万里花「所詮はニセコイ」 (380)
ドンッ
楽(うわっ、バランスを崩して、このままじゃ転ぶ……)
楽(って、目の前には、小野で、ら……!!)
小野寺「きゃっ」
フニュ
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小野寺「つつつ……あれ、一条く、……」
フニ フニフニ
楽「いてて……あれ、なんだこの柔らかいの、……って、小野寺ぁ!? ごめ」
千棘「こんの、エロもやしが」
千棘「なぁに、してんの、よぉぉぉぉぉ!!!!」
ズグッ
楽「ぉごふっ」ドサッ
千棘「アンタねぇぇぇぇえ!」ゲシッゲシッ
楽「うぶっ、ごはっ、がっ、あがっ!!!!」
千棘「今日と言う今日は容赦しないわよ」グリグリ
千棘「こんな衆人環視の中、小咲ちゃんに公開セクハラですってっ」ゲシゲシ
楽「おっ、ごあっぐあっ」
千棘「死より恐ろしい苦しみを与えてやるわ、覚悟なさいダーリィン……!!!」ガスッ
楽「――――ッ」グタッ
万里花「ちょ、ら、らっくん!?」ドンッ
千棘「ちょ、万里花ジャマしないでよ」
生徒「キャアアアアアアア!!!!」
生徒「だ、誰か救急車呼べッ!!!!!」
集「首を横に傾けろ!! ゲロで器官が詰まっちまう!!」
生徒「息してねぇぞ! 先生呼んで来いよ!!!はやく!!!」
小野寺「あ……あ……一条、くん……」
千棘「な、何よ皆して……??」
生徒「動かすぞ、頭は揺らすなよ、せーのっ」
楽「ゲポッ」
小野寺「ち、血、血ぃっ! 一条くんんんんっ!!!!!!」ガタン
るり「っ! 誰でもいいから! 小咲をどこか連れて行って!!」
集「楽! らぁくっ!!!! ダメだ息してねえ!!」
千棘「え、な、何、いったい何なのよ」
千棘「息、してないって、えっ、ダーリン、えっ??」
るり「……貴女も、どっか行ってなさい」
るり「泣くのも、暴れるのも、取り乱すのも」
るり「ヨソでやって」
……完全に否定できないのが少し辛い
生徒「先生、こっち、こっちです」
生徒「あいつが、桐崎が、一条を」
先生「お前ら……うっ……一条っ、一条、大丈夫か!!」
千棘「何よ、みんなして、あたっ、あた、あたしは」
るり「よそでやってって言ってるでしょっ!!!!!」
千棘「あたしは何も悪いことしてないっ!!!!!!!!」
~ 夕方 凡矢理警察署 取調室 ~
刑事「……というわけで、君には弁解の機会が与えられます」
刑事「言いたくない事は言わなくても構いません」
刑事「それに、弁護士の先生と話がしたければ、すぐに連絡をつけます」
刑事「ただ、ここだけは絶対に話してもらわないとならないんだけど……まず、君の名前は?」
千棘「…………」
刑事「君の名前は」
千棘「…………」
刑事「君の名前は」
千棘「……答える必要ないでしょ?」
千棘「アンタ、何の権利があっていきなり私にこんな」
千棘「手錠なんかかけて、ロープで縛り付けて何様のつもりよ!」
いや、過剰にやりすぎだろ!そこは認めろよ
千棘「まるで……」
刑事「……まるで?」
千棘「まるで犯罪者みたいに!!!!」
千棘「不当逮捕よ! 逮捕監禁よ!? 国家権力の横暴よ!!!」
千棘「訴えてやるんだから……社会的にアンタの存在を塵一つ残すことなく抹消してやる」
刑事「……さっきも説明したけれどね」
刑事「君は次に述べる被疑事実によって緊急逮捕されている」
刑事「被疑者……これは君のことだね……被疑者は、平成xx年x月x日、xx市xx町x丁目x番x号」
刑事「x県立凡矢理高校2階第xx号教室内において、一条楽(17歳)の腹部を手拳で殴打し、及び同人の脚部に向け」
刑事「右足で数発蹴り上げる等の暴行を加え、同人に全治不詳の傷害を加えたものである」
刑事「平たく言えば、君は一条楽君に対して暴行を加えたこと、またその犯人である蓋然性が極めて高いことから逮捕されたんだ」
刑事「逮捕していると言う事は、我々捜査機関は、ある程度以上の確信を以って君をこの事件の犯人として疑っているが」
刑事「刑事訴訟法に定めがある以上、逮捕された被疑者には平等に弁明の機会が与えられねばならない」
刑事「それを書面上の証拠として残すのが弁解録取手続きだ」
刑事「事件を認めるにしろ、認めないにしろ、手続きを受け入れないことは君にとってマイナスにしかならない」
刑事「興奮しているのかも知れないが、まずは話をしておくべきだと思うんだがね」
千棘「……あんた達には関係ないことでしょ」
千棘「あいつがケガしたって言うなら、まずあたしが……謝るのが筋じゃないの」
千棘「むしろこんなところに拘束されて、謝りにも行かせて貰えないほうがトラブルを大きくしてるでしょ」
千棘「アンタ達には関係ない事。民事不介入なんでしょ? こんなときばっかりしゃしゃり出てこないでよ」
千棘「税金泥棒の癖に、なにが話をしておくべきよ、偉そ
刑事「桐崎千棘くん」
千棘「……名前、知ってんじゃないの」
刑事「……今は取調べの場だ、声を荒げて怒鳴りつけるような真似は禁じられているからね」
刑事「事実だけを言うが」
刑事「一条楽くんは現在集中治療室に入っている、未だ意識不明だ」
千棘「……」
刑事「正直のところ、君を逮捕する罪状は、殺人未遂としてもおかしくないところだ」
刑事「だが少年犯罪は、犯罪少年の更生を主眼に置いて進めねばならない」
刑事「いたずらに刑期を重くするようなことがあってはならないというのが、司法の通説だ」
刑事「……だが桐崎くん、君が考えているよりも、事態は既に深刻なんだよ」
刑事「このまま一条君が亡くなるようなことがあれば、君の容疑を殺人に切り替えて捜査する可能性もある」
刑事「そんな事になる前に、状況は正しく把握しておきたいんだ」
色んな問題で抗争がさらに悪くなりそうな気がする……
下手したら町ヤバいんじゃ……
正直笑い死にそうなんだが
千棘「は……??」
千棘「アイツが……死ぬって何よ。いい加減な事言わないで」
千棘「いくらアイツがもやしだからって、私がちょっと殴ったぐらいで死ぬ訳ないじゃない……」
千棘「って言うか、いつもあれだけしこたま殴ってるのに今日だけ死にかけてるとかおかしくない?」
千棘「ああ……これが日本で言うドッキリカメラって奴かしら? 案外、笑えないわね」
刑事「”私は普段、事あるごとに一条君に暴力を振るっていましたが、怪我をした様子はまったくありませんでした”」
刑事「”だから今日もいつもどおり暴力を振るっただけで、怪我をさせるつもりはありませんでした”」
刑事「このように書面に残すが、かまわないかな」
千棘「……っざいわね、このクソジジイ……ブッ殺されたいの」
刑事「”刑事さんの態度には腹が立つので、素直に話をする気にはなれません”」
刑事「弁護士の先生に当てはあるかな?」
千棘「……もうアンタとは会話したくない。さっさと出てって」
刑事「”弁護士のことは後から考えます”……じゃあ、この書類の最後にサインと指印を」
千棘「出てけっつってんでしょ!!!!」
刑事「署名拒否、と。書類についてはそれでいいが、出て行くことはできないな」
千棘「何でよ!!」
刑事「名前も名乗らない、容疑は認否もしない、警察官の話も聞かずに不平ばかり撒き散らす君が」
刑事「勝手に逃げ出さないか、見張るためだよ」
~ 同時刻 商店街 ~
つぐみ(すっかり遅くなってしまったな……)
つぐみ(そのまま帰ってもいいところだが、お嬢達はまだ学校に居るだろうな)
つぐみ(……)
つぐみ(一条楽……)
つぐみ(奴と、奴の仲間のお陰で、お嬢はよくよく笑うようになった)
つぐみ(そして、私も……)
つぐみ(……最近、よく考える)
つぐみ(もし、私が)
つぐみ(いや、お嬢と私が、最初からこの世界で生きていたとするならば)
つぐみ(もっと違った世界があったのかも知れない)
つぐみ(そんな風に考えると)
つぐみ(少しだけ、わくわくして、とても、切ない……)
ピピピピピッ ピピピピピッ
つぐみ(……クロード様からの連絡……しかも)
つぐみ(緊急回線からの着信だと……?)
つぐみ「もしもし」
クロード『誠士郎、本国への脱出ルートは把握しているな』
つぐみ「!? ……はい」
クロード『ブラボー、デルタ以外の手段で直ちに出国しろ』
つぐみ「……どのような、状況、でしょうかっ……」
クロード『今の学校では、指令に無駄口で答えるよう教わっているのか』
つぐみ「……お嬢も、一条楽にも、不審がられます」
クロード『……そのお嬢と、一条楽が原因だ』
つぐみ「どういう」
クロード『詳細はわからんが、お嬢が一条楽を殺しにかかった』
つぐみ「えっ」
クロード『……私としては万々歳と言う所だが、組織同士のことを考えると、あまりに性急だ』
クロード『集英組の者へ顔の知れているお前にも、報復の及ぶ恐れがある』
クロード『一条楽は凡矢理総合病院のICUに搬送されている』
クロード『周辺を避けて直ちに国外へ ブツッ
プーッ プーッ プーッ
つぐみ(お嬢……)
つぐみ(一条楽ッ……!!!)
~ 夕方 凡矢理総合病院 ICU前 ~
ズダダダダッ
つぐみ「一条楽はッ!?」
集「……」
るり「……」
万里花「……」
ポーラ「……」
つぐみ「お嬢は……」
るり「……現行犯で捕まって、警察署よ」
るり「私達も事情聴取される予定だけど、一条君の容態が落ち着くまでは待ってもらっているわ」
つぐみ「……」
るり「倒れてからずっと、意識不明。内臓のいくつかから、出血しているみたい」
るり「今日中に手術が終わる見込みもないくらいですって」
つぐみ「……ポーラ」
つぐみ「お前が居ながらぁ!!」ガッ
ポーラ「ちょっと、病院で暴れないでよ……」
つぐみ「貴様ァァァァ!!!」
ポーラ「……護衛対象がいきなり一般人半殺しにするよーな自体、どう防げっての……さッ!!」ゴッ
つぐみ「ぐッ……」
ポーラ「……聞いてるかしらね。千棘お嬢様が一条楽をヤったのは本当よ」
ポーラ「”いつも通り””あなたの目の前でするように”お嬢が一条楽に暴行を加えた」
ポーラ「その結果、いつも以上に一条楽がダメージを負った……」
ポーラ「それだけの話」
ポーラ「普段止めもしないどころか、自分自身も暴力を振るっているあなたが」
ポーラ「どうして私を非難できるのよ」
つぐみ「……ッ」
万里花「……そうですね。私自身を含めて、これは誰かを責められる話ではありませんわ」
るり「……」
集「……」
つぐみ「……しかし、こんな……ッ!!」
万里花「楽様が起きてこられた後、友人同士が責任を擦り合っていては悲しみます」
万里花「心静かにお待ちになれないようなら、落ち着く場所で快気を祈られるのも、不義理ではありませんよ」ニコッ
るり「……橘さん、あなた……」
つぐみ「……いい」
るり「でも」
つぐみ「大丈夫だ」
ポーラ「……気丈なものね」
るり「?」
ポーラ「……なんでもない」
集(いや、本当、大したもんだよ)
集(この状況で、まだ)
集(お嬢様の仮面を、被っていられるんだから)
~ 夜 凡矢理警察署 留置施設 ~
千棘(うわ、臭っさ……)
看守「ここではあなたのことを名前では呼びません」
看守「貴女のプライバシーに配慮してのことだから、気を悪くしないでね」
看守「29番と呼ばれたら、あなたのことだから。きちんと返事するように……」
千棘「」ペッ
看守「きゃっ……何で唾を吐くの!!」
千棘「アンタいちいち気持ち悪いのよ、さっきから」
千棘「言葉尻だけ丁寧に、上から目線で」
看守「施設内の規律を守るためですよ。それよりも、貴女以外の人はもう寝ているの。騒ぐのは」
千棘「アンタ達が! 勝手に!! 私を拘束してるんでしょうが!!!」ジタバタ
思ってた以上にシリアスだった
看守「暴れないのよ、静かに。看守の指示に従いなさい。22時17分、警告ね」ギュッ
千棘「離しなさいよ!! 離せ!!! 私はアイツの所に行かなくちゃならないの!!! 」
―― 一条楽くんは 現在 集中治療室に入っている
―― 未だ意識不明だ
千棘(このまま、アイツがもし死んじゃったりしたら……!!)
千棘(謝らなきゃ)
千棘(許してもらわなきゃ)
千棘(ダメ)
千棘(あいつがどっかに行っちゃうなんて)
千棘(絶対ダメッ……!!)
看守「今のあなたに、その権利はないの。ほかの人の迷惑よ、静かに。指示に従いなさい。22時18分、警告二回目」
千棘「離して!! 離してよッ!! ……あっ」
千棘「いた……っちょっと、痛い痛い痛い!!!!!!」
看守「そんな演技で騙されるほど、警察は甘くないの。静かになさい。22時19分、警告三回目」
千棘「こんなっ、痛っ、離しなさいよ! 離せ!!! やめて、殺されるっ、こーろーさーれーるー!!」
看守「……はぁ」パッ
千棘「えっ……! 今ッ!!」ダッ
看守「ふッ」ガシッ
千棘「ぐ」グリッ
千棘「ぎゃァああああああああああああああ!!!!」
看守「主任、主任ー」ポチッ
ウウウウー ウウウウー ウウウウー ウウウウー
ダダダダダダッ
看守2,3,4,5,6 ガヤガヤ
主任「よいしょ……やっぱりだめかね」
千棘「痛い、痛っ、ほんとに痛い、痛い、痛い痛いぃ!!!」
看守「看守に対して唾を吐きかける暴行を加え、計三回の警告及び静止に従わず」
看守「拘束を解くや否や、私を跳ね除けて逃走を図りました」
千棘「こ、の、女ぁッ!! う、ぎゃああああ!!!」
主任「あー、一部始終は監視カメラで見てたからね。うん」
主任「騒ぎ続けられると、ほかの留置人にも迷惑だからね」
主任「22時23分、拘束衣と、うーん……防声具も付けちゃおうか。フルコースで保護房入れておいて」
看守達『了解』テキパキ
千棘「くそっ、このっ、や、め……ぬぐっ、ぐ、ぬむぅぅ――――」
看守4「拘束衣並びに、防声具の施用完了しました」
主任「了解。一人付けといてね」
看守4「了解」
千棘「―――――ッ、―――!!!!」ジタバタ
看守「もう……」
主任「ああ、いいよいいよ。とりあえず何人か、他の留置人の面倒見てあげて。騒ぎに興奮しているといけない」
看守2,3,5,6『了解』
主任「……という訳だ。我々は通常の勤務を放り捨てて、君が起こした騒ぎの尻拭いをしなくてはならない」
千棘「――――!! ―――!!」
主任「”あんたらが勝手にした事だろう””私は悪いことなどしていない”」
主任「そんな所かな」
千棘「――………」
主任「別に聞き取れたワケじゃないよ。君はさっきから、同じ事ばかり喋っているらしいからね。分かるさ」
主任「だけどね」
主任「少なくともこの留置場内において、君は君の責任において、悪いことをしている」
主任「この留置場にはね、今君以外に10人以上留置人が居る」
主任「朝6時起床、夜10時消灯。私達が守らせている義務であり、彼女らに認められた権利だ」
主任「彼女らがいかな犯罪者であろうと、或いは冤罪の被害者であろうと同じことでね」
主任「君一人の我侭で騒ぎを起こせば、彼女らの権利が侵害されることになる」
主任「警察はその責務として、通常の業務を放棄し、彼女らのフォローをせねばならない」
主任「それは間違いなく、君の責任で起こる問題だよ」
千棘「――」
主任「ああ、ああ、分かってる。事情があるんだろう、必死にならねばならない事情が」
千棘「……」
主任「だけどね」
主任「我々も、他の留置人も」
主任「君個人の事情には、はっきり言って興味がない」
千棘「……」
主任「興味がないから同情もしないし、それによって不利益がもたらされれば不満だ。腹立たしくもなる」
主任「冷たいと思うかい」
主任「だが、君だって同じはずだ」
主任「私や他の警察官のことなど考えず我侭を言い、他の留置人の事など考えず騒ぎ立てたんだろう」
主任「内心のことだし、お互い様だ。別に悪いこととは言わないよ」
主任「ただ、君が今後も規律を乱し続けるようならば、我々は法に則った手段で相応の措置を取り続ける」
主任「今後どうするべきなのか、少しそのまま考えてごらん。ではね」
看守4「お疲れ様です」
千棘(……)
千棘(……)
千棘(……)
千棘(……)
千棘(……この部屋)
千棘(壁中がクッションになってるんだ)
千棘(万が一暴れても怪我しないように、ってことかしら)
千棘(……ウザ)
千棘(……)
千棘(……)
千棘(……)
千棘(……あのオッサン、いつか[ピーーー])
千棘(……)
千棘(……)
――だけどね
――君個人の事情には、はっきり言って興味がない
――興味がないから同情もしない
千棘(……)
千棘(……)
千棘(学校のみんなは、どうなんだろ)
千棘(私の、ともだち)
千棘(日本で出来た、かけがえのない、私の友達)
千棘(そして……)
千棘(……)
千棘(楽……)
千棘(……)
千棘(……)
千棘(ああ)
千棘(ああ)
千棘(ダメだ)
千棘(私)
千棘(わたし)
千棘(台無しにした)
千棘(この街で)
千棘(この世界で)
千棘(初めて出来た大切な人)
千棘(大切なつながり)
千棘(ぜんぶ)
千棘(台無しにしちゃったんだ―――)
千棘(ああ……)
千棘(あああああああああああああああああ)
千棘「―――――――――――」
看守4「29番、いい加減落ち着きなさい」
看守4「そう興奮していると、いつまでもソレ、取れないよ」
千棘「―――――――――――」
~ 5日後 午前 凡矢理総合病院 ~
つぐみ(今日で5日、か)
つぐみ(お嬢はどうしているだろうか)
つぐみ(きっと現実が受け入れられず、戸惑っていることだろう)
つぐみ(不安で、どうしようもなくて、自分の殻にこもって、周りに当り散らしているのかもしれない)
つぐみ(……お傍に居て差し上げたい)
つぐみ(しかし)
つぐみ(私に下された指令は、国外脱出)
つぐみ(のうのうとお嬢の前に姿を現すわけにもいかない)
つぐみ(……それでも)
つぐみ(国から出ることも、お嬢のところに行くこともできず)
つぐみ(一条楽の身内から身を隠しながら)
つぐみ(こうしてこそこそと、一条楽の快復を伺う毎日……)
つぐみ(……クソッ)
つぐみ(わからん)
つぐみ(私は、どうすれば……)
春「…んにちはー、こんにちは……つぐみ、さん?」
つぐみ「!?」
春「ひゃっ!? あ、驚かせちゃったらすみません。一条先輩のお見舞いですか、部屋なら」
つぐみ「あ、いや、存じております。ただ少し、こちらで考え事がありまして」
春「……そう、ですよね、つぐみさんは」
春「色んな事、考えなきゃ、いけないんですもんね」
つぐみ「……ええ」
つぐみ「小野寺様は、ご一緒ではないのですか」
春「……姉は、ここには、こられません」
つぐみ「……?」
春「こないだの、事件の後」
春「姉は」
~ 数日前 小野寺家 ~
小野寺「ごめんねるりちゃん、心配かけちゃって」ゲッソリ
るり「……元気そうで安心したわ」
小野寺「うん。熱があるわけでもないし、普通にご飯も食べられるの」
小野寺「だけど春もお母さんも、『絶対に寝ておけ、休め』って大げさでね」
小野寺「そんなに私、具合悪そうに見えるかなあ?」
るり「どうかしら、私には判断がつかないわね」
るり「外で会うだけの他人には、わからない変化なのかも」
小野寺「むむむ、るりちゃん、さすがの受け答え」
るり「相手が悪かったわね。おとなしく休みなさい」
小野寺「はぁい」
るり「何か必要なものがあれば、持ってきてあげるわよ。教科書とか」
小野寺「うーん、そうだなぁ」
小野寺「……一条君の、写真、とか」
るり「っ、小咲」
小野寺「不思議だよね。ほんの数日会ってないだけなのに、なんだかずっと会ってないみたいな気になっちゃって」
小野寺「一条君、大丈夫かな、どうしてるのかな」
るり「小咲、やめて、私が悪かったわ」
小野寺「どうしたのるりちゃん。私一条君のお話聞きたいよ」
るり「ねえ、小咲、大丈夫、大丈夫だから」
小野寺「一条君は大丈夫なんかじゃないっ!!!!」
るり「小咲!!」
アンチかよ
小野寺「一条君が、一条君が千棘ちゃんに殴られて、血を、血を吐いちゃったの」
小野寺「一条君が大変なの、ねえるりちゃん、私早く病院にいかなくちゃ」
小野寺「ごめんるりちゃん、服と靴とお金を貸して。春とお母さんが隠しちゃったの」
小野寺「学校に行かなきゃいけないの、病院に行かなきゃ行けないの」
るり「もう、もうやめて」
小野寺「るりちゃんいつも応援してくれてたじゃない」
小野寺「私勇気出すって決めたの」
小野寺「だって一条君がいなくなっちゃう!!!」
小野寺「お願いだから!!! 一条君に会わせてよぉぉ!!!!!」
春「お姉ちゃん!!!」バン!
