ライナー「ぐああ!俺の膝が!」キース「苦しめ苦しめ」(61)

ある夜、宿舎の影。ライナーがベルトルトとアニを呼び出した。

「これをお前たちにやろう」

アニとベルトルトは、唐突なライナーの発言に対して疑問を感じながらも、
ライナーが差し出す袋を受け取った。

袋には何かやわらかいものが入っているようで、
指で袋越しに押すと、指が「何か」を潰しながらその「何か」に沈んでいく感触がして、少し気持ちが悪い。

その「何か」は冷たくはなく、どちらかといえば生暖かい、
どこか生ものを思わせる温もりをしていた。

「これはなんだい」アニは袋を揉みながらライナーに聞く。

「何か柔らかいものが入っているようだけれど」

「それは肉だ。お前たちの士気向上のための、俺からの支給品だよ。」

「何が支給品だ。あんたは私たちの上官にでもなったつもり?」

アニとベルトルトは、袋を開け中を確認してみる。

確かにそこには肉が入っていたが、それは通常の肉の形状を保っておらず、
挽き肉上になったものだった。

「しかも挽き肉じゃないか。……まさか人間の肉じゃないだろうね」

アニは袋の中の肉を見ながら、少し表情を強張らせる。

ライナーはアニの発言に意表を突かれたのか、少し驚いた顔をした。

自分たちの立場上、最もよく見てきた挽き肉は人間のものだ。

挽き肉は彼らに凄惨な現場を思い起こさせる。

その肉の正体を知っているライナーはともかく、
何の肉か知らないアニがたじろぐのも仕方のないことだった。

なんか期待

「それは豚と牛の合挽き肉だ。肉は高い。それを手に入れるだけでやっとだったんだ」
ライナーはアニを安心させるように笑う。

「まともな食事ができない俺たちだ。
それを食って来たるべき時のために力を蓄えておいてくれ」

ライナーはアニの表情がいつもと変わらないものに戻っていることを確認すると、
そのまま話を続けた。

「アニはハンバーグが得意だっただろ。ベルトルトは餃子でも作れ」

アニの表情は優れない。
アニは肉に興味がないのか、いかにも面倒くさそうな顔をしていた。

このままでは挽き肉を調理せずに放置させ腐らせるか、
それともサシャに挽き肉を発見され面倒なことになるかのどちらかだった。

おそらく後者の可能性のほうが高いだろう。
ベルトルトはぼーっとしている。

「それに肉を食えばお前の身長も少しは伸びるんじゃないか」
ライナー、ハハハハと豪快に笑う。

ライナーはアニに発破をかけた。

しかしその発破はライナーの想像するものとは違う効果をアニに与えたようで、
アニの身にまとう雰囲気が黒く熱いものに変わった。

アニは布団の中で寝返りを打った。

ミカサがうるさい。

ミカサは先ほどからエレンの名前を呟いては、
息を荒くさせ布団の中でもぞもぞと動いていた。

アニがミカサの布団に目をやると、
ミカサは布団の中でくねくねと身をよじらせていることが布団の動きでわかる。

何をやっているんだ。
アニは思わずため息をつく。

そのため息を聞き、クリスタがこっそりとアニの方に顔を向ける。

「アニも起きていたんだね」
クリスタはミカサに気付かれないように、声を潜めてアニに話しかける。

どうやらアニとクリスタ以外の訓練兵はもう寝てしまったらしい。

訓練が始まった始めのころは、
ユミルがミカサの所業に夜中にも関わらず声を荒げていたが、
今では環境音になってしまったようだ。

しかし、ピュアなクリスタはそう簡単には慣れなかったようで、
アニはミカサが呟くエレンの名前が気になり眠れなかった。

「さっさと寝な」
アニはクリスタにそう言うが、クリスタは意に介さない。

「ねえ、今日のミカサいつもより激しくない?」

クリスタは、ミカサを見ながらにやにやと笑う。
「何かあったのかな?」

