勇者に痛恨の一撃!
勇者「ぐあっ!」
戦士「バカ、下がってろ!」
魔法使い「ほい、いくぞ、極大火炎呪文」
ごおっ!
僧侶「勇者様、回復しますから!」
勇者「ご、ごめん」
戦士「このおっ!」
戦士の会心の一撃!
魔物を退治した。
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戦士「ふー、さすがにここまで来ると魔物も強力だな」
魔法使い「ジジイの身には堪えるのう」
僧侶「魔法使いさんも回復しましょうか?」
魔法使い「わしは柔らかい物を触れば回復するから大丈夫じゃ」サワッ
戦士「うひゃあ!」
魔法使い「うひゃひゃ、お前さんは固かったかな」
戦士「おい、ジジイ……」
勇者「……」
僧侶「勇者様、大丈夫ですか?」
勇者「い、いや、ありがとう」
戦士「勇者、そろそろ陽も暮れる。街はまだか?」
勇者「地図通りには来ているんだが、何しろ人の通行が少ないからなぁ」
僧侶「あ、あれは、街の灯りじゃないでしょうか?」
魔法使い「おお、ようやく街かい。かわいい女の子がいるとええのう」
戦士「おい、ジジイ」
魔法使い「別にお前さん方をdisってるわけじゃないぞ? それぞれの街の、それぞれのかわいい女の子を愛でるのがいいんじゃ」
勇者「……」
僧侶「勇者様、本当に大丈夫ですか?」
勇者「……大丈夫だよ!」
戦士「勇者、さすがに街が近いんだ。もう魔物の襲撃もないんだろうから、私が持つよ」
勇者「いや、お、俺がリーダーだからな。荷物の管理は俺に任せろ」グイッ
勇者「ととっ……」ふら
戦士「バカ。半分、いや三分の、いや、六分の一くらい持つ、街についたら整理しよう」
勇者「あー、すまん」
宿屋。
勇者「ふあー、ようやく安心できるなぁ」
僧侶「王様に挨拶しなくてよろしかったのでしょうか」
戦士「こんな夕暮れに門を開けてはくれないよ」
魔法使い「そのとおりじゃ。かえって迷惑、その上、ここの国王は何かにつけて冒険者にいちゃもんをつける」
魔法使い「んで、女の冒険者にはエロいことをふっかけてるというけしからんやつじゃ」
戦・僧「……」ジーッ
魔法使い「明日の訪問も、わしと勇者で行った方がよいじゃろ」
勇者「……」
魔法使い「ということじゃ、勇者」
勇者「お、おう!? そうだなじいさん、ちょっと酒場繰り出すか!」
戦士「おい、勇者!」
勇者「あ!? いや、しまった」
魔法使い「勇者のおごりなら仕方あるまいて」ドッコイショ
勇者「誰もおごりとは言ってねぇ」
僧侶「ふ、不潔ですよ!」
勇者「酒場に行くののどこが不潔なんですかー」
戦士「ち……どうせじじいと行くってこた、買春だろ」
魔法使い「ちょっとエッチなダンスショーを見に行くだけじゃ」
戦士「同じだろうが!」
勇者「俺は酒飲みに行くだけだし」
僧侶「ついて早々、そのような振る舞い、神もお嘆きですよ!」
魔法使い「飲酒で嘆く神様はおらんよ。ほいじゃ、行こうぞ勇者」
勇者「へいへい」
僧侶「もう、お二人とも!」
勇者「飯は適当に食っとけよ!」
戦士「うるさい、バカども!」
外。
勇者「……あ」
魔法使い「どうしたんじゃ」
勇者「財布忘れちまった、取りに戻る」
魔法使い「またかい。んじゃ、わしは一人で行ってくるぞ」
勇者「わりーな、じいさん」
魔法使い「ツケにしておくから、明日支払っといてくれよ」
勇者「おい、俺もあとで行くよ」
魔法使い「まあまあ、ジジイと飲むより、別々に若いねえちゃんと飲んだ方が酒もうまいじゃろ」
勇者「ツケが嫌なんだよ! いくら飲んだかも覚えてないくせに!」
魔法使い「呪文の詠唱は忘れとらんじゃろ」
勇者「うるせえジジイ」
魔法使い「ひょひょひょ」スタタ
勇者「……」
勇者「はぁ……」
勇者「あっちも気を使ってんだろな」
勇者「まあ、俺も、一人で飲みたいし……」
勇者「はぁ……」
勇者「くそっ、もう魔王の居城も近いっていうのに」
勇者「……」
勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」
勇者「剣の腕は戦士に劣るし……」
勇者「魔法使いほどの高威力の魔法も使えない」
勇者「回復役の僧侶さんの方が、腕力がある始末だ……」
勇者「あー……」
勇者「飲むか」
酒場。
マスター「いらっしゃい」
勇者「安くてうまいの」
マスター「……ちっ」
勇者「明日も来るから」
マスター「うちは女の子とかはいないよ」
勇者「へいへい」
ぎゃははは……
勇者「……の割に騒がしいな」
マスター「冒険者が増えてきたからな」
勇者「……」
マスター「勇者ってのもいるらしいな」
勇者「みたいだな」
武闘家「でよー、俺が殴ったら一発だよ!」
戦士(男)「またその話かよ、どうせ鉄の爪を持ってましたってオチだろ?」
武闘家「うるせーよ」
どはははは……
勇者(うぜぇ……)
商人「それにしても、最近、勇者とやらが各地で武功を立てているようですな」
男戦士「あれだろ? 王家の冠を取り返したり」
武闘家「媚がうまいだけの雑魚だな、きっと!」
勇者「……」
商人「なんでも、父親も勇者で、各地の魔物を退治していたとか」
男戦士「ほれみろ、七光りだ」
武闘家「血筋って得だよな~、俺なんかど田舎だから、兵士の試験もダメでよう」
男戦士「それはお前が馬鹿だからだろ!」
武闘家「うるせーよ」
商人「まあまあ、お二人とも、パーティーにはかかせない仲間なんですし」
男戦士「お前はお世辞がうまいよな」
武闘家「うるせーよ」
男戦士「お前には言ってねぇよ」
だはははは……
勇者「……」
勇者「おやじ、お勘定」
マスター「もうかい」
勇者「ああ。昼もやってる?」
マスター「一応な」
勇者「明日、仲間と昼飯でも食いに来る」
マスター「……ま、いいだろ」
勇者「客商売なんだから、愛想よくしたら?」
マスター「一本頼んでから言ってくれ」
勇者「へいへい」
きぃ。
勇者「……」
勇者「……はぁ」
翌日。
国王「よくぞ、来た! 勇者よ!」
勇者「はい」
国王「お前の噂は聞いておる。お前の父親とも、わしは面識があるぞ」
勇者「それはどうも」
国王「……父親に比べると、ちと頼りないように見えるな」
勇者「仲間がいますんで」
魔法使い「うひひ、そういうことじゃよ、国王」
国王「う、お前は」
魔法使い「あまり無体なことをするでないぞぉ」
国王「わ、わかった。わかったから」
勇者「……あのう」
国王「う、うむ! この国は魔王の居城も近い。が、その分、兵の練度もなかなかのものだ」
国王「もしよければ、武器を整えたり、あるいは兵たちと手合わせをしていくがよい!」
国王「城の宝物は勝手に持って行くでないぞ」
勇者「はあ。どうも」
城内。
勇者「……知り合いか?」
魔法使い「若い頃も冒険しとったからな、わし」
勇者「年食っても冒険して、よくやるよ」
魔法使い「村で女の子と遊んでいたら、蓄えが尽きちまってのう」
勇者「……」
戦士「お。挨拶は終わったのか」
勇者「セクハラはされなかったよ」
僧侶「あ、当たり前です!」
戦士「それで、なんか無茶ぶりはあったのか?」
勇者「いいや、武器でも買ってけ、兵士と手合わせでもしていけってさ」
戦士「ほほう」
勇者「……手合わせなんかしないからな」
戦士「ちょっと待て。なんでそうなる」
勇者「俺達の力は魔物を退治することに使われるべきで」
戦士「バカ! ここらで勇者のパーティーの名前をだな」
僧侶「そうですよ、勇者様! お忍びのように行動していては、人々に勇気を与えられません!」
僧侶「私たちの力を、時々で発揮せねば!」
魔法使い「ま、わしも不賛成じゃな。力自慢の娘っ子どもはともかく」
僧侶「高名な女性の魔法学者様もいらっしゃいますけど……」
魔法使い「魔法比べってのもできるんかいのう」
勇者「おい、ジジイ……」
勇者「と、とにかく、ダメだ」
戦士「……お前な」
勇者「お、お前一人でってわけにもいかないだろ」
魔法使い「勇者ちゃんはびびりなんじゃ」
僧侶「勇者様、勇気を出して!」
勇者「……俺の親父は、人間と他流試合をしている時に手加減しすぎて大怪我を……」
戦士「その嘘は前に聞いた」
勇者「そ、そうだったか?」
戦士「じゃあ、手合わせは私とジジイで行ってくるから。装備の整理をしにいってこい」
勇者「う、お」
魔法使い「僧侶ちゃんも行っておいで」
僧侶「お二人の活躍が見たいのですがー」
勇者「……」
僧侶「まあ、溜め込んだ装備品を換金する必要はありますね!!」
勇者「そ、そうだよな」
僧侶「それでは、勇者様、一度宿屋で荷物を受け取りましょう!」
勇者「ああ……お前ら! あまり無茶するなよ!」
戦士「わかってるよ」
魔法使い「うひゃひゃ」
タッタッタッ。
戦士「……やれやれ」
魔法使い「面倒なやつじゃのう」
武器屋。
武器屋「ふーむ。傷はあるが、なかなかいい素材だ」
勇者「だろ? 他所のやつらは、定価だ何だでケチつけてくるからよぉ」
武器屋「潰しても元が取れるな」
勇者「だろだろ? どうだ、他にも貴重なのはあるぜ! エルフが魔法でつくったやつとか」
武器屋「そういうのは俺のとこでは扱いづらいが……ま、知り合いの行商に流すこともできるしな」
勇者「!」
勇者「僧侶、武器屋ってそういうもんなの?」ヒソヒソ
僧侶「そういうものみたいですわね」ヒソヒソ
武器屋「おい?」
勇者「あ、ああ、ごめん」
武器屋「それにしても……」
武器屋「この数はすごいな」 どっちゃり
勇者「売り時がわからなかったからなぁ」
武器屋「少し時間がかかるがいいか? 俺もこの量の買い取りは初めてだから」
勇者「おう。その間に武器を見てるよ」
僧侶(き、きた!)
僧侶「あのぉ、勇者様」
勇者「お、炎の剣かー、戦士によさそうだな」
僧侶「勇者様!」
勇者「は、はい?」
僧侶「そろそろ、勇者様も、武器を買い替えたほうがいいと思います!」
勇者「え、いいよ俺は」
僧侶「この先、魔物も手強くなってきますし」
勇者「でも、俺は戦士ほど剣の腕が……」
僧侶「少しでも、良い武器に切り替えたほうが懸命です!」
勇者「そーは言うけどね……」
僧侶「勇者様は、防具も私達優先で買われるじゃないですか」
勇者「魔法使いも僧侶も防御が低いんだ。重視するのは当然だろ」
僧侶「と、とにかくですね!」
武器屋「……武器の買い替えかい?」
勇者「ああ、いや」
僧侶「ぜひお願いします! 勇者様にぴったりのを!」
武器屋「そんなら、まず手持ちの武器を見せてみな」
僧侶「はい! はい!」グイッ
勇者「お、おい、僧侶」
武器屋「ふーむ、いやあ、こいつはひどいな」
武器屋「刃がボロボロじゃないか。これならどれに替えてもマシだな」
勇者「俺は、大して強くないからいいんだよ」
武器屋「そうは言うがな。物に引っ張られて強くなることもある」
僧侶「そうですよ!」
武器屋「錆びた包丁を使えば、かえって怪我するってこともある」
僧侶「そのとおり!」
武器屋「……あんたのお仲間はなんなんだ?」
勇者「気にせんでくれ。あれでも普段より落ち着いているくらいだ」
武器屋「いずれにしても、この状態なら引き取るのに金をいただくところだが、今ならただで引き取ろう」
勇者「うーん」
僧侶「ありがたい申し出ですよ! ね、ね」
武器屋「で、俺が代わりにオススメするのはこいつだ」
勇者「普通の剣だな」
武器屋「いや、そこそこ軽くてかなり丈夫な素材と、ちょいと特殊な製法でできている」
勇者「はぁ」
武器屋「切れ味より、壊れにくさ、扱いやすさを重視したつくりだが、何しろ地味で不格好だから、買い手がつかなくてな」
武器屋「手間暇自体はかかってるから、一万ほどなんだが……」
勇者「うおっ、けっこうするな」
武器屋「見たところ、長く、それからけっこう激しい戦闘をするんだろ? あんた向きだとは思うぜ」
僧侶「い、いいじゃないですか、勇者様!」
武器屋「買い取りの価格と相殺して見積もり出しとくから、もってくならもってけ」
勇者「……概算いくらになる?」
武器屋「……このくらいかな」
勇者「……ふむ」
勇者「そうだな。そろそろ」
僧侶(やった!)
武器屋「ほれ、さや袋。ちゃんと装備しておけ」
勇者「おう。すごいなこれ」ニギ
武器屋「なんでだ?」
勇者「新しい武器なのに、すげー馴染む」
僧侶「よかったです~、勇者様ぁ!」
勇者「お、おう」
武器屋「まだ、見積もりには時間がかかるから、昼過ぎにもう一度来てくれや」
勇者「そーだな、戦士のは本人がいないとしょうがないだろうし」
僧侶「ですね、ちょっとお散歩に行きましょう」
カランカラン。
武器屋「……あれが勇者ってやつか。オーラのなさそうな」
武器屋「……」
武器屋「しかし、あの男、使い込んでたし、本当なんだろうな」
武器屋「銅の剣でこの街までやってくるってんだから」
練兵場。
戦士「はぁっ!」 がいん!
兵士A「ぬおっ」
戦士「せやっ!」 だぁん!
兵士B「ぐわっ」
戦士「……これで終わりか」
兵士長「おお、おお。お前ら、だらしがないぞ」
兵士長「女だと思って手加減してるんじゃないだろうな」
兵士A「へ、へへ」
兵士B「それは、そのう……」
戦士(女だと思って手加減してくれるんだから、楽勝だな)
戦士(魔物はそういうわけにもいかないし)
戦士「いや、さすがにお強いですね。武器も良い物をもってらっしゃる」
兵士長「う、うむ」
戦士「もしよろしければ、兵士長殿もお手合わせは」
兵士長「私は女人を斬る趣味はないのでな」
戦士「そうですか」ニコ
戦士「ではこれで失礼します。勇者が待っておりますので」
兵士長「お、おお、あの父上殿の息子か」
戦士「ええ。強いですよ」
兵士長「それはそれは。手合わせしてみたかったな」
戦士「まあ、まだ滞在する予定ですし、機会があれば」
兵士長「そうか、うむ。そうか」
戦士「では」
カッカッカッ……
戦士(……魔王の居城に近いとはいえ、ろくな相手がいない。兵よりも、城壁や魔法によるものかな)
魔法使い「うおーい、戦士や」
戦士「ジジイ……早いじゃない」
魔法使い「ダメじゃダメじゃ。あんな婆さんと話す気にはなれんかったわい」
戦士「そりゃ、高名な魔法学者と言ったらねぇ」
魔法使い「おかしいじゃろ? 女魔法使いといえば、若い小娘ぷにぷにぴっちぴちであるべきじゃ」
戦士「知らないわよ……」
魔法使い「学者つーても、わしが若い頃に書いた研究をちょいと複雑にした程度じゃったし」
戦士「あ、そう」
魔法使い「こりゃもう、戦士の尻で埋め合わせをするしかないのう」
戦士「おい」
魔法使い「冗談じゃよ、いい時間じゃから昼飯にしようかの」
戦士(ウェイトレス触りに行く気だな……)
広場。
勇者「ん、そろそろお昼かな」
僧侶「うふふ」
勇者「……なんなんだ、さっきから」
僧侶「え!? いや、その、新しい装備ってなんだかいいですよね」
勇者「ん、手に馴染んでるせいか、新品感がないんだよな」
僧侶「少なくとも、私はうれしいですよ!」
勇者「そういうもんなの?」
僧侶「そういうものです!」
勇者「……僧侶の武器でもないんだけどな」
僧侶「いいんです!」
勇者「……防具買いに行こうか」
僧侶「は、はい!」
男戦士「……お」
武闘家「かわいい子がいるな」
男戦士「なぁ、お姉さん」
武闘家「お昼でも一緒に食べないか?」
僧侶「だからですね、年経た武器でも、新たな使い手が持てば、神のですね」
勇者「あーうんうん」
男戦士「おい、お前ら」
武闘家「ちょーっとストップ!」
僧侶「なんですか?」
勇者「うわ」
男戦士「ちょっと、君、そろそろお腹すいてきたよね」
僧侶「はあ」
武闘家「俺らとさあ、一緒に食べようぜ。冒険者同士の交流をさ」
僧侶「お断りします! パーティーがいますので」キュッ
勇者「お……」
武闘家「いやいや、そんな弱そうなやつよりも、俺たちの方が楽しいぜ?」
男戦士「それとも、あれかな。荷物持ちくんなのかな、彼は」
勇者「……」
僧侶「何を言いますか! この方は勇者様なのですよ!」
男戦士「勇者……?」
武闘家「こいつが……?」
「ぷっく……」
ぎゃはははははは!
