さやか「全てを守れるほど強くなりたい」2(478)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344868298/
の次スレ

|壁|∀・*)ミー… (・∀・*)隠れてるツモリカ?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365335464

乙!

サイトでもピクシブでもいいから今まで書いた奴をまとめるべき
気が向いたらでいいんだけどさ

>>1の過去作品があるならぜひとも教えてほしいです

>>6
思い出せない…私は何者だ

>>7
やっぱりそれか一気に見てたらこんな時間!
あの作品は本当に大好きなやつだわ
>>1のほむほむはいつもカワイソス

の作者だと思ったが、他の過去作は知らない。

その、ほーむずスレの末期だったかで、誰かが>>1の過去作を紹介してたけど、
まどマギ関係のはなかったな。

前スレ995が書いた、
>なぜ未完の作品を書かないんですか!
の意味が分からない。
あの一覧の中に未完作があるのかな?

消しゴムとか

幼女の話とか

スレタイkwsk


さやか「じゃあ、もう来るんだね?」

恭介「ああ、松葉杖ついてでも、ちゃんと学生をやってみせるさ」


両腕に杖を抱えた恭介が病室内を歩いている。

リハビリの時間は設けられているが、それだけでは全然足りないということだ。


恭介「左手は絶望的といってもさ、逆に考えてみればさ、別に利き手じゃないんだぜ」

恭介「確かに楽器は難しいかもしれないよ。でも、他の事ならいくらでも出来るはずだよね」


良い顔をするようになった。

無茶をしているわけでもない。強がりではない。

病室の隅に積まれている学校用の道具が、恭介の前向きな気持ちを表していた。


さやか「学校の勉強も、ちゃんとやらないといけないしね」

恭介「ああ、さすがにこれから取り返していかないと大変だよ」

さやか「へへ、さやかちゃんが懇切丁寧に教えてしんぜようか」

恭介「いやいや、そこまで困ってるわけじゃないさ……けど受験の時は、少し頼むかも」

さやか「うむ、どんどん頼りたまえ」


テーブルの上には、見慣れない管楽器関係の本がいくつか置かれている。

あの本の中から、もしかしたら、恭介は新たな道を見つけたのかもしれない。

この恭介はいい恭介

子供に優しく金持ちだ~
おお恭介よフォーエバーソーファイン


ほむらは恭介を知っていたのだ。

だから、転校してきてすぐに、彼の病院を訪れた。

私が深く関わっている人物なのだから、それは当然の事だ。


さやか(未来から来た。それだけで、随分と色々な疑問が解決した気がするよ)


もちろん本人は全てを語ったわけじゃない。

長い間繰り返してきたのだ、その全てを事細かに言えるはずもないだろう。言いたくないことだってあるはずだ。


私の中でまだ腑に落ちない点もいくらか残ってはいるが、そこはミステリアスなほむらの謎ということで、保留のままにしておこうと思う。


まどか「あれ?もう良いの?」

さやか「うん、すっげー元気そうだったよ。そろそろ復学するんだってさ」

まどか「本当?良かったねぇ」


さて。

今日は日曜日ということで、まどかと一緒にお出かけしている最中だ。

恭介の見舞いに付き合ってもらい、これからマミさんと合流する所である。


ほむらから話は通っているらしく、数日ぶりの再開ではちょっぴり涙目だった。

杏子との決闘のくだりもしっかり伝わっているらしい。


マミさんはどういう反応で迎えてくれるのだろうか。

私、ちょっぴり怖いです。


まどか「ねえ、さやかちゃん」

さやか「ん、なに?」

まどか「杏子ちゃん、嫌いじゃないんでしょ」

さやか「……」


なーんでわかっちゃうかな、まどかには。


まどか「今日のさやかちゃん、すっごく気分良さそうだもん」

さやか「へへ、顔に出てた?」

まどか「さやかちゃん、顔色読むのは上手だけど、顔色隠すのは得意じゃないもんね」

さやか「む、むむ……」


言われてから、携帯のブラックモニターにむっつり真顔を映してみる。


まどか「杏子ちゃんと喧嘩して大変なことになったって、ほむらちゃんは言ってたけど、そんなにひどい喧嘩じゃなかったんだね」

さやか「ははは、まぁ、ひどいっちゃひどいんだけどねー……」


後腐れが一切無いっていうのは、そうだけどね。


まどかマジ良妻


私が杏子とバカしてた間、マミさんはまどかを連れて魔女退治を続けていたらしい。

ほむらも居ないのに、一対一でのレクチャーとは。魔法の新技を身につけてから得た自信は、かなり大きいようだ。

私もその気持ちはよくわかる。強くなったんだから油断ってわけじゃない。ま、浮かれちゃってますね、ってことかな。


さやか「こんちわっす」

マミ「美樹さん」


橋の下では、マミさんが黄色いバランスボールのようなものに腰かけて待っていた。

ボールから立ち上がると私たちに手を振って、しかしすぐに頬を膨らませ、むくれた。


マミ「また無茶をしてっ。佐倉さんと戦ったんですって?」

さやか「面目次第も反省もございません」

まどか「えー」

マミ「開き直らないの」

さやか「いやいや、でもマミさん、杏子との戦いで、私も成長したっていうか」

マミ「良い訳無用っ! 勝手に危険なことをして、万が一があったらどうするの!」

さやか「はい……」

まどか「そうだよ、すごく心配したんだからね?」


バランスボールが帯状に解け、一条の長いリボンとなって地面に落ちる。


さやか「あ……それ」

マミ「ああ、これはちょっとね。自分の魔法、やっぱり色々と試しているのよ」

さやか「はぁ……」

マミ「……けど、これはこれ。自分の力を試してみたい気持ちはわかるわ。でも、死んでしまうような無茶はいけないわ。私たちは友達で、仲間なんだもの」

さやか「すみません……」

マミ「わかればいーんです」


優しいお説教を終えると、話の流れは手作りお菓子や、手作り紅茶の方面へと変わっていった。

数日振りの世間話にほっこりし、またマミさんとも、ほむらから送られてきたメールについての話で盛り上がりもした。

とにかくほむらがやってくるまでは、そんなとりとめもない、しかし掛け替えのない日常を過ごしていたわけだ。


まどか「それでですね、ユウカちゃんたら自分から……」

マミ「あらまあ、そうなの?」

さやか「もうみんな大爆笑ですよー、だって顔真っ赤にして、本当にふやけるまで舐めるもんだから……」

「遅れてごめんなさい」


鉄橋に声が反射し、響いた。

土手の上を見上げれば、そこにはほむらの姿が認められた。


さやか「こら、遅いぞー」

ほむら「色々とまとめていたのよ、でもごめんなさい」

マミ「ううん、気にしてないわ」

まどか「やっほー、ほむらちゃん」

ほむら「……や、やっほ」

無理すんなww

かわええww

これはメガほむww


4人が揃い、ほむらの用意した折りたたみのキャンプ用チェアに腰を下ろした。

焚き火を囲うわけではなく、あくまで長話をするためのものだ。


マミ「メールで、話があると聞いたけど……」

まどか「私も聞いてていいのかな」

ほむら「ええ、決心がついたから、みんなに聞いてもらうつもりよ」


それは今までひたすら隠してきた事実をさらけ出す決心だ。

一気に関係が崩れるかもしれない。そんな突飛な、しかし事実を打ち明けるのだ。

今の、それを傍で見守る立場になった私がようやく解ったことだが、話し始めるほむらの恐れは、並ではないだろう。


ほむら「これから、みんなとはより一層、深い付き合いになってゆかなければならないから……その上で聞いて欲しいの」


ほむらは言葉のひとつひとつを選んで、ゆっくりと話し始めた。

まずはワルプルギスの夜についての事から、それを倒すための準備を整えていること、それは至上の目的であるということ。

そして自分の過去の話へ推移していった。


マミさんは黙って、時々小さく頷きながら聞いていた。

ほむらの話す様子をじっと、見守るように眺め、時々も言葉は挟まない。


まどかは両手を膝の上で結び、小さな震えを閉じ込めながら、ほむらの告白に耳を傾けていた。

彼女には珍しいことだけど、その間、一度も地面を見なかった。


ほむら「私はずっと繰り返し続けてきた……」


未来からやってきたほむらの告白は、きっと二人に受け入れられている。

短い数日間の付き合いだけれど、それでもほむらが今になって酔狂な御伽噺をするとは、誰も思っていない。


QB「……」

さやか「……」


いつの間にかほむらの後ろに現れた白猫も、それを疑ってはいないだろう。

逆にキュゥべえの存在は、話を裏付ける良い役目になってくれるかもしれない。


川の流れだけを背景音に、話は続き、そして終わった。

終始誰も声を荒げず、思いのほかスムーズに、だからこそそれに戸惑うように、ほむらは告白を終えた。


さやか「お疲れ」

ほむら「……ええ」

あんこちゃんにも話してやらんのか

さやかいいな


マミ「……鹿目さんにそんな力が隠されていたなんて、驚きだわ」


まどかとマミさんの表情を入れ替えたくなるほどに静かに、マミさんは言った。


マミ「魔法少女が魔女に。それが本当なら、鹿目さんの契約を阻止する今までの行動が、納得できるわね」

ほむら「信じて欲しい」

マミ「どうなの? キュゥべえ」


目を見開いたほむらの後ろで、キュゥべえが尻尾を振る。


QB「驚いた。仮説程度にしか考えていなかったけど、まさか本当に暁美ほむら、君が時間遡行者だったとは」

ほむら「いつから」

QB「最初から聞いていたよ」

ほむら「……」


鋭い目が忌々しげに白猫を睨む。

この時、なるほど。キュゥべえを忌む訳が明らかになった。


まどか「ほむらちゃん……ずっと、私なんかのために頑張ってきたんだね」

ほむら「……自分を卑下しないで、まどか」

まどか「……ごめん、そうだね、それがいけないんだよね」

さやか「うん」

まどか「大丈夫……うん。わかったよ、ほむらちゃん」

ほむら「まどか?」

まどか「安心して、私、大丈夫だから。もう、絶対に契約しないから」

ほむら「……」


普段は弱気なまどかも、今は決意を込めた目で、ほむらにそう言ってみせた。

ほむらはただ頷いた。


マミ「ねえキュゥべえ、どうしてそんなことを隠してたの? ソウルジェムが、グリーフシードになるだなんて」

QB「聞かれなかったから言わなかっただけだよ」

マミ「聞かれなきゃ言わないなんて、聞きようがないじゃないの。それって詐欺よ」

さやか「あっはは、確かに」

マミ「……」

さやか「すみません」


皆がキュゥべえを囲んでの、剣幕な雰囲気にあった。

気まずい。実に気まずい。


まどか「……ねえ、キュゥべえの目的って、その、本当に、私達を魔女にすることなの?」

QB「限界まで使用したグリーフシードを回収することが目的だよ」

さやか「そのための魔法少女の精神“ケア”は怠らないってことでしょ?」

QB「もちろんだよ」

さやか「悪い方向にも、良い方向にも動かせる。まぁ、必要に応じて、魔法少女への接し方も変えるってことね」


キュゥべえが私の方へ顔を向けた。

意識せざるを得なくなった、ということだ。

顔をずっと向ける、目を逸らせない、それがどういう意味を持ち、人にどう映るのか、心を持たないキュゥべえにはわからないだろう。


さやか「まぁでも、私はキュゥべえの言葉に心動かされることはないだろうし、魔法の力をくれたことには感謝してるから、良いんだけどね」

QB「さやか、僕が言うのも何だけど」

さやか「ん?」

QB「君は変わっているね」

さやか「ほんと、何だね」


河原のこの場の空気が、少しだけ暖かくなった気がした。

このメンタルの強さは凄いな
マミさん含め

さやかちゃん安定してるな

さやかかっこいい


マミ「……お茶菓子はつまみ食いするし、飲み物の器はよくひっくり返すし。キュゥべえは本当に嫌な子ね」

QB「嫌な子って」

ほむら「駆除すべき害獣よ、嫌なんてものじゃない」

QB「害獣って」

さやか「獣なんでしょ?」

QB「宇宙知性体と呼んでもらいたいな」


白猫を指すには、ちょっとばかし仰々しい呼び方すぎやしないかな。

テクノロジーは遥かに上の存在なんだろうけどさ。


マミ「でも、今までキュゥべえのおかげで私が魔法少女を続けてこれたっていうのも、変わらない事実だわ」

ほむら「……あなた」

マミ「だから、キュゥべえ。あなたはもう当分の間、おやつ抜きよ」

QB「そんなー」


“そんな”じゃないだろ当たり前だアホー。

声を荒げてやりたい気持ちを抑えつつ、さて。話を転換する咳払いをひとつ。


さやか「けどほむらの話だと、キュゥべえは嘘をつかないんだよね」

QB「僕らはそういう生き物ではないからね」

さやか「なら安心だね……ワルプルギス対策のために、さてと」

QB「え?」


ひょい、と白猫を持ち上げる。

顔を両手でしっかりとホールドし、私の目の前に。


さやか「んっふっふ……逃がさぬぞよー……」

QB「……」

まどか「さやかちゃん、怖い」


さやか「ねえキュゥべえ」

QB「何かな」

さやか「ワルプルギスの夜って、魔女なの?」

QB「ワルプルギスの夜は魔女だよ。その強大な力で数多の文明を、または都市を葬り去って来た」

さやか「ワルプルギスの夜が倒されたことってある?」

QB「これから来る魔女だよ?」

さやか「グリーフシードになったワルプルギスの夜が、また孵化して魔女に戻らないとも限らないでしょ。倒されたことはあるの?」

QB「僕は全ての魔女の情報を完全に把握しているわけじゃないよ」

さやか「YesかNoかで答えてくれるかな」

QB「さやか、頭が痛いよ、離してくれないかな」

さやか「答えなさい」

QB「いたたた」

さやか「……」

QB「……」



QB「Yesだよ、さやか」

ほむら「!」

さやか「ふーん、じゃあ、かつては倒されたことがあるわけか」

QB「さやか」

さやか「何?」

QB「おそらく君が聞きたいであろうことを、先に言わせてもらうよ」

さやか「はい、待ってました」


観念したらしい白猫を解放し、みんなが囲む土の上に放してやる。

白猫は後ろ足で顔を整え、やれやれとため息をついた。


QB「ワルプルギスの夜、というのは通り名だけど、まぁグリーフシードは同一のものだ、その名を借りて喋らせてもらうよ」


QB「そもそもワルプルギスの夜というのは、最初はどこにでもいるような普遍的な魔女でしかなかった」

QB「どこにでもいるごく普通の魔法少女が絶望し魔女となった姿、それがワルプルギスの夜の始まりだ」

QB「しかし魔女としての性質は、少々風変わりなものではあったね」


QB「ワルプルギスの夜は、結界内に使い魔や魔女を呼び込む習性があった」

QB「結界内に他の魔女の使い魔や魔女を招き入れては、各地をゆっくり移動して回る、そんな魔女だ」

QB「理由は定かではないが、魔女達も招かれるがままに彼女の結界の中から動こうとはしない」


QB「断りを入れておくが、ワルプルギスの夜は決して強い魔女ではなかった。他の魔女を強制的に従えるようなものではなかった筈だ」

QB「けど魔女達はワルプルギスの夜の結界へと引き込まれ、次々にその数を増やしていった」

QB「飽和した結界内の魔力は、長い年月をかけて結界の主であるワルプルギスの夜へと引き込まれてゆく」


QB「……その合間に、結界内に踏み入れた魔法少女達は大勢いた」

QB「だけど当然とも言えるが、数十にまで増えた魔女達のたまり場に飛び込んだ魔法少女は、ことごとくが瞬殺されてしまってね」

QB「そうして絶望していった魔法少女達のソウルジェムもまた、ワルプルギスの夜の“来賓”となった」


QB「もう既に、ワルプルギスの夜の伝説は世界に伝わっていたよ」

QB「強すぎる魔女、倒せない魔女……その頃の魔法少女達はこぞって、ワルプルギスの夜討伐のために力を競い、力を合わせた」

QB「そして、数十人単位の魔法少女集団が結成され、妥当ワルプルギスの夜のための本格的な第一戦が始まった」


QB「数十の魔女対数十の魔法少女、さて、結果はどうなったと思う? さやか」

さやか「魔女の圧勝」

QB「ご名答だ、魔女は魔法少女を完封した。何故だかわかるね?」

さやか「倒れていった魔法少女達が、魔女に変わるから」

QB「そういうことだ。いくら相手を倒しても、同じだけ味方が魔女になったのでは、戦力差は拮抗し得ない」


QB「討伐隊すら無意味だった。それがワルプルギスの夜の力だったということでもあるし」

QB「……もうひとつ、その頃には既に、ワルプルギスの夜それ自体も、強力すぎたのさ」

さやか「?」


QB「確かに、味方の魔法少女が戦いの最中に絶望し魔女になっていった、それも魔法少女の敗因としてあるだろう」

QB「けどその絶望の理由は、きっとワルプルギスの夜の比類なき強さにあったんじゃないかと、僕は考えている」

ほむら「……」


QB「結界の主たるワルプルギスの夜は、その身に受けるダメージを、結界内にひしめく魔女達のエネルギーによって、すぐさま修復してしまうんだ」


QB「結界内の倒せない魔女、ワルプルギスの夜」

QB「彼女が魔法少女を一人ずつ葬り、絶望させ、魔女の集団の勝利へと導いた」

QB「けど、ワルプルギスの夜は倒されたことがある。それは事実だ」

QB「倒され、グリーフシードになるはずのその体が、魔女達のエネルギーを吸収し、すぐさま孵化し直す」

QB「いつからか強くなりすぎた彼女は結界内に隠れることをやめ、現実世界で暴れまわる真の災厄として、この世に君臨した」


QB「超強力な魔力、絶望吸収装置……」

QB「それがワルプルギスの夜、彼女本体と、そのグリーフシードの正体だったわけだよ」


白猫は尻尾を二回振り、話が終えたことを伝えた。

私はまだ、キュゥべえに何かを言いたかったんだけど、それを聞かずに、キュゥべえはそそくさと立ち去ってしまった。


その姿を止める者はいなかった。

マミさんも、ほむらも、まどかも、ただ重苦しい顔のままに絶句していた。



鯖復活したか・・・、よかった

つドクダミ茶


ダメージを受けても、即回復してしまう魔女。

強大かつ不死身。

ゲームで言うなら、体力ゲージを何個も持っている魔女。


倒しても倒しても、自前の倉庫に貯めた命を取り出して、復活し、なお襲い掛かる。


マミ「……何百年もの間、蓄積され続けた魔女……」

ほむら「まさか、ワルプルギスの夜がそんな相手だったなんて」

まどか「どのくらいの魔女がいるんだろう……百、とか……」

マミ「魔女の数なんて、想像もつかないわね。もっとかもしれないし……」


つまり百体以上の魔女を倒さなければ、ワルプルギスの夜は倒せないということ。

しかも単なる魔女ではなく、強力に成長した「ワルプルギスの夜」という、巨大な魔女を相手にその分の傷を与えなければならない。


現実感のないスケールに皆は呆けているが、実際の相手を目の当たりにして戦ってきたほむらの顔は青ざめている。


ほむら「……魔女の集合体」

さやか「……」


沢山の魔女と戦ってきたであろうほむらでも、改まった強者の認識には絶望を禁じえないようだった。


けど、ここで彼女が折れるようなことは、きっと無い。


ほむら「……作戦を考え直さなきゃ」


ほら、すぐ目に生気が戻った。


滾るような炎を宿す瞳。

普段は冷めた目しか見せないほむらだけど、心の基本はきっと、こうなんだ。

まどかを守るために何度も何度も戦ってきた彼女が、そんな不屈な努力家が、ただの冷徹な女の子のはずがない。

QB往生際悪いのに対しさやかの賢いことよ


果てしない目標であっても、具体的な高さが見えれば、逆に闘志が湧き上がってくるものだ。

勉強でも、きっと仕事でもそう。だと思う。


カミングアウトしたキュゥべえにどんな意図があったのか知らないが、ほむらは意気消沈することなく、むしろより一層にやる気を増したらしい。

静けさに包まれた魔法少女の輪に声をかけ、前向きな一言を言ってみせたのだ。


ほむら「ワルプルギスの夜を百回以上倒す方法を考えるわ」


前向きすぎて、みんなの顔が引きつっていたけどね。

けど私はそういう爆弾発言、割と好きよ。


さやか「けどほむら、ワルプルギスの夜を今まで倒せなかったって言ってたよね」

ほむら「ダメージが一切通ってなかったと思っていたのよ、勘違いだったのね」

マミ「……すぐに修復する、倒しても結界に満たされた絶望の力で、すぐに蘇る。なるほどね」

ほむら「今まではより強い火力を一点集中に、と考えていたのだけど……それでは無駄があるみたいだから」


すぐに復活する。

一撃でワルプルギスの夜を粉砕できる威力があったとしても、結界内の魔女の力がグリーフシードになった魔女を蘇生させてしまうので、それでは一撃が無駄になってしまう。

それが全力を込めた攻撃であるなら、ひょっと悲惨だ。満身創痍のところに、復活したてホヤホヤのワルプルギスの夜が現れるのだから。

力を振り絞ってワルプルギスの夜を倒すのは得策ではない。ワルプルギスの夜は、トータルで大ダメージを与えなくてはならないのだ。

それこそ、魔女百人切りの勢いが必要かも。


さやか「長期戦になるのかな」

ほむら「……そうね、何度も何度も傷を負わせ、“疲労”させる必要があるわ」

乙!

まどかがワルプルを一撃で倒したのも、膨大な魔翌力に加えて浄化の性質が作用したんだったら綺麗に繋がるな

同じ人間でも育ち方次第でここまで変わるんだな
本編さやかを貶してる訳じゃないが

このリソースの差をどう覆すか

さやかちゃんがさやかちゃんじゃない


白く細いほむらの手を握る。

彼女は緊張に、僅かに手を汗ばませている。


けど彼女が見せたいというのだ。なら、見なくてはならないだろう。


ほむら「……――」


シャッターが降りるような音がした。


その瞬間に世界はいくつかの色を失い、輪郭はぼやけ、何より特徴的なことに、静止した。

見せてあげる。とだけ言われて握った手が教えてくれた。

私は、聞いていたものの実感の沸かなかったほむらの魔法の全てを見たのである。


さやか「時間停止」

ほむら「停止が長時間になるほど、使用する魔力は多くなるわ。小刻みの停止でないと、普段の使用では使い物にならない」


ほむらが地面の小石を蹴飛ばした。

小石は蹴られ、宙に浮いている。


ほむら「私が触れたものは動かせる。停止解除後に、私が加えた運動エネルギーは反映されるわ」


再びシャッターの音が聞こえ、世界に鮮やかな色が戻る。

蹴っ飛ばして宙に浮いた小石は、当然のように弧を描いて砂利の上へと転がっていった。


まどか「わ、石が突然……」

マミ「なるほどね、便利な能力だわ」


時間を停止し、その間は自分だけが行動可能。

都合が良いというか、便利というか。それでも倒せないワルプルギスの夜が恐ろしいというか。


ほむら「私は時間を停止させて、盾の中に格納した銃器で攻撃することができる。けど、それじゃあワルプルギスの夜は倒せない」

さやか「今みたいに、触れていれば」

ほむら「そう。停止した時間の中を自由に動くことができる」


移動も攻撃も可能だ。

となれば、ほとんど近接攻撃しか持たない私でも、難なく立ち向かうことができるようになる。

ワルプルギスの夜に最接近するというリスクそのものを大幅に軽減してくれる、心強い能力だろう。


さやか「マミさんのティロ・フィナーレも、私のフェルマータも簡単に当てられるね」

ほむら「ワルプルギスの夜を一回分倒すくらいなら、きっと可能よ。ただ……」

まどか「その後?」

ほむら「……ええ」


ほむら「……ワルプルギスの結界に貯蔵されている魔女の力を全て消すためには」

マミ「ワルプルギスの夜を何度も倒さなきゃいけない」


厳しい正攻法だ。

ショップ利用なしで四天王を十周だか二十周するようなものだろう。ただの魔女だって、何百も倒すことはできない。


ほむら「それもあるけれど……」

さやか「逆に、エネルギー源である結界内の魔女を全て倒してしまえば良い」

ほむら「……正解」

まどか「ええっ」

さやか「何度も強い1体の魔女を相手にするのはしんどい。でも、一度に複数の魔女を一気に倒すのは、そう難しくはないんだよね」


魔女の数がいくら多かろうとも、ワルプルギスの夜ほどの耐久力や強さはないだろう。

そして、それが一同に会している。結界内の魔女を打尽にできれば、ワルプルギスの夜の心臓を潰すことに直結するだろう。

それはワルプルギスの夜本体を何度も叩くより、遥かに現実的な戦い方だ。


さやか「ほむらのその資料を見た感じでは、ワルプルギスの夜の背中には結界があるんだよね」

ほむら「ええ。ワルプルギスの夜は結界に篭る必要はない。けど、自身の結界を持っていないわけではない」

マミ「多くの魔女を溜め込む結界だからこそ、肌身離さず持っているわけね……」

さやか「ワルプルギスの夜を一度倒して、無防備になった結界へ、すぐさま突入する! ほむらの時間停止を使ってね」


そうすればワルプルギスの夜が復活する前に、中へと入れるはずだ。

後はマミさんなれ、私なれが大暴れすればいい。

フェルマータもティロ・フィナーレも、一度に多くの魔女を倒してしまうだろう。

ほむらの持つ武器だって、そこでなら大いに役立つはずだ。



さやか『じゃあ、いっきまーす』

まどか『はーい』


河原の向こう側で、まどかが大きく手を振っている。

その姿が遠くに見える。

みんなの声が届かないために、テレパシーを利用するような場所に、私はやってきた。


なぜかって。さやかちゃんの真の力を見せるためですよ。


目算で百数十メートル。そこにはまどかと、マミさんと、ほむらが待っている。

今から彼女達の元まで向かわなくてはならない。

マッハでね。



さやか「変、身っ」


ソウルジェムを展開し、ブルーの衣装を見に纏う。

感覚的に出せるようになった左の篭手も装着し、右手には二本のサーベルを掴む。


さやか「で、とりあえずアンデルセンを作りまして~」


右手に大剣アンデルセンを作り出す。巨大な剣はそれなりの重さを感じさせないが、しかし確かな重量感がある。

これを持って走れといわれたら、魔法少女の体でも辛いだろう。


さやか「……けど」


今の私には、それ以上の事だってできる。


まどか『よ~……い』


始まりを告げるまどかのテレパシーが、ここまで届く。


まどか『どん!』


開始だ。


さやか「“セルバンテス”!」


ダンダンダンダン、ざっ。


さやか「っしゃ成功ッ!」

まどか「わひゃあ!」

ほむら「!?」

マミ「え!?」


到着の勢いは百パーセントを地面に預け、殺させてもらった。

大きく抉れた河渕の砂利が、ダッシュの速さによるエネルギーの大きさを表している。


マミ「……見えなかったわ」

まどか「さやかちゃんが、一瞬でこっちまで跳んできたように見えたけど……」

さやか「うん、これが私の新しい移動方法だよ」

ほむら「……バリアーね」

さやか「いかにもっ」



左腕の篭手、セルバンテスで出現させたバリアーは、弾く能力を持っている。

そのバリアを丁度良く足元へ出し続けることによって、強い推進力を生み出す足場を作り出し、空中でも異常な速さで駆けることが可能になったのだ。


方向転換も自由自在。きっと空へ跳ぶこともできるだろう。

一瞬のうちに、ワルプルギスの背後へ回り込むことだって、できるかもしれない。


ほむら「それがあれば、ワルプルギスの夜を一度倒すことも、簡単ね」

さやか「……うん」

ほむら「?」

さやか「でもね」


それでも私に決定力はない。

私のアンデルセンによる一撃は、確かに強い。燃費を気にしなければフェルマータを撃つことはできるだろう。

けど、火力そのものを見れば、マミさんのティロ・フィナーレに勝る火力を出すことはできないのだ。


さやか「私が攻撃するよりも……多分、攻撃だけなら。杏子に任せたほうが、絶対に良い気がするんだよなぁ」

やはり、杏子がいないと厳しいか

うむ

表にいるデカいの倒してその隙に背後の異空間に突入
RPGの最終決戦みたいだな
大好きだわ


杏子のブンタツによる剣戟は、私のシールドを破ってみせた。

魔力の限り破れるはずのないシールドが壊れたのだ。何にも負けない力は伊達じゃあない。


そりゃあ、私の守る力に誇りはある。それでも、あの時の勝負は間違いなく、杏子の勝ちだと認めざるを得ない。

ブンタツの切れ味は認めざるを得ない。


さやか「杏子の使うブンタツっていう両剣があれば、ワルプルギスの夜は倒せるはず」

ほむら「彼女、協力的ではないわよ」

マミ「ええ、強さにしか興味の無い子よ」

ほむら「それに杏子は言ってたわ。共闘はしたくないとね」

さやか「えー」


そりゃあ困る。そんなダイレクトに断られてもなぁ。


さやか「んー」


杏子を説得するのは難しいか?

彼女について知っていることは少ない。未知数かな。

共闘するメリットを言えば教えてくれるだろうか。

……そういえば、私を邪魔な黒子扱いしてたな。はなから友好的じゃないのはわかってたけど、あそこまで露骨だと、さすがに望み薄だろうか。


さやか「んー……でもな。杏子がいれば、絶対に勝てると思うんだけどな」

まどか「すごい自信だね、なんとなくわかるけど」

さやか「確信に近いよ。あいつが協力してくれれば、絶対に負けるわけないもん」


全てを守る私と、何にも負けない杏子。


あいつは私だ。私はあいつだ。

戦おうとする強い執念さえなければ、あいつは私と同じような考えを持っているはずなのに。


杏子の戦いを邪魔しないことでしか、あいつと関わることはできないのだろうか。



全てを守れるほど強くなりたい。

何にも負けないほど強くなりたい。


一生に一度のお願いを、死ぬまで戦いに身を投じる理由を、掛け替えのない祈りを、ただ強さに投じた二人の魔法少女。


美樹さやか。

佐倉杏子。


彼女達はよく似ている。

普通ならその願いを選ばないのだから。

同じ師を持っていたのだから。


私は時間遡行者。彼女達の、通常の運命を知る者だ。

だからこそ違いがわかる。違った理由もわかる。


煤子。この人物こそが全ての原因に違いない。

彼女の指導がさやかを変え、杏子を変えた。二人に戦う力を望ませた。


……煤子。

私はきっと、あなたを知っている。

けど、それでも問わずにはいられない。あなたは何者なのか? と。

どうしてこうも二人は違ってしまったのか、と。


-=◎=-


私は全てを見通していたわけではない。

わかるでしょう。私は予知能力者ではないの。

私に出来たことは、教えることそれだけだったのよ。


私はさやかと、杏子を信じた。

そして二人に託したの。

これで上手くいくかどうかなんて、途中からどうでも良くなるくらい、二人を信頼したの。


それが偶然、こうなったの。

……いえ、何千分の一の確率を持ち出すなら、必然とも言えるのかしら。


ねえ暁美ほむら。あなただって、そうだったじゃない。

忘れたわけじゃないでしょう?ひと時の私みたいに、忘れたわけではないのでしょう。

だったらわかるはずよ。


出会いは人を、大きく変えるのよ。

出会って、友達になって、自分が大きく変わる。

それは決して偶然なんかじゃない。



------


† 8月30日


煤子「……」


焦燥も、絶望もない。

そんな負の感情とはかけ離れた日々を過ごしてきた。


だがその生活にも、限界はやってくる。

油を注さずに回り続ける歯車など存在しないのだ。


煤子「……」


手を広げ、手を握る。

この手もじきに動かなくなるだろう。それは初めての経験となるのだろう。


それでも彼女に恐怖はない。

来る死病に冒されようと、その身が意に沿わぬ絶望を振り撒こうとも、全てを受け入れる気持ちでいた。


ただ安らかな心が、ベンチの上の自分の中にあった。


煤子「ありがと」


曇り空に呟いた。

そして足音が昇ってくる。


「煤子さぁーん!」


大声だけが先に到着する。


煤子「ふふ。本当に、ありがとね」


煤子「……」

さやか「……」


曇天が続いている。

九月と共に、雨が降るかもしれない。


雨が降れば火照ったアスファルトは冷やされ、夏の思い出のいくつかを洗ってしまうだろう。

二日も外に出られなければ、肌は鋭い日差しを忘れるだろう。


それでも。


煤子「さやか、もう、お別れよ」

さやか「……っ」


それでもどうか、忘れないでいてほしい。

蒼天の下を駆けた暑い日のことを。

自分なりによく選んだ、何気ない顔をした言霊達を。

何より。この自分自身を。


さやか「煤子さん……なんで? やっぱり、もうダメなのっ?」

煤子「ええ、もう時間切れみたい」

さやか「やだよ、どうして? まだ元気だよぉ……煤子さん、大丈夫だよぉ……」


涙で顔を汚した彼女を見ても、煤子は後ろ髪を引かれなかった。

自分を思ってくれる人が残ってくれる。名残惜しさなんて嘘だと思った。

そんな彼女が居てくれる。ならばこれでいいのだと、心の底から思えたのだ。


絶望なんて程遠い場所に、自分はいるのだろう。たとえば、此処がそうかもしれない。


煤子「さやか、これでお別れだけど……私から教えられることは全て、教えたつもりだから」

さやか「……あうっ……うぐぅ……」

煤子「泣かないの。すっごい強くなるんでしょ。なら涙の数より、何倍も強くならなきゃだめじゃない」


今生の別れとなる。自分はこれから、死ぬのだ。

そんな些細なことよりも今は、さやかの涙に憂う気持ちだけが強かった。



煤子(……ほんと、世話は焼けるんだものね、さやか)



夏は終わる。



† それは8月30日の出来事だった

[空き缶]*  ))) ギュムギュム

乙、いつもより投下が多いいな!


