はゴルゴに寄り添う形で、ゴルゴは仰向けになってカポラル葉巻を吸っている。
和子「また会えてこういう風にできるなんて嬉しい。でも前合鍵を渡したでしょ。それを使って勝手に入ってくればよかったのに」
ゴルゴ「突然押しかけては迷惑かと思ってな…」
和子「もうっ!あなたのそういうところがますます素敵よ。今までの身勝手な男たちとは大違いだわ」
ゴルゴはちらりと開いたままのノートPCが置いてあるデスクの上に目をやる
ゴルゴ「仕事があったんじゃないのか…」
和子「ええ、前も言った通り教職員は仕事が多くてね。でも明日は日曜だから大丈夫よ。できるだけ早く済ませようと思ってたけどあなたに会えるならどうでもいいわ」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴがむくりと起き上がる
和子「どうしたの?」
ゴルゴ「いや・・・飲み物でも入れようかと思ってな…茶とコーヒーどっちがいい…?」
和子「そんなこと私が・・・」
起き上がろうとする和子を制止して
ゴルゴ「いや・・・俺がやろう…」
和子「もう、やっぱりあなた最高だわ!」
15分後
ベッドの上で熟睡する和子の寝息を聞きながら、ゴルゴはデスクの和子が先ほどまで使っていたノートPCを操作していた。
ベッドのサイドテーブルには和子が飲みかけた睡眠薬入りの紅茶が置いてある。
カタカタカタ・・・
ノートPCをいじるゴルゴ
ゴルゴ「(やはり・・・土曜は仕事を家で済ますためにメモリを持ち帰っていたか・・・)」
カタッ
ゴルゴ「!!!」
ゴルゴが開いたファイルには転校して和子のクラスに編入された暁美ほむらの前の学校時の写真画像が保存してあり、
そこに添付されたほむらの肖像写真は顔立ちにしまりがなく、内気で臆病そうな表情をした、眼鏡に三つ編みの少女の顔だった
たしかに骨格などは同じようだが、別人のような違いだ。
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴが見ると、転入する前は半年間入院していたという。これは魔法少女になったことによる変化なのか?だとすると彼女は入院中に魔法少女になったのか?
しばらく暁美ほむらや和子の担当クラスの生徒情報を調べた後、ゴルゴは自らが持ってきた鞄から自分のノートPCを開き、電源を付けて打ち込み始めた
ゴルゴ「!!」
携帯電話を取り出すゴルゴ
???「へい、どなたさんで?」
ゴルゴ「ジム…今関東方面にいるようだな…いくつか調べてもらいたいことがある…」
数日後、ゴルゴとジムは見滝原の繁華街の通りに面したカフェの野外席で向かい合って座っていた
ジム「へい、その女のことは調べやしたが、病弱がちで、やはり前の学校では内気であまり友達もいなかったそうです。
それから心臓の病気で半年間入院・・・
しかし奇妙なことに退院間際になってから急に顔立ちが変わり、いつもつけていた眼鏡も外すようになったとのことです」
ゴルゴ「その間…医師や看護師は彼女の周囲の異変に気付かなかったのか…?」
ジム「へい。ほんとにそれが何の兆候もなかったそうで。詳しいことはこのレポに書いてあります。一緒に頼まれていた隣野中学の女生徒のことはこっちで」
ゴルゴ「・・・」
???「マミさん!こっちこっち!」
ゴルゴ「!」
レポート書類に目を通していたゴルゴが声に反応して大通りの向かいに目をやると見滝原中学の制服を着たピンク髪の少女が、
以前ゴルゴを救い出したマミという金髪の少女の手を引いて走っている。
ゴルゴ「(ピンク髪のほうは…以前見滝原中学校のそばでまどかと呼ばれていた女か…)」
マミ「鹿目さん、危ないことをしてはだめよ!でもよかったわ、病院で魔女が発生したら大変なことですもの」
まどか「とにかく急ぎましょう!」
ゴルゴ「・・・」
ジム「旦那?どうしやした?」
通りの反対側に目をやっているゴルゴにジムが話しかける
立ち上がるゴルゴ
ゴルゴ「急用ができた…レポートは受け取っておこう。これが今回の報酬だ」
折り曲げた札束を手渡すゴルゴ
ジム「へへ!旦那は気前がいいから好きですや!またいつでも頼みますよ!」
金を受け取ったジムは何度も会釈しながら立ち去って行った
通りの向かい側の二人が走り去って行った方向に視線を走らせるゴルゴ
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴが病院の脇を調べて歩いていると、駐輪場に面する壁面に、以前見滝原市に入った時見つけたのと同じような、カビに似た灰色の物質を見つけた
人気のない駐輪場には何度か見かけた見滝原中学校の生徒が使っているスクールバッグが置き去りにされている
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴがカビらしきものに手を近づけると再び景色がゆがみ、暗転し、薄暗くも極彩色の世界に放り込まれた。
ゴルゴ「・・・!」
反射的に懐の拳銃に手をやるゴルゴだが、取り出した拳銃を眺めると
ゴルゴ「・・・」
黙って懐にしまい直した
ゴルゴはゆっくりと歩みを進めてゆく。マミ達が先に進んだはずだが、今歩んでいる回廊状の道は人気がなく、使い魔の気配もない
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴ「!!」
ゴルゴの目の前に回廊の地面と壁面、上部アーチのあちこちから繰り出された赤地に黄色い鎖紋様の巨大なリボンにがんじがらめにされたほむらが宙づりにされている。
観念したかのようにぐったりと力なく縛り吊るされ、目を閉じていたほむらだが、気配に気づいて目を開け、顔を向けると、警戒しながらじっと立って彼女を観察するゴルゴの姿が見えた。
ほむら「あっ・・・!あなたは!?」
ゴルゴ「状況を…説明してもらおうか…」
初めは驚いて頭の回らないようの表情のほむらだったが、ゴルゴの姿を見ると、顔と、全身の体の張り詰め具合に焦りを見せ
ほむら「この拘束を解いて!早くしないとマミが…!マミというのは私と同じ魔法少女で…」
ゴルゴ「マミがこの先にいるんだな…」
驚いた表情のほむら
ほむら「マミを知っているの…!?いや、それより早くこの拘束をッ…!」
ゴルゴ「・・・」
ゆっくりと近づき、しゃがんでズボンの裾をめくり、左足に装着したホルスターからサバイバルナイフを取り出すゴルゴ。
ほむら「待って…!それでは断ち切ることはできないわ…。
私の手にナイフを近づけて…!」
ゴルゴ「・・・」
動きを止めるゴルゴをほむらは理解できないように一瞬見つめていたが、やがて得心したように
ほむら「私たち魔法少女やここにいる魔女といった存在には普通の道具では役に立たないの。私たち魔法少女が魔力を与えないと。
警戒する気持ちはわかるわ。でも私はこんな状態だし、何もできない。時間がないから早くっ!」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴはゆっくりと後ろ手に拘束されたほむらの手にサバイバルナイフを近づける
ほむら「刃の方を私の手にっ・・・!」
パァァァァッ
ゴルゴの手に持つサバイバルナイフが光を帯び始めた
ブツッブツッ
縛りを解かれ、ゴルゴに抱え降ろされたほむらは体のしびれを取るかのように軽く腕と体をほぐし動かしていたが、ゴルゴを見上げると
ほむら「礼を言うわ。今回は危ないところよ」
ゴルゴ「これをやったのは・・・魔女なのか…?」
ほむら「いいえ、マミよ」
ゴルゴ「・・・」
ほむら「今はそれより先に進んでマミを救い出さなければ」
パアァァァァァァッ!
ほむらの姿が光を帯び、ところどころ角の形を持つ魔法少女の衣装に変身した
ほむら「あなた銃を持っているわね…?あなたもマミに用がありそうだけどこの先、魔力を持たないままの武器では通用しないわ。私に貸しなさい
先ほどと同じように魔力を与えてあげるわ」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは今度は特にためらう風を見せずにほむらに銃を預けた
パアァァァァッ
銃が光を帯びてゆく
銃をゴルゴに返したほむらは今度は左腕に装着した小さな菱形の盾から銃を取り出す。
ほむら「私の武器もこれよ」
以前厳しい顔立ちのままだが、一瞬柔らいだ表情を見せてゴルゴの方を見上げ、言う。
間違い、貼り直し
ブツッブツッ
縛りを解かれ、ゴルゴに抱え降ろされたほむらは体のしびれを取るかのように軽く腕と体をほぐし動かしていたが、ゴルゴを見上げると
ほむら「礼を言うわ。今回は危ないところよ」
ゴルゴ「これをやったのは・・・魔女なのか…?」
ほむら「いいえ、マミよ」
ゴルゴ「・・・」
ほむら「今はそれより先に進んでマミを救い出さなければ」
パアァァァァァァッ!