勇者「……うぜ」
男戦士「勘弁してくれよ、こんなオーラもなさそうなやつが!」
武闘家「勇者様! ハライテー」
僧侶「まったく愚かな人たちですね!」
僧侶「顔面からして神のご加護を受けられていないくせに!」
ピタッ。
勇者(うわあ)
男戦士「おい、おねーちゃん」
武闘家「誰がなんだって?」
僧侶「あなた方は悪魔に呪われてそうな顔面をしてらっしゃいますね、と言っているのです!」
男戦士「面白いことを言うな」
武闘家「こりゃ、顔面の呪いを払ってもらわんといけんな、体で」
勇者「ぶふぉっ」
男戦士「てめぇも笑ってんじゃねぇよ!」
武闘家「ぶっ潰してやる!」
勇者「い、いや俺は、だな」
戦士「何してんの」
勇者「戦士!」
僧侶「ええ、呪いをかけられた方を解呪していたところです」
勇者(悪化させてただろう……)
戦士「はいはい」
男戦士「お、なんだよ、また女か」
戦士「連れが何か」
武闘家「ちょうどいい、まとめて……」
戦士「まとめて、なに?」
魔法使い「ほっほ、手合わせしたいということじゃないかね」
戦士「そうなんだ。力が有り余っているし、相手になってやるわよ」チャキ
勇者「おい! 町内だから、ここ!」
男戦士「や、やってやろうか!」
勇者「お前も乗るな!」
酒場。
勇者「あー、びっくりした」
戦士「せっかくだから、格の違いを見せつけてやればよかったのに」
僧侶「そうです! あんな失礼な人達!」
魔法使い「昼間に酒場に来ても面白くないのう」
勇者「昼飯食うだけなんだからいいだろ……」
マスター嫁「いらっしゃいませ~」
マスター「本当に来たのか」
勇者「うるさいな、とりあえず定食4つ」
戦士「酒」
魔法使い「わしもじゃ」
僧侶「お水を!」
勇者「お前ら……」
勇者「ちょっと、トイレ行ってくるわ」
マスター「店出て、右手」
勇者「へいへい」
戦士「……」
魔法使い「……ふむ」
僧侶「……行っちゃいましたね」
戦士「よし、それじゃあ、僧侶」
僧侶「ばっちりです! やっと武器を買い換えさせました!」
戦士「よおしっ!」
魔法使い「やっとかい……」
僧侶「武器屋の店主さんの一言が効いたみたいですね。錆びた包丁の方が危険だとかなんとか」
戦士「親父GJ!」
魔法使い「長かったのう。出会ってから一度も変えてなかったんじゃないのか」
僧侶「そういえばそうかもしれないですね……!」
戦士「ほんっとにあいつは仲間優先だもんなー」
魔法使い「自己評価が低すぎてキモいわい」
僧侶「勇者様に何度助けられたのか分かりませんのに」
戦士「そりゃ私より剣術がうまかったら、私は用なしだし」
魔法使い「わしより魔法の知恵があったら大魔道として名を残せるぞ」
僧侶「私など、勇者様が盾になってくださらなかったら、みなさんをフォローできませんし」
戦士「おかしいよな……最前列で戦っているのに、最後まで生き残ってるのはあいつなんだ……」
魔法使い「体力が異常に高いんじゃのう。見積もり、トロルの三倍くらいはありそうじゃ」
僧侶「全滅しかけた時、私達を抱えて村まで歩いて帰ったりしたらしいですね」
戦士「そもそも武器を数十人分、荷物にして背負って、なんで戦闘ができるんだよなあ」
魔法使い「指揮能力もそれなりにあるから、そんな馬鹿なことをしてても勝てるんじゃがな」
僧侶「で、でも、ようやくそれも処分しましたし!」
戦士は思わず拍手した。
戦士「私のために、いざというとき武具を持っておかないとなんて言い張るから」
魔法使い「説得が大変じゃったのう」
戦士「とにかく卑屈なんだよな。まともな武器を持てば、そのへんの連中にも負けないはずだろうに」
僧侶「さっきも戦士さんが割り込まなければ、きっと勇者様は雑魚を蹴散らして、自分の強さに気づいてましたよ!」
魔法使い「本気で乱暴じゃのう」
僧侶「わ、私は、勇者様にご自身の力に気づいていただきたいと」
戦士「あの手合いは、そのくらいで自信を手に入れるタイプでもないだろう?」
魔法使い「親父と自分を比べておるからのう」
戦士「そりゃ、親父さんも勇者だったのかもしれないけど、あいつも確かに勇者だよ」
魔法使い「周りから比べられてきたんじゃ。いやでも気になる」
魔法使い「お前さん方もそういうのはあるじゃろ」
戦士「ん……まぁな」
僧侶「わ、私は……うう」
魔法使い「あー、おねえちゃん、飯はまだかいのう!」
マスター嫁「はいはーい。もうちょっと待っててね~」
彼らが世界を救うのには、もう少し時間がかかる。
乙?でいいのかな
続き期待してますぞ
乙
勇者はダメ人間じゃなかったんだな。
乙
今書き溜めてる作品が勇者が弱い設定で被ったわ
卑屈チートか、ある意味駄目人間だな。もっと熱くなれよ!
期待
勇者。
剣の腕は二流。魔法の力もそれほどではない。指揮能力も普通。
だが、とにかく体力が高い。そこだけ突出している。
父親と比べると確かに見劣りするが、逆に周りが動かされるようなタイプ。
時々、突拍子もない行動を取ることもあるが、本人的にはそれなりに目算がある。つもり。
戦士。
剣の腕は一流、ただし、世界一などとは言えない。
比較的、力より技の剣士であるが、はためには力自慢に見られがち。
かなり大食い。前面には複数の傷がある。
女だから、という扱いを受けたことがあり、周りを冷めた目で見ている。つもり。
魔法使い。
ジジイ。勇者SSでジジイ魔法使いが少ないので……もち、強いジジイだよ!
エロいが、別にキャラ作りではなく、かなり女好き。
年食ってからエロを許容されるようになったので、自覚的にエロを挟み込もうとする。
若いうちから冒険はしていたので、それなりに知識はある。つもりではない。
僧侶。
うざい系妹系キャラ。
僧侶なのに、かなり重たい武器を好んで持つ。結果、勇者よりもダメージソースに。
回復は普通にできる程度。自分の都合の良いように神を持ちだしてくるためか。
あまり人の話を聞かない系だが、思いやりはある。つもり。
戦士編と魔法使い編は書き上がってますので、近日中に投下します。
乙
楽しみ
おっつん
――戦士の場合。
戦士「なんでだ!? 私が何したっていうんだ」
仲間「なんでも何も、お前は金かかりすぎなんだよ」
戦士「ど、どういうことだよ」
仲間「そりゃ、確かに腕は立つが、武器も防具も最新のものを欲しがるし、食う量だって人一倍だ。正直、冒険なんかやってられん」
戦士「それは……だったら、もっといい仕事を受ければいいじゃないか! こないだの竜の巣退治とか!」
仲間「ふざけんな! あれで全滅しかかったの、覚えてないのか!」
仲間「お前はちょっと強いかもしれんがな、他の連中はついていけねぇんだよ」
仲間「パーティーを危険に導くようなやつはいらねぇよ」
戦士「お、おい! 本気で、置いて行く気か!?」
仲間「ああ。金は食う、仕事は危険なものを受けたがる、リーダーの指示には従わない、そんなやつはもうお断りだ」
戦士「な……」
戦士「わ、わかった。これからは、ちゃんと節制するから!」
仲間「もういいよ……あ、こいつの、パーティー名簿から抹消しといて」
店主「一度消したら、あんたのとこには戻せないよ?」
仲間「構わない」
戦士「おい!?」
店主「ほいほいっと」スミヌリ
戦士「お、おい。なあ、嘘だろ。装備も外されて……」
元仲間「もっと楽に儲かりそうな仕事がほしいなー」
店主「女商人さんとかどうです? 行商のついでに冒険についていってもいいと」
元仲間「かわいい?」
店主「そりゃもう」
戦士「ちょっと……待ってくれ……」
………
店主「冒険者名簿の再登録は受け付けるよ」
戦士「……」
店主「まあ、そう気を落とすなよ。最近は魔王の復活なんて噂もあるし、力自慢なら困らない世の中だ」
戦士「気の合う連中だと思ってたんだ」
店主「そりゃ気の毒に」
戦士「金勘定は苦手だから、任せっぱなしだったのは悪かったけど……」
店主「……」
戦士「前に立って戦ってりゃ、武器も防具もすぐに壊れるんだろうが! 死ぬ気で戦ってるなら、腹が減るのもしょうがないだろう!」
店主「……」
戦士「ちくしょう! あいつら!」
店主「……で、再登録する?」
戦士「……いや、もう」
ばたん。
勇者「すみません、新しい仲間を……」
店主「おやー、お客さんは初めてですか」
戦士(ん、こいつは……?)
勇者「はあ、まあ」
店主「お、勇者のところの坊主じゃないか」
勇者「俺もそろそろ冒険に出ていけって」
店主「覇気がねぇなぁ。そんなんじゃやられちまうぞ」
勇者「いいんだよ。俺は親父みたいに強くはないし」
店主「……。で、どんな仲間をご希望ですか?」
勇者「まあ、なんだ、とりあえず腕が立つ人を三人くらい」
店主「戦士や魔法使い、僧侶なんかがオススメですよ」
勇者「全員いる?」
店主「うーん、今は戦士が一人ねぇ……」チラ
戦士「……」
勇者「あんたは戦士?」
戦士「そうだけど、たった今登録を消されたばかりでね。しばらく冒険はしたくない」
勇者「……でも、腕は立つんだろ」
戦士「そりゃ、腕に自信もないのに、冒険をやりたがるやつはいないよ」
勇者「俺は、剣の才能がなくても冒険しないといけないんだ……」
戦士「はぁ? バカじゃないの」
勇者「しょうがないんだよ。勇者だから」
戦士「やりたいことやったらいいんだよ、そんなの」
勇者「勇者になるようにしか育てられてないからなぁ……才能がなくても、しょうがない」
勇者「でも、あんたは強いんだろ」
戦士「いや、そうだけどさ……」
戦士「私は金食い虫だぞ。武器も防具も、前列で戦う以上、買い替えも要求するし、食事だっていっぱい食べる」
勇者「そんなの、当然だろう。むしろ、俺の冒険はあまり稼ぎにならないかもしれないけど、いいかい?」
戦士「まあ、そりゃ、別に金稼ぎしたいわけじゃないしな」
勇者「で、どのくらい強いんだ?」
店主「竜の巣でドラゴン退治してたくらいだ」
勇者「おお~……」
戦士「いや、あのな」
勇者「あんたが良ければ、ぜひ仲間になってくれ」
戦士「いや、でもな」
勇者「頼むよ。俺は、一人じゃ何もできないんだ」
戦士「……まあ、少しくらいなら」
――戦士が仲間にくわわった!
初会合。
戦士「よろしく」
魔法使い「ほいほい」
僧侶「よろしくおねがいします! 僧侶です!」
勇者「よろしく」
勇者「じゃあ、とりあえず冒険の計画なんだけど……」
戦士(計画……?)
勇者「一応、俺らは王家公認の冒険者ってことになってる」
勇者「んだから、各国の王様の支援を取り付けて、まあ、ついでにその国の問題も解決してやれば、橋渡しにもなる」
僧侶「そ、それは外交特使というやつですか!?」
魔法使い「はした金でそこまでやらされてものう」
勇者「……俺が勇者の家系だから、うちの王様も期待してんだろう」
戦士「……」
戦士「よし、勇者。その代わりに、死ぬほどふっかけてやれ」
勇者「ふっかける?」
戦士「ああ。例えば、姫様と結婚させろとか」
僧侶「せ、政略結婚!?」
魔法使い「うひゃひゃひゃ、そりゃきっと泡吹くぞい!」
勇者「そんなもん、通るわけないだろ」
戦士「だからいいんだよ。で、じゃあ、それなりに金額の大きい報酬をよこせ、こっちは命かけてるんだってやる」
勇者「……そういうことか」
僧侶「そんな、女性の心をもてあそぶようなことを!!」
戦士「だったら、王位継承権をよこせとかでもいい。とにかく、最初にふっかけて、後でそこそこの金額で落としこむ。その手で行こう」
勇者「よし、分かった。確かに命がけだ、こっちも交渉力が必要だよな」
戦士「うん。足元見られちゃおしまいだ」
勇者「……ありがとう、戦士」
戦士「ん」
盗賊のアジト。
戦士「はあっ! はあっ! くそ、すばしっこい連中だ!」
勇者「戦士! 俺が追い込むから、息を整えておけ!」ダダダ
戦士「すまない!」
魔法使い「わしもー、ゆっくりいくわー」
僧侶「勇者様! こちらですー!」
勇者「おう! いま行く!」
戦士(くっそ! 鎧が重い)
戦士「……はぁー、はぁー」
戦士(勇者、半分くらい荷物背負ってるのに……)
魔法使い「ほれ、防具破壊呪文の準備でもしておくから」
戦士「ああ、分かった」
勇者「戦士ー! そっち行ったぞ!」
戦士「!」
魔法使い「ほれ、柔くなーれ」 ミニョニョ
盗賊A「うわっ、なんだ!?」
戦士「敵だよ!」ぶん
戦士は大きく息を吸い込んで、斧を振り下ろした!
盗賊Aに大きなダメージ!
盗賊A「」
戦士「当たれば逃げられないだろ」
盗賊B「くそぅ、このメスゴリラがっ!」ヒュバッ
戦士「ちっ」
勇者「戦士!」
盗賊Bの攻撃! 勇者は戦士をかばった!
戦士「バカ、勇者!」
戦士の攻撃! 盗賊Bをやっつけた!
勇者「てて、軽く斬られたか……」
戦士「バカ! なんで割り込んできた!」
勇者「いや、戦士が……」
戦士「あの程度なら受けきれる。私を信用してないのか!」
勇者「でも、攻撃が崩されると思ったからな……」
僧侶「勇者様ー! お怪我は……ありますぅー!」
勇者「あ、ああ。このくらいは大丈夫だよ」
僧侶「ダメですもう、無茶ばっかりして!」
勇者「俺を信用してないのか」
僧侶「勇者様は斬られすぎです!」
戦士「ホントだよ、バカ」ゴン
勇者「いてぇ」
魔法使い「冠は回収したぞい」
勇者「おー、ありがとう」
僧侶「もう、動かないでください!」
戦士「……まったく」
戦士(そういや、あの時、割り込んできたってことは、一瞬のうちに近づいてきたってことか?)