煤子さん寂しい事いわないでよ;


いよいよクライマックスってな具合かな



この時間軸のさやか達と一緒にいるほむらも未来から来たと言っていたけどどういうことなんだろう?


悲しいな


魔女「イェエエェエエァアァアア!」


◆ルチャの魔女・ジェミーポルクス◆



それは真紅と群青のマーブル模様の巨人だ。

ウルトラマンばりの巨体から、鈍重ながらも抜群の破壊力を疑う余地のない蹴りが繰り出される。


マミ「とっ、とと……」


巨大な結界の中に聳えるポールには、既にマミさんのリボンが仕込まれている。

ポール同士は、昔によく見られた電線のようにリボンで連結されており、私達はリボンを足場に移動することが可能だった。


大振りの魔女の攻撃も、多くの足場を確保した私達には到底、当たるはずもない。

魔女の巨躯を旋回しながら、段々と弱点であろう頭部へと上り詰めてゆく。


ほむら「さやか、裏へ回って」

さやか「ほいさー」


ほむらのアサルトライフルが軽快に轟く。全弾命中は間違いないだろう。


さやか「“セルバンテス”……!」


アサルトライフルとはいえども、巨大な魔女に大したダメージを与えることはできないだろう。

巨人には雑多な弓矢とか、銃弾は効かないもんなんです。


じゃあ何なら効くのか。それはお約束だ。

無骨な石を頭部へ目掛け、全力投球すればいい。


さやか(はっ、せいっ、よっと)


左手を下へかざしながら、脚は忙しなく動く。

自分で生み出すバリアーを足場に、私の体は高速で空を切り裂いてゆく。


一瞬のうちに魔女の死角へと回りこみ、最後に頭頂部へ跳ね上がる。

ほむらとマミさんの攻撃に気を取られた魔女の油断だらけの後頭部が今、目の前に晒されていた。


さやか「“アンデルセン”!」


魔女「ィァアァアアッ!?」


大剣が魔女の後頭部に突き刺さる。

人間なら死んでいる位置だとしても、魔女が同じとは限らない。


けど人間が「こりゃだめだ」となるくらいのダメージなら、大抵の魔女なら陥落するものだ。


さやか「打ち込まれたらさすがに……キツいでしょッ!」


左の篭手で拳を握り、魔女に刺した大剣の柄を、全力で殴りつける。

篭手が生み出す反発のバリアーは大剣を強く押しのけ、刃は魔女へ向かって深くまで突き刺さった。



魔女「ォオ……!」


大剣の刀身全てが埋まりきると、さすがの巨人も膝から崩れ落ちて、静かになった。

辺りのポールを巻き込みながら床へ沈んでいく姿は、ウルトラマンというよりは、爆発する前の怪獣のようでもあった。


ほむら「早い回り込み、便利ね」

マミ「ええ……足場を必要としないっていうのは、結界での戦いでは汎用性が高いわね」


高い機動力と火力を持った壁か


大きな魔女を相手にしても、バリアは自由な足場となって機能する。

相手の位置の高さは問題にはならなそうだ。

ワルプルギスの夜という強力な魔女を相手にして、自由自在に飛び回ることはできないにせよ、不可能ではないと解っただけ良い戦果だ。


さあ、次にいってみよー。



魔女「クァアァアアァアアッ!」


◆鳥の魔女・クルワール◆


今日は魔女との連戦だ。

三人もいれば負けることはないし、効率よく倒してグリーフシードを回収できるってこともある。

けどそれ以上に、決戦へ向けての連携を整えるという方が大きいかもしれない。


魔女「クァアァアッ!」

マミ「空を飛ぶ魔女ね……!」


巨人の次は、翼の生えた。正真正銘空にいる魔女だ。

赤黒い空の下で白磁の巨翼をはためかせる、トーテムポールのような姿である。



ほむら「上から石柱を落として攻撃してくるわ、気をつけて」

マミ「ええ!」

さやか「……みんなが撃ってる時に巻き込まれたくないから、私は待機してるね」

さやかちゃん!!その魔女も屠っちまえ!!

こういう魔女がいるってことは
チーム組んでなかったり対空手段持ってない魔法少女って簡単に詰むのな


空跳ぶ石のトーテムポールから、その中ほどにある岩が“はらり”と外れ、落ちてくる。

なるほど、あの魔女は自分の体の一部を落としてくるらしい。


マミ「……?」

ほむら「油断しないで、落としてきたら絶対に回避と防御を優先して」


魔女から離れた石柱は、ずいぶんゆっくりと落ちてくるように見える。

おかしい。そう思うと同時に、危険を理解した。


さやか「マミさん! こっちに退避して!」

マミ「ええ! あれは不味いわね!」


私達三人は、黒い砂漠を駆けだした。

不安定な地面に足をとられそうになるが、それでも一歩一歩に力を込めて、持てる精一杯で踏み抜く。


そして、遠目からは小さく見えた巨大な岩が、ようやく今になって砂丘へ激突した。

石柱の破片が砂を捲りあげ、粉塵と共に礫を弾き飛ばす。



さやか「あっぶなっ!」


二人を後ろへ隠すように礫に立ちはだかり、バリアーを展開する。

バリアーは無数の石や土煙を全て弾き返し、視界を覆うはずだったであろう靄すらもかき消した。


さやか「あんなに大きいなら最初に言ってよ!」

ほむら「“今日は大きな魔女と戦う”って言ったじゃない」

さやか「最初だけかと思ってた!」

期待


魔女は再び上空を旋回し、鳥のような鳴き声を結界の中に響かせ始めた。

赤黒い空の中で、灰色の体はよく目立つ。



ほむら「あの魔女に全員が攻撃を当てられないようじゃ、ワルプルギスの夜とはまともに戦えない」

さやか「……また私が飛んでいけば良いんじゃ? バリアを足場にしてさ」

ほむら「貴女だけが出来ても、不十分なのよ」

マミ「……なるほどね、私かあ」


どこか覚悟を決めたような息を吐いて、マミさんが納得する。


ほむら「ワルプルギスの夜は、自分の周りに何体もの“魔女の模造”とも言える使い魔を生み出せる、という話しはしたわね」

ほむら「魔女の模造は宙に浮きながら攻撃してくるわ。当然、あの魔女の高さからもね」


以前にこの魔女と戦ったことがあるほむらは、当然ながら強気だ。

私はなんだかんだで先ほどの攻撃には驚いたけど、一回でも攻撃を見れば相手の傾向も掴める。

空へと跳んでいける以上、あの鳥魔女に負ける気はしない。


マミさんが射撃能力を持っているとはいえ、遥か上空の相手だ。

あれに対処できるかどうかは重要な関心事だろう。



マミ「もう、先輩を見くびらないで欲しいわね」

ほむら「行くのね。一人で?」

マミ「二人とも、そこで見てなさい」

さやか「頑張ってください!」

マミ「ええ、たまには先輩らしいところ、出してかないとね」

マミさんは気合が入りすぎると空回るタイプ

マミさんの有効射程ってどのくらいなんだろ
結界が狭い空間なせいで何時も射撃型の癖に割と近距離で戦わされているが


マミ「やあっ」


マスケット銃を両手に、マミさんは空高く跳躍した。


……とはいえ、目算で10m前後。

魔女まではその何倍も距離がある。一度の跳躍では届きようもない。


が、マミさんの場合には、手まで届く距離に近付く必要は無い。


マミ「近くなった分、確実にね」


二挺のマスケット銃が同時に撃たれ、そのまま真っ直ぐ光線を射出した。


ほむら「……あれは」

さやか「リボンだ、なるほど」


マスケットの銃口から放たれた一条ずつのリボンが石柱の魔女に突き刺さる。

貫き砕かないまでも、魔女の内部にまで達するリボンは決して抜けることはない。


マミさんは、リボンをそのまま射出することもできるのか。


マミ「これさえ繋がっちゃえば、後は簡単ね」

魔女「クェェエエェエエ!」


リボンを植えつけられた魔女も黙ってはいない。

突き刺さった身体の石柱を自身から切り離し、そのままマミさんの方へと落としてきた。


マミ「残念、そのための二挺なの」


確かに一本のリボンは石柱に刺さっている。それを自分から切り離すのは当然だ。

けどマミさんはリボンを二発撃った。その一本一本は、トーテムポールの魔女の別々の部分に刺さっているのだ。


マミ「上を取らせてもらうわね」

魔女「!」


素早くリボンを引き戻し、身体を魔女に最接近させたマミさんは、そのままの勢いで魔女の更に上空へと躍り出る。

魔女の落石攻撃は、下の相手にしか効果を成さない。これで決まりだ。


マミ「“ティロ・スピラーレ”!」


魔女の胴体へマスケットの弾が打ち込まれる。

そして中心部へ到達したリボンの弾は……炸裂する。


魔女「クァッ……クァアアアア!?」

マミ「ふふっ」


拡散するリボンによって内部から撃ち砕かれた魔女は、何度も悲鳴を上げることはなく、声無きつぶてとなって砂漠の上に降り注いだ。

赤黒い夜空から落ちる白い石の破片は、いつか曇天に見た、ちょっと見えづらい流星群のようだった。


マミ「ふう、ただいま」

さやか「おかえりっす、マミさん」

ほむら「問題は、なかったみたいね」

マミ「ええ、前だと下から撃つだけだったかもしれないけど……今ならリボンも撃てるからね、空中の移動ができるようになったわ」


炸裂する弾と、リボンによる移動。

マミさんの魔法には色々なバリエーションが加わっているが、それは全て、マミさんが魔法少女として培ってきた経験があるからこそ体現できた技術なのだろう。

ワルプルギスの夜との対決までには、更なる技を使えるようになっているかもしれない。いや、多分なっているだろう。


私もうかうかしてられないな。


立体機動か

立体起動・・・あっ

マミさんテコ入れがすごいがフラグもすごい


みんなと魔女退治しながら連携を高めてきたこの数日間、私は密かに、杏子の影を探していた。

魔女あるところに杏子あり、という自作の言葉を頼りにアンテナを伸ばしていたものの、不思議と杏子は居ない。

件の路地裏を、ひしゃげたガードレールの坂道を、暇そうに歩いて見せても、杏子は現れない。


私は杏子に会いたかった。なぜかって、やっぱり杏子がいないと、ダメな気がするからだ。

ダメというのは、私とマミさんとほむらで戦って、勝てないのではないかという不安だ。

連携は着々と高次元なものへと仕上がっているし、どんな魔女がやってきても負けない自信はあるが、相手が相手である。不安は消え去らない。これで自信満々で挑めたら、それはすぐに死ぬ人だ。


さやか「……」


夏の日によく訪れたこの坂道のベンチで、誰が来るでもないのに、私は待っている。

隣には缶コーヒーだけが楚々と座り、前の道は誰も通らない。


小高いこの場所から見下ろされる見滝原の景色は、当然見滝原の全てが眺望できるわけではないが、それなりに私の活動範囲を視界に収めることができた。


……目の前にあるこの町が壊滅するなんて、到底思えない。

だってあんな大きい町なのに、それが全壊するなど。


けどほむらの話は本当だし、キュゥべえの話も本当だ。

ワルプルギスの夜は必ずやってくる。


さやか「……絶対にさせない」


私はこの町を守りたい。だってこの景色は、私が強くなりたいと願いながら眺めた、思い出の景色なのだから。


私は手が届く全てをものを守りたい。今の私は、この町全てに手が届く。



そして、ワルプルギスの夜の前日がやってきた。


実際真面目に考えると「街捨てて逃げる」が一番正解だから困る


:フォーリンモール2F(絵文字)の非常階段から従業員階段へ移れる(走り絵文字)
 そこから、屋上へ来て(猫絵文字)(手のひら絵文字)


さやか「……よし」


ほむらから、最終調整のお誘いメールが来た。

今日は町の高低差の把握、ワルプルギスの夜と町の対比をよく確認しておくのだ。

実際に見る景色と、俯瞰地図だけで見る町並みとでは色々と違ってくるからね。


しかし相変わらず、にぎやかなメールしてるな、ほむら。


さやか「……」


部屋を出る際、片隅に置かれた袋に目が行った。

その袋には道着などの装備一式が詰め込まれ、いつでも部活に復帰できる準備が整っている。


けど、明日にはこの部屋は無いかもしれない。

全てがめちゃくちゃに壊された中の瓦礫やゴミのひとつとして、あの道着袋も風雨に晒されるかもしれない。


さやか「……」


けど、全部をそのままにすることにした。

この部屋が、家が壊されるかもしれないけど。それでも、私だけが自分の大切なものを持ち出すなんて、そんなことはできない。


自分の大切なものを守るために、私は町を守ってみせる。

>明日にはこの部屋は無いかもしれない
これ怖いよなぁ


歩きながらの考えは捗るもの。


最近の私たち見滝原魔法少女団の活動範囲は、かなり広い。

できる限り多くの魔女を倒すために、活動範囲を広げているのだ。


魔女との戦いで戦術を磨くのは当然。実戦で消費されるであろう魔力を回復するために必要なグリーフシードも確保できる。

その上ほむらの豊富な経験から、対ワルプルギスに近い魔女を優先的に選び、戦っている。

空を飛んでいる魔女や、ひたすら巨大な魔女など。ワルプルギスの夜に近い環境や相手との戦いで、勘を磨くのだ。


そういった魔女と戦うために、活動範囲は以前よりも広がっている。


……何故杏子と出会わない?

あいつも、まさかワルプルギスの夜を相手にグリーフシードをためない、なんてことはあるまいに。

まずワルプルギスの夜と一対一で戦える環境を作るためにも、魔女を間引く意味で見滝原を拠点にグリーフシードを集めてもいいはずなのに。


そうこう考えている間に、フォーリンモールの大きな影の下にやってきた。

前のスレからやっと追いついた
よくわからんaaともかく
すごく面白い

>>54>>13>>23>>24>>56>>67>>79>>60>>33>>1>>59>>65>>92>>5>>23>>99>>91>>48>>9>>32>>44>>81>>50>>87>>26
>>53>>24>>81>>25>>87>>35>>38>>9>>58>>94>>76>>36>>54>>8>>37>>12>>72>>28>>17>>95>>26>>7>>42>>35>>39
>>15>>88>>72>>40>>23>>24>>64>>3>>49>>50>>38>>86>>59>>95>>80>>34>>31>>33>>42>>67>>44>>14>>95>>60>>8
>>67>>50>>55>>6>>35>>70>>93>>7>>10>>16>>30>>73>>19>>78>>23>>56>>64>>81>>51>>43>>15>>81>>75>>56>>48
>>70>>42>>79>>77>>63>>45>>27>>17>>50>>62>>87>>43>>68>>96>>59>>98>>69>>77>>76>>91>>33>>40>>72>>83
>>86>>64>>57>>42>>11>>76>>11>>53>>54>>88>>16>>99>>14>>33>>49>>76>>19>>92>>43>>14>>50>>41>>82>>27
>>73>>59>>56>>45>>41>>38>>30>>5>>95>>72>>16>>70>>82>>68>>23>>69>>83>>22>>83>>15>>70>>58>>34>>61>>1
>>11>>41>>29>>37>>58>>2>>95>>13>>46>>36>>50>>76>>41>>45>>47>>56>>14>>28>>23>>37>>97>>6>>58>>80>>21
>>37>>54>>88>>38>>1>>98>>79>>30>>35>>36>>31>>29>>49>>76>>65>>99>>51>>5>>43>>98>>60>>56>>25>>83>>92
>>89>>49>>1>>10>>76>>38>>63>>63>>76>>64>>61>>54>>93>>95>>90>>23>>24>>38>>99>>89>>36>>50>>93>>78>>47
>>33>>72>>36>>25>>94>>24>>74>>95>>33>>49>>33>>96>>12>>8>>59>>72>>61>>52>>67>>50>>75>>90>>87>>73>>78
>>23>>71>>100>>69>>24>>32>>41>>60>>57>>34>>83>>30>>28>>16>>78>>60>>12>>90>>68>>71>>62>>29>>22>>28
>>96>>18>>65>>69>>96>>88>>91>>67>>87>>60>>90>>19>>100>>50>>75>>34>>32>>4>>62>>48>>82>>22>>59>>72
>>29>>33>>17>>51>>60>>95>>46>>78>>60>>14>>73>>47>>5>>39>>33>>64>>29>>51>>64>>78>>26>>97>>10>>30>>58
>>12>>79>>17>>83>>67>>46>>15>>84>>96>>75>>78>>42>>53>>38>>56>>25>>84>>60>>64>>17>>24>>93>>68>>87
>>93>>83>>81>>22>>41>>38>>33>>20>>54>>16>>87>>100>>30>>70>>96>>5>>48>>37>>57>>85>>93>>82>>69>>52
>>85>>76>>38>>52>>62>>8>>45>>45>>88>>67>>86>>26>>99>>5>>80>>15>>91>>79>>44>>60>>74>>49>>8>>11>>6

>>39>>69>>94>>10>>85>>80>>90>>10>>99>>65>>89>>54>>19>>80>>3>>33>>34>>84>>22>>96>>53>>12>>79>>90>>24
>>56>>64>>61>>96>>91>>100>>65>>84>>9>>49>>64>>98>>59>>62>>63>>48>>15>>81>>27>>18>>14>>61>>1>>36>>57
>>47>>35>>43>>71>>78>>99>>34>>39>>94>>25>>38>>59>>8>>46>>8>>71>>44>>66>>33>>6>>14>>48>>87>>41>>65
>>2>>66>>36>>58>>19>>83>>93>>61>>53>>70>>59>>87>>8>>53>>11>>46>>11>>18>>92>>18>>89>>35>>84>>21>>41
>>68>>28>>38>>33>>28>>39>>98>>64>>96>>16>>47>>88>>76>>100>>58>>35>>86>>65>>87>>97>>11>>97>>15>>2
>>3>>36>>98>>24>>77>>95>>92>>4>>32>>24>>32>>70>>22>>96>>66>>37>>42>>53>>13>>41>>10>>47>>27>>75>>34
>>85>>30>>37>>86>>45>>40>>22>>42>>63>>99>>37>>55>>3>>69>>79>>35>>38>>100>>30>>4>>36>>72>>56>>49>>13
>>95>>39>>40>>28>>62>>25>>58>>99>>11>>2>>38>>33>>44>>1>>31>>81>>55>>33>>49>>33>>68>>87>>32>>97>>90
>>69>>45>>16>>81>>11>>11>>20>>51>>39>>81>>75>>97>>80>>86>>99>>17>>18>>42>>18>>48>>22>>73>>81>>71>>5
>>57>>37>>45>>46>>5>>13>>91>>21>>94>>1>>31>>13>>51>>70>>94>>26>>66>>73>>11>>64>>90>>28>>6>>7>>76
>>80>>57>>98>>84>>5>>54>>21>>50>>100>>25>>62>>90>>46>>56>>91>>77>>68>>41>>46>>62>>67>>12>>34>>77
>>24>>5>>81>>31>>80>>8>>10>>36>>6>>94>>41>>60>>14>>90>>59>>39>>52>>49>>85>>7>>40>>61>>75>>81>>7>>36
>>18>>70>>23>>93>>93>>27>>74>>24>>7>>82>>34>>43>>87>>27>>83>>47>>41>>73>>5>>80>>24>>54>>64>>30>>93
>>5>>73>>30>>40>>20>>48>>9>>42>>41>>2>>69>>14>>26>>76>>95>>59>>18>>81>>86>>100>>27>>27>>73>>32>>6
>>86>>70>>26>>79>>94>>30>>52>>24>>70>>71>>71>>78>>13>>11>>80>>82>>24>>5>>57>>19>>64>>74>>100>>49
>>26>>75>>46>>58>>81>>42>>44>>50>>67>>22>>44>>97>>73>>67>>66>>43>>38>>44>>56>>49>>23>>37>>73>>28
>>91>>92>>67>>90>>40>>40>>16>>15>>86>>74>>96>>27>>17>>46>>94>>38>>89>>90>>11>>55>>55>>54>>93>>99


見滝原の中心に位置するフォーリンモールは、辺りのビルと比べても際立って高い建造物だ。

屋上に行ったことはないけど、その二階下までなら遊びで入ったことがある。


窓から見下ろす広大な街の景色はなんとも、子供心に感動したものです。今でも子供だけど。


関係者以外進入禁止の扉を開け、歩きなれない寂しげな非常階段を上がる。

その時に丁度、まどかからのメールが来た。


:がんばって!


卑屈さの見えない短い文章からは、まどかの悩みも見られない。

彼女が願い事云々で悩んでいないということだ。

私達に全てを託しているということでもある。


さやか(頑張るよ、まどかの分もね)


重い扉を開くと、眩しすぎる日差しが私を出迎えてくれた。


このクライマックス感


ほむら「待ちくたびれたわ、と言いたいところだけど」

さやか「全然準備の途中だよね、それ」

ほむら「ええ」


約束の数十分前に来た私が見た光景は、汗を流しながらキリキリと働くほむらの姿であった。

学校の真新しい冬用ジャージを着て、なにやら大きな箱型機械に跨りながら、調整をしている最中のようだ。


ほむら「本当はもっと早く済ませるつもりだったけど……」

さやか「ああ、フォーリンモール屋上にも、なんだっけ、ミサイルだっけ」

ほむら「ええ。原始的なやつだけど……中型で威力もあるわ」


手馴れた様子で箱をいじりながら、淡々と答える。

よく見れば、箱には子供3、4人が跨がれそうな立派なミサイルが備わっていた。


よくもまぁ屋上にこんなものを運べたものだ。

当然のように準備できてしまう辺り、さすがほむらというわけか。


けど同時に、そんな事に慣れてしまうほむらの姿に、茶化すことのできない大きな意志を感じた。


さやか「……ねえ、まあ、話には聞いていたけどさ」

ほむら「うん?」

さやか「ほむらは今までずっと、こういう事をしてきたの? 今までの過去でも」

ほむら「……最初のうちは、こんな感じね。今回は滅多に使わない場所に設置してるから、設定が面倒で手間取ってる訳だけど」


工具かどうかもわからない謎の金属棒を床に置き、ほむらはいつもより遠い目で空を眺めた。


ほむら「私は魔法だけじゃ戦えないから。宿敵を倒すために、強くならなきゃって」

さやか「そっか」

ほむら「……昔の話よ、今はこっちを済ませる方が重要だわ」

さやか「だね、手伝うよ」

ほむら「ありがとう、じゃあその辺りに落ちてるオイルの空き箱……」

さやか「これ? 私も詳しくないけど……」

ほむら「その辺りに座ってて」

さやか「あ、はい、うっす」


そらこんなん手伝える中学生居たら怖いわww


マミさんは時間通りにやってきて、その頃には既にほむらも普段通りの制服姿に戻っていた。

素早くジャージを脱ぎ捨てていた所を見るに、あまり人には見られたくない姿だったらしい。

涼しそうな顔でミサイルポットの脚部に手を置き、マミさんに説明している。


ほむら「順序としては、部品工場地帯が前線になるから、そこに仕掛けてあるミサイルからね」

マミ「ワルプルギスの夜が攻撃の手を激しくしないうちに、遠くのミサイルから当てていくべきなんじゃないかしら……?」

ほむら「一理ある、けど……ワルプルギスの攻撃で、発射装置自体が壊されたら終わりだから」

マミ「それもそっか」


もちろん、飛んでいるミサイルが撃墜される恐れもある。

でも至近距離から狙うのだって、同じくらいの。


さやか「小出しで当てて、ワルプルギスの夜を前に進めない」

ほむら「そう。今までは火力だったけど、今回はダメージよりも、ワルプルギスを押し戻す使い方に変えようと思うわ」

マミ「それがいいわね」


ワルプルギスは台風のように、上空を移動して避難所となる市民体育館を襲うのだという。

明日の長期戦は必至。何回か、ミサイルを直撃させて押し戻す必要があるだろう。

町の大半を守りながら戦うには、これしかない。

>>53>>2>>46>>190>>113>>96>>129>>174>>172>>286>>118>>251>>283>>34>>254>>272>>54>>156>>224>>75>>286
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>>48>>90>>68>>89>>72>>42>>123>>102>>90>>53>>101>>53>>141>>84>>123>>143>>8>>104>>79>>8>>59>>10>>95
>>143>>15>>58>>90>>82>>7>>103>>130>>96>>20>>68>>18>>61>>41>>119>>150>>94>>70>>53>>84>>4>>25>>77>>11
>>6>>19>>37>>16>>113>>33>>8>>127>>91>>98>>59>>97>>50>>38>>42>>69>>106>>59>>129>>146>>28>>129>>90
>>32>>23>>101>>57>>100>>111>>35>>105>>129>>72>>120>>92>>104>>128>>69>>44>>75>>128>>140>>124>>15>>32
>>121>>91>>22>>117>>119>>1>>56>>66>>32>>79>>16>>88>>28>>127>>123>>133>>106>>44>>102>>48>>148>>80

>>127>>114>>65>>77>>50>>132>>6>>131>>145>>88>>127>>21>>125>>129>>69>>128>>110>>141>>61>>105>>42>>9
>>53>>119>>138>>59>>14>>51>>48>>19>>28>>11>>83>>104>>61>>65>>110>>41>>60>>48>>18>>80>>22>>147>>149
>>107>>139>>59>>61>>30>>68>>11>>83>>37>>148>>142>>50>>49>>39>>69>>76>>50>>2>>29>>110>>67>>139>>1
>>36>>18>>55>>58>>14>>54>>56>>120>>42>>115>>31>>71>>33>>41>>4>>69>>39>>145>>119>>87>>33>>37>>12>>83
>>41>>42>>104>>29>>43>>79>>65>>61>>134>>122>>74>>37>>28>>44>>79>>142>>74>>150>>25>>115>>3>>93>>3
>>61>>89>>30>>97>>101>>112>>135>>141>>4>>89>>20>>47>>18>>84>>107>>1>>56>>31>>38>>83>>74>>117>>75
>>116>>99>>112>>118>>41>>115>>114>>102>>53>>144>>49>>3>>106>>33>>144>>109>>122>>13>>5>>139>>97>>111
>>2>>142>>27>>85>>66>>143>>9>>63>>109>>108>>25>>76>>148>>140>>40>>100>>42>>33>>148>>45>>138>>31>>38
>>2>>51>>102>>141>>148>>63>>130>>150>>54>>7>>84>>119>>150>>93>>32>>108>>50>>57>>33>>48>>46>>73>>147
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>>13>>143>>38>>58>>65>>35>>145>>20>>30>>127>>114>>55>>145>>3>>82>>64>>145>>100>>131>>48>>97>>46>>4
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>>16>>114>>96>>93>>31>>33>>98>>25>>72>>83>>90>>66>>133>>141>>9>>45>>6>>99>>68>>32>>39>>150>>113>>59
>>84>>43>>114>>71>>39>>111>>87>>3>>57>>30>>34>>89>>127>>59>>10>>60>>149>>75>>42>>139>>84>>87>>145
>>5>>27>>71>>5>>139>>130>>99>>73>>22>>62>>144>>61>>23>>81>>64>>79>>111>>97>>18>>87>>5>>27>>147>>3
>>39>>141>>35>>126>>136>>67>>130>>12>>137>>134>>1>>117>>83>>74>>139>>145>>67>>49>>17>>148>>113>>96
>>59>>113>>45>>64>>140>>41>>66>>91>>80>>57>>126>>55>>42>>42>>35>>54>>29>>19>>54>>145>>101>>127>>133
>>44>>32>>112>>41>>145>>57>>148>>53>>20>>42>>116>>9>>82>>32>>100>>11>>89>>76>>66>>131>>117>>100>>34
>>118>>87>>141>>68>>63>>124>>13>>106>>6>>125>>146>>150>>32>>144>>53>>51>>35>>18>>60>>117>>50>>10
>>138>>85>>43>>119>>52>>142>>2>>48>>110>>88>>38>>28>>1>>12>>41>>107>>17>>15>>103>>17>>46>>96>>69

>>87>>55>>116>>95>>117>>62>>123>>14>>52>>141>>74>>109>>113>>103>>123>>30>>21>>24>>74>>118>>65>>64
>>118>>70>>88>>37>>108>>47>>50>>71>>134>>104>>37>>78>>70>>99>>50>>84>>150>>41>>7>>109>>3>>110>>82
>>130>>105>>107>>98>>19>>20>>84>>137>>89>>21>>23>>46>>68>>73>>117>>52>>26>>3>>130>>96>>101>>30>>29
>>70>>36>>60>>73>>145>>141>>106>>125>>96>>62>>72>>115>>81>>5>>102>>19>>26>>124>>65>>93>>46>>31>>144
>>34>>123>>18>>135>>3>>46>>86>>72>>81>>146>>145>>76>>137>>100>>50>>82>>11>>122>>47>>92>>127>>148
>>2>>122>>25>>95>>18>>56>>89>>90>>90>>62>>107>>74>>64>>2>>10>>135>>83>>5>>129>>8>>141>>79>>58>>73
>>30>>119>>31>>6>>117>>141>>7>>89>>15>>101>>106>>71>>39>>45>>10>>100>>1>>83>>13>>3>>93>>148>>86>>97
>>93>>88>>55>>1>>10>>144>>30>>129>>24>>35>>96>>15>>41>>34>>30>>142>>140>>100>>31>>35>>109>>130>>36
>>143>>39>>134>>141>>124>>81>>117>>66>>18>>22>>67>>28>>16>>96>>7>>39>>131>>102>>54>>22>>136>>83>>13
>>32>>44>>10>>141>>24>>45>>32>>16>>83>>16>>6>>56>>96>>123>>122>>114>>144>>39>>141>>10>>135>>148>>49
>>99>>102>>137>>84>>34>>150>>59>>66>>43>>68>>56>>66>>113>>88>>82>>46>>103>>87>>102>>49>>60>>74>>12
>>112>>3>>63>>97>>150>>111>>62>>99>>62>>48>>33>>96>>47>>91>>12>>89>>9>>67>>5>>122>>4>>86>>18>>107
>>119>>5>>82>>43>>17>>136>>5>>19>>48>>101>>19>>9>>12>>118>>71>>59>>150>>17>>106>>91>>28>>45>>100
>>49>>71>>98>>134>>89>>54>>6>>57>>59>>88>>100>>75>>73>>104>>94>>121>>54>>113>>130>>66>>80>>50>>125
>>66>>80>>20>>93>>124>>119>>37>>23>>40>>134>>6>>128>>38>>12>>35>>97>>99>>134>>22>>22>>88>>115>>143
>>78>>122>>56>>7>>22>>30>>86>>87>>110>>106>>30>>84>>74>>67>>106>>114>>51>>111>>91>>89>>123>>126>>35
>>110>>56>>93>>47>>21>>85>>38>>98>>57>>93>>105>>78>>123>>41>>15>>83>>146>>45>>16>>70>>111>>121>>33
>>82>>124>>99>>54>>99>>134>>125>>59>>39>>67>>105>>60>>2>>142>>8>>59>>85>>113>>137>>58>>3>>1>>140
>>46>>5>>68>>6>>125>>100>>17>>56>>73>>115>>109>>22>>98>>83>>80>>137>>150>>35>>46>>2>>26>>54>>60
>>16>>46>>18>>19>>47>>7>>17>>92>>12>>84>>98>>136>>34>>114>>41>>106>>78>>150>>128>>26>>83>>58>>12
>>92>>58>>84>>118>>111>>144>>78>>127>>40>>96>>145>>87>>102>>11>>28>>113>>94>>126>>99>>128>>89>>140
>>17>>140>>61>>42>>72>>118>>54>>5>>60>>111>>89>>27>>72>>82>>104>>48>>122>>50>>43>>58>>2>>53>>86

>>50>>114>>128>>110>>45>>6>>22>>141>>77>>147>>42>>88>>119>>36>>10>>149>>88>>89>>44>>21>>91>>84>>75
>>54>>146>>81>>14>>14>>113>>70>>64>>76>>48>>24>>120>>53>>46>>111>>130>>43>>3>>68>>11>>39>>78>>10
>>16>>53>>147>>106>>136>>71>>19>>40>>67>>100>>53>>81>>62>>123>>144>>138>>20>>18>>108>>73>>63>>68
>>106>>71>>120>>116>>109>>47>>126>>84>>62>>28>>81>>18>>14>>2>>37>>53>>68>>136>>106>>149>>48>>78
>>35>>98>>10>>142>>20>>73>>60>>72>>28>>130>>42>>144>>88>>88>>119>>22>>150>>147>>103>>17>>10>>105
>>63>>23>>39>>18>>21>>86>>96>>13>>121>>43>>22>>113>>63>>95>>22>>135>>123>>2>>26>>116>>89>>114>>85
>>113>>81>>63>>130>>91>>17>>34>>3>>39>>72>>21>>60>>8>>116>>72>>129>>9>>94>>91>>72>>38>>113>>57>>11
>>83>>126>>53>>46>>61>>13>>9>>142>>76>>139>>82>>93>>22>>85>>132>>94>>105>>41>>101>>71>>112>>79>>80
>>20>>2>>93>>132>>58>>103>>95>>140>>79>>148>>36>>140>>10>>44>>131>>86>>33>>62>>28>>54>>147>>9>>147
>>49>>98>>22>>11>>27>>102>>65>>46>>103>>8>>27>>10>>111>>122>>150>>39>>119>>35>>28>>129>>79>>9>>64
>>70>>91>>14>>66>>100>>11>>17>>148>>108>>39>>8>>134>>140>>73>>29>>92>>81>>56>>102>>41>>27>>101>>79
>>136>>107>>124>>64>>115>>37>>25>>35>>128>>39>>101>>77>>49>>117>>75>>6>>6>>83>>139>>145>>6>>18>>87
>>74>>38>>127>>100>>139>>56>>96>>125>>12>>69>>39>>127>>106>>63>>12>>84>>101>>112>>11>>149>>79>>86
>>84>>19>>144>>79>>24>>11>>15>>110>>84>>53>>86>>34>>41>>141>>129>>16>>3>>48>>54>>130>>4>>116>>141
>>66>>103>>98>>65>>32>>33>>69>>116>>51>>62>>44>>75>>73>>59>>35>>7>>111>>121>>40>>2>>112>>19>>17
>>67>>70>>94>>71>>36>>85>>8>>102>>38>>105>>16>>69>>138>>85>>34>>39>>146>>77>>114>>69>>135>>149>>75
>>119>>115>>97>>80>>134>>114>>44>>50>>33>>137>>121>>69>>72>>128>>20>>109>>83>>36>>27>>71>>120>>61
>>116>>138>>73>>34>>122>>71>>108>>68>>40>>72>>14>>119>>56>>128>>13>>105>>11>>149>>76>>79>>71>>53
>>29>>136>>134>>56>>56>>103>>116>>15>>68>>103>>88>>101>>75>>8>>59>>142>>47>>131>>6>>16>>36>>133>>28
>>143>>27>>66>>72>>97>>119>>20>>126>>104>>3>>31>>10>>105>>146>>25>>23>>99>>112>>124>>23>>119>>32
>>16>>13>>20>>31>>48>>3>>59>>39>>146>>85>>105>>67>>32>>74>>86>>7>>27>>88>>37>>37>>43>>33>>61>>65
>>22>>38>>4>>141>>70>>19>>7>>82>>38>>37>>130>>41>>96>>19>>36>>30>>123>>103>>61>>46>>38>>67>>73>>126

恥ずかしい奴

>>109
シッ!荒らしに反応してはいけません!