ほむらの姿が光を帯び、ところどころ角の形を持つ魔法少女の衣装に変身した
ほむら「あなた銃を持っているわね…?あなたもマミに用がありそうだけどこの先、魔力を持たないままの武器では通用しないわ。私に貸しなさい
先ほどと同じように魔力を与えてあげるわ。もっとも、私たち魔法少女が使うほどには効力を発揮できないけどね」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは今度は特にためらう風を見せずにほむらに銃を預けた
パアァァァァッ
銃が光を帯びてゆく
銃をゴルゴに返したほむらは今度は左腕に装着した小さな菱形の盾から銃を取り出す。
ほむら「私の武器もこれよ」
以前厳しい顔立ちのままだが、一瞬柔らいだ表情を見せてゴルゴの方を見上げ、言う。
盾の方をじっと見つめるゴルゴの視線に気づき
ほむら「この盾は収納庫にもなっているの。これも魔法少女の能力の一つね。他にも武器はいくらでもあるわ」
手榴弾を取り出すほむら
ほむら「あなたもいくつか持っておきなさい。恐らく私たち魔法少女が与えた魔力が使っているうちに魔力が切れるときがあるわ。その時いくつか持っている方がいいでしょう
それに、常時私の魔力を浴びているから、先ほど即席で与えた魔力より強力で、効果も長持ちするはずだわ」
ほむらがいくつかの拳銃と手榴弾をゴルゴに手渡す
受け取って懐にしまうゴルゴ
ゴルゴ「ライフルは…ないのか…?」
ほむら「!」
ほむら「さすが本職の人らしいわね…もちろんあるわよ。私にはあまり使いこなせないのだけれど…」
盾からするすると銃尾部が短いライフルを取り出す
ゴルゴ「ブルバップ銃か…」
与えられたライフルをさまざまに構えて眺めながらゴルゴが言う。
ほむら「・・・あまりお気に召さないかしら?」
ゴルゴ「いや・・・十分だ・・行こう…」
ほむら「ええ、急ぎましょう」
回廊を走って奥に進むゴルゴとほむら。
ほむら「(時間がたっているせいか、大分結界が完成されてきているようね…この分じゃ使い魔の数も多そう。間に合えばいいのだけれど…)」
二人が開けた場所に出ると、柱や起伏の陰からクッキーやキャンディーに手足が生えたような奇妙な姿の使い魔たちが前方と左右からぞろぞろと出てきた
ゴルゴ「!」
ほむら「!(来たっ!)」
ズキューンガウーンダダダダッガウーンターンズキューン
ピンッ ・・・ ズガガガーン!
ほむら「(何て人…拳銃とライフルの二丁で凄い速さで射撃しながらほぼ全ての弾を命中させている…しかも手榴弾まで同時に扱うなんて…
しかし、やはり私たち魔法少女が扱うほどには使い魔たちにダメージを与えられないようだわ。起き上がって再び向かってくるのも多い…)
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴが撃ち倒したうちのいくらかは再び起き直り、動きを鈍らせながらも二人に迫ってくる。その間を失踪して駆け抜ける二人
狭い廊下を抜けると二人の前に別の大きな広間の一室が開け、先ほどと同じように使い魔たちが現れた。
ほむら「(新手っ・・・!)」
ゴルゴ「・・・」
ガウーンダダダダッズキューンガーンターン
ゴルゴが撃った使い魔たちが一撃で倒されていく
ほむら「(なっ・・・その銃の魔力でどうして…?)」
ほむらの視線に気づいたゴルゴが口を開いた
ゴルゴ「どうやら奴らにも頭部や心臓に相当する部分に急所があるようだ…そこを狙えば一撃で仕留めることができる…」
ほむら「・・・!(先ほどの折衝で私も気づかないような使い魔の弱点を見破ったの…?そしてあんな小さい対象にそれを実践して命中させることのできる能力…)」
ターンガウーンズキューン
なぎ倒されていた使い魔たちだが、突如として銃弾が使い魔たちに衝撃を与えることなく、すうっと彼らの体に吸収されてゆく
ゴルゴ「!!」
ゴルゴは一瞬手に持つ拳銃を見ると即座に投げ捨て、ほむらから受け取った別の拳銃を懐から取り出して再び撃ち始めた
ほむら「(私が即席で与えた拳銃への魔力が切れたようね…そしてそれに即座に気づいて銃を持ち替えた…凄い判断力だわ…)」
ターンダーンガキューン ・・・ズダダダーン
二人がそこを抜け、さらに廊下を駆け抜けると今までで最も広い広間に出、そこにはまどかとさやか、そして今にも魔女の口に飲まれようとするマミがいた
ほむら「(マミッ・・・!)」
ゴルゴ「!・・・」
ズキューンズキューンダウーン
ゴルゴの射撃が巨大な人魂のような形をした魔女の顔に当たると魔女は受けた衝撃に目を閉じて顔をしかめてひるんで後退する
今にも飲まれようとしマミは呆然として立ちすくんでいた
ギロッ
食事の邪魔をされた魔女はゴルゴの姿を認めると一目散に彼に向かっていった。
ダダダダダッ
ゴルゴは右手に持った拳銃を投げ捨て、両手に持ち替えたアサルトライフルの連射を魔女の巨大な顔に向ける
その時、とっさのことに固まっていたまどかとさやかが思考を取り戻す
さやか「えっ・・・あのおじさん誰…?それに転校生…?」
まどか「・・・」
マミも少し遅れて思考と判断力を取り戻した。はっとしてゴルゴに向かった魔女の方を振り返る
ダダダダダダッ
アサルトライフルで魔女をひるませながらゴルゴは横に体を移動させて魔女との距離を取る
魔女は攻撃にひるみ、進行速度を落としながらもゴルゴに執拗に迫る。ほむらも援護として拳銃での射撃を行っており、そのダメージもあるはずだが、あくまで狙いはゴルゴのようだ
ダダダダダダダダッ
体を捌きながら魔女の進行をかわすゴルゴ
ヒュンヒュンッ
突如としてそれまで衝撃とダメージを与えていたライフルの弾が魔女の体に何事もないかのように吸い込まれてゆく
ゴルゴ「(魔力切れっ…!)」
それまで受けていた痛みと衝撃がいきなり失われ、何の障害もなくなった魔女は突如として速度を上げ、真っ直ぐにゴルゴに飛びついてくる
まどか「きゃあっ!」
さやか「おじさん!」
マミ「!!!」
ゴルゴ「・・・!」
ライフルを捨て、横に飛びのけようとするゴルゴ
カチッ
突如としてピンクを基調とした結界内の周囲の風景が灰色になり、魔女の動きが宙に止まった
恐怖の表情を見せているまどか、体をねじりながらこちらに必死の目を向けているさやか、複数のマスケット銃を宙に浮かせて駆けようとしているマミも皆その姿のまま静止している
ゴルゴ「・・・!?」
気づくと、ゴルゴの鍛えられた太い腕をほむらの女子中学生らしい華奢な手が引いている。
ほむら「これが私の魔法少女の能力。時間停止能力よ。私と私が触れているものだけが動くことができるの」
ゴルゴ「・・・!」
目を見開き、驚きの表情でほむらを見やるゴルゴだが、ちらとまどかの方に目を向ける。彼女の腕には以前ゴルゴが額を打ち抜いたキュウべえが抱きかかえられている
その視線に気づいたほむら
ほむら「当てが外れて残念だったわね。あの通り奴はぴんぴんしているわ。しかし今はこいつが大事よ」
ほむらとゴルゴが今しがた遠く避けてきた場所には魔女が大きな口を開け、ギラギラの鋭利な薄い刃物のような歯をむき出しにしている。あれに噛み砕かれたら問題なく胴体は真っ二つだろう
ゴルゴ「・・・」
ほむら「そろそろよ。時間が切れるわ」
カチッ
周囲が再び明るいピンク色の世界に戻り、大気の動きも肌に押し寄せてくる
ガキッ
目を閉じて勢いよく歯をとじ合わせた魔女だが、その刃は空中を噛むことになった
魔女「???」
訝しげな、不機嫌そうな顔をして魔女は辺りを見回す。
と、遠く側方に離れたゴルゴとほむらの姿を認めて再び襲おうと飛びかかってくる
ダーンダーン
その魔女に対して後ろから銃声が鳴り響く
マミ「待ちなさいっ!私が相手よ!」
魔女はすでに遠く離れたゴルゴとほむらを追おうか迷っている風だったが、気分を削いだマミの方を振り向くと、再び彼女を口中に収めようと飛びかかって行った
マミ「今度は油断しないわ」
ダーンダーン
マスケット銃の連射で大きくひるむ魔女の周囲の地面からシュルシュルと黄色いリボンが出てくる。
それにがんじがらめに縛られる魔女
それを見て満足そうに微笑むマミの前方上方に一際太い黄色のリボンが多数現れて、包帯を巻くかのように筒状を形作ってゆく
と、それは今までマミが使用していたマスケット銃の巨大な姿と化した
ニッとマミがウィンクする
マミ「ティロ・フィナーレ!」
ドーン!
巨大砲の直撃を受けた魔女が雲散霧消すると、ピンク色の結界が薄れてゆき、周囲はまた元の病院横の人気のない駐輪場に戻っていた。
いつの間にか夕闇が近づいており、薄暗くなっている。
じっと立ち尽くす5人
最初に歩みを進め、口を開いたのはマミだった
マミは軽く首を傾げ、ほほえみながら
マミ「おじさま、またお会いしましたわね。それもこんな形で命を助けられるとは思ってもみませんでしたわ。お礼を申し上げます。ありがとうございます」
ゴルゴ「・・・俺は…借りは返す主義だ…」
マミは軽く握った拳を口に当てくすりと笑う
マミ「そうでしたわね。でも、私本当に感謝してますのよ?」
ゴルゴ「・・・気にすることではない…」
マミは再び首を傾げ、フフッとゴルゴに微笑みかけると、今度はほむらの方に向き直った
マミ「暁美さんね?あなたにも感謝するわ。おじさまに力を与えてくださったのね?
