-Conquest for this beautiful world- (86)


「世界は美しくなんてない…」

銀髪の幼女は、夜の闇に拳をかかげて

「…だから、私が美しくする!!」

その旅人と、物言うモトラドに演説を朗々と、
そして自慢げに一席ぶつのであった。



クロス要素あり、メタあり、やや崩壊

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第?話

「武装の国」
-Photographs and Weapons-

我らがズヴィズダーの遍く世界に

ある国にちっちゃなモトラドと一眼レフカメラを携えて、
トラックを運転する女の子がおりました。

見かけからして十六か十七であろう彼女は、写真を撮るのが得意で、故にそれを生業としていました。


「どうもこんにちは、写真を撮って欲しいのですが…」

ですから、こうして仕事を依頼されるのは当然なのです。

その男性のお客さんは、恰幅のいい体を商人らしいスーツに押し込んで、大きなカバンと共に訪れました。

「いらっしゃいませ!今日はどのようなご用件でしょうか?」

「ええっと、今日は…コイツの写真を、お願いしたいのです、はい」

そう言って、男の人はカバンから小ぶりのケースを取り出して、女の子の前で広げました。

「こ、これは…」


新商品!と書かれたメモ書きと一緒にケースに収まっていたソレは、
大型で黒い色をした、ハンドパースエイダーでした。

パースエイダーとしての機能美と、作り手のセンスが遺憾無く発揮されたデザイン性がバランス良く混在して、
素人目に見ても、それが優れた銃器であることは一目瞭然でした。

「……はぁ」

「---であるからして、商品のカタログを新しく出すのに…こちらの写真店を訪れたわけなんです…あの、聞いてますか?」

「はっ?!…はい!すみません」

女の子も思わず見とれてしまい、相手の話もろくすっぽ聞けないほどでした。


「…それで、このお仕事を頼めるでしょうか、さっきも言ったとおり…以前から贔屓にしていた写真家はどうにも信用できませんで」

「…は、はぁ」

「そこで、こちらの店の評判を聞きつけ、仕事を依頼しようと思ったんですが」

女の子は最初、乗り気ではありませんでした。

銃が怖いというのもありましたが、このパースエイダーの姿があまりに美しかったので、それを写真で表すことが出来るのかどうかという、

自分の腕に自信がもてなかったというのが本音でした。

しかし、せっかく自分の店を訪ねてきてくれた人を、無下にするわけにもいかないので

「…わかりました、任せてください!」

頭の中からイヤな考えを振り払い、

女の子は、精一杯の笑顔でお客さんに応えるのでした。


「しばらく時間をいただきます、写真が出来しだい連絡を差し上げますので!」

女の子がそう言うと、男の人は感謝の言葉を述べ、品だけを置いて帰っていきました。

その姿を見届けると女の子は

「……よしっ」

と気合をいれ、目の前の対戦者に向かい合いました。


闘いは熾烈をきわめ、ゆうに丸2日、そして3日とかかり
その間、彼女はあーでもないこーでもないと、写真を撮りまくりました。

「えりゃー!うらーっ!とぉー!」

そして、あけて4日目の朝
ようやく納得のいく写真が出来上がりました。

「……で、できたぁ…」

女の子は、もうフラフラでした。


早速お客さん宛に電報を打つと、その日の午後には銃と写真を取りに同じ男の人がまた訪れてきました。

「いやぁ、聞いてたとおり、いい写真ですな…うんうん」

「え、えへへ、ありがとうございます!」

お客さんが、その写真の出来栄えをたいそう喜んでくれたので、
女の子も疲れているなりに精一杯の元気で応えました。

「こちらこそ、また近い内に仕事の依頼をするかもしれないから、その時はよろしく」

その言葉通り、数日後にはまた
今度は電話で仕事の依頼が舞い込んできました。

依頼をこころよく承諾すると、彼女の写真店宛に小ぶりの木箱が送られてきました。

中には、この前とは別のハンドパースエイダーが入っていました。


その写真を撮って送ると今度はそれとは別の物が、

また写真を撮って送るとまた別の物が、という感じで
女の子は次々に、様々な銃器の写真を撮っていきました。

最初は苦手意識の強かった銃の写真も、
そうやって何枚も撮り続けるうちにだんだんに慣れてきて、
今では、撮り始めてから1日かからずに、ベストな1枚を撮ることができるようになりました。

『いつも良い写真を、ありがとうございます、今後ともどうぞご贔屓に』

「はいこちらこそ、えへへ、いつもありがとうございます!」

そして、電話口でお客さんに感謝されると、その女の子は単純(※褒め言葉)なので簡単に舞い上がってしまうのでした。


そんなご機嫌な毎日の中、女の子はある日、ピクニックに出かけました。

近くの原っぱまで、ぺぺぺぺぺぺぺ、とちっちゃなモトラドを走らせて

紅茶と焼き菓子を堪能しながら、この日は自分の趣味のための写真を撮りました。

「いぇーぃ!チョウチョいいよーモンシロチョウ!」

草木、花、虫に鳥
太陽と空と雲と…蝶々

色々と写真を撮っていた途中、
彼女は不意に、ハッとしました。

あることに気がつきました。

「………ぅ」

彼女は最近、たくさんの銃の写真を撮りました。
それ自体は、なんら罪のないことなのでしょう

けれど、その写真の出来が良ければ良いほど、その銃がたくさん売れます。

たくさん売れればその分だけ、たくさん世の中に銃が溢れることになります。

それが、なんだかとても悪いことのように、女の子には思えました。

「……ぅぅ」

彼女は、カメラを下ろしてしまいました。

さっきまで、あんなに明るかった青空が
今では少し暗く、赤く見えてしまうのでした。


帰り道、モトラドからエンジン音に混じって、女の子に語りかける声がしました。

「気にすることはねェと思うがよ…別にお前さんが撃ち殺すわけでもねーんだし」

「…うん」

その声は、女の子をなぐさめているようでした。

「だいたいよ、てめぇの写真のおかげで銃がバカ売れするなんて考えは、思い上がりもいいところだぜ?なあ」

かなり、口が悪いようにも思えますが、

「う、うん…でもね、もう一度考えちゃったら無理だよ、もう撮れない」

「…もったいね、せっかくの大口の取引なのによ」

その声の主、小さなモトラドは心底残念そうに、事の行く末を嘆いていました。

「あはは、うん…お客さんには悪いけど、もうできませーん!ごめんなさーい!って断るしかないよね…」

「いやそういう意味じゃ、まあいいけどよ…」

モトラドの言葉とは裏腹に、女の子は
自分が仕事を断ることで、何処かの誰かに迷惑をかけてしまうんじゃないか、

そんなことを心配しているのでした。


そんなお人好しを乗せて、皮肉屋が行く

ぺぺぺぺぺぺぺ
ぺぺぺぺぺ

第?話

「美しい征服・b」
-not a slave・b -


「エルメスは、そんなものが美しいなんて思うかい?」

荒野を走る中、その旅人は自分の運転するモトラドに問いました。

「なんだい?そんなの、キノの中ではとっくに結論出てるんじゃないの?」

キノと呼ばれた旅人の問いに、エルメスと呼ばれたモトラドは答えました。

「…いや、一応モトラドとしての意見も聞こうと思ってね」

「なぁんだ」

そんなの大した問題でもないよ、と言わんばかりにエルメスは嘆息しました。

「美しいとか汚いとか、そんなの個人の主観でしょ?個々人の意見一つで正しいも何もないと思うけどなあ」

「まあ、そうなんだけどね…」

そんなどこかで聞いたような、当たり前の意見を言われては、反論する余地もない。

「ちなみに僕は、綺麗だと思うよ」

エルメスは、最後にそう付け加えました。


「真四角に切り出された石が、綺麗に並べられた石畳の上を走るのは気分がいいからね」

「それはまた、モトラドらしい意見だね」

確かに、今走っている石と穴だらけの道ばかりでは、モトラドにとっては文字通り身の震える思いがするはずだ。

「キノはそういうのが欲しかったんでしょ?」

「…まぁね」

比較的大きな穴をこえて、車体が大きくはねた。その弾みで運転手はしたたか尻をうった。なるほど、モトラドの意見も人間にわからなくはないのだろう。

「真四角に、綺麗に石を切り出す、そんな風に世の中を決められるなら、為政者はどんなに楽だろうね…」

「すればいいじゃん、人間はまったく不便だね」

「…まあ、だからこそ」


そこからキノは2時間、たっぷり時間をおいてから
それこそ、日が沈みかけた頃になって

「…人は旅ができるんだろうね」

ようやく続きの言葉を口にした。

「え、急にさっきの話?」

エルメスもすっかり 話の内容を忘れた頃になって


どれだけ彫刻に苦心しようと

正方形の美しさにはかなわない

- Everyone is happy.-

第?話

「征服される国」
- must die.-


かの国はまさに、飢餓状態にあった。

正確にいえば食糧自体は足りていたのだが
その量は本当にギリギリだった。

それこそ、誰かが数値で表してくれなければ分からないほどに


であるから、そしてありふれたことだが
その国の偉い人々は、安心感のために独り占めしようと考えた。

これに当然、国民は憤怒した。

始めは市民集会、果ては激情に任せた暴力も辞さない
そんな覚悟をした目を並べて、人々は手に武器を取った。

国の中は、まさに一触即発の状況が続いていた。

もしここに「人間は生まれながらにして闘争状態にある」なんて提唱した人間がいたならば、
そんな世界を目の当たりにして、
その人は自らの意見が正しかったと痛感しただろう。