るり「あ、ああ」
小野寺「春ゥゥゥ!!!! 」
春「お姉ちゃんっ」ギュッ
小野寺「春っ、おぐっ、ふっ、げええええええええ」ゲロゲロ
るり「は、春ちゃん、私」
春「大丈夫ですから!」
春「大丈夫ですから、るり先輩、今日はお引き取りください」
春「お姉ちゃんも、先輩に今の姿、見られたく、ないはず、です」
小野寺「おげっ、おげええええ」
なんだこのカオス
ただのギャグ描写を執拗に叩くssってあまり好きじゃないんだが
どうしてだろう、やめられない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
春「親友だと思っていた女が、一条先輩をあんな姿にしたことが、よほどショックだったみたいで」
春「家に帰ってからも、取り乱して、吐き続けて」
春「今は私と母で、無理矢理家に寝かしつけてます」
つぐみ「……」
春「しばらくすると落ち着くんですが、ちょっとしたきっかけで一条先輩のことを思い出すと」
春「また、ひどく取り乱すみたいで……」
春「もう、私、どうしていいか、わかんなくなっちゃって」
春「どうして、こんな」
春「どうして……!!!」
>>47
それは好きってことなんだよ
るりは楽からの距離がほかの人と比べて遠いから落ち着いてるのは分かるが、
マリーのメンタルが凄すぎる
でもきっと一番ダメージ受けてるのもマリーなんだろうなぁ
つぐみ「……すみません、本当に」
春「……やめて下さい」
春「つぐみさんはあの場にいなかったんでしょう」
春「形だけの謝罪なんて、逆にムカつきます、迷惑です」
つぐみ「……あの場に居なかったことが、問題なんです」
つぐみ「もっと、お嬢のことを、ちゃんと見ていなければならなかった」
つぐみ「それができたのは、私だけだったと言うのに!!」
春「そんなことないです」
つぐみ「……ポーラのことですか」
春「? いいえ」
春「――桐崎、千棘」
春「あの女が自分で、自分自身の行動を制御出来ていれば、こんな事にはならなかったんじゃないですか」
春「あの女だってガキじゃないんです。物事の善悪を理解できる年齢のはずです」
春「はっ、むしろ私の先輩でしょう? 年上なんでしょう!?」
春「それを、周りが責任を感じるとか、止められなかったとか、おかしいです」
春「悪いのはあの女」
春「あの女が、お姉ちゃんを、一条先輩を、滅茶苦茶にしたっ!!!」
春「あの女が、あの女が、あの女が!!!!」
つぐみ「……そっ」
チンピラ「あ、あんなところに! おい、嬢ちゃん達!!」
つぐみ(……しまった、集英組の……!)
チンピラ2「す、す、すぐに来てくれ!! 坊ちゃんが……」
春「!? 一条先輩が、どうかしたんですか」
チンピラ「おう! ……おう、坊ちゃんが、坊ちゃんがよう」
チンピラ2「坊ちゃんがよぉぉぉぉ!!!」
~ 数分前 凡矢理総合病院 集中治療室 ~
楽(……)
楽(……)
楽(……」
楽「……………」
親父「……おう」
楽「……親父」
親父「さんざんっぱら寝くさってた癖に、不景気なツラぁしやがって……」
楽「……ごめんな」
親父「……あ?」
楽「……」
楽「俺さ」
楽「元々、親父の後なんて継ぐつもり、さらさらなかったけど、さ」
楽「それ、でも」
楽「それでも……」
楽「ごべんな、おや、じぃっ………」
親父「……楽」
親父「それでもてめぇは」
親父「俺の、自慢の」
親父「息子だ」
~ 同日昼 凡矢理警察署 取調室 ~
千棘「そう。右手で、楽の……右わき腹あたりから、えぐるように殴り上げました」
千棘「そして、倒れ付した楽のお腹を、右足で何度か蹴りつけていた所を、万里花に止められた……と思います」
刑事「マリカ、と言うのは、さっき話していた、二人の友達?」
千棘「………」
刑事(……やりにくいったらないな)
刑事(初日よりはだいぶ話すようになったし、事件についても認めているのに)
刑事(動機や人間関係の話になると、だんまりと来た……)
刑事「なあ」
刑事「そうして黙っている事は、他の子達の為にはならないんだよ」
刑事「正直のところ、必要な情報となれば、我々は君から聞けない分、その子達から余分に話を聞かねばならない」
刑事「言いたくない事は言わなくていい、と最初に告げている以上、無理に喋らせはしないが」
刑事「間違った思い込みで話を複雑にするのは、いい事ではないと思うんだがね」
面白い
千棘「……他の子の事については、他の子達に直接聞いてください」
刑事「ふむ……?」
千棘「私、わからないんです、本当に」
千棘「私がみんなの事をどう思っていて、みんなが私の事をどう思っていたのか」
千棘「今、どう思っていて、どう思われているのか」
千棘「怖くなったんです、考えるのが」
千棘「こうして、刑事さんとお話していて」
千棘「自分のしたことを、少しずつ飲み込んでゆくたびに」
千棘「友達とか、大事とか、そういう事を他の子に向けて言う自分が」
千棘「嘘くさくて、薄っぺらく感じて、どうしようもなくて……」
千棘「……何言ってるか、わかんないですよね」
刑事「わかるよ」
刑事「お世辞とかじゃなくてね」
千棘「だったらっ!!!」
千棘「みんなに、アイツに会わせてよ!!!!」
千棘「どんなに」
千棘「どんなに罵倒されたって、蔑まれて怒られて、嫌われたって仕方ない」
千棘「だけど、想像することしかできないのは」
千棘「一番、辛いの……」
刑事「……」
千棘「うっ……ううっ……ぐす、っ………」
刑事(……やれやれ)
刑事(こんな様子じゃあ、とても話すわけにはいかんよなぁ……)
とりあえず今迄のニセコイSSの中じゃあ1番面白いわ
~ 数日後 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
楽(……)
コン
楽(……)
コンコン
楽(……やるっきゃない、か……)
楽「どうぞ」
小野寺「あ、は、あの……失礼、しま、す」
楽「おう、いらっしゃ……っでぇー! お、小野寺ぁー!?」
小野寺「は、はいぃ、おの、小野寺小咲です!?」
楽「うわ、お、あ、ありがとう、その辺汚いけど、いや病院だから綺麗だけど座ってくれよ!!」
小野寺「あら、ありありありがとうございます!」ドスン!
楽「うわぁーどうしよう、小野寺が小野寺がお見舞いに来てくれるなんて」
春「……声に出てますよ、一条先輩」
楽「うわぁ! 春ちゃんもいたのか!!」
春「”も”とは何ですか、”も”とは」
集「オレもいるよん」
楽「何だよみんなして、大げさだなあ」
集「大げさはないだろー。楽、お前一週間近く寝込んでたんだろー?」
集「そんな事になりゃあ、普通誰だって心配もするよ」
春「そ、そうですよー。一条先輩、周りの人の気持ちも考えてくださーい」
小野寺「……」
楽「そう言われてもなぁ……」ポリポリ
楽「俺からしたら、ただ寝てただけっつー感覚で」
楽「起きてみたら治療も全部終わってるって言うし」
楽「なんかこー、怪我してた実感が全然ないんだよなー」
小野寺「そ、そうな、の……?」
楽「あぁ。小野寺にも、もしかして心配してもらっちゃったりなんかして……」
楽「ま、身の回りの人間がそんな状況になったら、確かに多少は心配だよな、ははは……」
小野寺「心配だったよっ!!!」
楽「お、小野寺?」
小野寺「心配、したよっ……」
小野寺「一条君、すごく痛い思いをしちゃったんだろうなって」
小野寺「一条君、苦しくて、つらい思いをしてるんだろうなって」
小野寺「一条君が、し、死んじゃうかも、しれないって」
小野寺「とっても、とっても、心配だったよっ……!!」ボロボロ
楽「小野寺……」
集「……」
春「お姉ちゃん……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
小野寺「検査入院?」
楽「ああ。俺にも良くわからないんだけどさ」
楽「今回の手術方法が、病院的には初めての試みだったらしくて」
楽「手術代をチャラにしてくれる代わりに、アメリカの専門的な病院で、しばらくデータを取るんだと」
小野寺「あ、アメリカ!? が、学校とかはどうするの?」
楽「うーん……留年せずに済むぐらいで、終わらせてくれるらしいけど」
楽「向こうの日本人のお医者さんが、勉強教えてくれるって言うし、むしろラッキーって感じ?」
小野寺「……そうなんだ」
楽「……だけど、みんなと会えなくなっちゃうのは、少し寂しいな」
春「仕方ないですよ。どうせなら、そのえっちぃ頭の中も一緒に直してきてもらってください」
集「そうとも、仕方のない事だ。楽、元気でな。手紙書くぞ」
楽「集……」
楽「本音は?」
集「向こうの爆乳パツキンナース、俺にも2,3人紹介してくれ」キリッ
春「さ、さいてー……」
小野寺「あ、ははは、は……」
楽「……ま、これだけ完璧に治してもらったんだから、文句は言えねえよ」
楽「金の事で、親父たちに迷惑もかけたくないし」
小野寺「そっか、そう、だよ、ね……」
楽「小野寺、心配してくれて、ありがとうな」
小野寺「ううん、ごめんね。急に泣いたりしちゃって」
小野寺「本当にもう、大丈夫なんだよね?」
楽「ああ」ニコッ
小野寺(どうしよう)
小野寺(一条君、アメリカに行っちゃうんだ)
小野寺「しゅ、出発はいつごろなの?」
楽「手続きが終わり次第、すぐらしい」
楽「早ければ今日の夜には行くようだから、その前に皆に会えて、ホント良かったよ」
小野寺(そんな、早すぎるよ)
小野寺(どうしよう)
小野寺(せっかく、一条君が元気で戻ってきてくれたのに)
小野寺(せっかく、勇気出すって決めたのに)
小野寺(一条君――!!)
小野寺「一条君、お願いがあるの」
楽「へ……」
小野寺「一度でいいから、一条君のこと……」
小野寺「抱きしめさせて」
[ピーーー]を避けるためにメール欄に「saga」推奨
さげ、じゃなくてさが。終わったらHTML化までがルールよ
すごく面白いから、お願いします
集「っ!」
春「お、お姉ちゃん!? いきなり何を」
小野寺「だって、私、心配だったんだもん」
小野寺「ずっと、ずっと、心配で……」
小野寺「ちゃんと一条君がここにいること」
小野寺「確かめなきゃ」ズイ
小野寺「私」ズイ
小野寺「耐えられないっ……!!」ズイッ
春「お姉ちゃん、ほ、ほら、舞子先輩も見てるし、そんな大胆なっ」ギュッ
集「そ、そうだよー。きゃー僕はずかしーぃ」ギュッ
小野寺「離してっ!」ブンッ
集「うおぁっ」
春「きゃっ」
楽「小野寺っ……」
小野寺「一条、くんっ!!!」
バサァッ
ブチィッ
楽「ぎゃああっ!!!」
sagaはメール欄に入れるんやで
面白んだけど何で鶫だけ平仮名なの?
小野寺「えっ」
小野寺「一条君、何、それ」
楽「~~~~~~~~っ」
小野寺「お腹が、え、内臓が出てるの、ねえ」
小野寺「それになんだろ、この、う、くさっ」
小野寺「ごめんね一条君、なんだか変なにおいが、すごく、うっ」
小野寺「ねえ、大丈夫って言ったよね、一条君」
小野寺「なんなの、これ、ねえ、なんなの??」
ビチャッ ビチャビチャッ
小野寺「きゃっ! 何こ……」
小野寺「……これ……」
小野寺「う……」
小野寺「うんちだよ……」
これはひどい
小野寺「一条君」
小野寺「どうして、一条君のおなかから、うんちが噴き出すの?」
春「やめ、て」
春「もう、やめてあげて」
小野寺「……ねえ、春、どうしてなの」
小野寺「一条君が」
小野寺「――障害者になっちゃったよっ!!!!!」
楽「!!」
集「おい小野寺!」
小野寺「ひッ」ダダダッ
集「くそ…っ」ダッ
春「ま、舞子先輩、待って」ギュッ
集「うるせえよ」
集「楽が、どんな思いでっ……!!」
春「一条先輩の想いを言うならなおさら待ってください!!!!!」
集「!」
春「待ってあげて、ください……お願い……」
集「……わかったよ」スッ
春「せんぱい……」
集「追ってあげてくれ。俺じゃ、ちょっと冷静に話せないかもしれない」
春「はい……」ダッ
集「……楽」
楽「……」
集「……すまん」
楽「……仕方ねーよ」
楽「俺だって……嫌だよ、こんな体」
楽「臭いよな」
楽「汚ねーよな」
楽「だから」
楽「仕方、ねーんだよ……」
集「……」
楽「へへっ……集、悪りぃんだけどさ」
楽「帰ってもらえねーかな」
楽「今日はもう」
楽「ちょっと」
楽「……キツい」
集「……わかった」
集「”看護婦さんナンパして帰る”わ」
楽「……ありがとう」
集「おう。また来る」
バタン
楽「……」
楽「……ううっ」
楽「……ううっ、う、ううううう………」
さりげなく小野寺に楽を障害者呼ばわりさせてヒロインを脱落させる
割とやり手ですね
~ 凡矢理総合病院 廊下 ~
ツカツカ
つぐみ「舞子……!」
チンピラ1「しゅ、首尾の方は……」
チンピラ2「さっき物凄い勢いで、女の子が走って行きやしたが」
集「……」
集「アイツのプライベートな話になりますから、僕からはお話できません。本当にすみません」
集「理由は話せないんですが、皆さんも暫く、アイツの病室には近づかないでください」
つぐみ「そんな、勝手な話が」
集「この通りです」ドゲザ
集「お願いします」
つぐみ「お、おい、舞子っ」
チンピラ2「よ、よして下さいや」
チンピラ1「坊ちゃんの親友がそうまで言うなら、何か考えがあるんでしょう」
チンピラ1「坊ちゃんの事は心配ですが、仁義は通しやす」
集「ありがとうございます」
つぐみ「……」
集「誠士郎ちゃんも、悪いけど。今は堪えてくれよ。じゃあ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チンピラ1「全く……坊ちゃんも人が良い」
チンピラ2「今回の件でトラウマを負った女友達のために、わざと元気な姿を見せてやったっていう話じゃないですか」
チンピラ2「検査入院で外国に行っちまうだなんて、お優しい嘘までついてまあ……」
チンピラ1「あんな体にされちまって、まだ他人のことを心配する余裕があるとは。さすが器が違う」ガッハッハ
チンピラ2「ま、ハラワタはみ出るなんて話、俺らの業界じゃ珍しくもありやせんからねえ」
チンピラ2「オヤジの後継者としては、むしろハクがついた位で良いかも知れんですね」ガッハッハ
つぐみ「……」
チンピラ1「お嬢ちゃんは、追いかけなくていいのかい」
つぐみ「……追いかけられませんよ」
つぐみ「私にはたぶん、その資格がないと思います」
チンピラ2「ふぅん……?」
集、イイ奴だな…
つぐみ「……それよりも」
つぐみ「周りに人はいませんよ」
チンピラ1,2「?」
つぐみ「……私を消すならば、今だと思うが、と言っている」
つぐみ(そう)
つぐみ(もう、いい)
つぐみ(この状況とて、私の優柔不断な態度が招いた結果だ)
―― 春「形だけの謝罪なんて、逆にムカつきます、迷惑です」
―― 春「それを、周りが責任を感じるとか、止められなかったとか、おかしいです」
つぐみ(詫びる資格すら、無いというのなら)
つぐみ(私の中にある、このどす黒い悔恨を消せないというなら)
つぐみ(いっそ、このまま死んでも……)
チンピラ1「……あー」
チンピラ2「その件に関しちゃ、俺らも思うところはあるんですがね」
チンピラ2「アンタにゃあ、手出ししない事になってるんですわ」
つぐみ「”私には””なっている”……?」
チンピラ1「……オイ」
チンピラ2「ああ、すんません」
チンピラ2「とにかく、アンタにゃ手は出しませんわ」
チンピラ2「アンタならわかるでしょ。”そういうこと”になったら、俺らはそうするんす」
つぐみ(……どういう、ことだ)
つぐみ(クロード様の指示は”集英組の報復が予想されるため”国外脱出せよ、と言う物だった)
つぐみ(だが、既にビーハイブと集英組で話がついていると言うなら、そのような必要はないはずだ)
つぐみ(……そもそも)
つぐみ(いかに集英組が日本ローカルの小規模マフィアだとしても)
つぐみ(跡取り息子を他の組織の娘に潰されて、こうも穏便に話が進むなど)
つぐみ(冷静に考えればありえない)
つぐみ(何だ……)
つぐみ(私の知らない所で、何が動いている……?)