勇者「親分もぶちのめしたか」
親分「み、見逃してくれぇ……」
勇者「……」
魔法使い「ま、そう簡単に反省するやつらじゃなかろう」
戦士「だろうな」
僧侶「神に代わって裁きを下すべきです!」
勇者「いや、なんか利用できないかな」
戦士「……本気か?」
勇者「……よし、お前ら、その偵察能力を生かして、北の魔物の砦の情報を探ってきてくれ」
親分「ほ、本当にそれをやれば見逃してくれるのか?」
戦士「おい、勇者。解放したら確実にトンズラするぞ、こいつら」ヒソヒソ
勇者「まあ、俺もそう思うけど、別にリンチするほど恨んでるわけじゃないし」ヒソヒソ
戦士「だったら!」
勇者「でも、ここでぶった切っても寝覚めが悪いし」
魔法使い「ほいほい、それじゃあ、ジジイが約束の証にゆびきりげんまんしてやろうかのう」
親分「へ、へへ、そうだな」(ちょろいな……)
魔法使い「うむ。裏切ったら死ぬ呪いじゃよー」ユビキリ
親分「ぶおっ!?」
魔法使い「今度罪を犯そうとしたら、陰部が死ぬほど痛くなる呪いもかけておくかの」ゲンマン
盗賊たち「ひぎゃああ!」
勇者「お、おう」
城。
国王「まさか本当に冠を取り戻してくるとは……あっぱれじゃ!」
勇者「はい」
国王「お主はやはり、父の血を受け継ぐ、まことの勇者じゃな!」
勇者「仲間のおかげですよ。まあ、戦士とか強いですからね」
国王「ほう?」
戦士「どうも」
国王「ふーむ、女だてらに剣を振るうのであるか」
戦士「うるさい」
勇者「あ、あー、よく知りませんが、戦士にはドラゴン殺しの異名が」
国王「な、なんだと!?」
戦士(それは一人でやったわけじゃないんだけど……)
勇者「まあ、とにかくですね、最初に言ったとおり、報酬を」
国王「う、うむ。確か、金で三十万だったな……」
勇者「現実的な数字だと思いますが」
戦士(あの時は交渉がガチすぎてちょっと引いたわ)
魔法使い(お金の話のほうがいきいきしとったのう)
僧侶(勇者様は商人の素質のほうがあるんじゃないでしょうか……)
国王「実は、だな。その冠が金三十万くらいの価値で」
勇者「嘘ですね」
国王「ぐぬっ」
勇者「大方財務担当からあれこれ言われたんでしょうが、そうやって約束を破る王が信頼されますかね」
国王「ぐぬぬっ」
勇者「それと、冠は王権の象徴ですが、本当にこれを頂いてもいいんですか?」
勇者「私は自国に持ち帰って、そっちの王様に渡すこともできますが」
国王「ぬぐぐぐ」
三人(引くわ)
国王「で、では、宝物庫のだな……」
戦士「!」
勇者「再交渉はしませんよ」
戦士「勇者……」クイ
勇者「なんだよ」
戦士「この城に、伝え継がれている魔剣があるはずなんだが」
勇者「断る」
戦士「な、なんでだよ」
勇者「一度決めた約束を決め直すには、それなりの理由が必要だからだよ」
戦士「それなりの理由だろ」
勇者「欲しいなら最初から言うべきだろ」
戦士「勇者、新しい武器!」クイクイ
国王「し、城の宝物庫の中なら、自由に持って行っても良いぞ!」
勇者「……」
勇者「分かりました。じゃあ、そういうことにしましょう」
国王「!」ホッ
戦士「やった!」
僧侶「えええ!? いいんですかぁ?」
魔法使い「勇者、甘いのう」
勇者「いくつでも構いませんよね?」
国王「おお、いいぞ。魔剣も一本だけではなかったと思うしな」
勇者「だって、戦士」
戦士「よっし」
僧侶「勇者様、本当によろしいのですか?」
魔法使い「魔剣程度では金三十万にはならんぞい」
勇者「ま、いいよ。ごねられても仕方ないし」
国王(眼の前で話すなよ……)
宝物庫。
兵士「勇者殿、ここが宝物庫でございます。と言っても、半分倉庫みたいになってますが」
勇者「はい、戦士。とりあえず探してきて」
戦士「よっし、探すぞー」ガシャガシャ
魔法使い「勇者よ、ちょっとわしはがっかりじゃなー」
勇者「そうか?」
僧侶「うう、大人って汚いですよ!」
戦士「うわ! これは名剣! これは、魔法の鎚!」
僧侶「楽しそうですね」
戦士「魔物の牙を加工した短剣! これは……? く、組み立て式の短槍!」
魔法使い「ふーむ。素人でも魔法が発動する武器もあるのう」
勇者「よいしょっと」バサッ → 風呂敷。
僧侶「勇者様?」
勇者「戦士、魔剣は見つかったか?」
戦士「……あった」
勇者「二本もあったか?」
戦士「三本だ。さすがに三刀流とはいかないが、全部持って行っても良いんだろう?」
勇者「ああ」
僧侶「ううー、聖職者にはあるまじき発言かもしれませんが、金三十万に比べると……」
魔法使い「そうじゃのう」
勇者「三本はしばらく自分で持っててもらっていいか?」
戦士「構わないよ」
勇者「後は俺が持って行くから」
戦士「あと?」
勇者「ああ。後全部」
三人「……は?」
その後、ある国が財政危機に陥った。
闘技場。
戦士「負けたか……」
勇者「そう、気を落とすなよ」
戦士「勇者……すまん、せっかくの評判を下げてしまったかもね」
勇者「いんや、よくやったよ」
戦士「そういうわけにもいかない! 私は、ほら、勇者のパーティーの一員だから」
勇者「まあ、最後の相手はチャンピオンだったんだろ」
戦士「そうだけど……」
勇者「戦士はまだまだ強くなっていってる。だから」
戦士「……」
勇者「泣くなよ……」
戦士「……」フルフル
勇者「怪我は大丈夫か? 飲みに行こうぜ」
戦士「うん……」
酒場にて。
魔法使い「これ、勇者」
勇者「な、なんだよ」
魔法使い「お前さんが戦士を連れてきたんだから、もっと慰めんかい」
勇者「い、いや、あのな」
僧侶「……勇者様、泣いてる女の子を慰めるのはイケメンの義務です!」
勇者「泣いてる時に、声なんかかけられたくないだろう……」
戦士 ゴクゴク
魔法使い「ふうー、だから未だに童貞なんじゃよ」
勇者「うるさいな!」
魔法使い「ほれ、いけ、ほれ」
勇者「わ、わかった……」
勇者「おー、戦士、飲んでるかー」
戦士「ん」ヒック
勇者「傷にしみないか」
戦士「飲める」ヒック
勇者「そっか」
戦士「この調子なら、もっと戦えた」ヒック ヒック
勇者(やべぇ……)
戦士「強くなりたいなぁ」
勇者「そうか」
戦士「勇者くらい、強く……」
勇者「お、俺? 戦士の方が強いだろう……」
戦士「ゆうしゃ!」ヒック
勇者「ど、どうした」
戦士「じぎゃくふうじまんですか?」
勇者「あ?」
戦士「ふざけんなよ! え!?」
戦士「ったく……」ゴクゴク
勇者「なんなんだよ」
戦士「おまえはな、ぜんぜんわかってないんだ」
戦士「わたしが、どれくらいうらやましがってるか」ヒック
勇者「……」
戦士「つよくなりたいんだ」
勇者「なんでそんなに強くなりたいんだ?」
戦士「……おにいちゃんが」
勇者「お兄さんいるのか」
戦士「死んでから……」
勇者「……」
戦士「影を追っている。あのくらい、強くなりたいと」
戦士「お前は、似ている。自分は強くないんだ、というところも」
戦士「仲間のおかげだというところも。最後は、自分が責任を取ろうとするところも」
勇者「……」
戦士「目標だけど、きっと死ぬまで追いつけない」
戦士「私は、すぐ前が見えなくなってしまう」
勇者「そんなことは……」
戦士「ある! お前は、強い。お前くらい、強くなりたい」ヒック
戦士「だいたい、お前は、なまいき、だ。私より年下のくせに……」
勇者「せ、戦士?」
戦士「おにいちゃんみたいなしゃべりかたをなー!」ワシワシ
勇者「うおっ」
戦士「ぜったいにつよくなってやるぞー! そのかわり、ちゃんとはたらきもするから」
勇者「わ、わかった」
戦士「わかってない!」
勇者「はいはい……」
翌朝。
戦士「ん……くあっ、さすがに傷が痛むな」
僧侶「あ、おはようございます!」
戦士「ああ、昨日はすまない」
僧侶 ジーッ
戦士「どうしたんだ?」
僧侶「昨日のこと、覚えているんですか?」
戦士「ああ、まあ、少しは」
僧侶「ゆ、勇者様にべたべた甘えたこともですかっ!?」
戦士「……いや」
僧侶「頭をわしわしやったり、かと思えば膝枕要求したこともですかっ!?」
戦士「い、いや……」
僧侶「あまつさえ、今日は添い寝するって宣言したこともですかっ!?!?」
戦士「ね、捏造してないだろうなっ」
戦士編はとりあえずここまで。
ニヤニヤ
――魔法使いの場合。
魔法使い「ほれ、勇者。劇場に行くぞ、夜の劇場」
勇者「一人でいけよ……」
魔法使い「なんじゃ、まだこだわっとんのか」
勇者「うるさいな、俺はエッチなんかしないんだよ」
魔法使い「やれやれ、若いのに枯れてるのう」
勇者「じいさんが好色すぎなんだよ」
魔法使い「女の子と遊んでいると、MPが回復するんじゃ」
勇者「嘘だろ?」
魔法使い「ホントじゃよ。まあ、わしレベルの大魔法使いにしかできない芸当じゃがな」
勇者「……」
魔法使い「嘘じゃが」
勇者「だろうな」
魔法使い「酒は飲めるのに、どうして女の子は嫌いなんじゃ?」
勇者「嫌いっていうか、苦手なんだよ」
魔法使い「戦士と僧侶が泣くぞい」
勇者「あいつらは仲間だろう。その、なんだ、信頼しているから」
魔法使い「ほっほ」
勇者「笑うな!」
魔法使い「あやつらはお前さんにガチじゃからのう。女の部分を殺して接しているのを知っておけ」
勇者「嘘だろ?」
魔法使い「ホントじゃよ。なんで一緒の部屋に男女が泊まって何も起こらんかわかるじゃろ」
勇者「……俺が我慢してるからだろ?」
魔法使い「かーっ、アホか!」
勇者「なんだよ」
魔法使い「お前さんが我慢してるなら、なんで相手は我慢していないと思うんじゃ?」
勇者「……さあ」
魔法使い「まあじゃあ、論点を変えてみよ。なんでわしらはお前さんのパーティーに入っとるんじゃ?」
勇者「戦士は俺がお願いしたからで、魔法使いと僧侶はオススメされたからだな」
魔法使い「あんぽんたん」ゴッ
勇者「いてぇ!」
魔法使い「そりゃお前さんから見ての理由じゃろ」
勇者「……相手の気持ちになって、ってことか?」
魔法使い「そういうことじゃ」
勇者「……」
魔法使い「指揮官なんだから、相手の心理状態をちゃんと知っとらんとな」
勇者「ちなみに、魔法使いは?」
魔法使い「女の子と遊ぶ金が尽きちまったからの」
エルフの村。
エルフA「ひい! 人間が、人間がー!」
エルフB「さらわれてしまうわー!」
魔法使い「さらいはせんぞー、さわりはするがのー」
戦士「おい、ジジイ」
勇者「戦士、悪いがここの長と話している間、じいさん捕まえといてくれ」
戦士「その方がよさそうだな」
魔法使い「エルフの尻もいいもんじゃのう」
僧侶「もう、魔法使いさん! エルフは清らかな乙女の種族なのですよ!」
魔法使い「そりゃ一部の連中の思い込みじゃ」
僧侶「な、なんでですか」
魔法使い「エルフは自然への造詣が深く、魔力も高いが、反面、自然の影響を受け易いことがある」
僧侶「はあ」
魔法使い「森に住むなら、森の魔力を利用した技術に長けるが、ほれ、森っちゅーのは美しい自然の空気を生み出すこともあれば、瘴気を孕むこともあるじゃろう」
僧侶「そ、それは……」
魔法使い「エルフはそういうのに弱くて、ころっと全滅することもあれば、影響を受けて闇の世界に堕ちる連中も多い」
魔法使い「敏感なんじゃ!」サワッ
エルフC「ひゃいっ!」
戦士「ふん!」ぼかっ
エルフC「きゃあああ!」タタタッ
魔法使い「本気で殴らんでくれんか」
戦士「殺す気では殴ってない」
勇者「……あー、ちくしょう」
戦士「どうした、うまく行かなかったのか」
勇者「とにかく人間不信で、長にあわせてももらえなかった」
魔法使い「ダメダメじゃのう」
僧侶「やはり、汚れている人がいるから……!」
魔法使い「勇者の下半身はまだ清らかなのにのう」
勇者「やかましいわ」
魔法使い「ま、ええじゃろ。嫌悪感を持つ相手に、理解してもらおうとしても長い時間がかかる」
勇者「そうかもしれないが、やっぱり不愉快だ」
魔法使い「完璧主義じゃな。すべてすっきりすることばかりではあるまい」
勇者「せっかく来たんだから、なんか手に入れたいと思ってさ」
魔法使い「貧乏性じゃな。この世にカラの宝箱がいくつあると思ってるんじゃ」
勇者「だけどさ!」
魔法使い「面倒じゃのう……」
魔法使い「仕方ないの。おーい、娘っ子。お菓子をやるから出ておいで」
エルフC「……」ジーッ
魔法使い「知っとるか、強力なエルフは愚かな人間の持ち物をさっそうと奪って、逃げてくものじゃ」
エルフB「」ヒソヒソ
エルフA「あっ」
エルフC「……えいっ」タタタッ
魔法使い「ほれ」サッ
魔法使いはぺろぺろキャンディーを勇者に放り投げた!