そんなところ、遠くからその国を見つめる目が4つあった。
丘の上の森の中に停まった黄色い車の中から2人の人間が、その国を見下ろしていた。

片方は白いシャツにパンツルックの女性、もう片方はラフな格好をした少し背の低いハンサムな男性。

2人は西の平野の向こうの、別の国で滞在中にこの国の噂を聞きつけてやってきたのだ。

颯爽と向かい始めた2人を見て「なんと物好きな…」と話をした酒場の店主は思った。

「まだですかね…」

双眼鏡を覗いて、男の方が焦ったそうに隣の女性へと呟いた。

「…さぁ」

このやりとりも、もう何度目だろう。


「戦争ってのは難儀なもんですね、ああ、この場合は内紛ですか…」

「………」

「誰も望んじゃいないのに勝手に起こるくせに、こうして早く起きて欲しいときにはうんともすんともいわないんだから…」

実は彼らが訪れる前、隣国で聞いた話によると
この国ではすでに事件が起きていました。

ある少女が国内で凶弾に倒れたのです。まあなんとも、なぜ少年ではなく少女なのか、実は自作自演ではないのかと疑問に思うのも飽きるくらい聞き慣れた話です。

というわけで、これまた予定調和のように国民の怒りは爆発し、色々と秒読みどころの話ではないとの触れ込みでした。

しかし、こうして実際に訪れてみれば状況としてはまだまだ大人しいもので、
黒煙一つ、銃声の一発も聞こえないので、大人2人してがっくりと肩を落としたのでした。

「無駄口をたたくのは構いませんが、監視は怠らないでくださいよ」

「…へい」

さっきまで軽口を叩いていたのに、その女性の一言で簡単に閉口してしまいました。こういうところに、この2人の力関係がうかがい知れます。


でもまあそこは軽口なので、蝋で固く閉じたように見えた唇も、次の瞬間には簡単に開いてしまうのでした。

「今回、どれくらいの入りが見込めますかね?」

「…さぁ、それは実際に中に入らないと分かりませんよ」

そしてその内容は、どうにも他人が聞くには不穏な空気をまとっていました。

「ちなみに、希望としてはどれくらいに?」

「……そうですね、食糧と燃料が少し心もとないので」

女の人が、自分の足元に転がった弾倉を二、三個拾い上げて

「まあこれ位で、トランク一杯に出来れば御の字といったところでしょうか」

「……それはまた、随分と安く見積もりましたね」

どうやらこの2人は、目の前の騒動に乗じて火事場泥棒を働こうという魂胆なのでした。
なんともしたたかな連中です。


「まあ、あくまでこれは希望ということなので…」

「…ですよね」

「達成できるように、せいぜい頑張ってください」

即座に、男に責任を丸投げにしました。

「えぇ…」


トランクは空なのに、荷が重くなったとため息をもらしていると、男の目に一つの影が映りました。

「…ん?」

眼下の荒野を横切る小さな影、子供のようでした。

子供がモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)のようなものを運転して、土煙を巻き上げていた。

「…師匠、あれって」

「ええ、見えてますよ」

男が声をかけたときには、師匠と呼ばれたその女性もまた同じように、自分の双眼鏡を覗いていました。

「子供のようですね、まああれくらいの年齢ならモトラドを運転してても不思議ではないですけど」

「えぇ?そうですかね」

どうやら2人には価値観の相違があるようです。

「………」

「あの国に向かってるんですが、だとするとだいぶ危ないですよね」

「そうですね」


男の言う通り、その子供の行く先は目の前の国の、城門を向いていました。

このまま放っておけば、あの国へ入って行ってしまうのは明白です。
もしかしたらこの後、戦火に巻き込まれるかもしれません。

しかし、この場においてそれを止めようとする人は誰もいませんでした。

「…まあ、せいぜい火に油でも注いでおいてくれれば幸いですね」

と、男が呟く程度なのでした。

男の人はそこで、双眼鏡を覗くのに飽きたのか、荒野から視線を外してシートの上で伸びをしました。

その子供を見つめているのは、師匠だけです。

すると子供は、モトラドに跨ったまま

「……」

まるで師匠に見せつけるかのように、何かを主張するかのように右腕を掲げました。

それはそう、例えば

『そこで見ていろ、いますぐ私が止めてみせるからな!』

というようなことを

「………」


「…ふぅ」

それを見て、師匠は嘆息して
諦観まじりに小さく舌打ちをしました。

「どうかしましたか、師匠?」

「…いいえ、なんでもありません」


一度は否定した師匠でしたが、その小さな影が城壁の中へ消えてゆくのを見届けた後で

「…ただ、今回は当てが外れたみたいですね」

と、一つの愚痴ともとれる予言をしました。


その後、予言が当たったのかどうなのか
動乱に狂った国の情勢は
どういうわけか静かにおさまってしまい。


ここに至って食うもののない2人は、その国で
結構割高な値段で買い物をする羽目になりました。

「別にいいですけど…私は許しませんよ、あの銀髪を」

もちろん、思惑が潰れた(あるいは潰された)師匠はしばらくの間、軽くなった財布を握るたびに不機嫌となり

「…さいですか」

その間、男の人は相方の不機嫌にさらされて
不安な日々を送ることになったのでした。


第?話

「新聞の国」
- individuals -


『実に16年ぶり、我が国に旅人来たる!』
『旅人はうら若き美少女!?珍しい女の子一人旅!』

「すごいねキノ、どの新聞もキノのことで鏡餅だよ…あ、それをいうなら切り餅か」

「うんうん、もちきりね」「そうそれ!」

入った先の国で宿泊先を見つけたキノは、そのホテルのロビーで暇つぶしにと広げた新聞を相棒のエルメスと共に眺めていた。

「それにしても今朝のことがもう記事になってるなんて、そんなことあるもんだね」

「うん、前評判でこの国は新聞やらが盛んだって聞いてたけど、ここまでとはね」

『旅人の愛車は年季のはいった骨董品?その安全性は…』

「何その記事、失礼しちゃうなあ」

「はは、確かにそうだね」

冗談に笑うキノの横顔は、いつもよりやつれて見えて、
実際にいつもより疲れ気味だった。

「それにしても大変だったねキノ」

「…うん」


時間は遡って入国時

そのときの騒動は、ある意味でだが、それは酷いものだった。

直前に、入国審査官がどこかへと電話していたのだか、恐らくはどこぞの"新聞社へのタレコミ"というやつだったのだろう。

城門を抜けて見えた景色は、町並みでも畑でもなく
空も見えないほどの、押し合いへし合い駆けつけた人の群れだった。

「どうも!アルファルファ新聞社です!!」「ビーツー新聞です!お話聞かせていただけませんか?!」「シトレス新聞に!一言!一言お願いします!」

「ジャネーノ新聞ですけど!今回はどういった目的で!!」「いやらしい目的なんじゃないんですか?ゲスニック新聞ですぅ!」「NSKです!国家新聞協会です!」


「なにこれ」「なにこれ」

予想外の人々の注目度に、流石のキノも面食らう形になった。

ぎゅうぎゅうに詰め寄る人の群れがそれぞれメモ帳や録音機、フラッシュのついたカメラを手にキノにはよく分からない何かを求めてきた。

「あの、よく分かりませんが、特に言うことはないので…」

「「特に言うことはない!!」」「特に言うことはない?」
「そんなこと言わず!!」「そんなこと言わないで!!」「何かあるでしょ?!」「後ろ暗いことでもあるんですか?」「後ろの積荷はなんですか?!」「下着の色は!?」「今朝は何を食べましたか!!」

「…えぇぇ」

「モテモテだね、キノ」

モテモテ、とはよく分からないが、多分これはそういうのとは違うだろうということだけはキノにも分かった。

この人達が求めているのはもっとこう、得体の知れないもののように思えたからだ。


「得体が知れないって、どういうこと?」

「わからないよ、得体の知れないものなんだから、多分あの人たちにも分かってないんじゃないかな」

人々の熱気に圧されて、キノは宿泊先を探すのも一苦労してしまった。

ロクに値段の比較も出来なかったので、割と値段高いところに泊まってしまったように感じる。

ただそういうことを差し引いても、早く一息つきたかった。

騒ぎになると心配なのでエルメスを目の届く場所に持ちこむ必要もあったし
そして何よりあの人たちから逃れたかったというのが大きくて、その欲求に負ける形となったのだ。

「どうせなら取材料とかもらえばいいのに、多分たんまりもらえると思うよ?」

「いやだよ、あんな沢山の人前に出るのは、ボクは得意じゃないんだから」

「それもそうだね」


ホテルの表に出るとひどい騒ぎになるので、美味しいものを探しにいくのもロクに楽しめず、ホテルで用意される料理だけで我慢するしかなかった。

そして、得てしてこういう所のご飯もまた、それなりに割高なのであった。

「大量生産の味って感じだったね、あれは」

「言わないの、そんなことより買い出しはどうすんのさ、まさか手ぶらで出国するつもりかい?」

「そうだよね、うん、いざとなったら無理してでも表に出て買えるだけ買っとかないと」

なんとも、旅人にとって難儀な国に来てしまったものだと、キノは少し後悔した。
前の国で聞ければ良かったのだが、こことは商業のやりとりはあっても
紙面に書かれているとおり、旅人の行き来は殆どないのだから、例え聞いたとしてもこうなることは知り得なかっただろう。


