零児「東方新世界」霊夢「ReTake、第一幕」 (77)


 東方新世界-Touhou New World-

「たた、大変だぜ霊夢!」

「……? 何よ魔理沙。そんなに慌てて」

 ここは幻想郷。
 幾多の結界によって切り離された、現の忘れた遠い故郷。

「異変だよ、異変! あっちこっちで、いくつも起きてるんだぜ」

「へぇ。何も起こってないような気がするんだけど」シラッ

 ここは楽園。
 外の世界の喧騒を忘れ、人と妖が在るがままに住まう宴の地。

「……確かにここはなんもねーな。でも、山とか里とか変な結界っぽいので覆われてるぜ?」

「結界で? ……あー、そういえば結界の様子が変かも」ハァ

 ここは博麗神社。
 この地を奉ずる要にして、忘れられたものを祀る神の社。

「ちょっとスキマ妖怪、どういうことよ」ジッ

{「私の所為ではありませんことよ」}

「私にはそっちのことはさっぱりだぜ」

 ここは鳥籠。
 誰をも縛り、逃れられぬ魅惑を放つ狭き箱庭。

「いいから、さっさと答えなさいよ」

「そう急かさなくとも、もうすぐに話しますわ」

「ん? 誰か来てるな?」

 ここは理想郷。
 幾星霜の年月を経て、なお未熟なる幻想の郷。

{「さぁ二人とも、あそこの二人と戦いなさい」}

「はぁ? なんでそんなことを……ってもういない」

「んー、大人の男と金髪の……妖怪か?」

 ここは新世界。
 何者にも囚われて、あらゆる者に染まらない小さき夢の大地。

「……あいつの思い通りになるのも癪だけど、今は当てもないわね」

「私も手伝うぜ。面白い臭いがしまくってるからな」ニシシ

 この地で起ったこの出会いが、幻想郷を何色に染めるのか――

「そこの二人、覚悟なさい」スッ

「恨みはないが、妖怪退治の一環だぜ」カチッ

 

  霊符『夢想封印』!

 

  恋符『マスタースパーク』!

 

 ――神をも行く末を知れぬ祭が今、幕を開ける。

 


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402477829



   ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 このSSは東方ProjectとNamco X Capcom、無限のフロンティアシリーズをクロスオーバーさせた作品です。
 そういうものが嫌いな方は各自で避難して下さい。

 時系列は
  東方Project――東方心綺楼後
  ナムカプ及びムゲフロ――EXCEED後、数か月
 です。

 残りの詳細に関しては今回の投降後に書きます。御託の前に物語をどうぞ、ご覧ください。

   ―――――――――――――――――――――――――――――――――


~~~少し前。緩やかな丘の下~~~

 トスッ ドスンッ

「くっ……どこかに飛ばされたか。おい、小牟。大丈夫か」

「あいたたた。思いっきりヒップからドロップしてしまったわい」サスサス

 手付かずの野原に、突如として落ちてきた赤と黒の二人組。
 片や屈強な体とやや厳つい顔の青年。
 片やスレンダーで少女の面影を残す、九つのポニーテールを結った女性。

 有栖 零児とそのパートナー・小牟である。

「そいつは重畳。尻を叩く手間が省けた」

「なぁっ、酷いぞ零児! か弱い乙女が痛がっておるというのに、その態度はなんじゃ!」

「誰の所為でこうなったと思っているんだ。あのタイミングで、あんなドジを踏むとは……」ハァ

「わしの所為じゃと言うのか? わしはただ、『ゆらぎ』の規模をきちんと測ろうとじゃな」

「……どうやら、尻を叩かれたいようだな」ゴゴゴ

「あ、いやー、今は遠慮するかのぉ。……し、してここはどこじゃ? 見た所、田舎臭いみたいじゃが」

「そのようだな。そして別の時間か、あるいは国外か?」

「ここまで秋に染まっておると、列島と似た気候で間違いなさそうじゃ。……と、いうか……?」ムムッ

 彼らは政府特務機関『森羅』のエージェントであり、非日常に対する専門家だ。
 今日も『ゆらぎ』と呼ばれる空間の歪みを調査していたのだが、それに巻き込まれ気づけばこの野原にいた。
 金色に染まる、秋の世界に。

「? どうした、小牟」

「……いやのぉ。あっちのあの高い山。向こうの方に見える花畑。それに、この妖気と……」チラッ

「神社らしき建物が見えるな」チラッ

「……まさか、まさかの?」

「心当たりでもあるのか?」

「断定できんがの。もしかしたらもしかするのかもしれんが」ウーン

{『ぴんぽ~ん。正解よ、狐さん』}

「!?」バッ

 あちらこちらから感じられる、人ならざる者の気配。
 それを一段と濃くした強大な――因縁深い彼の者と似通う――妖の匂いが背後から突如、漂い始める。
 それに対し、経験と勘から反射的に身構えた零児だったが……。

「おぉぉ! ゆかりんではないか!」

{「御機嫌よう、小牟」}

「……何者だ、貴様」ジリッ

「そう身構えるでない、零児。こやつは……」

{「八雲 紫ですわ。英雄、有栖 零児様」ニッコリ}

 対照的に小牟は驚きながらも、フレンドリーな対応で彼女――八雲 紫を迎え入れる。
 “ここがどこ”で“彼女が何者か”を理解した小牟だからこそ、取れた対応か。


「……何故、俺の名を知っている。そして、俺は英雄じゃない」

「うぬ。零児の性を言うた記憶はないぞ?」

{「それについては、この上の『博麗神社』にてお教えしますわ。今は少々、時間がないもので」}

 だが、自分たちの事を既知であるらしい振る舞いには流石に疑問を抱く。
 小牟の知れる“この世界”の事とは、わけが違うはずなのに。

「ゆらぎの中に消えた……?」

「あれは『スキマ』じゃよ、零児。しっかし、いつも寝ておるんじゃから時間ぐらい余裕あるじゃろうに」

「……どうする。あの妖気、只者じゃないが」

「向かうしかないかのぉ。“幻想入り”したら、まず博麗神社に向かうのが習わしじゃからな」

「そうか。なら、お前の判断に任せる。この場所の事を、知っているようだからな」

「『ほとんど知らぬ程度』じゃがな。……まぁ、二次創作ならわんさか知っちょるけど」ボソッ

「? 何か言ったか?」

「なんでもなーい」ニカッ

 その一部である創作群をあれこれ知る小牟の先導の下、二人は獣道を登り始める。

 零児と小牟の幻想入りである。

………………

…………

……

 

   ――――――――――――――――――――――――――

 

             第一話 『幻想の郷のアリス』

 

   ――――――――――――――――――――――――――


~~~博麗神社・裏手~~~

「……ここがその、博麗神社か?」

「おめでたい巫女さんがおるし、まず間違いない。あれが霊夢じゃな」

 この世界の要の一つ、博麗神社。
 招かれたその場所へ二人は到着し、小牟の紹介が入る。

「もう一人、魔女風の少女もいるが?」

「霧雨 魔理沙、普通の魔法使いじゃて」

「……」

 この世界――幻想郷と、それを見守る妖怪の賢者――紫について大雑把に説明を受けた零児。
 小牟がこの世界の事を詳しく教えられるのは、幸いだったかもしれない。
 何せ――

「そこの二人、覚悟なさい」スッ

「恨みはないが、妖怪退治の一環だぜ」カチッ

 ――二人の少女の“挨拶代り”に、身構えることが出来たのだから。

「後でどういう事か説明しろ、小牟」

「大方、紫が焚き付けたんじゃろうがな!」

 

  霊符『夢想封印』!

 

 七色に光る陰陽玉が――

 

  恋符『マスタースパーク』!

 