Jane使っているならあぼーん設定のNGExのNGWord欄に

(>|>|>)+([0-90-9]+(</a>)?(,|-|=|((<br>| | )*|[^<>]*?)(<a [^<>]+>)?(>|>|>)+)){5}
って書き込んでタイプを正規(含む)にすれば>>101-108まであぼーんできるはず

(>・∀・)+([0-∀・*9]+(<*=∀)?(,-∀=*((<br>| | )*・∀<>]*?)(<a [^*・∀・)?(∀・*>)+)){5}

侵食されるのはええよ


さやか「ルートは避難所に向かって直線的、これは……人がいるって解ってるんだろうね」

ほむら「そうね」

さやか「ミサイルや私たちの攻撃によって、ワルプルギスの位置はある程度コントロールはできる」


理想はワルプルギスをジグザグに翻弄させることだ。

斜め左右からミサイルなりを当てて、吹き飛ばす。広い範囲に設置したミサイルをうまく活用できるので、単純な長期戦には向いている。


でもそれはあくまでワルプルギスの夜を倒すため“だけ”の理想。

広範囲に振り回せば、それだけ街の被害は広まってしまう。


現実的な対処として、直線的にくるワルプルギスを、可能な限り同じ直線で打ち返す。

街を守るには、それしかないだろう。

色々な兵器の設置も、楽だしね。


ほむら「もちろん、出現位置は統計に過ぎないから。珍しいポイントから来た場合は、まず位置を“ずらす”」

さやか「準備が整っているルートに押し込むってことね」

マミ「戦っている間にずれた軌道も、直す必要があるわね」

ほむら「ええ」


相手を手玉に取るような言い方だけど、その通り。実現もできるらしい。

工場地帯に仕込まれた兵器は、街中よりも数が多いし充実しているから、ワルプルギスの位置を修正しやすいのだそうだ。

私たちの主な戦闘区域もそこになるだろう。

街に深く入られるほど不利になる。気を張りっぱなしの勝負になりそうだ。


さやか「ルートは避難所に向かって直線的、これは……人がいるって解ってるんだろうね」

ほむら「そうね」

さやか「ミサイルや私たちの攻撃によって、ワルプルギスの位置はある程度コントロールはできる」


理想はワルプルギスをジグザグに翻弄させることだ。

斜め左右からミサイルなりを当てて、吹き飛ばす。広い範囲に設置したミサイルをうまく活用できるので、単純な長期戦には向いている。


でもそれはあくまでワルプルギスの夜を倒すため“だけ”の理想。

広範囲に振り回せば、それだけ街の被害は広まってしまう。


現実的な対処として、直線的にくるワルプルギスを、可能な限り同じ直線で打ち返す。

街を守るには、それしかないだろう。

色々な兵器の設置も、楽だしね。


ほむら「もちろん、出現位置は統計に過ぎないから。珍しいポイントから来た場合は、まず位置を“ずらす”」

さやか「準備が整っているルートに押し込むってことね」

マミ「戦っている間にずれた軌道も、直す必要があるわね」

ほむら「ええ」


相手を手玉に取るような言い方だけど、その通り。実現もできるらしい。

工場地帯に仕込まれた兵器は、街中よりも数が多いし充実しているから、ワルプルギスの位置を修正しやすいのだそうだ。

私たちの主な戦闘区域もそこになるだろう。

街に深く入られるほど不利になる。気を張りっぱなしの勝負になりそうだ。

二重に乙


マミ「この景色も、大きく変わっちゃうのね」

ほむら「……」


マミさんの目は、見滝原のずっと向こうを見ているようだった。

ずっと向こう。ワルプルギスの夜がやってくる彼方である。


向こう側からこっち側が壊されてゆく。考えたくはないが、現実的にかなりの被害を被ることは避けられないだろう。


ほむら「二人は、ずっとこの街で育ってきたの?」

マミ「ええ、そうよ」

さやか「私も、物心ついた時からかな」

ほむら「そう……」

さやか「別に、災難ってだけだよ」

ほむら「!」

さやか「やってくる敵がわかってるなら、全部跳ね返しちゃえばいいだけの話だもんね!」


ほむらは見滝原出身じゃ無いんだっけ

入院と転校の関係をあれこれ考えてると、
ほむらが見滝原出身だった可能性が少しあるような気がした。

1乙


杏子「……こんなところか」


QB「随分、沢山のグリーフシードを集めたね」

杏子「てめえか」

QB「それ全部、自分の縄張りだけで集めたんだろう? いつになくすごい成果じゃないか」

杏子「ああ、ここ一帯は絶滅だな」

QB「使い魔もね」

杏子「当然さ、誰にも邪魔されたくないんでね」

QB「周到な準備だ。決戦はやはり、おそらく明日だろう。健闘を祈るよ」

杏子「針路は間違いないんだな?」

QB「推定だから間違ってるかもしれないけどね、僕は預言者じゃないから」

杏子「……」

QB「頑張るといい、ここまで場を整えたんだ。最高のコンディションだと思うよ」


QB「“今の風見野はワルプルギスの夜と戦う場合、これ以上ない環境と言えるだろう”」

杏子「……」

QB「じゃ、鬱陶しいだろうから、僕は立ち去るよ」

杏子「そうしとけ」



QB「……」


QB「そう。風見野で戦うのなら、最高の環境だよ、杏子」

QBこいつ嘘はつかないけど積極的に騙してくるからホント最悪だよ

騙すというより言い方を変えて誘導するのが正しいかな

どっちにしろゲスなやり方だ


早朝前から、街は慌ただしくなったのだと思う。

窓は揺れて騒ぐ、植木は割れる、自転車は倒れる、ビニール袋は空を飛ぶ。

いつもと違う気象状態であることは明白で、気象庁からの事前発表もなかったので予兆も何もない恐怖が、眠りからさめたばかりの町中に広まっていた。


総じて住民たちの目覚めは早く、テレビをつけなくても最寄りのスピーカーが「避難しましょう」と叫ぶので、避難率は高いはずである。


私の家族も、多分。熟睡している頃合いだとしても、起きたはずだ。

私は事前に他の子のうちに泊まることを伝えてあるから、両親に心配をかける事は無いだろう。


:今あっちの避難所にいるんだ。すっごい広くて快適だよー


さやか「……よし」


適当に打った文面を家族宛てに送信し、私の携帯は本日の業務を終えた。


マミ「行きましょう」

さやか「はい」

ほむら「二人とも早く、置いてくわよ」


見滝原に、ワルプルギスの夜がやってくる。

さやかの親って出てこないよな
訽子さんがいい親だったから気になる


避難警報が、人気のない工場地帯でおっとりした声を上げ続けている。

私たちはそれぞれ予定通りのポイントへ到着し、ギリギリにテレパシーが届く間隔をあけて、曇天を見上げていた。


マミ『……胸騒ぎが、どんどん強くなっていくわ』

さやか『魔王でも降りてきそうな空だなぁ』


遠くで渦巻く黒い雲は、目に見える速さでこちらへ向かっている。

その雲がワルプルギスの夜なのか、その余波にすぎないのか、まだわからない。

ただ、自然災害級の強大な力がこちらへ悪意を向けている事だけは、強く実感できた。


ほむら『予定通りの動きで、ワルプルギスの夜を攻撃する。周りに現れる魔女や使い魔には注意して』

マミ『了解』

さやか『兵器のタイミングはほむらに任せるよ』

ほむら『ええ、けど私から指示があったら』

マミ『私たちが手動で発動させる』

さやか『慣れてないけど、教わった通りにはやってみるよ』

ほむら『ええ、十分。贅沢すぎるくらい、万全よ』

>>125
ギャルゲーの主人公みたく親が子供を置いて海外で働いているかも

さやか達も遂にマジカル兵器デビューか…


霧が立ち込める。

どこからともなく、足音がやってくる。

川の向こう、すぐそこからだ。


さやか「……」


小さな使い魔が、足元を通り過ぎ、去って行った。

それを皮切りに、次々に使い魔らしき生物が姿を現してゆく。


巨大な象が、犬が、ライオンが、白馬が、見たこともない柄の万国旗を引きながら、祭りの始まりを祝うように、練り歩いてゆく。


伸びる万国旗の終端に目線は移る。



魔女「アハハハハ! アハハハ、アハハハハ!」



姿の霞みようから、かなり遠くにいるはずの魔女なのに、その姿は巨大だ。


さやか「聞いてたまんま、ってだけに……ちょっとビビったよ、ちくしょう」


思わず手が震える。足は震えさせない。

ついにワルプルギスの夜が現れた。


話通りの巨大な姿。

今日はこいつを何十回、何百回分も倒さなくちゃいけないわけだ。


さやか「お昼ご飯に間に合いますかねぇ……!?」


変身する。

さあ、一世一代の戦いの始まりだ。

そういや最初の使い魔はみんな開幕を知らせるだけの役割で以降登場しないんだよなww


さやか「行くよ、デカ魔」


ワルプルギスが姿を現したら。

まず、私とマミさんで攻撃する。


序盤から、ワルプルギスの夜への総攻撃だ。

街の中心部から離れている今だからこそ、思いっきり叩く。


さやか「絶対に守ってやる……“セルバンテス”!」


左腕が銀の輝きに包まれる。

装着されたガントレットに重さは感じられない。力が増した全能感だけが、皮膚の上に一枚、力強く張り付いている感覚だ。


これさえあれば、私はなんだってできる。そんな気がする。


さやか『接近、開始するよ!』

ほむら『了解、無茶はしないで』

マミ『私も行くわ!』


河へと走り、軽く跳躍する。

水面へ放り投げた体は、落ちればすぐに沈んでしまうだろう。

けど今の私にはセルバンテスがある。


さやか「はぁ!」


左腕の籠手がバリアを出現させ、着地可能な足場となる。


さやか「――やあ!」


バリアは反発するバネとなって、私の体を空へと押しやった。


まだまだワルプルギスの夜は高いし、遠い。もっと高く、もっと近づいてやろう。

私の剣のリーチ内まで。


魔女「アハハハハ! アハハハハハハ!」


◆舞台装置の魔女・ワルプルギスの夜◆


足を踏み出すごとに、バリアを展開。

バリアの足場は反発する力によって私を押し出し、さながらリニアのように、身体は空を打ち抜いてゆく。


白馬「ヒヒィン」

象「パォオオ」


いつの間にやら動物をかたどった使い魔たちは空に浮かび、統率性もなく無造作に走り回っていた。

使い魔たちはワルプルギスの夜へ近づくにつれ、その数を増してゆく。


けどワルプルギスの巨体を覆い隠せるほどの数がいるわけでもない。

私は使い魔を合間合間を器用にすり抜けながら、着実にワルプルギスの夜へ接近する。



さやか『よおし……正面っ!』

魔女「キャハハハハ!」


ワルプルギスの夜、前方100m。

疑似的にも空飛べるって強いな


さやか『目標目の前! 交戦開始!』


空中で二本のサーベルを生み出し、纏めてつかんで大剣アンデルセンに。

左腕のセルバンテスと、右腕のアンデルセン。


さやか(……ほんと、ゴジラ相手にしてるようなもんだね!)


視界いっぱいに広がるこいつを相手に、右手の剣が通用するかはわからない。

いいや、絶対に通用する。ただ、この戦いでは、それが目に見えないだけだ。


弱気になるな、姿に気圧されるな。剣を握ったら戦闘開始だ。

全てを賭しても勝てるかどうかの戦いだって、勝つ気で臨んで、そこではじめて全力が出せる。


さやか「ぼっこぼこにしてやる!」



素早く足場を展開し、百メートルの距離を一気に縮める。

正面からの強風の壁が、私を拒むように吹いているが、まだまだその程度では、私の電光石火を止められはしない。


魔女「アハハハ!」

さやか「ヘラヘラうっさい!」


目の前に、ワルプルギスの巨大な頭部。

それ目がけ、私はアンデルセンを振り上げた。


この仰々しい大剣も、ついにその丈に合った出番が来たというわけだ。


さやか「っせいやァ!」

魔女「ハ――」


ワルプルギスの夜の顔面を、ななめにぶった切る。

さすがに切り落とすほどの刃渡りはないが、深く傷つけることには成功した。


もうちょっと硬い手ごたえがあるかと思いきや、そうでもない。硬さは普通の魔女と同じくらいだ。


魔女「アハハハハ!アハハ!」

さやか「~……!」


しかし、決定的な違いがある。

傷が、瞬時に修復されてしまったということだ。


ワルプルギスの夜に与えたダメージは、瞬時に回復する。

ワルプルギスが結界内に貯蔵しているエネルギーがそうさせるのだ。

トータルで見れば、私が与えた傷はしっかりと、ワルプルギスの寿命を縮めているだろう。


魔女「アハハハハハ! キャハハハハハ!」

さやか「うぐぉっ……!」


強風に煽られた歯医者の大きな看板が、私の頭上ギリギリのところを掠めて飛んで行った。

……ダメージは与えている。けど、相手の動きは鈍らない。


怯まない、弱らない相手と戦うっていうのは、かなり難しいな。



さやか(でも、退くことはできない!)


背中には町がある。安全運転で乗り切れる道ではないのだ。

相手が無敵の魔女だとしても、無理を押して戦い続けてやる。


さやか「“ハイド・スティンガー”」

魔女「?」


連日の特訓によって生み出した移動技。

一定の位置、一定の角度で配置したバリアを高速で踏み抜き、相手の背後へと一瞬で迂回する。

あとは、このアンデルセンが猛威を振るうだけだ。



さやか「“五芒の斬”!」


星形を描く大振りが、魔女の背中を素早く切り刻む。

体から切り離された組織が。煙となって風に消え、しかし瞬時に元に戻る。

普通の魔女なら二、三回は死んでいてもおかしくない、オーバーな攻撃だ。


さやか(この魔女に普通の戦いは通用しない! 大味な技で、削り続けるんだ!)


魔女「キャハハハ!」

さやか「!」


魔女の周囲の空間が暗くなり、かげろうのようにゆがんだ。


振り上げた大剣の軌道を強引に逸らし、後ろへ戻す。

左手のバリアを素早く展開し、踏み抜いて一気に距離を取った。


白馬「ヒィイィイイン!」

さやか「うわ」


メリーゴーランドのポールが突き刺さった白い馬が宙を駆け、私の目の前を踏みつけながら過ぎ去っていった。

たった今、ワルプルギスが召喚した使い魔だろう。


……重力を無視しながら宙を走る使い魔。これは少し、厄介だ。


白馬「ヒヒィィイイ」

「“ティロ・スピラーレ”!」


厄介だと眺めていた使い魔が、黄色いリボンの花火に巻き込まれ、串刺しになった。

陶器のような身体を放射状のリボンが貫き、砕かれ風にまかれて、跡形もなく消えてゆく。


さやか『マミさん!助かります!』

マミ『ふふ、将を射るにはまずは馬からね、任せて』


ここからは離れた場所にある鉄塔から、援護射撃が始まったようだ。

巻き上がる砂埃越しにでも、黄色いフラッシュは辛うじて見て取れた。


頼り甲斐のある先輩の遠距離射撃は、私のそばを掠めてゆこうとも、どこか安心できる軌道で、すべては魔女へと命中する。

着弾する弾が広がり、ワルプルギスのスカートを貫き、肌をも刺す。


マミ『ハイペースにはしないわ、ゆっくり慣らしていきましょう』

さやか『はい、まずはワルプルギスの夜との戦闘感覚を掴みたいですからね』

ほむら『本気を出し始めたあいつは、考えられないほど鋭敏な動きで攻撃を仕掛けてくる。大したダメージを与えていない、今だけが“練習”よ』

さやか『ほいさ!』


マジギレしたワルプルギスの猛威を一番に食らうのは、間違いなくこの私だろう。

だから私は本気で練習しないといけない。距離感、手ごたえ、感覚として養えるものは、すべて体験しなくてはならない。


でないとこの長期戦における大部分である、本気のワルプルギスの夜との戦闘で、身体が持たないから。


さやか「おりゃ!」


迫りくる金属片を左こぶしで殴り、ワルプルギスの夜へと吹き飛ばす。

勢いよく飛んだ破片は顔に命中したが、それがちぎった消しゴムのカスであるかのように、あっけなくハラリと落ちて行ってしまった。


さやか「まあ、私にぶつかってくる物を利用できるだけましか……うおっ」


背後から飛んできた古びた車のスカートを、持ち前の柔軟な体で根性で避ける。

……辺りが段々と、気を抜けない風速になってきた。


ゲームもローグライクでなくアクションでやりたかったなぁ難しいとはわかっているが

あれ、久しぶりに読み返したらついていけなくなったわ

ほむらはタイムスリップして煤子さんになったんじゃなかったか?

すまん、あげちゃった

煤子と今回の主人公のほむらは別の時間軸から来ていて、今回の時間軸は2人のほむらがいるんじゃないの
途中で中途半端に挟まれてかなりわかりづらいけど


長いトタン板が、サーベルの峰を走る。

ほとばしる火花を残してトタンは去って行ったが、そのかわりにと、次はモルタルの巨大な壁面が飛んできた。


迫る廃材の壁を踏みしめ、いざワルプルギスの懐へと跳躍する。


さやか「くっそ、もう限界!?」


強風が吹き荒れている。ワルプルギスの攻めの手が強くなってきたのだ。

飛んでくるものの中にも軽乗用車など、当たればシャレにならないものも混ざっている。


戦いに慣れるというフェーズに、そろそろ終わりがやってきたのだろう。

それでもまだ、私は退きたくなかった。


あと一発だけでいいから、懐へ潜り込んでぶちかましてやりたい。

そう思いつつも、体は廃材と廃品の嵐に翻弄され、なかなか近づけないでいるのだった。


こいつ最終的にビル飛ばしてくるからなぁ笑えない


マミ『美樹さん、気を付けて!』

ほむら『そろそろ危険よ!』


二人のテレパシーが強く警戒を促す。

確かにそろそろまずいかもしれない。こんな出だしで再起不能となれば、私たちの勝利は絶望的だ。


さやか「でも、ここで……!」


踏ん張れないようじゃ、さらなる暴風に再び突っ込むなんて無理に決まっている。

乗用車が、腕を振りかざすようにドアを開け放ったまま、こちらへ飛んでくる。


さやか「妥協しちゃいけない……!」


サーベルでドアの根元を切り離し、車をやり過ごして、前へと加速。

しかし今まで視界にも入っていなかった金属コンテナが目の前に現れ、巨躯を乱回転させながら向かってくる。

これにぶつかれば、そのまま吹っ飛ばされるのは間違いない。


さやか「相手が何をしてこようと、攻めてやる!」


コンテナが暗い中身をこちらへ向けた一瞬をつき、バリアを蹴って内側へ飛び込む。

魔法少女の強力なキックはコンテナの奥底に叩きつけられ、ワルプルギスの夜めがけて吹き飛んだ。


魔女「ヒャ――」


大きな顔面をコンテナが直撃し、箱はひしゃげ、魔女の体はわずかに後退した。


ほむら『……やったわね』

マミ『すごい……あの中で、攻撃をいなすなんて』


相変わらずの魔法少女(物理)だな


さやか「っへへ、どーんなもんよ……!」


風ではない、何か強烈な力によって、私の体が大きく跳ね上がる。

突如の衝撃で、大剣アンデルセンは手を離れて宙に舞った。


さやか「うぶっ……!?」

ほむら『さやか!』


ワルプルギスの周囲を囲むように、衛星軌道のように、私の体は見えざる力に操られていた。

それは風などというわかりやすいものではないが、振る舞いは竜巻そのものだった。


そう、押し出す風ではなく、逆の、何もない真空空間に引き寄せられるような、手を掻いても抵抗力をつかめないような力なのだ。

身体が無重力に揉まれ、思うような体勢を作れない。


もし今、死角から何かが飛んで来れば……防げない!


マミ『掴まって!』


リボンが鋭く伸びる音がした。だけど、私の視界には灰色の嵐しか映っていない。

私の近くに伸びているのだとしても、掴まりようがなかった。


ほむら『さやか! 手を伸ばして、両腕を広げて!』

さやか『そ、んなこといったって!』

ほむら『いいから!』

さやか『解った! とりあえず広げる!』


鉄骨にでも当たれば即死だなと思いながら、私は体をいっぱいに広げた。

巨大生物との接近戦ってやっぱ楽しいな


雨粒だか砂だか、とにかく冷たい粒が全身にぶつかり、痛い。

それでも腕を広げ、風の中に体を晒す。


さやか(……!)


“がん”と、腕に強烈な衝撃が走り、自分の体勢がそちらへと引っ張られた。

一瞬“何かにぶつかったか”と思ったけど、そうではなかった。


ほむら「もう、無茶して……」

さやか「ほむら!」


ほむらの手が、私の腕をしっかりとつかんでいた。

彼女の位置はもっと後方のはずだったが、私を助けるためだけに最前線へやってきたのだ。


ほむら「一旦距離を置いて、ワルプルギスの特殊な重力場から抜け出すわ」

さやか「ごめん、手間かけさせちゃったね」

ほむら「ほんとよ」


時間が停止して、宙を舞う瓦礫がぴたりと止まる。

動体視力を振り切っていた障害物の流星も、平凡な日常に見られる各々の正体を明した。


それらを足場に、私とほむらは手をつないで退却した。


……ちょっと悔しいが、最後にいっぱつかませてスッキリだ。


攻撃の無い停止した時間の中で、堂々と着地する。

工業地帯では比較的大きめな螺子工場の屋上だ。



魔女「キャハハハ……」


さやか「わお」


遠くから眺めてみて、初めてわかる魔女の強大さがあった。

車も屋根も、全てがおもちゃの様に宙に浮かび、ワルプルギスを軸にゆっくりと回っている。

いや、ゆっくりと見えるのはその軌道があまりに大きすぎるためで、実際に接近してみると、とんでもなく速いんだけど。


マミ『美樹さん!』

さやか『あ、マミさん、無事です! ほむらに助けてもらいました』

マミ『ああ、良かった……どうなるものかと……立て直せる?』

さやか『すぐにでも。ほむら、どうする?』

ほむら『まだワルプルギスは本気じゃない。奴が怒るギリギリまでは、押し戻しながらダメージを与え続けるわ』

さやか『了解!』

マミ『でも、これからは美樹さん、辛くなるわね』

さやか『大丈夫っすよ』


サーベルを握り、篭手を構える。

遠くに見据えられるワルプルギスは難敵であれ、今日までやつを仮想敵とした特訓を続けてきた。

努力は自分を裏切らない。なら、結果も出るはず。


さやか『さっきはちょっとパニクっただけです、今度はいけます!』


私はバリアーを踏み、再び空へと跳躍した。


前衛大変だな


ワルプルギスの夜に接近して、謎の浮遊感に襲われて気づいたことがある。

多分だけど、あの魔女は自分の周囲の重力を弱くしているのだ。

重力を弱め……無重力にほど近いのかもしれない。かつ、それを振り回すことができる。


さながら、太陽と地球といったところか。その能力がワルプルギスの夜の技なのか、それとも無意識に発生している“余波”なのかは、わからない。

方向感覚の掴めないフィールドはちょっとした脅威ではあるけど、バリアの反動をかき消すほど強力ではないはずだ。

相手の力場に進入しても、バリアを蹴っての移動はできる。障害物を足場にするのは控えて、自分の力を信じてやってみよう。


さやか「いくぞワルプル……二本目だ!」


迫るブリキの屋根を引き裂いて、バリアを踏み抜き高度を上げる。


さやか「……とはいえ、シャレにならなくなってきたな」


ワルプルギスの夜よりも少しだけ上から臨む嵐の中には、細長い棒がいくつも見えた。

建築用の鉄骨である。あれをまともに食らえば、魔法少女でも耐えられるかわからない。


さやか「……当たらなきゃ同じっしょ!」


ということにして、覚悟を決める。

引き返せないし、相手のデカさだ。被弾は死と覚悟しよう。

それでも気になる鉄骨に突撃していると、黄色いリボンが私の左右に広がった。


マミ『邪魔な障害物は消すわ! その間に突っ込んで!』

さやか『ありがとう! マミさん!』


リボンの花火が建材や車を貫き、一時的にではあるが空間に固定させてゆく。

私はその花火を避けるようにして宙を舞い、バリアを展開しては強く踏んで、忍者のように近づいてゆく。



魔女「アハハハハハハ!」

さやか「うおおおぉおおおぉ!」


二本のサーベルをアンデルセンにまとめあげ、最後の一蹴りの勢いに身体を託し、ワルプルギスの首元へ。


一瞬で間合いを詰めた私に、それでもここは通さぬと、横向きの鉄骨が立ちふさがる。

直進すれば鉄の塊に激突するだろう。勢いは削がれ、ワルプルギスの流れに巻き込まれてしまう。


さやか(いけるに決まってる、たかが鉄くらい――)


ここで剣を振るわけにはいかない。ワルプルギスとの距離が近すぎるのだ。

かといってもう、バリアを出すことはできない。両手は柄を強く握り、振る構えに移行している。


振るしかない。この鉄骨を裂くために?

いいや、あくまで一撃は、ワルプルギスにくれてやるものだ。

こんな無機質で、どうでもいい、割り込んできただけの野次馬に、くれてやるものではない。


さやか(剣に、魔力を注ぐんだ。フェルマータの時のように)


魔法の斬撃を放射するための機構に、私の魔力が充填される。

力は大剣のうちに収束し、エネルギーの塊となる。


さやか(溜めて放つのは、私の得意分野じゃない……私の特性魔法は防御系統のはずなんだ……)

さやか(だから、このフェルマータの一撃は大雑把で、シンプルなものであるはず)

さやか(シンプルなものほど、応用が利くはずなんだ!)


下段の構え。剣先を下方正面へ突き出す。

一瞬の狭間で、剣が鉄骨の下へとわずかに潜り込んだ瞬間、腕に力を込める。


より正確に、より力強く。上段へと持ちげる。


さやか「ふッ!」


青白く輝く大剣は、白い火花を散らしながら、鉄骨は焼くように切り裂けた。

そこに物理的な勢いなどはなく、私の魔力がやってみせた破壊だった。


ワルプルギスの夜が生み出す特殊な重力を突破するだけの勢いを保ち、私の剣は頭上に掲げられた。


さやか「……“フェル・マータ”!」


かっけえ


魔力のビームが、ワルプルギスの無重力場を打消し、引き裂いてゆく。

両断されてもなお浮遊力に囚われていた鉄骨も、フェルマータの青白いエネルギー波に押され、ワルプルギスへと押し込まれてゆく。


魔女「キャ――」


モーション過多の強大な一撃は、ワルプルギスの夜の胸元に直撃した。

当たりの瓦礫も流れに飲み込まれ、荒っぽい弾丸となって、ワルプルギスの巨体へと立ち向かってゆく。


さやか「ぉおお……!」


剣を前方へ向け、まだ尚も力を注ぎ続ける。

砂時計以上に目に見える速さで、私のソウルジェムは黒ずんでいってるに違いない。

それだけ、フェルマータは燃費の悪い技だ。


ただし当たれば、リターンは大きい。

力を解き放てば解き放つほど、威力となって相手を襲うからだ。


ドドドド、と、濁流のようなエネルギーが射出され続けているが、それも限界だ。

これ以上は私の身が危ない。


さやか『ほむらぁ! 今だ!』


だからこの先は、ほむらに任せる。

私はもう十分に、ワルプルギスに“穴”をあけた。

フェルマータの流れも残っている。今がチャンスだ。


ほむら『無事を祈るわ! 発射!』


嵐の中でも、その遠方からでもわかる、戦争が始まったかのような、連続的射出音。


さやか(精神集中! ミスったら死ぬ! 大丈夫できる! あたしならできる!)


フェルマータの濁流が依然としてワルプルギスの胸に大穴を開け、マミさんのリボンの弾が、その巨躯を空中にはりつける。


そして今、私の背後からは、数多のミサイルが白煙を吹きながら、こちらへ飛んできている――。


さやか(一発当たれば誘爆する)


大剣アンデルセンから手を離し、上体を大きくのけぞらせる。

私の目には、想像通りのミサイルの群れが、先端をこちらに向けて疾走していた。


さやか(魔法少女の体なら、一発くらいは大丈夫……かもしれない)

さやか(けどこの数は死ぬ、絶対に死ぬ)


極限状態における人間の加速した脳内時間という魅力的な力にも、限度はある。

ミサイルが遅いはずはない。私の思考よりも確実に速く、危険な弾頭はこちらへ迫っている。


さやか(私は体がやわらかい、ツイスターも得意、余計な話バク宙だってできる)

さやか(信じろ私、空中で物を避ける練習は、今まで魔女の結界で沢山やってきたじゃないか)


ほむらと、マミさんと。私たちは魔女の結界で、空中戦での連携を磨いてきた。

バリアを蹴って空を飛び、空中で剣を振り、姿勢を、位置をコントロールする。


人間だった頃では考えもしなかった動き方を学び、実践してきた。

今の私なら、空を飛ぶ魔女にだって、白兵戦を仕掛けて勝つ自信はある。


さやか(いける!)


魔力を使った空中での移動の応用。

四肢に微量の魔力を含ませれば、水中にいるときのように、体をわずかに動かすことができる。


さやか(ふっ……)


沿った体をねじると、腰の裏を一発のミサイルが通り過ぎる。

それを待たずに、今度は頭部めがけてもう一発がやってきた。首もそらせて、紙一重で避ける。


腿を狙った一発を、脚をあげてやりすごし、遅れて胴体の真ん中めがけてやってきたミサイルは、今度は背を丸めることで、腹から向こうへと通す。

これで大体のミサイルを避けたはずだ。


さやか(……!)