明くる次の日、キノが滞在して2日目の朝だが
町に宿泊してこんなに憂鬱な朝もしばらくなかったように思えた。

「…あぁ、多分あれ、そうだよね」

窓から見える、うんと下の方の朝の町は、いまだ人の行き来はまばらだった。

なので、各人の動きが朝の薄暗さの中でも、比較的よく見えた。

メモ帳やカメラを片手に、周りをキョロキョロと見回して、ハンチング帽を被った人間が少なくとも5人は見える。

恐らくは全員が昨日と同じような新聞社の人間だろう。

「…まいったなぁ」

キノは部屋の隅で、外から見えないように気をつけながら、そうひとりごちた。

エルメスはまだ寝ていた。


一室の椅子に座り、思案した結果、キノはホテルから出かけることにした。

とりあえず昨日とは違う服を着て、ホテル側の計らいで裏口を使わせてもらうことにした。

従業員に混じって、裏口から裏通り、そしてそこそこ人の流れが出来ていた表通りへと出てその流れに紛れた。

幸い、誰にも見られなかったと思う。


そうしてさっさと買い物だけ済ませて、また裏口から戻ろうくらいに考えていたのだが、その見通しはやはり甘かった。

「…おい、あれって」

「ああ、きっとそうだよ」

この町の人間は、他人への関心がそれなりにあるのだろう、すぐ町の人々に"話題の旅人さん"だと気づかれてしまった。

それはもちろん、記者の皆さんへと伝播して

「どうもこんにちは!!わたくし(以下略

昨日と同じような騒ぎになってしまった。

「あの、急いでますんで」

「そんなに大量に買い込んで、やはり旅の支度ですか?!」

「何か、オススメとかお気に入りの品物とかありますか?!」

「知りませんから、そういうの気にしないんで」

旅人さんは貴重な存在、と言わんばかりに詰めかけた記者はあれやこれやと質問責めをしてきた。しかし、その中に答えられそうなものはひとつもなく。
また、答える気にもならなかった。

そんなキノの態度に、相手としても焦れてきた部分もあったのか

「ねえちょっと!いい加減なんか答えてくれたっていいんじゃないの?」

「すましてないでさ、いいじゃないの減るもんじゃあるまいし!」

まったくもって自分勝手な文言を並べ立ててくる者も出てきた。

そういう雰囲気に、多少腹がたったところもあったのだろう。1人の記者が

「ねえちょっと、キノちゃんってば~」

そう馴れ馴れしく言いながら、腕を掴んできたので


買い物袋が落ちそうになるのを庇いなら、つい反射的に

「ぐえっ!?」

そいつの腕をひねりあげ、身体を地面に叩きつけていた。

投げつけた後で、キノは流石にマズい、と直感した。
この町のことはよく知らないが、この状況でこんなことをすれば、それこそいっそう騒ぎ立てられるのは明白だった。

「ああっ!なんてことを!!」「暴力だ!暴力行為!!」「おまわりさーん!ここに犯罪者がいますよ!!」「現行犯だ!スクープだあっ!!」

「この人殺し!恥を知れ!」「遺憾だ!遺憾だ!」「ちまたの女性に大人気だ!」「加害者の権利を!被害者の権利を!!」「不謹慎!不謹慎!」

思ったとおり、しかし想像よりも支離滅裂な罵声が飛び交う中で、キノは咄嗟に人々の合間に出来た裂け目に飛び込んで
その場から脱出をはかった。

「あ!逃げるぞ!!」「まてーっ!犯罪者が!!」「新聞は正義!マスメディアは正義!」

「そんな勝手な…確かに人を投げたのは悪かったけど」

買い物袋を落とさぬよう気をつけながら、裏路地の向こうの入り組んだ道をひた走った。

足腰は鍛えてあるので走りには自信があったが、地の利も知らず荷重であるが故、全員をまくことはできないように思えた。

「どうしようかな…っ」


焦ったキノは、咄嗟に開いていた扉に滑り込み、すぐさま閉めて息を潜めた。

外観からして廃屋のように思えた建物だったが、果たして、振り返るとそこには

「……あ、っと…どちらさんかな?」

「えっと、お邪魔してすみません…実は」

数人の初老の男たちがなにやら作業をしていた。
キノは雑踏と怒号が聞こえてきたので、ジェスチャーで"お願いします静かに"と意思を表した。

そのかいあってか、何とか追ってくる人達が遠くへ行ってしまうまで気づかれずに済んだ。

体から力を抜き、ペコリとその場にいた相手に頭を下げた。

「ありがとうございます、おかげで助かりました」

「いやぁいいんだよ、それにしてもアンタ…追われてるみたいだったが、何かやらかしたのかい?」

キノは、黙って出て行くのも失礼と思い、ここに至るあらましを、自らに非はないことを少しばかり強調して、彼らに説明した。

「すると、あんたは話題の旅人さんってことかい?」

「ええまあ、たぶんそうなります」

「そっか、じゃあ俺たちもこいつに取材しないとな!あっはははは!」

「くっくっくっ、そいつはちげえねえ」

彼らが、どうしてそこで笑うのか、キノには最初分からなかった。
しかし、部屋の脇に立てかけられた看板を見て、すぐに合点がいった。


コーベツ新聞社、かすれた字だが、看板には確かにそう書かれていた。

「あなたたちも、新聞記者だったんですか」

「まあの、だがまあ心配するな、何もとって食ったりはせんから」

キノから見て1番手前に座った男がそう答えた。恐らくはこの中で1番偉いのだろうと、その所作から見受けられた。

「でも、新聞なら取材とかしなくていいんですか?」

「今更取材したところで、もうどうしようもないわい」

「もう印刷に出しちまったからな、次の次の次の号くらいまで」

「天変地異が起きたって、記事の差し替えはできねえくらいだもんな」

ここにいる皆は記者なのだろうが、誰も彼もあっけらかんとしていて、さっきまで追い立ててきた人達の鬼気迫るようなものは感じられなかった。

「あなた達は、いったい」

ここまでで受けた仕打ちに比べると、こうも無関心を貫かれては、逆に面食らうというものであった。

「まあ座っとけ、どうせしばらくは外に出られないんだろ?手が離せないでお茶も出せんが」

「いいえそんな、構いません、匿ってもらえただけでも充分です」


椅子を借りて座ると、男たちは自分たちの作業に戻っていった。

表の感じからして儲かってる風には見えなかったが、その仕事風景からは困窮した感じはまったく見られなかった。

「……」

ただ待つのも手持ち無沙汰だったので、近くに置いたあったここの新聞を、僭越ながら、と心の中で前置きしてから手に取った。

その紙面は、キノがよく見慣れていたものとは少しばかり違っていた。

まず目についたのは漫画連載だった。4コマ漫画に風刺漫画、児童向けの漫画などが全体の2割を占めていた。

次に目にしたのは小説連載で、お堅い文書からライトノベルのような軽い読み物まで幅広く揃っていた。

あとはこの国の人間が興味のないような国の外の風景のことや他国の情勢の記事のなんかが並び、おおよそ自国民には売れるとは思えない内容であった。

「………」

「どうだった?あんたから見てその新聞は」

キノが新聞を読み終わる頃に、さっきの男が話しかけてきた。

よく見ると彼がしていた作業はここの新聞で連載していた漫画の原稿のそれであった。

「多分ですけど、幅広くは売れない新聞だと思います」

「はっきり言うね、でもまあニッチな層にはそれなりに人気があるんだよね、うちの新聞」

男は苦笑まじりに、キノの言葉を肯定した。
ここにエルメスがいたなら、「どうしてもっと売れる新聞を作らないの?損じゃん」と訊いたことだろう。
でもいまはいないので、キノが代わりに訊いた。興味本位で


