男「もう少しだけ」(31)
男「院の研究にも課題にも手がつかないし、期限に間に合いそうもない」
「これじゃあ役割を果たす事もできないし、かといって逃げ出してやりたいこともない」
「なにもかもどうでもいい」
「いなくなりたい」
「…死ねばいいか」
「『自殺 方法』で検索」ポチッ
「やっぱり首吊りがメジャーなんだなぁ。へえ、気を失うから苦しくないとな」
「飛び降りは怖いから無理」
「ODはそもそも薬なんてないわ」
「感電死…はコンセントにさすの怖いし、下手したら火事になるよなぁ。タイマー持ってないし」
「凍死も楽なのか、、しかしこの時期は無理だな」
「急性アルコール中毒か、それも良いかもな」
「溺死は苦しすぎる」
「とりあえずビニールひもで非定形の首吊りでも試そう」
「まず出るものをなくすために24時間程度の断食か。もっとやった方がいいのか知らんけどこれ以上は限界」
「腹減った」
「まあいいや」
「適当な家具に紐を括り付けて、腰が浮く程度の位置に輪っかを作って…よし」
「ああ、死ぬならなんで死ぬかくらい書いておくか」
「家族の事は好きだし、あの人たちも僕が無言で死んだら辛いもんな」
「えーっと、大雑把にまとめると
『そもそも生きて何かをしたいという思いもなく、』
『誰からも忘れられていなくなることができるなら、それが最良だと常日頃から思うような人間である』
『けれどもいなくなることはできないから、仕方がなく死ぬ』
『きっかけはただ研究上の注意されたということ、タイミングが噛み合ってそのまま軽い鬱になったこと、ではあるが先に書いた思想は鬱とは無関係である』
っと、こんな感じかね」
「自分の育てた子供がずっとこんなことを思って生きてきたなんて知りたくはないよなぁ…」
「知りたく・・ない・・・よなあ……」
「父はきっと強いから大丈夫だよね」
「母は・・・凹むかなぁ。要らない事ですぐに滅入る人だからなぁ・・・」
「兄弟は…大丈夫だって思いたいな」
「祖父母はどう思うんだろうなぁ…」
「ほんと、僕一人がいなくなってしまえば良いのに」
「それだけで全部が丸く収まるのになぁ」
「ちょっと疲れて寝てしまった」
「なんだかんだで30時間くらい何も飲み食いしてないし今なら死んでもいいだろ」
「さっき作った輪っかに首通して…」
(おっ、立ちくらみみたいな感じですぐに視界が暗く…)
(……)
(……!!??)
(~~~~~~~!!!!)
ガタッ!!
「????」
「立ちくらみしてたのか? いや座って…」
「…ああ、死のうとしてたんだ」
「忘れてた」
「意識を失ってすぐに死ねるとはなんだったのか」
「調べ直すか」
「ふむふむ
『ビニールひもなどではなく12mm径のロープを使うのがいい』
か、食い込んで苦しかったってことかなー」
「とりあえずホームセンターで買えばいいか」
「10mも長さ要らないけど、これくらいしかなかった」
「ついでに日本酒1本(720cc)も買って急性アルコール中毒も視野に入れるか」
「酒だけでは飲み切れない可能性があるからつまみのチーズも買おう」
「ロープでもまあ案の定駄目だったわ」
「まあ500円もしなかったしいいや」
「急性アルコール中毒になる目安って1時間に1升(1440cc)かよ…」
「5分でこれ全部飲めば大丈夫だろ」
「念のためバケツ用意しておこう」
5分後
「味はわりと行けるのに半分しか飲めねえ・・・」
「いや流し込めばなんとか…」
30分後
「飲み切った…、不味い」
「さーて死にますかwwwww」
「あー上手くロープ結べねーwww」
「まあなんとかなるだろー」
(……)
(~~~~!!)