しかし無慈悲にも、最後の3発のミサイルは、胴、胸、脚に目がけて飛んできた。


わずかな思考時間に考え付いた回避姿勢は、なかった。

避けることはできない位置に、よりにもよって最後のミサイルは、あったのだ。

さやかちゃんが板野サーカスするすることがあろうとは…

絵コンテはよ

謠上>縺溘h

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4312092.jpg

ホントに絵来たよww

ワロタwwww

上手くはないが、なんかほっこりした

愛くるしい肉まんだなww


さやか(し……)

さやか「死んでたまるかァ!」


密集する三本のミサイル。

それぞれを避けることはできない。ならばどうするか。三本でなければいいのだ。

もちろんそれは賭けだった。



さやか「うあぁああ!」


両手を広げ、ミサイルの先端を狙って強く腕を抱え、閉じる。

抱きかかえられるようにされた二本のミサイルは、強制的にもう残りの一本に接触する。


三本の矢。不器用ながらも、ミサイルは一つにまとめられた。

無茶な体勢ではある。けど、ひとつを避けるだけなら容易いはずだ。


さやか「いっ……けぇッ!」


空中ジャーマンスープレックス。相手はミサイル。

体を大きくのけぞらせ、噴煙を吐く弾頭を、そのまま魔女の傷口へと放り込んだ。


ミサイルの回避、ミサイルの投擲。精神が圧縮されていた私には、それらにどのくらいの時間がかかったのかは、わからない。

ただ、これを他者が見ていたとしたら、神業にでも見えていたのだろう。



さやか「“セルバンテス”ッ!」


最後の仕上げとばかりに、ワルプルギスの胸元を左腕で殴りつける。

展開されるシールドはミサイルを取り込んだ傷口を塞いだ。



マミ『いける!』

さやか『そんなに溜め込むのが好きなら……残さず腹に収めてみせろ!』


魔女「――!」


ワルプルギスの夜に亀裂が走る。

まさかの空中プロレス


マミさんのティロ・スピラーレが本体を空中に繋ぎ止め、私のフェル・マータがワルプルギスに穴を穿ち、ほむらの放ったミサイルがそこへ突入した。

内側からの爆発によって、ワルプルギスの全身は、干ばつが起きた大地のようにひび割れた。

無数の割れ目から漏れる赤い光は、これからコンマ数秒後に起こる破裂を予感させるには十分なものだった。


さやか「うおおおおお……!」


ワルプルギスが炸裂した。

バリアの端から漏れてくる熱風に、現代兵器の底知れない威力を思い知る。

こんなものを生身の人間に使うなんて、正気の沙汰じゃあない。


魔女「ギァァアアアア――」



爆炎越しに、魔女の本体が砕け散るさまが見えている。

魔女は文字通り、木っ端みじんになっているのだ。完璧に砕け散るまで、再生は間に合わない。

完全に破壊した後にも余波は残り、それは数秒の間、ワルプルギスの夜の存在をここから消滅させるだろう。


ワルプルギスはしばらくの間、完全なグリーフシードの状態に戻るのだ。

そしてその時こそが、結界突入のチャンス。


バリアを突き出す左手とは対極に、右手を差し伸べていた。

その右手に、ひんやりとしたなめらかな感触が触れる。


ほむら「さやか、冷や汗をかいたわ」

さやか「私もだよ、まるで生きた心地がしない……」

マミ「けど頑張ったわ、ありがとう、美樹さん」

さやか「いえいえ、はは」


ま、どんなに褒められたって、あんなのはできればもう、二度とやりたくない。

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>>160>>60>>32>>183>>200>>11>>61>>130>>51>>161>>189>>36>>187>>55>>117>>73>>174>>20>>191>>139>>87>>45
>>169>>174>>156>>112>>146>>170>>79>>46>>130>>139>>77>>112>>138>>88>>173>>68>>138>>133>>56>>174>>119
>>91>>192>>84>>111>>182>>23>>197>>27>>120>>166>>1>>76>>77>>146>>45>>156>>191>>174>>94>>68>>85>>31
>>57>>98>>93>>190>>154>>66>>109>>64>>157>>100>>148>>67>>82>>170>>64>>109>>90>>29>>109>>165>>106>>54
>>61>>45>>183>>154>>112>>68>>184>>66>>125>>82>>158>>114>>35>>24>>22>>99>>180>>122>>46>>46>>4>>16
>>112>>106>>138>>20>>70>>44>>74>>79>>104>>118>>61>>58>>30>>129>>42>>96>>53>>123>>53>>167>>158>>77
>>56>>56>>110>>102>>102>>114>>117>>12>>25>>23>>149>>45>>92>>193>>119>>171>>96>>36>>32>>154>>66>>160
>>161>>12>>117>>14>>178>>74>>90>>166>>130>>146>>76>>31>>48>>189>>148>>59>>14>>170>>8>>59>>62>>200
>>32>>96>>13>>63>>49>>78>>22>>43>>38>>33>>160>>51>>11>>33>>141>>177>>162>>86>>52>>193>>134>>41>>140
>>54>>110>>199>>112>>171>>198>>88>>2>>94>>100>>64>>142>>177>>86>>184>>15>>118>>143


時が止まっている。

爆散したワルプルギスを目の前に、私たち三人は手をつないで空中の鉄骨に立っていた。


暴風と爆風の狭間で静止する世界の凄味といったら、この地球上では他に味わいようもないのかもしれない。


マミ「もうこんなに消耗してる……」


私のソウルジェムにグリーフシードがあてがわれ、魔力が復活してゆく。

ボス戦突入前のセーブポイントみたいなものだ。まずは、今まで失った魔力を取り戻さないといけない。


さやか「グリーフシード、備蓄してたのもそう長くは持ちませんね」

マミ「ええ、正直予想以上ね。私も結構、黒ずんでたわ」

ほむら「……でも、このくらいで本体を倒せたのは、良い戦果よ」


ほむらの口元が珍しく微笑んでいた。

つられて私たちも、思わずほころんでしまう。


作戦通りに事が運んだ。現実的に達成できるか未知数だった事が、順調にクリアされたのだ。

ワルプルギスの夜の完全撃破までは、まだまだ遠い。

それでも確実に勝利に近づけていることを、私たちは確信していた。


杏子「随分と荒れてきたな」

QB「ワルプルギスの夜が近い証拠だね」

杏子「予定時刻までは、そろそろってところか」

QB「そうだね」


杏子「……さっきから嫌な感覚だけは、ビリビリと伝わる」

杏子「だが近づいてンならでっかくなるだろう、けどならねーんだ」


QB「君たちのそういう第六感に近い感覚は、僕にはよくわからないな」

杏子「だろうね、脳みそなんて小さそうだもんな」

QB「……」

杏子「……すぐ近くにいる、けど来ねえ、この感覚はなんだ」


QB(鋭いね杏子。そう、確かにワルプルギスはもう、すぐ近くにいるよ)

QB(そこに巨大な建物がなければ、君はきっと濃い曇天の中にワルプルギスの夜を見つけてしまうだろう)

QB(けど今の君には見つけられない。ここが迎撃ポイントだと聞かされているからだ)


QB(悪いけど、しばらくは足止めさせてもらうよ)

おのれQB…


【見滝原 避難所】


まどか「……」

タツヤ「今日おとまり?」

知久「そう、お泊りだぞー」

タツヤ「おとまり!おとまり!」


QB「既に彼女たちは戦いを始めたようだよ」

まどか『……そう』

QB「見届けなくてもいいのかい?」

まどか『うん』


まどか『私が行っても、契約はできないし……さやかちゃんが大丈夫って言ったから、私、信じてる』

QB「さやか達に勝ち目があると思っているのかい?」

まどか『みんな強いもん、大丈夫』


まどか『……さやかちゃんはいつだって……最後には、勝って戻ってくるから』

まどか(そうやって何度も、私を助けてくれたから)


まどか(ごめんね、さやかちゃん。本当は私、こういう時にこそ力になるべきなのにね)

まどか(けど、これが正しい選択だってさやかちゃんが言うなら、私も自分の選択を、見失わないよ)

さやか昔から主人公やってたのか


爆破されたワルプルギスの跡を潜ると、薄く虹色に発光する幾何学模様が現れた。

普段見る魔女の結界への入口をそのまま大きくしたようなものである。


さやか「……ワルプルギスの夜がそのまま背負ってる結界」

マミ「この中に、無数の魔女がいるっていうことね」


リボンで編みこまれた細い通路は、辺りのがれきを支えにまっすぐ結界へ伸びている。

このまま歩き続ければ、ワルプルギスの夜の本体とも言えるものと戦えるわけだ。


ほむら「これから、内部の魔女を全力で殲滅する」


声はわずかに震えている。

人差し指を握り、目は結界の1km向こうの目標を睨み、その決意を固めていた。


ここから先は、ほむらも知らない魔女の異空間。

誰も前情報を持っておらず、ただただ危険であるという魔女だらけの世界だ。


マミ「緊張しないで。魔女の巣へ飛び込むのは、いつものことでしょ?」

ほむら「……」


マミさんはほむらの肩を叩き、先輩らしく前を歩く。


マミ「ここからは負け続けた戦いじゃあない。勝てる勝負が始まるのよ」

ほむら「……ありがとう」


巴さん。その小声は、私だけが聞き取っただろう。

私とマミさんの手を取って、結界の目の前に立つ。


ほむら「行きましょう。成果を見せる時よ」

マミ「ええ」


三人一斉に、ワルプルギスの内部へと踏み込んだ。


さあ、本番だ。


ほむら(時間停止……継続)


手を繋いだ三人は、高い場所に出た。

高い場所というのは、つまり地面が結構下の方にあるという場所ということだ。


さやか「!」

マミ「着地準備! 周りにリボンでひっかけられそうなものがない!」

ほむら「絶対に手を離さないで!」


草原。一面の大草原。

サバンナとは違う。砂地の一切ない、一面が全て緑で覆われた草原だ。


周囲には魔女の結界ではありがちだった意味不明な構造物も、草原に一本や二本はあるべき背の低い木も存在していない。

私たちが仲良く手をつなぎ降下する20mほどの高さから見通すことができる景色は、その一面すべてが大草原で構成されていた。


さやか(建物はない、魔女もいない……!?)


ここは確かに、ワルプルギスの夜の結界のはずだ。

キュゥべえの話では確かに、大量の魔女がいるって……。



マミ「っ」

ほむら「ふっ」


草原に着地した。


さやか(草の丈は膝下……移動の阻害には成り得ない、ありがたいことではあるけど)


三人はしばらく辺りを見回した。

手をつなぎ、時を止めたまま周囲を見やる。探しているのは、当然、結界内にいるという魔女の姿だ。


しかしいくら周りを注視してみても、広がるのは草原と澄み切った青空のみ。

突入する前は恐ろしい魔王の城であったり、廃墟立ち並ぶ荒野のような結界を想像していただけに、やけに不気味だ。

お互いに握る手のひらも汗ばんできた。


ほむら「……いない」

マミ「わよね?」

さやか「今は、多分……」

ほむら「どこかに隠れている……?」

マミ「それはないわ、隠れる場所なんてどこにも……」

さやか「時間停止を解除しよう。相手方の動きがないと、対処のしようがないし」


このまま手をつなぎ、ほむらの魔力を消耗させ続けるのは得策ではない。

時間停止したまま突入したのだ。お出迎えがないのはそのためかもしれない。


ほむら「わかったわ、解除する……けど、準備はいいのね」

マミ「大丈夫よ、いつでも……戦う準備は、できてるわ」

ほむら「……いくわよ」


ほむら「解除」


風のなかった世界に、静かな風が吹いた。


◆燭台の魔女・ミレイ◆

◆憤怒の魔女・マグダ◆

◆ガス灯の魔女・ジェシカ◆

◆藁山の魔女・マリーン◆

◆篝台の魔女・ルーシー◆

◆鉄檻の魔女・カレン◆

◆鏝の魔女・ミカエラ◆

◆灰掻きの魔女・モニカ◆

◆悲鳴の魔女・ジルケ◆

◆鞴の魔女・ニコラ◆

◆菜種油の魔女・テレサ◆

◆蝋燭の魔女・アリーナ◆

◆鉄牛の魔女・シンディ◆

◆坩堝の魔女・ティナ◆


ほむら「!?」


そいつらは、何もなかった空間に突然現れた。

草原に風が吹くことが当然であるかのように、目の前に現れた。


憤怒「ウォォオオオォオォオオォオオオォッ!」

マミ「――」


そして、魔女は私たちがここにいることが当然であるかのように、それぞれがそれぞれの凶器と成り得るもので襲いかかってきた。


ほむら「ッ……!」

さやか「“セルバンテス”!」


真っ先に振り下ろされた溶岩の拳をバリアーで受け止め、ほむらの前に躍り出る。

ほむらの手を強く握りしめ、叫ぶ。


さやか「マミさんを!」

ほむら「はっ!」

マミ「お願い!早く!」

草原ってのはゲームのアレだろうか


灼熱の拳。灼熱の銛。灼熱の鞭。全ての燃え盛る凶器は、マミさんのほんの手前でようやく停止した。

ジリジリと焼きつくような熱気もそこにとどまり、マミさんの肌を焼くこともない。

ほむらの時間停止が効いたのだ。


マミ「……びっくりした」

さやか「ひぃ~……」


マミさんが生み出した一条のリボンは、辛うじてほむらの腕に巻きついていた。

ほむらの停止があと少しでも遅ければ、マミさんは今頃……いや、やめておこう。

間に合って良かった。


ほむら「……ごめんなさい、背筋が凍ってしまって」

さやか「うん、さすがにね……予想してなかったわけじゃないけど」


見上げ、見回せば、青空だった景色を覆い隠す、十数体の魔女。

それぞれ使い魔を持ってはいないものの、身体のどこかしらに滾らせている炎が、単純な魔女としての危険度を示していた。


さやか「こいつら、一瞬だったよね」

ほむら「……ええ、音もなく取り囲むように現れた」

マミ「気配もなかったし、前兆も……厄介ね」

さやか「この魔女たち、みんな炎にまつわる攻撃をしてるみたいだね……統一性がある」


この魔女の群れを倒すのは難しくはないだろう。一度時間が止まってしまえば、こちらのものだ。

けどこいつらを倒したとして、それで終わりだろうか?


……あり得ない。絶対にまだ何かあるはずだ。

フツーにチベットちゃんが寝てた場所……かな?乙


ほむら「魔力を無駄にはできない……そろそろ解除しなくちゃいけない」

マミ「こんなに思いつめる状況になるはずじゃなかったけど……どうにかしなきゃね」

さやか「……倒そう」

ほむら「二人とも、できる?」

マミ「あら、不安?」

ほむら「時間を止めたままの状態で負けるなんて思ってはいないけど……停止を解除した状態で、勝てるのかしら、って思ったのよ」

さやか「……ほむらの時間停止も、有限だしね。魔力は無駄遣いできない」


ほむらの手を握ったまま、片手でアンデルセンを構える。

マミさんもマスケット銃を手に持って、一回転させて魔女へと向けた。


ほむら「何度も何度も時を止めていたら、いざという時の対処ができない……苦しいかもしれないけど、二人でこ魔女を」

さやか「任せなって、最強さやかちゃんだよ?」

マミ「ふふっ、私だって負けないわよ。新技を、こういう状況で使ってみたかったくらいだもの」

さやか「私だって、負けませんよ?」


伊達に力を願って魔法少女になってないもんね。


ほむら「……合図とともに、手を離す。そうしたら、戦いが始まると思っていて」

さやか「オッケー」

マミ「了解」


手に汗握る戦いがはじまる。

目の前に広がる巨大な銛は、世界が動き出すと同時に間もなく私を貫く予定だ。


その予約に割り込み、私の剣は敵を斬らねばなるまい。

無茶だらけの戦いが行われるわけだが、修羅場を潜らずにワルプルギスの夜を倒せるはずはない。ここを乗り越えなくちゃいけないんだ。



ほむら「……解除!」

燃える


さやか「“長七の乱”」


二本のアンデルセンを、その重みのままに、回るように振り払う。

魔女が突きだす銛と、その隣の魔女の柱と、何かの脚と、何かの腕と、何体かの胴を斬り落とした。


マミ「“ティロ・レデントーレ”」


私の反対側では、マミさんのリボン花火があちこちで大輪を咲かせていた。

一瞬で空間を刺し尽くすリボンの刃から逃れる術は、残念ながら魔女にはないようだ。


ほむら「……」


そしてダメ押しとばかりに、辺りにダウンした魔女たちが燃え上がった。

鼻腔を突くガソリンの臭気に、ほむらの攻撃であると理解する。


立ち上がろうとする気力があった魔女達は、静かにその余命を燃やして消滅した。



マミ「……やったかしら?」


辺りは一面焼け野原。

視界には何の姿もいないように感じられる。



『ォォオオォオォオオオオォォオオ!』

さやか「! まだ来る!」

マミ「気を付けて!」


◆驢馬の魔女・クリステル◆

◆珊瑚の魔女・アンゼルマ◆

◆投網の魔女・ゾフィーア◆

◆冒険の魔女・テオドーラ◆

◆鉤の魔女・ヤスミーネ◆

◆胡椒の魔女・ロザーリエ◆

◆濁流の魔女・パウリーネ◆

◆蛋白石の魔女・ミュリエル◆

◆烏賊の魔女・リースベト◆

◆曲刀の魔女・カトライン◆

◆傘の魔女・イングリト◆

◆伏目の魔女・ディアーナ◆

乙!101匹魔女さん大行進だな。

まさにハーレム展開

モテモテだな3人とも
まったく嬉しくないけどな!


またも同じ状況。

今度は寒色中心で彩られた魔女が、私たちを取り囲むように現れた。


さやか「ッ!」


その中でもっとも大きな魔女の腹に、左手のアンデルセンを放り投げる。

ゆっくり二回転した大剣が岩のような腹に突き刺さり、私はそこへ飛び込んでゆく。


さやか「“セルバンテス”!」

魔女「ゴォッ!」


釘に対する鉄槌。あらゆるものに反発するバリアーが大剣を押しやり、頑丈さでは無二であろう魔女を粉々に砕いた。


魔女「シェッ!」

魔女「シャァッ!」


一体だけに構う余裕はない。私が一体を片付ける間に、二体の魔女はすぐそこまで迫っていた。

大きなイカリを腕に備えた魔女と、アンデルセンの二倍はある曲刀を握った魔女だ。


重量不明の、分厚いイカリが私の頭上に振り下ろされる。


さやか「はぁっ!」

魔女「!?」


しかし私のセルバンテスが生み出すバリアーを崩すには至らない。

何トンもの重量があったイカリの一撃は弾き返され、魔女の体勢を大きく崩した。


さやか「“六甲の閂”」


露わになった腹を真横に切断し、二体目。

もう一体の曲刀の方は……。


魔女「ごぼッ」


……側面からの赤い爆風によって、轟沈していた。

これもほむらだろうな。

?


マミ『数が多いと、目まぐるしいけど……!』

さやか『なぜかそんなに辛くないっすね!』


強がりではなく事実だった。

私たちを取り囲もうにも、その数には限りがある。

小さな人間を複数の魔女が一度に襲うには、かなり厳しいものがあるのだ。


対して私たちの攻撃はコンパクトながらも高威力。魔女が手を下す前に、私たちが適当に放つ強烈な一撃が魔女を蹴散らしてしまう。

ほむらの火器が、マミさんのリボンが、私の剣が。

急所を貫き、動きを止め、脅威をそぎ落とす。

無敵と言っても驕りではない連携がここに確立されていた。


魔女「ブシュッ!」


しかし無敵なんて都合のいい状態が、ゲームじゃあるまいし、続くはずもない。


さやか「! まずい――」


予想はしていたけど、認識できなかった位置からの攻撃に今さら気づいてしまった。

半透明なカエルのような魔女。膨らんだ頬。震える体。


さやか「防御に回る! 私の後ろへ!」

ほむら「えっ――」


アンデルセンはひとまず地面に突き刺して、左手を正面へ構えて腰を落とす。


そして、人を4人は巻き込めそうな太い水柱が、私たちに襲いかかってきた。

ボスラッシュか


洪水が噴き出し、私を襲う。

一面に広がるバリアーは休む間もなく震え続け、激しい飛沫を散らしながら水流を割り、受け流してゆく。


さやか『く……耐えられる勢いだけど、ここから動けない!』

ほむら『弾かれた水で私たちも駄目ね』

マミ『! 他の魔女が来る』

さやか『動けないけど、お願いします!』


水のカーテンに包まれる中、無茶な注文だろうと思う。

けど二人ならやってくれても不思議じゃあない。


マミ『仕方ないわね、全力で消し飛ばすわ……!』

ほむら『そうね、出し惜しみはできない』


魔女の影が、水流越しに近づいてくる。

水にまつわる魔女たちだ。水流などはものともせずに、こちらを攻撃することができるのだろう。


マミ『“ティロ・フィナーレ”』

ほむら『食らいなさい、特製ハナビよ』

次は何属性か


横なぎのビームと炸裂する爆弾。

通常では考えられないほどの頑丈さを誇る魔女の外殻が砕け、余剰エネルギーは更に奥の魔女さえも貫いた。


周囲から敵が掃けた今が好機!


さやか(左手にバリアを生み出すセルバンテスの展開を続け……)

さやか(右手にアンデルセンを生み出し――バリアが消える一瞬の間に――)


大剣の溝に魔力が籠る。青白い輝きが迸る。


さやか(叩き斬る!)


フェルマータの青い輝きが、水の激流と同じ太さのエネルギーになって放射された。

強い気を放つオーラは水を弾き、濁流など容易く押しのけて、魔女の口内へと到達した。


魔女「ゴボッ!」


カエルの魔女は内側から大きく膨らみ、爆発して消滅した。


さやか「ッ……!」


フェルマータを撃った直後の疲労感が、体の重さを倍増しにして襲いかかる。

が、ここで休憩する暇はない。まだまだ魔女は、周囲にいるのだ。


マミ(く、やっぱりトドメの一撃用の技を途中でっていうのは……結構キツいわね……!)

ほむら(魔女殲滅用の爆弾……確実に一体以上を殲滅できる特別火力……数には限りがある)


マミ(けど、息をつく暇はない!)

ほむら(出し惜しみはできない!)


まだまだ先がありそうな戦いでリソース削ってくのはゲームでも楽しい


さやか(“四条の織”)


斬り上げからの腰溜め、そして横一閃。

防ごうとした魔女の腕を弾きあげ、横切りは綺麗に決まった。


ほむら『口をあけてるやつは任せて!』

マミ『了解!』


時限式爆弾が、ロバの大口へと投げ込まれる。

マスケットの弾丸は、何とも形容しがたい物質的な魔女の外面を貫いてゆく。


さやか「――」


腹を斬られ脱力する漁師の魔女は間もなく倒れるだろう。

爆弾を投げ込まれた驢馬の魔女はこちらに触れる前に即死するだろう。

マスケット銃で撃たれているオパール色の魔女は虫の息だ。


11体が斃される。残るは1体。


魔女「ウァァアアアァ……!」


目から涙を流す、細く長身な人型の魔女。


さやか「ぜやぁっ!」


横に振り抜いたアンデルセンを、再び反対へと振り投げる。


刀身の中ほどに重心を持ったアンデルセンは、いびつな回転軌道を描きながら魔女へ飛び込んでゆく。


魔女「ガアッ!」


驢馬の魔女が内側から爆発すると同時に大剣は魔女の胴体を切断し、戦いは決着した。


さやか「はぁ、はぁ……」

マミ「ふう……」

ほむら「はい、グリーフシード」


手渡される真新しいグリーフシードを受け取り、ソウルジェムに押し当てる。

ソウルジェムの穢れは瞬く間に払拭されたけど、グリーフシードのほうはもう使い物にならないだろう。

予想されていた消耗戦とはいえ、なかなか厳しい。

まるでスポーツドリンクに依存する試合みたいだ。


マミ「何体倒したかしら……」

ほむら「30体……?」

さやか「まだ26体……」

マミ「うそ、そんなものだったかしら……」


三人で26体。普段からしてみれば化け物じみたペースではある。

けど、それはそれで、それなりの無茶をしているからだ。

私たちは差し引きで言えば、マイナスになる戦いに身を投じているだろう。


さやか(身体は治る、魔力も戻る……けど……精神的にきっついなぁ……)


俯き、鎖骨に止まった汗を拭う。

大きな涼しい影が、私の視界の限りを覆った。


途端に汗は引いた。空を見上げる。


◆王騎の魔女・ブリュンヒルデ◆

◆重戦車の魔女・アレクサンドラ◆

◆反旗の魔女・ジークリンデ◆

◆黄銅の魔女・ヴァレンティーネ◆

◆斬鬼の魔女・アーデルハイド◆

◆舞踏の魔女・ルイースヒェン◆

◆孤高の魔女・レオポルディーネ◆

◆一騎の魔女・ヴィルヘルミーナ◆


炎の魔女たちを倒した。

水の魔女たちにも辛勝した。

なぜ私は無防備に一息ついた。これだけで終わるわけないってのに。


さやか「みんな伏せて……! ほむら!お願い!」


ほむらは私と、マミさんの手を握った。そして足を挫くようにして、地面へ倒れこむ。


さやか「!」


頭上からは魔女の影。

8体の魔女が巨大な……おそらくは剣であろう得物をこちらに向けて、真っ直ぐ降りてくる。

その刃で私を突き刺そうと。


さやか「耐えて、“セルバンテス”!」


二人を庇い、左手を空へ掲げる。


魔女「ォオオオォオオ!」

魔女「ヤァアァァアアアッ!」

魔女「セェェエエェエエイッ!」


まずは巨大な3本の大剣が、私のバリアーに突き立てられる。

爆発のような火花が同時に舞い散り、陰る魔女の姿を一瞬照らした。


その姿はまるで、騎士のようだった。

気高く、屈強な、大きな剣を携えた騎士。


そんな騎士があと5体、さらにこちらへと刃先を向けて落ちてくる。


さやか(耐えろ!まだ耐えろ!私の盾!)


バリアーは三本の剣によって、既に悲鳴を上げていた。

凄まじい中ボスラッシュ


追加された五本の剣に、バリアーは容易く砕かれた。



ほむら『……ふーッ』


危機一髪だった。

私とマミさんとほむらは手を繋ぎ合い、無事に時間を停止させることができたのだ。


私のバリアーも微力ながら功を奏したらしい。

少しでも魔女の剣を受け止めていなければ、今頃はマミさんの肩が落ちていたかもしれない。


マミ『……ちょっと、息を落ち着ける時間を頂戴』

ほむら『異論はないわ……』


肩の上20cmにある大剣を見ないようにしながら、マミさんは深く息をつく。

ほむらも手だけは握りつつも、大きく肩で呼吸した。


さやか『だはぁー……』


……まだ魔女はいる。今度は8体だ。

それぞれ大きな体で、人型で、みな騎士のような、武士のような姿をしている。


今の一撃でわかった。どれもすごく強い魔女に違いない。

今まではどんな魔女の攻撃でも、私のバリアーが破られることはなかったのに、先ほどは簡単に撃ち抜かれてしまった。


同時攻撃とはいえ、杏子のブンタツによる突進と同じかそれ以上の威力。

……各個の能力も高いと見るべきだ。


けど、時間を止めてしまえば問題はない。

時間停止分の魔力は消耗するだろうけど、この魔女たちは確実に、停止時間内で倒してしまった方が消耗も少ないだろう。



魔女「……ワ、タシハ、シバラレヌ」

ほむら「……!?」

さやか「!」


マミ『停止を解除したの!?』

さやか『違う! こいつだけが動いてる!』


焦りに手を離しそうになるマミさんを、鋭い声で呼び止める。

ここで私たちの時間を止めてしまうわけにはいかない。


ほむら『嘘……私の魔法は時間を……』

魔女「イザ、ジンジョウニ!」


青い炎に燃える身体が、緩慢な動きで剣を振り上げる。

左手を突き出せば防げるであろう一撃が来る。が、魔法少女同士が仲良くお手々を繋いだまま反撃に移れるとは思えない。


さやか「……こいつには停止が効かない! もしかしたら他の魔法も! みんな、距離をとって!」

時間停止無効だと…!?


魔女に囲まれた一帯から素早く退避する。

剣は地面に突き刺さり、衝撃は音となって鼓膜を響かせた。


ほむら「……手をつないだままじゃ、あの魔女にもろくに戦えない。一旦解除するわ」

さやか「異論なし」

マミ「仕方ないわ、ここから戦いましょう……!」


ほむらの汗ばんだ手が離れ、空中に留まっていた魔女たちが一斉に大地を突き刺した。

ズドン、と腹の底にまで響くような音が、私のバリアを打ち砕いた威力だったということだ。


魔女「ハズシタカ」

魔女「ツギハ、アテル……!」


マミ「しゃべってる……!」

ほむら「魔女の中にはそういうものもいるわ。ただ、こっちの常識は通じないから、和解も何もないけど……」

さやか「思っていることをしゃべってくれるだけってことか、かえってやりやすいかもね」


サーベルを取り出し、正眼へ。

私の構えを見た魔女たちはピクリと反応し、奴らも一斉に刃をこちらに向ける。


王騎「カクゴ!」

さやか「来い!」


一番前に出てきた煌びやかな鎧の魔女は、堂々と立ち向かっているが……私の狙いはそいつではない。

最優先につぶすべきは、やつらの中央にいる、黒いマントのようなものを着た魔女だ。


反旗「……」

マミ『停止時間で動いていたあの魔女さえ倒せれば……!』

ほむら『ほかの魔女も、一網打尽よ』


動きは決まった。あとは事を上手く運ぶのみ。

素晴らしいチームワーク


ほむら(時間停止を使えば7体の動きは止められる。けど残りの一体を、時間停止が効かない私が倒せるかといえば、絶対に無理ね)

ほむら(一撃火力のランチャーは駄目、アサルトライフルで戦うしかない)

ほむら(……なんて無力なのかしら、いえ、今は嘆いても仕方ない)


マミ(数は多い、けど囲まれているわけじゃない)

マミ(ティロ・スピラーレで敵の陣形を固めさせて、美樹さんの攻撃までの繋ぎになる)


さやか(ほむらは遠距離からの援護射撃、マミさんはティロ・スピラーレでの援護になるはず)

さやか(敵の魔女はみんな近接タイプだ、援護射撃は強力な味方になってくれるだろう)


さやか(以前のガトンボの魔女みたいに、遠くから使い魔を飛ばして、なんてことはないはずだ)

さやか(こっちは遠距離から敵を削る、相手はなかなか近づけない……近づいたら私が斬る)

さやか(あの時の魔女とは、正反対の状況だ。こっちが優位!)



ほむらの盾からアサルトライフルを滑り出し、マミさんの両手にマスケット銃が握られ、私が篭手とサーベルに魔力を込めた。


それは最低限の準備動作で、長考の末の動きというわけでもない。

ある意味最速のモーションだった。何体もの魔女を倒してきた3人の、テレパシーすら使わない連携の初動のはずだ。



重戦車「――ショウメンヨリ、キル!」

一騎「ミギヨリ、チカヨリテ、キル」

舞踏「ヒダリヨリ、ヤツヲ、キリステル」


私たちが戦いの準備を整えると同時に、知性の無いはずの魔女は散開した。


さやか(なん……)

王騎「タタカエ!」


あっけにとられたその隙すらも突いて、魔女はこちらへ飛びかかってくる。

これは辛い


マミ「ああっ!?」

さやか「!」


散らばる標的を追おうと、発射の直前に銃口が左右へと逸れた。

二発のティロ・スピラーレは中途半端な場所で炸裂した。

広範囲ではあるものの、魔女に満足なダメージを与えることはできかったようだ。


マミ(しまった、これじゃあ掠っただけ――)

重戦車「シトメル」


両足に車輪を備えた大柄の魔女が、そのままマミさん目がけて突進を始めた。

手に握るのは、巨大なハルバード。槍と斧を兼ねたあの武器は、その用途のどちらでも、私たちに致命傷を負わせるに違いない。


すかさず私は前へ出た。


あのハルバードくらいなら、私のバリアで防げるはずだ。


さやか『マミさんほむら! 左から来る魔女を相手して!』

マミ『! 了解……!』

ほむら『右は!?』

さやか『良いから!』

重戦車「ォオオォッ!」


ハルバードの大振りに左手を差し向ける。

派手な青い火花と衝撃波を散らしながらも、なんとか一撃を耐えることができた。


舞踏「イノレ」

一騎「マイル!」


問題は次だ。

やっぱ連携を駆使する戦いは好きだわ


マミ「“ティロ・スピラーレ”!」

ほむら「当てる……!」


正面からの重い一撃は耐えた。

あとは左右から迫る魔女の対処だ。


マミさんとほむらは、片方の長い剣を持った魔女を対処してくれるだろう。


舞踏「オドレェ!」

さやか「!」


バリアーの展開によってしばらく動くことのできない私へと迫る、二刀流の魔女。

短いながらも二刀流を振り翳す4m近くの立ち姿は、剣道の試合とは比べ物にもならない“死の予感”がする。


それでも相手は、剣を持った人型の敵。

人型が相手なら、片手がふさがっていようとも余裕がある。



さやか(四跳ねの燈)

舞踏「!?」


威力任せの大振りな攻撃を、軽くいなす。

数メートルや数十キロごときの体格差があろうとも覆らない物理法則により、魔女の双剣は外側へと弾かれる。


片手だろうが関係ない。油断しきったモーションで攻撃してきる奴なんて、素人みたいなものだ。


さやか「“閂”」

魔女「グボォッ!?」


わけのわからない姿をした魔女よりも、よっぽどやりやすい。

無防備な魔女の首を跳ね飛ばしたとき、そう思った。

強い
てかちょっと怖いww


マミさんとほむらは、私の後ろで無事に攻撃を防ぎ、反撃できているだろうか。


重戦車「キリ、クズス!」

さやか(あっちを考える余裕もなさそうだ……!)


バリアを隔てた大きな魔女が、ハルバールドを腰だめに構え始めた。

魔女の攻撃だ、何が起こるかはわからない。


足元の車輪、重厚な鎧、巨大な体。重戦車と呼ぶにふさわしい姿の、パワータイプの魔女。

緩慢な溜めから繰り出す一撃に、どれほどの威力が込められるだろうか。

経験上、ゲームであれ現実であれ、でかいやつの思い切りの一発っていうのは、キツい。


さやか『ふたりとも、すぐにここから退避! でかいのは任せて、後ろの他の奴を!』


二人の戦況をよそ見はできない。私はこいつを仕留めなくては。


重戦車「ドォオオッ!」


ハルバードが、太い鉄を引きちぎったような音と共に、より巨大に、刺々しく変形する。

刃の先端部分だけで私達三人分を覆いつくせそうなほどの、規格外な武器だ。

この業界ではワルプルギスの夜を相手にする以外には用途もなさそうな、少なくとも魔法少女に使う得物ではないことだけは確かな兵器。


穂先は私に向けられている。


さやか(セルバンテスのバリアーで防げるか……!?)


重戦車「ッッッセェエィッ!」


ハルバードがバリアーを衝く。

青い衝撃は半透明な面を白く覆い尽くした。それが衝撃でも火花でもなく、バリア自体に入ったヒビであることはすぐにわかった。


穂先はたやすく私のバリアを突き破り、地面までも何メートルか抉り取ってしまった。


さやか「――割れる直前にヒビが入る事は、杏子との戦いで既に知っていた」

重戦車「!?」

さやか「バリアにヒビが走り、曇った瞬間に姿をくらませば、アンタの次の動きも鈍くなると思ったんだよ」


突撃を敢行をした魔女の足元で、私は大剣を振り絞る。


さやか「正解だった」


重く堅い手応えだったけど、甲冑らしきものの隙間を狙った大振りは中まで到達した。

体を支えるための大事な芯までも着られた魔女の胴体は、重みに任せて傾き、ちぎれ、伐採される大木のように転げ落ちた。


さやか(次っ!)


一番大きな奴は切り崩した。次の相手と戦わなければ。

周囲を状況を確認しようと、まずはマミさん達の方へと目をやった。その時だ。



ほむら「緊急事態」


私のすぐ目の前に、緊迫した表情のほむらが現れた。

何が起きたのかはわからない。理解するより先に、すぐに場面は移り変わっていた。


今さっきまでいた草原ではない、コンクリートの上に、私は立っていた。


さやか「!?」


何が起きた。この地面は?コンクリート、道路。舗装された路面。

結界の中ではない。ワルプルギスの夜の外?


ほむらの時間停止の効果による瞬間移動であると、私は推測した。

一瞬だけ視界に入ったほむらがその理由の裏付けになるだろう。


つまり、ほむらは私を抱きかかえてワルプルギスの結界を脱出した?