アニは、ミカサの方を見てみた。

ミカサが中にいるのであろう布団は激しく動き、
アメーバのようにぐにゃぐにゃと形状を変えている。

アニがその様子を眺めていると、不意に布団の形状変化が止まり、
布団とベッドの隙間からひょっこりとミカサが顔を出した。

「何?」

「ミカサがなんだか機嫌がいいみたいだから、何でなんだろうなってアニと話していたの」

クリスタのその発言にミカサは待っていましたという顔をする。

「エレンはジャンに騙されて、今日の夕食が肉料理だと思っていた。
しかし、今日の夕食はいつもと同じスープとパンだった。
あの時の哀愁を帯びたエレンの表情は、私に新たな性癖を植え付けた。
この年齢にして新たな私の発見。
もちろん後でジャンの前歯を全部へし折って、エレンの敵も討った」
ミカサは今日の出来事を饒舌に話した。

アニはもう早く寝たかったが、エレンのことが気になる。

「エレンって肉が好きなの?」

「特別好きだという話は聞いたことがない。
しかし、現状肉は高級食材。
肉が嫌いでもない限り、肉を食べることができると聞いて喜ばない理由はない」

亀が甲羅の中に首を収納するようにミカサの頭が布団の中に引っ込む。

「ふーん」

アニは先ほどライナーから貰った肉のことを思い出していた。

あれでハンバーグでも作り、エレンに食べさせてあげたら喜ぶだろうか。
さらに私の得意料理のチーズハンバーグを作ってあげたら……。

アニがふとミカサの方を見てみると、ミカサは布団の中から眼だけを光らせてアニの方を見ていた。

「何?何を考えているの?何かよからぬことを考えているのなら、あなたの前歯も折る。あのジャンのように」

ミカサは、何かを掴むかのように右手の指を曲げ、右腕だけを布団の中から出したり引っ込めたりする。

歯を掴んでへし折る動作のデモンストレーションだ。

ミカサはエレンに関して異常に勘が鋭かった。

「別に何も考えてないよ」

アニはエレンにチーズハンバーグを食べさせることに決めた。
もしミカサが自分の歯をへし折ろうと近づいてきたら、
それよりも早くミカサの膝に蹴りを入れてやるつもりだ。

ミカサはアニのその言葉を聞くと腕を布団の中に引っ込め、
自分の体を完全に甲羅の中に入れた。

「それならいい。
今から私は自分が夕食の肉となりエレンの興味と寵愛を一身に受け、
エレンに食されてその肉体の一部となることを妄想する。
だから邪魔しないで」

「ふふふ、ミカサ、いつも通りだね」
クリスタはアニの方を向いて小声で笑う。

「そういえば、アニがライナーの両脚の半月板を蹴り砕いたって本当?
ライナーの両脚がバネみたいになったってベルトルトが騒いでいたけど」

「ああ本当だよ」
アニは眠たい。

「でも半月板が砕けたらどうなるの?治るの?」
クリスタは半月板が何なのかよくわからないらしい。

「さあ知らないね。どうでもいいよ。明日には治っているんじゃない?」

ベルトさんの餃子まだー?

アニは布団を頭まですっぽりとかぶり、クリスタを無視した。

クリスタもしばらくはもぞもぞと身動きしていたようだが、やがて静かになった。

しかしミカサは相変わらずうるさい。

アニは布団の中で、次の休日エレンにチーズハンバーグを作る段取りを考えていた。

その夜、塀の外では人知れず鎧の巨人が出現し、自身の膝をさすった後、
誰にも見られることなく姿を消したという。

アニメ派にはネタバレ注意かな
期待

「俺は子供のころからある夢をよく見ていた。
その夢では宿舎よりも大きい建物の敷地の中で、
俺は敷物をしいてミカサやアルミンと一緒にチーズハンバーグが入った弁当を食っていた。
俺はチーズハンバーグなんか実際目にしたこともないのに、
夢でその存在を知っていて、何でだろうな、現実にも必ずあると確信していた」