チンピラ1「……ま、理由は、それだけじゃないんですけどねえ」
チンピラ2「ね。そっすね」
つぐみ「?」
チンピラ1「俺らはね。坊ちゃんのこと、好きなんですよ」
チンピラ2「俺らぁこんな日陰モンですがねえ。坊ちゃんはまだ、汚れてねえ」
チンピラ2「口ぁ悪いがね。キラッキラした目で、俺らのこと見てくれるんですよ」
チンピラ1「これ以上」
チンピラ1「悲しませたくねえんだわ」
~ 同刻 凡矢理総合病院前 公園 ~
プププッ プププッ プルルルルル プルルルルル
るり『……どうだった?』
集「意地悪しないでくれよー。分かってるんだろ」
るり『想像はしていたわ。誰からも連絡がないんだもの』
集「……最初から、うまくいかないと思ってた?」
るり『いいえ』
るり『デリケートな問題だもの』
るり『望みがないと思っていたら、ちゃんと最初から反対してた』
集「そっか」
集「なら、来てくれてもよかったんじゃない?」
集「るりちゃんの力添えがあれば、あるいは上手くいっていたかも」
るり『……私ね』
るり『一条君が倒れた日に、病院で話した事、ずっと考えていたの』
集「どの話のこと?」
るり『桐崎さんが、いつも通り一条君に暴力を振るって』
るり『たまたまそのうちの一回が大騒ぎになったのが、今回の事件』
るり『だから、誰かを責められるわけではない、って言う話』
集「ああ……」
るり『今まで私達は、彼女の暴力を、何度も見過ごしてきた』
るり『今までは”たまたま”大事にならなかっただけで』
るり『私達は”たまたま”その安全な未来を生きてきたに過ぎないんだって』
集「ちょっと、話が見えないかな」
るり『漫画やアニメなら、次の週、次の話、下手をしたら次のコマで、そんな傷は消えてなくなるけれど』
るり『傷が生まれた世界で生きる私達は、その先にある現実を、受け入れて生きなきゃいけないんだって』
るり『そう、思ったの』
集「……だから、わざと来なかった」
るり『ええ』
るり『きっとその場面を私が見ていたら、私自身も小咲のトラウマになる』
るり『それじゃ小咲を、支えられないから』
集「じゃあ、まさに”小野寺のトラウマ”になっちまった俺は、もうるりちゃんとも会えないのかー」
集「寂しいなー」
集「ホント、寂しいよ」
るり『小咲が一条君と会わないなら、もう舞子君との接点はなくなるもの』
るり『元々他人だったものが、元々の形に戻るだけでしょう』
集「手厳しいねぇ」
るり『それに』
るり『舞子君だって、うすうす気づいていたんじゃないの』
集「まーね」
集「でも俺は、楽の親友だから?」
集「楽の味方になってやらなきゃね、やっぱ」
るり『大変ね、お互い』
集「……そー、だねぇ」
集「ね」
集「今生の別れになるかもしれないんだし」
集「最後くらい、るりちゃんのかわいいところ、見たいなー」
るり『何それ。馬鹿じゃないの』
集「頼むよ」
るり『……』
るり『舞子くん』
るり『ばいばい』
友達ってそんなもんじゃねーだろ!
いくら最初は関係がなくとも、一緒に過ごした時間は消えねぇんだよ
~ 翌日 凡矢理警察署 留置場 ~
千棘「……」
看守「29番」
千棘「……はい?」
看守「そういきり立たないの。いいお話よ」
千棘「出れるの!?」
看守「あ、いや、その……そんなにいい話じゃないの。ごめんなさいね」
千棘「……何ですか」
看守「面会よ。弁護士さんが来て下さったの」
千棘「弁護士……?」
千棘「頼んでないけ……あっ」
千棘(そうよ)
千棘(どうして考え付かなかったんだろう)
千棘(パパ、ママ……!!)
~ 凡矢理警察署 面会室 ~
千棘(アクリル板の仕切りがあるのね)
千棘(これ、まるっきり動物園じゃない……)
弁護士「初めまして。今回あなたの弁護を依頼されました、私」
千棘「ごたくはいいの。今すぐ私をここから出して」
弁護士「は……??」
千棘「ここから出すのよ。できるんでしょ。早くやって」
弁護士「ちょっと、落ち着いて、話を聞いてください」
千棘「こちとら! マフィアと社長の娘やってんのよ!?」
千棘「私がやれっつったらさっさとやるのよ、さあ!!」
弁護士「あぁ……まいったなぁ……とりあえず声を落としてくださいよ……」
弁護士「留置場まで聞こえたら、今後困るのは貴女でしょうに……」
千棘「いいわよ、もうこんなとこ出るんだから。もうたくさんなの」
千棘「ここから出て、やらなくちゃならないことが、一杯あるの」
千棘「だからお願い早く」
弁護士「もーっ!!! 話を聞いてください!!!」
弁護士「あなたを出すことは絶対にできませんっ!!!!!」
千棘「はっ」
千棘「何言ってんの。保釈制度ってのがあるんでしょ」
千棘「お金のことなら、私がパパか、ママに死ぬ気でお願いするから」
千棘「ちゃんとしていれば、戻ってくるお金なんでしょう? それくらい知ってる」
千棘「だから」
弁護士「だーかーらー。素人が生半可な知識で喋らないでくださいよ!!!」
弁護士「あなたは保釈制度の要件を満たせないから、保釈は認められないんです!!!」
千棘「……え」
弁護士「いいですか。そもそも日本において保釈と言うのは、起訴された後でなければできません」
弁護士「貴女のようなケースでは、期限一杯まで勾留が続くでしょうし、絶対起訴されますから」
弁護士「保釈の申請はまだまだ先です」
千棘「じゃあ」
弁護士「いーいーかーらーだーまーれーよ!!!」
弁護士「貴女は少年なの!!」
千棘「しょ、少女」
弁護士「うるさいなぁ!! 法律的には成人してなければ男も女も少年なんですよ!!! 黙って聞け!!!」
千棘「……」
弁護士「警察から貴女が少年で、刑罰より更正を主眼として逮捕されたことは聞いているかも知れませんが」
弁護士「これは何も道義的観点からの発言ではなく、根本的に成人とは違う法体系であなたを拘束していると言う意味でもあります」
弁護士「保釈は刑事訴訟法において逮捕勾留された者、つまりこの国において成人がその対象者と解されますが」
弁護士「貴女など少年は”少年法の規定において”刑事代替施設に勾留されています」
弁護士「そして少年法に保釈の規定はない」
弁護士「だからあなたについては、保釈の申請をすること自体不可能なんです」
弁護士「理解していただけましたか!?」
千棘「わ、わかりました」
弁護士「ふー……最初っから素直に話を聞いてくださいよ」
弁護士「こんなめん……難しい事件に手をつけるの、私初めてなんです」
弁護士「自分のことだけでも手一杯なのに、貴女まで私を困らせるようじゃあ、ホントもうどうしようもないですよ」
千棘「え……」
千棘(何この人)
千棘(よく見たらやたらと若いし)
千棘(ド新人か何か……?)
千棘「ちょ、ちょっと待ってください弁護士さん」
千棘「あなた、ビーハイブかママの会社の顧問弁護士さんなんじゃ」
まさかニセコイssで留置や少年法について学ぶ日が来るとは
弁護士「……ペーペーが来てムカついたって感じですか」
千棘「あ、いやその、そういうわけではなくて」
弁護士「まあ……いいですよ。不安なのは確かでしょうから」
弁護士「はっきり言っておきますけど」
弁護士「今後貴女のパパやママから、何か助けがあるとは、一切考えないでくださいね」
千棘「……」
千棘「……はぃ?」
千棘「そ、そりゃ、面会にも一度も来ないし、おかしいな、とは思ったこともあったけど」
千棘「手紙も一応書いたし、ごめんなさいって、えっ?」
千棘「ど、どういうこと」
弁護士「黙って聞けって」
千棘「黙って聞いてられないでしょ!!!」
弁護士「じゃあ話せないでしょうが!!!!」
千棘「……わかりました、すみません」
弁護士「……私も、詳しく教えてもらったわけじゃあないんですけどね」
弁護士「相手の男の子。暴力団の息子さん、跡継ぎなんですって?」
千棘「……ええ」
弁護士「うちの事務所に届いている診断結果ですけどね」
千棘(ビクッ)
弁護士「噛み砕いて言いますと、まず大腸が破裂。これはストーマを敷設して対応するレベルみたいです」
千棘「え……」
弁護士「ああ、これは失礼。人工肛門ですよ。お腹に穴を空けて、ビニール袋にその、ウンコを貯めるんです」
千棘「……」
弁護士「あと第二腰椎が損傷してる、と。下肢への影響はまだ不明ですが、暫く、下手したら一生。車椅子を使って生活するようかもしれませんね」
弁護士「大腸の件と併せて、消化器系はだいぶ困ったことになってます。日常生活に影響の出るレベルでね」
千棘「……うそでしょ」
弁護士「さらにね、急性腎不全の症状も見られるようです」
弁護士「排尿障害が出ていますから、ペニスにカテーテル、ビニールの管みたいなものですね」
弁護士「これを使用して尿を対外に排出したりするようですね」
弁護士「外傷性のものですから、一時的なものになるとは思われますが、実際のところ要経過確認と言ったところですか」
弁護士「以上の診断結果により、あなたが一条楽さんに負わせた負傷の詳細については」
弁護士「全治不詳カッコ医師の診断が未了のため、から」
弁護士「全治不詳カッコ負傷部位の損傷が甚大であるため、に変化したわけですね」
弁護士「一応検察の方では、今のところ殺人未遂での再逮捕は検討されていないようですよ。よかったですね」
千棘「じゃ、じゃあ、楽、は」
弁護士「ええ。極めて高い確率で、もはや普通の日常生活を送ることは出来ません」
弁護士「貴女は暴力団の大事な跡継ぎを傷物にして、再起不能にしてしまったんですねー」
今更ながらこの>>1はアイマスで法律SS書いてた人?
弁護士「貴女のお父さんの属されている組織は、どうやらこの暴力団よりも規模が大きいようですけれど」
弁護士「所詮日本においては外様の組織です。地場のヤクザを本気で怒らせてしまっては分が悪すぎる」
弁護士「それは直接的な抗争と言う形での不利であったり、日本で築き上げた経済的インフラが見返りなく破壊されると言う形でもある」
弁護士「”集英組が本気でいやがらせをしたら、ビーハイブ日本支部は倒産して、失業した構成員がビーハイブ本部に報復を考える”」
弁護士「誤解を恐れず、若干的外れな表現を含めて言ってしまえば、こういう恐れがある問題だと言うことです」
弁護士「もちろん、自分の娘が殺人未遂を犯したと言う点では、貴女のお母さんの社会的信用も大きく揺らぐ」
弁護士「お二人はその事後処理に奔走なされています」
千棘「……し」
弁護士「”仕事より、私のことが大事じゃないんだ”なんて、聞き分けのない事を言わないでくださいね」
弁護士「お二人の下には、何千人、何万人と言う方々が、守るべき家族を持って働かれているんです」
弁護士「自分の娘かわいさに、そういうものを投げ打つ事は、どう考えたって正しくはありませんよ」
千棘「……」
千棘「……パパ、ママ」
弁護士「……ちなみに」
弁護士「私のような弁護士が雇われたのも、そういった関係からだと思われます」
弁護士「優秀な弁護士を付けるという事は、それだけ罪を逃れようとしていると取られても仕方がないですからね」
弁護士「暴力団の方々への、”オ・ト・シ・マ・エ”のひとつとお考え頂ければ。私としては屈辱的ですけれど」
弁護士「まあ、暴力団寄りでない、中立な弁護士が付いただけでも、ありがたいと思っていただいて……もしもし?」
千棘「パパ……ママ……」
千棘「………ごめんなさい……っ」ポロポロ
確かに悪い事したのに親が金出したから「はい、保釈ね」じゃあ更正も何もないな
~ 深夜 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
楽「……」
楽「……」
楽「……」
楽「うっ……」ビチャ ビチャ
楽(腹の穴の中から、ウンコが飛び出してきた)
楽(点滴しか打ってなくても、出るもんなんだなー……)
楽(…………)
楽(…………)ビチャ ビチャ
楽(ってか、痛ぇ)
楽(臭いし)
千棘ェやらかしちゃったなあ
楽(……ウンコの臭いじゃないか)
楽(俺の体臭だ)
楽(看護婦さんは体拭いてくれるけど)
楽(ビニール処理して風呂入るのって、すげー手間で申し訳ないしなー……)
楽(…………)
ビチャ ビチャ
~ 翌日 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
楽(……)
楽(……今日も、ろくに眠れなかったな……)
チンピラ3「そんでねぇ、あん時こいつが……」
チンピラ4「ちょ、坊ちゃんの前でやめろよ、こいつっ」
チンピラ3「いいじゃねえかいいじゃねえか」
楽(……)
楽(……小野寺)
―― 一条君が
―― 一条君が!!
―― 障害者になっちゃったよっ!!!
楽(……あの時の小野寺)
楽(俺の事を恐れるような、蔑むような、そんな表情をしていた気がする)
楽(俺の存在を認めたくないような? 否定したいような? とにかく、すげーマイナスな感情がにじみ出てて)
楽(……ま、しゃーないよな)
楽(小野寺は、すげー優しい奴だけど)
楽(得体の知れないモンは、人間誰だって、やっぱり怖ぇーよ、嫌だよ、否定したいよ)
楽(……)
楽(……)
楽(……俺だって)
チンピラ3「それでねー………坊ちゃん?」
楽「俺だって、嫌だよ……」
楽「こんな、体っ……」ボロ ボロ
~ 深夜 凡矢理総合病院 ~
楽「……」
楽(……AM2:00って、何時だっけ)
楽(……いや、二時か)
楽「……」
楽(……夜は、嫌だな)
楽(……色々と、思い出しちまって……)
楽「……」
ビチャ ビチャ
楽「……」
―― 一条君が!!
―― 障害者になっちゃったよっ!!!
楽「……」
―― アンタねぇぇぇぇ!!!!
楽「……」
楽「……」
ショォォォオ
楽(……)ズキッ
楽(……カテーテルが刺さってると、小便するたびにこれだ)
楽(痛みが走るたび、目が、覚め、ちまっ、て……)
楽(……)
楽(……zZ……)
マリーどこいった
―― 一条君が!!
―― 障害者になっちゃったよっ!!!
―― ストーマ……人工肛門を敷設します
―― いえ、必要ならば一生
―― そういうわけではありません
―― 外出、通学くらいであれば
―― ビニール袋とカテーテルを
―― 便を貯めるものです
―― 車椅子に付ければ負担には
―― そうですね、歩くのは……
―― 一条君が ―― 一条君が
―― 一条君が ―― 一条君が
―― 一条君が ―― 一条君が
―― 一条君が
―― ショウガイシャニナッチャッタヨ
楽「ッ!?」ガバッ
楽「……」
楽(また、夢……)
楽(夢、ですらねえか……嫌なイメージばっかり渦巻いて)
楽(寝てるのかも起きてるのかもわからない時間が、ずっと続いて)
楽(せめて、朝になってくれれば、気もまぎれるのに……)
《AM 2:11》
楽(なんで……)
楽「なんで時間が経つのが、こんなに遅いんだよっ……!!」
~ 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
楽「……」
春「せ、せん……ぱい」
楽「……よ。春ちゃん。久しぶり」ゲッソリ
春「久しぶり、じゃないですよ……どうして、こんな」
楽「……一応、病気で入院してるんだ。そうそう元気にはならないよ」
春「っ、そんな嫌な言い方、しなくたってわかりますけどっ」
春「これって、やっぱり、私のせい、なんで、しょうか……」
楽「せい、って?」
春「私が、余計なことを、させちゃったせいで……」
春「お姉ちゃんにも、せんぱいにも、ひどい思いをさせて」
春「ずっと反省してたんです」
春「でも……」
楽「……よせよ、春ちゃん」
楽「仕方なかったんだ。誰も悪くなんか」
春「悪いですよっ!!」
春「全部私のせいじゃないですか、何なんですかその殊勝な態度!?」
春「もっと怒ってくださいよ!! 私が台無しにしたんですよ!?」
楽「……春ちゃん、落ち着けって、急にどうしたんだよ」
春「お姉ちゃんはっ!!」
春「お姉ちゃんはあの後、今度こそ本当におかしくなっちゃってっ」
春「部屋の中でずーっと、ずーっと自分を責め続けてるんです」
春「一条君に酷いこと言っちゃった、一条君に嫌われちゃった、一条君が一条君がって」
春「本当はもう分かってるんでしょう!?」
春「お姉ちゃんは、小野寺小咲は」
春「一条先輩のことが本気で大好きなんですよっ!!!!」
ホント只のインフルとかでも入院してる時の時間の遅さは嫌になるよな
何の娯楽も無く保健所の犬扱いだし
楽「……」
春「先輩だって、お姉ちゃんのことが大好きなんですよね」
春「だからこの前だって、お姉ちゃんのために、無理してあんな芝居を打ってくれたんでしょう!?」
春「私のことはいくらでも憎んで、蔑んで、嫌いになってくれて結構です」
春「だけど、お姉ちゃんは悪くないの」
春「お願い」
春「せんぱい」
春「お姉ちゃんのことを」
春「許して、あげ、て……」
楽「……」
楽「……」
楽「……」
楽「あのさぁ」ギロッ
春「っ」ビクッ
楽「いきなり人の病室に来て、何をまくし立てるのかと思えば」
楽「テキトーな事ばっか並べ立てやがってさぁ」
楽「何様のつもりだよ、お前」
春「せん……ぱい……?」
楽「さっきから聞いてたら」
楽「なんだかんだ理屈並べて」
楽「結局、自分が許されたいだけじゃん」
春「そんな」
楽「そんな、じゃないだろ。」
楽「俺にしこたま怒鳴られて、ごめんなさいってメソメソ泣いて、それで手打ちにしたいってそういう話だろ」
楽「自分の空回りと失敗をなかったことにしたいから」
楽「小野寺が俺の事を好きだとか、そんなホラ話を思いついたんだろ」
楽「集か誰かに聞いたのか知らないけどさぁ」
楽「俺の気持ちまで弄んでさぁ」
楽「そこまでイイモン気取りしたいのかねぇアンタはさぁ!!!!」
楽「お望みどおり怒ってやったらくっだらねえ反論!!」
楽「優しく接してやってもダメ!! 言うとおりにしてやってもダメ!!」
楽「じゃあどうしてやれば満足してもらえるんですかねぇ!?」
春「う……ち、違うんです、違うんです違うんです」
春「わ、私、は、いつも通りの、いつもの先輩に、戻ってほしかっただけで」
ブチッ
春「だ、だから私、そんなつもりじゃありません!! 言いがかりはやめて下さい!! それに私、嘘なんか!!」
楽「あーあーあーもーこれだよ」
楽「ブッ殺すぞてめぇ」ブンッ
春「ひッ」 ガッシャーン
楽「いつも通り? いつも通りの俺?」
楽「そんなもん」
楽「もうこの世のどこにもいねーだろうが」
楽「桐崎千棘と」
楽「お前のおかげでさぁ!!」ブンッブンッブンッ
春「嫌っ、いや、やだっ誰かぁー!!」 グシャ グシュ ガシャーン
ドヤドヤドヤ
チンピラ1「どうしました、坊っちゃん」
チンピラ2「出入りですかい、出入りですかい」
チンピラ3「坊っちゃんの敵はどこだぁ!?」
ドヤドヤドヤ
楽「……何でもねーよ。ちょっと虫が出ただけだ」
チンピラ1「……しかし」
春「…………訴えてやる」フーッフーッ
楽「……」
春「そうよ、所詮間違いだったのよ」フーッフーッ
春「こんなチンピラ共の親玉の一族が」
春「私のお姉ちゃんと一緒になるなんて許せるはずがない」
春「絶対に、組織ごとまとめて、ブッ潰してやる……」
チンピラ2「まとめて……ああ、虫の話ですかい」
チンピラ3「確かにこの病院、設備はデッカイが建物が古くてのー」
チンピラ3「ゴキブリの巣の10や20、あってもおかしかないでしょうや」
チンピラ2「兄貴ィ、ここはやっぱり、デッカイ殺虫剤でも炊いて……」
チンピラ1「……ん、ああ。でもしかしなあ」
チンピラ1「坊っちゃんの口に入る”和菓子”に、”薬”でも混じったらコトやぞ」
チンピラ1「そうは思わんかね、”お嬢ちゃん”」
春「……」
春「……ぃ」
春「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!!」ダダダダダダッ
チンピラ1「……どうしやす」
楽「……いい」
チンピラ2「坊っちゃん……」
チンピラ3「クソッ、あの女、黙っていりゃあ好き勝手……」
チンピラ1「止せ。坊っちゃんが良いと言ってる」
チンピラ3「だけどよぉ、兄貴ィ」
楽「……いいんだ、ありがとう」
チンピラ1「……」
~ 深夜 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
―― お姉ちゃんは、小野寺小咲は
―― 一条先輩のことが本気で大好きなんですよっ!!!!
―― 一条君が!!
―― 一条君が!!
