南条光「受け継がれる光」 (52)

小さい頃から憧れていた

弱い人を助けて、困っている人を助けて、誰かの笑顔のために頑張って

そんなヒーローに、テレビの画面の中で、アタシ達子供に夢や勇気を与えてくれるヒーローに、ずっとずっと憧れていた

だから、そういう人になりたかった

人に希望を与えて、元気を与えて、味方になって、誰かを支えて……そうして少しだけ感謝されて、愛されて、必要とされて、沢山の沢山の人を幸せにできる、そんな存在になりたかった

ずっとそう思ってた

そうやって、ある日、ある人に出会って、誘われて……


やがてアタシは、沢山の人に夢を与えられる存在に……『アイドル』になった

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ネクサス?

南条大好き期待

最初は、アイドルとしてデビューすれば、いつか大好きなヒーローが出てる特撮番組で主題歌を歌えるんじゃないか、なんて考えてた

歌って踊って、いつか大好きな特撮に関わる仕事が出来るんじゃないか、なんて……本当に、それだけ

そんな気持ちで入った芸能界は、やっぱり大変なことだらけで

何も知らなかったアタシを、沢山の人が支えてくれた

アタシを誘ってくれた人……プロデューサーは特に、いつもアタシを助けてくれた

困っていると必ず駆けつけて、アタシのことを救ってくれたんだ

アイドルとしてやらなくちゃいけないことは、歌も、踊りも、レッスンも、どれもがやっぱり大変で

でも、その時のアタシはいつかの未来、ヒーロー番組でヒーローの歌を歌う自分を夢見て走ることが楽しくて楽しくて仕方なかった


つまるところ、この頃のアタシはまだ『アイドル』なんかじゃあ全然なかった

そんなアタシに転機が訪れた

それは、初めてのライブの日

それまで小さな仕事しかなかったアタシにとって、初めての大きな舞台だった

自己紹介では噛まなかったし、何日も寝ないで考えたポーズもしっかり決まった

一生懸命頑張って、歌も踊りも全て終わらせることが出来た

高揚感と共に顔を上げたアタシの目に、それは飛び込んできた



沢山の人が、優しく笑ってる

笑って、さっきまで頑張ってたアタシに拍手を送ってくれている

小さな子供も、同い年ぐらいの子達も、そして大人の人達も、皆が笑顔になってくれている

それが、焼きついて離れなかった


この時のアタシは、まだ本当の『ヒーロー』じゃなかった

でも、間違いなく、アタシが求めていた何かが、そこにあったんだ

そうやって、漸くアタシは気付いた

アタシがなった、なることが出来た『アイドル』という存在は

紛れもなく、『ヒーロー』だったんだ、と



その日からアタシは、『ヒーロー・南条光』になった

期待

期待

コロモロコロカラ ヒーローニ アコガリチタ

「ヒーロー南条光の登場だぁーっ! アタシが皆に夢と希望を届けるんだっ! 熱い心と奮える勇気でトップアイドルへの道を爆走中っ! みんな、応援してくれよなっ! もち、プロデューサーも応援してよねっ!」