「そりゃあね、金も力も無いからだよ」

男がそういうと周りから忍び笑いが漏れた。もう半分冗談のようにここに人はその事実を受け入れているのだろう。

「そんなだからさ、大衆の流行りとか、時代の先取りとか、そういう生モノを追い続けて走り続けるだけの余力がないんだよウチは」

「…はぁ」

「だからね、こうして他社の書かないような記事を書いて新聞作って、狭ーい層に売って行かなきゃダメなんだよ」

「なるほど」

「幸運なことに、新聞はどこも同んなじような話題を追っかけてってくれるから、ウチみたいな隙間産業が未だに、生き残っていられるわけよ」

いつまで続けられるか分かんないけどね、とつい男の本音が漏れたようだった。

「大変ですね」

「なぁに、みんな好きでやってることだからよ…大変なのは別に構わねえのさ」

昔ながらの職人気質のようなものだろうか、それにしては執着心が些か感じられない気もするが。

「…でも、この国で読んだ新聞の中では、これが1番好きですよ、ボクは」

「そうかい、まあ確かにウチのは商人とか、旅人にウケが良さそうだからな」

「ええ、何よりボクを追いかけ回したりしませんし…」

「はは、違いない、そのクセそっちの方から押しかけてくるんだから、何だが勿体無い気もするな、どうせ記事にはできないけど」

その言葉には、いっそう世の中への皮肉が効いているような気がした。


その後、日も傾き始めたころに男は口を開いた。

「そろそろ大丈夫だな、もう人の行き来もほとんどないようだし」

聞き耳たてると、その通り、もうキノを追いかけるような気配は失せていました。

「そうですね、じゃあそろそろ失礼させてもらいます」

「今ならまあ、旅人さんなら夕影に紛れてなんとかホテルまで辿り着けるだろうよ」

「…だといいんですけどね」

キノは、仕事を続ける男たちに一礼して、扉を開けてお暇しようとしたのだが、扉の立て付けが悪いせいでそこで既に躓いてしまった。


ホテルの部屋に辿り着く頃には日もすっかり暮れて、部屋に残されたエルメスは至極退屈だったというふうに文句を垂れていた。

「遅かったじゃないかキノ」

「ごめんごめん、出先でちょっと手こずっちゃって」

「ま、そんなことだろうと思ったけどね」

エルメスの一言に引っかかりを覚えたキノは、その意味を聞き返した。

「どういうことだい?」

「いやいや、日中に部屋の目の前まで人が来てね、仕切りに何か叫んでたからさ」

「…へえ、なんて?」

「そりゃあ、人殺しー!!とか、金返せー!!とか、恥知らず!!とかさ」

「………」

そんなことだろうとは思ったけれど、まさか部屋の前まで来ていたとは驚きだった。
このホテルには、多少迷惑をかけたなと思った。

「それ聞いて、うわーキノやるなー、とか思ってたけど何かあったの?」

「何もないよ、別に誰も殺してないから」

「なあんだ、そうだったのか」

エルメスは、人によれば不謹慎とも取れる風に残念そうに呟いた。

「あのね、人を行く先々で殺しまくってる殺人鬼みたいに言わないでよ」

「違うのかい?」

「ボクがそうするときは、必要に迫られた時だけだよ」

キノは遠い目をして言った。


「それにしても、外でああも騒がれちゃ出国する時もまた手間だろうね」

「…そうだね、きっと罵詈雑言を背中に浴びながらこの国を追われるようにして出て行くのかな」

「そして二度とこの国には入れないのでした」

「まあ、多分二度と訪れることはないだろうね」

旅人の存在が稀有な理由が、ここにきて何と無く理解できたキノだった。


そして次の日の朝、滞在三日目。

いつも通りの朝の準備体操と整備、出発の準備を整えていつものようにホテルを出た。


エントランスを抜けて、通りの端々まで見渡したのだが、
果たして1人と1台の心配は杞憂に終わったのだった。

「…だれもいないね」

「うん、だーれもいない」

そこには、昨日のような記者でございというような影は1人として見られなかった。

「どういうことなんだろうね、昨日の今日で蜘蛛の子を散らしたように皆いなくなって」

「…まぁ、立ち去るにはいいことだよ、面倒がなくて」

「かもね」

キノとエルメスはそのまま城門までいき、滞りなく出国の手続きを済ませて、この国を去った。


キノたちが遠くへ走り去って行った頃、
手のひらを返してキノ達を追い立てた記者たちはというと


「おめでとうございます!アルファルファ新聞です!」「おめでとう!おめでとうございます!!」
「この町始まって以来の快挙ですよ!これは!!」

「歴史上初の女性としては異例ですけど!!」「女性にしてはすごい!!」「すごい!すごい!」「男性なんかに負けないぞー!!」「これからは女性の時代!!」
「女子ーっ!!ジョーっ!!ジョーっ!!」


ホテルから遠く離れた場所で、路上でまたどこかの誰かをみんなで囲んで

やんややんやといっせいに囃し立て、賛美の言葉を投げかけていた。


「でもさー、なんかずるいことしてんじゃないのー?ねえ!」


第?話

「おまつりの国」
- Firework Festival -


私の名前は陸。犬だ。
今日もいつものように張り付いたような笑顔を浮かべて、
ご主人様が運転するバギーの席に座り、やや砂混じりの風を顔に受けている。

私も同乗している2人のようにゴーグルをつけていたいと時々思うことがある。
例えばこんな巻き上がる砂が多い時なんかがそうだ。


1人は運転しているご主人様、名前はシズ様という。

緑のセーターを愛用していて、護身用には切れ味抜群の刀を携えている。

複雑な経緯で故郷を失い、こうしてバギーで旅をしながら安住の地を探していらっしゃるのだ。


もう1人はティー。白い髪に緑の瞳をもった少女。

いつも長袖のシャツに短パン姿、それ以外に身につけているものといったら、膝当てくらい。

寒いときには私の体を抱き寄せ、暑いときには逆に押しのけようとする。

そして寒いときも暑いときも、年中手榴弾を両の手でもてあそんでる不思議な子だ。

彼女もまた、複雑な経緯で故郷を失い、そして私達の仲間になった。


今日もバギーは、シズ様たちを乗せて走っていた。
シズ様が運転するまま、その安住の地を求めてひた走る。

西に家屋の空いていそうな国があればそっちへ、
東に人手が足りなそうな国があればそっちへと、

これまでかなりの数の国を渡ってきたが、こちらの希望が叶うことは一度たりともなかった。

極たまに、定住の話が浮かび上がったりするのだが、どういうわけだか大概いつもまとまる前に話は台無しとなってしまうだ。

そうやって、森も荒野も渓谷も走り抜けて、今日もまた、
このバギーは一つの国にたどり着くのであった。


その国は、だいぶん浮かれていた様子だった。
入国審査官からしてウキウキしていたし、門の先にかすかに感じる町の雰囲気も何やら高ぶっている様子だった。そういう匂いがした。

具体的にいうと、沢山の食べ物と濃厚なお酒の匂い。


「この国って、今何かやっているんですか?」

シズ様がそう訊くと、審査官の男はやはり明るい様子で

「ええ!今の季節はお祭りの真っ最中なんですよ!」

「へえ、そうなんですか」

「旅人さんもいいときに来ましたね!そちらのお子さんもきっと楽しめると思いますよ!」

話を振られた当の本人は、そんなときでも手の中の手榴弾に夢中なようだった。

「あはは、まあ内気な子でして」

というわけで、シズ様がそこは適当に誤魔化したのだった。


とまあ世間話はこれくらいとばかりに、シズ様は目の前の男に本来の目的を述べた。

「ところで、私たちは移住を希望したいのですが、どこへ行けばいいのでしょうか?」

「それはそれは!ええそういうことなら、町の中央にある一番大きな役所に行けば手続きは出来ますよ!」

「そうですか」

管理官の男の反応からして、移住自体はさほど難しくはないように思えた。

だがしかし、そしてまあいつものように、問題はこの後のことだった。

「でも今、職員は殆ど祭りの最中だと思うんで、多分受付は閉まってると思いますよ」

「…えっ?」

なんというずさんな業務体制、まさか、遠くに見えるあの熱気の中でどいつもこいつも遊んでいるのではなかろうか、そんな気がした。

「まったく、お役所勤めは楽でいいですよ、こっちなんてそうそう穴空けてられないから非番の日までお預けなんですから、とほほ」

まあつまりは、そういうところからして、ここの風俗はそうとうゆるく、お気楽な国柄なのだろう。


役所が開いていないことに対して、最初は難色をしめしたシズ様だったが、門を抜ける頃には考えを切り替えて前向きな姿勢をとるようにしました。

「まあ、そんなような国なら、他国よりも楽に移住の話を受け入れてくれるかもしれないしな」

そう言って、しばらくの滞在は覚悟する意思を固めるのでした。


「せっかくだし、せいぜい祭りの雰囲気でも楽しみながら時間を潰すとしよう」

宿泊するところ確保したシズ様は、バギーを駐車場に停めて、町へ繰り出すことにした。

通りは、国民全てが集まっていんじゃないかと思うくらいごった返し、出店に屋台が並び、
道の中心を、何かの神様を模したようなハリボテが、男たちに担ぎ上げられて町中を練り歩いていた。