一体何のために。


さやか「何が……!」


理由は分かった。


ほむら「お願い、巴さんを助けるの、手伝って!」

マミ「……ぅぐ、ぁあ……!」


緊急事態だからだ。

マミさんの両足は、腿から無くなっていた。

初ダメ
一撃もらっただけで厳しい綱渡りでさすがに無傷で通してはもらえんか

うわああああああああ


さやか「マミさん!」


急いでマミさんの脚に手を添える。

傷を治す回復魔法。燃費はあまり良くないけど、そんなことを気にしている場合じゃない。


ほむら「斬られたの、私をかばって、それで……」

さやか「剣でか……その脚は?」

ほむら「え、脚……あ、うん、あるわ」

さやか「治療するならくっつけよう。魔法ならできるはず」

ほむら「そうね、ええ……そうだ、盾の中に入ってるから」


ほむらが自分の盾を弄っている最中、風が吹き始めた。

吹き抜け、次第に強く、空気の量を増してゆく風だ。


さやか「……!」

魔女「キャハハハハハ! キャハハハハハハ!」


見上げれば、憎々しい巨体は再び、空の中に復活していた。

体は強敵を前に強張った。けど、やるべきことがある。


ほむら「……はい、巴さんの脚」

さやか「ほむらはそっちの脚に魔法を、私はこっち」

ほむら「ええ、わかった」

さやか「グリーフシード、1つか2つあれば足りるはず……!」


グリーフシードで魔力を回復することを前提に、両手に癒しの力を込める。

マミさんの脚に全力で回復魔法を使おうとした。


けど、マミさんは手でそれを拒んだ。


さやか「……マミさん?」

マミ「……大丈夫」


大丈夫じゃない。冷や汗を流して、顔がびしょびしょだ。かなりの失血もしている。

すぐに処置しないと、これでは死ぬしかない。

読んでてつらい

ヤバいヤバイヤバイヤバイ

やはりおもしろい


マミ「……私の治療に使っていたら、グリーフシードがなくなっちゃうわよ」

さやか「……ワルプルギスの夜は倒します、けどマミさんを見殺しにはできない」

マミ「大丈夫、脚くらい、痛覚を切って……応急処置さえすればね」



マミさんのリボンが、切断された両足を巻き込みながら、過剰な包帯のように絡まってゆく。


ほむら「……」


私もほむらも、その様子を痛ましく見ていた。

確かに痛覚は遮断できる。リボンを強く巻けば止血もできるだろう。だけど傷が塞がるわけではない。

この処置はあくまでも応急処置に過ぎないのだ。


マミ「……うん、魔法のおかげね。立つくらいなら、なんとか」

ほむら「……お願い、巴さん。グリーフシードを使って」

マミ「この戦いが終わったあと、ゆっくり使わせてもらうわよ」


余裕そうな笑顔もぎこちない。それでもマミさんは、この戦いに身を賭しているのだ。


さやか「マミさん、いけるんですか。脚がないってことは、着地も蹴りもできないってことですよ」

マミ「リボンを使って移動するわ。どうせ空中戦だもの、ワイヤーアクションで戦うのに、それほど脚が重要でもないわ」

さやか「……わかりました、信じてますよ」

マミ「ありがとう」

ほむら「そんな……無茶よ」


たしかにきついだろう。空中で、すべてをリボンに任せて動くのは至難の業だ。

けどマミさんは覚悟している。当人が覚悟を決めていて、私達が受け入れないわけにはいかない。


マミ「どうしても勝たなくちゃいけないのよ……もしもこの脚が無くなっても、ワルプルギスの夜が生み出す被害と比べればかわいいものだわ」

ほむら「……ええ、そうね、確かにそう……冷静になりきれていなかったわ、ごめんなさい」

マミ「この時ばかりは、全力を振り絞らないとね」

さやか「!」


――全ての力を――


今なぜか、頭の中に煤子さんの姿が浮かんだ。


さやか「……全ての力が合わされば」

ほむら「え?」

さやか「ごめん、ふたりとも。しばらく私抜きで、時間稼ぎでもいい、応戦をお願いできるかな」


二人は驚いたような顔をした。

けど私の中ではもう、これしかないと思っている。


負傷したマミさん、限られているグリーフシード、一度復活してしまったワルプルギスの夜。

チャンスが二度も三度も訪れる保証はない。

なら、先に行える手は打つべきだろう。


マミ「何か考えがあるのね?」

さやか「とにかく急ぎます、……数分かかるかも」

ほむら「ミサイルを2、3発ってところかしら……けど、何をする気なの?」

さやか「もちろん、ワルプルギスの夜をコテンパンにしてやるんだよ」

ほむら「……」


ほむら「……こんな大事な時だけど、時間がないなら理由は聞かないわ」

さやか「うん、ありがとう……3分経ったら、フォーリンモールの中央のミサイルを撃って」

ほむら「それで押し返すのね、わかったわ、それまではなんとかしてみる」

マミ「任せておいて。今度こそ、きっちり仕事をしてみせるから」

さやか「頼んだよ、二人共!」


返事を聞く暇も惜しい。私は軽くジャンプすると、左手のセルバンテスが生み出すバリアを蹴って、勢い良く空を跳んだ。


さやか(空の上なら、バリアの連続蹴りができる!)


目指すは風見野だ。

一刻も早く、杏子を探さなくては。


手負いのマミさん、ほむらの時間停止が効かない魔女、減りゆくグリーフシード、全快したワルプルギス、状況は悪い。

まだワルプルギスの夜を後方へと押し返すためのミサイルが何個も生きていることが救いだ。時間は十分に残っている。


さやか「ふッ……!」


バリアを蹴る。

小さく縮め、弾丸のように回転する身体が、空中を上向きに飛んでゆく。


さやか「はっ!」


今の時速は、普段、この道路を走るトラックの二倍以上は出ているかもしれない。

ゆるやかに落下する体は風を切りながら、陸橋を下をギリギリに潜り抜ける。

そしてまた、バリアを蹴って浮上する。


さやか(魔女を倒すための、単純な力が必要だ)


杏子の力がいる。

あいつは他人とは組みたくない、足手まといとは一緒に戦いたくないと言っていた。

けどそれならどうして、まだ戦いに姿を見せていない?

杏子の性格ならば、一日前には見滝原で待機していてもいいはずなのに。


理由は色々考えられるけど、それは重要ではない。

杏子が風見野にいること。これだけは確実だ。間違いない。


さやか「杏子……!」


早く見つけないと、マミさんとほむらが危ない。


さやか「杏子ぉおおお!」


私は灰色の空に叫んだ。



杏子「――」

QB「杏子? どうしたんだい」

杏子「なるほどな、今わかったよ」

QB「空模様は明らかに悪くなっている、着実にワルプルギスの夜が――」

杏子「っはァー、情けねえ。ったくよぉ、なんでアタシは、あんたの言うことをここまで正直に真に受けちまったんだかね」

QB「どういうことだい?」

杏子「わかったよ、今まさにな。ここからちょっと、こう歩けば……」


杏子「……ほれみろ、あっちの方が断然、悪天候だ」

QB「……」

杏子「あそこは丁度見滝原……か、その少し向こうだな」

QB「僕の予想も完璧ではないからね、多少の誤」


QB「さ――」


杏子「それ以上喋んな。あと、戻ってこなくていいからな、糞野郎め」


杏子(……わずかに、炎が滾る感覚がある)

杏子(ちっぽけだが、だからこそわかる感覚だ)


杏子(あんただろ? さやか)



「杏子ぉおおお!」


杏子「……へっ、ほら、やっぱりね」

マミさん…


目視で杏子を見つけるのは難しい。

屋外にいるかも謎だ。声で呼ぶか、テレパシーしかない。


……ここはまだ、嵐の最中というほどではないため、人が出歩いているかも。

大っぴらに空を飛ぶのは危険だ。ただでさえ今は、見上げるには丁度いい頃合いなのだから。


さやか『杏子! どこにいるの!』


テレパシーを強く振りまく。

相手が聞こうとしていなければテレパシーは届かない。でも杏子がわざわざ遮断しているとは思えない。

今はとにかく、信じて叫び続けることだ。

なんとしてでも杏子を見つけないと……。



杏子「よう」

さやか「え」


目の前に突然の杏子。


杏子「久しぶりだなオイ」

さやか「ぐえ」


そして、私の腹に食い込む足。


杏子「何しに来た」


言葉の端がフェードアウトし、私は民家の屋根に叩きつけられた。


さやか「……」


丈夫な屋根で良かった。あと、ふっとばされた角度も幸いしただろう。

人の迷惑にならずに心底安心した。


杏子「気絶してねえだろうな」


杏子は私の真横に降り立った。

臨戦態勢の魔法少女の出で立ちだ。槍まで握り、いつでも戦いに赴ける姿である。


ワルプルギスの夜と戦うための準備ができているということだ。


さやか「何しに来たって……わかるでしょ」

杏子「まあな」

さやか「いでで、背中痛い、ちょっと起こして」

杏子「……」


渋ったような顔をしながらも、杏子は黙って私の手を引いた。

立ち上がった私は見滝原へと向き直り、その先にある曇天を睨む。


さやか「キュゥべえにでも足止めされてたんでしょ」

杏子「ああ、あんたが呼びかけるまでは気づきもしなかった。我ながら情けないよ」

さやか「戦いはもう何分も前から始まってる」

杏子「チッ」


屋根の上を二人で走る。

さすがは肉体派の杏子だ。私をいつでも追い抜けるくらいの速さで、風見野の空をフリーランしている。


さやか『マミさんとほむらも一緒で、今は二人が食い止めてる』

杏子『食い止めてるだぁ? ハッ、まぁあいつらじゃその程度か』

さやか『一度は追い込んで、奴の結界の中にまで入れた。結界の中に魔女がたくさんいて、それがワルプルギスの原動力になってる』

杏子『そいつらがつえーってわけか。やられたのか?』

さやか『……マミさんが怪我してる。あのまま続けていたら、私もダメだったかも』

杏子『ほーぅ……? オッケー、なら良かった』

さやか『良かないでしょ』

杏子『良いのさ、強い奴がいるなら、私は強くなれるんだ』


まーたこの子はそういう……。


杏子『この世で最も強くなれなきゃ、どんな悪も倒せないからな』

さやか『――……』

杏子『チッ、念話だと口がすべるな、忘れてろ』

さやか『ねえ今』

杏子『うっせえ!』


戦線離脱から、そろそろ3分が経つ。

私たちは丁度、見滝原に入った頃だった。

この杏子を私の嫁にしたいのですが構いませんね!




杏子『近づいてくとわかるけど、ほんとでかいね、ありゃあ……』

さやか『うん、使い魔も周りに出してくるし、攻撃も容赦無いよ』

杏子『アタシは平気だけど、マミたちは死んでるんじゃないだろーね?』

さやか『……3分までは保ってくれると信じてる』

杏子『3分ねえ、見滝原からここまで来たんでしょ?なら軽くオーバーしてるんじゃないのか?』

さやか『……大丈夫』


高くそびえ立つ建物を見上げる。

魔力で強化した目が、その縁にある突起物を捉えた。


さやか『うん、大丈夫。杏子』

杏子『ああ?』

さやか『ついてきて、ていうか、ついてこれる?』

杏子『こっちのセリフだよ、バカにすんな』

さやか『一秒も待たないからね!』

杏子『はっ』


セルバンテスで、真下へバリアを生み出す。


さやか「お先に」

杏子「!」


私は強く反発する足場を蹴って、高く跳び上がった。

目指すはフォーリンモールの屋上。


ほむらが施設したミサイルが残っているはずだ。

>>247
最低でも無双シリーズの呂布位の戦闘力はないときついで


さやか「ふっ!」


最後の一発はちょっと飛びすぎた。

足がしびれる衝撃に耐え、屋上の荒れたタイルを時々割りながら、全力でミサイルのもとへ駆ける。


さやか(よし……!)


申し訳程度の薄いシートで覆われた発射台。

ミサイルはまだ発射されていないようだ。

私はシートを強引に引きちぎって、ミサイルを露わにした。


杏子「っはぁ……! くっそ、垂直はキツイなぁオイ……!」


杏子は少し遅れてやってきた。どうやって登ってきたのか、その方法には興味があるけど、気にしてはいられない。


さやか「杏子! これに掴まって!」

杏子「はあ、おめ、はっ……何ほざいてるか解ってるか……!」

さやか「私たちの重さでかなり沈むから弾道を上向きに、噴射は魔力で強化……」

杏子「オイッ! 聞け人の話を!」


固定された台を、更に上向きに修正する。

操作には慣れていないけど、ほむらがやっていた操作通りだ。


……よし、なんとかミサイルの向きも変わった。


さやか「弾道計算のメモ帳はチラ見しただけだけど大丈夫、どうせ軌道だって、空中を蹴ったりすれば補えるでしょ」

杏子「……呆れて物も言えねえ」

さやか「説明する暇はないんだ、私のバリアでの移動は、誰かと一緒にってのができるほど器用でもないし……」

杏子「あーもういい、わかったよ、わかった、あんたが何考えてるのかはわかった、やってやるよ」

さやか「やる前提で呼んだんだよ、今更何言ってんのさ」


ミサイルを抱きかかえるように、私はしがみついた。

先端を抱え込み、勢いで吹き飛ばされないように。

杏子も同じようにして、ミサイルに張り付いた。


杏子「くそ、ふざけやがって……上手くいくわけねえだろこんな……」

さやか「けど、マミさんを見殺しにはしたくないんでしょ?だから乗った」

杏子「もうお前ホンット黙れ!」

さやか「あっはは!」

魔法少女にありがちなミサイル移動法


マミ「ティロ……スピラーレ!」

ほむら「!」


ほむら(巴さんはまだ頑張っている……リボンを張り巡らせて、飛び回りながらワルプルギスの夜を押し返している)

ほむら(でも動きは悪い。脚が使えないのは、やっぱり痛手なんだ)


魔女「アハハハハハ!」

マミ『くっ……! 前進が早すぎる!』

ほむら『時間を止めるわ! ミサイルで押し戻す!』

マミ『数には限りがあるんでしょう!? まだ私の攻撃で食い止め……きゃぁ!?』

ほむら『巴さん!』


ほむら(巴さんが嵐に煽られた! ワルプルギスの夜に近づきすぎたんだわ!)

ほむら(あのままじゃリボンで移動するなんてできない!)


ほむら(ダメ、今すぐにでも発射して、時間を止めないと……!)

ほむら(巴さんが着地もできないまま……!)


『その必要はないよ』


弾頭が風を切る。

角度がコントロールされ、魔法の力で強化された噴射は、大質量のミサイルをまっすぐ標的へと運ぶ。


あと五百メートル、二百メートル。

巨大な敵の姿はもう、目を瞑る間もなくそこにある。


杏子の髪飾りは、ワルプルギスの夜に近づくほどに燃え上がった。

滾る炎は、かつて私と戦った時よりはるかに大きい。


流れる髪に炎の尾を引きながら、杏子の機嫌は最高潮のようである。



杏子「よお! てめー強いんだってなぁあ!」


ミサイルと、そしてブンタツを握った杏子の衝突は同時だった。


重心を捉えた2つの流星は、ワルプルギスの夜の巨体を、まるで紙くずのようにふっ飛ばしていった。

それまで侵攻していた距離よりも遥かに後退させ、最も過疎な地帯にまで押しやったのだ。


さやか『ふう、間に合ってよかった』

マミ「! 美樹さん」


ワルプルギスの無重力空間から解放され、宙にあおられていたマミさんが正しい姿勢を取り戻す。

念の為、体を受け止められるようにマミさんの近くまで来てみたが、マミさんは自分自身で復帰することができたようだ。


ほむら『さやか、今のミサイル……』

さやか『手動で撃てるように教えたのはほむらでしょ? まあ、弾道はかなり無理やりだったけど』

マミ『今一瞬見えた人って』

さやか『杏子です、向こうでキュゥべえに足止めされていたみたいで……』

ほむら『……卑劣な奴!』


キュゥべえはどうしても、魔法少女達に勝って欲しくはないのだろう。

しかし杏子を足止めするってことは、私がいても勝てはしないとでも思っていたのだろうか?

むかつくやつだ。もしこの戦いが終わったら、バリアの上に乗せて無限バウンドの刑にしてやる。



『おりゃぁあああ!』


遠くからテレパシーの叫びが聞こえてきた。

……杏子はもう、一人でワルプルギスと戦い始めているのか。


早く行かなくちゃ。


杏子「最強の魔女って聞いたからどんなやつかと思えばァ!」


両剣が踊り、ワルプルギスの身体を切り裂いてゆく。


杏子「ただデカいだけが能ってわけじゃねえだろうな!」


漕ぐような剣捌きは、斬ると同時に杏子の身体を思い通りの方向に運ぶこともできた。

ワルプルギスはただ黙って斬られているわけではない。ちゃんと反撃を行っていたのだ。


そこにいたのは紛れも無く本気を出しはじめたワルプルギスの夜。無重力を生み出し、嵐を吹かせる難敵だ。


杏子「図体だけで、強いだけでアタシに勝てると思ってんのか!?」


杏子は攻撃とともに、避けてしまうのだ。攻撃とともに、吸い付くように接近できるのだ。

攻撃と回避、攻撃と接近、無駄のない動きで、ワルプルギスの夜をズタボロに切り刻んでいる。


マミ「……佐倉さん……すごい」

ほむら「……バケモノね」


私達は駆けつけたはいいものの、杏子の奮闘を前にして動けないでいた。

以前に言われた言葉を思い出す。


私達は黒子のようなものなのだと。言葉のままだったということか。



杏子『あの白化け猫に騙されていたのはアタシの大ポカだよ』

さやか「!」

杏子『気付かせてくれたアンタらには感謝してる』


杏子『けど、アンタらはさっさとお家に帰りな』

さやか『は、はぁ!? ふざけんな!』

杏子『一番強いのはアタシなんだよ、アタシがこいつをぶっ殺してやる』

さやか『バカ! この魔女はさすがに、杏子一人じゃ――』


その時、空間が歪んで見えるほどの突風が吹いた。


平らな地面でよかった。

ここは10tトラック用の広い駐車場か。

住宅地のようにごたごたした場所だったら、一緒に飛んできたものに巻き込まれていたかも。


さやか「がふっ……!」


それでも小さな倉庫の外壁に叩きつけられると、ちょっと痛かった。

物にぶつかって戦線離脱しなくて良かったと、前向きになるべきだろうか。


マミ『ワルプルギスが、周りのものを吹き飛ばすくらいの風を発生させたみたい……!』

さやか『の、ようですね……いたた』


マミさんはリボンで自らを地面へ固定し、辛うじてその場で堪えたようだ。

けど、一緒に吹き飛ばされたであろうほむらと杏子の姿は見えない。

風は一瞬の事だったので、どこかにいるはずだけど……。


杏子「……へっ、良いじゃんか。あれくらいで終わったら、何の面白みもないもんな」


私が辺りに二人の姿を探していると、倉庫の窓から杏子が這い出てきた。

受け皿になったのだろう、大きくひしゃげた雨戸を放り捨て、私の隣へ降り立つ。


その腕の中には、ほむらが抱きかかえられていた。


さやか「ほむら……! 無事?」

杏子「よえー奴が挑むからこうなるんだ」

さやか「……」


目は閉じているが、呼吸はある。衝撃で気を失っただけのようだ。


魔女「アハハハハ、アハハハハハハ!」

杏子「弱いやつは素直に、コソコソとな」


気絶したほむらは優しく地面へと預けられ、魔女を見据えたままの杏子は、向かい風に歩き出す。


杏子「強い奴の背中に隠れていればいいのさ」


槍を傍らに、風に向かって前進してゆく杏子の後ろ姿は、何者よりも頼もしかった。

しばらく感じたことのなかった、大人のように心強い背中。



――……つーわけだから、風見野はアタシのテリトリーだ、近づくなよ


ほむら「……」


――アンタは弱い、アタシには近づくな


マミ「……」



杏子「…………よくも」

杏子「やってくれたじゃねえかよ……クソったれが……」


杏子「お前は……アタシの敵だ……」

杏子「てめえは弱者をいたぶるゴミ野郎だ……!」


杏子「てめえみてえな輩をぶっ潰すために……アタシはこの生命を燃やしてんだ……!」


髪飾りが噴くように燃え上がる。

火花が散り、その熱は風に乗って私にまで届いた。


……熱い。


杏子「贖罪なんか許さねえ! 一度も! 二度目も無ぇ!」

杏子「てめえはとっくに線を超えた! 主文!全部後回し! てめえは……てめえだけは!」



――この世で最も強い魔女かい?

――それは、魔法少女を最も斃してきた魔女ということかな

――それなら間違いない、現在までで間接含め411名の魔法少女を葬った……

――ワルプルギスの夜だ



杏子「死刑だッ!! ワルプルギスッ!!」

熱い

熱いな


杏子の怒号に応じてか、空に浮かぶワルプルギスも一際に大きな声でせせら笑った。

黒い靄が周囲に渦巻き、そこから暗い影が、雨のように産み落とされる。



魔女「ピュイィィイイ」

魔女「キィイイイィッ!」

魔女「ケロケロケロケロ……」


さやか「あれは……魔女か!」


ワルプルギスの辺に発生した異形の生物。ソウルジェムの反応が、それらは使い魔ではなく魔女であることを警告している。

いずれもコウモリ、鳥などの翼のある魔女たちだ。空を飛び攻撃することのできるやつらであることは、見た目からもわかる。


杏子「いいよ、すぐに執行してやる……まずはお前達からだ、金魚のフン共……!」


私もマミさんも、彼女を止めることはできない。

止めなければ、一人で飛び込むのは危険……だと。そうは、全く思えなかったから。


杏子「まとめて相手してやらァ!“ロッソ・カルーパ”ァ!」


髪留めの炎が噴火し、長く、大きな龍を成す。


『ガァアアアアァアアッ!』


火炎の龍は地獄の底からの慟哭ように不吉な叫び声を上げ、鎌首をもたげた後、一番近くの魔女へ向かって炎を延ばした。


魔女「ギェァァァアッ!」

『ォオオオォオオオォッ!』


巨大な炎の龍はしっかりと魔女の腹へ噛み付き、灼熱の牙をその内部へと食い込ませる。


杏子「アタシに喧嘩を売って、ただで済むと思うんじゃねーぞ!?」

さやか「!」


魔女へ噛み付いた龍を基点にして、槍を携えた杏子が中へと持ち上げられる。


さやか(これが杏子の空中戦のやり方か……!)


髪留めで燃える炎の龍、ロッソ・カルーパ。

あれは私との戦いで見せたような、ただ噛み付き、燃やし、爆発するだけの龍ではないのだ。

操る自分自身をも持ち上げ運ぶ、空中での動きの要となる魔法だったんだ。


杏子「どうしたノロマ共が! 一発くらい決めてみねえかよ!」


空をうねうねと動きまわる杏子の軌道には、どの魔女も追いつけない。

鳥と龍の戦いの結果などは明白だ。龍が相手に有無を言わさず噛み付いて、身動きを取れなくしてしまう。


杏子「だりゃぁッ!」


そして龍の尾として、杏子の槍は周辺の魔女を次々に貫き、龍以上に多くの相手を引き裂いてゆく。


マミ「嘘……ロッソ・カルーパは、戦いの中では一度きりしか使えない魔法のはずなのに……」


マミさんは空でうねる龍を見上げながら、呆然と呟いた。

火炎龍は暗雲の中で暴れ周り、杏子の身体を運んで魔女を殲滅している。

無双、という言葉が頭のなかに浮かんだ。


さやか「……ワルプルギスの夜が、あまりに強力だから」

マミ「え?」

さやか「ワルプルギスの夜の力が強すぎるから……杏子の炎が燃えきっていないんだ」

マミ「! だからあの炎を、何度も使えるのね」

さやか「ええ、多分……」


噛み付いても噛み付いても、炎の龍に消滅の気配は見られない。

いつまでも杏子の体の一部のように動きまわり、術者と同じように大暴れしている。


さやか「最初から思ってたことなんですけど……」

マミ「うん……」

さやか「杏子……怖いな……」


荒れ狂うワルプルギスを目の前に、複数の魔女を相手に圧倒している。

鬼神だ。戦闘狂、この二つ名はこの時今いまさに、最もしっくり来るものだった。


マミ「……でも」

さやか「?」

マミ「佐倉さん……きっと、形は違うかもしれないけど……間違いなく彼女も、正義の味方だと思うの……」

さやか「……」

マミ「今まで私は、彼女を誤解し続けていたのね……」


殺気に満ちた形相で槍を振り回す、一人の少女。

怒り。闘志。敵意を剥き出しに荒れ狂う彼女の姿は、ヒーローと呼ぶにはちょっとキツいものがある。


けど私もマミさんと同じように、彼女の中にある“正義”の表情をしっかり目撃した。


戦闘狂バトルシスター。

戦いに傾倒する彼女は、すべてこの時のためのものだったのだろう。


さやか『杏子! ワルプルギスの夜は、背中の結界に無数の魔女を保管している!』

杏子「!」

さやか『魔女のエネルギー総数がワルプルギスの命だ! それまではいくら傷つけても再生してくよ!』

杏子「へぇ、希望のある話じゃん……良いことを聞いた」


残る鳥の魔女は5体。

距離も高さもバラバラな場所から、杏子にターゲットを絞って迫っている。


マミ『佐倉さん、今助太刀にいくわ!』

杏子『ぁあ!? 引っ込んでな!』

さやか『あんただけじゃ手のかかる相手でしょうが! 私達と一緒に、さっさと終わらせるよ!』


マミさんと共に地上から飛び立つ。


お互いに狙いは、杏子から離れた場所にいる魔女だ。


マミ「鳥を撃つなんて、私にとっては簡単すぎることよ」


輝く弾丸は一番左の魔女を狙い、翼を貫いているようだった。

ということは、私は反対側の魔女を狙うべきだろう。


さやか「杏子! そこらの三体は任せたよ!」

杏子「だからいらねえって言ってるだろ!」

さやか「いいから!」

ほむほむ空気だな
気絶中か


さやか(“五芒の斬”!)


セルバンテスによる急接近からの乱切り。

翼、首、胴、脚、なんでもいい。とにかく相手に動く間を与えず、斬り裂き続ける。


刃の嵐に揉まれた魔女は細切れになり、風の中に散っていった。


杏子「チッ、引っ込んでろってのに……!」

さやか『これは杏子だけの戦いじゃないんだよ!』

杏子『ぁあ!?』


燃え盛る龍の顎が、灼熱の牙をコウモリに突き立てる。

もがき暴れる魔女をその場で微動だにさせず、杏子の槍はまた別に迫る魔女の首を跳ねた。


さやか『私達はすでに決心したんだ。危険は承知、顧みずにここにいる』

杏子『アタシより弱いくせに……』

さやか『見くびるな、あんときドローだったでしょ!』

杏子『はぁ!? ドローだぁ? よく言うぜ、本気でやってりゃあの戦いは……』

マミ『ちょっとよそ見しないで! 上から魔女が!』


つい念話での言い合いに没頭してしまった。

気づけば、大鷲の鋭い鉤爪は私と杏子、二人の頭を狙っている。


が、その爪がこちらまで届くことはなかった。

大鷲は突如、爆炎に包まれ消滅してしまったのだ。


杏子「っ……!」

さやか「うぇ、けほっ、けほっ……!」


ほむら『……手間をかけさせちゃったみたいだけど、今のでチャラでいいかしら』

さやか『……無事だったんだ、良かった』

ほむら『こっちの台詞でもあるけど』

杏子『チッ……』

復活


ほむら『……本気で、全力をもって挑みましょう。ほんの少しでも余力を残しておこうだとか、思わないで』


今まで何度も戦い続けてきた彼女が言うからこその、重みのある言葉だった。

杏子がそれを感じ取ったのかはわからない。渋々でも、承諾の意志を沈黙で示しているようだ。


マミ『佐倉さん。……遅くなっちゃったけど、また一緒に戦えて嬉しいわ』

杏子『止せよマミ、あんたのそういう所も嫌だから距離を置いたんだぞ』

マミ『えっ……?』

さやか『どういうこと?』


マミさんとは、ワルプルギスの事があって別行動を取っていたんじゃなかったのだろうか。


杏子『マミの言葉はいちいち演技がわりーんだよ』

マミ『えっ、えっ!? そ、そうなの?』

さやか『ぶふっ』


私が噴き出した丁度その時、ほぼ同時にワルプルギスの夜の周囲に異変が現れた。

魔女を呼び出す黒い靄だ。


◆王騎の魔女・ブリュンヒルデ◆

◆反旗の魔女・ジークリンデ◆

◆黄銅の魔女・ヴァレンティーネ◆

◆斬鬼の魔女・アーデルハイド◆

◆孤高の魔女・レオポルディーネ◆

◆一騎の魔女・ヴィルヘルミーナ◆


さやか(……こいつら……結界の外に出てきたか!)

杏子『ほれみろ、厄介そうな奴らのお出ましだ。マミ、あんたのせいだからな』

マミ『え、ええっ!?』

ほむら『狼狽えていないで、迎え撃つわよ!』


そうだ。本気にならなくては。

奴らは、冗談交じりに戦って勝てる魔女達ではないんだ。

マミさんww


王騎「ジンケイ! サンカイ!」


孤高「ショウチ」

一騎「リョウカイ」

黄銅「ヨーソロー」

斬鬼「マカセロ」

反旗「……」


金鎧の魔女が声を発すると、複数の剣士の魔女は意志を得て整列した。

横に広がりる陣形。私達を多方向から襲うつもりなのだろう。単純だけど、数の上で優っている相手の当然の戦略と言える。


こちらには杏子がいるとはいえ、相手もかなりの手練だ。ほむらの時間停止が効かない黒マントの魔女もいる。


杏子『楽しそうな魔女じゃねえか、オイ』

さやか『……気をつけて、あのうちの一体はマミさんの脚を斬った』

杏子『凄さがわからんね』

マミ『気をつけて、あっちのベレー帽の魔女は、銃と剣が一体化したものを使ってくる』


黄銅「……」

さやか(あいつか……なるほど、確かによく見れば、銃も兼ねているような武器を持ってる)


剣士ばかりだと思っていたけど、離れた位置から攻撃できるやつもいたとは。これは厄介なことになりそうだ。


杏子『じゃあベレー帽同士で仲良く打ち合いをしててくれ、そのほうがマミもやりやすいだろ』

マミ『! うん』

杏子『アタシは西洋剣共を叩き切る。片刃はさやか、おめーがやれ』

さやか『ちょっと、勝手に……』


ていうか片刃刀の魔女なんて、一体しかいないし。


王騎「シュツゲキセヨ!」

杏子『ほら、敵は待っちゃくれねーぞ!』


勢いに飲まれたまま、魔女たちとのリベンジは始まった。

私は私の敵を見据えて、睨む。


斬鬼「――キナ」

さやか「――」


しかし、サーベルと日本刀。なかなか良いカードじゃないか。

今こんな時になんだけど、面白い。いっちょやってやりますか。

この少し好戦的な部分もたまらない


魔女「キャハハハハハハッ!」

さやか「!」


ワルプルギスの夜が、強烈な突風をこちらへ放った。

……いやそれは正確じゃない。この風の目的は別にある。


斬鬼「オソイ!」


風に乗せ、魔女を加速させるためのものだ。

追い風と共に一気に距離を詰めた魔女の刀は、私が打ち合おうとする前に首を跳ねるだろう。


さやか「フッ!」

斬鬼「!?」


棒高跳び、背面飛び。

背中を反らし、魔女を刀をギリギリで避ける。

マントが切り裂かれるのは仕方ない。ほとんど飾りのようなものだから。


さやか「ッシ」

斬鬼「ッ」


躱しながら放ったサーベルの突きは、魔女も魔女で複雑な動きによってそれを避けてみせた。

魔法の脚力で僅かに跳んだ私の下を、勢い付いた魔女が滑るように過ぎ去る。


さやか「おっと」

斬鬼「ホウ」


去り際に放たれた2つの斬撃を篭手でいなす。

そして確信する。


さやか(勝てる)


杏子とは全然違う。全然余裕。

こいつには勝てる。

斬鬼というと仮面ライダー響鬼の斬鬼さんを連想してしまうな


黄銅「テェ!」

マミ「!」


マミさんはベレー帽の魔女と、早くも銃撃戦を繰り広げていた。

彼女と魔女は、お互いに銃というものを知り尽くしているのか、放たれる弾丸を当然のように避けている。


マミさんはリボンを使った縦横無尽な動きと、身体に魔力を込めた空中遊泳による回避だ。

対する魔女の方は、ワルプルギスの嵐が運んできた廃材を足場に、身軽に飛び移り、対応している。


……どちらも技術は桁外れだ。マミさんは言わずもがな、特に魔女。

魔女なのに経験を積んだ達人のようなあの動きは、ちょっと卑怯だと思う。


マミ(くっ……隙がない)

黄銅「テェエィッ!」


魔女が放つ弾丸もまた、マミさんの操るマスケット弾と同じく単発式らしい。

それでも素早く移動しアクロバティックな態勢から合間なく正確に射撃してくる魔女に、マミさんはしばらくの防戦を強いられているようだった。


マミ(ティロ・スピラーレを発動させるには集中する必要がある……相手の動きを補足して、しかも相手の射撃を避けながらは不可能!)