 ――ミニ八卦炉から放たれる極太レーザーが――

「躊躇一切なしかぁ!」

「っ、『電瞬』!」バチッ ガリリッ

 ――二人に襲い掛かる。

「ひゅぅ。だが、私のを避けても、玉は向かうぜ?」

「知っとるわ、馬鹿もん! 『玄武作』、ちょちょーい!」ポイポイ

 レーザーの直撃を、小牟を抱えて避ける零児。
 その動きを追尾し、迫る陰陽玉を小牟の爆弾で相殺する。

 その爆風で、辺りに煙が立ち込め視界を悪くなっていく。

「ほぉ、参考になるぜ」

「ちょっと魔理沙。気付いた?」グッパッ

「ん? 何の話だ?」

「……はぁ。別にいい、わ……っ!」  カチャチャッ

 当たっていないことを知りながら、呑気に感心している魔理沙。
 それらを無視して自身の違和を覚えた霊夢だが、勘が危険を察知する。

 ―― 飛べ ――


「魔理沙、避けなさい!」

「へ?」

『金【ゴールド】!』ダダダンッ

『銀【シルバー】! 白銀【プラチナ】!』ダダッダダン

「うげ、は……やっ!」ピチューン

「……」ガリガリ

 煙の中からいくつもの弾丸が飛び出し、魔理沙に被弾する。
 デコに当たり後ろへ軽く飛ばされた魔理沙を横目に、霊夢はグレイズしその側へ降り立つ。

「……一回休みね」

「やっちまたぁ」イテテ

「弾は既にゴム弾に換装済みだ。悪く思うな」

「さて、後はお主だけじゃぞ~霊夢」

「二人だから二度……は、使えないか」

「お互い様じゃし、今更そんな事言うつもりもなかろう」

「降参して貰えると、話が早いが」

「いやよ。妖怪は退治しなくっちゃ。それに加担する人間も、ねっ!」トンッ

「どうせ紫に扇動されたくせに、よう言うわっ!」

 時に撤退も、二度目も迫る事がある霊夢がそれをせずに突撃する。
 彼女の気ままな信条を的確に突っ込みながら、零児と共に迎撃する小牟。
 そして、戦いは……――

………………

…………

……


~~~博麗神社・縁側~~~

{「どうだったかしら、霊夢」}

「どうもこうもないわよ。見ての通り」

「あらあら、たんこぶ」ツンツン

「……ふんっ」

「完全に油断したぜ~」プハァ

「相手の力量を計る前から、油断してどうする」

「いや、男の人が戦う所とか初めて見たから、つい」

「ほう、やはり男はへたれておるのか」

「一部の仙人ぐらいのものですわね」

 ――小牟達の勝利で終わった、主人公少女との邂逅。
 小牟のピーチボンバーで締められた事にやや呆れながらも、目的を果たしたために大人しく引いた霊夢。
 そして、縁側にてお茶である。

「私は別にそんなことないけど。で、そういうことなの、スキマ妖怪」

「そう。説明するより、戦った方が分かったでしょう?」

「レイジ達の事か? 強いのは分かったけど、なんでわざわざ」

「霊力の事なんだけど、やっぱり気づいてないのね」

「へ? あー……」

「なんじゃ? 風邪っ引きでしたーっちゅう、負け台詞のテンプレかの?」

「違うわよ。なんか、思うように力が引き出せないのよね」

「それでもあの動きとはな」

 紫の意図とは霊力や妖力といった、力の欠如を自覚させる事。
 そして、零児と小牟の実力を知らしめる事。
 その二つが主だ。

「でも、私はちょっと調子が悪い程度だぜ?」

「貴女は殆ど影響を受けていない方ね。力の強い者ほど、削がれた分も大きいのかしら」

「……」

「……」

「それから、既に二人が気付いている異変と、その結界についてだけども……」

 そしてその現象と同時に起きている、幻想郷を分断するかのように生じる結界について語り始める。

 それらはこれまでに霊夢や他の者が解決してきた異変を“外での認知=東方Projectのゲーム”のステージの範疇で囲ったものだと、紫は推測する。
 確証を得ないのは幽明結界側の結界を含め、侵入しようとしても外に吐き出されるからだそうだ。
 そこで霊夢達に試してもらい、ついでその推測を実証して欲しいというわけだ。

「なんじゃ、ぬしも東方Projectの事は承知じゃったか」ニヤニヤ

「よく、ね」ニコッ


「説明がやけに丁寧なのは、そういうこと?」

「正直、何か企んでるのかと思ったぜ。それは今も変わらねーけど」

「うふふ。それからもう一つ。貴方の御友人方も、幻想郷にやってきていますわ」

「何? それは……」

「私が知る限りではフェリシアやジューダス、ワンダーモモも居たはずよ」

「ほうほう。神夜やハーケンとかのフロンティア勢はおらんのじゃな?」

「……? ごめんなさい、その人達は知らないわ」

「あぁ、ぬしが知っておるのはあの戦いまでか」

「それでも構わない。……確認のとれた場所は、どの異変に巻き込まれているんだ?」

「春雪の異変の白玉楼とマヨヒガ、それに紅霧の変の紅魔館ですわ」

 ただ、その兆しらしい出来事が数日前から起っていた。
 “あの戦い”にて世界融合を阻止した英雄達の幻想入りという、紫にとって信じ難い現象が。
 その情報を元に進むべき道を指し示す。

「……すまん、小牟」

「ほいほい、説明しちゃる。小牟のパーフェクト幻想教室じゃ!」

「それだとダメじゃないかしら?」

 

 少女説明中......       少女飲茶中......

 

「――。そして最後に、核のエネルギーで温泉が湧き出て大変になったんが、怨泉異変こと、地霊殿じゃな」

 紅霧異変――紅魔郷。
 春雪異変――妖々夢。
 酒宴異変――萃夢想。
 永夜異変――永夜抄。
 大結界異変――花映塚。
 気質異変――緋想天。
 怨泉異変――地霊殿。
 心散異変――心綺楼。
 以上八つ、小牟が知る限りの『東方原作』中の異変について、時々魔理沙が付け足しながら説明を終える。

「他のと違って、それだけまんま地名なんだな」

「ほっ。で、早苗達の神略異変がないんだけど?」

「ん? ……あー、すまんのう。んとじゃな……」アレ?

 そこに忘れているわよと言わんばかりに、神略異変――風神録の事を告げられる。
 何か妙な違和感を覚えながらも、その説明も終える。

「……異変の事は大体分かった。だがそうなると、春雪異変は飛べないといけないか」

「一人ぐらいなら乗せられるぜ?」

「それだと、足手まといにならないか? それに、飛べないのは二人だ」

「どうせスカイステージが多いんじゃし、気にしておるでない。それにわしなら、二人のを見て飛べそうじゃ」

「流石ですわ」

「……だが」

「別に、留守番しててもいいわよ。いても居なくても同じだし」ケロッ


「運び屋ってのには慣れてるから気にすんなって、レイジ」ニコニコ

 それらは全て、空を飛ぶ少女達の物語。
 跳ぶことは出来ても飛翔は出来ない彼が、足手まといになるのでは考えるのも無理はない。
 それでも、魔理沙は気にしないでいてくれるようだ。

「……なら、頼む。仲間を放って、のんびりしているわけにもいかない」ジッ

「おうっ」

「して、どこから行こうかの?」

「……」

「永夜から行きましょう」

「……すまん、霊夢。春雪か紅霧のどちらかから、お願いしたい」スッ

「……えー」

「ものすっごい露骨に嫌な顔するのな」

「だって、紫が言ったことだもん」フイッ

「だが、仲間の居場所の手がかりがあるのもその二つだ。
 ……どちらか一方でいい。もしも時は俺が責任も取る。だから、頼む」

「……」

「責任とかの問題じゃないんだけど……あーもう、分かったわよ。春雪から行ってあげるから」ハァ

「出黒幕じゃな」

「レティだな」ケラケラ

「……」

 かくして、ちぐはぐな四人チームが出来上がる。
 即席ながらも十分に頼りになる、何でも屋のような一行だ。

 ただその歩は向きが合っているだけのように、紫には見えたのであった。

………………

…………

……


以上で投下を終わります。幻想の祭よ、再び……!

 

始めましての方も、以前の物を知っている方も、見て下さってありがとうございます。
このSSはReTakeの名の通り、加筆修正したものです。
色々見苦しかった部分を直し、ストーリーも練り直した作品ですので、また初めから読んで頂けると幸いです。

なお、元となるSSはこちら↓

 零児「…幻想郷。新世界、か」小牟「懐かしい感じがするの~」

 零児「……東方新世界」 霊夢「第二章、ね」
 零児「……東方新世界」 霊夢「第二章、ね」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1340692233/)

これ以上はSSwikiにて。あまりごちゃごちゃこちらに書いても二の舞ですので。

それでは、また。


待ってた

心綺楼までかー。でも輝針城のヘッポコ組なら居たって不思議ではない筈……だよな?

とりあえず八つに絞ったけど神略もやらない訳じゃない……感じ?

色々無断での動画の方はどう思ってるんだろ

彼女の反転する程度の能力は正邪の先読みだった……?

乙!
間幕の登場希望キャラも安価し直し?

ども。色々無断動画の人です
さすがにお祝いコメントはこちらでした方がいいよね(初コメ)
おめでとう、おめでとう、そしておめでとう
さて、予告通りこれの動画はあちらの垢が限界きてから作成するよ(勝手に決める)
安価方式には不参加なのであしからず

色々無断? サテナンノコトヤラー

>>16
今回は安価も選択もなしです。ただ単純に普通のSSの形式で進めていきますので

プクゾーネタは入ったりするのか?アレは流石に少々ごった煮過ぎた感があったが

大作復活オメです
同じようなコラボ動画が流行ってますがこの組み合わせはやはりいいですねえ


~~~春雪異変・雪降る春の森~~~  ―BGM:無何有の郷 ~ Deep Muntain―

 スゥゥ……

「……今のがそうか」

「ふーん。これに気付けるんだ」

「? 境界線は見えてたけど、何か変わったことあったか?」

「蜘蛛の巣を突き破った感じじゃったぞ、魔理沙よ。下り道ではないようじゃ」

「……確かに、蜘蛛の巣の感覚か。あれよりよほど、細く薄いがな」

「あー、それか。てっきり寒気かと思ったぜ」

「ま、何でもいいわよ。それよりさっさと、先に進むわよ」

「おー、妖精がわらわら来ちょる」

「霊夢の弾幕より、かなり散発的だな」フンッ

 春を待ち続ける小さな森の、その奥の奥へ。
 妖精達が「ハルマダー?」とはしゃぎながら、彼らにちょっかいを出してくる。
 それらを片手間に払いのけながら、先へと進む。

