GACKT「輝きの向こうへ?」 (85)

GACKT「今度は何?」

セメナ祭が終わった日の翌日、YOUが突然、映画を見たいと言い出した。
これからDVDに起こさなきゃいけないというのに、なんだというのか。

YOU「ほら、がっくんアイマス全クリしてから何か元気無かったみたいだし。
良かったら、見に行こうよ!」

元気が無い。そうかと聞かれれば、悔しいがそうかもしれない。
なんせ一年も一緒にいて、切磋琢磨していった仲間達なんだ。
胸に穴が開いたようだ、という表現が正しいと思う。

GACKT「で、それと映画が何の関係があるの?」

YOU「あれ?てっきりアニメの方も見てたと思ったのに、違うんだ?」

アニメ?あれアニメもやってたんだ。知らなかったなあ。

YOU「本当、そういうの疎いんだからなぁ。この映画は、それの劇場版だよ」

GACKT「そっか。じゃあまずは、アニメを見なきゃだな」

YOU「良かったら、貸すよ」

GACKT「いや、いいよ。買ってくるから」

YOU「豪快だなぁ…」

家に帰り、ついでに買ったテレビにDVDを入れる。

どんなアニメなのだろう。
パッケージもロクに見なかったから、分かんないや。あはは。

すると、まさか。
懐かしい光景が広がっていた。

「これ…たるき亭じゃないか。
…あれ、何だか」

僕のあの時にそっくりじゃないか。
何だかもどかしいなあ。

あはは。確かにあの双子、こんな事してたなぁ。

そうそう。雪歩はすぐ倒れてたっけ?

伊織達の背伸びは面白かったなあ。

そうそう。この民宿だ。
ここで美希が入ってきたんだっけ。

ああ。竜宮小町、遅れてたよね。そうか。この辺からは違うんだなあ。

あはは。あの悪徳記者、もっと虐めておけば良かったな。

貴音はほんと、ラーメンが好きなんだなあ。

響、そうか。こんな事もあったんだ。

小鳥のあの姿は、美しかった。

真のお姫様は、面白かったな。

千早の歌声、まだまだ改善すべき所があるなあ。

春香、メインヒロインという割には、お前のが一番世話が焼けたよ。


「………………」

何だろう。ハッピーエンドで終わった筈なのに。

「…………………」

何で僕は、頭を抱えてるんだ。

「…………………」


認めるわけにはいかない。認めてしまえば、僕らしくなくなる。






「…………………!!」






僕は、彼女らに会いたかった。

「がっくんお早う。すごいクマができてるよ」

愛知での仕事帰り、YOUと夕方5時に、映画館で待ち合わせをしていた。

物凄い人集りだ。
彼女らは、こんなに人気があるんだな。

嬉しいよ。あはは。

「がっくん。実はね、今日、特別試写会なんだ!」

特別試写会。それが何なのかは知っている。

キャストが出てきて、挨拶をする、という奴だ。

だが、僕は声優に関しては、ジブリ程度のキャストしか分からなかった。


「あ、あの~もしかして、GACKTさんですか!?」

映画館のスタッフだろうか。
僕に恐る恐る話しかけてくる。

「そうだよ。今日はこれを見にきたんだ。親友とね」
「えへ」



「…もし、良ければなんですが~」

案内されたのは、キャスト達の控え室。

声優の人達は、一室だけなのか。

今回は三人のキャストがいるらしい。


ドアをノックして、入る。

「お邪魔しまーす」

彼女らが、ポカンと口を開けた。
あはは。だろうなぁ。

数秒後、彼女らが動揺しながらも、僕に何度もお辞儀をしてきた。

とても、聞き慣れた声で。

「わ、私!星井 美希役の長谷川明子と言います!」

「我那覇 響役の沼倉愛美です!」

「四条 貴音役の原由美です!」

「GACKTでーす。こっちは親友のYOUね」

三人と握手を交わす。

サイン交換。



でも、僕にはちょっと辛かった。

彼女らの事は知らなかった。
でも、この声は知っている。

一年も一緒にやってきたんだから。

だからこそ、辛かった。

それを、口に出した所で彼女らは恐らく、ゲームをプレイしたくらいにしか思われないだろうから。

参ったなあ。

早速続きか!wktk

「ねえ。一つ頼んでもいいかな?」

「はい!何でもどうぞ!」

由美がハキハキと喋る。




「今から、僕の事をプロデューサーと思って会話して欲しいんだ」


三人の頭上に?マークが浮かぶ。

しかし直ぐに合点がいったようだ。


まあ、僕の想いと彼女らの想いは違うんだろうけど。

君達にとってはただ試されている、としか思えないんだろうけど。

僕は、とにかく。
寂しさを紛らわせたかっただけなんだ。
ごめんな。

「ねえハニー!今日は美希達の晴れ舞台に来てくれてありがとうなの!」

「自分、張り切っちゃうからな!プロデューサー!」

「あなた様。どうか楽しんでいってくださいね」


いけない。年をとると、涙腺が緩むというのは本当らしい。

平静を取り繕い、彼女達に礼を言う。

YOUは終始興奮気味だった。

それが普通なのかな。あはは。


「ありがとう。じゃあ、これからも頑張って」

「「はい!ありがとうございました!!」」


映画を特別席で見せてくれるそうなので、甘えておくことにした。

見てるよ

映画が始まる前に、キャストの三人が舞台に立つ。

観客達が凄まじい勢いで声を上げる。

彼女達、人気者なんだなあ。

これからが楽しみだ。

映画が始まると、何やら見慣れないキャラクターが出てきた。

ああ。バックダンサーか。

もう彼女らも立派なトップアイドルの仲間入りを果たしたんだな。

あはは。確かに彼女らも初めのうちはたった一日のレッスンで筋肉痛になってたっけ?

