男「ゾンビと姉と妹と」(166)
妹「お兄ちゃん、起きて起きて」
男「zzz……」
妹「起きてってば」
男「ん……」
妹「おはよう」
男「今日は日曜だろ……もうちょっと……」
妹「緊急事態なんだよ」
男「ふーん……おやすみ……」
妹「寝るな!」
男「まだ外暗いじゃないか」
妹「今二時」
男「で、なんだよ緊急事態って」
妹「外見て外」
男「……こんな時間にたくさん人がいるな」
妹「どうもねーあの人ら皆アレっぽいの」
男「アレ?」
妹「ゾンビ」
男「ゾンビ!?」
妹「お兄ちゃん、さっきの聴こえなかった?」
男「さっき?」
妹「私今日寝付けなくって部屋で漫画読んでたんだよ」
男「寝付けないときに漫画読むのよくないぞ」
妹「話の腰折らないで。 で、グダグダしてたらジジイが外出る音が聴こえてきたの」
男「この時間だとどうせ女のとこだろうな」
妹「その直後! クソジジイの重低音の悲鳴が!!」
男「え」
妹「私の部屋玄関側じゃん? 窓の外見たらさ、食われてんの」
男「く、食われてるって」
妹「ジジイが」
男「ひゃー」
妹「グロかった」
男「全く気付かなかった……」
妹「で、その後すぐに台所行ってさ」
男「包丁取りに行ったのか?」
妹「コーヒー淹れたんだよ」
男「冷静!」
妹「まぁその頃にはだいぶ眠たくなってたからさ、寝ぼけてるのかもって思ったんだよ」
妹「で、コーヒー飲みながら窓の外見たら、やっぱりジジイを貪る女性の姿が」
男「まぁ女に食われて死ぬんだったら親父も本望だろ」
妹「その後しばらく外眺めてたんだけどさ、外フラフラしてる人が結構いて、皆全身なんかドロドロしててさ」
妹「あぁ皆ゾンビになっちゃったんだーって」
男「親父が食われたの何時くらい?」
妹「十二時くらい」
男「早く起こせよ」
男「とりあえず俺にもコーヒー淹れて」
妹「はいよー」
妹「どうぞ」
男「サンキュ」
妹「これからどうしようねー」
男「携帯もネットもダメだった。 日本終わったかな」
妹「日本どころか人類終わったかもね」
男「なんで俺たちだけ平気だったんだろうな」
妹「あれじゃない? バイオハザードの主人公がTウイルスの抗体持ってるみたいにさ」
男「俺達も抗体持ってるって?」
妹「ジジイも無事だったんだし、もしかしたらジジイの家系は抗体持ってるってことなのかなーと」
男「俺達は親父のおかげで助かったわけか」
妹「なんかそれヤだな」
男「そもそもこれって病原体によるものなのか?」
妹「知らないよそんなの」
バンバン!
男・妹「」ビクッ
男「まさか……」
妹「こ、ここ二階だよ……」
バンバン!バンバン!
男「……」
妹「……」
?「開けて!!」
男・妹「!」
男「幼馴染! 生きてたのか!!」ガラガラ
幼馴染「な、なんとか……」
妹「良かったぁー!!」
幼馴染「お、お父さんとお母さんが変なの!!」
男「ドロドロ?」
幼馴染「ドロドロ!」
妹「とりあえずコーヒー飲む?」
幼馴染「あ、いただくね」
━━
━━━
━━━━
男「こういうわけで、誰も彼もがゾンビになってしまったっぽい」
幼馴染「ふーん」
妹「平然としてるねー」
幼馴染「まぁね」
男「俺達が言うのもなんだけど、辛くないのか? 両親がいきなりゾンビになったなんて」
幼馴染「いや、むしろ清々した。 大っ嫌いだったから」
男「え、嘘」
幼馴染「私さ、お父さんに虐待されてたんだ」
男「は!?」
妹「えっ!?」
幼馴染「で、お母さんは見て見ぬふり。 週に二日は殴られてたねー」
男「……ごめん。 気づけなくて」
幼馴染「いや私が隠してたんだからしょうがない。 我ながら完璧な隠蔽だったと思うよ」
妹「……」
男「……言って欲しかったよ」
幼馴染「あ、別に男を頼りにしてなかったわけじゃないんだよ? でも私は今の日常が壊れるのが嫌だったの」
男「へ?」
幼馴染「そりゃ解決しようと思えばいくらでも解決する手段はあったよ。 私ももう18だもん」
男「俺の二個下だからそうなるな」
妹「私の一個上だからそうなるね」
幼馴染「18にもなれば、それぐらいの知恵はついてる。 でも私は男の家の隣に住んでいたかったの」
男「は?」
幼馴染「問題を表面化させちゃったらあの家に住めなくなっちゃうでしょ。 だから私は全力で隠してたの」
男「……」
幼馴染「男と妹ちゃんが生きてて本当に良かった。 私はキミたちさえいれば生きていける」
男「……」
妹「……」
幼馴染「なんで私達だけ無事なんだろうね」
男「……」
妹「……ま、まさかね…………」
男「……な、ないない!」
妹「だ、だよね!」
幼馴染「?」
男「空が白んできたな」
妹「朝かー」
幼馴染「あ、じゃあ私朝ごはん作るね」
妹「いいよ、私作るよ」
幼馴染「じゃあ一緒に作ろうよ!」
妹「お、じゃあそうしよっか!」
男「仲いいね」
妹「お兄ちゃんも一緒に作る?」
男「いや、いい」
幼馴染「ここは朝パンだったよね」
妹「うん」
幼馴染「納豆パンって食べたことある?」
妹「え、なにそれ」
幼馴染「食パンにマヨネーズ塗って納豆乗せるんだけど」
妹「あ、美味しそう! それやってみよう!」
男「……穏やかだなー」
妹「出来たよー」
幼馴染「召し上がれ!」
男「朝から多すぎだろ……」
妹「いやーなんか楽しくなっちゃって!」
幼馴染「今日は大変な一日になるだろうし、体力つけなきゃ!」
男「いただきます」
妹「いただきまーす!」
幼馴染「いただきます!」
男「とりあえず今日やることを考えた」
妹「うん」
男「衣食住の確保がまず最優先だ」
幼馴染「うんうん」
男「とりあえず着るものについてはそんなに慌てなくていい」
妹「だね」
男「問題は食と住だ。 このままだと食べ物もまともに生活出来る場所も無くなる」
妹「え? 住むとこはこの家があるじゃん」
男「電気ガス水道がいつまでも来ると思うか? 多分近いうちに来なくなる」
妹「あーそれらが無くなったらちょっとしんどいねー」
男「発電機とかが要るんだろうが、俺はその辺の知識は全く無い」
妹「私も無い」
幼馴染「私も」
男「というわけでとりあえず知識を得るために本屋へ行く」
幼馴染「でもどうやって? 外にはたくさんゾンビがいるのに」
男「親父の車がある。 免許は無いが、ATだしなんとかなるだろ」
幼馴染「え、男免許持ってないの?」
男「金無かったからな」
幼馴染「あー免許のお金はお父さんに出してもらえなかったんだね」
男「免許の金どころか生活費も学費も出してもらってないぞ」
幼馴染「え?」
妹「全部私達のバイト代と奨学金で賄ってる」
幼馴染「え、嘘」
男「親父は得意げに養おうとしてたけどな。 でもその金は全部女に貢いでもらった金だから」
妹「この家も車もぜーんぶいろんな女の人のお金で買ってるんだ」
男「親父は天才ジゴロだからな。 俺達はその金と縁を切りたくてな」
妹「中学生から新聞配達とかしてなるべくジジイの世話にならないようにしてたんだ」
男「まぁ育ててもらったことには感謝してるよ」
妹「それと好き嫌いは別だけどね」
幼馴染「あーわかる」
男「ま、とりあえずこれ食ったら車で本屋でも行ってくるよ」
妹「え、まさか一人で?」
男「もちろん」
幼馴染「そんなのダメっ!!」
妹「私達も行くよ!」
男「は? ダメに決まってるだろ」
妹「一人で行くなんてダメに決まってるだろ!!」
男「俺はお前らを連れてくつもりはないからな」
