ー1972年 コッツウォルズー
妹「あ、流れ星!」
兄「どこどこ!? 見えなくね?」
妹「もう消えちゃったよー。お兄ちゃんはノロマなんだから」
兄「で、願い事はしたのか?」
妹「もちろん! お兄ちゃんとずっと一緒にいられますようにって!」
兄「17の女がする願いじゃねぇな」
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妹「もー! なによー!」
兄「17にもなりゃ、ボーイフレンドの一人や二人いてもおかしくない」
妹「お兄ちゃんは?」
妹「ガールフレンドいるの?」
兄(ギクッ!)
妹「心配しないで、私がお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるから」
兄「いらねぇー!」
ー2020年 とある宇宙船ー
兄「……」パチ
宇宙船『オメザメノヨウデスネ、ゴチョウショクヲヨウイイタシマス』
兄「……あぁ、今は朝だったのか」
兄「こう四方八方闇に囲まれちゃ、体内時計も狂うよ」
兄(故郷を離れ、はや10年……)
兄(地球ではどれほどの時が経っているのだろう)
兄(火星の調査など……やはり参加するべきでは無かった!)
宇宙船『ゴチョウショクガカンセイイタシマシタ』
ウィーンガシャ
兄「またローストビーフにフィッシュ&チップスか。故郷の料理はもういいってのに」
宇宙船『ビーフガソコヲツイテイタノデカワリニシリコンヲシヨウシマシタ』
兄「そうかい、ならフィップスだけいただくよ」
兄「……孤独だ」
妹「お兄ちゃん!」
兄「……あ?」
妹「一人でご飯なんて寂しいじゃない! 私お弁当作って来たんだ」
兄「い、妹? どうしてここに!?」
妹「お兄ちゃんが火星に行ってからホントにサビシカッタンダカラ……』
シュン
宇宙船『ドウデスカ? ホログラムハニテイマシタカ? ニテイマシタラホメテホメテ』
兄「テメーは余計な事をするな」
兄「ホログラムなら、もう見飽きた」
兄「さて、睡眠薬でも飲んで」
兄「寝ますか……」
兄「おい、また寝るから船の舵よろしくな。地球に着いたら教えてくれ」
兄「それと、赤ワインを一瓶」
兄「1960年産の古い奴があるだろう」
兄「眠れない時のヤケ酒用だ」
宇宙船『リョ』
ー1972年 コッツウォルズー
妹「ヘェ~イジュ~ド♪」
妹「ドンメイイッバ~ッド♪」
妹「ふんふんふんふ~ん♪」
兄「ノリノリだな」
妹「ビートルズ大好き!」
兄「もう解散しただろ、どんだけ古い物好きなんだよ」
妹「ところで何の本読んでるの?」
妹「私も読んでみたいなぁ」
兄「やめとけ、お前には到底理解出来ない内容だ」
妹「いいから教えてよぉ」
兄「ウェルズの『タイムマシン』だが、文句あるのか」
妹「あぁ! 古い物好き~!」
兄「これはSF好きって言うんだよ!!」
ガチャ
父「ジェイムズ! ジェイムズはおるかー!」
兄「父さんが帰ってきた。声からして相当飲んでるなー……」
父「うおー! グッドニュースだ!!」
妹「うわ、酒くさ……」
兄「はいはい、無駄話なら他でやってくれよ父さん」
父「ジェイムズ、火星に行ってみたくは無いか」
兄「は?」
期待
父「お父さんNASAに勤めているんだが、小耳に挟んだんだ」
父「NASAが極秘裏に火星有人飛行の初パイロットを募集してるって」
兄「……完全にデマだな」
妹「……だね」
父「おいコラ待てよぉww! 話最後まで聞けよww!」
兄「妹、父さんをベッドルームまで運んでくれ」
兄「酔っ払って、NASAがイギリスにあると思ってる」
妹「アイアイサー!」
父「ちょっおまww話聞けってww」
ー2020年 とある宇宙船内ー
兄「ふぁ~よく寝た」
兄「地球にはまだ着いていないのか?」
宇宙船『マダデス。ツキノマヨコヲツウカシタバカリデス』
兄「ふぅん、中々微妙な位置だな」
宇宙船『ソレヨリ、ソウトウウナサレテオリマシタガ』
兄「……故郷の夢を見ていた」
兄「父さんが酔っ払って、俺に火星調査の話を持ちかけた時の夢さ」
兄「当時は全く信じられなかった」
兄「でも、あの後NASAが本気で火星調査のパイロットを探してること知ってさ」
兄「死に物狂いで勉強したよ。幸い理系脳だったから、専門用語がスラスラ頭の中に入ったけど」
兄「火星に行ってからの10年は……まさに地獄だった。あの時はお世話になったな」
宇宙船『エヘヘ///』
兄「そうだ、ワインで一杯飲ろうじゃないか。チーズ出してくれ」