誰だって初めのうちはそうなんだよな。

しかし、伊織は先輩面が似合うなあ。

あはは。もうあきらめちゃうのか。
この可奈と言う子は、初めの頃の雪歩にそっくりだ。

さて、ここから彼女らがどうするか、だな。

アイドルを夢見て、道半ばで諦める者は珍しくない。

彼女らもそうだったのだから。
けれど、それを乗り越えてトップアイドルとなったのだ。

同じ道を歩んでいるからこそ、気持ちが分かるんだろうな。

春香。随分と器が大きくなったじゃないか。

何だか鼻が高いよ。

でも、ええと。
名前は分からないけど、このプロデューサー。
少し頼りがいがないな。

僕だったら、どんな方法を取るのだろう。

この場面にいないから、何とも言えないけど。


あはは。随分太っちゃったな。
まあ。世の男達は、少々肉付きが良い方が良く見えるんだけど。

それでも彼女達にはキツイものがあるんだろうな。

でも、スタートが遅れたとしても、取り戻せないわけではない。

可奈はきっと、凄まじい努力をしたのだろう。

最期には、アリーナLIVEを成功させてみせた。

よく頑張ったな。
僕の後ろの席の男達が泣いてるよ。

エンドロールが流れ、明るくなると、盛大な拍手が巻き起こった。

YOUも拍手してたよ。全く。



本当、良かったよ。

「ねえ春香。奇跡って信じる?」

学校の友達が不意に口を開く。
何かあったのかな?

「いやねぇ。直美が隣の男子校の学年一のイケメンに告白するんだって。
でも話したこともない相手なんだから、無理だって言ってんだけどさあ…」
「分かんないじゃん!信じれば奇跡は起きるんだぞ!」

ははは…そうだね。
100%駄目ってことじゃないし。

「やってみないことには分からないと思うよ」

「でしょ!?春香はやっぱり話が分かるねぇ!」

うん。
だって私もその奇跡に出会ったから。

そして、今この瞬間も、その奇跡の再来を信じてる。

私だけじゃない。
765プロのみんなが信じてる。

扉を開けたら、いつものように。
足を組んで、優雅にコーヒーを飲む彼がいることを望んでる。

そして、いつものように不敵な笑みを浮かべながら。

「お早う春香。仕事、頑張れよ」

って言ってくれることを信じてる。

GACKTさんが元の世界に消えてからも、私達は彼がいつでも戻ってこれるように、デスクの掃除をして、彼専用のコップを買って、そしてプロデューサーを雇わずに自分達だけの力でやっている。

いわゆるセルフプロデュースというやつだ。

世間では、GACKTさんが消えた事を知るものはいない。

それは私達だけの秘密だから。

知ってるのは、私達と黒井社長くらいだろうか。

黒井社長と高木社長はあれからよく二人でバーに出かけているらしい。

黒井社長曰く
「相手がいつまでもしょげていてはつまらんからな!」
らしいが。

分かっている。
彼はきっと、高木社長を慰めたいんだろう。

ただ、素直じゃないだけだ。
何だか、伊織みたいだなあ。

美希はというと、GACKTさんが消えてからしばらくは、仕事が手に付かない程やつれてしまった。

しかし、みんなの世話の甲斐あってか、何とかいつもの調子を取り戻した。

大丈夫ですよ、GACKTさん。
いつでも戻ってきてください。

それとも、そっちでアイドルのプロデュースでもしてるんでしょうか。

だったら、嫉妬しちゃうなあ。





やっぱり、会いたいですよ。
GACKTさん。

今、どこで何をしてるんですか?

映画を見終わった後、家に帰り、もう全てクリアしてしまったが、もう一度、あのゲームを起動させた。

いけないなあ。
良い年した男が、逆ホームシックだなんて。

『プロデューサーさん!』

あはは。
僕も、まるでオタクだな。

まあ、悪くないかな。

それに、僕のやる事はもう終わったんだ。

後は、彼女ら…しだ……い……zzz

「ハッ!!?」

いけない。
ゲームの最中に寝ちゃうなんて。
僕らしいけど、この癖は治さなきゃダメかなあ。

あれ?コントローラーが無い。

なんだ?僕は今までソファに座ってたのに。

何でこんな小さいベッドで寝ているんだ?