「不思議なこともあるもんだね」アニは言った。

アニとエレンはチーズハンバーグを調理する準備を進めていた。

先日、アニはチーズハンバーグの材料を調達するために町で買い物をしているとき、
たまたまエレンに出くわした。

エレンがアニに何をしているのかと尋ねたので、
アニが素直にチーズハンバーグの材料を買っていたことをエレンに話すと、
エレンは尋常ではないくらいチーズハンバーグという単語に食いついた。

「知っているのか!チーズハンバーグを!」
エレンはアニに掴み掛らんばかりの勢いで問い詰める。

「知っているも何もチーズハンバーグは私の故郷の郷土料理だよ。
まあ私の故郷は滅んじゃったし、作り方を知っているのはたぶん私だけだけどね。
この街に来たとき誰もチーズハンバーグを知らなくてびっくりしたよ」

「そうなのか……。やっぱりあったのか、この世界にも、チーズハンバーグは……」

エレンはぽろぽろと涙をこぼした。

「食わしてくれっ……!俺にもそのチーズハンバーグをっ……!」

エレンの泣きながらの懇願をアニは承諾した。

エレンの懇願は、アニにとって都合がよかった。
材料はそろえたし、調理場を借りる目処も立っている。

アニにとってエレンを誘うことが一番困難だったのだ。

そしてその日から数日後の休日、
アニはエレンと一緒にチーズハンバーグ作ろうとしていた。

玉ねぎのみじん切りでいきなり失敗し、
指を切ったエレンはアニに包丁を取り上げられ、調理への不干渉をアニに言い渡された。

エレンはすることもなく、アニが合挽き肉をこねているのを横から真剣な目で眺めている。

そのエレンの目は赤く充血していた。

「あんたその目、どうしたの?」

「ああ、これか。ちょっと泣いちゃって」

「なんで?大丈夫?」

「実は今日、チーズハンバーグの夢を見たんだ。
いや、正しくは今日も、だ。
夢の中で俺はいつも通りチーズハンバーグを食べていた。
ニチレイのハンバーグの上に母さんがチーズを乗せたやつだ。
噛めばハンバーグの肉汁、チーズのまろやかさも舌に焼き付いている。
しかし朝目が覚めたら、またチーズハンバーグ……いやチーハンのない世界に逆戻りだ。
俺はいつも朝目覚めて、現実を認識すると泣いてしまう。
夢に母さんが出てきたからとかじゃない。
チーハンのないこの世界に絶望して、悲しみの涙を流すんだ。
しかし、今朝は違う。この世界にもチーハンはある。
いや、正しくは俺たちがこれから作るんだ。今朝の涙は歓喜の涙だよ」

