晴人「宙に舞う牙」(828)
穏やかな昼下がり、骨董店・面影堂で操真晴人はソファーにゆったりと腰をかけて、くつろいでいた。
手には好物のドーナツ、プレーンシュガー。一口かじり、味わうように咀嚼する。
口の中にまぶされた白い粉砂糖の甘みが広がっていく。
また一口かじる。そんなことを繰りかえす。
至福の時間だ。
「平和ですねえ」
向かいのソファーでは晴人の弟子を自称する青年、奈良瞬平もドーナツを食べていた。
派手な色合いの服を着る瞬平は、まるでサーカスの道化師だ。
今、二人が食べているドーナツは瞬平がお土産にと買ってきてくれたものだ。
「おいしい~」
わざとらしいまでに顔をほころばせる瞬平。
瞬平は表現がオーバーだ。喜怒哀楽が激しい。
この幸せそうな顔も道化芝居でもなく瞬平の素なのだ。
面白い奴だよな……晴人は心の中で呟き、かじって小さくなったプレーンシュガーを口に放り込んだ。
瞬平は窓から差し込む陽光を見ながら言う。
「いい天気ですね。外に出るのも悪くないけど、こうしてここでのんびりするのも良いですよねえ」
「ああ、全くだ」
「こういう日は何も起きないといいですよね あっ! でも、そういうこと言った時に限って何か起きちゃうんですよねえ」
「おい、やめろ」
洒落にならない。晴人が言い終える前に、面影堂の扉が慌ただしく開いた。
晴人はガクッと頭を下げる。平穏は一瞬で崩れた。
扉の方へ視線を移すと晴人と瞬平のよく知る女性がいた。
動きやすいように肩口の辺りで切り揃えられた髪、パンツスタイルのスーツ、キリッとした意志の強そうな瞳。
鳥井坂警察署の刑事、大門凛子だ。
「晴人さん、本当に起きちゃいましたね」
「お前のせいだぞ、瞬平」
真顔で驚く瞬平に晴人は恨み言をこぼした。
急いできたのだろうか、凛子は息を切らせながら二人の元へやってくる。
「どうしたんですか、凛子さん? そんな慌てなくても凛子さんの分のドーナッツはちゃんとありますよ」
瞬平は「ど~なつ屋はんぐり~」の袋からドーナッツを1つ、凛子に渡そうとするが
「どいて!」
「うわああああ!」
おもいっきり突き飛ばされてしまった。
その拍子に渡そうとしたドーナツが明後日の方向へと飛んでいく。
「「「あっ……」」」
三人の声が重なる。
スロモーションの映像を見ているかのように、綺麗な放物線を描くドーナツに釘付けになる三人。
その中で晴人はいち早く我に返った。
(間に合え!)
晴人は素早く右中指に指輪をはめてズボンの、ベルトを巻いた時にバックルのある位置に付いている手の形をした装飾『ハンドオーサー』に指輪をかざす。
コネクト! プリーズ!
独特の音声と共に現れた魔法陣に手を入れると少し離れた所に魔法陣がもう1つ現れ、晴人の手が飛び出てくる。
空間と空間をつなぐ魔法の指輪の力だ。
魔法陣から出てきた晴人の手にドーナツがちょうど落ちてくる。
「セ~フ」
晴人は空いた手で野球の審判のように手を横に切った。瞬平と凛子がホッと安堵の息を漏らす声が聞こえた。
晴人は魔法陣に入れた手を引き、戻した手にあるドーナツを凛子に向けて差し出す。
「凛子ちゃん、とりあえずドーナツでも食べて落ち着きなよ」
晴人はいたずらっぽく笑った。
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食べるという工程を踏んだおかげか、凛子は落ち着きを取り戻していた。
だが、その顔はまだ晴れていなかった。
凛子は晴人の元へ来た理由を話しはじめた。
「最近、謎の消失事件が起きているの」
「消失? 失踪とかじゃないんですか?」
晴人の隣で瞬平がいち早く浮かんだ疑問をぶつけた。
晴人も同じだった。
人が行方をくらます失踪事件ならともかく人が消失、消えるなんてことがあるのだろうか?
「そう、消失。突然、人が消えるの」
凛子はカバンからファイルを取り出して、晴人に渡す。
晴人はファイルのページを開く。見開きの形で消えた人のことがまとめられていた。
1ページめくると同じように見開きでまとめらている。まためくる、同じだ。まためくる、同じだ。
ファイルには総勢4名が載っていた。
「もしかして、これ……全部?」
「消えた人よ」
青ざめた顔で聞く瞬平に凛子は沈痛な面持ちで答えた。瞬平は微かに震えた。
今度は晴人がファイルに目を落としたまま凛子に聞く。
「凛子ちゃん、消えた人はどうなったんだい?」
「わからないわ。ただ、宙に舞う牙が出てきて」
「牙?」
その単語に瞬平は上唇をつまみ上げて先の尖った歯、犬歯を覗かせた。
「目撃者の証言よ。何もない空中から突然、牙が出てきて人を襲うの。そして、襲われた人は透明になって消えるの」
「まるで魔法だな」
「ええ、だから晴人くんの力を貸して欲しいの。この件に関しては晴人くんと協力しろ、って木崎さんから」
「目には目を、魔法には魔法を、ってことだ」
いかにも合理的な木崎らしい、と晴人は思った。
「わかった、協力するよ。指輪の魔法使いにお任せあれ」
晴人はおどけるように笑って、右中指にはめている指輪を宙にかざした。
その仕草に凛子と瞬平もつられて笑った。
「晴人、大丈夫なの?」
面影堂のレジカウンターの方から、小さいけどよく通る声が聞こえてきた。
レジカウンターから顔を覗かせる少女、コヨミは長い艶やかな黒髪と何処か人形のような無表情さが特徴的だった。
どうやら晴人がこの事件に関わることを不安に感じているようだ。
「安心しろ。コヨミ」
晴人はソファーから立ち上がるとコヨミの元まで行き、コヨミの不安を消すように頭を撫でる。
ほんの少しコヨミの表情が和らいだように見えた。
「人が突然消える。そんなことを出来るのは間違いなくファントムだ。なら、俺のやることは決まっているだろ?」
子供に言い聞かせるように優しい声で晴人は言った。
コヨミは無言で頷く。了承してくれたようだ。
それを合図に瞬平が「よーしっ!」と気合を入れて、ソファーからガバッと立ちがる。
「絶対に消失事件の犯人を見つけ出しますよ! 僕、仁藤さんにも知らせてきます!」
言うが早いが瞬平は駆け出す。
思い立ったら、すぐ行動。瞬平のいい所だ。
「ちょっと瞬平くん! 見つけるって、どうやって探すつもり? こら、待ちなさい!」
走って面影堂を出て行く瞬平を、凛子がファイルをしまい追いかけていく。
扉の向こうからはギャイギャイと声が聞こえてくる。
面影堂には嵐が過ぎさったような静けさが残った。
「騒がしい……」
「そういうのにも馴れただろ? それじゃあ行ってくる」
呆れるように呟くコヨミの頭に、晴人はポンと手を置くと歩き出した。
・
・
・
面影堂を出た晴人は今回の消失事件について考える。
ファイルを見る限りでは既に4人は犠牲者が出ていた。
それは現在わかっている数でしかなく、実際はもっと犠牲者がいるとも考えられる。
それこそ瞬平の言っていたように失踪という形で。
ファントムは何をする気なのか?
犠牲者がゲートだとしたら、ファントム達が何か大きなことをやろうとしているのかもしれない。例えばサバトのような。
それとも単純にファントムが一般人を襲っているのかもしれない。
頭の中にかつての強敵が浮かび上がる。
とにかく、これ以上の被害を食い止めるために急いだ方が良さそうだ。
「宙に舞う牙……か」
キバとクロスか
期待
ウィザードとキバか。割と想像したことない組み合わせだ期待
ああキバクロスであってるのか、
キバとウィザードってファンタジーな要素多くて親和性高そうだなと思ってたんだよ
期待
芝生で遊ぶ子供やジョギングをする男性、犬の散歩をする女性、ベンチに座る老夫婦、鳥井坂公園のいつもの風景だ。
瞬平を見失った凛子と晴人は最近起きた奇妙なことや消失者について聞きこみをしながらファントムの手がかりを探していた。
「ここもダメか。人がたくさんいるから、何かいい情報が手に入ると思ったんだけど」
「仕方ないよ、凛子ちゃん」
人に化けて日常に溶け込んでいるファントムを見つけ出すのは至難の業だ。
わかっていることと言えば、宙に舞う牙という奇妙な手口を使うことだけ。
情報が少ない以上、とにかく自分の足を使って探すしかなかった。
しかし、成果は芳しくなかった。
「手詰まりか。こんな時にコヨミちゃんがいれば」
そこまで言った凛子はハッとなって口を閉じた。
「ごめんなさい。軽率だった」
「気にしなくていいよ。言いたいことはわかるし」
晴人は凛子の言わんとしたことを理解していた。
確かにコヨミがいれば人間とファントムを見分けられる力で、この状況を打開できるかもしれない。
それこそ、こちらから見つけて一方的に狩ることが出来る。
だが、いざファントムとの戦いになった時にコヨミを守りながら戦うとなると苦戦は必至だ。
ミイラ取りがミイラになるわけにはいかないし、何よりコヨミを戦いには巻き込みたくはなかった。
(くそ……)
晴人はポーカーフェイスのまま心の中で自分を叱責した。
コヨミの安全を考えた時、外に出さず面影堂に閉じ込めてしまうことが一番確かだという事実。それが晴人を苛立たせた。
「……?」
突然、何処かから美しい音色が聞こえてきた。
晴人は凛子の方を見ると凛子も不思議そうな顔をしている。どうやら凛子も同じように聞こえているようだ。
二人は音色に導かれるように歩いていくと公園の中心である噴水までたどり着いた。
噴水の前では若い女性がバイオリンを弾いていた。
右手に持つ弓で張られた弦を擦り、音を創りだす。
それは魔法のようだった。
「きれい……」
バイオリンの奏でる音色に凛子は思わずうっとりする。
晴人もまた女性の演奏に魅入られていた。
全てを包み込む優しい音色に先程まであった苛立ちはすっかり消えていた。
公園にいる誰もが女性の音の魔法に足を止める。
やがて女性の周りに人だかりが出来た。
女性は周囲の視線を気にすることなく演奏を続ける。
すると、奇妙なことが起こった。
女性の後ろの噴水で、丸みを帯びた逆三角形のようなものが浮かび上がった。
「何だ、あれ?」
晴人は見間違いかと思って、目をこすりもう一度逆三角形の物体を見た。
それはガラス細工のように透明だったが、確かにあった。
瞬間、晴人は直感した。
(宙に舞う牙!)
コネクト! プリーズ!
晴人は魔法陣から銀色の魔法銃剣『ウィザーソードガン』を取り出し、引き金をひいた。
銃口から放たれた弾丸は、それ自体が意思を持っているかのように人だかりの合間を縫うように動き、牙だけを正確に貫き砕いた。
ガラスが砕けたような音に女性は振り向いて噴水を見る。
すると、噴水から怪物が飛び出してきた。
怪物は黒い体に色鮮やかなガラス片であるステンドグラスを散りばめた姿をしている。
怪物の姿に人々が恐れおののき、叫びを上げて散っていく。
平穏な公園は既にステンドグラスの怪物による恐怖の舞台へと変わっていた。
晴人は女性を再び襲おうとする怪物に向かって銃弾を叩き込んだ。
「凛子ちゃん、ゲートは頼んだ!」
「ええ、任せて!」
晴人の叫びに凛子は応えると女性に駆け寄り、その場から女性を連れて離れた。
ステンドグラスの怪物は追おうとするが、
「おっと、そうはいかないな」
その前にウィザーソードガンを構えた晴人が立ちふさがる。
怪物は獲物を取り逃がした怒りを晴人へと向ける。
「下等な人間が随分なことをしてくれたな」
「ファントムの邪魔をするのが魔法使いの仕事でね」
「魔法使い……お前は何者だ?」
「ファントムの癖に俺を知らないのか? なら、教えてやるよ」
晴人は不敵に笑うと、右中指にはめた指輪をハンドオーサーにかざす。
ドライバーオン!
ハンドオーサーから特殊銀合金ソーサリウムが展開されると、晴人の腰に巻き付くベルト『ウィザードライバー』が姿を現した。
晴人は続けざまにウィザードライバーのシフトレバーを下ろす。ハンドオーサーが右向きから左向きへと反転する。
シャバドゥビタッチ・ヘンシーン! シャバドゥビタッチ・ヘンシーン!
軽快な声が呪文のように繰り返され、晴人を舞台にあげるコールとなって響く。
「変身!」
晴人は力強くつぶやくと、左中指にはめた赤い魔法石のついた指輪をハンドオーサーにかざす。
魔法石がハンドオーサーから放射される固有の振動によって、活性化し内に秘められた魔力を開放されていく。
フレイム! プリーズ! ヒーヒー! ヒーヒーヒー!
晴人の魔力が解放された指輪の魔力と同調・増幅し、赤い魔法陣となり晴人の全身を火の衣装で飾っていく。
左中指の指輪と同じ輝く赤い顔に漆黒のローブ。
火の力を司る指輪の魔法使いの登場だ。
仮面ライダーウィザード・フレイムスタイル。
それが舞台に上がった晴人の役だ。
ウィザードはお決まりのセリフを放つ。
「さあ……ショータイムだ!」
ショータイムだ、って最初は視聴者に向けて言っているのかと思ってました
これは期待
おぉ、ゾクゾクするねぇ
仮面ライダーキバレビュー
今週のキバ
http://yabou-karakuri.sakura.ne.jp/diary/hanpera/ryuuki/kibatop.htm
描写が細かく、かと言って長すぎずいいね
期待
地の文うまいなぁ。裏山。
期待。
仁藤と753が絡んだらややこしい事になりそうだな。
期待。
ナチュラルなライダー同士のクロスははじめてかもしれん。期待。
http://www.youtube.com/watch?v=JQ3XI_uZwgQ
ウィザードはソードガンを剣に変形させて、怪物へ立ち向かう。
軽快な剣さばきで怪物の体を切り裂いていく。
ジャグリングのように持ち手を右から左へと変えての一太刀。
怪物は拳を振り抜き反撃する。
普通の人間が喰らえば致命傷となる一撃だが、ウィザードには当たらない。
ウィザードはローブをはためかせながら踊るように舞い、華麗にかわした。
そして、怪物の攻撃の隙にもう一太刀を浴びせる。
堪らず怪物はウィザードと距離をとった。
ウィザードは剣を手元で回し、怪物に差し向けて言う。
「Shall we dance?」
ウィザードの気障な誘いに怪物は自分の腕の一部を砕くことで応えた。
ステンドグラスの様な怪物の一部が、手元で集合してひと振りの剣を形成する。
ウィザードと怪物は、互いの剣を何度も打ち合わせる。
やがて、鍔迫り合う型となり怪物は力任せにウィザードの剣を弾き飛ばした。
宙高くに舞う剣を見て、怪物は勝ち誇った様な声を出す。
「ダンスは御終いだな」
「そうでもないさ」
迫り来る怪物の剣を後ろに飛んでかわすウィザードは、余裕と言った声でシフトレバーを上げる。ハンドオーサーが左から右に反転させ、
ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!
指輪の魔力を解放する呪文と共に右の指輪をかざす。
エクステンド! プリーズ!
瞬間、落ちてくる剣に向かって突き出すウィザードの腕がありえない程に伸びていく。
物質の柔らかさを変化させ伸び縮みさせる指輪の力だ。
空中で剣をキャッチした腕を元の長さまで縮ませる。
そのままウィザードは明らかに怪物に当たらない距離にも関わらず剣を振る。
剣は怪物の皮膚を切り裂いた。剣を持つウィザードの腕が伸びたのだ。
ウィザードは自分の腕を鞭に見立てて、怪物の体を打ち据える。
剣の鞭を右往左往でかわす怪物の姿は踊っているように見えた。
「付き合っていられるか」
怪物はそう捨て台詞を吐くと背を向けて逃げ出そうとする。
「ショーの途中で退席とは無粋だな」
「後はこいつらが付き合ってくれる」
追いかけようとするウィザードに、怪物とはまた別のステンドグラスの怪物が複数立ちふさがる。
逃げた怪物の気配は消えた。ならば、さっさとこの舞台の幕を降ろそう。
「フィナーレだ!」
ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させる。
キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!
ハンドオーサーに左手の赤い指輪をかざす。
フレイム! スラッシュストライク! ヒッヒッヒッ!
刀身に膨大な炎が纏う。
剣を振る瞬間、ウィザードは右の指輪をかざす。
ビッグ! プリーズ!
浮かび上がる魔法陣に剣を入れると、剣は何十倍もの大きさに変わった。
「はあっ!」
気合とともにウィザードは長大な火の塊を横に薙ぎ、怪物を群れごと焼き払う。
絶命の雄叫びをあげると同時に、怪物たちの全身は色とりどりのガラス片となって砕け散った。
「ふぃ……」
舞台を終えたウィザードは小さく息を吐いた。
鞭になる手はルナジョーカーから拝借
きてた
おつ
乙
おつー
続きが気になる
キバは怪人の着ぐるみ改造流用が最も多いライダーなんだぜ・・・
そういえばウィザードもやたら流用が多い気が…
特撮の流用・改造はお約束
「じゃあ、私はそのファントムという怪物に?」
「そうだ。奏美さん、奴らの標的にされた」
「はあ……」
凛子が保護した女性、時田奏美はため息をついた。
「この街でコンサートをするために来たけれど、まさかこんなことになるなんて」
いきなり怪物に襲われて、見知らぬ女性(しかも刑事)から保護を受けて、古びた骨董品店に連れて行かれて、今度は自分が怪物に狙われているという話を聞かされる。
急展開過ぎて頭がどうにかなりそうだった。
これが夢か幻とも思いたかったが、現実だ。どうやら『事実は小説よりも奇なり』という言葉は本当らしい。
奏美のまだ夢から覚めていないようなぼんやりとした顔とは違い、晴人と凛子の表情は真剣そのものだった。
「奏美さん、コンサートは中止にした方がいいです。あなたはファントムに狙われています」
「それはダメ。私の演奏を楽しみにしている人がいるの。私の事情なんて関係ないわ」
「奏美さん」
凛子の申し出を奏美はきっぱりと断る。バイオリンケースを見る奏美の目には強い意志が込められていた。
「なら、せめてコンサート当日までは鳥井坂から」
「それもダメ。私はこの街の音楽と一つになるの」
「街の音楽?」
「街はね……風の音、ざわつく木、行き交う車や電車、そしてそこに住む人の声。溢れんばかりの無数の音が混じり合って、一つの音楽を奏でているの。街の音楽と一つになって、聴衆の心に残る演奏を届ける。それが私の音楽」
自身の音楽観を語る奏美は楽しそうだった。
「だから、わざわざ外で練習をしていたのか。街の音楽になるために」
「ええ」
奏美はバイオリンケースからバイオリンを取り出し、弦を弓で引く。
バイオリンから奏美という名前の通り、美しい音色が奏でられる。
奏美の演奏はスッと心に入っていく不思議なものだった。まるで聞きなれた曲の様な自然さが宿っている。
晴人は全身で奏美の音楽を聴いていた。聞こえてくる音が溶けて、体の中へとゆっくりと染み込んでいく。
(街の音楽……か)
その意味を晴人はおぼろげながら理解した。
やがて、演奏が終わると晴人と凛子は無意識の内に手を叩いていた。
レジカウンターの方からも控えめながらも同じ音が聞こえてくる。コヨミの拍手だ。
しかし、拍手を浴びる奏美の顔色は優れなかった。
「このバイオリンでは……ダメね」
「どうしてですか。とても素敵な演奏でしたよ?」
「世の中にはバイオリンはたくさんあるけど、私の音楽を表現してくれるバイオリンはたった一つしかないわ」
「じゃあ、そのバイオリンはどうしたんだ?」
晴人の当然な疑問に奏美はバツが悪そうな顔をした。
「恥ずかしい話なんだけど私の不注意で傷をつけちゃってね。今は隠れたるバイオリン修復の名人に任せてあるの。今日あたりに私の泊まっているホテルに来るはずなんだけど……」
「隠れたる」
「バイオリン修復の名人?」
そのいかにも胡散臭そうな単語に晴人と凛子は顔を見合わせた。
キバの流用、特に下半身は多かったよね。動いていると案外気づかないもんだけどさ
渡クルー!?
「……ここ何処?」
細身の青年は手元の地図を見て、そう呟いた。
周囲を見渡してみるが何もわからない。地図を見直しても同じだった。
「早くこれを届けなくちゃいけないのに」
青年は栗色の癖毛をいじりながら、足元にある長方形の箱に視線を移す。青年が仕事として頼まれ、クライアントから預かった物だった。
今日には届けてくれと言われた物だったので、こうして来たのだが見事に迷ってしまった。
「だから、静香と一緒にいけば良かったんだよ」
突然、何もない所から青年を嗜める声が聞こえてきた。
普通の人なら驚いて辺りを見回すような現象だったが、青年は特に動じることもなく声に向かって返す。
「だって、静香ちゃんは最近忙しいし」
「宅配とかだってあるだろ」
「そういうの良くわからないから。期日に届かないかもしれないでしょ? それにちゃんと自分の手で渡すまでが大事だと思うし」
「おおっ! 何か職人っぽいぜ、今のセリフ!」
「茶化さないでよ。もう……」
青年は口を尖らせながら、改めて地図を見る。
地図には目的地の周辺について詳しく描かれていた。
しかし、今日初めて鳥居坂にきた青年からしてみれば、地図は編み目模様の絵か複雑すぎる迷路にしか見えなかった。
「ああ~ダメだ。やっぱりわからない」
「おい、諦めるのが早いぞ。キバっていけ!」
声が発破をかけるが、青年は悩ましい顔のままだ。
すると、
「どうしたんですか?」
青年に声をかけてくる男性がいた。瞬平だ。
青年の渋い顔を見て、思わず声をかけたのだ。
困っている人を放っておけない瞬平らしい。
「何か困っているみたいですけど」
「実は道に迷っちゃって。ここ、わかりますか?」
「ちょっと待ってください。……鳥居坂ホテル、ここなら知ってますよ」
「本当ですか? あの、迷惑を承知で頼みたいんですけど案内してくれませんか?」
「いいですよ。僕、奈良瞬平って言います。えっと」
「渡。紅……渡です」
鳥居坂ホテルへと向かう渡と瞬平は並んで歩いていた。
「へえ。渡さんって普段はバイオリンを作ってるんですか?」
「はい。家で静かに」
「じゃあ、もしかしてその箱の中身もバイオリンですか?」
「これは修理を頼まれたもので僕のじゃないんです」
「修理!? 作るだけじゃなくて、修理もやっているんですか! すっごいですね!」
「いや、知り合いが勝手に引き受けちゃうだけで」
文句を言う渡だったが、言葉とは裏腹に顔は笑っていて、照れくさそうに頭をかいた。
(良かった。いい人で)
人と関わることが苦手な渡はどうしても自分からだと上手く話すことが出来なかった。会話も続かないことも多い。
だから、瞬平のように積極的に話かけてくれる相手は非常に助かった。
「瞬平さんは普段何をしているんですか?」
「そうですね。僕の恩人のお手伝いをしているんです」
「恩人ですか?」
「はい! 僕を絶望から救ってくれた、希望をくれた凄い人なんです!」
「そ、そうですか」
そう熱く語る瞬平を見て、渡は若干引きながら考える。
自分にとって恩人と言える人はたくさんいる。みんな、自分にはもったいない位にいい人ばかりだ。
きっと瞬平の恩人も素晴らしい人だと想像に難くはなかった。
(どんな音楽を奏でるんだろう。会ってみたいな)
瞬平の恩人を頭で描きながら歩いていると突然、渡の頭に1つの音が走った。
それは渡にしか聞こえない不思議な音色だった。
音は渡の頭で何度も繰り返され「戦え」と告げる。
「渡さん?」
不意に足を止めた渡に瞬平がどうかしたのかと聞いてくる。
「えっと、すみません。ここまで来れば大丈夫です。ありがとうございました」
渡はペコリと頭を下げると、その場から駆け出す。
渡が走っていく方向は鳥居坂ホテルと全く関係のない方向だった。
乙
キバ、来るか!?
乙
キバの鎧をファントムに見間違えたりするかな…?
ウィザードはファンガイアには見えないけど
いきなり飛翔態ですっ飛んできたらファントムと思うかも知れない
渡は頭に響く音の導きのままに走り続ける。自分がどこへ向かっているのか皆目見当もつかない。
それでも自分が明確な目的地へと足を回しているのは理解できた。そこで自分がやるべきことも。
そして、渡は若い女性を追い詰めるステンドグラスの怪物を発見した。
怪物は宙に舞う牙を出現させる。
その様子をみた渡は上着の内ポケットに手を滑り込ませて、何かを取り出そうとした。
「やめろ―――!」
渡の後ろから追いかけて来た瞬平が怪物に吠えた。
しかし、怪物は瞬平の叫びなど聞こえてないかのように牙を女性に向かって放つ。牙に刺された女性がガラスの様にどんどん透明になっていく。
「大丈夫ですか!?」
瞬平が女性にかけより言葉をかける。返事はない。体を揺すってみる。冷たかった。
女性は糸が切れた人形の様に頭から倒れこむ。
パリンッ!
ガラスが砕け散ったような音がすると、女性は服だけ残して消えた。
女性は死んだ。瞬平はそれを本能で理解した。
「ファントムゥゥゥ!!」
普段の瞬平からは想像出来ない程の荒げた声で、わきあがる激情のまま怪物に掴みかかる。
「またそれか。誇り高き『ファンガイア』を亡霊呼ばわりとはふざけた話だ」
「ファンガイア?」
「そうだ。貴様ら人間よりも上の高貴なる存在だ。俺の真名は……下等な人間に教える必要はないな」
ファンガイアと名乗る怪物は腕を払って、瞬平を引き剥がした。
常人を遥かに超える力で振り払われた瞬平の意識はあっという間にフェードアウトしていく。
「ちょうどいい。ついでに貴様の『ライフエナジー』を吸うとするか。ファンガイアに歯向かった罪は命で償え」
ファンガイアは獲物を喰らおうとゆっくりと近づいてくる。
渡は倒れる瞬平を庇うようにファンガイアの前に立った。
「渡さん……逃げて、ください」
その言葉を最後に瞬平の意識は暗闇に落ちた。
(ありがとう、瞬平さん)
薄れゆく意識の中でも自分の身を案じてくれた瞬平に渡は心の中で礼を言う。
渡は逃げなかった。
「なんだ、貴様も俺に命を捧げるか? とても光栄なことだぞ」
ファンガイアは宙に舞う牙を出現させて、命を吸おうとする。
「もう……あれから5年も経ってるのに」
「なに?」
「中学生だった静香ちゃんが大学に通っている。それだけ時間が経ったのに……まだ人を襲うファンガイアがいるなんて」
「貴様……何者だ?」
渡はファンガイアの問いに答えない。代わりにポケットに忍ばせていた物を投げた。
渡が放り投げた物体は金色の輝きを放っていた。縦横無尽に宙を駆け巡り、牙を切り裂く。
「ふぅ、暑かった。俺さまの美しい体が蒸れちまう所だったぜ」
「ごめん、キバット。後で体、洗ってあげるから」
渡は自分の投げた金色の物体、蝙蝠のような姿をした『キバットバットⅢ世』に謝った。
いくら翼を畳めば小さく収まるとは言え、窮屈な思いをさせてしまったことには違いない。
「にしても、こんな所にもいるんだな。強硬派の連中は」
「うん。後で嶋さんや兄さんにも連絡をとった方がいいかもしれない」
「それじゃあ、まずは目の前のことから片付けるか」
「いくよ、キバット!」
「おっしゃ! キバっていくぜ! ……ガブ!」
キバットが渡の手に噛みつき、渡の全身へアクティブフォースを注入する。
それは渡をキバットの持つ王の鎧を纏わせるための儀式だった。
アクティブフォースによって渡の中にある眠れる力が解放されてゆく。渡の顔に色鮮やかな模様が浮かび上がる。
次いで、渡の腰にいくつもの鎖が巻き付きついていき、一本の紅いベルトになった。
渡はキバットを掲げ、解き放たれていく本能のままにつぶやいた。
「……変身」
キバットをバックル部分の止まり木『パワールスト』にぶら下げると、渡の全身が鎧で包み込まれていく。
血のように紅い胴体。黒い四肢。右足と両肩には鎖。そして、蝙蝠を型どったような顔。
それは鎧を纏った高貴な騎士にも見えたし、異形の姿をした深紅の魔人にも見えた。
渡は仮面ライダーキバ・キバフォームへと姿を変えた。
今、キバをやったらフエッスルは絶対コレクターアイテムになるんだろうなあ
渡の微妙にズレた生死感がでとるのう
ファントム側も出てくるのかな
5年ということはそろそろ子供が…?
晴人もタイムリング使えば過去と未来行き来できるな
ファンガイアも絶望してファントムを生み出したりするのだろうか…
渡誰と結婚してるんだろ?
http://www.youtube.com/watch?v=oRPNv6BRz08
「キバ!」
ファンガイアは驚きを隠せなかった。
キバとは本来、自分たちファンガイアを統べる王が纏う鎧だ。
それなのにどうして同族の自分に戦いを挑むのか不思議だった。
ふと、ファンガイアの頭にある噂がよぎる。
キバの鎧を持ちながら同胞達を狩る男の噂を。
「貴様……王殺しの男と背徳の女王の!」
ファンガイアがキバに殴りかかる。
キバは黙々とその攻撃をさばいていく。
今度はキバがファンガイアに殴る。風のように速い攻撃だ。
喧嘩も格闘技の経験もない渡だが、戦い方は知っていた。
キバとしての本能が渡の体を突き動かしているのだ。
「舐めるな!」
ファンガイアは剣を出現させてキバへと斬りかかる。
いくらキバの鎧と言えど、まともに喰らえばかなりのダメージを受けてしまう。
キバは素早く身を動かし、斬撃を避け続ける。
防戦一方、このままでは拉致が開かない状況だ。
剣が振り下ろされて迫り来る。
ガキィイイン!
キバは鎧に纏われた腕で剣を真正面から受け止めた。
がら空きになったファンガイアの腹に拳を叩き込む。
衝撃でよろよろと後ろへ下がるファンガイア。
キバはその隙を逃さなかった。
一気に懐へ飛び込み、猛然と拳のラッシュを仕掛けて殴り飛ばす。
「渡、一気に決めようぜ!」
「……」
キバはベルトの右側のフエッスロットから『ウェイクアップフエッスル』を取り出すと、紅い笛をキバットの口に添えた。
http://www.youtube.com/watch?v=tXp99-A4atQ
「覚醒―ウェイクアップ―!」
キバットが笛を吹くと同時にキバは全身に力を込めるようにかがみ込む。
すると不思議なことが起きた。
笛の音色と共に、周囲が紅い霧に包まれ、空が闇で覆われていく。
キバが大きく右足をあげると、キバットがその足に巻き付いた鎖『カテナ』を解放させる。
戒めを解かれた右足から紅い蝙蝠の翼が姿をあらわす。
キバは片足で地面を蹴り、遥か空の向こうへと舞い上がる。
そのまま仰け反るように一回転すると、
「はあああああああっ!」
闇に輝く三日月からあらゆる物質を無に還す必殺のキック『ダークネスムーンブレイク』を放ち、ファンガイアを地面に叩きつける。
地面に蝙蝠のような紋章が浮かび上がると、ファンガイアは色鮮やかなガラス片となって砕け散った。
ファンガイアの絶命と共に闇が晴れていった。
・
・
・
「何者なの、あいつ?」
ファンガイアを倒し、その場から去ってゆくキバを険しい目で見つめる少女がいた。
ファントム、メデューサだ。
妙な力を感じ取り、現場へと足を運んでみたら自分の知らないファントムが戦っていた。
いや、それはファントムではなかった。
何故ならその2体の怪物は魔力とは全く違う力を宿していたからだ。例えるなら命の力と言うべきだろうか。
正体を確かめるためにメデューサはキバに向かって、攻撃をしかけようとする。
「はい。ストーップ! よくわかっていない相手に手を出すのは危ないよ、ミサちゃん」
「グレムリン……」
「だからさあ、僕の名前はソラだって。いい加減、覚えてよ」
馴れ馴れしく声をかけてくる帽子の青年、ファントムのグレムリンだ。
事を中断させられたメデューサは苛立たしげにソラの顔をみる。
「どうして止めるの? あれは危険な存在かもしれないわ」
「そうだね。強い力を感じるよね」
「だったら!」
「でもさあ、あれだけじゃないみたいなんだよね……外からのお客様は。団体さんで来てるみたい。僕も何人か見つけたよ」
「一体、何が起きてるっていうの……」
「そんなのわからないよ。でも、面白いよね」
「面白い?」
「魔法使いと僕らファントムの戦いの舞台に、全く別の舞台の役者が紛れ込む。どうなっちゃうんだろうね~」
そう言うとソラは「くふふふ」という気色の悪い笑みを漏らした。
徒手空拳のキバフォーム単体だと戦闘シーン書きづらい
乙
(あれ?格闘経験ありまくr…)
乙
乙
瞬平は名護さんの弟子になりなさい
実戦タイプやから…
瞬平が意識を取り戻した時、そこは病院のベットだった。
看護師に話を聞いたところ自分が倒れているという連絡があり、それで運び込まれたそうだ。
誰が連絡をしてくれたのか? 渡の安否は?
そもそも襲われそうになった自分がどうして無事なのか?
疑問はいくつも残るが、瞬平はひとまず晴人に連絡し、事の顛末を話した。
「ファンガイア……ファントムはそう名乗ったんだな?」
「はい。なんだか凄い上から目線で嫌な感じでした。そいつが宙に舞う牙を出して、人を襲っていました」
「そのファンガイアとか言うのが消失事件の犯人ってことか」
晴人はケータイを耳に押し当てたまま、奏美の方へと視線を移す。
「すごい! 動いてる!」
奏美は自分の使い魔プラモンスターの1体である『レッドガルーダ』を興味深そうに見ている。
ゲートを絶望させ、新たなファントムを産みだすことがファントムの目的だ。
そのためファントムは狙ったゲートを執拗に追い回していくことが多い。
当然、奏美をホテルへと連れて行く途中にステンドグラスのファントムの襲撃があると警戒していた。
だが、起きなかった。それどころか別の人が襲われた。
今まで倒してきたファントムの手口とは明らかに違う。
「一体、何者なんでしょうね。ファンガイアって?」
「ファンガイアっていう名前のファントムなのか。それともファントムとは全く違う何かかもしれない。まあ、とにかく瞬平が無事でよかった」
「……」
瞬平の無事を気遣う晴人の言葉に瞬平は押し黙った。
脳裏に浮かぶのはファンガイアに襲われた女性だった。
「瞬平?」
ケータイからは瞬平の嗚咽混じりの声が聞こえてきた。
「僕、何も出来ませんでした。目の前で人が襲われていたのに助けられませんでした。人が死ぬのをただ見ているだけでした」
晴人の中で瞬平の言う「死」というキーワードが引っかかった。
「死ぬ? どういうことだ、瞬平?」
「ファンガイアに、宙に舞う牙に襲われた人は透明になって死んだです」
晴人は自然とケータイを強く握った。
消失事件、消えて失くなる。言葉の通りだ。
「僕は晴人さんの弟子なのに誰かの希望になることが出来ませんでした。僕に力があれば……魔法が使えたら」
願わずにはいられなかった。
だが、それは叶わない。瞬平自身もわかっている。余計に無力感がつのった。
晴人はしばらく黙っていたが、やがて瞬平に語りかけた。
「瞬平はよくやってくれてるよ」
「晴人さん」
「瞬平のおかげで俺は今こうしてファンガイアのことを知れたんだ。魔法なんか使えなくたって、瞬平は間違いなく消失事件解決の力になったんだ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
晴人は力強く言った。
人々に希望を与える魔法使いとしての真摯な言葉だった。
そして、その言葉は確かに瞬平の心に届いた。
「やっぱり晴人さんはスゴイですね」
「師匠として弟子の面倒はみなくちゃいけないからな」
ケータイからは瞬平の小さく笑う声が聞こえた。
安心した晴人は同時に頭で別のことを考えていた。
(ファンガイア……木崎なら何か知ってるかもな)
オチとかゲートで色々言われてる九官鳥回だけど、凛子と瞬平っていう晴人に希望をもらった二人がゲートの希望として奔走していて個人的には好きなんだ
クウガやアギトを経た警察組織とかだったらこの世界の警察がものすごい有能になったりするんだろうか
イクサとGシリーズは共通規格になってるだろうな
平成ライダー世界が一緒になったら
風都から振り切る人が0課に出向するだろうww
5103「あの……」
加賀美「その…」
流星「未来は…」
0課がG3ユニットと統合されてそうだなw
散々迷った挙句、ようやく目的地にたどり着いた渡は一人の男に連絡をとっていた。
「そうか。やはり強硬派は鳥居坂に来ていたか」
「はい。だから、僕はもう少しこの街で色々と調べてみようと思います」
「わかった。滞在費に関しては会の方で出そう。また正夫くんに寂しい思いをさせてしまうのは心苦しいが」
「大丈夫です。正夫には皆さんがいてくれますから。何より……」
「君も色々と大変だったようだね」
渡は思わず苦笑いを浮かべた。
確かに自分の最愛のパートナーと結ばれるまでいくつも波乱があった。
特に相手の両親への説得には苦労した。
安定した収入があるわけでもない。おまけに自分は『お化け太郎』と呼ばれ、地元では根も葉もない噂もあった。
渡は相手の両親を説得するために、恋人に向けて作ったバイオリンの曲を聞かせた。
恋人への純粋な想いが込められたその曲は両親の心を打った。結果的に恋人の両親は二人の結婚を認めた。
今では一人息子の正夫を設け、周りの助けも借りて一緒に暮らしている。
「すまないとは思っているんだ。こういうことは一度や二度ではないのに。だが、我々には君の力が必要だ」
「いいんです。これは僕が望んでやっていることですから」
「やはり君はお父さんの息子だな」
「父さんに?」
「自分の望むことを一途にやり続ける。君のお父さんはそういう男だったよ」
「……」
「とにかく何かわかったら連絡してくれ」
「わかりました」
ケータイを切ってホテルのロビーへと歩き出す。すると向こうから来た一人の青年とすれ違った。
青年は渡と同じ今時珍しいガラケーを耳に押し当てたまま喋っていた。
「へえ、もう調べ終わったのか。流石に仕事が早いな、国安さまは」
青年は右中指に大きな指輪をしていた。操真晴人だった。
・
・
・
警視庁捜査課には1課、2課、3課とあり、それぞれ違う役割を当てられている。
1課ならば殺人や傷害などの凶悪事件、2課なら汚職や詐欺・横領といった知能犯罪、3課は窃盗などの盗犯というように。
しかし、時としてファントムのような怪物が絡んだ常識を越えた事件が起きることがある。そういった通常の課では対処できない事件に対して国が設立した課があった。
国家安全局0課。通称『国安0課』は、ファントムの活動が活発な鳥居坂にも設立されている。
0課の警視、木崎はデスクに積まれた膨大なファイルの1つを眼鏡を通して舐めるように見ていた。
木崎は視線をファイルから動かすことなく自分の元へ来た晴人に言った。
「お前は風都を知っているか?」
「風都? ああ、知ってるさ。風の街だろ? テレビでもたまに取り上げられるし」
確かその時は風麺という屋台が紹介されていたはずだ。街のいたる所に風車があるのが印象的だった。
何年か前にテロ紛いなことが起きて、街の象徴である風都タワーが爆破された事件は新聞の一面にも取り上げられたほどだ。
「風都警察署には『超常犯罪捜査課』という課が独自にあってな。今回の消失事件について、そこが持っている過去のデータと照合させてみたが該当するものはなかった」
だが……、と木崎は続ける。
「奈良瞬平の言うファンガイアという言葉から過去の0課の資料を漁ってみたら、ごく僅かながら資料が見つかった」
「それでファンガイアって何者なんだ?」
「ファンガイアとは人類が誕生する以前から存在する1つの種族だ。普段は人間に姿を変えているが、時として人間を捕食する」
「捕食……人を食うのか?」
「ファンガイアは人間の生命力を自分たちの命、ライフエナジーに変換して吸うようだ。その時に使われる手口が」
「宙に舞う牙ってことか。まるで吸血鬼だ」
「ああ、全くだ。だが、ファンガイアは5年前の内乱をきっかけに人類と共存する道を選んだそうだ」
「ちょっと待ってくれ。じゃあ、どうしてファンガイアは人を襲ったんだ?」
「それはわからん。言っただろう、ごく僅かな資料だと」
木崎はファイルをデスクにやや乱暴に投げると、メガネを取り外して目を休ませるように何度か瞬きをする。
苛立っているのは見て取れた。
(こりゃあ触らぬ神に祟りなしだな)
聞きたいことは聞けたので、晴人は木崎の執務室を出ようとする。
去っていく晴人の背中に木崎は「待て」と声をかけた。
「お前が保護した女性、時田奏美はバイオリン奏者らしいな」
「ああ。音楽には詳しくないけど、すごくいい音楽だった」
「ファンガイアの多くは美しい物や芸術などに目がないそうだ。だから……警戒しておけ」
意外な言葉に晴人はおもわず振り返った。
警戒しておけ、まさか木崎から自分を気遣うような言葉を聞けるとは思わなかった。
もちろん、それを指摘すれば否定するだろうが。
「木崎、あんたって不器用だな」
晴人の言葉に木崎は黙ったままお茶をすすった。
小説版のキバだったら静香は高校生だし渡と結ばれてもいいと思うんだけどね
おつおつ
つまりここでは妻は不明、というか詳細を明かさず書くのね
ひょっとして照井さんも来るのか
保守。
奏美は鳥居坂公園でバイオリンを弾いていた。
体の力を抜き、全身で街に流れる音楽を聞く。
流れには逆らわず、一体に。
(うん。やっぱり、このバイオリンが合う)
渡に任せたバイオリンの修理は完璧だった。奏美が望む鳥居坂の音を見事に表現してくれる。
美しい音色が風にのって遠くへと流れていく。
晴人はベンチに座りながら、奏美の演奏をBGMにプレーンシュガーのドーナツを食べていた。
最初は外での練習は危険だ、と言ったが奏美は聞かなかった。
「狙われているなら何処で練習していても同じでしょ?」
それを言われると晴人は何も言いかえさなかった。
いくら危険だとか命が狙われているだとか伝えても、相手には相手の生活がある。
(誰にだって譲れないものはあるしな)
それを蔑ろにしてまで誰かの希望にはなりたくなかった。
だから今もこうして奏美を拘束するようなことはせずに見守っている。
晴人はチラリと視線を横に流す。
そこには奏美のいう隠れたるバイオリン修復の名人、紅渡がいた。
自分と同い年か少し年上に見える青年は静かに、奏美が奏でる街の音楽に耳を傾けていた。
「どうかしら?」演奏を終えた奏美が晴人に聞いてくる。
「ああ、悪くない。むしろ前よりも良くなってる気がする」
「あら、分かるの?」少し嬉しそうな奏美。
「何となくだけどね」
晴人の答えに奏美は小さく笑った。
「あなたはどう?」
気を良くした奏美は同様の質問を今度は渡にする。
渡は考えるように頭を掻いて言った。
「もっと強く弾いてみたらどうですか」
「強く? どういう意味かしら?」
奏美はほんの少し眉根を寄せた。渡は気づかないまま続ける。
「音は綺麗なんですけど、それだけって言うか。奏美さんの音楽が聞こえてこないんです」
奏美が明らかに不機嫌そうな顔になった。
おいおい……と晴人は思った。
何も今そんなことを言わなくてもいいだろ。
渡の発言に奏美は食ってかかった。
「私の音楽ってどういうことよ?」
「それは僕にもわかりません。でも、奏美さんには奏美さんの音楽があります。それを閉じ込めるのはもったいないと思います」
奏美の勢いに萎縮し、渡の声は尻すぼみになった。だが、渡の感じたままの言葉に奏美は微かに動揺していた。
私が自分の音楽を閉じ込めている?
一瞬、頭の中に昔の光景がフラッシュバックする。
小さかった頃の自分。楽器を弾くのが楽しくて仕方なかった。
そんな自分を遠くから見つめてくる暗い視線と声。
ちょっと上手いからって、でしゃばりすぎ。
あんたが出来るせいで、比べられる私たちが怒られるのよ。
周りに合わせてよ。
空気読んで欲しいんだけど。
奏美は慌てて脳内のイメージを振り払った。
「街の音楽が……誰にでも受け入れてもらえる音楽が私の音楽よ」
力強く自分に言い聞かせるように奏美は言い切ると、その場から去っていこうとする。
「どこに行くんだい、奏美さん」
「練習場所を変えるだけよ。ついてこないで」
「……ふぃ」
晴人はため息をつくと指輪をはめながらハンドオーサーにかざす。
ユニコーン!
空中に四角い魔法陣が描かれ、無数の青い破片が飛び出し、カチャカチャと集まっていく。
破片はプラモンスターの1体『ブルーユニコーン』を形成した。
晴人は召喚に使った指輪を青い使い魔にはめて、奏美の追跡を指示する。
「今のは……」
「俺、魔法使いなんだ」
不思議そうに見る渡に晴人は指輪を見せた。
遅くてスマンね。やはり思いつきでスレは立てるもんじゃない
おつおつ良い感じよー
おっつおっつ
いいよ、ゆっくりでも
丁寧で安心するから、待ってられる
乙
いい…実にいい…
乙乙。実にいい!エキサイティン!
晴人はベンチの背もたれに体を預けると、奏美の去った方を悲しそうに見つめる渡に声をかけた。
「紅……渡さんだっけ?」
「渡でいいです。えっと」
「操真晴人。晴人でいいよ。あのさ、渡」
「なんですか晴人さん?」
気さくに話しかける晴人と対照的に渡はやや固い敬語のままだ。
「渡はやっぱり音楽を習っているのか?」
会話のきっかけとしては妥当だろう。
バイオリンの修復をやっている人間なのだから音楽を嗜んでいるに違いない。
「いいえ、特には。昔、友達に薦められてギターを少しやった位です」
「……そうか」予想を裏切る答えに内心驚きつつも晴人は相槌を打つ。
「あと僕、本業はバイオリン作りなんです。修理はついでみたいなもので」
「でも、バイオリン作りとなると随分と専門的だろ。やっぱり誰かから教わったのか?」
「えっと……最初は見よう見まねでした」
「は?」
今度こそポーカーフェイスを保てず晴人は思わず真顔になった。
渡は晴人を驚かせてしまったことに申し訳なさそうに説明する。
「僕の家には父さんが作りかけたバイオリンがいくつかあったんです。多分、途中で失敗だとわかってやめた物だと思います。初めはそういった作りかけのバイオリン同士を組み合わせて、作りました。でも、線……板の形が合わないから、すごく歪なバイオリンができたんですけど」
数をこなしていくと既に出来ている板に沿って線を描くことから自分で線を描いてみた。
他にも板につかう木片やバイオリンに塗るニスの材料を探したりもした。
そうして色々と試していく内に、いつの間にかバイオリンを作る技術を身につけてしまった、と渡は語った。
普通なら有り得ないと鼻で笑い飛ばせるが、渡が嘘をついているようには見えない。
恐らく真実なのだろう。
晴人は感嘆の息を漏らした。
「要するに独学ってことか」
「一度すごい先生に教わったことはあったんですけど」
一瞬、渡は青い空を見上げる。寂しそうな顔をしていた。
晴人はあえて触れず、はんぐり~の袋からプレーンシュガーを出すと渡に差し出した。
「やるよ。お近づきの印だ」
「あ……どうも」
「あまり暗い顔をするもんじゃない。って、喋らせちゃったのは俺の方だな。わるい」
晴人は軽く謝ると自分の分のプレーンシュガーを出してかじった。
渡も晴人の気遣いにあえて触れず、
(いくつ買ってあるんだろう?)
そんなことを思いながら貰ったドーナツを口に含む。美味い。
揚げた生地の柔らかさとまぶされた粉砂糖の程よい甘さがハーモニーを奏でている。
行きつけの喫茶店『カフェ・マル・ダムール』で出すコーヒーが合いそうだ。
「美味いだろ? 俺の一推しだ」
「はい。美味しいです」
自分のことのように得意になる晴人に渡は素直に答える。それまで固かった渡の雰囲気が和らいだ。
「さっき言っていた奏美さんの音楽が聞こえてこないってどういう意味だ?」
「人間は皆、音楽を奏でているんです。僕はその音楽を大事にして欲しい」
「えっと、つまり……奏美さんは自分に嘘をついているって言いたいのか」
「奏美さんは心の声に耳を傾けていない。塞いでいる気がします」
「自分の音楽……心の声ねえ」
言わんとしていることは分かるが随分と抽象的だ。
もっとも芸術に携わって生きている人間というのは普通の人とは別の層で生きているイメージがあるし、案外そういうものなのかもしれない。
晴人は不意に渡を試したくなった。
「俺の音楽はどう聞こえるんだ?」
「……とても強い意思を感じます。大切な何かを守ろうとする」
「なんだか胡散臭いな」
「そ、そんなことは」
「冗談だ。当たっている」
「ホッ……」
「渡にもあるのか? 守りたいもの」
「ありますよ。たとえ世界の全てを敵に回しても守りたい人が」
歯が浮きそうな程に恥ずかしい台詞を静かに言う渡を晴人は茶化さなかった。
渡の瞳には表には出さないが自分と同じ、傷ついたとしても何かを成そうとする覚悟のようなものが見えたからだ。
先日、小説電王が届いた時に「クライマックスからのフィナーレ」という安直な発想をした
乙乙
渡もやっぱり愛に生きてるのか
血筋か
乙
乙乙
引き込まれるなあ
練習場所を変えて演奏する奏美の顔色は優れなかった。
明らかに音が乱れている。心もだ。
原因はわかっている。さきほど、渡に言われた言葉だった。
自分の音楽を閉じ込めている。それは奏美がずっとやってきたことだった。
奏美が小学校六年生の頃、道徳の時間に宿題が1つ出た。
内容は「親に自分の名前の意味を聞いてみましょう」といったものだ。
家族三人の夕食の時に聞いてみると両親は答えた。
「まだ奏美がお母さんのお腹の中にいなかった頃なんだけどね」
「父さんと母さんが二人で浜辺に行った時、男の人が海に向かってバイオリンを弾いていたんだ。その演奏がすごくてな」
「とても優しくて綺麗だったの。今でも忘れられないわ」
「奏美には、あの男の人の演奏のような、美しい音色を奏でて誰かを優しい気持ちにさせられる子になって欲しいんだ」
そんな願いをこめて父親が奏美と名付けたそうだ。
幼い奏美は地元のアマチュアオーケストラに所属しており、自分の音楽を表現していた。
奏美の奏でる美しい音色は、人を癒す優しいものだった。
周囲の人は奏美の演奏を手放しに褒めてくれた……一部を除いて。
それは自分より四、五つほど年の離れた高校生たちだった。
彼女たちは自分より年下の奏美の演奏に対して尊敬よりも嫉妬が先走った。
小学生の癖に生意気だ。
自分たちが練習で失敗すると何かと指揮者から奏美と比較される。
ウザったい。こっちもこっちなりにやっているのに言ってくる指揮者もそうだが、それ以上に演奏を完璧にこなす奏美が。
いつしか奏美は彼女たちからいじめを受けだした。
暴力や楽譜を隠される、といったものではなく、暗い視線と声。
それは奏美にとって黒い絵の具だった。
自分を褒めてくれる大人たちの言葉で嬉しくなった気持ちを上から全て真っ黒に塗りつぶされた。
幼い奏美には彼女たちの悪意を耐えるには荷が重すぎた。
心が痛くて辛い。
でも、バイオリンを弾くのは好きだし、誰かに褒められるのは嬉しい。
なまじ、そういった救いがあったから続けられたのか、抜け出せなかったのか。
奏美にはわからなかった。
ただ奏美はあることを学んだ。
出しゃばってはいけない。自分の弾くバイオリンは誰かの気持ちを乱してしまうのだ。
音楽は楽しいだけじゃない。それを理解した瞬間、奏美は自分の音楽に鍵をかけた。
それから奏美は自分の音楽は表現せず、ただひたすら周囲にあわせた。
全身で、その場の音楽を聞いて、流れには逆らわず、一体に。
やがてプロになった奏美はソロで演奏する道を選んだ。
独りなら、きっと自分の好きなように思いっきりバイオリンを弾けるはずだという希望があった。
しかし奏美の心の奥底には暗い視線と声への恐怖がへばりついていた。
もし、聴衆に自分の音楽を拒絶されたら?
痛くて辛い。
もちろん、そんな仮定は自分の考えすぎでしかないと理解していた。
それでも一度、頭の中で描いてしまったものはいつまでもしつこく残った。べったりと。
結局、奏美は自分の音楽を解き放てず、今まで通りの演奏スタイルをとった。
こっちの方が長くやってるからやりやすいし……そうやって自分を肯定させた。
やることは特別変わらない。
流れには逆らわず、一体に。
ただ、自分が聞く音楽が集団から街へとシフトしただけだ。
奏美はそれを『街の音楽』と名づけた。
暗い話はうまく書けない
うまいよ
引きこまれるよー
いい意味で敏樹っぽい
「いい曲ですね」
奏美の音が乱れた演奏が終わると若い男性が話しかけてきた。
年齢は二十歳を過ぎたあたりで奏美より年下に見える。
「聞いたことがないですけど、タイトルはなんて言うんですか?」
「……街の音楽よ」奏美は少し素っ気なく答えた。
「あっ、なるほど」青年は納得したように両手を合わせて頷いた。
「道理で心にすっと入ってくるわけで」
「あなた、この街の人?」
「最近、越してきたんです。あっ、僕、西代大地って言います。西に代わるに、大地で西代大地です」
「大地?」
奏美はさっと大地の全身を見渡す。
大地の体は細い。安っぽい長袖のシャツから見える白い手にはうっすら骨の造りが見える。
大地なんていう力強そうな名前から遠く離れている外見だ。
「あなた、随分と細いわね」
「そうですか? あまり気にしたことはないんですけど」
大地はフーッと鼻息を荒くしながら右手の指を動かしてコキコキ鳴らす。
力強さをアピールしているつもりかもしれない。
だが、奏美には骸骨がカチャカチャと指の骨を動かしているように見えた。
「あなた最近、この街に越してきたって言ったわよね。それなのに街の音楽がわかるの?」
「いや、全然」大地は首を横に振りながらサラリと答えた。
「でも、その曲を聞いて何となく……いいなって思いました。音楽って、そういうものじゃないですか」
「そうね」奏美は小さく頷いた。
誰が奏でたではなくて、聴く人がどう感じたか。そういうものなのかもしれない。
晴人も大地も自分の音楽にいい評価をしてくれた。
鳥居坂で暮らしている人が街の音楽を肯定してくれた。
その事実に奏美は、やはり自分は間違っていないと結論づける。
渡の言葉も決して間違いではない。でも、自分が奏でるのは街の音楽でいい。
例え、偽りの音楽でも周囲が認めてくれるなら、それでいい。
「鳥居坂にはやっぱりコンサートを?」
「ええ、そうよ。近いうちにね」
「たくさん人が来るといいですね。僕も行きたいです。あっ、でもチケットとかってもう売り切れですか?」
「大丈夫よ」
奏美はポケットから紙の束を取り出し、その内の一枚を陸人に渡す。
大地は紙に大きく書かれた文字を読み上げた。
「時田奏美・バイオリンソロコンサート……」
大地に手渡したのは奏美のコンサートチケットだ。
「私の演奏を褒めてくれたお礼よ。日にちは大丈夫かしら?」
「ええ、バッチリですよ。というか、これを聞くためにだったら他に用事があったとしても、こっちを優先します」
「褒めすぎね。悪い気はしないけど」
「あっ、でも僕って、けっこう飽きっぽいんですよ。すぐに満足できなくなってしまうというか」
「私の演奏もすぐに飽きてしまうと言いたいの?」
「それは奏美さん次第です」
大地は不健康そうな体つきには少し似合わない朗らかな笑顔で言った。
失礼な物言いだが、それが大地からの声援だと奏美はすぐに分かった。
「また機会があったら聞きにきますね」
「その時はもっといい演奏を聴かせてあげるわ」
大地はもう一度笑うと行ってしまう。
奏美は大地が見えなくなるまで見送ると練習を再開した。
不思議と乱れた演奏はすっかり元に戻っていた。
(西代大地か)
また聞きにくると言っていたが、実際どうなのだろうか。ただの社交辞令かもしれない。
それでも何となく、彼の期待に応える演奏を聴かせてやりたいという想いが湧いてくる。
奏美は静かに目を閉じて、街の音楽に耳を傾けた。
明るくて希望に満ちた素晴らしい音楽が聞こえてくる。
「……えっ?」
不意に奏美の背中に悪寒が走った。
鳥居坂の音楽に何かが混ざっている。この街には存在しないはずの音。
それは注意して聞かないと聞き逃してしまうような小さな音だが、確かに奏美の耳に聞こえた。
音はどんどん大きくハッキリと聞こえるようになっていき、合わせて悪寒が強くなっていく。
奏美は不協和音が聞こえてくる方へと視線を移した。視線の先では景色の一部が陽炎のように揺らめいている。
やがて、その上から人の形が浮かび上がってくる。だが、それは人ではない。
ファンガイアだった。
おぅ、ぞくっと来る
……こいつか?
乙。
ファントムかもしれぬな
渡の耳に父の作ったバイオリン『ブラッディローズ』の奏でる旋律が聞こえる。
それはファンガイアが人を襲っていることを知らせる合図だった。
「すみません……ちょっとトイレ」
渡は晴人に小さく頭を下げるとその場から離れる。
渡が去っていくと、ほぼ同時に晴人の足元で物音がした。
下を覗いてみるとアスファルトを突き破ってブルーユニコーンが出てくる。
追跡に出した使い魔が帰ってきた。奏美に巻かれたとも思えない。
ならば、可能性として考えられることは……
「奏美さんに何かあったんだな?」
ユニコーンは「そうだ」と言わんばかりに嘶く。
晴人はすぐさまウィザードライバーを展開すると
「変身!」
左中指につけた黄色の指輪をかざした。
ランド! プリーズ! ドッ・ドッ・ドッドッドッドッ! ドッドッドッドッ!
地響きを思わせる力強い詠唱と共に黄色の魔法陣が晴人を包んでいく。
揺るがない大地のように強い意思を秘めた魔法使い、仮面ライダーウィザード・ランドスタイルが姿を現した。
「ユニコーン、お前が掘ってくれた道を使わせてもらうな」
ドリル! プリーズ!
ウィザードはその場で体を激しく回転させて地中へ潜った。
ファンガイアがゆっくりと奏美に近づいてくる。
(殺される―)
ファンガイアが宙に舞う牙を放ち、奏美が死を覚悟した瞬間、
ディフェンド! プリーズ!
突然、地面が隆起し壁を造りあげて奏美を牙から守った。
次いで地面が小刻みに揺れ始めた。それは徐々に激しさを増していく。
奏美は体勢を崩してしゃがみこみ、ファンガイアは辺りを見渡した。
「さあ……ショータイムだ!」
そんな台詞が聞こえると、ファンガイアの目の前で激しく土埃が巻き起こる。
土埃と共にウィザードが現れ、ファンガイアをソードガンで切り裂いた。
「ファンガイアか。確かに木崎の言った通りだな」
ウィザードはソードガンを構えて相手を見据える。
ファンガイアは頭部に鳥の嘴のように鋭く丸み帯びた逆三角形が二つあり、飛び出した両目の様に見える。カメレオンファンガイアだ。
カメレオンファンガイアは唸り声を上げるとウィザードへ突っ込んでくる。
ウィザードは身を素早く動かしてカメレオンファンガイアの猛攻を躱す。
「せっかちだな。もっとゆっくりしていけよ」
距離を取り、右の指輪を右に反転させたハンドオーサーにかざす。
チョーイイネ! グラビティ!
詠唱が終わるとウィザードは右手をファンガイアに向かって突き出した。
するとファンガイアの全身に凄まじい重力が掛かり、その場にうずくまった。
ウィザードがゆっくりと右手をあげる。ファンガイアの体が宙に浮く。重力がゼロになっているのだ。
ウィザードの右手の動きに合わせて、ファンガイアの高度が上がっていく。
右手を上に伸ばしきると、ファンガイアの位置はそこでピタリと止まった。
「そらっ!」
ウィザードが右手を大きく振り下ろす。
宙高くに浮かされたファンガイアに圧倒的な重力が加わり、猛スピードで落下していく。
ドゴーン!
カメレオンファンガイアの体が激しく地面に叩きつけられた。
晴人は右の指輪を外し、別の指輪をはめる。指輪には龍と人の足の模様が彫られていた。
決めるなら、今……
必殺の指輪をかざし、トドメを刺そうとする。
「危ない!」
奏美がウィザードに向かって叫んだ。
奏美は感じとったのだ。不協和音がもう1つ近づいてくる。
しかし、遅かった。
空から別のファンガイア―レディバグファンガイアがウィザードを攻撃した。
「ぐあっ!」
攻撃をもろに食らってしまいウィザードは呻き声をあげた。
レディバグファンガイアはすかさず衝撃波を放ち、ウィザードを吹き飛ばす。
今度はレディバグファンガイアとカメレオンファンガイアがウィザードにトドメを刺そうとする。
「ギャラリーが多い方がショーの魅せ甲斐があるな」
おちゃらけるウィザードだが、内心では自分の劣勢を理解していた。
先ほどの不意打ちのダメージも残っている。
ウィザードと二体のファンガイアの距離が徐々に詰まっていく。
その時だった。奏美の耳に音楽が聞こえてきた。
http://www.youtube.com/watch?v=Yx1ShuXYUDc
それはファンガイアと同じこの街の音楽には存在しない不協和音だった。
しかし、その不協和音はとても美しい音色を奏でていた。
悲痛な響きがある一方で、とても力強い。
奏美にしか聞こえない音とは別に鎖が擦れる音が聞こえてくる。
その音が聞こえてくる方に奏美、二体のファンガイア、そしてウィザードが顔を向ける。
「あれは……」
ウィザードは唖然とする。
光沢を放つそれは鎧に見えた。
鎧はファンガイアの様に黒い体をしていたが、ファンガイアとは異質な造形だった。
色鮮やかな模様はなく胴体の紅が目立つ。
今はウィザードの舞台であるはずなのに、主役のウィザードを含め誰もが鎧に魅入られていた。
キバが舞台へと上がった。
表現がかっこいい
ゾクゾクするねぇ
おいフィリップ!他の世界にまでいってんじゃねぇ!