―― 障害者になっちゃったよっ!!!
ガバッ
楽「っ、は、はぁ、はぁー、はぁー……」
楽「……」
《AM 2:26》
楽「……っ、うっ、う、ううっ……」
~ 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
集「……噂」
集「聞いてる?」
楽「……いきなり、なんだよ」
集「俺もさっき聞いたばかりの、くっだらない噂話なんだけどさー」
集「お前がその……ブッ飛ばされた関係で、学校に来れなくなったから」
集「憂さ晴らしに、自分のトコの組員を使って、仲の良かった女の子を軒並み浚って、夜な夜な御奉仕させてるってウ・ワ・サ」
楽「……お前がそう思うなら、そうなんだろ」
集「バカ言うなよ。お前にそんなカイショー」
楽「……あるかもな」
集(ビクッ)
楽「……悪ぃ」
集「……あんまり、脅かさないでくれよ」
集「……きり、崎は、当然警察に捕まってる。面会も制限されてるらしいから、学校の関係者は誰も様子を知らない」
集「……小野寺も、るりちゃんも暫く学校には来てない。誠士郎ちゃんもだな」
集「ポーラちゃんも近々、帰国することが決まったってさ」
集「居ないと言えば、万里花ちゃんも見てないな」
楽「……そっ、か」
集「とにかく、根も葉もない噂だとは思ってるんだけど、状況が悪すぎるんだ」
集「事件について新しい話もないし、こうも楽の周りの女の子ばかり居なくなってると……」
楽「……好きにさせとけよ」
集「おいおい」
楽「どのみち、ヤクザの息子って噂が広がってるようじゃ、学校には戻れねーし」
楽「好奇の視線で見られながら、この体で学校生活なんて、無理だろ」
集「そんな事言うなってば」
集「俺だってちゃんと、楽が戻れるように頑張るからさー」
集「元通りとまではいかなくても、できるだけ”いつもの楽に”――」
集「――あっ」
楽「あ?」
集「あ、いやあ、俺も楽との学校生活を楽しみたいって」
楽「つまんねぇ嘘吐くなよ」
集「……」
楽「春ちゃんからか」
集「……鋭い男は長生きしないぞー。ストレスばっかり溜まっちまう」
楽「春ちゃんにある事ない事吹き込まれたから、確認がてらの鎌掛けにきたってワケだな」
集「そういきり立つなって。驚いたのはホントだし、似たよーな噂が流れてんのだってホント」
集「本気でお前の味方したくて、お前の気持ちを確かめたかったってのも、本当だよ」
楽「……迷惑なんだよ、そういうの」
集「……」
楽「友達ヅラして何かにつけて俺のため俺のためってさ」
楽「毎回お前には引っ掻き回されてばっかりだった」
楽「今回だってそう」
楽「俺がどんな思いで、小野寺への気持ちに整理つけようとしてんのか」
楽「わかんねぇだろうなあ」
楽「女のケツ追っかけまわしてちゃらんぽらんな事ばっかりやってるお前にはさぁ」
楽「楽しいだろうなぁ、善人ヅラして障害者の面倒見てやってる自分に酔うのはさぁ!!」
集「……」
楽「帰れよ」
集「……」
楽「二度とここに顔出すんじゃねえ」
集「……」
楽「出てけよ!!!!」
集「……分かったよ」
バタン
集「……」
集「……」
集「……楽」
集「……馬鹿野郎……っ」
~ 深夜 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
ガバッ
楽「……」
楽「……」
《AM 2:38》
楽(……もう)
楽(朝とか夜とか、何日経ったとか、起きてるとか寝てるとかそういう感覚が全然なくなってきた)
楽(春ちゃんはもちろん、集もこの病室には来なくなった)
楽(……どうでもいいか)
楽(考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃして眠れなくて)
楽(汚い夢を見て、更にいやな気分になって)
ビチャ ビチャ
楽(……こんな時でも、ウンコは吹き出すし)
楽(……)
楽「こんなも……ん」グッ
楽「痛っ……」
楽(……)
楽(……はは)
楽(結局)
楽(強がってみたって、この状況から逃げられるわけじゃないんだ)
楽(怒りに任せてウンコ袋を引きちぎったって)
楽(くさいだけで)
楽(結局、いつ終わるかも、終わらないかもしれない)
楽(こんな思いを、いつまで)
楽(いつまで……)
楽(……)
楽(……もう)
楽「もう嫌だ」
楽「もう嫌だよ……」
楽「朝が来るまで」
楽「どんだけ苦しい思い、しないといけないんだよ……!!」
「あら」
「朝まで待つ必要は、ございませんことよ?」
カチッ パァァァァァァ
楽「ぎゃっ!?」
「いやだ、私ったら、失礼いたしました」
「眩しかったですよね、ごめんあそばせ」テヘッ
楽「……」
楽「なんで」
楽「なんで」
「その『なんで』は、何処に掛かる『なんで』なのでしょう?」
「私がここに居る理由なら」
「聞き返す必要などないでしょうに」
楽「いや……お前、なんで」
「もぅ、どうしても、私に言わせたいのですね。意地悪なお方」
「それは、もちろん」
万里花「お慕い申し上げているからですわ、楽様♪」
つづく
~ 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
万里花「~~♪ ~~♪」
楽「やめ、やめろって……」
万里花「だーめ、ですよ、楽様」
万里花「お風呂に入れないときは、自分でも分からない位垢が溜まっているものなのです」
万里花「楽様だって、あまり汚れた体を看護婦さんに磨かれるのは、お嫌でしょう?」
楽「だからって」
楽「なんでお前に拭かれなきゃっ」
万里花「それはもちろん」
万里花「楽様のために、ばっちり勉強してきたからです」ニパー
楽「べ、勉強?」
万里花「もちろんです」
万里花「この私、楽様の生涯の伴侶として恥じることのないよう」
万里花「様々な花嫁修業をこなして参りましたの」
万里花「旦那様が不慮の事故、傷病などによる入院、介護が必要になった場合でも」
万里花「心身のアフターケアが行えるよう、様々な技術を習得しておりますので」ビシッ
楽「んな、特約たっぷりの生命保険じゃあるまいし……」
万里花「うふふ、私の見舞金は即日払いですのよ、楽様ー♪」ギュー
楽「うわ、やめろお前、抵抗できないのをいいことに、こらっ」
万里花「楽様ー♪ 楽様ー♪」
~ 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
楽「……で」
楽「これは」
重箱(ドヤァァァァァ)
汁物(ドヤァァァァァァ)
洋菓子(ドヤァァァァァ)
万里花「私謹製、楽様専用の快復料理です」
楽「いや、俺病院から病院食が」
万里花「あんな味が付いてるのかどうかもわからないパッサパサした物食べてたら、治る物も治らなくなってしまいますわ」
楽(そんな事はないと思うが)
万里花「一応、ここの料理人の顔を立てて、許可はもらっていますの」
万里花「どうぞご心配なさらず、食べられるだけ召し上がってくださいませ」
楽「……」
万里花「?」ニコニコ
―― 一条君が!!
―― 障害者になっちゃったよっ!!!
―― いつも通りの、いつもの先輩に、戻ってほしかっただけで
―― 元通りとまではいかなくても、できるだけ”いつもの楽に”
―― ”いつもの”
楽「……」コト
楽「……悪りぃけど、いいわ」
万里花「……楽様?」
楽「食欲無ぇんだ」
万里花「全く箸もつけられないほど、なんですの?」
楽「……ああ。だからそれはお前が」
万里花「じゃあ残念ですけど、捨てるしかありませんわね」
重箱「」ドジャー
楽「お、ちょおい橘さん!?」
万里花「食欲が湧かれましたの!?」
楽「いや湧かないけども!! 何捨ててるのお前もったいないな!!」
万里花「そう言われましても……」
万里花「このお弁当は全て、楽様専用にお作りしたものですので」
万里花「私を含め、楽様以外の者の舌に触れるのは、私のプライドに賭けて耐え難いものが……」
万里花「やはり捨てるしか」
重箱「」ドジャー
楽「わかった!! 分かった食べるから!! 捨てるの待って!!!!」
万里花「食べてくださるのですね!?」パァァァァァ
楽「食べます! 食べますから!! その捨てかけてる奴こっちによこせ!!」
万里花「あ、これはダメです」
楽「何でだよ!? 捨てかけてる奴だからか? 綺麗な部分はちゃんと」
万里花「いえ、この段のお重は、楽様がごねた時に捨てて見せる用の、食べられないお重なので」ドジャー
楽「……」
重箱「」ニダンメェェェェ
万里花「はい、楽様、あーん♪」
~ 凡矢理総合病院 中庭 ~
カラカラ カラカラ
万里花「痛みませんか、楽様?」
楽「……おぅ」
カラカラ カラカラ
万里花「これは手動のものですけれど、最近は、電動車椅子なんてのもありますのよ」
万里花「時速15kmくらい出るものもあるとか、ないとか? 普通に走るより余程便利ですわね」プッフー
楽(笑い所、あったか……?)
カラカラ カラカラ
万里花「まあ、そんなもの無くても、私がいれば、楽様をお好きなところにお連れできますわ」
万里花「楽しみにしていて下さいね」ニコッ
楽「……」
カラカラ カラカラ
楽「……はぁ」
楽「なんつーか、力が抜けちまうっつーか……」
万里花「?」
楽「前向きなのな、お前」
楽(……そう)
―― いつも通りの
―― いつもの
―― 元通り
―― 戻って
楽(他の奴等みたいに)
楽「元通りにがんばろう、とか」
カラカラ
楽「いつも通りに戻ろう、みたいな」
カラ カラ
楽「そういうこと、言わないし」
ピタ
万里花「……あぁ」
万里花「言いませんよ」
万里花「だって」
万里花「元になんて、戻れませんもの」
楽「……ぇ」
楽「……そんな、こと」
万里花「楽様にだって、お分かりでしょうに」
万里花「こうなってしまった以上、元の生活を取り戻すことなんて、できはしないって」
楽「……なんだ」
楽「やっぱりお前も、春ちゃんか集から」
万里花「何も聞いていませんよ」ニコ
楽「そんなっ」
万里花「ただ、想像はつきますわ」
万里花「楽様が、今までの自分と、現実の自分の隙間を埋められずに」
万里花「苦しんで、苦しんで、どうあがいても苦しくて」
万里花「それでも周りの人間は、意に沿わない気休めばかりしか言ってくれなくて」
万里花「時には当り散らしたり、食って掛かったり、暴れたりしてしまって」
万里花「その後悔と、だんだん味方を失っていく恐怖に押しつぶされそうになって」
万里花「余計に苦しくなって」
楽「もういい!!!」
楽「何なんだよ……」
楽「何で」
―― 結局、自分が許されたいだけじゃん
―― ブッ殺すぞてめぇ
楽「なんで」
―― 友達ヅラして何かにつけて俺のため俺のためってさ
―― 楽しいだろうなぁ
―― 善人ヅラして障害者の面倒見てやってる自分に酔うのはさぁ!!
楽「なんで……」
ポロ ポロ
楽「なんで……分かっちまうんだよ……」
花嫁修業にはカウンセリングの勉強も含まれるのか
万里花「……」フゥ
万里花「簡単なことですわ」
楽「……?」
万里花「体の自由が利かなくなって、病院から出られなくなって」
万里花「ずっとずっと、辛い思いをするのも」
万里花「世の中の全てを憎むのも」
万里花「何もかも失ってから、絶望するのも」スッ
楽「……橘」
万里花「そして、どん底から救い出されるのも」
万里花「全部、私のほうが、せんぱいですから」ニコッ
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
つぐみ「……」
つぐみ(結局、私は傍観しているだけだった)
つぐみ(……後悔はしている)
つぐみ(私は怖かった)
つぐみ(春様や舞子集のように、一条楽に拒絶されるのが、怖かったのだ)
つぐみ(橘万里花のように、一条楽を慰めてやる自信がなかったのだ)
つぐみ(それでも……)
つぐみ(いつもの一条楽を、取り戻したのが)
つぐみ(自分でなかったことが、たまらなく、苦しい……)
こういうシリアス嫌いじゃないけど、結局は特定キャラのために他キャラを徹底的に扱き下ろしてるだけなんだよな
つぐみ(……)
つぐみ(いつもの一条楽……か)
つぐみ(いつもの……)
つぐみ(……”いつもの”)
つぐみ(ヒットマンとして育てられてきた何年もの経験に比べれば)
つぐみ(わずか一年足らずの、ここでの暮らしなど、取るに足らないお遊びに過ぎん)
つぐみ(いずれは……)
つぐみ(いや、お嬢がいない今、既にここに私の”いつも”などないはずだ)
つぐみ(……)
つぐみ(……何を考えているのだ、私は)
つぐみ(馬鹿馬鹿しい)
つぐみ(結局、一条楽には、何もしてやれなかった)
つぐみ(お嬢にも、して差し上げられることなど、今の私には多分ない)
つぐみ(……集英組のことだって、私が感知する話ではない。私には任務が付与されているのだし)
つぐみ(後はもう、クロード様の命じられたとおり、国外に脱出すればよいだけだ)
つぐみ(何も余計なことを考えることはない)
つぐみ(何も、余計な真似をして、いたずらに傷を深めることなど……)
つぐみ(……)
つぐみ(……)
つぐみ(……そうか)
つぐみ(傷、なのか……)
~ 翌日 凡矢理高等学校 ~
生徒「……」スッ
生徒「……」スッ
つぐみ「失礼、そこの女子」
後輩女子「」ビクゥッ
つぐみ「この教室に、ポーラ・マッコイと言う女生徒がいるはずなんだが」
後輩女子「い、い、ひぃぃぃぃっ」ダダダッ
つぐみ「あっ、おい待て……っ」
教師「……何をしている」
つぐみ「……後輩のポーラ・マッコイに用事がありまして」
教師「ポーラ・マッコイなら転学した。それよりも、今の女子に何を」
つぐみ「私は何もしていません」
教師「……」チッ
教師「教室に戻れ。自分の立場がわからん訳ではないだろう」
つぐみ「……はい」
>>157
千棘は流石に擁護できない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガヤガヤ ガヤガヤ
つぐみ「……」
ガラガラ
男子「そんでさー……ぁっ」
男子2「え……あ!!」
女子2,3,4『』ビクッ
シーン
つぐみ(……嫌われたものだな)
つぐみ(挨拶をしろとまでは言わんが、こうもあからさまに変わるものか)
つぐみ(……いや)
つぐみ(変わっているのは、私のほうも同じか)
つぐみ(今までは、お嬢がいて、一条楽がいて、皆がいて……)
つぐみ(他の誰かのことなど、大して気にも留めていなかったような気がする)
つぐみ(……初めから、こうだったのかも知れんな)
つぐみ(私の”いつも”は)
つぐみ(きっと、私以外の誰かが、形作っていたと言う事で……)
集「お、おっはよー、誠士郎ちゃーん」
ビクッ ビクッ
つぐみ「……舞子集」
集「久しぶりじゃん。病院ではけっこう会ってた気、したんだけど」
つぐみ「ああ……その……」
集「いーよ、いーよ。俺だってショックだったもん。誠士郎ちゃんだって辛かったよな」
ザワ ザワザワ
つぐみ「私、は」
集「毎日、毎日泣きそうな顔で楽のお見舞いに来てたよな。見てられなかった、ホント」
生徒「おい、ま、舞子」
集「お前らも心配だったよな、なぁ?」
男子「あ……そ、そうだな」
男子2「お、おう、と、当然だろ」
女子2「つぐみちゃんも、怖かったんだよね……」ギュッ
女子3「もう大丈夫だよ、つぐみちゃん!!」ギュッ
女子4「つぐみちゃん、私、私ぃっ……!!」ギュッ
ガヤガヤ ワイワイ
つぐみ(……女は、怖いな……)
~ 昼休み 凡矢理高等学校 校舎裏 ~
集「どーしたのさ、こんなとこまで呼び出して。もしかして俺に愛のこ・く・は」
つぐみ「……すまなかったな」
集「ん?」
つぐみ「私は、そんなに、痛そうな顔をしていたか」
集「……んー」
集「正直、それもあるけど」
集「俺と、クラスの奴等のためでもあるんだよねー、実際」
つぐみ「お前達の?」
集「結局のところ、不安なんだわ、みんな」
集「信じられないようなことが起こって」
集「あるべき日常がなくなって」
集「その鬱憤を、どこにぶつけていいのかも、わからないから」
つぐみ「……」
集「本当はさ」
集「皆、何事もなかったみたいに、元に戻りたいんだよ」
集「俺はちょっと、その後押しをしただけ」
つぐみ「元、に……」
つぐみ「……”いつもの”か」
集「……ほんとに、どっかで聞いてたの?」
つぐみ「……すまない。盗み聞きのような真似を」
集「別にいーよ。俺もあの時は、ちょーっと取り乱しちゃったしさ」
集「気づかなかった俺も悪いんだって」
つぐみ「……腹は立たないのか」
つぐみ「気遣った相手に、あれだけあることないこと罵倒されて」
集「二度とあいつのために、何かしてなんてやるもんか」
集「このまま学校も退学して、一生顔も合わせないで」
集「俺の知らない所でくたばっちまえ」
集「そんな風にも思ったな」
つぐみ「……」
集「……でも」
集「一晩寝たら、そんなモン、どーでもよくなっちゃってさ」
集「俺もやっぱり、同じだったんだよ」
集「”いつもの”日常が、恋しくて仕方なくて」
集「あいつに、戻ってきてほしかったんだって」
つぐみ「……だから、ここに」
集「ああ」
集「あいつの戻ってくる場所を、残しておいてやらなきゃなって、思った」
集「そりゃムカついたよ」
つぐみ「……」
つぐみ(……ああ)
つぐみ(まだ)
つぐみ(無くなっていなかった)
つぐみ(私達の)
つぐみ(私の)
つぐみ(”いつもの”日常……!!)
つぐみ「……グスッ」
集「ちょ、誠士郎ちゃん」
つぐみ「グッ……ぐ、な、何でもないんだ」
つぐみ「ただ」
つぐみ「私とお嬢の”いつも”は」
つぐみ「まだ無くなっていないんだと分かって、うれしく、て」
残念ながらお嬢のはもう完全にないな
集「……いや」
集「ごめん、それは無理」
つぐみ「……ぇ?」
集「いや……逆に何で?」
つぐみ「ぇ、だって、えぇ?」
つぐみ「舞子集、さっきお前は、私を助けて」
集「そうだよ?」
つぐみ「だから、私とお嬢の、日常がっ」
集「……桐崎は、無いわ」
集「悪いけど。」
つぐみ「そんな」
つぐみ「だって」
つぐみ「舞子集」
つぐみ「お前と一条楽の”日常”には、お嬢は居なかったのか」
つぐみ「お前達と、私達の」
つぐみ「お前達にとって、お嬢は、その程度の存在でしかっ」
ですよね~
集「なあ誠士郎ちゃん!!」
つぐみ「っ!」
集「誠士郎ちゃん」
集「ねえ」
集「その程度って何?」
つぐみ「……」
集「何で」
集「今、皆が何で、こんなことになってるか、分かって言ってる?」
つぐみ「それ、は」
集「楽が、るりちゃんが、万里花ちゃんが、ポーラちゃんが」
集「小野寺も春ちゃんも、クラスの奴等も」
集「俺や誠士郎ちゃんが、ずっと苦しんでるのも」
集「全部桐崎のせいじゃん」
まあ後遺症残るレベルのダメージ負わせた相手と一緒は無理があるだろ・・・
つぐみ「……」
集「るりちゃんは優しかったよ」
集「今回の原因が、俺達全員にあるって、そう言った」
集「でもさぁ」
集「そんな風に本気で考えられるほど」
集「俺はデキた人間じゃないし、大人でもない」
集「俺の親友をボコボコにして、心も体もボロボロにした桐崎の事が」
集「はっきり言って」
集「憎い」
つぐみ「……だ、だが!!」
つぐみ「一条楽は、お嬢の事を許すかも知れない!!」
つぐみ「だって、お嬢は、一条楽の、恋人なんだぞ」
つぐみ「この世で一番大切な女性のことを、許せないと思うか!?」
集「……」
つぐみ「そうとも、きっと一条楽は、お嬢の事を許すさ」
―― 俺だって、嫌だよ
―― こんな、体っ……
そういえば知らないんだったw
つぐみ「今は傷のショックで、心が混乱しているだけで」
―― なんで時間が経つのが、こんなに遅いんだよっ……!!