…いや、このベッドは。
知っている。
そうだ。思い出した。

なんせ一年も住んでたんだから。

忘れるはずがないよ。

仕方ないな。
行くとするか。


その前に

たるき亭のご飯抜き定食でも食べるとしようかな。あはは。

先日の夜だろうか。
社長から電話があった。

今日は全員、事務所に集合してほしいという。
声が弾んでおり、何かのサプライズがあるようだ。

…まさか。
いや、今まで期待して、何度もへし折られてきた。

でも、直美が言っていた。
信じていれば、奇跡は起きる、と。

なら、今度こそ。

自然と私の足は、駆け出していった。
一切転ぶ事なく、ただ事務所を目指して。

階段を駆け上がる。
息を切らしながら。

呼吸を整え、深呼吸をする。
来てくれた。今日こそ、来てくれたんだ。

ドアを勢いよく開ける。





「お早う春香。元気にしてたか?」

いた。

どれ程待っただろう。
どれ程泣いただろう。

おかしい。
口が開かない。

涙で前が見えない。

目の前にいたのは、灰色のスーツに、金のネクタイ。

サングラスをかけて、不敵に笑い、コーヒーを優雅に飲む。

「GACKT……さん……!!」


私は、膝から崩れ落ちてしまった。

「どうしたんだ。らしくない」

「違うんです…嬉しくて……!」

「僕も嬉しいよ、また会えて」

GACKTさんが、優しく私を抱き締める。

そうだ。幻じゃない。
体温があって、力強く、それでいて優しい感じ。
これだ。GACKTさんである何よりの証拠。



「おかしいなぁ…」
「?」

「GACKTさんに会ったら、何を言おうか、ずっと考えてたのに、あった途端に、全部忘れてしまいました」

「僕もだ。お前の顔を見た瞬間、忘れてしまったよ。…だから、これしか言えないな」

「…ただいま。春香」
「…おかえりなさい。GACKTさん」

GACKTさんの顔を見た瞬間。
皆私と同じように、泣きじゃくった。

抱きついて話さなかったり、その場でへたり込んだり。

貴音さんが泣くなんて、珍しいなあって思った。

美希なんて、何処から出るのってくらいの大声で泣いていた。

やっと、やっと帰ってきてくれた。

胸に空いた穴が、静かに埋められていく感じがした。

「しかし、君が帰ってきてくれて、本当に良かったよ」

社長が口を開く。
聞けば春香達は、今までプロデューサーを断っていたそうだ。

いつでも僕が来れるように。
何だか照れるなあ。

「そこで、だ。GACKT君。早速なんだがねぇ。これを見てくれないか?」

手渡されたのは、企画書。
…あはは。僕は、これを知ってる。

アリーナLIVE。
そこで、バックダンサーを研修生から7人程取る。

そうか。まだ僕は、この世界に必要とされていたんだな。

なら、全力を尽くすとしよう。

「任せてくれ。最高のLIVEにしよう」

一年以上ぶりの、握手を交わした。


「い、痛いよGACKTくん!?」

「「…」」

春香達と顔を合わせる前に、プロデューサーである僕と面談をする。

どういう子達なのか、まず見てみたいからだ。

運命のイタズラか、はたまたこれは決定事項とでも言うのか。

しかし、緊張しているのか、僕の顔色を伺いながら押し黙っていた。

「じゃあ、一人ずつ自己紹介して」

誰から、とは言わない。
意地悪かもしれないけど、こういうのは初めが肝心だから。

ある程度グイグイ来るほうがいい。

そうすると、あの子が口を開いた。

「や、矢吹 可奈です!」

この子か。
果たして僕が来た事で、どうなるか楽しみだ。

そして、一人が口を開くとたちまち二人目三人目と喋り出す。

すると、最期に喋った子が僕の目に止まった。

「北沢 志保です」

伊織と何度も衝突したあの子か。

さて、どう関わってくるのかな。


何にせよ、明日の顔合わせが楽しみだ。

乙!

「あ、あの人が春香ちゃん…」

「や…やっぱ風格あるなぁ…うちら、ほんまにトップアイドルの人達とLIVEするんやなぁ」

合宿先で、先に待っていた彼女達がウサギのように耳をたてながら壁の向こうからこちらを見ている。

あはは。可愛らしいなあ。

これからが楽しみだ。

「はぁ…」

やはり、食事も喉を通らないようだ。

僕はあまりダンスレッスンには関わらない為、どの程度なのかは分からない。

一度トレーニングを見てくれと言われたので、僕がやっている事をそのままやらせたら、真以外の全員がダウンしてしまった。

それ以来、ボーカルレッスンしか教えさせてもらえなくなった。あはは。

「…」

とりあえず、彼女達の席に座る。

一同がビクッとして、僕にお辞儀をする。

気を使っているのは容易に見て取れた。

「今日一日、どうだったかな?」

聞かなくても顔色や箸を手につけないことから、すぐに答えは分かるが、とりあえず聞いてみた。

「あはは…やっぱすごい大変ですねぇ…」

関西の方の子だろうか。
少々訛りながら呟く。

「あはは。誰だって初めのうちはこうだよ」

飴と鞭、という言葉がある。
今この場合は、律子が鞭かな?