それに・・・」
マミはじっと顔をうつむける
マミ「あなたの忠告通りだったわ。あなたたちが来てくれなかったら私は本当に危ないところだった。今頃命を落としていたかもしれないわ。
ありがとう」
ほむらはマミと視線を合わせるのが気まずいかのように斜めに地面を注視し、
ほむら「礼を言われることではないわ…私はその…あなたのことがちょっと心配だっただけよ…」
マミは微笑みかける
マミ「それでもありがとう。
ただし-」
まどかの抱きかかえたキュウべえの方を向き直る
マミ「あなたが以前キュウべえにしたことを忘れてもいないわ?正直あなたが私たちに近づく意図がわからない。いずれおじさまと同じように借りは返したいと思うけど、完全にあなたのことを信用したわけでもないのよ?」
ほむら「・・・」
マミ「そうだおじさま」
マミはくるりとゴルゴの方を向き直る
マミ「まだ私おじさまのお名前をうかがっていなかったわね。よろしいかしら?」
ゴルゴ「デューク・東郷だ…」
マミ「デューク・東郷・・・ハーフの方かしら。東郷さんね。素敵な名前だわ
それであの・・・もしよろしければだけど・・・」
それまでの明るく自信ありげな表情からマミは突如として顔をうつむけ、もじもじとして口を開く
マミ「あの・・・無関係なあなたにこんなことを頼むのもどうかと思うのですけど…東郷さんもこの方面の経験はおありのようなので…よろしければわたくしと一緒に戦ってもらえないかしら」
まどか、さやか、ほむら「!!!」
ゴルゴ「・・・」
五人をじっと見つめるキュウべえ
キュウべえ「・・・」
ほむら「話があるのだけれどいいかしら」
宵闇が迫りくる見滝原の大通りを中心部に向かって歩いているゴルゴの背に声がかかった。
ゴルゴはあの後マミと共にいた二人の少女の紹介を受け-ピンク髪の少女は鹿目まどか、青髪の少女は美樹さやかと名乗った-病院から別れてきたところだった。
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴが振り返ると相変わらず感情を感じさせない毅然とした態度で暁美ほむらがこちらの目を真っ直ぐに見定めてくる。
ゴルゴ「何か用か…?」
ほむら「長くなりそうな話だわ-」
ほむらはすっと体をゴルゴの横に寄せ、
ほむら「どこか喫茶店にでも入ってお話ししましょう」
ゴルゴ「・・・」
うながすように速足で歩きだすほむらに合わせてゴルゴがその大きな体躯で会わせて悠然と並んで歩む。
ほむら「ここがいいわ。丁度いい具合に今はお客さんがほとんどいないみたい」
ほむらは大通りに面した喫茶店の前で歩みを止め、ゴルゴを促した。
割と大きな喫茶店で中もこぎれいで洒落た感じだが、平日の夕方のこの時間帯にはあまり客が入らないようだ。
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは、さっさとドアを開け、チリンチリンというドアにつけられたベルの音とともに喫茶店に入るほむらの後をついて共に入った。
「お待たせしました」
呼びかけと共に二人の前に飲み物を置く店員。二人は人気の少ない喫茶店の隅の奥手、柱と腰より少し上ほどの高さの壁に仕切られた一角のうちの一番奥の席に向かい合って座っている。
このスペースには他にもいくつかテーブルとソファ席が並んでいるが、今は二人の他誰もいない。
二人が注文したのはゴルゴがコーヒー、ほむらがオレンジジュースだ。
ゴルゴ「結構だ…」
店員がつづけて給じようとした砂糖とフレッシュを辞退し、店員が去っていくと、ほむらはゴルゴが注文し、何も加えないままのブラックコーヒーを眺めながらフッと軽く笑って言った。
ほむら「コーヒーね。私も飲みたいのだけれど…」
ゴルゴ「カフェインの摂取は不静脈を引き起こすことがある…持病の心臓病か…?」
ほむら「!」
コーヒーカップを持ち上げ、今にも口につけようとしていたゴルゴだが、途中でその動きを止め、ソーサーにカップを戻すと胸ポケットから折りたたんだ紙片を取り出し、開けるとほむらの目の前に突き付けた
紙片はPCのプリント用紙で、そこには眼鏡をかけた、転校前の暁美ほむらの顔写真画像が写っている。三つ編みに眼鏡。顔のしまりがなく、おどおどと内気そうな表情だ。
ゴルゴ「お前はいったい…何者だ…?」
ほむらの表情が動揺に崩れる。目を大きく見開き、口を半開きにして過去の自分の写真画像を見つめながら、喘ぐように口を開く。
ほむら「あたしのこと・・・調べたのね・・・!」
ゴルゴはそんな彼女の顔を厳しく見据えながら
ゴルゴ「お前には訊きたいことが山ほどある…。いつどうやって魔法少女になった…?魔法少女とは何なのだ…?そしてこの写真の姿の変わりようは何だ…?これも魔法少女の力なのか…?」
ほむらは驚愕の表情で突きつけられたプリント画像を見ていたが、ゴルゴが質問を発するうちに徐々に動揺が収まっていき、激しい息遣いも穏やかになっていった。
ほむらは目を閉じて、大きく息を吸い、軽く顔をうつむけた後、再びきっとゴルゴの顔を見据えると、先ほどまでの動揺がどこかに飛んでいったように、また元の冷たい瞳に戻った。
ほむら「魔法少女のことについては後で話すわ。でもまずはこちらの話-」
ほむらは片手でふぁさっと顔の横にかかった長い黒髪をかき上げると、目を閉じて小さな声で歌いだした
ほむら「こころのよろこび♪われはうたわん♪うたいてあかしせし♪主のさかえを♪」
ゴルゴ「!!!(讃美歌十三番!)」
今度はゴルゴの表情に驚きの亀裂が走った
ほむら「東洋系、身長185センチ、がっちりした体躯。角刈りの頭に濃い眉毛、カミソリのような厳しく冷たい眼。ファイルの通りね。
あなたがゴルゴ13ね
依頼したいことがあるのだけれど」
ゴルゴ「・・・」
ほむらはきょろきょろと人気のない店内を見渡すと、視覚に入る場所に他の客も店員がいないことを確認すると、手のひらから宝石のような物をにゅっと出し、
パアァァァァッ!
魔法少女姿に変身した。
ゴルゴ「・・・」
魔法少女に変身したほむらは左腕の盾から大きなスーツケースを引っ張りだし、広いテーブルの飲み物が置いていない場所にどんと置く。
ゴルゴの方に中身が見えるように開けてみせたスーツケースの中は札束でいっぱいだった。
ほむら「ここに10万ドルあるわ。これで鹿目まどかが魔法少女になるのから守ってほしいの」
見滝原ビジネスホテルの最上階の一室。
シャワーを浴びたゴルゴは備え付けのバスタオルで体を拭き、下着一枚のままベッドに座り込むと彼の巨体の重みでベッドのスプリングが軋んだ。
シャワーを浴びた熱気を夏の夜の暑さのなかで冷ますにはこの格好が一番いい。開け放した窓からひんやりとしてとして爽やかな夜気が注ぎ込んで、火照った体をほどよく冷ましてくれる。
シュボッ
カポラル葉巻に火をつけ、窓から見える見滝原の繁華街の夜景に目をやりながらゴルゴは先ほどのほむらとのやり取りを思い出していた
---------------------------------------------------------
10万ドルが入ったトランクをゴルゴに開け示しながらほむら
ほむら「鹿目まどかが魔法少女になるのから守ってほしいの」
ゴルゴはそれには答えずに
ゴルゴ「・・・どこで俺のことを知った…?」
ほむら「・・・鋭いあなたのことなら察することができるのじゃないかしら。
さっきの私の能力を見たでしょ。時を止める能力。それでこれ-ほむらは盾から拳銃をちらりと引き出してまた中に戻した-を手に入れたりする時に一緒にあなたの情報が入ったファイルを偶然目にしたのよ。
主に大きな警察署の署長室や暴力団の組長室なんかでね。警察署ではトップシークレット扱いで、暴力団内部でも厳重に秘匿されていたわ」
以前、デューク・東郷という名を聞いた時どこかに引っかかりがあって調べ直してみたら案の定だったわ。この10万ドルはそのために手に入れてきたの」
ゴルゴ「・・・」
キュウべぇ殺すよりクズほむらぶっ殺しておけよks
ほむらは再びきょろきょろして魔法少女の変身を解くと、ここに入った時と同じ見滝原中学校の制服姿に戻った。
ほむら「そのことはもういいでしょう。先ほどのあなたの戦いぶりを見て確信したわ。あなたなら私の願いをかなえるだけの力があるわ」
彼女は魔法少女について語り始めた。キュウべえと契約して魔法少女になること。魔法少女になった者は魂が肉体から離れてソウルジェムと呼ばれる物質に取り込まれること。
魔力の使用や負傷、感情の落ち込みによってソウルジェムが濁ること。それを浄化する、魔女が落すグリーフシードのこと。そして、ソウルジェムが真っ黒に濁った時魔法少女自身が魔女になること。つまり、今まで彼らが戦ってきた魔女は彼女ら魔法少女自身の成れの果てということになる。