「霊夢クラスが道端にたくさんおるとか、とんだ世紀末じゃ」

「違いないぜ」ケラケラ

「そうか。……異変の気に当てられていると聞いたが、ただ悪乗りしているだけのようだな」

「よく言えばノリがいいのよ」

「あまり変わってないぞ。……この異変を起こした西行寺の亡霊姫とは、どういった存在なんだ?」

 異変の大雑把な説明だけを受けた零児が、黒幕について尋ねる。

 とある者の死体によって封印された妖怪桜、西行妖。
 その封を解かんとする、冥界の管理者。
 その命により春度を集め、結果、幻想郷の冬が伸びた異変。

「紫ほどじゃないけど、胡散臭い奴だぜ。類は友を呼ぶってやつだな、ありゃ」

「猫っぽいと言えばいいんじゃない? 興味があっちこっちふらふらしてるし」

「紫と長い付き合いじゃしなぁ。まぁ、その点ならぬしが言うな」

「お前もだ、小牟。……幽霊らしく、掴みどころがないといったところか」ハァ

「あぁ、そうだな、それでいい」

 その背景も合わせれば、大層な出来事となりえた事件。
 だが、とうの本人は少女達の評が示す通り、興味が湧いたからなんとなく解こうとしただけなのだ。


「あら。そんなに急いで、何処へ行くのかしら?」

「いよっ、待ってました! ……ってありゃ? チルノが出てこんかったの?」

「あいつ、居たかしら」

「確かいたぜ。前はふらふらしてたからぶっ飛ばしたけどな」

「この雪の異変を起こしている、張本人の元にだ。お前さんは?」

「私はレティ・ホワイトロック。この雪の異変の『黒幕』よ」 ―BGM:クリスタライズシルバー―

「何……? ……確かに、外見は聞いていたのと似ているが」スッ

 その、冬が伸びたという部分に便乗する形で、騒ぎ立てた冬の妖怪。
 レティ・ホワイトロックが道を遮る。

「真に受けるでない。こやつは能力で、寒さを更に下げとるだけじゃ」

「……為るほど確かに、それは黒幕か」ハァ

「あら、なんでばれたのかしら?」

「どうでもいい。邪魔するなら退治するわ」

「物騒ね。私はただ、尋ねただけなのに」

「ん? 邪魔しないのか?」

「面白そうなメンツだと思ったから、気になっただけよ。狙いは私じゃなさそうだし」

「そいつは重畳。無駄な戦いは避けたかったから助かる」

「黒幕の余裕じゃな」

「そうそう、余裕ね」ニッコリ

「妙に釈然としないが、まぁいいか」

 彼女の能力は寒波を操る能力。
 寒ければ更に寒く出来る、生物にとって疎ましい冬の極寒を操る力だ。

 だが、彼女は雪女らしく極端に凍えさせることはない。
 ただ冬に生き、冬を感じさせる、自然派の妖怪なのだから。

………………

…………

……


~~~マヨヒガ・人のいない里~~~  ―BGM:遠野幻想物語―

「ほわぁ~……急にポカポカ陽気じゃ」

「また結界を通ったが、さっきの結界とは別物か?」

「みたい。ここは普通には来られない場所だったかしら? 迷ってないと、空からも見えないはずよ」

「……迷い家、か」

 レティに見送られ、次なる結界をくぐる一行。
 そこは本来の季節を感じさせる温さに包まれた、小さな集落のような場所――マヨヒガだった。

「いかん、眠気が。……そうじゃ、二人とも。前回は、レティと戦わなんだのか?」

「いーや、戦ったぜ。すぐに倒したけどな」

「そんな細かい事、覚えてない」

「……つまり、同じ異変でも、違うことが起こり得るわけか」

「つーかシャオムゥ、いつの間にか飛んでるのな」

「分析完了、試験開始! 小牟、いっきま~っす!」ビシッ

「意外と早かったわね」

「目処が立っとらんかったら、妖々夢を選ぶわけなかろう。
 して、零児よ。この調子なら主も五行相克のちょっとした応用で、飛べるかもしれんぞ」

 迷い込むか、迷い込まれて入るしかないはずのはずれ村。
 幻想郷では猫の集落と化している。

「そいつは重畳。お前にしては段取りが早いじゃないか」

「しっかし、相変わらずレアアイテムなしなのぜ。がっかりだな」ハァ

「……いつの間に漁っているんだ、魔理沙」ハァ

「わしは橙が見つかればソレデヨイ。……チェェェェェェェェェェェン!」

「うるさい」

「式神、橙。……スキマ妖怪曰く、式の式か。随分、高等な事をする」

 ここに住む幼獣の橙は、紫の式、八雲 藍のそのまた式である。
 人間を驚かす程度の能力……という、何がどう能力になっているのか分からない力を持つ。
 その強さはまだまだ半人前である。

「特に強くないけどね。……ところで、あんな猫の妖怪いたかしら?」

「ん? おー、ぼんきゅっぼんだな。橙とは大違いだぜ」ガサゴソ

「な、なにおー! 私だって、いつかはあんなふうに……!」

「噂をすれば、寸胴が来たぜ」ケラケラ

「歳を重ねた妖怪の外見なぞ、あてにならん」チラッ

「こっちみるでない」


「人間の基準で考えないでよね! というか、貴方達なんでここにいるの! どーして私の事知っているの!」

 その橙が一行の前に姿を現す。
 零児の言う通り、妖怪は外見と実・精神年齢が一致しない事が多い。
 だが、彼女の場合は見た目そのままだと思って差し支えないだろう。

「通り道じゃからの~」

「飛べないのが二人いたし、地上ルートは仕方ないんだぜ」

「紫から聞けてないのね。まぁ、聞いていても邪魔だから退治するけど」

「紫様から? 何も聞いてないよ! だっていつも寝てるもん……って、紫様のことまで!?」ガビーン

「いかん、これ覚えてない臭い」

「? 知り合いじゃなかったのか?」

「さっぱりじゃ。異変以外でもあっとるもんじゃと思っておったが」

「とにかく、ここから出ていってもらうからね! プリーズヘルプミャー!」

「SOSに駆けつけキャットー!」ズサー

 そんな彼女の猫な相言葉に、駆けつけるはキャットウーマン。
 笑顔と感動を届ける、明るいダークストーカー。
 その名を――

「フェリシア! 霊夢達が話していたのは、お前さんだったのか」

「そうそう、フェリシアだよー! って、あんた誰ぇ?」

「……前二人の反応から、薄々可能性を案じていたが」

「偽物か、記憶を弄られとるのかの?」

「なんか、私や紫様のことまで知ってたの! ストーカーだよ!」

「ゆかりんのことまで? これは見過ごせないね」

「まて、フェリシア! 俺だ、有栖 零児だ!」

「アイスエイジー? そんな奴知らないよーだ! そぉれ、『Let`s Dancing!!』」

橙「翔符『飛翔韋駄天』! いっくよー!」       ―BGM:ティアオイエツォン(withered leaf)―

   闇の住人
 ダークストーカーである彼女は猫の獣人である。
 その身体はまさに猫の如く柔軟で、鋭い攻撃も繰り出せる。
 そこにミュージカルな戦り方を交え、ムードメーカーとして流れを戦いへと引っ張ってきたのだ。

 その一端を、声高々に宣言しながら披露し始める。


「使った以上は退治するわよ」スチャッ

「しようない。やる気100%は叩くしかなかろう」ウンウン

「……今度の新世界も、ややこしそうだな」

「そっちのでか猫と違って、こっちは簡単だけどな」ケラケラ

「……(あの狐さん、藍様とちょっと似てる……?」

「バトルミュージアムに見惚れちゃえ!」

 それに対し仕方なく、霊夢を除いて構える。
 零児は駆けてフェリシアの元へ。
 小牟と魔理沙は橙へ、だ。

「うーん、一つから三つか。ノーマルじゃな」

「ノーマル? イージーじゃないのかしら」

「喋っている暇はない。先にフェリシアを落とす!」

「やれるもんならやってみな、ってね!」シュッ

「……? (遅い?」スッ

「うわわわわわー!」アタフタ

「ちょこまかと動くでない、橙よ!」

「こんなの、全然、似てないよー!」イヤー!

「……あんた、倒す気ないのね」

 零児がフェリシアの攻撃を裁いている間に、小牟は余裕綽々と橙に寄る。
 弾幕を平然と潜り抜け、手をワキワキさせながら橙を追い掛け回しているのだ。

「がっはっは! 追い掛けっこも十分、弾幕ごっこじゃて! ほーれ逃げろぉ、橙!」

「うわーーーーん!」

「戦いになってないぜ、これは。……」チラッ

「くぅ。ストーカーの癖にやるじゃない」

「……(弱い? いや、これは……)……せぇっい!」ブンッ

「うわっとと! あっぶなー。あの男、強いなぁ。橙ちゃんの方はどうなって……に゛ゃあ!?」

「みゃぁあ!? ど、どいてー!」    ピピチューン

 追い回される橙の行き先に投げ飛ばされたフェリシアが、橙と頭をごっつんこ。
 間抜けに被弾音を鳴らしながら、蹲った二匹であった。

………………

…………

……


「ふにぃぃ……頭がひりひりしてる」

「ご、ごめんね橙ちゃん! ……あたしもひりひりするぅ」

 決闘(という名の遊び)は終わり、借りてきた猫になった二匹は涙目になりながらデコをさする。
 そういう倒し方もあるのかと、小牟は考えつつ……。

「漫才コンビ、見事じゃな」

「だれがまんざいコンビよ。くやしー!」

{「諦めなさい、橙。貴女は憑きたてのほやほやでも負けるから」}グニョ

「紫。あんた、何してたのよ」

{「外で色々と、かしら。どう、首尾は」}

 そこへスキマの中から声をかけてくる紫。
 後ろで蠢く何かが、マヨヒガの情景に異様な色を付け加えるようだ。

「二面クリアーと言ったところじゃ。まぁ、こやつらの自爆じゃったが」

「あれ、ゆかりんじゃん?」

「そういう紫はどうなんだよ?」

{「多少、進展はあったわ。貴方達がここの結界に入ってからね」}

「と言うと?」

{「虚無の闇から、今この場所を見られるようになったの」}

「分からないわよ」スッ

{「……光のない世界に、スポットライトが当たったようなものかしら」}

「つまり、これまでは見られなかったんだな?」

{「えぇ。見させて貰えなかった、と言うべきかしら」}

 小難しくそれっぽく話すも、霊夢の一蹴で言い直させられる紫。
 普段から分かりにくく遠回しな物の言い方をするのも、霊夢に表面上は嫌われる原因か。

「??? ……はっ。紫様、こいつらいったい何なのですか? 私、知りませんよ」

{「見て理解なさい。それで、フェリシアは?」}

「どうもこうもないよー。なんなのさ、こいつら」ウー

「と言うわけだ。会ったことは?」

{「ないですわ。……まぁ、それについてはこちらで調べておくので貴方達は引き続き、異変解決の軌跡をたどって頂戴」}

「知略はぬしに任せておいて、間違いなかろう。ほれほれ、次は租界じゃ」

「適当な空を飛んでた記憶だぜ」

………………

…………

……

{「言ったわね。さて、フェリシアと橙。色々と聞かせて……あら?」}

 そんな彼女がスキマの中から素直にその場を引き受け見送る。
 彼らが結界を潜り抜けたのを見て、振り向いて……。

  ――どこに行ったのかしら?――

 

………………

…………

……


~~~人形租界・とある寒空~~~  ―BGM:ブクレシュティの人形師―

「レイジ、しっかり捕まってるか~?」

「ああ、なんとかな。……迷い家の結界を抜けたら、すぐに暗くなったな。雪雲のせいか」

 二匹を紫に任せ、大空へと飛び立った三つの影に四名の者達。
 零児を箒の後ろに乗せた魔理沙が、軽く状態を確かめる。

 少女の後ろに大人の男が乗るという、とてもシュールな光景である。

「年がら年中、ぽかぽかなのかの~あそこ。してアリスよ。三回もちょっかい出すぐらいなら、さっさと顔を出したらどうじゃ」

「あら、何故ばれたのかしら。そもそも、そちらはどなた様?」

「『妖怪バスター』」シュッ

「わわっ。もー、紅白の巫女。面倒そうに不意打ちしないでもらえる?」

「邪魔されたの思い出したのよ。目の前を何度も何度も」

「アリス! 私の事、覚えてないのか?」

「白黒の魔法使い? 似たようなのを見た気がするけど、あれはだいぶ昔ね。つまり知らない」

「霊夢の事は知っていて、魔理沙の事は知らないのか」

「それにしても、四人もいるのに四色だけって偏り過ぎ。青や緑はどうしたのよ」

「ハデハデにする必要ないからの~」

「彼女は?」

「アリス・マーガトロイド。七色の魔法使いじゃ。人形師じゃて」

 そこにはあまり突っ込まず、西洋風の少女が現れる。
 異変の謎について既に多少知っていた、アリス・マーガトロイドである

「うーん。あんなことや、こんなことまでした仲なのに忘れちまったか……」グヌヌ

「は? 私にそんな趣味はないわよ」

「魔理沙のあれやこれなんて、何のことかさっぱりよ」

「もっと具体的に話したらどうだ、お前たち」

「それで、何処に行くつもりなのかしら?」

「冥界だ。この異変を、解決しに行く」

「私の五割八分にも満たないグループで? 数が集まればいいってものじゃないわ。量より質ってこと、教えてあげる」

「だな。弾幕はパワーだぜ」


「私の五割八分にも満たないグループで? 数が集まればいいってものじゃないわ。量より質ってこと、教えてあげる」

「だな。弾幕はパワーだぜ」

「いいえ、ブレインよ。咒詛『魔彩光の上海人形』!」  ―BGM:人形裁判 ~ 人の形弄びし少女―

 彼女もまた魔法使いであり、魔理沙程ではないがアクティブな少女だ。
 しかも、春度が奪われ寒さが長引いていることに気付いている、言の通り頭脳派である。
 そして運動神経は可もなく不可もなく、美的センスや弾幕ごっこへの理解力は高い、東方Projectの適当といえる少女。
 その実力も相当なものであり、今後、魔理沙の相方として振る舞うに足る存在だ。

「よっしゃ、やってや……う、うおお!?」

「む。やはり、俺の抵抗がでかいか?」

「思いのほかな!」ググッ

「ほら、締まらないじゃない」

 だからと気合を入れた魔理沙だが、スピードを上げようとしたところで重荷に大きく舵を取られる。
 やはりというか、大きな男を載せての飛行は初めてのようだ。

「そいつは同感じゃ。わしらが戦っちょるから、ぬしらは避けることに専念せい」

「どうせ私一人でも倒せるんだし、シャオムゥも避けてれば?」

「習うより慣れよ。さっきは結局、弾幕うっとらんかったからの。それっ、『青竜槍』!」

「ならなんで試さなかったのよ。……『ホーミングアミュレット』!」

「甘く見ないでよね」ガリッ

「小さく避けられない……!」

「多少なら、迎撃も出来る。俺の事は気にせず慣れてくれ!」

「その迎撃でもぶれるんだよぉ! ……!」

 そんな光景に、アリスは呆れる。
 分かりきっていた事だと、言わんばかりに。
 そして視界から外し、残りの二人に集中し始める。

「忘れておった。アリスは三面にしては、濃い目弾幕じゃった!」

「というか、何か強い気がするわよ」

「なんとなく、人形を多く使った方がいい気がしたのよね。三割増しぐらいに」

「リアル弾幕ごっこじゃからと思うたが、そういうわけかっ!」


「よくわかんない事ばっかり。……って、あら? いつの間にか白黒の方がいないじゃない」

「外れだ、アリス! 恋符……」キィィ

「……」ヒュー

 だが、魔理沙はそれを逆手に取る。
 ……いや、別に意表を突いたつもりではないか。

「っ!」

「そこっ、『警醒陣』!」

「『白虎砲』、ガーオー!」

「ちょ、避けられない弾幕は禁止って……!」ガリガリガリ

「単独ならねー」シレッ

「ご愁傷様じゃて、アリスちゃん」ニヒヒ

 

  マスタースパーク!!!

 

アリス「く、っ!」ピチューン

 ただ、回避と安定した軌道を得るために、逆さに落下することを選んだだけなのだから。

 その考えなしの行動を読むことが出来ず、アリスは被弾する。

「っしゃ! ……って、アリス!」

「気絶したようだな。自由落下しているぞ」

「レイジ、受け止めてやってくれ!」グイッ

「了解した」

 トスッ

「……思いのほか、軽いな」

「なんだっけ、確か苦虫は会得してるから、ダイエットしてるんじゃねーのかな」フラフラ

「それは捨食の法じゃ。そっちは不老不死じゃよ」

 マスタースパークの直撃を受け、誤魔化す程度にしか力を受け流せなかった少女は気絶する。

 それを零児が受け止めたのを確認し、ふらふらと上へと戻る。
 その最中に、下手に小刻みに動くより直線のほうがよさそうだと魔理沙は思った。

「……だが、この状態でも人形に霊力を送っているのか。器用なものだ」

「で、紫」

{「呼ばれて飛び出て♪」}

「やはり、妖々夢の道順通りじゃな。次は長いぞぉ」

「面倒くさいわねぇ」ハァ

「アリス。起きるんだぜ、アリス」ペチペチ

「ジョイヤー!」


「……ん、う……何よ、五月蠅いわね……えっ」

「目が覚めたようだな」

「えっ、え、なんで私……えっ」カーッ

 さて、本来、弾幕ごっこにはそれなりのルールがある。
 殺しはご法度や、避けられない単独スペカは禁止などだ。
 どちらも“決闘”における「優雅さ」と、それに欠ける「野蛮さ」の排除からくる決まりだが、例外も存在する。

 事故死と、複数の対戦者によるスペカ同時発動などだ。
 ただ、前者は今回のように気絶してそのまま地面に落下してしまったりした場合だけであるし、
  後者は基本、一対一を推奨される弾幕ごっこにて、挑戦者側の許容でしかありえない状況だから、問題はないのだが。

「そんな狼狽えることじゃないって。落ちてたのを、拾っただけだし」

「そういうこと。……はぁ、負けたか」

「次からは、相手を選ぶべきだぜ。それよりもさ、アリス」

「何よ。馴れ馴れしく呼ばれるような記憶はないわよ」

「まぁ、それはちょっと残念だけど、別にな。私がアリスの事を覚えてれば、それでいいさ」ケラケラ

「……」

 だからこそ、永夜異変のような“二人組の異変実行組”に挑む妖怪や人が出てきたりもする。

 その二人組の交点ともいえる瞬間が、当時のここでの出会いなのかもしれない。

「だから、アリスの実力だって知ってる。どうだ? 一緒に、この異変を解決しようぜ?」

「……へ? 何を言ってるのよ」

「アリスなら、分かってくれると信じてるぜ」ニコニコ

「……」

「絶賛、空気じゃな」ボソボソ

「抱えている俺は微妙な心境だがな」ハァ

「……はぁ。何か分からないけど、そんなに言われちゃ断りきれないじゃない」ハァ

「いよっしゃ! そうこうなくっちゃ、アリスじゃねーぜ」

 それを再現するかのような魔理沙の期待に、アリスが応える。
 嘘じゃないその笑顔に押し負け、しぶしぶといった体ではあるが。

「決まったのならさっさと進むわよ。シャオムゥが言った通り、長い……っていうか、遠いんだから」


{「……」}

「じゃぁ、よろしくな。アリス」ニカッ

「ええ、宜しく、白黒の魔法使いさん。それに、紅白の巫女と、そちらの」

「有栖 零児だ」

「わしは小牟じゃ。今後とも、ヨロシク。つーわけで信愛の握手~」ヒラヒラ

「……んっ」

 しかし、

  ―――カッ!