広範囲を打ち砕くティロ・スピラーレも、まだ発動できていない。

それほど余裕が無いということか。



さやか「“三畳一間”」

斬鬼「!?」


高速のフェイントが、魔女の刀を打つことなく翻る。

身体は宙で捻られ、浅い跳躍が二歩分、身体を後退させた。


フェイントに身構えた手練れの相手が、フェイントに気付き反撃を繰り出す剣の間合い、およそ二歩。

その二歩分を、フェイントの戻しと同時に逃げるのだ。


斬鬼「――」


もう遅い。

一度“斬れる”と大きく振ってしまっては。

次の私の一撃を躱せない。

今までの誰もがそうだったように、あんたも例外なくね。


さやか「“断”!」

立体機動少女マミさん

立体機動で近づいてマスケットで殴打か


斬鬼「――ミゴト」

さやか「どうも」


首がこぼれ落ちて、魔女の身体は嵐の中へ飲み込まれた。

砂のようにあっけなく散ってゆくサムライの姿に、一抹ほどの虚しさを覚える。


あの魔女はかつて、私と同じ魔法少女だった。

もしかしたら、私のように……武芸を嗜んでいたのかもしれない。

私もああなっちゃうのかな。


さやか(後のことは、後に考えるけどね)


ふっ、それも武士の散りざまってやつよ。

……それよりも、今は勝てるかどうかだ。



黄銅「フッ……!」

マミ「!」


マミさんの戦況に変化ありだ。

魔女が撃ち方をやめ、空中にあるリボンを足場に、接近を試みている。


魔女も上手く避け続けるマミさんに痺れを切らせたんだろう。

銃と剣が一体になった武器、その剣のほうで、直接攻撃するつもりだ。


接近戦なら私が入り込む余地がある!

ちょっと距離があるけど、バリアを踏んでいけば一気に……。


マミ「かかったわね」

黄銅「!?」

さやか「!」


リボンの上を走る魔女は、マミさんの得意げな顔に危機感でも覚えたのだろう。

まさしく人間業ではないバックステップで接近を取りやめ、魔女は銃口を向ける射撃状態へと切り替えた。

身のこなしは素早い、判断力もある。強敵だ。だけど……。


マミ「あなたはもう、蜘蛛の巣の中よ……!」

リボンの変化したのもとはいえ実質武器2種持ちは強いよな
特にリボンが万能すぎ


マミさんの技術はそれを上回っていた。


一帯に張り巡らされていたリボンの中の一本が、勢い良く引き抜かれる。

手に握られているリボンは長く、リボンの結界全てと繋がっているかのようだ。


黄銅「……!」


リボンがすり抜ける見えざる音が魔女を囲んでいた。

次にどう来るか、予想はつかない。魔女は迷わずに銃をマミさんに向けている。

マミさんをどうにかすれば、それが自分の防御にもなるだろうと判断したのだろう。当然の反応だ。同じ立場なら、私だってそうするだろう。


マミ「“トッカ・リウート”」

黄銅「――」


マミさんの手に一条のリボンが全て巻き取られると、リボンの結界は“たが”が外れたように、一斉に形を変えた。

辺りで足場としてしか活用されていなかったリボンは、中心部の魔女に向かって勢い良く弦を張る。


打ち付けられたいくつものリボンは、その強い勢いで魔女の身体をバラバラに切断した。


引き金に指をかけたままの銃剣が、その役目を果たすことなく、二等分にされて消滅してゆく。



マミ「名誉に思いなさい。なけなしの足場を使った、一回きりしか使えない、一撃必殺の技よ」

黄銅「――」


二体目も撃破。

あとは、杏子の戦いか。

こわっ



杏子を、2体の魔女が囲んでいる。

一体の金ピカの魔女は遠目から、それを見ているだけだ。


一方的な魔女による虐殺が行われているか、といえば、それは全く違った。



王騎「イチゲキリダツ! ボウエイ!」

杏子「遠くからブツブツ指示出してんじゃねーぞオラァ!」


違った。違うにも程がある。


一騎「ォオオオォッ!」

孤高「ユカセン!」

杏子「さっさとどきなァ!」


杏子がたった一人で、三体を圧している。

離れた場所に浮かぶ司令塔の魔女を目指し、二体の魔女を弾き飛ばしながら突き進んでいるのだ。


二体の剣士は今日この猛攻を食い止めようと本気で襲いかかってはいるものの、どんな攻撃も、どんな妨害も通用していない。

猛る炎の龍に、荒れ狂うブンタツの前には、魔女の剣でも刃が立たないというのか。


王騎「クイトメ――」

杏子「もう終いだよ、クソ野郎共め」


杏子が二体の魔女の間を通り抜ける。

ブンタツの両端の刃は、二体の首を同時に切断した。

これが噂の人類最強系女子か

頼もしい


炎を引き連れて迫る赤い死神は、もうすぐそこに。

安全圏から指示を出すだけの魔女は、その手に握った黄金の剣を振り上げることもできていない。


王騎「ダレカ、ダレカオラヌカ――」

杏子「他人をこき使い、弱者を虐げ、そのくせ一人じゃ何も出来ない野郎が……」


杏子「一番ムカツクんだよッ!」


ブンタツの刃が魔女を十文字に切り裂く。

なんてことはない、四等分にされた魔女は断末魔をあげることも出来ず、すぐに消滅した。


……まさか、あの強い魔女を3体同時に仕留めてしまうとは、驚きだ。



さやか「……」


いや、驚くな。感心している場合じゃない。違和感がある。

私もマミさんも魔女を倒した。杏子も三体……。

一体はどこに消えた?


さやか(いや! あの魔女はマズい!)


ワルプルギスの次の動きに気を配ることもなく、注意を他の全てに向ける。

その魔女が隙を狙ってくるとしたら、まさに今、ひとつの戦いが終わったこの時だ……!


そしてあの魔女が狙うのは……!


さやか「ほむら!」


ほむら「え……」

反旗「ショウヲキラセ、オウヲタツ」


地上から援護射撃の構えを取ったほむらの背後では、黒衣の魔女が凶刃を振り下ろしていた。

知能ある魔女とかヤバすぎだろ


ほむら「うそっ……」

反旗「ワレラニ ジユウヲ」


ダガーがほむらへ。


さやか「シッ!」


セルバンテスの障壁がサーベルの柄を押し込む。

突き出す腕の余分な力は抜く。重さはいらない、速さだけが必要だ。


さやか(届け――)


サーベルは切っ先を向けて、まっすぐ狙いの場所へ疾走する。

だけど……。


反旗「ニンム カンリョウ……!」

ほむら「っぐ……!?」


遅かった。間に合うわけはなかった。

魔女の振り下ろす大きなダガーは、一掻きでほむらの左腕を切断してしまった。


ほむら「ぁああぁあああッ!?」

マミ「暁美さん!?」


魔女め、手練れだ。なんて手際だ。


私達魔法少女の前から姿を晦ませ、銃の照星に気を取られているほむらの背後に回るとは。

そして出遅れたとはいえ、私のサーベルを避け、しかもほむらの左腕を切断した。



反旗「――」


黒衣の魔女は、腕を抱えたままこちらへやってくる。

わざわざマミさんと、杏子と、私がいる、戦力の密集地へだ。


杏子「やりやがったな……テメエ」

マミ「よくも暁美さんを……!」


魔女はこちらに向かってくる。

しかしなぜだ。ほむらの腕だけを切り取って、それをどうするつもりなんだ。なぜ、私達に向かってくる。


さやか「……そうか」


ワルプルギスの夜の結界。人質か。グリーフシードの補給か。


さやか「させるわけないだろ」


どちらにせよそんなこと、許してやるわけがない。

ほむらの腕を返してもらう。



【殉葬の魔女・サラ】


【身投げの魔女・エミ】


【磔刑の魔女・ジル】


【鎮魂歌の魔女・ララ】

時間止める暇も与えずか…
こんなのが湧いてきたらたまんねぇな

恋する乙女に育つ筈が、煤子さんのおかげで一人前の武人に化けてやがった。
次の魔女チームはどんな系統の能力持ちなんだろ

多対一ですらヤバそうな魔女が無限湧きとかやめてくれ

そいつらはグリーフシードドロップしないよな?


QB「ワルプルギスの夜は、あまりにも強くなりすぎた」

QB「数々の魔法少女たちが討伐のために結託したものの、いつだって結末は敗北だけだった」


QB「それでも、エントロピーを凌駕した魔法少女の力だけが、ワルプルギスの夜に対抗できる唯一の手段にかわりはない」

QB「本来なら誰も望まない“力の願い”は強力だ」


QB「けど、そんな事は大昔から何度も繰り返されているんだよ、さやか、杏子」


QB「君たちは知らないだろう」

QB「結託した百数十人の魔法少女のうちの何人が、力を願ったのか」


QB「君たちは知らないだろう」

QB「ワルプルギスの夜が来る前日に、打倒ワルプルギスのためだけに、願いを叶えようとした魔法少女達がいたことを」


QB「確かに佐倉杏子……美樹さやか……君たちは非常に稀な、強力な魔法少女だけど」

QB「彼女たちの絶望を、君たちだけに受け止めきれるはずがないんだよ」

そりゃ前例はいるよな


髪留めの炎に異変を悟った杏子が、一番先に振り向いた。けど、それも僅差だ。

私達みんなが目の前から来る黒衣の魔女を一切無視して、ワルプルギスを見た。


ワルプルギスの夜の前には、4体の魔女が立ちはだかっている。



投身「……」

全身を鎖のようなものでぐるぐるに縛った魔女。


磔刑「……」

両手に自分ほどの長さはあろう巨大な針を握る魔女。


殉葬「……」

長い杖を大事そうに抱きかかえた魔女。


鎮魂歌「……」

胸の前で手を組んだ魔女。


どれも女性の人型。どれも巨体。それぞれ10mはある。

そして、見た目だけでは量りきれない強さをもっていることを直感した。杏子の髪留めの火力を見れば、わかりやすいことだろう。


杏子「ふん、あいつらも全部、ぶっ潰せばいいんだろ……!」

さやか「……ほむらの腕が先決、時間を止めるための盾も、ソウルジェムもそこにある」

マミ「……」

杏子「後ろからこっちきてる魔女が持ってるんだろ、振り向きたいなら振り向けば? 死ぬと思うけど」


杏子の言葉は本当だ。

今、あの4体の魔女に後ろ姿を見せてしまったら……すぐに殺される確信がある。


ほむら「ぐ……ぁああ……ソウルジェムが、私のっ……!」

さやか「……!」


……だからって。

黙ってそのまま、突っ立っているわけにはいかないでしょうが。


さやか「全力で盾を展開します、マミさん、ほむらの腕を取り返してください」

マミ「もちろん、そのつもりよ」

杏子「……呼んでくれた礼だ、近づいた奴は対抗して食い止めといてやるよ」

さやか「ありがとう」

原作で5人共闘が見たかったぜ

まどか契約してたらどっちみち再ループが確定に等しいけどな
まぁ魔法少女ものならあっても良かったよなぁ、上の理由で難しいけど


杏子「てめーら四天王ってとこか……なら、次は阿行と吽形でも出てくんのかよ? 見せてくれよ、なあ」


厄介そうな敵にも怯まず、杏子はブンタツを抱えたまま前進する。

……もともと一人で戦うと決めていた彼女のことだ。何が相手でも躊躇など無いのだろう。


マミ「……絶対に行かせない」

反旗「……」

さやか「マミさん、任せました」


私の背後ではマミさんと黒衣の魔女が至近距離で対峙している。

……私は、4体の魔女の攻撃を防ぐ盾とならなくてはならない。


腕の奪還は全てマミさんに託すこととなるだろう。



マミ「暁美さんの腕を渡しなさい」

反旗「ドケ」

マミ「そう」


マミ「残念だわ」


傍にあった足場のリボンが三本、マミさんに似つかわしくない強引な動きで引きちぎられる。


反旗「ジユウノタメニ」


魔女の大きなダガーもまた、彼女の好戦的な動きに反応して構えられた。

こいつらも魔法少女だったこと考えると悲しくなってくるな


私が見るべきはマミさんではない。

杏子の戦いだ。


マミさんの一騎打ちによる勝利を確実なものとし、ほむらの腕を奪還するために、あの4体の魔女の攻撃を防がなくてはいけない。

流れ弾がこちらへ飛んでくれば、マミさんの戦いに大きな支障が出る。


さやか(ほむらの盾さえ……時間停止さえあれば、どんな窮地でも冷静な、最善の対処ができる! それを失うわけにはいかない)


何より、今まで何回も戦いを繰り返したほむらの命を、ここで途絶えさせてなるものか。

絶対に、私の盾で守りぬいてやる。


杏子「全てが敵なら、全て斬るまでだ!」


ロッソ・カルーパが、長い杖を抱きかかえた魔女に食らいつこうと首を伸ばす。


殉葬「……」

杏子「!?」


けど、炎の竜が大口を開く前に、頭部が何かに弾かれた。

大きな壁に激突でもしたかのような弾かれ方だ。接近を拒む、見えざる壁のような……。


私と同じバリア、シールド、そういったものが展開されたということか。


鎮魂歌「LALALA――LALA――……」

さやか『杏子、あいつだ、手を結んで歌っている魔女』


四体の中で不穏な動きをしている魔女は、不気味なことに一体もいない。

けど何もしていない魔女ばかりでもない。なら、障壁を生み出しているのは、何かをしている魔女だろう。


とすれば、小さく慎ましく歌っているあの魔女こそが原因だと私は推測する。


杏子『確証はあんの』

さやか『ごめん、7割勘』

杏子『どっちみちどつきに行くけどな!』


なら聞くなよ、という前に杏子は既に竜の首を伸べていた。


杏子「“ロッソ・カルーパ”!」

鎮魂歌「LA――……」


歌う魔女には、やはり刃は届かない。

しかしあの魔女は異変を察知したか。――それとも焦ったか。


一瞬、杏子に顔を向けた。


杏子「よし、この見えない壁はあんたのモンだな……いいぜ、その壁ぶち破って、まずは引き裂いてやる」

勘は大事だよな


杏子「いくぞブンタツ、久々に刃応えのある相手だッ!」

鎮魂歌「LA――……」


敵に牙をむくことを諦めた龍は、辺りに散らばった廃材に噛み付いた。

廃材を軸に加速移動する杏子が魔女へと迫る。


鎮魂歌「……!」

杏子「おお、通るじゃん? 秒読みの命だなオマエ」


強力な魔女によるシールドは堅かろう、と思いきや、案外簡単にブンタツの刃は入った。

一撃で空間を切り裂き、魔女が展開する障壁全体が薄く発光していた。


想定外のダメージを受けて、壁を保てなくなったか。

どの道、魔女の防御能力は、私のバリアーほどもないらしいことは判明した。

杏子の炎が相手に反応して強くなっていることもあるだろうが、それにしても相手の守りは柔い。

あの魔女が防御重視、専門の魔女だとしたら、その陥落も時間の問題……。


磔刑「……」

さやか「……!?」



杏子とは離れた位置に浮いている、二本の巨大な針を持った魔女が、その一本をこちらへ向けていた。

まるで槍でも投げるかのような体勢だ、


さやか(……針は、刺すもの。貫くもの……!)


魔女の防御の薄さに希望を感じている暇はない。こっちの防御力がどこまで通用するかもまた、大きな疑問だった。

ワルプル相手にするまでが大変すぎる

ガチで通常の魔女戦の比じゃねぇな


杏子(! チッ、やっぱ全部を一度に相手はできねえか)

磔刑「ヤアッ」


針は投げられる。

まっすぐこちらに向けて放たれるそれの速度は、多分、視認からどうこうするということはできないだろう。


小細工できる速度でない事は承知の上。それでも、ただ単純に防御して貫かれるよりは、抗ってみてもいいと思った。


さやか(あの針が、ほぼ一瞬でこちらへ到着するなら)

さやか(相手の投擲動作と同時に、こっちも動く!)


私は力任せに左腕を振った。


さやか(――あ)


左フックは、完璧にそれを捉えていた。

タイミングばっちり。丁度、先端部分に当たるジャストミートだ。


さやか(でもこれ、ダメだ)


真っ白に輝くそれは、もはや針と呼べるシロモノではなかった。

これは針なんて物理的なものじゃない。レーザービームだ。


バリアで殴って弾くなんてできないタイプの攻撃だった。


さやか「うぐっ!」


それでも私のバリアは、魔女が放った光の槍を殴り飛ばした。

角度をつけた防御は、結果として正解だったらしい。大出力のレーザーの軌道を逸らし、真後ろへ貫通するという最悪の事態だけは回避することができたのだ。


さやか「……つぅうう……! いったいじゃないの……!」


最善の防御の代償は、私の左手。

レーザーの直撃は逸らした。それでも、途中でバリアは砕かれてしまった。


さやか(私の腕も災難ばっかだな……いだだだ)


銀色の篭手も、手首から先は一緒に吹き飛んでしまったらしい。痛々しく焼けた断面がグロテスクで、目を覆いたくなる。


磔刑「……」

さやか「……セルバンテス……!」


けど目を逸らしてもいられない。

私は篭手を再生成し、中身の無い左腕を再び前方へと向けた。


やりたくはないけど、第二波が来る。

……こうなれば根性だ、何度だって防いでみせるしかない。




殉葬「……――」

磔刑「……ハァッ……」



再び高く掲げられた針。

そして、こちらへ杖を向けている魔女と、その真後ろに展開する巨大な黒い魔法陣。


さやか(……何度だって……)


白銀の光線と、赤黒い何かがこちらへ迫る。

私の頼もしいはずの左腕は軽すぎて、本当に空っぽのように感じられた。


『無茶は……しなくていい! 私の命のために、死なないで!』


ほむらの心の叫びが聞こえる。


『ッ……! くそっ、一体殺ったってのに!』


杏子の思念が伝わる。


「かかったわね、終わりよ!」


マミさんの宣言が鼓膜を打つ。



杏子とマミさんは、それぞれの相手を倒すところまで来たらしい。

声を聞くに、マミさんの決着はもう数秒くらいかかりそうだ。けど、その数秒以内で、私とマミさんは消し飛ぶかもしれない。

ほむらは自分の腕の奪還よりも、私達を優先して欲しいらしいが、それは聞けない相談だ。ほむらがいなければ何も出来ない。


さやか(……)


そうだ、大事なのはほむらの腕だ。

時間を止める、時間を巻き戻す能力。


ワルプルギスの夜は、この一連の戦闘で随分と前進してきた。

再び街へ突入されれば、見滝原に大きな被害が及ぶ。それを防ぐための、ワルプルギスを吹き飛ばすほどのミサイル攻撃は、ほむらにしか操れない。


さやか(……ほむらを守るんだ)


そうだ、怯えることはない。躊躇する理由なんてない。

相手がどうしようもないほど強い魔女二体だとしても、私がここから動けないとしても、相手の攻撃をマミさんに当てないようにするだけなら、ギリギリでなんとかできるはずだ。


最悪の場合でも、……本当に最悪の場合でも。もし私達が敗北し、この街が全壊したとしても。

ほむらの盾さえあれば、ほむらが無事でさえいれば、また挑戦することができるんだ。


ここで私が死ねば、勝てるかもしれない。

ここで私が死ねば、また戦えるかもしれない。


残念ながら、私が生き残りつつ、なんて甘ったれた選択肢はもう残されていないらしい。

なに、命を賭ければ不可能ではないという道が残されていることに、心から感謝しようじゃないか。



圧縮した思考が終端にたどり着く。

私は心の中で呟いた。


さやか『いけっ! マミさん、やっちゃえ!』


そう、決してマミさんにだけは振り向かないでほしいから。

だからお別れの言葉はナシだ。


さやか(“アンデルセン”! “セルバンテス”!)


大剣アンデルセンは、強力なエネルギー波、“フェル・マータ”を撃つことができる。

弱点は真上から振り下ろすようにしなければ発動しないという事と、燃費が非常に悪いということ。発動中は、体の移動が不自由だということ。


篭手のセルバンテスは、バリアを出すことが可能だ。

バリアは半端な攻撃なら全て弾き飛ばす。正面からだろうが、バリアの内側からだろうが、あらゆるものの接触を拒む頼もしい盾だ。

蹴って勢い良く移動することもできるし、篭手で殴れば攻撃にも転用できる。


さやか(バリアの防御能力は、内側でも有効)


いつかの魔女結界の中でそれを知った。


さやか(フェル・マータは、魔力を注げば注ぐほど、威力を増す)


ハイリスクだが、欲張るほどリターンも増える諸刃の剣だ。


さやか(……ソウルジェムが無事なら、身体がどうなろうが……魔法は途切れない……!)


左腕の篭手をマミさんの方へ向ける。

右腕に握る大剣アンデルセンは、魔女へと向ける。



杏子「くそがァ! どけ! 邪魔してんじゃねェエ!」

投身「……」



2体の魔女は私へ攻撃を向けようとしている。今にもそれは放たれるだろう。

杏子はもう一体の残った魔女に阻まれ、苦戦しているようだった。


やっぱりそうだ、ここはもう、私がやるしかないという事だ。

この選択が間違っていなくて良かった。ほんと、私の読みはいつでも冴えてるね。


磔刑「ヤアッ!」

殉葬「エイッ……」


銀の槍と黒い雨が輝きだした。さあ、今だ。


さやか「一泡吹かせてやる……」


頭上に掲げたアンデルセンを、勢い良く振り下ろす。


さやか(“フェル・マータ”!)


片腕で振り下ろすアンデルセンは、針を投げてくる魔女へ向ける。

あの魔女が投擲する巨大な針は、光のようなエネルギーとなってまっすぐこちらを貫こうとしてくる。


スピードは驚異的だし、威力も防ぎようがない厄介な攻撃だ。

けど、逆にその分だけ、どこから撃ってくるかもわかりやすい。


磔刑「……!」


投げ放たれた銀の光線を飲み込み、フェルマータの青白いエネルギー波が魔女を襲った。

フェルマータの波濤は、バリバリと音を立てながら魔女の外郭にダメージを与えてゆく。


さやか「っ……!」


わかってる。私のフェル・マータでは、あの魔女の針を防ぐことは出来ない。

フェルマータが飲み込んだ魔女のレーザーは、勢いを相殺されることなく、かなりの余力を残して私を襲った。


アンデルセンの刀身の一部分を削り、私の右親指を消し飛ばし、右肩を“掠める”とは言えないくらい、深く抉ってみせたのだ。


さやか「……っふ……!」


フェルマータを貫き、剣を貫き、私をも貫いた針だったが、その向こうに展開されたバリアーを破るには至らなかった。

青い障壁に阻まれ消し飛んでゆく銀のエネルギーを横目にした瞬間、私の口元は安堵に緩んだ。


これでいい。これで、マミさんに針の攻撃は届かない。


さやか「……!」


心の底からの安心の中で、魔女が展開する魔法陣から放たれた無数の赤黒い雨粒が、私の全身に降り注ぐ。

ざくり、さくり。小さな、しかし驚異的な数の黒い弓矢が、無防備な私を襲った。

頭を、肩を、胴を刺し、貫いてゆく漆黒の一本一本が、私の意識を朧気に霞ませてゆく。


さやか(けど……)


右目も、頬も、……多分頭蓋骨をも、魔女の矢は何本か貫かれている。

それでも、ソウルジェムで繋ぎ止められた私の精神が、左腕の感覚だけはしっかりと認識できている。


さやか(私の守りだけは、崩させない)


フェルマータを放ち続ける。バリアを展開し続ける。レーザーから、黒い矢からマミさんを守るために。

身体はどんどん崩れてゆく。血は流れ落ちる前に、傷口から抉られ消失していった。


瞬く間に私の体積が消えてゆく。

私というものが消えてゆく。


けどこれでいい。マミさんの戦いを、無事に守ることができれば、私はそれでいいのだ。これが最善の手だ。

話が、す・・・進んでる!


『さやかァ!』

『美樹さん!?』

『さやか!』


聴覚を失った私の魂に、みんなの声が響いてくる。

心配をかけてしまったことは申し訳ないと思う。黙って捨て石になったことも、ちょっと気を咎める。


でも良かった。最期に大手柄を上げられたよ。

私が死ぬのは残念だけど、ほむらとマミさんと杏子がいれば、残りのワルプルギスを倒すことも、やりようによっては不可能ではないはずだ。

うん……多分、そう。大丈夫。きっと大丈夫だ。


さやか『マミさん、ほむらに腕を……時間の停止で、あの魔女たちを止めてください、そうすれば、勝てるから』

『ふざけんなてめぇ! 勝手に捨て駒になってんじゃねえぞ!』

さやか『頼んだよ……じゃあ……』

『さやかぁ!』


脳も、心臓も……というか、上半身の殆どを失ってしまった私には、もうまともな思考能力は残されていなかった。

辛うじて繋がっていた右腕も、上から浴びせられる矢と針の光線によって、ついに崩れ落ちてしまう。

皮一枚程度で繋がった左腕も、敵の攻撃を全て防ぎきる前に事切れてしまうだろう。


だから、その前に、マミさん。多分、もうあの黒衣の魔女を倒したのだと思いますが。

腕を、ほむらのもとに……よろしく、おねがいします。


私の意識はそこで途絶えた。

ほとんど黒ずんでしまったソウルジェムと下半身だけになった自分が落ちているのだという漠然とした感覚だけが残っている。


そして、ワルプルギスの嵐に巻き込まれ、適当な瓦礫のひとつとして宙を舞い、ゴミのように空へ吐き出されて。

私の残存した下半身が勢い良くどこかへ叩きつけられ、最後に無意味な出血を辺りに散らして、動かなくなった。



……三人とも、頑張って。

私はここで、みんなを見守ってるからね。


ごめん。今までありがとう。


杏子「……ッ」


轟音の嵐の中で、杏子の含むような舌打ちはよく響いた。

少なくとも巴マミは、その幽かな音がよく聞こえたらしい。


杏子『……マミ、魔女は殺っただろ、腕をさっさと、ほむらに返してやれ』

マミ『う、うん!』


巴マミと反旗の魔女との決着はついていた。

堅実な射撃とリボンの拘束の合わせ技によって、難無くとはいかないまでも、無事に倒すことができたのだ。


反旗の魔女が抱えていた腕をリボンで絡め取ると、巴マミは辺りの瓦礫をリズムよく蹴り飛ばしながら、暁美ほむらのもとへ跳んでいった。


杏子「だから弱い奴は嫌なんだよ」


全身を鎖に包んだ魔女に対峙しながら、杏子はそう漏らした。

いつもの彼女とは違う、いつかのような涙ぐんだ声だった。


杏子「強い奴に立ち向かって、勝手に死にやがる、正しいことをしてるのに潰されちまう」

杏子「なあ、さかや、どうしてアンタが死ななきゃならなかったんだ」

杏子「あんた、とびっきりの良い奴だろうがよ」

杏子「なぜ死んだ」


ブンタツの鋭い双頭が鎖を引きちぎる。

力任せに暴れる両剣の軌道が、無限に紡がれ増殖してゆく鎖の防御を急速に剥がしてゆく。


杏子「何故……殺したァ!」


ついにブンタツの刃は、鎖に覆われた身投げの魔女の本体に届いた。

華奢な幼児体の腹を真横に薙ぎ払って、トドメの縦振りは頭頂部から股間まで両断してみせた。


十字に開いた魔女の切断面から覗く向こう側の二体の魔女は、既に杏子へと標的を移している。



杏子「絶対に許さない……神が許そうが、悪魔が受け入れようが」

杏子「てめえらという存在を、塵一つ残さずこの世から消して……!」


魔女「キャハハハハハ! キャハハハハキャハハハハ!」



ワルプルギスの夜の高笑いがすぐそこで響く。


さやかは。ひとつだけ計算を間違えていた。

本来なら無視してはいけない一番大きな問題を、勘定の中に入れ忘れていたのだ。


あいつが黙って見ているわけもないのに。

大事なとこで誤字かぁ...
>さかや

(*(仮面) ギャァ!

にくまん に 30ダメージ!!

そうだ
死んだのは
さやか
じゃなくて
さかやだ

あれ?

台風の日に酒屋の配送頼んだ奴許すまじ

これは詰んだか

さやか…


黒い靄が闇夜のように辺りを包み、しかし一瞬で嵐に吹かれて、晴れる。


杏子「チッ」


取り払われた暗闇の中には、最初からそこにいたかのように、使い魔の大群が林立していた。

嵐の中一帯を埋め尽くすほどの、大量の使い魔達だ。

遠距離攻撃の手段に乏しい杏子にとっては、数体の魔女が現れるよりも厳しい増員だろう。


杏子「ザコに構ってる暇はないんだよ!」


トランプの兵隊や、小さなぬいぐるみのようなうさぎも混じる使い魔の濁流。

その中でも真っ先に、白馬の群れが杏子に押しかけた。


杏子「くっそ……どけ!」


炎の龍が噴き上がり、杏子を囲む使い魔を焼き払う。ブンタツは縦横無尽に暴れ回り、一掻きするだけで数体の使い魔を切り裂いた。


その光景は、角砂糖に群がる大量のアリを思わせる。それでも杏子がやられる気配はなかった。

周りを使い魔が埋め尽くしても、危なげもなくそれらを断ち切って、杏子は濁流を進んでしまう。


陶器製の馬体のうちのひとつが、嵐の中を真っ直ぐに突き進み、杏子の腹を蹴ろうとしても、ブンタツは間合いに入れさせない。

背後から襲おうとするトランプ兵も、か細いレイピアごと炎の竜に飲み込まれて消滅する。


杏子「どこだてめえら! 出てこい! 二体同時でかかってきやがれ!」


怒りも力も最高潮だ。髪留めの炎は消えることはなく猛り、ブンタツの切れ味は冴えたまま。

強化された肉体は、少しの疲労も感じてはいないだろう。今の杏子は、何者と対峙しても負ける要因はない。



磔刑「……」


けどそれは、対峙した時に限った話であり、見えない位置からの一方的な奇襲を受けてしまえば。

その結果はわからない。


杏子の勘は冴える。彼女は計算高いタイプではなく、経験や直感を頼りに動く人間だ。

理由を上手く説明できない嫌な予感には特に敏感で、それを回避する術に長けている。


杏子「!」


けどいくら彼女でも、光の早さで迫るものがどこから来るのかもわからなければ、回避のしようがない。


杏子「――」


そう、これが運命だった。

光の針は使い魔の濁流ごと、杏子の頭部を一直線に貫いてしまった。


銀白の光線は杏子の首から上を綺麗にえぐり、消し飛ばした。

身体が強化されているとしても、磔刑の魔女の攻撃を防御することはできなかったのだ。


杏子『目も、耳も、鼻も、口も……ああ、畜生、そうか、頭をやられたか』


首のない杏子の身体が力なく、宙から落ちてゆく。

胸元のソウルジェムは無事だった。が、自分の失われた頭部を修復できる魔法少女はいない。


体の支配はできず、意識のある死体として、杏子の死は確定した。


杏子『畜生……ふざけやがって……』


華奢な身体が嵐の中で、真っ逆さまに下へと落ちてゆく。

奇跡的に光線の直撃を避けた、わずかに燃える髪留めと共に。


杏子『絶対に諦めない……まだアタシは、こんなところで死ぬわけにはいかない』

杏子『やつをぶっ潰すまでは、絶対に諦めない……絶対に……』



首のない杏子と髪留めが、大きな川に静かに墜ちた。


山吹色の輝きが骨を固め、神経をつなぎ、筋肉を修復する。

魔力の消費はバカにならない、けど、それでもやる価値はある治療だった。


マミ「……治ったわ、なんとかなるはず」

ほむら「……」


左手を握りしめる。確認は一度だけで十分だった。


さやかが死んだ。

暁美ほむらは、さやかが魔女の集中攻撃を受け、身を挺して巴マミを守った姿を見たのだ。

彼女の壮絶な最後を。


ほむら(……この腕は、さやかの魂そのものよ)


更に強く、左手を握りしめる。


ほむら「いけるわ、ちゃんと動くみたい」

マミ「なら、時間の停止を。佐倉さんがまだ戦っているわ。時を止めて、態勢を整えないと」

ほむら「ええ……、……え?」

マミ「暁美さん?」


暁美ほむらは、地上から見る嵐の中から、小さな人影が降りてくるのを見た。

紅いスカートの裾をばたばたと風にはためかせながら、真っ逆さまに水面へと落ちてゆく。


首のない杏子の姿を。


ほむら「……」

マミ「……そんな」


つられて目線を送った巴マミも、それを見てしまった。



魔女「キャハハハハ! キャハハハハハハ!」


ワルプルギスの夜は、なおも楽しそうに笑っていた。

あかん・・・

ある意味本編よりも絶望的だ…


QB「やれやれ、僕はおすすめしなかったはずなんだけどな」

ほむら「!」


立ちすくむ二人の脇を、白猫が通る。

無感情な赤い目で、水面へ落ち行く杏子を見送っていた。


QB「まどかなら、ワルプルギスの夜に勝てたかもしれないけどね」


杏子の身体が水面に叩きつけられ、小さな飛沫が上がった。


マミ「……佐倉、さん、まで」

QB「杏子はずっと前から、この日のために力を蓄えて、力も磨いてきた。それでもここが限界のようだね」

ほむら「……」

QB「いいや、これは褒めているんだ。まさか、剣の魔女たちを全て片付けてしまうなんてね、杏子のポテンシャルは凄まじいよ」

ほむら「あなたは……あなたは、なぜ……」


盾の中からハンドガンを取り出し、インキュベーターの頭部に押し付ける。

銃口はガタガタと震えていた。


ほむら「なぜ……!?」

QB「ワルプルギスの夜が強力過ぎた、それが全てなんじゃないかな」

ほむら「彼女たちは、私達は、全力で……!」

QB「全力を出したネズミなら、ライオンに勝てるとでも思っていたのかい?」

ほむら「……!」


事実しか言わないインキュベーターの言葉は、暁美ほむらの胸を強く締め付けた。


茫然自失とする最中でも、ワルプルギスの夜が率いる魔女や、使い魔達の行軍は止まらない。

次の標的は暁美ほむらと巴マミだ。


メリーゴーランドの白馬を先頭に、使い魔の群れが押し寄せてくる。


マミ「……暁美さん、お願いがあるの」

ほむら「え……?」

マミ「最後まで諦めない、今だってそうよ、私は諦めない」


マミ「……勝つために、いつか全てを守るために……暁美さんにも、まだ戦いを諦めないでいてほしいの」


巴マミの手が、ほむらの左手を握った。ほむらは彼女の意図を汲み取った。


ほむら「……また、やり直すのね」

マミ「あなたの重荷になるとは、わかっているわ。これまで積み上げてきたものを、戦いの苦労も全て、ふりだしに戻ってしまうなんてね」

ほむら「……」

マミ「それでもね、本当の白紙にだけは、するべきではないと思うんだ……」

残された者が最後まで絶望せずに立ち向かえたとしてもこれでは良くて全滅
最悪は全員魔女化か…
そして今頃QBはまどかに…

ダメだ…ここから逆転する想像が全くできない…逆転は本当に無いの?
(/ _ ; )


