妹「あら兄さん、奇遇ね」(16)
妹「ハローワークの帰りかしら?」
男「……ま、そんなもんさ」
妹「それなのにスタバに寄るなんて、いいご身分ね。……ニートの癖に」
男「うるさいよ、大体なんでお前はここにいるんだ。まだ学校の時間だろ」
妹「そりゃ私だって人間だもの、サボりたくなる時だってあるわ……まぁ、一年に1回あるかないかだけど」
男「随分と優等生体質で羨ましいことだ」
妹「別に兄さんが劣等生って言ってるわけじゃないのよ?」
妹「むしろ兄さんは、そのへんの掲示板でギャンギャン騒いでる馬鹿ニートよりよっぽど価値はあると思うわよ?」
妹「家事は料理以外ちゃんとやるし」
妹「ニートにしては読書が好きだからある程度教養もあるし」
妹「唯一の欠点とすれば、他人の言葉に振り回され過ぎて、すぐに心が折れちゃうメンタルの弱さかしら?」
期待している
妹「まぁ、唯一の欠点であり、全ての良い要素を潰す致命的な欠点でもあるけど」
男「うるさいな……」
妹「でも事実でしょ?兄さんってば長年の友達だか何だか知らないけど、その人に合わせた大学受けて落ちたんじゃない。主体性の無さが今の兄さんを型作っているのよ」
兄「……」
兄(確かに俺は主体性がない。)
兄(特に他人に誇れる要素もありゃしない。そもそも自己主張しないから)
兄(強いていうなら、妹が上げた読書ぐらいだ)
妹「……兄さん?聞いてるのかしら?」
兄「……主体性云々さっきから言ってくれてるが、お前の学校の生徒はみんな目を見張る様な個性を持ってるか?」
妹「……」
兄「持ってるわけないよな。一部を除けば皆『村人A』レベルさ」
兄「なんでみんなそこに黙って治まってると思う?」
兄「楽だからさ」
兄「主体性なんて持ってたって、ろくなこたァない。そんなもんは、出来る奴にまかしときゃいい」
兄「俺は……別に何かの主体にならなくていい」
兄「合わせていれば、楽だからな」
妹「……兄さんって、馬鹿ね」
見てる奴いてくれてよかた
続ける
兄「じゃなきゃぁ大学落ないわな」
妹「そう言う意味じゃないわ、人間の本質を見誤ってるのよ」
兄「……言ってくれるじゃないか、じゃあお前の言う人間の本ってやつを教えてくれよ」
妹「その前に、兄さんが今飲んでる抹茶クリームフラペチーノを授業料として献上して頂戴」
兄「……仕方ない」カップスベラシ
妹「……ん、おいしいわ。じゃ、語らせてもらうけど……さっき兄さんは大半の人間は主体性がない、というような意味合いの事を言ったわね?」
兄「……まぁ、大方そんな感じだな」
妹「それって大いにまちがってるわよ。私の学校にいる人間の殆どは確かに自己主張はしないけど、皆確かな『芯』ていうのを持ってると思うの」
兄「芯?」
妹「そ、芯よ。これといったらこれ。他人に何を言われようが他人がなにをしてようが関係ねぇ。俺は私はこれで通す……って感じの」
兄「それは……『芯』じゃなくて『我』って言うんじゃないのか。通しすぎれば生きづらくなる事請け合いだ」
妹「たとえそれが『我』だったとしても、表に出すタイミングを考えれば悪くないものよ?」
妹「本当の『我が儘』って言うのはね、自分の我を機能させるタイミングを心得てる人間の事なんだから」
妹「……で、兄さんにはないの?通せるもの。『俺はこれだけはやってるぞ!!』って声を大きくして言えるもの」
兄「……あったらこんな所でくすぶってねえわな」
妹「ほんとに馬鹿ね。血が繋がってるぐらいしか関係のない私ですら、兄さんの誇れる物は解ってるつもりよ」
俺は腹を抱えて笑い出したい気分になった。
わかるものか。誇れるところなぞ一分も無いのだから。
ましてや妹は成績もよく、学校では生徒会の副会長を努める、言うなればここの話の中での『主体性のある人間なのだから』
どうせ的外れな事を言ってくるのだろ、と腹の中でほくそ笑みながら、俺は妹に答えを促す。
兄「じゃあ教えてくれよ。俺が他人に誇れるものってなんなんだ?え?」
妹の答えは、予想以上に馬鹿馬鹿しい物だった。
妹「読書」
兄「……」
馬鹿馬鹿しい、もののはずだ。
だのに、俺は何も言えなくなってしまう。
何か、引っかかるのだ。
妹「……よーく、思い返してみたら?兄さん」
妹「自分が読んだ書籍の内容とか、印象に残ったシーンとかさ」
妹の言葉に従う様に、頭が勝手に思い返す。
つい最近読んだサスペンス小説のクライマックス。
戯れに手にとったライトノベルの白熱したバトルシーン。
それ以外にも、自分が驚くほどに過去読んだ本の記憶が浮かんでくる。
妹「……きっと兄さんは、読書をただの趣味として捉えてきたのよ」
妹「……私は違うと思うわ。あ、根拠を示せって言われると困るのだけど」
妹「どう?無職生活の余暇つぶしにでも――――――小説、書いてみる気は無いかしら?」
妹「兄さんは、できるわよ」
妹「……だってほら、ふふっ、―――――目の色が、変わっちゃってるもの」
兄「……」
妹「いつものジト目兄さんより、私はそっちの方が好きよ?」
妹「……あら、もうこんな時間……戻らなきゃ、じゃね、兄さん」
そう言って、妹はスタバの店外に消えて行く。
「は」
気分を紛らわすように、今はここにいない妹に嘲り笑いをぶつけてやる
小説を書けだと?
笑わせてくれる。
本当に―――――――
―――――良い、妹を持ったものだ。
走る。
スターバックスのテーブルを蹴散らしかねない勢いで店外に飛び出し、そのままアスファルトを駆け抜けていく。
しばらく走り、見えてきた妹の背中。
原稿用紙って、どこに売ってたっけ。
そんな質問を頭の中で用意して、俺は妹の肩に手をかけた。
ー了ー
もうちょっと考えて書けばよかったなwwww
見てくれてた奴、ありがとさん。
乙
乙
乙
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