「「「っ!?」」」

「うぉっ、まぶしっ!」

 そう簡単に、事はうまく運ばない。

「……何よ、嫌がらせ? って、いないわね」

「ちょ、アリス。どこ行ったんだ? 返事しろ!」

 握手した瞬間アリスが眩く光り、その閃光に目を瞑り……引いたのを感じて目を開ければ、アリスが消えていた。
 綺麗さっぱり、跡形も人形もなく。

「まて、無暗に動くな。罠かもしれん」

{「その心配はないわ。見て居たから」}

「おぉ? して、何があった?」

{「分解されていた、と言うのが正しいのかしら。ヴァーチャルな感じに」}

「ヴァーチャル?」

「電脳的に、ちゅーことか。もしや、まじで偽物?」

 その光景を、スキマの向こうから監視し続けていた紫。
 その眼は先ほどまでと違い、鋭く虚空を睨み付ける。

「……なんでアリスの事をみて、そこまで言えるんだよ?」

{「橙とフェリシアも居なくなっていたのよ。私の気付かぬうちに」}

「何?」

{「驚いたわ。私に気付かせず消すなんて。この消え方じゃ、ある意味当然かもしれないわね」}

「戦力が増えるかと思うたのに、残念じゃな」ハァ

「……異変はあくまで異変、ってことかしら」

{「……かもしれないわね。春雪に限らないけど、途中から味方が増えるなんて“原作”じゃあり得ないもの」}

「船付きの同行者やらが後ろから着いてくるぐらいしかなかったはずじゃしなぁ」ウンウン

「決められたレールの上を走るしかない、という訳か」


「なら、さっさと幽々子をぶっ飛ばして異変解決しましょ。行くわよ、三人とも」

 やや興奮した風ではあるが、それでも冷静に事を考察する。
 感情を混在させず、独立させているのは経験ゆえか。

「……紫。この件で、もう一つ気になったことがある」

{「はいはい?」}

「フェリシアの事だが、初めて会った時の強さのように感じた」

{「……」}

「参考になるか分からんが、一応な」

{「情報はあるに限る、ですわ」}フフッ

 静かに笑い、スキマへと消える紫。

 零児に向けた冷たくない視線は、いったい何を表すのか。

「しっかし、アリマリじゃったとはな~。んー、たっぎるぅ!」

「アリマシ?」

「アリマリ。カップリングの事じゃ」ニヤニヤ

「仲のいい友達、というわけじゃないのか?」

「まぁ、否定はしないけど……」

「魔理沙の押しっぷり的に、それ以上じゃろー?」

「いやいや、楽が出来るからだぜ?」

「……なん、じゃと……?」

「だって、アリスの魔法は私と相性いいからな。パチュリーや聖とも魔法の勉強するんだが、アリス程はなじまねーぜ」

「そうね。あんた、アリスに色々借りまくってたわね」

「わしの幼気な夢が壊れたっ!」ドンッ

「何が幼気だ」ハァ

 それに気付くことなく、彼らは再び前を向く。
 次なるステージは上の界へと向かう、天空の花の道である。

………………

…………

……


 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 侵入者の感知。対象、[解決者]二名まで確定。
 残り二名……[目標]と認識。

 これより、解析を実行。
 [素材]の判定、開始。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 


以上で投下を終わります。さくさくっとー

あまり語らず、あまり答えず。それでは、また次回


~~~春雪異変・春の陽気の零れる空~~~     ―BGM:天空の花の都―

「……やっぱり、空のほうが暖かいのは納得いかないわね」ムスッ

「普通、上空の方が寒いからな」

「春度の問題だな~」

 微かな暖気を追い求め、大空に飛び上ったのが春雪の変。
 その軌跡を辿りつつ、一行は冥界へと順調に空を進む。

「頭が!」

「春ですよー ……って失礼ですよー!?」

「置き牽制じゃ。かかったのぅ!」ベシン ピチューン

「わわわー!」ヒュー……

「……今の妖精にも、名前が?」

「リリー・ホワイトっちゅう名がの。春告精で、この異変ではそうとうハイじゃ」

 春を告げる精を掃い、春の気は更に濃く増していく。
 それは春度を集めた妖精であったからなのだが、今の彼らにはさほど重要ではない。

「なんだか、拍子抜けするわねぇ。もうすぐ結界まで着くわよ」

「あの、大きな門がそうか。魔理沙、もう慣れたか?」

「まだちょっと細かいのが難しいけど、大体な」

「アクロバティックに飛んでおったの~」

「ツァイトや、カタパルトで飛んだ事を思い出す。あの揺れは慣れるものじゃない」ハァ

「命がけの浪漫飛行じゃ。して、三姉妹はどこじゃー?」

「おやおや? 貴方達、こんなとこまで何しに来たの?」

「いたわね、騒音三姉妹」

 今の彼らにとって大事なのは、この異変を辿ること。
 その一環……妖々夢でいう所の四面ボスである、三姉妹が現れる。

「あら、騒音だなんて失礼ね。私達は幽霊楽団よ!」

「心にちっとも響かない音楽は、やっぱり騒音だぜ?」

「む……まるで聞いたことがあるみたいな言い分……」

「彼女達が?」

「赤い三女のリリカ。白い次女なメルランに、黒い長女のルナサじゃ。ポルターガイストやっちょるよ」

 小牟がそれぞれを登場順に紹介する。
 既に『躁鬱と幻想の音色』については語り終えているらしく、再確認といった所のようだ。


「説明乙。私のファンだか知らないけど、その分だとお呼ばれでもした?」

「知らないわよ。ただ、春度をとりか……何よシャオムゥ」

 三女の嫌らしい言い方に辛辣に返そうとした霊夢を小牟が抑え、代わりに前に出る。

「わしに任せい。そうそう、御呼ばれされたんじゃなーわしら」ニコニコ

「おう。月見……じゃなかった、死桜で花見だぜ」ニヤニヤ

「……」

「……」

「嘘ね。あのお嬢様は幽霊同士で楽しみましょうと言っていたもの」フワッ

「! ローズか」

 魔理沙もそれに合わせて話そうとしたところで、鋭い言葉が三姉妹の背後から投げかけられる。
 その者はタロットカードを用いて因果を拾い、オーラソウルで荒く禍々しい力を抑え込む、死の識者。
 ローズである。

「……何故、私の名前を? 自己紹介は、まだしていないのだけれど」

「ぬしが覚えとらんだけじゃ。しかし飛んどるの、普通に」ショボーン

「狐の妖怪に猫の獣人に、次は幽霊か。レイジも、意外と普通じゃないのか?」

「交友関係という意味なら、人以外との付き合いだってある。……俺自身という意味なら、純粋な人間だ」

 彼女は特殊な力を扱う程度の人間だったのだが、死してなおベガを――サイコパワーを打ち消す力を高めていた。
 その彼女の持っていた“思い”を利用……もとい、汲み上げたブラックワルキューレによって、死から蘇った経緯がある。
 彼女はその“死神”の意図を他の二者と共に思い切り反故し、手を貸してくれた人なのだ。

「知り合いなの? ローズ先生」

「知らないはずよ。怪しげな来訪者ね」

「先生? 音楽の?」

「そう。……それは、知らない?」

「トリオだって言ってただろうに。しかし、3対4か」

「……後ろの、お兄さんは?」

「オプションだぜ」ケラケラ

「サポートだ」ハァ


「何にしたって」タララン

「御呼ばれしたかったなら!」パラパパー

「……幽霊に、なることね」リィィィ

「でなくては、ここから先には通さないわ」スッ

  「「「「大合奏『霊車コンチェルトグロッソ・魁』!」」」」       ―BGM:幽霊楽団~Phantom Ensemble―

 そんな彼女がフェリシア同様、一行の前に立ちふさがる。
 三姉妹とローズがスペルカードを宣言し、ローズを重心とした三角形の陣構を為す。
 そうして、三姉妹がそれぞれ楽器を奏で、ローズは指揮棒を持ちながらスパークを放ってくる。

「さて、音楽の先生が何をするかじゃの!」ガリッ

「ひゃっほう!」ガリリッ

「魔理沙、何故わざわざ濃い方に向かう?」

「まー、見てなって!」

「……っ」ピクッ

「くるくる……」ビィーン

「軌道を変えた? ……なるほど、確かにこちらの方が避けやすくなるのか」

 三姉妹が短い光線を繋げ、交差し、振り回すことで色鮮やかな弾幕の粒に変化を与える。
 だがそれは逆に避けやすいポイントを生み出し、簡単に近寄らせる悪手にもなる。

「どうした、霊夢よ?」

「駄目ね、あそこ」

「ほう。博麗の勘かの?」

「まぁ、そんなところかしら」

 ただ、今回は何かが違うらしい。

「……(なーんか余裕綽々ね。まぁ、私も手は抜くけど♪」

((リリカの悪い癖が見える)わね)

「テンポ変え、行くわよ!」ピシッ

「はいっ、先生!」ピシッ ピシッ

「おっとと!」ピシッ

「指揮者っぽいかと思うたが、そういう役目じゃったかー」

「お、わわわ!?」

「おい、魔理沙。大丈夫なのか?」

「大丈夫だけど予想外! っく」ガリリッ

 それは指揮者による変拍子の導入。
 それに合わせそれぞれ二本の光線を放っては、弾幕の軌道を複雑に変え始める。


 しかし、

「……違和感あるわね、この音楽」

「変わる瞬間にの。こりゃぁひょっとすると……」チラッ

「……あの巫女の言う通り。リリカ、気を抜かない」

「ぬ、抜いてないよお姉さん!」

「はいっ、次っ!」ピッシッ

「ゃっば!」

「……うぬ、やはりじゃな。であれば霊夢よ、メルランを誘導じゃ!」

「ん? ああ、そういうこと。りょーかい」

 一人だけ一瞬遅れて移行している。
 それに気付いた二人は派手な動きをする次女を狙い始める。

「お? ……そういうことか。よっしゃレイジ、こっちも援護するぜ?」

「了解だ、金【ゴールド】!」 ドドンッ

「その弾をコーティングだ! 魔開『オープンユニバース』!」シュッ

 その意図に気付き、更に援護を始めた零児と魔理沙。
 狙いは慌てている三女の脇。

「うっひゃぁ!? ちょ、気が!」

「くっ。リリカの癖、見極め損ねていたわね」

「……それは私達が抑えるべきだった。……先生じゃなく、私達の所為」

「まぁ、こっちの弾幕抜けれない私の所為でもあるわねー」アハハー

「ちょ、避けて避けてお姉ちゃーーーん!」  ピピチューーーン

 冷静さを失ったリリカと、元々大雑把なメルランが弾幕によって誘導され、二人ともどもぶつかって被弾する。

 その姿を見て、ローズとルナサは白旗を上げたのであった。

………………

…………

……

「うううー」ギュゥ

「……しばらくそうしてなさい。……さぼった罰」

 決闘が終わり、血の気のある霊達が静まる。
 リリカ一人だけ、ロープでぐるぐる巻きの仕置き中だ。


「手抜きは状況を見てからにすべきだぜ」ウンウン

「全くじゃ。TPOは弁えんとのぉ」ウンウン

「お前たち纏めてどの口が言うか。しかし良かったのか、ローズ?」

「これで良いのよ。まとめ上げられなかった、私の不手際だもの」ハァ

 幽霊楽団。
 ポルターガイストとして後天的に手に入れた、演奏する能力を利用した三姉妹の楽団。
 彼女たちはそれぞれに癖が強く、だが、ある一つの事情によって結束を保っている。
 それはつまり、“あの子”でない限りはよほどの腕がないと、逆に崩してしまいかねないのだ。
 そしてその子がいない限り、心に響かせられることもない……のかもしれない。

「おかげで姉さんは無傷だけどね! ところで、貴女達はどうして先生の事を?」

「以前、大きな戦いがあってな。その時の仲間さ」

「策士じゃったよなぁ。ヒール役に徹したアーマーキングに、情報を集めたぬし。それに、友達想いのジューダスとの」

「御免なさいね、本当に覚えていないわ。でも、ジューダスの事なら知っているかしら」

「あら。どうして?」

「……彼なら、白玉楼の客員剣士よ。……剣の師匠と、護衛役をしているわ」

 さて、故人な仲間である彼女から、次なる故人の名を聞く。
 紫が話していたジューダスである。

「あっちゃぁ、そりゃ厄介じゃの」

「どうしてだよ?」

「ジューダスは双剣の、それもかなりの使い手だ。同時に術も多少、扱っていたか」

「それが剣の師匠……嫌な予感しかせんっちゅー話じゃ」

 奪われた“神の目”を取り戻すために、友と姉を裏切ったように見せかけ死を選んだ若き剣士。
 彼は細見の剣とナイフを用いた双剣の使い手であり、同時に地と闇の晶術を扱う。
 その技術はとある王国の客員剣士たる実力を持ち、同時に確固たる信念を込め振るわれるのだ。
 本来、誰かを弟子に取る性格ではないのだが、果たしてどうなっているのか。

「……その通りかもしれない。……気を付けて。……今の彼、春度集めに躍起だった」

「幽々子さんの為なら、どんな障害も排除するって感じだったわよね。目付きが本気で」

「うげぇ。零児、その剣士の相手は頼むぜ?」

「庇いきれる保証はない。注意するに、越したことはないぞ」

「言われなくとも。それじゃ行くわよ」

「ああ。しかし、意外と時間が経っていないな」

「本当なら、もっとあっちこっち回ってたしな。山にも軽く寄ったし」


「徐々に思い出してきた、私は出足遅かったんだっけ。ついでにところで、あんた達も着いてくるのよね?」

「あったりまえ! 正式に御呼ばれしているもの」

「待ちなさい、メルラン。少し、練習してからにしなさい」

「そ、それなら紐を解いてほしいな~、お姉ちゃん達」

「……」ジトー

「……」ダラダラ

 戦いに負けたとはいえ、彼女達の役目は花見の引き立て役。
 目的地が一緒ということで、元の異変でも後からついてきていたのだ。
 とはいえその時は練習も終わりかけのときに霊夢達二人が来たわけで、今回はその分を補うようだが。

「ところで、ローズってなに飛ばしてたんだ、あれ?」

「オーラソウルよ。気のようなもの、と思って貰えればいいかしら」

「確か、タロットも飛ばしていなかったか? 占うだけでなく」

「まぁ、確かに飛ばすわね。今回は手持ちが少なくて控えたけども」

「占いするのか? ちょっと興味あるな」

「占ってみましょうか?」

「記念にな」ニヤニヤ

「あたり率100%じゃ。不幸な結果でも躍るでないぞ?」

「なんで躍るんだよ」

「……ふむ。……油断はささやかな不幸をもたらす。曖昧な影には注意を払うべき、かしらね」

「あー、遅い。既に二度も味わっちまったぜ」ヤレヤレ

 因果を正確に導き出す、ローズのタロット占い。
 魔理沙のささやかな不幸とは、果たしてこれまでの事なのか。

「またやるって事じゃないの。さて、乗り越えるわよ」

「随分と頑丈そうな結界だが、乗り越える?」

「上を飛び越えていけるんじゃよ、ほれ」フワッ

「……結界の意味、あるのか?」ハァ

 ほとんど気にすることなく、結界を乗り越え冥界へと向かった。

………………

…………

……


以上で投下を終わります。四面以降は展開重視、っと

アチラと同時に投下。こっちは書き溜め多いからしっかり進みます

では、また


