「ハッ……」 (13)

目が覚めると頬に激痛が走った。
いてぇ…。

なんだ? 身動きがとれない。

俺は縛られているようだ。

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暗い……
霞む目を凝らして周りを見る。
殺風景な部屋に湿っぽい空気が漂い、目の前に女性が座っている。
いや、彼女も椅子に縛られて俯いている。
ここからでは生きてるようには見えない。
彼女はピクリとも動かない。

自分の体を見ると、彼女と同じように縛られていた。

なんで俺こんなことになってんだ?
ここどこだよ?
えっと、会社の帰り…駅から歩いていて、そのあと
…思い出せない

視界がはっきりしてきて、意識が戻ってくると体のあちこちが痛い。

「おい…」
目の前の女性に声をかけた。唇が切れているのか再び激痛が走った。いてぇ
彼女は椅子に縛られたままうなだれていて動かない。
ガチャっと後ろで扉が開く音がすると
外の光と共に、人が入ってくる気配がした。

「気がついたか…」
後ろで男の声がした。
この男は俺たちを助けにきたわけではない。
それは感じた。

「俺が何を聞きたいかわかるよな?」
わかんない。
全然わからない。
恐怖のせいか声がでない。

男は目の前に立つと、覗き込むように俺に問いかける。
「鍵は何処にある?」

「し、しらない…」やっと声が出た「助けて…」
言い終わる前に額に激痛が走った。
男は突然俺を殴った。

「おめーが知らねえ訳ねぇだろ」
再び激痛。もう何処を殴られてるかもわからない。

「たすけて……本当に知らない」

「はは、さすがはサカザキだな。死んでも言わないってか」

サカザキ?
誰のことだよ? 意味がわからない!

「お前が言わなきゃこの女に聞くだけだ、早く言っちまえよ」
男は殴り続けた。
痛みと恐怖の中で、俺は自分のことを考えていた。

俺は田中一郎。27歳。
普通のサラリーマンだ。
サカザキなんて知らない。聞いたこともない。
人から殴られたことなんて今まで一度もない。
今日普通に会社で仕事をし、帰りの途中までしか記憶がない。
男は“鍵”は何処にある? と言っている。
鍵って何の鍵だ?

気づくと男はいなくなってた。
また気を失ってたようだ。
周りを見ると、さっきから状況は変わってない。薄暗い部屋で、前に縛られた女性が座っている。
逃げなきゃ。

それしか助かる道はない。
さっきボコボコに殴られてたせいか、後ろ手に縛られたロープが少しだけ緩んでいる。体を揺らしてロープをずらす。
頑張れば手が抜けるかも。

くっ。
はやく!
あいつが戻って来る前に。

「んっ」
目の前で縛られた女性が声をあげた。
意識が戻ったようだ。

「だ、大丈夫ですか?」
俺は声をかけると、彼女は顔を上げる。
彼女は30歳くらいだろうか?整った顔立ちだか赤く腫れている。殴られたのだろう。
彼女はキョロキョロと周りを見渡して
「ここは?」


「わからない」

とりあえずここから逃げないと!
考えるのはここを出てからでいい。
もうちょっとで手が抜ける…
はやくはやく!

「あなたは…サカザキ」
前の女性は真っ直ぐ俺を見ていった。

だれだよ? しらねーよ。
俺はそのサカザキに勘違いされてんのか。
「俺は…」
サカザキじゃない!っと言おうとしたら、あの男が戻ってきた。

「お、二人とも気がついたか」

「…」
また殴られるのか? いやだ。いやだ。
もう少しで手のロープがほどけそうなのに。

「よし第二ラウンドだ。鍵はどこだ?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 僕はサカザキじゃない。本当に何も知らない!」

「しらばっくれんじゃねーよ」
そう言うと男は懐から拳銃を出した。
銃口を俺の額に当てる。

「ほ、ほんとうなんだ…俺は田中一郎」

「ははは、お前面白いな。もっとマシな偽名にしろよ。余裕かましやがって…[ピーーー]ぞ」

そうだよ。俺こいつの顔見ちゃってるし、知らないなら用済みだ。
こいつはサカザキに用がある。だから勘違いされている俺は今殺されていない。

「じゃあこっちを殺すぞ、こいつお前の女だろ」
男は銃口を女性に向けた。
「いやぁ! た助けて」
女性は恐怖に声をあげる。

「待ってくれ…その人のことも知らないんだ」

「サカザキって野郎は冷酷無比と聞いたが、自分の女すら切り捨てるのか? 10秒以内に答えろ。言わないなら女は殺す」

嘘だろ….
言いたくても俺は知らない

「10…」

ど、どうすれば

「9」

「本当に知らないんだ!! 答えようがない!」

「8」

「いやぁぁあ」
女性は首をふって逃げようとするが、男は髪を掴んで頭に銃口を押し付ける。

「7」

手のロープがあとちょっとで解ける。はやくはやく!

「6」

「たのむ! まってくれ! 話し合おう」

「5」

解けた! 男には気づかれていない。これで手は動かせる。でも体は縛られたまま簡単には動けない。

「4」

「いやぁぁぁ」

「3」

どうする?彼女が殺される。

「2」

やるしかない。
「わかった、言うよ! だからやめてくれ」

「そうか……」男は銃口を俺の方へ向けると「どこだ?」


「鍵は俺の靴の中だ」
もちろんハッタリだ。男は俺に近づく。

男が靴に調べる為しゃがもうとした瞬間、俺は拳を固め思いっきり男の顔を殴った。
目を狙って打った俺の拳は、ぐしゃりと何かが潰れる感触があった。

「ああああああぁぁあっ!!!!!」
男は目を押さえ絶叫した。やった。
俺は急いで体のロープを外す。

逃げなきゃ!
男はうずくまって、のたうち回る。

俺は女性のロープを外す。
「まさか助かるなんて……」
そう言った女性は案外冷静に見えた。

「逃げよう!」
俺と女性は無事脱出した。

監禁場所から離れて、暗がりの路地に身を潜める。
「もう大丈夫そうだね。追ってくる人もいない…警察に」
俺は腰が抜けたかのように、その場に座り込んだ。
「本当に貴方に助けられるなんてね」

「え?」

「覚えていないの?奴らに捕まった時のこと」
え?
街灯に照らされた彼女を見て記憶が戻る。
そうだ。会社帰り歩いてたら、彼女が走ってきて…

「助けてください!」
ってしがみ付いてきたんだ。そしてすぐ後に奴らが来て殴られて連れ去られた。

「君は奴らが何者か知っていたのか?」

「当たり前じゃない、だって私が



サカザキだから」

俺はこいつのせいでこんな目にあったのか。

「どうにも逃げ切れないと思ってね。たまたま通りかかった貴方に、サカザキになってもらったのよ。奴らサカザキは男だと思ってたみたいだから」
女性は後ろにまとめた髪を下ろす。中から何かを出した。

鍵……?

「ふざけんなよ、俺まったく無関係じゃねぇか! 一緒に警察に来てもらうぞ」

「私はもう助からないと思っていたわ、感謝している。これは奴らの隠し金庫の鍵」
彼女は拳銃を俺に向ける。
あれはあの男の……いつの間に。

「でも貴方は用済み」
サカザキは引き金を引いた。


END

おつ

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