それを聞いているとき、ゴルゴの頭の中に依頼者である父親から受け取った魔法少女の日記の内容中の言葉が去来した。『ソウルジェム』『グリーフシード』『真っ黒に濁る…』
ただ、ほむらは自分がい かにして魔法少女になったか、これまでどういう戦いを経験してきたのかは語らなかった。
ゴルゴ「・・・つまり・・・鹿目まどかが魔法少女になり、それによって魔女になる可能性を排除したいわけだな…」
ほむら「そんなところよ」
二人はじっと見つめ合う
ゴルゴ「・・・
悪いが…その依頼は受けることができない・・・」
一瞬大きく目を見開いたほむらだったが、すぐに冷静さを取り戻して
ほむら「・・・それは私が正体を明かさないから?」
ゴルゴは一瞬ピクリと片方の眉を動かし
ゴルゴ「そういうことではない・・・俺は現在今の依頼を遂行中だ…」
ほむら「キュウべえの抹殺かしら?」
ゴルゴ「・・・
仮に俺が現在依頼を受けられる状態だとしても、俺の専門はスナイプ及び敵の殲滅だ…誰かを守るなど…ましてや魔法少女になるのを止めてくれなどというあやふやな依頼を受ける気はない…
話がそれだけならもう行かせてもらおう…」
コーヒーを飲み干し、体を横にねじり、座っていたソファ席から立ち上がろうとするゴルゴにほむらが声をかけた
ほむら「協力ということではどうかしら?」
ゴルゴ「・・・」
顔をほむらに向け、元の正面に座り直しはしないものの、浮かせようとした腰の重みを再びソファに沈めたゴルゴ。
ほむら「あなたの専門が狙撃および殲滅ならその条件で協力を申し出たいわ。私があなたに協力するのでも、あなたが私に協力するのでもいい。
まどかが魔法少女になろうとする前にそうする動機であるところの魔女を全滅させる。まどかに危害を加えようとする魔女を倒す。そしてもちろんそもそもまどかを魔法少女にする力を持つキュウべえを始末するという選択肢もあるわ。
大体あなたも魔法少女や魔女のことをよく知り、キュウべえを抹殺する機会を窺うためにさっきのマミのお願いを聞いてあげたんでしょう。
私も、いえ、私が一番魔法少女と魔女のことを知り尽くしているわ。そして私もキュウべえのことを狙っているもの。これならギブ&テイクでしょう?」
ゴルゴ「・・・」
ほむら「それに-」
ほむらは軽く目を閉じ首を傾げてフッと笑うとともにふぁさっと髪をかき上げた。どうやら髪をかき上げるのがほむらの癖のようだ
ほむら「先ほどマミに言っていたわね。あなた『借りは返す主義』だって。さっきの私の借りを返すという形ででも協力してほしいのだけど?」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴの脳裏に体の寸前まで迫ったお菓子の魔女の薄く鋭い刃のような牙がよぎった。
ほむら「私もあなたに助けられてマミを救うことができたけど、あなたも私の魔法と魔力のおかげで助かったでしょう」
ほむらはゴルゴに向けた顔でふふっといたずらっぽく笑った。
ほむら「本当はこのように年上の人を脅すようなことはしたくないのだけれど」
--------------------------------------------
ゴルゴ「・・・」
涼しい風を受けながら、繁華街から少し外れ、それらをよく見下ろすことができる立地のビジネスホテルの窓から夜景を眺めるゴルゴ
--------------------------------------------------
喫茶店を出た後、人気のない路地裏に行き、再び魔法少女姿に変身した状態からゴルゴに拳銃や手榴弾、サバイバルナイフなど携行可能な武器の数々を渡すほむら。
ほむら「できるだけ持っておきなさい。さっきのような魔力切れになったら生身のあなたでは太刀打ちできないわ。マミがいれば魔力を供給してくれるだろうけど、一人でいるときに魔女や使い魔に襲われたら大変だもの。
それとあなたの武器も私に預けてくれたら今のうちに充電してあげれるのだけれど」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴはいったん見滝原ビジネスホテルの自室に戻ると、トランクを提げて戻ってきた。
中には分解された形のライフル銃がきれいにおさめられている
ほむら「M-16・・・これもデータの通りね・・・。さっきあなたがブルパップ銃に一瞬躊躇したのもわかるわ」
ゴルゴ「・・・」
ほむらはゴルゴが組み立て直したライフルをしゅるしゅると盾に収めると、魔法少女の変身を解いて
ほむら「これで全部ね…。あとはマミと同じようにあなたの携帯の連絡先を聞いておきたいのだけれど?」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは懐の内ポケットから携帯電話を取り出す
ほむら「これはプリペイド型携帯かしら?さすが用心深いのね」
ゴルゴ「・・・」
連絡先を交換したほむらは携帯電話をしまい、ふぁさと髪をかき上げると、
ほむら「さて、もう行くわ。あなたの協力を得られることができて本当に感謝してるわ」
歩き去って行った。
-------------------------------------------------------------
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは回想する
ほむらはあと一つ、喫茶店の席を二人で立つ前に一つのことを言った
ほむら「ワルプルギスの夜という魔女がいるの-。空中を高く飛び、自然災害レベルの被害と犠牲を生み起こす最強の魔女よ」
ワルプルギスの夜-ドイツで4月30日の夜から5月1日にかけて行われる、魔女の集会【サバト】の中でも最大規模のもののことだ-不吉な名前だ。誰が付けたかわからないが、最強の魔女に相応しい呼び名と言えるだろう
ほむらは付け加えて言っていた
ほむら「それが一月後に来る」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴはカポラル葉巻を指に挟んだまま、ベッドの上に放り出してある携帯電話を手に取ると、通話をかけ始めた。
ジム「へい、旦那!」
ゴルゴ「ジムか…25日以内に揃えてほしいものがある…」
かけ終えたゴルゴは携帯電話をちゃっと折りたたみ直しベッドの上に投げ捨てた
下着姿のまま窓の真正面に立ったゴルゴの全身に涼しく、心地よい夜気が吹き付けてきた
マミ「ティロ・フィナーレ!」
ドゴオォォォーン!
マミの発射した巨大マスケット砲の砲撃を受けて魔女の体が吹き飛び、残った部分も急激に形を失ってゆくと、すぅっと周囲のほのかな極彩色の結界風景が薄れゆき、四人は再び元の街外れの廃工場跡に戻っていた。
時刻は夕方で街の外に広がった空地の地平から夕日が横に駆け照ってくる。
シュンと魔法少女の変身を解いて制服姿に戻ったマミは地に落ちたグリーフシードを拾うと、ゴルゴに歩み寄り、見上げて
マミ「今回も助かりましたわおじさま」
ゴルゴはマミをじっと見下ろし
ゴルゴ「俺は…援護しただけだ…」
マミ「いいえ、使い魔たちを多く倒してくださったし、魔女との戦いでもおじさまが戦ってくださるから魔女の注意をそらすことができたんですのよ。
それに・・・私は今までずっと一人で戦ってきたから、一緒に支えてくれる方がいるだけで…」
マミは顔をうつむけた。顔が紅潮しているように見えるのは夕日の色の反映だけではないようだ。
さやか「あれー、マミさん、私たちは無視ですかー?そりゃ私たちは東郷さんみたいに戦えないけどさ」
マミの態度を見て、軽い調子ながらもどこか拗ねたような表情を声の調子にわざとらしく入れている。
そんなさやかに対してまどかが小声でささやく
まどか(「ちょっとさやかちゃん!」)
マミはそんなさやかたちに照れたように
マミ「ええ、あなたたちにも感謝してるわ…」
しかしすぐにその視線はゴルゴの顔に戻る
さやか「いやー、それにしてもおじさんすごかったね。パンパンパーンって-さやかは体全体をぶんぶん振り回し、両手でそれぞれ二丁の拳銃を撃つジェスチャーをする-百発百中だもんね。
ひょっとしてあれ?おじさんの職業は007みたいなどっかの秘密工作員とか?」
まどか「あはは・・・さやかちゃん・・・」
キュウべえ「僕の方からもそれは興味ある疑問だね」
少し離れた崩れかけの塀の上で皆の様子を見守っていたキュウべえがひょいと飛び降り、近寄りながら話しかけてくる。
キュウべえ「魔力も持たず、魔法少女の魔法や身体能力の強化もなしで、武器に与えられた魔力だけで魔女や使い魔たちと渡り合えるなど前代未聞だ。君ほどのものがこんななんの変哲もない街に一体何の目的で訪れ、滞在しているんだい?」