妹「それならお兄ちゃんも家から出さない!!」
男「わがまま言うなよ」
妹「どっちがわがままだ!」
男「大丈夫だって。 車だし」
妹「運転したことないくせに! それに絶対本屋にだってゾンビいるよ!!」
男「武器持ってくさ」
妹「あぁもう!!」
幼馴染「これなーんだ?」
男「!」
妹「! 車のキーじゃん!」
男「……それどっから持ってきた」
幼馴染「男のお父さんのポケットから」
男「外出たのか」
幼馴染「うん」
男「……危ないことするなよ。 まぁサンキュー、取ってきてくれたんだな」
幼馴染「渡さないよ」
男「……は?」
幼馴染「一人で行くって言うならこれ飲み込んじゃおうかなー」
妹「いいぞー!!」
男「あ、アホなこと言うな。 早く寄越せ」
幼馴染「私達も連れてってくれる?」
男「だ、ダメだ」
幼馴染「じゃあ飲む」
男「そ、そんなことしたらお前らも困るぞ」
幼馴染「私は別にここで心中したっていいんだよ。 妹ちゃんはどう?」
妹「私も全然おっけー!!」
男「……じゃあ車無しで本屋向かうかな」
妹「あ、私も行くー!!」
幼馴染「私もー!」
男「……あぁクソ! わかったよ!! 一緒に行こう!!」
妹「やったぁ!」
幼馴染「そう来なくちゃ!!」
男「……じゃあ人数分の武器揃える為に先にホームセンター行くか」
妹「そうだね」
幼馴染「バールのようなものが欲しい。 鈍器系がいいな」
男「とりあえず初期装備を揃えよう。 バットが一つあったな」
妹「あとは包丁ぐらいかなー」
幼馴染「じゃあ男がバット持って、私達は包丁で」
男「……よし、今だ!」
妹「よっしゃー!」
幼馴染「GO!GO!!」
男「お前らでかい声出すな!」
男「ふぅ」
妹「音楽かけてよ」
幼馴染「スピッツがいいー」
男「緊張感無いなぁ」
男「じゃ、コメリへ向かいまーす」
妹「ムサシがいい」
男「どっちでもいいだろ」
妹「私がムサシでバイトしてるの忘れたの? バールまで案内出来るよ」
男「あ、そっか」
妹「というわけでムサシまで」
男「はいよ」
男「お、ガソリン満タンだ、ラッキー」
妹「ガソリンも確保したいところだねー」
男「ではしゅっぱーつ!」
妹「おー!」
男「……あれ? クリープしない」
妹「お兄ちゃんサイドブレーキ引きっぱなし」
男「あ、本当だ」
妹「しっかりしてよね」
男「おお……なんか感動」
妹「意外とゾンビ少ないね」
男「案外家から出られない奴が多いのかもな」
妹「あ、お兄ちゃん赤信号だよ」
男「信号無視楽しいー!」
妹「楽しいー!」
男「さっきから幼馴染が静かだな」
妹「あ、寝てる……」
男「疲れたんだろうな。 つーかなんでお前は平気なんだ。 昨日から寝てないだろ」
妹「私タフだから」
男「俺は眠い」
妹「居眠り運転はやめてね」
男「着いた」
妹「すごく時間かかったね」
男「仕方ないだろ、初めてなんだから」
妹「駐車は上手く出来るかなー?」
男「めんどくさい、この辺でいいだろ」
妹「あ、自信ないんだ」
男「必要がないだけだ!」
妹「幼馴染ちゃーん、起きてー」
幼馴染「ん……着いたの?」
男「おう」
妹「初めて車運転する人の助手席でよく寝られるね」
男「それだけ俺を信頼してるってことだ」
幼馴染「男ビビリだからまぁ事故ることは無いかなと思って」
男「ほっとけ」
ゾンビ系のSSすき
支援
男「じゃ、行くか」
妹「なんかワクワクするね!」
幼馴染「私もうちょっと寝てていい?」
男「駄目」
妹「店に眠気覚ましのガムあるからそれ食べなー」
幼馴染「んー……」
男「早く行くぞ」
妹「ラジャ!」
幼馴染「りょーかーい……」
男「……やっぱいるな」
妹「そのガム美味しい?」
幼馴染「辛い」
男「別ルートで行くか……」
妹「私にもちょうだい」
幼馴染「はい」
妹「ありがとー」
妹「!! ゲホッゲホッ!」
男「あ、こら!! でかい声出すな!」
妹「辛すぎだよ!! よく食べられるね!!」
幼馴染「あ、バレた」
男「逃げろ!!」
妹「……」
男「……」
幼馴染「……遅っ!!」
男「……まぁ距離は一応とっとこう」
妹「あ、よく見ればあれバイトの先輩だ」
男「え、そうなの?」
妹「変わり果てちゃったなぁ……」
男「悲しい?」
妹「別に」
男「ドライだなぁ」
男「意外とゆっくり物色出来そうだしいろいろ揃えてくか」
妹「そうだね」
幼馴染「台車取ってきたよー」
男「またお前は単独行動して……」
妹「とりあえず家にバリケード張りたい」
男「そうだな。 いくら足が遅いって言っても現に親父は殺されてるわけだし、安全地帯は欲しいな」
妹「あとここ水やお菓子も売ってるから持っていこう」
幼馴染「あ、このお菓子新しい味出てたんだ!」
妹「それあんまり美味しくなかった」
男「緊張感!」
妹「じゃあお兄ちゃん台車お願い」
男「しゃーねーな」
幼馴染「私達はカートでシャーっとやろう!」
妹「お、いいねいいね!!」
男「気をつけろよ」
幼馴染「じゃあ妹ちゃん先に乗っていいよ。 私押すから」
妹「私先でいいの?」
幼馴染「いいのいいの。 私の方が歳上だから」
妹「じゃあお言葉に甘えて!」
幼馴染「それー!」
妹「きゃー!! 楽しいー!!」
男「……いいなぁ」
幼馴染「!!」
妹「うわぁ!!」
?「きゃあ!!」
ガシャーン
男「おい! 大丈夫か!?」
幼馴染「ご、ごめん妹ちゃん! 大丈夫!?」
妹「へ、平気! それより今の人じゃなかった!?」
幼馴染「やっぱり!? 大変!!」
男「え、マジで!?」
妹「やっぱり人だ! スベスベしてる!!」
幼馴染「ご、ごめんなさい!! 大丈夫でしたか!?」
妹「ごめんなさい!!」
?「だ、大丈夫です……当たってないので……」
男「! 君は……!」
?「! せ、先輩!?」
男「後輩ちゃんじゃないか! 無事だったのか!!」
後輩「せ、先輩こそ無事だったんですね!!」
妹「え、何知り合い?」
幼馴染「可愛い娘……」
男「なんでこんな所に!」
後輩「こういう事態の場合ホームセンターに篭もるのがセオリーだと思いまして……」
男「そんなセオリー初めて聞いた」
妹「え、常識でしょう」
幼馴染「常識だよね」
男「……まぁとりあえず、君が生きてて良かった」
後輩「……」ウルッ
男「……怖かったね」
後輩「先輩が生きてて……良かった……!」ポロポロ
男「一人で怖かったね。 もう大丈夫」
後輩「怖くはありませんでした……先輩が生きてたのが嬉しくて……!」
男「怖くなかったのか」
後輩「はい」
男「……皆図太いなぁ」
男「……君の家族は」
後輩「ダメでした」
男「……ケロッとしてるね」
後輩「あれだけ悪いことやってたんです。 生き残れるわけがない」
男「……どこの家も複雑だなぁ」
後輩「お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう。 どうか地獄で罪を償ってください」
男「何やってたんだ……」
妹「ねぇねぇ、二人だけで話してないで私達にも紹介してよ」
男「あぁ悪い。 この娘は俺の高校のときの後輩。 二個下だから幼馴染とタメだな」
後輩「後輩といいます! よろしくお願いします!」
妹「私はお兄ちゃんの妹の妹です。 よろしくお願いします!」
幼馴染「私は男の隣に住んでる幼馴染といいます。 よろしく!」
後輩「よろしくお願いします!」
幼馴染「タメなんだし敬語やめようよー」
男「あ、この娘誰にでも敬語なんだ。 気にすんな」