おつ、毎回楽しみにしてます
乙
いい!実にいい!
キバは駆けるとカメレオンファンガイアを殴り飛ばした。
その様子に動揺するレディバグファンガイア。
ウィザードはその隙を逃さず、ソードガンで突く。
二体のファンガイアは分断され、キバはカメレオンファンガイアと、ウィザードはレディバグファンガイアと相対する形になった。
(助けてくれたのか?)
ウィザードは背中越しに立つキバを見る。
キバは視線を気にすることなく、構えをとりファンガイアへと攻撃を仕掛ける。
ファンガイアへ攻撃をする以上、ファンガイアの敵なのだろう。
敵の敵は味方というほど単純ではないが、少なくともファンガイアの相手をしてくれるならウィザードとしては助かる。
ウィザードはレディバグファンガイアにソードガンを向ける。
とりあえず、目の前の敵を倒すことを優先することにした。
レディバグファンガイアが衝撃波を飛ばす。
ディフェンド! プリーズ!
ウィザードは土の壁を造りだし、衝撃波を防ぐ。ガラガラと壁が崩れる間にソードガンを銃に変えて発砲した。
だが、ファンガイアは羽を広げて空中へと逃げる。
連続して銃弾を放つが、ファンガイアの空中における素早い身のこなしには当たらない。
ファンガイアはウィザードを「ここまで来てみろ」と言いたげに見下ろす。
「だったら……」
リクエストに答えてやろう。
ウィザードは左の指輪を黄色から緑色へと変えて、かざす。
ハリケーン! プリーズ! フーッフーッ! フーッフーッフーッフーッ!
一陣の風が吹き抜けるとウィザードの姿が緑色に変わった。
希望を運び、絶望を吹き飛ばす風の魔法使い。仮面ライダーウィザード・ハリケーンスタイルだ。
ウィザードはソードガンを剣へと戻すと地面を蹴った。
そのまま風を操り、ウィザードの体が空を飛ぶ。
速い。突風のようだ。それまで開いていたファンガイアとの距離が一気に詰まる。
すり抜けざまに逆手にもったソードガンで一太刀を浴びせる。
ファンガイアが悲鳴をあげる。
ウィザードはスピードを活かし、ファンガイアの周囲を縦横無尽に飛び回り、切り刻む。
ファンガイアはウィザードを撃ち落とそうと衝撃波を飛ばす。
だが、ウィザードは身をひねると竜巻のように回転しながら舞い上がった。
美しい華麗な舞にファンガイアは一瞬、心を奪われる。
「フィナーレだ!」
ウィザードは右の指輪をかざす。
チョーイイネ! キックストライク! サイコー!
脚部に魔力を集中させる必殺のキック『ストライクウィザード』を発動させる。
更にウィザードはファンガイアを確実に仕留めるために魔法の重ね掛けをした。
チョーイイネ! サンダー!
魔力の集中した足に電撃が纏う。
ファンガイアへ目掛けて落下していくウィザード。
雷が落ちるように一瞬だった。
ストライクウィザードが炸裂し、そのまま地面に激突する。
魔法陣が浮かび上がるとファンガイアは爆裂霧散した。
「ふぃ……」
ウィザードは地面を見た。
膨大な魔力に雷の力を加えたからだろう。
地面には魔法陣が焼け焦げる形で残っていた。
ウィザードはカメレオンファンガイアと戦うキバの方へと視線を移す。
「さてと……あんたはどんなショーを見せてくれるんだ?」
付与って本編でやったっけ?
うまいね
>>90
7話でキックストライク+ドリル重ねがけしたよ
アルティメイタムでも同様に、フォーゼと並んでダブルドリルキックかました
でも魔法付与はもっとバリエーション見たかったな
それこそライトニングブラストよろしくキック+サンダーとか、シューティングストライク+バインドで拘束→キックとか
そうなのかサンクス
ウィザードはスラッシュやシューティングストライク含めてもっといろいろ見てみたかったな
そこらへんも期待しちゃうぜ
カメレオンファンガイアの体が揺らめく。ファンガイアの姿が周囲に溶け込んで消えた。
キバは辺りを警戒する。
突然、背中に痛みが走った。ファンガイアが攻撃してきたのだ。
攻撃された方を向いて襲撃に備えるが、今度は横殴りに吹っ飛ばされた。
敵が見えない以上、どこから攻撃が来るか予測不能だ。
せめて大体の位置さえ掴めれば勝機はあるはずだ。
「渡、使うか?」
キバットの声と共にキバの目の前に紫の笛が現れる。
一瞬の思考。
キバは紫の笛をフエスロットに戻した。
代わりに蒼い笛を取り出しキバットに吹かせた。
「信用するぜ……ガルルセイバー!」
・
・
・
洋風建築の大広間。広さの割にほとんど物がない。
ただ目立つものはあった。
椅子だ。
装飾の凝らした椅子がある。周りには深紅の薔薇の花弁がいくつも散りばめられていて、妖しい雰囲気を椅子に纏わせていた。
その椅子は選ばれた者しか座ることを許されない玉座だ。
玉座から少し離れた所でカードに興じる三人がいた。
「……ストレート」
燕尾服を着た巨漢『リキ』が自分の手札を見せる。
「フルハウス!」
セーラー服を着た中性的な少年『ラモン』は出来上がった役を自慢するように見せた。
最後の一人、タキシードを着崩している男『次狼』は自分のカードを見た。
明らかに前の二人よりも弱い手だ。だが、勝負事に負けるのは癪だ。
なんとかならないかと思った時、部屋に笛の音が響いた。
ナイスタイミング。次狼は口端を上げた。
「どうやら、ご指名のようだ。悪いがゲームは無効だ」
次狼はカードをテーブルの上に置くと椅子から立った。
ラモンが次狼のカードをめくって手を見る。
「スリーカード。最下位だね」
「次狼……逃げた。セコイ」
後ろから聞こえてくる二人の言葉を無視して次狼は歩く。
「ねえねえ、次狼」
ラモンが次狼へ向かってカードを一枚投げる。
キャッチして、カードを覗く次狼。
カードにはマークも数字も描かれておらず、代わりにウィザードの姿が映っていた。
「それ何だと思う?」
「人間の可能性という奴だろうな」
「かのう……せい?」
「人間は十三魔族の中で最も異質な存在だ。故に様々な可能性を秘めている。人であって人を越えてしまった存在がいてもおかしくあるまい」
そう言って、次狼は熱い息を漏らした。
目が爛々と紅く輝き、歯が鋭い牙になる。
青白い炎が全身を覆っていく。
次狼の姿が蒼い人狼、十三魔族の一つであるウルフェン族の『ガルル』へと変わった。
ガルルとなった次狼の姿は更に変化していく。
体が縮んでいき、炎の様に揺らめく体毛で覆われた全身が無機質な物になる。
ガルルは小さな彫像になった。
宙に浮く蒼い彫像はまるで意思を持っているかのように動き出すと広間から消えた。
魔笛が鳴ると同時にキバの手元に蒼い狼の彫像がやってくる。
キバは彫像を左手で掴む。
彫像は魔獣剣『ガルルセイバー』に変形した。
キバの中に野生のパワーが流れ込んでくる。
キバはガルルセイバーとなったガルル自身を掴むことで、ガルルの力をその身に宿す。
その影響だろうか。
紅い胸と黒い左腕、輝く目、加えてキバットの目が蒼く変化した。
「うぅ……」
蒼い魔獣、仮面ライダーキバ・ガルルフォームが本能のままに唸る。
「うがあああああああああああッ!」
キバは天高くに向かって吠え、狩りの始まりを告げた
没
「人間は十三魔族の中で最も異質な存在だ。故に様々な可能性を秘めている。人であって人を越えてしまった存在。お前たちも知っているだろ?」
「これとか?」
ラモンはカードの山から一枚、スペードのエースを取り出す。手元でクルリと回すと絵柄がジョーカーへと変わった。
リキは白いチェスの馬を象った駒―ナイトを出現させて手の中で握りつぶす。
手を広げると、粉々になったチェスの駒が灰の様に舞った。
乙
剣崎……木場さん……!
そっちはそっちで気になるわ!
十三魔族って何?
>>97
人間・ファンガイア・キバット・ウルフェン(ガルル)・マーマン(バッシャー)・フランケン(ドッガ)・ドラン(キャッスルドラン)・サガーク・レジェンドルガ・マーメイド・ホビット・ゴースト・ギガント
以上が設定されている十三魔族。
ソースはWiki。
乙
紫の笛じゃドッガハンマーじゃね?
>>100
だからキバットが「使うか?」って聞いたら渡はガルル出してきて「信用するぜ」なんじゃん?
>>98
サガークは13魔族に含まれてない
>>102
あー、すまんすまん。
サガーク族は人工モンスターだから十三魔族に含まれないのね。
さっき調べ直したら、ゴブリン族があったの見落としていたわ。
あーすまん>>100だが
> 一瞬の思考。
> キバは紫の笛をフエスロットに戻した。
> 代わりに蒼い笛を取り出しキバットに吹かせた。
ここ読み飛ばしてたは
http://www.youtube.com/watch?v=simAIWRrqD4
ファンガイアに突っ込んでいくキバ。
刀身が独特の曲線を描いている剣―ガルルセイバーを振り下ろすが、ファンガイアは姿を消して、キバを返り討ちにする。
(これじゃあ、さっきの繰り返しだぞ)
キバックルにぶら下がり、ガルルのパワーを制御するキバットはそう思った。
消えては殴る。執拗なまでに繰り返されるファンガイアの攻撃にキバが片膝をつく。
(渡!)
ダメージが蓄積して、キバの装着者である渡に限界が来たのかと思った。
だが、違った。渡の意識はまだある。
それだけじゃない。
鎧を通して感じる蒼いキバの荒ぶる闘志が激しく燃え上がっている。
キバは曲刀を構え、身を低くしたまま、じっとした。
痛みを隠し、牙を光らせる野獣のように。
「……っ!」
突然、キバが右を向く。そして、何もない空間を曲刀で斬った。
「ぐおおおおお!」
カメレオンファンガイアの叫び声が聞こえる。キバの攻撃が当たった瞬間だ。
今の攻撃は明らかに敵の行動を先読みした一撃。
どうして見えない相手に攻撃を当てることが出来たのか?
キバットは自身に浮かんだ疑問の答えを直ぐに導き出した。
(そうか……臭いだ!)
ウルフェン族であるガルルは凄まじい嗅覚を持っている。ガルルの力を借りたキバもまた超人的な嗅覚を宿していた。
敵の臭いを嗅ぎ分け、その位置をほぼ正確に把握できる程に。
ファンガイアの攻撃を何度も受けたのは、敵の臭いを確実に覚えるためだった。
「があああああッ!」
雄叫びを上げて、荒々し野生の剣技でファンガイアを追い詰める。
キバの猛攻から逃げるためファンガイアは周囲の景色と同化した。
消えた瞬間、キバはある一点を目指して駆けた。
今のキバに姿が見えないことは何の問題でもなかった。
狼の様に俊敏な動きで、逃げる臭いの塊の前へ先回りすると曲刀を振った。
ガルルの牙が変化した刃はいとも容易くファンガイアの外皮を切り裂く。
キバはファンガイアの胸に曲刀を押し付けた。
ファンガイアが今までと比較にならない痛みに絶叫する。
キバを引き離そうとキバの背中に何度も拳を振り下ろす。
「うぅ……」
キバは痛みに呻くが決して離れなかった。喰らいついてくる。
ファンガイアは力任せにキバを引き離した。
息を乱しながら胸元を覗くと色鮮やかな肉体の一部が失くなっていた。
視線をキバへと移す。
キバの左手に握られている曲刀には刀身と柄の境に蒼い狼の頭がある。
その蒼い狼の顎『ワイルドジョー』にはファンガイアの胸の一部がくっついていた。
蒼い狼の口が動くとゴリゴリと固い物を食べている音がした。口の端からは細かく砕かれたガラス片がこぼれ落ちていく。
(不味いな)
キバの頭に曲刀へ変形したガルルの漏らした感想が聞こえた。
キバは曲刀をキバットに噛ませた。
「ガルルバイト!」
キバの膨大な魔皇力がキバットを中継点にしてガルルセイバーへ流れこむ。
キバが構えを取り、周囲を紅い霧が包んでいく。
「なっ……!?」
それまでキバとファンガイアの戦いを静観していたウィザードは思わず声を上げた。
青い空が漆黒に染まっていく。暗闇はどんどん光を飲み込んでいく。
夜空が出来上がると、そこに煌々と輝く満月が現れた。
(紅い霧の後に満月の夜になった。空間に干渉する魔法なのか?)
キバは曲刀を咥えると凄まじい脚力で上空へ跳び上がった。満月を背に急降下してくるキバ。
注ぎ込まれた魔皇力によって数十倍の切れ味を誇るガルルセイバーの一太刀『ガルル・ハウリングスラッシュ』が炸裂する。
ファンガイアの体が真っ二つに割れて砕け散った。
設定ではスピードタイプなんだよ
羊に負けたけど
へー
ファイズアクセルより速いドラゴンオルフェノクより速いゴートオルフェノクも山羊だからね
仕方ないね
設定だからね!
そういえばウィザードの特別編ににもやしが出るらしいな<ソースはもやしの役者のブログ
DCD出るんだ。楽しみだな
キバはドッガ自体も活躍少ないけどキッチリ勝ち星上げてるからガルルとバッシャーが余計に霞んでしまう
ウィザード52、53話は脚本も違うお祭会になりそうだからね
キバはそんなに動かないかもしれないが、このSSみたいな妄想が捗る
名護さんが出るのを待ってます……
「あんた、スゴイな」
空が青く戻ると緑のウィザードは蒼いキバに話しかけた。
キバは威嚇するように小さく唸った。
「そんなに怖い顔(?)しないでくれよ。聞きたいことがあるんだ」
あくまでフランクな態度をとるウィザードは質問する。
「ファンガイアと戦っていたけど、ファンガイアのことを何か知っているのか?」
キバの反応は変わらない。小さく唸るだけだ。
ウィザードも変わらぬ態度で続ける。
「あの人が狙われているんだ」ウィザードが奏美の方へ顔を向ける。
「……」キバも奏美に顔を向ける。
「何でもいいから教えてくれないか? え~と」
名前を呼ぼうとしたが当然分からない。
視線を泳がせるとキバのベルトに収まっている笛が目に止まった。
ウィザードが指輪で自分の属性を変えるようにキバの蒼い姿は笛を吹いて変わった。
それに先ほどの満月の夜を創りだした現象。まるで魔法だった。
ウィザードは閃いて、キバをこう呼んだ。
「笛の魔法使いさん」
キバは無言でウィザードに顔を戻す。
二人はしばらく睨み合った。
銃剣と曲刀。両者の手には得物が握られている。
風を司る魔法使いと蒼い魔獣。
距離が開いているが、互いに一足で相手の急所を斬りつけに行ける距離だ。
「なあ、答えてくれないか?」
「……」
キバは何も答えない。ウィザードに背中を見せて、ゆっくりと去っていく。
ウィザードは龍と鎖が彫られた指輪をかざそうとしたが止めた。
(あのスピードじゃあ、縛る前に避けられるな)
ファンガイアと敵対しているなら、そう遠くない内にまた会うだろう。
だから、今は追わなくていい。
キバの後ろ姿が見えなくなるとウィザードは変身を解いて晴人に戻った。
「ふぃ……」
ため息をつくと手に不快感を覚える。
晴人の手は汗でベタついていた。
「あんた、スゴイな」
空が青く戻ると緑のウィザードは蒼いキバに話しかけた。
キバは威嚇するように小さく唸った。
「そんなに怖い顔(?)しないでくれよ。聞きたいことがあるんだ」
あくまでフランクな態度をとるウィザードは質問する。
「ファンガイアと戦っていたけど、ファンガイアのことを何か知っているのか?」
キバの反応は変わらない。小さく唸るだけだ。
ウィザードも変わらぬ態度で続ける。
「あの人が狙われているんだ」ウィザードが奏美の方へ顔を向ける。
「……」キバも奏美に顔を向ける。
「何でもいいから教えてくれないか? え~と」
名前を呼ぼうとしたが当然分からない。
視線を泳がせるとキバのベルトに収まっている笛が目に止まった。
ウィザードが指輪で自分の属性を変えるようにキバの蒼い姿は笛を吹いて変わった。
それに先ほどの満月の夜を創りだした現象。まるで魔法だった。
ウィザードは閃いて、キバをこう呼んだ。
「笛の魔法使いさん」
キバは無言でウィザードに顔を戻す。
二人はしばらく睨み合った。
銃剣と曲刀。両者の手には得物が握られている。
風を司る魔法使いと蒼い魔獣。
距離が開いているが、互いに一足で相手の急所を斬りつけに行ける距離だ。
「なあ、答えてくれないか?」
「……」
キバは何も答えない。ウィザードに背中を見せて、ゆっくりと去っていく。
ウィザードは龍と鎖が彫られた指輪をかざそうとしたが止めた。
(あのスピードじゃあ、縛る前に避けられるな)
ファンガイアと敵対しているなら、そう遠くない内にまた会うだろう。
だから、今は追わなくていい。
キバの後ろ姿が見えなくなるとウィザードは変身を解いて晴人に戻った。
「ふぃ……」
ため息をつくと手に不快感を覚える。
晴人の手は汗でベタついていた。
やべ、ミスった。
没
キバは何も答えない。ウィザードに背中を見せて、ゆっくりと去っていく。
「ああ、そうかい……だったら!」
ウィザードは右の指輪をかざした。
バインド! プリーズ!
キバの周囲に無数の魔法陣が出現すると鎖が飛び出す。
相手を拘束する魔法だ。
キバは強靭な脚力で跳ねて躱し、その勢いのまま素早く駆けた。
「待て!」
ウィザードが追いかけようとした時、目の前に光が溢れた。
神々しい黄金の光だ。
あまりの光の強さにウィザードは腕で視界を塞いだ。
一瞬、ウィザードの周りが暗くなる。そして風が巻き起こった。
巨大な何かが高速でウィザードの上を通り過ぎたのだ。
ウィザードは振り向いて空を見た。
青い空には白い雲が浮かんでいるだけだ。
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
落雷のように激しい―何かの鳴き声が空に響き渡った。
やべ、ミスった。
没
キバは何も答えない。ウィザードに背中を見せて、ゆっくりと去っていく。
「ああ、そうかい……だったら!」
ウィザードは右の指輪をかざした。
バインド! プリーズ!
キバの周囲に無数の魔法陣が出現すると鎖が飛び出す。
相手を拘束する魔法だ。
キバは強靭な脚力で跳ねて躱し、その勢いのまま素早く駆けた。
「待て!」
ウィザードが追いかけようとした時、目の前に光が溢れた。
神々しい黄金の光だ。
あまりの光の強さにウィザードは腕で視界を塞いだ。
一瞬、ウィザードの周りが暗くなる。そして風が巻き起こった。
巨大な何かが高速でウィザードの上を通り過ぎたのだ。
ウィザードは振り向いて空を見た。
青い空には白い雲が浮かんでいるだけだ。
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
落雷のように激しい―何かの鳴き声が空に響き渡った。
新鯖移転したてでエラーはきやすいけど、投稿自体はできてることが多いみたいだぜ
エラー出たら更新してみるのもいいかも
お互い警戒しまくりだな。肩を並べる展開来るかな?
お互いの目の前で同時に変身解除って展開は期待しちゃうよね。
次狼だから………
しかし瞬平の謎がまた増えたな
・一人だけ何やってるのか素性が分からない
・色々買える謎の経済力
・ゲートを避難させるときグールに襲われない
・メイジに思いっきり爪で引っ掛かれたのに出血なし。引っ掛かれたときなぜか金属音←New!
誤爆
乙
その内ライダーバトルしそうだな
留置所で名護さんと隣の部屋になるとか
ウィザード組ってほぼ全員一度は逮捕されてるよな…
メデューサの人間態ミサは廃工場へ足を運んでいた。
外は真っ暗だったが、崩れた天井から降る月の光が埃っぽい中を薄く照らしている。
「なんで私がこんな使い走りを……」
忌々しそうにソラから頼まれたことを思い出す。
晴人くんが女の人を護衛しているから、ちょっと調べてきて欲しいんだ。
もちろん断ろうとした。自分で行けという話だ。
しかし、ソラは断られるのが分かっていたのか、
僕はワイズマンから君のことを任されているんだよ?
と付け加えた。
忠誠を誓うワイズマンの名前を出されると弱い。ミサは渋々了承した。
「グレムリン」
「はーいっ!」
薄暗い闇の中でソラを呼ぶと、崩れた天井からグレムリンの人間態ソラが顔をだした。
ソラは軽い身のこなしで羽根の様にふわりと床に着地する。
「どうだった、あのバイオリンの人」
「……あの女はゲートよ」ミサは淡々と答える。さっさとこの場を離れたかった。
「報告はそれだけ?」そうじゃないでしょ? と言いたげにソラは聞く。
「怪物と鎧の男も一緒に出てきたわ」
「へえ……そっか」
「とにかくゲートが見つかった以上、絶望させて新たなファントムを生み出させるわよ」
「それがワイズマンの意志だから?」
「当然でしょ。ワイズマンがゲートの絶望を求めていらっしゃるの」
「ワイズマン、ワイズマン……ミサちゃんって、そればっかりだよね。自分のやりたい事とかないわけ?」
「黙りなさい。帽子男」
声に怒気を孕ませたミサの目が光った。
ソラのいる場所に爆発が起きる。薄暗い室内が一瞬、昼間の様に明るくなった。
床には焼け焦げて煙を上げる爆発痕だけが残った。
「ごめんごめん。怒らせちゃったかな?」
ソラはミサの後ろでミサの黒髪を手櫛していた。
人間で例えるなら汚辱感を覚えたミサは強引にソラを振り払う。
頭に小さな痛みが走ったが、気にしなかった。
気色悪い。こいつの全てが私を苛立たせる。
ソラは悪びれもせずに続けた。
「ファントムって可哀想だよね。ゲートの頃の記憶がないから空っぽだ」
「自分は違うとでも言いたいの、グレムリン」ファントムの名前を強調するミサ。
「僕の名前はソラだよ」ゲートの名前を強調するソラ。
「そう。悪かったわね……グレムリン」
言葉の最後を強調してミサは嘲笑を浮かべた。
ソラは呆れる様に大きくため息をついた。
「でっ、さっきの質問の答えは?」
「私の望むことはワイズマンにお仕えすること。それだけよ」
「それしかないの間違いじゃなくて?」吐き捨てるようにソラは言った。
「……お前の下らない言葉遊びに付き合うつもりはない」
ミサはソラを睨むとそのまま闇の中に消えた。
「ミサちゃん、君が人間じゃなくてとても残念だよ」
ソラは銀色のシザーを出現させると、荒げた息でシザーを何度も鳴らした。
「でも、髪の毛に罪はないか」
ソラは自分の手の中にあるミサの髪の毛を覗く。
枝毛一つ見当たらない艶のある綺麗な髪だ。
ソラは心の昂ぶりを抑えて、黒髪を顔に近づける。
甘い香りが鼻腔を満たしていった。
床屋の殺人鬼って何かの映画であったよな
あいかわらずソラはキチってんなぁ……
テレビじゃできない描写表現が盛ってあるのがいいね
ミサちゃんの髪の毛くんかくんか
逃げてー真由ちゃん逃げてー!
河原の高い空は澄み渡っていた。時折強い風が吹くが、それも心地いい。
食事を済ませた大地は土手を歩いていた。
これといって目的はなかった。ただ理由もなくフラフラと歩いていただけだ。
頭を空っぽにして、何気なく周りの風景を見渡しながら歩く。
首の動きに合わせて景色がクルクルと変わる。
景色が変わっても、大地の目に変わらず映るものがあった。
人の姿だ。
土手のすぐ下の河川敷で遊ぶ子供。自分と同じように土手を歩いている老人。川沿いの家のベランダで洗濯物を干す女性。どこを見ても人がいた。
河を跨ぐ橋の上を車が走る。ガラス越しにチラッと人の顔が映った。
大地は車の行ってしまった方を見る。
そびえ立ついくつもの高い建物、ビル群だ。
あそこには、この河川敷の周辺以上に人が沢山いるだろう。
世界の総人口は約六〇億人。
幼稚な発想だが、一人につき一円ずつ恵んでもらえば六〇億円。
果たして自分の人生で使いきれる額だろうか?
多分無理だ。六〇億とは、それほどまでに大きい数字だ。
大地は右の指を鳴らした。
「ほんと……この世界は人で沢山だ」
歩くのにも飽きてきて帰ろうとすると、どこからかバイオリンの音が聞こえてきた。
美しい音に繊細なメロディ。そして、音が自然と心の中に入り込んでくるような独特の感覚。
それは大地が三日ほど前に聞いた音楽と酷似していた。
奏美のバイオリンだ。
大地は耳に入ってくる音楽を頼りに音源を探す。奏美は河岸でバイオリンを弾いていた。
声は掛けない。演奏の邪魔になるからというよりも最後まで演奏を聴きたかったからだ。
「こんにちは、西代大地くん」演奏を終えた奏美は大地に挨拶した。
「僕のこと、気づいていたんですか?」少し驚く大地。
「別に演奏しているからって、ずっと楽器覗いているわけじゃないわよ。人間の手と目は別々に動くんだから」
奏美は実践するようにバイオリンを構えると、弓を弦に当てず宙で弾きながら、横目で大地を見る。
どうやら覗き見されていたようだ。
「私のこと、ジッと見ていたでしょ? 視線すごかったんだから」
「人の演奏を聴くって、そういうものじゃないですか」
奏美のからかいに視線をそらしながら大地は応える。奏美は小さく笑った。
「独りですか?」
「独り……では、ないかな」
そう言って、奏美はバイオリンをケースにしまいながら空を指差した。
空には一匹の鳥が回遊している。
大地は哀れみを含んだ目で奏美を見た。
「奏美さんって、結構メルヘンな人なんですね」
「ちょっと、年上に向かってそういうこと言う?」
「いや……だって」
「あーはいはい。この話は、もうおしまい」
大地のツッコミを聞きたくない奏美はサバサバした口調で遮った。
「それよりどうだった、私の演奏」
「演奏ですか?」
「そう、演奏……退屈しなかった?」
僅かな間を挟んで、奏美の顔が微かに不安げなものに変わった。
大地には奏美が何かに怯えてるように見えた。
奏美はもう一度、大地に質問する。
「私の演奏じゃあ満足しなかった?」ほんの少し声が震えていた。
大地は「もし……」と前置きをすると、ゆっくりと奏美に語りかけた。
「奏美さんの演奏が退屈だったり満足できなかったら、僕はとっくに帰ってますよ」
「大地くん」
「奏美さんの演奏は最高でした。街の音楽を奏でてましたよ」
大地の言葉に嘘はなかった。大地は奏美を安心させるように微笑んだ。
「それに奏美さん、言ってたじゃないですか。次に僕が奏美さんの演奏を聞く時は、もっといい演奏を聞かせてあげるって」
「そうね……私、どうかしてたわ。ありがとうね」
「聞かれたことに答えただけですよ」
大地は河の方へと体を向ける。若干の照れがあった。
奏美はそんな大地の姿を見ていた。
前に会った時と変わらず細い体をしている。風に吹かれたら飛ばされそうだ。
それでも奏美には今の大地は足がしっかりと大地に根付いているというか、何となく力強く頼もしく見えた。
いい雰囲気だけど、なんか不吉なんだよなぁ……
まさかとは思うんだけど、ね
「すみませーん」
幼い声と一緒に奏美の足元にボールが転がってきた。
奏美と大地は声のしたほうへ目をやると、ボールを追いかけて十歳くらいの男の子が走ってくる。
河川敷で遊んでいた子供のようだ。
「はい」と奏美はボールを渡す。男の子は「ありがとう」と無邪気な笑顔で返した。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん?」
「お姉ちゃんって楽器弾くの?」
男の子は奏美の側にあるバイオリンケースを興味深そうに眺めている。
「そうよ。お姉ちゃんはバイオリンを弾くの」
「へえ、すごい。ねえ、弾いてみてよ」
「いいわよ」奏美は笑顔でケースからバイオリンを取り出そうとする。
「あっ、いけない」突然、男の子が思い出したかのように声を上げた。
「どうしたの?」
「僕、お姉ちゃんをゼツボーさせなくちゃいけないんだった。メデューサお姉ちゃんから頼まれてさ」
男の子は自分の姿をファントムへと変えた。
ファンガイアは通り魔やらせられるから楽だけど、ファントムは明確に目的がある分出し方が難しい
そういえば、本編で子供の姿をしたファントムっていなかったな。
無邪気な悪意って怖いけど、子供を倒すのにためらったんかねぇ
人の心は持ってないのが共通認識だし
子どものような無邪気さを持った敵って言うと平成だとダグバ、北崎、初期のスーパー童子&姫、記憶喪失のダイちゃん、ガメル、ロストアンクがすぐに浮かんだ
後敵じゃないけどリュウタロスやラモンも入るか
井上作品で無邪気な悪意と言うなら、やっぱトランかなあ
あ
>>134
譲が絶望抑え込めなければ子どもファントム一丁上がりだったな
そもそも別人格が、守れなかった人の姿と声(記憶も)で襲いかかってくるってのが鬱すぎる
でも一人ぐらいはそういう幹部加入イベントあっても良かった
「腹減った~」
広がる青空に向かって、髪の毛を獅子の鬣のように逆立てた茶髪の青年は力なく唸った。
青年、仁藤攻介はついさっき昼食を終えたばかりだ。
唐揚げに好物のマヨネーズをかけるという常人なら油っこさで胃がもたれそうな組み合わせをたらふく食べた。
なのに、どうしようもない程の空腹感が仁藤を襲う。胃の辺りにポッカリ穴が空いている気分だ。
仁藤は檻のようなベルト『ビーストドライバー』を軽く叩いた。
「何でお前が腹を空かせると、満腹の俺まで腹が減るんだよ?」
(その方が危機感を持てるだろ? 我の力なら人間一人の体に干渉するくらい造作もない)
仁藤の頭の中で威厳に満ちた声が響く。
ビーストドライバーの中に封印されたファントム『ビーストキマイラ』の声だ。
仁藤は心の中でキマイラに返事する。
(お前さ、少しは宿主さまに気を使うとか出来ねえの?)
(宿主? 呆れた奴だ。お前は我の下僕に過ぎん。我の力の一部を貸し与えてやっている立場なのだからな)
(まあ、そういう契約だしな)
仁藤とキマイラの間で交わされた契約。
仁藤はキマイラの力の片鱗を扱える代償として、キマイラに餌として魔力を与えなくてはいけない。それが出来ないなら死ぬ。
今のキマイラは魔力を欲している。放っておけば、いずれ限界が来て自分が喰われるだろう。
「探すしかねえか」
いつまで立ち止まっていてもしょうがない。
命の掛かった契約はスリルがあって面白いが、死ぬのはゴメンだ。
仁藤は右中指に指輪をはめると、ドライバー右のソケットにはめた。
グリフォン! ゴー!
仁藤は鳥と獅子が合わさったような緑のプラモンスター『グリーングリフォン』を召喚させる。
キマイラが静かに吠えた。
(仁藤……魔力を使うとは我を更に飢えさせるつもりか?)
「空腹とマヨネーズは最高の調味料だ。腹が空けば空くほど、マヨネーズをかければかけるほど飯は美味くなる」
仁藤はグリフォンが飛んでいくのを見届けるとグリフォンとは別にファントムを探しだす。
しかし、足に力が入らない。キマイラの言うとおり魔力を消費した分、空腹感が更にましたからだ。
おぼつかない足取りで歩いていると向こうから来た男とぶつかってしまう。
「あっ、すんません」
「……」
謝る仁藤を無視して、男はコソコソした様子で去っていく。
変な奴だな、と深く考えないで仁藤も男と逆の方を歩いていく。
そこまでして仁藤は胸の辺りに妙な違和感を覚えた。
あるもべきものが無いというか。しっくりとこない。
上着の上から胸を触ると
「……俺の財布!」
自分の財布がすられたことに気づいた。
慌てて振り返ると男は走って逃げていた。
「野郎!」
仁藤はすりを追いかけた。距離は開いているが追いつけない距離じゃない。
体力には自信がある。伊達に遺跡目当てで世界を駆け巡っていたわけじゃない。
しつこく追い続ければ、向こうがばてて捕まえられるはずだ。
だが、キマイラの空腹の影響で仁藤の体は思うように動かなかった。
すりの背が小さくなっていく。
必死になって追いかける仁藤とすりの前から男が歩いてくる。
「おい、あんた! そいつを捕まえてくれ!」
仁藤は藁にもすがる思いで叫んだ。
男は胸元から端末を取り出し、すりの顔を見た。
「連続窃盗犯、宇田一郎……」
男はすりを殴り飛ばすと素早く関節を決めて地面に跪かせた。
鮮やかな手並みだった。
ほどなくして、騒ぎにかけつけた凛子と部下の警官がやってきた。
凛子はすりに手錠をかけて、男に礼を述べた。
「ご協力感謝します」
「いえ、当然のことをしたまでです」
男はすりの服に手をかけるとボタンを一つむしりとる。そして、すりに向かって言った。
「悔い改めなさい。人はやり直せる」
「あなた……」
凛子が驚きの様子で男を見ると仁藤が追いついてきた。
「いやー! あんた、ありがとな。あいつ捕まえてくれて」感謝の印に仁藤は男の肩を叩いた。
「大したことではない」男は仁藤の手をやんわりと払った。男はいつの間に取り返した仁藤の財布を渡す。
「しかし情けないな」
「は?」
「女子供ならともかく君のような若い男がすりに合うなんて注意が足りない」
男の上から物を言う態度に仁藤はカチンときた。
「なんで名前も知らないあんたにそこまで言われなきゃいけないんだよ!」
「ふむ、そうか」
噛みつく仁藤を男はサラリと受け流す。
「君、名前は?」
「仁藤……仁藤攻介」
「俺は名護啓介だ」
「やっぱり、あの有名なバウンティハンターの名護啓介」
「バウンティハンター?」
聞きなれない言葉に首をかしげる仁藤に凛子は「賞金稼ぎのことよ」と教えた。
「仁藤くん。お互いの名前を知った以上、これで俺と君は知り合いだ。故に知り合いとして俺は君に教えを説く義務がある。傾聴しなさい」
「ふざけんな。何で俺がそんなこと聞かなきゃなんねえんだよ。そんなことより」
俺はファントムを探さなきゃいけないんだ、と言おうとすると仁藤の元へグリフォンが帰ってくる。
「なんだ、これは?」名護はグリフォンを物珍しそうに見る。
「あんたには関係ねえよ、おっさん」仁藤はぶっきらぼうに言った。
「おっさん……」
名護の頬がひくつく。どうやら気に障ったようだ。
「私は27だ。おっさんではない」
「四捨五入すれば30だろ? やっぱり、おっさんだ」
「……」名護の顔がプルプルと震えた。
(仁藤、下らない言い争いよりも早く我にファントムを捧げろ)
頭の中でキマイラに催促されるとグリフォンが飛んできた―河川敷の方から女性の悲鳴が聞こえた。
仁藤は不敵に笑った。
「すぐに飯にありつけさせてやるぜ、キマイラ!」
「こら、待ちなさい! まだ話は終わっていない!」
名護は走りゆく仁藤を追いかけた。
没というか妄想だね
「浮かない顔だな」
「ん?」
空腹感でげっそりとした顔の仁藤に男が声をかけてきた。
野性的な顔つきの仁藤とは真逆で、男は理知的な顔つきをしている。
男の側に折られた厚紙に「占い 一回五〇〇円」と書かれていた。
この男は占い師らしい。
男はポケットからコインを三つ取り出すと地面に敷いてあるハンカチに放った。
裏・表・裏。
コインの裏表をみて男が仁藤に告げた。
「あんたに破滅が訪れる。しかも、すぐ近くにまで来ている」
「……金は払わないからな?」
バカバカしいと思った仁藤は歩いていこうとする。
男は更に告げる。
「あんたには常に死が住み着いている」
その言葉に仁藤は足を止めた。
(我のことだ。当たっておる)頭の中でキマイラがせせら笑った。
「おめえ何者だ?」
仁藤は男に詰め寄った。
獲物を狙う獣のように鋭い目で睨むが、男は動じない。
「さっき俺に破滅が訪れるとか言ったよな?」
「そうだ。俺の占いは当たる」
男は静かだが、有無を言わせぬ口調で断言する。
仁藤は臆さずに返した。
「占い師ってのは、皆そう言うんだよ」
「違いない」男は小さく笑った。
「にしても破滅か……おもしれえ」
「面白い?」
男は怪訝な顔で聞いてきた。仁藤は「ああ」と短く言った。
「俺の占いでそういうことを言ったのは、あんたが初めてだ」
「人生ちょっとくらい危険な方が面白いんだよ。それに俺は破滅するつもりなんて更々ねえ。運命なんて俺がこの手で変えてやる」
「いい考えだ。その強い意思があれば運命は変わるかもな」
「当たり前だ。破滅なんざ俺が喰ってやるぜ」
仁藤はニヤリと笑うと財布を取り出して、男の敷いているハンカチにコインを置いた。
五〇〇円硬貨だった。
没というか妄想だね
「浮かない顔だな」
「ん?」
空腹感でげっそりとした顔の仁藤に男が声をかけてきた。
野性的な顔つきの仁藤とは真逆で、男は理知的な顔つきをしている。
男の側に折られた厚紙に「占い 一回五〇〇円」と書かれていた。
この男は占い師らしい。
男はポケットからコインを三つ取り出すと地面に敷いてあるハンカチに放った。
裏・表・裏。
コインの裏表をみて男が仁藤に告げた。
「あんたに破滅が訪れる。しかも、すぐ近くにまで来ている」
「……金は払わないからな?」
バカバカしいと思った仁藤は歩いていこうとする。
男は更に告げる。
「あんたには常に死が住み着いている」
その言葉に仁藤は足を止めた。
(我のことだ。当たっておる)頭の中でキマイラがせせら笑った。
「おめえ何者だ?」
仁藤は男に詰め寄った。
獲物を狙う獣のように鋭い目で睨むが、男は動じない。
「さっき俺に破滅が訪れるとか言ったよな?」
「そうだ。俺の占いは当たる」
男は静かだが、有無を言わせぬ口調で断言する。
仁藤は臆さずに返した。
「占い師ってのは、皆そう言うんだよ」
「違いない」男は小さく笑った。
「にしても破滅か……おもしれえ」
「面白い?」
男は怪訝な顔で聞いてきた。仁藤は「ああ」と短く言った。
「俺の占いでそういうことを言ったのは、あんたが初めてだ」
「人生ちょっとくらい危険な方が面白いんだよ。それに俺は破滅するつもりなんて更々ねえ。運命なんて俺がこの手で変えてやる」
「いい考えだ。その強い意思があれば運命は変わるかもな」
「当たり前だ。破滅なんざ俺が喰ってやるぜ」
仁藤はニヤリと笑うと財布を取り出して、男の敷いているハンカチにコインを置いた。
五〇〇円硬貨だった。
結婚しても相変わらずボタンむしりで安心したw
ループ抜けた手塚さんがいてもいいな
753!
没も楽しい、二度おいしいスレ
乙。
名護さんと仁藤とかややこしいことになりそうだな・・・ww
乙!
名護さんは最高です!
仮面ライダーキバレビュー
今週のキバ
http://yabou-karakuri.sakura.ne.jp/diary/hanpera/ryuuki/kibatop.htm
奏美は大地に手を引かれながら河川敷を走って逃げていた。
その後ろをゆっくりとファントム『バジリスク』が追ってくる。
(どうして?)
奏美は動揺していた。
街の音楽を聞く奏美はそこに混ざるノイズを聞き逃さない。
初めての時ならそのノイズすらも街の音楽と考え、誤解する時はある。
だから初めての時は自分に迫るファンガイアの牙に気付けなかった。
だが、今は鳥居坂に来て数日は経った。ノイズはノイズとして聞き分けられる。
なのに、なぜ怪物の接近に気づけなかったのか。
答えは簡単だ。
奏美を襲っている怪物がファンガイアではなくファントムだからだ。
ファントムはこの鳥居坂で何度も晴人たち魔法使いと戦いを繰り広げている。
ファントムの存在は、既に鳥居坂が奏でる音楽の一部になっていたのだ。
「それっ!」
バジリスクは魔石を放り投げる。
すると地面に落ちた無数の魔石は膨張して、灰色のファントム『グール』を産みだした。
「やっちゃって」バジリスクが奏美を指差す。
グールの群れはバジリスクの言葉に従うように歩き出した。
言葉らしい言葉も喋らず、呻き声をあげて奇怪な動きをみせる異形の存在。
その不気味さが奏美の恐怖を煽った。
恐怖で体がうまく動かず、奏美は躓いてしまう。
グールがすぐそこまで迫っていた。大地は奏美を庇うように前に出る。
「奏美さん、早く」
「あなたは逃げて、大地くん」
「そんなこと出来ません」
「怪物の狙いは私なのよ」
「だったら、なおさら出来ません。女性を守るのは男の役目、そういうものじゃないですか」
大地はグールに掴みかかり止めようとする。
力が弱く知能も低いファントムのヒエラルキーの中では最底辺に位置するグールだが、それでも人を超えた力と頑強な体を持っていることには変わりない。
怪物の進行を大地に止められるはずがなかった。
大地はグールに突き飛ばされて地面に突っ伏す。
「大地くん!」奏美は悲鳴を上げた。
「早く……逃げて」
「お兄ちゃん、邪魔」
足元の小石を蹴飛ばすようにバジリスクが大地の脇腹を軽く蹴った。
瞬間、人外の力で蹴られた大地に猛烈な吐き気が襲う。胃の中身どころか内蔵全部を吐きそうになった。
「お前ぇ……」
奏美を守れない悔しさからか、あるいは別の何かからか。
大地は激しい感情に任せて、土を掘り返すほどに芝生を引っ掻いた。
バジリスクが奏美の前に立つ。
奏美は逃げようとするが、恐怖で体が動かない。竦んでしまっている。
「じゃあ、お姉ちゃん、ゼツボーしてね。でも……ゼツボーってどうすればするんだろ?」
怯えながら自分をみる奏美を無視してバジリスクは首をかしげる。
「そうだ。わかった!」
バジリスクは奏美に向かって言う。
「あんたのせいで私はこんな目にあってるのよ! この疫病神! あんたなんて産まなきゃよかった!」
突然、女言葉を激しい口調でバジリスクが使い出した。
奏美はバジリスクの言っている意味がわからなかった。
ポカンとする奏美を見て、バジリスクはまた首をかしげる。
「あれ? おかしいな。僕のゲートはこれを言われて、ゼツボーして僕を産んだのに……そう言えば、あの時、僕のゲートはぶたれながら言われたんだった。だったら、それをやらないとゼツボーしないか」
バジリスクは腕を振り上げる。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ちゃんと止めるから。でないと、僕がゲートのお母さんにやったみたいに頭が潰れちゃうしね。卵みたいにグシャーってさ」
奏美はバジリスクの言葉を頭の中で描いてしまった。
卵みたいに潰れる顔。
飛び散るのは黄身や白身、殻ではなく自分の脳と血や砕けた頭蓋骨。
惨たらしい死のイメージが奏美を絶望の淵へ落とそうとする。
バジリスクが奏美に向かって腕を振り下ろそうとした瞬間、
「ファントム!」
駆けつけた仁藤が叫んだ。
その声にハッとなった奏美の意識が死のイメージから逸れる。
(魔力が暴走していない。間に合ったようだな。最も我にとっては)
「ふざけたこと言おうとするんじゃねえよ」仁藤は怒気を孕んだ声でキマイラをたしなめる。
(……)仁藤の迫力にキマイラは押し黙った。
「まったくゲートを絶望させようとしやがって許せねえな」
仁藤は左の中指に指輪をはめる。
「力を貸せよ、キマイラ。俺の明日のためにも、ゲートのためにも、なによりお前の腹のためにもな」
(元よりそういう契約だ。存分に我へ魔力を馳走するがよい)
「皆まで言うな。腹八分目どころか胸焼けさせてやるよ」
仁藤は構えをとりながら吠えた。
「変身!」
指輪をドライバー左のソケットに鍵のようにはめ込み、
セット!
そして、回した。
オープン!
ビーストドライバーの檻『リベイションズドア』が開き、金色の獅子が象られたバックル『キマイラオーサー』が出現する。
(我の力を使うがいい)
キマイラは自分の魔力の一部をキマイラオーサーから魔法陣として解き放つ。
L! I! O! N! ライオーン!
仁藤が展開された金色の魔法陣を潜ると仁藤の全身を百獣の王であるライオンの力が包む。
左肩にライオンの頭部が備えられた金と黒の全身にライオンを模したマスク。
仁藤は古の魔法使い――仮面ライダービーストへと変身した。
「さあ、食事の時間だ」
ビーストは指輪装填剣『ダイスサーベル』を抜くと群がるファントムに飛び込んでいった。
すまない
>>125でゲートの頃の記憶がないとか言わせちゃってるけど、人格が違うだけで記憶は普通にあったよな
でなきゃ、一般社会にとけ込めないし
元ソムリエのファントムとか元デパート菓子売場担当のファントムとか、そのまま仕事続けてる奴いたな
そういう元の人間の肩書き・才能を活かして絶望に追い込む話には感心したのに、だんだんただの怪物になってったのが残念
設定めんどくさいからか
やりすぎるとエグくなるからTVじゃしにくかったのもあるんじゃないかな?
遠慮なくやらかせるこのSSは実にいい。こういう話もありそうだって思える
仁藤を追いかけてきた名護はビーストに変身して戦う仁藤の姿に驚愕した。
「彼はいったい……」
「仁藤くんは魔法使いなんです。ゲートを絶望させるファントムから守るために戦う」
後から来た凛子の説明に名護は「なるほど」と頷いた。
「つまり、ファントムは人類の敵で魔法使いは戦士ということか」
名護はファントム達に向かって歩き出す。
「何をするつもりですか。相手は人間ではありません」
凛子は慌てて名護を止めた。
いくら名護が有名なバウンティハンターだとしても、それは相手が人間だから通用する話だ。
相手は人外の怪物ファントム。対抗できるのは同じファントムの力を宿す魔法使いしかいない。
いま、この場をどうにか出来るのはビーストだけだ、と凛子は名護に聞かせた。
しかし名護は凛子の訴えを聞いてなお、歩こうとする。
「無茶です! 言うことを聞いてください!」
警察として民間人の被害を出すわけにはいかない。
凛子は名護の前に立ち意志の強い瞳で対峙する。
「いい眼をしている。君のような気の強い女性は嫌いではない。だが……」
名護は左手の薬指にはめてある指輪に視線を移した。
「俺には一人で十分だ」
「何を言って」
「安心しなさい。ああいった怪物相手はむしろ専門だ」
「えっ?」
専門とは、どういう意味だろう。
困惑する凛子を置いて、名護は懐から得物を取り出す。
それはナックルのような形をしたスタンガン『イクサナックル』だった。
(銃もなしにそんなもので、どうやって……)
そもそもファントムには銃すら通用しない。
名護はイクサナックルを自分の掌に押し当てる。
レ・デ・ィ……
ナックルの電極部分『マルチエレクトロターミナル』が名護のバイタルデータを瞬時に解析し、無機質な電子音声が響く。
「変身!」
名護は勇ましく叫ぶと、腰に巻きついていたベルトのバックルに待機状態となったナックルを押し当てる。
フィ・ス・ト・オ・ン……
金色の鎧が現れ名護の体と重なる。
瞬間、鎧は穢れのない美しい純白の色を帯びた。
仮面ライダーイクサ。
それが名護の纏った鎧の名だった。
イクサとは『Intercept X Attacker』の略称であり、つまり『未知なる驚異に対する迎撃戦士システム』という意味である。
「その命……神に返しなさい」
イクサの仮面の下で名護はファントム達に告げた。
名護と仁藤は我が強いから早々に絡ませたかった
書いてる自分もガシガシ、イベント起こさないとモチベーションがもたない
つまりライブ感か
イクサ来たー!
753&2103
おとうやんは出ないのー?
ファンガイアとファントムの利害が衝突しての怪人同士の争いとかも見てみたい
そういえば、ファンガイアがゲート化するって事はあり得るのか?
>>161大牙さんいるから見れるかもよ……(期待)
「ガルルルウウウウウ!」
雄叫びを上げて飛び込んだビーストは、着地と同時に目の前にいた一体のグールにサーベルを突き立てた。
魔力を帯びたサーベルの刀身部『ハイオイドフェンサー』がグールの体を容易に貫く。
「ぐるおおおおっ!」
グールは耳障りな呻き声をあげると爆散した。
爆炎の中からビーストの金色の魔法陣が現れる。
それはビーストが倒したグールの魔力をキマイラが食べやすいように変換されたものだった。
「まずは一品。味わえよ、キマイラ」
魔法陣がキマイラオーサーに吸い込まれ、キマイラへ魔力が届けられる。
ゴクッと喉を鳴らす音がした。キマイラが魔力を食った音だ。
同時にキマイラと繋がっているビーストの体に活力がみなぎってくる。
「これで今日の命は凌いだ。次は……」
(仁藤、後ろだ)キマイラの警告が飛ぶ。
ビーストは振り向きざまに襲いかかるグールの攻撃が届くより早くサーベルを薙いだ。
「明日の命!」
一瞬の光が走り、グールの体が両断される。グールは力なく膝をつくと魔法陣へと変換され、キマイラオーサーに送られた。
「どんどんいくぜ! 食いだめだ!」
ビーストが次の獲物に定めたグールへ目掛けて走る。
野獣のようにしなやかで力強い脚が生みだす疾駆。
ありえない程の短い時間でビーストは、グールに肉薄していた。
「俺に喰われおおおお!」
振り上げたサーベルで切り裂こうとする瞬間、激しい銃声が聞こえた。
グールの全身に無数の穴が開き、倒れる。
サーベルの切っ先が僅かにグールを当たるが、手応えはほとんどない。
(俺が仕留め損ねた!?)
(違う。お前が遅れをとったのだ)ビーストの疑問にキマイラが素早く答えた。
ビーストは銃声のした方を首だけ動かして見る。
そこには銃を構えたイクサが立っていた。
イクサはグール達に向けて銃を連射する。
銃口から弾丸が発射され、グール達にふりそそぐ。
イクサは自分の視界に移される解析されたグール達の熱量のデータを見る。
グールの持つエネルギーはイクサが倒してきた相手と比較するとかなり劣っていた。
(これなら今の状態で問題ないな)
分析を終えたイクサは悠然と歩きながらグリップに連結しているマガジンを押し込む。
マガジンがグリップに収納されると同時に銀色の鞘のような物が飛び出し、更にそこから紅いブレードが伸びた。
銃から剣へ、剣から銃へと変形するコンパチ武器『イクサカリバー』のカリバーモードだ。
イクサは鍛え上げられた戦士の剣技でグールを次々と切り伏せていく。
「うごおおおお!」
まだ息があったのかグールの一体が呻き声をあげて立ち上がろうとする。
イクサは刀身を押し込み、カリバーモードからガンモードに変形させた。
「消えなさい」グールを見下ろしながら言い放ち、トリガーを引くイクサ。
顔面に集中砲火をあびるグールは絶命の叫びを上げる間もなく起こしかけた体を倒し、そのまま動かなくなった。
イクサの躊躇いのない攻撃にビーストは背筋に冷たいものを感じた。
乱戦は書けないから結局はあちらを立てるとこちらが立たずになってしまう
小説版キバの名護さん思い出してちょい怖くなった
ハードな作風がいい感じ
(仁藤、我の餌がとられておるぞ。早くしろ)
「お、おう! まとめて喰ってやる!」
キマイラの催促にビーストは右中指に草色の指輪をするとソケットにはめこんだ。
カメレオ! ゴー!
カッ! カッ! カッ! カメレオ!
詠唱が終わると同時にビーストの右肩にカメレオンの顔を象った彫刻と共に草色のマントが出現する。
キマイラの力の一部であるカメレオンの力を宿したビーストだ。
ビーストは右肩のカメレオンの彫像をグールに向ける。すると、カメレオンの口から巻かれていた舌が一気に伸びた。
「ベロオオッ!!」気合の叫びと一緒に右肩を二度三度振るビースト。
変幻自在の動きを魅せる舌の鞭がグール達を打ち据え、蹴散らす。
サーベルを主な武器として使うビーストにとって中距離から一方的にかつ纏めて攻撃が出来る鞭の恩恵は大きい。
もちろん、遠くから攻撃するという点ではウィザードのソードガンやイクサの銃の方が優れている。
そしてビーストも銃は持っている。しかも強力な銃だ。
だがビーストの場合、銃を撃てば魔力弾の発射に伴いキマイラの魔力を消費してしまう。
同時にそれはビーストである仁藤にも影響を与える。
早い話、撃てば撃つほど腹が減ってくるのだ。
キマイラの魔力は仁藤の命。
雑魚のグール相手に余計な命は削りたくない。カメレオマントならば指輪の力を発動する分だけの魔力で済む。
だから、ビーストがグールを殲滅する時にはカメレオマントを羽織ることが多い。
「ベロロオオオオオッ!」
ビーストはその場で回転して舌の鞭で自分を囲むグールをなぎ払った。
爆散したグールが魔法陣に変わり、次々とキマイラオーサーに取り込まれる。
「腹加減はどうだ、キマイラ?」
サーベルの柄でキマイラオーサーを軽く叩くビースト。
キマイラは挑発するように言った。
(前菜ごときで我を満たしたつもりか?)
「安心しろ。メインディッシュはこれからだ」
ビーストはサーベルの先をバジリスクへと向けた。
乱戦は難しいよね
だがかっこいい。面白いぜ
なるほどそれでカメレオ使用率が高いのか
面白いよ
乙
名護さんは仁藤の事情知らないからうっかりとどめ刺しちゃいそうだな
でも、これが終わった後ちゃんと説明すれば協力してくれそう?
ビーストは一応ダイスサーベルの先端から銃弾が撃てるらしい
「ライオンのお兄ちゃん、僕と遊んでくれるの?」
バジリスクは剣を出現させるとビーストへ突進する。
ビーストはサーベルで迎え撃った。
互いの武器がぶつかり合い、ギィインという硬質の刃鳴りが辺りに響かせ、火花を散らせた。
「それ!」
バジリスクは子供が木の枝をもってなりきり遊びをするかのように、めちゃくちゃに剣を振る。
「それそれ!」
とにかく振る。息つく暇もなく振る。
一つの攻撃を捌いたら次の攻撃が、その攻撃を捌いたらまた次の攻撃が。
休みのない一方的な攻撃にビーストは防戦一方だった。
ビーストとバジリスクは鍔迫り合う。
バジリスクは交差する剣とサーベルの間からビーストの顔を覗いた。
「強いね、お兄ちゃん。毎回やられる敵じゃなくて、途中でやられる幹部くらいには」
「俺が負けるみたいな言い方だな」
生意気な子供みたいな口を叩くバジリスクにビーストはイラっとした。
だが、バジリスクはビーストの怒りを微塵も気にせず「うん!」と明るく答えた。
バジリスクは愛らしい声で続ける。
「だってさ、僕はもっと強いから」それを証明するかのように力強く剣を押し込むバジリスク。
「ふざけやがって。てめえは絶対に喰ってやる」
ビーストは素早く一歩引いて、サーベルの鍔に埋め込まれた『ビーストダイス』の横の円盤を回した。
魔力を増幅させる紅い魔法石コアクリスタルを埋め込んだ神秘的なダイスがロールする。
ビーストダイスはいかなる魔法の干渉を受け付けない完全な博打だ。
やり直しは効かない。
そこがダイスサーベルの面白い所ではあるのだが、やっぱり出た目が低い時は嫌なものだ。
特に1の目が出た時は最悪だ。
自分の命を削った一撃だというのに1。自分の命の価値がこれっぽっちしかないと宣告された気分になってしまう。
ビーストはカメレオンの指輪をサーベルの方のキマイラオーサーへ装填して魔力を送り込んだ。
フォー!
ダイスの回転が止まり、コアクリスタルの数つまり出た目は4だった。
(中の上……まあまあか)内心ホッとした。
ビーストはサーベルを構える。
コアクリスタルによって増強した魔力が刀身を伝い、剣先『パストラルフルール』で収束され、魔力弾が精製される。
カメレオ! セイバーストライク!
呪文の発動と同時にビーストはサーベルをフルスイングした。
魔法陣が展開されるとそこからカメレオンの形をした魔力弾が4発放たれる。
カメレオンの魔力弾は四肢を動かし素早く地を這うとバジリスクへと襲いかかった。
バジリスクは剣で一匹のカメレオンを叩き落とすが、残りの3匹が体に組みつき爆発した。
「ぐう……」
バジリスクは苦悶の声をあげる。それなりに効果はあったようだ。
ビーストは素早くカメレオンの舌を伸ばした。
舌が的確にバジリスクの手に巻きつく。
ビーストは右脇をしっかりと閉めて舌を巻き戻そうとする。
「さっさと……その剣を離せよ」足に力をいれて踏ん張るビースト。
「嫌だ……よ」引っ張られまいと巻きつかれた腕を引くバジリスク。
舌の鞭がしなり、ギリギリと音を鳴らす。
その時だった。イクサの銃撃が割り込んできた。
銃口が火を吹き、純銀を数%含んだ弾丸シルバーバレットがバジリスクに炸裂した。
「おい! 横から割り込んで俺の獲物をつまみ食いとかいい度胸だな!」
自分の横に並ぶ白い鎧に向かってビーストは吠えた。食事を邪魔されるのはビーストにとって一番腹が立つことだ。
「君はそのまま奴を抑えていなさい」
「はあ? お前、何様のつもり」
イクサはビーストの抗議を無視すると銃を剣に変えて、バジリスクに斬りかかった。
紅いエッジがバジリスクの肢体を切り刻んでいく。
「痛い……なあ!」
一方的に攻撃されたことに激昂したバジリスクは半ば力任せに剣を振った。
ビーストは舌の鞭ごと転がされ、斬りつけられたイクサは数歩下がった。
「あっ」バジリスクは自分の腕を見ると舌の拘束が解けていることに気付いた。
最前の攻撃でどうやら振りほどいたようだ。
それなら遠慮はいらない。
バジリスクは先ほどのお返しとばかりにイクサを攻撃する。
イクサは剣を避けるとバジリスクへ反撃した。
遅い。ビーストのような獣じみた速さがない。
バジリスクはイクサの一撃を余裕で受け止める。
軽い。ビーストと鍔迫り合った時ほどの抵抗を、剣を握る手に感じない。
バジリスクは確信する。
この白いお兄ちゃんはライオンのお兄ちゃんより弱い。
そして僕はライオンのお兄ちゃんより強い。
つまり僕は負けない。
「弱いね、お兄ちゃん」
バジリスクはイクサを蹴り飛ばして嘲笑した。
そこから一太刀、剣を横に薙いだ。
ブオンと風を斬る音がすると同時にイクサの白い外装に火花が起こり、煙が上がる。
イクサは膝をついた。
その様子を見て、ビーストは毒づく。
「人に命令する割には大したことねえじゃねーか。やっぱり俺が喰うしかないな」
ビーストはサーベルを構えなおしバジリスクへ向かう。
しかし、それを遮るようにイクサはゆっくりと立ち上がった。
イクサはビーストをしばらく見て、続いてバジリスクへ視線を移す。
イクサが静かに呟いた。
「君達は実に愚かだ」
尊大な物言いだった。
しかし、その言葉は絶対に覆らない事実のように聞こえた。
イクサは教えを説くように続ける。
「相手の力量も測れない。相手がどういった主旨を以て行動しているかも考えない。愚かしいことだ」
「どういう意味だよ?」
「それを今から見せてあげよう」
イクサは即座に戦闘コマンドを入力する。
(戦闘モードをSAVEからBURSTへ移行。並びに現時点までの取得データを元に迎撃プランを再構築)
イクサのメインシステムであるイクサナックルは忠実にそれを実行した。
白いマスクにある金色の十字架『クロスシールド』が展開され、紅い目が現れる。
「イクサ……爆現!」
イクサは出力を抑えていたセーブモードからバーストモードへ形態を変えた。
全身にそれまでと比べ物にならない量のエネルギーが流れ込み、膨大な熱量が放出される。
「うおっ!」
体を焼かれそうな圧倒的な熱の奔流にビーストは思わずマントを翻す。見るとイクサ周辺の緑の芝生が焼け焦げていた。
イクサは勝利を確信しているかのように、ゆっくりとバジリスクに向かって歩く。
バジリスクはイクサの醸し出す気迫に圧されながらも剣を振った。
だが、剣はイクサの装甲に届かなかった。
バジリスクの手首が既にイクサの手で握られていたからだ。
万力のような力でバジリスクの手を締め上げるとイクサは空いた手にある剣でバジリスクを斬る。
スピードもパワーも直前のイクサと段違いだった。
「つえぇ!」
ビーストはそう言うしかなかった。それほどに圧倒的だ。
当然といえば当然だった。
先ほどのイクサはセーブモード。今のバーストモードと比較して、6割程度の出力で稼働していたのだ。
装着者である名護にとってセーブモードの戦いは慣らし運転でしかなかった。
イクサは何度も剣を打ち付ける。
「悔いなさい。自分の愚かしさを」
イクサは銃を浴びせかける。
「悔いなさい。自分の弱さを」
イクサはベルトからイクサナックルを取り外し、それでバジリスクの腹を殴る。
強化されたイクサの拳に、バジリスクは声にならない悲鳴を上げて膝をついた。
イクサはバジリスクを紅い目で見下ろす。
そして、バジリスクの顔面にブーツの裏を叩き込んだ。
蹴りとばされたバジリスクにイクサは言った。
「誇りに思いなさい。俺の相手をしたことを」
イクサはナックルをベルトに再装着させると右のフエッスロットから金色のフエッスルを取り出した。
トドメの一撃。
それを感じ取ったビーストはイクサの腕に舌の鞭を巻きつかせた。
「君、何をする」
「つまみ食いは許してやる。だけどな、その勢いで全部平らげようとするなよ」
「何か問題でもあるのか?」
「大有りだ。さっきも言っただろ、そいつは俺の獲物だ」
「……わかった」
イクサはフエッスルをスロットへ戻した。
「君の戦士つぃての実力を見せてもらう」
「戦士じゃなくて魔法使いだけどな」
ビーストは舌の鞭を解くと姿を消した。
イクサは一瞬、驚くが冷静に索敵コマンドを実行する。
熱センサーや厚さ5mの鉄板の向こう側すら透視するスーパーXレイを作動させてビーストを探すが反応はなく、視界には「LOST」の文字が浮かんだ。
(なるほど。確かに魔法だ)
キバ側もウィザード側もかっこいいな
しかし仁藤も名護さんもキャラが濃い
名護さんが成長してらっしゃる
やっぱり名護さんは最高です!!