なら僕は、飴にでもなろうか。
飴といっても、舐められるのは嫌だけどね。

「少しずつ、少しずつ慣らしていけばいいさ。時間はたくさんある。
雪歩なんて、すぐにへばって弱音を吐いていたからな」

「ぷ、プロデューサーぁ…恥ずかしいからやめてくださいぃ」

「ええー!?雪歩さんもそうだったんですかー!?」

途端に皆が雪歩に注目する。
雪歩の顔がみるみるうちに真っ赤になる。

あ、これフラグたったかな。

一度笑いが起きれば、後は成り行きに任せればいい。

皆の緊張がほぐれていくのが分かった。

そう。これでいい。
僕が765プロが学んだこと、それは、皆で切磋琢磨しあうこと。

最後は皆でゴールすること。

以前の僕だったら、こんな事は考えられなかった。

後は、この子達のモチベーションが沈まないよう気をつけるようにしよう。

「はいそこ!動きが遅れてるわよ!」

律子の指導は、研修生にとっては地獄の様なものなんだろう。

しかし、プロの世界では当たり前の事だ。
むしろ今、その片鱗を味わっている事で彼女らの将来にも貢献できる何かがある筈だ。

例えこの研修生たちがアイドルの道に進まなかったとしても。

そんな事を思っていると、ふいに響が妙な事を言い出した。

「なあプロデューサー!プロデューサーのダンスも見せてあげようよ!」

何を言い出すのかと思えば。
僕にお前達のダンスをやれというのか?
それは無理だよ。やったことないし。


……ああ、そういえば、一つだけあったかな。

「だけど、あれはLIVEでは必要無い曲だし、何よりなんの見本にもならないだろ?」

「いいからいいから!ほら、真も貴音も美希も!
…覚えてるだろ?」

「へへーん!当然!」
「ハニーの歌なら全部覚えてるの!」
「ええ。それに今の私達なら、何度でも大丈夫です」


律子も苦笑いしながら僕を見る。
そうだなあ。
765プロの実力を見せつけるのも、練習の一つ、というやつかな。

だったら、やってみようか。

http://www.youtube.com/watch?v=3KQSrnylJi4

「「わぁ…」」

驚嘆の言葉。
けれど、驚いたのは僕の方だ。

以前の彼女達なら、この一曲だけで疲れ果ててしまっていた。

だが、今は笑顔で僕を見ている。

知らない間に、随分成長したものだ。
嬉しいよ。あはは。


「…と、まあうちはプロデューサーから違うからね。

あんた達も、将来的にはこれくらいなってもらうわよ!」

律子が拳を握って言う。

彼女達はというと、若干引いていた。
やはり、自信が湧かないのだろう。

実力の無いうちに圧倒的なものを見せつけられてしまうと、萎縮してしまう者はよくいる。

そこで何くそ、と頑張れるもの達がトップへの切符を手にするのだ。



「…皆、才能だけでここまで登りつめたわけじゃない。
勿論僕もだ。

それに、765プロの中でも実力の差はある。

だけど、彼女達は、それを努力で埋めてきたんだ。

だから、諦めないで頑張れよ」

言葉では通じないかもしれない。
けれど、いずれ分かるさ。
そんなもんだよ。

束の間の休息時間。

彼女らは水鉄砲で遊んでいた。
やはり、まだまだ若い子供達だ。

若いのは特権だし、何よ…



「ふん。ぼーっとしてんのが悪いのよ!」

「…………………」

「な、何よ…」

「…………………」

「そ、そんな見ないで、わ、悪かったから」

「…………………………」

「ふえぇ…ごめんなさいぃ……」

伊織。悪ノリは良くないぞ。

そういえば、春香の姿が無かったので、見回してみた。

すると、体育館裏で、可奈と話していた。

「何か、話してたのか?」

近づくと、二人してオーバーな反応をする。

何か見られたくないものを見られたような感じだ。

…ああ。そういうこと。

「お菓子が好きなのか?」

「は、はい。す、すいません」

「節度を持ってくれればいいよ。
だけど、食べたら食べた分だけ動いてもらおうかな」

「ひえぇ…」

この子は、春香のファンだという。

しかし、春香というより、雪歩に通ずる物があるな。

とてもいじりがいがある。
ゾクゾクするよ。あはは。

合宿が終わったのち、規模は小さいが、アリーナの宣伝目的の小ライブがある。

そういえば、映画ではここで可奈が事件を起こすんだっけ?

…参ったなあ。
すっかり、忘れてたよ。
うかれてたからかな。







『765プロのオーバーワークのせいか?アイドル研修生、ライブ中に転倒事故!』

週刊誌の765プロへのバッシング記事を見ながら僕は激しく後悔していた。

レッスンスタジオに思い空気が漂う。

「可奈ちゃん。今日も来ませんでした…」

春香が俯きながら呟く。
こうなることは分かっていたのに、止められなかった。

反省しなければならないな。


すると、研修生の一人が口を開いた。

「放っておけば良いと思います」

北沢 志保。
彼女だった。

「そ、それはダメだよ。可奈ちゃんだって、きっと辞めたくないはずだよ」


「でも、一人に付き合わせてたら全員が遅れてしまいます!