幼馴染「そうなの」
男「じゃ、紹介も住んだところで物資調達再開するか。 お前らカート禁止な」
妹「えー」
妹「四人いるんだし、ツーマンセルで手分けしようよ」
男「俺の目が届かないのはダメだ」
妹「大丈夫だって、何かあったら大声出せば聞こえるでしょ」
男「うーん……」
幼馴染「今日はやることいっぱいあるんでしょ。 なら私も二手に分かれてさっさと済ませた方が良いと思うな」
男「……じゃあ何かあったら大声出すんだぞ」
妹「ラジャ! 行きましょー後輩さん!」
男「あ、こら勝手に……」
妹「じゃあ幼馴染ちゃんと私が組む? それとも幼馴染ちゃんと後輩さん?」
男「……幼馴染が俺と別行動とるのは不安だな」
幼馴染「なにそれ」
妹「でしょ? じゃあこの組み合わせしかないじゃん」
男「そうだな。 気をつけろよ」
妹「うん!」
幼馴染「……」
期待
━━
━━━
━━━━
妹「あ、ゾンビいた。 こっちから行きましょー」
後輩「はい」
妹「お兄ちゃんってさ、部活も生徒会も何もやってなかったですよね」
後輩「そうですね」
妹「バイトで忙しいですから。 後輩さんはお兄ちゃんとどこで知り合ったんですか?」
後輩「委員会で。 委員会は強制参加でしたから」
妹「あーなるほどー」
後輩「でも先輩、委員会で一緒の人以外にも学年問わず女の子の知り合いはたくさんいましたよ」
妹「え、嘘」
後輩「先輩自身は他学年と交流するコミュニティに属していないんですが、何もしなくても向こうから来るんですよ」
妹「……と言うと?」
後輩「モテるんですよ、先輩。 先輩に声をかける女の子は跡を絶ちません」
妹「……なんかムカつくなぁ」
後輩「先輩のそういうエピソードは枚挙に暇がありません。 でも特定の女の子と付き合ったことはないんですよね」
妹「……ますますムカつく」
後輩「噂では、好きな女の子がいるとかいないとか」
妹「え」
後輩「……どうなんですかね」
妹「……」
妹「……後輩さんは、お兄ちゃんのことどう思ってるんです?」
後輩「えっ」
妹「好きですか?」
後輩「え、えっと……」
妹「……」
後輩「! 危ない!!」
妹「!!」
後輩「は、早く距離をとりましょう!」
妹「び、ビビったぁ……」
後輩「か、角は気をつけた方がいいですね。 出会い頭が怖い」
妹「ありがとうございました」
後輩「いえいえ」
妹「で、さっきの話なんですけど」
後輩「……あ、カロリーメイトだ。 妹さんは何味が好きですか?」
妹「……フルーツ味が一番好きです」
後輩「いいですよねーフルーツ味!」
━━
━━━
━━━━
男「……えーと、あれとこれと」
幼馴染「あ、ネイルガン。 こういうのあった方がいいよね」
男「そうだな。 そんでそういうのを使い続ける為にも発電機が欲しい」
幼馴染「発電機を使うためにもガソリンを確保したいねー」
男「そうだな」
幼馴染「……」
男「……」
幼馴染「疲れた。 よいしょ」
男「あ、こら、まだ荷物載っけるんだから」
幼馴染「そのときになったら退くよ」
男「ったく……重てぇ」
幼馴染「重くない!」
幼馴染「可愛い娘だねー後輩ちゃん……」
男「そうだな。 学校でも絶大な人気を誇ってたよ」
幼馴染「どこで知り合ったの?」
男「委員会」
幼馴染「なるほど」
男「あの娘に振られた男は枚挙に暇がない」
幼馴染「誰とも付き合わなかったの?」
男「らしい。 噂では好きな男がいるとかいないとか」
幼馴染「……男はどうなの? 彼女のこと、好きなの?」
男「なんでお前にそんなこと言わなくちゃなんないんだ」
幼馴染「そ、そりゃそうだけどさ……」
男「……俺ちゃんとした男友達すらいないんだけど、彼女とは何故か仲良かったなぁ」
幼馴染「……」
男「要は数少ない大事な友達だな。 そういう意味では大好きだ」
幼馴染「……私は?」
男「お前も大事な友達だよ。 言わせんな恥ずかしい」
幼馴染「……男って馬鹿なんじゃない?」
男「ほっとけ」
幼馴染「……こんな奴がモテるなんて間違ってるよ」
男「悔しいか」
幼馴染「私も割りとモテるもん」
男「まぁ見てくれだけはいいもんな」
幼馴染「失礼な。 私の魅力を書き出せばノート一冊埋められるよ」
男「『見てくれ』『ルックス』『ビジュアル』」
男「……ダメだ。 圧倒的に語彙が足りない。 お前すげーな」
幼馴染「……デスノートが欲しい」
男「……というか、やっぱり生き残りはいるんだな」
幼馴染「そうだね。 なんか勝手に私達以外に生き残りはいないと思ってた」
男「……今の今までその考えが無かったのが不思議でならない。 本来なら知り合いの安否なんて真っ先に気になることなのに」
幼馴染「なんだかんだで私達も混乱してたのかねー」
男「……うん。 この後は皆の知り合いの安否を確かめに行こう」
幼馴染「そうだね」
男「……早く行こう」
幼馴染「? うん」
━━
━━━
━━━━
男「よし、だいたい積めたな」
妹「隊長!」
男「なんだ」
妹「我々が乗るスペースがギリギリです!!」
男「……そうだなぁ」
後輩「ご、ごめんなさい」
男「いや謝ることないよ。 とりあえずあっちからゾンビが近づいてきてるから無理矢理乗り込んでくれ」
幼馴染「誰が助手席乗るかじゃんけんしよう」
妹「よーし! さーいしょーはグー!」
男「早くしろよ」
男「えーさっきも言ったようにこれから我々は生き残りを探しに行きます」
妹「ですが隊長! これでは生き残りがいても連れていけません!!」
男「だから先に大きい車を調達します」
後輩「あの、それならうちに大きめのバンがあります」
男「本当? それ使ってもいい?」
後輩「はい」
男「ありがとう! じゃあ案内してくれる?」
後輩「はい」
支援
男「だいぶ運転慣れてきた」
妹「あんまり調子に乗らないでよね。 危ないから」
幼馴染「ねーねー音楽かけていい?」
男「……ボリューム落としてな」
後輩「あ、次の交差点右です」
男「右だね」
後輩「ここです」
男「デカッ!!」
妹「ひゃー……」
幼馴染「すごい……」
男「あ、ごめん……思わず……」
後輩「いえいえ。 こっちです」
男「こ、高級車がずらり……」
後輩「鍵はこっちにあります」
男「バンだけ異彩を放ってるな……」
妹「お、お兄ちゃんお兄ちゃん」
男「なんだよ」
妹「刺青ゾンビだ……」
男「……怖さの二乗だな」
後輩「じゃあ荷物移しちゃいましょうか」
男「う、うん、そうだね」
妹「……」
期待
ゾンビな状況下のホームセンターとショッピングモールは癒し
支援
男「……トランク開けても大丈夫?」
後輩「はい。 普段からそんなヤバいもの積んでるわけではないので」
男「……じゃあ荷物移すか。 ほらお前らも手伝え」
妹「お兄ちゃーん。 幼馴染ちゃん車で寝ちゃってる」
男「……どうりでさっきから見ないと思った。 荷物と一緒にトランク詰めとけ」
妹「幼馴染ちゃーん、起きてー。 東京湾に沈められるよー」ペチペチ
男「さて、これから皆の知り合いの安否を確かめに行くわけですが」
妹「うん」
後輩「はい」
幼馴染「眠い……」
男「誰の知り合いから当たろう?」
妹「私家の場所知ってる友達とかいないや」
幼馴染「私も……」
男「お前ら友達いないんだな……」
妹「いないわけじゃないよ。 家まで遊びに行く程親しい友達がいないってだけで」
幼馴染「zzz…」
男「寝んな!」
後輩「私友達いません」
男「……そうか」