バーストモードってこんなに強そうだったっけ、やたら格好いい
本編後の名護さんは素直に頼りになるな
>>180
初登場時すげえ迫力あった
っていうかなっただけでファンガイアにダメージ与えてた
乙
バジリスクは何かを感じる。
それは自分を狙う野獣の視線だった。
視線は背中だけじゃなくて全身に感じた。
まるで体が長い舌で舐め回されたかのような不快感でざわつく。
獣はすぐそこにいる。いるはずだ。
気配は確かにある。だが、姿が見えない。
バジリスクは辺りを見回し警戒する。
声を押し殺し、小さな異変も見逃さないといった様子だ。
変化はなかった。
獣は息を潜めている。バジリスクを確実に食うためにジワリジワリと隙をうかがっていた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
バジリスクはわずかに顎を上げて空を見上げた。
青い―ということは、まだそこまで時間は経っていない。
顎を元の位置に戻そうとした時、景色の中から何かが飛び出してきた。
それは目にも止まらぬ速さでバジリスクの体に巻きつく。
そのすぐ後のことだ。
バジリスクの体は宙に舞った。
バジリスクが自分の体を舌の鞭に拘束され、空高く放り投げられたことに気付いたのは芝生にビーストの金色の体を見た時だった。
「余所見したてめえの負けだ」
ビーストは天に向かって咆哮する。
「メインディッシュだ!」
左中指のビーストリングをドライバー左のソケットにはめ込む。
キックストライク!
「そこから……一味加える!」
今度は右中指のカメレオリングを右のソケットにはめ込む。
ゴー! カメレオ! ミックス!
詠唱が終わるとビーストの右足に魔力が集中し、マント同様のカメレオンの顔が現れる。
「よ~く狙って……ベロオッ!」
ビーストの合図と共に右足の魔力で造られたカメレオンから舌が伸びた。
舌は鞭というより槍の突きのように風を裂きながら直進するとバジリスクを貫く。
そのままカメレオンは舌を巻き戻した。
バジリスクの体が地上へ急速に引き戻されていく。
落下先には大口を開けたカメレオンが待っていた。
「ベロロオオオオオオオオオオオオオ!」
ビーストは迫るバジリスクに高く上げた右足のカメレオンを打ちつけた。
必殺のキック『ストライクビースト・カメレオミックス』だ。
強烈な魔力の一撃を食らったバジリスクは爆散した。
バジリスクの魔力は魔法陣に変換されて、キマイラオーサーへ飲み込まれる。
ビーストの全身にグールを捕食した時以上の力が湧いてくる。
こいつは中々の上玉。苦労して食った甲斐があったものだ。
美味いものを食った後は気分がいい。
「ごっつぁん!」
ビーストは意気揚々と両手を「ごちそうさま」の形に重ねた。
食事を終えたビーストは変身を解除し、仁藤へ戻った。
(下僕の勤め、ご苦労だった)
仁藤の頭の中でキマイラが珍しくねぎらいの言葉を掛ける。
それは今回の食事はそれなりに満足したという証の言葉でもあった。
(お前が繋いだ命。主である我を楽しませることに精々使うがいい)
(そりゃあどうも)
要するに腹が減るまでは好きにしろということだ。
なんつーか素直じゃねえよな。もっと分かりやすく言えよ。
そんなことを思っていると近くで機械音が鳴った。
イクサが変身を解除した音だ。
変身した時とは逆に白い鎧が離れ、金色に変わるとイクサベルトのコアに収納される。
イクサの立っている場所に名護が立っていた。
「おっさんだったか。まっ、そんな気はしてたけどな」
あの上から物を言う態度、とまでは言わなかった。
「おっさんではない。君は年上を敬う心がないのか」
「んなことは、どうでもいいんだよ」名護の見下したような言葉に仁藤は苛立たしげに返した。
「ああ、全くだ。今は君の相手をしている場合ではない」
「なっ!」
名護はスタスタと仁藤の横を通り過ぎると芝生に座り込んでしまっている奏美に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
人を安心させる慈愛の笑みを名護は浮かべる。
名護は奏美に力強く言って聞かせる。
「怪物はもういない。安心しなさい」
「は、はい……」
奏美は少し顔を逸らして名護の手をとった。
「君も大丈夫かな?」
奏美を立たせた名護は次に地面に突っ伏している大地に歩みよった。
「少し我慢しなさい」
そう言って名護は大地の体を仰向けにする。
次に大地の背中に手を滑り込ませ、ゆっくりと大地の上半身を起き上がらせた。
まるで病院のベッドだ。
「っ!?」大地は顔を歪ませる。
「その様子だと彼女を守ったんだな」
「はい……」
「こんな細身で……無謀でしかないな」
「す、すみません」
「だが、君のやったことは簡単にできることではない。君はとても勇敢だ。誇りなさい」
「あ、ありがとうございます」
大地はためらいがちだったが、礼を述べた。
名護は朗らかな笑顔で返した。
「何だ……あれ! 何だ……あれ!」
事の一部始終を見ていた仁藤はそう叫ぶしかなかった。
カメレオストライクは最初、魔法陣に舌を伸ばして振り子運動からのキックにしようとした
あとフェアリーフェンサーエフが届いたんで更新ペースは遅くなる
名護さんは最高です!
>>185
サガと共演した時に披露されると面白そう
>>185
井上敏樹目的か
乙
ベルデのファイナルベントを真似してもいいんじゃない
7538315ですっ!!
魔皇石で指輪をつくるのか……。
面影堂にはいつもの面々に加えてゲートの奏美、そして名護がいた。
名護はソファーに座り瞬平の淹れたコーヒーを静かに飲んでいる。
骨董品に囲まれた面影堂の埃っぽい店内が妙に爽やかな空気で満ちる。
名護の動きには気品があった。
だが、堅物そうな感じがする。
それが晴人の名護への第一印象だった。
「……」見知らぬ男の来訪にコヨミは少し強ばった顔で晴人の後ろで名護を見ている。
「真面目そうな人ですね」瞬平は名護を好意的に捉えた。
「俺たちの中ではいなかったタイプの人間だな」面影堂の店主である輪島の声はどちらでもない感想を漏らした。
晴人はプレーンシュガーのドーナッツを食べながら「誰、あの人?」という意味を込めて名護を顎で指すと、名護と一緒に来た仁藤へ視線を投げた。
客には見えない。かと言ってゲートにも見えない。
大抵のゲートはファントムに襲われたことで動揺していることがほとんどだが、名護の顔から動揺の色は伺えない。
あまりにも堂々としている。
晴人の視線を柱に背を預けている仁藤は「知るか!」と言いたげに顔を逸した。
仁藤と名護の間に何かあった事を想像するのは容易だった。
いかにも堅そうな名護と自由奔放に生きている仁藤では反りが合わなそうだからだ。
晴人が視線を名護に戻すと凛子から質問を受けているところだった。
「名護さん、単刀直入に聞きます。あなたは何者ですか?」
「俺はファンガイアに対抗する組織『素晴らしき青空の会』に所属する戦士だ」
「ファンガイア」その名前を瞬平は苦々しく口にした。
「ん、君はファンガイアを知っているのか?」
「は、はい。じ」
「ほんの少しだけね」
瞬平が何かを言う前に晴人がポーカーフェイスで軽く返す。
正直者な瞬平のことだ。自分が出会った笛の魔法使いのことも喋ってしまうかもしれない。
名護は何処か見透かしたような目で晴人を見ると凛子に言った。
「君は刑事だな?」
「はい、そうですけど。それが何か?」
「そうなると国家安全局0課が情報の出所か。警察でファンガイアの情報を扱っているのはそこしかないからな」
「0課をご存知なのですか?」
「警察の上層部にも青空の会のメンバーがいる。もちろんに国安0課にもだ」
「随分と大きな組織なんだな。青空の会っていうのは」
「青空の会は創設してから活動を数十年続けている。そして、その規模は世界だ。ファンガイアは世界中にいるからな」
「そんなにいるのか」
「当然、警察の知らない情報もある」
晴人は木崎が言っていた「ごく僅かな資料」の意味を理解した。
おそらくファンガイアの情報は青空の会がほぼ独占しているのだろう。
そして、警察の情報は青空の会に流れている。
消失事件のことも知られているだろう。
凛子はまた別の質問を名護にする。
「あなたの素性は分かりました。では、あの白い姿は一体」
「随分と派手な格好だったよな。おまけにファントムとも戦える」
それまで沈黙を保っていた仁藤が悪態混じりの言葉を吐いた。
ファントムとも戦える。
仁藤の一言に名護の変身を見てない晴人たちは驚きの顔を浮かべる。
晴人は指輪をはめるとコヨミを庇うように半歩前に出た。
そんな晴人の警戒を知ってか知らずか名護は優雅にコーヒーを飲んで答える。
「あれはイクサ。青空の会がファンガイアを狩るために作り出した力だ」
「狩る? ファンガイアは5年前の内乱で人間と共存する道を選んだんだろ?」
少なくとも晴人が木崎から聞いた話ではそうだった。
後に凛子が持ってきた0課の資料には、ファンガイアのライフエナジーに変わる新しいエネルギーを開発したことで人間からライフエナジーを 吸収する必要がなくなったとあった。
「0課の資料にはそこまであるということか。確かに君の言うとおりファンガイアは人間と共存の道を辿っている。だが」
「例外があるってことか」
「ファンガイアは有史以前より闇の住人として存在してきた。彼らは人間を超越した力を持っている。故に自分たちがこの世界で最も優れ、高貴な存在だと自負してきた」
「傲慢な奴らだな。何様のつもりだよ」感情的に吐き捨てる仁藤。
「読めてきた。そんなプライドのお高いファンガイア様は下賎な人間との共存なんてごめんってことか」芝居がかった口調で喋る晴人。
「そういった人間との共存を良しとしないファンガイアの右翼……強硬派とも言える集団。今の青空の会は強硬派のファンガイアを狩ることが主な目的だ」
「奏美さんや消失事件の被害者を襲ったのは強硬派のファンガイアだったんですね」瞬平が納得したように頷く。
「あんたはその強硬派を追って?」
「そうだ。そして、この街で起きている消失事件はファンガイアの強硬派の中でも特に過激な連中によるものだ」
ファンガイアを何体も狩ってきた名護の経験がそう断言させた。
ここまで簡単に嗅ぎつけられるような真似をするのは、それこそ人間を餌としか認識してない極右のファンガイアのすることだ。
同時にそれは強硬派の中心人物が鳥居坂に来ていることの証明だった。
「5年前の戦いで空席となったファンガイアの頂点に立つ『チェックメイト・フォー』の一つ、ルーク。そこについたファンガイアが強硬派のリーダーだ」
今回の投下は説明ばっかで書いててつまらなかったんで妄想ネタを
今から40年ほど前に警察である一つのプロジェクトが発足された。
『マスクドライダー計画』
いずれ人類に来る未曾有の危機に対抗するための強化外装装着システム『マスクドライダーシステム』の開発をするためのプロジェクトだ。
ある時、そのデータが外部へ流れた。
正確に言うと流された。
加賀美陸という一人の男の手によって。
マスクドライダーシステムの技術を提供した『彼ら』を信用していなかった陸は密かにデータを流していた。
万が一、システムに仕込んだ『赤い靴』が失敗に終わった時の予防策だった。
どんな思惑があってもいい。どんな形であってもいい。
『彼ら』を滅ぼす力の誕生を陸は望んだ。
ライダーシステムのデータはおおよそ人類では手が出せないような未知の塊だった。
だが、陸は賭けた。これを解析できる天才が現れることに。
やがて時が経ち、そのデータの一部を解析した天才が現れた。
イクサの開発者である。
彼女は独自の理論の下でライダーシステムを開発した。
それがイクサだった。
おお、こういう裏設定的なのは燃えるな
いいね
イクサの開発者はめぐみんのおばあちゃんだったな
乙
…てことは、その辺のデータ関係なしでG-3系列は作られた可能性が…?
バースとかメダルシステム以外はドクターも参考にしてたりして
G3シリーズは小沢さんが警視庁にいたころ開発したもので、
その発想元は警察を悩ませていたグロンギと戦える戦力だったクウガ。
それをパワードスーツみたいな感じで再現しようとして生まれたんじゃなかったっけ。
ならZECT、ひいてはワームとはルーツ違いだから無関係になるんじゃないかと。
パワードスーツ
↓
Gシリーズ(限りなく人の体型に近い強化装甲)
↓
マスクドライダーシステム(ワーム技術を元にした変身機能、装着者選別あり)
↓
イクサ(人の手によって人が扱えるように作られたシステム)
↓
バース(セルメダル系機能付加)
とかどーよと思ったけど時代があわんな
Gシリーズは別系統で考えるべきか
陸の流したデータが青空の会だけじゃなくてスマートブレインやBOARDが手に入れたという可能性もあるかもしれん
加賀美さん警視総監だったから情報流せるんじゃね?とか思ったけど、
そもそもアギトの頃は別な人が警視総監だったような気がして来た
もしくは、別な方向から新たな技術が生まれることを期待して情報は流さなかった、って可能性もあり得るか
本郷
そういえば龍騎のライダーのスペックは平成ライダーのなかでも上位くらすだんだよな。それを十年単位で作った神崎
天才すぎだろ
MOVIE大戦に名護さん出ててワロタ
このクロスもしかして、次狼と山本さんの夢のツーショットが見られるんじゃないか
あ
スーツを着た青年は暗い道路脇を歩いていた。手には鞄とスーパーで今日の夕飯に使う食材のはいったビニール袋。
青年は自宅のアパートへ帰る途中だった。
就職氷河期と言われる昨今、いくつもの会社に落ちながらようやく入った職場。
初めの数ヶ月はけしていい思い出とは言えなかった。妙にプライドの高い上司に見下されながらの仕事。苦痛だった。
何度も嫌気がさして会社を辞めたくなったが、その度に努力し結果に繋げて、業績という形で自分の価値を上司に見せつけてやると次第に認めてもらえるようになった。
仕事帰りの飲みに誘われることも増えて、入社して二年になる今では上司のことを「この人はプライドが高くてめんどくさい所もあるけど良い人だ」と思えるようなった。
やがて角を曲がるとアパートが見えてくる。
(早く飯にするか。それで風呂入って、とっとと寝よ)
頭の中で予定を立てながら青年がそのまま次の一歩を踏み出そうとした。
すると突然、背中に鋭い痛みが走った。
「うっ!」
短く鋭い叫び声の後、意識が一瞬で遠のいた。
青年は頭から突っ込むようにコンクリートの地面に倒れていく。
ゴンッと硬いものがぶつかる音はしなかった。代わりにガラスが砕けるような音がすると青年の全身が砕けて散った。
青年の立っていた場所には半透明な牙が浮かんでいる。
やがて、暗闇の中から若者の姿をしたファンガイアが現れて、主の消えたスーツを見下ろした。
若い分、活力のあるライフエナジーだ。だが、それだけで無難だ。味気がない。
食らった命が全身に巡るのを感じながらファンガイアは食事の評価を下した。
餌の価値しかない人間が長命なファンガイアである自分の一時の食事すら満足させられない。
どうしようもない。やはり、拾い食いはするものじゃない。
二百年ほど前なら自分の存在に畏敬し、己からファンガイアの糧となる光栄な使命を負った人間すらいたのに嘆かわしい。
そんな風に過去を振り買っていると「人目についちゃうよ」と誰かの声が聞こえた。
声の方を向くと帽子をかぶった若者がブロック塀に背中をあずけていた。
見られた? だから、どうした。食えばいい。
どうせ餌は腐るほどある。一人二人、間引いてもなにも問題ない。ただうるさい人間社会が少し騒ぐだけだ。
「ちょっと待って。僕は君と話をしに来たんだ」ファンガイアが宙に舞う牙を出すと帽子の若者は手を出して制止した。
「話? あなたは誰ですか?」
「君と同じバケモノさ……今はね」
帽子の若者がその姿をエメラルドグリーンのバケモノ、グレムリンへと変える。
ファンガイアはグレムリンの中で渦巻く魔力の波動を感じ取った。
「ファントム」
「へえ、知っているんだ」
「下級のファンガイアならともかく優秀なファンガイアならば常識ですよ。なにせ、その名前はファンガイアが与えてあげたものですし」
「そうなんだ。随分とひどい名前だよね、亡霊だなんて」
「侮蔑の意味が込められてますから。絶望して死んだ弱い人間の残りカスにはピッタリじゃないですか」
「残りカス……」
グレムリンは目に当たる幾重のスリットが闇の中で怪しく光らせる。
表情が分からないにも関わらずファンガイアはグレムリン――ソラの表情を見透かしているかのように薄く笑った。
これはいい敏樹節
ファンガイアの恐ろしさよな、この空気
実にいい
小説版キバでは名護イクサに狩られる側のファンガイアにこんな回想入ってたな
「それでファントムが何の用ですか?」
「君たち、バイオリンの女の人を狙っているでしょ? あれ、やめて欲しいんだ。彼女は僕らの獲物だからね」
「ファントムが仲間を増やそうとするなんて意外ですね。やっぱり人間を超えた力を持っていても、元が人間だから群れなくちゃいけないんですか?」
「……群れているのは君たちも同じでしょ」
慇懃無礼な態度を崩さないファンガイアにグレムリンの人間だった部分が、その言葉を吐き捨てさせた。
だが、ファンガイアはソラの罵りに全く意に介さず返す。
「ファンガイアの集団を群れなどと動物的な表現をしないでください。ファンガイアの掟は力の掟。支配するか、されるか。二つに一つ。それだけです」
(そんな発想こそ動物的だね)言葉にはしなかった。こういった手合いは何を言っても無駄だからだ。
「でも、まあ……譲ってもいいですよ。ただし、僕らの目的が終わってからですけど」
「目的って、さっきみたいに人を襲うことかい? それじゃあ意味ないんだ」
ファンガイアが人を襲うのは一瞬の出来事だ。
どこからともなく宙に舞う牙が出現し、人間に突き刺さり、命を吸い出す。
襲われた人間は何が起きたかも分からず死んでいく。
それでは新たなファントムが生み出せない。ゲートが死の恐怖で絶望する暇すらないからだ。
「死体からファントムは生まれないんだよ」
正直に言ってしまえば、新たなファントムを生み出すことに興味はない。
どれだけファントムが生まれても自分にとっては他人でしかない。
だが、目の前にいる傲慢なバケモノに譲るのは癪だ。
グレムリンは出血の名を冠した2本の刀『ラプチャー』を出現させるとファンガイアに振り下ろした。
けたたましい音が夜の闇に響く。
瞬間、グレムリンの手に痺れが走った。硬いものを叩いたような感覚。
見るとラプチャーで切り裂いているはずの若者の肩が腕に掛けてファンガイアのものへと変化していた。
「残りカスが調子に乗るな」
ファンガイアの口調に恐ろしいまでの冷たさと荒々しさが帯びた。
人間の体とファンガイアの片腕というアンバランスな姿をした若者は、本来の自分である方の腕から衝撃波を放った。
しかし、既にそこにグレムリンはいない。
「クフフ……」
ファンガイアの耳に粘つくような嫌な笑い声がはりつくと衝撃波によってえぐれた道路からグレムリンが顔だけ出す。
物体をすり抜けられるグレムリンの能力だ。
それを見てファンガイアは楽しそうに笑った。
「絶望して生まれたファントムを絶望させるというのも中々面白そうだ」
荒々しい口調のまま若者の顔に色鮮やかな模様が浮かぶ。
全身が高貴なる闇の力で満たされていく。
醜い人間の皮を捨てて、本来の自分であるファンガイアの姿へと戻る。
この高揚感がたまらなく心地いい。
昂ぶりのままにファンガイアの指を鳴らした。
その時、後ろで何かが倒れる音がした。
そこには制服を着た少女が立っていた。すぐ傍には自転車が倒れている。
単にこの道が帰り道だったか、グレムリンの攻撃を受けた時の音を聞きつけてか。
どちらにせよ少女の目にはエメラルドのバケモノと異形の片腕をもつ若者が対峙しているという現実だけがある。
若者は無言で少女に近づき「無粋だな。消えろ」とだけ言うと異形の手で少女の首を絞めると宙に舞う牙を突き立てた。
少女の体の色素が薄くなり透明になる。
直後、異形の腕は容赦なく制服を着せたガラス像を握り潰した。
若者は異形の手を人間の手に戻した。
「やめましょう。気が削がれました」
「……」口調が元に戻るファンガイアを怪しみながらグレムリンはソラへと戻った。
「僕らの目的はあの女を喰うことではありません。重要なのは音楽ですよ。この街に眠る『ヘルズ・ゲート』を開放するための音楽」
「ヘルズ・ゲート……何それ?」
「あなたみたいなバケモノが知ることではありません」ファンガイアは邪悪な笑みを浮かべて、グレムリンの横をゆっくりと通り過ぎていった。
・
・
・
銀色のシザーが走り、黒い髪がはらりと落ちる。
グレムリンは髪の生えた生首のマネキン――カットウィッグの髪を整えながら思考していた。
目的を果たした後ならゲートを譲ると言っていたが、どういう意味なのだろう。
ゲートに絶望されて、ファントムを生み出されては困る事情があるのだろうか。
それにヘルズ・ゲートとは一体なんなのか。
ヘルズ・ゲート……地獄門というからには物騒な代物には間違いない。
わからないことが多くて頭がグチャグチャになりそうだ。
「何か知っていませんか?」
気晴らしにソラとしての営業スマイルを浮かべながらマネキンに話しかけてみる。
もちろんマネキンは何も答えない。
グレムリンはカットを続ける。
やがて、それまで使っていたシザーをトレイに置き、仕上げ用に使うシザーを手にとった。
トレイに置かれたシザーは赤く染まっている。マネキンが刺さった台の近くで首のない女性の体が血だまり沈んでいた。
殺されるだけの役目の人間に>>209みたいに背景は必要なのか
それとも殺されるだけなんだからサクっと殺した方がいいのか
どっちがいいんだろうね
本編ではできないえぐさ
面白い、すごく
ほんの少しでも首を突っ込んだ話の方が、死に対する絶望や驚きも大きくて面白いと思う
ちょっとしたキャラのバックグラウンドが垣間見えた方が恐怖感を演出できると思う
しかし今回のファントムVSファンガイアはいい見所だった
次回更新も期待して待ってます
何で上げないんだ
ファントムの由来はファントムペイン(幻肢痛)だそうです
乙ー描写が何となく小説敏樹っぽくていいな。
>>218
それはあくまで劇外の由来で劇中ではSS中と同じと解釈してもいいんじゃない?
パッションピンクの可愛らしい車を中心に旗と木製のテーブルとイス。そして、甘い香りのする色とりどりの揚げ菓子。
小さなカフェがそこにあった。
鳥居坂に住む人間なら一度は見かけたことはある移動式ドーナツショップ『はんぐり~』は今日も休まず営業中のようだ。
晴人が車に近づくと設けられた販売カウンターから車と同じ色をしたエプロンをつけた男が顔を出す。店長だ。
「いらっしゃ~い、ハルくん。そろそろ来ると思ってたわよ」
「三時のおやつには、はんぐり~……ってね」
「今日はうちで? それともお持ち帰り?」
「天気がいいから、こっちで」
「そう。ところで、この新作」
「プレーンシュガー、買えるだけ」店長自慢の新商品が披露されるより早く、晴人はカウンターに五百円硬貨を置くとお気に入りを注文した。
「もう、また~?」
店長はがっくりと肩を落とす。こっちが出す前に潰すのは反則だ。
プレーンシュガーしか頼まない常連。
別にそれが悪いとは言わないが、作って売る側としてはやっぱり他のドーナツの味も知ってほしい。
好きだからなんだろうけど、これだけ毎回推しても頑なにプレーンシュガーしか頼まないのはちょっと変わっていると思う。
「……ねえ、ハルくん。どうしてプレーンシュガーばっかりなの? たまには新作食べてくれてもいいじゃない。すっごく美味しいんだから」恨み言混じりに呟いた。
「店長の腕は信用しているさ。プレーンシュガーがなによりの証明だからな」
「あら、お上手。それに免じて今日は引き下がってあげる。でも、若いうちからそんなにドーナツばかり食べていたら糖尿病になっちゃうわよ」
「それって体験談? 新作つくって試食ばっかしてたら……みたいな」晴人は悪戯っぽく笑ってからかった。
「そんなわけないでしょ! 私はいたって健康よ。体は資本だもの。お肌と同じくらい気を使っているんだから」
自慢げに頬を突き出す店長。「気をつかっている」の言葉通りシミ一つない綺麗な肌だった。
晴人はドーナツの入った袋と紙皿を受け取りイスに座るとプレーンシュガーをかじった。
(どうしてプレーンシュガーばっかり頼むのか……か)
プレーンシュガーの生地のもっちりとした食感を楽しみながら晴人は店長の言葉を思い出す。
きっかけは子供の頃に起こった出来事だった。
・
・
・
家族三人で出かけた帰り道、その日は土砂降りの雨だった。
ワイパーが忙しなく動いてフロントガラスを拭くが、あっという間にその上から大量の雨粒が落ちてくる。夜ということもあって視界はかなり悪かった。
お母さん、まだつかないの?
後部座席に座る幼い晴人は退屈そうに愚痴った。
「晴人、わがまま言わないの」
助手席の母が嗜めると晴人は少し不貞腐れた顔をしてプレーンシュガーのドーナツをかじった。それを見て、母は優しく笑った。
そんな妻と息子のやり取りを横目で見ながら、運転席の父もまた小さく笑みを浮かべた。
操真晴人は優しい両親のいる幸せな子供だった。
しばらく車を運転しているとフロントガラス越しの景色に四角い何かが浮かび上がった。
次に見えたのは目を覆いたくなるほどの強い光。
同時にうるさすぎる音が聞こえた。
突っ込んでくるトラック。それが一家の見た光景だった。
父は反射的にブレーキを踏んだが既に遅かった。
一家を乗せた小さな車はそれの何倍もの大きさと重さを持つ鉄の塊に吹っ飛ばされた。
晴人は割れたガラスが飛んできて自分の顔を切り裂く鋭い痛みも、全身が叩きつけられる激しい痛みも、衝撃で自分が食べたプレーンシュガーを嘔吐しそうになる不快感も、どれも感じる間もなく意識が暗闇の底に沈んでいった。
操真晴人は交通事故にあった。
助手席にいた晴人は辛うじて軽傷で済んだ。しかし、両親は違った。
病院で意識を取り戻した晴人が見たのは、変わり果てた両親の姿だった。
全身を包帯で巻かれてミイラのようになっていた。
「良かった。あなたが助かって」母は掠れるような弱い声で晴人の無事を喜んだ。
お母さん! 死んじゃ嫌だよ!
悲痛な叫びをあげる晴人に母は優しく語りかけた。
「忘れないで、晴人……あなたがお父さんとお母さんの希望よ」
僕が……きぼう?
母の隣のベッドで父は「そうだ」と言って、続けた。
「晴人が生きててくれることが俺たちの希望だ。いままでも、これからも」
父は右手を出して、合わせて母は左手を出した。晴人は両手に父と母の手を収めた。
家族三人が一列に手を繋いだ。
その時、心電計が映す波形が一本の直線になった。
途端に病室が慌ただしくなり、医師が様態を見ようと晴人を動かす。
離れていく晴人と両親。晴人の手から両親の手が力なく抜け落ちた。
晴人は両親の危篤を察した。
嫌だ! 嫌だよ!
晴人は遠ざかっていく両親を必死に呼び戻そうと必死に叫んだ。
だが、両親は晴人の言葉に応えなかった。両親は帰らぬ人になった。
操真晴人はひとりぼっちになった。
その晩、晴人は自分以外誰もいない家で泣いた。声が枯れるほどむせび泣いた。
泣いたら今度は猛烈に腹が減った。
何か食べようとキッチンにいくと茶色い紙袋があった。
中を見てみるとプレーンシュガーのドーナツがいくつか入っていた。
その中には晴人がかじったプレーンシュガーも混ざっていた。事故の時に食べていたやつだ。
一つ手にとってみると既に湿気ってしまった粉砂糖で手がベタベタになった。
晴人の脳裏に事故の瞬間の記憶がフラッシュバックし、死んだ両親が浮かんだ。
あれだけ泣いたはずなのにまた涙が湧いてきて、悲しみに押しつぶされて何もないはずの胃が吐きそうになった。
だが、晴人は歯を食いしばって耐えた。
お父さんとお母さんは死んだ。死んだんだ。もう何処にもいない。二人は僕に生きいてほしいって言った。だから、僕は生きていかなくちゃいけない。お父さんとお母さんのためにも。僕は父さんと母さんが残した希望なんだ。
晴人はプレーンシュガーを口に運んだ。
食べてやる。どんなに思い出しても食べてやる。食べて、食べて、食べ続けて、全部を僕の一部にしてやる。そうすればきっと前に進めるから。
・
・
・
晴人は何かが置かれる音にハッとした。
テーブルにはコースターと一緒にアイスティーがあった。
「これは?」持ってきた店員に聞いてみる。
「店長からですよ。ドーナツだけじゃ食べづらいだろうって」
晴人は視線をピンクの車に動かすと店長はカウンター周りを清掃していた。
「なあ、今日の俺どう見える?」
「えっ、どうって……いつもの晴人さんじゃないですか」
「だよなあ」
手で顔を触ると頬に指が沈んだ。
顔はこわばっていない。
昔を思い出して少しナイーブな気持ちになってはいたが、表情には出していない。
いつもの操真晴人の顔のはずだ。
「あのさ、店長……」
もしかして気を遣ってくれたのか? と聞こうとした。
店長は「バレバレよ」と言いたげにウインクをした。
マジか……
「どうしたの、ハルくん?」からかうように聞いてくる店長。
何を聞こうとしたか分かっていた癖に意地悪な奴だ。
晴人は「ふぃ~」とため息をつくと、いつもの軽口を叩く。
「奢ってくれるのは嬉しいけど、俺に『そういう』趣味はないぜ」
「あら、残念。いい男なのに」
同じく軽口で返す店長に晴人は笑った。
ありがとうな、店長。
本編で描写の少ないグレーゾーンは好きに掘り下げる
いいね!
おぉ、いい解釈……ぞくぞくする
いいな
この解釈いいな
食って乗りこえるってアギトだな
いいねえ、こういうの
乙。(≧∇≦)bイイハナシダナー
「キックストライク」「サンダー」「コピー」
「ライトニングディバイド」
>>230で思いついた
ハリケェーン!+「ドリル」で
「スピニングアタック」
そいうのもあるのか
そういうのもあるのか
晴人がはんぐり~でプレーンシュガーを食べている頃、仁藤は気分よく眠っていた。
テントから盛大ないびきが漏れて、近くを通る人は何事かといった様子でテントを怪訝な顔で見る。
すると通行人の一人が真っ直ぐテントに近づき、中の様子を伺った。
仁藤は大口を開けて、横になっている。口の端からヨダレが垂れて下に小さい染みを作っていた。
通行人の男はしばらく仁藤を観察する。
ボリボリ……
仁藤は気持ちよさそうな顔をして腹を掻いた。
男は呆れたようにため息をつく。
「昼過ぎだというのにまだ寝ているとは戦士失格だな」
男は仁藤に声をかける。
「仁藤くん、起きなさい」
男の声に仁藤は少し唸るが、それだけだ。
男はもう一度「仁藤くん、起きなさい」と同じように声をかけた。
やはり仁藤は起きない。
それどころか、寝返りを打って男に背を向けた。
ブオッ!
仁藤は盛大に屁を放った。
「……」
男は肩を震わせながら、上着の内ポケットに手をいれてメカニカルな形のナックルを取り出した。
いや、待て。落ち着け。彼はまだ未熟だ。だからこそ、俺が来た。
その俺が、この程度のことで取り乱してどうする。
心の中で渦巻く怒りを抑えながら、男はナックルをしまった。
ここは年配者として落ち着きを持って挑むべきだ。
男は爽やかな笑顔を浮かべて言う。
「仁藤くん、起きなさい。いつまでも寝ていたら体にも良くないぞ」
「………………………………うるせぇ」
安眠を邪魔する声に仁藤は寝ぼけながら小さく答えた。
瞬間、男が絶叫した。
「仁藤―――――くん! 起きなさ――――――い!」
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
耳をつんざくような声に仁藤は慌てて飛び起きた。
「ててて敵か?」
訳も分からず周囲を見ながら、すかさずビーストドライバーを出現させる。
そのまま両手を回しながら「へん~」と言ったところで、
(落ち着け、仁藤。客だ)
余計な魔力を消耗されては堪らないキマイラが止めに入る。
「あっ……客ぅ?」
落ち着いてテントの入口の方を見ると名護が立っていた。
来た!続き来た!!
そして>>222みたいな姿勢、YESだね!
>235
ブレンかよ! 俺も大好きだ
やはり名護さんは最高です
串に刺さった肉と野菜は程よい焦げ色がついていた。
バーベキューセットに敷かれた金網の下にある木炭は赤く光って小さく折った枝を燃やしていた。
仁藤は目を細めて獲物を狙う獣のようにジッと串を見ながら回した。
その様子を眺めている名護の目に煙が入ってひどく沁みた。
仁藤は串を取り上げると鼻をヒクつかせて匂いを嗅ぐ。
美味い匂いだ。何度もやってきたからわかる。自然と口の中が唾液で湿る。
仁藤はマヨネーズを取り出すとバーベキューにぶちまけた。
「かけすぎじゃないか?」
「これでいいんだよ。ほら」
食ってみろと言わんばかりに仁藤はマヨネーズが乗ったバーベキューを名護に渡した。
名護は不審そうにそれを見る。
バーベキューにマヨネーズをかけているというより、マヨネーズの下にバーベキューを敷いていると表現したほうが正しい位にマヨネーズとバーベキューの比率がおかしい。
これでは油の塊みたいなものだ。
だが、当の仁藤は自分の分を本当に美味そうに食べている。名護は試しに一口食べてみた。
「……」
「美味いだろ?」
「マヨネーズの味がする」
「当たり前だろ、マヨネーズかけてるんだから」
「……そういう意味ではない」
「それで人を起こして何しに来たんだ?」
「俺が君の所へ来たのは他でもない。君を鍛えるためだ」
「俺を鍛える?」
「つまり特訓だ。俺が直々に指導する。喜びなさい」
名護は「さあ、この喜びを分かち合おう」とでも言いたげな笑みを浮かべた。
仁藤はドン引きした。
喜びなさいってなんだよ。自分のやっていることがただの押し付けだって気づかないのか?
幼い頃から厳格な祖母にあれこれと言われて育ってきた仁藤は、今の名護がやっているような押し付けを特に嫌っている。
「冗談じゃねえ。特訓なんてゴメンだぜ」
「何故だ? 理由を言ってみなさい」
「おっさんのことが気に入らねえからだ」
クーラーボックスに入っている元気ハツラツのキャッチコピーで有名な清涼飲料水を飲みながら仁藤はハッキリと答えてやった。
「大体、弱い奴ならともかく何で俺が特訓なんてしなくちゃいけねえんだよ」
仁藤は自分が強い人間だと評価している。
これまでビーストとしての強大な力を操り、数々のファントムを倒し、喰らい、そして自分の命にしてきた。
死線をくぐり抜けてきた経験が仁藤に揺るぎない自信を与えていた。
だが、名護は仁藤と真逆の評価をした。
「先日の戦いを見ていたが君はまだ戦士として未熟だ。君は弱い」
「……おもしれえ」
仁藤の中で激しい感情が燃え上がった。
勢いよく立ち上がり指輪をはめる。
(仁藤、下らぬことで我の魔力を浪費するな)
キマイラの諫言は至極真っ当だった。
恐らくこのまま放っておけば仁藤は名護と戦うつもりだ。
キマイラにとっては名護と戦った所で何の腹の足しにもならない。
ただ魔力を消費するだけの無駄な戦いだ。
(お前はこんなことで命を削るつもりか?)
(当たり前だ。大体そういうてめえはどうなんだ、キマイラ)
(どういう意味だ?)
(ビーストの、お前の力を正面切って弱いって言われてんだ。まさか大人しく引き下がるなんてことはしねえよ、ご主人さま?)
(むぅ)キマイラは唸った。
安っぽい挑発。
だが、今ここで仁藤の言葉を否定すれば自分は臆病者だと宣言するようなものだ。
そんなことはキマイラの誇りが許さなかった。
……喰えぬ男だ。
忘れていた。この男は態度こそ粗暴だが、決して愚者ではないということを。
キマイラはいつも以上に尊大な主を装った口調で
(我に恥をかかせるなよ)とだけ言った。
(皆まで言うな)仁藤もそれだけ返した。
仁藤と名護はにらみ合う。先に動いたのは名護だった。
名護はゆっくりと立ち上がると
「君の力をよく知っておいた方が特訓のメニューも組みやすいな」
イクサナックルを取り出した。
喧嘩させればライダーバトルは起こせるとカブトが教えてくれた
両者のやりそうな所を突いたいい流れ
こういうのいいよね
乙
いいもんだ
おつおつ
おつ
ライダーバトルする直前の緊張感いいよね…
乙
さりげないオロナミンCにワロタ
無規則に連立する木々。
テントからしばらく離れた森の中で仁藤と名護は対峙していた。
「俺が勝ったら君を特訓させる。いいな?」
「構わねえよ。その代わり、俺が勝ったらその偉そうな態度を改めてもらうからな」
「それは出来ないな。君は俺に勝てない。もし君に出来ることがあるとしたら、それは俺の力に跪くことだ」
「その傲慢なプライドを根こそぎ食い荒らしてやる」
仁藤は名護へ向かって一直線に駆け出した。
同時に名護がイクサナックルを素早く掌に押し当てる。
レ・デ・ィ……
「変身!」
フィ・ス・ト・オ・ン……
純白の鎧イクサが名護を包むと仮面の十字架が展開される。
イクサはセーブモードからバーストモードへと姿を切り替えた。
切り替えによって伴う熱排出が凄まじい熱風が起こし、仁藤を襲う。
仁藤は臆せず走り続けた。
「変~身!」
セット! オープン! L! I! O! N! ライオーン!
キマイラオーサーが展開され出現する金色の魔法陣。
それが仁藤を守護する盾となって熱風を遮った。
自分の横を吹き抜ける熱風を肌に感じながら仁藤は思考する。
(一口で終わらせてやる)
名護が強敵だということは分かっていた。
バジリスクとの戦いを思い出せば尚のことだ。
戦いが長引けば負けないにしても、こちらも間違いなく軽傷では済まない。
おまけに余計な魔力も消費してしまう。
故に仁藤は短期決戦を考えた。
素早く相手の懐に飛び込み、得意のサーベルで切り裂く。
それは常に命懸けの戦いを強いられている仁藤の常套手段でもあった。
魔法陣を駆け抜けて、金色の眩しい光が視界に満ちると仁藤はビーストへと変身していた。
光が晴れて、ビーストが最初に見た光景は――イクサカリバーをガンモードにして構えていたイクサだった。
イクサはトリガーを引く。激しい銃声が森に響きわたった。
乙です
フェイスオープンの演出はかっこよかったなあ
あの魔法陣、何気に畳判定あるんだよな
乙
「うおあああっ!」
ビーストは素早く横へ跳ぶと、そのまま木の陰に隠れた。
(あの男、明らかにお前の手を読んでいたぞ)
頭に聞こえるキマイラの声に答える余裕は無かった。
向こうからイクサの声が聞こえてくる。
「どうして自分の作戦が読まれていたか不思議なようだな」
「!?」
「前回の戦いで俺のイクサが収集していたデータはファントムだけではない。君もだ」
「俺もだと」
「君のデータを解析・考察したが、君は敵を倒すことでエネルギーを自分に供給している。そして、そのために速やかに敵を倒そうと接近戦に持ち込む」
「……知った風にベラベラ喋りやがって」
「教え子のことはよく知っておかなければならないのでね」
「言ってろ! 要するに近づければいいんだろ!」
ビーストはカメレオンが彫られたリングをスロットにはめた。
ゴー! カメレオ!
カッ! カッ! カッ! カメレオ!
カメレオマントを身につけたビーストは姿をした。
イクサはあらゆる索敵システムを使い、ビーストの居場所を探すが反応はない。
名護は思案する。
距離は開いていた。簡単に詰められるはずがない。おそらく隙を伺っているはずだ。
…………試してみるか。
マスクの下で名護は冷たく微笑んだ。
・
・
・
息をジッと潜める。ただそれだけを続ける。
獲物であるイクサも周りを警戒している。
イクサにはビーストが見えないが、ビーストにはイクサの姿が見える。
絶対的なアドバンテージがビーストの優位を証明していた。
だが、ビーストはイクサに仕掛けなかった。
迂闊に手を出せばいくら姿が見えないと言っても、おおよその場所を教えてしまう。
狩りは一瞬だ。そして、一発で決めなければならない。
終わりの見えない持久戦が続く。
だが、ビーストの集中力は全く衰えなかった。
それは仁藤がもつ根気からによるものだった。
大学生の頃、仁藤は退屈していた。
考古学を専攻して、念願の遺跡の発掘に行ったこともあったが、やっていたことは教授の雑用係みたいなものだった。
それは仁藤にとって、遺跡という憧れた世界を目の当たりにしながら一番大事な部分に触れられない、というもどかしさでいっぱいな状況だった。
気がつくと仁藤は大学を休学し、身の回りにあるものを全て売って、レジャーセット一式と愛車のマウンテンバイクを持って海外へ飛んでいた。
仁藤の持つ未知への探究心が日本だけに収まらなかったのだ。
仁藤は世界中の遺跡を回るようになった。遺跡の発掘チームにも加わろうとした。
だが、考古学を専攻している大学生とは言えただの若者。最初は相手にされなかった。
仁藤は発掘チームに混ざるため、相手が了承してくれるまで額を地面にこすりつけた。
なんとか加わったチームでの発掘作業が長時間に及ぶことはざらにあった。
発掘品についた汚れを落とすのに寝る間も惜しんだ。
(狙った獲物は外さねえ。絶対に喰らいつける時まで待ってやる)
ビーストはイクサが隙を見せるまでひたすら待ち続けた。
すると、イクサが構えていた銃を降ろす。隙ができた。
ビーストは見逃さない。
(ベロオオオオオ!)
声なき叫びと共に舌のムチが一直線に伸び、銃を持ったイクサの手元に向かう。
銃を叩き落とし、迎撃の憂いを失くした上で一気に近づいて決着をつけようという算段だ。
突然、イクサが空気を掴むと力強く握り締めた。
ビーストは右肩に強烈な抵抗を感じる。
イクサは赤い目『ハンティング・グラス』を輝かせながら木ばかりの景色に向けて言った。
「隙を見せたら、そこを突きたがる。君は分かりやすいな」
「てめえ、俺をあぶり出すためにワザと」
「俺はバウンティハンターでありファンガイアハンター……狩りは得意分野だ」
獲物は罠にかかった。後は仕留めるだけ。
イクサは銃を再び構えて当たりをつけると発砲する。
景色が火花を散らし、ビーストのカメレオマントの擬態が解けてしまう。
そのままイクサは容赦なく銃撃を続けた。
「―――――――――――!」
ビーストの絶叫が銃声でかき消されていく。
やがて銃声が止むとビーストは力なく跪いた。
名護イクサってかなり強かったよね
負けらしい負けって、キバとの蹴り合いとビショップとサガにボコボコにやられたの2つくらいだった
前者は名護さんの驕りもあっただろうけど、後者は無理ゲー
名護さんはなんだかんだいいながら人外級よな
生身で走って車に追いつける時点で…
>>254
しかも片足で走ってる車をとめてるしな
>>255ファッ!?
トレーニングジムでベンチプレス120kgを持ち上げてたからな
(あの男、相当に戦い慣れておる)
「けっ! あまりにヘビーで胃もたれしそうだぜ」
ビーストは悪態をつくと銃撃を浴びて焼けるように熱くなった胸をわし掴んだ。
イクサは銃を剣に変形させて斬りかかっくる。
ビーストは力を振り絞って飛び上がった。
イクサカリバーの切っ先が体を掠めたが、胸の痛みに比べればマシだった。
(仁藤! 狙い撃ちにされるぞ!)
キマイラの警告通り、イクサはエッジを押し込み銃に戻しビーストへ狙いをつけていた。
「やられっぱなしでたまるかよ」
ビーストは空中で右中指の指輪を草色から橙色のものに変えるとソケットにはめった。
ゴー! ファルコ!
ファッ! ファッ! ファッ! ファルコ!
右肩に鳥の頭の彫刻とオレンジ色のマントが出現する。
ビーストは隼の力を宿した姿へと変わった。
木と木の間を縫うように飛び、イクサの執拗な銃撃をかいくぐる。
ビーストはダイスサーベルのダイスを回し、ファルコマントのリングをはめる。
ツー!
出た目は下から二番目の目だった。
ビーストは舌打ちするが、嘆いている暇はない。構わずサーベルを振り抜いた。
ファルコ! セイバーストライク!
「キイイイイイ!」
魔力で具現化された二羽の隼がイクサに襲いかかる。
イクサは迎撃しようと銃を撃つが空中を自在に舞う標的に中々当てられない。
それでもシステムのフォローを上手く利用し、二羽の隼を撃ち落とす。
直後、名護の視界――イクサのモニターに熱源接近を知らせるアラートが表示された。
「囮か!」
イクサは素早く銃を構える。
しかし遅かった。イクサは低空飛行から急接近するビーストの体当たりをくらってしまう。
そのままビーストは指輪を読み込ませてマントを交換する。
ゴー! バッファ!
バッ! バッ! バッ! バッファ!
ビーストは真紅のバッファマントを翻しながら駆けた。
「ブルウウウウウウ!」
バッファローの爆発的なパワーから来る突進をイクサは止められない。
凄まじい勢いで全身を押し出され、イクサは大木に激突した。
「うぐぅ」イクサは苦しそうに呻き声をあげた。
銃を落とすまいと手に力を入れるが、体が思うように動かない。
イクサカリバーが地面に落ちた。
「うおああああああ!」
ビーストは一瞬離れてサーベルを構えなおすとイクサに向けて突きたてた。
サーベルが胸に迫ってくる。
戦士である俺に敗北は許されない! イクサは心の中で自分にそう言い聞かせた。
イクサは銀色のフエッスルをイクサナックルに読み込ませた。
イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ
無機質な電子音と共にイクサナックルが激しくスパークする。
イクサは前かがみになってビーストに突っ込んだ。
サーベルがマスクの横を過ぎ、肩を掠める。
イクサは至近距離でビーストにナックルを叩き込んだ。
動力部のイクサエンジンからチャージされたエネルギーがナックルの電極部分から放たれる。
イクサナックルを使用した必殺技『ブロウクンファング』が決まった。
ビーストは派手に吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
「かはぁ……」
ビーストの力が霧散し、変身が強制的に解除された仁藤は苦しそうに喘ぐ。
すると名護が変身を解除して近づいてきた。
「言っただろう、君は弱いと。だが……」
名護は苦い顔をして肩を抑える。
「筋はいい」
「褒められても嬉しくねえよ。負けたんだからな」
「ならば、俺の下で力を磨くといい」
名護は倒れている仁藤に手を差し出すと言った。
「その命、俺に預けなさい」
「……」
仁藤はしばらく名護の手を見ると
「絶対にあんたより強くなってやる」
その手を掴んだ。
残ってるマントはドルフィン、どー使うかなあ。治癒って正直地味だし
なんだかんだいって二人とも仲いいじゃないのー
乙
使い方がうまいなぁ
期待しちゃおうかしら
イクサのレーダーとかよく設定使ってるのがいいね
バトライドウォーを参考にしてみれば
乙
展開に詰まってる。そんな時は妄想
青年はカメラを構えてジッと待った。
フォーカスを合わせながら被写体である少女をファインダー越しに覗く。
彼女と目が合う。
パッチリと開いた目。筋の通った鼻。ルージュがのった愛くるしい唇。胸の辺りまで伸ばしたウェーブの掛かった艶やかな髪。
華やかな美形であると同時に彼女の初々しさと清楚さがあった。
(本当に綺麗になったな……)
幼い頃から少女のことを見てきた彼はそう思った。
彼女が笑う。シャッターチャンスだ。
彼は見逃すことなくシャッターを切るとカシャッ!という小気味良い音が立った。
「どうだった?」
「バッチリだよ」
彼は指でオッケーのサインを出す。
彼女は一瞬安堵の表情を浮かべるが途端、僅かな影がさした。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。写真の被写体にして、だなんて」
彼の趣味であるカメラ。今度のコンテストに出す写真を撮りにいこうとした所で彼女が自分を撮ってほしいと言ってきたのだ。
確かに彼は風景よりも人物を撮る方が好きなので、その申し出はありがたかったが同時に自分の趣味に付き合わせるのも悪い気がした。
断りをいれてみたが、それでも彼女は自分を撮ってくれと言った。結局、彼は押し切られる形で彼女を撮影に同行させた。
彼女も彼女で、青年の決して表には出さないがカメラへの熱い思いは知っていた。
だからこそ彼の力になりたい。そこには彼女の彼に対する淡い想いも混ざっていた。
しかし、自分はカメラについて禄に知らない。ついて行っても彼の足でまといになってしまうのは明白だ。それでも彼の力になりたいと切に思った少女は、自分をモデルにするという発想に至った。
美人な母親をもつ彼女は、自分の容姿がいいことを少なからず自覚していた。カメラ栄えもいいだろう。
だが彼女自身、無理を言ったのは分かっているし、それを承諾してくれた彼の優しさに申し訳ないという気持ちがあった。
「ありがとう」
「えっ……」
突然、彼は彼女に向けて感謝の言葉を送った。
「いい写真がとれそうだよ」
「本当に?」
「モデルが良いからね」
彼はニコリと笑った。その笑顔に嘘はない。いつだって自分に向けてくれる優しく暖かい笑顔。彼女は顔が熱くなるのを感じた。
「口が上手いんだから」
林檎のように頬を赤く染めて恥ずかしそうに顔を逸らす。
彼はそんな彼女の様子を見ながらニコニコと笑ったままだ。
彼女には笑顔でいて欲しい。それが彼の願いだ。
「次、行こうか」
「撮影場所、ちゃんと決めてあるの?」
「下見はしてあるからね。この先を真っ直ぐ行った所なんだ」
彼はカメラをしまい、荷物を背負い歩こうとした。
「……!?」
全身に緊張が走りぬけた。
誰かが自分たちを見ている。いや、正確に言えば彼女だ。
明確な意思が視線となって彼女に注がれている。
「どうしたの、ボーッとしちゃって」
「い、いや」
「?」
少し前を歩く彼女は気づいていないようだ。
どうする?
彼はしばし考えた後、わざとらしく「あっ」と声を上げて続けた。
「ごめん。少し先に行っててくれないかな?」
「ええー!?」
不満そうに声をあげる彼女。彼と二人で行きたいようだ。
彼は笑顔でなだめる。
「フィルムが切れちゃってさ。すぐに買ってくるから」
「もう……ちゃんと追いついてよ」
しぶしぶと言った様子で歩き始める彼女。好きな人の笑顔には弱いのだ。
彼女が青年の元から離れていく。
フィルムが切れたというのはもちろん嘘だ。予備ならたくさんある。
そんなしょうもない嘘をついたのは彼女をここから離れてもらうためだった。
柔和な笑みを浮かべていた彼の顔が険しいものへと変わる。
「いつまでコソコソ隠れているつもりだ」
彼女と一緒にいた時とは想像もつかないほどに低く威嚇するような声で彼は物陰に向かって喋った。
物陰から視線の主が出てくる。黒い肢体に色鮮やかな模様をあしらった怪物だった。
青年は怪物の正体を察する。
「ファンガイアか。生物の一つの到達点であるからこそ、統制者の目に留まらずバトルファイトから弾かれた存在」
ファンガイアは何を言っているか分からない様子で唸り声をあげる。彼は冷淡な顔つきで続ける。
「まあ、いい……お前たちが何だろうと俺には関係ない」
俺のすることは決まっている。
あいつが自分の身を捧げてまで守ろうとした人間。
俺はそれを守る……人間として。
ましてや、それが俺の大切な人ならば尚更だ。
「俺の大切なものに手を出すというなら容赦はしない……」
ファンガイアは彼を始末しようと命を吸い取る透明な牙を飛ばす。
彼は迫り来る牙を掴むとそのまま握り潰した。
ファンガイアは驚愕した。
ただの人間が牙を掴みとり破壊したこともそうだが、それ以上に牙を砕いた彼の手から『緑色』の血が滴り落ちているではないか。
明らかな異常事態にファンガイアは後ずさりした。
「ぶっ殺してやる」
彼の中で敵意が尖がり、冷たいまでの殺意へと鋭さを帯びていく。
すると彼の腰にベルトが現れた。
彼は上着のポケットから緑色の血で塗られた手で一枚のカードを掴んだ。
「……変身……」
カードをベルトのバックルに読み込ませる。
チェンジ!
音声と共に、青年の姿が黒い外殻で覆われた異形の姿へと変わる。異形はバックルを取り外すと弓のような武器に装着させた。腰にあるホルダーからカードを一枚出して、読み込ませる。
チョップ!
更に一枚。
トルネード!
二枚のカードを読み込ませると異形の腕に風が吹き、螺旋を描いた。
スピニングウェーブ!
異形はファンガイアに飛びかかる。勝負は一瞬で決まった。
竜巻を纏った異形の腕はファンガイアの頑強な皮膚を難なく引き裂いた。
ファンガイアの絶叫。異形はファンガイアの腹に刺さった腕を更に沈みこませると上に振り抜いた。
ファンガイアの体が腹から真っ二つに開き、Yの字になると無残に砕け散った。
・
・
・
シャッターを切る音が連続でする。
彼女を撮りながら、ふと彼は思った。
(俺は後どれだけの間、この子と一緒にいられるのだろう)
人間として生きていくとはいえ、自分は人間ではない。変えようのない事実だ。
いつかは別れの時が来てしまう。
(ならば、俺のすることは……)
別れの悲しみをすこしでも少なくするために彼女の元を早々に去るべきなのかもしれない。
でも、それは違うような気がした。
答えが見つからない。
あいつなら、なんと答えてくれるだろうか。
そんなことを考えると彼の頭に声が響いた。
「俺は人を守りたい。俺がそうしたいから、そうしたんだ。お前もお前のやりたいようにやれよ」
おもわず彼は顔を上げた。
(今の声は……)
幻聴かもしれない。だが、確かに聞こえた。
彼は小さく笑った。空を見上げると青空が広がっている。
(そうだな。お前ならきっとそう言うだろうな)
「ああ……」
風にのって、同じ空の下にいるあいつの声が聞こえた。
彼は決心した。
別れが待っている。
なら、それまでの限りある時間を大切にしよう。
過ごした一瞬、一瞬を記憶に残せるくらいのものにしよう。
俺にはカメラがある。これを使って、その一瞬を永遠にしよう。
彼はカメラのグリップを握りしめるとシャッターを切った。
後日、とある写真のコンテストでアマチュアながら銀賞に輝いた写真があった。
澄み渡るほどの青い空の下で少女が笑っている一枚だった。
写真の下にあるプレートにはこう書いてある。
作品名「天音」
撮影者「相川 始」
まさかの始さん
こんな天音ちゃんも高校生の頃にはケバいゴス魔女になってしまうんだから時の流れって残酷
剣崎…
そして剣崎は戦場で一人、戦災孤児を救っている・・・
>>270
その後は剣崎と始が守った世界で、元気な孫もできて、とても幸せな人生を過ごすから大丈夫。
なお、橘さんはバリバリ現役でご活躍の模様。
>>272しかし睦月、事故で死亡と言う・・・ハブラレンゲルェ・・・
>>273
え、睦月が交通事故死? 『たそがれ』でも死んだとあるだけで、事故死とは書かれてなかったと思うけど・・・
>>274すまん、読んだことないんで人から聞いた話で記憶が曖昧だった
「フレイム」「キック」「コピー」
「バーニングディバイド」
「フレイム」「キック」「コピー」
「バーニングディバイド」
>>276-277
なにも書き込みまで分身しなくても
MOVIE大合戦で名護さんと仁藤並ぶシーンは残念ながらなかったな
せっかく本人が出てたのに
しかし753鉢巻きはふざけとんのかww
やっぱり753は最高です!
>267
これはこれでなかなかいい。ゾクゾクするねえ
しかしさすがのファンガイアでも、アンデッド、それもジョーカーからはライフエナジーをうまく吸い取れないのか?
不死身だしな
>>281もしライフエナジーが吸い取れたら人間に害を及ぼさず永遠にライフエナジーを取れる気がしてきた
とてつもなく死ににくいだけで限界はあるんじゃなかった?
ロイストやワイルドサイクロン級の攻撃なら木端微塵にできるっぽいし
ディケイドの不死概念もろとも破壊でも同上
でもアンデッドなら、時間が経てば統制者に再構築されると思う
それこそカードゲームで言う撃破されて墓地送りみたいな感じで
消滅したのはニーサンとトライアルだけじゃなかったっけ
純粋な52体のアンデッドで死んだのはいないはず
>>2851今やケルベロス・剣崎もいることを忘れないでくれ
↑おまえはどれだけ先の奴にいっているんだwww
>>286
明日に生きてるな!