つぐみ「いずれお嬢と、手を取り合って」
―― いつも通り?
―― いつも通りの俺?
つぐみ「いつも通りの、笑顔を、私、に――」
―― そんなもん
つぐみ「……」
―― もうこの世のどこにもいねーだろうが
集「……」
つぐみ「……」
集「……誠士郎ちゃんが、何を考えて、どうしようと、かまわないけど」
集「俺は、楽の味方だから」
集「どうしても桐崎の味方をしたいのなら、俺達の知らない所で、好きにやってくれ」
集「……それじゃ」
スタスタ
つぐみ「……待って」
スタスタ
つぐみ「……待て、舞子集」
スタ
つぐみ「私は」
つぐみ「私は、どうすればいいんだ」
つぐみ「私の日常は戻ってこないという」
つぐみ「新たな日常にお嬢の居場所はないという」
つぐみ「じゃあ」
つぐみ「私は」
つぐみ「何処にいればいいんだ……!!!」
集「……切り捨てるしかないだろ」
集「桐崎のこと」
つぐみ「!!」
集「出来ないだろ」
集「でも、誠士郎ちゃんは、同じくらい俺達におかしな事を強いてる」
集「桐崎のしたことを、全部忘れて、友達ヅラしてニコニコ付き合えって言ってるんだ」
集「……プロの殺し屋ぐらい、心が冷たくなくちゃ、そんな風に割り切ること、できないんじゃないの」
つぐみ「……」
集「……話はそれだけ?」
つぐみ「……」
つぐみ「……じゃあ」
集「?」
つぐみ「対価を積めば、お前も、割り切ってくれるのか」
ブチブチブチッ
つぐみ「ほら、舞子集」
つぐみ「お前がいつも物欲しそうに見ていた、私の乳だ」
つぐみ「自由にしてかまわん」
集「……」
集「」フイッ
スタスタ
つぐみ「何処へ行く、舞子集」
スタスタ
つぐみ「なんなら、それ以上の事をさせてもいい」
つぐみ「何度でも、いつまででも、付き合ってやるから」
スタスタ
つぐみ「待ってくれ」
スタスタ……
つぐみ「待って……」
つぐみ「……」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
ポーラ「……いつまでそんなカッコしてんのよ」
つぐみ「……ポーラ」
ポーラ「ぽーら、じゃないわよ」
ポーラ「こんなトコで、でっかい乳放り出してさ」
ポーラ「って言うか、正気? ジェシカ姐さんだって言ってたじゃない」
ポーラ「”バージンは一発必中、乙女の最後の切り札よ”ってさ」
ポーラ「一条楽でも集英組のお偉いさんでも、最低限学校のお偉いさんでも」
ポーラ「使いどころはいくらでもあるってのに、こんな真似」
ポーラ「……やっぱり、もうろくしちゃったのかしら」
つぐみ「……お前には、わかるまいよ」
つぐみ「私達の、気持ちなど」
ポーラ「……はぁ」
ポーラ「ばっかみたい、色々と」
つぐみ「……」
ポーラ「……ねぇ、黒虎」
ポーラ「あんたの気持ちなんて、確かに私には、わかんないよ」
ポーラ「私はもう」
ポーラ「生き方を変えることなんて、できないから」
ポーラ「殺し屋として生きて」
ポーラ「殺し屋として、一人寂しく、野垂れ死ぬしかないんだから」
つぐみ「……」
ポーラ「あんたは今、苦しいかも知れないけど」
ポーラ「すごくすごく苦しいかもしれないけど」
ポーラ「自分で、自分の死に方を選べるんだ」
ポーラ「……もっと、大事にしなよ。自分の事」
つぐみ「……偉そうに」
ポーラ「偉いわよ」
ポーラ「他に無いからとはいえ、私は生き方を自分で決めているもの」
ポーラ「グズグズいじけてるあんたより、数段偉いでしょ」
つぐみ「……」
ポーラ「……」
ポーラ「ねえ」
ポーラ「あたしの憧れだったあんたに、ひとつプレゼント」
ポーラ「自分探しのヒントをあげる」
つぐみ「……?」
ポーラ「考えて御覧なさい」
ポーラ「お嬢様があんな事になって。どうして私が無事で居られると思う?」
ポーラ「それどころか、お嬢様の正規のお付であるあんたが」
ポーラ「お嬢様を止められなかったあんたが、逃がしてもらえたのは何故?」
ポーラ「言い換えれば」
ポーラ「この事件の責任は、誰が取ったと思う?」
つぐみ「……」
つぐみ「……」
つぐみ「……ポーラ」
ポーラ「はーい?」
つぐみ「……いつ、なんだ」
ポーラ「今日これから。真っ最中かもね。場所は私も知らないけど」ドンッ
ポーラ「きゃ」
ポーラ「……あーあ」
ポーラ「恨まれちゃうわね、きっと」
メガネの人か
ダダダダダダダダッ
つぐみ(もっと早く)
つぐみ(最初に気づくべきだったのだ)
つぐみ(まがりなりにも組織のヒットマンであるポーラが、この事態に安穏としていられたのは)
つぐみ(”奴は休暇で高校に通っていた、そもそもあの時、お嬢様を護る義務などなかった”から)
つぐみ(……春様や舞子集は私を責めなかったが)
つぐみ(組織同士の問題として、正式にお嬢の護衛に就いていた私は)
つぐみ(”集英組に報復されるのが当然だった”)
つぐみ(責任どうこうではなく、ただ感情論で殺されても、文句が言えなかったはずなのだ)
つぐみ(だがそうはならず、私は集英組の者からも目こぼしされ、こうしてのうのうと生きている)
つぐみ(何故? 答えは簡単)
つぐみ(私の他に、その責め苦を一手に背負った者がいるからだ)
つぐみ(日本の警察組織に囲われ、ビーハイブの者を含めて手出しできないお嬢に代わり)
つぐみ(私を国外に逃亡させる事を口実に、私を責任から遠ざけ)
つぐみ(当時の現場において、私と同等以上の責任を取れる地位にあり、また相応の任務を帯びていた人物)
つぐみ(それは……)
~ 集英組 奥の間 ~
バァン!!
つぐみ「クロード様ァァァァァァァ!!!!」
oh…
鳥肌立ったわ
これはいい伏線
つぐみ(私が息せき切って飛び込んだ、奥の大広間には)
つぐみ(不機嫌そうな顔で鎮座する、一条楽の親父様と)
つぐみ(いやらしいまでに盛装で鎮座ましましする、集英組のお偉方)
つぐみ(中央を囲うようにいきり立つ、下級組員と)
つぐみ(和装に身をまとい、腹にドスを生やしている、クロード様がいた)
クロード「……誠士郎」ゴフッ
クロード「お前には、指令を、出していた、はず、だが」
つぐみ「クロード様ッ……」
幹部「やめとけ」
つぐみ「……っ」
つぐみ(……つまるところ)
つぐみ(ビーハイブと集英組は、侍従長のクロード様に命を差し出させることで和解したのだ)
つぐみ(ここで私が手出しすれば、すべて台無しになることぐらい、分かっている)
つぐみ(分かっているんだ……そんなことはっ……!!)
親父「……傍に、居させてやれ」
幹部「っ、ですが」
親父「言ったろ。そのお嬢ちゃんも、楽の友達だ」
幹部「……」
親父「……お嬢ちゃん」
つぐみ「……はっ」
親父「看取らせてはやるが」
親父「楽に、このことは報せていない」
親父「わきまえろよ」
つぐみ「……ありがとう、ございます」
ボソボソ
組員「……さすが親父だぜ」
組員2「……よっぽど、残酷じゃねえか……」
つぐみ「クロード様……」ギュッ
クロード「……何故、こんなところに、いる」
つぐみ「申し訳、ございません」グズッ
クロード「……こんな、敵地のど真ん中で、感情を露にして泣くよう、俺は、教えたか」
つぐみ「……はっ」
つぐみ(クロード様の腹からは、とめどなく血があふれ出していた)
つぐみ(横に裂いた後、死に切れぬことのないよう、鳩尾に向け切り上げている。切腹の正式な作法だ)
つぐみ(クロード様らしい、律儀なことだ)
つぐみ(こうして、介錯する者もなく、腹を詰めさせられて)
つぐみ(弱って死んでいくのを見せ付けること自体が、落とし前、なのだろう)
つぐみ「……他に道は、なかったのですか」
クロード「……結局は、俺の失態だ」
クロード「お嬢様が、奴を殴り飛ばすのを、どこか楽しんで見ていた俺が、間抜けだった」
クロード「……俺も、お前のように、毒されていたのかも、知れんな」
つぐみ「……私、は」
クロード「いいんだ」ゲボッ
つぐみ「クロード様ァ!!」
つぐみ(大きく切り開かれた腹腔内からは、既に断裂した大腸と十二指腸がはみ出している)
つぐみ(茶色くはみ出しているのは便だろう。ものすごく、臭う)
つぐみ(そして、腹腔内が、便で満たされてぐちゃぐちゃだ)
つぐみ(こんなもの、どうしたって、もう助からない……)
クロード「はぁ、っ……なァ、誠士郎」
クロード「お嬢様は……俺を、恨んでいるかなぁ……」
つぐみ「こんな時に、何を、クロード様っ」
つぐみ(もう、いいだろう。もう十分だろう)
つぐみ(クロード様を、助けてくれ。いやせめて、もう殺してやってくれ)
つぐみ(どうして、どうしてお前らは、こうも無慈悲に人の死を眺めていられる)
つぐみ(本当の加害者であるお嬢は)
つぐみ(桐崎千棘は)
つぐみ(今も安穏と、塀の中で惰眠を貪っているというのに!!!!!)
クロード「お前が、羨ましかったよ、誠士郎」
クロード「俺では、お嬢様、を、笑顔には、させられ、なかったっ」ゴボッ
つぐみ「っ、クロード様」
つぐみ「やめて、クロード様、待って」
クロード「すまんな、もう、よくきこえん」
つぐみ「クロード様っ!!!!!」
クロード「せいしろう……」
クロード「ちとげおじょうさまを、たのむ」
つぐみ「待ってぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
つぐみ(……それから)
つぐみ(集英組の人間が、一人残らず掃けて)
つぐみ(物言わぬクロード様の身体が、だんだんと冷たくなって)
つぐみ(硬くなって)
つぐみ(流れ出した血が、生臭く香るようになるころまで)
つぐみ(私はクロード様を胸に抱いて、とりとめのないことを考えていた)
つぐみ(これだけ胸に埋めていたのに、女という事には気づいてもらえなかったな、とか)
つぐみ(せっかく最期にお話できる機会を頂けたのに、話したのはお嬢のことばかりで)
つぐみ(言って欲しかった言葉も、言いたかった言葉も、何も聞いてもらえなかったな、とか)
つぐみ(ふとポーラの事を思い出して、謂れの無い恨みを持って、すぐに打ち消してみたり)
つぐみ(けれどやっぱり)
つぐみ(最後に、クロード様の身体が、ゴミのように組の裏の池に沈められたときには)
つぐみ(また少しだけ、泣いてしまった)
このssのせいで自分が書いてるssが全く進まないじゃないですか
いやーもう
マリーageの話かと思ったら千棘sageだったでござる
シリアスあんまり得意じゃないけどこれは展開面白い
~ 翌日 凡矢理総合病院 一条楽 病室~
万里花「楽様、おはようございまーす♪」
楽「……ぁあ、おはよう」
万里花「むぅ。いつもみたいに”どわー、どうして朝から橘が!?”と騒ぎ立てて下さらないのですか?」
楽「だってお前、面会時間とか関係なく毎朝毎晩出没するし」
楽「夜中は夜中で勝手に汗拭いたりウンコ袋変えたり」
楽「もはや視界に入ってない方が異常事態なんだけど」
万里花「嬉しいです。ゆくゆくはあなたにとって、窒素のような存在になりたいですわ、楽様」
楽「酸素じゃないんだ」
万里花「空気中の75%は窒素ですもの」
万里花「実際の生命活動への寄与分よりも、貴方の胸の内を占めるウェイトで優位に立ちたいのです」
楽「ホントお前めんどくさいな……」
万里花「ありがとうございます」ニパー
千棘恵まれとる腦
楽達とはもとにもどれないだろうがこんなに思ってくれる人がいたら幸せだろ
~ 昼 凡矢理総合病院 一条楽 病室~
楽「……それでさ、春ちゃんだけじゃなく、集にも酷い事を言っちまって」
楽「橘の言う通りなんだ。俺は正直、ずっと苛立ってばかりで」
楽「集に言っちまった言葉は、全部が本当でもないけど、全部が嘘じゃない」
楽「俺の事を思い庇ってくれてた友達に、やっかみをぶつけちまったんだ、俺は」
万里花「ふむふむ」モグモグ
楽「……何食ってんの」
万里花「楽様の食べ残された卵焼きですわ」モグモグ
楽「いやお前、食べきったら次の日もっと増やしてくるから、申し訳ないけどある程度残すようにしてるんだけどさ」
楽「俺以外の口に入るのは嫌なんじゃなかったっけか、弁当」
万里花「でも、お腹が減ってしまったのです」モグモグ
楽「ああ、そうかい……」
便にこだわり持ちすぎw
安定のマリー
でも違和感のないマリー
楽「ってか、お前が言い出したんだろ、俺の悩みを聞かせろって」
楽「物食ってんのはいいけど、ちゃんと聞いてたのかよ」
万里花「??」
楽「?? じゃねえよ!!!! 今一生懸命話してただろうが俺!!」
万里花「だそうですけど、いかがです?」
集「照り焼きも美味いと思うよ」モグモグ
楽「」
集「よっすー。元気そうじゃん」
楽「」パクパク
万里花「楽様が毎日メソメソグズグズ嘆いていらっしゃったので、ご本人をお呼びしておきました」
万里花「この方が単純で、何よりも簡単でしょう?」ニコッ
楽「」パクパク
集「……楽ー」
集「悪かったな、俺」
ギュッ
集「お……お?」
楽「集……」
楽「ごめん、っ……!!」
集「……」
集「……」ポンポン
集「なぁに、いーのいーの」
万里花「……いいなー」
何か色々言われてるけど
暴力ヒロインのやってる事がもし一大事になったらみたいな話じゃん
~ 夕方 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
刑事「……」
万里花「はい、楽様。あんよがじょうず、あんよがじょうず」グイッ
楽「ぐをををををっ!?」
万里花「リハビリをお始めになると仰ったのは楽様ですよね?」
万里花「リハビリと言うのは甘いものではございませんの」
万理花「さあ、もう一度立ち上がるところから始めましょう」グイッ
楽「ぎゃああああああっ!?」
刑事「……彼は、大丈夫なのかね」
集「さー?」
集「でも、一時期より相当元気にはなりましたよ」
集「彼女のおかげでね」
刑事「……ああ」
万里花「リハビリを舐めないで下さいませ楽様ァァァァ」
楽「嫌ァァァァァァ」
~ 一条楽 病室 ~
楽「……取調べ?」
刑事「いや、一条君の想像するような取調べとは、ちょっと違うんだけどね」
刑事「桐崎千棘さんの暴力行為について、きちんとした裁判をするためには、被害者からも話を聞かないといけないんだ」
刑事「やった方が1発殴ったと言って、やられた方が10発殴られたと言っていたら、筋が通らないだろう?」
楽「まぁ……確かに」
刑事「……君から直接話を聞くのは、躊躇われたんだが」
刑事「今日の君の様子を見て、大丈夫かもしれないと思ってね」
万里花「……」
楽「……こいつ、外に出したほうがいいですか」
刑事「どわっ、いつの間に」
楽「……はは」
所詮ssだから良いが、ただのギャグ描写にムキになってるって現れでもあるからな
万里花「……私は、失礼しますわ」
楽「……」
楽「……え」
万里花「私に、聞く資格のあるお話では、ございませんもの」
万里花「楽様、刑事さんも、ごきげんよう」スタスタ
刑事「……思ったよりも、聞き分けは良い子なのだね」
楽「……」
楽(……橘……?)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
楽「……」
刑事「……という訳で、桐崎さんは、事件のことに関しては何でも喋ってくれるんだが」
刑事「君たちとの交友関係となると、さっぱりでね」
楽(……)
楽(橘)
楽(いつもだったら『私が楽様の御面倒を見て差し上げなくてはなりませんわ。刑事さんにそれができまして!?』)
楽(ぐらいの事は平気でのたまって、この場に留まろうとするだろうに)
楽(いきなり、なんなんだよ)
楽(……今更千棘……桐崎、に、義理立てするような奴でもないはずなのに)
刑事「……事件の背景をはっきりさせるためにも、どうしても聞いておかないとならないんだが……」
楽(……気に入らねぇ、って言うか……なんだろ、これ)
楽(俺)
楽(不安……なのか……? なんで……)
まあ気分はよくないわな
刑事「……一条君?」
楽「……ぅあ? はい」
刑事「……やはり、もう少し間を空けたほうがいいかな。すまんね」
楽「あ、いえ、事件のことは、なんかもう、大丈夫なんですけど」
楽(……いやいやいや)
楽(大丈夫なんかじゃねーし)
楽(何の整理もついてないし、考える事だっていっぱいあるのに)
楽(そっちに関しては、全然平気って言うか、他人事って言うか)
楽(ってか、何でこんな時に、橘の事ばっかり頭から離れねーんだよ……)
楽「……とにかく、すみません、大丈夫なんで、えっと、何の話でしたっけ、ははははは」
刑事「……まあ、君が大丈夫なら良いんだが」
刑事「二つほど、はっきりさせておきたい事があるんだ」
楽「……はい」
刑事「ひとつは」
刑事「君が、桐崎千棘さんと、特別な関係にあるのかどうか、という事」
楽「……関係あるんスか、今回の事件に」
刑事「……厳密に言えば、無いんだけどね」
楽「じゃあ……」
刑事「次の質問の根拠としては、一応聞いておかなければならない」
刑事「君は、彼女を許すか、否か」
楽「……」
刑事「希望通りになるかは別として、君には意思表示の権利がある」
刑事「彼女の事を厳罰に処するよう、我々に申し述べてくれてもいい」
刑事「犯罪者として逮捕されている彼女を許し、処罰を与えないよう、嘆願してくれてもいい」
刑事「仮に君が処罰を求めなくても、犯罪の事実は消えないが」
刑事「今後彼女の歩む道が、劇的に変わる事は間違いないだろう」
刑事「……そりゃ、私達としては、犯罪を犯してしまった子には、それ相応の処遇を与えたいよ」
刑事「だが君達が特別な関係にあって、今後もそれを継続していくつもりならば、却って君に不利益を与えることになる」
楽「……残酷な質問スね」
刑事「そう、だね」
刑事「しかし、人任せにしては、後悔するのではないかい」
楽「……はい」
刑事「明日のこの時間、また来るよ。それまでに腹を決めてくれ」
刑事「……君がどのような決断を下しても、我々はそれを受け入れるよ」
楽「……」
楽(……桐崎、千棘……)
楽(……)
楽(……………橘)
~ 凡矢理総合病院 喫茶室 ~
ピキーン
万里花「楽様が呼んでる」
集「よせ、そっち方面に展開するのはちょっと」
万里花「むぅ」
万里花「本当に呼んでいようがいまいが、どうせお傍に馳せ参じるのですから、結果は一緒でしょうに」
集「……好きにしなよ」
万里花「言われなくてもすたこらさっさ。楽様ー♪ 楽様ー♪」
集「でもさ」
集「万里花ちゃんは」
集「それでいいの?」
万里花「ええ、もちろん?」
万里花「こうして楽様のお傍にいられるのですもの」
万里花「これ以上の至福が、ございまして?」ニパー
集「……」
万里花「それに、貴方だって」
万里花「私にお説教のできるほど、自由気ままに生きているわけではないでしょうに」
集「……参ったね」
集「余計な話は、しないでくれよ」
万里花「ご安心召されませ。楽様の悪しきご友人と言う以上は、貴方に興味などありませんもの」
万里花「これ以上、お節介を焼いたりは、しませんわよ?」
集「……りょーっかい」
正直やったことに対する周りの罵倒は仕方ないが、それ以外のゴリラの描写は悪意あるものが殆どだしな
~ 同時刻 一条楽 病室 ~
楽(……桐崎、千棘、か)
楽(俺をこんな身体にしたのは、確かにアイツだけど)
楽(小野寺や春ちゃんを、あんな風にしたのは、俺自身にも原因がある事だ)
楽(何もかもアイツのせいにするのは、卑怯な気がする)
楽(だからって……)
楽(だからってアイツを許せるわけ……)
楽(……)
楽(……何なんだよ、クソッ)
ブリッ ビチビチビチッ
楽(憎い筈なのに)
ショワー
楽(苦しい筈なのに)
ビチャ ビチャチャ
楽(何で怒りが湧いてこないんだよっ……!!!!)