こう人混みが激しいのでは、バギーでの移動は無理というものだ。

「まずは腹ごしらえだな、何か珍しい食べ物でもあればいいけど、ティーはなにがいい?」

「………」

ティーは相変わらず無口で何の反応も見せなかった。ただ、お気に入りの手榴弾を取り上げられて手持ち無沙汰に両手をブラブラさせていた。

「…まあいいけど、陸にも何か買ってやろう、なるべくヘルシーなやつを」

そういう心遣いは実にありがたい、犬というのは差し出された食べ物をなんでも頂いてしまう生き物だから。

塩と油の多いものばかりだと、犬の体は人間ほどそういうものに耐性がないので、すぐに体調を崩してしまうのだ。


と、そんな算段をシズ様がしていた最中、ティーは小さな音を聞いた。

そして、私は祭りの空気に紛れた火薬の匂いを嗅いだ。

「それじゃあまずは、ティー?」

「…ばくはつした」

次の瞬間には、ティーはどこかを目指すように目の前の人混みに向かって走りだした。

「あ、おい!」

ティーは小柄な体を活かし、人の波をすり抜けて、ずいずいと進んでいく

対して、背の高いシズ様ではどうしても人混みに阻まれて、思うように進むことはできない。

「ちょ、ちょっと!通してください」

そうこうまごついているうちに、シズ様はどんどんと距離をはなされていく。

やがて、ティーの姿が完全に見えなくなったのか、シズ様は諦めたように呟いた。

「仕方ないな、しかしあの子にもお祭りを楽しむようなところがあったのだな」

その横顔は、ティーの新しい一面を見つけてちょっと喜ばしそうにしていたのでした。


「…ところで陸、お前の鼻でティーを探すことは出来ないか?」

そんなこと、こうも人が多くては嗅ぎ分けることは困難であり、それ以外の匂いも混ざっていて、尚更難しいことでした。


しかし、私はあの子を探す上で、一つの当てを思いついていました。


同行者たちとはぐれたティーは、人々でごった返す街道を早足で歩き、その希望する目的地へと到着した。

「はいまいどありー、あんま人のいるところでやるんじゃないぞー」

「……」


辿りついた先は、とある屋台でした。

子供向けの玩具や雑貨が並び、はたから見ればなんとも、この無愛想な子にも子供らしい部分があるものだなあ、とも思えるのですが


「よーし!おれたちもあっちの空き地で爆発させようぜー!」

「おー!」

「…ばくはつ」

その大きくてキレイな緑色の瞳は、他の子供たちが手に持ったそれを見つめていました。

果たしてそれは、赤い棒が短冊状に束ねられた、いわゆる爆竹というものでした。

一度導火線に火をつければ、その長さの差分だけ間を起き、連鎖的に爆発と閃光を響かせる、ちょっと危ないオモチャなのですが

「……」

この子の目の色も、相当に危ない光をまとっているのでした。


「…おや?嬢ちゃんもウチの店で買い物かい?」

店主に話しかけられ、ティーは屋台のどこかにあるであろう目的物を視線で探しました。

そしてそれは、店主の後ろに置かれた箱に束になって置かれていました。

ティーはコクコクと2度頷きました。

「そうかい、で?きれいなお嬢ちゃんは何をご所望かな?」


彼女にとって、それはどんな宝石よりも眩い、宝の箱に見えたのでしょう

店主の男のおべっかも無視して、ティーは一心にその箱を指差しました。


「え、この爆竹かい?」

店主も、まさかこんな大人しい女の子がそんな爆竹を欲しがるとは思っていなかったのか、面食らいました。

「いやこれは、お嬢さんにはちょっとばかし早すぎるんじゃないのかい?」

ティーは店主の言葉に対し、そんなことない、と言わんばかりに首を横にふります。


「…お嬢ちゃん、ちゃんとお金は持ってるのかい?」

ティーは、いざという時のためにシズに持たされていたお金を握りしめたまま、店主に見せつけるように掲げました。


「親御さんは?もしかして迷子かな?」

ティーの頭に一瞬、背の高い男と白い犬の姿がよぎりましたが、今はそれどころではないのでした。

埒が明かない!の心の中では叫んでいるのでしょうか、黙ったまま店のカウンターをバシバシ叩きだしました。


「わ、分かったよお嬢さん、見かけによらず荒々しいんだね、将来は男を尻に敷くタイプだよ」

その勢いに気圧され、店主も仕方ないなと、その買い物に応じることにしました。


「…お嬢ちゃんみたいな子は、こっちの方が好みだと思うんだけどね」

しかし店主は、ことここに至って、すんでのところでティーに別の品を勧めるのでした。


店主が指差した先は、カウンターの脇に置かれたショーケースでした。

その中には、他の品より一段と高めの立派な商品が陳列されていました。

ついと横切った店主の指に、ティーの視線も思わずそのショーケースの方につられてしまいました。

その中の商品をいくつか眺めているうち、一つの商品に目が止まりました。


それは、1枚の写真でした。
戦車に積むようなミサイルランチャーが描かれていて、右下には"sample"と赤い字で書かれていました。

「…っ!」

それを見た瞬間、ティーは頭の中でこれまでにないくらい脳をフル回転させました。

おそらく、ショーケースに入り切らないその商品は、防犯上の理由もあり、この店の裏の金庫にでもしまってあるのだろう。盗まれて悪用されたら大事だ。

欲しい

でも自分で抱えるのは無理だから、あのバギーに積載してみようか…

そうしたら、今度敵が来たときにでも発射して爆破して吹っ飛ばしたい
なんならその辺の木にでも撃ち込みたい気分だ

欲しい


と、頭の中は目の前にはないミサイルのことでいっぱいでした。

なんでこんな駄菓子屋みたいなところでそんな物騒なモノを売っているのかという疑問は少しも浮かびませんでした。


「なんだい嬢ちゃん、そっちになにか欲しいものでもあったのかい?」

店主に言われて、ティーはやや興奮気味に、その写真を指差しました。


「ああ、それは一等賞だからねえ、運が良くないと当たらないよ」

「…?」

よく見ると、ティーが指差した商品の脇にはデカデカと"一等賞"と書かれた紙も置かれていました。

どういうことか、と言いたげにティーが首を傾げていると、店主が自分の足元から別の箱を取り出しました。

その箱には、片手が入るくらいの穴が空いていて、覗き込むと大量の紙片が入っているようでした。


「この中のクジを引いて、一番いい当たりが出ないと、その商品は貰えないんだよ」

「!?」

ティーは愕然としました。まさかこんなことに阻まれるとは思ってもいなかったからです。


一瞬、ティーの中で躊躇する気持ちが湧き上がりました。

でも、疾走するバギーからミサイルを撃ち出す自分の姿を想像したら、そんな考えは消し飛んだのでした。


「へいまいど!」

気がついたときには、手に持ったお金をありったけ全部、大小さまざまな小銭と小さいお札も大きなお札も、店主の男に差し出していました。

店主も、品のあるティーの姿から育ちのいい、最低でも中の上くらいの家の子だと思っていたので、
金額としてはそこそこ大金でしたが、そこまで不思議に思うこともなく受け取りました。


「はいよ、この金額ならクジは三十回は引けるかな」

「…ふっ!」

ティーはすぐさま箱に手を突っ込むと、その小さな手で掴めるだけありったけ、中の紙片を握りしめました。


結果は、ティーにとっては惨敗でした。
26枚ほど引いたクジはことごとくハズレの文字が書かれていました。

中には三等や五等の景品なんかも当たっていたり、オマケの駄菓子なんかも貰えたりしたのですが、彼女にとってはガラクタも同じです。


「まあまあ、そんな気落ちしないで、まだあと四回は引けるからよ」

とはいうものの、ティーとしては希望を打ち砕かれた気分なのでした。

手にした紙クズの山を見て、落胆するティーでしたが、
何の気なしに手にした1枚の"3"と書かれたクジに、一縷の活路を見出しました。

「…っ」

思い立った瞬間、ティーは箱に手を入れてクジを探しました。

引き当てたのは、残念ながら八等のクジでした。

「お、八等か、八等の商品はこっちの可愛い柄の団扇だな」

一等ではありませんでしたが、しかしこの結果、ティーには見えていたのです。

紙を触った瞬間の丸が二つ並んだ感じ
ティーは、指で紙に書かれた"8"の文字を読んでいました。

紙に書いた時についた、ペン先の跡やインクのわずかな膨らみ、
子供の敏感な指先だからこそ感じとれた触感でした。


いける、と思った瞬間、
ティーはその感覚を忘れないうちにと、素早く次のクジを求めました。

次に引いたのは"7"
直線の感じは掴めていましたが、惜しいところでした。


その次は、まさかの"1"!
と思いきや、丸の部分が異様に小さい"9"でした。

これにはティーもガックリしましたが、もう間違えない、と気合をいれて
次は入念にクジを漁ることにしました。


ガサガサと、クジの紙を探って行きましたが、どうにも目当ての感覚に行き当たりません。
もう全部のクジを触ったような気がします。
でも、あの"1"の字を感じることができないのです。