マミ「今まで編み出してきた戦術や、経験……魔女の情報……その全ては、きっと暁美さんの次に活かされるはずよ」

ほむら「……」


さやか達との、訓練の日々が脳裏に浮かんでくる。

さやかが考えた空中の戦術、相談しながら割り当てた合理的なミサイルの位置、グリーフシードを使うタイミング。


全てが新たな息吹で、暁美ほむらにとっての希望の光だった。

作戦を練るごとに勝利への現実味は増し、ワルプルギスの夜を突破する実感を噛みしめることができた。


時間を巻き戻せば、あのさやかや、あの杏子とはもう逢えないかもしれない。

けど、あの日々さえもなかったことにしていいとは、決して思えない。


さやかや、杏子が残してくれたものを受け継ぐ。

それこそが、自分がこの時間でできる、唯一の反撃になるのではないか。


ほむら「……巴さん、ありがとう」

マミ「うん」


暁美ほむらが、左腕の盾を掴む。袖の上に雫が落ちた。


ほむら「本当にありがとう、ござい……ました……」

マミ「うん」


巴マミは、彼女の頭を撫でてやった。

ねぎらうような、慈しむような優しい手つきであった。


―――――――――



暑い日差しに、目を開けた。


さやか「……」


暑い。夏の日差しが、私とベンチに降り注いでいる。


見滝原の町並みの上に、入道雲がよく見える。

懐かしい、あの日の景色だった。



「ほら、干からびちゃうわよ」

さやか「……?」


隣から、ペットボトルを差し出される。

馴染み深い、よく冷えたスポーツドリンクだった。


さやか「ありがとう、ございます」

「いいのよ」


キャップを捻り、口を付ける。

ごくり、ごくりと喉が鳴る。このまま息を止めて、最後の一滴まで飲み干せてしまいそうだ。

けど、一気に飲むのは良くないことだから、少しだけ。後はまだ、残しておくことにした。


さやか「……ふう」

「お疲れ様、さやか」

さやか「……」


ねぎらいの言葉をくれた彼女に、ついに顔を向けた。

そしてやはり、私は、納得するのだ。


煤子「大変だったわね」

さやか「……煤子さん」


ほむらと瓜二つの彼女の姿に、思わず瞳が潤んでしまう。

黒髪を高いところで縛っただけの、でも、やっぱり私の中では特別だった、彼女の姿に。


さやか「煤子さん……私」

煤子「うん」

さやか「煤子さんが守りたかったもの、守れなかったよ」

煤子「……」


ベンチの上から望める見滝原。

この景色も、あの日々のかげろうにすぎない。


私の本当の見滝原は今頃どうなっているのだろう。


杏子がうまくやっているだろうか。

ほむらが、マミさんがうまくやれているだろうか。


確証はない。そして、自信もなかった。


ワルプルギスの夜が振りまく底なしの絶望を前にしては、多分……杏子にも、限界が来るだろう。

ほむらが時間遡行してくれていることを祈るばかりだ。



さやか「……はあ、力をつけて、臨んだつもりだったんだけどな」

煤子「よく頑張ったわ」

さやか「うん……自分で言っちゃお、頑張った」

煤子「ええ、誇っていいわ、さやか」

さやか「うん……うん……けどね……煤子さん」


ああ、だめだ。涙が止まらない。


さやか「やっぱり悔しいよ」

煤子「……」

さやか「守りたかったよ」

煤子「……」



――――――――――――


―――――――――――――


金色の夕焼けが空を覆う。

伸びる影の中で、杏子は長い棒を振るっていた。


杏子「せいっ」


教えてもらった動きとは、少しだけ違っている。

魔女との実戦の中で最適化され、自分なりに工夫し、改善された型だった。


杏子「はあっ!」

「でも、その構えは少しオーバーじゃないかしら」

杏子「……」


後ろから白い手が、棒を握る手を包んだ。

そのまま動きをガイドして、懐かしい型を再現してみせる。


「ほら、こう。基本は大事よ」

杏子「……もう、今では私の方が上手いですよ」


煤子「あら、そうかしら」

杏子「……そうですよ、煤子さん」


煤子が背負った夕焼けは眩しすぎて、思わず涙が出てきてしまった。


かん、かん、と棒が打ち鳴らされる。

軽めの練習。長棒同士の懐かしい打ち合い稽古だった。


からん。


しかし、何度やっても、すぐに杏子の棒がはたき落とされてしまう。

何度拾って、何度握り直しても、何度か打ち合うだけで、またすぐに落とされる。



杏子「うっ……ぇぅ……」

煤子「ほら、そんな顔じゃ当たらないわよ」


杏子は乱雑に棒を振り回すだけだった。

涙と乱反射する夕陽で何も見えないだけではない、型も何もない振り回すだけの棒術で、力なく暴れているだけなのだ。


杏子「もっと強くならなきゃいけなかったのに……」

煤子「……」

杏子「強くなって、どんな悪い奴にも立ち向かえるように……なりたかったのに……」


杏子の棒の側面が叩かれ、得物が地面に転がってゆく。


杏子「悪い奴が最強だ、なんて、そんな話……あっていいわけないだろ……」

煤子「……」


階段の上に積んだ水滸伝のページが、生ぬるい風に吹かれてぱたぱたと捲れていった。




――――――――――――

おつ

あかん泣きそう

どうなるんだろ。すげぇ楽しみ。


煤子「身を粉にしても、骨を砕いてみせても、報われないなんてね」


手の中のスチール缶が“ぺこん”と軽く潰される。


さやか「……」

煤子「ひどい話もあったものよね。本当、ひどい話」

煤子「本にもできないくらいひどい話よ、こんなのはね」


積み重なった水滸伝を拾い上げ、優しくページを捲る。


煤子「愛と希望のヒーローが、結局は何もできずに息絶えるなんて、そんなのあんまりよね」

杏子「……」

煤子「精魂尽き果て、全て燃やしきってしまっても、それでも何も守れないだなんて」


本を閉じる。


煤子「ひどい話」


缶をベンチに置く。


煤子「本当にひどい話」


夕陽を背に、輪郭のぼけた黒い煤子が杏子の手を取る。


煤子「ねえ、こんなの望んだ結末じゃないわよね?」

杏子「……当然……です!」


杏子は涙を拭って力強く答えた。


煤子「最後には、愛と勇気が勝つストーリーじゃないといけないわよね」


麦わら帽子を取り、ベンチから立ち上がった煤子が、さやかの手を取る。


煤子「ねえ、さやか。このままでいいの?」

さやか「……このまま、どうすることもできないよ、もう私にはどうしようもないから」

煤子「……」


夏の日差しに汗ばんだ手が、煤子の手を強く握った。


さやか「論理的でも現実的でもないし、叫んだって虚しいだけ……けどやっぱり、絶対に、こんなの納得出来ない!」

煤子「うん」


煤子は二人に優しく笑いかけた。


暑い夏の陽の下で。

眩しい斜陽の中で。



煤子「正義は必ず、最後には勝たなきゃいけないわ」

煤子「……必ず……絶対に、どんな強い相手だとしても、必ず」


煤子「巻き戻しても、祈っても手に入れることのできない、正真正銘本当に、一度きりの奇跡を使ってでも」

煤子「さやか、杏子」


煤子「あと一歩が届かないのなら、その奇跡をあなた達に託す。背中を押してあげる」


此岸「この世界の因果と、私の因果とは、決して相容れないから」

此岸「私ではできないこと。だから、あなた達に受け取ってほしい。受け取って、使ってほしい」

此岸「……それがきっと、……道を踏み外してしまった私に残された、最後の使命なんだと思う」

煤子→此岸

つまり…


ゆっくりと目を開けた。

目覚めは日曜の朝のように緩やかだった。


さやか『……』


私は、自分がベンチに腰を降ろしていることを自覚できた。

自分には下半身しかなく、それ以外の部位は青い炎のようなもので構成されているということも。


さやか『……』


揺らめく顔を、ベンチの隣に向ける。

隣の席には、潰れていないスチールのコーヒー缶が置かれていた。


さやか『……』


夢の中で……いや。

魔女の結界の中で、煤子さんと話していた。


煤子さんは私の励まし、力をくれた。

……いや、それは正確じゃないか。


昔にくれた力を、今日ここで目覚めさせてくれたのだ。


さやか『ありがとう、煤子さん。これで……』


炎の身体が、急速に元の姿を取り戻してゆく。

背骨を、肋骨を、内臓を、神経を、筋肉を、脂肪を、皮膚を、体毛を。


さやか「これで戦える」


胴体、腕、頭、全てが復活し、魔法少女の衣装を纏う。


さやか「……正義は、必ず勝つ!」


篭手のセルバンテスが全身を包み込む。

銀の装甲は左腕だけに留まらず、腕から胸へ、胸から身体へと延長し、一式の鎧となって全身を覆い尽くした。


さやか「いくぞ!」


最後に、顔を隠すフルフェイスのヘルムを装着すると、私は坂から飛び立った。


あの暗雲に蔓延る魔女たちを、一刀両断するために。

「ん」でお終いってことだな。


川の端で、死体が立ち上がった。


杏子『……』


首のない杏子が立ち上がり、濡れる身体が滝のような雫を落とした。


杏子『ワルプルギスの夜は随分、街の方へ侵攻しちまったらしいな』


首からロウソクのように灯った赤い炎が、離れた場所に浮かぶワルプルギスの夜を見やる。

ワルプルギスの夜が通り過ぎた後でも、まだ強風が吹き荒れている。


杏子の赤い裾はバタバタと風に吹かれ、濡れた生地は既に乾きつつあるが、首から灯った炎が消える気配はない。



杏子『……アタシはまだ負けちゃいねーぞ、オイ』


首なしの杏子が水面を歩く。

怒りを込めた強い足取りで、一歩、一歩と、ワルプルギスの背を追う。


杏子『アタシは……ここだっつってんだろーがッ! このクソ野郎!』

魔女「キャハ…………」



ワルプルギスの夜が侵攻をやめ、笑いが止まった。

背中にただならぬ悪寒を感じ取ったのだ。


すぐ目の前にいる二人の魔法少女よりも遥かに危険な、その魔法少女の燃える闘志を。



杏子『もういっぺん殺してみやがれ! ワルプルギスッ!』

魔女「――キャハ」



ワルプルギスの夜が進路を逆転させた。


魔女「アハ、アハハハハアハハハハハハ!」


嵐の中に使い魔が充填される。

ワルプルギスの夜の中にはまだまだ、多くのエネルギーが貯蔵されているのだ。


使い魔を呼び出すだけならば、その余力は無限であると言ってもいい。


「ヒヒィィイイィィッ」

「アォォオオオォォッ」


白馬や狼が、空から川へと押し寄せる。

数多の動物たちによる行軍は、もう一つの川が空から流れ落ちてくるような壮大さで、たったひとりの杏子の元へ向かっている。



杏子『……今のアタシには、全部見える』

杏子『あんたらの、ちっぽけすぎる灯火がな』


槍の合成を介さずに、杏子の左手にブンタツが握られた。

赤黒い双頭の槍。あらゆるものを断ち切る、彼女の決戦重装だ。


だが今は、別の武器がある。



杏子『クソ野郎にひれ伏したクソッタレ野郎共……意志も心もない、強い奴にへこへこする金魚の糞なら――』

杏子『もっと強い奴の配下に寝返りやがれ!』


杏子『“ロッソ・ファンタズマ”!』


杏子が灯す炎の中から、怪しげな紅が輝いた。


白馬「……!」


異様な光景だった。

杏子の炎が輝いたその瞬間、使い魔の群れの中の白馬は動きを止め、


白馬「ゥルルルゥ……ゥルルルァアッ!」


他の周りの使い魔達を、狂ったように蹴り潰し始めたのだ。

杏子の炎に心を奪われ、意のままに操られてしまったかのように。


杏子『……やれやれ、陰気な能力だな、こいつは』

白馬「……」


空から一頭の白馬が降りてきて、長年の飼育されてきた愛馬のように洗練された動きで、杏子の傍らで立ち止まった。

杏子も迷わず、その白馬の使い魔の背に跨る。



杏子『やっぱアタシは、こいつでガンガンいくのが良い』


頭の上でブンタツを三度回し、杏子の馬は空へと駆け出した。


全身を銀の鎧に包んだ騎士は大剣を片手に、マントをひらめかせながら空を走る。


白馬に跨る聖女は両剣を片手に、白馬に跨りながら空を翔ける。



数多の可能性と因果を束ねた、その欠片が、今この時、彼女たちを軸に収束した。


あったかもしれない未来の力と、誰かが背負うはずだった法外な力の一端を吸収し、二人はより強い存在へと変身したのだ。



ありえない力。けどそれこそ、今二人にとって、何に代えても必要なものだった。

乙!!
この展開はかつる!!

が…どうなってんだ?

魔女化の姿も混ざってるのか

一度死んでそれでも絶望しなかったからこその半魔女化か?

さやかの体が戻ったのは本編さやかの治癒能力使ったのか
とはいえ消し飛んだ上半身を一瞬で完治とは杏子もそうだがとんでもなくブースト掛かってるな

前にさやかの回想シーンで煤子にジャリジャリしたものを背中に刷り込まれたみたいな描写があったはず

多分これは盾からこぼれた砂を仕込んでたんだと思うそして描写はないけど杏子にも同じ事をしたんだろう

で二人がやられた後に煤子(魔女)が二人に接触
魔女化した煤子の能力かは分からないけどこの接触で仕込んだ砂が発動して本来まどかの背負う筈だった因果が二人にある程度収束+平行世界の自分たちの能力が発現(魔女の外見と本来の願いの能力である治癒と幻惑)して今の状態になった…んだと思う

長文スマン



暁美ほむらは、盾に手をかけたまま動きを止めた。

過去に戻ることを躊躇したわけではない。巴マミにもそれはわかる。


先ほどまでこちらへ侵攻してきたワルプルギスの夜が、急に停止したかと思いきや、その進路を逆転。

もと来た方向へと帰ってゆくのだ。


ほむら「……え? なに、これ」

マミ「使い魔もこっちへ来ない……いえ、むしろ使い魔達は、こっちとは逆の方へ……?」


何かがおかしい。何かが起きている。

見滝原から、標的を過疎地へと変えたわけでもあるまい。


ほむら「……あの使い魔達は、どこへ目指しているというの?」

マミ「一斉に、ひとつの方向に向かってるわね……ワルプルギスの夜を基点に、どこかへ攻め込んでいるみたいだけど」


暴風域は川の水も巻き上げて、薄い霧を発生させているためか、視界はおくまではっきりしない。

その向こうに何があるのか、見ることはでいなかった。

しかし声は聞こえた。



『討ち取ったりッ!』

ほむら「!?」

マミ「この声は」

ほむら「そんなはずは、確かにあの時、杏子が死んだのを……!?」


何が起こっているのかは定かで無い。見知らぬ危険があるのかもしれない。

それでも、この時間を諦めていた二人は、真相を確かめることに躊躇はなかった。


マミ「いきましょう」

ほむら「ええ」


二人はまもなく、圧倒的な光景を目にすることとなる。

ジャァーン
お主こそ万夫不当の豪傑よ!

乙!!

1から見ました。今更だけどからあげばかり食べてるこのさやかちゃんは本編よりおっぱいがすごい事になってそう

本編と違って初めから運動してるしな
胸筋あると胸もすごい


ほむら「!?」

マミ「避けて!」


霧の中から巨大な物体が飛来した。視界の悪い中だ、正面からでなければ、二人共気づけなかったかもしれない。

軽自動車ほどの大きさの物体は、緩い放物線を描いて地面を抉った。


マミ「……何かしら。隕石にしては、綺麗すぎるわね」

ほむら「わからない、向こうから飛んできたということは……魔女の一部?でもこれ、どこかで……」


それは四角い、大きな金色の金属だった。

真鍮のようでもあるし、黄金のようでもある。表面の滑らかな金属塊だ。


QB「これは……」

ほむら「何だったかしら、これ……」

QB「間違いない、ワルプルギスの夜の一部だ」

ほむら「!」

マミ「あ、歯車!? その破片だわ!?」

QB「こんなものがここにあるということは、ワルプルギスの夜は……」


二人と一匹が霧の先を見る。

先程から向こう側が、妙に騒がしいことを思い出す。


あの先には……。

三者が白んだ景色を見つめていると、今度は霧が大きく歪んだ。


霧が大きく膨らみ、穴が空き、突風が押し寄せる。


魔女「アハハハハハハ!」

ほむら「――」


ほむらの真上を、半壊したワルプルギスの夜が暴風と共に通過していった。

幻惑+力のオフィーリアと、治癒力+バリアのオクタヴィアとか勝てる気がしない 
しかも同時とか魔女だったらたち悪いとかそういうレベルじゃない
魔法少女だから魔女以上にたち悪いとかいうレベルじゃない

ここまでしないとワルプルさんには勝てないし…

まどマギのアクションゲーム出ると聞いてこのスレが思い浮かんだ
クソ強いワルプル期待してます


『ちっ、タイミングが合わねえか』


霧の中から馬蹄音が近づいてくる。その高い影も見えた。

巴マミはグレーのシルエットにマスケット銃を構え、暁美ほむらは盾を掴んだ。


杏子『結界に突っ込んでやろうかと思ったが、復活が早いな。本体を蹴り飛ばしちまった』



霧を割って現れたのは、白馬に乗った――首の上に炎を灯した、杏子だった。

当然、二人は驚きのあまりに絶句する。


一番に口を開いたのはインキュベーターである。



QB「君は……君が内包しているその魔力は、一体何なんだい、杏子」

杏子『……』


インキュベーターは柄にもなく動揺しているらしかった。

それもそうだろう。通常ではありえないことが起こっているのだ。


いつかの、どこかの世界での果てしない未来からめぐりめぐった奇跡の欠片であるなど、彼が推測として立てられるはずもない。


インキュベーターがいかに高度な知能を持っていたとしても、彼女からあふれる力の説明はできない。

ただただ、白馬の上の杏子に向かって、疑問を投げかけるのみ。


QB「その魔力量は尋常じゃない……君の願いでは、瞬間的なものだとしても、そこまでにはならないはず――」


続きの言葉はブンタツの切っ先によって遮られた。

その狭間にあったインキュベーターの頭が、綺麗に吹き飛び、転がってゆく。


杏子『よくノコノコと姿を現せたな。ちったぁ反省しやがれ』

マミ「……佐倉さん、その姿は、一体……?」

杏子『ああ、これか?』

ほむら「その使い魔に乗って……それに、首が」

杏子『首なんざ無くても平気なくらい、強くなっちまったってことかね』


杏子は自分の首の断面から何かを取り出し、掴んで二人に見せた。

二人は一瞬だけ後ろに引いてしまったが、それを見て頭に疑問符を浮かべる。


杏子の手に握られていたのは、赤錆びた金属でつくられたアンクだった。

それが一体何を示すのかは、この場にいる誰にもわからないだろう。


杏子『まあ、信じる心に、限界なんか有り得ないってことだ』


杏子はそう言うと、再び静かに白馬の歩を進めた。



ほむら「杏子……!」


背を向ける彼女に声をかけようとして、後ろからの音に気づく。

ダカ、ダカ、ダカ。硬い足音が、いくつも聞こえてくる。


街に似つかわしくない馬蹄の音だ。

霧の向こう全てからやってくる。



白馬「……」

白馬「……」

白馬「……」


陶器製の白馬の大群が、ゆっくりと行軍し、暁美ほむらと巴マミの脇を抜けてゆく。

静かに、だがしっかりと意思のある足取りで、先頭の杏子を追うように続いているのだ。その数は濃霧のせいもあり、とても数え切れそうにない。


二人には目を赤く輝かせた馬たちが、恐ろしかったのだろう。その場で身動きを取ることも、物音を立てることもできなかった。



杏子『さて』


杏子が馬の足を止めると、使い魔達も停止した。


杏子『じゃあもう一丁ワルプルギスをぶっ殺して、結界に突入してみるか!』

杏子『いくぞお前ら!死ぬまで戦え! “ロッソ・ファンタズマ”!』


「「「ォォオオオォオオオ!」」」


白馬の背が燃え上がり、首のない杏子がそれらの上に現れた。

全ての馬が杏子を乗せ、全ての杏子はブンタツを握り、それを高く掲げ雄叫びをあげている。


辺りを埋め尽くす魔法少女の大隊。

希望に溢れるというよりは、それが味方であったとしても恐怖を覚えるほどの壮観だ。


杏子『突撃!』

「「「ォオオォオオオォッ!」」」


合図とともに、白馬の大隊は動き出した。

自分たちの脇を騎馬が疾走してゆくのを見送って、そこで初めて二人は気付く。

“ここからの戦いは、彼女だけのものなのだ”、と。

杏子がいっぱいだぁ(≧∀≦)

(*>∀<*)


(*>∀(ヾ(・; )


魔女「アハハハハハ!」


ワルプルギスの夜は元の姿勢を取り戻し、再び空へ浮上した。


様々な力を扱える魔法少女とはいえ、空中に留まっての戦闘となると、体の自由は多くない。

だが杏子には関係のないことだ。彼女はただ、まっすぐ空を駆け上るのだから。


杏子『あれだけズタズタになったってのに、もう完治か』

魔女「アハハハハハ!アハハハハハハハ!」


ワルプルギスの夜は既に無傷の状態にまで戻っている。結界内のエネルギーが補填されたのだろう。

この魔女を倒したければ、完璧なまでの無力化を行わなくてはならない。


杏子『いいぜ、もう一度バラして、今度こそ結界に突っ込んでやる』

魔女「アハハハハハッ!」


ワルプルギスの前に複数の魔女が立ちはだかった。

数は見るに数十。それらの強弱はともかく、どれも正真正銘、立派な魔女だった。


使い魔では利用されてしまう事に気付いたワルプルギスの対抗策なのだろう。


杏子『……』


杏子の炎が艶めかしく光る。


杏子『フン、やっぱり魔女までは操れねぇか』

杏子『ならアタシが直々に、全てぶっ潰す』


魔女の大群に、杏子が単騎、突入した。


白馬が跳ね、杏子は一体の魔女の上を取る。

馬の速さは、使い魔の時の比ではない。杏子に支配された白馬の使い魔は、既に別のものへと変質しているのだ。


杏子『なんだよ、大将を守ってるにしちゃあ、随分と手薄じゃねーか』


ブンタツを、バトンを扱うかのように滑らかな動きで、片手の中で取り回す。

回して振り払う。身体に力を込めない腕だけの動作だったが、ブンタツの刃が届く圏内にいた二体の魔女は、その間に切り崩された。

馬は、魔女の合間を跳ねて翔ける。


敵将に狙いを定めた立ち回りだが、それまでにいる魔女たちは皆、たやすく斬られ堕ちていった。

杏子はワルプルギスに向かってほぼまっすぐに移動していたが、小物の魔女を無視してはいないのだ。


彼女が通るだけで、魔女が消滅していってしまうだけで。



杏子『ほら追いついたぞ、どうすんだ』

魔女「!」


気がつけば、既にワルプルギスの懐の中。

振り返らぬ道中には屍の山。

魔女の残党には、白い騎馬隊が立ち向かっている。隔てるものも、身を守る物も、何もない。


杏子『とりあえず落ちてみるか!?』


ブンタツの片刃がワルプルギスの腹に突き刺さる。強い魔力の波長が、傷口へと注ぎ込まれた。

ワルプルギスの夜の中に、杏子の魔力が浸透してゆく。その感覚には彼女も気づいていた。しかし、ワルプルギスの身体に変調はない。

毒の類でも爆発物の類でもない。弱化させる効果を帯びた魔力でもなかった。

どちらかといえば注ぎ込まれたそれは、硬く強くする“強化”の魔力――。


杏子『らぁッ!』


突き刺したブンタツを、杏子は真下に振り切った。



魔女「アハ――ッ ッ!?」


刃はワルプルギスを切り裂くことも、引きちぎることもなかった。


ワルプルギスは傷口を中心に強制的に身体を“強化”させられた。

刃はワルプルギス自体に大きなダメージを与えることなく、かわりに杏子のケタ外れの力でもって、大地へと巨体を放り投げたのだ。


硬いコンクリートの大地がワルプルギスを押しつぶす。

それはブンタツで何度か斬られるよりも大きなダメージだった。


杏子『さあ、這いつくばったんじゃあ、存分な力は出せねーよなぁ!』


そして、逃げ場のない追撃が襲ってくる。

さやかが空気
でもあんこちゃんが可愛いから大丈夫だね!

ポカーンとしてるであろうほむらとマミさんの立場ほどじゃない

さやかはまだ寝てるんだよ(惰眠)

(さやか*=∀=)zZZ

強すぎww
ゲームもこれだけ爽快感があったらいいな


魔女「アハ……アハハハハハッ!アハハハハハハ!」


ワルプルギスを中心に、一般家屋ならば吹き飛ばし破壊してしまうほどの風が放出された。

風は杏子の真下から襲いかかる。まともに受ければ、風圧のみで骨折することすらあり得る。が。


杏子『それが最後の足掻きか!』


杏子のブンタツは風さえも断ち斬る。

刃先は風圧の壁を鋭く割って、杏子をほぼそのままの速度でワルプルギスへと落下させてゆく。


「ヤアッ」

杏子『!』


あと少しで刃を押し付けようというその時、気配を悟った杏子はブンタツを翻し、風に任せて空へと舞い上がった。

杏子がいた場所には、銀色のレーザーが虚しく過ぎ去ってゆく。



磔刑「……」

杏子『ああ、そういや居たな、お前』


空高くで、杏子は敵の姿を確認した。2本の針を両手に握る、細長い黒服の魔女だ。


杏子『お前がアタシの首を、ふっ飛ばしたんだっけな』


その姿を認めるや、杏子が跨る馬は進路を変更。難き磔の魔女へと転身、ワルプルギスへ迫る時以上の速度で駆け出した。

杏子の首から滾る炎は、怒りに強く燃えている。

あのやばい魔女も今や雑魚扱いか


白馬は磔刑の魔女に迫る。

相手の魔女は、動きが早い魔女ではない。迫り来る騎馬から逃げることも、そこから繰り出される攻撃を避けることもできないだろう。



磔刑「……ハッ」


だから迎撃するしかない。機動力のない磔刑の魔女には、もとよりそれ以外の行動は選択肢に存在しない。

しかしそれ故の自信もある。


握っていたもう一本の針を、杏子へとまっすぐ放り投げた。


杏子『――』


馬の上の杏子はそれを避けるかと思われた。避けたところで、一撃を加えてくるだろうと。

しかし杏子は容易く、光の槍に胸を貫かれてしまった。


杏子『――カ、ハッ』


胸は大きく抉れ、腕も首も、身体と別れてしまう。

針が通過した肉体の断面には、焼け焦げ、赤く燃える跡だけが残っていた。


燃える傷口が、その炎が一際大きく、杏子を包んで燃え上がる。


磔刑「!」

杏子『ハハハハハハッ! どこ狙ってるのさ、眩暈か?』


燃えて消えゆく杏子の真上から、もう一人の杏子が飛びかかる。


マミ「あれは……! 佐倉さんが、レーザーにやられたように見えたけど」

ほむら「……あれは、佐倉さんが作った幻だわ! 魔女を騙したのね、なら本体は……」


杏子が磔刑の魔女の真上から、ブンタツを振り上げて襲いかかる。



磔刑「……!」

殉葬「エイッ……」


しかし磔刑の魔女の真後ろには、杖を抱くもう一体の魔女が隠れていた。

この時を狙っていたかのように静かに顔を見せたその伏兵は、磔刑の魔女の後ろから、紫水晶があしらわれた杖だけを杏子に向けている。


この時、杏子は敵の狙いに気づいた。杖から放たれる禍々しい気配が、空中に存在感を増してゆく。

このための準備は既に整っていたのか、杖を向けたほぼ一瞬で、磔刑の魔女の正面に巨大な黒い魔法陣が描かれる。


杏子『そうか、てめぇも……』


ゆっくりと回る魔法陣の壁を前に、杏子の白馬は勢いを止められなかった。

白馬は緊急回避しようと側面を向ける体勢で、杏子と一緒に魔法陣へと突っ込んでしまったのだ。


杏子『――』


宙に魔法陣の文字や線が、触れる杏子や馬の身体に鋭く食い込み、突き刺さる。魔法陣を構成する全てのラインは、鋼のワイヤー以上の鋭さと切れ味を持っている。

投げ出された勢いのままに、杏子は魔法陣によってバラバラに引き裂かれてしまった。


磔刑「……」

殉葬「……?」


細かな肉片が、赤い炎に包まれ、燃え尽きる。


杏子『てめぇも眩暈なわけだ!』

魔女「キャハ……」


騎馬の大群が、ワルプルギスの夜へと突撃をかける。


二体の魔女は騙されていたのだ。二人の杏子の幻に。


杏子はまっすぐワルプルギスの夜を狙っていた。最初からだ。

杏子は、一度自分を殺めた魔女に仕返しを、などとは微塵も考えていない。

彼女の目的は、どうあってもただひとつ。最も強い相手との戦いなのだから。



杏子『おらぁあぁああッ!』


再び大事に叩き落とされたワルプルギスに、杏子と、杏子の分身の大群が畳み掛ける。


魔女「アハ……!」

「おらぁっ!」

「どうした!立ってみやがれ!」

「せいやぁッ!」


ワルプルギスの夜を囲むように円を描いて走り、騎馬に乗った杏子達がブンタツで切り刻んでゆく。

外側から削られてゆくワルプルギスの夜は、同時に地面へ押し付けられるように斬られていた。

力がブーストされた杏子の大群、そのひとつひとつに質量があるのか、攻撃力があるのかは定かではない。

しかし事実として、ワルプルギスの夜はその場で動くことができなかった。


磔刑「……!」


偽物に踊らされた磔刑の魔女は、すぐさま針を杏子へと向け直す。

が、肩の上にそれを掲げて迷う。

どれが本物の杏子か、全く分からないのだ。


殉葬「……ヤル」

磔刑「……」


杖を持つ魔女が前に出る。魔法らしい攻撃方法を持つ、魔女の中でもかなり特異な個体だ。


殉葬「……ハァア……」


一点集中の槍が通じない数の相手であれば、それら全てに襲いかかる攻撃でかかるしかない。

殉葬の魔女は再び、巨大な魔法陣の生成を開始した。


マミ「いけない! あの魔女、攻撃しようとしてる」

ほむら「何が起こっているのか……けど、考えても仕方ない。今は杏子を守らなきゃ」


巴マミや暁美ほむらも黙ってはいない。二人はマスケット銃を生成し、盾を掴む。

銃口は魔法陣へ向けられ、また巴マミの空いた方の手は、暁美ほむらの頭へ優しく置かれた。


マミ「へんな触り方でごめんね」

ほむら「いいえ、触れ合っていれば停止は有効……確実な手段よ、見た目なんて気にしない」


ほむら「あいつに勝つためならね」


盾を回す。

さやかどこいった?


ほむら「……」

マミ「……」

ほむら「あっ」

マミ「え?」

ほむら「……砂が、落ちきった」


時は止まらなかった。

そして大きな魔法陣は、その攻撃魔法を完成させる。


マミ「いけないっ! 佐倉さんが!」

ほむら「ごめんなさい! なんとか今の状態から、あの魔女を倒して……!」

マミ「ええ、けど大人しく当たってくれるかしら……!」


マスケットの単発射撃は攻撃力が低い。

決定力に欠ける方法は諦め、リボンを増やし巨大な大砲を生成する。


それでも、あの魔女の攻撃を止められるかは疑問だった。


マミ「だめ、間に合わない……!」


黒い魔法陣が攻撃を完成させた。

破壊の弓矢による精密な掃討攻撃。範囲は広大、ワルプルギスを囲む杏子の位置全てと、その周辺数十メートル。


殉葬「……エイッ」

エイッに萌えた


弓矢の大群は魔法陣から現れ、空へ飛翔し、ゆっくりと弧を描いて降り始める。

狙いは正確だ。撃ち漏らしはないだろう。


杏子『……』


ワルプルギスに攻撃を続ける杏子達の中の一人が、矢の群れを見上げている。ふと、杏子は口元だけで微笑んだ。


「ごめん、ちょっと遅れちゃったね」

杏子『まったくだ』


飛来する矢に対抗したのは、杏子でも、巴マミの主砲でもない。音の壁を破るギリギリの速度でまっすぐやってきた、銀色の騎士である。


「でも大丈夫」


騎士は矢の寸前でピタリと急停止し、左手に握った大剣を矢へ向けて掲げた。


「今度はちゃんと、全部守るから」


矢の群れが障壁に阻まれ、当たったそばから砕けて散る。

障壁は、澄んだ海のように薄い水色。暗い暗雲に包まれた見滝原の中で、見えないその壁は青空のようにも見えた。


矢が何発当たっても、いつまで当たっても、巨大なスクリーンが破れることはない。銀の鎧の騎士が、大きな剣を掲げている限りには。


ほむら「あれは……! あのバリアは!」

『や、ほむら、マミさん』


さやか『私に任せて』

殉葬「……!?」


矢の猛攻は打ち止めとなり、宙に描かれた魔法陣は消滅した。

しかし魔女としても、ここで黙り続けているわけにはいかない。目の前に出現した謎の敵を排するべく、より効果的な攻撃へと切り替えつつある。



さやか「さあ、次は何する気? 迎撃か、防御か」

さやか「どっちも無理だよ、今の私はさっきより……もっと強いんだ」


銀の兜に顔を覆ったさやかの表情は、誰にも見えない。

けど彼女は微笑んでいる。好戦的に? それは少し違う。もっと、心底楽しそうに。

あの時初めて、枝を自在に振るえるようになった時のような。子供のような笑みだ。


さやか「……“フェル・マータ”!」


振り下ろした大剣が白銀の柱を放射して、目の前のバリアを打ち破る。


殉葬「ヤダ……」


銀の奔流は速やかに魔女を飲み込み、すぐに途絶えて消えた。

杖を抱いた魔女の姿はもう、そこになかった。

殉葬かわいいww

おつ

さやかぁぁぁぁぁぁ!