楽(俺の身体は、もう二度と元には戻らないし!!)
楽(いつもの日常だって、もう取り返せないはずなのに)
楽(なんで……)
コン
楽(ぇ)
コン コン
楽(だ)
楽(誰だ)
楽(橘やウチの奴等がノックなんてするわけねーし)
楽(看護婦さんは……するかも知れないけど、最近とんと見てねーな……)
楽(何でもかんでも橘が世話してくれるから、来てもらっても仕事無いんだよな)
楽(小野……)
楽(無いか)
楽(……)
楽「どう、ぞ」
キィ ィ
楽「……」
楽「……つぐみ?」
~ 一条楽 病室 ~
つぐみ「お久しゅうございます、一条様」
楽 「」ブフッ
楽「いやいや……」
楽「何の真似だよいきなり」
つぐみ「……ご存知の通り私は、貴方に仇成した組織のヒットマンです」
つぐみ「義理を通すなどと、殊勝な事を言う心積もりは毛頭ございませんが」
つぐみ「せめてもの礼儀として、最上級の敬意を」
楽「勘弁してくれ」
つぐみ「しかし」
楽「よくわかんないけど、その最上級の敬意って奴は、ビーハイブの殺し屋としてのモンなんだろ」
楽「友達が友達としてじゃなく、殺し屋として肩肘張って見舞いに来るとか、はっきり言って怖ぇーよ」
楽「普段通りにしてくれよ、頼むから……」
つぐみ「……」
つぐみ「一理ある」
楽「んだろ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
つぐみ「久しぶり、だな」
楽「そうだな。でも、見舞い、結構来てくれてたんだろ? ウチのモンから聞いてる」
つぐみ「……ああ」
つぐみ「ずっと、声もかけられずにいた」
つぐみ「本当にすまない」
楽「いやー……俺が同じ立場だったら、どう声かけていいか思いつきもしないだろうし」
楽「顔出してくれただけでも嬉しいっつーか、ごめんな、変なこと言ったかな俺」
つぐみ「……」
楽「……」
楽「あー……」
楽「……お見舞いに来てくれた、ってだけじゃないんだろ、今日は」
つぐみ「……随分と、察しがいいな」
楽「こう何日も、こんなトコでこうしてるとなー」
楽「色々と、普段気づかないことも気づいちまうっつーか」
楽「そうでなくても、お前のそんな様子見てたら、嫌でも分かるって」
つぐみ「参ったな」
つぐみ「口調はともかく、動揺している様子を見せたつもりはないが」
楽「まー……他の奴が見たら、わかんないのかも知れないけど」
楽「なんか分かっちまうんだよ。仕方ないだろ」
つぐみ「……」
つぐみ「……」
つぐみ「一条、楽」
つぐみ「お前は」
つぐみ「私を前にして、何故そう平静でいられる」
楽「……」
楽「……?」
つぐみ「……」
楽「……いや」
楽「何言ってんだか、さっぱりわからんのだけど……」
つぐみ「……頼む」
つぐみ「取り繕わず、正直に答えて欲しい」
つぐみ「お前の身体をそんな事にした、お嬢が憎いんじゃないのか」
つぐみ「そのお嬢の手綱をろくに引かなかった、私が憎いんじゃないのか」
つぐみ「その侍従長であるクロード様は」
つぐみ「こんないさかいを生み出したビーハイブは」
つぐみ「お前の親父様は、お前の生まれは」
つぐみ「憎いんじゃないのか」ポロ
つぐみ「呪いたいんじゃないのか」ポロポロ
つぐみ「何故お前はそんな身体にまでされて」
つぐみ「愛した日常を何もかも奪われて」
つぐみ「そんな風にへらへら笑っていられるんだ!!」
楽「……」
つぐみ「なんで……」
つぐみ「なんでぇ……っ……」ポロポロポロ
楽「……お前は、知ってるんだろ」
楽「俺も最初っから、こうだったワケじゃないって」
つぐみ「……ああ、知っているさ」
つぐみ「お前が世の中の全てに絶望したような面をして」
つぐみ「毎朝毎夜苦しんで」
つぐみ「愛した友人を、自らのエゴで一人ずつ切り捨てて」
つぐみ「その度にまた、お前は苦しんでいた」
つぐみ「何度駆けつけてやろうかと思ったことか」
つぐみ「何度この胸にお前を抱いて、慰めてやろうかと思ったことか」
つぐみ「だが、私ではダメなのだと」
つぐみ「お前を深く傷つけてしまうだけなのだと」
つぐみ「知っていたから」
つぐみ「私は見ていることしかできなかったっ!!!!」
つぐみ「身が引き裂かれるほど辛かったよっ!!」
つぐみ「お前が一つ一つ、元の日常を失っていくたびに」
つぐみ「何故私がお前の傍に寄り添っていられなかったのか」
つぐみ「今からでもお前の傍で、この世にお前が一人ではないと」
つぐみ「お前を必要としているものがここにいるのだと」
つぐみ「伝えてやりたかった」
つぐみ「伝えたかった」
つぐみ「それでも私ではダメだったんだよ!!!」
つぐみ「私は! お嬢の付き人で! お前が傷つくことを止められなかったクズだ!!!」
つぐみ「私に、お前を、お前を思い庇う資格など……くそっ……うっ……ううううううっ……!」
つぐみ「お前に、笑顔を、取り戻させてやりたかったのに……」
つぐみ「何故結局、私が涙を流して……」
つぐみ「お前に、私が……取り縋っているのだ……あああああっ………」
楽「……」
楽「なあ、つぐみ」
つぐみ「……何、だよ」
楽「正直、お前の話は半分くらいワケわかんねーし……」
楽「ホント、俺の聞き間違いとか考え違いとかだったら、申し訳ないんだけど」
楽「もしかして、お前」
楽「俺のこと、好き、なのか……?」
つぐみ「……」
つぐみ「……ああ」
つぐみ「もう、ごまかすべくもない」
つぐみ「好きだよ」
つぐみ「私は、お前を愛している」
楽「ちょっ……!」
つぐみ「……だが、ダメなんだ」
つぐみ「私は、お前の人生をブチ壊しにした女の、一番の付き人なんだ」
つぐみ「そもそも、お嬢はお前の恋人で、私にとって最も大切な人」
つぐみ「私が介入する意味なんて、最初から無かった」
楽「……」
楽「つぐみ、聞いてくれ。俺は……」
つぐみ「……すまない、一条楽」
つぐみ「おかげで、気持ちの整理は付いたよ」
つぐみ「お前がどうやって、立ち直ったのかは、わからなかったけれど」
つぐみ「少なくとも、私がこの先どう立ち直って、どう生きればいいかは、分かった気がする」
つぐみ「ありがとう。これで私も、笑顔でお前に別れを告げられる」
楽「いや、ちょ、ちょっと待てよ」
楽「お前、今、俺に告白したんじゃ」
つぐみ「だから?」
楽「だから、ってっ」
つぐみ「どうせ、かなわぬ思いなのだろう?」
つぐみ「ならば」フイッ
つぐみ「せめて、答えを聞かせずに逃がしてくれるのも、優しさだと思うんだが、な」
楽「そんな……っ」
―― 「 」
―― 「 」
楽「―――――」
つぐみ「……はは」
つぐみ「今、お前の胸の内にいた『誰か』が」
つぐみ「千棘お嬢様だったのなら、私も報われるんだが」
楽「……つぐみ」
つぐみ「失礼するよ、一条楽」
つぐみ「これ以上、格好悪いところを晒したくないんだ」フイッ
カツ カツ
楽「……」
カツ カツ
楽(……待てよ、つぐみ)
カツ カツ カチャ
楽(……俺、は)
バタン
楽「アイツと、恋人なんかじゃ、ない、んだ……」
万里花「……」
~ 夜 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
万里花「楽ぁ~く様ぁのっ、ぱ、ん、つ、はっ、と~っても、キ・レ・イ♪」
万里花「なぜな~ら、わ、た、し、が、毎日お洗濯しているからですわ♪」
楽「……」
万里花「(セリフ)本当は、カテーテルとストーマに糞便が集まるから汚れないだけ……」
万里花「(セリフ)あら、だけどこの白いシミって……」
万里花「お・か・ゆ・で~す♪」
楽「……橘」
万里花「はい、人工肛門のパックをお取替えですね。少々お待ちくださいませ」
楽「……」
万里花「ふ~んふふんふ、ふんふっふんふ、ふふふふふ~んふ、ふっふっふ~ん♪」カポ
万里花「うふふ、いっぱい出されましたね♪」
楽「……橘さぁ」
楽「そのウンコ、食ってくれって言ったら、食える?」
万里花「・・・・・・」
万里花「・・・・・・」
楽「……橘」
万里花「……楽様はまだお若いのに、そう言った趣味嗜好がおありですのね」ニコ
万里花「大丈夫ですよ。勉強はしてきております」
万里花「ただ、食用に足る便と言う物は、事前に入念な食事調整が必要ですので……」
楽「……別に、俺の趣味嗜好じゃないんだけどさ」
万里花「あら」
楽「俺が食えって言ったら、今すぐそのウンコ食ってくれるのかって話だよ」
万里花「……そうですねぇ」
万里花「私、楽様のことは大好きですけど、楽様から出たその、便は、別に好きではありませんの」
万里花「ですから、喜んでバクバク食べるというわけにはいきませんが」
万里花「楽様がそうすることで、私と一緒に居てくださると言うならば、私は笑顔でこのパックを頬張りますわ」
楽「……橘はさ」
万里花「?」
楽「10年以上前にちょろっと会っただけの俺に、そこまで尽くすことに疑問を感じないのか?」
楽「そのとき俺が、どれだけお前の心を動かしたとしても」
楽「それより後に続く、お前の人生全てを捧げるってのは、おかしな話だよ」
万里花「そう言われましても……」
万里花「私は、そうしたいから、そうしているだけですから」
万里花「楽様は、深く考えず、私に愛されていて下さればよろしいのです」ニコ
楽「そんなんで!!」ガタン!
万里花「あら」
楽「納得できるわけ、ないだろっ……」
万里花「楽様……」
楽「もう、止してくれよ」
楽「お前のこと、気味が悪くてしょうがないんだよ」
楽「考えてること、ワケわかんねーし」
楽「俺のお願いなら何でも聞くとか言いながら、まるで言う事聞かねーし」
楽「俺の気持ち、勝手に分かったような事ばっか言って」
楽「学校もあるクセに、毎食弁当作って、朝から夜から深夜から俺につきっきりで」
楽「毎日毎日、綺麗な手先ボロボロにしながらさぁ……」
万里花「……楽様」
万里花「女性を手ひどく振りたいならば、もっと下劣な表情でなくてはいけません」ニコッ
楽「……たちば、な」
ギュッ
万里花「嘘やごまかしで、貴方の事を嫌いにはなれません」
万里花「ちゃんとお話しください、楽様」
楽「……止してくれよ」
万里花「止しません」
楽「……離せってば」
万里花「離しません」
楽「……俺には!」ドンッ
万里花「きゃっ」ガタッ
楽「お前に想われる資格なんてないんだよっ!!!」
万里花「……楽、様」
万里花「私もっ……」
楽「俺は、俺は」
楽「俺は……」
楽「桐崎千棘と、恋人なんかじゃ、ない」
万里花「……」
楽「親同士の約束と、組織同士の対立を抑えるために、わざと恋人役をやらされてたんだ」
楽「俺はアイツに好かれてなんていなかったし、俺だって嫌々アイツと一緒にいただけで」
楽「そりゃ、時には可愛いって思ったりしたこともあったし、本気で好かれてるのかも、なんて」
楽「アホな妄想に浸ったりしたこともあったし、一緒に居りゃドキドキもしたよ」
万里花「……」
楽「橘には、悪いと思ってたさ」
楽「だけど俺はずっと、橘を騙し続けていたんだ」
楽「橘が無尽蔵に俺の事を好き好き言ってくれるから」
楽「こいつが勝手に俺の事を好きなだけで、俺には桐崎との恋人役があるから仕方ないって」
楽「橘のおかげで、普段どおりの俺に戻れたことも」
楽「橘のおかげで、毎日が明るくなって、楽しくなって、頑張って生きようって思えたことも」
楽「そのために橘が、無理して頑張ってくれてるって事も、分かっていたのに」
楽「放っときゃいつか飽きるだろうって、甘ったれた考えで逃げてたんだ」
万里花「……」
楽「でも」
楽「今日、つぐみと話した」
楽「笑っちまうよ」
楽「こんな卑怯な俺を」
楽「こんな、友達も何もかも騙して、自分の都合のいい世界に閉じこもってるだけのクズを」
楽「……好きだ、って、言うんだ」
楽「愛してるって、そう言ったんだ」
万里花「……」
楽「でも俺は、何も返事が出来なかった」
楽「つぐみはきっと、俺を桐崎から奪うことになるのも、フラれるのも嫌だったから、何も聞かずに去ったんだ、と思う」
楽「……だけどさ」
楽「違うんだ」
楽「俺は」
楽「つぐみを引き止めようと思った」
楽「だけど、できなかった」
楽「本当に好きな奴のことが、頭をよぎったから、つぐみを止めることが、できなかったんだ」
万里花「……」
楽「……」
楽「……俺は」
楽「こんなことになっても、まだ」
楽「……小野寺のことが、好きなんだよ……」
万里花「……」
楽「……だから、橘」
楽「こんな形で伝えるのは、本当に情けないと思うし、ズルいとも思う」
楽「だけど、聞いてくれ」
楽「俺は、お前と好き合うことはできない」
楽「俺はお前を騙していたし、俺は他に、本当に好きな人がいる」
楽「俺に気持ちを向けるのは、もうやめてくれ」
楽「ごめんなさい」
万里花「……」
楽「……」
万里花「……」ニパー
楽「……橘?」
万里花「何かと思えば、そんな事でしたか」
楽「そんな、って」
万里花「構いませんよ、桐崎さんとの恋人関係が嘘だって、小野寺さんのことが今も好きだって」
万里花「私に気持ちが向いていないのは、どちらでも同じでしょうに」
万里花「むしろ、恋人関係がないのでしたら、差し引きで一歩前進ではありませんか」ニコニコ
楽「……橘」
楽「お前、自分が何言ってるのか、分かってんのか……?」
万里花「分かっていないのは、楽様の方ではございませんか」
万里花「私が」
万里花「その程度の覚悟も無しに」
万里花「愛の言葉を囁いていたと、お思いですの?」
楽「……」
万里花「貴方の気持ちが、何処を向いていようと」
万里花「お許し頂ける限りは、お傍に居させてくださいませ」
万里花「私は、それだけで、じゅうぶんですから」
~ 数日後 凡矢理家庭裁判所 第一法廷 ~
千棘「……」
弁護士「もっともっと、陰鬱な顔をしてくださいね」
弁護士「裁判官って、意外とそういうトコしっかり見てるんですよ」
弁護士「反省と更正。少年裁判において最も大事な」
千棘「……」キッ
弁護士「ひッ」
千棘「……小細工なんてしたくない」
千棘「私は、私が迷惑かけちゃった全部の人と」
千棘「アイツに……謝らなくちゃ……」
弁護士「……」フゥ
弁護士「私がこんな事言うのも、何なんですけどね」
弁護士「謝罪と反省って言うのは、自分のためにしかならないものなんですよ、結局」
千棘「……」
弁護士「自分の中に生まれた罪悪感を消して、許されるためにするだけの行為で」
弁護士「本当に悪いことをした人間には、頭すら下げる資格も無いって言うのが、私の持論です」
千棘「じゃあ私は、どうすれば」
弁護士「……自立すること、じゃないですか?」
弁護士「親に払ってもらう賠償金を返していくにしろ、彼に許しを請うにしろ」
弁護士「健常に社会に貢献している人間でなければ、できないことだと思いますよ」
弁護士「……もちろん、そのハードルは、普通に生活している一般人より、遥かに高いものになりますけどね」
弁護士「だからこそ、あらゆる罪種において、再犯者というものは後を絶たないわけですが」
千棘「……私に、できるかな」
弁護士「やらなくちゃ、いけないんじゃないですか」
千棘「……そう、ですよ、ね」
弁護士「……」ニコ
弁護士「……ああ、そういえば」
弁護士「一条楽君から、手紙を預かっていますよ」
弁護士「貴女にとって、必ずしも楽しい内容じゃない可能性がありますから、審理後に渡すつもりでしたが」
弁護士「読みますか?」
千棘「……」スッ
ビリビリ ビリッ
弁護士「……」
千棘「……行きましょ、センセ」
弁護士「……はい」
~ 数年後 集英インペリアル株式会社 本社ビル前 ~
黒髪の女性「……」
社員「こんにちは。当社に何か御用でも」
女性「あ、……いえ、その」
女性「ここに昔、友人が住んでいたもので、つい感傷に浸ってしまって」
社員「ここに……ああ! 一条社長のお友達ですか!!」
社員「そう言えば、昔仲の良かった黒髪の女の子が居たって、この前のパーティーでお話しされてたっけ」
社員「社長、今も車椅子に乗っていらっしゃるんですが、お酒は大好きでねぇ。お医者さんに隠れてすぐ飲んじゃうんですよ」ハハハ
女性「あ、そ、そうなんですか?」
社員「ええ。僕なんかはまだ入りたてなんで、貴女とお会いしたことはないと思うんですが」
社員「中には当時からいらっしゃる方や、社長も……今はいらっしゃるかも。ぜひ中へどうぞ」
女性「あ、いえいえ、いいんです。用事のついでに、通りかかっただけですから」
社員「そうですか……残念です、社長も会いたがっていらしたので」
女性「せっかくのお誘いですが、申し訳ありません」
女性「……それにしても、ご活躍目覚しいですね、集英インペリアル」
社員「ありがとうございます」
社員「元々の下地もあるにはあったんですがね、若社長の手腕がなにより凄い」
社員「最近はお体の調子も宜しいようですし、まだまだもっと、これから! って感じですよ」
女性「楽しみですね、ふふ」
社員「ははは……」
女性「それではすみません、今日のところは失礼致します」
社員「ええ。またおいでください。社長共々、お待ち致しております」
女性「はい、それでは、また」
ちんげキムチゴリラいらん
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
社員「……」
カラカラ カラカラ
楽「……悪ィな、くだらねえ真似させちまって」
社員「……ぼっちゃ、いや、社長ォ」
元チンピラ2「本当に、いいんですかい、アイツの事このまま帰しちまって」
元チンピラ2「俺のことに気づかなかったのはまあ、いいとしても」
元チンピラ2「のうのうとウチの前にツラ見せるようになったとあっちゃ、社長の身の危険だって」
楽「おいおい……」
楽「いつまで坊っちゃん気分で甘やかしてるつもりだ、オラ」ギロッ
元チンピラ2「」ビクッ
元チンピラ2「……いいドス利かせるようになりやしたね、坊っちゃ、社長」
楽「ありがとよ」
楽「……それに、大丈夫だよ」
楽「アイツが本気で俺を消しに来るなら、まずつぐみを寄越すだろ」
楽「真昼間にあんなカッコでウチに来るぐらい……別に、いいじゃねえか」
楽「そっとしといてやれ」
元チンピラ2「……へい」
~ ハイツ凡矢理 305号室 ~
黒髪の女性「……ただいま」
つぐみ「おかえり、千棘。遅かったじゃないか」
千棘「……」
千棘「ちょっと寄り道……いいでしょ、子供ってワケでもあるまいし」
つぐみ「千棘は可愛いからな、こう……」ギュムッ
千棘「わっ、ちょっ、つぐみっ」
つぐみ「こうして襲われたりしたらどうする。心配だ、心配だー」ギュムギュム
千棘「うひゃ、うひゃひゃ、やめ、やめなさいってばぁ!!」
千棘(……判決が下って、私は4年ほど少年院にブチ込まれる事になった)
千棘(弁護士先生は、集英組やビーハイブ、ママの会社の関係者とかから身を隠すための、保護的な意味で期間が長くなっただけで)
千棘(楽の処罰意思がどうだったかは、ほぼ判決に影響がなかった、と説明してくれたが)
千棘(詳しいことは結局分からなかったし、知りたいとも思わなかった)
千棘(4年経って、出所した私のことを、つぐみは一人待っていてくれた)
千棘(高校を中退して、ビーハイブからも足抜けして、身一つで私に付いてきてくれたらしい)
千棘(あの時は流石に、人目も気にせず、わあわあ泣いてしまったと思う)
千棘(私達は、元の家の近くにアパートを借りて、そこで暮らし始めた)
千棘(気まずさよりも、過去への執着を捨てきれなかった私の、つまらない感傷が原因だったが、つぐみは笑って許してくれた)
千棘(リボンをはずして、金髪は真っ黒に染めて、今は駅前のスーパーでレジ打ちをして生計を立てている)
千棘(元々私は家事ができないし、今もつぐみがやってくれているから、実質私の収入だけで暮らしていることになるはずだ)
千棘(私も馬鹿なほうだが、本当の馬鹿ではない。私のパート代だけで、この生活が成り立たないことぐらいわかっている)
千棘(……多分つぐみが、裏の仕事を続けていて、その報酬をこっそり生活費に充ててくれているのだろう)
千棘(本当に申し訳ないと思うが、今の私はそのつぐみに頼りっきりだ。ぶら下がるしかないのだ)