キュウべえのくりくりとしながらも、表情の変化を見せない瞳がじっとゴルゴを見据える。
ゴルゴ「・・・」
マミ「こらっ、キュウべえ。おじさまを困らせないの」
キュウべえの横に並んだマミが頭を半ば撫でるように、半ば叩いてしつけるようにキュウべえの頭に手をやる。
マミ「ごめんなさいね、おじさま。私も初めて会ったときは余計なことを言ってしまいましたけど、誰でも秘密にしたいことはおありですものね」
視線をマミに戻したゴルゴだが、注意は完全にキュウべえから逸れているわけではないようだ
ゴルゴ「いや・・・気にすることはない…」
キュウべえ「・・・」
------------------------------------------------------------
魔女退治の後、初めにゴルゴが立ち去り、続いてマミと別れてきたまどかとさやか。
さやか「いやーっ、マミさん絶対東郷さんのこと好きだよね」
まどか「や・・・やっぱりそうなのかな・・・」
さやか「絶対だよ絶対!さやかちゃんの勘は狂わないのだーっ!」
まどか「あはは・・・さやかちゃんすごい自信…」
並んで歩いている二人だが、上背があり、活発に動くさやかのほうが歩調が速く、まどかはそれに合わせるようについていく。今回はさやかの歩みが今までよりさらに速いようだ。
さやかは片腕を上に伸ばし、バッグを持ったもう片方の手を頭の後ろに回し、伸ばした腕の肘に手を当てるようにして伸びをして
さやか「うーん、でも誰かのために、誰かと一緒に支えられて戦えるなんていいねー」
慌ててついていくまどかだが、それを聞いて
まどか「さやかちゃん・・・それひょっとして上条君のこと…?」
さやかは一瞬恥ずかしそうにはっとした後でくるりとまどかの方を向き直り、手でまどかの肩をポンポンと叩くと
さやか「あはは、何言ってんのまどか。さっ、早く帰ろっ!もうすぐ暗くなっちゃうよ!」
軽く駆け出すさやか
まどか「さやかちゃん待って…!」
まどかが慌ててついていく
徐々に脚の動きが慣れペースを速めていったさやかは片方の手にバッグを持ったままぶんぶん前後に腕を振り回しながら、かすかに見え始めているいくつかの星のきらめきを薄暗くなり始めた空に認めながら、誰にも聞こえないささやき声で軽くひとりごちた
さやか「うんっ・・・」
工場主「-今みたいな時代にさ、俺の居場所なんてあるわけねえんだよな…」
あちこちから集まった大勢の意識を失った人間がう~う~唸りながら寂れた工場内を腰をかがめただらしない姿勢で歩いている
女「んっ」
工場主の妻らしい、いかにも普段の生活と作業になじんだといった感じの、全体にくすんで見栄えのしない服を着た中年の女性がバケツを持ってくると、床に置き、二つの洗剤容器の栓を開け、ドボドボと入れ始めた
まどか「!」
まどかの脳裏に、以前母から受けた酸性洗剤と塩素系洗剤についての注意がよぎる。
まどか「それは駄目っ!」
ドン
まどか「うっ」
洗剤を投入している女のもとに駆け寄ろうとするまどかの腹に仁美の拳が入る。
仁美「邪魔してはいけません、あれは神聖な儀式ですのよ」
まどか「だってあれ危ないんだよっ。ここにいる人たちみんな死んじゃうよ!」
ダッ
その途端大きな一人の人影が素早く入ってくると
ドカーッ
洗剤を投入している女の顎に蹴りを喰らわせた
まどか、仁美、他「!!!」
ゴルゴ「酸性と塩素系を混ぜると気化ガスで塩素中毒を起こすぞ!早くそのバケツを外に捨てろ!」
飛びこんできた人影はゴルゴだった。
まどか「う・・・うんっ!」
掴んでいる仁美の手を振りほどくと、まどかは床に放置されたバケツを両手に持ち、息を喘がしながら窓の下に寄り
ブン ガシャーン
想いきり放り投げ、窓の外にバケツを放り出した。
ビシッ ガスッ ドカッ
ゴルゴは迫りくる男女たちの主に頭部と頸部に手足で打撃を加え、その意識を飛ばしていく
まどか「おじさんっ・・・!」
ゴルゴ「ここは逃げろ!外に出てマミかほむらを呼ぶんだ!」
まどか「うんっ・・・!」
ビシー ガスー
まどかに寄ろうとする男女をゴルゴが倒してゆく
その間にまどかは外に走り去った
と、急に明るい音楽が響きだし、巨大な機械音、『キャハハハハ』という笑い声と共に周囲が青く転じ始めた
ゴルゴ「!!!(魔女の結界…!)」
『キャハハハ』 『アハハハハ』
周囲はいつの間にか遊園地のメリーゴーラウンド、上下左右に並べられたテレビ画面などの風景に変じており、笑い声と共に、頭に天使の輪っかを付け、顔に固定された笑い顔をへばりつけた、素体だけのような白い人形が四方からゴルゴの体をつかもうと寄ってきた。
ゴルゴ「!!!」
ガウーン ドカッ ガスッ
ゴルゴは、遠くから寄ってくる相手には射撃を食らわし、近くに来てへばりつけ始めた相手にはサバイバルナイフと銃の柄で応戦していたが、
ゴルゴ「!!!」
数多く並べられたテレビ画面に映像が映し出されている。
性病持ちの大男に持ち上げられたまま後ろから犯される女、拷問を加えようと、顔に薄ら笑いを浮かべながら道具を持って寄ってくる男、命を狙って急襲してくるマフィアの一団。
それらは全て過去にゴルゴが見、体験してきたことだった。
ゴルゴ「・・・」
ザスッ ガギューン ドカッ
ゴルゴは一瞬それらの映像に目を止めていたが、また厳しい表情のまま寄ってくる使い魔たちを倒し始めた。
やがて目の前に、黒い翼を持った、白いテレビ画面がフワフワと現れ始めた。
ゴルゴ「(あれが魔女本体か…)」
なおもしつこく寄ってくる使い魔たちを倒すゴルゴ。すでにサバイバルナイフは一本、拳銃を一丁魔力切れで使い捨てていた
ようやく寄ってくる使い魔たちを追い払い、周囲に邪魔がいなくなると、素早くゴルゴは銃口を魔女に向け発射した。
ガギューン
ヒョイッ
魔女はフワフワとした重心の定まらない奇妙な動きながらも素早くゴルゴの射撃をかわした
ゴルゴ「!!」
ガウーンズキューン
ゴルゴが繰り出す素早い射撃はことごとく魔女に避けられてしまう。
ゴルゴ「・・・」
次に撃とうと目で狙いを定めたとき、突然横から使い魔が襲ってきた
ゴルゴ「!」
ズギューン
反射の動きで使い魔を撃ち倒すゴルゴ
しかし、ゴルゴの正面にいた魔女はまたもや先ほどまでのゴルゴの攻撃をかわしたようにヒョイと横にかわす動きを見せた
体をそらしたのは今しがたゴルゴが狙いを定めていた射線上だ
ゴルゴ「(念思考力【テレパス】!)」
いったん引いていた使い魔の波が再び周囲から押し包んでくる
ダーン ガキューン
と、ゴルゴに迫っていた使い魔たちの何匹かが銃声とともに撃ち倒され、それとともに使い魔たちの群れの形が崩れ始めた
ほむら「遅れてごめんなさいね」
現れたのはほむらだった。
ほむら「あれが魔女本体ね…しかしまずはこの使い魔たちを何とかしましょう。
・・・ずいぶん倒したようだけれど銃の魔力は大丈夫?」
ゴルゴ「・・・まだいくらか予備がある…」
ズキューンガウーン
使い魔たちを撃ち倒しながらゴルゴが答える
ほむら「そう、それならよかった。まずは雑魚掃除ね」
ダーンガーンズキューンザスッドカッガガーン
四方から迫る使い魔たちを二人が応戦して倒すと、再び使い魔たちの群れの襲来の波が途絶えた。
ほむら「今のうちに魔女を倒しましょう」
ガキューンダーン
ヒョイッヒョイッ
ほむら「かわされた!?なんて素早いのかしら」
再び両手で銃を構えて狙うほむら
ズキューンガウーン
ヒョイッヒョイッ
ほむら「!!?」
魔女はほむらの攻撃をかわす以外はフワフワ悠然と宙の間を漂っている。
ゴルゴ「奴は…我々の思考が読めるようだ…」
ほむら「何ですって…!?確かにそういえば…
あなたでも無理なの?」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは一瞬体の力を抜いて、攻撃のそぶりを無くしてから
ズキューン
ほむらの目には見えないほどの速度で腕を素早く動かし、発射した
ヒョイッヒョイッ
ほむら「!?」
ガガーンズキューン
ヒョイッヒョイッ
続けてゴルゴの射撃がかわされたが、ゴルゴ自身はほむらに示すようにこの射撃を行っているようだった
ほむら「あなたでも当てられないなんて…」
ほむらは目を見開き、呆然と言った
ゴルゴ「・・・心を読まれた上に・・・奴の素早さがあっては当てるのは無理なことだろうな…
ほむら・・・30秒時間を稼げるか…?その間奴をすべて引き受けていてほしい…」
ほむらは我を取り戻し、
ほむら「何か考えがあるのね…わかったわ・・・」
ゴルゴ「・・・」
ゴルゴは後ろに下がり距離を取って、魔女との延長線上にそれをかばう形でほむらが前に出た
ほむらがちらと見やると、ゴルゴは銃を懐にしまい、目を半ば閉じ、腹のあたりに手をやって口を閉じたまま大きく鼻で息を吸い始めた
ほむら「(何をやっているのかしら…?)