エルフC「もう!」
魔法使い「ほい、速度鈍化呪文」ぼうん
エルフC「あ、あー、しぃまったぁああ」
魔法使い「ほれ、勇者。確保確保」
勇者「これじゃ本当に誘拐だろ……」
エルフC「は、放してぇ!」
勇者「うーむ」
魔法使い「放す前に質問じゃ。さらわれたのは誰じゃ?」
エルフC「女王様の子どもだよ!」
魔法使い「ふーむ。さらったのはどんなやつじゃ?」
エルフC「大きくて毛むくじゃらのニンゲン!」
魔法使い「よし、よく出来ました。ペロキャンは三つある。弓矢を向けてる子にもあげるんじゃぞ」
魔法使い「勇者、放してやれ」
勇者「あ、ああ」パッ
エルフC「あ、えっと……」
エルフC「ば、ばーかバーカ!」タタタッ
魔法使い「よしよし、分かったな」
戦士「……何がだ?」
魔法使い「戦士は毛の処理はしとるのかのう」
戦士「今後は殺す気で殴ろうか」
魔法使い「さっきの毛むくじゃらのニンゲンに当てはまるのかと思ってな」
僧侶「え、え? どういうことですか」
勇者「……人間と揉め事があったわけじゃないって言いたいのか」
魔法使い「エルフの人間嫌いっていうのは、枕ことばみたいなところがあってな」
魔法使い「わざわざこの森を訪ねてくる人間も多くないだろうに、人間にさらわれたってのは妙じゃな、と思ったんじゃ」
戦士「大きくて毛むくじゃらの……魔物かな」
魔法使い「かもしれんの」
勇者「周辺を探索してみるか。何か見つかるかもしれない」
魔法使い「ほいほい」
探索中。
勇者「……魔法使い」
魔法使い「なんじゃい。わしは疲れたから休憩するぞい」
勇者「ありがとう、俺のわがままに」
魔法使い「ほあ?」
勇者「エルフの連中に首突っ込むなんて、面倒なことやってさ」
魔法使い「お前さんは、親父よりはマシだな」
勇者「なんでだ?」
魔法使い「あいつはちっとも感謝をせんかったからのう」
勇者「……そうなのか」
魔法使い「そうじゃ。ま、あれじゃよ、きっと他人を信頼できなかったんじゃのう」
勇者「……」
魔法使い「一人旅しとったしな」
勇者「でも、親父は強かっただろ」
魔法使い「んん? 強さにはいろいろあるからのう」
勇者「剣の才能も、魔法の知識も……」
魔法使い「人を助けようっていう心もか」
勇者「うん。俺には、どれも……足りてない」
魔法使い「そうかのう」
勇者「旅してれば、あの勇者の息子のーって目で見られるじゃん。で、与し易しって顔して、足元を見てさ」
魔法使い「……逆手に取っているような気もするがのう」
勇者「どこがだ?」
魔法使い(宝物庫を荒らしたり、盗賊を偵察に使ったり……自覚がないのか)
勇者「だから、正直な話、俺は助かってるよ。仲間がいて」
魔法使い「……」
勇者「魔法使いにも、いっぱい世話になってるからな」
魔法使い「難儀な性格じゃの」
勇者「ん?」
魔法使い「お前さんが女の子だったら、ハーレム状態でおさわりし放題だったのにのう」
勇者「ああ?」
魔法使い「実は男に育てられた女の子だったりしないのかの」
勇者「だとしたらなんだよ。尻でも触る気か」
魔法使い「うっひゃひゃひゃ」
勇者「色ボケジジイが」
僧侶「勇者様ー! 洞窟見つけましたよー!」
……その後、魔物の洞窟から子エルフを救出した。
港町。
四人「かんぱーい!」
僧侶「良かったですねー! 船が手に入って!」
勇者「散々、糞みたいな大臣が渋りやがったが」
戦士「だが、これで海向こうの大陸にも渡れるな」
魔法使い「となれば、わしの出身地に行くことになるんか」
勇者「魔法使い、向こうの生まれなのか」
魔法使い「そうじゃよ。ま、魔物が強すぎて、もう生まれた村はぶっ潰されとるがの」
僧侶「え……」
戦士「それは、その」
魔法使い「うむ。村をたたんでは、別の地で村を作り、魔物に襲われては次の土地へ行くという生活でな」
勇者「そりゃ大変、だったのか?」
魔法使い「土地土地のお姉さんのおっぱいを揉みまくってたの」
戦士「おいジジイ」
魔法使い「ほっほ」
魔法使い「ほれ、この地図で言うとな、この北の方に村があってな。やっぱり北方系は乳の大きさ、柔らかさが違ってのう」
戦士「……で?」
僧侶「正直、同情心の湧いた自分を裁きたいです」
魔法使い「それでな、ここにはお城があるんじゃ。昔から鉄壁という噂でな」
勇者「……胸板も鉄壁の子が多いとか」
魔法使い「正解!」
戦士「勇者、このジジイはそろそろ別れるべきだろう」
僧侶「魔法使いさん、変態発言は勇者のパーティーにふさわしくありません!」
魔法使い「揉めば大きくなるぞい、といってたっぷりほぐしてやってな」
勇者「ああ、そう……」
魔法使い「今じゃあの娘らもいい年だが、魔物に追われて一緒に全力ダッシュしたのう、このへんで」
勇者「今も村はあるのかね」
魔法使い「どうかのう。勇者、お姉ちゃんたちの孫でも娶りに行くかい?」
勇者「やかましい」
魔法使い「うひゃっひゃ」
女商人「いや~、随分楽しそうですねぇ」
戦士「誰だ、お前は」
女商人「女商人ですよ~、勇者さんと同郷のね」
勇者「……知らないが」
僧侶「何か用ですか、四人で楽しく飲んでたのに」
女商人「勇者さんが、海を渡るって聞いて、いてもたってもいられなくなってしまいまして~」
魔法使い「おお、そうか、パーティーに加わりたいのか」
勇者「おい、魔法使い」
女商人「おおー、そうなんですよ~。この先、お役に立てるんではないかと」
魔法使い「ふむ……」
勇者「いや、四人で十分だし」
女商人「いや~、どうでしょうかねぇ。勇者さんのお父様は、随分一人で苦労されたそうですし~」
勇者「……」
女商人「私は~、お役に立てると思うんですよね~」
女商人「勇者さんは有名になってきましたし~、これからもいろいろ交渉が来ると思いますし~」
女商人「そういうのがですね……」
魔法使い「なるほどのう。ではまず乳を見せてもらわんとな」
女商人「……は?」
魔法使い「このパーティーでは、女性の乳を重視することになっておってな」
魔法使い「戦士ちゃんは筋肉質なかっちりおっぱい。僧侶ちゃんはすべすべの微妙なふくらみおっぱいになってるんじゃ」
女商人「……」
魔法使い「それを超える、おっぱいアピールが必要じゃな!」
勇者「そうだな」
女性陣「!?」
魔法使い「じゃろう! おっぱいアピールをすべきじゃ!」
魔法使い「はよう! かもかも!」
戦士「ゆ、勇者?」
勇者「俺は、おっぱいにはそれほどこだわらないが……」
勇者「戦士のおっぱいも、僧侶のおっぱいも、素敵だと思う」ヒック
僧侶「よ、酔ってますね!?」
魔法使い「キターーー!」
勇者「戦士のはがっしりしてるけど、所々が柔らかいんだぁ」ヒック
戦士「ゆ、勇者……」
勇者「僧侶は小柄なのにけっこうずっしりしてるんだよな」ヒクッ
僧侶「ゆゆゆ、勇者様!?」
勇者「女商人はどうなんだ?」
女商人「えーと、私はぁ」
魔法使い「む、これはわしも脱がねばならんな」
戦士「おい、バカ」
勇者「自信ないのかなぁ」ヒック
戦士「……ああー?」
勇者「ふたりとも俺は好みだし、おっきいと思うんだよ」
魔法使い「揉んでやれ!」
僧侶「わ、私は、そんなに大きくないですし……」
女商人「ふうん」ニヤッ
僧侶 イラッ
僧侶「勇者様!!!」ガタッ
勇者「うん」ヒック
僧侶「私を! 私を見ててください!」ぬぎっ
戦士「やめんかっ!」パシン
魔法使い「うっひゃひゃひゃ!」
酒場外。
女商人「……話にならないわね。酔いすぎ」
魔法使い「おじょうちゃん」ヒョイ
女商人「あ、お、おじいさん?」
魔法使い「あまりオイタをするもんじゃないぞぅ」
女商人「は?」
魔法使い「麻薬かなんかの密売じゃろ」
魔法使い「……失敗したから高飛びかい?」
女商人「な、なんのこと?」
魔法使い「東の盗賊団を壊滅させたのはわしらじゃ」
女商人「!」
魔法使い「後ろ盾がなくなると個人はやりにくくなるからのう」
女商人「あ、あーっと」
魔法使い「やめどきは今じゃよ」
女商人「ふ、ふん。正義ぶってる連中には分からないさ」
魔法使い「そうじゃな。信念を貫こうと、流されるまま転がり落ちようと、死ぬときは死ぬしの」
女商人「くっ……」
魔法使い「逆に、なかなか死なずに、苦しんで生きることもあるがの」
女商人「……」
女商人「おじいさん~、何を言ってるのか分からないですぅ」
魔法使い「ふん」
勇者「魔法使い」
魔法使い「おお、勇者か」
勇者「あ、女商人さんも」
女商人「あ、勇者さん~、このおじいさんがセクハラを~」
勇者「女商人さん、思い出したよ」
勇者「町の武器屋の商ちゃんだろ」
女商人「……えーっと」
勇者「引越ししちゃったけど、それから、いろいろあったんだろう」
女商人「……」
勇者「魔王退治の旅だから、一緒に行くってわけにはいかないけど」
女商人「バカにしてる?」
勇者「ん?」
女商人「私は、そういう旅に相応しくないってことかな?」
勇者「……」
女商人「勇者さん、小さい頃から勇者の修行とかしてたもんね」
女商人「強くて正しい人はいいよね。それも、父親からして」
女商人「私とは違うもんね!」
勇者「ああ、違う」
勇者「俺は人に頼ってここまできた。親父と違って」
女商人「あ……」
勇者「一つ頼まれてくれ。これ」ポイ
女商人「え」
魔法使い「おい、勇者」
勇者「元盗賊団の連中に、情報収集やらせてるんだ。次の依頼書と、あと報酬な」
魔法使い「いいんか。その報酬は魔法の宝石も……」ヒソヒソ
勇者「いいんだ。商ちゃん、ちょっと多めに持たすから、報酬代わりにしてくれ」
女商人「……いいの?」
勇者「どのみち、海を渡るから、しばらく会えなくなるし」
魔法使い「……」
女商人「けど、そんなの……」
勇者「俺は大して強くないから、得意な人に得意なことをお願いしているんだ」
女商人「……」
勇者「頼むぜ」
女商人「……いいけどね」
魔法使い「甘いのう、勇者よ」
勇者「魔法使いこそ。商ちゃんの尻も触らんで」
魔法使い「そりゃな。斜に構えているガキンチョは嫌いじゃし」
勇者「……」
魔法使い「本当に良かったのか? あやつ、密売で……」
勇者「あ、そうなの?」
魔法使い「ふぅー」
勇者「まあ、なんか隠してるとは思ってたけど。でも、そのまま帰すのももったいないと思ってさ」
勇者「この国の大臣の不祥事の証拠を握らせておいたんだ」
魔法使い「ほう?」
勇者「商人だし、こちらに腹づもりがあって近づいてくるくらいだから、脅すなり、他国に売り込むなりはするだろう」
魔法使い「ふむ」
勇者「あんのくそじじいに一泡吹かせたいと思ったんだが、こっちが直接やろうとすると問題になるじゃん」
魔法使い「勇者からもらったと言いふらすかもしれんぞ」
勇者「あ、その線は考えてなかった……」
勇者「んー、どうするかな」
魔法使い「まあ、あの様子じゃこちらを攻撃するとは思わんが……」
魔法使い「ま、なんとなれば、向こうの大陸で一生を過ごしてもええか」
勇者「ん、まあ」
魔法使い(酔っ払っとるな、こいつ)
勇者「……魔法使い、飲み直すか?」
魔法使い「ん、戻らんのか?」
勇者「あっちの酒場な、戦士と僧侶が大暴れしてるから……」
魔法使い「ああ、そういう」
魔法使い「じゃ、劇場に行こうか」
勇者「おい」
魔法使い「ほい、ほい、こないだから目星はつけといたんじゃ」
勇者「うるせー、ばか!」
―――過去。
魔法使い「おう、勇者父」
勇者父「おお、魔法使い殿か」
魔法使い「聞いたぞ~? お前みたいな仏頂面に子どもが出来たとは驚きだ」
勇者父「仏頂面は関係ないだろう」
魔法使い「いやあ、どんな顔してセックスしてたのかと思うと笑いがこみ上げてくるわ」
勇者父「私に男色趣味はないが……」
魔法使い「あほうか!」
勇者父「それより、魔法使い殿には良い人はいないのか」
魔法使い「生憎、お前と違って世界中におるでな」
勇者父「そうですか」
魔法使い「あ、それと、ほれ。誕生祝いじゃい」
勇者父「こ、こんなにはいただけない」
魔法使い「バカ、人の厚意も受け取れん奴がおるかい」
魔法使い「それと、お前、強力な魔物退治に行くそうじゃないか」
勇者父「まあ」
魔法使い「俺も連れていかんかい」
勇者父「……お断りします」
魔法使い「なんでだ!?」
勇者父「魔法使い殿にもそうだが、他人に迷惑はかけられない」
魔法使い「ぶぁーかか、てめぇはよ!」
勇者父「私の仕事は頼まれ事だ。誰かと一緒にやるものではない」
魔法使い「成功率を少しでも上げるのは、請負人なら当然だろうが」
勇者父「そのために、誰かが犠牲になってもよいのか?」
魔法使い「ふん、それを言うなら、お前に仕事を頼んだやつらはお前に犠牲になれって言ってるんだろうがよ」
勇者父「助けを求めているだけだ」
魔法使い「お前は助けを求めてないのか」
勇者父「ああ」
魔法使い「……」
魔法使い「勇者父よぉ、お前、子どもができるんだろ」
勇者父「ああ」
魔法使い「そんな考え方で、頼まれれば一人で旅立って、傷だらけで帰ってくる親父を、子どもはどう思う?」
勇者父「……」
魔法使い「親父を憎むならまだいい。ヘタをすれば、親父をけしかける連中を憎むようになるぞ」
勇者父「……そうかもな」
魔法使い「そう思うんなら、ちょっと休め。子どもにとっての父親は、紛れもなくお前一人しかいないんだ」
勇者父「そういうわけにもいかん」
魔法使い「バカが」
勇者父「我が子がどういう道を選ぼうと、構わん」
魔法使い「ああ?」
勇者父「いや、間違った道を選ばれては困るから、いう時は言うが」
勇者父「だが、俺にとっては、子どもは一人で生きていける力さえ身に着けてもらえばいい」
勇者父「甘えて、人に頼ってばかりの人間にはしたくない」
魔法使い「……」
勇者父「その結果、もし、誰かを憎むような子どもになるなら……」
勇者父「その時は責任を取る。俺が」
魔法使い「……てめぇは本当に大馬鹿者だ」
勇者父「どこがだ」
魔法使い「言わせてもらうぜ? 俺は小さい頃から他人に頼りっぱなしだ」
魔法使い「何しろ、魔物の襲撃に追われ続けていたからな。一人でなんとかできるなんてのは妄想だって知ってる」
勇者父「いや、それは子どもだから……」
魔法使い「バカいえ。俺ほどの魔法使いでも、この才能が目覚めた後でも一人じゃとっくに死んでいた」
勇者父「それは……魔法使いだから」
魔法使い「だろ!? もしお前の子どもに魔法の才能があったら、一人じゃあっさり死ぬぜ」
勇者父「……」
魔法使い「もっと根本問題だ。一人じゃ生きていけるほどの力が身につかなかったら?」
魔法使い「そんな才能もなかったら、お前の教育は大破綻しちまうだろ」
勇者父「……」
魔法使い「甘いんだよ、お前はよ!」
勇者父「しかし、やってもらわなければならない」
魔法使い「ああ?」
勇者父「魔王の復活すら噂がささやかれている」
魔法使い「……ああ。その話は俺も聞いている。実際、強力な魔物が現れているところの調査もした」
勇者父「外部からきた形跡がある、という話だったな」
魔法使い「そうだ。だがな……」
勇者父「力を身につけなければならない時代が来ているのは確かだ」
魔法使い「だから、一人じゃなくていいだろうが! お前もだぞ!」
勇者父「分かった分かった」
魔法使い編、終了。
僧侶編。そして、おそらく勇者編はお待ち下さい。
あまり長々しく続けるつもりもありませんので、さっくり終わらせる予定。
おっつん
老魔法使いイイヨネ!
乙
父ちゃんは父ちゃんで卑屈だな
卑屈ではあるけどきちんと成すべき事をなしている分不快感はないな
面白い。これは期待!
乙
続き期待
―――僧侶の場合。
冒険者登録所。
勇者「あとは、この、僧侶さんだけか」
戦士「おい、勇者。本当に大丈夫か、こんなじいさん」
勇者「大丈夫だよ」
魔法使い「ほっほ。わしゃ、勇者の父とも冒険したことがあるぞい」
戦士「……嘘つけ」
魔法使い「嘘じゃ」
勇者「嘘かよ」
店主「あ、来ましたよ。最後のお一方」
僧侶「どうもー! こんにちはー!!」
三人(うるせぇ)
僧侶「やだー! 勇者様ってイケメンじゃないですかー!」
僧侶「ええー!? 私どうしよう! きゃー!!!」
僧侶「教会の神父様も、他の小坊主さんも、みんなフツメンだから、私、いくら勇者様だからってね」
僧侶「そう、イケメンじゃなかったらどうしようかと思ってたんですよぅ!」
勇者「ちょっとだけ、静かにしてもらっていいかな?」
僧侶「あ、はい!!」
勇者「……」
店主「……どうします?」
勇者「……」
勇者「でも、回復役というか、そういう方は……」
店主「冒険者志願で、教会からの推薦がついているのは、この方しかいないね」
勇者(……教会からお払い箱の推薦なのかな)
僧侶 ウズウズ
店主「木こりの経験もあるってよ」
勇者「木こり?」
僧侶「あ、ひょっとして実技試験ってやつですか!?」
僧侶「私、得意なんですよ! 刃物、ほら、斧!!」スラッ
戦士「マジか……」
魔法使い「ほうほう。なかなか重みがありそうじゃの」
僧侶「ふん、ふん」ブンブン
戦士「……その体つきで、よく振り回せるな」
勇者「えーと」
僧侶「もちろん、回復もお任せ下さい!!」キラッ
店主「……どうします?」
僧侶「あ、あの! 私、がんばりますよ。お役に立てるかどうかは知りませんが」
僧侶「使命感なら負けませんし、ほら、この中じゃ最年少! もっと成長しますし!!」
僧侶「だから、まあ、その、ぼ、冒険ならお荷物にはなりませんよ!」
勇者「……まあ、いいか」
店主「はい、契約成立っと」
僧侶「やったー!!!!」
――僧侶が仲間に加わった!
高見の塔。
ガララッ。
僧侶「あ、あのー! 大丈夫ですかっ!」
戦士「あ、ああ……しかし、足場が悪いな」
魔法使い「うむ、じゃっかん朽ちているからのう」
勇者「一応、魔物退治を頼まれたが、何なんだ、この塔は」
魔法使い「海に近いじゃろ? 元は大灯台だったようじゃな」
勇者「ふーっ、魔物だって足場が悪けりゃ落っこちるんだし、補修してくれてもいいのに」
戦士「勇者、ここの連中は羽が生えているようなやつらばっかりだ」
勇者「なるほど」
僧侶「もおお、私にも羽が生えていればいいのに」
魔法使い「落っこちたら生えるかもしれんぞ」
僧侶「そんなわけないじゃないですかー!」
勇者「しっ、静かに」
悪魔A「ケケ、どうも勇者ってのがいるらしいな」
悪魔B「大丈夫だろ、ここの主は飛龍様だからな。こないだも訪れた冒険者を一網打尽にしたし」
悪魔A「上に誘い込めば、飛んでる俺達の方が有利だしな」
悪魔B「間抜けな連中をぶっ倒して、またボーナスもらおうぜ」
………
僧侶「……行っちゃいましたね」
勇者「ああ」
魔法使い「ここのボスは飛龍らしいのう。こりゃ厄介じゃのう」
戦士「そうだな……飛んでる相手はやりにくいしな……」
僧侶「な、何を弱気なことを言ってるんですか! こちらには竜殺しの戦士さんと、勇者様がいるんですよ!?」
勇者「しーっ、声がでかいって」
戦士「どうする? 勇者」
勇者「うーん」
魔法使い「しかし、あれじゃな。魔物どもも、人間を誘い込むという知恵を使ってると」
戦士「そうなんだよ、私もそれが気にかかった」
勇者「相手方も、計画立てて陣取ってるわけだよな……」
僧侶「大丈夫ですよ! 私達なら!」
三人『……』
勇者「じゃあ、僧侶はどうしたらいいと思う?」
僧侶「えーっと、上に誘い込まれるのがダメなら、こっちが地面におびきだせばいいんですっ」
戦士「どうやって?」
僧侶「……たきびをする、とか」
魔法使い「アホの相手は疲れるのう」
僧侶「えー!? いいアイデアじゃないですかぁ!」
勇者「まあ、正面突破するのもなぁ」
魔法使い「ふむ。わしも、飛んでる相手はしんどいしの」
戦士「確かに……そもそも攻撃が当たらないかもしれない」
勇者「でも、どうする。相手は上空から狙い放題、こっちは逃げ惑って、攻撃を当てるのにも精一杯、になりかねない」
僧侶「じゃあじゃあ、いっそのこと、空から攻撃しましょうよ!」
戦士「どうやって?」
僧侶「まずてっぺんまで登って……」
戦士「だから、誘い込まれてるんだってば!」
魔法使い「ふーむ」
勇者「いや、その案には俺も賛成だ。上から攻撃したほうがいいかもしれない」
戦士「相手は飛んでるんだぞ?」
勇者「ああ。だから、焚き火をたくとはいかないが、地上付近で囮を用意して、その隙に上から攻撃する」
勇者「……ま、かかしに突っ込んでくれるわけはないから、誰かが囮になるしかないだろうが」
魔法使い「別働隊というわけかい」
勇者「どうだろう?」
僧侶「最高です!!」
戦士「そこまで悪くはないが、そううまくは行くかな」
魔法使い「当たらなければ上から攻撃しても意味はないしの」
戦士「戦力分散の愚を犯しかねない」
勇者「だから、囮は俺一人でやる」
僧侶「ええっ!」
戦士「馬鹿か!」
勇者「声が大きいって!」
悪魔A「そうだな」
悪魔B「見つけてもらいたかったのか?」
僧侶「ひゃあああああ!」
魔法使い「爆裂呪文」
ズドン!