~~~春雪異変・桜の気配、舞い降りし石段~~~   ―BGM:東方妖々夢~Ancient Temple―

 タッタッタッ……

「せいっ!」ブンッ

「退魔符乱舞っ!」シュッ

「ほぇ~」

 幽明結界を抜けた先、眼前に映るは遠く高く続く石の階段。
 箒から飛び降り、地に足つけられることを確認した零児は駆け昇ぼる。

「ほれほれ、見惚れるでないぞ?」

「あ、すまんすまん。いやさ、階段をこんな速度で駆け上がれるものなんだなーって」

「幼い頃から、この手の訓練はよくしていたからな。慣れたものさ」

「零児はわしが育てた」キリッ

「そのドヤ顔、退治してもいいかしら」ニッコリ

「シャオムゥがレイジを、なぁ。……二人はどういう関係なんだぜ?」ボソッ

「ん? ……小牟は俺の師匠であり大事な相棒、それだけだ。それより気を付けろ。さっきから、殺気を感じる」

 少女の目に映るその青年は、まさに健全な大人の模範といえる姿勢を保っている。
 そんな彼が冗談とネタに塗れた妖怪狐とどういう接点があるのか、いまいちよくわからない。
 自分達のような、好奇心が動いているような人間でもなさそうだから、尚更に。

「0点じゃ」

「辛口ね。14点ぐらい上げてもいいんじゃない?」

「えー? 60点は固いだろ?」

「ふざけている場合か。来るぞ!」カチャッ  キッ

 

 ――人符『現世斬』!

 

 ――『幻影陣』!

 

「……惜しかったな」ギチチ

「残念、バックアタックは大失敗じゃ」ギチチ

「!?」

「……」

「う、うぉっ!?」

 そんな考えに気を取られていたら、石灯篭の影から二つの人影が一直線に襲い掛かる。
 その動きを捉え、零児と小牟がそれぞれ【火燐】と【水憐】で受けきる。

「ふぅ~ん。剣同士で鍔競り合うと、あんな音がするんだ」

「それにいかんぞ、妖夢よ。仕込み刀を知らんのはいかん」ヤレヤレ

「随分な挨拶だな、ジューダス。それに、相変わらず妙な仮面をしている」


「……相変わらず、だと?」

「しくじりました。すみません、師匠」

「師匠はよせと、何度言えばわかる。さっさと張れ」  キィンッ

「はいっ! 人世剣『大悟顕晦』……ふっ!」    ―BGM:広有射怪鳥事~Till When?―

 ジューダスが零児の刀を弾きながら後退し、続いて妖夢が一行を飛び越え、退路を断つように斬撃を放つ。
 帯のように停滞した斬撃痕から、小さな弾幕が階段の上の方へと放たれ始める。
 それらは誰も何も狙っていない、無差別弾幕だ。

「おいおい、変な仮面にお構いなしかよ」

「師匠が私の技に掛かるなど、あり得ませんから」

「謙遜? それとも、自虐かしら」シュッ

「目に見えぬ信頼かもしれんが、わしらとて当たらんよ」

「……『魔神剣』。『空襲剣』!」

「ちぃっ。気を付けろ、魔理沙!」キィンッ

 その弾幕の中を自在に駆けつつ、零児に剣を振るうジューダス。
 そこへ霊夢が鬱陶しそうに札を投げつけるも、斬撃を飛ばして相殺、
 続けて突きの一撃から跳ね返るように中空へ飛び上り、そのまま浮遊して一行を見下ろす。

「……あー、そっか。空飛ばれたら庇いきれねーよな」ウン

「ローズの地点で可能性があったから、なっ!」ブンッ

「ふんっ!」キィン

 その光景を見て神妙な顔で頷く子に、戦いのベテランが可能性を語る。
 そう、以前の戦いではローズ他、黄泉返りした者でも空を飛ぶといった芸当はできていなかった。
 だが今回、ローズは当然の如く空を飛んでいたのだ。
 ならばと考えておくのも可笑しくはないわけだ。

「……『ホーミングアミュレット』!」

「あまい。……『アース・ビット』!」

「なんじゃあれ。初めて見るぞ?」

「デコイ、ってところかしら。……」ジィ

「……? (何か考え始めたのか、霊夢?」

「くぅっ、そこぉ! 『憑坐の縛』!」

「……」ガリッ

「っ!」

 その事なのか、霊夢が追尾弾を適当に投げてすぐに考える仕草をとる。
 後ろから迫る弾幕も、突撃してくる半霊も、見ることなくグレイズしながらだ。
 その余裕ぶりに、妖夢は顔を歪める。


「……俺も早く慣れないとなっ!」キィン

「その必要はない。『虎牙破斬』!」

「うわぉ! ジューダスのやつめ、早くてグレイズが上手いとか素質あるじゃろ」

「弾幕ごっこのか? でもとにかく、落とさねーと」

「……なら、そっちの動揺している方を先に狙いなさい」スッ

「動揺、など!」

「オッケー。なら」クイクイッ

「! ……『電瞬』!」タンッ

「いっくぜ。魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 避けることに専念していた霊夢から、冷静な指示が出される。
 それに素直に従った魔理沙が箒に八卦炉を取り付け、超高速の突進技を披露する。

「その程度、見切れない私ではないっ! 『炯眼――』」チキッ

「馬鹿、そいつの後ろを……! ちっ、…………」ブツブツブツ

「……」ジィ

「およ?」

「もう遅い、いっけぇレイジィ! ……おわぁっ!?」

「『――け』……ん!?」

「二刀『戒刀乱魔』!」

「く、うっ!」ギッ……キンッ

「【地禮】! まだだ……」ブンッ

「っ!」

 その突進を受け流し、斬りつけようとしたところで、箒に乗っていた零児が飛びかかる。
 一太刀目は用意していた“白楼剣”でなんとか弾けたものの、二の太刀は力による強引な鍔迫り合いに持ち込まれる。
 そしてもう一太刀、覆いかぶさるように振りかぶり……。

「……【火燐】!」

「し、まっ……」

「……『グランドダッシャー』!」

「ってぇ、いかん!」フワッ

「「!!」」

 ………………

 …………

 ……


「……すまん、小牟、魔理沙。助かった」

「わし一人じゃと、零児が重くて無理じゃった」ハァ

「急な往復させんなよ、もー」ハァ

 体重を載せた強烈な一撃を繰り出す直前に、ジューダスの晶術が発動し地面がせり上がり、砕け散る。
 放り出された妖夢はなんとか飛翔し逃げ切ったが、飛べない零児は小牟に拾われる形で落ちずに済んだ。

「逃げたわね。……地面にクレパス開ける程の力なんて、感じなかったけど」ウーン

「っと。おそらく、あの剣……ソーディアンのお陰だ。詳しい所は知らんがな」

「しっかし、急に逃げ出したな。あのタイミング、結構絶好だったろうに」

「妖夢めが春満開じゃったし、お使いを果たす方を優先したんじゃろ」

「だろうな。あの少女に寄った時、春の気配がますます強くなっていた。……ところで」

「妖夢の事なら、私が説明しておくぜ。どーせ、後ろに乗るだろ?」

「……すまんな」チラッ

 その亀裂は崩れ落ちたというほうが正しいのだろう。
 なにせ階段の内側に地面らしい物は殆どなく、後は暗い空だけなのだ。
 ここから落ちたら、どうなっていたか分からない。