!」
魔女が迫りくる
ダーンダーン
魔女は再びヒョイヒョイとかわしていく。どうやら相手が攻撃している間はかわすのに専念しているようだった。
ガキューンガウーン
ヒョイッヒョイッ
両手で拳銃を構え、狙いを定めて撃ち続けるほむらの額に焦りの汗が出始める
ほむら「当たらない…こうしている間にも使い魔たちが再び襲ってくるかもしれない。ゴルゴを守る必要もあるし…時間を止めるしか…
・・・!」
フワフワとほむらの正面に静止した魔女のテレビ画面に映像が映し出された
横たわる魔法少女姿のまどかの死体、顔をゆがめ、必死の形相でこちらに銃口を向けるマミ、一面なにもない荒れ果てた焦土の上に轟然と、天まで屹立する巨大な樹木
ほむら「(まどかっ・・・!)」
一瞬ほむらの目の前が暗くなり、ふらりと倒れそうになる。その瞬間を狙って魔女が飛びかかってくる
ほむら「・・・っ!」
何とか身をよじって体当たりをかわすほむら。
しかしほむらの壁を突破した魔女は一目散に腹に手を置き、奇妙な姿のまま静止しているゴルゴの方に向かった。
ほむら「ゴルゴっ…!」
ズキューン
ビスッ
突如懐に手をやり、拳銃を抜き撃ったゴルゴの銃弾が魔女のテレビ画面部に当たり、そのガラス状に風穴を開けた
ほむら「!!?」
突然の反撃と被弾に仰天した魔女はバタバタと焦り飛ぶ蛾のように縦横に乱れ飛んだ。
ほむら「(当たった…!?)」
ガウーンズキューン
ビスッビシッ
魔女のテレビ画面と側面部に風穴が空いていく
ほむら「(当てている…いったいどうやって…!?」
ほむらがゴルゴの方を見ると、ゴルゴは目を半眼にして腹のあたりを中心に回るように身をひねり、撃っている。現在の拳銃は一丁だ。
ほむら「(どうやら何か心をコントロールする方法を見つけたようね・・・奴がゴルゴにやられている間に私も当てられればいいのだけれど)」
ガガーンダーン
ヒョイッヒョイッ
テレビの背面をこちらに向けたまま、ほむらの攻撃はかわされていく
ほむら「(くっ・・・やはりだめか…それにゴルゴの拳銃に与えた魔力だけでは致命傷を与えられないようね。このままでは奴を倒せない…)」
四方からぞろぞろと再び使い魔たちが押し寄せてくる
ほむら「!」
ズキューンガウーンガーンダーン
再び二人で応戦するが、ゴルゴの拳銃が魔女を狙ったときは的確にヒットするものの、先ほどまでの素早い反応速度で使い魔たちに対応できていない
ほむら「(うまいことばかりではないようね…このままでは・・・!)」
使い魔たちの輪が狭まってくる
ほむら「・・・っ!」
???「やあっ!」
突如、上方から青地に白の縁飾りが基調の白マントを付けた変形の騎士服を着た青髪の少女が飛び降りてきて、手に持ったサーベルを魔女に突き立てた
魔女「!!!」
ズガッともガシャッともベガッともいう音を立ててテレビ画面の上方から深々と刃を突き立てられた魔女は狂乱の体で刃から身をよじりかわし、バタバタと飛び回った。
その魔女のダメージに呼応するように使い魔たちの攻撃の波が一瞬引く
???「私が相手だ!」
騎士服の少女はさやかだった
さやか「やっ、たあっ!とうっ!」
次々と使い魔たちを薙ぎ払っていく
さやかが剣を振り回していくうちに、ゴルゴの目が徐々に見開いていき、一瞬さやかの姿に戸惑いを見せたものの、また元の動きで周りの使い魔たちを射撃で倒し始めた。
ほむら「さやか・・・」
さやか「いやー、二人ともごめん。手こずってたようだね?でも私がいるからにはもう大丈夫だよ。なんちゃってね」
サーベルを持っていないほうの手を頭の後ろにやり、あっけらかんと笑うさやか
ほむら「やはりあなたも魔法少女に…」
さやか「ん?あー、話はあとあと。まずはあいつを倒さなきゃいけないんでしょ」
キッとテレビの魔女を睨むさやか
ズガガガガガガ
次々とさやかの周りに剣が並びたてられていき、それはさやかの周囲をサークルのように取り囲んだ
さやか「やっ!はぁっ!とぉっ!」
体全体をよじって次々突き立てられた剣を引き抜いて魔女に向かって投げ払うさやか
ヒョイッヒョイッガスッ
いくつかはかわされたが、そのうちの一本が魔女に命中した
動きが大きく鈍る魔女に剣を向け
さやか「次はこれっ!」
カチッとサーベルの柄の部分の一箇所を押すと、柄から刃だけが飛んで、魔女に命中した
ゴルゴ「スぺツナズナイフの原理のようだな…」
いつの間にかほむらの横にゴルゴが立ち、さやかの戦いぶりを眺めている。使い魔たちは掃討され、今この場にいるのは三人と魔女だけだ。
ほむら「ええ、魔法少女の魔力ならではの射出力だけどね…。でもどうしてさやかの攻撃が当たるのかしら」
ゴルゴ「初めての戦いで精神が高揚しているのだろう…しばしばそういうものだ・・・」
ほむら「・・・」
さやか「とどめだぁっ!」
宙に大きく飛んださやかのサーベルが一閃、魔女の体を真っ二つにした
と、結界がみるみる消え、今までの遊園地の光景から一転、元のうらぶれた夜の工場の暗闇に戻った
周囲には魔女に吸い寄せられた男女が多数倒れており、仁美もその中の一人だ。
さやか「いやー、二人とも大丈夫だった?まどかに呼ばれて来たけど何とかなったようでよかったよ」
ほむら「・・・あなたよくあの相手を倒せたわね。あの相手は心を読むことができるのよ。私たちの攻撃はまるで当たらなかったわ」
さやか「えーっ、そんなにすごい敵だったの?初めての戦いで夢中だったからかな?全然何も考えている暇なかったよ
そうだ、仁美は!?」
駆けつけるさやか
仁美は目を閉じたままぐったりと力なく横たわっている
さやか「仁美!仁美!」
仁美は動かない
ゴルゴ「気を失っているだけのようだ…魔女に何らかの形で精神をやられたようだな…」
さやかの横に来てすっとしゃがみ、二本の指を鼻下に、次いで首元にやった後、ゴルゴは言った。
ゴルゴ「一応大丈夫だと思うが…他の人間も見てみよう…」
立ち上がって見回るゴルゴ。
さやか「よかったぁ~。仁美はあたしたちの親友だもん。何かあったら大変だったよ」
さやかは横たわる仁美の横で膝をつき、安どの溜め息を漏らす
ほむら「そういえばあなたはさっき何をしたの?どうやってあの魔女に攻撃を当てていたのかしら?」
見回るゴルゴについて歩きながらほむらが尋ねる。すでに魔法少女の変身を解き、制服姿だ。
ゴルゴ「禅の要諦は…心を無にし・・・意識を空に遊ばせることにある…」
ほむら「禅…」
ゴルゴ「テレパスを相手にするのは初めてではない…もっともあの時はスナイプだったがな…」
ほむら「・・・
(実戦の中で禅で心を完璧にコントロールするなんて、何て化け物【モンスター】・・・!)」
-----------------------------------------------------------
仁美「ん・・・あ・・・?」
横たえられた仁美が意識を取り戻す。
全員の無事を確認した後で、仁美だけが工場内の空いた一角に移されていたのだ。
仁美のそばにはゴルゴが片膝を付けてしゃがみ、脈拍を測っている。ほむらとさやかは傍に立ってそれを見守っているが、さやかの方は気が落ち着かない様子だ
仁美「え・・・あ・・・」
ぼんやりとした目で仁美は首を回すが、何が起こったのかわかりかねているようだ
仁美「!」
と、仁美の手首を軽く持ち上げ、握っているゴルゴの大きく太い手に気づき、ゴルゴの顔を見上げると、
仁美「・・・!
あなたは・・・!」
目を大きく見開き、驚きの声を漏らした
さやか「あっれー?そういえば仁美、東郷さんのこと知ってたっけ。この前中学のそばで話しかけてたよね。
この人東郷さん。えーと、仁美がここで倒れてるのを見つけてくれたんだよ。そこに偶然あたしたちが通りがかったってわけ」
さやかは答え合わせを求めるように、一瞬不安そうな視線をちらとゴルゴとほむらに向ける
ゴルゴ「・・・」
仁美「え・・・ええ・・・存じておりますわ…」
さやかの声が半ば耳に入らないような形で、仁美はぽーっとした視線でゴルゴを見上げている。
ゴルゴに預けた手首は気を失っているときよりもっと力が抜け、寄りかかっているように見える
ゴルゴ「・・・」
手首から手を放し、ふっと立ち上がったゴルゴの方を見、仁美は名残惜しそうに先ほどまで掴まれていた手首を軽く動かした
マミ「みんな大丈夫!?」
マミを連れてまどかが戻ってきた
さやか「マミさん!」
マミは半ば起き上がっている仁美を見、次いでゴルゴ、ほむらを見、
マミ「みんな大丈夫のようね、よかった」
安堵の溜め息を漏らした
マミはついとゴルゴの前に立ち、
マミ「東郷さん。あなたが鹿目さんを助けてくれたのね。いつものことだけど本当に感謝するわ」
ゴルゴ「・・・礼を言われることではない…」
マミ「それでもおじさまにはいつも助けられて感謝してるし、頼りにしてますのよ?」
マミの優しく、穏やかな目が特にキラキラと輝く
仁美は半ば身を起こしたまま二人のそんなさまを眺めていた
朝8時前
見滝原中学校に向かう通学路をまどかとさやかがともに歩いている。
さやかは腕をぶんぶん振り回しながら
さやか「昨日のあたしどうだった?だいぶ慣れてきた感じっしょ」
まどか「うん、かっこよかったよ。だんだん上手くなってきているみたい」
二人は昨夜、マミと東郷に加わって行った魔女退治についての話をしている。
さやか「でもさ、やっぱり二人には全然かなわない感じ。まあマミさんはわかるけどさ、あの東郷さん。あの動き何なの?ありえないっしょ」
さやかが肩を落としてふうと溜め息をつく
まどか「あはは・・・なんかあの人は特別な感じだもん。仕方ないよ」
二人は黙って歩いていたが、やがてまどかが気づかわしげに
まどか「ねえさやかちゃん・・・、上条君のことはほんとによかったの?」
まどかは、さやかが幼馴染のヴァイオリニストを目指している上条恭介の手の傷を治すことと引き換えに魔法少女になる契約をしたことについて問うているのだ。
さやか「あ~、-うん」
さやかは鞄を持った右腕の肩を上げて肘を曲げて頭の後ろに回し、もう片方の手で腕を頭の上に回しながら右腕の肘をつかみ、軽く伸びをするような姿勢で天を仰いだ。
さやか「あの願い事が一番よかったかなんてあたしもわからないけどさ、恭介とは腐れ縁だし幼馴染だし、あいつにはヴァイオリンを続けていってほしいからね-。