「なるほど」

十分にこねた合挽き肉と、牛乳に浸したパン粉、温めた玉ねぎ、卵、
塩コショウ、マヨネーズ、ナツメグが入ったボールを素早くこねる。

手の温度で肉だねが暖まらないように。

「それ、俺やりたい」

「あんたは目薬でもさしてなよ」

エレンは危なっかしくて任せることができなかった。

「あんたがやるとボールをひっくり返しちゃいそう」

それにアニは自分が作ったチーハンをエレンに食べさせたかった。

エレンと一緒に作るのもアニにとっては楽しかったが、
まずは自分が作ったものを食べてほしい。

「エレン、あんたもうそこの椅子に座って休んでいたら。
私が作って持って行ってやるからさ」

「ばかやろう!俺がチーハンを作らないで誰がチーハンを作るっていうんだ!」

「私だよ。あんたチーハン作ったことないんだろ?
じゃあ今回は私の調理を見といてよ。それで今度一緒に作ればいい」

「確かに技術の面では俺はアニにかなわない。
けどチーハンへの愛はアニよりも俺の方がずっと深い。
料理は技術だけじゃないんだよ!愛が大切なんだ」

「愛だったらあたしにだってあるさ。チーハンへの愛じゃないけどね」

「それ見たことか!さあ調理交代だ!」

「もうあんた黙っていなよ」

アニは肉だねの中にチーズを包み込んだ。

こうすると、ハンバーグを噛んだ時に、
ハンバーグの中からとろとろのチーズが溶けだしてくるのだ。

「おい。何だよそれは」

アニに言われた通り椅子に座って待っていたエレンは、
アニのその所業に怒りと動揺が混ざり合ったというような表情でぶるぶると震え、
思わず椅子から立ち上がった。

「ニッポンハムから発売されている冷凍ハンバーグの真似か?
ふざけるなよ!チーハンのチーズはハンバーグの上にふわっと被せるもんだろうが!
俺はそんなもの認めないぞ!」

「ニッポンハムってなんだよ。
大丈夫、後でハンバーグの上にもチーズを乗せるよ。」

「なら別にいいんだよ」

アニはオリーブオイルの入ったフライパンの中にハンバーグを入れ、
中火で両面に焼き色がつく程度に焼いていく。

フライパンの中で焼かれるハンバーグを見て、またもやエレンは椅子から立ち上がる。
しかし今度のエレンは歓喜の表情だ。

「やらしてくれ。俺に。それを。俺きっとこの時のために生まれてきたんだ」

「あんた何言ってんの。あんたがやると焦がしちゃいそうだから駄目」

「大丈夫。俺の心はもうハンバーグに恋焦がれているぜ」

「何が大丈夫なんだよ。さっきから全然あんた大丈夫に見えないよ」

「くそっ。エサの前で待てと言われた犬の気分だ」

「確かに今のあんたは畜生だよ」

いいのかよwwwww

ハンバーグに焼き色がついたら、
フライパンの中に水やコンソメを入れ、ふたをして蒸し焼きにする。

その光景を見ているエレンは、
椅子に座りながらまるで神に祈るようにハンバーグに手を合わせ、静かに涙を流していた。

「あっ。そうだ。皿を用意してない」

「皿なら俺がとってくるよ。そこの食器棚だろ」

「いいよあんたは。割っちゃいそうだから。フライパンの上のチーハンでも見てな」

アニはチーハンを盛る皿を取り出すために食器棚に向かう。

アニが使用していた調理台からは棚などが死角になって見えないが、
食器棚は調理上の部屋の角にある。

この調理場は訓練兵たちの料理を大量に作るために広く、
食器棚の場所はアニたちが使用していた調理台より離れた場所にあった。

それにこの調理場には調理台が10台もあり、
調理器具をしまっている棚もいたる所に置いてあるので、
エレンだと調理台の角や棚などに足を引っ掛けてこけてしまいそうだった。

アニは調理場を横切るメインストリートとでもいうべき太い通路を行き、
3つ目の調理台の角を右、そして突き当りを左に折れた。
それから棚や調理台の間の通路に沿ってまっすぐ行き、部屋の角、そこに食器棚はある。