男「……まぁ俺もほとんどいないんだけど」
妹「ほとんど、ってことは少しはいるの?」
男「一人だけ」
妹「じゃあその人のところ行こうよ」
男「隣県になるんだけどいいか?」
後輩「あ、じゃあ高速乗りましょうよ高速!」
妹「ドライブだね!」
男「……世界の終末なのにほんわかしてんなぁ」
男「……高速はダメだな」
妹「車がゴロゴロ転がってる……」
後輩「下道でも事故ってる車ちらほらありましたもんね……予想すべきでした」
男「深夜の田舎でもやっぱり高速は沢山走ってるもんだなぁ」
妹「行けるとこまで行ってみようよ」
男「別にここで引き返してもいいけど」
妹「でもせっかく来たんだから少しくらい走りたい」
男「トラックでも横転してたら完全に行き止まりだぞ?」
妹「そしたらそのときに引き返そう」
男「……まぁじゃあそうするか。 通れる限りは高速の方が早く着くだろうしな」
おつ
男「お、海が見えてきた」
妹「おー絶景!」
後輩「綺麗……」
幼馴染「あ、人魚!!」
男「え!?」
妹「……寝言だね」
男「ファンシーな夢見てんな……」
幼馴染「ようやく七合目……」
男「山登ってんのかよ!」
妹「人魚は!?」
幼馴染「もうお腹いっぱい……」
妹「七合目ってご飯か!!」
男「食いすぎだ!!」
後輩「……ふふっ」
後輩「面白いですね」
男「あ、そう?」
後輩「こんなときなのに、こんなに楽しいと思うのは不謹慎ですかね」
男「それを不謹慎だと思う奴はもうこの世に一人もいないかもね」
妹「私達は不謹慎なんて思わないしね! いつだって楽しいのが一番!!」
後輩「……そうですね!」
男「多少の緊張感は持って欲しいけどな」
妹「あ、サービスエリア! 寄ろうよ!」
男「帰りにな。 こう見えても急いでるんだ」
妹「あ、そっか。 お兄ちゃんの知り合いの安否を確かめに行くんだったね」
男「まぁゾンビになってればそれまでだし、ゾンビになってなかったとしたらあの人はゾンビなんかに殺されないだろうし」
男「だから急いだって意味は無いんだけど。 まぁのんびり急ごう」
妹「変な日本語」
後輩「ご、ごめんなさい、私へらへらと……」
男「ヘラヘラしててもピリピリしてても車のスピードは変わんないよ。 どうせならゲラゲラ笑いながら急ごう」
後輩「……はい!」
幼馴染「あははははは!!!」
男・妹「」ビクッ
男「……こいつ寝言多すぎだろ」
>>58
だか、逆に危険度高いけどな
男は天然ジゴロが遺伝しちゃった感じか
妹「今から会いに行く人って誰? 私の知らない人?」
男「うん、お前は会ったこと無いな。 俺の先輩」
妹「大学の?」
男「うんにゃ、高校のときの。 2個上だな」
後輩「あ、じゃあ私にとっても先輩なわけですね」
妹「……仲良かったんだ?」
男「うーん……まぁ」
妹「生きてるといいね」
男「多分生きてると思う」
妹「自信ありげだね?」
男「なんとなくあの人は死ぬ気がしない」
男「確かこのICで降りるんだったな」
妹「なんだかんだで最後まで走れたね」
後輩「なんだか結構街ですねぇ」
男「ゾンビも多いな」
妹「そして車も多い」
男「走りにくいなーくそ」
男「えーと、この辺のハズ」
妹「! お兄ちゃん、そこのコンビニ!」
男「あ、あのバイクは先輩のだ」
妹「店内にツルツルの女の人がいる!」
男「やっぱり生きてたな。 おい、幼馴染起こせ」
妹「起きてー幼馴染ちゃーん」
幼馴染「ん……」
男「あ、向こうもこっちに気付いたみたいだ。 降りるぞ」
幼馴染「ふぁー……ここどこ?」
男「お久しぶりです、先輩」
先輩「動いてる車がいると思ったらキミか。 久しぶり」
男「先輩なら生きてると思いました」
先輩「私もキミなら生きてると思ったよ。 この後私もキミのところへ行こうと思ってた」
先輩「たくさん連れがいるね」
男「はい。 紹介します」
男「これが俺の妹」
妹「妹といいます。 初めまして!」
男「こいつがうちの隣に住んでる幼馴染」
幼馴染「幼馴染です。 初めまして!」
男「この娘が高校のときの後輩です」
後輩「後輩といいます。 初めまして」
先輩「皆さん初めまして。 私は先輩といいます。 どうぞよろしく」
ピー
先輩「お、ちょうど揚がったな」
男「何の音です?」
先輩「フライヤー使ってホットスナック揚げてたんだ。 皆で食べよう」
幼馴染「本当ですか!? 嬉しい!」
男「よくまぁこんなところで悠長に揚げ物してますね」
先輩「だって食べたかったんだもの」
男「コンビニは自動ドアですよ? ゾンビ入ってくるでしょう」
先輩「追っ払った」
男「どうやって?」
先輩「秘密」
男「あ、俺揚げ鶏もらいますね」
幼馴染「私ホットドッグ!」
妹「私唐揚げ!」
後輩「ポテトいただきます」
先輩「うん。 じゃんじゃん揚げるからどんどん食べてね」
妹「ありがとうございます!」
男「米食べたいな。 おにぎり取ってこよ」
後輩「あ、私サラダ食べたいな……」
先輩「よし、パーティーにしよう! ドア閉めてくる」
男「自動ドアの止め方分かるんですか?」
先輩「うん」
幼馴染「あ、こっちこっち」
妹「?」
幼馴染「商品お預かりいたします」
妹「レジやるの?」
幼馴染「だってやったことなかったんだもん。 やりたい」
妹「じゃあどうぞ」
幼馴染「108円が一点ー250円が一点ー380円が一点ー」
男「あ、これもお願い」
幼馴染「年齢確認出来るものはお持ちですか?」
男「え、めんどくせぇ」
幼馴染「申し訳ありません。 確認出来るものが無いとお売り出来ない決まりでして……」
男「……はい。 免許証」
幼馴染「恐れ入ります。 430円が一点で合計1168円になりまーす」
男「……」
妹「……」
幼馴染「……」
男「……え、もしかしてお金払うの?」
幼馴染「当たり前じゃん」
男「……はい」
幼馴染「1270円お預かりいたしまーす」
幼馴染「102円のお返しと、レシートです。 ありがとうございましたー」
男「満足した?」
幼馴染「うん!」
男「じゃあ煙草吸ってくるわ」
妹「ここで吸ったらいいじゃん」
男「へ?」
妹「店の中で吸ったらいいじゃん」
男「いや悪いよ」
幼馴染「私はいいよー」
後輩「私も別に構いません」
先輩「あ、私も一服する」
男「……じゃあお言葉に甘えて」
男「……背徳感がやべぇ」
先輩「変な感じだな」
後輩「コーヒー淹れますけど飲みたい人います?」
男「あ、俺欲しい」
先輩「私も頼む」
後輩「はーい」
後輩「砂糖とミルクは?」
先輩「無くていい」
男「俺も無しで」
先輩「え?」
後輩「お待たせしましたー」
男「ありがとう」
先輩「ありがとう」
先輩「……キミ、ブラック飲むようになったんだな」
男「えぇまぁ」
先輩「ふーん」
男「昔先輩が美味しそうに飲んでたもんで俺も飲むようになりました」
先輩「でもキミ『こんな苦いモン飲めるか!』って言ってたじゃない」
男「まぁ当時は。 俺も頑張ったんですよ」
先輩「頑張ってまで飲むもんでもないんだけどな。 何がキミを突き動かした」
男「そりゃまぁ先輩ですよね。 煙草吸い始めたのも先輩の影響です」
先輩「……私はキミにとって良い先輩じゃなかったな」
男「そんなことないですよ。 ブラックコーヒーも煙草も、とても良い嗜好品です。 知れてよかった」
先輩「……そうか」
読みやすいしこういうの好き、支援
そういやスレタイ見て今更きづいたけど姉もいるのか
男以外は全員女なの?