-それに、マミさんみたいにみんなのために戦う魔法少女にあこがれてたのも事実だし」
まどか「それならいいけど・・・」
気がかわしげに歩くまどかの背中をバンと叩いて
さやか「もうなっちゃったんだから仕方ないって!マミさんにも色々言われたけど最後は納得してくれたし。それにあたしが魔法少女になればまどかが戦わなくていいんだよ?臆病なまどかに戦うなんて無理っしょ」
まどか「むー、そんなことないもん」
アハハという声を上げて逃げ出すように軽く駆け出すさやかを、まどかが片拳を上げ、拗ねたような顔つきで追いかける。
さやか「-あ」
前方に人影を認めたさやかが声を上げる
さやか「仁美、おはよう」
仁美「美樹さん、鹿目さん、おはようございます」
朝の通学時のいつもの待ち合わせ場所で、鞄を持った両手を行儀よくちょこんと体の前に置いた仁美が二人に挨拶する。
まどか「仁美ちゃんおはよう。具合はどう?」
仁美「ええ、もう三日目ですもの。大丈夫ですわ」
工場で倒れて以来、仁美は精密検査のために数日入院しており、また登校を再開し始めていた。
並んで歩き始めた三人だが、やがて、はあという溜め息を仁美がついた。目を閉じ、軽く顔をうつむけ、憂いありげだ。
まどか「どうしたの?やっぱり具合悪いの?」
心配そうに仁美の顔を覗き込むまどか
仁美「いえ、そういうことではありませんの。ただ-」
再びはあという溜め息をついた。
その様子をだまって見ていたさやかだが、やがて何かに気づいたように眉がピクリと動き、まなじりと口角をニヒリと吊り上げて笑い、
さやか「はっは~ん。仁美は恋をしているな?」
まどか「え~!?仁美ちゃん!?」
仁美「えっ・・・いや、そ、その・・・」
片手を肘を支点に軽く持ち上げ、胸の高さで左右に小刻みに可愛らしく振る仁美。
まどか「あ~、顔が真っ赤だよ~!」
さやか「これは決まりですな」
さやかが両手を胸の高さにもたげ、わきわきと握り閉じを繰り返す
さやか「許しませんぞ~、仁美とまどかは私のものなのだから~」
仁美「きゃっ、ちょっと美樹さん!?」
半ば目を閉じ、慌てたように、迫るさやかを避ける仁美
さやか「あっはっは~。待て~」
わきわきと握る手の動作を繰り返しながら追いかけるさやか
と、不意に周囲の通学中の生徒たちの奇異の視線を浴びていることに気づいてしゅんとする三人
三人は再びおとなしくなって歩き始めたが、仁美はぷんと怒ったような様子で二人の前を歩いている。
さやか「-ね、恋といえばさ」
さやかが軽く耳打ちするようにこそっとまどかに話しかける
さやか「マミさんと東郷さん、最近ますますベッタリだね」
まどか「うん、そうだね。いつも一緒にくっついている感じ。やっぱりなのかな」
まどかがウェヒヒと答えて笑う
二人の声を聞きつけた仁美がピタリと立ち止る。
向き直って、
仁美「-マミさん?マミさんとは-お二人がよく学校で挨拶するあの三年生の巴マミ先輩のこと?」
目が真剣な表情を帯びている
さやか「あー、うん。東郷さんってのはね、ほら前工場で仁美を助けてくれたでしょ。あの人。
あの二人がね、すごく仲良くって、ひょっとしてマミさんが東郷さんのこと好きなんじゃないかって話」
仁美「お二人はどういう関係なのですの?」
仁美の目がますます真剣味を帯びている
ずいと迫る仁美の表情にたじろぎながら
さやか「-えーと、二人はね、-趣味というか、-仕事というか、-アルバイトというか-」
まどか(「中学生はアルバイトできないよ、さやかちゃん!」)
まどかが肘で軽く小突きながらささやきかける。
さやか「-あ~。-あ、そう。-ボランティア!ボランティアの仲間なんだよ!この前東郷さんが仁美を助けてくれた時、マミさんも遅れてきたでしょ?あんな風に困ってる人達を助ける仕事なんだ」
上手く説明できる言葉を見つけ出し、安堵の色を見せながらさやかが言い放つ。
仁美「-そう」
仁美は軽くうつむいて
仁美「さっきお二人はいつも一緒にいるとおっしゃいましたけど-」
さやか「えー?まあいつも一緒だよね。と、いってもボランティアのとき見ただけどさ。どっちかというとマミさんの方から近づいていってる感じ?」
まどか「そんな感じだね…ひょっとしたらあたしたちの知らないところでも会ってるのかも・・・ウェヒヒ」
さやか「あ~、それありそう。いけませんな~、大人と女子中学生の乱れた関係!」
顔を俯けて黙って二人のやり取りを聞いていた仁美だが、やがてくるりと元の方向に向き直ると、一人ですたすたと歩き始めた。目は真っ直ぐ正面を向いている
まどか「あっ、仁美ちゃん!?」
さやか「あれ、仁美。お~い、私たちを置いていかないでよ~」
慌てて追いつこうとする二人を意に介さず、首を持ち上げて正面を真っ直ぐに見据えながら歩き続ける仁美
その眼には決意の光が宿っていた
夜10時
見滝原のマンションの高層階の一室。そこは巴家のものだが、数年前の交通事故で両親を失くし、今はマミ一人で住んでおり、ドアにつけられた表札にも「巴 マミ」とだけ書かれている。
一面を床から天井部まで張り渡された大ガラス窓が占め、見滝原の眺望を見晴らすことができるリビングには家具があちこちに置かれ、生活感を醸し出している。
中央には絨毯が敷かれ、その上に位置された三角形の座卓の一つの辺前に、寝間着姿のマミがクッションに腰を下ろした状態で座っており、テーブルの上には飲みかけの紅茶が置かれている。
マミは体を半ばねじり、熱心に横に座ったキュウべえに話しかけている。
マミ「-それでね、あの時横から使い魔が飛び出てきて、『あっ、危ない』って私思ったのよ。私は魔女に完全に気を取られていて脇腹のほうががら空きだったからね。でも、その途端東郷さんが飛び込んできて、ガウーン-マミは拳銃を撃つ仕草をまねてみせた-ってその使い魔を倒してくれたの。
ほんと、すごい速さだったわ。飛び込んでくるのも銃を撃つのも見えないくらい。あれがなければ私はやられていたかも、東郷さんが救ってくれたんだわ。-」
マミ「-でね、魔女を倒した後、魔法で出す紅茶を東郷さんにも飲んでもらったら、東郷さんそれを一口飲んでセイロンティーだって当てて、もう少し抽出する温度を下げて苦みを減らした方がいいとか、
セイロン茶葉のいい産地と銘柄はこれだっていう風に教えてくれてね、もう私すごく嬉しかった。だって紅茶のことのお話しできる人初めてだもん。それに紅茶のこと色々訊いても何でも知ってて全部答えてくれるの。驚いたわ。あたし-」
しゃべり続けるマミの話をじっと聞いていたキュウべえだが、口を開けて一言、
キュウべえ「君はずいぶん東郷にご執心のようだね、マミ」
マミ「-な・・・」
唖然と口をつぐむマミ。
キュウべえ「僕には人間の感情のことはよくわからないけど、それは恋というものじゃないのかい?」
マミはさっと体を戻し、顔をテーブルの正面に向けて俯いた。
テーブルの縁に手首をかけて、まさぐるように飲みかけの紅茶のカップをつかむと、軽く宙に持ち上げた状態でもてあそぶように、
取っ手に指を通していない中指をカップに沿った形で軽い曲げ伸ばしを繰り返した。
マミ「-恋だなんてそんな・・・。-ただ、私は今までずっと一人で戦ってきたでしょ?初めて支えてくれる人が出来たというか-、
そりゃ今は美樹さんも一緒に戦ってくれるけど、やはりそういうのは頼りにできる大人の男性がいいというか-」
言葉が途切れる。
キュウべえ「-僕の見たところ、君は十分脈ありだと思うねマミ」
マミ「-えっ・・・」
ぽかんとした表情でキュウべえを眺める
キュウべえ「僕は人間の、特に恋といった感情はわからないけど、それでも今まで観察してきた経験から、君は十分東郷に好かれる要素を持っていると思うね」
マミ「・・・」
キュウべえ「まず君は同年代の少女に比べて成熟して-肉体的にも精神的にもね-大人に近く、落ち着いている。
そして第二に君は生活面でも魔法少女との戦いにおいても一人で自立してきた強い女性だ。ああいう男性は自立した女性を好むものなのじゃないかい?」
マミは再びさっと顔をテーブルの方に向けた
マミ「-そう、そうね。それならいいのだけれど-」
眼は紅茶の水面に映った自らの顔をぼんやりと眺めている
マミ「(たしかに東郷さんは一緒に戦ってくれるだけじゃなく、私の話も今まで一度も嫌がらずに丁寧に聞いてくれ、ちゃんと答えてきてくれた。
あの人が私のことを好きでなくても、これからも一緒に支えて戦ってくれるかもしれない。そうしたら-)」
マミは軽く頭をもたげ、見るともなしに宙に目を沿わせて軽くひとりごちた
マミ「(もう何も怖くない)」
キュウべえはそんなマミの様子を愛らしくクリクリとした目ながらも、表情の変化を見せない顔で見つめていた
キュウべえ「・・・」
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大屋敷の広い浴場
体全体を思い切り伸ばしても突っかえることのない広々としたバスタブに胸の上部から上だけを水面から出した状態でつかった仁美は、
頭上に開け放された小窓の木立の間に覗き見る月を見上げながら呟いた。
仁美「東郷さま…そして、巴マミ先輩・・・」
夕方の生徒たちの下校時。
マミが学校を出ようと校門を通りかかると、そこにどこかで見かけた灰緑色の髪の少女が体の前に両手で鞄を提げ持って立っていた。少女はマミの姿を認めると
仁美「巴マミ先輩ですね?」
マミ「あら、あなたは-」
仁美「志筑仁美です。何度か廊下でお会いしました」
マミ「そうそう、そうだったわね。いつも鹿目さんと美樹さんと一緒よね。こんなところでどうしたの?」
仁美「巴先輩に話があって-」
マミ「私に?」
ぱちくりとするマミ。不思議がりながらも、少し上背のあるマミをきっと見上げている仁美の様子に戸惑ってもいるようだ。
仁美「ええ、ここでするようなお話ではないのでできればご一緒していただけませんか?」
うながすように体の向きを変える。マミは少し躊躇った後、仁美の後について歩き始めた。
二人は途中で飲食や喫茶店が多く立ち並ぶ繁華街の方に道をそれた。
間を持たせようと、マミが先導するように歩く仁美に明るい調子で話しかける。
マミ「志筑さんは二人と仲がいいのよね?羨ましいわ。私も時々助けてもらってるのよ。鹿目さんは優しいし、美樹さんはいつも元気だし。ほんとにいい子たち-」