色とりどりの花が垣根毎に咲き誇っている。
静かに息を吸うと無数の香りの入り混じった強い香りがツンと鼻を刺激する。
街の一角にあるフラワーガーデンが今日の奏美の練習場所だ。少し離れた所で凛子と瞬平が見守っている。
奏美は耳をすませて街の音楽を聞く。美しい花を見て心を和ます者の笑顔、おしゃべりする者の雑談、頬を撫でる風、強く甘い香り。
絶対音感を持つ者は耳から聞こえる音全てを音階に置き換えられると言う。
奏美の場合は、聴覚だけでなく視覚、触覚、嗅覚などの五感で感じ取ったものを音階に置き換えられた。
奏美は全身を使って街の音楽を聞き取るのだ。
そうやって奏美に入力された音楽がバイオリンを介して外へと出力される。そこに決して手は加えない。自分という異物を混ぜてはいけない。
聞こえた街の音楽を聞こえたままに表現するクリアーな音楽だ。
「綺麗な演奏よね」凛子は穏やかな顔を浮かべている。
「はい」瞬平も同じで顔を綻ばせていた。
「ところで仁藤くんは何処にいるのかしら?」
別に当番制というわけではないが、何となく気になった。
「テントにはいなかったんですよ」
「留守となると……買い出しかな?」
「かもしれませんね。野宿はしていますけど完全な自給自足というわけでもなさそうですし」
「良家の息子だけあって仕送りとか多そうよね」
「どうでしょう? 仁藤さん、家を飛び出したって言うし、仮にそういうのがあっても使ってないんじゃないですかね」
「うーん、謎ね。仁藤攻介の収入源」
そんな二人の他愛ない話さへも奏美は受け取って、音楽へと変換し演奏する。
凛子の言うように奏美の演奏は綺麗なものだった。
しかし、奏者である奏美自身はどこか虚しい気持ちになってしまう。聞き取った音楽を正確にトレースし、演奏することはひどく機械的で退屈なのだ。
もし自分の演奏したいように演奏できたらなんて考えてしまうが、直ぐに頭を振って追い出す。
奏美は再び街の音楽を聞く。
私はこれがいい……これでいい……これしかない。
言葉を心の中で反芻させて、感情を上から真っ黒に塗りつぶして無心になってバイオリンを弾き続ける。
その時だった。
今まで全く聞こえてこなかった新しい音色が奏美の耳に入ってきた。それは地の底から唸るように響き、奏美の全身を揺らした。
音は奏美の中へと吸収され、全身を駆けめぐる。呪詛のようにおどろおどろしく圧倒的なサウンドが頭の中で弾ける。まるでヘッドホンを強く押し当てた状態で大音量の音楽を聞いているような感覚だ。
弓を握る手が微かに汗ばむ。
直感で危険なものだと分かった。だが、奏美はその力強さに惹かれた。
奏美は、その恐ろしい音色にだけ耳を傾けてコピーする。
音がより一層に強く聞こえてくる。
巨大な音の波は奏美に押し寄せて、飲み込み、深みへと連れ去ろうとした。
「ダメです、奏美さん!」
声と一緒に誰かが奏美の手を掴んだ。
聞こえてくる音から無理矢理引き離された奏美は音を遮った相手を見る。
その姿を見て、瞬平が反応した。
「渡さん!」
「えっ、渡? それって晴人くんが言ってた奏美さんのバイオリンを修理した人よね」
凛子は、その名前に聞き覚えがあった。いつもの面子で面影堂での他愛ない雑談で晴人から聞いた人物の名前だった。瞬平も会ったと言って、皆でちょっと驚いた。
ふと凛子の中で疑問が浮かぶ。
「でも、どうしてその人がまだ鳥居坂に?」
仕事であるバイオリンの修理を終えて、奏美に届けたはずならもうとっくに鳥居坂にはいないはずだ。
それなのにまだ鳥居坂にいるのは妙な話だ。
「あなた、まだこの街にいたの?」
奏美も同じような疑問が湧いたのか渡に質問していた。
渡は「少しやることが出来て」とだけ答えた。
「そう……」
奏美はさして興味がなさそうに返すと
「で、私に何の用かしら? あなたの修理してくれたバイオリンは完璧よ」
遠まわしに「あなたに用はない」と伝えた。
渡は奏美の質問には答えず、哀しそうな目のまま言った。
「その音楽を奏でてはいけません。遠ざかっています」
「遠ざかっている? 何からよ?」
「奏美さんの音楽です。奏美さんはもっと素敵な演奏ができるはずなんです」
「またそういう話なの。言ったでしょ、街の音楽が私の音楽だって」
少しイラついた声で返す。
わざわざそれを言いにきたとしたら大した嫌がらせだ。
自分の中で折り合いをつけようとしていることに横槍を入れて迷わせようとする。
正直、鬱陶しい。
渡は奏美の心情を知ることなく語りかける。
「どうして自分の心の声に正直にならないんですか?」
渡が奏美のバイオリンを修理している時、奏美がどれだけ音楽を愛しているかバイオリンを通じて感じ取ることが出来た。
だからこそ奏美の演奏に違和感を覚えた。
自分の奏でたい音楽は自分だけの音楽だ。そんな悲鳴を奏美の分身たるバイオリンがあげていた。
「奏美さんの音楽はきっと外に」
「見透かしたようなことを言わないで!」
琴線に触れられた奏美はおもわず叫んだ。
乙
乙
けどこの「琴線に触れられた」は誤用な気が……
あれってプラスな感情を生むことに対して使われる言葉だし
「怖いんですか?」
「……」
自分の心をまた見透かされた奏美は黙った。
渡に指摘されるまでもない。
街の音楽など気にせず好きに演奏したいという自分の希望も、希望を叶えることを恐れていることも奏美は分かっている。
だが、どれだけ頭で理解していても幼い頃に心にへばりつき、染みつき、固まりついた暗い視線と声への恐怖というどす黒いものが奏美の希望を叶えることを阻んだ。
「……あなたには何も分からないのよ」
吐き捨てるように言う奏美の体は小さく震えていた。
「ああ、分からんねーな」
すると、ガーデンの一角にあるベンチに座って雑誌を読んでいる男がそう答えた。
男はつまらなさそうな顔で立ち上がる。
「あんたの事情なんてどーでもいーんだよ。俺には関係ねーしさ。でもよお、あんたを絶望させないとうるせー蛇女がいるんだよ。だから、さっさと絶望してくれ」
男の体が激しく隆起し、象のような姿をかたどったファントム『ガネーシャ』が現れた。
ファントムの出現にフラワーガーデンは人々の悲鳴でいっぱいになった。
「瞬平くん!」
「はい、わかってます!」
凛子と瞬平は奏美の元へ走り出した。
しかし、演奏の邪魔にならないように離れた位置にいたことに加えて、逃げ惑う人の波を逆走する形となってしまい直ぐにはたどり着けない。
その間にも象の怪物は逃げ惑う人を気にすることなく巨体を揺らし、地を踏み鳴らしながら悠然と奏美に近づいてくる。狙いはゲートただ一人、それだけなのである。
「ったく、あの蛇女もひでーもんだ。時間構わず来て、仕事押し付けやがって……俺、今日夜勤明けなんだぞ。こっちにだって元になったゲートの生活があんのによお。どうせだったらゲートの生活捨ててるてめえがやれってんだ」
ガネーシャはまるで人間のように愚痴りながら、距離を縮めた。
近づいてくる異形に奏美の顔が恐怖で引きつっていく。
「おっ、いいじゃん。そのちょーしで怖がって絶望してくれ。やっぱアレだな、見た目は大事ってことか? 人間も肌の色だけでアレコレあったらしいし。違うイコール怖い? それじゃあ、後は」
奏美の絶望の淵に落とす仕上げに掛かろうとするガネーシャ。
渡は奏美を庇うように前に出た。
「どいてくんねーか。俺、さっさと終わらせてーんだよ」
「…………」
怪物の言葉に渡は無言のまま一歩も退かない。
ガネーシャは呆れたような低いため息を漏らすと顔の中央に収まっている鼻を伸ばした。
「目の前で人が死ねばゲートの絶望も更に深まるか」
象の鼻が蛇か触手のような動きで迫る。
渡はガネーシャを睨みつけた。その表情を見て、ガネーシャはゾッとした。
「な……なんだよ、お前」
「…………」
渡の睨みにガネーシャがたじろぐ。どう見てもただの非力な若者でしかない渡から凄まじい圧迫感が放たれている。
ガネーシャは知らず知らずのうちに後ずさっていた。
それと同時に凛子は拳銃をガネーシャに向けて発砲した。
お小言
凛子の武器は当初ウィザーソードガンをコピー、そこからスモールと暦のプリーズを使って事前に魔力を装填したミニソードガンを使わせる予定だったけど、魔法使いでない凛子がソードガン使うのはどうかと思い、ファンガイアバスターに変えた
あと琴線に触れるって、プラスな意味なのか失敬。>293、指摘ありがとう
やべ、張りわすれた
「瞬平くん、奏美さんと渡さんを連れて逃げて!」凛子は瞬平が二人の元へ走り寄るのを確認すると素早く指示を飛ばす。
「でも、凛子さんが!」
「ゲートの保護が先よ。早く!」反論を許さない厳しい口調で叫ぶ凛子。
「わ、わかりました。行きましょう、奏美さん、渡さん」
瞬平達が遠ざかっていくのを一瞥すると凛子はガネーシャを見据えた。
一方、ガネーシャは凛子のことなど視界に入っていないかのように瞬平達が走り去っていく方へ行こうとする。
「あなたの相手はこっちよ!」
再び発砲してガネーシャの注意を引こうとする。
凛子はファントムにとって自分が邪魔な存在になることで少しでも奏美たちの逃げる時間を稼ごうとした。
「全くだりーな。でも、だりーのを片付けないともっとだるくなる。俺のゲートも、そのせいで絶望したしな」
狙い通り、ガネーシャがクルリと向きを変えてくる。
凛子は瞬平たちとは真逆の方向に後退しながら拳銃を撃つ。
だが、銃弾はガネーシャの分厚い皮膚を貫くことなく指で押したようにほんの少し凹むだけだ。
「きかねーんだよ。そんな豆鉄砲じゃーさ。それこそ魔法使いの銀の銃でもない限りな」
「確かにそうね。でも……」
凛子はカバンの中に手を入れて、何かを取り出す。
それは四角い銃の形をしていた。
「これならどう!」引き金を引くと同時に銃声が響く。
「だから、きかねーって…………ぐぅ!?」
攻撃を受けたガネーシャの反応が明らかに違った。刺さるような鋭い痛みに苦悶の呻き声をあげる。
痛みの出処に手を当てると銀色の矢が刺さっていた。
ガネーシャは凛子の手を見て、驚く。そこには銀色の銃が握られていた。
「銀の銃……お前、魔法使いなのか!?」
確かに魔法使いの特徴である指輪をしている。
だが凛子は「いいえ」と首を横に振る。
「なら、なんで銀の銃を使えんだよ!」
「世の中って広いわね。人間の作った物でもファントムに対抗できるなんて」
凛子は天使の羽のような装飾がついた銀の銃『ファンガイアバスター』を見る。
それはトリガーを引くとシルバーアローという銀の矢が高速発射されてファンガイアの体を撃ち抜く小型銃だった。
本来は名前の示す様に対ファンガイア用の武器なのだが、シルバーアローがウィザードライバーにも使用されている特殊銀合金ソーサリウムと極めて近い構造をもった金属で作られておりファントムの強固な外皮も安々と貫けるのだ。
「私は魔法使いではないわ。でも、人を助けたいっていう想いは誰にも負けない。だから、戦う力があるなら私は戦うわ!」
凛子は心の中にある想いを乗せてファンガイアバスターを連射した。
貴重なかっこいい凛子ちゃん
おつです。凛子ちゃんかっこいい。
今回のファントム、なんとなく剣のエレファントアンデッドっぽいな。
同じ象型怪人だから狙ったのかな?
乙
乙
このSSはインフィニティやハイパーは解禁したあとなのかな?
放たれた無数の銀の矢はまっすぐガネーシャに向かって飛んでいくとガネーシャの体にいくつも刺さる。
凛子は続けて銃撃しようとしたが、ファンガイアバスターに反応がない。
「弾切れだな。だったら、もう遠慮いらねーな」
体に突き刺さる矢を抜きながらガネーシャが接近する。
マズイと思った凛子はファンガイアバスターに取り付けられているカードリッジを外して、別のカードリッジを装填する。更にそこからトリガ ーを引きながら、ファンガイアバスターを横に凪いだ。
銃口からアンカーのような逆三角形の金属片がついた鎖が飛び出し、ガネーシャを打ち据える。ファンガイアバスターのスレイヤーモードだ。
力強く腕を振り、鎖の鞭打を何度も叩きこむ。だが、ガネーシャは止まらない。
「決定打じゃないんだよ。ちょっと我慢すれば問題ねえ!」
凛子に襲いかかろうとするガネーシャ。すると、一陣の風が吹いた。凛子の横を吹き抜ける涼やかな風に甘い香りがする。花の香りだ。
風に混ざる花びらが舞ってガネーシャの視界を覆う。
「なんだよ、この花びら、うぜーな!」
ガネーシャは羽虫を払うように手を振るが、風と花びらは円を描き、ガネーシャを翻弄する。
「おイタが過ぎるぜ、ファントム」
不意に風が喋った。渦が動き、ガネーシャから少し離れた場所に留まる。
次の瞬間、ブワッと花びらが広がると渦の中心だった場所にハリケーンスタイルのウィザードがポーズを決めて、立っていた。
ひらりはらりと舞い散る花びらが舞台へ上がったウィザードを美しく飾る。赤や桃、白といった色鮮やかな花吹雪の中で漆黒のローブが際立っていた。
「晴人くん!」待っていた、とばかり名前を呼ぶ凛子。
「お待たせ、凛子ちゃん。頑張るのはいいけど無茶はいけないな」
「だったら、もっと早く来てよね」
「戦ってる凛子ちゃんがカッコよくて、ついね。風に乗って高みの見物をしてたんだ」
「バーカ。つまらないわよ」
気取ったセリフは、少し呆れた笑顔と酷評で返された。
「ははは、残念。ていうか、そんな物騒なもの何処から持ってきたの?」
「名護さんが青空の会の伝手で貸してくれたの」
「なるほどね。少し真似してみるか」
ウィザードはソードガンをコネクトのリングで取り出し、ガンモードにするとハンドオーサーを展開させる。
キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!
そこから右中指にはめた竜と鎖の模様が彫られた指輪をかざす。
バインド! プリーズ!
「そらっ!」
ウィザードがガネーシャに向けて、銃を撃つとマズルから銀色の鎖が飛び出す。
ソーサリウム製の強固な鎖がガネーシャの皮膚を引き裂いた。
「同じもん見せられてもつまんねーよ!」
怒り叫ぶガネーシャは棍棒のような武器でウィザードに殴りかかる。
ウィザードは棍棒の打撃より早く風に乗って空へ飛んだ。
「同じものが嫌なら、こいつはどうだ」
ソードガンをソードモードに切り替えて、指輪を連続で読み込ませる。
スモール! プリーズ!
コピー! プリーズ!
物体を小さくする魔法と増やす魔法。
二つを重ね掛けしたことで、ソードガンはナイフ程度のサイズまで小さくなり、何本にも数を増やした。
ウィザードは両手いっぱいの短剣を投げつける。そこから更に風を制御して、短剣を追い風で加速させる。
勢いを得た刃の雨がガネーシャに容赦なく降り注いだ。
>>302
そーだよ
いいねいいね
フラワーリングの気障な使い方がいかにも魔法っぽくて
鎧武のクナイバースト的な攻撃も面白いアイデア
「よっと」
華麗に着地を決めるウィザードは再び魔法で短剣をいくつか複製すると宙に放りジャグリングをする。
扱う短剣が常識的に考えてジャグリングするには不可能な量でも、風を自在に操るハリケーンスタイルにかかれば簡単なものだ。
ウィザードは再び短剣を投げる。ガネーシャは棍棒で防御するが、全てを防ぎきれることはなく、短剣のいくつかが追加で刺さる。
「次は何が見たいんだ、ファントム」
「ふざけんな! その宝石顔をブチ砕いて、欠片を売り飛ばしてやるよ!」
「高く売れるかもな」
「ううううおおおおおおおお!」雄叫びを上げて、地面を踏み鳴らしながら突っ込んでくるガネーシャ。
ウィザードは左の指輪を緑から青に変えて、ベルトのハンドオーサーにかざした。
ウォーター! プリーズ!
スイ~スイ~スイ~スイ~~~~!
川の流れのような緩やかなトーンで詠唱が終わると青い魔法陣が水しぶきをあげながらウィザードの顔を雫型の綺麗な青色へと変えた。
絶望を洗い流す清廉なる水の魔法使い。仮面ライダーウィザード・ウォータースタイルだ。
ウィザードは左の指輪をベルトにかざして次の魔法を仕込む。
リキッド! プリーズ!
仕込みが終わると同時にガネーシャの棍棒が襲いかかってきた。狙いはウィザードのマスクだった。
「くたばれええええええええええ!」
「…………」
ガネーシャの気迫に気圧されたのかウィザードは一歩も動かない。
棍棒が振り下ろされるとウィザードの頭が派手に弾け飛ぶ。両手をだらりと垂らして立っている首から上のないウィザード。
そのすぐ後だった。弾け飛んだウィザードのマスクが映像を逆再生するように元に戻った。
「は?」間抜けな声を上げるガネーシャ。
「随分と気合入れて叫んでたけど、俺の顔を砕くんじゃないのか?」マスクの口元に手を当てて笑いを堪えるウィザード。
「うるせー! 今度こそ……」
ウィザードの挑発に乗ったガネーシャは更に攻撃を加えるが結果は同じだった。攻撃を当てた場所が弾け飛んだと思ったら、すぐに元通りになる。
「俺を砕くことは出来ないぜ」
ウィザードは溶けている竜が彫られている指輪を見せて、タネ明かしをする。
自分の体を液状化させることで敵からのあらゆる物理的な攻撃を無効化する魔法だ。
「んなのありかよ」
「魔法使いだからな。何でもありだ」
おつおつ
バイオライダーか
バッシャーで水場作ってウォーター、ドルフィン無双とか面白そう。
バッシャーさんは今回フィーバー出きるのか…?
ウィザードは液体化するとガネーシャの後ろに回り込んで、腕をとった。
「いてえええええ!」
「体、固いぜ? 俺みたいに柔らかくなきゃ」
「てめーのは魔法のおかげじゃねーか」
ガネーシャは力任せにウィザードを引き離した。
「へっ、体は柔らかくても力は全然だな」
「それなら力比べしてみるかい」
「なに?」
「正直、見栄えが悪いからあんまり使いたくないんだけど」
エキサイト! プリーズ!
右の指輪をかざすとウィザードの体がムクムクと膨張していき倍以上の大きさになった。
筋力を増強し、肉体を強化する魔法だ。
「むん!」
ウィザードはガネーシャに向かって固く組んだ両の拳をハンマーのように力いっぱい振り下ろす。
ガネーシャは正面から受け止めて怪力で踏ん張り、押し返そうとするが出来ない。全身が軋むような痛みが走った。
ウィザードはバックステップで一度離れると腕を大きく振ってラリアットを叩き込む。
筋肉で丸太のように太くなったウィザードの腕がガネーシャを大きく吹っ飛ばした。
「フィナーレだ!」
チョーイイネ! キックストライク! サイコー!
体型を戻したウィザードの足元に青い魔法陣が浮かび右足に魔力が集中する。
ウィザードが側転をしながら跳んだ。
ストライクウィザードを発動させたウィザードは激流となってガネーシャを飲みこんだ。
「いーとこ……無しかよ」
諦めたように呟くガネーシャに魔法陣が浮かび上がる。
キックを受けた箇所から魔力が流れ込み、自分の体を崩壊させていくのを感じとることができた。ふと、ガネーシャは思う。
「つーかさ、俺が死んだら……誰が俺のゲートの」
言葉が終わるよりも先にガネーシャの体が爆ぜた。
爆発と一緒に水しぶきが上がる。水の粒は太陽の光を反射して宝石のように輝くと虹を作った。
「ふぃ……」
変身を解いた晴人はしばらく虹を見つめた。
その顔はどこか憂いを帯びている。水しぶきのせいだろうか、顔が濡れていた。
「晴人くん、泣いているの?」
「まさか。ないない」
晴人は軽く返事すると上着の袖で顔を拭いて笑った。
「ファントムはゲートを絶望させる悪い怪物。倒して喜ぶならともかく悲しむなんてありはしないさ」
「ええ……そうね」凛子はそれ以上なにも聞けなかった。
追いついた
面白くてチョーイイネ
どれだけ言葉で取り繕ってもやっていることは同族殺しだよね
仮面ライダーの永遠のテーマだからね
ガネーシャは最後なんて言おうとしたんだろうか
>>314
それは確かに気になる
誰が俺のゲートの葬式あげるんだ、とか?
いやさすがに違うよな…
夜勤明けとか言ってたし、誰が俺のゲートの仕事するんだ、とか
ガネーシャは自分のゲートの生活がきにいってたのかね?
ガネーシャを倒した晴人は渡と一緒に奏美の泊まっているホテルの部屋にいた。
窓から射し込んだ夕焼けが部屋を橙色に染めている。奏美は無言で自分のバイオリンケースを撫でていた。
「渡さん、言ったわよね。自分の音楽を奏でるのが怖いのかって」
「はい」
「あなたが言ったこと当たっているわ」
「どうしてだい?」
晴人は聞いてみた。街の音楽を楽しそうに語った奏美はとても自信に溢れているように見えた。それなら、どうして自分の音楽を奏でることは恐れているのだろうか。
すると奏美はしばらく沈黙した後、自分の過去を打ち明けた。
小さな頃は本当に自分の感じるままに演奏するのが好きだったこと。自分の音楽の才能を妬む人たちに心を真っ黒に塗りつぶされたこと。そこから自分が自分の音楽に鍵をかけたこと。暗い視線と声の恐怖。それが今でも自分のなかでへばりついていること。
今の自分を構成するおおよそ全てを語った。
「あの時から私は自分の音楽を閉じ込めているの」
「街の音楽はその時からですか?」
「周りの奏でる音楽を聞いて、ひたすら合わせるっていう意味ではね」
「子供の頃からずっとなんて年季が入っているんだな」
「十年以上やってるから、すっかり板についちゃった」
晴人の軽口に奏美は自嘲気味に笑う。
「私、傷つくことが怖いのよ。その癖、自分の音楽を奏でたいって心の底では望んでいる」
人によっては「甘ったれるな」と一蹴されそうな言葉だったが、それは奏美の中にある様々な感情が混ぜ合わせられた悲痛な訴えだった。
「奏美さん、確かに傷つくのは怖いことかもしれません。でもダメなんです。傷つくことを恐れて、自分を閉ざしてしまったら……」
「俺も渡と同じ意見だ」
「頭では分かっているわ。でも、怖いものは怖いのよ」
「希望は絶望に勝る」
「えっ?」
晴人の言葉に奏美は顔をあげた。晴人は続ける。
「人はどれだけ大きな絶望を味わっても、希望があれば必ず絶望を乗り越えられる」
それは晴人自身が体験したことから来る言葉だった。
幼い頃に両親と死別して、ひとりぼっちになった時、消えてしまいたいと思った。
それでも今日まで生きてこられたのは両親が託した一言が晴人の希望となっているからだ。
「奏美さんの中には自分の音楽を奏でたいっていう希望がある。それを信じれば、絶望なんて屁でもないさ」
言葉なくバイオリンケースを見つめる奏美。迷っているようだった。
晴人はチラリと渡を見た後、奏美の背中を押すように優しく言った。
「心の声に耳を傾けてくれ。奏美さんの本当にやりたいことを、希望を叶えるんだ」
晴人はバイオリンケースを開けて、バイオリンを取り出すと奏美に差し出した。
「さあ、ショータイムだ」
「………………」
奏美はバイオリンを受け取り、構えた。
住宅街を歩く若者は不意に聞こえてきた音楽に立ち止まった。
とても優しく暖かい音色。昼間のような明るい光に包まれているようだ。
心地いい。
だが、その音楽を聞いていた若者は忌々しげに呟いた。
「そうじゃないでしょう」
細い指を鳴らす。
自分が聞きたいのは、この音楽ではない。音楽が完全に変わってしまっている。
誰かが余計なことをしたのだろう。それを考えるとイラつきが増す。
若者は激しく指をならした。
「イラついた時は何か食べて気を紛らわせましょう」
気分を切り替えて、歩き出す。途中、女性とすれ違う。
若者は来た道を引き返して、女性の背中をゆっくりと追った。
「そんな気にしなくてもいいのに。まあ、心配して早く返ってきてくれるのは嬉しいけどね」
女性はケータイを耳に当てて、電話中だった。
「実感? う~ん、まだそんなに。それより今週の土曜日、健診に付き添ってよね」
電話の相手と喋る女性の顔は笑っている。
「じゃあ、もうすぐ着くから切るね。あっ、ご飯のスイッチ入れといて」
それが女性の最後の言葉になった。
電話を切って、ケータイをしまうおうとする彼女の体が一瞬で透明になると着ていた服だけが小さく音を立てて落ちた。
服から少し離れた所に若者が宙に舞う牙を出して、立っていた。
「中々の味でしたね。でも、若干味が薄かったような……ん?」
感じた違和感に若者が眉をひそめた。
女性のいた場所に、まだ僅かにライフエナジーの残りを感じる。
有り得ない話だ。代わりはいくらでもいる人間に気を使って、ライフエナジーを残すようなことをする必要がない。
ライフエナジーは間違いなく吸い尽くした。
では、どうして?
若者の姿をしたファンガイアは近くによって女性の着ていた服をどかしてみた。
すると、女性の服からポロリと転がって出てくるものがあった。
「ああ……なるほど。ライフエナジーが、こっちに流れてたんですね」ファンガイアは納得した。
大きさは5センチ程度。半透明で丸くなっている芋虫のようなものが、そこにあった。
ファンガイアは手にとって観察してみる。
「三ヶ月くらいですかね。なんとまあグロテスクな。でも、こういうのが意外に珍味だったりするんですよね」
牙を突き立ててライフエナジーを吸うのも面倒なので、芋虫を口の中に放り込んだ。
口の中で遊ぶとブヨブヨとした柔らかな感触を舌で感じた。
噛み締めると芋虫は弾けて口の中を液体で満たした。
酸っぱい。
「あまり美味しくないですね。マズイ」
ファンガイアは何度か咀嚼した後、口の中のものをペッと粗末に吐き捨てた。グチャグチャになって原型を留めてない芋虫が女性の服に張り付いた。
「口直しでも探しましょう」
口元を拭うとファンガイアは新たな獲物を探し求めて歩き出した。
参考までに聞いとくけど、やってほしい妄想の他ライダーネタある?
オルフェノクとアンノウンの対立とか
小説版クウガの「白い戦士」がフォーゼの事だったらとか
芋虫って何かと思ったら赤ちゃんか……
オーズの錬金術師関連で何かやってほしいな
怖いな
五代さん、剣崎、映司の旅仲間交流とか
言いがかりつけられて事件に巻き込まれたたっくんをダブルの二人が解決して救うとか…どうよ
どういうことか分かんなかったが、
これ三か月の赤ちゃんが腹にいた妊婦を食ったってことか?
>>327
んで、胎児はライフエナジーを吸ったんじゃなくて物理的に咀嚼した
うごげー。
母親が体内の赤ん坊に栄養を送るようにライフエナジーも分け与えていたんだろうな
TVじゃ絶対放映できないエグイシーンだな
晴人が魔法使いになりたての頃の話なんてどうよ
最初からあんなスタイリッシュに戦ってた訳じゃないだろうし
最近のモンスタークレーマーの動きを見るに、クウガも今は放送出来ないんじゃないかな
速攻でBPOにクレーム入れられそうだわ
>>333
クウガは当時からクレーム入ってたらしい
殺し方が怖すぎてクレーム多数だったからアギトでは不可能犯罪に変わったんだよな
その二年後には・・・
灰にする殺し方も「振り向くな!」ほどじゃないけど相当だよねえ。特に殺す寸前に心臓が燃えるシーンは絵面的にかなりショッキングだし
一番気に入っている殺し方はG4での肺から全部酸素抜けて溺死っぽくなるやつ。美しい
>>320
ミラーモンスター一同「食い物を粗末にするんじゃねえ![ピーーー]ぞ…!?」
クウガは「バックします」が一番トラウマだわ…
一番日常で接することが多いだけに、地味にやばかった
ゴウラムがかっこよかった
ジャラジさんとベミウさん
特にベミウさんは一条さんの後ろで母親が子どもの名前を叫び、すがりながら救急車に乗り込むシーンがくるものがあった。
俺はジャラジさんとベミウさん
特にベミウさんは一条さんの後ろで母親が子どもの名前を叫び、すがりながら救急車に乗り込むシーンがくるものがあった。
食うだけ食っておいてマズイから吐き捨てるとかマジで人間を餌としか見てないんだな
酷すぎてリボルケインも辞さない
だがそれが良い
原案>>322
雲ひとつない真昼の空には太陽がギラギラと輝いていた。
上からくる日光の熱と黒いアスファルトの反射熱。上下両方から全身を熱せられる。
暑い。とにかく暑い。
汗をかいた背中だけが冷たかったが、それはそれで下着が肌に張りついて不快だった。
むわっとした暑い空気にアスファルトの匂いが混ざっている様な気がして知らぬ間に吐き気が催してくる。
炎天下の元を歩く青年は少し先を見た。トンネルが見える。
良かった。これでしばらく太陽から逃げられる。
そう思うと暑さで重くなっていた足取りが僅かに軽くなった。早足でトンネルに入る。
トンネルの中は壁に白い灯りが等間隔で並んでいるだけで、思いのほか暗かった。
300メートル程の道は太陽の光から隔離されて、アスファルトから来る熱気も感じられない。
中を進むと風が吹いた。
トンネルに入る前のサウナみたいな環境でなら心地いいと感じられた風は、汗をかいた背中を冷やして青年に寒気を覚えさせた。
「ん?」
不意に青年は瞼に冷たさを感じて、反射的に上を向く。
何もないコンクリートの天井から雪が降っていた。
視界を覆いつくす白く冷たい粉。その美しさに青年は明らかな異常事態にも関わらず、しばらく放心した。
顔に落ちた雪が体温で溶けて肌を濡らす。顔を拭こうした。しかし、手は動かなかった。
異変に気づき慌てて見ようとしたら顔も動かない。その場を動こうとしても体は全く言うことを聞かない。
青年の全身は凍っていた。
唯一動かせるのは眼球だけだった。青年は目だけを使い必死に状況を把握しようとする。
すると正面の方から黒い人影が近づいてくるのが見えた。
いつの間にか降り積もった雪を踏みならしながら、それはやってくる。
灯に照らされた人影の顔は白熊のような顔をしていた。
白熊の怪物――ポーラーベアロードは右手の甲に左手で不思議なサインを切った。
ポーラーベアロードが低く唸ると青年へ襲いかかった。
白い怪物の拳が届く寸前、
死んでたまるか!
青年の想いに呼応するかのように青年の顔に黒い筋が模様になって浮かんだ。
青年は自分の姿を、自分の持っているもう一つの姿――ワスプオルフェノクへ変えた。
凍っていた体が動く。青年はポーラーベアロードを殴りとばした。
人と白熊を掛け合わせた生物的な怪物と無機質な彫刻のような外見をした灰色の蜂の怪物が対峙する。
ワスプオルフェノクは蜂の腹部を連想させるような槍を構えて猛然と突っ込んでいった。
ポーラーベアロードは横に転がり槍をかわした。
槍の先端が壁に突き刺さると煙を上げて溶けていく。
ワスプオルフェノクは毒の仕込まれた槍を機関銃のように素早く突く。
ポーラーベアロードは体をひねり、転がり、跳び、攻撃をかいくぐる。
一瞬の隙をついてワスプオルフェノクの懐に潜り込むと腰に備えていた斧で一閃した。
ワスプオルフェノクの変身が解けて、青年の姿に戻る。腹が真一文字に切り裂かれ血が流れていた。
青年は体を引きずるようにトンネルの出口を目指した。
これは悪い夢だ。だって、そうだろう? トンネルに入った途端にこんなことが起きたんだ。
だから、きっとトンネルを出ればこの悪夢は終わる。終わるに決まってる。
出口が、眩しい太陽の光が見えてくる。
ポーラーベアロードが咆哮した。大きく裂けた口から圧倒的な冷気が吐き出されブリザードとなって青年を凍りつかせた。
動かなくなった青年に近づいたポーラーベアロードは斧を勢いよく振った。
ガラスが砕け散るような派手な音がトンネルに響きわたる。
青年の全身がバラバラに砕けて飛んだ。
自らの使命を終えたポーラーベアロードは勝利の雄叫びを上げた。
「面白いね」
するとトンネルの出口から別の人物がやってきた。
その人物はパーマをかけた髪と着崩れたシャツにズボンだけというラフな出で立ちの少年だった。
「何か面白いことを探してたんだけど、ちょうど良かった」
まだ幼さが残る顔つきの少年が無邪気に笑った。
ポーラーベアロードは少年から先ほど殺したワスプオルフェノクと同様の力を感じた。
人でありながら人ならざる力。あってはいけない力。自分の主が望まれない力。
つまり抹殺の対象者。
ポーラーベアロードは再びサインを切ると一瞬で少年に近づき、斧を振り下ろした。
少年は斧を片手で掴んで受け止めて、そのままポーラーベアロードを斧ごと投げ飛ばした。
歩道と車道を隔てる鉄柵にポーラーベアロードの体が叩きつけられる。激突の衝撃で鉄柵はグニャリと歪んだ。
少年の力は明らかにワスプオルフェノクの力を凌駕したものだった。
それも圧倒的に。
ポーラーベアロードはヨロヨロと体勢を立て直して斧を構えた。
瞬間、斧が灰になって崩れ落ちた。
ポーラーベアロードは何が起きたのか理解できないのか自分の手元を見つめた。
「ねえ、君は何なの? 僕、知りたいなあ」
少年の体が青白く光り、ドラゴンオルフェノクへと姿を変えた。
その禍々しい姿が醸し出す圧倒的な恐怖にポーラーベアロードは戦慄した。
無我夢中で必殺のブリザードを吐く。
凄まじい威力を秘めた白い暴風が吹き荒れて、トンネルの中を凍らしていく。
「きれい……」
だが、ドラゴンオルフェノクはブリザードの中で起きる雪の軌跡を見送りながら悠然と歩いてくる。
ポーラーベアロードの攻撃が一切効いていないのだ。
龍の頭のような形をしたドラゴンオルフェノクの腕が獲物に食らいつくようにポーラーベアロードの首を掴みあげた。
片手で獲物を持ち上げて、ドラゴンオルフェノクは空いた手で獲物にパンチを叩き込む。
突き立てられた龍の牙が皮膚も肉も骨も容赦なく貫き、獲物の腹部に次々と大きな風穴を開けていく。
やがて、獲物の下半身がボトリと落ちた。その下半身も斧と同じように灰になって道路に撒き散った。
「ねえ、教えてよ。君は何なの?」
少年の姿にもどったドラゴンオルフェノクはポーラーベアロードの顔に両手を添えて観察するように言った。
手が触れた所から灰が落ちてき、ポーラーベアロードの白い顔面を灰色に汚していく。
声にならないうめき声をあげるポーラーベアロードの頭上に光のリングが現れた。
そしてポーラーベアロードの全てが灰になって崩れ落ちた。
その最後を見て、少年はポーラーベアロードの正体が分かったような気がした。
・
・
・
地下にあるバー『クローバー』に備えられたカウンター席に少年は腰を下ろしていた。
酒を飲める年齢ではないが、少年はバーの落ち着いた雰囲気を楽しんでいる。
「ご機嫌ね、北崎くん」
カウンターの向かいで立っている色白の、切れ長な目をもつ女が艶然とした笑みを浮かべて聞いてきた。
クローバーのオーナー兼バーテンダーである影山冴子だ。
「今日はいいことがあって、天使に会えたんです」
「天使?」
「ええ。頭に光の輪があって綺麗でした。やっつけたけど」
その言葉を聞いて冴子は苦笑した。
「神の御使いである天使も北崎くんの前では形無しということね」
「僕は世界で一番強いから」
なんの疑いもなく北崎は言い切る。
「そうだ、冴子さん。天使の名前がついたカクテルないですか? あったら、今日はそれを奢ります」
「勿論あるわよ。いつもありがとう」
注文を承った冴子はカクテルを作り始める。シェーカーを振る冴子の姿を見ながら北崎は呟いた。
「また会えるかなあ……」
没ネタに養護施設にいる子供のオルフェノクがポーラーベアロードに狙われるけど、それを施設の職員である三原がデルタに変身して、
かつて居場所がなかった三原が、誰かの居場所を守るために戦うというのがあったけど長くなるから変えた
>>348
なにそれ気になる
>>349
今回の投下だとラキクロ存命だから作中の時間軸っぽくしてあるけど没ネタでいくと10年後の現代設定にしてあった
戦闘中に三原のオルフェノクの記号の影響でデルタの変身が解除されて、ピンチ!
その時に海堂(巧ではない)がやってきて海堂デルタとかやる予定もあった
なにそれよみたい
あぁでも続きも読みたい
おのれディケイドォォオオ!!
↑なんでもかんでもディケイドのせいにすんなwww
乾巧のせいにする人もいたな
乾巧のせいにする人もいたな
まさかクライシス!?
ネタ拾って頂いてありがとうございます
想像以上にかっこ良いエピソードでした
555は裏アギト的な構造が根底にあるのでこういう話を待っていました
アギトで北條さんが「私は普通の人間、アギトの力を持つ存在は恐ろしい」と言っていたのと
555で琢磨が最後にオルフェノクの力を恐れ人間として生きることを選んだのも、対比になっていたんだなと今更ながら思ったり
おつ
三原のエピソードもすごく観たい。
というか主の10年後555も見てみたい。他ライダーとのクロスでも良いから。
復活したようです
「今日の夕飯、おっちゃんだっけ?」
「いや、俺じゃないぞ。コヨミだ」
「次、晴人の番だからね」
「分かってるって、なんかリクエストあるか?」
コヨミは大根の漬物をポリポリと噛みながら考えると「鍋がいい」と答えた。
「鍋だったら、他のみんなを呼んでもいいかもな。ん……この鯖の味噌煮、美味いよコヨミ。ご飯が進む。渡も食ってみろよ」
「はい」
味噌汁を飲んでいた渡が口を離し、晴人に薦められるままに皿に盛られたサバ味噌を食べる。味噌の辛さと砂糖の甘さが程よく両立できている。
面影堂に夕食の時間が訪れていた。小さなテーブルを男女四人で囲む。
渡はホテルで奏美のバイオリンを聞いた後、自分が一時的に寝床として使っているマンション(青空の会が所有しており、会員たちの潜伏先として世界各地に存在する)へ戻ろうとした所を晴人から夕食に誘われた。
断ることは出来たが晴人の厚意を無碍にするのも失礼だと思い、今に至る。
「それにしても本当にこのサバ味噌美味いな」輪島はほぐした鯖の身をご飯と一緒に食べながら舌鼓を打った。
「鯖がいいのを使ってる……みたいだから」
「みたい?」歯切れの悪いコヨミに晴人は首を傾げる。
「今日、買い物の帰り道でね。男の人と交換したの。私が買ったスーパーの鯖と松輪の丸特っていう鯖と」
「聞いたことないな。おっちゃん、知ってる? あっ、コヨミ、俺のご飯おかわり」
「松輪鯖と言えば、確か鯖の中でも黄金の鯖と言われるくらい高級な鯖だぞ」
「へえ、そんな凄い鯖をわざわざスーパーの鯖と交換するなんて不思議だな」
「うん。いきなり献立を聞かれたから、鯖の味噌煮って答えたら……『お前は鯖の一番美味しい食べ方を知っているな。なら、そんな安い鯖を使わないで一番美味い鯖で食べろ』……って言われて、交換してもらったの」
「それはまた随分と変わった人だな」
「格好も変わってた。晴人より少し年上なん感じだったんだけど作務衣と下駄で」
「変だな」「変ですね」
晴人と渡は顔を見合わせて男に対して同じ感想を言った。
「はい、晴人。おかわりのご飯」
「サンキュー」
晴人は礼を言いながらコヨミから茶碗を受け取ると、炊きたてでキラキラと光るご飯を食べ始めた。
渡は晴人の指にはめられている指輪に視線が向いていた。指輪の割には少し大きいから目立つのだ。
「あの……」
渡は少し悩むように下を向きながら言葉を続ける。
「晴人さんは魔法使いなんですよね」
「ああ、そうだけど」今更なにを?といった調子で晴人は軽く返す。
「前に僕の目の前でも普通に魔法を使ってましたけど……どうして隠そうとしないんですか?」
渡はフラワーガーデンで襲われた時のことを思い出していた。
奏美がガネーシャに襲われた時、前に出て庇おうとした。威嚇もした。
しかし、キバに変身しようとはしなかった。ガネーシャを退ける力を持っていながら使おうとしなかった。
渡は自分がキバであることを必要以上に知られたくなかった。
キバという異形になった自分。深紅の魔人の姿を晒し、人を遥かに超えた力を使う。
それを見た人は何を感じるのだろう。
驚異。恐怖。あるいは陶酔。
渡は、そういったものを無闇に持たせるのが嫌だった。
知らないなら知らないままの方が幸せなことは確かにある。
だからかもしれない。
自分の力であるキバと同じように人を超えた力、魔法を持っていながら人に隠そうとしないでむしろ披露するようことをした晴人。
その在り方が不思議だったし、聞いてみたかった。
井上の新作「海の底のピアノ」の和憲が一人称がぼくで音楽に関わっているから、渡を思い出してしまい瀬戸くんの声で再生される
晴人はコミュ力あるもんな
カッコつけたら知り合いだったとか普通なら絶望する出来事にも平気
ライダー主人公は皆基本的にはコミュ力高いよね(たっくん除く)
しれっと天道ワロタ
>>362
ああ、あの乾って男はコミュ力のないクズさ。
なんたってオルフェノクだからね
>>364
おはロリコン
そういえば>>1さんはトリップつけないんですか?
今さらだけど
………………トリップってなに?
トリップとは作者本人の証明や成りすまし防止ができる名前みたいなもの
名前欄に#(半角シャープ)と適当な文字や数字を入れるとトリップが作れるよ
例 #SS速報VIP → ◆82qWBuLEU6
#123 → ◆TJ9qoWuqvA
乙
うぽつー
トリップつけたら変換後の文字列を検索してみるといいよ
たくさんHITするようだと同じトリップ使ったことがある人が多いってことだから、本人証明の効力が薄れる&なりすましの危険性が高まるから
「俺には何もなかった。両親も親友も夢も……それに魔法も」
つぶやくように言いながら晴人は指輪を外すとテーブルの上に置いた。
「魔法を手に入れたのは偶然だった。渡もファントムに襲われただろ? 俺は、そのファントムを生み出す儀式に巻き込まれたんだ」
「儀式ですか?」
「サバトって言ってさ。地獄だったよ」
・
・
・
晴人が魔法使いになったのはサバトがきっかけだった。
日本から遠いのか近いのかも分からない静かな孤島。そこには晴人を含めた何十人という人が集まっていた。
どうして、自分たちはこんな場所に?
集まった人達は同じ疑問を持ち、互いにそれを聞いたがしっかりと答えられる人はいなかった。
気づいたら、ここにいた。そんな曖昧な答えしか出ない。
晴人はここに来る直前のことを思い出そうとしたが無駄だった。
記憶がドーナッツの中心のようにポッカリ穴が空いていて思い出せない。他の人も同じだった。
不気味な状況に集まった人達は不安で怯えた。更にそれを煽るように突然辺りが暗くなり始めた。
晴人が空を見上げると太陽が月と重なろうとしていた。日食が起きたのだ。
地上を照らす太陽が黒く穢されていく。太陽が輝きのほとんどを失うと同時に地面に亀裂が走った。亀裂は妖しい紫の光を放ちながら島全体に魔法陣を描く。
それが絶望の宴サバトの始まりだった。
人々を強制的に絶望させるサバトは、島にいた人全てに絶望のイメージを貼りつけた。
「こんなはずじゃなかったんだ!」夢破れた自分を見る者。
「もうどうしようもないわ。取り返しがつかない……」悲惨な未来を見せられ後悔する者
「どうして! どうして分かってくれないの!」周囲につまはじきにされる自分を見る者。
「俺を置いていかないでくれよぉ……約束したのにさあ」愛する人に先立たれる所を見せられる者。
「分かってるんだよ。言われなくても分かってるんだよ。焦ってるんだよ。でも、どうすりゃいいか分からないんだよ」自分の不甲斐なさを見せられる者。
絶望のイメージに嘆き、悲しみにくれる人々。
「やめろおおおおおおおお!」
一人の男が、絶望する自分のイメージを振り払おうと頭をめちゃくちゃに振っていた。
狂ったように頭を地面に叩きつけて、意識を痛みで上書きしようとする。
しかし、イメージはいつまでもしつこくベッタリと残る汚泥のように離れない。
「うあああああああああああああああああああああ!」
やがて絶望に耐え切れず発狂したように慟哭すると男の全身はひび割れて、砕け散った。
そして、男のいた場所に牛のような角を持ったファントムが現れた。
男はゲートで絶望の底に叩き落とされた結果、自らの死と共にファントムを産みだしたのだ。
男だけではない。島に集まった人はみんなゲートだった。
あちこちで悲鳴が聞こえる。いくつもの悲鳴は重なり絶望の歌となって、島を揺らした。
歌い終えた者から順々に力尽き、ファントムを産みだしていく。
晴人は次と次とファントムが産まれていく中で必死に絶望に抗っていた。
目に映る化物。あんなのにはなりたくない。
死にたくない。
晴人は、とにかく何かを押さえ込むように踏ん張った。それでも絶望する自分を止められない。
抗い続けていく内にふと晴人は思った。
こんなことをして何になるんだ?
俺は親を失って、親友の希望を奪って逃げ出して、夢も捨ててきて、もう何もなくて、生きている意味なんてないんじゃないか?
絶望のイメージが、晴人がひとりぼっちになった時に変わった。
白い病室の中で幼い自分が両親と話していた。
晴人は、その絶望の時をどこか冷静な目で見ていた。
この後、父さんも母さんも死んだんだよな。
でっ、俺ももうすぐ死ぬ。
死ねば、父さんや母さんにも会える。
昔みたいに家族みんな一緒だ。
なんだ…………最高じゃん。
やっぱり死んだ方がいいな。
死の誘惑に負けて、絶望に身を任せようとした時だった。
イメージの中で両親の声が聞こえた。
「忘れないで、晴人……あなたがお父さんとお母さんの希望よ」
「晴人が生きててくれることが俺たちの希望だ。いままでも、これからも」
その言葉を聞いて、晴人はハッとした。
絶望に呑まれかけていて、自分の生きてきた意味を忘れていた。
晴人は光を目指して、太陽へ手を伸ばす。
月と重なった太陽の光は小さかった。
しかし光は消えていない。むしろ影がある分だけ際立って輝いている。
影から漏れでて輝く太陽の光がリングを形づくっていた。
晴人には、それが両親から送られた光の指輪に思えた。
そうだ……俺は父さんと母さんから希望を託されたんだ。その俺が絶望してたら示しがつかないよな。
俺は生きる!
俺は父さんと母さんの……最後の希望だ!
光のリングを掴んだ瞬間、想いに合わせて晴人の手から光が溢れだした。
・
・
・
「サバトで希望を捨てなかったから俺は魔法使いになれた。絶望の中で希望を掴んだ」
語り終えた晴人はデーブルに置いた指輪を改めてはめた。
「俺は伝えていきたいんだ。どんなに絶望しても希望があれば、きっと生きていけるってことを。俺自身を証としてな」
晴人は自分の手に宿した希望を誇らしげに見せた。
「魔法は人を笑顔にできる。笑顔になれば不思議と希望も持てるもんさ」
「それが魔法使いであることを隠さない理由なんですね」
「まあ……俺は、俺の考えの広告塔みたいな感じだな」
「お手製ですね」
「そう、だからノーコスト」
渡のツッコミからの晴人の返しに面影堂の食卓が笑い声で包まれた。
晴人は、人を導いて変えていくタイプであり影で静かに見守っているタイプのどっちでもあるんだよなあ
良いとこ取りって感じ
渡や巧は後者なんだが
晴人が主役っぽくないって揶揄されるのはそういう一面も多分にあると思う
サバトの描写うまくてビビる。やっぱり面白いわ
乙です
面白いぜ
乙、文章上手くて引き込まれるわー
そして網野刑事・・・
「今日はありがとうございました。とても美味しかったです」
「ああ、気が向いたらまた来てくれ。うちは千客万来だからな」
晴人は渡が帰っていくのを玄関から見送ると居間に戻った。
コネクトの魔法を使い、自室の机の上に置いてあるはんぐり~の紙包みを取り出し、食後のデザートのプレーンシュガーを頬張る。
(奏美さんのコンサートまでもう少しか)
ちらりと壁にかかっているカレンダーに目をやった。日付の一箇所に大きな赤の丸印。奏美のコンサートの日だ。
コンサートが終われば奏美は鳥居坂から去っていく。
鳥居坂から離れればファントムに襲われる可能性もかなり減るだろう。
あと数日の間だけ守りきればこちらの勝ち。
奏美や凛子達の前では絶対に言えないが正直、晴人は内心ホッとしていた。
ただでさえ今はファントムだけではなくファンガイアの問題もある。
ニュースや新聞では行方不明者の数が増えていると報道されていて、それはファンガイアの犠牲者が増えているという事実でもあった。
ファントムは原則ゲートだけを狙ってくる。だから極端な話ゲートだけを守ればいい。おまけに相手の狙いが明確にわかっている分だけこちらも下準備はできる。
ショーの成功に必要なのは入念な準備。
晴人は今までもそうやってファントムを迎え撃ち、ゲートの希望を守ってきた。
しかし人を餌としか見ていないファンガイアは無差別に人を襲う。老若男女、相手は誰でもいい。
それでは準備すらもままならない。ファンガイアには晴人の魔法使いとして培ってきた戦い方があまり有効ではなかった。
だが、当然晴人も何もしていないわけではない。魔法で使い魔のプラモンスターを放ち、日夜街を回らせていた。
後は何とかしてプラモンスターがファンガイアを見つけてくれればいいのだが……
「晴人!」
「どうしたんだ、コヨミ?」
「見て!」
コヨミは手に持っていた水晶玉を晴人に覗かせた。
水晶玉はあらゆる事を映し出すと言われる「ビジョン」の魔法が込められた魔法石であり、晴人の魔法と同調するプラモンスターの視界と繋がることが出来るのだ。
水晶玉にはファンガイアが会社帰りのサラリーマン風の男を襲おうとにじり寄っている所が映っていた。
高いところから見下ろすように映っている点からレッドガルーダが見つけたのだろう。
「ファンガイア……目立ちたがり屋で助かった!」
晴人はドーナツの残りを口に詰め込むと急いで外に出た。
コネクト・プリーズ!
魔法陣からウィザードとして戦闘する際に搭乗することを想定して改造されたバイク『マシンウィンガー』を引っ張り出す。
シートに座り、ファンガイアのいる場所を目指してバイクを発進させる。
「変身!」
晴人はバイクを走らせながら展開された赤い魔法陣をくぐるとバイクと一緒に燃え上がった。晴人は自分を覆う赤い火を振り払おうとバイクの速度を一気に上げる。
それでも火の勢いは止まらず晴人の全身を焼いていく。燃え盛る火の中で辛うじて人の姿が黒い影になって見える。
晴人は更にバイクを加速させた。強まる逆風に火が横になびく。
暗闇の中を火の玉が揺らめきながら爆走していく。
「さあ、ショータイムだ!」
やがて火の全てが風に煽られて消えると晴人はウィザードに変身していた。
・
・
・
「……っ! 行かなきゃ」
同じ頃、渡もまたファンガイアの襲撃を知らせる音が頭に響いていた。
音が導くままに渡はファンガイアを目指して走り出す。
走り続ける渡の耳に奇妙な音が聞こえてきた。
野太いエンジン音。
振り返ってみると巨大な乗り物が渡に向かって凄まじいスピードで突っ込んできた。
乗り物が発する白いライトの光に渡は思わず目をつむる。
(ぶつかる!)
そう覚悟した瞬間、乗り物は渡の直前で停止した。
渡はゆっくりと目を開けて、乗り物の正体をみる。
「これは……」
鮮血の色をした巨大なバイクだった。だがシートには誰も座っていない。
それは渡の愛用するキバ専用のモーターサイクル――王の鉄馬『マシンキバー』だった。
ブオン! ブオン!
マシンキバーは馬の荒息のようなエンジン音を立てて渡に搭乗を促した。
渡は愛馬に跨ると上着の袖をまくりあげた。
「キバット!」
「なんか出番が久しぶりなような気もするけどキバっていくぜ! ガブッ!」
どこからともなく飛んできたキバットは剥き出しになった渡の肌に牙を突き立てた。
「……変身」
渡は紅い鎧を身に纏うとキバに変身した。
キバはハンドルを握ると頭の中で愛馬に「行け」と命じる。
深紅の馬は王の命令を忠実に従い、白い三つの目を輝かせて駆け出した。
よーやくバイク出せた、ブロンもカッコイイから使いたいしね
平成ライダーの中じゃオートバジンたんが一番シンプルで格好いいと思う
乙です
ブロンは本編では扱い悪かったなーその分、劇場版では大活躍だったけど
>>384
生い茂る枝木の中を駆けぬけるブロンいいよね
>>385
同意
出し惜しみしないアクションのつるべ打ちという点に関して、
キバの映画はライダー映画の中でも群を抜いていると思うのです
キバが急行した場所は溜め池のある温水地だった。池を囲むように道や橋が整備されていて、ちょっとした散歩コースにもなっている。
キバは視界にサラリーマン風の男とカニのような外見をしたクラブファンガイアを捉えた。
クラブファンガイアは両腕の巨大な鋏で男を嬲るように切り裂いていた。
男は腰を抜かしているのか腕と尻だけを使ってズルズルと必死に下がる。
その無様な様子を、クラブファンガイアはハサミを鳴らして恐怖を煽り、奇っ怪な笑い声あげて楽しんでいる。
どうやら存分に追い詰めて、自分の力を見せつけた上でライフエナジーを吸うつもりのようだ。
ファンガイアの悪趣味さにキバの胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
「…………」
キバはマシンキバーの速度を上げると、その勢いに乗って大きくジャンプ。そのままクラブファンガイアの顔面に蹴りを放った。
衝撃で横転するクラブファンガイア。
キバは男を一瞥し、無事だけ確認するとすぐさまクラブファンガイアに追撃しにいく。
体勢を低くし、地面を這うような独特の構えで突進する。
「キバ、一族の裏切り者が!」
体勢を立て直したクラブファンガイアが鋏を振り上げて迎え撃つ。キバはクラブファンガイアの腹に拳を叩き込んだ。
衝撃で僅かに後退するクラブファンガイアと同時にキバの拳に痛みが走った。
クラブファンガイアのカニのように硬い甲殻がキバの攻撃を防いでいた。
「キバと言えど我が鎧を突破するのは困難らしい」
硬い鎧を纏うクラブファンガイアは痛めた拳を空いた手でさするキバを馬鹿にするように鋏を鳴らす。
クラブファンガイアは両手の鋏でキバを切り裂こうと腕を振る。
キバはかわしながら距離を取ると鋏に対抗するために青い笛を取り出した。しかし、キバの判断をキバットが制した。
「渡、切り裂くんじゃない。撃ち抜くんだ!」
「……っ!」
キバットのアドバイスを受けたキバは青い笛をしまうと緑色の笛を取り出した。
「そうそう、そっちだよ!」
キバは緑色の笛をキバットに鳴らさせる。
「バッシャーマグナム!」
トランペットのような音が高らかに鳴りひびき、夜空から緑色の彫像が飛んでくる。
キバが掴むと彫像は魔海銃『バッシャーマグナム』に変形した。
するとキバの右手と胸に鎖が巻き付き、水飛沫を上げながら砕け散る。
鎖が巻いてあった箇所とキバとキバットの瞳は濡れた光沢のある艶やかな緑色に変わっていた。
それこそキバがバッシャーマグナムに変形した彫像のモンスター、マーマン族の『バッシャー』の力でメタモルフォーゼした緑の半魚人――仮面ライダーキバ・バッシャーフォームだった。
キバはバッシャーマグナムを構えるとトリガーを引いた。
キバの意思に反応し、 大気中の酸素と水素が吸収され、強制的に水を作り出し、そこに魔皇力が加えられた水弾が秒速700メートルという スピードでマズルから発射される。
水弾の一発一発がクラブファンガイアに炸裂して爆ぜる。
「銃とは最も愚かな手で来たものだ。我が鎧は撃ち抜けん」
甲殻の下にはまだ攻撃が届いていなかった。クラブファンガイアは水弾をまともに喰らいながらもキバに迫った。
「……♪」
キバは焦ることなく鼻歌まじりでトリガーに指を添えた。すると突然、池から1匹の蛇が長い体をうねらせながらバッシャーマグナムに吸い寄せられるように現れた。
蛇の正体は池の水だった。水面からでた水が波紋を作り、とぐろを巻く蛇の胴体になっている。キバはバッシャーの持つ水を自在に操る力で池の水をバッシャーマグナムに供給していた。
水の蛇と繋がるバッシャーマグナムはさながら弾倉帯をつけた機関銃だ。
キバがトリガーを引いた瞬間、バッシャーマグナムは耳をつんざく銃撃音を連続で起こしながら水弾を激しく連射した。
クラブファンガイアを襲う水弾の量は先ほどの銃撃の比ではなかった。スコールとなって降り注ぐ水弾がクラブファンガイアの進撃を阻む。
クラブファンガイアは自分の体に伝わる衝撃が徐々に強まっているのを感じた。
「馬鹿な……我が鎧が!」
クラブファンガイアは驚きを隠せなかった。
自慢の鎧が削られている。
水の滴りが石を削り、穴を開けるようにバッシャーマグナムから発射された水弾はクラブファンガイアの甲殻を凄まじい勢いで削っていた。
このままでは鎧が破られると考えたクラブファンガイアはどうにかして銃撃から逃げようとしたが無駄だった。既に全身が水弾の激流に呑まれている。立っているのが精一杯。今更遅かった。
削られて薄くなった甲殻に水弾が炸裂して、あちこちにひびが入った。
それでも止まることなく襲いかかる水弾にクラブファンガイアの甲殻は決壊した。
鎧を失い、むき出しになったクラブファンガイアの黒い肌が撃ち抜かれる。肉体が削られ風穴が開く激痛にクラブファンガイアは意味不明な叫び声をあげた。
キバはファンガイアの悲鳴を気にもせず連射の意思を辞めなかった。すぐ側には水源の池もあるため水の弾切れは存在しないに等しい。キバに 攻撃の意思が有り続ける限りバッシャーマグナムの銃撃は終わらないのだ。
「♪♪」
キバはエメラルドグリーンの瞳でクラブファンガイアがボロボロと崩れていく様子をじっと見ていた。
キバはクラブファンガイアがどこまで耐えられるのか遊んでいた。
無邪気な子供が虫を使って遊ぶように。
捕まえたトンボの羽を両側から引っ張って、どこまで引っ張れるか。結局やりすぎてトンボは裂けて死んでしまう。そんな遊び。
やがてキバは遊びに飽きたのかトリガーから指を離すとバッシャーマグナムから水弾が出なくなった。
温水地は一気に静寂に包まれた。
クラブファンガイアのいた場所には弾けた水弾の影響で巨大な水たまりを作っている。
水たまりにはかつてファンガイアだったものがプカプカ浮いていた。
バッシャーが不遇なんて言わせないよ
バッシャーフィーバーは
>>390
出したいよねえ
しかし、あのバッシャーマグナムと組み合わせたタツロット見るに、どー考えてもドッガフィーバーみたく口から弾丸で被ってしまうんだよなあ
ビームにしたらいいんじゃね…と思ったけど
それだとイクサライザーと被るんだよな
乙です
地の文うまいなぁ
乙です
>>1はバッシャー好きなん?
乙。地の文が毎度引き込まれる
トンボのくだりは銃&水繋がりでかな
ファンガイアを倒したキバは主を待つマシンキバーの元へ向かった。
その道すがら向こうから自分の足音とは別のものが聞こえてくる。暗闇の中でもキバには近づく相手がハッキリと映っていた。
輝く赤い仮面に漆黒のコートと銀色の銃剣。ウィザードだ。
「また会ったな、笛の魔法使い」
「……」
「挨拶くらい返してもよくないか。喋れないってわけじゃないんだろ?」
「…………」
ウィザードを無視してキバは横を通りすぎた。ウィザードはキバの銃を見る。
「ファンガイアは、あんたがやったみたいだな。全くやってくれるよ。お客を奪われてショーはパアッ! これじゃあ魔法使いも形無しだ」
ウィザードは大げさに肩を竦ませながらキバの後をついていく。
「今日は帰るのは止してくれないか?」
前回のように放っておくつもりはなかった。ファンガイアへの対策を考えなければいけない現状、ウィザードにとってキバは謎の存在だった。
何者なのか、いつ鳥居坂に来たのか、どうしてファンガイアを倒すのか、自分にとって味方なのか、それとも敵なのか。
何も分からない。だが分からないといって放置しておくには、キバは力がありすぎる。危険なのだ。
「ここにはどうやって来たんだ? 俺はバイクなんだけどさ」
「……」
「こいつがまた特注で凄いスピード出るんだよ。200キロ越えるんだぜ」
仮面の下なにくわぬ顔で話をしながら距離を詰めていく。
キバは弾かれたように振り返り、銃を構えた。銃口がウィザードに向けられる。
「おいおい、ちょっと待ってくれ」
ウィザードは片手の掌を前に出してストップをかけるがキバは銃を下ろさない。
「俺は、あんたとお話をしたいだけなんだ、お話。やり合う気はない」
半分本音の半分嘘だった。話はしたい。だが、いざとなれば強引な手を使っても目的を吐かせる気はあった。
その証拠にウィザードはおどけながらも後退していない。一気に飛び込んで攻撃を仕掛けられる距離を保っていた。
「……」キバは微動だにせず銃で狙いを定めている。
「ホントだって、ほら」
ウィザードは諦めるように両手を上げた。ホールドアップの姿勢から手にもつ銃剣を離す。
重力に従い銃剣が落ちていく。
キバは無防備になったウィザードへ水弾を発射した。
>>395
バッシャーというよりキバが好きなんだ
でも一番はサガだ。蛇+王冠なデザインのマスクに胸のステンドグラスな配色、全身に走る蛇の胴体のようなシルバーライン
カッコよくて美しいキバライダーの中でも最高だよ
乙です
サガ、いいよな
本編での扱いすげー悪かったけど
キバのステンドグラスの演出好きだったな
乙ー
乙
乙
乙
迫る水弾をウィザードは膝をついて、しゃがんで避けると落下中の銃剣をキャッチした。そこから銃剣をすばやく逆手に持ち替えるとその手を押し込むように後ろへと引く。
水の弾ける音と銃剣が刺さる音が重なった。
暗闇の中で苦しそうな呻き声が聞こえてくる。それはウィザードでもキバの声でもない。
ウィザードの背後で襲いかかろうとしたラットファンガイアの声だった。。
水弾と銃剣の刺突を同時に食らったラットファンガイアは砕け散った。
「さっきからバレバレだったぞ」ウィザードは辺りを見回しながら「お前たちもな」と付け加える。
ウィザードとキバの周りに渦巻く敵意が激しくなった。だが敵は闇の中、息を潜めたままで姿は見せない。
ウィザードは銃剣のモードを切り替えて銃にするとハンドオーサーを展開した。
キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!
軽快な声に合わせてハンドオーサーに指輪をした手が重ねられる。
ライト・プリーズ!