ズテッ
「紐がほどけた…」
「まあいいやこのまま寝れば目も覚めないだろ」
「ロフトベッドに上がるの面倒だし床で座布団を枕にして寝よう」
んあ…
「座布団がゲロまみれになっとる」
「とりあえずゲロを内側に包んでもう一度寝よう」
うんー…
「なんかゲロが染みてきて臭い」
「気持ち悪さもないし、ロフトベッドで寝よう」
「視界の隅に新たなゲロがあった気がするけど寝よう」
パッチリ
「生きてるし…」
「なんだかなー」
「なんか床にゲロがあったような気がするんだよなぁ…」ユカチラ
ゲロゲロ–
「だよなぁ…、夢じゃないんだよなぁ…」
「とりあえず実をティッシュやら雑巾やらで拭き取って…」
「くせー…、自分の息なのか、ゲロなのか分からんがくせー」
「まだ朝早いからスーパーはやってないしなぁ…」
「とりあえずコンビニで消臭剤あるか探すか」
「あったあった」
(んー、部屋の外なのになんかまだゲロ臭い・・・?)
(あ…ゲロ枕で寝たから頭が…)
「店員さんごめんなさい・・・」
「消臭剤の力も所詮この程度か…」
「ついでにゴミ箱空けるかー」ズシ
「なんか重い」
ゴミブクロニドバ–→ベチョベチョ–
「バケツ用意したのにゴミ箱にゲロ吐いてる俺は一体なんなんだ」
「あー、ゴミ箱がゲロ臭い原因かよ・・・」
ゴミバコアライ–
「まだ消臭剤の香りの間に若干のゲロ臭さがあるが…」
「消臭剤の重ねがけで少しずつ弱くなっている・・・ように思う」
「大家さんごめんなさい・・・」
「とりあえず首吊りと急性アル中は無理だな」
「凍死は時期的にできないし、飛び降り、溺死、焼死は怖いし、ODは現状で処方される薬では実質不可能らしいから感電か」
「電気系所属の人間が感電で死ぬのはらしくて良いかもな」
「電気系の話はあまり詳しくないけど」
「とりあえずいらない延長コードの皮を剥いて・・・」
「電極を胸と背中に貼ったらあとはコンセントを刺すだけだな」
「さす…だけ…」
(怖い怖い怖い怖い怖い)
「おかしいな…死にたいのにな」
「なんだよ、何が怖いんだよ」
「わけ分からん」
「わけが、、分からんよ」
「寝てた」
「気付いたら夜の9時」
「ホームセンターはもうしまってるなぁ…今すぐコンセントのタイマーがほしいんだが…」
「そうだ24時間営業のスーパーがちょっと行ったところにあったな」
「ラス1だった、ラッキー」
「2980円。普通だったら痛い出費だわ」
「地味に酒も2000円かかったしなぁ…」
「まあとりあえずこれであとは電極セットして寝るだけだ」
「寝すぎで眠れない」
「ネットで時間潰すか…」
「朝の4時だけどあまり眠くない」
「あと数時間で研究室の課題の期限だな」
「まあ今さらだけど、そこまでには死んでおきたいなぁ」
「生きて無能な感じで役割を果たせないのと、無能で死んであえなく役割を果たせないのなら後者の方がいいや」
「まだ眠くないけど寝るか…」
「タイマーをそうだな、5時半にセット」
「付けっ放しにして見つけた人が感電とか、電極が外れてショートして火事とか嫌だから、オフタイマーも付けておこう」
「どのくらい流せばいいんだろうな」
「心臓に40~50mA流れれば良いってことは時間は重要じゃないはずだから」
「短くても大丈夫かな」
「ってことで10秒でOFFになるようセット」
タヌキネイリ–
バリバリダ–
(ウグッ!?)
「ウぁぁ??」
「ああ?」
「今ので終わり?」
「なんだよ、電流足りないのかよ・・」
「濡らしておくべきだったか、変圧すべきだったか…」
「ああ、もうすぐレポートの締め切りの時間じゃねーか」
「さっさと死ななきゃ」
「定形の首吊りなら行けるかなぁ」
「苦しいだろうけど…」
「ていうか部屋で定形できる場所ってない」ロフトベッドジロ–
「この柵の一番上にロープつければギリギリ?」
「まあやるだけやるか」
「背伸びするとギリギリ足が着くし、懸垂の要領で逃げ切ったり、周囲にある机に足をかけるとか、色々と逃げる手がありそうだけど…」
「それでも今までよりは確実だろ」
「よし」
(……)
(……)
(!?)