さやか「……よし」


身体は絶好調。鎧も服みたく軽い。剣は自分の腕のようだ。


さやか(こんなに強いフェルマータを撃ったのに、疲労感が全くない)


大技を撃っても疲れないということは、ほとんど魔力を消耗していないということ。

その魔力はどこから来ているのか……それは間違いなく煤子さんだろう。


さやか「……」


下では杏子達が白馬に乗ってワルプルギスの夜をリンチしている。ひどい光景だ。

マミさんとほむらは無事、けど戦闘に参加できる余裕があるかといえば、どうだろうか。


ほむらは以前、今日の時間経過によって自分の魔法が使えなくなることを打ち明けていた。

ほむらの魔法の期限は多分既に切れている。これ移行は時間停止は使えないだろう。


ワルプルギスの夜を速やかに問題なく倒すためには、結界の中に入る必要がある。

けど結界に突入するためには、結界が露出しているわずかなタイミングで時間停止を用いるのがベストだ。

ワルプルギスを一度消滅させ、その隙に結界へ……は、自力ではかなり難しいだろう。


さやか(……)


ワルプルギスの夜を倒すには、もう本体を消耗させたほうが早いかもしれない。

街を舞台に暴れることになる。そこが難しいところだけど、今の私と……杏子ならできる。


「ヤアッ」

さやか「!」


ふと目を離していると、銀の針がこちらへ放たれていた。


さやか「ああ」


私は迫る鋭い閃光を、右手で弾いてかき消した。


さやか「ごめん、計算に入れてなかった」

磔刑「……」


両手にエネルギーが凝縮された針を持ち、それらを投擲することで強いレーザーを放つ魔女だ。

私はこの魔女によって致命傷を負った。ある意味仇敵だ。

けど今は、かなりどうでもいい。


何故かって、今私の中で噴き上がっている力の源には際限がなくて、その余った飛沫でさえ、あの魔女の攻撃を防いでしまうには十分すぎるのだと、理解できているからだ。


磔刑「セイッ」


二投目が来る。まっすぐ私の中心を狙って。


さやか「くどいよ」


針の銀色のエネルギーは私の寸前で不可視の障壁に阻まれ、広がり潰れて千切れ消え去ってゆく。

もうあの魔女の攻撃では、私の生み出すバリアは破れない。……いや、多分、誰も破れないんだと思う。


“全てを守れるほど強くなりたい。”


……言葉にできるほど具体的な事を経たわけじゃないけど、その願いがそのまま叶ってしまっている気がするんだ。


私に守れないものはない。誰が傷つくこともない。今の私にはそれが可能なのだと、本能的にわかっている。


さやか「シッ」


フェルマータの下位の下位。大剣に魔力を乗せて、横振りで払うだけの名もない技。


磔刑「ビ、ギィ……」


見えざる魔力の衝撃波が魔女の頭部を鈍く打ち砕き、残された本体も首の後を追うようにして崩れて消え去った。


……強敵のはずだったのに、あっけない最期だ。

もちろん数分前の自分には扱いようのない技だとはわかっているけど、こう日常の動作のように簡単に出来てしまうと、すこし切ない。


さやか「……」


だけど強大な力はまだまだ溢れてくる。次から次へと間欠泉のように、際限なく。

この世界に存在させておくには、発散させておかなければ危険なことがおこりそうだと錯覚するほどに大きな力だ。

ワルプルギスの夜を地面に磔て嬲っている杏子を見るに、彼女も力を持て余しているのだろう。


今までは魔力を温存する戦い方に苦心していたのに、なんということだろうね。


さやか「……悪くはないけどね」


大剣を空へ振る。剣から迸った青い輝きは、宙に散らばり、空気中へと溶けこんでゆく。


さやか「こういう大味な大盤振る舞いも、時にはいい事だと思う」

消耗気にしなくていいのはいいよね


マミ「……!」


地上のマミさんは真っ先に異変に気付いたようだ。

巻いたリボンを取り払い、自分の脚を確認している。


杏子「おお」


次は杏子。彼女も気づきやすい方だろう。

無意識に見ていた景色がより鮮明に、元通り鮮やかになるのだから。


ほむら「ちょっと巴さ……あれ、これって……」


そしてしばらくして、ほむらも体の変化に気づいたらしい。


ちょっとした擦り傷も、切断された脚も、消えてなくなった首でさえも。

今この時、私の力が及ぶ範囲にいる人の全ての傷は消え去った。


杏子「へっ、生き返った気分だ」


頭部が蘇った杏子は長い髪を束ね直し、固く固く結んだ。


さやか『やっちゃえ、杏子』

杏子『おう』

無敵じゃん

むしろこれくらいチートしないと勝てない

ヒーラー来た


一騎が宙に飛び上がり、ワルプルギスの歯車に着地した。

歯先の上でブンタツを華麗に翻し、構える。彼女が本物の杏子だろう。


杏子「お前は人を殺し過ぎた」

魔女「……アハハハ!アハハハハハハ!」


無重力、高重力、乱気流、あらゆる空間効果を発動させ、自分の周囲を振り回している。

力場に巻き込まれた建造物を基礎ごと砕いて、壁を割り、破片を操り敵へと投げる。恐ろしい攻撃だ。


普通の魔法少女なら空へ放り出され、無数の瓦礫に巻き込まれてすぐさま絶命する過酷な空間だろう。


杏子「そうやって何人も殺してきたんだな」


けど、杏子は微動だにしない。真の強さを手に入れた彼女には、どんな力場にも耐えることができるのだ。

時折鋭利な破片によってわずかに傷ついたとしても、傷は瞬時に塞がってしまう。


さやか「……」


そして空を舞う瓦礫達は、見えざる壁に阻まれる。

広域に展開されたバリアによって、どこへ飛散することも、こちらへ襲いかかることもできずに微塵になってゆく。


杏子「さあ、時間だ」


杏子が両手でブンタツを掲げる。

こうなってしまっては、ワルプルギスも無力なものだ。

最強の魔女の伝説もここで幕引きか。



杏子「神に祈れ」

魔女「……!」

杏子「アタシは赦してやらねーけどなァ!」



ブンタツが爆ぜるように燃え上がり、高層ビルほどの高さまで火柱が上がった。

炎の塊は下から暗雲を照らし、どす黒い赤の雲は、地獄の光景を見ているかのような禍々しさだった。


地獄。そんなものがあるとしたら多分、そこがワルプルギスの行く末なのだろう。

さやかのバリアで敵を閉じ込めたらどうなるの?っと


|バリア| (∀・* ))) ドレドレ


||バリア| 三((( *・・∀・)バシーン



|バリア| (・∀・* )フム |バリア|


||バリア|三(((*・・∀・・*)))三|バリア|| ミミミミミミッ

というかむしろ魔女って結末自体が地獄だよな
魔法少女は全員地獄行きから逃れられない


煉獄。消えない炎がワルプルギスを焼く。

破壊と再生を急速に繰り返し続け、ワルプルギスの夜はそのエネルギーを使い果たしてしまった。


魔女「アハハ……ハ……」


炎に焼かれ朽ち果てる。最悪の魔女には、なんともお似合いな結末だ。


マミ「……倒した?」

ほむら「……」


紅い炎は焼き尽くしてしまうと、役目を終えたことを理解したようにすぐに消え去った。

そこには何も残っていない。時間が停止していないにも関わらず、ワルプルギスの夜が復活する兆しもない。


杏子「……終わった」


コンクリートの地面が赤く焼け、中心部には杏子だけが立っていた。

ワルプルギスの夜を失ったためか、操っていた白馬の使い魔も消え去っている。


杏子「終わりました、煤子さん」


魔法少女たちが、数百年に渡って繰り広げてきた死闘は、ようやく終わったのだ。


さやか「……ありがとうございます」


空に残った旋風が解け、暗雲が晴れてゆく。

魔法少女達の夜は明けた。

地獄の定義にもよると思うが
自分のエゴで世界の理を曲げた奴がまともな死に方するはずない
まあ一回死んでるが


遂にこの日を越えたのか


マミ「……雨?」


晴れた空から、暗い雨粒がやってくるのが見えた。

まだ魔女の攻撃でも来るのかと、みんなは身構えている。


ほむら「いえ……」


けどそれは、警戒など無用なものだった。むしろ逆で、私達への癒やしと言ってもいい。

落ちてきたのは、雨のように降ってくる大量のグリーフシードだ。


杏子「……」


今まで倒してきた分の魔女の元が一気にグリーフシードへ還元され、地上へ落ちてきたのだ。

ワルプルギスの夜を撃破した報酬、ってところだろう。


さやか「これを使い切るのはいつになるやら」


落ちてくるシードのうちの一つをキャッチして、掌の上でまじまじと見つめる。

負の力が完全に浄化されたグリーフシードは濁りひとつない。


さやか「……」


魔法少女にとっては魔力を回復してくれる、命をかけてでも手に入れたい必須のアイテムだ。

けどそれと同時に、この石ころは私達の行く末でもある。


嵐の中に閉じ込められた魔女達の哀れな末路。

絶望を振りまくだけ振りまいて、最後には魔法少女の食事扱い。救われないものだ。


グリーフシードを握りしめる。

私はこの石の中に彼女らの思念が籠っていないことを、ただただ祈った。


「外、晴れてるらしいよ」

「もう? まだ避難指示解除されてないんじゃない?」

「でも外は全然そんな感じじゃないんだって」

「ほんとに……ちょっと見に行ってみましょ」

「うん、行こう」



QB「……」

まどか「……」

QB「……さやか達は、勝ったようだ」

まどか『うん、みたい、だね』

QB「まったく信じられない事が起こったよ。まったく予期していなかったことだ、あんな逆転劇になるとはね」

まどか『……さやかちゃんだもん』

QB「?」

まどか『だって、さやかちゃんだもん』

QB「なんだい、それは」

まどか『うぃひひ……親友だからこそわかることなんだよ、キュゥべえ』

QB「……」


QB「やれやれ……契約者を頻出してくれる、便利な魔女だったんだけどなぁ」


グリーフシード降って来たら刺さるな


有り余る魔力を用いて、私はゆっくりと黒い地上に降り立った。

着地とともに、鎧全身ががしゃりと音を立てる。


ほむら「……さやか?」


怪訝な表情でほむらが聞いてきた。

隣のマミさんも似たような顔だった。私が本当にさやかであるのか、疑うような……。


さやか「どう見たって私……ああ、そっか」


銀のヘルムのフェイス部分を魔力稼働で跳ね上げる。

魔法で透視していた視界よりもより鮮やかな、いつもの色彩のみんなが見えた。


さやか「フルアーマーさやかちゃんです」

ほむら「……何が起こったの?」

さやか「……」

ほむら「私は、嵐の中で……魔女の攻撃に引き裂かれたあなたを見たわ」

マミ「そして佐倉さんもね」


私が魔女にこっぴどくやられたのは覚えている。確かに、痛覚を切っていなかったら到底耐えられない、拷問のような死に際だったと思う。

だから見ていないけど……マミさんの口ぶりでは、その後に杏子もやられたのだろう。首が無かったのはそのせいか。


さやか「うん……確かに、一時は死にかけたよ。上半身消し飛んで、遠いところまで煽られて……だけど、ソウルジェムはギリギリで無事だったみたい」

ほむら「ソウルジェムが無事なら大丈夫なのは知ってるけど、だからってあの死傷から……信じられないわ」

さやか「……正直、私もね」

マミ「……あは、あはは……勝利の余韻に浸っている反面、戸惑いを隠せないわね」


緊張感は一気に抜けきらなかった。疲労感がどっと押し寄せてくることもない。どことなく微妙な、後味の勝利だ。

けど、私達は間違いなく強敵を打ち破った。それだけは確かなこと。


杏子「……よし」

さやか「終わった?」

杏子「ああ」


降ってきたグリーフシードを全て回収した杏子は、黒い大地の中央で祈りを捧げていた。

膝を折って手を組む仕草は、普段の乱暴な彼女からは全く想像できないものだった。


祈る先はグリーフシード……かと思いきや、自前のアンクである。


マミ「佐倉さんも無事だったのね……良かった」

杏子「まあな」


膝についた灰を払って、杏子がこちらに向く。

ワルプルギスを撃破した張本人である彼女の表情は、晴れても沈んでもいない。無表情だ。

……私と同じで、まだ整理がついていないのだろう。思考も、感情にも。


ほむら「あなたも生き返ったのね」

杏子「……おかげさまでね」

ほむら「?」

杏子「なんでもない」

これで一応の終わり…なのか……?


杏子「一時的にだけど、神様が奇跡をくれたんだよ」

ほむら「え?」


神様ね。私は思わずクスリと笑った。面白かったわけではない。その通りかも、彼女に共感したのだ。

これまでの私の人生、そして夢を叶えてくれた奇跡。神様、その通りと言う他ない。


杏子「しかしこの奇跡も、一度きりみたいだ……さっきこそ大暴れしたけどさ、もう底から漲るようなパワーが出てこないよ」

さやか「あー……確かに、そう言われてみれば、よ、鎧が重く……」

杏子「解除しときなよ、知らないうちに魔力を食ってるかもしんねーぞ」

さやか「そ、そうしておこうかな」


全身を包む鎧を解除し、剣も消滅させる。

体は元通り、普通の魔法少女の姿に戻った。

……再び先程までの姿には、なれそうもない。


ほむら「奇跡、か……二人共、力を願ったからかしらね」

マミ「強さを求める心が、力を呼び覚ました? ふふ、強引だけど、ロマンがあって良いわね」

杏子「へ、かもね」


そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。


さやか「……」


けど手に入れた新たな能力は、私は癒やしの力で、杏子は惑わしの力だ。


私の願いも杏子の願いも、同じ力の願い。

単純な私達の願いを強化した奇跡なのだとすると、癒やしならそれに多少の説明は付くものの、幻影や幻惑の理由を説明するにはちょっと不十分なように感じる。


あの奇跡はもっと別の……例えば、別の何者かの願いなんじゃないかな、と思ってしまうのだ。

私達の意志とは別の何か……。


さやか(“この世界の因果と、私の因果”……因果、か)


暁美ほむら、煤子、時間遡行、平行世界、因果……。

護りの力……癒やしの力……美樹さやか。

美樹さやかと癒やしの力、か。



さやか「……ほむら」

ほむら「? え、なに、ちょ……」


私はほむらを優しく抱きしめた。


さやか「よく頑張ったよ、今まで……今まで本当によく頑張ったよ」

ほむら「……」


全ては、地獄のような時を何度も繰り返し、挑戦してきた一人の少女の願いが始まりだったのだ。

何度も何度も戦い続け、決して挫けることなく戦い続けてきた彼女の、最初の強い願いが、この時を呼び寄せたのだ。


さやか「ほむらがいるから、今この時があるんだろうね」

ほむら「……」

さやか「……お疲れ様、ありがとう、ほむら」

ほむら「……!」



嵐は過ぎ去った。快晴を見上げた人たちは、段々と街へ戻ってくるだろう。

ここもそう長くは居られたものではない。


だけど暫くの間だけ、ほむらは周囲を気にすることなく泣いた。

努力が報われ、願いが叶ったことを理解して、堰を切ったように嗚咽し続けた。


-=◎=-



此岸「おめでとう……お疲れ様、よく頑張ったわね」

此岸「本当にみんな、よく頑張ったわ」


此岸「これでもう、私は思い残すこともない」

此岸「……だってそうでしょう、私の願いが叶ったのだもの」

此岸「完成されたこの世界に何を望むというのかしら」


此岸「繰り返すことは、これでおしまい」

此岸「これで私は満足だわ」


此岸「……最高のゲームオーバーよ、ありがとう」


------



(((黒子*・∀)っ[fin] ~♪



(黒子;・∀=(ヾ(∀・# 黒子) ベシッ

おわっ・・た・・・?まだ何かあるのか



後はエピローグ?

おい…なんでホムリリィがいる?


次回作はよ
>>406
煤子の成れの果てじゃねーの

とりあえず乙。前作共々楽しませて貰いました
次回作も期待


見滝原の被害は、極大のスーパーセル到来にもかかわらず、かなり小規模な被害で済んでいた。

衰えることなく突き進むであろう気象予測とは裏腹に、スーパーセルは早い段階で消滅してしまったのだ。

観測所の誤探知、誤報、統計の誤り……。

……まあ逆に色々と風当たりが強くなった所もあったみたいだけど、局所的に残っているとてつもない風害の傷跡は、観測所の人々の首の皮をなんとか繋げたようだ。


しかしそんなことよりも驚くべきは、今回の災害による死傷者と負傷者の数だ。

局所的な被害であったとはいえ、避難に遅れた人々はゼロではない。少なからず巻き込まれ、何百人と犠牲が出たはずである。

が、それも極端に少なかった。


理由は……不明。

気味の悪いことに、強風によって瓦礫の下敷きになった人や、飛来した物にぶつかって怪我をした人たちの傷が、ほぼ完全に癒えてしまっているというのだ。


ある人は、こうだ。

家屋の下敷きになり、身動きが取れず出血だけが続き、絶望の中で意識を手放した人がいた。

だけどその人が目を覚ましてみれば、破れた服と血溜まりがあっただけで、自分は一切の傷を負っていなかったのだという。


……いやあ、恐ろしい話もあったもんだよね。こわいこわい。

まんじゅうこわい


見滝原は未曾有……であろうはずの大災害から難を逃れた。

街は風でちょっと荒れていたものの、それもすぐに元に戻るだろう。

数日の休みがあったものの、学校もすぐに始まるらしい。

良かった良かった。


……と、他人事だけど、実は今日がその嵐明けの登校初日。


さやか「……ふんふんふーん」


いつもの登校風景。いつもの青空。

見慣れた道を歩いてゆけば、いつもの場所に彼女たちがいる。


まどか「さやかちゃーん!」

仁美「さやかさん、おはようございます」

ほむら「おはよう」

さやか「おー、おっはよー!」


QB「きゅっぷい」

さやか『おお、キュゥべえもいたか、おはよ』

QB「うん、もちろんだよ」


キュゥべえは特に悪びれもせず、当然のようにまどかの肩に乗っていた。

……まぁ、これからも折にふれてキュゥべえが茶々を入れてくるだろうけど、ワルプルギスの夜を乗り越えたまどかにはそんな手も通用しないだろう。

心配は無用だ。


ほむら「……」

QB「睨まないでよ」


ほむらの目は相変わらず、そうは言ってないけど。


QB「ところでさやか、杏子について話を聞いているかい?」

さやか『え? 杏子?』

QB「うん、彼女はしばらくこの付近からも姿を消すらしいんだ」

さやか『えっ』

まどか『え?』


それは初耳だ。

っていうか、え?なんで?


QB「理由は聞いてみたけど、僕には意味がわからなかったよ」

さやか『なんて言ってたのよ、せっかく平和が戻ってきたっていうのに、復学もしないであいつは……』

QB「さあね、元々何を考えているのかわからない魔法少女だし……ええとね」


QB「“煤子さんはまだ消えずに、この世を彷徨っているのかもしれない”」

さやか「……」

QB「“煤子さんを探しにいってくる”」

さやか「……」

QB「そう言って、たくさんのグリーフシードと一緒に旅に出た。グリーフシードは有り余るほどあるからね、実力もあるし心配はいらないけど」

まどか『……煤子さんって、さやかちゃんの、あの?』

さやか「うん、だね……そうか」


彼女は魔女になった煤子さんを探しに行ったのか。

……確かに、煤子さんの魔女を倒した記憶はない。ワルプルギスと一緒に消滅した……っていう可能性があるかといえば、なさそうだ。


まだ魔女としてどこかにいるかもしれない。その読みは現実的だ。


ほむら『……煤子、ね』

さやか「……」

QB「さやかも彼女に心酔しているんだろう? 君はどうする? 杏子と同じで、煤子っていう人を探しにいくのかい?」

まどか『え? さやかちゃんも旅に出ちゃうの?』


煤子さん。私にとってかけがえのない恩人。

とても大切な人。また、一度でもいいから会いたい人……。


さやか『ううん、私は行かないよ』

QB「そう? 意外だな」

さやか『でも、探すのを無駄なこととは思わない。正直杏子と一緒に探しに行きたいよ。意義のあることだと思う……けど』


私の横を歩くほむらを見る。


さやか『多分、煤子さんはなんてことのない、こんな平穏な日々を望んでいるから』

ほむら『……』

さやか『私はその中で、生きていくつもりだよ。ずっと』


そう、私はこんな日々を守っていきたい。

まどかを守り、ほむらを守る。二人の日常を守っていくために、私はここで生きていきたい。


それは煤子さんが望む願いでもあったのだと思う。


ほむら『そう、それでいいのね?』

さやか『うん、もちろん』


私はほむらに微笑みかけた。ほむらも、薄く口元で笑い返してくれた。


仁美「い、いけませんわ……」

ほむら「え?」


こんな日々を送って行こう。


マミ『おはよ』

まどか『あっ、マミさん! おはようございます!』

ほむら『おはよう』

さやか『おはようございまーす!』


これから再び魔法少女として、見滝原を守っていこう。

ワルプルギスの夜を倒しても、この世から魔女が消え去ったわけではない。

私はまだまだ、戦い続けなくてはならない。


この手の届く限りに、人々全てを守っていこう。

かけがえのない笑顔を守るために、絶望に悲しませないために。

日常を守り抜くために。



とん、とん。


さやか「ん?」



しかしその日常の前に、ちょっとした非日常的な出来事が待っていた。



私の右腕を、一冊の本が小突く。

本の表紙には管楽器の文字がある。


恭介「さやか、おはよう。早速だけどこれ返すよ。新鮮で面白かったよ、ありがとう」

さやか「恭介、おは……あれ?」


恭介は左手に持った本を私に差し出している。


まどか「あ、上条くんおは、よう……?」

仁美「……? あ、あれ?」

さやか「……恭介、その左手……」


杖もつかず、ニ本の脚で私達と並んで歩く彼の姿。

腕にはギプスもなく、元気に手まで振っている。


恭介は左手に持った本を軽く掲げて言った。


恭介「完治、だってさ」

さやか「……うそっ」

恭介「本当」

さやか「……マジで?」



それは、よく晴れた日の出来事だった。


(∀×* メメ(黒子*・∀・)っ[fin] +

乙!

乙すぐる
綺麗に締めたな

乙乙

面白かったです

乙!

長い間追っていてよかった

からの?

乙!
綺麗に完結してよかった
此岸のところはうぴーの乙一の題材ぽくて良いね
肉まんの複数ほむら物はどちらも大好物だったので、次回作も楽しみに待ってます

強要してるみたいになってしまった
ええテンション上がってるんです
お疲れ様でした!!!

さやかああああああああああああ!!!
思いがけないところで最後に一発うわあああさやかああああああああああうわあああああ!!!!!!!
乙でした!!

上条にまさかの副作用がwwww
ラストバトルは熱い物見せてもらった

(*(仮面) 実は今まで秘密にしていた事がアルノヨ…

実は餡まんだったとか?

(*・∀・*)っ(仮面) 私、実は肉まんだったノヨ!!

乙乙
ジェミニの人だと思ってたよー(棒)
また何か書いてね

>>422
三行目ヤメテ


いい読み物をありがとう


楽しかったよー

乙でした
ラストそう来るとは思わなかったよGJ

前スレ始まってから1年1ヶ月、長かったけど綺麗に終わってよかった。

盛大に乙!
ゾクゾクさせられたぜ!


( *・∀・)φ バトルものが書けて満足ダワ


(*・∀・)φ オチビモ カキタイ

肉まんだって!?(棒)

おおっ!すでに次回作の構想が。楽しみにしてます。

乙でした。


(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ


魔法少女にくま☆ほむら


(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ



(*・∀・)φ 本編はじまるワヨ


ほむら(……)

ほむら(……また、この病院からなのね……)


ほむら(もう何度、同じ時間を繰り返しただろう……何度戦っても、まどかを救えない……)

ほむら(段々と戦い方は身についてきている、はずなのに……どうしても勝てない……!)


ほむら(もっと他に協力者が必要なのかしら……?)

ほむら(杏子に頼ったループでは、かなりいいところまでいけたわ)

(花瓶)*・∀・)……


ほむら(なら今回は新たな魔法少女を探しながら、その人にも協力してもらう形で……)

(花瓶)*・∀・)……


ほむら「……」

(花瓶)*・∀・)……


ほむら「え……ええっ!?」

(花瓶) ヾ(・∀・* ) カカレー!


三(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ ワアアアアア!!


ほむら「ちょ、な、なに、お、重……!」ギュムギュム

なんかはじまった



和子「中沢くん!」

中沢「は、はい!」

和子「目玉焼きには」

中沢「“どちらでもいい”、ですよね? 先生」

和子「問題文を読む前に答えるな、マイナス40点」

中沢「」

さやか「わかる」


和子「……さて、それはさておきまして、今日はこのクラスの新しいお友達を紹介しますね」

まどか「新しいお友達? 転校生ってこと?」

さやか「おお、一大イベントですなぁ!」

まどか「できれば冒頭でやってほしかったよね」

さやか「あはは、まぁね」


和子「じゃあ暁美さん、中へどうぞ」

「ハーイ」

さやか(あれ?なんかやたら高い声)


ガラララララ


(・∀・* ))) フニフニ


まどか「」

さやか「」


和子「えー……」ヒョイ

つノシ*・∀・)ノシ キャー


和子「この子が新しくこのクラスに編入することになりました、えっと……」

つ*・∀・)ノ 暁美ほむらヨ!


さやか(え……なにあれ、……なにあれ……)

まどか(夢で見たことない)


和子「心臓の病気で長い間入院していたけど、具合が良くなったので復学されることになりました、仲良くしてあげてくださいね」

つ*・∀・)っ ソユコトヨ

さやか(心臓!?)

まどか(入院!?)


「暁美さんどこの学校から来たの?」

( *・∀)っ 長崎の調理系ヨ


「綺麗な髪ー、シャンプーなに使ってるの?」

( *・∀・)っ メタミドホス


「ね、ねえなんか暁美さんって中華ま」

( *・∀・)つ(ボゴッ 「ぐふッ」



さやか「……なんか、個性的な……生き物が転校してきたね……」

まどか「……なんで溶け込めてるんだろう……」


(*・∀・*)チラリ


まどか(うわっ、こっち見た)


(((( *・∀・)フニフニ


まどか(こっち来た)


( *・∀・)貴女……保健係ヨネ?

まどか「は……はい」

さやか(敬語かい)


(*・∀・*)具合が悪いから、ちょっと保健室に連れて行ってもらえないカシラ

まどか「えっ……」

(*・∀・*)……

まどか「……どこらへんが……?」

(*・∀・*)……


( *・∀・)……心臓の辺りが

さやか(考えて言った)


和子「鹿目さん、保健係よね? ちょっと連れて行ってもらえる?」

まどか(逃げられない……)


( *・∀・)ねえマドカ……

まどか「な……何?」


(*・∀・*)貴女……肉まんとあんまんだったらどっちがスキ?

まどか「……」


まどか「……?」


( *・∀・)あなたは優しスギル……

まどか(……意味がわからないよ……あと頭の上でほかほかあっついよ……)



先生「じゃあこの問題を……暁美」

(*・∀・*)っ マカセテ!

先生「うむ、良い返事だ」


(  *・∀)φ+ [小麦粉+お湯+挽き肉]

先生「うん、廊下で立っていよう」

まどか「……」




先生「よーーーい……」ピーッ


「はっ、はっ、はっ……」

「はっ、ふぅっ」


フニフニフニ フニフニ


(((( ;・∀)ヒィヒィ


さやか(遅い)

まどか(動けるだけでもすごいんだけどね)



( * ∀ )グデーン……


仁美「で、結局このモールまで連れてきてしまったのですね」

まどか「うん……放課後もずっとこんな感じだったし、そのままにしておくと……」

仁美「しておくと?」

まどか「……たかられそうで」

仁美「あらあら」

さやか「なんかよくわからない転校生がきちゃったね」

まどか「うん……」ツンツン

っ)=∀-*)ミュイ

まどか「やらかい」

はい解散、と思ったけど意外とおもしろので支援 にくま☆ほむら


(* ∀ )オチビ ネンリョウギレ

きれいに締まってて本当に乙です


って書こうと思ったらなんか始まってた

(*・∀・*)っ おちびは力尽きたし、なにかこのSSで疑問なところがあれば答えるワ

ボスラッシュのボスのイメージは炎、水、剣、処刑(死因)で良いのかな?
何か別にモチーフあるの?

(*・∀・*)炎、水、剣、死って感じ

( *・∀・)っ ワルプルギスが魔女たちを勝手にクラス分けしてるようなイメージネ

マミにだけは影響与えられなかったのは単に戻れる時間の限界?

(*・∀・*)っ 説明不足を後書きで補うのは力不足の露呈だけど答えるワネ

(*・∀・*)マミに影響を与えられなかったのは、当時のマミが少しの欠けもない完璧な幸せの中にあって、手を出す事が憚られたからヨ

(*・∀・*)っ それに、長い間先輩として、街を守る魔法少女としての行動に大きな変化があると、後の未来に大きな誤算が生じるかもという懸念もあったノヨ

ありがとう。
もう一つ多分登場魔女最多SS間違いなしだけど、お気に入りの魔女1人と名前の由来(ネタ)ってあれば教えて。

磔刑がなんか可愛かったけど、ルチャの魔女がなんか斜め上過ぎて印象に残ったな。

恭介とさやかのお互いの好感度ってどうなってるんだ?

さやかが恭介に恋愛感情抱いてるか結構微妙なラインだとおもったんだが

(*・∀・*)魔女は沢山出したけど、あまりに多いし自分で考えるのも面倒臭いから、ほとんど人名辞典サイトみたいなところから引っ張ってきたワ

( *・∀・)っ 剣系の魔女は長くてかっこいいものにしたけどネ

(*・∀・*)ルチャの魔女ジェミーポルクスは、まぁ元ネタがわかりやすいと思うワ

(*・∀・*)個人的なお気に入り魔女は、反旗の魔女かしらネ

( *・∀)ほむらの時間停止から何やらまで、活躍してくれたワ

(*・∀・*)さやかと恭介の恋愛感情については語らないワ

(*ノ∀・*)ゞ 野暮ってもんヨ!

遅ればせながら乙!

煤子はさやかや杏子に施したように
因果の力を自分のものには出来なかったのかな
此岸の魔女の能力or文字通りの奇跡ってことかい?

奇跡も、魔法も、あったんだねさやかちゃん!!!!!

(*・∀・*)っ 此岸の魔女についてはあまり語らないけど、煤子は因果の砂の利用価値をある程度熟知していたってことネ

(*・∀・*)盾を壊して戦闘能力を失った煤子には、自分では砂を運用という自覚があったのヨ

(*・∀・*)まんま奇跡かといえば、そういう点ではかなり疑問ネ

(*・∀・*)マンマン

おちびの燃料に何を捧げたら続きがはじまるの?

(* ∀ )ヾ(・∀・* )

(* ∀ )ヾ(*・∀・*) 死んでる

つ【メガザル】

野暮だけど、一日の執筆時間ってどれくらいでしたか?

(*・∀・*)執筆時間はだいたい1レスに10分か20分くらいネ

( *ノ∀・)気が向いた時に書き込むようにしてたワ

(*・∀・*)でも予想よりちょっと時間がかかっちゃったワネ

とりあえず叛逆公開前に終わってよかったな。
楽しませて貰ったよ乙乙

何度もごめん。いちおう書きためてるんで聞きたいんだけど、SSってどう書いてる?

何というか大まかなアイデアとか着地点があってそれに沿う形で投稿してるのかな?それとも即興なんだろうか?
俺の参考にはならないだろうけど、もし良かったらこのSSを思いついた切っ掛けとかどこで詰まったとか教えて欲しい。

(∀=*( *・∀・)このSSの場合は、とにかくバトルするものを書きたかったのと、あとは魔女化したっぽい姿の魔法少女(半魔女化ではない)を戦わせたかったっていうのがアルワネ

(∀=*( *・∀・)っ だからおおまかなアイデアを決めて、それに向けて固めていく即興のようなものだと思ってくれればイイワヨ


(∀=*ヾ(・∀・* )きっかけは忘れたワネ 書きたかったから書き始めたワ

( *・∀・* )詰まった所はとにかくソウルジェムに関する話が出る所ネ、魔法少女についてくどい説明をしなきゃいけないのは面倒臭いワ

>>462
>盾を壊して戦闘能力を~

→鋼拳少女すすこ☆マギいやなんでもない

回答ありがとう。

杏子ちゃんオフィーリアフォームは予想の斜め上の遥か上だった。髪飾りの火が伏線になってるって普通は思わんわ。

ほんとに面白かったです。気が早いけど次回作も頑張って下さい。


(*・∀・*)HTML化依頼を出してきたワ


|扉| *))) ~♪

乙!
次は何をかくのか楽しみでしょうがないな


長かったが無事終わってなにより 毎日楽しみにしてた

乙です

最初から追い続けてましたが大団円を迎えて良かったです

つまんね

他に何を書いてますか?

正直言うとこういうチート改造系の設定はあまり好きじゃないんだがそれでも楽しめた
乙でした

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