ヤル気が無いなら、辞めてもらった方がいいですよ!」

「…でも」

「貴方、リーダーじゃないんですか!?どうして、チームより個人の事を考えるんですか!?」

「……」

助け船でも出してやろうか、そう考えていると、伊織が喋り出す。

「志保。あんたが何を言おうと、リーダーは春香よ。

私は、春香に従うわ」

「……!?どうして、そんな甘いんですか…」




「志保。少し話を聞いてくれ」

「?」

志保が、納得のいっていない表情で僕を見る。

今の志保の気持ちはよく分かる。
だって、僕もそうだったから。

「もう結構前になるんだけどね、765プロの年末感謝祭ライブ直前、僕は一度春香を追い出したことがある」

「!?…どういうことですか?それは」

春香は、複雑そうな顔をしていた。
あまり思い出したくないのだろう。

だけど、これは言っておく必要があると思うんだ。

「春香は、たった一人で忙しい合間をぬって、練習に励んでいた」

「けれど、思うように皆で練習ができなかった」

「その時は、バラバラで仕事をする事が多かったから、あまり集まれなかったんだ」

「だから、何とかして皆で練習したいと僕に相談してきた」

「……」

皆、押し黙っている。
あの時の事を思い出しているのだろう。

「その時の僕には、春香の気持ちが分からなかった」

「アイドルの絆、というものをあまり信じていなかったからだ」

「765プロの経営方針は、皆で仲良く楽しく仕事をすること。

僕には到底無理だと思っていた」

春香が不安げな顔で僕を覗く。
肩が少し震えていた。

ごめんな。もう少し続けさせてくれ。

「でも春香は、それを信じてやまなかった」

「対立した僕は、春香を一度、追い出したんだ」

春香が俯き、唇をかみしめている。

「その後、小鳥に引っ叩かれ、律子に蹴られたなあ」

「「ええっ!?」」

「そっちのが驚きだわよ」

伊織が苦笑しながら、話を続けろとジェスチャーする。
僕も頷き、分かったと意思を伝える。

「確かに、僕が765プロのアイドル達を見てきた中、衝突はあれど、いがみ合う、ということは無かった」

「そこで僕は試したんだ。
いや、賭けてみることにした。

彼女達の可能性に。
…お前達の、可能性に」

「GACKTさん…」

今更ながら、春香も僕のことを名前で呼ぶ事に気付いた。
あはは。ごめんよ。

「…後で気づいたんだけど、この時、千早が春香の代わりに皆に声をかけていたそうだ」

春香が千早を横目でチラリ、と見た。
途端に千早が恥ずかしそうに目を逸らす。

「その甲斐あってか、この子達はライブを成功させた。

…僕に、うち勝ったんだ」

「で、その後女装させられてライブに出させられたのよね~?GACKTちゃん?」

挑発するように伊織が僕を見上げる。
その前髪、引きちぎってやろうか?

「無言で髪の毛引っ張らないでいたいいたいいたいいたい!!!」


「志保。お前は以前の僕と同じだ」

「……!」

志保が僕を見上げる。
思うようなことがあるのだろう。

「だったら、一度見てみるといい。彼女達を。
そして、賭けてみるといい」

「…」

「僕も力を貸すよ。随分待たせちゃったからね」

「「プロデューサー!!」」

皆の顔が明るくなる。
いいじゃないか。これが765プロだ。











「いいかげん離してよ!!!」

「春香、まだ元気が無いの」

トイレで顔を洗っていると、美希が後ろから話しかけてきた。

「…うん。…ねえ美希。リーダーが私で良かったのかな?」

なんで私が、と疑問に思う。
私は765プロの中でも、歌が上手いわけじゃないし、ダンスもそこまで踊れない。
実力なら美希達の方が上だ。

「んー…わかんないの。
でも、確かにハニーが春香を選んだのは悔しかったの。
でも、ハニーが選んだってことは、きっとハニーは春香のこと、一番リーダーにふさわしいって思ったはずなの。だったら、美希は春香に任せるの」

「…美希」

「あはっ☆春香ってば泣き虫さんなの」

気づかないうちに、泣いていたらしい。
それもこれもGACKTさんのせいだ。

全く。困っちゃうなぁ。あはは。

その日は遅くなって、千早ちゃんの家に泊めてもらうことになった。

千早ちゃんの家に私の私物が増えてきたなあ。えへへ。

近くの喫茶店でご飯を食べる。
千早ちゃんは外食が多いから、家の冷蔵庫はドリンクくらいしか無いんだもんなあ。

二人でいろんな事を話している時も、可奈ちゃんにメールをしていた。

千早ちゃんも心配そうにしている。

「まだ、矢吹さんから返事は来ないの?」

「うん…何度も送ってるんだけど」

「そう…」



「可愛いね、ちょっといいかな?」

「…GACKTさん、なにしてるんですか?」

千早ちゃんが怪訝な顔でGACKTさんを見る。

ナンパしなれてるのかなぁ。
何だか嫉妬するよ。

「あはは。ナンパするんだったら、初めにキスしちゃうからな」

えええ!?
き、キスしちゃうんですか!
さ、されちゃうんですか私!!?

「春香、落ち着きなさい。私が呼んだのよ」

あ、そうなんだ。
でも、どうして?