話しかけるマミを無視して仁美は前を向いて黙々と歩き続ける。その様子を見てマミは口をつぐんだ。
仁美「ここなどどうでしょう」
二人は仁美が選んだファーストフード店に入った。
注文と商品の受け取りを終え、テーブルを挟んだソファ席に向かい合って座る二人。マミはホットドッグとドリンクのセットで、仁美はMサイズのドリンク一つだ。
マミ「で?話って何かしら?」
仁美「わたくし、東郷様をお慕い申しておりますの」
マミ「-!」
きっと見据えて発せられた言葉に、ドリンクを持ち上げ、そこに突き刺したストローを口に運ぼうとしていたマミの手が空中で止まる。
仁美「私は今まで二度東郷さまに危ないところを助けられました。その御縁でお慕いするに至りましたが-巴先輩は私より東郷様と深いお付き合いのようですのね?それがどのような関係かは知りませんが」
穏やかながらも強い意志を秘めた瞳で呆然としたマミの眼を見つめる
仁美「巴先輩、あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
仁美は続けて言う
仁美「私が二度救われたことは父にも話して知っていただいて、年が離れているながらも一度父にお引き合わせしての交際も了承していただいておりますのよ」
マミが空中に持ったドリンクに口を付けずにトレイに戻す。
手がふるふると震えている。
マミ「-そう」
ようやく意志の力で絞り出したような声だった。体全体がわなわなと震えており、正面から見るうつむいた顔には前にかかった髪の陰の部分が多く占めるように見える。
仁美「・・・」
ぎゅっと腿の上で拳を強く握り、体の震えを止めると、マミも仁美の顔を強く見つめた。
マミ「-そう、二人が話したのか知らないけど、私が東郷さんのこと好きだっていうことがわかってしまったわけね。
-ええそうよ、私も東郷さんのことが好き。あの人は私を助けてくれるし、いつも支えてくれるわ。私にとってあのような人は初めて」
仁美「・・・」
マミ「東郷さんに告白する前に先に私に伝えてくれたってわけね。フェアだわ。いいでしょう、私も今度会った時自分の気持ちを伝えるわ。それで駄目ならあなたも告白なさい」
仁美「-」
仁美はこくりとうなずいて、立ち上がった。
マミ「到底お食事する気分じゃないわね-。私も-」
続いて立ち上がるマミ。
仁美はその場に飲みかけのドリンクを放置し、マミはトレイごと持って店員にテイクアウトの手続きをした。
先に出る仁美
仁美「-!」
固まって店の入り口前に立ち尽くす仁美を訝しげに眺めたマミだったが、その視線を追ってみると、今しがたマミと仁美が話題にしていた東郷と、その広い肩幅から出る太い腕にすがり付く眼鏡の女性がいた。
和子「あら?志筑さんに-、三年生の巴さんだったかしら?」
眼鏡の女性は見滝原中学校の二年生の担任教師、早乙女和子だった。
仁美「-・・・」
マミ「・・・」
二人の視線が和子とゴルゴの間に向いているのに気付くと和子は、
和子「ああ、こちらはね、この街に今セールスの仕事でいらしてるデューク・東郷さん。私たちね、今付き合ってるの」
満面に笑みを湛えながら、すがり付いたゴルゴの腕を両腕でぎゅっと締め付け、頭を上背のあるゴルゴの方と胸のあたりに預けて寄り添う和子。
仁美、マミ「・・・」
和子「デューク、この子が私が受け持っている生徒の子で-和子は仁美の方をひらひらとした手で示した-、こっちが一個上の三年生の生徒。どっちも頭が良くて優等生だって学校でも話題なのよ」
ゴルゴ「・・・」
和子「二人でお食事?学年が違うのに仲がいいのね。やっぱり優等生同士気が合うのかしら。でも学校帰りの寄り道はほどほどにね。
じゃ、私たち行くわね。志筑さん、巴さん、また学校で会いましょう。じゃあね」
明るい顔でひらひらと手を振る和子と、ゆっくりと体の向きを変え、再び歩き出すゴルゴ。彼の顔は終始表情が変わらず、無言だった。
立ち去ってゆく中で、腕にすがり付いたまま顔を見上げてはしゃいだ声を上げる和子の声が二人の耳に届く。
和子「ね、デューク。私実は肉じゃがが得意なのよ。じっくりことこと煮込んでお肉をトロトロにするの。ちょっと時間はかかるけどいいわよね?今夜も泊まっていけるんでしょ?一緒にスーパーに寄りましょうよ-」
立ち尽くす二人だったが、やがてマミがくるりと身を振り向け、ダッと走りだした。首を曲げ、頭が前かがみになっており、その顔を腕でぬぐう動作が見えた。
仁美は二人を見送った後、呆然と立ちくしたまま力ない動きで、走り去るマミの方に首を振り向けるだけだった。
大通りをまどかとさやかが楽しげにはしゃぎながら歩いている。
と、さやかがいきなり声の調子を変え
さやか「-あのさ・・・、まどか。ちょっと大事な話があるんだ…」
まどか「・・・えっ・・・何…?」
さやかが普段らしからぬ急に声のトーンを落とした感じで話し出したので、まどかは思わず心配そうな顔になって答える。
さやか「-あのさ、仁美にも言おうと思ったけど、帰りのとき見つからなかったからまずまどかに言っちゃうけどさ-」
じっと顔を見つめるまどかから目をそらし、ぽりぽりと頭を掻きながらはにかんで詰まったように言う。
さやか「-私さ、恭介と付き合うことになったんだ-」
まどか「えー!?ほんとー!?」
大声を張り上げたまどかに、さやかがきょろきょろと周囲の様子を気にしながら両手の手のひらで口をつぐむようにというジェスチャーをする。
さやか「-ほ、ほんとだよ」
まどかをおとなしくさせて、一安心という風に身を伸ばして、鼻からスンと息を吐き、半ば得意そうに、半ば恥ずかしそうに肯定するさやか。
まどか「それってどんな風になったの!?どっちから告白したの!?」
普段おとなしいまどかがはしゃいでさやかに迫り、目はキラキラ輝いている。
さやかはそんなまどかから恥ずかしがって困ったように身をのけぞらせて避けて、
さやか「いや-、あいつの退院祝いに花とCD持って家に行ったんだよ。-おじさんもおばさんもいたんだけどさ-。
リビングで話してて、おじさんおばさんがちょっと用事があって席を外したのね。そしたら恭介ったら急にあたしの方に顔を近づけて好きだって-」
思い出してドキドキしたかのように胸に手をやるさやか。続けて出る声は胸からつかえていた。
さやか「-で、-そうしたら-あたしも-その、好きだって言ったら-二人で付き合おうってことになって-その-」
言葉がつっかえた。顔は恥ずかしさからなのか喜びからなのか、真っ赤に紅潮している。
まどか「すごいよすごいよさやかちゃん!やったね!魔法少女になった甲斐もあったじゃん!」
ずいと迫るまどかからさらに身をそらし、距離を取って深呼吸するさやか。落ち着きを取り戻したようだ。
さやか「-うん、まあ、よかったよ。結局、あいつのためといってもあたしが恭介のこと好きだったのも確かだったんだからね」
さやかは魔法少女の契約をした際の願い事のことを言っている。
さやか「-まさか-、あいつも-その-私のこと好きだなんて思ってなかったけどさ-。嬉しいというかその-」
まどか「すごいすごい!仁美ちゃんにも早く教えてあげなくちゃ!」
さやか「-あー、仁美は帰るとき探したんだけどなー。何かHR終ると速攻でどっか消えちゃったしさ。-明日になるかな」
二人が話していると、突然ダッと目の前から真っ直ぐに少女が走ってきた
さやか「あれ?マミさん?」
マミは二人に気づかないかのように、二人の横を駆け抜けてゆく。顔を俯け、眼のあたりを腕でぬぐっている。
ものすごい勢いで駆け抜けていったマミに茫然として突っ立った二人。
それを見送って二人は不安そうに言葉を交わす。
さやか「マミさん…どうしたんだろ…」
まどか「うん・・・」
二人は黙りこくって再び歩き始めると、まどかが前方に見知った顔を見かけて声を上げた。
まどか「あっ、あれ仁美ちゃんじゃない?」
さやか「あっ、ほんとだ。おーい、仁美ー」
ぶんぶん手を振るさやか。
大通りに面するファーストフード店の前で呆然と立ち尽くしていた仁美だが、二人を見つけた数瞬後に、急に顔が崩れ始めた。
色白で端正な顔立ちはくしゃくしゃになり、涙と鼻水を垂れ流し、
仁美「み・・・美樹さん・・・鹿目さん・・・」
脚はガクガクと震え、体全体がわなわなと震えている。
さやか「-ちょ、ちょっと、どうしたの仁美!?」
まどか「仁美ちゃん!?」
仁美は身をかがめて二人に取りすがり、涙と鼻水でぐちゃぐちゃに歪めた顔で見上げると、
仁美「せ・・・生徒と…教師の恋人の間は・・・決して結ばれてはいけない・・・」
仁美「禁断の恋の形ですのよ~!」
わっと大声で泣き始めた
完成はここまで
また順次投下しに来ます
乙
>>89
見ててくれてた人いたんだ
ありがとうございます
お、こっち来たんだ乙!
>>91
ここ教えてくださったアラブの人ですかね?
さすがSS専用掲示板だけあっていいところのようです
こちらでもお願いします
アホか
ロンダすんならあっちのやつ削除以来しろよ
ゴルゴ「キュウべえだと・・・?」
ゴルゴ「キュウべえだと・・・?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1403246499/l50)
糞SSだな
完結してからロンダなら意味わかるが
完結もしてないくせにくさすぎ
くっさ
梅
梅
この作者の痛い経歴
SS潰しってあるの?
埋め支援
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>>97
なんだこれ頭おかしいな
梅
俺も埋め
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1000ならこのスレの1がSS書くのをやめる
このSSまとめへのコメント
ふえぇ・・・趣味で小説、ラノベを書いてる人の雑談スレだよ・・・
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1404903677/
ここで他のSS作者を無能と罵っている人の作品なんて評価できませんよ
精神的に病んでいるようで手遅れかもしれませんね