アニは食器棚の一番下にある、両開きの広い棚に付いている取っ手に手をかけた。

さらっとニチレイとかニッポンハムとかいうなwwww

アニはしゃがみこんで取っ手を手前に引き、棚の扉を開く。

そこにはあるはずの皿が無かった。

いや、あるにはあった。
しかし皿は棚の脇に追いやられていたので、目につかなかったのだ。

棚の中心の本来皿があるべきはずの場所には、別のものがあった。

それは、膝を腕で抱え込んでそこに顔をうずめ、体を小さく丸めたミカサだった。

真っ暗な棚の中で、膝の間のわずかなスペースから見えるミカサの目は、
ギラギラと無機質な光り方をして、アニをじっと見つめていた。

アニはミカサから目を離さずに、エレンに話しかける。
「宿舎の手洗い場まで手を洗いに行ってきなよ。
手を洗わずにご飯を食べるのは許さないよ」

「手を洗うのはいいけど、別にここの流しでもいいだろ?
なんでわざわざ宿舎まで行かなきゃならないんだよ」

「……あんたがチーハンに思い入れがあるように、
私もチーハンには思い入れがあるんだよ、故郷のこととか色々思い出しちゃった」

「……わかった。手を洗いに行ってくる」

「5分たったら戻ってきて」

「5分でいいのか?」

「それで十分。早く行きな」

エレンは手を洗いに宿舎に行った。
部屋を出るまでエレンは一度もアニのいる方を向かなかった。
アニが泣いていると思ったからだ。

進撃のグルメ

しかし、アニは泣いてなどいなかった。
じっとミカサを睨み返す。

エレンが出ていき、足音が聞こえなくなるぐらいまで離れると、ミカサは口を開いた。
「よからぬことを考えたら前歯をへし折ると言った」

ミカサのその感情のこもっていない、
ただ目的を遂行するだけの機械のような声を聞いて、アニは恐怖した。
それは抗うことのできない本能的なもので、アニはとっさに棚の扉を閉めた。

そして後ろに跳ぶ。

次の瞬間、アニの顔、先ほどまで前歯があった場所にミカサの手があった。

ミカサは、アニの前歯に向かって棚を内側から手刀で貫いたのだ。

アニは勢い余って後ろに跳びすぎて、後ろにあった調理台に背中をぶつけた。

しりもちをつく。

ミカサは手刀でできた棚の穴から、右腕の肘のあたりまでだけ出し、
何かを掴むかのように右手の指を曲げた。

そしてその指の形を保ったまま、右腕だけを穴から出したり引っ込めたりする。
歯を掴んでへし折る動作のデモンストレーションだ。

アニは背中の痛みを我慢して立ち上がり、後ろの調理台を飛び越え、
そのまま台の壁伝いにしゃがみこむ。

爆音。

しゃがみこんだアニの頭すれすれを棚の破片が弾丸のように飛んでいき、
アニの向かいにある壁に突き刺さった。

ミカサが棚を破壊したのだ。

アニは立ち上がって振り返り、ミカサと向かい合う。

ミカサが右手を横に薙ぎ払うと、
ミカサとアニの間に挟まれていた調理台は衝撃で壁に向かって吹き飛んだ。

スペースができる、戦闘開始だ。

ミカサは一瞬でアニの目前まで近づき、そのままの勢いで拳を突き出す。

アニはそれをぎりぎりでかわし、
すかさずライナーの半月板を破壊した蹴りをミカサに繰り出す。

しかしミカサは体をわずかに横にずらすだけでアニの蹴りをいなし、
口にため込んでいた空気を勢いよくアニの顔に向かって吐き出した。

アニ、体を反らしかわす。

ミカサの吐いた鋭利な息はアニの後方の壁に弾痕を残した。

アニはその瞬間、まともに戦って自分に勝ち目がないことを悟った。

何度目かの攻撃をかわされ、ミカサは不思議に思った。
アニは最初の蹴り以降、攻撃をしてこなくなっていた。
しかしそのかわり、アニはミカサの攻撃を完璧にかわしていた。
まるで攻撃を回避することにすべての神経を注ぎ込んでいるかのように。

ミカサの目に、向かいの壁に掛けられていた時計が目に入った。

ミカサは気づいた。アニの顔を見る。

アニは不敵に笑っていた。

アニは待っていたのだ。5分たつのを。

アニはエレンを待っていた。

ミカサは焦りを覚えた。

エレンはこの状況を見たらどう思うだろう。
チーハンのことをあれ程まで愛していたエレンが、
そのチーハンを作ってくれたアニの前歯をへし折ろうとしているミカサを見たら。