悪魔ズ『……』
魔法使い「なんで攻撃する前に声をかけるのかのう」
僧侶「ああ、びっくりした」
タッタッタッ……
「おい、なんか音がしたぞ」「向こうじゃないか」「急げ」
戦士「ちっ、寄ってきやがったか」
勇者「よし、作戦開始だ。みんなは隠れながら、上を目指せ」
戦士「ちょっと待て!?」
勇者は柱の陰から飛び出した!
勇者「どんくせー魔物ども! 俺が勇者だ!」
勇者「相手になるからかかってきやがれ!」
戦士「あのバカ……!」
塔の外。
勇者「はっ、はっ。やっぱり、羽が、生えてる連中は、めんどくせぇ、はっ」
勇者「……ふぅーっ」
勇者「雑魚ばっかりだな! もっと強い奴はいないのか!」
勇者「……飛龍とかな!」
勇者「……」
勇者「……来ないな」
勇者「ふむ」
勇者「火炎呪文!」ボウ
勇者は近くの木々に火をつけた!
勇者「火炎呪文! 火炎呪文!」ボウ、ボウ
勇者「よし」
僧侶「何やってるんですかー!」ごん
勇者「うわっ!?」
僧侶「勇者様、山火事でも起こす気ですか!?」
勇者「そ、僧侶……どうしてこっちに来たんだ」
僧侶「それは、二手に別れるなら二人ずつのほうがいいからです!」
勇者「バカ! 回復呪文を使えるのは、俺と僧侶じゃないか!」
僧侶「そ、そうかもしれませんけどぉ……」
勇者「今のうちに、早く戻れ! 作戦の鍵はあっちのグループの方にあるんだから」
僧侶「嫌です!」
勇者「そんなこと言ってもな……」
ゴォォォォ……
勇者「! 来た」
僧侶「う、わー……大きい!」
飛龍『……火遊びとは感心せんな、虫けらどもよ』
飛龍は息を吸い込んで、強く吹きつけた!
勇者「くっ!」
飛龍『部下が随分やられたと聞いていたが、何をしているかと思えばくだらんことを』
飛龍『……まさかとは思うが、貴様、この程度の人数で私を倒そうというのではないだろうな』
勇者「あと二人いる」
飛龍『変わらんだろうが!』ズバッ
勇者「ぐわあっ!」
僧侶「勇者様!!」
勇者「大丈夫だっ、それより早く行っとけ!」ダッ
飛龍『ふぅーっ、虫けらとて、撃ち漏らしはせんぞ』
飛龍『わが爪と牙をくらえ!』ガリッ
勇者「ぎゃあああああ!!」
僧侶「勇者様!?」
勇者「大丈夫だっ! 回復呪文がある!」
――数分後。
勇者「はあっ、はあっ!」タタタッ
飛龍『ちょこまかと逃げおって……』
飛龍『いや、当たってはいるのだが』
飛龍(なんだこいつ、おかしいぞ。一体、どれだけ攻撃を加えれば倒れるのだ)
飛龍(もちろん、人間がしぶといのは知っておるが、それにしても異常だ!)
勇者「くそっ、戦士たちはまだか?」
勇者「そうか、塔に近づかないと、上から攻撃はできないな……」
勇者「おい、雑魚モンスターめ! お前はその程度かっ!」
飛龍『……』
飛龍『やめだ。一度出直す』
勇者「おいい!?」
勇者「それは困るっていうか、あのその」
飛龍『得体の知れない連中だ。人間には未解明の部分が多すぎる……』
勇者「くそっ、逃がしてたまるかっ」
僧侶「……やあっ!」
僧侶の攻撃! ……ミス。
僧侶「ああっ、やっぱりダメ!?」
飛龍『くだらんことを』ゴオォ
勇者「僧侶、危ない!」
飛龍の攻撃! 勇者は僧侶をかばった!
勇者「ぐふっ!」
僧侶「勇者様ー!」
勇者「だ、大丈夫だ、大丈夫だから」
僧侶「全然大丈夫じゃないですよぉ! 血だらけじゃないですか!」
勇者は小さく回復呪文を唱えた!
勇者「大丈夫だ。まだ動ける」
僧侶「嘘ですよね!?」
飛龍『化け物め……! こうなれば、最大威力で決めてくれる!』
飛龍は大きく息を吸い込んだ!
――空から無数の氷柱が降り注ぐ!
飛龍『ぐおおおおっ!?』
戦士「……ぁぁぁぁああああああああああ!」 ザブジュッ!
飛龍『』
戦士が上空から勢い良く飛び降りてきた! 飛龍に会心の一撃!
戦士「勇者、無事かっ!?」
勇者「なんとか」ヒョコッ
僧侶「そんなわけないじゃないですかー! いま、回復しますから、じっとしてください!」
勇者「大丈夫だって、まだ動けるし」
勇者「それより、戦士こそ、あんな高さから落ちてきて大丈夫だったのか?」
戦士「魔法使いが、氷の呪文を撃つついでに、風でクッションを作ってくれたから」
勇者「万能だな、あのじいさん」
僧侶「だからっ、動かないでくださいよ!!」
勇者「あ、ああ」
僧侶「無茶ばっかり……! 私、私、やっぱり……」ポロポロ
勇者「お、おお?」ギョッ
僧侶「やっぱり私が役立たずじゃないですかぁー……」ボロボロ
戦士「……」
勇者「そ、僧侶」
戦士「あーあ、泣かせたな」
勇者「お、俺かよ……」
戦士「魔法使いを迎えに行く。ついでに残党がいれば、倒して安全を確保してくる」
勇者「あ、おい!」
僧侶「ううー……」
勇者「……」
僧侶「回復呪文、回復呪文……」グスグス
勇者「……」
僧侶「私、やっぱりダメですね。力だけは有り余ってるから、放り出されたんだろうけど……」
勇者「どういう意味?」
僧侶「多分、教会から厄介払いされたんです、私」
勇者「……教会で疎まれていたから、冒険者になってこいって?」
僧侶「……」
僧侶「はい、回復終わりました!」
勇者「あ、ああ」
僧侶「でも、かなり血を流したはずですよ! 今日はもう冒険はやめて、ゆっくり休憩しないと!」
勇者「そうだな……テント張ろうか」ゴソゴソ
僧侶「ダメです! 安静にして、戦士さんと魔法使いさんが来るのを待ちましょう!」
勇者「……分かった」
僧侶「その間、えっと、これかな、水筒、出しますから」
勇者「ありがとう」
僧侶「えへへ、そんなに褒めなくてもいいんですよ!」
勇者「……」
勇者「僧侶、下がっていてって言ったのは、その、俺も見えてなかったかもしれない」
勇者「正直なところ……最後は僧侶に回復してもらえればいい、と思って、きちんと連携を取ることを考えてなかった」
僧侶「無茶は、ダメなんですよ」
勇者「うん」
寂れた村。
村人A「あんれ、勇者父さんでねぇか」
勇者「え?」
村人B「ホントだ、あんた、勇者父さんだろ」
戦士「ああ、いや、彼はその人の息子さんで……」
村人A「息子さんだったかー! いや、よく似てんだなぁ」
勇者「あ、はぁ……」
村人B「ゆっくりしてってぇ。勇者父さんも、ここにしばらくいたからなぁ」
勇者「そうですか……」
僧侶「ほうほう、ここには勇者様のお父様が」
魔法使い「……ふむ」
戦士「どうする、勇者?」
勇者「次の町まで一気に進むつもりだったけど……」
僧侶「ゆっくりしていきましょうよ、ね!?」
魔法使い「わしは反対じゃな」
僧侶「なんでですかー!」
魔法使い「こんな寂れた村じゃ、かわいい女の子がおらんじゃろ」
戦士「そんな理由かよ……」
勇者「あの娘なんかどうだ?」
村娘「……やだ、お父さん、勇者父さんと息子さん間違えるだなんて」
村人A「はっはっは、だって似てんだもんよぉ」
魔法使い「確かにかわいいの。胸も大きいし」
僧侶「殴られたいですか?」ニッコリ
魔法使い「でも、ほれ、わしはわきまえとる方でな、素人には手を出さんのよ」
魔法使い「ちゃんとプロにお願いする。それが男としての礼儀というもんじゃ」
戦士「ジジイ、こないだもウェイトレスの尻を触ってただろ」
魔法使い「ウェイトレスは尻を触られるのも仕事のうちじゃ」
勇者「尻がすり減るぞ?」
僧侶「勇者様、ツッコミがおかしいですよ!?」
勇者「ま、いいんじゃないのか。無理して急がなくても」
僧侶「あ、で、でしたら、武器の買い替えに……」
勇者「ああ、じゃあ、一緒に見に行こうか」
戦士「勇者。お前もいい加減……」
勇者「あ? 戦士も見に行く?」
戦士「いや、いい。というか、こんな村では良い武器はないぞ。道具類を揃えるくらいにしておけ」
勇者「言われてみればそうだな」
魔法使い「お前さんがいいなら、わしも適当にうろつくことにするかの」
戦士「徘徊老人」
魔法使い「うひゃひゃ、ただの徘徊ではないぞ」
戦士「……勇者、このジジイが妙なことをしないように、ちょっと見張る」
勇者「別に構わんが」
僧侶「……じゃあ、行きましょう!」
村の中。
僧侶「うう、なんだか、デートみたいですね~!」
勇者「んー?」
僧侶「デートですよ、デート!」
僧侶「なんか言ってて恥ずかしくなって来ましたけど……」
勇者「女の子と二人で歩いてたらデートなのか?」
僧侶「そ、そうですよ!」
勇者「……戦士とも何度もデートしてることになんのかな」
僧侶「あ、あのー」
勇者「ん?」
僧侶「もう、二人でいるときは他の女の子の話はNGですよ!」
勇者「そうか。あ、肉まんじゅうでも買う?」
僧侶「あー、無駄遣いはダメなんですよ!」
勇者「僧侶は説教臭いなぁ」
僧侶「む。私は聖職者ですから、神様の御心に沿う教えをですね」
勇者「聞こえない」
村人A「おお、勇者父の息子さんでねぇか」
勇者「あ、はい」
村人A「勇者父さんはすごい良い人だったァ」
村人A「傷だらけでここにたどり着いたんだけど、タダで泊まってけって言ったら、えらい恐縮してな」
勇者「……」
僧侶「あ、あー、あの、それじゃ、宿屋は……?」
村人A「ねぇな。うちに泊まってけばええよ」
僧侶「そ、そうですか! お願いします!」
村人A「そんでな、傷が治ってからすごくてなぁ。土が良くないつったら、開墾してくれて」
村人A「肥料も、良い作り方をいろいろ教えてくれてなぁ」
村人A「この辺、魔物が強くなってきてな、一人で倒してきてな」
村人A「怪我もあったし、無茶すんでねぇと思ったんだが、いや、ホント強い人だった」
勇者「……そうですか」
僧侶「あのー、私達、そろそろ……」
村人A「ん。後でお仲間ともども連れてき」
僧侶「は、はーい」
村娘「あ、勇者父さんの息子さん」
勇者「ああ、はい」
村娘「お父さんが失礼なことばっかり、すみません」
勇者「いや、えーと」
僧侶「あの! 村に宿がないというので、今日は一晩お借りすることになりますのでっ!」
村娘「あ、そうなんですか」
村娘「えっと、勇者父の息子さんの……彼女さん?」
僧侶「ぱ、パーティーです!」
村娘「ぱーてぃー? 私、難しい言葉はちょっと……」
僧侶「その、冒険仲間というわけです」
村娘「はぁ……」
村娘「でも、勇者父の息子さんもかっこいいですね」
村娘「私、親子揃ってファンになっちゃうかも」
勇者「そうですか」
村娘「私、勇者父さんに助けられて……ほら、向こうの方の森、けっこう良い材木があるんですけど」
村娘「そこで魔物に襲われちゃって……」
勇者「……」
村娘「もう、私を抱きかかえて、さっと魔物を斬りつけて!」
村娘「その時、一人で出歩いちゃダメだって、怒られちゃったんですけどね」
村娘「結構長い間、この村にいてくれたんですけど、家族もいるしって言って帰っちゃってー……」
僧侶「あーのー!」
村娘「は、はい?」
僧侶「また、お邪魔した時にたっぷり聞きますから、後ででもいいですか?」
村娘「え、ええ」
僧侶「あとは、道具屋さんの場所をですね……」
僧侶「な、なんていうか、失礼な人たちばっかりですね!」
僧侶「そりゃ、勇者様のお父様も、この村の英雄的な存在だったのかもしれませんけど」
僧侶「勇者様だって、冠を取り返したり、エルフの子どもを助けたり……魔物の塔を解放したり」
僧侶「その、いろいろ」
勇者「そうだね。でも、親父は一人で戦ってたから」
僧侶「そ、それだって、どうかと思いますね! 私は」
僧侶「ほ、ほら、私だって、勇者様と一緒じゃなかったら、全然、こんな」
勇者「うん……」
僧侶「あのですね~、私はいっぱい、勇者様に感謝してますよ」
僧侶「だからですね、全然、気にすることなくて、その……」
僧侶「た、助け合うのが当然なんですよ! 一人でできるばっかりじゃなくて」
勇者「うん。俺も、戦士や魔法使いや、それに、僧侶がいなかったら、ここまで来れなかったよ」
僧侶「そ、そう、ですよね!」
勇者「うん。ありがとう、これからも、よろしく」
僧侶「はい! よろしくお願いします!」
勇者「あ、そうだ。ちょっとトイレでも借りてくるよ」
僧侶「え、ええと、はい」
勇者「ちょっと、行ってくる」タッタッタ
勇者(……ここまで来れたのは、みんなのおかげだ)
勇者(俺が、一番不安材料なんだ)
勇者(前に出て、盾になるくらいしか、できない)
勇者(でも、指揮官役がそんなことを繰り返してちゃ、本当はダメなんだ)
勇者「結局……」
勇者「俺が、パーティーの中で一番弱いんだ……」
僧侶「勇者様……」
僧侶編、おしまい。
これで、冒頭シーンに戻る感じです。
今日はこれにて。
乙
続きはある・・・よね?