衣装に身を包み、ヒーローになりきったアタシを見て、プロデューサーは楽しそうに笑ってた

「お前を見てるとなんというか、妹というか……いや弟を見てるみたいだよ」

なんて、失礼なことも言ったりして

でも、アタシも少し、兄が出来たような、そんな気持ちになってて悪い気はしなかった



……いや、違った。プロデューサーは、アタシにとって結局『兄』じゃあなかった

アタシにとって、もっと別の人だった



あの人は気の合う、不思議な不思議な……年の離れた『相棒』だった

「正義の味方は負けない!」

まだデビューする前の、アタシの決め台詞

「ノンノン!それは違うぞ光!それだと相手の子が悪者みたいになっちゃうだろ?」

「あっ……そっか……どうしよう……」


当時のアタシは、そんなことを考えたこともなかった

危うく、酷い言葉を決め台詞にしてしまうところだったとショックを受けたのを覚えてる

「そうだな……じゃあ新しい決め台詞考えるか!」

「! うん!」

「……つっても俺はヒーローとかそういうの詳しくねーならな……どんなのがいいだろうな……」

「うーん……」


子供みたいなことでも、真剣に考えてくれる人だった

プロデューサーはアタシ以外にも沢山の人をプロデュースしていたけど、一人一人となるべく真摯に向かい合おうとしてた人だったんだと思う




「……!ねぇプロデューサー!思い付いた!」

「おっ!ホントか!どんなんだ!?」

「あのね、こうっポーズを決めて……そして……」

「正義の味方は挫けない!」

それが、アタシの新しい決め台詞になった

何があっても負けない!

何があっても諦めない!

アタシはアタシが目指した理想のヒーローに、そして誰より輝くアイドルになって、沢山の人を励ます存在になる!

その決意を込めた、二人で考えた決め台詞


「カッコいいじゃねーか!」

カラカラと笑いながら、プロデューサーがそう言ってくれた

馬鹿にするでもなく、適当にあしらう訳でもなく、ただそうやって、見守りながら背中を押して、護ってくれる


前に進ませてくれる人だった

それに気付いた時、ただ漠然と、アタシはこの人がいないときっと何も出来なかったんだろうな、と、そう思った

両親とも、友達とも違う

兄妹でもなく、仲間とも少しだけ違う

相棒だけど、それだけじゃない

この人はアタシに夢も希望も、勇気も笑顔も与えてくれた



アタシのプロデューサーは、いつしかアタシにとって、テレビの先にいた存在とは別の、もう一人の『ヒーロー』になっていた

「正義が勝つんじゃないわ!強い方が勝つの!常識でしょう!?」

ある日、同じプロダクションの仲間で悪の女王を自称する小関麗奈がそう言った

麗奈は友達だけど、よく小さなケンカも沢山した

犬猿の仲でもあったし、よくこんな小競り合いのようなこともした

それでも、大切な友達だ


「……っ!なら!アタシが勝つ!これ以上の悪さはやめろ!」

「アッカンベー!ベンベロベー!」


……こんなんばっかで、子供のケンカといえばそれまでだったけど……アタシ達はいつも真剣だった


「ほー!麗奈!良いこと言うじゃねーか!」

「! プロデューサー!そんな!」

「へー!下僕の癖にわかってるじゃない!そうよ!このレイナサマが正しいのよ!光のバーカ!」


確かにこの麗奈の言葉が間違ってないのはわかってる

でもこの時のアタシは、一瞬裏切られたような気持ちになったんだ

「『力こそ正義』ってか!なるほど、正しいな!」

「……っ!」

違うよプロデューサー!正義の味方は力だけじゃダメなんだ……!

「でしょう?ホーラ!やっぱりレイナサマの方が……」

「つまり魅力がある方が勝つわけだ!」

「……」

「……」

「「……へ?」」

「魅力も立派な力だろ?ならお前らはアイドルなんだから魅力がある方が強くて正義に決まってる!」

「……」

「……」

……な、なるほど?