後輩「野菜が売ってたのでフライにしてみましたー」
男「え、どうやって!?」
後輩「え、どうって……フライヤーがありますし、パン粉と卵もあったので」
妹「わー美味しそう!」
幼馴染「食べていい!?」
後輩「はい、どうぞ!」
妹「サックサクだよ!! 美味しい!」
後輩「揚げたてですから……」
幼馴染「……」モグモグ
男「いや揚げたて抜きにしてもこれは……」
先輩「ホント、美味しい。 何も付けてないのに美味しい」
後輩「あ、それは下味を付けてあるので……」
男「はぁー」
後輩「あ、良かったらソースも作ったのでどうぞ」
妹「隙が無いな!」
幼馴染「……」ガツガツ
男「お前黙々と食ってんな」
幼馴染「今ちょっと話しかけないで」
男「……」
男「ふぁー食った食った!」
妹「お腹いっぱい……」
先輩「久しぶりに人間らしい食事をしたよ」
幼馴染「後輩ちゃん! 嫁に来ない!?」
後輩「へ?」
幼馴染「すっごく美味しかった! キミの味噌汁を毎日飲みたい!!」
後輩「あ、え、あの……」
男「やめろ、困ってんぞ」
後輩「あ、あの、私には好きな人がいるので、すみません!」
幼馴染「あ、えっと」
男「ほら、真に受けてる。 後輩ちゃん、今のは冗談だ」
後輩「あ、そ、そうだったんですか?」
幼馴染「ごめんなさい……」
後輩「いえ! こちらこそごめんなさい!」
妹「面白いね、コレ」
男「じゃ、そろそろ行くか」
後輩「散らかしたまま放っておいていいんでしょうか?」
妹「いいでしょー。 どうせ誰も咎めない」
幼馴染「私達五人で汚せるほど地球は狭くないしねー」
男「何その言い回しかっこいい」
先輩「じゃ、またね。 今日は楽しかったよ」
男「え、先輩一緒に来ないんですか?」
先輩「え、うん。 邪魔だろ?」
男「そんなことないですよ!」
妹「そんなことないですよ!」
幼馴染「そんなことないですよー!」
後輩「そんなことないです!」
先輩「そ、そう……じゃあ着いてってもいいのかな?」
男「もちろん!」
先輩「じゃ、私は後ろ着いてくよ」
男「先輩が乗るスペースくらい充分ありますよ?」
先輩「いや、私はこのバイク手放したくないから」
男「気をつけてくださいね」
先輩「キミこそな」
妹「先輩綺麗な人だったねー」
幼馴染「くそー……悔しいけどああいうの憧れる……」
男「お前にゃ無理だ」
幼馴染「うるさい!」
後輩「私も憧れます……」
男「……キミはそのままでいいんじゃないかな」
幼馴染「海が綺麗……」
男「行きは見てなかったもんな」
幼馴染「あ、人魚!!」
男「ここは山じゃないぞ。 海だ」
幼馴染「? 山に人魚がいるわけないじゃん」
男「……」
妹「サービスエリアだ! 帰りに寄るって約束だったよね!」
男「そんな約束したっけか?」
妹「した!」
男「……仕方ないな。 ちょっとだけだぞ」
妹「やったー!」
先輩「どうしたの?」
男「すみません、妹がどうしてもサービスエリア寄りたいって……」
先輩「あぁ、いいよ。 私もサービスエリア好きだし」
妹「よっしゃ、ご当地のおみやげいっぱい取ってくるぞー!」
幼馴染「甘いやつ食べたい!」
男「もうそんなに積めないぞ! ほどほどにな!!」
妹「はーい! 後輩さんもおいでよー!」
後輩「はい!」
男「……緊張感無いなぁ」
先輩「いいじゃん、楽しくて」
先輩「はい、コーヒー」
男「あ、お金出しますよ」
先輩「じゃあ130円その辺に投げ捨てといて」
男「はーい」
先輩「サービスエリアで飲むコーヒーってどうしてこうも美味いんだろう」
男「オアシスで飲む水は美味いもんですよ」
先輩「お、詩人だな。 でも本線が砂漠ってところは賛同出来ないな」
男「細かい所は言いっこなしですよ」
男「……」
先輩「……」
男「……あの先輩、親御さんは?」
先輩「見てきたよ。 ダメだった」
男「そうですか……」
先輩「うん……」
男「……」
先輩「後数日で朽ちて死ぬんだろう。 そう思ったら辛くて、私が殺してきた」
男「……」
先輩「すでに朽ちてるゾンビを何体も見てきた。 あの身体は長続きしない」
先輩「……私は親不孝だろうか、親孝行だろうか」
男「……わかりません」
先輩「……だよね」
男「……」ギュッ
先輩「ふあっ!?」バッ
男「! えっと、あの……」
先輩「わ、私別にもう平気だから!! 慰めてくれなくていいから!」
男「そ、そうですよね!」
先輩「……ありがとう」
男「……ど、どういたしまして」
先輩「……」
男「……」
先輩「うっ……」ポロポロ
男「せ、先輩!?」
先輩「み、見ないで……」ポロポロ
男「あ、あぁ……ごめんなさい!」
先輩「何でキミが謝るの……」ポロポロ
男「そ、その無神経なこと聞いちゃって……」
先輩「人の気遣いくらいわかるよ……ありがとう……」ポロポロ
男「……」
先輩「う……あぁ……」
男「……大丈夫ですか?」
先輩「大丈夫じゃない……」
男「……」
先輩「あ、あの……」
男「はい」
先輩「その、やっぱり手、握ってくれないか……」
男「……はい」
先輩「……う」
先輩「うわああああん……」ボロボロ
━━
━━━
━━━━
男「……落ち着きました?」
先輩「……お見苦しいところをお見せしました」
男「そんなことないですよ」
先輩「……もう気持ちの整理はできたハズだったのに」
男「いくらなんでも早すぎます。 無理に決まってますよ」
先輩「……キミは?」
男「……うちはまぁ、お察しください」
先輩「……」
男「……先輩の家は、いい家庭だったみたいですね」
先輩「うん……大好きだった……」
男「……あの、さっきはああ言いましたけど、きっと先輩のしたことは正しいと俺は思います」
先輩「……」
男「……世の倫理には、もしかしたら外れるかもしれません。 ですが、それを咎める人間はもういません」
先輩「……」
男「あいつらもきっと咎めはしないでしょう」
先輩「……他の誰が咎めなくたって」
男「はい、それこそすぐには解決出来ないでしょう。 でも俺達には幸いにも時間があるんですから」
男「のんびり向き合いましょう」
先輩「……うん」
男「……」
先輩「……」
男「……先輩の煙草、一本くださいよ」
先輩「……じゃあキミのを一本くれ」
男「はい」
先輩「……ありがとう」
男「……これ、美味いですね」
先輩「……これもなかなか美味いな」
男「……」
先輩「……」
妹「お兄ちゃーん!! 美味しそうなのいっぱいあったー!」
男「そんなに入るか! 戻してこい!」
幼馴染「えー……」
後輩「だから言ったじゃないですか……」
男「……あいつら、この事態をものすごく楽しんでますけど、どうか怒らないでやってくれませんか」
先輩「……そうだね、すごくイキイキしてる」
男「俺も含めてですけど、あいつら今回の事で失った物ってないんですよ。 むしろ得たものの方が多いんだと思います」
先輩「……」
男「先輩にとっては辛い事件ですが、あいつらにとっては救いでさえあったんです」
先輩「……うん」
男「酷なことを言うようですが、あいつらに合わせてやってくれませんか。 俺と二人きりであればいくらでも泣いて構いませんから」
先輩「……キミは私が、周りの人のことも考えず、一人悲劇に酔って喚き散らす女だと、そう思っていたのかな?」
男「え、いやそんな!」
先輩「あの娘達にはむしろすごく元気づけられてるよ。 怒るだなんてとんでもない」
男「……はい!」
先輩「ま、まぁでもあれだ」
男「?」
先輩「……二人きりのときには……その、もしかしたらさ……」
男「……はい、なんなりと!」
先輩「…………うん」
はよ
妹「お兄ちゃーん! 車開けてー!」
男「はいはい」
幼馴染「いやー面白いお土産いっぱいあった!」