ウィザードは銃剣を頭上に掲げて魔力の弾丸を放った。空へ放たれた魔弾はある高度まで昇ると激しく光った。魔力を光へ変換し、周囲を照らす魔法によって放たれた弾丸は夜空を照らす新たな星になった。
魔法使いの作り出した星。それは黒ビロードの上に並べられた宝石の中でも一番の輝きを持つ宝石だった。
宝石の白い輝きは闇に隠れていた無数のラットファンガイアの姿を晒した。その数にウィザードはため息混じりで言った。
「よくもまあ、こんなゾロゾロと団体で……笛の魔法使い、少し手伝ってくれないか?」
「……」
「さっきの攻撃、俺じゃなくてファンガイア目掛けてだろ。この数は少し厄介だからさ、頼む」
キバは返事の代わりにラットファンガイアの一体撃ち抜いた。
無言のキバだが、ウィザードはそこに協力の意があることを読み取った。行動や呼吸の調子で意外とわかりやすい。
「キバ、我らの同胞をいくら手にかける気だぁっ!」
仲間をやられ激昂したラットファンガイア達が一斉に襲いかかってきた。
ウィザードとキバは背中を向け合い互いの銃を連射して迎え撃った。
ラットファンガイアの数を減らしながらウィザードはキバにいくつか質問する。
「キバ、それがあんたの名前なのか?」
「…………」
「へえ、そうかい。次、この街には何しに? ファンガイアを倒すためかい?」
「…………」
「オーケー、敵は一緒ってことだな。それじゃあ最後にあんたは何者なんだ?」
「…………」
キバはバッシャーマグナムをキバットに噛みつかせた。
「バッシャーバイト!」
キバットがバッシャーマグナムへ魔皇力を注ぎ込むと赤い霧が現れ、ウィザードの作り出した星を飲み込んだ。
辺りは再び夜の暗闇に戻り、夜空にはウィザードの星ではなく半月が輝いていた。
突然、キバの足元から水が湧き出た。水はたちまち広がり一面を巨大な池に変えていく。
キバはバッシャーの能力で擬似水中空間『アクアフィールド』を生成した。
「ハアアアアアアアッ!」
水面に立つキバはバッシャーマグナムに備えられた三つのヒレを高速回転させて強烈な水の竜巻を起こすと、そこに魔皇力を込めた強烈な一発(もはや弾丸というより砲弾という大きさ)を放った。
高速発射された砲弾はラットファンガイアの一体を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
ファンガイアの色鮮やかなガラス片が宙を舞い、半月の光を乱反射する。プリズムのような輝きがファンガイアの最後を彩った。
アクアフィールドの至るところでガラス片がいくつも舞い上がる。
敵に反応して、どこまでも追いかけていく離脱不可能の永久追尾弾『バッシャーアクアトルネード』がラットファンガイアの群れを蹴散らしている証だった。
「ヒィイッ!」
ラットファンガイアの一体が、意思を持ったかのような動きをする砲弾で次々と散っていく仲間を見て、その惨状に恐れ慄いた。
仲間の絶叫とガラスの砕ける音から背を向けて逃げ出した。だが、キバの作り出したアクアフィールドに足を取られてしまい、うまく足が進まない。
バシャバシャと水の跳ねる音が自分を嘲笑っているように聞こえた。
死ぬまいともがき足掻くファンガイアに砲弾が飛来する。
「これ以上、やらせるか!」
すると別のラットファンガイアが逃げる仲間を守るように砲弾の前に出た。
ラットファンガイアは腕を組んで防御の姿勢をとった。少しでも自分が食い止めることで仲間を生きのばそうとした。もっとも間違いなく自分は砲弾の威力に耐え切れず死ぬだろう。
ファンガイアに死は直ぐにやってこなかった。
砲弾が進路を変えてファンガイアを避けたのだ。そして、後ろで逃げるファンガイアを猛スピードで吹っ飛ばした。
そこから砲弾は急速でUターンするとファンガイアに守ろうとした仲間を守れなかった無力感すら与える間もなく突撃した。
砲弾が弾けて、水の跳ねる音が一際大きく響く。
「キバ……一族の裏切り者めぇ」
ラットファンガイアが恨み言と一緒に砕け散る。ラットファンガイアの群れは一体も残らず全滅した。
キバはアクアフィールドを元に戻すと、もう興味がないように踵を返して歩きはじめた。
「裏切り者。あんたにも色々と事情があるんだな」
「…………」
「キバッ!」
ウィザードは去っていくキバを呼び止めた。
最後の質問を答えてもらっていない。
「あんたが何者なのか。俺の味方か敵か、それだけはハッキリしてくれ。分からないっていうのは動きづらいんだ」
ウィザードは銃剣を構えて、キバの背中へ向けた。
「もし、あんたがこの街にきたファンガイアと同じなら、俺はあんたを倒さなくちゃいけない。どういった事情であってもな」
トリガーに指をかけて、いつでも射撃できる態勢にした。
構えながら、ウィザードは直前のキバの攻撃を思い出す。
大量のファンガイアを葬った圧倒的な攻撃。
(あれだけの強さを持つキバを俺は倒せるのか?)
仮面の下に不安を隠しながらウィザードはキバにもう一度聞いた。
「キバ、あんたは何者だ?」
キバは自分の元へやってきた無人のマシンキバーに跨ると
「僕は人間だ」
そう答えて夜の暗闇に消えていった。
乙
ラットの思いがけぬ優しさが一瞬で打ち砕かれてカワイソス
乙ー
やっぱ仮面ライダーは共闘する方がカッコいいな
バッシャー強すぎじゃね?
おつー
ライダー大戦の晴人良かったな
一応、先輩ライダーなのに諭す側が似合うライダーってのも珍しい
乙です
晴人さん、神のように降臨したかと思ったらたっくんに熱い告白だもんなぁ
通常運転ですありがとうござ(ry
水に縁のあるライダーってどうにも不遇だよなぁ(主にスーツ的な意味か?)
水落ちの多かったギルスはスーツが傷んでディケイドまでもたなかったし、
マスクドフォームがヤゴであるドレイクは(役者の都合?で)出番が少なめ、
バッシャーさんはエンペラーの強化フィニッシュで作中一種だけフィーバー未登場、
シャウタはせっかく各コンボにあるテーマソングが他のと違って劇場版でしか流れない、
アクア&ポセイドンはたぶん劇場版ライダーの中でも特に印象薄いっぽいから
もしディエンドのケータッチ(&アタックライド劇場版)更新があったとしてもワンチャンあるかどうか…
……こう考えるとこのジンクスから逃れられてるのはバイオライダーかウィザードウオーターくらいか?
ギルスは水落じゃなくて生物っぽさを出すために使った塗料が原因。木野さんも同じ理由でスーツがない
ギルスは水落じゃなくて生物っぽさを出すために使った塗料が原因。木野さんも同じ理由でスーツがない
ギルスは水落じゃなくて生物っぽさを出すために使った塗料が原因。木野さんも同じ理由でスーツがない
エラーが出ても一旦落ち着いて更新してみよう
縺斐a繧薙↑縺輔>
ウィザードにおいてはランドが不遇だったからなww
毎回「ディフェンドして突破されるだけの簡単な仕事です」状態だったし
そういえば不遇だの出番がないだの未来から来たポセイドンやアクアだのでふと思ったけど、
渡の息子である正夫が着ることになる、『キバットⅣ世が管理するキバの鎧』って、渡のキバの鎧からどのくらい仕様変更されてるんだろうか?
キバットⅡ世の闇のキバの鎧が性能ヤバ過ぎってことで、キバットⅢ世のは性能おとなしめにされてたけど…。
あと、このSSの世界にキバットの妹・キバーラはいるのか否か。
>>420
設定の破壊者が出てくるなら居るだろうな
いるだろうな
キバーラって、ディケイドが絡んでない「キバ」単一の世界でも一応いる世界はあるんだよな・・・
「キバーラ」というキャラの初出はディケイドだけど。
ホビージャパンのSICのストーリーのキバ編に出てたはずだし。
鳴滝さんがいれば
まだかな
>>423
キバーラってクイーン専用だろ?
どんな人にも生活習慣というものがある。
朝起きてすることや毎日の日課など自分を型にはめることで人は安定した生活を送っていく。
それは一見、型破りに見える仁藤にも言える話だった。
朝、仁藤は体を起こすとテントの脇にあるクーラーボックスからペットボトルを取り出して、昨日の内に汲んだ公園の水を一気に飲み干す。
そこでキッチリと目が覚ました後ひたすら街を歩いて獲物のファントムを探す。
ファントムを探す途中で公園のゴミ箱に捨てられたりする雑誌を読んだり、コンビニに立ち寄って朝食を買ったりする。ちなみに買うのは大抵食パン。安い上に腹持ちもそこそこいい。自前のマヨネーズをかけて食べるのが主流である。
ファントムを見つけたらビーストに変身して狩りを行うが、見つからない時は適当なところで見切りをつけて昼食のバーベキュー用に肉と野菜を買いにスーパーへ足を運ぶ。
食材を買う時はあくまでその日に食べる分だけにしていた。冷蔵庫も冷凍庫も持たないため保存がほとんど効かない仁藤にとって買い込んで腐らせるのは余りにもバカバカしい。
昼、テントに戻り昼食を終えて一旦眠って英気を養ったら、ビーストドライバーのスケッチと合わせて仁藤の考察がびっしりと書かれているノートと論文や文献の検索に使うためのスマホを相棒にドライバーの研究を始める。
この時間は仁藤にとって発掘の時間だった。
ドライバーの発祥はどこで、いつなのか? 誰が作ったのか? 作られた意図は? なぜキマイラが封印されていたのか? ファントムであるキマイラがゲートだった頃の人物像はどういったものなのか? ゲートは何に絶望してキマイラを産みだしたのか?
考えを掘り進めるば掘り進めるほど新たな謎が出土した。
仁藤は掘り起こされた土まみれの謎を知識というブラシで何日もかけて丁寧に暴いていく。キマイラに助言をもらうことはあるが答えを聞くことだけは絶対にしない。
分からないから教えてくれ、ではつまらない。
単に答えが欲しいわけじゃない。自分の力で謎を暴くことに意味があったし、そこにしか興味が向かなかった。
それは学術的な権威や地位には微塵も興味を示さないということであり、考古学界を揺るがすような記述が書かれたノートを発表する気はないと同じだった。
夜になると仁藤は日雇いの土方バイトに出かける。
野宿をしているため家賃や水道代、ガス代、光熱費といった生活コストは掛からないとはいえ、生きている以上食費はもちろん、スマホを使っているため当然ケータイ代(充電の問題に関しては面影堂やファーストフードでのコンセントを使うので問題ない)もかかる。体を清潔に保つために銭湯を利用することだってある。そういった出費のためにも金は必要だ。
通帳には実家からそれなりの贅沢が出来る位には仕送りが振り込まれているが元々家を飛び出すような形で上京してきた仁藤にとって実家の力を借りるのは自分の中で負けたような気がするので一切手をつけていない。
ツナギとヘルメットを持って、仁藤は工事現場まで行き、親方に一言挨拶して仕事に入ると土と汗にまみれながら仕事を夜中まで続ける。日当を貰ったあとはテントに戻り、濡れタオルで体を拭いて寝袋で熟睡する。
朝はファントム探し、昼はドライバーの研究、夜はアルバイト。これが仁藤の一日の流れになっていた。
今日一日もまたこの流れになる……はずだった。名護の特訓が始まるまでは。
遅くなってスマンね、しょーじきサボってた
瞬平の次に普段何してるのか分からないよなぁ仁藤は
晴人も晴人で分からんけどね
金とかどーしてんだろ、遺族年金?
乙ー
ウィザードは日常パートもうちょいみたかったな
ゆっくりまつさ
バトライドウォー2のプロモーションビデオにバッシャーフィーバーが出てたよ
ほう
へえ
どんな技だった?
朝の6時。名護に敗北した次の日から約束通り特訓を受けることになった仁藤は、いつもならまだ眠っているような時間に愛用の寝袋から引きずり出された。
「戦士は規則正しい生活を送らなければならない」という名護の言葉から始まったラジオ体操を第一から第二までしっかりやった後に基礎体力作りとしてランニングをさせられる。
まず、このランニングがしんどかった。ランニングの基本はゆっくり長く走ることだが名護のペースが恐ろしく速い。名護にとってはゆっくりなペースのつもりでも戦士として日々鍛錬で鍛えぬいた名護と発掘作業や土方バイトで体を動かしているとはいえ特に鍛えていない仁藤ではペースの感覚が全然違う。
結果的に仁藤は横っ腹を痛めながら名護の背中を追うハメになった。
おまけに名護は仁藤のペースが落ちてくると
「しっかりしなさい、仁藤くん」
激を飛ばしながら仁藤の後ろに周り、背中を押してくるのだ。無理やりペースを上げられて腹の痛さは余計に増した。
ハイペースなランニングを1時間半もぶっ続けでやらされた後はようやく朝食だ。
「仁藤くん、これを食べなさい」
ヘトヘトになって地面に座りこむ仁藤に名護は白い布で包まれた物を手渡した。
中身を開くとプラスチックの弁当箱が出てきた。名護の作ってきた朝食だった。
「あんた、料理出来たのか」
「今は男も厨房に立つ時代。料理の一つや二つ、出来て当然だ。さあ、食べなさい。栄養のバランスをしっかり考えた戦士の朝食だ」
「そんなのはどうでもいいけど遠慮なく食わせてもらうぜ。誰かさんのせいで腹が減ってしょうがねえ」
仁藤は忙しく弁当箱の蓋を開けるとガツガツ中身を胃袋にかき込んでいく。
「美味いんだけどよお……味薄くね?」
「必要以上に調味料を使ってしまうと素材の味を殺してしまう。何より体に良くない。これくらいの方がちょうどいい」
「ほうか。でも、やっぱり俺向きの味じゃねえな」
野宿をする仁藤にとって食事は数少ない娯楽のようなものだった。せめて美味しく食べたい。
仁藤はテントから自分のマヨネーズを取り出して、おかずの焼き鮭にかけようとした。
「止めなさい!」
名護は血相を変えて仁藤の手からマヨネーズを目にも止まらぬ速さでひったくった。
「おい、何すんだよ!」
「何をするんだ……だと?」
名護は怒りに震えながらマヨネーズのチューブを握りしめた。握力で中身が弾け飛びそうになるくらいチューブはパンパンに膨らんでいる。名護は怒気を孕んだまま続ける。
「君は私の話を聞いていなかったのか? 調味料の使いすぎは体に良くないとたった今言ったばかりだろう。と・く・に! 卵を原料とするマヨネーズはコレステロールが含まれていて過剰な摂取により肥満は勿論、脂質異常症となりそこから動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞と連鎖し最悪の場合、死ぬこともありえるんだ」
矢継ぎ早に説明する名護に仁藤は圧倒されて「そ、そうかよ」としか言えなかった。
「戦士は己の体のためにバランスのとれた食事を取らなければならない。今日から君はしばらくマヨネーズ禁止だ」
「ふざけんな! なんでそこまで好き放題にされなきゃなんねえんだ!」
仁藤の抗議を名護は憤怒の表情で返した。
「いや、なんでもねえ」
逆らってはいけないと野生の本能で理解する仁藤。それでも大好物であるマヨネーズを使えないのは嫌だった。何とかして名護に妥協してもらおうと仁藤は別のマヨネーズを取り出した。
仁藤は名護をなるべく刺激しないように素敵な笑顔と穏やかな声で交渉を持ちかける。
「なあ……こっちのカロリーハーフの方なら良いか?」
途端、名護の手に握られたマヨネーズが限界以上に握り締められた。圧迫された空気に押されて赤いキャップがポンッとコルクを抜いたような音を立てて飛ぶ。続けて空気が漏れだす下品な音と一緒に大量のマヨネーズが噴火した。
「…………」
名護は無言のまま綺麗な方の手を上着の内側に入れると、そこから取り出したものをマヨネーズまみれの手に押し付けた。
レ・デ・ィ……
「ちょっと待て、分かった! 皆まで言うな! もうマヨネーズは無しだ! だから、そんなマジに……」
フィ・ス・ト・オ・ン……
「う……うう……うぁああぁああああああっ!!」
迫り来る白い鎧に仁藤は恐怖の叫びを上げた。
本編で使われてた俺専用は結局マジでマヨネーズだったのかカスタードクリームだったのか、どっちなんだろう
マヨネーズに決まってんだろ!
何はともあれ乙ー
乙
とりあえず、ここは自分にとってマヨネーズがどんなに大切なものかを力説したら、
万が一くらいには次からの弁当がマヨネーズ前提のものになったりしたんじゃないかなww
乙です
乙
あ
バトライドウォーにイクサが出るらしいね
朝食と名護からの折檻を終えた仁藤は街外れの更地に来ていた。
名護曰く、特訓をするにあたって周囲に人がいない方が都合のいいとのことだ。
「さて、これから特訓を本格的に初めよう。だが、その前に準備運動をしっかりしなければならない。そこで……これだ」
名護は地面に置かれたCDラジカセの再生ボタンを押すとスピーカーから躍動感のある音楽がながれ出した。
「仁藤くん、俺の動いた通りに動きなさい」
名護は後ろにいる仁藤へ返事を促すと仁藤は無言で手を上げて応える。自分で約束したこととはいえ、さっさと終わらして帰りたかった。
音楽の前奏が終わるのに合わせて名護が叫ぶ。
「イクサ・サ――――――――――――――――――イズ!」
気合の入った声と一緒に名護は左の掌に右拳を押し付けてイクサの変身ポーズの動きを再現する。テンポのいいキレのある動きだ。
仁藤は見てはいけないものを見てしまったかのように絶句した。
「どうした仁藤くん、俺の動きに続きなさい」
「いや、だってよ……イクササイズって」
「これは俺が考案した戦士の戦士による戦士のための運動だ。君も戦士である以上、毎日必ずイクササイズをやりなさい。戦士に最適な体を作れるぞ」
「俺は戦士じゃなくて……もういい。つーか大体なんだよ、この格好」
仁藤はあからさまに面倒くさそうな顔をしながら自分の着ている服を見た。
白地のTシャツで胸に青い文字で753とプリントされている。ちなみに腹の部分にはイクサベルトが、背中にはバーストモードのイクサの顔がプリントされていた。
名護は仁藤のと逆の青地に白の文字のTシャツに加えて、これまた753とプリントされたブルーの帽子という出で立ちだ。
「753……どういう意味だよ」
「決まっているだろ? 753(名護さん)だ」
「自分の名前とか自画自賛じゃねえか」
鼻で笑う仁藤だったが当の名護は大真面目に返した。
「当然だ。俺は自分が優秀な人間だと理解している。存在そのものが誇りだ。そんな俺を俺自身が褒めないでどうする? 俺に失礼だ。君もそのTシャツを着て、常日頃から俺の名を胸に刻みなさい」
「……ありがたく着させていただきます」
「いい心がけだ。普段の粗暴な態度も少しは良くなったな」
(一々うるせーよ!)
心の中で悪態をつきながら仁藤は名護に続いてイクササイズを続けた。
「避けなさい! 避けなさい! 敵の攻撃避けなさい!」
歌いながら上体を大きく逸らす名護の動きを仁藤も真似する。
名護の命令口調の歌はともかく適度に体を動かすイクササイズは準備運動にはぴったりで全ての動作が終わる頃には仁藤の体はすっかり温まっていた。
「なあ、おっさん。特訓って何をするんだ? 技術的なものでも教えてくれんのか」
「技術とは基礎の上でしか成立しない。故にあくまで基礎だ」
「ってことは、また朝みたいに走り込むのかよ。言ってることは分かるけどよぉ……地味じゃねえか」
特訓というから如何にもなハードワークを想像していたが今朝のように走らされるだけなら正直期待外れだ。
「地味かどうかは実際に特訓を受けてみてから判断すればいい……そろそろだ」
名護が腕時計で時間を確認するとほぼ同時に更地に1台のトレーラーがやって来た。
トレーラーは名護の近くでゆっくりと止まると荷台が開き、そこから1台のバイク(イクサの顔を模したフロント部分が特徴的)が運ばれた。
「うおーー! かっけえーー! このバイク、おっさんのか!?」
「これはイクサリオン。青空の会が造り出したイクサ専用のマシンだ。それとおっさんは止めなさい」
「イクサリオン……戦獅子……ライオン。俺にピッタリじゃねえか」
仁藤は新しい玩具をもらった子供のようにはしゃぎながらバイクのグリップをおもいっきり動かしてエンジンをふかす。最大出力650馬力を誇る驚異のエンジンが生み出す爆音は近くで聞くと正に獅子の雄叫びだ。圧倒的なパワーに全身が震える。
「おっさん、こいつくれよ」
「ダメに決まっているだろ。あと、おっさんは止めなさい」
「じゃあじゃあ、せめて乗せてくれよ。実は俺、少し憧れてたんだよ」
「俺のように鍛えられた戦士ならともかく君にこいつを扱うのは無理だ。大体、君は免許を持っているのか?」
「うぐっ……それは」
「呆れたな。無免許運転など言語道断だ」
にべもなく返しながらイクサリオンに跨る名護。仁藤はその様子を少し羨ましそうに眺めた。
「仁藤くん、離れなさい」
バイクに乗ったということは運転するのだろう。仁藤は名護に言われた通り、邪魔にならないよう一歩下がった。しかし、名護はイクサリオンを発進させなかった。
「まだ足りないな。もっと下がりなさい」
「ああ、分かった。この位か?」更に数歩下がる仁藤。
「もっとだ」名護の返答は変わらない。
「十分だろ?」
バイクと仁藤の間隔は既に3メートル近く空いている。それでも名護は首を横に振った。
「俺が手を挙げるまで下がり続けなさい」
「……」
仁藤は不思議そうに首を捻りながら名護の指示に従い下がり続ける。やがて小さく見える名護が手を挙げた。ざっと見積もっても数十メートルの距離はある。
「仁藤くん、これより特訓を始める! 変身!」
名護は懐からイクサナックルを取り出してイクサへ変身した。
イクサはイクサリオンを仁藤の方へ向ける。エンジンをふかし、いつでも発進できる状態にしていく。
離れすぎな位に空けられた距離。向けられたバイク。そして特訓。
仁藤の頭に嫌なイメージを浮かんだ。
「まさか……」
獣の唸り声のように響くアイドリング状態のエンジン音が不安を煽った。
「特訓って……」
直後、一際大きな爆音がするとイクサリオンは仁藤へ向かって急発進した。
「嘘だろぉ!」
嘘ではない。目の前で起きていることである。
仁藤は全速力で走った……というより逃げた。しかし所詮は人間の走るスピード。青空の会が誇るモンスターマシンから逃げられるはずもなかった。
イクサリオンに轢かれそうになる瞬間、仁藤は横へ転がった。するとイクサはターンして再び仁藤を追ってくる。
(ほれ、仁藤もっと早く逃げろ)頭の中でキマイラが面白がって茶々を入れてきた。
喉はひりつき、Tシャツは汗で貼りつき、心臓は既に爆発寸前だった。それでも仁藤は走り続けた。
「仁藤くん、逃げるんじゃない! 向かって来るんだ! 戦士に後退はない!」
「趣旨が変わってんじゃねーか!! 変身!」
仁藤は金色の魔法陣に包まれてビーストに変身した。
「変身したか。ならば特訓2だ!」
イクサはバイクを停止させるとベルトのスロットからフエッスルを取り出して読み込ませた。
パ・ワ・ア・ド・イ・ク・サ……
フエッスルのコードが読み上げられると地面を揺らしながらイクサのもう一つの専用マシンである恐竜のような姿をした重機『パワードイクサー』がやってきた。
全高7.5メートルの鋼鉄の竜のスケールにビーストは圧倒される。
「おいおいおいおい! こんなのまであんのかよ反則だろ! なんでもありなのは魔法使いの特権だっつーの!」
(人間の科学力とは恐ろしいものだな。最早、魔法と区別がつかぬわ)
「関心してる場合じゃねえ!」
ビーストはバイクから重機に乗り移ったイクサに吠える。
「おっさん、俺を鍛えたいのか殺したいのか、どっちだ!」
「もちろん君を鍛えるのが俺の使命だ。そして、私はおっさんではない」
イクサはパワードイクサーの恐竜の頭部のようなアームを巧みに操作して、後方に備え付けられた攻撃用の爆雷ポッドを投擲した。
地面に着弾したポッドが赤い火柱をあげて爆発する。
「うぉおおおおおっ!」
爆風でビーストが吹っ飛び、地面に叩きつけられた。その間にもパワードイクサーは次の投擲の準備に入る。
「安心しなさい。今日の特訓のために爆薬の量はきちんと減らしておいてある」
「そういう問題じゃ……ねえ……」
その後、特訓の時間が終わるまで仁藤は生きた心地が全くしなかった。
仁藤は思った。
生きているって本当に素晴らしい。
乙です
仁藤はマヨネーズさえあればどんな状況でも生きていける
こんな面白いSSを今まで見逃していたなんて・・・
乙&支援
乙
753に鍛えられる210の明日はどっちだ
仁藤と名護の絡みは基本ギャグ路線か
ネバーギーブアーップ
そーいえばイクサってフェイクフエッスルあったよな…。本編だとガルルしかつかってないが…。
キバと共闘するときに渡から借りる的なことはどうだろ?(
廃工場でソラはひとり愛用のシザーの手入れをしていた。
清潔感のあるブルーの布で鉄臭いシザーを優しく拭く。
汚れた刃を拭くたびに布には赤黒い汚れがついていった。
するとソラ以外誰もいない廃工場で足音が聞こえてきた。
「グレムリン、私を呼び出して何の用だ?」
足音と一緒に陶磁器のように白い肌と輝く胸の宝石が特徴的な美しいファントム『カーバンクル』が姿を現した。
「この街にファントム以外の化物が来ているのは知ってるよね、ワイズマン」
ソラはカーバンクルを自分の仕えている主の名前で呼ぶと話を切り出した。
「ファンガイアのことだな」両手を後ろで組みながら威厳のある声でワイズマンは答える。
「やっぱり知っているか。ねえ、ファンガイアは探し物をしているっぽいんだ」
「初耳だな。だが、それを私に話すということは詰まったか?」
「色々考えたけど何にも思いつかなくてね。ヘルズ・ゲートっていうんだけど化物が探しているくらいだから録でもないものだよね」
「ヘルズ・ゲート……地獄門か」
「知ってる?」
「もちろんだ。この世界には魔法の技術が使われた道具がいくつもある」
そう言って、ワイズマンは魔法の道具の一つ『タナトスの器』を例に出した。
タナトスの器とは、本来使えば使った分だけ消費される魔力を膨大に蓄えることが出来るいわば巨大な魔力タンクのことだ。蓄えられた魔力は魔力を持つ存在に対して流すことで魔力を回復させることが出来る。もっとも魔力を流し過ぎて受け手の限界を越えてしまえば、受け手は溢れ出す魔力に飲み込まれて自己崩壊にいたる危険性もある。
次にワイズマンが例に出した魔法の道具はソラもよく知る古の魔法使いビーストの使うベルト、ビーストドライバーだった。
ドライバーに閉じ込めたファントムの魔力を動力にすることで魔力ないの者でも魔法使いと同等の力を得ることが出来る魔法のベルト。しかし、同時にファントムに魔力を与えなければならず、それが出来ないなら装着者の命を捧げなければならない。
「諸刃の剣。とは言え力の代償は命などよくある話だ」
ワイズマンの話を聞いたソラはファンガイアの探し物が何なのか合点がいった。
「ヘルズ・ゲートも数ある魔法の道具の一つってことだね。でっ、どんな道具なのさ? やっぱり名前通りに地獄と繋がってるの」
おどけながら核心を聞いてくるソラにワイズマンは静かに告げる。
「あれには世界の絶望が封じ込められている」
「世界の絶望?」首を傾げるソラ。「随分と抽象的だね」
「私も実際に見たことはないのでな。ただ……そんな言葉で表現されるものが解き放たれでもすればこの世界は間違いなく滅ぶだろう」
「やっぱり録でもない。手を打った方がいいんじゃない?」
ソラはシザーで首を掻っ切るように動かして、ファンガイアの始末を提案した。
だがワイズマンは首を横に振った。
「放っておけばいい。下手に手を出してファントムの数を減らす必要もないだろう」
「意外な答えだね」
「私達が動かなくても勝手に動いてくれる連中がいるからな」
「確かに魔法使いなら。大変だよね、人を守るって。力を自分のためじゃなくて他人のためにとか馬鹿な連中だよ」
「好きでやっているのだろう。自分のためであると同時に誰かのために……私も」
それだけ言うとワイズマンは去っていく。
「グレムリン」一度足を止めて振り返らずに言葉をかけるワイズマン。
「なに? 隠し事はもうないよ」シザーに仕上げ用のオイルを塗るソラ。
「興味がないのも、ここに人が来ないのも分かるが、首から下はきちんと始末しておけ。ひどい臭いだ」
「はーい。掃除しておくよ」
ソラはお小言を言われて面倒くさがる子供みたいに拗ねた声で返すとズボンのポケットをまさぐった。
手の中には灰色の魔石が握られている。ソラは魔石を視界の隅の遠くで映る羽虫のたかっている肉の山に投げつけた。
魔石からグールが産まれるとグール達は肉の山に群がる。
肉の千切れる音、咀嚼する音、咽下する音が混ざり合って聞こえてくる。
ソラは肉の山を処理するグールたちに嘲笑を飛ばす。
「やっぱりファントムは化物だね。僕にはあんなこと出来やしない……あっ、そうだ」
ソラは思い出したかのように立ち上がるとお手製のヘアサロンへ消えていく。
しばらくして出てくると髪の整えられたカットウィッグを持っていた。
「使い終わったし、飾るにしてもそろそろコロンで誤魔化せなくなってきたし、ちょうどいいか」
ソラはカットウィッグをゴミでも捨てるようにグールの群れの中に投げ入れた。
>>452
クソコテじゃないけどアクの強いやつって動かしやすいからね
唯一の米村回での「俺のボターン!」とか
乙です
乙
こいつらの正体知ってると本当にどの口がって思う胸糞悪さ
マジでひどい
あ
グール達ってそういえば名前的には食人鬼か。
乙
誰かがファントム連中を「弦太朗でも絶対に友達にはなりません、と言えるくらいの外道ラインナップ」と評してたが
こいつら比喩でも何でもなく魔物だもんな
グロンギと同等かそれ以上に価値観通じ合えない
ファントムは完全に他者の死の上にいる存在だからなぁ……
オルフェノクの方が人格残ってるだけマシ
オルフェノクは人格が人間の時そのままなのがかえってエグいと思う
さすがにTV本編じゃソラみたいのは出てこんかったと思うが
スネイルオルフェノクが初めて人を殺して狂喜する場面、
本当に人間で無くなってしまった瞬間を描いていて怖かった
保守
希望という名の病原菌、仮面ライダーウィザード!
絶望の病を駆逐するワクチンとなれ!
「姉さん、夕飯が出来たよ」
ドアをノックして少しの間を取った後、今川望は部屋に入った。
物の少ない小奇麗な部屋では姉の希がベッドの上で横になっている。
望はベッドまで近づくとゆっくり膝をつき、希と同じ目線の高さに合わせた。
「体調はどう? 食べれる?」
「今は良い方かな。多分食べれるよ。今日はなに?」
「パスタ。和風なやつ……運んでこようか?」
他の人が聞けばいつもと変わらないように聞こえる希の声から望は、希の体調はまだ良くないことを察して、そう言った。
体の弱い希の体を無理に動かす必要なんてない。希は小さく首を横に振った。
「大丈夫。いつまでもベッドの上で寝ているわけにはいかないしね」
「わかったよ」
自分の気遣いを断る希に望は苦笑しながらも内心嬉しさを感じた。
希の意思を否定するつもりはない。希が大丈夫と言うなら、大丈夫だ。
もちろん体調は良くないのだが、そこは自分がフォローすればいい。そのために自分がいる。
望は希をゆっくりと起こすと起立性低血圧――立ちくらみを考慮して「気分は?」と一言聞く。
希は「大丈夫って言ったでしょ。心配しすぎだよ」と軽く笑うとパジャマの上からピンクの女の子らしいケープを羽織った。
「てるてる坊主」
「女の子に向かって、そういうこと言わない」
部屋を出ると姉弟は弟の部屋の前を横切って、階段を下りた。壁に備え付けられた手すりにつかまって少し急な階段をゆっくり歩く希の前を望が歩く。もし希に何かあって転ぶようなことがあってもすぐにフォローするためだ。
望の記憶では希は一度、階段から転げ落ちている。幸いなことにその時は大事には至らなかったが、手すりもそれがきっかけで業者に頼んでつけたはずだ。
リビングに着くとテーブルにはランチョンマットが敷かれ、望の作った夕飯(山芋と明太子のパスタ)が用意されていた。
鰹ダシと合わせたパスタの上から擦られた山芋と明太子を混ぜたピンク色のとろろがかかっている。振りかけられた刻み海苔もあって見栄えもいい。
「和風のパスタだからもしかして……って思ったけど、やっぱり」
予想通りとは言え、希は笑顔を浮かべた。望の料理の腕は知っているし、このパスタの美味しさも知っているからだ。
「「いただきます」」
姉弟で食事の挨拶をする。希が食べ始めると望も食べ始めた。
望は、希がそうしたように皿の隅に乗っているワサビを鰹だしに混ぜてパスタを口に運ぶ。わさびのツンとした刺激が望を襲った。
「やっぱり美味しいね。明太子の辛さとは違うワサビの辛さが味を引き締めてる」
「…………ああ、そうだね」
「何度も食べてるのに、どうして飽きないのかな?」
「昔作った時のレシピ通りに作ってるだけだよ。特別なことは何もしてない」
「だから不思議なんだよね。私が作ると少し違うし。ホントこれだけ料理の腕があるなら望はいつでも嫁入りできるよね」
「嫁入りって俺は男だよ」
「そう? 小さい頃は「希おねーちゃんのお嫁さんになる!」とか言ってたのに」
「えっ……」
希の突然すぎるカミングアウトに望はフォークを止めた。希の発言は嫁入りという冗談からの延長だった。しかし、望には冗談として受け取れなかった。正確に表すと受け取れる余裕がなかった。
小さい頃? いつだ?
望は焦りながら頭の中をフル回転させて希の発言に該当する望の記憶を探す。
しかし、どれだけ記憶の引き出しを開けても希の言っているような記憶は見つからない。
それでも望は何処かにあるかもしれない何処にもない希との記憶を、床に散乱した大量の紙から正しい一枚を見つけるように漁った。諦めた望は希に確認する。
「姉さん、俺は本当にそんなこと言ったっけ?」
「やだ、真に受けちゃったの?」
希は可笑しそうにクスリと笑った。そこで望は自分が冗談を言われたことに気づいた。
ため息をつきながら望は再びパスタを口に運ぶ。ワサビの刺激で鼻がスーっとなった。
「まったく悪い冗談はよしてくれ」
「そうだね。確かに望は言ってないよ。お嫁さんになるって言ったのは……」
そこで希は黙ってしまった。うつむく希の耳はほんのり赤くなっていた。
「……姉さん? やっぱり体調良くないんじゃないの?」
望は熱を測ろうと身を乗り出しながら希の額に手を伸ばそうとした。テーブルを挟んで近づく二人の距離。すると希は慌てて身を引いた。
「へへへへ平気だよ。辛いものを食べたからな。体が熱くなったんだと思う」
希はケープも脱がずにわざとらしくパジャマの第二ボタンまで外すと襟をパタパタ動かして開いた胸元に風を送った。
朱が差して薄いピンク色になっている希の肌に、望の中で何かが大きく高鳴った。
望は自分の体が熱くなることを自覚するとコップに注がれた水を飲んだ。味も何もない冷たい透明な液体が体の芯から冷やしていく。
空になって水滴しかついてない硝子のコップをコースターの上に置くと希が話しかけてきた。
「大学は楽しい?」
「楽しくなきゃ続いてないよ」
「その割には帰ってくるの早いよね」
「まあね」
「ごめんね。友達と遊びたいのに私のせいで望の時間を奪って……」
希は申し訳なさそうに謝った。望が体の弱い自分を気遣って、講義が終わると直ぐに帰ってくることは知っていた。
望が自分のことを重荷だと感じてないだろうか、と悩んだことは何度もあった。
すると望は「姉さん、嫌な言い方だけどさ……」と言った。
これは望が建前やオブラートに包んだ言葉ではなく、自分の正直な気持ちである根っこの部分を晒してくる時に使う前置きの言葉だった。希は緊張で体を固くした。
「姉さんは体が弱い。だから普通の人よりも多く他人に迷惑を掛けざるを得ない」
嫌な言い方と前置きされていたとは言え、面と向かって自分が持っている負い目を指摘されるのは辛い。希は唇を噛み締めた。望は構わず続ける。
「だから気にしなくていいよ……って、言われても無理だよね、普通。姉さんにやってもらって当然的な図太いお客様根性があるとも思えないし」
淡々と伝えられる望の想いに希は「うん」と沈んだ声で返す。望は少し困ったような笑って希にゆっくりと語りかけた。
「それでも……それでもさ、やっぱり気にしないで欲しいな。姉弟なんだから遠慮されたら俺は嫌だよ。姉さんは俺の時間を奪ってなんかいない。むしろ与えてもらってる」
「どうしてそう言えるの?」
「だって、かけがえのない家族のために時間を使えるってすごく幸せなことだと思うから。俺は姉さんから、姉さんと過ごす時間を与えてもらっているんだ」
望は感謝を示すように希の手をとって、望の一番伝えたいことであり嘘偽りのない本心を伝えた。望の心に触れた希は、はにかんだ。
「望は優しいね。本当にありがとう」
希もまた感謝の気持ちを返すように手を強く握り返した。
「ねえ、望……私に遠慮してほしくないんだよね」
「うん」
「じゃあ、わがまま言ってもいい?」
「もちろん」
「デザートにアイスが食べたいな」
「……チョコミントでしょ?」
希の子供っぽいわがままに望はプッと小さく吹き出すと記憶の中から希の好みを引き出した。
望が自宅から近いコンビニでチョコミントのカップアイスを買って帰る途中、踏切が見えてきた。
ここの踏切はけっこう時間がかかる。待っている間にアイスが溶けてしまうかもしれない。望は急いで走った。
やがて踏切はカンカンカンカン……という音と共に遮断機が降りてしまった。それでも望は走るスピードを緩めなかった。
遮断機の向こうで電車が音を立てて線路の上を通る。望は走りながら強く地面を蹴って空高くに跳んだ。望の体はいとも簡単に電車ごと踏切を跳び越えた。
「何をそんなに急いでいるのかしら?」
音も立てずに着地した望に髪の長い女――メデューサのミサが声をかけてきた。
「パズズ」
ミサは望の本当の名前で望を呼んだ。
「何の用だ、メデューサ?」
「分かっているでしょう。お前の力を貸して欲しいの。ゲートを絶望させて新たなファントムを生みだしなさい」
「俺に白羽の矢が立ったってことか」
「ええ……やってくれるわよね?」
言葉こそ頼み事をする時のそれだったが、有無を言わせない迫力がミサにある。つまり一方的な命令だった。
「嫌だね」しかし望はハッキリ断った。
「なんですって?」
途端、ミサの中で猛烈な怒気が溢れ出した。望は臆することなく言い返した。
「ファントムは俺だけじゃない。他にもいるはずだ」
「お前が適任なのよ。お前は魔法使いの天敵だから」
「…………」望はあくまで拒絶の態度を続けた。するとミサの激情に歪んだ顔が一転、冷たく妖しい笑みを浮かべたものに変わった。
「そう……口で言っても分からないのね。なら、お前のゲートの姉でも殺そうかしら」
「なっ!?」
「あら、何を動揺しているの? ファントムが持て余している力を振るっても別にいいでしょ。実際フェニックスを始め、多くの武闘派のファントムはやっていたことよ。私もそれに習ってみるだけ」
「姉さんに手を出すな!」
今度は望が怒りを顕にする。望の周囲で小さな虫の羽音のような音が聞こえた。
「パズズ、人間の女一人に何をそんなに執着しているの?」
「それは」
口ごもる望をミサは自分で問いかけた言葉に答えを出した。
「お前、その女を愛しているのね」
望はミサの答えに図星を刺された。
サバトで誕生したパズズがゲートの望として生活する上で希との共同生活は避けられないことだった。望はパズズが誕生する前から希を支えてきた。パズズは望を演じるために希を支えた。
ファントムである以上ゲートの記憶として希を支えるための知識を持っているので、支えること自体は簡単だった。
たとえ味覚がなくても望の記憶にあるレシピを忠実に再現すれば希の喜ぶ料理を作れた。
パズズは望として生きていくために何度も望の記憶を覗いた。望の記憶は希と一緒のものばかりだった。
記憶の中の姉弟は常に笑い合っていた。
パズズは望として生きていく内に自分の中で希の存在が大きくなっていた。
いつまでも一緒にいたい。失いたくない。
もし自分の抱いているものがメデューサの言うように愛というなら、それは愛なのかもしれない。
「俺は姉さんを愛しいている」
「下らないわね。その愛は、お前のゲートの記憶が、お前にそう見せているだけの錯覚よ。まあ、私にとってはどうでもいい話だわ。重要なのはお前がゲートを絶望させてくれるかどうかだけ。もう一度聞くわ、やってくれるわよね?」
「……もし姉さんに手を出したら、その時はゲートよりも先にお前を骨の髄まで絶望させてやる!」
望はその場で吐き捨てて、音もなく跳ねると姿を消した。
ミサは望のあくまで希にこだわる姿勢に呆れた。
「馬鹿なファントムね。姉がいるのはゲートであってお前にはいない。お前のやっていることは『人間ごっこ』にしか過ぎないのよ」
前回の投下の後からついたレスから色々と考えた結果の投下、本筋からけっこー外れちまうが許して
あと個人的なことだけどアーク・ブラッドから榊先生が降板したことがショック
乙です
乙
乙
乙
あ
公園にはバイオリンの美しい音色が満ちている。コンサートの差し迫った奏美は自分の演奏に追い込みをかけていた。
自分の演奏にいつも以上にハッキリとした手応えを感じられる。そして何よりバイオリンを弾くことが楽しい。ずっと弾いていたいとすら思った。
奏美は弓を踊るように軽やかに動かして弦を震わせる。誰の目も気にせず、自分の本当に奏でたい音楽を表現する。幸せの時間だった。
この演奏、大地くんにも聞かせたいな……
奏美が今一番聴かせたい相手のことを考えていると、それは現実になった。西代大地がやって来た。
奏美はひとしきり演奏を行った後、大地に微笑んだ。
「大地くん、私の演奏すごく良くなったでしょう?」
「えぇ、そうですね」奏美の演奏の出来を肯定する大地だが、その顔は何処か寂しげだった。
「どうしたの、大地くん? 元気なさそうだけど」
「いや、別に。ただ世の中っていうのはどうも都合よくいかないな、と思って。そういうものなんでしょうけど」
「そうね……私もそうだった。自分の音楽を表現したくても出来なかった」
「奏美さんは、街の音楽っていう素晴らしい演奏をしていたじゃないですか」
「あれは偽物なのよ。私の演奏したい音楽じゃなかった」
「音楽に偽物も本物もないと思いますけどね」
「私ね、今まで本当にやりたい音楽があったのに自分が傷つきたくなくって、それで街の音楽を演奏してた。でもね、晴人さん……あの人が言ってくれたの、希望は絶望に勝るって」
奏美が晴人から貰った――希望は絶望に勝る、という言葉は鍵だった。傷つくのを恐れて幼い頃からずっと鍵をかけていた自分の音楽を解き放ってくれた魔法の言葉。
奏美は少し離れたベンチに座り、見守る晴人の方を見た。つられて大地も目線を向けると晴人は手を上げて会釈した。
「へぇ……あの人が」
大地の細い指が苛立たしげに蠢いて鳴った。だが、それに気づく者は誰もいなかった。
「!」
ふと大地の胸がざわついた。何かが近づいてくる、そんな感じがした。
大地は振り返り見ると自分……いや、奏美の方へやって来る男がいた。
「…………すまない」
男――今川望はそう短く言うと飛蝗のような外見のファントム・パズズに姿を変えた。
異形の姿を見た奏美は一瞬、驚いた顔を浮かべるとすぐに大地の手を取って、その場から逃げ出した。
パズズは奏美を追おうと跳ぶ。だが、それを阻むようにパズズの眼前に赤い魔法陣が展開して、パズズの体を弾き飛ばした。
「この熱……火のエレメント。指輪の魔法使いか」
「ゲートの相手より俺の相手をしてくれよ」
既にベンチから立ち上がり指輪をかざしている晴人はゆっくりと魔法陣をくぐってウィザードに変身した。
「さあ、ショータイムだ」
銀色の銃剣を構えてウィザードはパズズの元へ切り込んでいく。
一瞬、奏美に手を引かれて走る大地とファントムに向かって走るウィザードが交差した。
大地のウィザードを見る目には人間のものではなかった。黒目に当たる部分がステンドグラスのような色鮮やかな妖しい輝きを放っている。
大地の細い指がまた蠢いて鳴った。
・
・
・
「ここまで逃げれば大丈夫ね」
戦いの場からかなり離れた場所で周りを見て安全を確認した奏美はホッと安堵の息をついた。一方、大地は奏美とは対照的に険しい顔で逃げてきた道を見つめていた。
「奏美さん、あの人は一体? 姿が変わったようでしたけど……」
大地は苛立ったように奏美に質問した。
奏美は大地がまだファントムを見たショックによる緊張が残っているのかと思った。だから奏美は大地を安心させようと出来るだけ明るく優しい声で答えた。
「大丈夫よ。あの人はね、魔法使いなの」
「魔法使い……?」
「信じられないかもしれないけど本当よ。さっきみたいに何度も私を怪物から守ってもらっているの」
「そうですか……何度もですか。なら、安心ですね」
安堵したような口調で大地が言い、にっこりと微笑んだ。大地の緊張を解せたと思った奏美も同じ様に微笑む。
「あれ……」
ふと奏美は全身から力が抜けていくのを感じた。もしかしたら緊張していたのは自分の方だったのかもしれない。
視界がぼやけて、ゆっくりと地面が迫ってくる。
奏美は転ばないように自分を支えようとしたが力が入らない。そのまま奏美は倒れると同時に眠るように意識を失っていった。
側にいた大地は少しも驚かず倒れた奏美を見下ろしていた。奏美の首筋には硝子の様に透明な牙が刺さっていた。
「緊張からの解放、軽い貧血……まあ、理由なんて適当につきますよね。さて……」
踵を返して走ってきた道を戻る大地。。その顔は異様な程に歪んで狂喜にも似た笑みを浮かべている。
「余計なことを吹き込んだクズを殺しに行くか」
大地は別人のような荒々しい低い声を出すと顔に色鮮やかなステンドグラスのような模様を浮かべた。
次回から戦闘だから少し更新早くなる……と思う
乙です
乙ー
待ってる
ウィザードは黒いコートをはためかせて踊るように斬りかかる。
それをパズズは素早い動きで避けると反撃の蹴りを叩き込んできた。
「おっと危ない」
後方に大きく宙返り。ウィザードはソードガンを銃に切り替えて連射する。
銀の魔弾は複雑な軌道を描きながらパズズへと向かっていく。狙いをつける必要はない。的さへ見えていれば勝手に当たってくれるのだ。
パズズは力を溜めるような動作をすると跳ねた。魔弾が届くよりも早いスピードで一気にウィザードへ間合いを詰める。
ウィザードは左手の指輪を素早くイエローダイヤモンドの指輪をベルトにかざしてフレイムスタイルからランドスタイルへ変身すると直後、今度は右手の指輪をベルトにかざした。
「正面衝突、ご注意を!」
ディフェンド! プリーズ!
詠唱と同時に何もない地面から土の壁がウィザードを守るように現れた。
突然出てきた分厚く固い土の壁にパズズは跳躍の勢いのまま激突する。反動でよろよろと後ろに下がるパズズだが体勢を立て直すと崩れる壁の向こうのウィザードに迫った。
ディフェンド!
ウィザードはバックステップしながら再び土の壁を召喚した。パズズは拳を振るい土の壁を破壊した。
ディフェンド!
ウィザードは同じ様に防御の魔法を発動させる。やはり、それもパズズが破壊される。それでもウィザードは執拗に壁を作った。
ディフェンド! ディフェンド! ディフェンド! ディフェンド!
出しては突破されて、出しては突破されて――そんな攻防が続くとパズズは自分がウィザードにおちょくられているのではないのか、と思えた。
「いい加減にしろ! 魔法使いは一つの魔法しか使えないのか!」
怒りの叫びをあげて壁を破壊する。しかし、壁の向こうにウィザードの姿はなかった。
パズズは周囲を見回した。やはりウィザードの姿はない。
逃げたのか?
パズズが思ったその瞬間、不意に足首をがっちり掴まれるような感覚が襲った。
驚き、足元を見ると雨が降ったわけでもないのに大きな水たまりが出来ていた。コバルトブルーの水たまりからはひんやりとした黒い手だけが生えていてパズズの足を掴んでいた。
パズズはその手を払いのけて踏みつぶしたが、冷たい手は水のように弾けて消えてしまう。
すると踏みつけた衝撃で飛び跳ねた水たまりの水――その一粒一粒が意思でもあるかのように一斉にパズズにまとわりついた。
水が動くと合わせてパズズの体が油の切れたブリキ人形みたいにぎこちない動きをしながらポーズをとらされていった。
抗おうとしてもまるで全身が蛇に絡まれたかのように動けなかった。体が締めつけられて背中・脇腹・腰・肩・首筋に猛烈な痛みが襲いかかる。
やがて水はウォータースタイルのウィザードを形作った。
「何度もやられて壁の向こうには敵がいるって思うよな? 違うんだよ」
ウィザードはパズズにコブラツイストをかけながらそう言った。
「小細工……だな」
「そういう少しの手間が大事なんだ……そらっ!」
力を入れて締め上げるウィザード。パズズの全身から軋むような音が聞こえた。
「がぁっ……うぐぅう……」
「身に沁みて分かっただろう?」
「ぐっ……うぅううううっ……あ、あっ……」痛みで声にならない言葉を漏らすパズズ。
パズズは目をいっぱいに見開き全身に力を入れた。
「お前に……」
「?」
妙な音がパズズから聞こえてきた。無数の虫の羽音が重なった不気味で、不快な、ゾッとするような音。
「お前に構っている暇は……ないんだ」
音が更に激しさを増す。ウィザードは危険を感じてフックを解いて離れようとした。
その時だった。
パズズの出す虫の羽音をかき消す程の爆音が響いた。
ウィザードとパズズは反射的に音の方を向くと地面をえぐりながら力のある波が迫っていた。その波は圧倒的な破壊のエネルギーを以て二人を容赦なく飲みこむ。
「「ぐああああああああああっ!!」」
両者は全身がバラバラになるような痛みを感じながら、まとめて吹き飛ばされた。
「死ななかったか……まあ、いい。どっちもここで死ぬことには変わりないんだからな」
地べたに這いつくばる様に倒れた二人の元に1体のファンガイアが近づいてきた。
ウィザードは立ち上がってソードガンを構えた。
「ショーの最中に横槍を入れるのは関心しないぜ、ファンガイア」
「安心しろ、幕は俺が降ろしてやる」
そのファンガイアはウィザードが戦ってきたファンガイアとは別格の雰囲気を持っていた。
冠のように見える頭部の猛々しい三本の角。堅牢な要塞を彷彿させる筋骨隆々な黒い体。全身を飾るように散りばめられた色鮮やかなステンドグラス調の模様と金色のライン。
力強く芸術的な造形だった。
ファンガイアは指を鳴らすと右手の甲に紋章が浮かんだ。チェスの駒のようなデザインと一緒にROOKと刻まれた紋章。
それを見てウィザードは以前、名護から聞いたこの街にきたファンガイアの一派の話を思い出した。
「なるほどな……あんたがファンガイアの強硬派のトップ」
「我が名はルーク! ファンガイア最強が一席、チェックメイト・フォーのルーク!」
ルーク――コーカサスビートルファンガイアは天が割れ、大地が揺れるほどの声で名乗りをあげると重戦車さながらの勢いでウィザードに突っ込んでいった。
なあ、前からちょくちょく気になってたんだけど
(SSL)←これ何?書き込む人によってあったりなかったりで
乙です ■ SS速報VIPに初めて来た方へ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399385503/)
ここを見るといいかも…
ルークかよ、これはやばいな
おつです
コーカサス・・・カブトムシモチーフとはこれは超強敵そうだ
おつです ここでルークか
戦闘パートになると本当に筆早いなwww
迫り来るルークにウィザードは銃撃で応戦した。魔弾はルークの皮膚に直撃するが途端弾き跳ぶ。全く効いていない。
「普通じゃダメか。なら撃ち貫くまでだ」
ソードガンのハンドオーサーを展開して、指輪をリードさせる。
ドリル! プリーズ!
トリガーをを引くと魔法を付加させた――通常のよりも鋭角的で激しく回転する弾丸が発射される。激しい回転運動によって空気を裂く音はドリルのようだった。
やがてドリル弾が炸裂するがルークの進撃は止まらなかった。
「!?」
驚愕するウィザードを他所にルークが丸太のように太い豪腕を振るいウィザードを殴りとばした。
ろくに受身も取れずにウィザードは地面を派手に転がされた。
「おい、これは返すぞ」
ルークは自分の皮膚にほんの僅かだけ突き刺さっているドリル弾を引き抜くとウィザードに投げつけた。
ウィザードはハリケーンスタイルにチェンジして飛んだ。ソードガンを剣に切り替えて風のように高速で舞いルークを切り刻む。しかしルークはその名前と同じ堅牢な城が如く微動だにしない。
逆にソードガンの銀色の美しい刃が欠けた。
「……後でゴーレムに研いでもらわないとな」
いつもの調子でおどけるが、ウィザードは背筋に冷たいものを感じていた。
ルークは手から衝撃波を出そうと構えた。すると横からパズズが襲ってきた。
異形同士の格闘の応酬が繰り広げられる。
ウィザードは大空に飛ぶと急降下しながらフレイムスタイルに変わる。更にそこから必殺の指輪を詠み込ませた。
チョーイイネ! キックストライク! サイコー!
ウィザードの足に魔力が集中し燃え上がる。やがて炎がウィザードを包んだ。
「はあああああああああっ!」
紅蓮の矢となったウィザードはルークに渾身の蹴りを放つ。
「ふん!」
ルークは唸ると片手でパズズの首を掴み、空いた手を紅蓮の矢に向かって突き出した。
次の瞬間、ウィザードの動きがピタリと止まった。ルークはウィザードのキックを片手で軽々と受け止めた。
燃え上がるウィザードの足が煙をあげて消えていく。
「随分とぬるくて弱い火だ」
ルークはそれだけ言うとウィザードの足首を掴んで地面に叩きつけた。
ウィザードは激痛で意識が失いかけるところを必死に耐えた。
ルークは仰向けに倒れるウィザードの首を掴むと軽々と頭上高くに持ち上げる。パズズも同様に掲げ上げられた。
ほんの僅かな間の静寂。
直後、ルークは両腕を大きく開き、力いっぱい閉じた。両手にあるウィザードとパズズが激突する。
ルークは何度もウィザードとパズズを叩きつけた。
その度に耳をつんざくような衝突音とウィザードとパズズの苦しみの悶え声が響く。
抗うことすら許されない一方的で圧倒的な暴力が続いた。
やがてルークは両手にあるボロ雑巾のようにぐったりしているウィザードとパズズを投げ捨てた。
>488
状況がぽんぽん変わるおかげで書けること増えるからねー、ドラマ書くより楽なんすよ
乙ー
ルークつえぇ…
乙です
エキサイト使えよと言いたい
晴人もだが、パズズにも死んでほしくないな
>>493
その手があったか
そこで返り討ちさせればルークのパワーぶりもっと演出できた…サンキュー!
立ち上がろうとするウィザードの体には力が入らなかった。手が小刻みに震えていた。
(こいつ…………ヤバすぎる…………)
仮面の下で晴人は自分が恐怖していることを自覚した。これほどの恐怖はかつて幾度となく死闘を繰り広げたフェニックスとの戦い以来だった。
ルークからのむき出しの殺意が鋭利な刃物となって喉元に突きつけられる。
晴人は今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。だが逃げることは許されない。
魔法使いだからである。
恐怖で体が思うように動かない晴人は自分に魔法の呪文を掛けた。
(俺が最後の希望だ。逃げちゃいけない。負けちゃいけない。守らなくちゃいけない。俺が最後の希望だ……俺が……俺が……)
呪文を繰り返し、使命感をバネにウィザードは立ち上がる。ルークは楽しげに指を鳴らして迫った。
ウィザードは左中指の赤い指輪を別の指輪にはめ変えた。
その時、上空から6羽の金色の隼がルークを襲った。隼たちの奇襲にルークは翻弄された。
「あの技……仁藤!」
ウィザードが空に向かい叫ぶとファルコマントを纏ったビーストが急降下してウィザードの元に着地した。先ほどの隼はビーストが放ったセイバーストライクによるものだった。
「コヨミちゃんから連絡あってな。急いで飛んできた。大丈夫か?」
「サンキュー」
ウィザードは親しい友人と接するかのような砕けた態度で、しかし最大限の感謝をこめた言葉を送った後に「ちょっとしんどかったからな」と照れ隠しの冗談を続けた。
「へっ……結構余裕じゃねーか」仁藤は小さく笑った。
「な~に気合を入れ直したってだけさ。ショーはこれからが本番」
気がつくと晴人はいつもの晴人に戻っていた。おちゃらける余裕があった。
「もしかして俺の助け、いらなかったか?」
ウィザードのおちゃらけ混じりの強がりにビーストは意地悪そうに聞いた。
やはりウィザードはそれもいつものようにおちゃらけて返す。
「確かに俺ひとりで全部やっつける方がカッコイイかもな」
「は? 俺ひとりでやっつけた方が絶対カッコイイつーの!」
素なのかわざとなのかビーストもノってきた。
「なにせ俺は金ピカだぜ、金ピカ!」訳のわからない理屈とポーズもついてきた。
「意味わかんねえよ」
ツッコミを入れるウィザード。ビーストが来るまでの緊張した空気はどこかに消えていた。
ウィザードはソードガンを構えて、自分とビーストから離れたところで体勢を立て直していたパズズに目をやる。パズズは逃げるように跳ねた。
「仁藤、ファントムの方、頼むわ。腹も膨れるだろ?」
「別にいいけどよ。大丈夫なのか? キマイラも言ってるぜ、あいつ相当ヤバイって」
ルークは全ての隼を握りつぶしていたところだった。拳を握り締める瞬間、隼の短く高い嫌な断末魔が上がった。
「あいつがヤバイのはたった今まで戦っていた俺が一番わかってるから安心してくれ。それにファンガイアの大将は、俺にお熱みたいでさ」
「………………女? 滅茶苦茶、ゴツい体だけど」
「いんや多分、男」
「災難だなあ、おい」
ビーストはわざとらしく残念そうに肩をすくめるウィザードをからかうようにダイスサーベルの柄で小突いた。
「あいつは強い。だから」ウィザードは右中指にはめている指輪をビーストに見せる。
「なるほどな。少しマジになるってことか」
「ファンガイアの大将、今の俺の魔法じゃお気に召さないようだからな」
「うしっ、じゃあファントムの方は任せろ!」
ビーストはマントを翻してパズズの跳んでいった方へ飛び立とうとする。
「晴人、死ぬなよ。お前を倒すのはライバルである俺の役目だからな」
「もちろんだ。俺もまだ死にたくないしな。何とかするさ」
短いやり取りの後、二人は小さく笑い合う。ビーストは大空に舞ってパズズを追った。
そしてウィザードはルークと対峙した。
「待っていてくれてありがとうな」
「構わん。最後の時くらい友人と会話させるくらいの慈悲をファンガイアは持ち合わせている」
「そいつはどうも」
「しかし魔法使いと聞いていた割には期待はずれだったな。所詮は残りカスであるファントムと同じか」
「安心してくれ。今までのは第一幕。ここからは第二幕だ。さっきよりもっとスゴイのを見せてやるよ」
ウィザードは右中指の指輪をハンドオーサーにかざした。
その指輪はフレイムスタイルと同じ赤い宝石の指輪だったがフレイムスタイルの指輪と比較して装飾のついたより豪華な指輪だった。
「ドラゴン! 俺に力を貸せ!」
晴人が叫ぶと詠唱が始まった。
フレイム! ドラゴン! プリーズ!
赤い魔法陣が展開され、激しく燃え上がる。炎は激しくうねると一匹の竜を作り出した。
紅蓮の竜はウィザードの周囲を回遊して炎の渦を描くとウィザードと一つになる。
ボー! ボー! ボーボーボー!
フレイムスタイルの時の詠唱よりも低く力強い詠唱が響き、一本の火柱ができあがる。
柱は天にも届かんばかりの勢いで燃え上がった。
並みの人間が吸ってしまえば肺まで焼けてしまいそうな凄まじい熱気がルークに届いた。
なんだ? なにが起きる?
火柱を凝視するルークは、指を鳴らしてその瞬間が来るのを楽しみにして待った。
やがて火の勢いが収束するとウィザードが立っていた。
かざした指輪と同じ頭部に加えて竜の頭部をかたどった胸の装飾、黒いオーバーコートは火のエレメントの加護をうけて真っ赤な色で染められていた。
それこそ晴人を絶望へと近づける危険な指輪であると同時に晴人の中に眠る希望であるファントム『ウィザードラゴン』の力の一部を使えるようになる指輪――フレイムドラゴンウィザードリングによって変身した姿だった。
ウィザード・フレイムドラゴン。
炎のように赤いコートをはためかせるウィザードの名前だ。
「さて御立会い。これから始まる種もなければ仕掛けもない正真正銘のマジックショーの第二幕。タイトルは……」
ウィザードは空間を繋げる魔法を発動すると魔法陣に右腕を入れて引き出した。
右腕にはダイヤル型タイマーを握った手を象った腕輪が巻かれていた。
「ドラゴンたちの乱舞」
乙ー
シビれた
やっぱ晴人は格好良い!乙
流石最後の希望
乙ー
あのタイトルはよかった
乙
そうだよ、ドラゴンスタイルってよりドラゴンの力を引き出す=より絶望に近づくんだったよ
本編だとドラゴンが段々デレていくから結局何ともなかったけど
終盤じゃかませになっちゃうこともあったけど
ガタキリバほどじゃないにしろかなりのチートだよなドラゴタイマー
ドラゴン自体が強いしコピーと違って分身体自体が独立してるから汎用性高いし
単純な能力だったらインフィニティーをも超える奥の手もあるし
……デュープ?サバトマン?物理学ってすごいよな
膝蹴り(物理学)だもんね
ウィザードはパンチしない
でもプロレス技は使う
香川教授といい笛木といいプロフェッサー凌馬といい、仮面ライダーの世界の科学者は強すぎじゃないだろうか
そりゃ初代の本郷の時点でレーサー兼科学者だったし。
最終回後の晴人ならその気になればインフィニティドラゴタイマーとか自力で生み出せるんだろうか。
>>508
希望と絶望は表裏一体なんやな
ドラゴンがそうであるように
ガタキリバやトリックベント、タイマーもヤバイけど一番の(敵にとって)絶望って
「「「「かかってこい!」」」」
;::::::;
-
アタックライド イリュージョン …。
てつを四人衆はさすがに敵が可哀想だと思いました(小並感)
オーズのポンディングエイトクラッシュはテンション上がった
ドラゴンタイム! スタート!