「となると、どっちのが魅力があるのかなー?……俺が味方したくなる方が魅力がこの場では魅力があるってことだよなー……」

プロデューサーが意地悪く子供のようにニヤリとしながらアタシと麗奈を交互に見る

アタシと麗奈が同時にゴクリ、と息を飲んだのがわかった

「なら……俺は俺の椅子にブーブークッションを仕込んでちひろさん達の前で俺に恥ずかしい思いをさせたレイナサマよりこの良い子良い子の光を選ぶぜ!」

「「!」」

ゴゴゴゴゴ……という音が聞こえそうな雰囲気でプロデューサーが悪の女王を笑顔で睨みつける

……これは怖いな

「げっ!さっきの……!」

「レイナァァァァァッ!テメェェェェェッ!」

「やっば……退却!退却よォォォォッ!」

「待てコラァァァァァッ!」



走り去っていく二人を眺めながら、アタシは呆然と立ち尽くしていた

アレ?なんの話をしてたんだっけ?なんて考えながら

やがて、吹き出すように笑いが込み上げてきた

『笑ってんじゃないわよ!』なんて、遠くで麗奈が叫んだりしてて

プロデューサーが麗奈を捕まえて、すごい剣幕でお説教を始めたりもして



この頃のアタシは……

いや、この事務所にいた頃のアタシは、とにかく毎日が楽しくて仕方なかった

楽しくて楽しくて、夢のために走り続ける日々が、何処までも眩しくて大切だった


この宝石のような思い出の日々は、今でもアタシの宝物だった

アイドルになって、ヒーローになって、何年か経った頃、もう一つの転機が訪れた


とうとう、朝の特撮ヒーロー番組に役者として、しかもヒーローの一人として出演することが決まった

アタシは子供の頃からとても背が低かった

デビュー当時の身長が140cm

この数年で多少伸びたとはいえ、まさかヒーロー役で出ることが本当に出来るなんて思っても見なかった

ヒーローにはイメージがあるし、アクションも場合によってはこなさなくてはならない

何より、アタシは女で、不利なことだらけだった


本当に嬉しかった

嬉しくて嬉しくて、決まったその日に泣いて喜んだのを覚えてる

お父さんもお母さんも、泣いて喜んでくれた

プロデューサーも泣きはしなかったけど、自分の事のように喜んでくれた

そしてアタシは、今度は『アイドル』とは別の『ヒーロー』になった

一年ものの子供向けのヒーロー番組だったから、その番組で共演した人達とは自然と一緒にいる時間も、話す時間も増えて、どんどん仲良くなった


中でも、主役のヒーローをやってる俳優の人は、アタシと同じように昔からヒーローに憧れていて、アタシと同じようにヒーローになりたくて芸能界に入った人だったから、自然と気が合って特によく話すようになった

その人は驚いたことにアタシと同じくらい特撮に詳しかった

そして、アタシよりよっぽど背が高く、強くて、頼りになって、そして、何より男の人だった

自分よりよっぽどヒーローに向いてるその姿に嫉妬したことも、正直あった

だけど、沢山の話をして、撮影期間中に誰よりも仲良くなった



因みに、プロデューサーとは何故かウマが合わなかったみたいで、よく話をしてると怖い顔のプロデューサーが割って入って離そうとしてきたことが何度もあった

周りの人は笑ってたけど、彼はいつも困ったようにヒクヒクとしてて、プロデューサーは犬みたいにウーウー唸って威嚇してた

この時は、良い人同士なのに仲良く出来ないのかな?なんて考えていたっけ

番組が終わっても、彼との付き合いは続いた

付き合いといっても、メールや電話でやれ今朝の特撮はどうだった、新しいヒーローはどうだったと、そんな話ばかりをするだけだったけど



さらに何年か経って、宝物が増えた頃

アタシはだいぶ大人になって、沢山のファンがいて、ヒーローになる夢も叶えて、一番輝いていた頃


アタシは彼に呼び出されて、そして告白された

異性としての、初めての告白


その時のアタシはいっぱいいっぱいになってて(後で知ったことだが彼も異性への告白は初めてだったみたいで、いっぱいいっぱいになってたそうだ)、なんだか色々と変なことを口走ったらしかった