あんまり時間をかけすぎると店主に勘付かれる、そうティー危惧した瞬間

「…お嬢ちゃんさあ、そんなふうに探るのはよくないな」

店主の男が口を開き、そう言いました。
ティーは思わず、肩をビクッとさせました。

気づかれたと思い、店主の顔を見ました。

「そりゃあそんだけ時間かけてるから気づくさ、それに今、立て続けに7と9を引いただろ?」

男は、カウンターの上に置かれた二枚の紙片を見せつけながら続けます。

「…そこで思ったね、こいつは明らかに"1"を狙ってやがるって、でもよ、そんな風に探したってムダだ」


そう言われて、ティーは心臓を引き締められるような思いがしました。
自分のしていたことを、せっかくの活路が全部無駄だったと否定されたからです。

「俺だってバカじゃない、これまでそうやってサーチしてきた子供はいたし、その度に対策もしてきた」

ティーは混乱して、頭が真っ白になった。こめかみから汗が垂れてきて、指先までじっとりと濡れてきた。

この方法は無駄だった。この方法では手に入れられない。一等賞。てきをふっとばすみさいるらんちゃあぁ。

ゴクリと、久し振りに生つばを飲んだ。


「…お嬢ちゃんは上客だから忠告だけにしとくがな、まあ一等のクジはちゃんと入ってるから、あとは神様にでも祈るんだな」

そう言いながら、店主は目の前の女の子を小馬鹿にするように、ニヤリとした。

祭りの騒音が彼女にとってはひどく遠く感じた。

その顔をしばらく見て、ティーは諦めたように箱の中から一枚、クジを選びとった。

かみさま、と祈りながら。


ティーは、引き抜いた拳を掲げ、
開くと同時に、その小さな手のひらをカウンターの上に叩きつけました。

だんっ、と大きな音がするくらい力強く


そうしてワナワナと肩を震わせ、喉を引き絞るようにして、ただ


「……ありがとう」

とだけ呟いた。


店主は、差し出されたクジを見て驚き、目を見開いた。
そのため当選のベルを鳴らすのが遅れることとなった。

その引いたクジは、一等賞のクジだった。

しかし男はその内容よりも、少女が引いたタイミングの妙に驚かされた。


彼女がそのことに気づいたのは、男の言葉を聞いてから少し後だった。


無駄だ、男はそう言った。


その言葉にティーは思い出した。七等を引き当てる前に、探っていた時の一つの違和感。

ハズレでも、数字でもない、その時は興味なさげに捨てた一枚のクジを。


「…ずけい」

ティーは、カラカラに乾いた喉を振り絞って、言葉を続けた。

「ずけい、だった…」


広げられた一等のクジには、
"☆"が描かれていた。

その表面を触ってみると、なるほど、"ハズレ"という文字に近からずも遠からずといった感じがする。


しかし、大人の指は誤魔化せても、子供の敏感肌はだませなかったのだ。

目の前の少女の、柔らかぷにぷにの指先を侮った、男の負けであった。


「……ふっ、やるなぁ、ただのお嬢ちゃんだと思っていたが」

男は悔しげな、しかしどこか晴れやかな笑顔で、少女を讃えるようにベルを鳴らした。


ーー私が川原で見つけたとき、ティーは紙袋を二つ脇に置き、手に持ったなにかを見つめながら不満げにしていた。

私の思いついた火薬の匂いを辿って行く、という考えは間違っていなかった。
まあ、ここに着くまでに色んな屋台や、同じような広場を点々とすることになったのだが。


「ようやく見つけたぞ、ティー、いったいどこへ行ってたんだ、その荷物は?」

シズ様の叱責に反応して、ティーはその見つめていた一枚の写真のようなものを、こちらに差し出した。

「なんだい、それは」

「……だまされた」


それは、なにやら物騒な重火器が描かれた一枚のカードだった。

よく撮れた写真の下に、なにやら"効果"とか"ステータス"とかいう説明文のような文字や数字が並んでいた。

そして、カードの左上には目立つよう、"UR"というキラキラとした文字があった。

「……だまされた!」

「ええ?なんだよいったい、何を怒っているんだ?」

ティーはそう叫ぶと、ちからいっぱいといった感じでそのカードを投げた。


カードはペニャンと音をたてると、間抜けな弧を描きながらクルクルと回転して、
どこぞかへと飛んで行った。

「……なんなんだ?一体全体」


「…ひ」

「え?」

「…ひ!」

少々ムキになったティーは、脇の紙袋から赤い短冊状の物を取り出し、そう一音だけ叫んで、シズ様に火種をねだった。


その後は、店主にオマケでもらったという爆竹で、ティーはひとしきり遊んびました。

私は、なんだかティーに八つ当たりされそうな気がしたので、その様子を遠くから見ていることにしました。


「ところで、今日はどれくらい使ったんだい?」

「…ぎくっ」


ティーに投げ捨てられ、ヒラヒラと舞っていたカードはやがて地面に落ちて、ある一人の少女に拾われました。

「あ、これって!"遊撃王デュエルミリタリーズ"のレアカードだ!」

少女は、そのカードを見た瞬間、嬉しそうに言いました。

「…おいおい、フォト、いい歳してそんな玩具ではしゃぐなよ」

フォトと呼ばれた少女は携えたモトラドのソウにそう小言を言われました。


「だってだって!ウルトラレアだよ?すっごく珍しいんだから!」

「…へえ、犬よりもか?」

「犬よりも!」

フォトは、カードを拾ったことがそんなにも嬉しかったのか、黄色い声をあげて
そのウルトラレアのカードを大事そうに胸のポケットにしまいました。


みると、フォトは首から、かなり本格的なカメラをぶら下げていました。

「いやー。この国に来てさっそくいいことあったなー」

「そうかい」

「今夜の花火もきっと綺麗だろうなー、キレイに撮影できるといいなー」

「ちゃんとカメラを設定しろよ、このあいだ星を撮った時みたいな失敗はなしだぜ」

「ちゃーんと分かってるよ、ソウ」


すっかり気分の良くなったフォトはソウを率いて軽い足取りで、屋台の買い食いを楽しむのでした。


第?話

「SS書きの国」
- short story Writer -


チャットルーム > kinoさんが入室しました。

kino > はじめまして

writer > はじめまして、どうぞよろしく。

writer > え?もしかして、キノさんですか?

kino > はい?どのキノかはしりませんが ここではたしかにkinoですけど

writer > いやあ光栄だなあ、実は私、キノさんの大ファンなんですよ

kino > はぁ そうなんですか

writer > それでですね、そのキノさんに折り入って相談があるんですけど、いいですか?

kino > はあ ぼくでよければ

writer > よかった~


writer > 実は、私はいまssというものを書いてるんですが。あ、ssというのは短い小説のようなものなんですけど

writer > その評価がですね、著しいとまではいわなくても、まあ芳しくないんです。

kino > むずかしい もんだいですね

writer > どうしたらいいんでしょう?

kino > はい?

writer > その、評価を上げるためにはどうしたらいいんでしょうか?

kino > そのもんだい は ぼくに きかれても わかりませんよ

writer > 内容がつまらないか、文章が下手なのか、一体なんなのか…私にはさっぱりで

kino > なるほど

writer > 書いてもレスはつかないし、まとめに載ることもない。たとえ載ったとしても散々な米を書かれてばかりで


writer > あの、kinoさん?呆れちゃいましたか?

kino > いますよ

writer > ああ良かった、呆れて帰っちゃったのかと思いました。すいません、変な相談をして

kino > 一応前置きしておきますけど、ぼくではあまり的確な助言は出来ないと思います

writer > はい

kino > 何事も、上達するのに誰かに師事することは近道だと思います。変に自己流だと技術として変な癖がつくことがあります。

writer > なるほど

kino > 料理のような技術てきなことなら他人の術をみてそれを参考にするのもいいと思います。あとはひたすら反復ですね

writer > なるほど!流石はキノさんだ、非常に勉強になります。

kino > お役に立てたなら。ぼくはkinoですけど


writer > つまり他人のストーリーのあらすじだけ借りて、あとは面子だけ変えてけばいいってことですよね?

writer > ミリオンライフとかシンデレラギャルズとかなら設定は同じでもキャラクタはごまんといますからね!そういうことなら簡単ですよ!

kino > はい?

writer > できるだけ昔に投稿されたssの方がいいですよね?それなら皆覚えてる可能性だって低いわけだし

writer > まあそれでなくたって最近は似たり寄ったりな作が多いこともありますけどね(笑

kino > はあ、あなたが何を言ってるのかは分かりませんけど、多分ぼくの考えと違うような気がします。

writer > レスが欲しけりゃ安価しろってことなんですが、いかんせん安価ssとかは怖くて手が出ないんですよね

writer > まあ、あの俗っぽい空気が嫌だってこともあるんですけどね(爆


チャットルーム > kino さんが退室しました。


writer > あれ?キノさん?おーい


「やあキノ、おかえり」

「ただいま、エルメス」

「どうだった?この国のパソコンっていう機械は」

「とても便利だったよ、ネットリテラシーっていうのを勉強するのがちょっと面倒だったけど」


「へえ、どんなことができるの?」

「そうだね、色んな場所の色んな情報が一度に一瞬で手に入ったりするんだ」

「それはすごいや、手間が省けていいね」


「ああ、それと機械に文字を打ち込んで別の場所にいる誰かと話をすることが出来たよ、ただ」

「ただ?」

「あれはなんだか、ひどく疲れたね、うん」

「へえ、そうなんだ」


「言葉じゃなくて、活字だけのやり取りだから、どうにもこっちの意思をうまく伝えられなかった感じで」

「…まあそうだろうね、そこいくところ、活字だけを生業としてる作家さんは本当にすごいんだろうね」

「きっとね、そういう意味では、ボクは尊敬するよ」

「作家様々、ってことだね」


「それにしたって、どうしてこう人は時々ボクなんかに相談しに来るんだろう」

「うぅん、それだけキノが頼り甲斐のある人間だってことなんじゃないかな?」

「そうかな、ボクは自分がそんなに立派な人間だとは到底思えないけど」

「個人の評価なんて、人の数だけあるものだよ、キノ」

「…そんなものかな」


「そうだ、今度から相談を受ける時は料金を取ったら?相談料」

「ああ、それはいいかもしれないよ、エルメス」

「だろう?」

「また前みたいに料理のアドバイスを頼まれることもあるかもしれないし、その度に相談料も取れれば、ご飯もありつけて一石二鳥だよ」


「…えぇっと、料理に関する頼み事だけは避けた方がいいと思うよ?」

「なんでさ、エルメス」

「不幸になる人が、これ以上増えるのは忍びないじゃないか、キノ」

「?」


657:VIPにかわりましてWRITERがお送りします


くぅ疲w

今回はかなりの大長編となってしまいましたが、自分としてはかなりの自信作です。
掛け合いなんかもいいですけど、自分としては特にストーリーとかは傑作だと思いますね!
とくに中盤あたりの伏線なんかはw

では最後に、登場してくれたアイドルのみんなからの言葉を聞いてみましょうか!