乙
そういえばVIT特化が明言されてる主人公って案外珍しいよな
続きはまだ溜まってないので、もうしばらくお待ちを。
>>134
体力は勇者的には必須だと思うんですよね。リーダーが死んだらAI戦闘なんか出来ませんし……
だから特徴としてあげられることがないだけだと
個人的には、「トータルヒーリング!」のあの人とかの、回復勇者も大好きです。
多いに同意
主人公は頑丈であるべきと思うけど普通の作品は精神力と補整で説明付けちゃうんだよねw
タフさが武器って説明されてるメイン盾が主人公って新鮮だし期待
DQ3的な勇者だと性格がむっつりスケベタイプか
体力だけは高い上に体力特化みたいにやたら成長するし
キャラの距離感と話のテンポが絶妙で凄く面白い! 続き期待してます
ケツ出せっ!の人か
俺もアレは結構好きだ
続き待ってるわ
④
今あるSSの中で一二を争う面白さ。
応援してます
今あるSSの中で一二を争う面白さ。
応援してます
イザナミか
側近「魔王様」
魔王「どうした」
側近「またしても、やられました。魔王城東の砦が落とされました」
魔王「なんだと!? あそこには強力な角悪魔がいたはずだ」
側近「報告によれば、戦死と」
魔王「うむむ……人間ごときにやられるやつではなかったはずだが」
側近「もうすでに、飛龍も、大妖樹も、巨人兵もやられました」
魔王「となれば、角悪魔も」
側近「ええ、勇者と呼ばれる連中のようです」
魔王「……まさか、小集団にやられるとは思わなんだ」
側近「他の魔物たちからも、報告が出ています」
魔王「よし、報告せよ」
側近「『倒せない』」
魔王「……」
魔王「それだけか?」
側近「『大して強くないと思っていたら、妙に手こずり、いつの間にか逆転されていた』」
魔王「油断しておったな……」
側近「『何回攻撃しても立ち上がってくる、悪夢だ』『知恵の回るやつがいる』『剣の腕の立つ奴がいる』『チビが回復役でウザい』」
魔王「ふーむ、わからんな」
側近「『飛龍様の攻撃が数十回当たったはずなのに、血だらけになっても動いている。バケモノだ』」
魔王「お前も魔物だろ」
側近「『流し斬りが完全に入ったのに……』」
魔王「ソウルスティール……まさかこの世界に使い手がおったとは……」
側近「いまのは巨人兵の遺言です」
魔王「だったら水鳥剣でもいいだろ!」
側近「ま、魔王様?」
魔王「はっ、しまった」
側近「どうなさいますか……わが軍は削られる一方です」
魔王「……ゲリラ、テロリストへは、国攻めをしても無駄だ」
側近「し、しかし」
魔王「本来、小集団を相手にする際は、警察力と国際協力が必要なのだがな」
魔王「あいにく、我々は攻める側だ。協力など期待できない」
側近「では……」
魔王「本拠地付近まで落とされた以上、例の罠を強化するしかあるまい」
側近「あの町ですか……」
魔王「人間の冒険者どもも、魔王城に侵入しようとすれば、必ず補給を要する」
魔王「どうも体力に自慢があるようだが、ならば体力勝負をしなければよいだけのことだ」
側近「なるほど……では、夢魔、淫魔の類を派遣します」
魔王「あ、待て。淫魔は私が楽しむから」
側近「おい」
町。
勇者「ここが最後の補給地になりそうだな」
僧侶「……はぁーっ、疲れましたぁ」
戦士「だが、砦もひとつ落としたし、順調に来ているんじゃないか」
勇者「そうだな……魔王の居城も近いのに、少し弱くなった気もしたが」
戦士(お前が武器を買い替えたからだよ)
魔法使い「ふむ。しかし、ここは賑やかじゃの」 ザワザワ、ガヤガヤ
僧侶「魔王の城に近いのに、ピカピカしてます」
戦士「思いっきり怪しいな」
勇者「ああ。用心していこう」
魔法使い「お、かわいいお姉ちゃんがいっぱいいるのう」
戦士「ジジイ、ここまで来て」
魔法使い「たまには仲間以外の尻も撫でたいんじゃ」スルッ
僧侶「ひゃん! やめてください!」
町人「おや、冒険者の方ですか」
勇者「はい……ここはやけに賑やかですね」
町人「ええ! 何しろここは魔王様に公認いただいた町ですから!」
戦士「魔王様?」
僧侶「こうにん?」
町人「みなさんは冒険者なので、ご存じないと思いますが、魔王様は帰属を誓えば無闇に殺したりはしないのです」
町人「そればかりか、魔界の技術と融合させて新しい町の発展も考えてくださると!」
魔法使い「魔物はおるのかのう」
町人「あ、いやぁ、さすがに冒険者の方もいらっしゃいますし、そのへんはお断りさせていただいてますが」
戦士(くっそ怪しいがな)
町人「取引を増やして、ゆくゆくは世界中に商売を広げたいと」
勇者「……ふうん」
町人「もしよければ、かわいい女の子も揃ってますよ」
魔法使い「ほうほう」
町人「実を言うと、生贄だの人質だので、要求もしていないのに差し出される娘が多くてですね……」
勇者「……なるほど」
僧侶「なんてひどい!」
戦士「待て、そんな子たちを商売に使ってるのか」
町人「ち、違いますよ。希望者に希望の仕事を割り当てているだけです」
魔法使い「ふむ」
勇者「じいさん、気がのらないのか」
魔法使い「いや、いくぞい。老いたりとはいえ、そう簡単には枯れんわい」
戦士「ジジイは自重しろよ……」
勇者「……俺はいいかな」
町人「あ、でしたら、宿でマッサージというのはいかがですか?」
勇者「いや、別に……それより、補給を」
戦士「勇者。補給なら明日でもいいだろう」
僧侶「そ、そうですよぉ。さすがに激戦を抜けてきたんですから、今日くらい!」
町人「お嬢さん方もどうです? 美容にも良いですし」
僧侶「そ、そうですね」
戦士「私は遠慮する。見せる肌でもないからな」
勇者「行っとけ。減るものじゃないんだから」
戦士「……」
僧侶「行きましょうよ! 戦士さん」
戦士「勇者が言うなら、まあ、いいだろう」
勇者「俺は宿の部屋で、先に寝てるわ」
僧侶「あ、あうう」
魔法使い「わしは酒場行っとるぞ」
勇者「ああ。飲み過ぎるなよ」
魔法使い「さすがに魔王城を控えて、そこまではせんよ」
宿屋、風呂。
僧侶「んー、気持ちいいー、っていうか、お風呂広い!」
戦士「そうだな」
僧侶「もう、戦士さん、どうしたんですか?」
戦士「いや、魔王に許された町っていうのもな」
僧侶「正直、信じられません……」
戦士「どうかな。魔王だって、人間を絶滅させるのが目的ではあるまい」
僧侶「じゃ、じゃあ、その、こうやって人間を服従……!」
戦士「本人たちは命を助けられて喜んでいるんじゃないか」
僧侶「そんなこと……あ、実は脅されてたり……!」
戦士「脅されていようが、生かされていようが、命をかけて抵抗するにはそれなりに理由がいる」
戦士「まして、それが自発的に服従しているとなれば、厄介のきわみだ」
僧侶「でも、実際には魔物に殺されている人も大勢います!」
戦士「どうだろう。抵抗するからやられるんだ、と考えているかもしれない」
僧侶「それに、全部の国を攻め落としたら、牙をむくのかも……」
戦士「……今の生活には関係がない、と思っているんだろう」
僧侶「そんなぁ……」
戦士「まあ、私達にとっても、そういう態度なら、利用するだけさせてもらうのでいいさ」
僧侶「な、そんなこと!」
戦士「おそらく、ここが最後の補給地だ。いざこざを起こしても仕方があるまい」
戦士「それに、魔物が冒険者との接触を禁じていないのも、魔王側がよほど自信があるということだろう」
戦士(その方が好都合だがな)
僧侶「でも、ひどすぎます! 魔物に襲われた村もあるのに!」
戦士「ふうーっ」
僧侶「戦士さん!」
戦士「自主的に生贄を捧げてる村だってあったんだろう。人間もひどい奴はひどいもんさ」
僧侶「そ、それは……」
戦士「それより、体を洗ってもいいかい?」
僧侶「むう~っ!」
ザバーッ。
僧侶「……うーん」
戦士「……なんだ?」
僧侶「本当だったらここで、『わあ~、戦士さんの肌って綺麗ですー!』とか『戦士さんってやっぱりグラマーなんですねー!』とか」
戦士「傷だらけだろう?」
僧侶「そうですねぇ、やっぱり、前線で戦ってるから……」
戦士「ああ、まあな。それほど胸も大きいわけじゃないし」
僧侶「おっぱいというより大胸筋ですもんねぇ」ニコニコ
戦士「……」
僧侶「あ、disってるわけじゃないんですよ!?」
戦士「まあ、僧侶もあまり無いものな、おっぱい」
僧侶「あ、ありますよ!」
戦士「幼児体型とは言わんが……」
僧侶「ななななに言ってるんですかー!」
僧侶「私は、その、ちょっと小さい頃、栄養不良でぇ!」
宿、女性部屋。
戦士「ん……?」
娘「こんばんはぁ~」
僧侶「えっと、あ、マッサージの方ですか?」
娘「そうですぅ~」
戦士「私は別にいい。体を見られたくもないし」
娘「え、え、でも……」
僧侶「あ、じゃあ、私が受けますよ! お願いしまーす!」
娘「本当にいいんですかぁ~?」
戦士「……」
娘「じゃあ、せめてこの安眠のお香でもぉ……」
戦士「ふーっ」
娘「あ、あのう……」グスッ
僧侶「別にいいんですよぉ、ぶっきらぼうですけど、優しいんですから」
娘「そ、そうですか~」
僧侶「ん、んー」
娘「どうですかぁ~、気持ちいいですかぁ~」
僧侶「あー、う、ん、んー」
僧侶「ふあ……」
僧侶(眠くなってきちゃった……)
娘「眠くなったら、そのまま寝ちゃってもいいですよぉ~」チラッ
戦士「……」
娘「ちゃんと、ベッドまで運んで上げますからね~」
僧侶「ん、ふぁ、あー、あ、あー」
娘「……」
戦士「……」グーグー
娘「……大丈夫ですからね~、悪いことにはきっとならないですからね~」
僧侶「んー……」スースー
娘「……大丈夫ですから」
夢魔「……どうだ?」
娘「オッケーです、みんな寝ちゃいました~」ヒソヒソ
夢魔「……勇者の方は?」
娘「宿についたら着のままで寝ちゃったそうです~」ヒソヒソ
夢魔「よし、よくやった」
娘「あと、おじいさんは……」
夢魔「そこまで気を回さなくてもいい」
娘「あ、あのう……」
夢魔「なんだね?」
娘「……わ、悪いコトはしないですよねぇ~」
夢魔「疑うのか?」
娘「い、いえ、そんなことは……」
夢魔「もちろんだ。ちょっと夢を見てもらうだけだ」
娘「ほっ」
夢魔「だが、その前に、君も夢を見た方が良さそうだな」
娘「え」
酒場。
魔法使い「……ふむ」
バニー「ねぇ~、おじいさん、もっと飲みましょうよ」
魔法使い「確かにうまいが、わしゃ酒はあまり好きではなくてなー」
マスター「ははは、そうおっしゃらずに。どうです?」
魔法使い「女の子はかわいいのう。わしゃ、かわいい子は大好きじゃ」サワッ
バニー「やだー、おじいさんったら」
マスター「それにしても、この町はいい町でしょう」
魔法使い「そうかのう」
バニー「いいところよ~、魔王様も良くしてくれてるし」
魔法使い「ほっほ、バニーちゃんは魔王が好きなんじゃのう」
バニー「あ、えーと、そ、そうなのよ~」
魔法使い「わしは魔物も魔王も大嫌いでのう……すまんのう」
バニー「あ、あはは」
マスター「いやいや、おじいさんもいろいろあったんでしょう。わかりますよ」
魔法使い(本当に分かるのか?)
マスター「ですが、まあ、話せば分かるお方ですし、それこそ、人間の方がよほど……」
魔法使い「なんかあったのかい?」
マスター「ええ、まあ……こう、妻に濡れ衣を着せられましてね。生まれた町を追われることに……」
魔法使い「そりゃ、大変じゃったのう」
マスター「絶望して、魔物に食われてやろうと思っていたんですよ。そこでね」
魔法使い「そうかそうか」
バニー「人間なんか、最低よね」
魔法使い「バニーちゃんもなんかあったのかい?」
バニー「私は、その……」
魔法使い「ん? ん?」
バニー「なんでもない! 無理やり聞く人は嫌ーい」
魔法使い「ふーむ、突っぱねれば寂しそうな顔をするのにのう。ほんとにバニーちゃんじゃな」
バニー「な、なによ、もう!」
マスター「おじいさん、悪いことは言いませんよ」
魔法使い「んー?」
マスター「魔王退治なんて、無茶すぎますよ」
魔法使い「……」
マスター「まあ、その、もういい年でしょうし……お仲間にも言って」
魔法使い「ふーむ、そうじゃのう」
魔法使い「確かに、この町は栄えているな。魔王のおかげでな」
マスター「え、ええ……」
魔法使い「で、お前さんはここに来る冒険者たちに、みんなそういうことを言ってるのか」
マスター「ま、まあ、一応……何しろ、魔王退治に行った人は、誰も帰って来ませんでしたよ」
魔法使い「そうかそうか」
バニー「おじいさんも、無理しちゃダメだよ?」
魔法使い「バニーちゃんも優しいのう」
バニー「だ、だから……」
魔法使い「そうじゃのう」
魔法使い「そこまで言うなら、帰ろうかの」
マスター「え?」
魔法使い「どれ、お会計をしてくれんか」
マスター「えっと、え」
魔法使い「仲間に言わないといけないから、宿に帰るんじゃ」
魔法使い「ほれ、つり銭はいらんから」ジャラ
マスター「えっと……」
魔法使い「予想外みたいな顔をするでない。それとも、強引に引き止めるかい?」
バニー「お、おじいさん」
魔法使い「ふはははっ! 誰が薬を混ぜた酒なんかに引っかかるかよ」
魔法使い「心底説得するつもりなら、そんな下らんことをするもんじゃなかったな!」
マスター「あ……」
魔物「もういいぞ! 店主」
酒場に魔物が現れた!
キャー! ナニナニ、ドウシテマモノガ……
魔物「やはり、報告通り、ジジイが参謀役だったな」
魔法使い「ほうほう、なるほど、わしらのことを調べてあったというわけかい」ガタッ
マスター「ま、魔物の皆さん、こ、これは……」
バニー「あ、あの」
魔物「動くなジジイ! 動けばここにいる人間を殺すぞ!」
魔法使い「よもや、たった四人のために殺しにかかるとはな」
魔物「光栄だろう? さすがに塔や砦も落とされては、見過ごすわけにはいかなかったからな」
魔物「ほら、動くんじゃない!」
マスター「う、嘘だ……」
バニー「ど、どうして」
魔法使い「別に構わんぞ。殺しても」
マスバニ『!』
魔物「ほう」
魔法使い「親兄弟も、息子も友人も魔物に殺されたしの」
魔法使い「もちろん、一緒に逃げたお姉ちゃんたちも大体殺されたわ」
魔法使い「今更、少し知り合った連中を殺されてもどうってことはない」
魔物「貴様……それでも人間かっ!」
魔法使い「演技が下手じゃのう。まあ、そういうことでもええわい」
魔法使い「ジジイが一番恨みつらみが溜まっておるんじゃ。家族の仇を誰が忘れると?」
マスター「う、ぐ……」
魔法使い「うひゃひゃ、ほれ、爆発呪文」 どうっ!
バニー「きゃあっ!」
魔物「ま、待てっ、宿屋にいるお前の仲間がどうなってもいいのかっ!」
魔法使い「ほ……そういえばそうじゃったな」
魔法使い「……死んだらそれまでかのう」
魔物「おいっ!?」
チビ悪魔「いまだ、魔封じの杖!」 ムニョニョ
魔法使い「うおっ」
魔法使い「しもうた!」
チビ悪魔「ウケケ、ざまーみろっ」
魔物「でかしたっ」
魔法使い「うーむ、極大爆発呪文で酒場ごと吹っ飛ばすつもりじゃったのに……」
チビ悪魔「で、デストロイヤージジイめ」
魔法使い「こうなったら仕方があるまい。ほれ、爆弾石」コロコロ……
魔物「うわあっ」
魔法使い「今のうちに逃げるわい」
魔法使いは逃げ出した!