純粋に嬉しかったし、恥ずかしかった

でも、その時のアタシはまだアイドルだったから……



その告白は、結局断って終わった

プロデューサーに話をした

告白されたこと

嬉しかったこと

そして、断ったこと

どうしてプロデューサーに相談したのか、自分でもわからなかった

プロデューサーは黙って最後まで聞いてくれていた


「……お前は、それでよかったのか?」

「……」

「お前はどうしたいんだ?」

「……わからない」

「……アイドルに恋愛は御法度なのはわかってるよな?」

「……うん、わかってる」


「……なぁ、光」

「……?何?プロデューサー」

「……」


プロデューサーは、必死に言葉を飲み込もうとしてるような、本当は言いたくないことを言おうとしてるような、そんな様子で口を開いた



「あのな……光……」

「……お前は、誰かの幸せや笑顔のために頑張ってきたよな」

「……うん」

そのつもりだった

「……お前のそういう所が俺は好きだし、お前のそういう所が愛されてる所だと俺は思う」

「……」

「……頑張ってるお前を見ると、俺も諦めず頑張ろうって思えたよ」

「……プロデューサー……?」

「……お前は、他人の幸せのために頑張ってくれたよな」

「……」

「……沢山の人に、幸せになって欲しいのがお前だもんな。……俺も一緒だよ」






「俺は、お前がまず幸せになって欲しいんだよ」






それから、本当に色々あった

結果的に言えば、アタシは彼と付き合うことになった

告白を受け入れても、大丈夫な立場になって……


ファンに後ろめたい気持ちも勿論あったけど、プロデューサーが背中を押してくれた

沢山の人が惜しみながらも『アイドル・南条光』の引退を笑顔で許してくれた

笑って、送ってくれた

そうして、アタシは彼と付き合った


やはり彼とはウマが合い、たまにケンカしたり遊んだりふざけたりして、沢山の良い所と悪い所をぶつけ合った

互いのヒーロー観から好きな特撮番組の種類まで、互いのことをいっぱいわかりあって……そうやって、アタシ達は過ごした

ーーそして、アタシ達は一緒になった

なんだかあっという間のようだったけど、不思議と最初からこうだったかのような、こうなるのがわかっててそこに収まっただけのような、そんな変な気持ちだったのを覚えてる


結婚が決まって、沢山の人を招待して、アタシ達は結婚式もあげた

両親、友達、事務所の仲間だった人達、昔共演した人、関わったスタッフの人たち、昔対談企画で一緒に仕事をした憧れの俳優さん

勿論、今でもたまにケンカしたりじゃれあう関係だった麗奈もそこにいてくれた

皆が笑顔で祝福してくれた



そして……プロデューサーもそこにいた

もういい年になったプロデューサー


ずっと見守っててくれたプロデューサー


アタシの幸せを願ってくれたプロデューサー


アタシの背中を押してくれたプロデューサー



プロデューサーは泣いてるのか笑ってるのかわからない顔でアタシを見ていた

拍手をしながら、優しい顔で見守っててくれた

きっとアタシもプロデューサーと同じような顔をしてたんだと思う

でも、すぐにアタシの方は涙が止まらなくなって崩れてしまった

折角雪菜さんがしてくれたメイクも台無しにして、わんわんと泣いてしまった



嬉しくて嬉しくて 幸せで幸せで そして、ちょっぴり寂しくて

心の中の宝物が、また一つ増えた

やがて、アタシと彼との間に子供を授かった


名前は、あるヒーローの名前と、アタシの名前から取られて、『光太郎』と付けられた

なんだか少しこそばゆいような……

でも、少しも嫌じゃないとても幸せな気持ちだった


そうして、アタシは『ヒーロー』から、『アイドル』から、今度は『母親』になった

南条が幸せなら…おらは

俺は満足だ

あの親にしてこの子あり、とはよく言ったもので、物心ついてすぐ息子が真っ先に興味を持ったのはテレビの中の特撮ヒーローだった

……子守唄にヒーローの主題歌をチョイスする母親と休日の日は昔の特撮番組を子供を抱えながら見る父親に挟まれれば当然だったかもしれない

息子は、目をキラキラさせながらヒーローを眺める子供になっていた


「も~しも~♪いつかとお~く~♪離れた~と~しても~え~がおと~♪」

「そ~の~やさしさ~と~♪きずなをわすれな~いで~♪」