ミカサの額を汗が一筋流れる。

アニは不敵に笑っている。

ミカサは急にアニに背を向け、一目散に走り出した。

アニ、とっさにミカサを追う。
その視線の先には、アニが作り、エレンが夢に見続けたチーハンがあった。

「あんた何をするつもり!」
アニが声を荒げる。

ミカサはチーハンのもとにたどり着き、その手前で止まった。

アニの方へ振り返り、目でアニに語りかける。
それ以上近づくな。このチーハンがどうなってもいいのか。

アニはその場で立ち止まった。

「アニ、あなたは今すぐここを離れてどこか遠くへ行って。
このチーハンは私がエレンと一緒に食べる」

「何を言っているんだあんたは。もうチーハンどころの騒ぎじゃないよ。
見てみなよこの調理場を。巨人が通った後みたいだ」

「この惨状はライナーのせいにでもすればいい。私はあなたがうらやましい。
私はチーハンを知っていた。私はチーハンを作れた。
子供のころお母さんに教わったから。
もしエレンが私にチーハンの話をしてくれていたら、私が作ってあげたのに」

「とにかくそのチーハンには手を出すんじゃないよ」

「あなたがここを離れてどこかに行けば、私は何もしない。
このチーハンは私がエレンに口移しで食べさせてあげる」

「あんたがエレンに食べさせても、
そのチーハンを私が作ったっていうのは、エレンは知っているよ。意味ないさ」

ミカサはチーハンが入ったフライパンを持ち、高く掲げた。

チーハンがゲシュタルト崩壊

「やめろミカサ!」

ミカサは振り向いた。アニも声がした方を見る。

「やめてくれよミカサ。」

エレンだった。

ミカサの瞳に涙が光る。

「どうして。どうして私にチーハンのことを話してくれなかったの。
話してくれていたら私は、私は」

「……怖かったんだよ」

「えっ」

「アルミンや母さんには話したさ。でもお前には話せなかった。
その頃の俺はチーハンのことを夢でしか知らなかった。
もしかしたら存在しないかもしれないものだ。妄想だ。
俺はそんな妄想をお前に話して、気持ち悪い奴とお前に嫌われるのが怖かったんだ」

アニはこの激動の中、自分の気持ち悪さを自覚していたエレンに少し驚いた。

何故だろう…
シリアスなのに笑ってる俺がいる

ミカサが口を開く。
「……エレンは子供のころ、
チーハンのことを私に話そうか話すまいか悶々としていたの?」

「まあそうなる」

「顔を赤らめたりして?」

「……まあそういうときもあったかもな」
今のエレンの顔も少し赤い。

「……これはいいことを聞いた。今回はこれで帰る。
アニ、あなたを見逃す。でもそれは今回だけ。次はない」

「待ってくれミカサ!」
エレンがミカサを呼び止める。

「どうしたのエレン」

「どうしてお前はチーハンの作り方を知っているんだ?」

「子供のころお母さんにチーハンの作り方を教えてもらった。
お母さんはチーハンが作れる人がたくさんいる村に昔住んでいて、
その村の人たちはチーハンを広めるために各地に旅立ったと言っていた。
壁の外に行った人もいるという。
エレン、私は帰る。今の私にはおかずがある。熱いうちに処理しておきたい」

ミカサは帰って行った。瓦礫の間をすり抜けて、実に軽やかなステップで。

アニは、ああ今日の夜のミカサは普段よりもうるさそうだなあと思った。

ほとんど割れてしまった皿の中から無事なものを見つけ出し、
その皿の上に完成したハンバーグを乗せ、ハンバーグの上にチーズを被せる。
そしてフライパンの中の煮汁から作ったソースをかける。

ついにチーハンが完成した。

そのあまりの神々しさに、
エレンは食べる前からすでに「ごちそうさまでした」とつぶやいている。

エレンがチーハンに口をつける。

その姿をアニは固唾を飲んで見守る。

エレンは最初こそチーハンのあまりの熱さに声も出せずもがいていたが、
その熱さにもなれると
「おうっ……!おうっ……!」
と言葉にもなっていないうめき声をあげながら黙々と食べだした。