ウィザードが右腕にまいている魔竜ブレス『ドラゴタイマー』のタイマーを握った手の親指型スイッチ『サムズエンカウンター』を押すとショーの第二幕が開演する。
カチカチカチカチ……と音を鳴らしながら赤・青・緑・黄の四色に塗り分けられた羅盤の上を針が動く。
ウィザードはルークにソードガンで斬りかかった。
ルークは真正面からウィザードの攻撃を受け止める。黒い肌にはしる衝撃から先程戦った時よりも力強く、速く、そして強大な魔力を感じ取れた。
ウィザードの扱うソードガンはフレイムドラゴンの変身によって活性化した魔力の影響を受けて刃こぼれしているにも関わらず切れ味が増していた。
しかし、それでもルークはダメージらしいダメージを受けていなかった。
ウィザードは攻撃を重ねながら羅盤の上を回る針の位置を見る。針は赤のゾーンから青のゾーンに移動したところだった。
「新品を届けてもらうか」
言って、ウィザードは後ろに飛び退くとサムズエンカウンターを押した。
ウォータードラゴーン!
簡略化された詠唱と共に何もない空間に青い魔法陣が浮かんだ。そこから水飛沫が噴水の様に上がり、流麗な青いコートを着たウィザードが現れる。
ウォータースタイルの水のエレメントの力を極限にまで高めたウィザード・ウォータードラゴンだ。
「ほら、新品ひと振りお待ち」
青いウィザードは赤いウィザードに自分が手にしていたソードガンを複製するとその片方を渡した。
「増えた? 幻か」
「いや、違う」
ルークの疑問に赤いウィザードが即座に否定する。
「俺はこいつで」
「こいつは俺だ」
互いを自分そのものだと言う赤と青のウィザード。
これがドラゴタイマーの持つ能力だった。晴人の持つ魔力を使うことで晴人の意識、肉体を持った分身体いわばもう一人の自分をこの世に実体化させるという大魔法だ。
赤いウィザードはソードガンをコピーの魔法で数を増やして二刀流で構える。一方、青いウィザードはソードガンをガンモードに変形させて同じ様に複製して二丁拳銃のスタイルをとった。
青いウィザードがソードガンを連射する。数十発もの銀の弾丸が雨あられとなってルークに降りかかった。弾丸の雨は乾いた金属音を立ててルークの肌に弾かれると地面にいくつも散乱した。
赤いウィザードは青いウィザードの援護射撃を受けながらルークに接近すると二刀流を駆使して攻撃する。振るわれる銀色の剣が光を幾重に反射して輝いていた。
右・左・右・左・右・右・左・右・左・左・右・左。
テンポよく繰り出される息もつかせぬような連続攻撃。
ルークは重厚な黒い皮膚で全ての攻撃を受けきりながら赤いウィザードの眼前にゆっくりと腕を突き出した。
徐々に視界を埋めていくルークの黒く巨大な掌に赤いウィザードは恐怖に似た感情を起こした。命の危険を感じた。
ヤバイ!
そう思ったときにはもう遅かった。ルークの指が赤いウィザードの顔面を覆うように添えられた。
一瞬、嘲笑うように唸り声をあげるとルークは力を込めて赤いウィザードの顔面を握りつぶそうとする。
直後、赤いウィザードの肩が力いっぱい後ろに引かれた。ルークの手はむなしく宙を掴んだ。
赤いウィザードは後ろを見ると青いウィザードが魔法陣に両手を入れていた。そして、その手の先は赤いウィザードの両肩にあった。
青いウィザードはコネクトの魔法で赤いウィザードの肩に自分の両手を置いて赤いウィザードをすばやく後退させたのだ。
ルークは突き出した掌から衝撃波を放った。
赤いウィザードは両手のソードガンを交差させて防御の姿勢をとった。力の波の中でウィザードは踏ん張ったが吹っ飛ばされた。
衝撃で空高くに舞う二振りのソードガン。
受身を取りながら赤いウィザードは回り続ける針の位置を確認してサムズエンカウンターを押し込んだ。
ハリケーンドラゴーン!
大空に緑の魔法陣が浮かびあがると二人目の分身体――緑のコートを纏うウィザード・ハリケーンドラゴンの登場だ。
緑のウィザードは宙に舞うソードガン二つをハリケーンスタイル同様に逆手持ちでキャッチする。そのまま竜巻のように凄まじい回転。描く螺旋の気流音は竜の咆哮に聞こえた。
緑のウィザードは嵐そのものになってルークめがけて一直線に突っ込んでいく。
嵐に襲われたルークの全身が切り刻まれる。堅牢な要塞を思わせるルークの巨体ごと揺らし、吹き飛ばしそうな暴風とハリケーンスタイルを上回る高速の連続攻撃にルークは微かにうめき声を漏らした。
「もっと速く! 激しくなるぞ!」
緑のウィザードは左中指にとっておきの指輪をはめて魔法を発動する。
チョーイイネ! スペシャル!
ドラゴンの力を現実で扱う、この姿での真骨頂である『スペシャルウィザードリング』の効果によって緑のウィザードの背中に巨大な竜の翼『ドラゴウィング』が生えた。
翼を得た緑のウィザードは文字通り目に見えないスピードでルークの周囲を飛び回った。
瞬く間に巨大な竜巻が起こり、地面のアスファルトをひっペ返し、ルークを暴風と瓦礫の牢獄へと閉じ込めた。
チョーイイネ! ブリザード!
すると示し合わせていたのように同時に青いウィザードが凍結の魔法を発動させる。
かざした手から強烈な冷気と吹雪が発生するとブリザードは竜巻と混ざり合い、竜巻に雪化粧をした。
轟音と共に渦巻く新雪の白さで染まる美しい竜巻は破壊的であるはずなのに美しい。
音が次第に小さくなり白い竜巻が消えていく。竜巻のあった場所には巨大な氷柱が出来上がっていた。
竜巻の渦中にいたルークは魔法使いの造り上げた氷の柩の中に一切の隙間もなく収まっていた。
どんどん各種ドラゴンの見せ場を作っていかないといけないし、ルークの強さも維持しなきゃいけない……むずいね
乙です
乙!
これでもたいしたダメージじゃないんだろうな…
乙
先代ルークはキバの最強フォーム(初期)と互角の強さだったが
このルークはどうなんだろう
乙
単純に数の暴力ってだけじゃなくて
この一糸乱れぬ連携と魔翌力の許す限り使える魔法に制限が無いってところが
ドラゴタイマーの恐ろしいところなんだよな
つよい(確信)
だからこれを退けられるファントムを瞬殺できるオールドラゴンとインフィニティーが
本気で頭おかしい強さだってことになるんだけどね
ウィザードすげー…さすが3壁の一人だ
ウィザードは出来る事がかなり多いからな
>先代ルークはキバの最強フォーム(初期)と互角の強さだったが
四天王の一番手は最弱というのが相場なのにエンペラーで初めて互角ってよく考えなくてもすごいよねー
肩のウィークポイント知ってなきゃ、めぐみん絶対勝てなかった
大ちゃんが強かったのもあるけど、むしろキング級の潜在能力はあるくせに
エンペラー持ち出さなきゃ太刀打ちできない渡自身の問題も大きかったように思う
まあ、自分がハーフファンガイアだってことすら知らなかったし
何よりもそん時はまだそんなに覚悟決まってない時期だったからあんまり強くなくても仕方ないけど
体を硬化するファントム相手には一点に銃弾を打ち込むことでダメージを与えたりソードガンをビッグで巨大化させて攻撃してたな
>肩のウィークポイント知ってなきゃ、めぐみん絶対勝てなかった
あと事前に名護さんが適度にボコってたのもデカいように思える
口では色々言いつつ、恵の意思汲み取ってのお膳立てしてくれてるキバ後半の名護さんマジ最高です
リキッドがバイオライダー
あ
青いウィザードは緑のウィザード同様にスペシャルリングを発動させると腰から長い尻尾が生えてきた。
ウォータードラゴンの姿で発動できる力はウィザードラゴンの尻尾の部分に当たる『ドラゴテイル』だ。ドラゴンの体の中でも特にパワーに優れており、強靭でしなやかな尾のひと振りは常人が受ければ全身の骨が砕け散ってしまう破壊力を持っている。
青いウィザードは全身で竜の尾を振り、ルークを氷の柩ごと砕こうとした。
だが氷の柩は竜の尾が叩きつけられるより先に硝子の割れるような音を立てて砕け散った。柩を破壊したルークは迫り来る竜の尾に拳を叩き込んで攻撃の軌道を逸らす。
「うげっ!? マジか……これを破るのかよ。自信あったのにさ」
「まったく台無しだな。俺が凍る前に竜巻から抜けるタイミング、シビアなんだぞ」
青と緑のウィザードの二人はルークの怪力にげんなりとして愚痴をこぼす。
二人の魔法使いによるコラボレーションをこうもあっけなく無碍にされてしまえば当然だった。
「なに、変幻自在・攻め手は無限! ショーのネタはまだまだあるさ!」
赤いウィザードは二人を励ましながら三度エンカウンターを押し込んだ。
ランドドラゴーン!
地面に黄色の魔法陣が浮かぶと地面が盛り上がり、もぐらの通り道のように蛇行しながらルークに迫った。
地面が一段と大きく盛り上がり、爆発する。
撒き上がる土埃の中からは、黄色のコートを着たウィザード・ランドドラゴンがびっくり箱に仕掛けられた人形のように勢いよく飛び出してきた。
黄色のウィザードは既にドラゴンの力を解放して両手には竜の爪『ドラゴヘルネイル』を装着していた。
ファントムの強固な皮膚を安々と引き裂く竜の爪と堅牢で力強いルークの腕が激しく音を立ててぶつかり合り、火花を散らす。
「はっ!」
黄色いウィザードは両手の竜の爪を思い切り振り上げて下ろした。
途端、爪から強大な魔力が込められた衝撃波が放たれた。衝撃に呑まれて後ろに後ずさるルーク。真横から声が聞こえた。
「余所見はいけないな」
青いウィザードが二刀流で斬りかかる。
ルークは青いウィザードの腹に拳を叩きつけた。拳が深々と刺さり、青いウィザードを貫く。しかし青いウィザードは水のように弾けて飛び散るとまた再生した。
「!?」
「残念。本命はこっち」
次は頭上から声がした。見上げた先に翼を大きく広げた緑のウィザードが両手をスパークさせて、雷の魔法を放つ瞬間だった。
ルークは衝撃波で上空のウィザードを墜とそうとしたが、抜群のスピードを誇る緑のウィザードを捉えることは出来なかった。
「違う違う。本命は俺だって」
今度は正面からの声。急接近した黄色のウィザードが鋭い竜の爪を突き立てようとするが、ルークは爪を両手で受け止めると黄色のウィザードを投げ飛ばした。
その隙を突くようにして赤いウィザードが巨大化の魔法で何倍の大きさにもなった手で掌底を叩き込んだ。
四色の魔法使いは入れ替わり立ち代り、時には入り乱れてルークを攻め続ける。どのウィザードが攻撃の起点になっても見事な連携を魅せてルークを翻弄する。
その様子はまさしくショーのタイトル通り、ドラゴンたちの乱舞だった。
やがて青、緑、黄色の三人のウィザードはルークを囲むと一斉に捕縛の魔法を発動した。
バインド! プリーズ!
水、風、土の三つのエレメントの力を宿した魔力の鎖が伸びてルークに絡みつく。鎖は黒い体を締めながら鈍い音を立てる。
「あああああああああああああああああっ!」
ルークは怒号をあげると力で無理やり引き千切ろうするが、鎖は更に力を増してルークを縛り上げた。
「あんたのバカ力にはうんざりなんでね」
「この魔法には、いつもより魔力マシマシの更にマシでやらせてもらってる。正直かなりしんどいけどな」
「並みの奴ならとっくにバラバラだってのに流石だよ。でも簡単には抜け出せないだろ?」
「そして……これが大本命」
チョーイイネ! スペシャル!
赤いウィザードがドラゴンの力を具現化させると胸に竜の頭蓋『ドラゴスカル』が出現した。
「やれ、ドラゴン!」
その言葉と同時にドラゴンは雄叫びをあげると一瞬、息を吸うような静かな間を作り上げると口から紅蓮の炎を吐いた。
全てを焼き尽くす凄まじい龍の息吹がルークに吹き荒れる。辺り一体は火の海と化した。
「…………どう思う?」
「叫び声は聞こえないな」
「上げる間もなく燃え尽きた……か」
「だと、いんだけどね」
青いウィザードの問いかけに三人が答えた。
「プレーンシュガーでも賭ける?」
「「「食べれるのお前だけじゃん」」」
即座に三色からのツッコミが入り、提案者である赤いウィザードは小さく笑った。
「まっ、賭けなんて成立しないと思うけど」
「同感」
「全員同じ所に賭けたら意味ないからな」
「希望はあって欲しかったけど、そう都合良くはいかないか」
漫才をしていた四人は一斉に構える。
眼前には火の海しかなかった。しかし、四人はその中にある確かな存在に気づいていた。
揺れうごく赤い波。その波をかき分けるようにして衝撃の波が四人に押し寄せた。
黄色いウィザードが一歩前に出て、防御の魔法を発動した。四人の目の前に土の壁が一枚出てきた。
「三十枚お得セット!」
更にそれをコピーすると土の壁は土の壁を守るようにドンドン増えて、幾層の壁をもつ土の塊になった。
衝撃のが塊を呑み込んでいく。塊を形成する土の壁の層を次々と破壊していき、最後の一枚まで辿りついたところで勢いが失くなった。
崩れ落ちる壁の向こう――そこにはルークが全身から煙を上げながらも何事もなかったように立っていた。
「さっきの蹴りの時よりはマシになったな。ようやく火と言える熱さだったぞ」
何度も指を鳴らすルーク。瞳には嘲りと狂喜が宿り、ギラついていた。
ルークはこの戦いを楽しんでいた。
圧倒的な力を持つ自分に対して魔力がある「だけ」の人間――餌が必死に立ち向かってくる。滑稽に思えた。
それでも目の前の餌はけして引かない。姿を変え、数を増やし、あの手この手と様々な方法で自分に仕掛けてくる。
ルークは、そこに自分が餌の力を引き出してやっているのだという指導者的な優越感を覚えた。
それは絶対的な立ち位置、いわば神にも似た視点によるもので完全に自分が上で、相手が下という前提からのものだった。
餌である人間をただ支配するだけではなく、あえて導いていく。案外面白いかもしれない。
自分が作り出す未来を想像するとルークは笑い声をあげた。
乙
乙
これだけやって全然効いてないって硬すぎる…
バハムートも四ドラゴンを圧倒したがそれより遥かに強そう
乙です
「笑ってるよ。タフすぎだな」
「ボスはタフで、しんどくて、とんでもなく強い。よくある話さ、「アレ」が、そうだった」
言って、緑のウィザードは空に浮かぶ太陽に指差した。
「だったら、もうショーの大とりで決めるしかないだろ」
青、緑、黄色の三人のウィザードが赤いウィザードの方を見る。
「そうだな、もうフィナーレにしないとな」
赤いウィザードがサムズエンカウンターを押そうとする。
その時、遠くから鎖を鳴る音と一緒に誰かの足音が聞こえてきた。一同が音の方を向くとキバが立っていた。
「…………」
「ゲストの登場か」
「キバ! 遂に会えました!」
キバの姿を見たルークは興奮気味に叫んだ。言葉使いが、それまでの荒々しいものから一転して敬語になっていた。
ルークは王に謁見する臣下がそうする様に、その場で膝をついて身を低くした。
あまりの態度の急変ぶりに四人のウィザードは困惑した。
ルークは顔を上げて、一切の言葉も発せずキバをじっと見つめた。
今まで話の中でしか聞いたことのない存在だった。キバと相対したファンガイアは例外なく葬り去られているからだ。
「素晴らしい……」
熱い視線を送りながらルークはただ一言そう漏らした。
キバはファンガイアにとって伝説の存在だった。その伝説が今目の前にいる。かつてない興奮と情熱がルークの胸を高鳴らせていた。
「全ての生物の頂点であるファンガイアの中でも選びに選ばれた最強の存在だけが身に纏うことを許される王の鎧。高貴であり、威厳に満ち、歴史を持ち、王たちの誇り高き魂を宿し、世界を滅ぼす力を有する。その姿は……ああっ……なんて美しくも恐ろしい……」
まるで恋人に想いの丈を告白するかのようにルークは言葉を紡いだ。
乙ー
そしてコーカサスルークがキバに対し、こんなリアクションするとは予想外すぎて一瞬頭がフリーズしてしまった
続きが待ち遠しい
乙です
フェニックス帰ってこないかな
MOVIE大戦のボスくらいは平気で務まるよな、きっと
戦闘力だけならば
キバってキングの鎧の中ではつい最近作られたばかりで歴史は浅いんじゃないか?
最近つっても、出来立ての闇の鎧を纏ったキングがレジェンドルガを殲滅した後に作られたのが黄金の鎧だから
恐らく千年以上も昔の話だろう
フェニックスは今でも死に続けてんのかな…
大ショッカーが拾ってきでもしたら手がつけられなさそうだ
リスポーン地点に即死トラップあるようなもんだから復活!→パワーアップ!する前に死んでいる気もする(確か翼が生えたのも直ぐじゃなかったはず…)
だからこその「永遠に死と再生を繰り返せ」なんだろうし
再生しきるとパワーアップするらしいからね
フェニックスさん戻ってきたら
1,太陽の高温に耐えられる耐久力
2.太陽の引力から戻ってこれるパワー
が確定して勝てないと思うんですけど
付け加えるなら、無限回死に続けても自我を保っていられるメンタルも備えるな
「しかし、だからこそ許せません」
途端、最前までの熱を帯びていたルークの声が冷たいものに変わった。
「混ざり物の出来損ないのファンガイアが、キバの鎧を扱うということが!」
「混ざり物?」
「そうだ! そこの混ざり物は二七年前にかつてのファンガイアの王を殺した男と厳粛なるファンガイアの掟を破った女王の間に出来た子供なのだ!」
再び語気を荒げて、キバを出来損ないと詰るルークの言葉にウィザードは驚きキバを見る。
キバは無言を貫いた。その無言はルークの言葉を事実だと証明していた。
「そして、そこの混ざり物は今日までキバの力を使って多くの同胞を手にかけてきた!」
「一族の裏切り者、ってことか」
ウィザードは以前ファンガイアがキバに向けて放った言葉を思い出す。次いでキバの「僕は人間だ」という言葉が出てきた。
混血であるキバが、自分は人間だと主張する。そしてファンガイアから裏切り者と罵られる。
もしかしたらキバは自分がファントムからゲートを守るのと同じで、ファンガイアから人を守るために戦っているのだろうか?
ウィザードはキバを一瞥するがキバは何も喋らない。
「キバは王が身に付けるべき神聖な鎧。それを! それをおおおおおおおっ!」
ルークは血を吐くような叫びをあげて、キバの装着者にあらん限りの怒りと憎悪を向けた。
民を守るべき王の力が同胞を殺すために使われている。
その対象が稀にいる他種族と恋に落ちて誇りを失ったファンガイアになら納得できた。
だが、目の前のキバはそういったファンガイアへの粛清には使われなかった。
生物の頂点に君臨するファンガイアが人間を餌とする。いわばファンガイアがファンガイアとしてあろうとするファンガイアを殺すために使われた。
ルーク――コーカサスビートルファンガイアには耐えられなかった。
キバはこれ以上になく汚されたのだ。
それが純血のファンガイアではなく人間とファンガイアの間の子供という混ざり物の手によるものと思えば余計にだ。
「キバを継ぐ者よ。そこの魔法使い共々ここで死んでもらうぞ」
ルークの指が鳴り、殺意がドッと溢れ出た。
「この地に眠る同胞の魂よ。ここに集え!」
ルークが吠えると地震が起きたかのように地面が激しく揺れだした。
地面からは光り輝く珠が無数に現れる。それは、かつてこの地で死んだファンガイアの魂だった。
魂は空の一点を目指して集まるとみるみる膨れ上がっていく。
ウィザードは見たことのない魔法に目を凝らした。
やがて空に輝く魂は人の数十倍の大きさになると異形へと姿を変えた。
「シャンデリアの化物……」
空に浮かぶ異形を見上げたウィザードは小さく漏らす。
それは『サバト』というファンガイアの魂の集合体だった。
シャンデリアのような外観と複数の腕とレリーフ状に刻まれた無数の顔。そして、ファンガイアであったことを象徴するかのように美しいステンドグラスの模様があった。
サバトはおどろおどろしい呻き声を上げるとウィザードとキバに向かって光弾をいくつも放つ。四人のウィザードとキバはそれぞれ迫り来る光弾を避けた。
光弾が辺り一体で爆発し、火柱を作りあげる。まるでミサイルだ。
「キバ、あんたは今までファンガイアと戦ってきたんだろ。何かあのシャンデリアの化物に対抗する手段はないのか?」
「…………」キバは答えるようにフエッスルのひとつを取り出した。
「なるほどな。ちゃんと「それ」用があるわけだ」
キバはフエッスルをキバットの口にくわえさせた。
「キャッスルドラン!」
キバットが笛を鳴らすと空から城と竜が合わさったモンスター『キャッスルドラン』が飛んできた。キバは飛び上がってキャッスルドランに乗ると命令を下した。
主の命を受けたキャッスルドランはサバトに体当たりして鋭い牙で喰らいた。
サバトはキャッスルドランを引き剥がすためにキャッスルドランを殴りつける。
2体の巨大生物が激しくぶつかる様子は怪獣映画のような圧倒的な迫力があった。
「すげー……」
「俺たち、置いてけぼり?」
「いやいや、ゲストに全部もっていかれるのはマズイだろ」
「言えてるな……いくぞ!」
赤いウィザードはサムズエンカウンターを押した。
ファイナルタイム! ドラゴンフォーメーション!
ショーの大詰めを知らせる音声がドラゴタイマーからすると赤いウィザードはタイマーをウィザードライバーにかざした。
オールドラゴン! プリーズ!
詠唱が完了すると赤、青、緑、黄色のウィザードが各色の竜となって踊り狂う。
火は燃え上がり、水は弾け飛び、風は吹き荒れ、大地は鳴る。
四竜の舞いは天変地異を起こした。
やがて赤い竜がドラゴスカルを発動したウィザードの姿に戻ると残りの3匹はウィザードと体を重ねた。
「全ての魔力を一つに!」
ウィザードにドラゴテイル、ドラゴウィング、ドラゴヘルネイルが発動していく。
ドラゴタイマーの本当の力は4つのエレメントに分離されたドラゴンの力を一つにまとめあげる所にあった。つまり、それは晴人の中に眠るウィザードラゴンを現実世界で召喚することと同じだった。
ウィザードはドラゴンの力を現実世界で完全に発現し、全てのエレメントを内包する最強の竜人――ウィザード・オールドラゴンとなった。
オルドラをルークにぶつけてしまうとケリがついてしまうので、こーさせて頂いた
乙
本当なら関係ないはずなのに『サバト』と聞くとあの男が真っ先に思い浮かんでしまうな
ひどいよねエクスプロージョンとかいうチート魔法
三連発でスーパーアーマー付きのインフィニティーも吹き飛ぶという
乙
ついにキャッスルドランかー… 自然にドランのテーマ曲が聞こえてきた
果たして本編で1回しか出ていないシューちゃんもでるんだろうか…
乙
オルドラ>ルークは確定してるのか
まぁそりゃそうだよな
オルドラは無敗だからな、ガタキリバみたいなもんだ
攻撃力に限れば設定上も描写もインフィニティーを超えているもう1つの最強フォームだから本当に強いよ
欠点としてドラゴタイマーで4つのドラゴンスタイル揃えてようやく変身できるという手間と消費魔力の大きさ、
CG必須による予算の問題でTVで3回、劇場版だと亜種のみでロクに出番がなかったライダー屈指のレアなフォームだけどな
しかしこのルークの言動見て思ったが、渡がキバの鎧で変身して出てきてこの反応なら、
太牙兄さんがダークキバに変身してこいつの前に出たらどんなリアクションをするのやら…
乙です
>>555
現キングにして、人間との共存路線に舵とった張本人だもんな
「目を覚ましてください!」的に(力尽く含めての)説得にはいるのか
前ビショップみたいに排除に移るのかが気になる
……そういえば、新しいクイーンとビショップはすでにいるのかな?
>>557
その共存路線も最終的には渡が橋渡しした結果だからなぁ
決して一人の力じゃないけれど、この手の捕食者と被捕食者の関係にある二種族の共存を
現実に形になろうとしているところまでこぎつけて見せた渡は本当に偉い
尤も、ルークのようなファンガイアから狙われ続けることは避けられなくなったということでもあるけど
そういえばキバって、レジェンドルガだのサバトだのって明確にデカい連中がいるのもあって対巨大敵用の戦闘手段多いよなぁ…
キャッスルドラン以外にもシュードランいるし、名護さんにはパワードイクサーがあるし…
そういう敵が全然出なかったクウガやアギトは除くとして、この手の敵には他のライダーはどういう戦い方してたっけ?
バチで殴る
フロートで飛びかかる
電車搭載の武器で攻撃する
デンライナーでボコる
カメンライドする
コンボに変身
ドラゴラーイズ!
契約モンスターけしかける
ハードタービュラーで兵器乗っ取って特攻させる
ガタキリバやジャリバーでセイヤー
FFRでJを巨大ディケイドに
最強フォームでタイマン
ドラゴライズで思った
キバのジャイアントムーンブレイク(映画のアークを月まで飛ばした飛翔態+ドランキャッスルのキック)とストライクエンドって似てるな
もっともこれでダブルライダーキックは無理だろうけど…
クウガ…アルティメットのプラズマ発火か物理
アギト勢…スライダーモードからのケルベロスやギガント
龍騎勢…契約モンスターでポケモンバトル
555勢…バッシャーやスライガー。またはブラスターフォーム
剣勢…14撃破の実績があるRSF
響鬼勢…デカ物退治は日常茶飯事。相手が魔族なら寧ろ音撃翌有効の可能性だってある
カブト勢…天道なら大丈夫。他はクロックアップでヒットアンダウェイ
電王勢…デンライナー他
ディケイド…仮面ライドして有効策持ってるライダーに
W勢…リボルギャリーのマシンやガンナー
オーズ勢…GKB48からのオールコンボ。バースデイ
フォーゼ勢…タイザー他遠距離スイッチ
ガイム勢…スイカ
キバとウィザード以外だとこんな感じかな
>>566
GKB48吹いたwww
タイザーじゃなくてダイザーじゃね?
>>552
苦戦描写あるフォームならともかく、そういうのが一切描写のないマジで強いフォームが苦戦するのは公式がやるならともかく二次創作ではね…なんつーか汚したくないしね
ルークの強さはもう十分伝わっただろうし
ぶっちゃけフェニックス以上のファントムじゃなきゃまともに戦えないだろうしね
でも、そんな力を晴人さんに与えたのも全部サバトマンだからなぁ
あいつめっちゃ事もなげに対処しそうで怖い
インフィニティースタイルで互角でインフィニティードラゴン、インフィニティードラゴンゴールドまであるからな
オルドラで倒せなかったのって魔宝石世界のアマダム…だけ? こいつをカウントしていいのかわからんが(お祭り回だし…苦戦したってわけでもないし…)
>>570
サバトの後に仁籐、ソラと戦闘して魔翌力を消耗してかつ、ハーメルケインもなしの状態で
インフィニティーでどうにか変身解除までは持っていけたってだけだぞ
あいつにとってインフィニティーはあくまでも「想定外の面倒な存在」ってだけだ
実際、魔翌力吸収すれば普通に勝てるし
>>569
実際に劇中で「お前の魔法は全て私が与えた物。 お前に勝てる道理はない」的な事言いきってるもんね
発言を信じるなら、笛木はオルドラまでは完封できるんだろう
インフィニティは唯一晴人が自力で生み出した魔法で、対処法が無いに等しいから唯一立ち向かえるって構図は好き
あくまで立ち向かえるってだけで勝てる保証がある訳じゃ無いってのが、笛木の強敵感出しまくってると思う
ごめん >571は自分の勘違いだ お祭り回でオルドラはあれかザコ殲滅だった
「ドラゴンたちの乱舞。一緒に踊ろうぜ、キバのドラゴンさん!」
ウィザードは翼を羽ばたかせてサバトに一気に接近すると竜の爪でレリーフ状の顔の一つを引き裂く。怒っている顔だった。
サバトは巨大な腕の一本を使ってウィザードを叩き落とすため猛烈な勢いで振るった。
しかし、ウィザードは圧倒的な体格差など物ともせずにドラゴテイルを横殴りに振って、腕ごと弾き飛ばす。
その弾かれた腕をキャッスルドランは合わせるようにして大口を開けて噛みつくと強力な顎力で噛みちぎった。ちぎれた腕が力なく地上へと落下していく。
「やるぅ!」キャッスルドランの連携を褒めるウィザード。
激しく苦しむサバトは滅茶苦茶に光弾を乱射する。自分の体ほどある巨大な光弾をウィザードは超高速で避けた。捌ききれない光弾は爪や尾を巧みに扱って弾き飛ばす。
更に大量の光弾がウィザードの一点を目指して接近してきた。
「はあっ!」
ウィザードは気合と共に胸を突き出してドラゴスカルからブレス攻撃を放つと光弾を焼滅させた。
一方、キャッスルドランはその巨大さ故に光弾の直撃を受けていた。城状の胴体のあちこちで火の手が上がり、痛みに叫ぶキャッスルドラン。
サバトは複数の腕を組んで大上段に振りかぶると上からハンマーで叩くようにしてキャッスルドランに巨大な拳の塊を叩き込んだ。
キャッスルドランは、隕石が落ちたかのような爆音と一緒に地上に墜落した。
サバトのレリーフに彫られた白い笑顔から不気味な笑い声がする。大量のファンガイアのエネルギーの集合体だけあってサバトの力は強大だ。
キャッスルドランは目を光らせて力の限り吼えた。
「カモーン! シューちゃん!」
キバットがキャッスルドランの意思を代弁するとバラバラ……とプロペラの回る音を立てながらキャッスルドランよりも小さな建物と竜の複合モンスター『シュードラン』がやってくる。
人間で言えば八歳の子供にあたるシュードランは大人のキャッスルドラン(人間で言えば三二歳)のようにキバットの鳴らすフエッスルの音波を感知できない。故にシュードランの召喚には同じドラン族であるキャッスルドランの呼びかけが必要なのだ。
シュードランはキャッスルドランの胴体に自分の胴体を連結させた。
すると一回り大きくなったキャッスルドランの目つきが鋭いものに変わり、翼が巨大化した。
キャッスルドランは荒ぶる魂のまま咆吼する。シュードランと合体したことで竜族の血が共鳴し、普段は眠っている獰猛な性格と力が覚醒――ウェイクアップ――したのだ。
再びサバトが光弾を発射してきた。光弾は激しい光の雨となってキャッスルドランに降りかかる。
キャッスルドランは翼をただ一度だけ羽ばたかせた。それだけしかしなかった。
光の雨は全て吹き飛ばされて逆にサバトに降りかかった。
竜族最強グレートワイバーンの力が解放されたキャッスルドランにとって今やサバトは強敵ではなく、ただの脆弱な獲物でしかない。
サバトは捕食者であるキャッスルドランに抵抗しようと腕を振り上げた。
次の瞬間、サバトの腕を何かが猛烈な勢いで貫き、粉々に破壊した。
それは竜の爪を突き出し、全身を竜巻のように錐揉みさせながら突撃するウィザードだった。
ウィザードはサバトの周囲を縦横無尽に飛び回り、巨大な腕を次々と破壊していく。
ボロボロになったサバトのレリーフの泣いている顔から、悲愴感で満ちた大きな泣き声が響いた。
獰猛さをむき出しにするキャッスルドランは泣き顔のレリーフを容赦なく噛みついてサバトを黙らせた。
バリバリと音を立ててサバトの一部を食らうキャッスルドランを見て、ウィザードは「わお……」とだけ漏らした。
キャッスルドランはサバトを顎でがっちりホールドすると首を大きくしならせてサバトを空高くに放り投げる。
やれ! と言わんばかりにキャッスルドランはウィザードに吼えた。
ウィザードはそれを直感的に理解した。
「フィナーレだ!」
ウィザードの頭部を象った巨大な魔法陣を中心に赤・青・緑・黄の四色の魔法陣が展開される。四色の魔法陣からは火・水・風・土の各エレメントの力を宿した竜が飛び出した。
ウィザードは四竜と巨大な魔法陣と共に跳び蹴りの姿勢で突っ込んだ。
それを後押しするようにキャッスルドランが口から魔皇力の塊『ドランポッド』をウィザードに向かって吐き出す。
ウィザードの全身に膨大な魔力が湧き上がり、巨大な魔法陣が何倍にもなった。
四竜はそれぞれサバトに体当たりして魔法陣となってサバトを拘束する。
「はあああああああああああっ!」
そこに魔皇力を背に受けたウィザードが巨大な魔法陣を蹴りで叩きこむ。
ウィザード・オールドラゴンの必殺キック『ストライクドラゴン』だ。
上空のサバトは更に空高く吹き飛び、やがて虚空の彼方へ消え去ると爆裂霧散した。
没案(タイマー時間切れでオルドラ無しとかキバ無しとかでサバトに単体で挑ませよーかな、と考えていた頃に考えていた)
「あるもので頑張るかな」
ウィザードはハンドオーサーに巨大化の魔法が込められた指輪をかざす。
ビッグ! プリーズ!
現れた魔法陣にソードガンの銃身を入れると銃身部分が巨大化して大砲のような大きさになる。続けて、拘束の魔法が込められた指輪をかざす。
バインド! プリーズ!
魔法が詠み込まれるとウィザードの周りに魔法陣が展開され、そこから鎖が飛び出た。
本来は相手を拘束する魔法だがウィザードは鎖を自分に巻きつけた。
「仕込みは完璧。後はフィナーレを飾るだけ」
ウィザードはソードガンのハンドオーサーを開いた。
キャモナシューティング! シェイクハンズ!
キャモナシューティング! シェイクハンズ!
繰り返される詠唱にウィザードは右の指輪をかざして、詠唱の続きを唱えさせた。
フレイム! ドラゴン!
シューティングストライク! ボーボーボー! ボーボーボー!
詠唱が完了すると魔法陣を介して巨大化したソードガンの銃身の先で激しい炎が上がった。
ウィザードは普段の片手持ちとは違いソードガンを両手でしっかり保持した。そのまま上空で暴れるサバトをジッと見据えて、狙いをつける。
「フィナーレだ!」
お決まりの台詞を合図にトリガーを引く。巨大化した銃口からは極大の火球が発射された。
「ぐぅあ……っ!」
巨大化させた影響なのか、銃撃の瞬間あまりの反動にウィザードの全身が大きく後退し、自身を拘束もとい姿勢制御のために巻きつけた鎖が何本も引きちぎれた。
発射された火球がサバトに炸裂すると天を焼くほどの火柱が出来上がった。
サバトは火柱の中で激しく悶えながら塵になって消えた。
乙
乙です
乙です。やはりフィナーレはウィザードが決めたか…
そして今月のHJのSICライダーストーリー…鴻上会長、あんた瞬平に何してんのォォォォ!?
太陽まで吹き飛ばすからな
>>579
希望なんて言葉で体裁を装っちゃいけない!
希望は欲望!そして欲望には素直になるべきだ!
そして君は魔法使いになるという欲望を捨てちゃいけない
会長は相変わらずだよね
渡した魔法石も、オーメダルと同じで七色だし……これは色々と妄想が広がる
会長にとっちゃあ、それがどっち向きのベクトル持ってても「欲望」で一括りだからなぁw
40年位後にオーメダルを創る実績があるから、魔法石創っても何の違和感も無いやwww
先代オーズが色々とアレだから、その末裔だからと言われたら納得できなくもない
いや、普通はそういうもんじゃないとは分かっちゃいるんだけどね……
そういえばそのSICのストーリーで、「世界3大何やってるかわからない企業」に
スマートブレインと鴻上ファウンデーションが挙がってたけど、あと一社はどこだ?
ミュージアムか? それとも財団X?
ミュージアムも財団Xも裏の組織ですし…
BoardやZECTも会社というより組織だし…
平成ライダーでぱっと思いつく会社は
太牙にーさんの会社とユグドラシル
だけどにーさんに会社は一応投資会社だし、ユグドラシルは一応医療なんだっけ?
にしてもsicウィザードのアレンジいいな
ユグドラシルはバイオハザード起こせる
ミュージアムのフロント企業であるディガル・コーポとかは?
あれこそ作中じゃ「表向き」何やってる企業かわからなかった気がするんだけど・・・
あ、ガイアメモリ密造・密売は「パンピーに分かるような表沙汰にしてない」のでノーカンで。
風都の住人なら一般人でも割と知ってそうだけど、その外では風都ほどメモリ流通してないようだし。
表向きはIT企業って作中では触れなかったっけ
地上に降り立ったウィザードは辺りを見回す。既にルークの姿はいなかった。
「ふぃ~~~~」
いつもより長いため息が出た。正直ホッとした。パズズ、そしてルークとの激戦、加えて今のサバトとの戦いでウィザードの魔力はかつかつだ。とてもじゃないが、今日はもうショーは公演する余裕はなかった。
ショーを終えたウィザードは変身を解いて上空のキャッスルドランを見上げた。
キャッスルドランはシュードランと分離すると二匹でサバトを形作っていた無数のファンガイアの魂を食っていた。
倒した敵を食う。ビーストの姿が頭に思い浮かぶ。
ビーストにしろ、あの二匹のドラゴンにしろ、ああいった所謂エネルギーの類はどんな味がするのだろうか。
甘いのか。辛いのか。それとも酸っぱかったり、しょっぱかったりするのか。実は不味かったりするのだろうか。
体を休めれば魔力が回復する晴人にとっては縁のない話だが興味はある。
今度、仁藤に聞いてみるか……そんなことを考えていると二匹は食事を終えて、飛び去っていった。
「あんなドラゴンを飼っているなんてな。キバ、あんたのことを知れて俺は嬉しいよ」
小さくなっていく二匹の影を見つめながら晴人はコネクトの魔法を発動させる。
魔法陣から、はんぐり~の袋が出てきた。中身は当然、晴人の大好物だ。
「仕事終わりにプレーンシュガー。チョーイイネ! サイコー!」
これに勝る贅沢があるなら是非聞いてみたいものだ。
「ドーナツの柔らかい生地と、それを飾る新雪のように美しい粉砂糖の上品な甘さが生みだす味は正に完全調和。やっぱりドーナツの王様はプレーンシュガーだな」
評論家のような偉ぶった口調でドーナツを褒めた瞬間、晴人の体に激痛が走った。突然のことにおもわず倒れこむようにして膝をつく。
魔力が切れかけているからか、と即座に自分の体の異変に答えを出すが、それでは全身が割れるような猛烈な痛みは説明できなかった。
痛みにうずくまる晴人の耳にヒビが入るような音が聞こえた。すぐ近く、腕の方からだった。
自分の手を見る。晴人の手はひび割れていた。音を立てながらヒビは広がっていく。袖をまくるとヒビは上腕の方にまで広がっていた。
晴人は自分のしているドラゴンの指輪を見ると答えが出た。
ドラゴンの指輪は、ドラゴンの力の一部を引き出す代償に自身を絶望に近づけてしまう。
自分の中にファントムがいる以上、絶望に近づけば、その負のエネルギーを糧にファントムが活性化して暴れだしてしまう。
力の一部だけならともかく、晴人はドラゴンの力を完全に開放したウィザード・オールドラゴンを使った。その影響は計り知れないものだ。
やがて晴人に絶望のビジョンが浮かんだ。晴人にとってけして忘れられない両親との死別の時のものだった。
命の火が消えていく両親に、魔法のような奇跡にすがって必死に叫んでいる幼い自分がいる。奇跡は起きなかった。
絶望の時を見せられて晴人は――笑った。そういえば初めてドラゴンの指輪を使った時もこんな感じだった。
悪趣味だぜ、ドラゴン。何度でも言うけど、これは俺にとって絶望の時じゃない。父さんと母さんから希望を託された瞬間なんだ。だから俺は絶望には屈しないぜ。
すると晴人の体にはしっていたヒビが晴人の想いに呼応するように塞がっていく。晴人の体が温かい光に包まれる。希望の光だ。
光が消えると晴人の体はすっかり元のままになっていた。先ほどの痛みも嘘のように無くなっていた。
「晴人くん!」
向こうから凛子が駆けてくる。
「一足遅かったね、凛子ちゃん。今日のショーはもう終わちゃったよ。すごく派手なショーだったのに残念だ」
「馬鹿なこと言わないで……大丈夫?」
「魔力を大分つかったからね。それ以外は平気さ」
心配そうに顔を覗き込む凛子に晴人は笑顔で言った。
「立てそう?」
手を差し伸べる凛子。晴人は凛子の手を掴むと凛子に引っ張られる形で立ち上がった。
しかし魔力が少ない晴人は体に力が入らず、よろよろとふらつかせた。
「ちょっと本当に大丈夫なの?」
凛子は慌てて晴人の体を支えた。
「少し眠れば魔力も回復するんだけど」
「外なんかで寝たら風邪ひくわよ」
「なに平気さ。凛子ちゃんが俺を抱きしめてくれれば」
「良かったわね。留置所にならベッドと毛布があるわ。風邪をひかずに済みそうね」
凛子は笑顔で手錠をちらつかせた。
「ジョークだよ、ジョーク。許して」
「全くほんと調子いいわね。近くに車を停めてあるから送ってくわ」
凛子はため息をつくと晴人に肩を貸しながら引きずるように歩き始めた。
「凛子ちゃん、けっこう力あるんだね」
「いちおう警察だしね。普通の女の人よりは、まあ……あるわよ」
「それは頼もしい」
肩を寄せ合い、ゆっくりと歩きながら二人はそんな会話をした。
「もう乗り越えてるはずなんだよ。頭でもちゃんと分かってる」
ふと、晴人が立ち止まって言った。
「え?」
「でもさ」
凛子の言葉を待たずに晴人は続ける。
「親の死に目を見せられるのは、やっぱりきっついなあ……」
いつものおちゃらけた晴人の声は震えていた。
凛子は肩に掛けていた晴人の手をただ力強く握り締めた。
無理してヒーローさせるか、弱さ見せるか
正直迷った
それでも晴人はかっこいいというね
乙
晴人さん素は普通の兄ちゃんなのに悩んで苦しんで頑張って「絶対折れないマン」やろうとしてる姿はかっこいいよね
こうやって葛藤を本編で積み重ねてきたからこそ、劇場版で色々と吹っ切れた後の晴人さん滅茶苦茶頼れるんすよ……
負けるはずがない(確信)
そういえば話は変わるけど放送当時の日曜はメンタル強い主人公が揃ってたよね
乙です
乙
マミさんみたいだな
>>597
しかし、晴人が「負けるはずないんだよ!」と発言したシーンは
「ああ、そりゃ負けるわけねえわ」と有無を言わせず納得せざるを得ない凄まじい説得力があったのが
マミさんと違うところ
つまり、何が言いたいかというとコヨミちゃんマジヒロイン
ウィザード絡みで一つネタが思い浮かんだ
でも、たまにやるネタみたいに1,2レスの投下で終わりそうにない
別でやった方がいい? それともここで?
ここでいいと思う
酉の前に作品名入れて、区別できるようにしてくれればここで問題ないかと
いいと思う
是非みたいです
ここでやればいい感じか、んじゃ先ずは本編を
「逃がさねえぜ、ファントム」
ウィザードからパズズを任されたビーストは大空を飛びながらジッと眼下の獲物を見据えていた。
パズズは人間離れした跳躍力で次々と建物の上を乗り移りながら奏美の逃げていった方へ向かっていた。
パズズの遥か上方で飛ぶビーストは完全にパズズの視界の外にいる。ビーストの存在には気づいていない。
ビーストは右の指輪をドライバーのソケットにはめ込むと、続けて左のファルコの指輪をはめ込んだ。
キックストライク! ゴー! ファルコ! ミックス!
隼の魔法を混ぜ合わせた必殺の魔法を発動させたビーストの両足は、鳥の下肢のような鋭いカギ爪状のものに変化した。
「キィイイイイイイイイイイイイイイッ!」
ビーストは叫びながら獲物に目掛けて急降下した。
隼は狩りをする際に時速400キロにも迫る猛スピードで急降下して獲物を蹴り墜とすという。
空を切り裂く猛禽類の両足がパズズを捉えるのは直ぐだった。
パズズは地面に叩きつけらるように蹴落とされた。
「……な……んだ。何が……起きた……」
苦しそうに地面に這いつくばりながら辺りを見回すパズズ。
何が起きたかも分からない。突然すぎる衝撃が自分の背中を襲ったのだ。
パズズは朦朧とする意識を必死に現実に繋ぎ留めようとした。
「かなり効いただろ」
頭上から声が聞こえてきた。
パズズが顔を上げると太陽から赤い羽根が一枚また一枚、ひらりはらりと花びらのように舞い落ちてくる。
その無数の羽根吹雪の中には太陽の光を受けて輝く橙色のマントをしたビーストがいた。
「……そうか、お前が古の魔法使いか」
パズズはようやく自分がビーストの強襲を受けたのだと理解できた。
「このまま仕留めさせてもらうぜ」
ビーストはサーベルを取り出すと一歩一歩近づく。
地べたに這いつくばるパズズと両足でしっかり立つビースト。
既に勝負は決まっているようなものだった。
しかしビーストの歩みはゆっくり過ぎる程にゆっくりで、狩りをする獣が獲物に近づくのに似ていた。緊張感で空気が張り詰める。
ビーストがパズズの目の前にたどり着くとサーベルをパズズの手に深々と突き刺した。
「あああああああああああっ!」
パズズの絶叫が響いた。
「…………」
ビーストは無言でサーベルの柄を両手で押し込んで刀身を更に深く沈ませる。
パズズはサーベルによって地面に磔にされ、逃げることが出来なくなった。
「ボロボロの獲物にこんなことやるのは気が引けるが恨むなよ。俺は命が懸かってるから、どんなことやってでも獲物は確実に殺さなきゃいけねえんだ」
いつもの仲間達が聞いたらきっと別人と疑うだろう。
ビーストの声は、普段のビースト――喜怒哀楽の激しい仁藤からは想像できない感情に抑揚のない声だった。
それは生きるか死ぬかという善悪を超越した境遇でファントムを食ってきたビーストの捕食者としての声だった。
んじゃ別のやつ方、おとすね
ライオンと魔花
仁藤攻介はベンチに横たわりながらどこまでも広がる青空を仰ぎ見ていた。
ブルースカイの世界の中に混ざる無数の白い雲。
白くて、柔らかそうで、むかし祖母に連れて行ってもらった縁日に出る屋台の綿飴を思い出した。
グゥ~~ッ!
食べ物を連想すると腹が鳴った。
「腹減ったぁ……」
仁藤は届くはずがない、そもそも雲は食べれない、と理解しているにも関わらず無意識のうちに雲に向かって手を伸ばしていた。
当然、それは無駄に終わる。余計の力を使ってしまった。だらりと腕が垂れる。
ここの所ろくに食事を取れていない。
最後に食べたのは、昨日のお昼に食べた非常用の干し肉だ。塩胡椒が効いていて上手いなのだが、それも食べきってしまった。
今日も、もう夕方になろうとする時間だがまだ何も食事にありつけていない。精々、公園で水を飲んだくらいだ。
「うぇっ……」
あまりの空腹に胃の辺りでキリキリと痛みがして、吐き気に襲われた。中に何にもないのがハッキリと分かる。
「何か食わねえと……こんな所で死ぬなんて冗談じゃねえ……」
体に力を入れて立ち上がろうとすると、
グゥ~~~~~~~~ッ!!!!
先程より大きな音を立てながら腹が鳴った。一気に脱力してしまう。
「あぁ……腹、減りすぎて体がろくに動きやがらねえ」
仁藤は眼球だけをギョロギョロと動かして辺りを見る。時間が時間なのか、家に帰ろうと住宅街の方へ向かう人がいくらか視界に入った。
「誰かぁあっ……食物ぉおおおっ……バク……シーシィぃぃっ……」
ゾンビかモンスターのような不気味なうめき声を上げながら施しを求めるが、周囲は仁藤を気味悪がり避けていく。
飢えで働かない頭に、大学の社会学だか何かの講義での「都市部では人同士の関係性が希薄になりやすい」という講師の言葉がよぎった。
自分を遠巻きから見つめていても何かをするわけでもない人々。なるほど、確かに講義で習った通りかもしれない。
「ちくしょう……見世物じゃねえぞ……」
耐え難いほどの空腹に苛立ちながら奇異の目を向ける人たちにそう吐き捨てると仁藤は仰向けになって、また青空と対面した。
ギュッと目を閉じる。寝てしまおう。寝ている間だけは空腹を忘れることが出来るはずだ。
「あの……お困りのようですけど、どうかされたんですか?」
すると頭上から女性の声が聞こえた。
髪の短い女。その時はそれしか思わなかった。
女は仁藤の顔を覗き込むようにして続ける。
「もしかしてどこか痛いんですか? 顔色も悪いですし」
「……飯」
仁藤は喉の奥から掠れた声を搾り出した。
「え?」
「飯くれ、腹が減って死にそうなんだ」
「えと……食べ物が欲しいんですね?」
「あぁ」
「好き嫌いは?」
「食えりゃあ何だっていい……」
それこそ今の仁藤にとっては残飯でもご馳走だ。腹に何か入ることが重要なのだ。
最もゴミ箱を漁るような真似はとても出来ないが。
「分かりました。お昼に食べきれなかったサンドイッチですけど」
女は鞄から花柄の可愛らしい包みを出した。包みを解くとラップされたサンドイッチがあった。ラップを丁寧に剥がしてサンドイッチを仁藤の前に差しだす。
小麦の香ばしい匂いが仁藤の鼻をくすぐった。
食物だ!! 横たわっていた仁藤は弾かれた様に起き上がると女からサンドイッチをひったくった。
「きゃ!」と女の小さな叫び声が脇で聞こえたが無視してサンドイッチを一心不乱に頬張る。
口の中でマヨネーズの味がした。サンドイッチの中身は定番の刻んだゆで卵をマヨネーズで和えたものだった。
「あっ、そんな急いでかき込んだら」
女はタマゴサンドをがっつく仁藤を心配そうに見つめた。タマゴサンドはあっという間に仁藤の口の中に消えた。
「……っ!?」
すると突然、仁藤の動きがピタリと止まった。全身が震えだして、表情も苦しそうだ。
女の不安が的中した。きちんと噛まずに呑み込んだからだろう。タマゴサンドを喉に詰まらせたのだ。
「~~~~っ!!!!」仁藤はしきりに胸を叩いた。
「わわわわ大変です!」女は狼狽えながら鞄を漁ると「こ、これ、どうぞ!」
お茶の入ったペットボトルを差し出した。
仁藤はサンドイッチの時と同じくペットボトルをひったくると口をつけた。
だが、肝心のお茶は一向に口の中へは入ってこなかった。舌先が飲み口に触れる。固い感触がした。
「あー! すみません! キャップを外していませんでした!」
「!?」
仁藤は心の中で「バカヤロー!」と女に向かって叫んだ。
そんなことをしている間にも息苦しさが増してくる。仁藤は空気を求めて魚のように口をパクパクと動かすが無駄だった。
食べ物を求めた自分が、その食べ物を詰まらせて死ぬなんてマヌケにも程がある。
「えいっ!」
すると女が仁藤の口にきちんとキャップの外れたペットボトルを突っ込む。ズボッという擬音が聞こえてきそうな勢いだ。女はそのままペットボトルを一気に傾けた。
ペットボトルの口からお茶が滝のような勢いで仁藤の口内に注がれる。
お茶は一気に仁藤の食道を塞いでいるタマゴサンドの塊を押し流した。
空気の流れ道が確保されて、苦しさが和らぐ。仁藤は、助かった――と思ったら、今度は別の苦しさがやってきた。
女がペットボトルを傾けたままなのだ。当然、ペットボトルのお茶はドンドン注ぎ込まれていく。仁藤の口のダムは呆気なく決壊する。
「ぼはぁあっ!」
仁藤はむせて、お茶を全部吹き出した。
今回はこれで、まあ特にクロスとかじゃなくて本編のうちの一つ的な話として捉えてくれれば
面白い
乙です
今更な質問なんですがヴァイオリニストの奏美さんの名前の読みって「かなみ」であってます?
>>612
あってるよ
本編投下
別のやつと被ってややこしいかもしれんから最前の投下は>>605
ビーストは魔法銃を取り出してパズズの頭に狙いを定めるとトリガーに指をかけた。
「なあ……お前はファントムを食べるそうだな」
「あ?」
パズズの言葉にビーストはトリガーを僅かに押し込んだ指を止めた。
虫の羽音が聞こえた。羽と羽が擦れる振動音がパズズからしていた。
「だったら一度食われる側になってみないか?」
パズズは顎を開けるとビーストに黒い塊を吐いた。
「なんだ、これ!」
ビーストは思わず後退した。
黒い塊は生き物のようにビーストに絡みつく。塊の正体は大量のバッタが集まったものだった。
耳障りすぎる羽音を聞きながらビーストは両手を振ってバッタを叩き落とすが数が多すぎる。
バッタ達はビーストの全身にまとわりつくとビーストの姿を完全に覆う。
それ程までにおびただしい数だった。
まとわりついたバッタ達が次々と鋭い顎でビーストに噛みつていく。
痒みにも似た小さな痛みに、別の小さな痛み、その痛みにまた別の痛み。体中の至る所から小さな痛みが重ねられる。
「があああぁあああああああああああああああああああああっ!」
黒い塊から狂ったような叫び声がした。それはバッタ達に全身を貪られていく一匹の獣の悲鳴だった。
痒みは、あっという間に身悶えするような激痛に肥大した。
ビーストは全身を掻きむしり、苦悶の声を上げながら地面を転がり少しでもバッタ達を振り払おうとするが大した意味はなかった。数が多すぎる。
ビーストは自分の視界を埋め尽くすバッタの隙間に見えた自分の腕を見た。黒い腕の中に、ビーストにはない人間の肌色が斑点のように点在していた。
神秘の力を宿す古の魔法使いの金と黒の衣装はバッタ達に食い破られ、ズタボロにされていた。右肩から羽織っていた橙色の美しいマントは既に見るに耐えないボロ布と化している。
黒い塊は無茶苦茶に地面を這いずり、転げ回った。しかし、その動きも次第に鈍ってくる。
やがて黒い塊は力なくグッタリとなり動かなくなった。
パズズは蝗害(バッタやイナゴとかが作物食い荒らすアレ)の化身と言われてる
ドルフィンの出番か
乙です
乙
ドルフィって状態異常は治せるけど傷は癒せないイメージがある
乙ですそして>>613返答どうも
ドルフィか銃をもっていたからハイパーか…それか多分ないだろうけど753orにーさん乱入とか続きの妄想はできても予測はできないな…
久々に続きが楽しみなSSにめぐりあえた
「んぐ、んぐ……」
それからしばらく後――喉の詰まりを解消した仁藤は、女が近くのコンビニで買ってきてくれたおにぎりやパンや弁当を食べていた。
「……すごく食べるんですね」
食べ物の山を挟んで仁藤の隣に座る女は、仁藤の食欲に驚く。
自分の財布に入っていた手持ちの三千円で買えるだけ買った食べ物の山がどんどん崩されていくのだから当然とも言えた。
「まるで冬眠前のクマですね」
「男はな、一日食わないだけで死ぬんだ」
「死んじゃうんですか!?」
「ああ、さっきの俺を見てただろ。あれが証拠だ」
「なるほど……」
「俺は仁藤攻介。お前は?」
焼肉が具のおにぎりを食べながら仁藤は女の名前を聞いた。
「美由です。咲坂 美由」
髪の短い女――美由は笑顔を浮かべながら自分のフルネームを言った。
「……」
美由のあどけない笑顔に仁藤の食事の手が止まった。
「どうしました?」
最前までの勢いを失った仁藤の食事を不思議に思ったのか、美由が目を丸くして見つめた。すると、
「あっ、もしかして苦手なものでしたか? 無理に食べなくていいんですよ。まだ色々ありますから」
美由は身を乗り出すように仁藤の食べているおにぎりに手を伸ばす。
近づいてくるクリッとした大きな瞳に真正面から見つめられた仁藤は思わず顔を逸した。
「だ、大丈夫だ。肉は好きだからな。お前も何か食えよ」
仁藤は慌てながら食べ物の山に手を突っ込む。自分が買ってきた訳でもないのに、何か食え、と言うのはおかしな話だが、この際そんなことはどうでもいい。
仁藤は美由の顔を隠すようにあんパンの入った袋を差し出した。
「ありがとうございます」
美由は袋を受け取ると中身のあんパンを食べ始める。細い指がパンをちぎり取る。どうやら摘みながら食べるスタイルの様だ。
仁藤は食べながら横目で改めて美由のことを見た。
パッと全体像を見ると華奢な体つきだ。摘みながら食べるスタイルから察するに少食なのかもしれない。今は座っているので正確には分からないが、食べ物の山を挟んで美由の頭は自分の肩口辺りまでしかなかった。自分が176あるから、およそ頭一つ分引くと150と少し程度だろうか。
明るい栗色のショートボブの髪が、美由の幼さに拍車を掛けていた。
可愛い女だな、と仁藤は素直に思った。
しばらく美由を目の保養にしながら食事をしていると美由が視線に気づいた。
美由は視線を仁藤の顔と自分の手元の間を何度か往復させるとあんパンをちぎって仁藤の方へやる。
「食べますか?」
そうじゃねえよ。
仁藤は苦笑しながら心の中でツッコミを入れると目の前の茶色い欠片を手に取った。甘いものは余り好きな方ではないが別に食べれないわけではない。
いらない、と突っ返すのもなんだし食べることにしよう。
「んぐっ…………!?」
あんパンを口に入れて咀嚼した瞬間、猛烈な寒気が襲ってきた。口の中がベタつく。美由から貰ったあんパンは度を越した甘さだった。こんなものを食べたら即糖尿になりそうだ。
仁藤は急いでお茶を飲んで口の中を洗い流した。
「お前、平気なのか?」
「何がですか?」
「いや、このあんパン。滅茶苦茶甘いぞ。ちょっと見せてくれ」
小首を傾げる美由の手からあんパンの袋を借りて見ると商売文句なのか『甘さ5倍』というプリントがされている。袋の済には見切り品のシールが貼ってあった。
「そりゃあそうだ、売れるわけねえ」
袋を美由に返すと美由は再び、あのあんパンという名の甘味の塊をちぎって食べる。自分と違って何ともないようだ。
女の子は砂糖とスパイスと、あと忘れたけど何かで出来ていると聞くが、よくまあ食べられるな。
仁藤は口直しに食物の山からまたひとつ手にとって食べ始めた。
――やがて食べ物の山を食べ尽くした仁藤はお腹を満足げに撫でさすった。
「食った、くった。満腹だ」
「お粗末さまです」
「一時はどうなるかと思ったが助かったぜ。お前は命の恩人だ」
「そんな大げさですよ」
「飯代を、と言いたい所だが生憎いまの俺は金欠だ」
「お金なんて別にいいですよ。放っておけませんでしたし」
「借りた恩はきちんと返せって婆ちゃんにも言われてるんだ。お前、何かして欲しいことはないか? 俺に出来ることなら、なんでもするぜ」
「う~ん、して欲しいことですか」
美由は考えるように遠くを見ながら唸った。
「いざ考えると中々思いつきませんね」
「そうか……でも、それじゃあ俺の気が済まねえ」
「あっ!」
歯噛みする仁藤に美由はパンッと両の手を合わせて勢いよく立ち上がった。何か思いついたようだ。
「決まるまで一時保留というのはどうでしょう」
「保留?」
「そうです。仁藤さん、ここら辺にお住まいですか?」
「ああ」
仁藤は短く答えた。今、自分が野宿している公園はここからさほど遠くない場所だ。
「良かった。でしたら、私がして欲しいことが決まったら仁藤さんがそれを叶えてくれませんか?」
「なるほどな。お安い御用だ」
これ以上自分と関わらないための方便かとも思ったが、それならもっと早くに自分の元から去っているはずだ。あって間もないが美由の言葉は信用できる。
「俺は大抵ここから近い公園にいる。分かるか?」
「はい」美由は明るく応えた。
「願いが決まったら来てくれ。俺がお前の願いを叶えてやる」
「あはっ、それってランプの精か、魔法使いみたいですね」
愛くるしい笑顔を浮かべる美由が何気なく言った「魔法使い」という言葉に仁藤は自分の手にはまっている金色の指輪をチラリと眺めた。
まさか正真正銘本物の魔法使いが目の前にいるとは思うまい。
「それじゃあ、そろそろ私はこれで」
指輪を眺めていると美由は仁藤から離れようとした。
「おう、またな。タマゴサンド美味かったぜ」
「それならまた作ってきてあげますね……さようなら、仁藤さん」
可愛く手を振り、美由は小走りに駆け出した。小さな体が更に小さくなっていく。
仁藤は美由の姿が見えなくなるとテントに戻ろうと遅れて立ち去ろうとする。仁藤は美由が去った方向と逆のほうへ歩き出した。
今回の投下でライダー慣れしてる皆さんは、まあ大体どーゆー話か想像できたと思う
そーゆー話だ
乙です
乙です
乙です。
しかし糖尿どーこーって・・・マヨ食に慣れきっている仁藤がその感想を持つかwwww
乙
乙
激甘あんパン……あぁ
だいたい分かった
ヒル○ンデスに白石さん出てた時に劇甘あんパンの特集があったような…
ダメだ、それしか浮かばない。何のネタなのかヒントプリーズ…
つまり
それは
>>632
このスレの話をもう一度読み直すんだ
あ… さっきまで分からなかったが>>635でいろいろ察してしまった
これ…平成2期の主人公なら該当者2名な…あれか?