「気にしても仕方ないでしょ。行くわよ」

 だが、霊夢の言う通り気にしても仕方ない事だ。
 知らない方が怖い思いをせずに済むのだから。

 ………………

 …………

 ……


~~~春雪異変・冥界―死桜の花道~~~   ―BGM:アルティメットトゥルース―

「ものの見事に、桜が満開だな。場所が場所なら、良い名所だろうに」

「絶景かな絶景かな。自殺の名所状態じゃがな」

 階段を昇りきり、石畳を走る一行。
 気味の悪い温さを放つ桜の花道は、地上のそれとは違うことを嫌でも感じさせてくる。

「でも、博麗神社も結構なもんだよな?」

「外と近い関係で、ばらつき激しいけどね。……これぐらい一斉なら、人が集まってくれるかもしれないけど」

「それで集まるのは、せいぜい春の間だけね」

「やはり待ち構えておったの、妖夢よ」

「……さっきは無様を晒したけど、今度はそうはいかない」キッ

 その道の最中、遠く巨大な樹が見える場所にて、少女が一人、立ちふさがる。

 魂魄 妖夢……白玉楼の庭師兼剣術指南役であり、半人半霊の少女だ。

「何か口調、変わってないか?」

「安定せんことで有名なこやつじゃ、気にするでない」

「おいおい、一人で私達と戦う気か?」

「ええ。今の私の役目は時間稼ぎだもの」

「負ける事は承知の上か」

「ですが、あえて今ここで言うわ。この先に行って、お嬢様に殺されても知らないわよ!」

「本当に負ける気なのね」

「だらしないぜ」

「自分でも分かってるわよ! 六道剣『一念無量劫』!」

 彼女の得意とする戦い方は先でも見たように、二刀を使った剣劇である。
 身長程もある“楼観剣”と脇差である“白楼剣”を使い、鋭く斬り込むのだ。

「……なら、お前さんの覚悟、打ち砕かせて貰う。いくぞ、小牟!」

「御呼びとあらば、即参上っ! 魔理沙よ、産廃ボムをたかーく上げい!
 それも一つや二つではない、全部じゃ!」


「お、おう、分かったぜ! 『デビルダムトーチ』!」ポイポイポイ

「手伝ってあげる」ガサガサ

「うっひゃぁ」///

「そしてわしも、『玄武作』レイン!」パッ

「……まるで届いていないけれど、いったい何をするつもり?」

 だが、彼女は半人前だ。
 それも、師匠の技はおろか、語られた言葉の意味も察し切れないほどの。

「……『銃の型』……っ!」キッ

「あ、ほーれ、ほいほいの、ほいっと♪」

「…………」トンッ

「ま、大道芸じゃがの」チャキン

「言うな」

「くっ、視界が……(まさか、煙幕とは」

「ス、スカートに手を突っ込むなら早くに……ぁ」

「(ですが、変わりなく弾幕を放ち続けていればそのうち晴れる)……。
 この弾幕、潜り抜けられた者など殆どいない! ……?」

 場数も足りていない妖々夢の彼女では、今の彼らの相手役どころか囮にさえ為りえない。

「……(何故、私は霊夢さんの事を?」

「私から目を逸らした地点で、貴女の負けなのよ」スッ

「なっ、いつの間に……!」

「寝てる間に、あの天人崩れと戦った時を思い出しなさい!」  ピチューン

 それほどまでに、この時の彼女は未熟なのだ。

 ………………

 …………

 ……

「きゅぅ……」

「わしらに気を向けさせつつ、零時間移動からの緋想天式J2AでK.O.じゃ!」

「ジャンニーエーが何かよくわかんないんだけど」チラッ

「俺にも分からん。完全に伸びているが、どうする?」

「落ちる心配もねーし、放置でいいんじゃね?」

「扱いの差に、わしの涙がちょちょぎれん感じじゃ」

「前の時も置いていったわよ。んじゃ、早く行きましょ」トンッ

「……平然と瞬間移動しているが、零時間移動……だったか?」

「霊夢特有のステップじゃ。原理はよーしらん」チラッ

「あー、私も知らないんだぜ」

「そうか。まぁ、以前に似たものを見ているから、あまり気にはしないさ」

 気絶し、のびたままの妖夢をおいて、一行は更に先へと進む。
 既に見えている、大きな枯れているはずの桜を目指して。

 ………………

 …………

 ……


以上で投下を終わります。散々妖夢ちゃん

少しずつ展開が違う点を見せて

それでは、また


毎回楽しみです


~~~春雪異変・冥界・西行妖~~~    BGM:none

「これが西行妖……」

「ご立派様なんじゃが、神楽天原を知っとるとインパクトに欠けるの」

「これより大きい桜があるのかよ」

「ああ。だが、感じる気はヴェルトバオムのそれと似ている。……良くない気だ」

「ま、所詮は妖怪の樹よ。それより、さっきの奴と幽々子、上にいるわね」

 死桜、西行妖。
 とある人物の死体によって封印された、生きし物を呼び寄せ殺す災いの樹。
 本来なら枯れたようにただ在るだけのその樹は、今や七分ほど咲き誇っている。
 これが幻想郷から春度を集めた結果なのだそうだ。

「そう。やっぱり、妖夢は負けちゃったのね~」

「済まない、幽々子。……僕がきちんと教えきっていなかったからだ」

「あら。教えて貰ったことを、消化しきらなかったのよ~」

「妖夢的にはそっちの方が適当じゃな」ウンウン

「ねぇ~」ニコッ

「あんたら仲良くしない。さっさと降りてきなさい、亡霊剣士に亡霊姫」

「ふんっ、言われなくとも降りてやる。……幽々子、行けるかい?」スッ

「勿論よ~」フワッ

 だが、足りない。
 少女一人に集めさせていたというのも理由だが、春度はまだまだ足りていない。

 咲き誇るには、まだ遠い。

「わざわざ手を取ってエスコートか。……出来てんのか?」

「馬鹿を言うな。幽々子を護る、それが僕の使命なだけだ」

「……お前、スタンの事は覚えているのか」

「答える義理はない。無駄口を叩く暇があるなら、武器を構えればどうだ」

「わしら以上に無駄な事しちょるぬしらに言われとうないの~」

「無駄な、事?」ピクッ

「西行妖は咲ききらないわ。春度が足りずにね」

 そこにやってきた、春度に溢れた二人組の少女。
 話に聞きし今代の「博麗の巫女」と最近、話題に上がるようになった「白黒の魔法使い」。
 今を生きる、春真っ盛りの乙女達。


「……ふふっ。無駄な事なんてないわ~。幽霊には、ね」クルッ

「僕らに結果はすでにない。どうなろうと、成す為に何をしたか、だ」

「結果よりも、過程をか」

「わしらはその過程を正し、結果を出して、義務も果たさんとならん。プロっちゅうーのはそこが辛い所じゃ」

「ただ、私が満足したいの。延々と続く亡霊ライフの、ほんの一瞬を」シャン

「だが動く以上、全身全霊をかける。それが彼女に捧ぐ僕の信念だ」シュッ

 その二人によって西行妖が咲き誇るのは阻止され、西行妖は眠りについた。
 それが、東方妖々夢の物語。

「そうかよ。まぁ、だからと言ってさせねーけどな」シュッ

「それに、後がつっかえているの。さっさと解決して、のんびりさせてもらうわよ!」スッ

「けつかっちんじゃからの。マキマキで行くっ!」

「そういうわけだ、悪く思うな。……それから、他所の業界用語でしゃべるな」

「ふふっ。せっかくだから、桜を飾る胡蝶となりなさい、四者の人妖!」   ―BGM:優雅に咲かせ、墨染の桜~Border of Life―

「……『スティングレイブ』!」

「まずは小手試し♪」フゥ

 その締めの戦いが今、再現される。

 地から突き出す岩の槍と、緩やかに曲がるナイフの上下攻撃が開幕の一手となり、一行へと襲い掛かる。

「事故率高い通常ではないか。わし、これきらーい!」

「射線が読み辛いうえ、下もかっ!」ガリッ

「……『夢想封印・散』」

「あらら~。お気に召さなかったのかしら」

「おおう、いきなりボムごり押し。どうしたんじゃ、霊夢?」

「……」

「いきなり仕事人モードじゃと?」

 しかしそれを、冷たい視線の霊夢が吹き飛ばす。
 どうしてボム――仕切り直しの手段――を使ったのかは答えてくれないようだ。

「……気に入らない目だわ~。桜符『完全なる墨染の桜―忘我―』」キィ


「っ。……お、きた。あれは結構きれいでおススメだぜ、レイジ!」  キィンッ

「『魔人剣――』」

「見惚れる余裕は……」

「『――双牙』!」

「なさそうだがな、『零の型』!」ブンッ

「『飛燕連斬』、逃がさんっ!」キィンッ

 ならばと次の弾幕を展開する。
 揺蕩う蝶が如く、ふらふらと舞いながら狙いを定めずに退路を断つ弾幕。
 その中から突き抜けて迫る黒い影を、零児が抑えて火花を散らす。

「すんげぇ殺陣。流石にあれは裁ける気がしねぇぜ」

「こっちも、よそ見しちょる場合ではなさそうじゃぞ?」

「……悪いけど、最近見たばかりの弾幕なのよね」

「あの時はもっと手を抜いてただろ、あいつ」

「神霊廟のじゃな? じゃがあれのルナは一面ボスらしからんかったぞ」

「くるくるっと~♪」

「……上は順調のようだな。ならばこちらも、『直撃させる』!」

 しかし、空を飛ぶ少女達にとっては既に見慣れた弾幕。
 軽く口をかわしながら、簡単に避けているようだ。
 その運びに合わせ、守りを崩す手を使おうとして……。

「させるか、『魔人滅殺闇』!」

「おっとぉ! 何だ今の、黒い炎?」

    マリアン
「……『魔人闇』を地面に投げた、といったところか」ボソッ

「……マリ、アン?」ピクッ

「『封魔針』」シュッ

 それを見抜き、ジューダスが黒い炎の渦を巻き起こし、流れを一度せき止める。
 その技が彼の『決意の技』に似ていたために、零児の口から感嘆交じりの声が零れる。
 それに反応したのか、動きが不自然に止まったところを霊夢が狙い撃つ。

「ちっ! ……!」キンッ

「そっちへ昇ったぞ、お前達!」


「お帰り~、ジューダス」ニコッ

「……ただいま、幽々子。済まない、どうやら僕らの事をよく調べたようだ」

「そうみたいねぇ。なんだか、すごく癪だわ~」プクー

「僕も同感だよ。だから、さっさとけりをつけよう。『臥竜閃』、そこだっ!」

 それを弾き、避けながら守るべき者の側に舞い戻る。
 どこか余裕のなくなった会話は、同時に二人の立ち位置を入れ替える。

「よく見ると、妖夢のアレに似とるのー。ほれ、あれじゃあれ」

「あれじゃぁ分からないわよ、お婆さん」

「まぁ、何かは分かるけどな」

「ふふっ、行くわよー」シャンッ

「前衛と後衛を入れ替えた?」

「……」ブツブツ

「……」ジィ

「っ、術が来る、止められないか!?」

 そうして、ジューダスが唱え始める。
 綺麗な結晶を埋め込んだその剣に、力と言の葉を乗せていく。

「あぁ、やってやる!」

「『好死の霊』、『スフィアブルーム』、墜ちなさい」

「出し得からの制圧技! 時間稼ぐつもりまんまんじゃ! つうかそれ、同じコマンドじゃろうに!」

「なら、近づかずに撃てばいいんだろ、『ナロースパーク』!」

「いや、もう遅い! 備えろ、皆!」

「うふふ……幽雅『死出の誘蛾灯』」

「……『ブラックホール』!」カッ

 十分に溜め込まれた力が、大きな黒点となりフィールドの中央に召喚される。
 それは全てを吸い込むかのごとく、辺りを吸い込み巻き込んでいく。
 だが、

「くっ……これ、萃香のと同じ……!」

「うおっ! 私の弾幕が曲げられてる! すげぇ!」ヒュー

「前ばかり見ておらんと、周りも……んん?」


「……」

「な、に……?」

「……私の弾幕も、吸われて?」

「そんなバカなっ! 僕の術が、幽々子を邪魔するだと……!?」

 それは彼らの望む結果を生み出さなかった。
 何もかも全て、見境なく吸い込んでは消していく。
 守るべき者の、仲間の弾幕でさえも。

「術が弱まった? 好機だ魔理沙、攻めろっ!」

「この吸われっぷりで好機もないぜ。……霊夢、跳べるか!?」クルッ

「今はちょっと助走がないと、“アレ”は無理」

「なら乗れ、かっ飛ばす!」スゥ  トンッ

「厄除けの『結界』じゃ! 行けぃ魔理沙、明星ロケット、レディ!」

「サンキューっ。行くぜ、彗星『ブレイジングスター』!」

 それは記憶にある結果とは違うもの。
 それが彼らに更なる動揺を生み出す。

「くそっ僕は……、っ!」チリッ

「……っ、来るわ!」

「いっけえぇ!!」ブンッ   トンッ

「『亜空穴』……!」

「くっ、『月閃――』」

「避けなさい、ジューダス! 『センスオブエレガント』!」クルクル

「『――虚崩』……?!」キィンッ

「狼狽えてるくせに、エレガントも何もないわよ?」ガリリッ

 冷静さを欠いた二人の真ん中へ、霊夢が勢いよく跳びだす。
 迫りくる双方の薙ぎを封魔針で受け、そのまま流れに任せてグレイズする。
 その姿にこそ、本当の余裕があるというもので。