魔物「……? 何も、起きない」
マスター「……これ、ただの石ころですよ」
魔物「あ、あのジジイ!」
チビ悪魔「みんな追えーっ、逃がすなーっ!」
さかのぼって、宿屋。
勇者「……」グー、グー
夢魔A「寝てるな」
夢魔B「寝てますな」
夢魔A「睡眠を誘発する香というのはよく効くな」
夢魔B「人間に開発させた甲斐がありますな」
夢魔A「それで、えーと、勇者にはどんな夢がいいんだったか?」
夢魔B「悪夢ですな。とにかく、精神攻撃をして動きを鈍らせると」
夢魔A「で、他の魔物は?」
夢魔B「町に待機させております。なんでも、ジジイが一人、酒場に行ってしまったそうで」
夢魔A「ふーむ、全員就寝していればよかったがな」
夢魔B「一応、勝手に動かないように釘でも指しておきますか」
夢魔A「どうせ言うことを聞くまい……全く、戦闘に向いてないからと、我々を軽視しおって」
夢魔B「悪夢には睡眠呪文が必要ですからな……早いところ、勇者にかけてしまいましょう」
夢魔A「うむ。他の二人はすでに夢に囚われおったしな」
夢魔A「さあ、勇者よ……悪夢にうなされ、いっそ二度と還らぬほど、苦しむがよい……」
夢。
幼勇者『やあっ! たあっ!』
勇者父『……』
幼勇者『とうっ! てやっ!』
幼勇者『はあ、はあ』
勇者父『どうした、勇者。もうおしまいか』
幼勇者『お、お父さん……休ませて……』
勇者父『駄目だ。まだ日が高いし、ノルマも達成していない』
幼勇者『で、でも……』
勇者父『勇者よ。できないことを私は言っていない』
幼勇者『……』
勇者父『お前がたとえどんな道を進もうと、この先の世界は力が必要になる』
幼勇者『でも、僕はそんなに強くないよ……』
勇者父『なぜそんなことを言う?』
幼勇者『こないだの剣術大会、負けちゃったもん……』
勇者父『そういうこともある。あれは目安の一つだ』
幼勇者『ま、魔法試験だって、真ん中くらいだったし』
勇者父『私も魔法が得意とは言えない』
幼勇者『じゃあ、なんでこんなことさせるの? 僕よりもっと強い人ががんばればいいじゃない!』
勇者父『それは違う。これからは誰もが強くならなければ』
幼勇者『そんなの、わかんないよ!』
勇者父『別に人々を救うような人間になれとは言っていない』
勇者父『たとえば、母さんを守る時、力があれば……』
幼勇者『お、お父さんがやればいいじゃない』
勇者父『……』
幼勇者『お父さんが強いんだから、僕がやらなくても』
勇者父『私がいなくなったらどうする?』
幼勇者『え?』
勇者父『私がいなくなったら、お前はどうするのだ』
勇者父『母さんが殺されそうになっても、震えてじっとしているのか』
幼勇者『……』
勇者父『勇者よ。お前が救いたいと思った時、その力を手にしているとは限らないのだ』
勇者父『心に見合った力を手にしていなければ、たとえ勇気を起こしても、ただの無謀にしかならない』
勇者父『分かるか、強くならなければ!』
幼勇者『それは、お父さんが強いからでしょ』
幼勇者『強いから、そんなことが言えるんだ』
勇者父『……』
幼勇者『僕は弱いんだ、お父さんより、周りのみんなより、ずっと弱い……』
幼勇者『お母さんなんか守りたくないよ……誰かを助けたいなんて、思えないよ……』
勇者父『何を言ってるんだ!』ガシッ
幼勇者『うっ』
勇者父『勇者、お前は……!』
幼勇者『ほ、ら……振り払う、ことも、できな……』
勇者父『馬鹿なことを……! 大切な人を守れない悔しさを、お前は分からんのかっ!』
幼勇者『うああ、やめて……助けて……』
勇者母『あなた! 何しているの!』
勇者「うぐ、ぐぐぐぐ……」
夢魔A「効いてる、効いてる」
夢魔B「このまま目が覚めなければよいのですが」
夢魔A「しかし、どうやら親父の夢を見ているようだな」
夢魔B「あなたのお父様も、厳しい方でしたからな。こういう悪夢に心当たりは」
夢魔A「うわー、やめてくれ」
――どおぉん!
夢魔A「な、なんだっ!」
夢魔B「……外で戦闘が始まっているようですな」
夢魔A「なんだと!?」
夢魔A「くそー、勝手に動くなって言っただろうに!」
夢魔B「どうなさいますか」
夢魔A「中止するわけにもいかんが……」
夢魔B「別室の人間どももいますよ」
夢魔A「ど、どうしよう」
夢魔B「指揮権はあなたにあるのですよ」
夢魔A「ええい、こうなったら、まず勇者の夢をめちゃくちゃな感じに……」
勇者母『あなた! 何しているの!』
勇者父『お前は分からんのかっ!』
勇者『ぐうっ……』
勇者母『あなた!』
勇者父『強くならなければ!』
子ども『勇者って言われてるけど、大したことねぇな、こいつ』
勇者『ううう……』
子ども『だっせ、悔しかったら一本取ってみろよ』
男戦士『ほれみろ、七光りだ』
魔法使い『甘いのう、勇者』
武闘家『血筋って得だよな~』
戦士『バカ、勇者!』
幼勇者『誰かを助けたいなんて思えない』
勇者『ああああ』
幼勇者『僕は弱いんだ』
勇者『うあああああ』
子ども『おら、魔法使ってみろよ』
幼勇者『もっと強い人が』
勇者『いやだ、いやだ、いやだ』
僧侶『……大丈夫です』
僧侶『大丈夫ですよ! 私達なら!』
勇者『あ』
戦士『私を信用してないのかっ!』
勇者『あ、あ』
魔法使い『お前さんは、親父よりはマシだな』
勇者『うあ』
勇者母『勇者、逃げなさい!』
勇者『』
――勇者は跳ね起きた!
夢魔A「うおっ!?」
夢魔B「な、なに!」
勇者「ううううううううううう」
夢魔A「ちょっと待て! ストップ!」
夢魔B「に、逃げますぞ!」
勇者「ああああああああああっ! 助ける、俺が助けるんだああああああああああ!」
勇者は剣を掴むと、魔物に襲いかかった!
勇者の攻撃!
夢魔A「ぐわあっ!」
夢魔B「くっ、こ、こちらです、早く!」
勇者の攻撃!
勇者の攻撃!
勇者の攻撃!
勇者の攻撃!
別室。
戦士「……お兄ちゃん」
戦士「どこにもいかないでよぉ……」
僧侶「うう……ごめんなさい……」
僧侶「もうしませんから……許してください」
勇者の攻撃! 扉が音を立てて吹き飛んだ!
戦・僧「!?」
勇者「うああああああああっ!」
勇者「助けるんだ! 俺がぁあっ!」ダダダッ
戦士「え、え、なに」
僧侶「ふぁっ!?」
戦士「なんだ、頭が、痺れてる……」
僧侶「ああ、眠気、覚ましぃ、呪文っ!」パッ
戦士、僧侶、そして娘の眠気が吹き飛んだ!
戦士「どうしたっ!? 何があった!?」
僧侶「わ、分かりません……勇者さまがいたような……」
戦士「おい、娘!」
娘「あ、あ……」
戦士「何があったのか分かるか!」
娘「ご、ごめんなさい……戦士様、僧侶様……」
戦士「謝るな! 何があったのかだけ言ってくれ!」
娘「この町は、冒険者を捕らえる、罠なんです……」
僧侶「ええっ!?」
戦士「……ああ、そういうことかっ。くそっ、油断した!」
娘「ごめんなさい、町には手出ししないって、ずっと言ってたのに……」
娘「今回は、入り込んで、逆らえなくて……」
僧侶「い、いいんですよ、それは」
戦士「おい、町中で戦闘しているぞ!」
娘「あ、ああ! そんな!」
僧侶「加勢しなくては!」
戦士「武器を持って来い! まさか奪われてないだろうな!?」
僧侶「だ、大丈夫です!」
戦士「縛られもしてない……なめられていたのか、自信があったのか……」
僧侶「あ! 魔法使いさんが!」
戦士「くそっ、おい、娘!」
娘「はい、はいぃ~」
戦士「いいから隠れていろ! 宿が襲われそうなら、全力で逃げろ!」
娘「わ、私、皆さんを……陥れようとぉ」
僧侶「今は罪を問いません! とにかく隠れていてください!」
娘「わ、私」
戦士「急ぐぞ、僧侶!」
僧侶「はい! いいですか、気に病む前に、ちゃんと生き延びるんですよっ」
娘「は、はい」
今夜はここまで。あともう一回くらいで終わらせたい。
どう考えても人間同士で足を引っ張ってる件について。
乙
とても人間らしくて良いと思うけどな
人間なんてそんなもんだろ
乙
おっつん
あと一回で完結なのか、魔王に飼われた町編が終わりなのか…?(゚Д゚)
乙
魔王はロマサガ好きみたいだな
期待
出来れば今日中に投下したい。
それにしても、どうして書くたびに根暗シナリオになってしまうのか……
深くていいんじゃない?
広場。
戦士「くそっ、多くはないが、かなり入り込んでるな!」
僧侶「戦士さん、あっちに勇者様が!」
戦士「う!」
勇者の攻撃! 魔物は反撃を繰り出した!
勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
魔物「うおおおお! 怯むなああああ!」
チビ悪魔「数では勝ってるんだぞー!」
勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
僧侶「ち、血だらけですよ!?」
戦士「まずい、回復を忘れてるのか」
僧侶「私、行きます!」
戦士「おい待て! ……ジジイはどうしたんだ?」
僧侶「えっと……ああ!」
僧侶「どうしましょう!? 勇者様の足元……!」
戦士「あっちもぶっ倒れてるかっ、急がないとまずいな!」
戦士「僧侶! 私が引き付けるから、お前は左から回り込め!」
僧侶「はい!!」タタタッ
戦士「……」
戦士「こちとら腕を見込まれて雇われた傭兵だ……」
戦士「腕の見せ所ってのはこういうときなんだろうな」
戦士は大剣を構えて、魔物に襲いかかった!
魔物は驚き戸惑っている!
戦士「うらあっ!」ギイィン!
戦士「よーし、こっちだ! こっちにも相手がいるぞ!!」
魔物「な、なんだと……夢魔のやつらは何をやっていたのだ!」
戦士「夢? ……やっぱりあの夢は連中の仕業か、くそっ」
戦士「どうした!? 魔王の配下ってのはこんなに弱くていいのかっ!」
チビ悪魔「……まずいっすよ」
魔物「どうした!?」
チビ悪魔「町の連中も抵抗するような素振りを見せてるっす」
魔物「ち……恩知らずな連中め!」
魔物「どうせなら、やつらを取り押さえる壁にでもなれば役に立つものを!」
チビ悪魔「どうしましょう」
魔物「夢魔の連中も失敗したのに、これ以上戦えるかっ」
チビ悪魔「ああ~、失敗したらボーナスなしだぁ」
魔物「それだけで済みゃいいがな、くそっくそっ」
魔物「撤退するぞ、撤退ー!」
チビ悪魔「逃げるぞー! 散れ散れー!」
ドドドドドド……
戦士「はあーっ、はあーっ」
僧侶「戦士さぁん!」
戦士「……ああ、僧侶。意外と撤退が早かったな」
僧侶「多分、魔法使いさんと勇者様が、押していたから」
戦士「そうだ、勇者は? 魔法使いは?」
僧侶「そ、それが……」
勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
勇者は誰も居ないところで剣を振っている……
戦士「勇者……!」
僧侶「あ、危なくて、私じゃ」
戦士「ちっ、バカやろっ」
戦士の攻撃! 勇者の剣を受け止めた!
戦士「勇者! もう魔物はいないぞ!」
勇者「うわああああああ」
戦士「落ち着け、どうどう、大丈夫だ!」
勇者「うぐぐぐぐぐ……」
戦士「よし、ほら、動くんじゃない」
戦士「ぎゅーってしてやるから、大丈夫だ、血まみれなんか怖くない……」
勇者「ううううぅぅ」
戦士「……よしよし」
戦士「よくやったな。お前はよくやったよ」ぎゅーっ
勇者「うう……」
戦士「……」
僧侶「あのう」
戦士「な、なんだ!?」
僧侶「魔法使いさんが、危険な状態なんです!」
戦士「なんだって」
僧侶「すでに魔物の攻撃をかなり受けていたみたいで……」
戦士「どれ……」
僧侶「回復呪文はかけたんですが、すでに流れた出血が」
戦士「うっ……! もろに受けたな、これは」
戦士「ジジイが、一人で戦おうとするから」
僧侶「ど、どうしましょう、私一人の回復呪文じゃ」
戦士「とにかく、宿に運ぼう」
僧侶「大丈夫でしょうか」
戦士「まさか、町の近くでテントを張って野宿するわけにもいくまい」
僧侶「でも、この町の人は」
戦士「……私が見張りをやる。とにかく多少なりとも安静にできる場所がいい」
宿屋。
娘「み、みなさん」
戦士「もう、魔物はいないぞ」
娘「そ、そうですかぁ~……」
僧侶「あの、宿に怪我人を運ばせてもらっても良いですか!? 一刻を争いますので!」
娘「は、はいぃ」
僧侶「回復呪文じゃ足りません、水と、包帯、なければシーツを貸してください!」
娘「わ、わ、わかりましたぁ!」パタパタ
戦士「僧侶」
僧侶「戦士さんは、二人をベッドまで運んでくださいね!」
戦士「分かった。他に何か必要なものは」
僧侶「魔法使いさんが危険です、考えたんですが、蘇生呪文を使いますので」
僧侶「ただし、成功率が低いので、その……」
戦士「分かった。魔法水を持ってこよう」
僧侶「お願いします!」
そして、夜が明けた――
魔法使い「……」
僧侶「クー、スー」
戦士「ヌグ、ぐぅぅぅ」
魔法使い「……」
娘「……スピー」
魔法使い「……なんじゃ、まだ生きとったか」
魔法使い「やはり女の子に囲まれて起きる目覚めは良いのう」
魔法使い「……」
魔法使い「勇者がおらんようじゃな」
戦士「ん……」
魔法使い「おはようさん」
戦士「んー……あ、お、まえ」
魔法使い「よだれついとるぞ」
戦士「ジジイ! 目が覚めたんなら言え!」
魔法使い「今、起きたばかりじゃわい。うるさいのう」
戦士「痛みはあるか」
魔法使い「まったく動く気になれん。口は回るがの」
魔法使い「ああー、女の子の尻を触ったら回復するかもしれんのう」
戦士「そんだけ喋れるなら、大丈夫だろう」
魔法使い「ほっほ」
戦士「……僧侶に感謝しろよ。慣れない蘇生呪文をかけたんだから」
魔法使い「老い先短いジジイにありがたいことじゃ」
戦士「……」
魔法使い「すまんな。本気で恩に着る」
戦士「ちゃんと僧侶にも言えよ」
魔法使い「わかっとるわかっとる」
魔法使い「で、勇者は?」
戦士「……」
戦士「向こうの端っこのベッドにいる」
魔法使い「なに、あんな隅にいたんかい」
魔法使い「おうい、勇者よ。昨日は助かったわい」
勇者「……」ガタガタガタ
魔法使い「……なんじゃ?」
戦士「いや、傷は決して浅くはなかったが、回復呪文も効いたし……」
戦士「ただ、夜中からずっとそうして震えているんだ……」
僧侶「……あ、お、じいさん」
魔法使い「おう、僧侶ちゃん。昨日は頑張ったみたいじゃの」
僧侶「いえ、私は……不覚を取って眠らされてしまいましたし」
戦士「うっ、それは、私も……」
魔法使い「情けないのう」
戦士「そういうお前も、苦戦していたじゃないか」
魔法使い「うっかり魔封じ食らったんじゃ。テヘペロ」
戦士「ふん! 魔王の居城も近いのに、油断し過ぎていた」
僧侶「うう……面目ないです……」
魔法使い「さて、ここが魔物を呼び込む町とわかれば、とっととおさらばしたいところじゃがな……」
戦士「……勇者!」
勇者「……」ガタガタガタ
魔法使い「どうしたっちゅうんじゃい」
僧侶「そ、それがですねぇ」
魔法使い「なるほど。夢魔に悪夢を見せられたと」
僧侶「わ、私は、皆さんに置いてかれる夢を見まして」
戦士「……」
魔法使い「戦士ちゃんは何を見せられたのかのう」
戦士「覚えてない!」
魔法使い「じゃが、勇者があんな振動物になったのも、その夢のせいじゃろ」
魔法使い「それぞれどんなものを見せられたか、知らんと」
戦士「わ、笑うなよ」
魔法使い「はよ」
戦士「……兄に」
魔法使い「ふむふむ」
戦士「兄に突き放される夢だ! はい、言ったぞ!」
魔法使い「戦士はブラコンだったんじゃな」
戦士「うるさい!」
僧侶「あの……すみません、私、さっきのは嘘でして」
魔法使い「ほう?」
戦士「な、なんだと。聖職者のくせに」
僧侶「うっ、す、すみません……」
魔法使い「はよはよ」
僧侶「あああの、この事は何度も神に告白したことなのですが、人に話したことはなくてですね」
戦士「……言い難いことなのか」
僧侶「……すー、はー」
僧侶「そ、うです」
僧侶「私、小さい頃から修道院にいまして……」
戦士「うん」
僧侶「……」
僧侶「よくいじめてきた子を、町の外に出た時、置き去りにしたんです……」
魔法使い「なるほど」
戦士「えっと……それが、悪夢なのか?」
僧侶「……」
僧侶「それで、そのことでこっぴどく叱られましてね!」
僧侶「私、もう、世界を救うような人間にならなきゃ、もうこれはダメなんじゃないかっていう!」
僧侶「その、叱られてる時の悪夢が、わーって!」
魔法使い「分かった分かった。十分じゃ」
僧侶「そ、そうですか?」
魔法使い「要するに、トラウマになっている過去の出来事を、悪夢として呼び起こされたんじゃな」