千棘(……一緒に暮らし始めて、身体の関係が生まれるまで、そう時間は掛からなかった)
千棘(つぐみはとても感度がいい)
千棘(私が少しいじめただけで、いつも頼りがいのある勇ましいつぐみは、可愛い鳴き声で私に屈服する)
千棘(私のさもしいプライドが満たされる、数少ない瞬間だ)
千棘(……どうかな、それすらも、つぐみが私を慰めるための、演技なのかも知れない)
つぐみ「ほれほれー、千棘、ここがいいのか、いいのかーっ!」サワサワ
千棘「あんっ、もう、つぐみっ、調子っ、乗りすぎいっ……!!」
千棘(つぐみはこうして、不必要なくらいに、私にスキンシップを求めてくることがある)
千棘(そしてそんな日の夜は、必ず私に見えないところで、泣いているのだ)
千棘(……そんなつぐみのことは、大事だし好きだけど、今日あそこに行って、やっぱりわかった)
千棘(私は、やっぱり今でも)
千棘(一条楽が、大好き)
千棘(……だけど、この気持ちは、もう一生心の中に沈めて、取り出して眺めるのもやめようと思う)
千棘(きっと大変だと思うけど、無理だとは思わない)
千棘(つぐみには悪いけれど)
千棘(ニセのコイビトを演じるのは、慣れているから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
つぐみ(……千棘が集英組の事を)
つぐみ(いや、一条楽の事を気にかけ、あの町に行っていることは、当然知っていた)
つぐみ(と、言うか、私もすぐ傍に居たのだ)
つぐみ(千棘の携帯電話には、こっそり特別なGPS発信装置を装着していて、私は常に千棘の行動を把握できる)
つぐみ(……なにも、偏愛をこじらせた結果ではない)
つぐみ(千棘の起こした事件によって、間接的に被害を蒙った者達や)
つぐみ(ビーハイブの縁故者と知って、千棘の身体を狙う者は、今でも決して少なくないのだ)
つぐみ(死なせてしまえ、と声を上げるビーハイブ急進派との折衝案は)
つぐみ(私一人が千棘の永久専属ボディガードとなり、二人で組織を去ることだった)
つぐみ(千棘の両親からは涙を流して頭を下げられ、使いきれないほどの金を差し出されたが)
つぐみ(”自ら自立して生きて、自分の罪を悔いたい”と言う千棘の思いを尊重し、ほとんど手はつけずにある)
つぐみ(……私自身の人生は、これで無くなったも同然だし、いつ死ぬともわからない、先の見えない暮らしだが)
つぐみ(半分以上は、私が自ら望んだ道だ。後悔はしていない)
つぐみ(……今の私を、ポーラが見たら、笑うだろうか)
つぐみ(クロード様はどうかな。満足はしてもらえないかも知れないが、私に出来る最大限のことはしていると思う)
つぐみ(一条楽への慕情は、もちろん消えたわけじゃない)
つぐみ(けれど)
つぐみ(私は結局、一条楽よりも、千棘の事が見捨てられなかったのだ。大事だったのだ)
つぐみ(だから、一条楽の返事は、聞けなかった)
つぐみ(受け入れられたとしても、断られたとしても、泣いてしまったのは間違いないだろう)
つぐみ(何よりも、アイツが私のことを受け入れてくれたら、きっと私は千棘を捨てただろう)
つぐみ(それがイヤだったから、返事を聞かず、私は逃げ出した)
つぐみ(……時々、あの時もしも、私が一条楽に手を差し伸べていたら)
つぐみ(一条楽と結ばれていたら……と想像してしまうときがある)
つぐみ(そんな夜は、千棘と激しく交わって)
つぐみ(少しだけ、泣いてしまう)
つぐみ(……分かっている。仕方の無いことなのだ)
つぐみ(私が選んだのは、所詮ニセのコイの道なのだから)
~ 某出版会社 オフィス ~
プルルルル プルルルル
小野寺「はい、営業部小野寺が承ります」
小野寺「はい、はい、はい、ありがとうございます……」
るり「……」
るり(あの後)
るり(ずっと塞ぎこんでいた小咲は)
るり(ある日、突然部屋を飛び出してきたそうだ)
るり(”大変、学校に遅れちゃう!!”なんて叫びながら)
るり(……一条君や、みんなの事を、すっかり忘れて)
るり(どうにか記憶の片隅に、引っかかれていたらしい私は)
るり(そのまま一緒に高校へ通って、一緒の大学に入って)
るり(いずれ店を継ぐまでの社会勉強と言うことで、一緒の出版社に勤めるようになった)
るり(……別に、小咲のために夢をあきらめたわけじゃない。たまたまそうなっただけで)
るり(私は翻訳家になりたくて、一生懸命勉強してきたけれど)
るり(結局”私が面白いと思う訳”と”お金になって、出版してもらえる訳”は、同じものじゃなかったのだ)
るり(……だけど結局、夢は捨て切れなくて)
るり(小さな出版社に勤めながら、ネットで自分の訳した小説をアップしていたりもする)
るり(評判はそれなりに良い、と自分では思っているし)
るり(傍で喜んでくれる親友、小咲のいる生活は、やっぱりそれなりに幸せだ)
小野寺「はい……はい。それではよろしくお願い致します。失礼します……」ガチャ
小野寺「あ、るりちゃん、もう上がり?」
るり「ええ。夕飯、一緒にどうかなと思って」
小野寺「やった♪ 今日は何処行こっか、ふふ」
るり(本当に、何事も無かったかのように、小咲は笑うようになった)
るり(だけど、ときどき、ふと思うのだ)
るり(こんなに都合の良い結末が、許されて良いのだろうか)
るり(私は結局、小咲を守っているつもりでいたけれど)
るり(本当は、もっと……)
るり(……いや、やっぱり、考えるのはよそう)
るり(あの日、舞子くん達と一緒に行かなかった時点で、私は舞台を降りたのだ)
るり(そうして得たこの日常を享受できている間は、せめて後悔することは、やめよう……)
係長「お、おい小野寺君。この営業先……」
小野寺「係長におまかせしまーす。私、もうオフなんで!」
小野寺「るりちゃん、早く早くっ!!」スタタタ
係長「……やれやれ」
るり「……すみません、失礼します」
係長「ああ。彼女も君も、よくやってくれているからね」
係長「たまには私も、仕事をさせてもらうとしよう」
るり「ありがとうございます……それでは」
係長「行っておいで」
係長(……しかし、珍しいな。責任感の塊のような小野寺君が、仕事の半ばで抜け出すとは)
係長(余程面倒な案件なのかと思えば……)
係長(集英、インペリアル……?)
~ 集英インペリアル株式会社 社長室 ~
楽「……」
楽「……桐崎、千棘、か」
楽(あいつにこんな体にされたことが、もう思い出せないくらい昔のような気がする)
楽(あの後俺は、ほどなくして退院し、高校を辞めて経営の勉強を始めた)
楽(バカみたいな話で、本当に真剣に自分の将来のことを考えたら、公務員と言うアホらしい選択肢は最初に消えた)
楽(別に枠の問題じゃない。むしろ障害者採用枠を考えたら、入りやすくなったかも知れないくらいだが)
楽(所詮ヤクザの息子が、公務員になんてなれやしないのだ)
楽(それは多くの民間企業でも同じことで)
楽(結局のところ、ヤクザはヤクザらしく、ヤクザの世界に留まるしかないのだと、ひと時は絶望した)
楽(だけど)
万里花「……未練、ですか?」
楽「……そーかもな。可愛かったよ、アイツ」
万里花「まあ」クスッ
楽「妬いてんのか?」
万里花「どうですかね」ニコ
楽(……橘は、あれからもずっと、俺の傍で俺に尽くしてくれた)
楽(俺がこれからの生き方について、本気で悩んでいたときも)
―― 雇ってもらえないなら、起業するしかありませんわね、社長♪
楽(……なんと無責任なものだ、と当時は頭と腹を抱えたが)
楽(橘は、警視総監の娘、と言う立場全てを使って、俺をバックアップしてくれた)
楽(元々、任期のそう長くない警視総監と言う立場には、お飾り以上の意味はそう無い)
楽(本当に恐れるべきは、その立場を保たせるような絶対的カリスマ、そしてそこから生み出される、人脈なのだ)
楽(それに元々、ウチの組の奴等はあぶれ者ではあったが、皆頭は良かった)
楽(今までのシノギ集めを、まっとうなやり方のビジネスに切り替えさせるのは、そう難しくは無かった)
楽(これは親父と……俺なんかを慕ってくれていた、アイツらのお陰、だよな)
万里花「……もう、何年になるのかしら」
楽「……ああ、俺も、さっき考えてたよ」
楽(そりゃ、暴力団員を使って企業なんて、最初は不安だったけど)
楽(結局、ビジネスの世界だって、外見を綺麗に取り繕っているだけで、やってる事はヤクザと大して変わらない)
楽(ハッタリと強気の交渉、取れるところからカネを取って、次の新たなカネを生み出す……)
楽(車椅子に人工肛門、俺のこんなカッコだって、もやしみたいな相手をビビらす程度には役に立つし)
楽(案外、こんな風になったのも、悪くは無かったのかも、なんて、最近は思っている)
万里花「……今、”こんな風になったのは、悪くなかったかな”とか、思いませんでしたか?」
楽「……ホント、お前は、何でもお見通しなのな」
万里花「そりゃあ、ずっとずっと、一緒に居ましたもの」
楽「……ああ、そうだな」
楽「……来週だっけ、手術」
楽(そう)
楽(一生車椅子、人工肛門、なんて話は何度もあったけど)
楽(橘の献身的なリハビリと、俺の人並みはずれた回復力のせいか)
楽(来週の手術で、ついに人工肛門が封鎖できることになった)
楽(人工肛門が塞がれば、万全とまでは行かないけれど、少しは歩いたりも出来るようになるらしいし)
楽(俺もついに、元の俺に、戻れることになったんだ)
楽(……それで俺もひとつ、決めていることがあって……)
万里花「……ええ。ようやく、と思いましたけど」
万里花「悪くない、と仰いますなら、手術、お止めになられます?」
楽「ばっか、そんな訳ねーだろ」
万里花「そう……です、わよね」ニコ
楽「……?」
~ 一週間後 凡矢理総合病院 ~
婦長「それでは、もう暫くしたら、麻酔が効いてきますから……」
万里花「……」キュッ
婦長「……楽君が寝たら、呼びに来てちょうだいね」
楽「……すんません」
婦長「今更いーのよぉ。万里花ちゃんは、楽君が入院しているころから、ずーっとこうなんだから」
楽「……ははは」
婦長「心配しなくても、手術自体はそう難しいものじゃないから」
婦長「そんな今生の別れみたいな顔してちゃ、楽君も不安になっちゃうでしょうが」
万里花「……はい」
婦長「……じゃ、また後でね」
楽「……」
万里花「……」
楽「……あの、さ」
万里花「……はい」
楽「ありがとうな、今まで、ほんと」
楽「言い切れないくらい、橘のおかげで、出来たことがいっぱいあって」
楽「橘が居なければ、今の俺がいないっていうか」
楽「橘のおかげで、ここまでこれたって言うか……」
楽「……麻酔のせいかな、はは、なんか自分でも、うまくまとまんないや」
万里花「……私が、私のためにそうしただけです」
万里花「お願いですから、楽様。恩になど、着ないでくださいませ」グス
楽「そんなこと、無ぇよ」
楽「橘は、俺のために、いろんなことをしてくれて」
楽「俺だって、橘と毎日過ごすうちに、少しずつ心が動いていった」
楽(……どうする、このまま言っちまうか)
楽(……いや、今言わなきゃ、いけない気がする)
楽(理由はよくわかんねーけど)
楽(橘にこれ以上、こんな悲しい顔、させたくない……!!)
楽「上手く、いえないけど」
楽「今の俺は」
楽「橘万里花を、愛してるよ」
万里花「……!!」
楽「この手術が終わって、俺が自分で歩けるようになったら」
楽「俺がお前を抱いて、これからの人生を導いてやるから」
楽「一緒に、来てくれないか、橘」
楽(……っ)
楽(言っち……まっ、たっ……)
万里花「……」
万里花「楽様」
万里花「そのお言葉、私には勿体無いくらい、うれしいです」
楽「……」ニコ
万里花「でも」
万里花「お断り、させていただきます」
万里花「ごめんなさい」
楽「……っ」
楽「なんで……っ……」
楽(ヤベ……麻酔が……効いてきた)
万里花「……楽様が病院に運ばれた、あの日」
万里花「皆と別れた後、私は、一人きりで部屋に篭りました」
万里花「……本当に、おかしな話で」
万里花「楽様とはじめてお会いしてから、再会するまでの10年間」
万里花「私はずっと、思い出の中に居る楽様に、コイ焦がれていたのです」
万里花「思い出の中の楽様は、活発で、優しくて、いつも私を導いてくれて」
万里花「ずっとずっと、私の傍に居てくれました」
万里花「楽様と再会して、他に彼女が、思い人がいると分かったときも」
万里花「自分がこれから頑張ればいいって、頑張れば今までの10年間、見てきた夢を現実に出来るんだって」
万里花「くじけずに、前向きに、あなたを愛することができました」
万里花「だけど」
万里花「現実の楽様は、殴られれば怪我もするし、ひどいときには死んでしまう」
万里花「そんな当たり前の現実を突きつけられた私は」
万里花「ただただ怖くなって、逃げ出してしまったんです」
万里花「このまま楽様が目覚めないかもしれない」
万里花「目覚めても、私のことを愛してくださらないかもしれない」
万里花「あるいは、もう、目を覚ましてくださらないかもしれない」
万里花「……皮肉な話ですよね」
万里花「妄想の世界の楽様だけを愛していれば、こんなことにはならなかったのに!」
万里花「現実の楽様へと手を伸ばしたことで、私は弱くなってしまったんです」
万里花「ほんの、ほんの一瞬だけ」
万里花「楽様となんて、出会わなければ、よ、良かった、って」
万里花「こんなに、辛い思いをするなら、出会いたくなんて、なかった、って、」ポロ
万里花「思っ゙で……じまったん、でずぅっ………!!」ポロポロ
楽「……ぁ……ああ……」
楽「た、ち、ばな……」
楽(くっ、そ)
楽(身体も、頭も、うごかね、え……)
万里花「……何日も、自分の部屋で泣き続けて」
万里花「自己嫌悪と戦って」
万里花「ようやく楽様の病室へ駆けつけられた時には、楽様はもう、絶望の底に落ちていらっしゃいました」
万里花「……私の、せいなんですよ」
万里花「私が最初から、楽様についていれば、こんな思いをさせずに済んだのに」
万里花「私が、半端な気持ちで、楽様を愛していたから、楽様を苦しめた」
万里花「……」ニコ
万里花「だから、これは罪滅ぼしなんですよ、楽様」
万里花「所詮はニセコイ」
万里花「私が、あなたへの愛を、一瞬でも疑った時点で、私はあなたに愛される資格を失ったのです」
万里花「でも、それももう、今日でおしまい」
万里花「この手術が終わったら、楽様はもとの生活に戻ることができます」
万里花「そうしたら私も、あなたの前から、永久にいなくなります」
万里花「……もちろん、死ぬつもりはございませんので、ご安心くださいませ」ニコ
万里花「ただ、あなたを思った10年間と、あなたと過ごした数年間に縋って」
万里花「静かなところで、余生を過ごすくらいのことは、許してくださいまし」
キョン「手足が無い!!!!!!!!!!」
何となくこれを思い出して読み直してみたが全然違ったでござる
重いよ
カサ
万里花「……小野寺小咲さんの、現在の住所と、連絡先です」
万里花「灯台下暗しと言うか、なんというか。存外に近所の街で、元気にやっていらっしゃるようですわ」
万里花「お付き合いしている男性も、ずっといらっしゃらないとか」
万里花「……きっと、楽様の思いも、届くはずです」
楽「……」
楽「……ちが、う」
楽「おれ……はっ……!!」
万里花「……気の迷いですよ、楽様」
万里花「たまたま数年間、身の回りの世話をした女に、情けをかけたくなっただけ」
万里花「あなたの気持ちは、ちゃんと今でも、小野寺さんに向いていますから」
万里花「……さようなら、私の大事な、最愛の人」
万里花「願わくば、本物のコイを、手に入れられますよう……」
すごいね……
楽(……橘)
楽(待ってくれ)
楽(橘)
~ 5日後 凡矢理総合病院 一条楽 病室 ~
楽「橘ァ!!!」
???「ひッ」
楽「……ぁ」
楽「あぁ……」
楽(腹、埋まってる)
楽(じゃあ、橘、は)
楽「おい!! あんたッ!!!!」
???「あっ、はっ、はいぃ!?」
楽「橘は何処行った!? 知らないか? ウチの者でも誰でもいい、今すぐ探させて……ぁ」
???「い、痛いよ、い、一条、くんっ」
楽「……」
楽「もしか、して」
???「……」
楽「おのでら……?」
小野寺「……久しぶり、一条くん」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
小野寺「……万里花ちゃんが、一条君の枕元に、私の連絡先を残していったらしくてね」
小野寺「事情を知らない病院の人が、私に連絡してくれたの」
小野寺「一条君が、これから手術を受けるから、って」
小野寺「それからは、一条君が目覚めるまでは、と思って、病室に通っていて……」
楽「……」
小野寺「……一条君」
小野寺「本当に、ごめんなさい」
小野寺「私、今までずっと、一条君達のこと、忘れたフリをしてたの」
楽「……」
小野寺「最初は、私自身、どうにかなりそうだった」
小野寺「私のせいで、一条君が物凄い怪我をして」
小野寺「……ごめんね、言葉が悪いけれど、あんな風になって」
小野寺「一条君に、言っちゃいけない事、言っちゃって」
小野寺「……だけど、春やるりちゃん、お母さんにも、心配かけたくなくて」
小野寺「……逃げちゃったの、私」
小野寺「……どのツラ下げて、って感じだよね、ほんと」
小野寺「就職してからも、ずっと見てたよ」
小野寺「集英インペリアルの名前とか、新聞記事見る度に、心が揺れてね」
小野寺「……」
小野寺「やっぱり、いっかな」
楽「……」
小野寺「だって、一条君」
小野寺「ちっとも、私のこと、見てないもん」
楽「……ごめん」
小野寺「ううん、いいの」
小野寺「一条君に罵倒されたくって」
小野寺「自分のために、自分の罪を消したくて、ここに居たんだもん」
小野寺「だから、私なんか見なくていいの」
小野寺「一条君は、自分の見ているもののために、歩き出して」
楽「……そんな資格、あるのかな、俺に」
小野寺「……私も、そういうの、いっぱい悩んだけど」
小野寺「悩んで、私はやめちゃったけど」
小野寺「今でもそのとき、踏み出さなかったこと、後悔してるから」
楽「……そっか」
寝れない
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
楽「……ぐっ」
小野寺「歩けそう? ……肩、貸そうか」
楽「……なんとか、大丈夫。それに」
楽「いくら間に合っても、別の女に肩借りてたら、さすがにカッコつかねーよ」
小野寺「……確かに、ね」フフッ
楽「……なあ、小野寺」
小野寺「……うん」
楽「お前のこと、」
楽「ずっと好きだった。」
小野寺「……」
小野寺「私も。」
楽「……」フッ
小野寺「……」ニコッ
『さよなら』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
集『……スマン、本当に』
楽「いや、しゃーねーっつーか……こんな時まで頼っちまって、なんか本当に悪ぃ」
集『あぁ、それはいーのいーの。俺もお前にゃ色々世話になってるし』
楽「仕事上ではいいけど、キャバクラで俺の名前使うのいい加減止めてくれよな……」
集『~♪ ~~♪』
集『……これは完全に俺の予想で、期待はしないで欲しいんだけどさ』
楽「ああ」
集『多分、万里花ちゃんは国外に出るつもりだけど、今はまだ日本にいると思う』
楽「……詳しく聞かせろ」
集『単純な話だよ』
集『万里花ちゃんは、お前の会社の力では探し出せない程度のところには行くつもりだろうが』
集『お前の手術の無事を確認せずに、日本を離れたりはしないだろ』
集『万里花ちゃんは身体が弱いし、長くなる船旅を選ぶ可能性はそう高くない……』
ブオン
楽「……それだけ聞ければ十分だ」
集『……そうかい』
ブオンブオン
集『上手くやれよ』
楽「大丈夫だよ……どうやら」
楽「俺は存外、幸せ者だったみたいだから」
ブオブオブオン!!