ち「ここまで読んでくれて、どうもありがとう、私の歌声、皆にも届いたかな?」

は「どうもどうもー!みんな誤解しないで欲しいけど、私はあんな転んでばっかじゃありませんからね!(迫真)」

や「うるるーん!それじゃあみなさんまた会う日まで~」

みんな「「ばいばーい!」」


終わり

658:VIPにかわりましてREADERがお送りします


臭っ!しかもパクリ乙
土に埋まってしね


第?話

「美しい征服・a」
- not a slave・a -


ひと気のない昼下がりの荒野を、一台のモトラド(※注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。

人一人分の荷物を積載し、長いこと旅をしてきたのか、年季の入った車体が太陽の光を鈍く反射していた。


乗っているのは、茶色いコートを着た若者だった。
その精悍な顔つきを、たれのついた帽子と銀色のゴーグルで覆っていた。

右腿のあたりにリヴォルバー式のハンド・パースエイダー(パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)の収まったホルスターがみえる。


モトラドが走り続ける道は、最初はいびつな道で、大きな石もごろごろとしていたが、先に進むにつれて少しずつ砂利道となり、次第に走りやすくなっていった。


「うーん、こうして道路が整備されているのをみると次の国に近づいてきたって感じがするね」

「そうだねエルメス、今度の国は道路整備まで行き届いた、随分と進んだ国らしい」

エルメスと呼ばれたモトラドは、そのなだらかな道なりにとても満足しているようだった。


「こういう道だと、車体ががたぴし揺れなくて済むからいいよ、部品の劣化も抑えられるしね」

「それはいい、旅の費用も節約できるよ」

「どうせキノは、浮いた分だけ美味しいもの食べちゃうんだから、意味ないでしょ?」


キノは、目線を前方から外さずに、図星だったのかエルメスの言葉に苦笑した。

「ばれた?まあそれも旅の楽しみの一つということで」

「まったく、人間だけずるいなあ、そういうのはモトラドには何にも無しなんだから」

エルメスが文句をいうので、キノは一つ提案をしました。

「じゃあ今度、美味しかったスープでもタンクに入れてあげようか?」

「冗談!そんなことしたらエンジンがお陀仏だよ!」

「はは、だよね」

当然ながら、その提案は却下されてしまいました。


道なりに進むと、もうすでに国の領土に入ったのか、ポツポツと建物が見えるようになってきた。

砂利道もやがてコンクリの道となり
警備の人間が銃をもって見回っている姿もちらほら見かけるようになった。


「城壁の外まで兵隊が出張ってるんだね、この国は」

「それだけこの国の力が強いってことさ、こうやって他の国を威圧しているんだよ」


コンクリの道をスムーズに進み、キノとエルメスは城壁の入り口のところまで辿り着き、入国のための審査を申請した。

「こんにちは、ボクはキノ、こっちは相棒のエルメスです」

「こんにちは!」

いつものように審査官に挨拶をすると、審査官の方も和やかな挨拶をかえしてきた。

「はいこんにちは、今回はどのような要件ですか?」

初老の審査官は物腰も柔らかに、キノに規定の質問をした。


「三日間の滞在がしたいのですが、お願いできますか?」

「ええ、構いませんよ、所持品の検査さえ通ればすぐにでも」

「ありがとうございます」


男は審査用のチェック用紙を取り出して、いくつかのチェックを始めた。


「この後は麻薬犬によるチェックがあります、タバコの持ち込みは可ですので、その場合は事前に申し入れてください」

「分かりました、大丈夫です」

「キノはタバコは吸わないからね」

「ははは、それは結構なことですな」


城壁の中は長い通路になっていて、そこを通る度に各種チェックが待っていた。

しかし、それほど待たされることもなくキノはそこを次々通っていった。

そして、出口を抜けた先を見て、キノは感嘆の声をもらした。


「…はぁ、これは」

「なんていうか、すごい近未来って感じだね」

広がっていたのは、キノがこれまで見たどの建築物よりも先をいく代物ばかりだった。

幾何学的形状の白い建物はコンクリートとも金属ともつかない素材でできており、先進的な技術が用いられているようだった。

しかし街並みの所々には十分な自然も確保されており、洗練された文化体系を思わせる。

そして、そこを行き来する人々の服装も、なんというか、スタイリッシュだった。


「はぁ、こりゃキノの格好見て検査の人もニヤニヤするわけだよ」

「そんなこと言って、あっちの乗り物なんか見てごらんよ、ここじゃまるでモトラドなんて化石と同じかもよ」

「だね、そんな気がする」


ちょくちょく見かける警備の人間が担いでいる銃器類もよく見ると随分と進化が見られており、
これに比べればキノの持つ先込め式のパースエイダーなんぞは玩具にみえるくらいだった。