子供を抱えながら二人でテレビを見てパパの帰りを待つ

二人で歌を歌って色んな話をする

光太郎は色んなことに興味を持って、色々な質問をしてくるようになっていた

日に日に重みの増える身体を感じるのは、とても幸せだった

母親南条に対してくそうとイラつく気持ちと不幸になったらどうしようとハラハラする気持ちと幸せになってくれという気持ちが同居している
これが父性か

「おかあさんは、どうしてヒーローが好きなの?」

「……!」

ある日、光太郎がそんな質問をしてきた

「……そうだなぁ~……」

何から話せばいいのか、少し考える

「……」

「……お母さんね、昔とっても背が小さかったの」

少しずつ、少しずつ話していく

息子がついていけるように、ゆっくりと反応を見ながら話進めていく

「……それに、女の子だから。とっても弱くて、男の子にもからかわれたり、自分の弱さに苦労した事もいっぱいあったの」

「……」

光太郎は聞き入るようにじっとしている

理解できているのかわからないけど、少しずつ続けていく

「でも、そんなとき、テレビの中のヒーローがお母さんにいっぱい勇気をくれたの。ヒーローはアタシなんかよりとっても強くて逞しいのに、それでもどうしようもないような辛い目に沢山遭うんだ。アタシなんかより、もっともっと大変な目にいっぱい遭うの」

「……」

「……それでも、そんな目に遭っても弱い人のために、他の人のために頑張ろうとするの。アタシとは比べ物にならないぐらい、辛い思いをしてるのに。そんなヒーローに、子供の頃のお母さんはとっても元気と勇気を貰って、すっごく憧れた。アタシもあんな風になりたい!って……そう思うようになったの」

「……」

うまく伝わっただろうか……少し難しかったかもしれない

でも、光太郎はとても真剣な目でアタシの話を聞き逃さないようにしようと、聞こうとしてくれていた

やがて、考えがまとまったのか……光太郎は口を開いてアタシにこう尋ねた

「……おかあさんにとっての一番のヒーローって、だれなの?」

……自分の母親に勇気をくれたヒーローが、『どの』ヒーローなのか興味があったのかもしれない

でもその質問に答えるのは難しかった

「……一番、は決められないなぁ……アタシはどのヒーローも誰かにとって一番だと思ってるし、どのヒーローもアタシにとっては一番だから」

「……??」

少し難しかったようだ

「でも……どうしても決めなきゃいけないんなら……」

う~ん、とわざとらしく唸って見せる

興味津々といった様子で光太郎が身を乗り出してくる

「う~ん、やっぱり決められないなぁ……どうしても、二人になっちゃう!」

「!だれ?だれ?」

早く知りたくてしょうがない、という様子だった

たったそれだけなのに、たまらなく愛しい

「ふふっ……あのね、一人は……あなたのお父さん!」

「……」

「……っ!おぉ~!おとうさんかっこいい!」

一瞬ぽけっとしたけれど、すぐに目を輝かせてはしゃぎ出す

自分のお父さんがお母さんにとってのヒーローであることが、どうやら嬉しくて仕方ないらしい


「やっぱりおとうさんはヒーローだった!」

実際昔本当にヒーローだったんだけどね、なんて心の中で苦笑する

「……あれ?じゃあ、もう一人は誰?」

「……」


もう一人は、それは……


「そうだね……お父さんと同じぐらいカッコ良くて、素敵な人。お母さんにとって、もう一人のヒーローだった人……」

「……っ」

緊張して光太郎が息を呑む


「ただいまー!」

ガチャリ、と玄関が開くと同時に旦那の声が聞こえてくる

「あ!おとうさんのこえだ!おとうさ~ん!」

父親の声を聞いて真っ直ぐに光太郎が駆け出す

「おー!光太郎!会いたかったぁ~!」

「おとうさん!」

息子を抱きしめ抱えあげる夫の姿を見て、幸せな気持ちが胸を満たしていった

もう一人のヒーローの話は、また今度にしよう

「ただいま、光!晩飯なに?」

「おかえりパパ!今日はウルトラマンコロッケだぞ!」

「ホントに!?やった~!♪」

「ぼくも、やった~!!」

イェーイ!とハイタッチする二人を眺めて、自然と顔が綻ぶ

「……待ってて!すぐ晩御飯にするから!」

今日は響子さんに教えてもらった新メニューもお披露目だ!

今のアタシは、家族を笑顔にするために戦っている『母親』なんだから


家庭と食卓の平和のために、美味しいご飯を作らないと!