後輩「いろんなこと考えるもんですねぇ……イロモノのオンパレードでした」
妹「ねぇ、高速道路散歩しようよ!」
男「はぁ? 今日中にやりたいことがまだまだあるんだけど……」
幼馴染「ちょっとだから! 高速道路を歩くとかなかなか出来ないよー?」
男「でもなぁ……」
先輩「男、私も散歩したい」
妹「お、先輩さんノリいいですね!」
男「せ、先輩が言うならまぁ」
幼馴染「あ、何それムカつく!」
妹「ひろーい!」
幼馴染「でかーい!」
後輩「白線がものすごく長いですね……」
男「すげぇ……先を見ると絶望するな……」
先輩「景色が全然変わらないな」
妹「……すごーく静か」
幼馴染「そうだね……」
男「お前らで充分やかましいよ」
妹「……なんか改めて、私達以外の人はいなくなっちゃったんだなーって」
幼馴染「そうだね。 私達以外に音をたてる者はいないし、私達以外に動く物もない」
男「ゾンビがいるぞ」
幼馴染「あんなのほぼ無音で不動だよ。 アハ体験かっての」
後輩「こんなに穏やかなカタストロフィもないですよねー……」
妹「あぁ、本当に終わったんだなぁ、って思うよね……」
男「……」
妹「すごく晴れ晴れとした気分」
幼馴染「本当」
男「……あのな、お前ら」
先輩「男、いいから」
男「……」
先輩「キミたちは、こんな事態になって何を思う? 嬉しい? それとも悲しい?」
妹「うーん……」
幼馴染「んー……」
後輩「……」
先輩「……ごめん、難しいこと聞いたね」
妹「いやそれが全く、複雑でもなんでもなくてですね」
幼馴染「あ、やっぱり妹ちゃんもそう?」
妹「嬉しくって仕方がないんです。 不謹慎極まりないですけど」
幼馴染「だよね。 大事なものが綺麗に残って、残りの煩わしいもの、嫌いなものが全部吹っ飛んだ」
先輩「……」
妹「私はお兄ちゃんと幼馴染ちゃんだけが大事で、それ以外の人はぜーんぶ嫌いでした」
幼馴染「うんうん」
妹「私の世界から、余計なものが無くなって、すごく清々しいんです」
幼馴染「胸のドロドロが無くなった感じです」
後輩「……すごく分かります」
先輩「……」
妹「ただちょっと思うのが」
先輩「何?」
妹「後輩ちゃんも、先輩さんも、初めて会った他人なのに、大好きで仕方ないんです」
幼馴染「あー! ほんとそれ! なんでなんだろうね!」
男「いつの間にかちゃん付けしてる……」
先輩「……」
妹「ちょっと前ならこんなこと有り得なかったんです。 不思議ですよね」
男「……」
妹「こんな風に人を好きになれるんだったら、今までの人生だってもっと楽しかったろーに、って思います」
後輩「……すごくよく分かります」
妹「だから、ちょっとだけ後悔してます。 私次第で今までの人生を楽しめたんじゃないかって」
幼馴染「いやーそんなことないんじゃない?」
妹「え?」
幼馴染「だってあんなに人がいたのに、誰も私のことを気にかけてくれなかったもん」
男「……」
幼馴染「私は自分の境遇を全力で隠してたけど、たまにボロが出ることがあったんだ」
幼馴染「でもみーんな見て見ぬふり。 他人なんてそんなもんだよ」
先輩「……」
幼馴染「ところが今はどうだろう! 出会って一日経ってない後輩ちゃんや、先輩さんの私を見る目は、今すごく慈愛に満ちてる!」
後輩「……」
幼馴染「思うに、他人を気にかけるには、皆忙しすぎたんだよ」
幼馴染「集団の中で生きていこうと思ったら、自分とほんの少しの人を愛するだけで精一杯」
幼馴染「社会がぶっ壊れたから、私達は今こんなに晴れやかで楽しいんだ。 『立ち回り』なんてことをしなくていいから」
男「……お前さ」
幼馴染「うん?」
男「ちゃんとモノ考えられるんだな。 ビックリ」
幼馴染「うっさい!」
後輩「……今のこの状況は、人を愛するのにうってつけ、ってことですかね」
幼馴染「うん、綺麗にまとめるとそんな感じ」
妹「……ま、そうだよね。 また昨日までの日常に戻ったって、やっぱり皆憎い気がする」
後輩「……そうですね」
幼馴染「でしょー? 今のコレがやっぱり私にとってベストだよ」
妹「……うん」
後輩「……ですね」
幼馴染「じゃ、そろそろ戻ろうよ。 随分歩いちゃった」
妹「そうだね」
男「……」
先輩「……」
男「……すみません」
先輩「? 何で謝るのさ」
男「……いえ」
先輩「なかなか良い演説だったよ。 若干ちぐはぐだったけど」
男「あいつあんなに舌回ったんだなぁ……」
先輩「……ちょっとだけ、救われたよ」
男「え、どの辺にですか?」
先輩「あの娘たちが私を大好きって言ってくれたことに」
男「あぁ……」
先輩「キミたちといれば、きっと立ち直れると思った」
男「……そうですか?」
先輩「キミたちは、きっと新しい希望をいっぱい与えてくれる。 こんな事態だからこそ得られるものがある、ってのは考えたことなかったなぁ」
男「……」
先輩「私にはまだまだ幸せが待ってそうだ」
男「……良かったです」
先輩「キミも生きてたことだし、ね」
男「……へ?」
先輩「あはは……」
男「……」
おつ
先輩「ここからは、キミが私のバイク乗りなよ」
男「へ?」
先輩「私が車運転する」
妹「え、お兄ちゃんバイク運転出来るの!?」
先輩「高校の裏の山登ってったら今は使われてない体育館があるでしょ? あそこの駐車場で昔練習させたんだ」
妹「へー……」
先輩「近くに民家も人通りも無いから穴場だったんだよねー」
男「別にいいですけど久しぶりだから自信無いなぁ……」
先輩「どーとでもなるさ。 身体は覚えてるもんだよ」
妹「二人でバイクの練習ねぇ……」
幼馴染「詳しく話を聞きたいね」
先輩「車の中で話してあげよう」
妹「ガールズトークですね!」
男「あ、あんまり変なことは話さないでくださいよ」
幼馴染「ぶっちゃけ二人の関係は何なんです? ただの先輩後輩じゃないですよね?」
男「変なことを聞くな!」
先輩「その辺も詳しく話そう」
男「先輩!」
先輩「私達もキミたちに聞きたいことがたくさんある」
幼馴染「なんなりと!」
男「やっぱ俺が車運転します! すげぇ不安!」
先輩「ダメ」
妹「邪魔」
幼馴染「根暗」
男「根暗は関係ないだろ!」
先輩「じゃあ私が先導するから着いてきてー」
妹「お兄ちゃんがうるさいから早く行きましょー」
先輩「そうだね。 鍵閉めるから皆乗り込めー!」
幼馴染「わー!」
男「あ、ちょ、ちょっと!」
先輩「じゃ、着いてきてね」
男「次に行く場所は本屋ですからね! 分かってますよね!?」
先輩「あ、そうなの?」
妹「そうらしいですねー」
先輩「案内してー」
妹「はーい!」
ブロロロロ…
男「……楽しそうだなー」
男「何話してるんだろ……」
男「……疎外感」
男「……先輩のヘルメット、いい匂いだなー」
男「……」
━━
━━━
━━━━
先輩「あ、この本面白そう。 これも良いな」
男「先輩、まずは当面の必要な知識を付ける本を選んでください。 自然科学もいいですけど」
先輩「ちぇー」
妹「漫画持って帰っていいー?」
男「論外だ」
妹「ちぇー」
後輩「一冊だけですので、お料理の本持って帰っちゃダメでしょうか……」
男「それは大歓迎! 美味しい料理期待してるよ!」
妹「じゃあ私は対抗策を練るためにこのゾンビ漫画を」
男「ダメ」
妹「ケチ」
男「……なんで幼馴染は絵本読みふけってるんだ」
妹「なんか懐かしいんだって」
妹「……なんか今日出てるハズの雑誌が出てないってのは寂しいね」
男「もう新しい本は出版されないんだなーと思うと寂しいよね」
妹「私達割りと本読んでたからね」
先輩「論文ももう出ないんだなー……人の進化が終わったと思うと悲しいな」
男「時間ができたら一緒に何か研究でもしましょうか」
先輩「それいいね!」
進化じゃなくて進歩では?