「こういう時、一番頼りになるのはGACKTさんだから」

「照れるなあ」

…うん。そうだ。
いつだってGACKTさんは事件を解決してくれる。

千早ちゃんの時もそうだったし。

私は、GACKTさんに相談してみることにした。

春香から話を聞くと、可奈は依然として返事を返さないという。

だが、メールを見ていないということはないだろう。

バツが悪いとかそんなんだろう。

一度、会ってみようかな。
彼女の本心を聞いてから、判断するとしよう。

このままだったら、良くないからな。

周りの人間が二人に気づきだしたので、お開きにすることにした。

やっぱり、この家の風呂は狭い。

これじゃあ、足も伸ばせやしないよ。

それに全体的に明るすぎる。
僕はもっと、暗い方が良い。

まあ、あまり文句を行っても仕方ないか。
あるだけまし。そう考えよう。

さあ、出ようかな、と思っていると、携帯電話が鳴っているのに気付いた。

誰だろう。今は夜の10時だ。
社長か、小鳥くらいなことだろう。

しかし、その予想は間違っていた。

着信は、春香からだった。








「GACKTさん!…可奈ちゃんが…可奈ちゃんが!!」

「可奈ちゃんが…辞めるって…」

「…そうか」

やっぱり、こうなっちゃうか。
世話のやける子だなあ。

「私…私、どうしたら…」

「お前は、どんな結末がいいんだ?」

「…え?」

僕は、春香に委ねることにした。
リーダーは、お前だからな。

「あの、GACKTさんは、どうして私をリーダーに選んでくれたんですか?」

何故?
そうだな…。

「春香。もしお前達の生活がゲームやアニメになったらどうだ?」

「は?」

こんな時に何を言ってるんだ、というような返事だ。
頭おかしくなったと思われたかな?あはは。

ほう

「あ、あの何がなんだか…」

「いいから、答えて」

「そ、そうですね…嬉しい、です?」

「僕はね、765プロのメインヒロインはお前だと思ってる」

「え?えええええええ!!?」

うるさいなぁ。仕方ないか。

「主人公は僕。いや、プロデューサーだ。
メインヒロインは誰だろうって考えたら、お前が最初に浮かんだんだ。
だからだよ」

「…あ、ありがとうございましゅ…」

電話越しでも照れてるのが分かるなあ。わかりやすい子だ。

「リーダーに相応しいのは実力じゃない。チームのことを愛する心だ。
お前が、一番765プロを愛している。そういうことだよ」

「深いのか浅いのか、分かりませんけど…」

「いいんだよ。今は分からなくていい」

明日、とりあえず可奈の所にでも行くとしようじゃないか。

「はい。分かりました。見つかり次第、連絡致しますので…」

律子が可奈の母親に電話をしている。
予想通り、可奈は家にいなかった。

今、皆で探している。

けど、僕はもう分かっている。
可奈の居る所が。

そういえば、強くてニューゲームなんて言葉、よく見かけるなあ。

今の僕は、そんな感じかもしれない。

さあ。行くとしようかな。



「GACKTさん?どこに行くんですか!?」

「……ナンパかな」

可奈ちゃんが行きそうな所。
私は知っている。

そうだ。あの子は歌うのが好きだと言っていた。

「どうしようもなくなったとき、河原で歌うんです!」

なら、もう決まってる。
行かなきゃ。早く。早く!

「…」

「可奈ちゃん!!」

「…!」

可奈ちゃんは、私の声に反応すると、顔を隠して逃げ出した。

傘もささず、一目散に逃げ出した。

このままじゃいけない。
このままじゃ、可奈ちゃんはダメになっちゃう。

そうだ。私はリーダーなんだから。

気づいたら、私は傘を放り投げて可奈ちゃんを追っていた。

「待って!可奈ちゃん!」

私の声にも耳を貸さず、ひたすら逃げる。
道ゆく人達が物珍しそうに見ている。

そんな事気にするもんか。
とにかく、可奈ちゃんと話さなきゃ、ダメなんだから。

橋の真ん中、可奈ちゃんが転びそうになる。

急いで手を出し、掴もうとする。

しかし、それは杞憂に終わったようだ。

可奈ちゃんは、男の人に抱きかかえられていた。

そこにいたのは。



「…GACKTさん!?」

GACKTさんは、優しく、それでいて力強く可奈ちゃんを抱きとめていた。

私にしてくれたように。

可奈ちゃんも、抵抗する事なく、抱きかかえられていた。

やっぱり、GACKTさんは凄いや。

魔法使いなのかな。

あんなに私達を拒絶した可奈ちゃんが、安心しきっている。

しかし、GACKTさんが可奈ちゃんのフードを外すと、後から追いついたみんなも、私も、大口を開けざるをえなかった。




「…」



そこには、ふっくらした可奈ちゃんがいたのだ。

「あ、か、可奈ちゃん。何だか肉付きが良くなったねぇ…」

真美が珍しく気を使う程。
私は言葉が出なかった。


「…私、ストレスが溜まると、すぐにお菓子バリバリ食べちゃって、何時の間にか、こんな風に、なっちゃって…!」

「…」

GACKTさんは、黙って話を聞いていた。

「…だから、もう、いいんです。私に、アイドルなんて出来ない。
もう、無理なんです」



「………可奈。一緒にきて欲しい所がある。皆も、来てくれ」

GACKTさんが皆を連れてきたのは、アリーナライブの会場。

もう既に、私達のライブに合わせて準備が整っている。

「わぁ…こんなに大きいんだ」

「ここで、ライブするんだねぇ」

圧巻。それが一番に出てきた感想。
夢にまで見た、アリーナ。

可奈ちゃんも、辺りを見回していた。

……そうだ。私、ついに夢を叶えたんだ。

自然と足が動き、私は舞台に立っていた。




「………後ろの人も、ちゃーんと、見てるからねー!!」

「二階席の人も、三階席の人も、ちゃーんと、見えてるからねー!!」

「春香…」

千早達が、春香を見る。
そうだ。お前達は今、夢の舞台にいるんだ。

お前達が、自分の手で掴み取ったんだ。

「…可奈。春香のどんな所が好きになったんだ?」

「…」

「あの、まっすぐさだろう?