光太郎を挟んで、家族3人で川の字になって布団に寝転ぶ

「……ねぇ」

「ん?」

「光太郎の寝顔、可愛いね」

「……そうだな」

二人で光太郎の顔を撫でながら、小さな声で話をする

「……今日ね……アタシのヒーローについて聞かれたんだ」

「……なんて答えたの?」

「……アタシのヒーローは二人いるんだ、って」

「……」

「……一人はアナタ」

「……っ」

旦那が小さくガッツポーズをした。いつまでたっても子供みたいな
その行動に思わず吹き出してしまう

「……もう一人は……」

「……」


二人とも沈黙する

多分、同じ人が浮かんでる


「……あの人か……」

「……うん」



アタシにとってのもう一人のヒーロー


それは、間違いなくプロデューサーさんだった

「……結婚式の時に、俺言われたよ」

「……?」

「……」



『オイお前……いいか?この世で光の幸せを一番願ってるのは光の御両親とプラス俺だ!』

『もし不幸になんかしてみやがれ……正義の鉄拳どころじゃねぇからぞ!』

『今ここで誓え!死んでも一生幸せにします、光の笑顔を護ります!ってな!!』



「……っ」

「……悔しいけど、ちょっとカッコ良かったよ」

「……プロデューサーが……そっか……」

「……光は、幸せか?」

「……っ! ……当たり前!幸せだよ」

「……そっか」

「うん……ヒーローは大変だな」

「……あぁ、大変だ」




「……光太郎は、どんな子に育つのかな……」

「……男の子は母親に似るって言うぜ?」

「……そうなの?」

「……ああ。そういう風に聞くな」




「……だから、きっと良い男に育つよ」

光太郎の頭を撫でながら、将来のことに思いを馳せる

願わくば、アタシ達が憧れたような、ヒーローのような人間に育って欲しいというワガママもある

アタシの心の中の宝箱につまった、沢山の光

この子の中に少しでも同じものを残してあげたい

優しい人に育って欲しい

幸せになって欲しい

大切なものを、伝えてあげていけたら


そう願わずには、いられなかった

だって、アタシは人の幸せを願う『ヒーロー』で、子供の幸せを願う『母親』だったから

「そういえば……さっきの結婚式で言ったプロデューサーさんの言葉って……」

「……ん?」


『もし不幸になんかしてみやがれ……正義の鉄拳どころじゃねぇからぞ!』

「……カッコ良いけど、最後噛んでるんだね……」

「ブフッ」


なんだか、締まらないなぁ……なんて

でも、それもプロデューサーらしくて、カッコ良くて

二人でクツクツと笑い出す

会わなくなっても、こうしてプロデューサーはアタシ達に笑顔をくれる




この子にも、いつか会って欲しい

その頃には、プロデューサーは何歳になってるんだろう

この子はいくつになってるんだろう

いつか、会って欲しい



いつかの、未来に……ーー

十数年後……






あるアイドルプロダクション・事務所



「あ!おっさんまたサボってやがる!」

「サボってなぁい!激務に耐えるために甘いものを取っとるんだ!」

「ったく……あんた本当に俺の母さんのもう一人のヒーローだったのか?」

「……?なんか言ったー?光太郎ー?」

「言ってねぇよ!親父とは大違いだぜ……」

「あーアイスキィーンッってきた!でも甘いものが老いて疲れた身体を癒していくのを感じる……」

(いい年してなんだこのおっさん……)