味覚が
本編
前回は>>615
パズズの手に突き刺さっていたサーベルが霧散する。それはビーストの変身が溶けた証拠だった。
パズズはゆっくりと立ち上がると傷を負った手を見る。掌に直径五、六センチ程の風穴がポッカリと空いていた。息を吹きかけると傷口が沁みた。
風穴の先には黒い塊がもぞもぞと小さく動いていた。それはビーストに群がっているバッタ達の蠢きだった。
パズズが顎を大きく開いてビーストを食い散らかしたバッタの大群を大きく吸い込むと手に空いていた風穴が塞がった。傷跡ひとつない。
パズズはビーストの魔力を食って、自分の手の傷を再生させたのだ。
これが、パズズがメデューサに「魔法使いの天敵」と評価される理由だった。
相手の魔力を吸収する力はメデューサも持っていたが、パズズの様に相手の魔力を利用して自分の体を再生させるのはパズズだけが持っている能力だった。
ビーストを倒したパズズは再びゲートである奏美を絶望させるために追撃を開始しようとした。
こんな事はさっさと終わらせたい。
ゲートを絶望させて新たなファントムを生み出す。パズズは、そこに何の価値も見出していなかった。
新たなファントムが生まれるということは自分の同族が生まれるということだが、赤の他人の様なものだから興味も全く沸かない。
テレビで大して知りもしない女の芸能人の出産のニュースがあっても、ふーん……と流す程度の感覚。どうでもいい。
自分には今川 望としての生活があるし、何より希のことが気にかかった。
今朝の体調は良い方だった。だからといって無茶をしてないだろうか。
早くゲートを絶望させて、希の元へ帰ろう。
大量のバッタが肌をまとわりつき、全身を徐々に食われていく感覚は並みの人間なら凄まじい不快感と死への恐怖で簡単に絶望させられるはずだ。
パズズが跳ぼうとした瞬間、遠くから男が白いバイクに乗って爆走してきた。
イクサリオンを駆る名護だった。
「仁藤くん!」
イクサリオンを急停止させた名護は横たわる仁藤とパズズを見て、即座に状況を把握した。
「変身!」
名護はイクサへと変身してパズズへ突撃した。
パズズはビーストの時と同じ様にバッタの大群をイクサに吐きかけた。
イクサの体にまとわりつき純白の装甲に食らいつくバッタ達。
名護の視界にはイクサの各所でダメージによる警告を表す赤い画面が表示された。名護の判断は早かった。
「消えなさい!」
イクサをバーストモードに切り替えると膨大な量の排熱が炎となって、まとわりつくバッタ達を一瞬で焼き払った。
「お前、魔力を感じない。魔法使いじゃないな」
パズズはバッタのような短く速いジャンプを連続で行いイクサに肉弾戦を仕掛ける。
イクサは迎撃しようとイクサカリバーのガンモードを構えるが瞬間移動のようなスピードで動くパズズを捉えることが出来ない。パズズからいいように拳や蹴りを叩き込まれてしまう。
イクサはパズズに照準を合わせてイクサカリバーを連射した。
直後、パズズはイクサの正面に跳んでいた。イクサの眼前に固く握りしめられた拳が飛来する。
絶体絶命の瞬間がイクサに訪れる。
しかし、イクサの装着者である名護は幾多の死線をくぐり抜けてきた歴戦の戦士だった。
構えていたイクサカリバーを下におろし、そこから遊び心――機転を効かせる。
イクサはイクサカリバーのグリップに連結している弾倉を膝で蹴り込んだ。膝蹴りで弾倉がグリップに収納されると同時に紅い刃が飛び出る。
意表を突くような攻撃にパズズは避ける間もなく、むしろ自分から突っ込む形で腹にイクサカリバーのカリバーモードのブラッディエッジが突き刺さる。
「お前は俺の大切な弟子を傷つけた」
イクサから静かに、そして怒りの帯びた声が聞こえてきた。
「その大罪は命でしか贖えない。その命、神に返しなさい!」
イクサは金色のフエッスルをベルトにリードさせる。
イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ……
フエッスルが起動キーとなり、イクサの動力『イクサエンジン』が臨界出力に到達するとイクサの胸に太陽を象った紋章が浮かんだ。
臨界点まで到達したエネルギーを攻撃に転用させるイクサの必殺技『イクサジャッジメント』を発動させたイクサカリバーは、激しくスパークするとパズズを刀身が刺さっている内側から焼きこがしていく。
パズズは抵抗するようにイクサに顔を近づけると顎を開いてバッタ達を吐きかけた。
大量に吐き出されるバッタが、黒い波となってイクサの顔面を呑み込む。
「くぅ……っ!?」
怯んだイクサが堪らず後退すると黒い波をイクサカリバーで横一線に薙ぎ払う。
太陽のような眩い輝きと灼熱を纏った一撃は黒い波を瞬く間に灰にする。
やがて灰が霧散して辺りが晴れていくと既にパズズは姿を消していた。
イクサは素早くセンサーを最大範囲で索敵するが反応は無い。取り逃がしたようだ。
己の実力に絶対の自信を持つ名護は、仕留めきれなかった自分の未熟さに舌打ちした。
この俺が……だが今は。
イクサは倒れている仁藤の元へ駆け寄った。
「仁藤くん……っ!」
イクサは一瞬、言葉を失った。ボロボロになった仁藤の姿は無惨なものだった。
仁藤の健康的な肌はバッタ達に食い破られて赤く爛れ、皮がべロリと剥がれていた。
特に生身の部分がむき出しになっている顔の辺りは酷かった。獅子のたてがみの様に逆立てた髪型でかろうじて仁藤だ、と分かるまでに醜い容姿へと変わり果てていた。
死体と区別がつかない。
「仁藤くん! 仁藤くん! 仁藤くん! 仁藤くん!」
名護がいくら呼びかけても仁藤が――目を開けることはなかった。
乙ー
つえー
流石
こんな風に仁藤を一方的にズタズタにできるパズスも、ルークには歯が立たなかったんだよな…
剣のカテゴリーKといい、武蔵な金色マスクドライダーといい、コーカサスカブトムシをモチーフにした奴はホント強いなあ…。
……そういえば彼らに間違いなく肩を並べられそうな金のカブトムシ怪人であるガドル閣下は…あれはコーカサスとは別だっけ?
ドルフィンはまだか
閣下はふつうのカブトムシでしょ
Kに武蔵には主人公がカブトムシだから同族で強いのでコーカサスになったんだろうし
(指輪を使え)
突然、名護の頭に声が響いた。しかし周りにはイクサに変身している自分と重傷を負っている仁藤しかいなかった。
(こっちだ)
イクサは声なき声が導く方へ向く。謎の声は重傷の仁藤から聞こえていた。
(お前はいったい何者だ)
名護は頭の中で対話をはかってみるとすぐに返事が聞こえてきた。。
(我の名はキマイラ。仁藤の主であり、ビーストの力を貸している者だ)
(ビースト……それが仁藤くんの、あの姿の名前か。それで、その主が俺に何の用だ。今は一刻も早く仁藤くんを病院へ)
(このままでは間に合わん。青い指輪を使え。他に方法はない)
(わかった)
仁藤の主を名乗る声に従い、イクサは仁藤の服の中から青紫の指輪を見つけた。
イクサはビーストがそうやっていた様に指輪をドライバーのソケットにはめ込んだ。
ドルフィン!
指輪に封じ込まれた呪文が詠まれ、キマイラオーサーから青い光が放たれる。
全ての命の母である海の力を宿すドルフィンの指輪が起こす治癒の魔法だった。
青い光は仁藤を淡く照らした。すると仁藤の傷が徐々に塞がりはじめた。
目の前で起こっている非現実的な光景にイクサは驚愕する。
(俺は魔法でも見ているのか? いや、これは魔法だったな)
イクサのモニターに仁藤の容態が映った。
脈拍、呼吸、血圧、体温といった仁藤のバイタルが全て正常値に戻りつつあった。
まるで回復の過程を早送りの映像を見せられているようだ。見分けがつかない程に惨たらしくなっていた顔も元の状態に戻りだしている。
やがて仁藤の傷は完全に消えた。
治癒された肌は傷跡も残っておらず綺麗で血色も良い。初めから傷など負っていなかったのでは、と疑ってしまいそうだ。
仁藤は母に抱かれて眠る赤ん坊のように安らかな寝息を立てていた。
「仁藤くん……良かった」
(確かに傷は癒えた。だが……)
弟子の生還を心から安堵する名護には、キマイラの何かを危惧する声が聞こえていなかった。
没
やがて仁藤の傷は完全に消えた。
治癒された肌は傷跡も残っておらず、初めから傷など負っていなかったのでは、と疑ってしまいそうだ。
だが、そこまで回復したにも関わらず仁藤は目を開けない。
イクサのモニターに仁藤の生命の危機を知らせるサインが表示される。サインは仁藤の心臓が停止していることを伝えていた。
(どういうことだ)
(治癒の力はあくまで癒しだ。既に止まっていた心臓を動かすことは叶わぬ。魔法とて万能ではない。限界があるのだ)
「心臓を動かせばいいんだな」
イクサは仁藤の服を脱がすとベルトからナックルを取り外して装着した。
(何をするつもりだ?)
(心臓が動かないならショックを与えて動かせばいい)
イクサはイクサナックルからの放電による電気ショックで仁藤の心臓を動かそうとした。
しかし、それは極めて困難な作業だった。
なにせ瞬間電圧5億ボルトという落雷にも匹敵するエネルギーを放出するイクサナックルの出力を医療の心臓マッサージで扱われる1500ボルトまで下げたうえで、それを維持しなければならないのだ。
一瞬でも操作を誤れば、仁藤は超高圧の電流によって黒焦げになってしまうだろう。
それは針の穴に糸を通すよりも何十倍もの正確さと繊細さが要求される作業だった。
イクサのマスクの下で名護は顔を汗だくにしながらナックルを何度も仁藤の胸に押し付ける。
仁藤くん、君は俺が救ってみせる。それが師匠である俺の義務だ。
想いをナックルに乗せて、必死に電気ショックを続けるイクサ。
すると想いが天に届いたのかモニターに表示されているサインに変化があった。
心臓が動いたのだ。
「仁藤くん……良かった」
(確かに傷は癒えた。だが……)
弟子の生還を心から安堵する名護には、キマイラの何かを危惧する声が聞こえていなかった。
魔法すげーするか、名護さんすげーするかって違い
あとドルフィン期待してた人はすまん、きちんとどっかで活躍させる
パズズに食われた後に、実は死んだフリしてやり過ごすとか去っていくパズズに後ろから「おい、なに勝手に終わらせてんだよ……」とかボロボロになりながら立ち上がらせてドルフィンで回復して戦闘を仕切り直しとか色々考えてた
乙
乙
乙です
オーツー
酸素
昼過ぎの公園。空腹の仁藤は今日の命を繋ごうと公園の敷地内をうろついていた。鬱蒼とした木立の中を獣のように這いながら獲物を探す。獲物を見つけたら注意深く観察して、それを手に掴むとチャック付きのビニール袋の中にしまった。
根城のテントに戻ると男の子たちがいた。
「あっ、仁藤だ」
リーダー格の男の子が仁藤を呼び捨てする。男の子たちは、この公園に来てから知り合った。この公園でよく遊ぶのか、暇そうにしている仁藤を見つけては遊びに付き合わせているのだ。
「なんだよ、お前ら。学校はどうした? 平日なのにサボったのか?」
「今日は創立記念日で休みなんだ」
リーダー格の男の子の隣にいる背の低い男の子が説明してくれた。
「仁藤にいちゃん、それ何?」
野球帽を被った男の子が仁藤の持っているビニール袋の中身を指差して聞いてくる。
「見ればわかるだろ。食いもんだよ」
「いや、草じゃん」
仁藤が宝物のように見せびらかした袋の中身は、少年の言うとおり野草だった。
「仁藤さん、草食動物だったんですか?」
「んなわけあるか」
仁藤はテントからレジャー用の携帯ガスコンロを取り出すと水と塩ひとつまみを入れた鍋をおいて火にかけた。
男の子達が少し興味深そうに見てくる。
野草を湯がいておひたしにしようと思った。本当は天ぷらにして食べたいのだが粉を溶いたり、使った後の油の処理が面倒なのでしなかった。
「なー仁藤、なんか面白い話聞かせてくれよ」
初めは何を作るのか気になっていた男の子たちは鍋を眺めているだけでは直ぐに飽きてきたのか、仁藤に話をせがんできた。
「俺はこれから昼飯なんだよ」
「もう2時だぜ?」
「遅い昼飯なんて俺にはよくあるんだ。ほら、ちょっと遊んでこい。キャッチボールとかサッカーなら後で付き合ってやるから」
「駄菓子屋で買ったおやつ分けてやるからさ」
「あれは俺がインドへ行った時だった」
男の子たちが背負ったナップサックから取り出したおやつ(という名の食料)にあっさり釣られた仁藤は、火を止めると椅子に座って話を始めた。
男の子たちは青い芝生にあぐらをかいて、おやつを食べながらも目と耳だけは仁藤の方にしっかり向けていた。
「牛が神聖? 牛なんて食うか、牛乳出すだけじゃん!」
「インドじゃ牛は神様みたいなもんなんだよ。だから、殺したりしちゃダメなんだぜ」
「へー」
「しかもな、牛が何頭も普通に街をほっつき歩いてんだ」
「マジで!? 邪魔じゃん!」
「野良猫じゃなくて野良牛ってことですか?」
「ああ、だから街中でウ○コをいっぱい撒き散らしたりもしてる」
「くっせー」
野球帽の男の子が想像したのか鼻をつまむのを見て、仁藤たちは大笑いした。
仁藤の語る冒険や遺跡調査の話、海外での経験は仁藤にとって当たり前の知識だったり、触れてきた世界でしかなかった。
だが、それは男の子たちにとっては未知の世界だった。
仁藤の口から出る言葉で、男の子たちは魔法にかかった様に自分たちの知らない世界へ旅立っていた。
男のたちの好奇心いっぱいのキラキラと輝く瞳が仁藤は好きだった。
調べてみたけど色々大変なんだね、インドの牛問題
乙です
乙ー
トテモ仁藤らしいな
冒険家だな
ようやく鯖が復旧したのか…
乙
a
乙
本編いくよ
前回>>646
「~~♪」
希は鼻歌交じりで夕飯の準備をしながら望の帰りを待っていた。
サンマを切り分けて塩コショウをかけた後に、小麦粉の入ったポリ袋に投入してポリ袋を何度か振る。
そのまま小麦粉がまぶされて白くなったサンマの切り身をフライパンの上で焼いていく。
焦げ目がついたら、刻んだニンニクを放り込み、香り付け。更にネギとしめじも加える。
炒めている間に隣のコンロで火にかけている味噌汁の様子も見た。料理はいつだって同時進行なのである。
フライパンの中身全てによく火が通ると二つの皿に分けて、ポン酢を回しかけた。
主菜の秋刀魚の焼きポン酢漬けが完成する。希は続けて底のやや深い皿に玉子を割り入れて砂糖を加えて溶くと玉子焼きの準備を始めた。
夕飯の時間は大体決まっていて夜7時半――望が大学から帰ってきてから三十分後の時間だ。
希はチラリと時計をみた。時刻は夕飯の二十分前で望はまだ帰ってきていない。
たかが十分。気にするような誤差でもないのだが希は少し残念に思った。
普段なら望は帰っていて配膳や食器を用意して手伝ってくれる。
希は、姉弟の二人で何かをするということが好きだった。
幼い頃から体が弱いことで両親や周りに気を遣われて生きてきた希は孤独だった。
男の子も女の子も混ざって一緒に外でドッチボールをして遊んでいたくらい幼い頃の思い出。
一緒に外で遊びたかった。でも誘ってもらえなかった。理由はとても簡単だった。
「だって希、体よえーじゃん? あいつチームに入れたら俺のところ負けちゃうから嫌だよ」
子供らしい純粋で悪意のない、それでも残酷な真実だった。
体が弱いという一本のラインで引かれた境界。あっちとこっち。最初から住む世界が違っていた。
こっちに居てくれる人がいない。希は自分がひとりぼっちな気がした。
しかし望は違った。望はよく自分の側にいてくれた。
「ねえ、望はどうしてお姉ちゃんといっしょにいてくれるの?」
「希おねえちゃんと一緒にいちゃダメなの?」
「ダメってわけじゃないけどつまらなくない? 一緒にかけっことかできないし」
「かけっこできなくても希おねえちゃんは本を読んでくれるよ?」
「あっ、うん。そうだね」
「それに家でもいっしょにゲームしてくれるでしょ。希おねえちゃんが赤で、ぼくが緑。おかげで150匹あつめられたよ。電池が切れた時はぬいぐるみの電池と交換してくれたし」
「望は優しいね……ねえ、望はお姉ちゃんとこれからもずっと一緒にいてくれる?」
「ずっと? それってお母さんとお父さんみたいに?」
「そうだね。私と希が結婚すれば幸せかも。そしたら私が望のお嫁さんになるんだね」
「うん、いーよー! 希おねえちゃんは僕のおよめさん! ずっと一緒だよ」
両親が共働きということもあって、希は望の面倒をよくみていた。今にして思えば、あの頃の望はお姉ちゃん子だったから一緒にいただけなのかもしれない。
希の言っていることも『ずっと一緒』以外はいまいち分かっていなかったと思う。
しかし希にとっては忘れられない大切な思い出だった。
望と一緒にいられる時間は、小学校、中学、高校――そして現在と歳を重ねるにつれて減っていった。反面、望に抱く想いは増していった。
希は自分が望に向けている気持ちがタブーなのは理解していたし、これからも胸にしまっておくつもりでいた。
子供の頃の約束ましてや姉弟での結婚など無知で無邪気だった子供だから許せるのであって、いつまでも真に受けて覚えている自分は異常なのだ。
やがて希は夕飯の準備を全て終わらせた。
秋刀魚の焼きポン酢漬け、卵焼き、豆腐とおくらの味噌汁、ひきわり納豆、きゅうりと白菜の漬物、白米――純和風な献立だ。
「なんだか夫の帰りを待つ妻みたいね……」
望と二人で夕飯の準備をできなかったのは残念だが、これはこれで良いと思えた。
「早く帰ってこないかな」
希は望の帰りを楽しみにしながら待った。
遅れてすまぬなー、艦これssも書き始めたんだけどそれが思いのほか楽しくてサボってた
乙です
乙ー
ゆっくり進めてください
乙です
艦コレssってひょっとして兄貴が行くやつ?
久々
聞くところによると、ウィザードの小説が発売されるらしいね
仁藤、前回>>655
仁藤は男の子たちに話を聞かせ終わると一緒に遊んだ。男の子たちを遠くまで下がらせて自分の肩の強さを見せつけるようにボールを力いっぱい投げつけたり、サッカーでは3人を相手に必死になってボールを守ったり、年甲斐もなくはしゃいで遊んでいた。
ひとしきり遊ぶと男の子たちが持ってきた駄菓子をおやつの時間にした。
「ほら、仁藤」
「おっし、俺の番か。ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
仁藤は男の子が握っている無数の白い紐を指で選んでいく。男の子の握りこぶしの下には紐に繋がっている色鮮やかな大小様々のアメが太陽の光を受けて光っていた。
「お・れ・さ・ま・の・い・う・と・お・り」ひとつひとつ言葉を区切り、紐の束を何周かしながら言葉を終えると指を止める。
「それでいいの?」
「ああ」
仁藤は当然といった様子で返す。こういうのは勢いが大事なのだ。仁藤は迷うことなく指がさしている紐を掴んだ。
「か・み・さ・ま、じゃないんだ?」
「神さまなんかに任せられねえよ、俺の運命はな……こいっ!」
どうせなら、なるべく大きいの――アタリを引きたい。仁藤は念じるように自分の運命を託した紐をグッと引いた。男の子の拳の下でアメが動く。
「よっしゃ!」
おもわず喜びを口にする仁藤。動いたアメは一番大きいアメではなかったが、アタリと言えるには充分だった。
「あー! 仁藤いいなー、それ狙ってたのに……まあ、一番デカいの取られなくてよかったけど」
「こういうの強いんだよ、俺」
仁藤は紐アメを口の中で転がしながら答えた。アメが舌の上で溶けて懐かしい味が広がっていくと子供の頃、無茶なことをやって泣いていた時に祖母からもらったアメを思い出す。
昔は口うるさくて鬱陶しい祖母としか思っていなかった。だが、祖母が東京に来て再開した時に起きた一件で祖母の深い愛情を知った今は違う。
今度、手紙でも書くか。ふと、そんな考えが浮かんだ。
まだ実家に帰ることは出来ないが、それくらいの孝行をしたっていいはずだ。歳が歳だし、冷え性とかで悩んでいるかもしれない。ヨモギを乾燥させて茶葉にして送ってやろう。
おやつの時間を終えた後はまたひたすら遊んだ。気がつくと太陽も傾いて、辺りも薄暗くなってきた。
「じゃーなー、仁藤!」
「おう、車には気をつけろよー!」
元気に手を振りながら帰っていく男の子たちに、仁藤は別れの言葉をかけるとレジャーチェアに腰をかけた。
「まったく元気なガキどもだ」
ふう、とため息をつく仁藤だがその顔は笑っていた。
「子供、好きなんですか?」
「まあな……っと、あんたか。確か、咲坂」
「美由です」
声の方を向くと愛らしい声で自分の名前を告げる少女、美由がいた。
「なんだ、願い事が決まったのか?」
「いえ、それはまだなんですけど……近くを寄ったので仁藤さんがいるのか気になったんです」
「なるほどな」
「本当にいる……というか住んでいるんですね」
美由は仁藤の近くにあるテントを見つめた。テントの周りにバーベキューセットやクーラーボックスが置いてあった。どれも使い古した感じはするものの仁藤にとっては生きていくためには必要な道具なので手入れはしっかりと行き届いて綺麗だった。
「ここの公園が今の俺の縄張りだ。ここは広くて、自然も多い。だから食料もそれなりにある」
「食料ですか? 食べ物なんて見当たりませんけど」
「これだよ、これ!」
仁藤は野草の入ったビニール袋を自慢げに見せてやった。
「草じゃないですか」
「…………」
男の子たちとそう変わらない興味のなさそうな反応を示す美由に、仁藤は少し心が挫けそうになった。自分と反応のギャップがこうもあると辛い。
仁藤さん、草食動物だったんですか? 男の子に自分が草食動物扱いされたことを思い出す。途端、仁藤は吠えた。
「俺は牛や馬じゃねえからな! 肉も食うからな!」
「な、なんのことですか?」
「つーか、むしろ肉食系だ! ガッツリだ!」
突然、よく分からない主張をする仁藤に美由は困惑の表情を浮かべたが、今の美由が仁藤の気持ちを知る由もない。
「あの……草じゃないですけど食べ物でしたらここにありますよ」
美由は鞄から小さな包みを出すと差し出してきた。
「?」
「タマゴサンドです。また作ってくるって言いましたから」
「おおっ! マジかよ、サンキュー!」
最前までの鬱屈した気分は吹っ飛び仁藤は喜んだ。
まさかホントに作ってくるとは――思いがけない贈り物に小躍りしそうになる。
夕飯は野草の天ぷら、分けてもらった駄菓子、マヨネーズで済まそうとしたところに1品加わるのだ。
こんなに嬉しいことはない。しかも、サンドイッチつまりパン――炭水化物だ。腹に溜まる。
どうやら美由のおかげで今日の命は明日へ十分すぎるくらい繋げられそうだ。
仁藤は満面の笑みを浮かべた。そんな仁藤の顔を見上げ、嬉しそうに美由も笑った。
美由の作ったタマゴサンドは世辞抜きで美味かった。
タマゴに和えるマヨネーズの量が多すぎず少なすぎずの適量だった。ゆでタマゴの味を殺さずに、それでいてマヨネーズがきちんと主張している。
(こんな小さいなりなのに、よくまあ美味い料理を作れるもんだ。いい女になるんだろうな)
仁藤は、上機嫌で美由の料理の腕に感心しながらタマゴサンドを堪能していた。半分は今食べて、もう半分は夕飯に食べる予定にしている。
「美味しいですか?」
「おう……って、お前が作ったんだろ」
「自分ではよく分かりません。いつも同じ作り方でやってますから味は同じだと思いますから」
「そりゃ羨ましいぜ。それだけ美味いタマゴサンドを食べ慣れてるってことだ」
「仁藤さんってタマゴサンド好きなんですか?」
「タマゴサンドというよりマヨネーズだな」
「マヨネーズですか。調味料の」
「マヨネーズは世界で一番美味い食物だ。そうだ、お前も食えば分かるぜ!」
「……えっ?」
乙
乙です
乙
あ
a
仁藤いくね前回>>674
唖然とする美由を脇目に仁藤は同好の士を増やすためにマヨネーズを懐から取り出すと早速料理に取り掛かろうとした。
だが、野草のおひたしを作るために鍋を取りに行こうとする所で仁藤は「待てよ……」と思いとどまる。
初めて会った時、美由は完食すればたちまち虫歯になりそうな程に激甘のアンパンを平然と食べていた。
女は甘い物が好きだと聞く。
だったら野草にマヨネーズを掛けた料理を出すより、何か甘い物にマヨネーズを掛けた方が、良い反応が貰えるかもしれない。
どうせ食わせるなら美味いと言わせたいし、それがマヨネーズの美味しさを証明させることに繋がる。
甘い物ということで最初にど~なつ屋のはんぐり~のドーナツが頭に浮かんだが、ライバルである晴人のように袋ごと常備していない。かといって今から買いに行って美由を待たせるわけにはいかない。
そこで仁藤は、男の子たちから貰ったおやつを使おうと考えた。
ガサガサとおやつが詰まったビニール袋から雪のように白くて、ふんわりとした感触が特徴的な洋菓子――マシュマロをいくつか取り出すと串に刺していき団子のようにした。
火のついたコンロの上に金網を敷き、その上にマシュマロを乗せる。少しの間、焼いてすぐさま返すと既にキツネ色の焦げ目がついていた。
やがてマシュマロ串の両面を焼くと紙皿に移して、その上からマヨネーズを掛ける(この時点で容器には、まだ2/3程の残りがあった)
まだ掛ける。(1/3)
もっと掛ける。(ほとんど空になった)
おまけにもう少しだけ掛ける。(容器を畳んで、無理やり絞り出していた)
紙皿には黄色い山が出来ていた。
仁藤がマヨネーズを掛ける……その作業だけで外はカリカリで香ばしく、中はとろけるように甘い絶品の焼きマシュマロはマヨネーズに覆われた何かに変わってしまった。
「ほら、食ってみろ。すげー美味いぜ」(※仁藤の味覚に限りである)
マヨネーズが盛られた皿を受け取った美由は疑うような素振りを一切せずに串を持ち上げた。
黄色い山が割れて、中からマヨネーズ包みの焼きマシュマロが出てくる。マシュマロの側部についているマヨネーズは重力に負けてボトリと音を立てながら皿に落ちた。
美由は串に刺さっているマシュマロの一つを手で取ろうとしたが仁藤に「そうじゃねえ。そのままかぶりつくんだよ」と言われたので、小さな口を大きく開けて焼きマシュマロを食べた。
「美味いだろ?」美由が何度か口の中で咀嚼していると仁藤が聞いてきた。
「よく分かりません。口の中がベタベタします」
「マジかよ。いや、そんな訳がねえ」
至極真っ当な感想を言う美由に納得のいかない様子の仁藤は、美由から串を取るマヨネーズまみれのマシュマロをかぶりついた。
口内を支配する大量のマヨネーズは、マシュマロの甘味を全て塗りつぶしていた。
マシュマロがマシュマロとして主張できるのは食感だけだった。
例えるならマヨネーズ味のマシュマロと言ったところか。商品化された暁にはもれなく黄色くなっていそうだ。
「美味いじゃねえか。この味が分からないなんて素人だな、お前。人生めちゃくちゃ損してるぜ」
仁藤は、それが絶対の真実だと訴えるように串の先を美由に向けた。
「素人って……こんなマヨネーズまみれの料理初めて食べたんですから仕方ないじゃないですか。タマゴサンドを作る時だってこんなに使いませんよ」
美由は頬を膨らませながら抗議した。釣り上がった眉とジト目に林檎色に染まった頬。怒っているつもりなのだろうが、対面する仁藤は全く怖くなかった。むしろ美由の低い身長もあって、その子供っぽい怒り方がむしろ可愛らしいとすら思えて小さく笑った。
「あー笑いましたね! 私、怒ってるんですよ!」
「悪いわるい、遂な。おい、マヨネーズついてるぞ」
「えっ、ホントですか?」
「そっちじゃない。逆だ」
仁藤はマヨネーズのついた頬の反対側を撫でる美由に代わってマヨネーズを拭き取るために頬に手を添えた。
「あ……」
美由が反射的に小さく声を漏らすと仁藤の視点はマヨネーズから美由の目に移った。
そこで初めて自分と美由の距離がとても近いことに気づいた。目と目を合わせて、女の頬に手を添える男の姿は端から見ればキスをする直前のようにも見えた。
近くで見る美由の顔は一層に可愛らしさが強調され、シャンプーなのか花のような甘ったるい香りがした。加えて指先で触れている美由の頬は柔らかい感触は仁藤の鼓動を早くするには十分だった。
仁藤は微かに視線を逸らして美由の頬を撫でてマヨネーズを拭き取っていく。
シュッと軽く一撫ですれば終わるものをゆっくりと美由の頬の感触――柔らかい反発を指先で覚えるように撫でる。
時間に換算すれば大した差では無かったが仁藤はできる限りも長い時間、美由の頬に触れていたかった。
「ほら、取れたぞ」
若干の名残惜しさを感じながら仁藤は美由から離れた。指先についたマヨネーズは勿体無いので舐めた。
「……あ、ありがとうございます」
「……別に礼を言われるようなことでもねえよ」
美由が照れた顔で言うものだから仁藤も意識してしまい照れ隠しにぶっきらぼうに返す。
そろそろ帰りますね、と美由は仁藤の元から去ろうとした。
「また近くを寄る時があると思いますから、包みはその時に返してくれればいいですよ」
つまり、仁藤にまた会いに来るという意味だった。
「じゃあ、またタマゴサンド作ってきてくれよ」
「マヨネーズたっぷりで……ですか?」
仁藤の嗜好を理解した美由は笑顔で聞いていた。仁藤はニヤリと不敵に笑う。
「分かるだろ?」
「はい。任せてください」
二人は再会を約束した。
たまにageてくれる人がいるけどありがとね
ケツを叩かれてるみたいで早く投下しねーとなって気分になって、少しやる気出るんだわ
乙です
乙―
乙
前回>>665
最初の十分はワクワクして待っていたが二十分を過ぎる辺りから遅いな、と思い始め、三十分過ぎた頃に電話とメールを一度ずつしたが望は電話にも出なかったし、返事も来なかった。
何かあったのか、と不安になる。頭の中に描かれる負のイメージ。いや望に限ってそんなことはない。すぐさま頭を振ってかき消した。それでも望がこの場にいないという明確な事実が希をまた不安にさせた。
望、遅いな。早く帰ってきてよ。それで色々な話を聞かせて。他愛ないことでもいいの。望のことは何でも知りたいの。
愚痴だっていいよ。私にどこまで出来るか分からないけど頑張って慰めてあげる。
一緒に話をして、それで笑い合ったり、時には真面目なこと言ってみたり、そうやって望の日常を共有していきたいの。
やがて希の用意した暖かい夕飯もすっかり冷めてしまい望が帰ってきてから一緒に食べようと皿にラップを掛けようとした時に扉が開く音がした。
望!
希は急いでリビングを出て玄関に走ると待ち望んだ最愛の弟がいた。さっきまでの不安が煙のように消えていく。
姉は優しい声で「おかえり」と言う。弟も同じように優しい声で「ただいま」と返した。
それが弟ではなく、弟の外見と記憶を持つ極めて弟に近い異形だということを姉は気づかない。
「遅くなってごめんね、姉さん」
弟、ではなく弟の姿をしているパズズは希になるべく心配をかけないように自分のゲートたる望の記憶を参考にして努めていつもの望を装って謝罪すると嘘まみれな弁明をし始めた。
「帰る途中で気持ち悪くなったんだ。満員電車でさ、目の前に太ったおっさん。なんで太ってる奴って息が臭いんだろ。おまけにそいつニキビ面で、それが近いもんだからすごい不快だった。臭いとキモイ。ホントに死ぬかと思ったよ」
「そ、それは災難だったね」
額に嫌な汗を浮かばせて苛立たしげに吐き捨てる望の態度――これも勿論嘘の態度、演技である――を見て、本当に嫌な目に会ったのだと感じた希は不憫そうに頷くしかなかった。
嘘ばかりのパズズだが死ぬかと思った、という言葉だけは本当だった。
イクサとの戦闘で腹部に突き刺さったイクサカリバーのダメージは相当な深手となっていた。バッタの群れを吐きかけひるませた所で離脱した後、人 目のつかない路地裏で限界がきて一度意識を失った。
起きた時はもう夜になっていて希が夕飯を作って待っていることに気づき、痛みに耐えながら重たい体をなんとか起こして家に帰ろうとした。
内側から焼き焦がされた傷は断続的に痛みを与える。痛みを抑えようと服の上から傷口に手をやっても、傷口の上で起きる下着の僅かな衣擦れでさえ耐え難い激痛に変わった。
いっそ、傷がある部分を丸ごと抉りとってしまった方がまだマシな痛みになるように思えた。
パズズは途中何度も意識を失いそうになりながら重たい体を引きずり、普通なら十分かそこらでかかる距離を一時間近くもかけて帰ってきた。
「夕御飯食べれそう?」
「食べるよ。お腹は減ってるからね。荷物、部屋に置いてくるよ」
パズズは調子の悪そうに見える――実際は激痛に耐える瀕死の自分を気遣う希の脇を抜けると手すりに掴まりながら階段を上り、望の部屋を目指した。階段をひとつひとつ上る時の動作と音ですら傷に響く。
食事なんか取れる状態でもないし、取ったところで味も分からないパズズには無意味だが「いらない」と言う選択肢はなかった。
自分のために夕飯を用意してくれた姉を悲しませたくない。
階段を上り終わり二階の廊下に差し掛かった所でまた限界が来た。
パズズは頭から突っ込む形で床に倒れ込んだ。
その音を聞いた希は二階に上り、熱にうなされるように荒い息をする望を見つけると自分の部屋の隣にある望の部屋へ運ぼうとした。
女性で加えて体の弱い希が自分より大きい体を持つ望を運ぶのは大変な作業だった。体に力の入らない望は60キロ弱の重り。非力な希には肩を貸しながら望を持ち上げて立たせたりすることは叶わなかった。
クソッタレのもやし女!
希は自分を口汚く罵りながら、これまでの人生で一番自分の体を恨んだ。最愛の弟が苦しんでいるのに弟を支えることも出来ない。そのどうしようもない役立たずな自分の無力さから来る苛立ちを自分にぶつけた。
結局、望を引きずる――というより床の上を滑らせるようにして部屋へ運び、ベッドに無理やり乗せた。
布団を上から掛けてやり、しばらく望の経過を見守った。
望は苦しそうにしていた。放っておいたらこのまま死んでしまいそうな位に。
希は望の手を取って、自分の小さな手を重ねた。ほんの少し力を込めて握ってみる。望は握り返してこなかった。
両手を使って望の手を包むように強く握る。指先が真っ赤になった。
言葉はない。ただ――ただ静かに愛する人のことを想い、祈り続ける。
「姉さん……」
その言葉と一緒に両手に僅かな抵抗を感じた。望は希の手を握り返して、うわ言のよう希のことを呼んでいた。
何かを伝えようと口が動いていた。希は望の言葉を待った。
「守るから……姉さんは俺が守るから……」
「うん、うん……」
仕切りに返事をすると次第に望の呼吸は落ち着いてきた。
こんな時にまで……
自分を守ると言ってくれた望がとても愛おしかった。
望の頬に手を添える。これからしようとすることにスリルを覚え、一瞬止まったが止まるつもりはなかった。
希は望の唇に自分の唇を重ねた。
小説ウィザード読んだけど本編でインフィニティ出し惜しみする理由が何となく分かったよ
乙
インフィニティーが想像以上にとんでもない化物だったね
そりゃ本編であれだけ無双するわ
俺がファントムなら泣いて謝って土下座するレベル
乙です
乙
乙
小説Wのエクストリームも凄かったがインフィニティも凄かったのか…
前回>>688
たくさんの人の喋る声、靴がアスファルトを叩く音、誰かのケータイの着信音、車道を走る車の音、風の音。
髪の長い女は無数の音が混ざり合う騒々しい夜の街中を歩きながら、今日の夕飯について考えていた。
歩道の側端には様々な店が建ち並び、その中には当然飲食店もあった。魅力的なメニューが写真やサンプルの蝋細工として表に出ているが、どれも女の心には響かなかった。
どうしようかしら……
立ち止まり、髪をいじりながら悩んでいると音が一つ女に向かって飛んできた。
「ねえねえ、お姉さん。仕事あがり?」
「もしお暇だったらボクらと飲みにでも行きません?」
軽そうな男が二人、軟派をしてきた。女は妖しく微笑む。
「いいわよ」
「じゃあ、どこの店行きます?」
「バー、居酒屋、クラブ……この辺の店は大体行ってるよ」
「くすっ……」女は小さく笑った。
最初から体目的なのに回りくどいわね
「あそこにしましょう」
女は細く長い白い指で1軒のホテルを差した。それは普通のホテルではなく、男との女の交わりを目的にしたホテルだった。
二人の男は顔を見合わせたが直ぐに意図を理解して下品な笑みを浮かべた。
「お姉さん、エッチですね」
「んふっ、満足させてくれる?」
「ええ、そりゃあもう」
「いい部屋にしてね。音が漏れないやつ」
女は口元で人差し指を立てて「シーッ」というジェスチャーをしながら自身の美貌をほんのり紅潮させて色っぽくウインクした。
意外に明るい室内は一見して淫靡な雰囲気とは程遠く、それなのに妙な圧迫感と期待感を沸かせるものがあった。
部屋に入ると早速、男たちが女の体に群がった。
「きゃっ、そんなに慌てなくても平気よ、んぅっ、逃げたりしないから、あ、あっ……」
服を脱がされて下着だけになり、胸や太ももに這う男の手に小さく息を漏らす。
「お姉さんの体、エロ過ぎ」
「食べちゃいたいよ」
「ふふっ、私もよ。ねえ……ありのままの私を見たい?」
「うん、見たいみたい!」
「そう……じゃあ」
女は男たちから離れると自分の裸身を晒した。興奮で少し汗ばんだ美しい肢体に男たちは魅了された。
直後、女の美しい顔に鮮やかなステンドグラスの模様を浮かぶと女はファンガイアになった。
女の本性を見た男たちは一瞬、何が起こったのか分からず固まっていた。
やがて恐怖という認識が思考に追いつき悲鳴をあげたが外に漏れることはなかった。
ファンガイアは活きのいい男二人を食った。
食事を終えて、ホテルから出た女は自宅へ帰ろうとした。
男ってバカよね。まあ、私としてはあの手の輩の方がライフエナジーに満ちているから食べ甲斐があるんだけど。
この容姿には感謝しなくちゃいけないわね。餌の方から寄ってくるんだから。
「お姉さん、いい髪をしてますね」
上機嫌に歩いていると女の元にまた男が寄ってきた。男は帽子を被っていた。
「あら、そう。嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「良かったら僕に手入れさせてくれませんか? 僕、スタイリストなんですよ」
「スタイリスト……プロなのね」
女はスタイリストという単語に反応した。芸術に重きを置くファンガイアにとってスタイリストの存在は非常に興味深かった。
非力な二本の手と僅かな道具で何万本とある人間の髪の毛を、その人間に合った美しいヘアスタイルに整える。一種の芸術とも言えた。
自分が高貴な存在だと信じて疑わない女は、過度な装飾品ではなく自分の持つ人間の姿としての容姿でより美しさが欲しいと思った。
「それなら是非お願いしていいかしら?」
「ええ、勿論。こちらこそよろしくお願いします。じゃあ、僕のヘアサロンに行きましょう」
男は人なっつこい笑顔をすると女を導くように先を歩いた。
やっぱり男ってバカね。自分が死ぬことも知らないで。でも、私に食われるなら光栄なことね。
女は男の後ろで獲物を狙うような鋭い目をしながら冷たく笑った。
「クフフ……」不意に男が背を向けたまま笑った。
「あら、どうしたの?」
「いえ、これからのことを考えると楽しくてしょうがないんです」
男――ソラは狂気の孕んだ笑みをしていた。
女は魔物だよ、いやホントに
そういや外国のどっかの動物園には「世界で一番危ない動物」って書いてあって檻の中に鏡が置いてあるとか
乙
ついにファントムvsファンガイア戦がくるか?
乙です
乙
食事描写が平成ライダーっぽくていい
>>700
嬉しい
おう
あ
ふと疑問 ありえないけどもし渡のアンダーワールドに入ったら一体いつの出来事が映し出されるんだろうか…?
おとーやんとの共闘かな?
騒がしい街中を出て、少し歩いた所でソラは女に目隠しをしてくれと頼んだ。
どうして? 女の質問にソラは屈託の無い笑顔で「僕のサロンは秘密の場所にあるんです。あまり人に知られたくないんで」と答えた。
秘密というワードは女の興味を掻き立てると同時にそこに招かれる自分が選ばれた存在だと感じさせて優越感を与えた。
いいじゃない。女は目隠しを受け入れた。
黒い布で遮られた視界は一切の光も入らず何も見えない。女は闇の中を自分の手を握るソラの手が引く方向へ転ばないようにゆっくりと歩く。通り抜ける風の音と二人分の足音がよく響いた。
やがて女を導くソラは歩くのを止めて女から手を離した。女の後ろで布を引く音が聞こえる。周囲から音はほとんど聞こえなくなった。
「着いた……のかしら」
「そういうことです」
「目隠しまでしたんだから期待していいわよね?」
「もちろんです。ようこそ僕のサロンへ」
ソラは楽しそうな声で女の目隠しを外した。
暗闇の晴れた女の視界には赤い幻想的な空間が広がっていた。
赤は部屋一面に張られた艶やかで上品なワインレッドの壁紙やカーテンによるものだった。
上からチリンと音が聞こえる。
見上げると天井からは硝子製だったり色とりどりのビーズで飾られたオシャレなドアベルが吊るされている。揺れる度に風鈴のような綺麗な音を鳴り、心を落ち着かせてくれる。
ソラのサロンには温かみがあった。鉢の中で優雅に泳ぎ回る金魚たち。つぶらな瞳で見上げてくる愛くるしい犬の置物。生物を――命を感じることで癒されていく。
「気に入ってくれました?」
「ええ、とても」
女は期待以上のものを見せられ満足そうに頷いた。これだけのセンスを持つ人間ならさぞやいい腕をしているに違いない。
恐らくこの人間は極上のライフエナジーを持っている、と直感した。
私は運がいい。女は知らずのうちに生唾を飲み込んでいた。
「どうぞ座ってください」
ソラは女を椅子に座らせると女の長い髪をそっと触る。
「いい髪ですね。よく手入れされてる」
「ふふっ、私の自慢よ」プロに褒められて女は上機嫌に返した。
「髪の毛は人を魅了する程に美しいパーツです。それこそ人を狂わせてしまうくらいに」
「狂わせる?」
「はい。ルイジ・ロンギという人を知っていますか? 彼は幼い頃から髪を洗うことがとても好きだったそうです。それこそ理容店のシャンプーとカツラを盗んでしまう程に」
「そんなになの……」
「やがてロンギは成長して働き始めると収入を得ます。その収入……何に使ったと思います?」
「カツラとかシャンプーかしら?」
女は部屋の隅にさらし首のように並んでいるカットウィッグを見ながら答えた。
「ざんね~ん。正解は女性の洗髪でした。道行く女の人に声をかけては、お金を払うから洗髪させてくれと頼んだらしいですよ」
ソラは喋りながらよく手入れがされたシザーがいくつも収納された革製のケースを腰につけた。
「そこまで来ると頭の病気ね」
「実際その手の診断はされていたそうです。そんなロンギはある日ヒッチハイクをしていた女性を自宅に連れ込んで洗髪をしました。ここまでだったらロンギにとってはいつものことなんですが」
「どうなったのよ?」
ソラが語る髪の毛に異常な執着を示す男の物語の続きが気になって女は話を急かした。
「ロンギはまた髪を洗いたいという衝動にかられました。でも、もし彼女に拒まれたら? そう考えたロンギは彼女を縄で縛り、猿轡をかませたんですよ。動けなくなった彼女にロンギは衝動……いや欲望でしょうか。とにかく自分の心ゆくままにシャンプーをしました。洗ってはすすぎ、洗ってはすすぎを繰り返してやがてシャンプーが切れてしまうと今度は代わりに蜂蜜やサラダドレッシング、オリーブオイルなどを使いました。その内彼女が必死に逃げようと暴れだすので逃がさないために首を絞めたそうです。まあ、結果は」
「女性は死んだのね」
「はい。ロンギは遺体を壁に塗りこめて石灰で固めたそうです。その後、屋根の修繕に来た職人に見つかったらしいですけど」
「狂っているわね」女は嫌悪感で吐き捨てるように言った。
「はい、ロンギは間違いなく狂っていました。でも僕には彼の気持ちが分かる気がします。きっとロンギが殺した女性は何度も洗いたくなる程にとても美しい髪の毛をしていたんでしょうね」
「成程そういう見方もあるわけね」
「僕も綺麗で長い髪を持っている女の人は僕の手で整えてあげたいです。お姉さんのような髪は特に」
ソラは恍惚とした表情で女の髪をやさしく手櫛しながらシザーケースからシザーを一つ取り出して髪を添える。
次の瞬間、女の髪はバッサリと切り落とされた。
「何をするの!?」
頭が軽くなった女は椅子から立ち上がりソラと対峙した。ソラは熱い息を漏らしながらカットされた女の髪をペットにそうするように愛おしそうに撫でていた。
「いい手触り。引っかかりもない綺麗な髪……でも」ソラの声が冷たくなる。「お姉さんみたいなバケモノには勿体無いから僕が貰ってあげるよ」
「貴様あっ!」
女は激昂すると宙に舞う牙をソラに向かって飛ばした。
「クフフ……」
ソラはグレムリンに姿を変えると二本の剣――ラプチャーで牙を叩き割った。
「最初から私がファンガイアだって知っていて近づいたのね」
「そうだよ。ハッキリ言って君たちは邪魔だからね。教えてもらうよ。君たちファンガイアがヘルズ・ゲートで何をしようとするのか。それとあのバイオリニストの人がどう関わってくるのか、全部ね」
グレムリンは素早い動きで女の元に近づくとラプチャーを喉元に突きつけた。
しかし女は脅されているのに恐怖で顔を歪めることすらしない。目の前のグレムリンなど存在していないかのような態度だ。全く気に留めていない。
女は襟足に手をやる。そこにはもう長く美しい髪はない。
「最悪ね。ファントムなんかが私の髪を触れて、あまつさえ切るなんて。まったく……」
女はグレムリンを睨みつける。
髪が短くなっても女本人が持つ美しさは決して損なわれなかった。むしろスッキリしたおかげで刃物のように鋭い美しさが増している。
女は全身から怒りのオーラを発してグレムリンをサロン一帯ごと吹き飛ばす。
サロンの残骸と一緒に外の廃工場の床を転がるグレムリン。
ワインレッドの壁紙とカーテンはグレムリンが流した血のように辺りに散らばった。
残骸に混じってボロボロになって中身をぶちまけているカットウィッグがいくつか転がっていた。
あれはまだ使えたし楽しめたのに。後でグールに始末させよう。
グレムリンは舌打ちをしながら立ち上がって体勢を立て直した。
「ライフエナジーもない家畜以下の残りカスが、万物の頂点に座するファンガイアを何と心得る?」
残骸の起こした土煙の中から黒いシルエットが浮かび、女の声が聞こえてきた。
ソラはシルエットに向かってラプチャーの衝撃波を放つ。煙の中に消えた衝撃波は弾かれた様な音を立てるだけだった。
煙が晴れていくとシルエットが明らかになっていく。
「答える必要はないわ。どうせあなたはここで死ぬんだもの」
それは全身が蘭の花のように美しいピンク色のファンガイア――オーキッドマンティスファンガイアの姿だった。
試合運びは考えてあるんで次の投下は早めだと思う
乙です
乙
そういえば本編にマンティスファンガイアいたなぁ… カマキリってより死神だったが…
あれの色違いでいいのか?
ウヴァさん?
えいっ!
a
今更だけどネオファンガイアはどうなったんだろう
a
ファンガイアがファントムを嫌う理由って、恐怖の対象であるレジェンドドルガを彷彿とさせる姿というのもあるんだろうな。とか思ったり
どっちにもメデューサいるし
すまん、かなり遅れてる
1ヶ月以内に投下しないと消えるんだっけ?
1ヶ月間一切の書き込みが無いか、2ヶ月以上作者の書き込みが無い場合にHTML化対象になる
待ってる…
ファンガイアから見てグロンギとかオルフェノクとかイマジンとか、一応は人間の括りに入りそうな種族ってどういう風に捉えているんだろうな。
大ショッカーでは仲良しさんだったけど
頼むからエタんないでくれ
どっかでたっくんがウルフェン族と間違えられる作品を見た気が…
ファンガイアから見た他人間系怪人って13魔族みたいに単品カウントじゃね?
グロンギ→そのままグロンギ族的な
アンデットもいるとしたらファンガイアの祖となる個体とかもいるのかな。アンノウンは逆にファンガイアが狩られ、ミラモンや魔化魍とは餌の取り合いしてそう
>>722
そいつらは人間の変異種でしかないから
ドーパントやらゾディアーツ同様、基本的に『人間』として扱うだろうね
ファントムが人間ですらない『残りカス』なら、グリードは何なんだろう
人間の生んだ産物でしかないから蔑まれてるんだろうけど
a
>>725
人間が生んだ産物で蔑むならロイミュードもだよな
知能のないインベスはともかく、オバロはどうなんだろう?
>>727
『外敵』か『侵略者』ってとこじゃね?
オーバーロード本人たちの意思がどうであれ、ヘルヘイムの侵攻は即座に対処しなきゃ絶滅の危機に陥りかねないし
ファンガイアはステンドグラス模様の大鎌を出現させるとグレムリンに向かって、生者の命を刈り取る死神のように大鎌を振り下ろす。
グレムリンが横に跳んだ瞬間、背後にあったコンクリートの柱が少しの抵抗もなく逆袈裟に切り裂かれた。
「クフフ……すごいね」
「ありがとう。とは言ってもファントムに褒められても嬉しくないわ」
相手を小馬鹿にした笑いをするソラ。涼しい声で返すファンガイア。
ファンガイアは言葉も態度も余裕だが、一方グレムリンは言葉と裏腹に内心戦慄していた。
あの大鎌をくらってしまえばファントムの強靭な身体をもつ自分でもタダではすまない。
グレムリンはラプチャーに魔力を込めて数度振るった。二対の剣からはエメラルドグリーンの魔力の刃が放たれてファンガイアを襲う。
ファンガイアは巧みな鎌さばきで魔力の刃を全て叩き落とした。
その隙を狙って今度はグレムリンが斬りかかる。
「ダメダメね」
ファンガイアは一歩も動くことなくグレムリンの攻撃を軽くいなし、返す刀で大鎌を振るがグレムリンもラプチャーを交差させることで防御した。
お互いの武器がぶつかり合い火花を散らせながら激しい攻防が繰り広げられる。
崩れた天井の穴から差し込む青白い月の光がファンガイアの肢体を照らしていた。
大鎌を振り回す度にピンクを基調としたステンドグラス模様の光を反射する角度が変わり全身を色鮮やかに変えていく。
同じ配色のパターンが来ることはない。一瞬一瞬その時その場所でしか見ることの出来ない色になる。
瓦礫の転がる寂れた灰色の廃工場の中で、オーキッドマンティスファンガイアの存在はまるで荒野に咲く一輪の――この世に二つとない、おとぎ話に出てくるような虹色の花だった。
ファンガイアが大鎌を突き出すとグレムリンはヒラリと軽やかに避けた。
そのまま素早い動きで懐に潜り込み、ラプチャーをファンガイアの首元に当てる。
「はーい、僕の勝ち」
「おバカなファントムさん」
ファンガイアは不敵に笑うと大鎌を持つ手首をくるりと回して柄を手前に引く。
グレムリンの背中に猛烈な悪寒が走った。物体をすり抜ける力を使って潜り込むように床に沈むグレムリン。
その場から消えるとグレムリンのいた場所には大鎌の刃があった。
あと少し逃げるのが遅かったら背中からバッサリと両断されていただろう。
「さっきのあなた滑稽だったわ。まあ、ファントムにはお似合いかもね」
床から上半身だけを出しているグレムリンを見下ろすようにしてファンガイアは嘲笑した。
「ファントム、ファントムってさあ」
自分が抱えている負の部分を刺激されたグレムリンは苛立ちながらファンガイアに斬りかかった。
「僕は人間だ。ファントムなんかと一緒にしないでほしいな」
「人間? どこが? その醜い姿、非力な人間には無い力、そしてライフエナジーもない。生きているかも死んでいるかも分からない憐れな亡霊。それがあなた達ファントムよ」
「!?」
ファンガイアの言葉にグレムリンが動揺した瞬間、ファンガイアの横薙の一撃がグレムリンを捉えた。
グレムリンは腹部に猛烈な熱さを感じると両手のラプチャーを落とし、ソラの姿に戻ると頭から後ろへ倒れた。
「無様ね」
「あ……ぐぅ……」
ファンガイアが倒れたソラを踏みつけると肺が潰れそうな圧迫感が襲った。
ソラは反撃を試みようと近くに落ちたラプチャーを拾おうと手を伸ばす。
届け……こんな人間でもないキラキラのバケモノ相手に死んでたまるか。僕にはまだやらなくちゃいけないことがあるんだ!
人間に戻って、僕が味わった絶望を――愛していた人に捨てられた時の、死にたくなるような程の深い絶望をもっともっとたくさんの女の人に知ってもらうんだ。
床に転がっているカットウィッグが視界の隅に映る。
君たちみたいにね……だから届けえっ!
懸命に伸ばすがソラの手はラプチャーに届かない。やがてソラの手が力なく地面に伏した。
「ファントムでなければライフエナジーを吸ってあげたのにかわいそうな人」
ファンガイアはソラの死を確認しようとしたが、元々ライフエナジーがゼロの死人と同義であるファントムの死を判断することは難しかった。
片手でソラを掴みあげて顔を覗いてみる。ソラはなんの反応もなく呼吸もしてなかった。
ファンガイアがソラの体を放り投げるとソラの体は綺麗な放物線を描き、瓦礫の中に派手な音を立てながら捨てられた。
「汚れてしまったわ」
ファンガイアは女の姿に戻ると服についた埃を軽く払い、身なりを整えて帰ろうとソラを投げた方とは逆の方向へと歩き出した。
その時だった。
「クフフ……」闇の中でソラの笑い声が不気味に木霊した。
ファンガイアの女がハッとして後ろを振り向いた時には既に一振りの剣が女を貫いていた。
女を刺したのはボロボロになって死にかけているソラだった。しかし、その目は深手を負った瀕死のものとは思えないくらいにギラギラしていた。
「生きているかも死んでいるかも分からない。まったくその通りだよ」
「あの一撃は……確かに手応えがあったはずよ」
「そうだね。気を抜いて眠ったら二度と起きなかっただろうね」
「騙した……わね……死んだふりなんて……浅ましい。やはりファントムは家畜にも劣る存在ね」
「僕は人間だよ。その証拠に僕自身が、自分は人間だって信じている」
ファントムは自分がファントムであることを疑わない。ファントムだからだ。
自分は人間だというソラの発想は人為らざるファントムのものではなかった。
だから自分は人間だ。
どれだけ人間から外れてしまっていても自分が人間だと強く思う気持ちがあれば、それは希望となってソラを妖しく輝かせる。
ファントムであるソラの心の中で光る希望の輝きは間違いなく人間そのものだった。
「そんな……嘘よ……ファンガイアである私が家畜以下の残りカスであるファントムなんかに負けるなんて」
「化物には分からないだろうから教えてあげるよ」
ソラは自分の血で濡れた手に握られたラプチャーを根元までファンガイアの女の体に沈ませて一気に引き抜く。
そして、さっきとは逆にソラが倒れたファンガイアの女を見下ろす形になるとこう言った。
「これが人間の意地ってやつさ」
よーやく投下できた、
>>725
下賎な人間の欲望で塗り固められた動く泥人形……とかかな
800年前なら過去キン健在かどうかは分からんがグリードと過去のオーズの戦いに暇つぶし感覚で割り込むみたいな話できそうだね(書くとは言ってない)
乙です
おつです
ソラの歪な人間性がいい感じ。ウィザードまた見たくなってきた
乙彼です
乙カーレ
あ
乙です
まさに油断大敵
>>728
インベスのライフエナジーを食って生き残りそうだけど
あと紘汰と戒斗、フェムシンム以外(元人間)のオバロは同じ様に脅威と思うのか、それとも所詮人間と思うのか
(一体どういうつもりだ……)
灰色の雲の間で煌々と輝く月の下で晴人はマシンウィンガーを走らせながらフルフェイスのヘルメットの下で困惑していた。
凛子に面影堂まで送ってもらった後、自室で眠りながら魔力を回復させていると以前と同じようにプラモンスターがファンガイアを見つけたらしく、それを水晶玉で確認したコヨミに起こされた。
ただ今回は以前と状況が違った。コヨミの話ではファンガイアとファントムが戦っていたという。
戦っているファントムはエメラルドグリーンのファントム――グレムリンだった。
何故ファンガイアとファントムが戦うのか。その理由を晴人は知らなかった。
しばらくして水晶玉に映っていた廃工場へたどり着いた。廃工場の中を進むと椅子に縛りつけられた女性がいた。
「ハロー、晴人くん」
その近くにはソラもいた。
「グレムリン……」
「だから違うよ、僕の名前はソラ。そこの所、間違えないでほしいな」
「お前、また女の人を」
「ストップ! この人、ファンガイアだよ」
ソラは素早く指輪をつけて変身の構えをする晴人を手で制した。
晴人は女性の方を見る。肘掛けのついた椅子に全身を拘束された女性は虚ろな目でどこか疲れきった様子だ。
この人がファンガイア?