…春香はな、ただ、アイドルが好きなんだ。アイドルという仕事を、愛しているんだ。

お前は、そんな春香に惹かれたんだろ?」

「…はい」

「お前も、アイドルが好きなんだろう?」

「…はい…!」

「じゃあ、アイドル、辞めたい?」

「……そんな、わけ、ない…!!」

「悔しいか?
…悔しくて涙を流したなら死ぬほど努力しろ。
悲しくて涙を流したならその悲しみは忘れずにその分、誰かに優しくしてやれ」

「GACKT、さん…」

「春香も、そうやってきたんだ。そうだよな?春香」

「はいっ!」

いい笑顔だ。それでいい。

「だーいじょうぶ!今からでも取り戻せるって!!」

「奈緒…」

「それに、ずーっと!待っとったんやで!?」

「美奈子…」

「みんな…」



「可奈。…私、頑張ってみるわ」

「志保…?」

「だから、貴方も頑張って」

「……うん!うん!!」

そうそう。
本気で自分の人生走ってみたら、何か、見えてくるさ。

だから、頑張って。

というわけで。

「可奈、研修生の皆。明日からは僕がお前達の面倒を見るよ」

「「え?」」

「が、GACKTさんが?」

「当然。大丈夫。死にはしないから」

「あはは…可奈ちゃん。みんな。頑張って!!」

まあ、それは明日からにしようかな。

今は、みんなの絆も深まった事だし、僕からのささやかなプレゼントだ。

http://www.youtube.com/watch?v=ZxhrqE7mmJ4

夢は、見るものじゃない。
夢は、叶えるもの。

そして、夢を叶える事、それは、強い意思を貫く事。

お前達の未来に、期待しよう。

いやあ、身体を鍛えるっていいなあ。

本当は自分の家の道場がいいんだけど。
まあ、文句は言えまい。

さて





「はい。あと2セット」

「「あばばばばばばばばばば」」

「…やっと、この時が来たんだね」

「「…」」

「みんな。このライブ、成功させるよ!」

「「おおー!」」

「可奈ちゃん達も、さ、おいで?」

「は、はい!」



「「765プロ!!ファイトー!!オオー!!!」」

曲 M@STER PIECE

「うっ…」

律子が涙を流している。
それもそうか。

僕も泣けてきたよ。

「サングラス越しでわかんないです…」


…だけど、本当、成長したなあ。
自分の娘のような存在達が、羽ばたく姿を見るのは嬉しいものだ。

感慨深いものだ。
当初は全く興味を示さなかった僕が、こんな、涙を流すまでになったのだから。

彼女達なら、きっともう大丈夫だろう。
……僕が、いなくなっても。

もう、大丈夫だ。安心したよ。

ライブが終わり、控え室まで興奮冷めやらぬ様子で戻って行く。

可奈ちゃん達も、嬉しくて涙が止まらないようだ。

舞台袖には律子さんもGACKTさんもいなかったので、恐らく控え室に行ったのだろう、そう思った。


思ったのに。


何で、律子さん。


どうして、そんなに泣いてるんですか?


一人で。


GACKTさんは?

GACKTさんはどこに行ったんですか?

泣いてたら、泣いてたら分からないですよ。律子さん。

やめて、聞きたくない。
聞きたくないですよ、律子さん。

机の上に置いてあったのは、CDと、手紙。

字を見れば誰かすぐ分かった。

でも、その本人は、もういなかった。

嘘だ、と思いたかった。

私は忘れていた。

GACKTさんは、この世界の人ではない。

分かっていたはずなのに。

いつか、行ってしまうって、分かっていたはずなのに。

私は、本当に、最後の最後で愚かだった。

「春香?ど…した…」

千早ちゃんは、私の涙に濡れた顔を見て、全てを察してくれたようで、静かに、抱き締めてくれた。

千早ちゃんも辛いはずなのに。
ダメだなあ。私。

言葉が出ないよ。
出そうにも上手く発せれない。

それでも千早ちゃんは、黙って優しく抱き締めてくれていた。

何も言わず、ひたすら。




私は、神様を呪った。
私達は、お別れも言えなかったのだ。





その日から、GACKTさんが戻ってくる事は無かった。

…あなた様が消えて、はや一ヶ月。

仕事は順調ですが、皆、もちべぇしょんが下がっております。

あなた様はきっと、安心して帰ったのでございましょうね。

ですが、春香はどうでしょうか。

あなた様の手紙を読む事すらせず、ひたすらあなた様の帰りを待ち続けています。

仕事にこそ影響は出ていませんが、日に日にやつれているのは目に見えて分かります。

ああ。あなた様。
あなた様がいたら、どのようにしてくださるのでしょう。

…いえ、あなた様がいれば、春香もやつれることはないですね。

きっと、このことが分かったら、あなた様は苦笑いでもするのでしょうね。

春香だけではありません。

美希や、伊織。
いえ、皆一同。

あなた様がいない事を悲しんでおります。

そして、私も。

あなた様に淡い恋心を抱いておりましたのは、美希だけではないのです。

春香も、私も、あなた様をお慕いしていたのですよ。

だからどうか、顔だけでも見せて下さいな。

私は、あれから外国へ仕事に行った千早の代わりに春香の事を見ております。

しかし、春香の心を癒せるのは、私では幾分難しいかもしれません。

なにせ、私も、らぁめんが喉を通らぬのですから。

本当、罪な殿方ですね。

「あ…貴音さん。おはようございます」

「春香…また痩せましたね。ちゃんと、食べていますか?」

「貴音さんも、事務所のカップラーメンがへってませんよ?…私は、大丈夫です」

「では、何故GACKT様の手紙を読まれないのですか?」

「…」

「貴方の気持ちは分かりますが「分からないよ!!」

「!」

「貴音さんに、分かるわけない…!」

失言でした。
春香の心の傷は、とてつもなく大きいものなのですね。

ですが、このままでは埒があかない、というものです。

参りましたね。

私もついにお酒を飲める年頃か。

GACKTさんに飲まされた時は19だったっけ?