技術の進歩のほうがしっくり来る希ガス
━━
━━━
━━━━
先輩「ここだっけ? 男の家」
妹「そうです」
先輩「車庫ここ?」
幼馴染「私シャッター開けてきまーす」
先輩「あ、ごめんね」
妹「あ、でも車庫入れの前に荷物降ろさないと」
先輩「そうだった」
男「バイクのキーお返しします」
先輩「ありがとう」
男「リビングの引き戸開けてくるんで荷物そっちから入れましょう」
妹「私開けてくるー」
男「何だこれは……」
幼馴染「あ、さっきサービスエリアで取ってきたお菓子」
男「よく積めたな……」
後輩「幼馴染さん、狂ったように積めてました」
男「じゃあとりあえずバリケードはるか」
妹「必要無い気もするけどね。 うち門あるし」
幼馴染「大勢で襲ってきたら怖いけど、あのゾンビだしね……」
男「……ま、念のためさ。 現に親父は殺されてるんだし」
先輩「私車入れてくるね」
男「あ、お願いします」
妹「お兄ちゃんには出来ないしね」
男「うるさい」
男「じゃあ俺はバリケード作ってるからお前ら荷物片付けといてくれよ」
妹「はーい」
先輩「あ、私はバリケード作りたい」
男「じゃあ一緒に作りましょうか」
男「トンカチ」
先輩「はい」
男「釘」
先輩「はい」
男「汗」
先輩「はい」
男「メス」
先輩「無いよ」
男「……出来た」
先輩「……」
男「……」
先輩「……へったくそ」
男「……はい」
妹「お兄ちゃん大変だ! お肉が無い!!」
男「……何してんだ」
幼馴染「バーベキューの用意」
男「……」
先輩「いいね!」
先輩「買い出し行こうか!」
妹「ですね!」
男「じゃあ車出して来ますね」
幼馴染「あ、いや先輩さんの運転がいい」
妹「うん。 やっぱりお兄ちゃん運転へたくそ」
男「……」
後輩「……ごめんなさい、私もその方が」
男「……」
先輩「どんまい」
男「……食料の確保も考えなきゃなぁ」
妹「とりあえずスーパーの食材を片っ端から冷凍させようか」
先輩「それでもいずれ底をつくからな……」
男「簡単な野菜を作り始めよう」
幼馴染「お肉は?」
男「家畜も考えなきゃな。 ……難易度高いなぁ」
先輩「ま、すぐには無理だろうね。 それまでは私が狩ってくるよ」
男「狩る!?」
先輩「実家に銃があるんだ」
男「え!?」
先輩「昔お祖父ちゃんに着いてって狩り見てたから多分なんとかなると思う」
男「サバイバル能力高いですね」
男「スーパーなんて久しぶりだ」
妹「いつも私が買い物行ってたもんね」
後輩「あ、豚が安いですよ!!」
幼馴染「そんなの気にしなくていいんだよ、後輩ちゃん」
後輩「あ、そっか」
先輩「腐る前に早くこの食材確保したいな」
男「今晩考えましょう」
幼馴染「値引きシール貼るやつ取ってきた!」
妹「これお願いしまーす!」
━━
━━━
━━━━
妹「お兄ちゃん火起こしててー! 私達食材切ってくるから!」
男「おう頼んだ」
先輩「私も火の係やるよ」
男「別に俺一人で出来ますよ?」
先輩「あんまりたくさん台所に行っても手持ち無沙汰だもん」
男「こっちでも同じだと思いますが」
先輩「いいじゃん別に」
男「別に構いませんけど」
幼馴染「お肉美味しいー!!」
妹「じゃんじゃん焼こう!」
後輩「お肉もいいですけど野菜も食べなきゃ」
先輩「皆は塩は? タレ派?」
妹「私はタレですねー」
男「俺は塩です」
幼馴染「私は何でも美味しい派です」
後輩「あ、私タレ作ってみたんですよ。 サッパリ系はどうですか?」
幼馴染「あ、どれどれ」
妹「! これすごく良いよ!!」
男「キミは本当優秀だなぁ」
男「ふぅー食った食った……」
幼馴染「デザートにこんなのはどう?」
妹「マシュマロ?」
幼馴染「これを箸に刺して炙る!」
妹「おおー」
後輩「なんか美味しそうですね!」
男「俺はいいや。 向こうで一服してくる」
幼馴染「あ、ノリ悪いなぁー」
男「ふぅ……」
先輩「や」
男「あ、先輩も来たんですね」
先輩「うん」
男「……煙草、一応賞味期限あるんですよね」
先輩「煙草の栽培やる余裕は無いし、近いうちにやめなきゃね」
男「そうですね……」
男「これからどうなるんでしょうね……」
先輩「どうとでもなるんじゃない? ま、今までのような生活は到底望めないだろうけど」
男「……あいつらよくもまぁあんなに暢気にしてられますよね」
先輩「皆キミのことを信頼してるんだよ。 キミがなんとかしてくれると」
男「俺も全く自信無いのに……」
先輩「保護者は大変だねー」
男「一番年長は先輩でしょう」
先輩「私も頼りにしてるよー」
男「先輩が一番たくましいくせに……」
先輩「私、これからどうなるか、すごく怖いの……」
男「やめてくださいよ、気持ち悪い」
先輩「ひどいこと言うなぁ」
先輩「……」
男「……」
先輩「……あのさ」
男「なんですか?」
先輩「どう? この世にたった一人の男になった気分は」
男「いやまだ一人と決まったわけでは」
先輩「しかも周りの女の子は揃いも揃って美形! 可愛い娘ばっかり!」
男「……やめてくださいよ。 俺の気持ちは高一のときから変わってません」
先輩「……」
男「俺は今でも好きです、先輩のこと」
先輩「……」
男「先輩こそどうです? もう俺以外に男を選ぶ余地はなくなったわけですけど」
先輩「……」
男「といってもまだ生き残りはいるかもしれませんけどね」
先輩「……昔っから、キミ以外に選択肢は無かったよ」
男「へ?」
先輩「私も高三のころから、ずっとキミが好きだった」
男「で、でも俺が告白したとき先輩は」
先輩「卒業式に告白なんてベタ過ぎ! あれは可笑しかったなぁー」ゲラゲラ
男「そ、そんなことはどうでもいいじゃないですか!」
男「あのとき先輩も、俺のことが好きだったんですか?」
先輩「うん」
男「……じゃあなんで俺はフラレたんですか?」
先輩「……血が繋がってたから」
男「……は?」
先輩「私とキミは姉弟なんだよ」
男「……ちょっと言ってる意味がわかんないです」
先輩「私とキミは、腹違いの姉弟。 キミのお父さんが私の実の父親だ」
男「……えっと」
先輩「姉弟で付き合うわけにはいかないでしょ? だから断った」
男「……あの糞親父、先輩のお母さんに手ぇ出してたってことですか?」
先輩「そういうことになるね」
男「……」
先輩「だから私はキミの姉ってことになる」
男「……」
男「……あ、あの、謝って済む話じゃないですけど」
先輩「いや、謝らなくても済む話だよ」
男「え、いやそんな」
先輩「私にとって父親はキミのお父さんじゃないから、そんなのはどうだっていいんだ」
男「……そうは言っても」
先輩「むしろ私が生き残れたのはキミのお父さんのおかげなんだ。 ラッキーとさえ思ってる」
男「……え?」
先輩「生き残った五人のうち、三人は共通の父親を持つ。 偶然だと思う?」
男「……」
先輩「さっき車の中で聞いてみた。 やっぱり残りの二人の父親も、キミのお父さんだそうだ」
男「……!」
先輩「美形ばっかりなのもそのせいだね。 キミのお父さん、顔は良いから」
男「……あのゴミ野郎…………!」
先輩「妹ちゃん、あんな怖い顔出来るんだね。 修羅場だったよ」
男「……俺の首一つで足りるでしょうか」
先輩「キミの首の産毛一本で足りるよ。 皆気にしてない」
男「……」
先輩「むしろ、幼馴染ちゃんも後輩ちゃんも、キミたちが気に病むのを何より嫌がってた」
男「……でも」
先輩「私もそう思う。 親父さんの責任であって、キミたちの責任じゃないから」
男「……」
まさかの展開
先輩「で、話を戻すけど、キミの告白を断ったのは私達が姉弟だったからだ」
男「……」
先輩「そのときばかりはキミの親父さんを恨んだね。 でも今はこんな事態だ」
男「……」
先輩「子孫を残すためなら、近親相姦も仕方ないよね? 大義が出来た」
男「し、子孫!?」
先輩「私はキミのことが大好きだ」
男「……ほ、ホントですか」
先輩「うん。 本当だ」
男「……これからよろしくお願いします」ギュッ
先輩「ふぁっ!?」
