穂乃果「海未ちゃん!」 海「私ですが……」(19)


穂乃果「え……?」

海「呼びましたか?」ザザーン


その声は波打ち際から聞こえたように感じられる。

天に届く穂乃果の声……その本質は、実は『自然との対話』であった。


穂乃果「海が……しゃべった?」


海「――ですから、私ですが……?」ザパーン


穂乃果「ひっ……海がしゃべってる……!」ダッ


穂乃果は恐れをなして、たまらず逃げ出した。

脇目もふらず、耳をふさぎ、息の続く限り走り続ける。


穂乃果「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ!」ダダダダダ…


穂乃果は必死に走り、走り、走り続け……

……そして気付いた時には森の深くまで迷い込んでいた。


穂乃果「もうダメ……はっ、はっ……足痛い……走れない」ゼーハーゼーハー


穂乃果「もうやだぁよぉ……助けてことりちゃん……」ボロボロ


小鳥「――私ですが……」バサバサ


樹上を見上げると一匹の野鳥が空を舞い……穂乃果を見下ろしている。

穂乃果はこのとき――もう自分は逃げ切れないことを悟った。


穂乃果「ひぐ……もういやぁ……」ぐすぐす

小鳥「――どうしたの?」


バサバサバサ!


穂乃果「どうしたらいいのぉ……」ボロボロ

>>4
>>5

凛ちゃんを探す

新幹線のぞみに乗って逃げる

穂乃果「――――――っ!」ガタガタ


穂乃果の頭は恐怖で真っ白になったが――

――そのとき穂乃果にふたつの天啓が舞い降りた!


穂乃果「……そうだ、凛ちゃんを浜辺に置いてきちゃった……」スクッ

穂乃果「凛ちゃんを探して、新幹線で東京に帰ろう……」グッ


か弱いものを守らなければならない時、人は恐怖に強くなれるという。

赤子を背負うとお化け屋敷でも怖くなくなる――これは心理学の実験でも証明されている事実である。


穂乃果「穂乃果がやらなきゃいけないんだ!」ダッ


小鳥「――――…………」バサバサバサ


ダダダッ……


穂乃果「……いたっ! 凛ちゃん! 東京に帰ろう!」

凛「にゃっ!?」ガツガツ


海「――おかえりなさい穂乃果、探しましたよ……」ザパーン!


穂乃果「うわっ! 海がありえないくらい増水してるっ!」


増水――――氾濫――――…………満潮…………この状況が?

穂乃果は潮位の満ち引きを超えた現象を目の当たりにし、正しい日本語を放棄した。


海「――どこへ行っていたのですか……?」ザパーン!


穂乃果「そんな……海の家が……全部流されて」ガタガタ

穂乃果「みんなで食べた焼きそば……不思議なくらいおいしかったのに!」


海の家で食べる焼きそばが何故あそこまでおいしいのか――

穂乃果はその理由について考えたことはなかった。

否、穂乃果にとってそれは考察すべき対象ではなく、ただ感謝のみを捧げる料理であった。

だからこそ、穂乃果は海の家が大好きだったのである。



穂乃果「……っ! うみちゃん嫌い! もう焼きそば食べられないじゃん!」ガーッ!

海「――そんな……私は穂乃果が心配で……」シュン


ザザーン……


穂乃果の声に呼応して、満ちすぎた潮が急激に引いていく。


穂乃果「今だっ! 凛ちゃん、駅に向かうよ!」

凛「ニャッ!?」ガツガツ


穂乃果は凛の小さな身体を小脇に抱えて走りだした。


――駅 新幹線ホーム


『……特急……のぞみ……自由席車両をいれて9両編成でまいります……』


穂乃果「凛ちゃん、新幹線きたよっ!」

凛「にゃっ!」ガツガツ


プシューッ!


穂乃果「よし、乗ろう!」


のぞみ『――穂乃果ちゃん、そこは指定席車両やで……?』

穂乃果「えっ? 自由席は?」

のぞみ『――もちろんあるで。自由席をいれて9両や……!』


穂乃果「そっか、ありがとう!」



しゃべる券売機、しゃべる改札機……しゃべるドア。

現代日本のテクノロジーが、穂乃果の感覚を麻痺させていた。刺激に慣れすぎていたのである。

急激に進歩していく社会が引き起こした、一種のテクノストレスであると言えるかもしれない。


穂乃果「凛ちゃん、あっちの車両に乗ろう!」

凛「にゃっ!」ガツガツ


大正時代から連綿と受け継がれてきた老舗和菓子屋の娘。

穂乃果の味覚には――素材にこだわり抜いた小豆餡よりも、化学調味料を限界まで入れた焼きそばが好ましかった。

――自由席


穂乃果「凛ちゃん、座れてよかったね!」

凛「にゃっ!」ガツガツ

穂乃果「あっ、お菓子積んだゴロゴロが来たよ! さすが新幹線だね!」


乗務員「――各種お飲み物などいかかでしょうかー」ゴロゴロ


穂乃果「すみませーん!」

乗務員「はい、ただいまお伺いしま……ひっ!」


穂乃果「ん?」

凛「にゃっ?」ガツガツ


穂乃果「なにかな?」

乗務員「あの……お客様……その……」オドオド


不幸な乗務員は思いあぐねたような様子で、遠慮がちに切り出した。


乗務員「……ペットの持ち込みは……その、規則でして……」オドオド

穂乃果「――は? ペット?」ピクッ

乗務員「あの……そちらの……」ビクビク


お客様に物申すことに慣れていない乗務員は、怯えながら凛を指さした。

人を指差すのはマナー違反である。当然、ゆとり世代の新入社員であった。

穂乃果「おかしいなあ……」

穂乃果「凛ちゃんは、穂乃果たちの大事な仲間なんだけど……?」

乗務員「ひっ、すみませ……他のものを呼んでまいります」ダッ


自分の裁量では対処しきれない事案を前に、乗務員は他の仲間を呼びに行った。

――お客様がペットを仲間だと言い張るなら、こちらも仲間を呼ぶまでだ。

たいしたゲーム脳ではあったが、新人の対応としては及第点であろう。


乗務員課長「――どうされましたか? かわいらしいお嬢様」ゾロゾロ

乗務員専務「――おやおや、これまた……たまげたお客様ですねぇ」ゾロゾロ


穂乃果(……なんか人が集まって来ちゃった。なんでだろう)


乗務員課長「お嬢様、少しこちらまでよろしいですか? 話はそちらで」グイッ

乗務員専務「もちろんお連れ様も、ご一緒に」ククク…


専務、48歳――野心家の彼は、さらなる出世を胸に描いていた。


穂乃果(どうしよう……)

穂乃果(穂乃果はどうすれば――)

>>16
>>17

土下座

小鳥が専務と課長をどこかに連れ去った

保守

あげ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月08日 (水) 12:52:48   ID: y4EpiXHK

地の文が意味不明。ゆとりとかゲーム脳とか言い回しがよくわからん。

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