あの時はビール一杯も飲めなかったっけ。

いけない。またGACKTさんのことが頭に出てきた。

駄目だなあ。忘れようとしても、忘れられない。

どれほど、あなたは罪作りな人なんですか。


そうしていると、隣に一人の老人が座った。


「社長…」

「律子君。君が最近ここに良く来ると聞いてね」

「そうですか…一体誰から?」

私はこの店の事を誰にも話していないが。

「ははは。旧友とでも、言うのかね」

ああ。黒井社長ですか。
全く、趣味の悪い。

「律子君。私はね。彼がプロデューサーでいてくれて本当に良かったと思っているよ」

「…はい」

「私は彼の出生に関しては、良く知らない。
彼がどこから来たのか、どのような人生を歩んできたかも知らない。

けれど、そんな事はどうでも良かった」

「彼は、ただ音楽を愛していたんだ。
私達がアイドルを愛するように」

「…そうですね」

「それと、こうも思うんだ。
彼はもしかしたら、神様が送ってくださった、天使なのではないか、と」

「…」

「なら、もしかしたら今頃別の何処かで誰かをプロデュースしてるかもしれない」

「…神の、使いとでも?」

「そう、考えてみたんだがねぇ?」

「GACKTさん、40ですよ?」

「ぷふっ」

社長が咽び笑った。
GACKTさんに会ったら言ってやろ。

「…」

「春香。ちょっと来なさい」

私は社長との会話の翌日、春香を会議室に呼び出した。

このままでは春香は廃人にでもなるんじゃないかって感じだったから。

春香は、何も言わずついてきた。

「ねぇ。あなた最近ちゃんとご飯食べてる?」

「…はい」

嘘だ。だったらこんな痩せ細るはずがない。

こんな調子では到底仕事には行かせられない。

すでに今現在、春香には仕事を休ませているが。

しかし、毎日のように事務所に来るのだ。

彼の帰りを信じて。

「…春香。まだ、GACKTさんの手紙、読んでないのね」

「…」

「何で、彼があなたにリーダーを任せたと思う?」

「…」

「あなたは、彼の思いに応えなきゃ駄目よ」

「…わがままし続けるのは勝手よ」

「…でもね、そのままだと、あなたも、彼も、誰も幸せにはなれないわ」

「………」


「あなたがすべき事は、彼を待つ事ではないんじゃないかしら?」

「…!」

「……GACKTさん」

「……」カサ

『春香。今この手紙を読んだのは何日後だ?何ヶ月後だ?』

「…やっぱり、私の事良く分かってるなあ…」

『何にせよ、これを読んだということは、僕はもう消えているということだ。

少し、残念だな』

『初めてお前達に会った時、何て世話の掛かる子達なんだろうって思ったよ。
それに、なんて夢見るアリスちゃんなんだろうって。
アイドルにどんな幻想を抱いているんだって。

でもな、そんな思いをぶち壊してくれたのは、春香、お前なんだ。』

『お前の純粋な心が、僕の心を癒してくれた。
ありがとう、春香。
それと、CDはお前に送るよ。
お前の新曲であると同時に、お前と僕の絆だ。大切にしてくれよ。
これからも、気愛で乗り切ってくれ。
それ蛇、アディ押忍!!』

「くすっ…何ですか、それ」

全く、GACKTさんは、もう。

最後まで、気持ちの良い人なんだから。

何だか、心が晴れたようです。
GACKTさん、ありがとうございます。


ああ。お腹すいたなあ。

そうだ、たるき亭に行こう。

えっと…
「ご飯抜き定食、大盛で!!」



http://www.youtube.com/watch?v=2emDPhUIJu8

私は一度傷ついた。
倒れた。

でも、またここから歩き出せばいい。

今度は立ち止まらないし、振り返りません。

だから、次来る頃には追いつけないかもしれませんよ?

また、気が向いたら来て下さいね。


春香より。

「……」

「……」

「ハッ!!?」

あれ。ああ、帰ってきたんだ。

ゲームの起動画面がついたまま、眠ってしまったようだ。

そういえばそうだったな。


まあ、何にせよ、もう彼女達が迷う事はないだろう。

それに、こっちの彼女達もトップアイドルになってることだし。

そういえば、新しい彼女達のゲームが発売されるそうだな。


…仕方ない、買うとしようか。

「あれ?がっくん?」

YOUか。お前もゲームを買いにきたのか?

「そうだよ?なんたって神崎 蘭子が喋って歌って動くんだからね」

「神崎 蘭子?」

誰だろう。そんな子は765プロにも研修生にもいなかったが。

「ああ。がっくんモバマスは知らなかったんだっけ?」

「知らないなぁ」

「アイドルマスター シンデレラガールズだよ!」

「へえー。面白いの?」


………あれ?
何か、デジャヴだなぁ。

……まさかね。あはは。

くぅ疲

そういえば前作まとめてくれた人ありがとう
Gackt「THE IDOL M@STER?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa5.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1399994138/)

ワンフォーオール発売おめでとう!
皆、蘭子を愛でようぜ!!

今更だが読んできた
GACKTのことあんまり知らないけど面白かったわww

お疲れ様

最後にモバマスに触れたってことは期待しちゃっても良いんかね?

面白かった!!

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