「うーん、ちょっとあれとは戦いたくないなあ」

「へえ、流石のキノも先進技術には勝てないかい?」

「こっちは六発装填のリヴォルバーだよ?それなのに、方やあっちは秒間何発連射なんだか…」

「囲まれて撃たれたら、あっという間に蜂の巣だね」

「せいぜい目をつけられないように過ごすとしようか…」


宿泊できるところを探して、キノとエルメスは街中を彷徨っていました。

しかし、街並みや風景がどうにも見慣れないため、どこを探していいやら分かりませんでした。


「とりあえず、誰か人にきくとしようか」

「そうだね」


「何かお困りですか?」

不意に声をかけられたのでその方向に振り返ってみると、そこにはおおよそ人間とは思えないフォルムの何かが立っていました。

「えっ…と、はい?」

ついその姿に困惑して、キノは言葉に詰まってしまいました。

「あ、申し遅れました、私はこの街で案内係をしているロボ子というものです」

「…はあ、ロボ子、ですか?」

「へえ、ロボットなのに人間みたいな姿をしているんだね」

全身を青系統の色で統一し、足先は細くどうやって立っているのか分からない。

頭は球体で、その後ろからウサギの耳のような板がピンと立っている。

額にレンズのようなものがあるがそれとは別にどういうことなのか赤縁の眼鏡をかけていた。


「旅人さんが困っているようでしたので、お声をかけたのですが、どうでしょう、案内は必要ですか?」

「ちょうどよかったよ、キノ、まさに辺りは暮れってやつだね

「…ああ、渡りに船ね」

「そうそれ!」

「了解しました。ではどちらへ行きましょうか?」

ロボ子が親切にも案内してくれるというので、キノはその言葉に甘えることにしました。


「そうだね、それじゃあとりあえず宿泊できるところと、それと何か美味しい店があれば案内してもらえるかな?」

「了解しました」


ロボ子の案内で、三日間の滞在先を確保し、お腹を満たしたキノは、他になにか見るべき所はないかとロボ子に尋ねました。

「ちょっと図々しくない?キノ」

「だってこんな珍しい国に来たんだよ?観光しなくちゃ勿体無いじゃないか」

「びんぼーしょー」

お願いすると、ロボ子はしばらく思案するように電子音を鳴らしたのち、キノに答えました。


「そうですね、旅人さんならばこの国の博物館に行かれてはどうでしょうか?入場も無料ですし」

「無料!それはいい」


無料という言葉につられて、キノはロボ子後をエルメスを引きながらついて行きました。


空も薄暗くなった頃、キノたちは博物館に到着しました。
博物館は、他の建物とは違い、まだ"前時代的な"様相を呈していた。

しかし、扉は自動だし、明かりは電灯だったりと所々改修の痕跡が見られた。


「教授、ロボ子、ただいま戻りました」

到着してすぐ、ロボ子は入り口そばのインターホンに向かって話しかけた。
どうやらここは、ロボ子の帰る家でもあるようだ。

「直接話すんだ、通話とかないのかな?」

「エルメス、そういうことは言わないの」


『おお、ロボ子か…今帰ったんか?』

聞こえてきた相手の声は、ノイズ混じりで加工されており、少女とも老婆ともつかない声に聞こえた。

『ん、そっちの連れは?』

「旅人さんを案内してきました、観光がしたいそうでしたので」

『ほうか、しかしまた、難儀なときに来たもんじゃな』

その誰かは、キノには聞こえない声でそう言いました。


博物館の中は、この国の成り立ちから歴史、技術や芸能に至るまでありとあらゆる資料がならんでいた。

その中でも特に目を引くのが、エントランスに置かれた巨大な男性を模した銅像だ。


「…これは?」

「これは現在のこの国を統治しておられるお方、名前をxxxx(異国の言葉のため、ここでは表記できない)といいます」

「…xxxxですか?」

「はい、言葉の意味としては"2"という意味になります」

「へえ、不思議な名前の付け方をするんですね」

「キノだって、もとは花の名前だったじゃないの」

「まあ、そのことはあんまり言わないでよ」


その後、キノとエルメスはロボ子の案内で博物館を回ると、宿泊先への帰路につくのだった。


ある日、この国に一人の男がやってきた。

男は拳を掲げ、"征服"という二文字を合言葉に、この国のかつての人々の心を掌握していった。


数々の技術と文化をもたらし、たちまち男はこの国の中心となりました。

その後、その男は長年に渡ってこの国を統治することになります。



そして今も、彼はこの国の支配者として君臨し、人々に豊かな暮らしを提供し続けているのでした。


滞在二日目の朝、キノはベッドから起き、朝の支度を終えると
エルメスを起こして今日も街へと繰り出すことにしました。

昨日、ロボ子に作ってもらった案内の地図を片手にもって


「それで、今日はどこにいくんだい?」

「この国のお土産はとっても珍しそうだから、その辺を見て回りたいね」

「それはそれは、そんなに珍しいなら、他の国で高く売れそうだね」

「そういうこと」


キノはエルメスのエンジンをスタートさせて、お目当ての店へと走り出しました。


いくつかの店を見て回った後、キノはエルメスに外で待っててもらって、喫茶店で昼食を取ることにした。

目ぼしいものは手に入れたし、あとは旅の必需品を買い込むだけかと考えながら、冷えた麦茶を飲んでいると


「やあ、あんたもしかして旅人かい?」

見知らぬ男が、突然キノに話しかけてきた。


「どうも、何か用ですか?」

「いやね、旅人さんなら相当腕が立つだろうと思ってね、是非とも勧誘にと思って」

「…へえ」

男の周囲を探ると、こちらをチラチラと伺う気配があった。どうやら囲まれているようだった。

「その歳でね、一人でしかもそんな骨董品の銃を下げて、よく生きていられたもんだよ」

「はあ、まあ褒め言葉として受け取っておきます」

「それでな、俺たちはよ、これからこの国で決起を起こそうって腹なわけよ」

男は、キノが尋ねもしないことを得意げにベラベラと喋り出した。


「この国はよ、間違ってる!俺たちはそう思うわけよ、こんな何もかも与えられる人生は!」

男が得意げに話すにつれて、周りの人間たちも同時に色めき立ち始めたのが目に見えて分かった。


「そんな人生は退屈だよ、あんたもそう思うだろ、ん?」

「…まあ、そうですね」

「だから俺たちがこの国を変える!退屈な支配構造を変えて、俺たちの国を作るんだ!」

話を聞いてるうちに、いつの間にか周りから賛同の声や、拳を振り上げて意気込む声が聞こえる。


「でも、わざわざ不自由な世界にするなんて、おかしくないですか?」

「不自由こそ人間らしさだ!だからこそ人間らしく生きていけるんだ!そうだろう?」


そう言われて、キノはそれ以上、言葉を挟むことをやめた。


その後男は長々と演説をし、しまいには銃器まで持ち出して決起の計画を話し続けた。

キノとしては興味はさらさらないので早く出たかった。


「おかえりキノ、なんだか騒がしいようだったけど、何かあったのかい?」

「まいったよエルメス、予定を早めないといけなくなった」

「え?もしかしてキノ、誰かを撃ったとか?」

エルメスがそう話す途中、さっきの男が店から顔を出し

「ぜひ来てくれよ旅人さん!いい武器を用意して待ってるからな!」

「だそうだよ」

「へえ、なんだか面白そうなことするんだね」

男が店の中へと引っ込むと、たちまち外まで聞こえる宴会の騒音が漏れ聞こえてきた。

「まあいいさ、ボクには関係ないよ、早く買うものだけ買って部屋に戻ろう」

「はーい」


「それにしてもキノ、とりあえず話にだけ乗っておいて、銃だけ貰ってとんずらすればよかったのに」

「そんな手間はかけたくないよ、それにここの銃は構造が複雑で長旅には向かない、弾の規格もないし、メンテにも手間がかかりそうだったよ」

「なるほどねぇ」


部屋に帰ってすぐ、キノは適当に食事と帰り支度を済ませ、日が落ちるのを待った。

深夜近く、時計が午前零時を回る頃に宿泊先を出発した。
一応、三日滞在のルールは守った形となった。

夜の街をエルメスで走っていると、遠くの広場から人々の騒がしい声が聞こえる。
恐らくは、昼間の彼らだろう。

騒ぎが大きくなればもしかしたら出入国制限がかかるかもしれない、そうなると面倒だ。
急がなければならない。



しかし、そんなキノの心配をよそに、城門のところには誰もいなかった。

騒動のために出払っているのだろうか、とも思ったが、それにしては出口まで全ての扉が開いているというのはいささか不用心すぎる。


一応注意して、エルメスを走らせる。
いつでもパースエイダーは抜けるよう構えておく。


先まで抜けたところで、誰もいないと思っていた門に一つ、気配があった。


「…誰ですか?」

「まいったな、中では随分と騒ぎになっているんだろう、違うかい?」


そのにいたのは、キノ達がこの国に来て最初に知り合った審査官の男だった。

「この国を良くしようと頑張ってきたつもりだったんだけど、どうにも上手くいかないもんだね、人間は」

だがしかし、当初会った時とは雰囲気が随分と違う。


「…あなた、どうしたんですか?そのガスマスク」

「ああこれか?これは俺の、いわゆる正装ってやつだな」

男は、ガスマスクを被り、上半身は黒のフード付きのパーカーを着てその身をすっかり隠していた。


「はあ、正装ですか…」

「まあな、これでこそ…xxxxって気がするよ」

「え?…xxxxって、あなた銅像の」


銅像の男はまだ若い頃の風貌だったから分からなかったが、なるほど、思い返してみれば確かに面影があったように思える。

今はガスマスクで顔はよく見えていないが。


「どうして、そんな偉い人がこんなところで審査官なんてやってるんですか?」


「…さてな、そろそろアイツが俺のことを怒りに来るような気がしてな、迎えるためになんとなくここに立ってたんだよ」

「…あいつ?」

「ああ、"お前の征服はなっとらーん!!"ってな」


キノには、部外者には男が何を意図してそれを言っているのか分からなかった。

しかし、男がどこか嬉しそうな
そして同時に申し訳なさそうにしているのだけは声色で分かった。


「ほれ、そろそろ行かないと、騒ぎも大きくなってくるし、ここにいるとお前さんもあいつに征服されちまうぞ?」

「…征服、ですか」

「ああ、あんたはまだ旅を続けるんだろ?」


男がそう急かすので、キノはエルメスのエンジンをふかし、先を急ぐことにした。

「…それでは、あなたも気をつけて」

「じゃーねー」


「ああ、達者で暮らせよ、若いの」


舗装された道路をエルメスが走る、街の壁がどんどん遠くなっていった。

「はぁ、人間って面倒だね…なんていうんだっけ、ツンデレっていうのかな?」

「エルメス、それは多分違うと思うよ…」


それにしたって面倒なことには変わらない。
なにせもう一泊する予定だったところをこんな時間に飛び出したんでは、この先どこかで野宿せねばならなくなったのだから。


「ほんと、疲れるなあ…」

そう愚痴っていると、前方から甲高いエンジン音と共に、モトラド?に乗った誰かがやってきた。

長い銀髪でやけに露出度の高い服を着て、
マスクをつけた小さい女の子だった。

それがエルメスほどの大きさのモトラド?を運転してキノたちの後方、
あの国を目指しているようだった。


「?」

少女は最初、キノたちのことを気にもとめていない様子だったが、

両者がすれ違う瞬間、ハンドルから片手を離し、親指を立てて挨拶をした。

ように、キノにはみえた。


「……あれは」

「ホント、変わった国だね、あれも含めて」


キノ達はその姿に後ろ髪を引かれる思いもしたが、なんとか振り切って
今晩の野宿の当てを探すことにした。

今夜は慣れないことをして疲れた。
いろいろと思うところもあるが、
考えるのは、まあ一旦寝てからにしようと思った。


どうせこの先も、旅はまだまだ続くのだから


「こんなに走ったんだからさ、明日の朝は少しくらい寝坊したっていいよね?」


「…そうかもね」


「たまにはさ、昼近くまで寝ちゃうってのもいいも思うんだ」


「あんまり不用心なのは考え物だよ、エルメス」


終わり


あとがち

もないので、キノのプレイアブル昇格を祈ってから依頼を出します、もしくは木乃でも可
(SAOから2人もプレイアブルキャラ要らんのじゃ!)

うわ…今気づいた。タイトル
the にしてない…

おつ、一気に読んでしまった キノSSは珍しいから嬉しかった

おっつおつ。
楽しかった

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