宇宙船『ワタシハノメマセンガ』
兄「話し相手になってくれるだけで良い。退屈で死にそうだ」
兄「おっ……」
宇宙船『マドノホウニカケヨッテイカガナサレマシタカ』
兄「見ろよ、地球が見えるぜ!」
兄「綺麗だ……澄み切った青……やっぱガガーリンの言った事は間違って無かったんだ」
宇宙船『ガガーリンハチキュウハアオカッタトホントウハイッテイマセンヨ』
兄「……」
宇宙船『ナイテイルノデスカ?』
兄「今頃あいつ、何してるんだろうな」
兄「もう死んじまってるのかな」
宇宙船『アイツトオッシャリマスト……ヤハリイモウトサン?』
兄「そうさ……」
兄「妹ったら、出発寸前まで俺にすがりついてさ」
兄「行かないで、行かないでって」
兄「全く、大袈裟過ぎるんだよ」
兄「さて、最後の一眠りだ。大気圏突入になったら知らせてくれ」
兄「……今までありがとう、礼を言うよ」
宇宙船『コチラコソ、ゴシュジンニツカエラレテシアワセデシタ』
宇宙船『ブジニイモウトサンニオアイデキルコトヲ、ココロヨリオイノリモウシアゲマス』
兄「……じゃあな」
ー1972年 コッツウォルズー
妹「……どうしても行っちゃうの?」
兄「折角火星に行けるチャンスを得たんだ。今行かなければ多分一生後悔する」
妹「でも、長い間家を留守にするんでしょ?」
妹「それって……お兄ちゃんに会えないってことだよね?」
兄「どうした、いつになく沈んでるな。満面の笑みで『行ってらっしゃい!』とでも言うと思ってたのに」
兄「心配すんな、2、30年したら大手を振ってただいましてやるよ」
父「そうだ! パーティーの準備もしておかないとな! ローストチキンにコーラに……」
兄「父さんの手料理か。いつか食ってみたかったんだ」
父「戻った時のお楽しみだ。腕によりをかけて作ってやるぞ!」
兄「じゃ、行ってくる。妹も元気にしておけよ」
父「お前が無事に帰ってくることだけを祈ってるぞ」
父「立派になったな、息子よ」
兄「あぁ……」
ガシッ
兄「い、妹!?」
妹「絶対、絶対帰って来てね。待ってるから」
妹「皺くちゃのお婆ちゃんになっても……ずっとお兄ちゃんを待ってる」
妹「私におかえりを言わせて」グス
兄「はいはい、分かったよ。でも」
兄「戻ったら棺桶が待ってました、なんてのは無しだぞ」
妹「……うん」
プーップーッ
兄「……む」パチ
兄「大気圏突入の準備にかかるか」
兄「耐熱パネルに不安があるが、こんなもので大丈夫だろう」
兄「妹……兄さんは今帰るぞ」
兄「早くお前の元気な顔が見たい」
宇宙船は大気圏内に突入した。
不安は的中した。
耐熱パネルがどんどん剥がれていく。
船内にもボヤが発生し始めた。
兄「畜生! やはり駄目だったか!」
兄「このまま……燃え尽きるのか?」
兄「家族にも会えず……俺は……」
視界に白い光が広がった。
兄「ここは……?」
兄「何故俺は自分の家の前に……」
兄「もしや、帰って来たのか?」
家の扉が開き、少女が飛びついて来た。
妹「お兄ちゃん! お兄ちゃんが帰ってきた!」
兄「妹!? どうしてお前……」
妹「おかえりなさい、お兄ちゃん。もう、待ちくたびれちゃったよ」
兄「……」
兄「遅くなってすまない」
兄「……ただいま」
妹「寂しかったよぉ……」
兄「父さんにも伝えなくちゃな」
妹「そうそう!」
妹「早く家に戻ろうよ!」
妹「お父さんとお母さんがご馳走作ってお兄ちゃんの帰りを待ってるから!」
兄「え? 母さんも!?」
父「おおジェイムズ! 戻ったか!」
父「随分逞しくなったな!」
兄「父さんは老いぼれちゃったね」
母「ジェイムズ……火星に行ったんですってね。向こうでも怪我は無かった? あなたったらすぐ目を離したら……」
兄「母さん……母さん……!!」
妹「あぁ! お兄ちゃん私にもしがみつきなさいよぉ!」
父「ははは、まるで子供みたいだな」
母「さぁ母さんに話しておくれ……火星でのことを……」
暖かい光に包まれ、安堵と喜びの涙に咽びながら、兄は宇宙へ行った話を家族に話したのだった。
ー2020年 東京ー
女「あ、流れ星!」
男「どこどこ!? 見えなくね?」
女「もう消えちゃったよー。男君はノロマなんだから」
男「で、願い事はしたのか?」
女「もちろん! 男君とずっと一緒にいられますようにって!」
男「ああ、ずっと一緒にいような」
おしまい!
乙
結構好きだ
乙乙!
面白かった!
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