「完全に消えてしもたな、BH」

「ちぃ、こっちはどうだ!」スッ

「……『刹那――』」スゥ

「!?」スカッ

「本命の魔法使いが通るぜー!」

「『――亜空穴』。今度は、私が囮よ」トンッ

 だからこそ、次の一手が決まる。
 豪快な突撃から目を逸らさせるための、惹きつける役によって。

「っ……(呆気に取られた、僕らの負け)……うはっ!」

  ピチューン

「……ふぅ。駄目だったわねぇ~」

「言ったでしょ。桜は咲かない、って」シュッ

  ピチューン

「……」

 なんだかんだ言いながら、息の合った少女達のコンビプレーであろう。
 それを下から見て居た彼は、先のやり方に少し反省点を見出した。

………………

…………

……

「異変の主を倒したが、まだなんだな?」

「うぬ。妖々夢妖夢の通りなら、西行妖の最後の一咲がぱーっと」

  シャン……シャン…………

「……なるほど。この感じか」

 幽々子とジューダスを倒し、これにて異変解決……とはならないのが、妖々夢の困ったところ。
 西行妖に集めた春度――樹の本来の性質と逆の力が、軽い暴走と共にその桜を咲き散らすのだ。

「ええ」     ムクッ

「おぉ? ジューダスめも起き上がったの」

「でも、さっきまでとは様子が違うぜ?」

「操り人形のようだが、いったい……」

「……『封魔針』」シュッ

『……』スカッ

「やっぱりね」

「攻撃が透けた? ……その針、退魔仕様なんだな?」

「じゃなきゃしないわよ」

「つーことはあの樹と同じ状態か。まぁ、それならそのうちガス欠するだろ」

 その際、樹には攻撃が通らない。
 元々、厳重に封印されている物であるために、簡単な技は通用しないのだ。
 魔理沙の言う通り、春度を使いきれば大人しくなるのだが。


『……』スゥゥ

「なんとなーく嫌な予感がするんじゃが?」

 『反魂蝶 ―参分咲―』
 『デモンズランス・ゼロ』

「うっひゃぁ!?」ガリッ

「ちっ、狙い弾か!」

「早い時期狙いレーザーっちゅーと、メルランと星の十八番じゃろうに!」ガリリッ

「……でも、所詮ただの追尾式かしら」ガリガリ

「……」ガリリッ

 しかし、今回はジューダスの漆黒の槍も、花弁の中から彼女らへと迫る。
 とはいえ、彼女達からすれば意外と分かり易い弾幕なのか、この狭苦しい中でも余裕で避け続けている。

「まぁ、私も不意を突かれたから驚いたが、これぐらいならまだ何とかなるぜ」ガリガリ

「密度も増してきちょる。後わずかじゃ、零児!」ガリガリ

「……っく、狭い……!」ガリリリッ   ドンッ

「おおう、見えぬ壁じゃと? まるで画面端じゃな」

「くそ、回避出来る空間が……っ!」

  ピチューン

「「あ」」

「……体格差ね」ボソッ

 ただ、少女達よりも二回りは大きな青年だけはそうもいかないようで。
 見えない壁も相まってグレイズし切れなくなり、被弾しそのまま何処かへと消え去ってしまった。

「零児、零児ぃいいいいいいいいいいいい!!」

  キィンッ

「うおっ、眩しっ!」

 そのほんの一瞬後、眩い閃光が少女達の視界を遮る。
 そして……。

………………

…………

……


--------------------------------------

 ……ッ。

 

 ……情報集積中。

 

 ……解析まで、残り六割四分七厘。

--------------------------------------


以上で投下を終わります。針の穴を潜る弾幕の中を、男は通れない

それでは、また

上げちまったぜ


~~~枯れた桜・西行妖~~~

「きゅ、急に照明を点けるでない! 目くらになるっちゅーに!」

「……どうやら、結界が消えたみたい。いつものここに戻ったわ」

 零児の被弾と共に西行妖の妖力が途絶え、続けて強烈な光が視界を覆う。
 その光が薄れ消えたのに合わせ目を開けた霊夢が、状況をさっと説明してくれる。

「おお、それは良い情報じゃ。……して、零児は無事なんじゃろか」ソワソワ   {}チラッ

{「俺なら無事だ。心配させて済まないな」}トンッ

「おおっ! ……零児よ、死んでしまうとは情けない」ドヤァ

「勝手に殺すな」ハァ

「お帰りなさい。どう、感想は?」

「……少女達の遊びという意味、少しだが分かった気がする」

{「それは誤解ですわよ、英雄様」}フワッ

 そこへスキマを通って零児と紫が合流する。
 あたり判定が大きいと色々と損なのは間違ってはいないのだが、やや的外れな感想を口にしながら。

「もっとでかい標的がいるときもあるしなー。弾幕を消せるようになったらいいんじゃね?」

「弾幕を消す、か」

「むっ。貴方達、そこで何を……って、霊夢さん? 紫様に、魔理沙さんも」

「うぬ。今そこにおる、妖夢のように剣で斬ればよい。おそらく、相性が良ければ勝てるはずじゃ」

「え、あ、はい?」

 その対策の一環として弾幕を切り伏せる事を提案する魔理沙と小牟。
 幽霊十体分の殺傷力を持つ楼観剣をして為せる荒業だが、零児ならば確かに可能であろう。

「妖夢。私の事は分かるのね?」

「え、ええ。どうかしたの、霊夢さん」

「色々よ。とりあえず一息つきたいからお茶出して」

「私の分もな」

「私もよ、妖夢」

「わしもわしもー!」

「そ、そんな急に。……」チラッ

 その先駆者である妖夢に、少女達が全員で一斉に茶(と菓子)を要求し始める。
 何が何だか分かっていないためにオロオロしながら、それでも最後の一人にも確認の視線を送るあたり、
  苦労に慣れ過ぎている感が出ている感じだ。

「ん?」

「……あの、貴方は?」

「……都合が悪くないなら、俺にも一杯頼む」

「はい。これだけいたら、都合も何もないけど」ハァ

「少なくとも、小牟は後で尻を叩いておく」

「何故わしだけなんじゃ! 霊夢達も……――」

 それを察して、しかし喉を潤したいのは間違いない零児が申し訳なさそうに茶を願う。
 図々しく無遠慮な相棒だけでも折檻すると、少しでも気を晴らせるよう気遣いながら。
 それに対して抗議の声を上げた小牟だが……

………………

…………

……


~~~白玉楼・枯山水の傍らで~~~

「」チーン

「交友のある三人はともかく、お前は初対面だろう。その区別だ」

 結果虚しく、いつものお仕置きで無様に前のめりに倒れている。

 彼の尻叩きを受けた後は口答えも出来ないほどに調伏されるのだ。

「うっわぁ……」

「小気味良い音だったわね」ズズッ

「熟達した尻叩きでしたね」

「こいつのお陰でな、全く」ハァ

「まぁ、それはともかくじゃ」ムクッ

「復活はやっ。大丈夫なのかよ、シャオムゥ」

「十回程度で堕ちるわしではないわ」フフン

 ただ、小牟は尻叩きをされ過ぎたせいか耐性がつき、回復も早く立ち直ってくる。
 しかも徐々に気持ちよくなってきたというのだから、零児からすれば本末転倒な気がしなくもないようだ。
 直前の話題を蒸し返しこそしないから、反省自体はしていると零児は解釈しているが。

「自慢する事じゃないわよね、それ」

「ともかくだ。改めて、状況の整理と自己紹介が必要だろう」

「そうね~、貴方達、どちら様かしら~?」

「あ、幽々子様。今、御呼びしようかと」

「幽々子。霊夢達が分かるかしら?」

「? ええ、分かるわよ~? そっちの二人以外は」

「どうやら、異変の最中の事は覚えていないらしいな。俺達は……――」

 青年説明中……

「――……と、云う訳だ」

 その、少女達にあまり宜しくない大人の情事は置いて、ここにまで来た経緯を説明する。
 幻想郷に入ってきた時から、春雪異変での戦いについてまで簡潔に。

「そんなことが。全く身に覚えがないです」


「あっ、そうだ紫! アリスとか、あの猫の奴はどうなってるのぜ?」

「それならちょうど」 { }カパッ

 シュタッ シュタッ

「キャット空中三回転! 見事に決まりましたー!」

 その春雪異変の途中で消えた、二匹の猫がスキマを通って着地する。
 どうやら最初にこの二人を探していたようだ。

「なんか違うってー、シャオムゥ。ってシャオムゥじゃん! おひさー!」パンッ

「おひさー! ……その調子じゃと、ぬしにも記憶がなさそうじゃな」フム

「あのー、紫様。わたしはなんで呼ばれたの?」

「見て判断なさい」

「随分と賑やかになっているけれど……やはり、貴方達だったのね」

「あれ、ローズもいるじゃん。デミデミのとこ以来だね!」

「お久しぶり、フェリシア。それに、レイジとシャオムゥも。元気そうで何よりかしら」

「そういうローズは元気なのか?」

「ええ、問題はないわ。死者に元気も何もあったものじゃないけれど」

「あらあら、知り合いなの?」

「ええ。以前、“とある戦い”を共に、ね」

  “とある戦い”
 幻想郷で起きてきた異変とは規模が違いすぎる正真正銘の異変。
 だが、既に経験となった彼らにとっては同窓会気分のネタに出来る程度のモノでしかない。

「他には誰もおらんのかの? 異変の中じゃと、ジューダスめも幽霊勢っぽかったんじゃが」

「ジューダスなら奥の間に隠れているわ。相変わらず、騒がしいのは苦手みたい」

「彼らしいと言えばらしいが、今は説明したいこともある。出てきて貰わないとな」

「あ、なら私が。ジューダスさんにはこれからお世話になるので」トットットッ

「お世話になぁ。ところで幽々子。あそこの、いなくなってね?」

「えぇ。もう、ね」フフフ

「……?」

 青年説明中……

 同じく、過去となったとある存在の話も軽く流して終わる。
 今を生き楽しむ彼らは、過去に縛られることはあまりない。

 あまり、ないのだ。

………………

…………

……


「……ふんっ。お前達、相変わらず厄介ごとに巻き込まれているようだな」

 零児と魔理沙の説明に、わざとらしい悪態をつくジューダス。
 やれやれといった風だが、かつて厄介事に自ら顔を突っ込んだ少年が言えた事ではないだろう。
 それに今回も原因不明とはいえ、同じく巻き込まれているのだから。

「そういう運命の元に生まれたのかもしれないな。……お前さんたちは、いつからここに?」

「私はつい数日前よ。ジューダスと共に、気付けばここにいたわ」

「何か、前兆とかはなかったのかの?」

「これと言って特にない。不自然なほど、自然にここにいた……としか、言いようがない」

「そういう事ってよくあったのか、レイジ?」

「……いや。かつてあった転移は、何かしらの力に引き込まれる感覚があった。いつの間にか、と言うことはほぼない」

 “次元の歪み” “ソウルエッジ” “神による転移”
 その他にもいくつかあるが、そのどれもが素人目に見てもはっきりと分かる前兆を示していた。
 零児達が幻想入りするきっかけとなった、“ゆらぎ”のように。

「こっちの世界はどうなんだ、ユユコ。ユカリ」

「どうかしら~。死んだ魂がそう思う事ならあるかもしれないけど~?」チラッ

「私たちは既に死に、一度は地獄に堕ちた身。今更、そんな体験を二度もするとは思えないわ。
 そして、レイジ達は」

「死んでいませんわ。それは、私が保障します」

「うぬ、いつの間にか化けて出てるとか、未練たっぷりで成仏できる気がせんわい」

 それを感じなかったという三名の仲間。
 本来ならば幻想入りする者でさえ、気絶や死にでもしなければ気付く違和。
 心神喪失していたのであれば別だが、彼らはそんな軟ではない。