(~~~~~~!!!)
(~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!)
(~~~~~!!)
(~~~~~~~~!!)
(!!!!)
(~~~~~~~~~~~~~)
「苦…しい…!」
「なんだよ…なんでこんな苦しいことしてるんだよ……」
「ああ…死ななきゃ……」
「手も足も届かなければ良いんだ」
「しっかりとロープをかけられて、人目につきにくいながらも、それなりに見つかりやすい場所で首を吊れば良いんだ」
「国有林か…」
「国有林ってどうやって調べるんだろう」
検索検索
「最寄りの国有林、意外に遠いけど近くに駅があるみたいだし、電車で行けばいいか」
「眠い・・・」
「昼の2時か・・・」
「レポートの期限、もう間に合ってないな」
「なんの役割も果たしてないのにまだ生きてるんだな」
「ゴミみたい…」
……
「実家に帰るか…」
「多分、少し頭がおかしいんだ」
「普通じゃ…ないんだなぁ…」
「母はともかく父には全部話してしまおう」
「ただいま…」
父「おかえりって。どうしたいきなり」
「うん、まあ色々あって」
父「大学疲れたか」
「いや・・」
父「ふられたか」
「縁もない」
父「研究が嫌になったか」
「あぁ・・、まあそんな感じ」
父「そうか、初めての挫折か」
「人に言うほど参るのはそうだね・・」
父「風呂入るか?それとももう寝るか?夕飯は…俺の分しか残ってないな」
「じゃあ自分の夕飯買ってきて風呂入る・・」
夕飯後
父「今から話すか?」
「ごめん疲れたから今日は寝る・・おやすみ」
(この数日ほとんど寝てたせいで眠れない)
(父に本当にこんなことを言って良いんだろうか、言ってどうにかなるんだろうか)
(本質的な問題は僕が生きたがっていないこと、いなくなりたいと思っていることだ)
(こんなことを相談したところで、父が僕の生きたいと思える事を提供してくれるわけではない)
(生きる手段くらいは用意してくれるかもしれないが、
それはただの無能として生きることで、
もう若くない父に寄生するなんていうのは、
それこそ生きる価値のない行為じゃないのか)
次の日
父「じゃあまあせっかくだし話すか」
男「ん」
(結局、鬱みたいになって大学に行けてないことしか言えなかった)
(鬱状態っぽくなりやすいってことを知ってもらえたのと、どうしても参ったら諦めたり病院に行けば良いって言われたのはうれしい)
(けれども、僕の考える"諦める"と父の考えている"諦める"は多分違う)
(違うんだよ・・・)
(父には言えなかったけど、友になら言えるかなぁ)
(新社会人だし忙しいかな)
「今夜遊ぼう」メルメル
『酒か?金は無いから無理だぞ』
「俺もないから大丈夫。話すだけでいいや」
『どこで』
「誰もいなくて雨に降られなくて俺らが無銭侵入できる場所」
『こ う え ん』
「OK」
(友には全部言えた)
(言えたから何かが変わるわけではないけれど)
(好きじゃない上に向いてないことをするのを無理か)
(でも今さら院をやめて自分探しをする余裕なんてない)
(好きなことか・・ないはずはないんだけど、よく分からない)
(衝動とか情熱とか、なにかを猛烈にしたいという気持ちって普通の人はもっているのだろうか)
(いなくなりたい欲求が僕にはあって友にはないというのは少しショックだったな)
(あってほしくないけれど、あってほしいような矛盾した気持ちばかりだ)
「…今は家族に言わないでおこう」
「もう少しだけ目一杯に休んで、もう少しだけ普通でいよう」
「もう少しだけ頑張ったって悪いことにはならない…よな?」
多分おわり。
乙
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