女性は見間違えることなく人間の女の外見だった。けしてステンドガラス模様の怪物の姿をしていなかった。
「人間に化けているんだ。ファントムと一緒だよ」
ソラの言葉を聞いて、晴人は納得した。
「同じ怪物同士、よく分かってるな」
「君も自分の中に飼っているじゃないか。変わらないさ」
「それもそうだな」
晴人は自嘲気味に笑う。
「どうしてこんなことをするんだ?」
「聞きたいことがあってさ。そうだ、折角だし君も何か聞いていったら?」
ソラはシザーを手に取ると刃を開いてファンガイアの女の喉元にゆっくり押し当てた。
冷たい金属の感触に女は身を硬くした。
「ねえ、ファンガイアは何が目的なんだい? ヘルズ・ゲートとあのゲートの関連性は?」
すると女は鼻で笑った。
「下等な人間と、その残りカスに教えてあげることなんて何もないわよ」
「ふ~~ん、そっか……じゃあ仕方ないか」
挑発されたソラは激昂することなく淡々とした様子で女に押し付けたシザーを下ろした。
晴人はあっさりと引き下がったソラに言いようのない不安を感じた。
「綺麗だね」
ソラは肘掛けに縛りつけられた女の左手を取り、その先にある指をじっくりと見る。
白魚のように美しい指は柔らかく滑らかな手触りだった。
ソラは女の薬指に結婚指輪をはめるように、開いたシザーをそっと添える。
「クフフ……」
子供のように無邪気だけれど悪意の込められた笑顔と背筋が冷たくなってしまう笑い声。
直後、パチンッと何かが閉じた音がした。
広い廃工場中に女の高くて悲痛な叫びが木霊した。
赤く染まっていくソラの手の中には真っ白な女の薬指があった。
ひえぇ……
うーん、これぞ仮面ライダーの怪人だな
乙ー
人はただ人であればいい…
a
「グレムリン!」
晴人は普段の飄々とした態度とは違い珍しく感情を顕にした叫びをあげるとソードガンをソラに向けた。
ソラは、やれやれと呆れたようにため息をつくと突きつけられたソードガンを不満げに見つめる。いい所で水を刺された気分だった。
「危ないから栓をしとくよ。指には興味ないしね」
ソラはわざと晴人によく見えるように切断した女の左の薬指を手に取るとソードガンの銃口にズブリとはめて栓をする。
銀色の銃口から小さく細い女の指が生えた。
その間抜けでイカれた絵面になったソードガンにソラはおもわず小さく噴き出した。
晴人の全身に凄まじい不快感とソラの悪趣味を越えた狂気に対する怒りが駆け巡り、感情のままに引き金をひきそうになった。
だが晴人の理性は指を抑えた。こんな挑発にのってしまうのは操真晴人らしくない。
「悪趣味だな」
晴人は平静を装い銃口にはまっている女の指を引き抜いて捨てた。
柔らかい肌の中にある固い骨の感触。指輪をはめる都合、指を触ることは多いが人の指の感触がここまでおぞましいと感じたことはなかった。
「指を切るなんてやりすぎだ」
「このファンガイアは人間を襲って殺したんだ。許す気はないでしょ?」
「……ああ」晴人は静かに断言した。
「だったら何をしたっていいじゃないか。それとも人間の姿をしていたら君の良心が痛むかい?」
「なぶり殺しは趣味じゃないってだけさ」
「僕は好きだけどね。人が痛みや死の恐怖で絶望していく様を見られるから」
「やっぱり悪趣味だよ、お前」
「似た者同士なのになんで意見が合わないかなあ」
ソラは女に尋問を続けようと女と向き合い、さきほどの質問と同じ質問をした。
失った左指の激痛と熱さで息を荒くする女はソラを睨みつける。
「私たちファンガイアには誇り高い魂がある。それがこの体にある限りどれだけ苦痛を与えても無駄よ」
「だったら試してみようか」
あくまで頑な態度を崩さない女にソラは嗜虐的な笑みを浮かべると別の指を切り落とそうとした。わざとらしくシザーを鳴らして恐怖を煽る。
「やりすぎだって言っただろ?」
晴人はそれを黙って見過ごすことはしない。ソードガンを剣に変形させて構える。
「邪魔しないでよ」
苛立たしげに言うソラの体からエメラルドグリーンの不気味な魔力のオーラが煙のように上がるとソラはグレムリンに変身した。同じように晴人も赤い指輪でウィザードに変身した。
グレムリンはラプチャーを構えてウィザードと対峙するが、それはポーズでしかなく戦う気はなかった。
今の自分ではウィザードには勝てない。適当にあしらった所でファンガイアの女を連れ出して別の所で尋問を続けよう。
張りつめた空気が弾けて、両者がぶつかり合おうとすると銃声が響いた。
グレムリンとウィザードの間で爆発が起こり両者は距離をとった。
続けて銃声が二度三度響く。連続する狙撃にグレムリンとウィザードは床の上を転がされ、女から離される形になった。
一つの影が廃工場の外から射す月明かりから飛び込んで女の側に着地した。影はステンドグラス模様の銃を持っていた。
「貴方は……」
女は影の正体に覚えがあった。ステンドグラス模様が散りばめられた黒い体――自分と同じ種族、そして自分と同じ主であるルークに仕えているファンガイアだった。
「無事のようだな」
トンボのような外見をしたファンガイア――ドラゴンフライファンガイアは早々に女の拘束を解こうとする。だが女は静かに首を横に振った。
「私ね……ファントムに負けたの。油断した所をね」
「悪い冗談だな。我々はファンガイアだぞ?」
「だったらこんな惨めな姿を晒している?」
「…………」
女の問いにファンガイアは指が足りない女の手を見た。
椅子に縛られ、指を失い、苦しそうに喘ぐ。誇り高く自信に溢れたファンガイアいう種としての面影はどこにもなかった。
「ファントムなんていう残りカスに負けて、おめおめ生きながらえるなんて私の魂は耐えられないわ」
「しかし」
ファンガイアが迷いをみせると女は幼子を諭す母親のような穏やかな口調で言った。
「貴方も同じ立場なら同じことをするでしょう? だって私達は誇り高きファンガイアだもの」
「わかった」ファンガイアは小さく頷く。
「私はファンアガイアの汚点になんかなりたくないのよ」
「ああ、そうだろうさ。ファンガイアならな」
女の覚悟を受け取ったファンガイアは銃を構える。女は薄く笑い瞳を閉じた。
「その身を穢されたファンガイアの魂にやすらぎを」
銃声と共に女の眉間に風穴が開くと女の体は色とりどりのガラス片になって砕け散った。
ファンガイアは誰もいない椅子の上に散らばる女の残骸を一掴みすると固くかたく握り締めた。
拳の中でガラス片が割れて掌が切れた。だがこんな痛みは同胞が受けた痛みに比べたら微々たるものだ。罰にすらならない。
同じ主の下で同じ理想を目指している者を助けられなかった不甲斐なさ、討たなければならなかったやるせなさ、同胞を傷つけた相手への憎しみ。
様々な感情が混ざり合うとファンガイアは怒り狂い、ウィザードとグレムリンに発砲した。
「ちぇ、死んじゃった……もう付き合いきれないね」
グレムリンは面倒くさそうに呟くと床をすり抜けてその場から姿を消そうとした。
「待て! グレムリン!」
「待つわけ無いでしょ。そうだ……似た者同士のよしみで教えてあげるよ。あのゲートには間違いなく何かあるよ」
「奏美さんに」
「ほら、来るよ。よそ見はしちゃダメ」
床から上半身だけを出しているグレムリンが指差す方を見るとファンガイアの弾丸が迫っていた。
ウィザードは華麗な剣さばきで叩き落とすが、接近したファンガイアに蹴りを入れられた。ファンガイアは続けてグレムリンにも銃撃する。
「バイバ~~イ」
だがグレムリンは小馬鹿にするように手を振ると完全に床の向こう側へ沈んで消えていく。ファンガイアのターゲットがウィザードだけになった。
「グレムリンのやつ俺に押しつけやがった……」
ウィザードはファンガイアの放つ弾丸を黒いコートをはためかせながら避けると廃工場の外へ飛び出した。
着地した瞬間に足元で爆発が起こる。ファンガイアの空からの攻撃だった。
ウィザードは攻撃を食らうまいと走った。その後を追うようにして弾丸が地面に着弾する。
執拗なファンガイアの攻撃をかいくぐりながらウィザードはドラゴタイマーで青いコートを纏う自分自身を呼び出した。
「分かってるよな?」
「もちろん!」
ウィザードは青のウィザードに合わせるように指輪を使って黒いコートから真っ赤なコートに着替えた。
二人のウィザードは同時に指輪をかざした。
ディフェンド! プリーズ!
詠唱の終了と同時に掌に魔力が集中し、赤のウィザードには火の壁が、青のウィザードには水の壁が出来上がる。
赤と青のウィザードは作り出した壁を合わせた。すると白い闇が起こった。
白い闇は辺り一体にどんどん広がりウィザードの姿を完全に隠してしまう。
火と水、相反する二つのエレメントが重なり猛烈な勢いで霧を造り出した結果だった。
濃霧に阻まれたファンガイアはウィザードの姿を見失い、狙いが少しもつけられなくなった。
このまま逃げる気か? それとも反撃してくるか? どちらでもいい。次に姿を捉えたら射抜いてやる。
ファンガイアは上空から銃を構えて霧が散るのを静かに待つ。霧の中で小さな光とそれが照らす黒い人影が見えた。
馬鹿なやつ!
ファンガイアは人影に弾丸を撃ち込みまくった。人影がよろよろと動くと力なく倒れた。
人影を照らしていた光が消えてファンガイアの視界にはまた白い闇の世界だけが映る。
その白い闇の中から突如として弾丸が飛んできてファンガイアに直撃した。ファンガイアは体から地面に墜落した。
「どっから攻撃が来たかさえ分かればさ。後はそこにな」
霧散していく白い闇から出てきた赤のウィザードは二丁の銀色の銃を持っていた。
側では青のウィザードが魔法陣に包まれ消えていく姿があった。その指にはライトの魔法の指輪がはめられていた。
一人残った赤のウィザードは銃を剣に切り替えるとハンドオーサーに指輪を読み込ませて、体勢を立て直すファンガイアに一気に近づいた。
フラッグのように炎をはためかせる銀色の剣を振りおろす。
赤く燃える刃が届く黒とステンドグラスの体を焼き切ろうとする瞬間ファンガイアは翼を大きく広げて空へ逃げた。
剣を銃にかえてファンガイアの消えた空に銃を向けるがファンガイアは既に夜空にある無数の星の一つに混じっていた。
ファンガイアを見失ってしまったウィザードは空を翔けて追いかけるべきか悩んだ。ハリケーンスタイル、更にその上位のスタイルでありドラゴンの翼を発動したハリケーンドラゴンの常識外れなスピードなら追いつけるかもしれない。
だが既に見失っている相手を闇雲に追いかけて見つかるだろうか。いたずらに魔力を無駄にするわけにもいかない。
その時だった。エンジン音と共に深紅のバイクに跨ったキバがやってきた。
「遅いぜ、キバ…………ん?」
ウィザードは肩を落としながら愚痴るように呟くがキバの様子が妙だった。
キバはファンガイアの消えた空を凝視していた。キバの――渡の耳にはファンガイアに導く音楽が確かに聞こえていた。
「もしかしてファンガイアの居場所が分かるのか?」
ウィザードの問いかけにキバはフエッスルを取り出し、キバットに吹かせる。
「ブロンブースター!」
三連ホーンのような軽快な音色が響くと巨大な黄金の魔像『ブロン』が現れた。
ブロンは横に割れるとそれぞれがマシンキバーの前部と後部に合体した。合体の瞬間、ブロンに内蔵されている膨大な魔皇力の余波で地面がひび割れた。
元々大型のバイクであるマシンキバーはブロンと融合したことで更にスケールアップし、重機のような圧倒的な雰囲気を醸し出した。
前部には深紅の角『ブレイカーホーン』、後部には合計14発ものブースターユニットからなる『マオーブーストエンジン』を備えた重装鉄馬『ブロンブースター』が誕生した。
キバはウィザードの方を見ると何も言わず自分の跨っているシートの後ろ側を軽く叩いた。
「男と相乗り……ねえ。悪くないかもな」
ウィザードはキバの後ろにすばやく乗った。
今にも暴れだしそうなブロンブースターを制御するようにキバはエンジンを吹かす。やがてブロンブースターは一度フロントを大きく上げるとブースターから火を噴かせながら猛発進した。
乙ー
相変わらず引き込まれる文だなぁ
オツカーレ!
乙
乙です
a
あ
黄金の鎧を纏う鉄馬が夜の街を爆走する。
鉄馬の周りには様々な色をした甲虫が群れをなしていた。鉄馬は群れを避けるようにして走る。群れの行進は鉄馬にとってはあまりにも遅すぎた。
有象無象の虫どもが自分の背に乗る主の行く手を阻んでいる。
鉄馬は甲虫全てを黄金の鎧を纏った体で弾き飛ばしてしまいたかったが、それは主であるキバが許さない。
結果として鉄馬――ブロンブースターはキバの意思通り道路を走る車の列を右に左に時には跳ねて、一度も止まることなく駆け抜けた。
「とんでもないな。俺のバイクよりずっと速い! イカす音楽の一つでもかけたらどうだ? ノリノリだぜ、きっと」
キバの後ろに座るウィザードはブロンブースターから振り落とされないように力を入れながら、それに必死になっている自分を隠すようにおちゃらけた。
冗談に特に反応もせずキバは聞こえてくるファンガイアの音楽を辿り、ブロンブースターを進ませる。
音楽が大きくハッキリと聞こえたとほぼ同時にウィザードも上空で飛行するファンガイアを視界に捉えた。
「今度は途中で帰るなよ。ファンガイア」
ウィザードはソードガンを魔法陣から取り出すとファンガイアに向けて何度も引き金をひいた。
しかし追手に気づいたファンガイアも素早い動きで銀の弾丸をかわすとステンドグラス調の銃で応戦してきた。
キバとウィザードは瞬時に身を屈めて、空を降ってくる銃弾の雨をやりすごす。無数の弾丸がブロンブースターの装甲に弾かれてあちこちで火花を散らした。
地上から空へ、空から地上へ高速で移動しながらの激しい銃撃戦が続いた。
「埒があかないな……っと、危ないあぶない!」愚痴るように銃を撃ち続けるウィザード。
「……………………」
するとそれまでファンガイアを追いかけ、ブロンブースターの操縦に専念していたキバに動きがあった。
大きなビルの前にあるT字路に差し掛かった途端キバはブロンブースターのスピードを一気に上げるとビルへと直進した。
このままではビルに突っ込むことになる。それでもキバはスピードを一切緩めなかった。
激突する寸前、ブロンブースターのフロントが大きく持ち上がった。前輪が頑強な鉄筋コンクリートの壁を破壊するようにめり込む。
その時マオーブーストエンジンのブースター14発全てが点火した。
あがる爆音と火柱。
ブロンブースターは垂直なビルの壁面を駆け上った。
乙ー
重力を無視した壁走りを披露するブロンブースターはカーブをして壁の縁まで走ると別のビルの壁に跳び移った。
ファンガイアは銃撃で撃ち落とそうとするが、ブロンブースターは次々とビルを跳び移りながら凄まじい速度でファンガイアに近づいていく。
自分の攻撃では止められない。気がつくとファンガイアは逃げてばかりになっていた。
必死になって空を飛ぶが背中から聞こえる猛々しいエンジン音が一向に遠くならない。むしろ近づいていた。
後ろを見るといくつものビルにブロンブースターが足跡を刻みつけるように輓き割った窓ガラスと黒焦げた轍が破壊の痕となって残っていた。
痕を辿った先には自分を追う黄金の重バイク。それは長い胴体と金色の頭をした巨大な怪物が自分を喰らおうとしているかのようだった。
怪物には狙った獲物はけして逃がさないという意志がある。
ファンガイアは黄金の怪物が追って来られない程に空高くへ飛行した。
しかし怪物は高層ビルの壁を一直線に這いながら猛スピードで追いかけてくる。
「ハッ!」
怪物の乗り手であるキバは気合の声を上げてエンジンをフルスロットルにした。
怪物がこれまでにない咆哮をする。ブロンブースターは最高速度の時速1550キロへ到達した。
噴火のような爆発力で高層ビルの壁を越えて更にその向こう側の夜空へと飛んでいく。
「…………」
キバはウィザードを一瞥した。
「任せてくれ」
ウィザードは必殺の指輪をはめた。
「フィナーレだ」
ウィザードは幕引きの呪文を唱える指輪をベルトに詠み込ませてブロンブースターから高くジャンプする。
燃え盛る炎になるウィザードの赤いコートが月と重なった。
陽炎が起こり、金色の月が蠱惑的に揺らめく。
そして、ゆらぎの中から放たれたウィザードのストライクウィザードがファンガイアに炸裂した。
キックの勢いのままビルの屋上に着地するウィザード。遅れてブロンブースターも着地した。
夜空から月に照らされた色鮮やかなガラス片が花びらのように舞い落ちてくる。
二人はしばらくその光景を見つめていた。
カブトエクステンダーのキャストオフした時とかWのバイオレンス回だっけ、ああいうマシンを使った市街戦というのはいいものだよね
後なんてたってミラジョボビッチのウルトラヴァイオレット
乙です
乙
a
仁藤はどこまでも広がる暗闇の中にいた。
黒い空からは金色の粒が降ってきて黒い地面に吸い込まれるように消える。手の上で粒が積もる。金色の砂だ、と仁藤は思った。
ここが何処かを仁藤は知っている。ビーストドライバーを介して仁藤と仁藤の中に宿っているキマイラが直接顔を合わせるための精神世界だ。
「いるんだろ。キマイラ」
手の中の砂を息で吹き飛ばす。すると金色の砂塵に照らされた暗闇の向こうから一匹の巨大な怪物が悠然と歩いてきた。
その外見――獅子の顔と手足、バッファローの胴体、肩には片翼の隼と片ヒレのイルカ、下肢にはカメレオンの顔があり、そこから伸びた舌が尻尾のように動いている――は正しく神話に出てくる怪物そのものだ。
ビーストドライバーに封印されていた複数の獣の力を持つファントム・キマイラだ。
「何の用だよ。わざわざ呼び出して」
「むざむざ負けを晒しおって」
「あのバッタのファントムのことか? あんな隠し玉があるなんて思わねえよ」
「言い訳など聞くつもりはない!」
キマイラが吠えた。暗闇の中で空気が震えて、仁藤は気圧されそうになるが真っ向から睨み返す。
「お前のやることは唯一つ。ファントムを狩り、我に魔力を捧げることだ」
「出してくるネタは分かったんだ。もう負けねえよ」
「負けぬか……自分の姿をよく見てみるがいい」
「は?」
仁藤はキマイラの言っていることが分からず首を傾げた。すると胸の辺りに痒みにもにた小さな痛みが走った。
蚊か、と思いシャツの上から触ってみる。だが、手に帰ってくる感触は蚊の大きさではない。もっと大きい。
服の中に何かがいる。仁藤はシャツの中に手を突っ込んで、痒みの原因を摘んで引っ張り出した。
それは先の戦いでビーストを喰い荒らした茶緑の昆虫……バッタだった。
バッタはじたばた脚を動かしている。
「こんなのただのイナゴじゃねえか。食ってやるよ」
仁藤はバッタを丸呑みした。これで痒みは引くはずだ。そう思った。
だが痒みは収まらなかった。今度は腕に猛烈な痒みが襲った。
視線を落とした仁藤はギョッとした。
シャツの袖の部分が大きく膨れ上がっていた。シャツの袖は大量の皺を作り、ひとりでに波うつ。
袖は風船のように膨らんでいく。やがて張り詰めて弾けるようにシャツの袖から大量のバッタが溢れでてきた。
暗闇に降る金色の砂のなかにバッタが飛び交う。恐ろしい数だ。
バッタ達は瞬く間に仁藤の全身にはりつく。服の裾から潜り込んで体を這っていくバッタもいた。
バッタの群れは仁藤に顎を開き、食らいつく。
「がああああああああっ!」
仁藤に激痛が走った。
全身を蠢くバッタ達の食事に血が出そうな程に叫びをあげる。
「ああああああ! おがっ……んぐっぉっ!?」
その叫びも長くは続かなかった。口の中にバッタが雪崩のように入り込んできた。
猛烈な吐き気が襲う。苦しさにむせ喘いだ。それでもバッタの侵入は止まらない。
何匹ものバッタが仁藤の体の中へなだれ込む。口から火の棒を突っ込まれるよな熱さと激痛が襲う。
体の内と外。
仁藤の体はバッタの群れに食い潰されていく。
喰われる? この俺が喰われるだと!?
必死に抵抗しようともがき足掻くが体の自由が効かない。
キマイラは食われていく仁藤を見下ろしている。
「あっ……あっ……あっ……」
仁藤は目を見開き、キマイラに向かってバッタのまとわりつく手を伸ばして呻くように繰り返した。
キマイラは仁藤に死刑宣告をするように冷たい声で言い放つ。
「それが貴様の末路だ」
仁藤の視界がバッタで埋まる。
助けを求めるように伸ばした手は震えながらゆっくりと落ちていった。
乙ー
乙
仁藤…
ちょっと思いついて触りを書いたから置いておくね
KΑBUTΩ
出会いのきっかけというのはいつも些細で一瞬なものだ。
引ったくりの現場に居合わせていた時だったり、
行きつけの豆腐屋で絹ごしを買おうとした時だったり、
女に怒鳴られた時だったり、
サッカーの試合に助っ人として参加した時だったり、
それは長い時間の流れの中で見れば本当に一瞬にしか過ぎない。
だが、その一瞬こそがこの俺――天の道を往き、総てを司る男、天道総司の未来を作りだした。
俺の手の中にある未来は全て一瞬の積み重ね。
あらゆる一瞬が俺の中で奇跡に姿を変え、培われていき1分……いや1秒前の俺を速く強く進化させていく。
進化。眩しい響きだ。
俺は既に人間という枠組みを越えて「天道総司」という誰も到達できないステージへと進化していた。
そして今回の出会いもやはり同じで俺を更に進化させた。
当然きっかけは些細で一瞬なもので……
「ねえ、お兄ちゃん。レストラン・アギトって知ってる?」
俺の妹である天道樹花の一言からだった。
(つづかない)
カブトについて語り合ってた時に「かぶと」をF7ではなく間違えてF9押して「kabuto」に変換しちゃったのがきっかけ
乙です
続け!続けよぉ!
「うおおおおおおあああああああああああああっ!!」
叫び声を上げて起き上がった仁藤は、自分が現実世界へ戻ったことに気づくのには少し時間がかかった。
息を荒げながら手を見る。バッタはいない。
両手で覆うように顔を触り、次いで体をまさぐる。バッタの感触はない。
最後に汗で湿ったシャツの襟を引っ張って首元から腹にかけてシャツの中を覗く。バッタはどこにも貼りついていなかった。
助かった…………
仁藤は自分が生きていることに実感が湧いてくると安堵の息をついた。
冷静になって辺りを見回すと自分が知らない部屋でベッドに寝かされていたことに気づいた。
ここが誰の部屋かは分からない。だが予想することは出来た。自分の着ているシャツは自分のじゃない。白地に青い文字でプリントされている「753」という数字。
まさか、と思った時に部屋の扉が開いた。
「起きたか。仁藤くん」
「やっぱりおっさんか」
部屋に入ってきた人物は仁藤が予想した通り名護だった。
「俺をここまで運んだのか?」
「ああ、弟子を見捨てる訳にはいくまい。あのファントムのことなら心配しなくていい。かなりの深手を負わせたはずだ」
名護はさも当然のように言った。
「そうかよ……」
仁藤は少し苦い顔で答えた。ちくしょう、と心の中で漏らす。
自分を倒した目の前の男にファントムに敗北した自分の姿を見られてしまったのが悔しかった。
しかも自分はズタボロになったのにあっちは涼しい顔で傷一つない。実力差を見せつけられた気がした。
「ここは俺の所属している組織が持っている仮住まいだ。俺はファンガイアの強硬派の動向を探るために外に出る」
言って、名護は仁藤にベッド近くに置いてある服を渡した。
「君のテントから適当に拝借してきた。風呂を使うなら好きに使ってくれ。ボタンを押せば勝手に沸く」
「そうさせてもらうぜ。ベタついてしょうがねえ」
名護が部屋を出ていくと仁藤は浴室へ向かった。
脱衣所で服を脱いだ仁藤は洗面台に映る自分の体をじっと見つめた。
体にバッタは一匹もついていない。それでもやはり気になって鏡に背中を向けて振りむき見たりして何度も確認した。
どうしてもキマイラとの精神世界でのバッタに喰われる自分が払拭できない。
「下らねえ。あんなのは所詮イメージだ。現実じゃねえ」
言葉にしてまとわりつく不安を追い出そうとする。
すると仁藤の腹が鳴った。不安とは無縁な腹の音を聞くと少し笑えた。
風呂からあがったら飯でも食いに行こうと決めた。
シャワーで体を洗い流して、少し熱めの風呂にはいる。まどろみにも似た心地よさが体を包む。リラックスした仁藤には先ほどまでの不安が消えていた。
「あのファントム……次は必ず食ってやるぜ!」
決意を固めて仁藤は意気込む。
その時、仁藤の耳に音が聞こえてきた。
「?」
天井を見上げる。備え付けられた換気扇の音だと思った。
それにしては音が違う気がした。空気が流れていく音がじゃない。もっと激しく振動する不気味な音だ。
仁藤はその音を知っていた。仁藤の中で一つの感情が沸き起こる。それは恐怖だった。
羽音だ。俺を喰らい尽くすあの羽音だ!
その瞬間だった。天井の換気扇のカバーが弾けるように外れると同時におびただしい数のバッタが降ってきた。
「うああああああああああああああっ!!」
仁藤は狂ったように叫んだ。浴槽の中でもがく。その拍子に浴槽の栓が抜けた。
浴槽の湯は減っていく代わりにバッタでいっぱいになっていく。
バッタで満たされた浴槽の中で、何百ともわからない6本脚が仁藤の体を蠢き、這い回る。
その不快感が仁藤を更に狂わして、あの精神世界での恐怖のイメージを加速させる。
「あああああっ! あああああああああああああっ!」
恐怖と絶望に駆られた仁藤はなおも叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
仁藤は身をよじりながら浴槽から飛び出した。パニックになったせいか体が上手く動けずに体が床に叩きつけられる。
うつぶせの姿勢から顔をあげると排水口が見えた。排水口の奥の真っ黒な空間からは羽音を立ててバッタが一匹また一匹とあふれる様に跳び出してきている。
仁藤は体を転がして浴室から勢いよく出た。
息が苦しい。全力疾走した後のように心臓が激しく高鳴っていた。
全身のすべての毛穴が開き、シャワーで流した汗が冷たくなって滲みでている。
仁藤は激しく震えながら浴室の方を見た。
浴室には何もいなかった。羽音も聞こえず換気扇の回る音だけがした。
「……………………くっそお」
瞳に涙が溜まってくる。拳を固く握り床に落とす。
「くっそっ! くっそおおっ! ちっくしょぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
仁藤はむせび泣くように叫びながら拳を何度も床に叩きつけた。
>>766
続いたらこのスレと同じで最初の勢いだけで後からグダグダになるよ……
乙です
age
仁藤はひとり、広場のベンチに座りながら風呂上りの後に予定していた食事をしていた。
あの部屋には一秒と長くいたくなかった。バッタが何処からでも湧いて出てきそうな気がした。キッチンの食器棚や冷蔵庫の中、テレビの裏、ベッドやソファーの下、目に見えない死角となってしまう部分から突然バッタたちがゾロゾロと出てくると思うとゾッとした。
特にトイレには入りたくなかった。浴室と同じで、いやそれ以上に狭い密室でバッタの入口の換気扇もある。そんなバッタの籠で大群に襲われたら今度こそ自分は壊れてしまう。
何処か広々とした場所にいこうと思った。視界を遮るものが少ない、なるべく平坦な場所へだ。
部屋から一番近くのコンビニで買えるだけの食料(おにぎりやパン、弁当など表向きから見える包装がビニールやプラスチックの全て透明なものばかり選んで、菓子の様に包装が派手だったり、缶詰のように中身が見えないものは一つとして買っていなかった)とマヨネーズを数本買うと買った商品にマヨネーズをかけて、それを食べながら周囲を気にしながら早足で広場に来た。
広場はその名の通り広々とした場所で、そこで談笑する人々や遊ぶ子供たちの笑顔を見ていると心が少しだけ楽になった。
だが、しばらくするとまたバッタのイメージが蘇ってくる。
バッタは小さい。何処からだって現れることが出来る。
もしかしたら自分が座っているベンチの下から、少し離れたところで遊び疲れた子供が喉を鳴らして飲んでいる水飲み場にある銀色の網目の側溝から出てくるかもしれない。
遠くに緑が生い茂る木が見える。目に見えないだけで、あの葉っぱ一枚一枚の裏にバッタが張りついているかもしれない。
頭にこびりつく絶望的なイメージはしつこくこびりついて消えない。
仁藤は食べる。食べ続けた。食べるのを止めてしまえば死んでしまうかのような勢いで食べる。貪るといった方が正しい。
普段なら美味いうまいと言いながら食事を楽しむ仁藤だが今は終始無言だった。味も食感も香りも気にせず無心で食べることで他のことを考える隙を与えない。自分の意識を殺して機械的に食事を摂ればバッタのイメージそのものは浮かび上がらなかった。
空腹は既に通り越して満腹になっていた。それでも仁藤は自分という器に食べ物とマヨネーズをひたすら詰め込んだ。
ふいに仁藤の手が空を掴んだ。何もない手。買った食べ物全てを胃袋に放り込んだようだ。
食物。何か食物はないのか。
大きめの白ビニール袋の中に手を突っ込んでみてもゴミを漁る音しかしない。
仁藤は反対の手に持っていたマヨネーズのチューブを口に含んで中身を吸った。1本、2本とチューブが空にしていく。マヨネーズのチューブも全て失くなった。仁藤はまた食べ物を探そうとした。だが既に食べ物もマヨネーズもない。
どうすりゃあいい……
仁藤は考えた。視点が落ちて自分の胸が目に入る。仁藤は自分の食べたものでいっぱいになっている内蔵の辺りを見つめた。
あるじゃねえか、食物。
名案を思いついた仁藤は早速実行しようとした。躊躇いはなかった。動物だってやっていることだ。なら人間がやってもおかしいことじゃない。人差し指を伸ばして口内の闇に突き指そうとする。
その時、悲鳴が聞こえてきた。
首をあげると広場の人が悲鳴をあげて逃げ惑い、それを無数の灰色のファントム・グールが奇っ怪な動きで追い詰めていた。
(灰色の木偶か……あんなものでも我の腹の足しにはなる。仁藤、分かっているな?)
頭の中でキマイラが狩りを命じる。ああ、と答えた仁藤はゆっくりと立ち上がる。
食物だ。今度はあれを食ってやるぜ。
仁藤は指輪をして構えると獲物であるファントムに狙いをすます。
途端、絶望のイメージが仁藤にフラッシュバックした。バッタのファントム、パズズの吐き出すバッタに全身を食い尽くされる自分が浮かぶ。
指輪をドライバーのソケットにはめようとした手が止まった。
(仁藤、何をしている。早く変身して我に魔力を捧げろ!)
キマイラは厳しい口調で狩りを促すが仁藤には届かなかった。仁藤の体は金縛りにあったように動かなかった。
「変身!」
すると別の方からイクサに変身した名護がグールの群れに飛び込んだ。
イクサは血の様に赤い刀身のイクサカリバーを振り回して灰色の怪物を次々と切り裂いていく。瞬く間にグールの群れを全滅した。
仁藤はその光景を他人事のように見ていた。ちょうどテレビでも見るように。
(仁藤! 貴様、臆したな!)
キマイラの怒号が仁藤の頭に響いた。臆病という単語が仁藤の癪に障った。
「んだと! 俺がビビってたっていうのかよ!」
咄嗟に反発する仁藤を無視してキマイラは続ける。
(ならば何故ビーストとなり戦わなかった。貴様と我の契約よもや忘れたとは言わせんぞ)
「それは」
(貴様は我の力を以て戦いの中に飛び込む。それは貴様自身を死に近づけることと同じ)
「分かりきったことを言いやがってだから何だってんだよ?」
(貴様は戦いの中の死を恐怖している。特に貴様を倒したあのファントムからもたらされる惨たらしい最後にな。だから力を振るおうとしなかった)
キマイラの――仁藤の中に巣食う力の主の言葉には有無を言わせぬ強さがあった。
仁藤は押し黙ることしかできなかった。キマイラは自分の中に宿っているファントムだ。当然、今日の自分の一部始終を見ているのだ。あの絶望のイメージに捕らわれて惨めに悲鳴をあげて、それから逃げようと一心不乱に食事をする自分を誰よりも近いところから見ていた。
(死の間際すら楽しもうとした貴様が死を恐怖する。実に滑稽だな)
キマイラは仁藤を嘲り笑う。その笑い声は仁藤の心をかき乱した。
「ああぁあああああっ! うるっせえよ!」
仁藤は怒鳴るとビーストドライバーを外して乱暴に地面へ叩きつけた。
キマイラとの繋がりが途切れて頭に響くキマイラの声は消えた。
仁藤は苛立ちを隠せない様子でその場から逃げるように走り去った。
「仁藤くん……」
そんな仁藤の背中を名護は見つめていた。
乙!
乙ー
乙
仁藤が名護の部屋で起きた頃、今川望――パズズも自室で目を覚ました。
体調はあまり良い方ではなく頭が重い。イクサに貫かれた腹部に触れると焼けるような痛みが走った。
望、と自分のゲートの名前を呼ぶ声がする。希がお湯の入った桶とタオルを持って部屋に入ってきた。
「起きたんだ」
「うん。いまさっきね」
「そう」
短い会話を交わしながら希は桶の中にタオルを浸して絞った。
その間に望はシャツの襟を引っ張り、脱ぐように見せかけて一瞬、腹の傷を確認した。特に傷跡はない。そのままシャツを脱いだ。
望はタオルを貰おうとしたが希は渡さなかった。
「私が拭いてあげる」
言いながら希は望のベッドの横に座った。スプリングが軋む音がする。二人の距離は近かった。
「え? 別に自分でやれるよ」
「いいから。いいから」
希は望の体を清拭し始めた。温かいタオルで望の、弟の、想い寄せる相手の裸身を撫でていく。
「びっくりしたんだからね。大きな音がしたかと思ったら、望が倒れていたんだよ」
「ごめん。自分で思っている以上に調子崩していたみたい」
嘘だ、と希は思った。調子を崩しただけであれ程にグッタリするとは考えられなかった。
でも望は自分に心配をかけないためにも本当のことは教えないで隠すに違いない。今もそうだった。だから希は深くは追求しなかった。
代わりに背中を拭きながら「重くて運ぶの大変だった」と愚痴ってたやった。
望は「じゃあ、痩せなくちゃね」と返した。
二人はしばらく笑いあった。
笑いが収まってくると希は望の背中にそっと触れた。
温かい。望、ちゃんと生きているんだ。
温もりを確かめるように背中に顔をうずめた。
「姉さん」
「良かった……本当に良かった……」
「…………」
姉の声と涙に望は困惑していた。
料理をしている時に包丁で指を切った時は泣いていた。だがどこか怪我をしている様には見えない。
恋愛ドラマや映画を見た時も泣いていた。それならば姉はテレビのあるリビングにいるはずだ。ここで思い出し泣きをしたとも思えない。
ならば何か泣きたくなる程に嫌なことがあったのだろうか。
望は過去の記憶を色々と探ってみるが今の希に近いケースが存在しなかった。
なあ、姉さん。どうして泣いているのさ?
望――パズズには希が泣いている理由が分からなかった。
乙ー
a
この姉弟好き
「姉さん。昨日の夕飯まだ残ってるかな?」
望は努めて優しい声で希に問いかけた。泣いている姉を安心させるためにはこういう態度をとるべきだと過去の記憶にあった。
「捨てるのも勿体ないからお昼ご飯にでもしようと思って冷蔵庫に入れてある」
「じゃあ温めてきてくれないかな。昨日の夜から何も食べてないから」
望は希と向き合い悪戯っぽく笑った。傷で痛む腹をさすって空腹を訴える。
「分かった。待っててね」
「あんまり温めすぎないでよ」
「望は熱いの苦手だもんね」
望の様子を見て、安心した希は部屋を出た。
部屋の外から聞こえる希の足音が遠ざかっていった時だった。
「見せつけてくれるわね」
何者かの声が望の部屋に響き渡った。望の顔が先ほどまでの姉に向けていた優しい表情から打って変わり敵意のある険しいものになった。
望は部屋の隅にある姿見の鏡に目をやった。
「覗き見とは嫌な趣味だな。それともそうやって俺たちの生活を見張っているのか?」
すると鏡は答えた。
「ファントムを管理するのは私の役目でもあるわ。ワイズマンに仇なすファントムが現れないようにね」
鏡に人間に化けたメデューサの姿が浮かび上がる。ミサだ。
ミサは鏡に映っているが望の部屋にはいない。魔力が像となって鏡に映っているのだ。
望はうんざりした。口うるさい鬱陶しい上司がやってきた気分だった。
「パズズ、いつまで寝ているの。早くお前のやるべきことをしなさい」
上司はノルマをこなすように小言を言いに来た。
「ゲートを絶望させることか。少し休ませてから行かせろ。既に魔法使いは一人始末した」
「古の魔法使いのこと?」
「指輪の魔法使いではないけれど魔法使いは魔法使いだ。これで邪魔するやつは減った。あとはゲートに死の恐怖を見せるだけだ。もういいだろ。消えてくれ」
目の前の鬱陶しい蛇のような女と顔を合わせていたくないので突き放すように言った。
するとミサは小さく笑う。小馬鹿にするような卑下な笑みだった。
「古の魔法使いは生きているわ」
「なに?」
望は鏡を睨む。どう考えても古の魔法使いが負ったダメージは致命傷のはず。生きているはずがない。
「古の魔法使いは治癒の魔法を持っているのよ」
「そういうことか」舌打ちする望。誤算だった。これでは仕切り直しだ。
「詰めが甘かったわね。トドメを刺さなかったの?」
「邪魔が入った。白い鎧の男……」
灼熱の光る剣を突き刺された痛みはハッキリと覚えている。魔法使いでもないのに人を遥かに超えた力をもつ男だった。
「あいつは何者だ」
「……ただの部外者よ」
望の問いにミサは一瞬だけ忌々しげな顔をして答えた。
「ともかくお前はまだ役割を果たしていない。なら分かっているわね?」
「ああ……」望はベッドから起き上がった。
「頑張りなさい。全てはワイズマンのために」ミサは珍しく優しい声を残して鏡から消えた。
望はタンスから使っていないバスタオルを取り出して姿見全体に被せた。
これで姿見は何も映せない。また覗かれるなんて冗談じゃない。
どうせ代わりはいるんだろ、点数稼ぎの蛇女。
乙ー
階段を下りたところで望の耳に小さな吐息が聞こえた。
リビングを覗くと椅子に座った希が眠っていた。望の無事に安心して昨日からの緊張が切れた影響だった。
心地よさげな姉の寝顔。望は姉の部屋までピンクのケープを取りにいき、希を起こさないように掛けた。
希の体に柔らかいピンクの花びらが添えられていく。やがてリビングに一輪の桃色の花が咲いた。
可憐な花になった姉を見て、望は姉の姿をてるてる坊主とからかったことを謝ろうと思った。
望はテーブルの自分の席に置いてある希が温めた昨日の夕飯を食べ始める。
捨ててしまってもよかったが、それは希に悪い。
主食、白米。合わせのひきわり納豆をかけて食べる。口の中が噛んだ米と糸を引く納豆で粘ついた。
主菜、秋刀魚の焼きポン酢漬け。焦げ目のつく小麦粉の衣にポン酢が染みて柔らかくなっていた。
副菜、卵焼き。黄色くて柔らかい。
付け合せ、きゅうりと白菜の漬物。汁っけがあって少し歯ごたえがあった。
汁物、豆腐とおくらの味噌汁。おくらが入っているので若干のとろみがあった。
最後に水を飲んで口の中を洗い流す。
こうして望は味の分からない温かい食事を済ませた。
食べた食器を洗い、片付けて外に出ようとした時だった。
そうだ。書置きを残しておこう。また心配させるといけない。
望はメモ用紙にペンを走らせた。文章を書きながら姉を見る。その目には強い意思が宿っていた。
「今度こそ終わらせてくるから……」
そう呟くと望は続きを書いた。
「いってきます」
望は家を出た。
姉さんへ
用事があるので外に出ています。遅くなるかもしれなけれど心配しないでください。
今度はちゃんと夕飯までには帰ってきます。
望より
追伸。昨日の夕飯、俺の好きな味付けでとっても美味しかったよ。ありがとう。また今度作ってよ。
更新来てた
こんな時間になんてものを…
味覚なんてないのにな…
あ
ソラとは違う意味で「人の心」を持ったファントムだな
家を出た望はその足でショッピングモールまでやって来た。モールにはたくさんの客で賑わっている。そこに望が狙うべきゲートはいなかった。
望には考えがあった。どうせゲートを狙っても魔法使いの邪魔が入るのは分かりきっている。ならば最初から魔法使いに狙いを定めてしまおう。
これだけ人の多い所で騒ぎを起こせば魔法使いも来るに違いない。望はゲートを絶望させる前に邪魔な魔法使いを倒そうとした。
今度は骨まで食い尽くしてしまおう。何も残らないくらい。全部。
望が事を起こそうとパズズに変わろうとした時、ひと組のカップルに目がいった。
カップルはショーウィンドウに飾られた白いウエディングドレスを見ながら幸せそうな顔で話している。片割れの女の左の薬指には指輪がついていた。
「ねえ、これすっごく可愛くない? あたし結婚式にこれ着たい!」
「はあ? バカ言ってんじゃねえよ。高すぎだ。レンタルで十分だろ」
「バカってなによ。一生に一度しか着ないのよ? だったら思いっきり贅沢したいじゃない!」
「あのな。そんな所に金を使うなら、その金で美味い飯食った方がいいに決まってるだろ」
「むぅ……」
「贅沢はそいつで我慢しろよ。三ヶ月分どころじゃねえんだから」
「これ、あれなんでしょ? ジル何とかじゃないんだっけ」
「ああ、本物だよ」
「それってあんたの気持ちが本物ってことだよね。あたしってば愛されてるーーっ!」
「おまえ、恥ずかしいやつだな。キモい」
「なに照れてんの?」
「うるせーーよ」
カップルは互いに幸せな顔をしていた。自分と姉もああいう風になれるだろうか。
望の記憶には希と一緒に外に出かけたことがなかった。きっと体の弱い希を気遣った結果なのだろう。
ふと望は思いついた。
これが終わったら姉さんと一緒に外へ出かけよう。遠くじゃなくてもいい。ただ家の近くをぐるりと周るだけでもいいから。
同じものを見て、同じ感覚を分かち合いたい。
なによりも最愛の姉と楽しい時間を過ごしたい。ちょうど、あのカップルのように。
望の中にそんなありふれた小さな希望が生まれた。
絶望から生まれたファントムの自分が希望を抱く。少しおかしかった。
……そろそろ始めるか。
これ以上カップルの顔を見ていたら自分の中で何かがぶれてしまいそうだった。
望の体が蜃気楼のように揺れると人間の体を捨てて、本来のパズズとしての姿に戻った。
バッタの異形になった瞬間、モールの中は恐怖と絶望の悲鳴でいっぱいになった。
パズズは魔石を放り投げてグールを生み出した。続けて大量のバッタを吐き出す。
グール達は手に持った武器で辺りを力任せに破壊し始めた。ショーウィンドウのガラスの割れる音があちこちで響く。
ガラス貼りの天井から見える青い空を黒く染めてしまう数のバッタ達は、不気味な羽音を立ててモールのあちこちに群がった。中には逃げた客が落とした食べ物に群がり食い漁るバッタの群れもあった。
破壊と蝗害は普段は客で賑わうモールの美しい景観をあっという間に真逆のものにした。
客たちは力の限り逃げ惑う。その中に先ほどのカップルもいた。カップルは愛する人を離さないように手を固く握りあいながら逃げていた。
「そうだ。逃げろ逃げろ!」パズズは煽った「絶望も追って来られないほど遠くにな!」
悲鳴が遠ざかるとパズズは割れたショーウィンドウに飾られたウエディングドレスに触れた。
ドレスは吐き出したバッタ達に食われて、無数の虫食い穴でボロボロの白布に変わり果てていた。
パズズがドレスを捨てると雷のような激しい音と共に近くにグールが転がってきた。
グールの胸から煙が吹いていた。
客が逃げていった方向からこちらに近づく足音があった。
そこにはイクサナックルを突き出すように構えている名護がいた。
パズズの腹の傷が疼いた。
「またお前か」
「それは俺の台詞だ。今度こそ仁藤くんの借りを返してもらう」
名護は振り返ることなくナックルを後ろ手に突き出した。激しい音と放電を伴う衝撃波が放たれると名護を後ろから襲おうとしたグールは黒焦げになった。
「変身!」
名護はイクサに変身するとそのままバーストモードへ移行し、パズズにイクサカリバーのガンモードで射撃した。パズズは小さく横に跳んでかわす。
「ちょうどいい。魔法使いでなくてもお前は邪魔だ。ここで消してやる」
パズズの体から無数の羽音が響いいてくる。イクサは構えた。するとイクサの足元で爆発が起こった。パズズの攻撃ではない。新手だった。
「手伝ってあげるわよ。パズズ」
パズズの後ろから歩いてきたのはミサだった。ミサはイクサの前に出ると苦しく転がっているグールを冷たい目で見下ろす。
「役立たずね」
邪魔な小石を蹴るようにしてグールの顔面がミサの足で飛ばされた。
「お前、ファントムを狩ってくれたわね。バジリスクや何体ものグール。おまけに今度はパズズまで」
イクサを見るミサの瞳に怒りが宿る。空気が恐るように震えだした。
「ワイズマンの計画の邪魔をして……」
ミサの黒髪が怒りに呼応するように伸び始めた。地面についてもまだ余ってしまう程に伸びた黒髪は複雑に絡み合い、無数の黒い束を作った。束のひとつひとつは蛇のようにしなり動く。
頭から黒い蛇を生やしたミサは蛇を自分の体に巻きつかせた。蛇たちはミサの肌にくい込みほどに深く絡みつく。
蛇に抱かれたミサは熱い吐息を漏らした。ミサの体が人からファントムへと変わっていく。
自分の仕える主のために力を使う。それがミサには堪らなかった。
ワイズマン、貴方の邪魔は誰にもさせません。私が貴方の希望を叶えましょう。ゲートも必ず絶望させます。その為なら私はどれだけのファントムも犠牲にします。貴方の喜びが何もない私を満たしてくれる。貴方の希望を邪魔するものがいるならば私が総て排除します。魔法使いも、この街にきた黒い怪物たちも、そして目の前の鎧の男も。
「私はお前を許さない!」
ミサはファントム・メデューサへと姿を変えた。
乙ー
d
a
名護さんは最高です!
仁藤はテントの中で横になっていた。外は太陽が昇っている昼時だが、閉め切ったテントの中は薄暗い。
「俺はビビってなんかねえ……」
キマイラの臆している、という言葉に言い返すように、そして自分に言い聞かせるように口にした。だが、その言葉は弱々しかった。いつものエネルギーに漲った面影はどこにもなかった。
自分が死を恐れているなんてバカな話だ。ビーストドライバーを手にして、キマイラを体に宿してからの自分は命懸けの生活を送っていた。
ファントムとの戦いの中で命を落とす可能性だってある。仮に戦いで命を落とさなくてもキマイラに喰わせる魔力という餌が底を尽きたらキマイラに喰われる。
自分には死がつきまとっているのだ。だが死を恐れたことはなかった。
幼い頃から好奇心のままに生きてきた仁藤には死というものを真面目に考えたことなど無かった。死ぬ時は死ぬ。そんな程度の考えだった。
仁藤にとってビーストの力を使う上での死の危険など精々自分の人生を面白くするスパイスでしかない。
死の危険など知ったことではない。そんなことより誰も触れたことのない神秘的な古代の力を使う楽しみの方が圧倒的に強かった。命懸けの生活故にとても刹那的な生き方だった。
死ぬ時は死ぬ。そんな程度の考え。
だが今は違った。仁藤はパズズとの戦いで死を恐れてしまっていた。大量のバッタに喰われていく自分の体。惨たらしい自分の最後がいつまでも頭から離れない。
死の恐怖で絶望しろ!
いつも下らないと思っていたファントムお決まりの台詞が今ではその意味が分かる気がした。
明確な死のイメージが休むことなく襲ってきて怯える。
それこそ心の支え――希望になってくれる、こんな恐怖をぶっ飛ばしてくれそうな魔法使いでもいなきゃ狂ってしまいそうだ。頭に戦友でありライバルでもある指輪の魔法使いの姿が浮かんだ。
「晴人……アイツなら俺の希望に」
そこまで呟きかけて仁藤は慌てて頭を横に振った。
ふざけんな! それじゃあ俺がアイツに負けたみてえじゃねえか!
仁藤はライバルに甘えようとした自分にどうしよもない程の怒りが込み上がった。
晴人は自分の全てを投げ打ってでも絶望から多くの人の希望を守る魔法使い。その覚悟は並大抵のものではないと仁藤は知っていたし、尊敬もしていた。
だからこそ同じ魔法使いとして、男として晴人に負ける訳にはいかない。
もし晴人が今の自分のように追い詰められたらどうするだろうか。きっと晴人は逃げないで戦うに違いない。操真晴人とはそういう男だ。
俺はどうだ、仁藤功介?
仁藤は自分に問いてみた。
俺はこんなところビクビクして引きこもってるような男なのか?
ちげえだろ。
死の恐怖?
所詮は訳のわかんねえ妄想じゃねえか。俺はまだ死んでもいねえし死ぬつもりもねえ。
俺は晴人に勝つ男だ。
アイツに出来ることが俺にできねえわけねえじゃねえか!
大体よ……そもそも逃げるってのが俺の中でありえねえんだよ。
自問自答する内に仁藤の中で闘志が燃えてきた。
その時、テントの中に鳥のような鳴き声をあげながら使い魔のグリフォンが入ってきた。
グリフォンが来た理由は一つしかない。獲物を見つけたのだ。
仁藤は立ち上がり、楽しそうに笑う。
そうだ。俺にとってこの死の恐怖ってやつも今まで感じたこともねえ未知の領域だ。
知らねえことがあったらどうする?
答えは既に出ている。仁藤はテントを飛びだす。
「逃げるよりも立ち向かって、飛び込んだ方がおもしれえっ!!」
乙ー
あ
ほ
a
イクサの武器イクサカリバーが数度振るわれる。パズズはイクサの剣を身を翻してかわした。切っ先が体を横切る度に背中に悪寒が走る。
イクサカリバーの刀身ブラッディ・エッジが描く紅い弧は鮮血が飛び散ったように見えて、自分が斬られたのかと錯覚すらした。
集中して見切らなければならない。でなければ本当に自分の血が飛び散ってしまう。
それほどまでにイクサを操る名護の戦士としての剣の腕前は凄まじく、一太刀一太刀に気迫がこもっており正確だった。徐々に追い詰められている。
「はぁっ!!」
イクサはパズズに斬りかかろうとした。だが自分を飲み込もうとする巨大な殺意を感じ取るとすぐさまに体の向きを変えて、殺意を剣で受け止める。
激しい火花が飛ぶ。殺意の正体はメデューサの杖の武器『アロガント』だった。
「お前も、もう一人の鎧の男も、あの化物たちも、魔法使いも、私以外のファントムも……全部邪魔なのよ。消えろ……消えてしまえ!!」
激しい感情を顕にするメデューサのアロガントがイクサを襲う。メデューサの攻撃は蛇のように執拗で止まることなく続いた。
イクサはメデューサの攻撃を捌き、反撃を試みようとした。しかしイクサのモニターに襲いかかってくるパズズが映されていた。
メデューサを蹴り飛ばしてパズズと相対しようとした瞬間イクサの視界が激しく揺れる。イクサのマスクを力いっぱい殴られた。
次は胸部の装甲。高速移動と長距離ジャンプを可能とするパズズの脚から放たれる強烈なローリングソバットがマトモにはいった。
イクサはショッピングモール内の無人の喫茶店へ吹っ飛ばされた。破壊されたイスやテーブル、ガラス片をどかしながら立ち上がり体勢を整えるイクサ。
モニターには直撃を受けた胸部に備えられたソルエンジンの出力が落ちていることが警告として表示されていた。
状況は劣勢。だが敵は目の前にいる。逃げるわけにはいかない。戦士に後退はないのだ。
イクサは剣を構えてメデューサとパズズに立ち向かった。
パズズの顎が大きく開くとバッタの大群が津波のように吐き出された。イクサは銀色のフエッスルを読み込ませてブロウクンファングで相殺する。
その隙を突くように強大な蛇がイクサに絡みつく。メデューサの頭部から生えている蛇たちだ。
イクサは脱出しようと力をいれるが蛇は荒縄のように四肢をキツく縛りあげて解くことはできなかった。
「爆ぜなさい」
メデューサが睨みを効かせた瞬間、イクサの全身がスパークしてあちこちから爆発が起きた。魔力をエネルギーとして送り込まれてイクサのシステムのあちこちで回路がショートしたのだ。
「があああああっ!!」
拘束されたまま全身を焼かれるイクサの凄惨な光景。この世の悪を裁く崇高な使命をもった聖なる存在が磔と火炙りを受ける。名護の全身に激痛と屈辱が容赦なく襲った。
やがてイクサは膝から崩れ落ちた。イクサの姿が解除されて生身の名護の姿に戻る。
二体のファントムが死刑を執行するかのようにゆっくりと名護に近づいてきた。
「さあ、お別れよ。死の恐怖で絶望しなさい」
無様に地面に伏す名護を見下ろしながらメデューサは嘲笑い、アロガントを先を名護に突きつける。
「俺を舐めるな……」
「なんですって?」
「お前たちに、この俺の……名護啓介の魂を汚せはしない」
名護はボロボロの体を気力で起き上がらせてイクサナックルで変身しようとする。絶望的な状況でも、その瞳は闘志で燃え盛っていた。
名護は少しも諦めていない。
その抵抗が余裕な態度をしていたメデューサを怒りで爆発させた。
「ならば絶望する間もなく死になさい!」
トドメを刺そうとアロガントを振り上げた、その時だった。
「うおおおおおおおおっ!」
仁藤が全速力で走ってきてメデューサに体当たりをした。
息を切らしながら苦しそうに立つ仁藤を名護は驚いた。
「何をしに来たんだ、仁藤くん。逃げ出した、君が」
仁藤の背中に向かって名護が厳しい言葉をぶつけた。
「俺は……どうしようもねえバカだ」
仁藤は大きくため息をついた。
死の恐怖に取り憑かれ怯える自分。戦うことを恐れて古の力を宿した神秘の魔法具ビーストドライバーを手放した自分。ライバルにすがろうとした自分。
「逃げるなんて俺じゃねえんだよ」
余りにも、余りにも自分らしくない。それが気に入らない。
「俺は俺であることを取り戻すために来た!」
仁藤はパズズに指をさして力強く宣言する。
「だから、まずはてめえを食ってケジメをつける」
ファントムと向かい合う仁藤に、もはやバッタの大群のーー死の恐怖のイメージは浮かばなかった。完全に吹っ切れた。不敵な笑さへ浮かべてる。
すると仁藤の元へ何かが飛んできた。仁藤はキャッチすると自分の手の中に収まった「それ」を見つめた。
「おっさん、これ……」
仁藤の手に握られていたのは檻のような装飾が施されたベルトのバックル――ビーストドライバーだった。
「俺が回収していた。もしもの時にな。仁藤くん、使いなさい。君のその強い心のままに!」
「ありがてえ!」
自称コーチからの激励を受けた仁藤はビーストドライバーを装着した。その瞬間ドライバーを通して仁藤とキマイラが繋がった。
金色の砂が舞う闇の中で魔獣キマイラは佇んでいた。その表情は読めない。
「キマイラ……」
ビーストドライバーを外して一度は力を放棄したことへの謝罪や自分の弱さを指摘してくれたことへの感謝、これからの自分の決意や覚悟、伝えたいことが沢山あって上手く言葉にできなかった。
「皆まで言うな」
キマイラは仁藤の気持ちを察しているかのように仁藤の口癖をいった。
「んだよ、それ。俺のセリフじゃねえか」照れ隠しに悪態をつく。
「それより仁藤、我は腹が減った」
「ああ、極上の一品を用意してやるよ」
「期待しておこう。存分に働くがいい!」
キマイラの巨大な体が金色の砂となって仁藤の体に吸い込まれていくと仁藤は現実世界に意識が戻った。
「いくぞ、仁藤くん」名護は仁藤と隣でイクサナックルを構えていた。
「ああ、やろうぜ……コーチ!」
「ふむ、ようやく認めてくれたか」
「ボロボロでもくたばるんじゃねえぞ。俺はあんたを超えるんだからな。それが弟子の役目だろ?」
「超えられない存在だからこそ師匠なのだがな」
「へっ、言ってろよ……」
ドライバーオン!
レ・デ・ィ……
「「変身!!」」
セット! オープン! L! I! O! N! ライオーン!
イ・ク・サ・フィ・ス・ト・オ・ン……
仁藤と名護は同時に変身する。金色の魔法陣とイクサのフレームがそれぞれの体に重なるとビーストとイクサが姿を現した。
ダイスサーベルを取り出すビーストとイクサカリバーを取り出すイクサ。二人はその剣を二体のファントムに向けた。
「ファントム……その命!!」
「俺に捧げな!!」
名護さんと仁藤を絡ませたのは最後の二行を言わせたかったから、というのが出発点
乙です
乙。
キマイラもドラゴンもウィザード終盤になると大分好感度が高くなってるからな
ほとんど味方みたいなもん
ほ
a
待ってるよ
ゴーストもウィザードと相性良さそうだなと思った
生きてる、サボリ気味だけど書いてる
>>805
アイコンの魂を封じ込めてるって要はシールフエッスルの派生だもんね
(酉見えてます)
待ってるぞい
保守
age
2年ぶりに見にきたらまだ落ちてなくてびびった
面白いし少し暗い更新遅いのは気にしない
ビーストはサーベルを振るってパズズに斬りかかる。
しかし切っ先はパズズの体に届かなかった。パズズは持ち前の脚を活かして既にビーストの横に回り込んでいたからだ。ビーストの肩に容赦なく拳が叩き込まれる。
痛みに耐えながらビーストはサーベルを横に薙いで反撃を試みようとしたが遅い。パズズは背後にいた。背中に激しい衝撃が走った。
「仁藤くん! そいつは見てからでは遅い! 動きを読みなさい!」
メデューサと剣を鍔競り合わせながらイクサはアドバイスを飛ばした。
確かに今のままではパズズのスピードに翻弄されて一方的にやられるだけだ。それはビーストも理解していた。
(何か……何かねえか)
思案するビーストを他所にパズズは全身に力を込めると一瞬で姿を消した。高速移動するパズズを目で追うことは不可能だった。
イクサの様にスーパーテクノロジーの塊であればセンサーなどが補助に入ってくれるだろうがビーストにはそういった機能は一切ない。魔法で強化された身一つで戦わなえればならなかった。
それでもビーストは勝つために考えた。
古の魔法使いビースト。その力は名前の示す通り、獣の力を具現させることだ。
相手を見つける。そんな都合のいい力をもった動物が……
「あった!」
ビーストは閃いた。
「あったぜ! 敵の位置がしっかり分かるのがよぉっ!」
ビーストは右中指に紫色の指輪をはめてソケットにはめ込む。
ドルフィン! ゴー! ドッ! ドッ! ドッ! ドルフィン!
ビーストに紫色のマントとイルカの像が出現した。
「見えなくたって消えた訳じゃねえんだ。だったら」
右肩のイルカの像を正面にして構えをとるビースト。
「キュイーッ!」
鳴き声が響くとイルカの像からは魔力の込められた音波が放射された。ビーストの耳には自分だけ聞こえる音波の反響音が静かに響いた。反響音に耳を傾けて、獲物の位置を把握する。暗い海の中にいるような気分だった。
体を僅かに動かしていきながら別の場所に音波を飛ばして反響音を拾っていく。
敵の位置さへ分かれば怖いことはない。だが見つからなければ意味がない。もしパズズに自分のやっていることがただの警戒ではなく、索敵だとバレてしまえば勝負を決めにこられてしまう。ビーストの鼓動が緊張で早くなった。
方向、距離、大きさ、形。目にはけして見えないが反響音は極めて正確なパズズの情報をビーストに優しく囁いて教えてくれる。
(まだだ。まだ遠い。もう少し……)
獲物が近づいてくる。
(溜めて……)
ギリギリまで引きつける。
(ここだ!)
確信を持ってビーストは跳ねた。狙うは一点。こちらに突っ込んでくるパズズだ。
「キュイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
雄叫びをあげながらビーストはサーベルを突き刺すように力いっぱい前に出した。
次の瞬間、まるでサーベルの切っ先に吸い寄せられるようにパズズの腹部が深く刺さった。奇しくも以前イクサとの戦いでやられた箇所と同じだった。
ビーストはここぞとばかりに攻め立てる。サーベルのダイスをロールし、指輪を装填させてセイバーストライクを発動させる。
サーベルを引き抜くと同時に三匹のイルカがパズズを襲った。防御をする間もなくパズズはイルカの魔法弾をくらい地面に転がった。
「メインディッシュだ!」
ビーストが指輪をドライバーのソケットにはめ込むと詠唱が始まった。
キックストライク! ゴー! ドルフィン! ミックス!
詠唱と同時にビーストの足に黄金のイルカの頭が具現した。黄金のイルカは一度鳴くと泳ぐように優雅に地面を滑り出した。
「キュイーーーーーー!」
イルカが跳ねると同時にストライクビースト・ドルフィンミックスが炸裂した。
パズズに渾身の一撃を叩き込んだビーストは蹴りの反動を利用して宙に舞った。
体を何度もひねりながら舞う姿は水族館のイルカショーの締め括りを飾る派手な大ジャンプの様だった。
着地するとビーストはパズズを見据えた。パズズの姿が人間のものへと変わった。
パズズ――望は立っていることも出来ずよろよろと力なく膝から落ちた。自分の体から魔力が消えていくのを感じる。
何が起きているか理解が追いつかない。分からない
望は過去の記憶を探った。こんな経験をした時、どうすればいいか答えがあるかもしれない。だが幾ら探しても記憶の引き出しからは何も出てこなかった。
どうやらゲートはこんな経験をしたことが無いようだ。
両手を覗き込むと金色の砂が煙のようにたっていた。砂は一筋の道を描きながら今さっき自分と戦っていた古の魔法使いのベルトへと運ばれていた。
望は理解した。
そうか。俺は死ぬのか。
死というの初めての経験に望はどうすればいいか分からなかった。望はもう一度記憶を探った。生まれることと死ぬことは人にとって生涯一度きりの経験。見つかるはずが無かった。
しかし望には一度死んだ過去があった。望は記憶を振り返る。
どことも分からない小島。集められた見知らぬ人々。突然の日食。不気味に輝く地面。叫びと共に人がファントムへと変わっていく有様。
望――パズズが産まれた日の光景だった。
記憶の中で望は絶望に飲み込まれていた。体中に亀裂が走り、もう間もなく自分が誕生しそうだった。すると望の口が動いた。
ね、え…………さ、ん。
次の瞬間、望の全身が弾けとんだ。代わってバッタのファントムの姿をした自分が立っていた。
望は理解した。
そうか。死ぬ時は姉さんの事を考えればいいのか。
望は記憶の引き出しにある希と過ごした日々を漁りだした。朝起こす時や一緒に食事をとる時、大学での他愛ない話をする時、ソファーに並んでテレビを見る時、おやすみの時にゆっくりとベッドに連れていく時、毎日が似たようなことの繰り返しで特別なことは何も無かった。
それでも記憶の中にいる希は自分と一緒にいて嬉しそうに笑っていた。希の笑顔を見ている望もまた笑顔だった。姉弟は幸せな毎日を送っていた。
体が軽く感じる。もう自分は死ぬのだ。それでも望は自分の死に絶望することはなかった。
今この胸にあるのは姉と過ごした日々への喜びだけだった。
姉さん――希…………ありがとう。
やがて望の体全てが金色の砂になってビーストのベルトへ消えた。
サガがようやく立体化みたいね嬉しい
乙
おつ
乙です
乙
パズズ…いや、望の最後に涙出た
このSSまだ続いてたのか(困惑)
全く上げられないから気付かなかったンゴ……
定期的に上げた方が良くない?
乙
乙!待ってた
オツカーレ!
生きとったんか!
乙
仮面ライダーアマゾンズが出たね。
制限なしで、昭和当時のままで思いっきりやってくれると嬉しいなぁ
保守
>>826
グロ
保守
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