「……なぁ、チーフ」

「……おぅ、なんだよ畏まって」

「……アンタ、昔は俺の母さんのプロデューサーだったんだろ?」

「ん?ああ、そうだぞ」

「今はチーフプロデューサーなんてスゴそうな立場だけどさ」

「……まぁ、年が年だからな。そんな俺にプロデュースしてもらえるんだから有り難く……」


「なんで、俺をスカウトしたんだ?」

「な~んて……あ?」

「……当時さ、俺の母さんのこと気付かずにスカウトしたって言ってたろ?」

「……」

「……なんでだ?」

「……」




「……お前の中に『南条光』と同じ光を見たから、かな」

「……?」

「まぁ、ティンときたって奴だ」


「……まぁその時はただの勘だったが……後で話してみて確信した」

「……?」

「お前さ、スカウトの時色々話しただろ?その時こう言ったんだぜ」



『どうせアイドルになるなら、誰かを勇気付けられるアイドルがいい』

『そんなヒーローになら、俺はなりたい』



「……」

「後で知ってビックリしたよ。最後にあったのはお前がまだミルクしか飲めない時だったからな、わかるはずもなかったんだが……」


「……俺さ、母さんに似てタッパはそんなに無いだろ?」

「……?あー確かに低いな」

「……からかわれたりネタにされてイジられたり、やっぱり色々あったよ


「……」

「でも、んなもん気にしなくても大丈夫だぞって、皆に示したい」

「……」

「勇気や元気の手助けになりたいって、そう
思ったんだ」

「……」

「まぁ親父の血も入ってるからな、後でグンと伸びるかも知んないけど……その時は背の低い人の気持ちも背の高い人の気持ちも考えられる人間になるって事だな!なんて」

「……なぁ、光太郎」

「……?」

「……お前はやっぱり、あの両親の子供だよ」

「……??」

「一番大切なもん、受け継いでるよ」

「……???」

「なんだよ、それ」

「……ヒーローの、心って奴さ」

「……?」

「……俺の『ヒーロー・南条光』もさ」



「俺や何処かの誰かのために頑張ってくれるヒーローだったんだよ」

「お前と一緒だ」




かつてヒーローになりたいと言っていたアタシ達の子供が、ある日アイドルになった

アタシも旦那も、とてもとても驚いた

しかも、スカウトしたのはなんとあのプロデューサーだったんだから、もういよいよ言葉も出なかった


久しぶりに会ったプロデューサーは、やっぱり相応に老けていて、でも中身は全く変わっていなかった

少しばかり話をして、プロデューサーならと即決で決めてしまった

その後、随分と長く色々な世間話をした

楽しいか?

大変か?

身体壊してないか?

またアイドルやってみないか?


今、幸せか?



昔のプロデューサーの、ままだった



幸せだよ


それだけはハッキリと答えた

プロデューサーはそれを聞いて、満足そうに笑ってくれた

変わらない、優しい笑顔だった



昔のままのプロデューサー

アタシのヒーローだったプロデューサー



この人の所で、アタシ達の子供はこれから沢山の思い出を作るんだろう

心の中の宝箱に、ピカピカに輝く素敵な光を沢山詰め込んで

そして、その光を胸に、沢山の人の心を輝かせるために頑張るんだろう

沢山の光を貰って輝いて、沢山の光を分けて輝かせて……



そうしてやがて、この子もたった一つの光に出会って、また新しい光を残していくんだろう

誰かの心に希望や勇気を分けてあげる

自分が憧れた光をまた次に繋ぐように人に与えていく

そうやって、誰かの支えになろうと光は輝きを増していくんだろう



アタシはもう、あの日憧れたヒーローじゃない

あの日なることができたアイドルでもない

でも、私達の心の光は受け継がれていく

母親になった私の子供が、受け継いでいく

この子がいつか、誰かの心の中の宝箱に、輝きながら別の光を残していくんだ



アタシが色んなヒーローに貰った光

二人のヒーローに貰った光

この子が、アタシにくれた光

そうやって、誰かに光を残して、繋がっていくんだ



きっと……これからも、ずっと

ーーそれが、受け継がれる光




END

終わりです。読んでくださった方ありがとうございました

南条は見てる方が驚くほど良い子なので幸せになって欲しいです
投票してくださいとは言いませんが、気が向いたら応援ぐらいはしてあげてくださいm(__)m

ありがとうでした

限りない乙を



何故だろう、書かれていないのに夫婦をからかうレイナの姿が浮かぶのは

おつ
こう言うときはなんていうべきか……

南条の旦那のイメージが、とある俳優に固定されてしまった

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