先輩「ちょ、ちょっと待って!!」
男「今までずっと待ってたんだ。 これくらいいいじゃないですか」
先輩「あ、で、でも嬉しいけどこれはダメなの!! 離して!!」
男「ダメ?」
先輩「皆出てきて!!」
男「?」
男「!」
幼馴染「くそー……ずるいよ先輩さん……」
後輩「……いいなぁ」
妹「お兄ちゃんケダモノ……」
男「お前らマシュマロ食ってたんじゃなかったのか!」
先輩「あのね、こういう事態だから、私一人がキミを一人占めするわけにはいかないの」
男「へ?」
先輩「私だけがキミとイチャイチャしてたらこの娘たちはどうなる?」
男「どうって……」
先輩「居場所を無くす。 だから私だけがキミとイチャイチャするわけにはいかないの」
男「……でもさっき先輩は俺を受け入れてくれたじゃないですか」
先輩「だから、私とだけ、ってのはダメって話」
男「……それってどういう」
先輩「一夫多妻制は知ってるかな?」
男「は!?」
先輩「ここにいる皆をキミの嫁にするんだ」
ええな
男「そ、そんなの倫理的にダメじゃないですか!」
先輩「今のこの事態で倫理もクソもないよ。 そもそも一夫多妻制を認めてる国は結構ある」
男「そ、そんなこと言ったってこいつらの気持ちがありますし」
先輩「うん。 今からそれを聞こうじゃないか」
男「は?」
先輩「さっき車の中で皆で決めたんだ。 皆一緒に想いをキミに打ち明けようって」
男「え、それって」
先輩「ではまず幼馴染ちゃんからどうぞ!」
幼馴染「はい!」
男「え、あの」
幼馴染「あのね、私は小さい頃から男と一緒にいてさ」
男「え、え、マジで?」
幼馴染「その、すごく身近だったわけなんだけど」
男「……」
幼馴染「ずっとさ、男が側にいるのが当たり前のように思ってたんだ。 きっと男もそうだと思う」
幼馴染「でも思えば、私を気にかけてくれる異性って男だけだったんだ。 それはすごく特別なことで」
男「……」
幼馴染「私一回お父さんに殺されかけたことがあってさ、まぁ助かったんだけど」
男「は!?」
幼馴染「そのとき、私が死んだら男はどう思うかなーって考えてさ」
男「……」
幼馴染「きっとすごく悲しんでくれると思った。 泣いてくれると思った。 違う?」
男「……違わない」
幼馴染「そう思ったら男のことが愛おしくって仕方なくなって」
男「……」
幼馴染「それが小六のとき」
男「結構昔だな!?」
幼馴染「それからずーっと好きだった。 私の思春期は男でいっぱいだった」
男「……」
幼馴染「大好きです」
男「……ありがとう。 でも俺は」
先輩「じゃあ次は後輩ちゃんね!」
後輩「はい」
男「あ、あの」
後輩「……私は、幼馴染ちゃんのような特別なエピソードがあるわけではありません」
男「……」
後輩「ですが、学校で私は先輩のことを人一倍見てきました」
後輩「私は、何より先輩のおおらかさに惹かれました。 もちろん他に良い所を挙げればキリがないですけど」
男「……べた褒めだね」
後輩「はい。 私は、自分の家が非合法なことをしていたので、ずっと後ろめたかったんです」
後輩「私はそのことをずっと隠してたんですけど、ある日、それが学校に広まりました。」
後輩「皆知らないふりをしてたけど、明らかに態度が変わったのがわかりました」
男「……」
後輩「物凄い疎外感でした。 先生すらも腫れ物を触るように私に接しました」
後輩「でも先輩は私になんら変わりなく接してくれました」
後輩「知らないはずはなかったんです。 委員会の皆も態度が変わってましたし」
男「……」
後輩「先輩が友達と、私について話してたのを盗み聞きしたことがあります」
男「え」
後輩「そのときの言葉をずっと覚えてます。 『家がどうであれあの娘はただの可愛い女の子じゃん』と」
男「……恥ずかしい」
後輩「私に言い寄ってた男の子ですら私に近寄らなくなった中で、先輩は全く変わらず接してくれました」
後輩「……まぁ本当に最後まで全く変わらなかったんですけど」
男「……」
後輩「先輩、好きです」
男「……ありがとう」
先輩「じゃ、次は妹ちゃんね!」
男「は!?」
妹「はーい!」
妹「えーと、私は結構モテました!」
男「え、お前何話すの?」
妹「それでもことごとくフッてきたのは」
妹「お兄ちゃん以上の男がいなかったからです!」
男「はぁ?」
妹「私は誰よりもお兄ちゃんのことをよく知ってます。 悪いところも、良い所も」
妹「私はお兄ちゃんのことが大好きですが、それは兄妹愛でした!」
男「そりゃそうだ」
妹「ですが、こんな事態になって、私達は子孫を残さなきゃならなくなりました!」
男「えーと……別に無理しなくてもいいんだぞ?」
妹「そのことを改めて考えたときに、お兄ちゃんのお嫁さんになるのも案外悪くないなーなんて思っちゃいました!」
男「はぁ!?」
妹「何より、皆がお兄ちゃんのことを好きと聞いたとき、軽い疎外感とそこそこの嫉妬を覚えたんです!」
男「え、何それ」
妹「多分私はお兄ちゃんのことを好きになれます! というわけで、どうぞよろしく!」
男「なんだこの状況!」
先輩「はい、これでこちらからの告白は終わりです。 男からも何かどうぞ」
男「……皆の気持ちはすごく嬉しい」
男「けど、俺が好きなのは先輩なんだ。 キミたちの気持ちには応えられない」
幼馴染「んー予想通りの返答だね」
後輩「でもまぁ時間はありますしね」
男「……俺が先輩を好きって気持ちはこの先も揺るがないぞ」
妹「そんなのわかってるよ。 先輩さんを嫌いになることなんて誰も望んでない」
幼馴染「私達皆を好きになることを望んでるんだよ」
後輩「一夫多妻です」
男「いやいやいや」
男「先輩はこれでいいんですか!?」
先輩「そりゃ私だってキミを一人占めしたい気持ちはあるさ。 でもよくよく考えたら人の気持ちの容量に制限はないわけで」
先輩「キミが幼馴染ちゃんを50愛したら私は50しか愛されないなんてことはないと思うんだ」
先輩「さっき後輩ちゃんが言ったように、キミはおおらかだから、きっと皆を100愛せる」
男「……冗談じゃない! それは親父と同じことをすることになる!!」
妹「こんな状況だしいいんじゃない?」
幼馴染「そうそう」
先輩「誰も文句言わないよ。 もちろん私も」
妹「ま、たっぷり時間かけて考えてよ」
後輩「私達はずっと待ってますんで」
男「……多分親父は日本中に種をバラまいてる。 まだ生き残りはいる」
幼馴染「それを探すの? それはいいけど私達だって誰でもいいわけじゃない。 男以外の男が現れたって何も解決しないよ」
先輩「むしろ新しい女の子が増えたりして」
男「……」
男「……とりあえず今日は寝る。 明日からもやることはたくさんあるしな」
妹「あ、じゃあ皆でリビングで雑魚寝しよー!」
幼馴染「いいねー!」
男「アホか。 俺は一人でリビングで寝るから、お前らは俺の部屋と妹の部屋で寝ろ」
後輩「先輩は自分の部屋で寝たらいいじゃないですか」
男「妹の部屋に四人は狭すぎるからな」
先輩「私は別にどこで寝てもいいよ?」
幼馴染「私もどこででも寝られる人だから」
男「布団が足りない。 俺がリビングのソファーで寝るよ」
後輩「紳士ですねー」
男「……」
妹「じゃ、とりあえず部屋に引っ込みますかー」
幼馴染「男、おやすみ!」
後輩「おやすみなさい」
先輩「おやすみ」
男「おやすみー」
先輩「誰から夜這いかけるかじゃんけんしようか!」
幼馴染「お、負けませんよー!」
妹「よーし!」
後輩「絶対勝ちます!」
男「……ゾンビより先にあいつらへの対策を講じなきゃな」
fin
最後の一行が読めない
今日はここまでって書いてあるなー
ここからっしょ
姉はなんとなくわかってたけど全員かよw
乙でした
勇次郎かよ親父
第二部に期待だな
>>163
勇次郎がゾンビに食われるシーンを想像できるか?
続きマダカナー
ガーゴイル編なら勇次郎ももしくは
このSSまとめへのコメント
素晴らしい
最後の締めくくりにふさわしいいいオチだ!!
面白かった^_^