春香「1:50am」 (17)
眠れない夜って、誰にでもあると思うんです。
私にとって、それは今日なわけなんですけど。
そういう時って、ちょっとおかしな気分になりませんか?
夜にテンションが上がるような、眠れない焦りなような。
……あー、明日の昼前にお仕事が入ってるんだよなぁ。
昼前だから大丈夫かな、という考えと、どうしようという焦り。
そんなプラスとマイナスの混ざり合った少しマイナス寄りの夜は、寂しくなるんです。
「……」
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携帯画面に表示されている時計は、1時50分と教えてくれます。
草木も眠る丑三つ時……ってアレまで、あと10分しかないんだなぁ。
さすがにこんな時間は、誰かにメールしたり電話をするのも憚られますよね。
もしぐっすり寝ている私に、夜更けに電話やメールが来たら……。
多分、見ないふりしちゃいます。
だから、自分からは勇気を出してメールが出来ませんでした。
『起きている? 夜遅くにごめんなさい』
千早ちゃんから送られてきた文字への返信に、指が踊ります。
『うん、起きてるよ。丁度眠れなくて』
送信完了の文字を見てフタをパチンと閉めても、またなんとなく開けて画面を見てしまって。
ショートメールに収まるような会話だけれど、心地よくて。
「えへへ……」
携帯を握りしめて、笑顔がこぼれちゃうんです。
ブーッ ブーッ
『それなら、良かった。少し相談したいことがあって』
「……なんだろう?」
早くメッセージを返さなきゃ、ってちょっと焦って。
変換ミスをした部分を消して、書きなおして。
『どうしたの?』
『春香は、もし好きな人に向けて歌を歌うとしたら……何を頭の中に思い浮かべる?』
また、難しい相談だね。
千早ちゃんの新曲は恋の歌なのかなぁ。
いろいろなことを想像しながら、返信を打ち込みます。
『私は、その人の笑顔を思い浮かべるよ』
実践していることは内緒だけど。
携帯の震えで、フタを開いて。
『笑顔……私には、まだよく分からないの』
千早ちゃんの困り顔が目に見えるようでした。
『特定の誰かがいれば、いいのだけれど』
特定の誰か、かぁ。
「……それなら」
『それじゃあ、特定の誰かを私にして見るのはどうかな?』
……返信が帰ってこないなぁ。
もしかして、ひかれちゃったかな。
私の笑顔を思い浮かべて恋の歌を歌って、って言っているようなものだから。
「はぁ……」
ブーッ ブーッ
「っ!」カチャッ
『春香なら、思い浮かべやすいわね』
思ったより短い返答だったな。
書く内容に迷っていたのかな。
『突然変なことを言っちゃってゴメン! なんとなく、返信が遅いから……』
千早ちゃんは優しいから、私が傷つかないように言葉を選んでくれているはず。
すぐに返答が返ってきた。
『少し、照れていただけ』
照れた、って……。
私を思い浮かべたからかな?
『どうして照れたの?』
と、聞いてみます。
ちょっと意地悪かも、私。
『春香の笑顔を思い出しながら、歌おうと思ったの』
それで、照れちゃったのか。
千早ちゃん、かわいいやつめ。
『ちょっとでも役に立てばいいな』
千早ちゃんが「好きな人のための歌」を、歌うために。
『おかげでいい歌に出来そう。本当にありがとう。おやすみなさい』
千早ちゃんから来た最後の文章は、淡々としたものでした。
それがいつもの彼女だし、みんなの前で笑う千早ちゃん。
私はゆっくりと返信を送るのです。
『もう夜も遅いから、早く寝たほうがいいよ! おやすみなさい』
「……ふぅ」
最近、忙しい仕事のおかげであまり千早ちゃんと話す時間がなかったりするんです。
だから今日はその分、メールだけれどそれなりに会話ができました。
『そうね、おやすみなさい。春香に逢いたいわ』
千早ちゃんに「逢いたい」と言われるなんて。
『私も逢いたいなぁ』
私の思いが、千早ちゃんへと伝わっていく。
「ふわぁ……」
丁度いい眠気がやってきた。携帯液晶の時計は、2時40分を指している。
そろそろ寝なきゃ。
ブーッ! ブーッ!
「ん?」
『いつか絶対に会えるから。その時を楽しみに待ってるわ』
……うん、そうだよね。
2人でゆっくりと逢える日が来ることが、本当に楽しみです。
私は携帯電話を持ったまま、眠りの世界へと誘われていった。
夜の雰囲気っていいですね。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
おつ
良い夢を見れそうだ。
乙
この雰囲気好きだ
はるちはも好きだ
おつ
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