その瞳からは涙を流し、チーハンを食しながらも口角は上がっている。

感想は不要だった。

エレンの全体からにじみ出る雰囲気が、アニが作ったチーハンの美味しさを表していた。

エレンはチーハンをきれいに食べきると、
そのうるんだ瞳でアニをまっすぐに見て、ただ一言「ありがとう」と言った。

なんだろう

別にチーハン食いたくならない

「俺が外の世界に行きたいってこと、アニはもう知っているだろう?」

チーハンを食べ終え、一息ついたエレンは口を開いた。

「ああ、知っているよ。
巨人を駆逐した後、ミカサやアルミンと一緒に外の世界に行って、
塀の中にはない色々なものを見たいんだろ?」

アニの発言を聞いて、エレンはこくこくとうなずく。

「俺、実は外の世界に行きたい本当の理由は、チーハンを探しに行くことだったんだ」

「それ、アルミンに言ったらきっと驚くよ」

「塀の中にチーハンはないと思っていた。
母さんにもアルミンにも、だれに聞いてもそんなものは知らないというし。
それどころか俺は今日までチーハンのことは夢の中でしか見たことはなかった、
実際にあるかどうかも分からなかったんだ。
でもアルミンから外の世界の話を聞いたとき、
もしかしたら外の世界にならチーハンがあるんじゃないかって思ったんだ。
だって外の世界には、海って言われている、
塩でいっぱいの巨大な水たまりがあるらしいんだぜ。
そんなものがあるのに、チーハンがないなんて、もうこの世界は嘘だろ」

「何が嘘なのか、よくわからないけどね」

「でも、今日俺はアニのおかげで、チーハンは俺の妄想の産物ではなくて、
確かにこの世界に存在するものだと知った。
ミカサの話を聞いて、チーハンを作れる人が世界中にいることもわかった。外の世界にも。
この世界にはたくさんのチーハンがある。俺はその全部を食べたい」

エレンは話し終えると、何か覚悟を決めるかのように呼吸を置き、また口を開いた。

「もし俺が巨人を一匹残らず駆逐して、外の世界にも自由に行けるようになったら、
俺と一緒にチーハンを探す旅に出ないか」

「……そうだね。巨人が一匹残らず居なくなったら、ね」

 アニのその言葉を聞いて、どこか張りつめていたようなエレンの表情は緩み、笑った。

「アニには本当に感謝しているんだ。
これからは親しみを込めてアニのことをチーハン神って呼んでもいいかな」

「それはダメ」アニも笑った。

アニは布団の中で寝返りを打った。

ミカサの喘ぎはアニの耳にはもう届いていない。

一緒に料理をした日からアニとエレンの関係は変わった。

特にエレンのアニへの接し方が変わった。

エレンはアニを見つけると、どんなに離れていてもアニのそばまで走ってきて、
その日の食事の話や訓練がうまくいったこと、
男子の間で話題になっていることなどを満面の笑みを浮かべてアニに話すようになった。

そんなエレンの姿を見ていると、
アニはいつも嬉しそうに尻尾を振って飼い主にじゃれつく犬を想像する。

そしてアニは犬が嫌いではなかった。

アニが今被っている布団は、ふいにエレンとの今日の絡みを思い出し、
恥ずかしくて被ったものだ。

どこからか押し殺したような笑い声が聞こえたので、
布団の隙間から外を見てみると、
クリスタがこちらを見てにやにやと笑っていた。

ライナーは調理場を破壊した罪でキースに両脚の半月板を割られた。

おしまい

こんなひどいスレタイ回収は初めてだ



理不尽な(ry
また巨人が出現するんだなぁ…

タイトルの伏線回収強引だなw
しかしこんな時間に読むもんじゃないな
チーハン食べたくなったよ乙

乙。なんだろうこのツッコミが足りてない感じ

良かった >>1は進撃ss他に書いてない?

スレタイとのギャップwwwww面白かった

「アニたんペロペロ(^ω^)」

>>1">http://ssblog614.blog.fc2.com/blog-entry-771.html>>1

>>1人のパクってんじゃねーよクズ

>>58>>59
m9(^д^)プギャー

>>58
どう見てもこのスレじゃねーか

てかそこのサイトに掲載元としてこのスレのリンク貼ってあるじゃねーか

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