ポーラ「……ごたくはいいから。乗るの? 乗んないの?」
~ 30分後 空港前 ~
楽「……ありがとな、ポーラ」
ポーラ「いいからとっとと行きなさいよ」
ポーラ「……ね、もしダメだったら、お妾さんで雇われてあげようか」
楽「」ドキッ
楽「……考えとくよ」
ポーラ「考えんな、バーカ」
楽「社交辞令だ、バーカ」
ポーラ「……ふふ」
楽「……じゃ、またな」
ポーラ「ええ。またね」
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル
「あ、もしもし?」
「うん、アンタに言われてた、お詫びの件だけど」
「さっき終わったよ」
「……いやいや、泣く事ないじゃん……」
「まー、いいんだけどさ」
「……別にいいよ」
「あたしだって、全く知らない奴じゃないし」
「あのまま放っておくのも、なんか後味悪かったし」
「……だから、いいんだってば」
「もぅ……」
「言わせないでよね、こんなこと」
「迷惑とか、嫌な思いとか、気にしなくっていいの」
「……あたし達」
「トモダチでしょ?」
~ 出発30分前 第4搭乗口 保安検査場前 ~
万里花「……」
万里花(このゲートをくぐってしまえば、もう楽様とは会うこともない、か)
ピン ポーン
万里花「あら」
係員「すみません、もう一度ゲートをくぐっていただけますか」
万里花「はい、どうも失礼しました」
ピン ポーン
万里花「……故障でも、しているのかしら」
係員「申し訳ありません、簡単なボディチェックを……」
万里花「……はい」
係員「では……あら」
ジャリ
係員「これは……」
万里花「あっ……」
万里花(楽様との、約束の鍵……?)
係員「これが反応してしまっていたみたいですね」
万里花「……申し訳ありません。フライト時間ももう、ギリギリですのに」
???「……そうだな、でも」
万里花「――!!」
楽「おかげさまで、こっちもギリギリ、間に合ったみたいだな」
万里花「楽、様……!!」
楽「随分勝手してくれたじゃねえか、橘よォ」
楽「こっちにはまだまだ、言い足りないことが山ほどあるっての……ブッ」
係員「お客様、この方はお知り合いですか」
万里花「……いいえ、全く、知らない人ですわ」フイッ
楽「ちょ、まっ、た、橘ッ!!!」
係員2「おとなしくするんだ。話なら事務所で聞いてやるから」
係員「暴れるんじゃない、この、このっ」
係員3「お客様、危ないですから、どうぞ奥まで……」
万里花「はい、ありがとう、ございます……」
楽「………ぶふっ」
楽「橘ァ!!!」
万里花「」ビクッ
楽「なァ」
楽「橘」
楽「ニセコイじゃ、駄目なのかよ!!!!!」
万里花「……」
楽「一生ブレることのない、曇りない愛じゃなくちゃ、人は結ばれちゃいけないのかよ!?」
楽「いいじゃねえかよ!! 他に大事なモンがあったって!! 人工肛門にビビったって!!」
楽「人間なんだからさ、迷ったりもするよ、やめようと思ったりもするだろうよ」
楽「それでも、そんなモン全部ブッ飛ばして、最後まで一緒に居てくれた女の子の事を」
楽「改めて好きになっちゃいけねえか!?」
楽「一生、一緒に居て、大事にしたいと思っちゃいけねえか!?」
万里花「……だ、め、ですよ」
万里花「私、は、楽様に好きになってもらうために、楽様の理想の女の子に、」
楽「要らねえんだよそんなんさぁ!!!!」
万里花「っ!」
楽「理想なんかとは全然違ったって」
楽「ただ一途に俺の事を愛してくれたお前の事」
楽「俺は大好きなんだよ」
楽「二度と手放したくないんだよ」
楽「一生、傍に居て、欲しいんだよ……」
係員「……」
係員2「……」スッ
楽「……失礼します」
テク テク
楽「……橘」
万里花「……来ないで、楽様」
万里花「私の顔、今、とっても、ぶさいくだから……」
楽「……カンケーないよ」ギュッ
楽「泣き顔がぶさいくだって構わない」
楽「愛してるよ、万里花」
万里花「……」
万里花「……そぎゃん」ヒック
万里花「らっくんってば、そげん言わんでも、よかろー、もんっ……」グスッ
楽「……」ナデナデ
万里花「うっ、ううううっ」
万里花「見らんでよかろ、らっ、くん」
万里花「ううう、ううーっ……」
楽「……」ギュッ
おれの顔も今ぶさいくになってるわ
~ エピローグ ~
万里花「……楽」プニ
万里花「ねーえ、楽ぅ」サワサワ
楽「……お嬢様キャラはどうしたんだよ、お前」
万里花「ぇー」
万里花「楽がタイプじゃなくてもいい、ってあんなに熱弁してくれちゃったんだもん」
万里花「お嬢様でも、九州弁でもなくて。お家で見せる素の私がこれなの」
万里花「……嫌い?」
楽「……いや、好きだよ」ギュッ
万里花「やった♪」チュッ
正直どんなに仲のいい友達だとしても便の世話なんてできないわ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
万里花「……ぁーぁ」
楽「今度は何」
万里花「私、子供が出来たら、ちゃんと愛せるのかなぁ」
楽「」ブッ
楽「いや……愛してやってくれよ、一応俺の遺伝子も半分入ってるし」
万里花「やだ」
楽「やだてお前」
万里花「私は楽が大好きだけど、楽から出たモノは別に愛してないし」
楽(ウンコ扱いかよ)
万里花「それに半分は私の遺伝子でしょぉ? 余計にやる気なくすわ」
万里花「楽とふたりっきりの時間も潰れちゃうし……あぁーいやだわぁ……」
>>315
うん...
楽「……じゃあ、ずっと二人で暮らそうか、万里花」
万里花「……」
万里花「こども、欲しくないの?」
楽「ああ、別に」
万里花「……気ぃ使ってるでしょ」
楽「使ってないよ」
楽「お前を死なせるかもしれないリスクを負ってまで、欲しいものなんてひとつもない」
万里花「……ばか」ギュッ
楽「……いいって」ナデナデ
万里花「……ごめんね」
これ全部夢オチだったらよくある鬱モノのお話やね
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
楽「……20年、か」
万里花「?」
楽「妄想で10年、現実に一緒に過ごして10年」
楽「お前の人生、ほとんど俺で一杯なのな」
万里花「……うん♪」
楽「……これからはさ」
楽「20年分のやりたかったこと、ひとつひとつ消化していこう」
楽「山に行ったり、海に行ったり、一緒に買い物に行ったり」
楽「友達とご飯を食べたり、遊びに行ったり、遊びにお招きしたり」
>>320
やめろよ
「お前元からだろ」みたいなの求めてたのにやめろよ
万里花「……そんなに特別な事ばっかりじゃなくてもいいよ」
万里花「一緒にお料理をしたり、おふとんを干したり、お掃除したり」
万里花「お仕事に送り出したり、酔っ払って帰ってきたあなたにちょっとお小言言ったり」
万里花「一緒にお風呂に入ったり、ご飯を食べておいしいね、って言ってもらったり」
万里花「夜は星を一緒に眺めて、朝はキスで起こして欲しいな」
万里花「一緒にお出かけするときは、絶対手をつないでね……」
楽「……」
万里花「……ぐすっ、あれ、なんだろ」
万里花「ごめんね、全然悲しくないのに、なんで、だろ」グスッ
楽「……」ギュッ
楽「……いいよ」
楽「全部、叶えてやるから」
楽「お前が悲しいときは、ずっと傍で抱いていてやるし」
楽「お前が嬉しいときには、いつだって一緒に喜んでやる」
楽「お前がしたかったこと」
楽「お前の叶えたかった夢」
楽「全部、ホントにしてやるから」
楽「一生、傍に居てくれ、万里花」
万里花「………」
万里花「はいっ♪」
~ おしまい ~
お疲れ様です
凄かった
なんかそれ以上の感想が出てこない、面白かったけど。
乙
むちゃくちゃ良かったよ!!
乙
そしておやすみ
乙
やっぱりマリーがナンバーワン!
次回作の予定あったりするの?
期待大なんだけど!
乙 >>1は井上敏樹のクローンか何かか
糞ssだった
キャラsageだなんだ言われてたけどそんなの思わずただよかったと思った
おっつし☆
今までのニセコイssで一番良かった
乙
読み応えあったわ
マリーもすごいけど、
鶫も人生捨てて一人のために生きる事にしたのがなんていうかすごかったです
ほんとそれしか感想が出てこない。
そういえば春ちゃんはどうしてる?
乙 久しぶりに面白いss読んだわ
マリー「というお話だったのさ」エンドかと思ったがそんなことはなかったぜ
千葉県のYさんに読ませたいSS第一位
乙
素晴らしかった
昔ラブひなssでよくあった成瀬川ヘイト物思い出すな
0時ちょうどまでには貼り付け終わる予定だったのですが、一時間以上オーバーしてしまいました。
すみません。そして、最後まで追いかけてくださった方、ありがとうございます。
後、貼付け中に様々合いの手を入れてくださった方、励みになりました。こちらも、ありがとうございます。
何点かお答えして去ります
>>次回作
ニセコイで、今回と同じ規模のモノはもう書けないと思います。
けっこう期間かかってますし、自分が書いたらこうなる、的なものは全て書いてしまったので……
>>千棘sage
嫌いじゃないですが、自分の中でのリアルを追求した結果、少年院に入ってもらう事になりました。
賛否両論あるところと思いますが、人間的に成長させることができて、よかったとは思います
それにどのみち本編で幸せになるだろうし(略
>>マリーすごいつぐみすごい
ニセコイ本編では流されがちですが、改めて見ると凄い設定だと思います。二人とも。ポーラもかな。
本編で幸せになる構図はまったく見えないので、SSで活躍させたいと思ったのが製作のきっかけでした
>>春ちゃんどうしてる
ポーラと電話してました。
それでは、最後までお付き合い、本当にありがとうございました。
俺の中でこの作品でニセコイは完結した
一乙!
またどこかでお目にかかりたい
乙!
物凄い大作だったわ
うんこの出番多すぎw
面白かった!
初めて読んだニセコイssがこれでよかった・・・よね!うん(自問自答)
とても面白かった……が、そのせいで眠れなくなってしまったじゃねぇか !
乙です
それでもこれくらいの長編SSを年1回はやってほしい
重いけど良かった
千葉県のYさんみてるーー??
おもしろかったよおつおつ
おつー面白かった
一条も節操がないからなーなんか同情できない
>>352
ほんとそれな
途中で読むのを止めるという選択肢が思い浮かばなかったじゃねぇかコノヤロウ
なんて凄いss書きやがるんだ本当にどうもありがとうございました
乙です、面白かった。春ちゃんが微妙な感じかなって思ったのと
最後も千棘とつぐみみたいにニセコイにかけて締めて欲しかったかなーって
おつ
久しぶりに一気に読めるssだったわ
似た様なハーレム系(じゃなくても良いけど)別作品でまた何か書いて欲しい(懇願)
妙な現実感とギャグを叩く感じからして似てる作風のもあるし…とにかく期待
キャラdisかよーとか思って読み進めたらただの大作SSだった
レベル高いな面白かったよ
>>1乙
途中までてっきりマリーが黒幕で糸ひいてるとか思ってたけどぜんぜんそんなことなかった
今まで見たニセコイSSじゃ1番だったわ
物語は面白いがニセコイでやって欲しくなかった
ニセコイが好きなだけに気分悪くなったわ
乙乙
キャラsageが酷かったのは確かだろw
それ以上に面白かったから全然問題ないけど
途中つぐみが千棘を[ピーーー]んじゃないかって思ったらレズだった
正直原作より面白かったわ
割と一番sageられてるのは小野寺と春ちゃんではないだろうか
鶫が千棘をあの女呼ばわりしだしたところはヤバイヤバイと思ったが、そうでもなかった
予想に反した神SSだった
面白かったよー!
最後には救いがあってよかった
マリーかわいいよマリー
面白い、面白いんだけどこれ見たあとでは素直にニセコイの漫画みられねーな。
黒子の絶望ssを見たときと同じような心境
ご馳走さま
献身的な性格ってやっぱり恐怖混じるな
お前のせいでこんな時間だよ!!
乙です
一気に読んでしまった
鬱エンドじゃなくてよかった
よかった
それしかないっす
1です。
トリップ割れしていましたので、変更だけ報告させてください。
もし次回作を書かせていただくとしたら、こちらで投稿させて頂きます。
反応、ありがたく拝見させていただいております。
またの機会がありましたら、宜しくお願い致します。
タイトルで敬遠してた俺の馬鹿
最高におもしろかった
把握
楽しみにしてる
このSSまとめへのコメント
ほのぼのしてる本編も好きだけど、こういう系のいいかなw
1です。さっきは調子乗りました。すみません。やっぱり、本編が一番です。読んでてすごい悲しくなりました。
フェードアウトした春ちゃんはどうなったの??
面白かったよ
すごく読み込ませてもらいました!
素晴らしいです!
泣きそうでした!
万里花好きだからすごくよかった。
マジでセンスを感じる。次の話を期待しています。
メッチャ感動!!!!!!!!!
明日からも頑張れる元気をもらいました
とっても良かったです
これは圧倒的……。
これだけ重い話を一気に読ませられる作者に敬意を評します。
最高すぎて言葉にならない
今までで1番いいssでした。万里花
ええ子や...
何回読んでも飽きねぇ
2回目なのに泣いたわ
書籍化してほしい
本でもこんな事になりそう
感動して涙が出た
作者すげえな...
一気に読んじまった
こんなこと言ったらもともこも無いんだろうけど、千棘は流石に手加減出来てるし、漫画の描写が激しいのは、漫画として面白くする為だから、千棘は実際こんな事しないと思うのよ
面白かったんだけど、報われないキャラが多すぎてちょっとばかし悲しくなったかなあ
話が色々飛び火しまくりだったり、無駄にキャラクターの視点が変わりまくったり、不必要なほど色んなキャラにダメージを与えたり、不自然な程楽の精神状況が変化しまくったり
文章や展開は上手く纏まってるけど不可解な部分が多くて言うほど凄い作品とは思わんなあ
駄文とは思わんけど神作!とも感じられなかったかも
例え落ちが感動的だったとしても、例え上手く纏めて綺麗に終わったとしても
無闇にキャラsageした事実は変わらないし何故それを賞賛出来るのか理解出来ん
一体全体どの辺りがリアルなのかわからんし、これがリアルだと感じたなら正直キャラ一人一人に対してのイメージ歪み過ぎだと思うよ
どんだけそのキャラ嫌いなのかは知らないけど、救いがあればアンチにならないわけでもない
春ちゃんと一条の病室での会話も非常に違和感を感じた
不用意なキャラsageは不快だわ
読んだ上で書き込む俺も俺だし、見てるかはわからんが
こういうSSは本当に書かないで欲しいな……
正直クソ胸糞悪いだけだった
それでお涙ちょうだいエンドとか完全にマリー上げなのがな
気分悪りぃなあ本当
まあ、今後のこの作者に期待して、星4で
面白かった
マリー可愛すぎる
正直、橘万里花も生々しい?のも好きじゃないけど凄く良いssなのが分かった(敬)
このSSを下げる奴も上げる奴もなんだかなぁ
普通の、たかがSS如きでなぜそこまでハッスル出来るのか
普通に面白かった、つまらなかった、みたいなこなみで良いじゃん
気分悪いなら途中で見るのをやめればいいのに
俺は純粋ないちゃラブが好きだがこの話はなぜか最後まで目が離せなかった。
確かに重くていい気分にはならない場面もあるかもしれないがこのssはよかったと思う
ニセコイのSSは千棘冷遇されすぎwww
精神状況だってそりゃ変化するだろ、実際こんなことあったらさ
知識も普通にあったし、リアルだったと思うし面白かった。
漫画の描写は大げさだからこんなふうにならないとかじゃなくて、漫画で報われるんだからこっちはSSなんだから自分の好きなキャラ立てて良いじゃん、気に入らないなら自分で頭の中で改編でもしてろよ
神作
切なすぎて、感動して、切なすぎました。マリー最高です。つぐみもすごい。ありがとうございました!!!
こんなに悲しくて、切ないのは人生で初めて見ました。ほとんど全員が違う道をいったってのに、なんなんだ!このそうかいかんは!
本当に胸が張り裂けそうなぐらいいいものでした。これは、僕の宝物です
1さん、ありがとう!
とても読み応えあるifストーリーでした。本編ではシリアス回がほぼ無いのでこういう展開も有りですね。あと、やっぱり万里花は可愛いとおもいましたまる
不治(なおさず)の誓いはどうしたんすか?