「そうなると、やっぱり別の理由よね。ま、今考えても仕方ないし」ヨット

「んあ? もう行くのか?」

 ならば何故と考えるには今は情報が足りないと、あっさり切り替え立ち上がる霊夢。
 せっかちのように思えるが、優先するべき事は別にあるのだからそれで良いのだ。


「ええ。次は人里をどうにかしなくちゃいけないんだから。いいでしょ、レイジさん」

「行先については、もう俺から言うことは何もない。だが、情報をもう少し収集していかないのか?」

「ここの二人はともかく、妖夢やそっちの三人が何も覚えてないなら、あんまり当てには出来ないでしょ。
 だったら、無駄足踏むよりも数をこなした方が当たりを引ける。……それに」

「それに? どーしたの、レイムちゃん」

「……永夜異変、何か嫌な予感がするの。万一に備えて、“二度目”が出来るようにした方がいいわ」

「……」ピクッ

 それだけではないようだが。

「そうか。なら、これでお暇させてもらおう。ローズ達はどうする?」

「私はここに残ろうかしら。さっき占ったら、裏方に徹するべきと出たのよ」

「あぁ、それで思い出した。私の事、占ってくれねーか?」

「私は行くよー、レイジ。皆が困ってるのに、動かなきゃ女が廃るってね!
 それに、なーんか体が鈍って仕方がないんだよねー」ンーッ

「……」ジィ

「別に良いけれども、どうしたのかしら、マリサ」

「それでこそフェリシアじゃな。して、ジューダスめは?」

「異変の中でローズに占って貰ったんだけどな、……――」

「僕は行かないぞ。不必要に動く心算はないからな」

「うぐっ」

 そんな霊夢の勘に従うように、零児も次へと向かう準備をする。
 ここで出会った仲間の内、フェリシアだけは着いてきてくれるようだ。

「それで構わん。先行部隊は俺達だけで十分だろう。後はお嬢様とお付きの者だが」

「すみません、私も用があって一緒には……」

「~♪」モグモグ

「気まぐれなそいつに同行を頼んでも無駄よ、レイジさん」

「じゃな。騒ぎの原因しっちょる癖に、変な言い回しで誘導して暇を潰すぐらいじゃし」


「……そうか。なら、フェリシアを入れて五人か。飛べる二人には済まないが」

「私がお送りいたしますわ。霊夢が急ぎたがっているものですから」  {}ニュッ

「――……」ZUUUN

「うげぇ、また変な場所通るのー? ちょっとキモかったんだけどー」

「ん? ……ああ、スキマで移動するなら、魔法の森に繋げてくれねーか、紫」

 同様に、幽霊二名もこの場に残る様子。
 飛べないメンツが増えたことで霊夢・魔理沙の負担が増える……と思ったが、紫が便利なスキマ通路を開通してくれるようだ。
 ならばと、何やら落ち込んでいた魔理沙が“少し厄介な”森へ行く事を提案する。

「どうしたのよ、魔理沙」

「アリスの事が気になってさ。それにちと、荷物の整理もしておきたいし」

「なんじゃ、お得意のポンッと出す魔法で呼び出せんのか?」

「あれにだって霊力使うんだよ。それに、どうせアリスの家に寄るんだから節約だぜ」

「それぐらい別に良いわよ。ほら、とっとと繋いでよ紫」

「……」ヤレヤレ  { }

 そこは魔理沙の自宅とアリス邸のある、人どころか妖怪も寄ろうとしない危険な森。
 だが、とうの魔理沙にとっては宝の山であり、アリスにとっては静かで過ごしやすい静寂な環境なのだ。

 そんな住み慣れた我が家へ楽をしにいこうとする、魔理沙であった。

………………

…………

……

「……ところでジューダス、ヨウム。二人に、頼みたいことがあるのだけれど」ピラッ

「え? はい、なんでしょうか?」

「……どうした、ローズ」

「またなのよ、ジューダス。また、貴方が向かわなければならない運命が見えるの」

「……」

「そう――」

 

  ――あの時と、同じように――

 


以上で投下を終わります。経験値アップ効果とはいったい

次回は少々脇話としまして。それでは、また

お疲れ様です

まだか

待ってるぞ


~~~魔法の森・霧雨魔法店~~~

「んー、これと、これだろ」ガサゴソ

「えーっとあれは……あっちの山だっけか」ヒョイヒョイ

「んで、永夜だとするとあれも必要だな。どこにあったっけかなー」ポイポイ

 魔法の森。
 人も妖怪も、動物さえも嫌って近づかない危険な森。
 そんな森のそこそこ深くに、霧雨魔理沙の自宅はある。

「おー、あったあった。さっすが私の記憶――」

  ゴゴッ

「――力って、いけね。崩れそうだ」トタター

  ズゴォォ……

「な、なにっ!? 今、すっごい音したんだけど」

「家の方角からか。おいっ、魔理沙! 大丈夫なのか!」

「大方、荷崩れでも起こしたんでしょ」

「じゃろうな。下手に近づくでないぞ? 花火の事故みたくなるやもしれん」

「人の家を火薬庫か何かみたいに言うなよ、ったく」ゲホッゲホッ

 こんな辺鄙な所にありながら店でもある、少女の家らしからぬ外装の家。
 内側も別の意味で少女らしからぬ状態なのだが、その中から目的のドリンクや道具を持ち出してきた魔理沙。
 先ほどよりも少し煤けているのだが、当の本人は気にするそぶりなしだ。

「似たようなもんじゃろ? マジカル産廃ボムとか、ステラミサイルとかあるんじゃし」

「そういうのは地下に置いてあるから、そうそう暴発しねーっての」

「危険がなかったのなら、今はそれでいい。準備の方は?」

「後はこれ飲むぐらいだぜ。……んっ」ゴクッ

「神社に持ってきてくれる物は安全みたいだから言わなかったけど、それ、本当に大丈夫なの?」

「ふー。自分で飲む用なのに、そんな危ない物を入れるわけないだろ?」

「私からしたら、十分危ないように見えんだけどー?」

「不思議な呪文を唱えながら作った、不思議な薬って感じじゃ」

「俺達の世界の栄養ドリンクも似たような物だ。外装の所為で、そう見えないだけでな」

「なんか、フォロー悪いな」

「そういう心算じゃないがな。……次はアリスの家だったか?」

「おう。永夜を起こしたのは、私とアリスだからな」ニカッ

「神社での説明の通りじゃな。いやぁ、霊夢が負けるとはのぉ」

「二対一だもの。多勢に無勢よ」

「弾幕ごっこがどんなのかまだ知らないけど、一人ぐらいの差ならなんとかなるっしょー?」

「それが、あまりそうも……――」

 わいわいがやがや……

 ………………

 …………

 ……


~~~同時刻・幻想之東野原~~~

「くぅ……! (何度やっても、無駄ですか……!」

 一行が危機感薄く、賑やかにアリス邸に向かっているその頃。
 人里を中心に竹林、魔法の森のごく一部、そして博麗神社までの道を途中まで覆った結界の外側。
 命蓮寺に近いその位置にて、寅丸星が焦った表情で何かを思案していた。

「……(槍も宝塔も、この結界には無意味だった。手応えがないというより、吸収されているような感触……」

 彼女は数日前に毘沙門天の元に招集され、たった今そこから帰ってきたばかり。
 するとどうだろう。幻想郷の至る所に結界が張られ、明らかに様子がおかしいではないか。

(そもそも、このような結界は見たことがない。解除の方法が、見当も……)

 嫌な予感がする。
 そう思い、急いで命蓮寺の方角へ向かおうとして――行く手を阻まれたのだ。
 何度入れど元来た道に戻り、幾度と術を使えど変化の兆しも見せぬ、この結界に。

(見えているのに、届かない……なんて……!)ギリッ

 その結界の中は、人里が視認できなくなっているのに命蓮寺は見えている状態だ。
 勿論、それは決して心情的な理由ではない。

 だが、その事が帰って彼女の気を焦らせる。
 いつか命蓮寺も、人里のように消えてしまうのではないのか、と。

(……いけない。私に出来ないのであらば友に……いや、今は巫女方に救援を願うのが正解か)

 とはいえ、起きてしまうかもしれない恐怖に囚われる程、彼女は愚かではない。
 そもそも、消えている理由でさえ定かではない為、間違っている可能性も大いにある。
 そして、いの一番にすべき事は不安を抱くことではない。

(幻想郷だけでなく、天界の方にまで見えたこの結界。既に動いているやもしれないが……!)キッ

 今いる場所より更に東にある博麗神社。
 焦る気持ちを切り替え、そこへ飛び立つのであった。

………………

…………

……

 

  ――――――――――――――――――――――――――

 

     First Side Episode 『類稀なる出会いの日に』

 

  ――――――――――――――――――――――――――


~~~博麗神社~~~

「……ふぅむ」

 時をやや移した先、博麗神社の仙界に通ずる石畳の前にて、豊聡耳神子が真顔のままそばの一点を見つめていた。

「これの所為か? 否、こちらに向かって投げられた物ではない、か」ブツブツ

「着いた……おや?」

「むっ? おぉ、これはこれは」ニコッ

「太子殿ではありませんか。ご機嫌、如何か」

「まずまず、と言った処でしょうか。そういう毘沙門天の代理様もご健康そうで何より」

「……」

「……」

 そこに降り立った寅丸が爽やかな表情で定型的な挨拶をし、
  神子もまた柔らかくも自身に満ちた顔で、同じく定型的な返事で答える。
 直前までの空気など、どこへやらだ。

「して、寅丸様。ここには何用でいらっしゃったので?」

「霊夢さんに用があるのです。彼女は中に?」

「残念ながら、外出中なようです。私も用があったのですがね」ハァ

「それは……間が悪かったようですね」ムゥ

「……ふむ。あるいは真逆、ですかね」

「! ……やはり、結界の件で?」

「えぇ」

 彼女らはお互い、他所向きの顔と身内への顔とを使い分ける事に長けている。
 それは“担ぎ上げられる者”として自然と身についた、あるいは身に着けていた外交術。
 求められる姿を魅せ、理想像を映すその業。

「今日の早朝から、外の様子が見えづらくなりましてね。それで仙界から出てみればこの有様。
 幸い、こちらは何も影響を受けてはいないようですが……そちらの方は?」

「こちらは結界に飲まれていました。しかも、人里は消え失せてしまってただ事ではなさそうです」

「消え失せて、ですか。他に結界が張られてしまっている所の様子は?」

「遠目ではありますが、紅魔館や山の天狗の集落は視えていました。が、詳しい状態はなんとも」

「ふぅむ……」


「それに、私がどんな手を尽くしても人里を囲う結界に何の変化も起きなかった。
 おそらく、特別な術を施された結界なのでしょう」

「だから霊夢さんに解決を乞う、と」

「……」コクリ

 毘沙門天を中心とし、それを奉じ祀った仏教の先駆者と、それを師とし代理を務める指導者。

 この二人が似た存在となったのは、何か意味があるのだろうか?
 あったとして、それは彼女達の望むものだろうか?

 それは……――

「確かに、彼女は私にもできない呪の解法を容易く行える。道理ではありますね」

「……それは知りませんでした。ですが、出来ると言われれば妙に納得も――」

「おーい、ミコさーん」ノシ

「――出来ようと……おや?」

「おぉ、もう帰ってこられましたか。思ったより早かった」

「って、人が増えている。もしかして、お話の最中だったかな?」

「いえ、構いませんよ、緑の方。お知り合いで?」

「えぇ。とはいってもついさっき、仙界にやって来られた所ではありますがね」

「そうですか。私は命蓮寺の本尊をしております、寅丸 星と申します。緑の方、貴方は?」

「これは御丁寧に。えーっと、おいらはクリノ・サンドラ。サンドラ族の戦士として、乙女の騎士ワルキューレ様に仕えているよ」

 ――……彼、クリノが示してくれるかもしれない。

 他ならぬ乙女の騎士に命じられた令を拒み、己が信念と心に付き従った反逆の戦士である、彼が。

「サンドラ、属?」

「幻想界と呼ばれる所の栄えある一族だそうですよ。ここや、外の世界とは、更に別の世界の」ジッ

「……つまり、異世界の戦士である、と」

「どうにも、そうみたいだね。ミコさんから聞かされた限り、だけども」

「このタイミングで、異界の戦士。……偶然?」

「それはまだ何とも言えませんよ、寅丸様」

「……」

 この出会いはまだ、ほんの僅かな出来事でしかない。

 だが、この幻想郷の少女達にとって、大きく変わり始めた瞬間でもあったのだ。

 


以上で投下を終わります。出会いは別れの序章

纏めたうえで短いです。続きは永夜の後で

それでは、また

きたあああああああああああ
まってたぞ

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