魔法使い「勇者の場合は、それが極端に操られたに違いない。だから、爆発した」
戦士「……それで、あんな風に暴走したのか」
僧侶「すごかったですよね……」
魔法使い「その後遺症がひどいんじゃろう」
戦士「つまり、その、どうすればいいんだ」
魔法使い「しばらく待ってみるしかないんじゃないのか」
僧侶「そんな! ここまで来て!」
魔法使い「そうは言ってものう、わしゃ勇者のトラウマなんぞ知らんし」
戦士「お前、確か父親と親交があったんだろ、何か知らないのか」
魔法使い「……知らんな」
戦士「何か手がかりになるようなことでもいいから」
魔法使い「それに、知ってどうする? 勇者のトラウマをわしらがほじくり返して、さあ、すぐ目の前にラスボスだ、早く乗り越えろ、と声をかけるのか?」
僧侶「そんなこと!」
戦士「だが、ここに長居はできまい」
僧侶「そうですよ! 魔物と仲良くしてる町で、私達が……あ」
娘「……」
娘「あのぅ~、私のことなら、気になさらないでぇ~」
魔法使い「そうじゃな。気にしても仕方あるまい」
戦士「……いずれにせよ、長居できないのは変わりないだろう」
魔法使い「そうじゃな」
僧侶「う、うう、そうですか」
魔法使い「……」
戦士「……」
僧侶「……」
魔法使い「ここいらが潮時かもしれんな」
戦士「な、なに」
僧侶「な、なんですか!?」
魔法使い「ここでパーティーは解散するかいなっちゅうことじゃ」
戦士「なぜだ?」
魔法使い「ちょっと考えれば分かるじゃろう」
魔法使い「敵方は、明らかにこちらを調査しとる」
魔法使い「指揮系統がうまくいかなかったから失敗したんじゃろうが、もしわしが町の人も巻き添える気がなかったら、まず全滅しとった」
戦士「そ、それは……」
僧侶「ゆ、勇者様が打開したじゃないですか!」
魔法使い「その結果が部屋の片隅でぶるぶる震えている姿じゃな」
魔法使い「おそらく、精神攻撃が有効とわかれば、罠の類もそういう方向へ張り出すじゃろ」
戦士「……」
魔法使い「お前さん方、もう一度あの夢を見せられたら、打ち克つ自信はあるかね?」
僧侶「……!」
魔法使い「勇者も同じ事じゃな。今回は妙な方向へ爆発したからまだしも、それがうまくいくとは限らん」
魔法使い「現に、わしは致命傷に近い傷を受けたんじゃろ?」
僧侶「……遅れていれば、助かりませんでした」
魔法使い「……ま、それならそれでもな」ボソ
戦士「本気で、魔王討伐をやめるつもりか!?」
僧侶「き、傷を癒せば、トラウマを乗り越えれば……」
魔法使い「時間もないと思うがの」
僧侶「ど、どうしてですか!」
魔法使い「魔王は明らかに暴力による直接支配から、間接支配にシフトしつつある」
戦士「いや、それは、この町だから……」
魔法使い「ほれ、大陸をわたってから来たお城。兵士が弱っちかったあそこ」
戦士「ああ、あったな」
魔法使い「ま、わしはあそこの王と知り合いじゃから察知したが、魔王軍と交易しとるな」
僧侶「な、なんですって!?」
魔法使い「町の城壁にあった傷に、新しいものが少なかったしの。周りの魔物はそれなりに強かったのに」
魔法使い「その上、兵士も弱くなっているといえば、もう分かるじゃろ」
戦士「実際に、魔物と戦ってないってことか……」
僧侶「そんな馬鹿な話が……」
魔法使い「そうなると、一気に倒してしまわん限り、時間を与えれば悪化するばかりじゃ」
魔法使い「時間を与えれば、魔物と同盟するのも悪くはない、と考える人も国も増える」
戦士「……」
魔法使い「じゃから、もうパーティーは解散してしまって……」
勇者「……ま、まだだ」ガタガタ
戦士「勇者!」
僧侶「勇者様!」
勇者「お、俺は、大丈夫だ、みんなを、守る」ガタガタ
勇者「せ、世界を、救うんだ。俺が、みんなを助けるんだ、こんどこそ」ガタガタガタ
魔法使い「……」
勇者「ま、魔法使いの体力が戻ったら、出発、しよう」
戦士「何言ってるんだ」
僧侶「そうですよ! そんな真っ青な顔で」
魔法使い「……勇者」
勇者「す、すまない。俺は、がんばる、あと少し、ついてきてくれ……」ガタガタガタ
魔法使い「やめてもいいんじゃよ」
勇者「は、は?」
魔法使い「世界なんぞ救わんでもいい。わしらも、自分の身くらいは自分で守れる」
魔法使い「そんな下らんことで自分を追い詰めんでもいい」
勇者「……」
戦士「お前……」
僧侶「……」
魔法使い「わしゃ、女の子と楽しく遊びたいんじゃ。そんな暗い顔をしとったら、素直に楽しめんわい」
魔法使い「お前の親父は、いろいろ言ったかもしれんがな、お前はお前じゃ」
魔法使い「もっと正直に生きていいんじゃ。本当に」
戦士「ふ、ふざけん……」
勇者「魔法使い」ブルブル
勇者「……俺は、勇者以外に、やることはないんだ」
魔法使い「そうでもないぞ? ほれ、かわいい女の子が周りに居るぞ」
魔法使い「こいつらを手篭めにしてもよし、名前を売って、姫様を貰い受けるもよし」
勇者「いや」
勇者「……俺は、弱いんだ」
勇者「たとえ、誰かを嫁にもらっても、怖くて、きっと一緒にいられない」
戦士「な、なんで」
勇者「俺は、母さんを亡くしたんだ」
勇者「弱かったせいだ」
勇者「いつものように親父と特訓していて、口答えした」
勇者「そうしたら、いつも冷静な親父が、その日はなんか切れ始めて、俺を締めあげて」
勇者「……母さんがそれを止めた」
勇者「俺は逃げ出して、町の外に出た」
勇者「そこで、魔物に襲われたんだ」
勇者「魔物は強かった。俺だって、どこでも一位になったことはないけど、少しは戦えるんじゃないかって思ってた」
勇者「でも、あっという間にボコボコに殴られて……」
勇者「気づいたら、母さんが、俺を庇ってくれていた」
勇者「俺を逃がしてくれて、俺は親父を呼びに戻った」
勇者「親父は、一歩、遅かったみたいだ」
勇者「ケンカしていたから、まさか町の外に出ていったと思わなかったらしい……」
勇者「俺が、その場で、助けていれば」
勇者「それから、親父も行方不明になり……」
勇者「あとに残ったのは、もう、勇者になるしかなかった」
勇者「何が何でも、少しでも前に進んで」
勇者「死ぬなら死ぬでいいと思ってた」
勇者「み、みんなに、出会ってから……」
勇者「……」
勇者「ここまで来れるとは思わなかった」
勇者「気づいたんだ。なんで、ここまでって……」
勇者「親父よりも強くない自分がどうして」
勇者「仲間が、みんな強かったんだ」
勇者「お、俺は……」
勇者「パーティーの中で一番弱かった」
勇者「……」
勇者「みんなが羨ましかった」
勇者「大嫌いだった。憎かった」
勇者「戦士は最初からすごくカッコ良かった。何かおかしなことがあればすぐに怒って、叱っていた」
勇者「穴だらけの俺の作戦や行動を、魔法使いは知識と経験で補ってくれたし、見守ってくれた」
勇者「僧侶は、本当に優しかった。俺が冷めた目で見ているやつらを、助けようって本気で走りよっていくんだ」
勇者「俺は、みんなの剣の腕にも、魔法の威力にも、回復呪文にも劣っているばかりじゃない」
勇者「みんなの心が眩しかった」
勇者「俺は、弱くても勇者を続けようとしたのは……」
勇者「母さんが、父さんが、それで許してくれるんじゃないかって……」
勇者「ずっと自分のことばかりだったんだ」
勇者「……ただ、ずっと旅していくうちに」
勇者「俺は、みんなが嫌いなだけじゃなくて……」
勇者「……」
勇者「好きになっていた」
勇者「できるなら、魔王を倒して勇者をやりきったなら」
勇者「世界を救って、みんなを守れた自分なら」
勇者「こんどこそ……もっとみんなの助けになれるような、自分になれるんじゃないかって」
勇者「……」
勇者「だから、あと少しだから」
勇者「もう少しだけ……」
戦士「バカ勇者」
勇者「……」
戦士「お前はな、自分がどのくらい強いのか、知らないだろう」
戦士「私が、前のパーティーに解雇されてくさっていた時、拾われて、どれくらい救われたか!」
戦士「お、お兄ちゃんみたいな、ことを言って、励ましてくれたの、覚えてないだろう」
戦士「お前な、私が、お前のこと、どのくらい頼りにしてるか、知らないだろう」
戦士「知ってたら、そんな、自分はダメだみたいなこと、言わないからな」
僧侶「そうですよ!」
僧侶「私は、勇者様がいなかったら、ただの、ただの乱暴者で」
僧侶「私が誰かを助けたいと思えるの、勇者様と一緒にいられるからなんです!」
僧侶「贖罪だけじゃなくて、本当に、誰かを助けたいって思えたのは……」
僧侶「私は勇者様が好きですから!」
僧侶「いっぱい嫌われていても、あ、あ、す、好きですから!」
魔法使い「……だそうじゃ」
勇者「お、俺は」
魔法使い「勇者よ」
勇者「う、お」
魔法使い「わしの方が自分勝手なんじゃがの」
勇者「な、何が」
魔法使い「……家族の仇も取るつもりで、魔王退治に出かけたんじゃがな」
勇者「……」
魔法使い「お前が辛いまま、魔王城に出向くつもりなら、パーティー解散して、わし一人で行くつもりじゃった」
勇者「な、あ……」
魔法使い「まあ、聞け。お前を肉盾にして利用するつもりもあったしのう」
魔法使い「だから、お前がわしに恩義を感じる必要性はどこにもない」
魔法使い「ただ、ま、今の気分では……」
魔法使い「お前のために戦ってやりたい、というのも、一割くらい?」
勇者「……」
勇者「俺は、その」
戦士「勇者、改めてお願いする」
戦士「私を、最後まで雇ってくれ」
勇者「……」
魔法使い「わしも頼む」
魔法使い「ほれ、わしがおらんと全滅してしまうじゃろ」
勇者「……」
僧侶「勇者様、私も」
僧侶「きっと、私達、一緒じゃないと強くなれないです」
勇者「……」
勇者「……うん」
娘「あのぉ」
勇者「う、ああ、ごめん」
娘「私も、謝ります」
娘「これが~、役に立つって、聞いていたから……」
娘「でも、違ったんですね……」
戦士「……眠らせたことは許せないが」
魔法使い「それより、わしらが魔王を倒してしまうからの」
魔法使い「魔物依存経済から抜け出しといたほうがええぞ」
僧侶「もう、魔法使いさん!」
魔法使い「ホントのことじゃ」
勇者「……そうだね」
勇者「ふうーっ、ふっ」
勇者「よし、よし……」
勇者「……」
勇者「よし、宿屋の娘さん。馬車を調達できる?」
娘「え、ええ~、はい」
勇者「……馬車は運転できる?」
戦士「勇者、まさか」
勇者「こうなったら、とことん利用させてもらうけど、いい?」
娘「……」
娘「分かりましたぁ~、私も、覚悟します」
魔法使い「馬車でどうするつもりじゃ?」
勇者「うん。移動力を上げることと、ちょっといろいろ城攻めの道具を運べないかなって」
僧侶「ま、町の人を利用するつもりですか!?」
勇者「相手も罠をしかけて来るはずだから、ド派手なのが一番いいと思う」
魔法使い「ふむ。爆弾石でも集めるかのう」
勇者「いいね。一泡吹かせてやろう」
戦士「ふう……ま、馬車内で休憩も出来ればいいが」
勇者「よし、魔王を倒す準備だ!」
全員『おう!』
……彼らが世界を救うまで、あと少し。
これで終わりです。
ふー。
乙
乙
これは良い根暗シナリオ
うん。
これこれ!
暗いと言うけど這いつくばって起き上がろうとする勇者はこの作者さんは上手だわい( ´ ▽ ` )ノお疲れ様
いれ忘れ。
側近「魔王様」
魔王「どうした?」
側近「夢魔の部隊が勇者にやられました」
魔王「やっぱりダメか……」
側近「報告では『俺は悪くねぇ!』と」
魔王「そういうのいいから!」
側近「ちなみに戦死」
魔王「あ、そう」
側近「どうなさいますか?」
魔王「どうするもなにも、ここまできたら城で迎えうつしかあるまい」
側近「はっ、では兵を召集してまいります」
魔王「よろしく」
魔王「……」
魔王「ああああ、やってられんわ! 大魔王様に叱られるぅ!」ゴロゴロゴロ
魔王「こないだも兵士の負傷率にケチつけられたのにぃ!」ジタバタ
魔王「大体、俺は四人の魔王の中で一番弱いんだから、しょうがねーじゃん!」ゴロゴロゴロ
魔王「ハァハァ……」
魔王「……魔王って孤独だよな」
その後、魔王は倒されて、世界に平和が戻った。
おい・・・おい!!
いやいや
どうしてこうなった…(゚Д゚)
おい、ちょっと待て
オチはつけるべきかと思って……
一応、これでおしまいです。
次作もお暇でしたら。
えっ
これからって時に終わるスレ増えたな
は?
は?
は?
え?
これは>>1の盛大なボケだろ
もちろん続きあるんだよな?な?
よいんがあるラストと思えばよいんじゃね?
おい
おい
えっ?
打ち切りなの!?
ってか魔王倒して「何かを成し遂げた」アトの4人を書いてくんなきゃ、物語として成立しないじゃん!!
ぶっちゃけ魔王サイドの顛末なんか書かれてもオチになんないよ?
残念な終わり方だ
内容が良いだけにラストのガッカリ感が…
取り敢えず乙
続き気になってwktkして開いてみたら終わりが・・・でも面白かったです>>1乙
こんなんにもとりあえず賞賛しちゃうから質が劣化していくばっかりなんじゃねーのwwwwwww
読んで損したわ
落ちの付け方が酷いぞ
途中まですごくよくかけてると思ったのにちょっと勿体無い
盛り上がってきて、最高のクライマックスに向かうと思った途端クライマックス直前で辞めちゃう。
盛り上がらずに適当に最終戦の開始と同時に打ち切られるジャンプとは違ってあまりに勿体無い
反響ありがとうございます、と言っていいのか……
最初からそうですけど、このSSは魔王を倒すのが目的じゃなくて、仲間ーとかそういうところを書きたかったので、こんな感じです
パーティーの仲が最悪です的なのは定番と思ってたので……
魔王サイドを少しだけ持ってきたのは、その対比として必要かなと
これ以上書くとタイトルから外れるし、蛇足かなって思うんですがそうでもないんですかね
起承転結の結がない、あるいは序破急の急がない状態じゃないのかコレは
乙乙。SS板なんだから本編の存在しない外伝的な物の詰め合わせも当然アリだと思う
スレタイそのままの分かりやすいテーマだったし問題ないよ
また頼むわ
乙です
皆さんも言ってる通りここまでしっかり描写してきてラストこの投げっぷりはあり得ないというか勿体無いです。
当初の構想には無いかもしれませんが魔王戦とその後のPTの様子が見てみたいです。
もしここで終わらせるのであれば大魔王とか他の魔王は全くの蛇足かと。
もちろんご自分の中で終わったのであれば無理強いすることはできませんが…
はやく僧侶とセクロスさせろ
>>242
ぜんぜん蛇足じゃなくって、
「パーティーで一番弱い」と思ってた勇者が魔王戦を経てどう考えるようになったのか、
「弱い」と思ったままなのかそれとも何か変わったのか
「弱い」と思ったままなら何故それで納得したのかまで書いて
初めて「物語のキレイな終わり」って言えるんじゃないかな?
ってかそこまで書かないと、タイトルがさっぱり生きてこないと思うんだケド
最初からずっとおもしろかったから、ここで終わっちゃうのはホントに残念
蛇足どころかこのままじゃ中途半端の極みだよね
どうやら独特な感性をお持ちのようだけどここで終わりっていうのはあまりにも不自然
俺たちの戦いはこれからだ ← 打ち切り
俺たちの戦いの為の準備はこれからだ ← 打ち切りですらない途中で止まってるだけ
さあ! キーボードを打つ作業に戻るんだ!
AV見てどのタイミングで出すのか議論してるのと同じだな
ここで終わらせるとかこれほどカスな書き手久しぶりに見たわ
なるほど。タイトルに「フェラチオシーン総集編たっぷり120分」
とか書いてあるビデオを買っといて「本番がない!駄作だ!」
とか言ってるわけやね。なっとく…
いや、全然違うと思うよ。なるほどー
>>253
お前w何言ってんのwww
馬鹿じゃね?
ここで終わりでもアリだと思う
けどやっぱどうせなら魔王[ピーーー]ぜーってとこまで読みたいってのも本音
>>253
アスペ
では、もう少し書きます。ただ、魔王戦後の方が長く書くことになりそう。
もう少しお待ちください。
把握
続き把握
これで終わりってのもアリちゃあアリだけど
打ち切りENDみたいな終わりかたはちょっとねえ
つうわけで期待
期待
おおっ、書いてくれるかwwww
期待してる!
>>258
魔王戦を勇者の成長に使ったりもあるけど大魔王とか残り三人の魔王まで出しちゃったから
風呂敷広げすぎっちゃ広げすぎかもしれないけど頑張れー
今折角盛り上がってきたのにこのオチはべーよ
続き思いつかなかったからこれで打ち切りなすまんって言われたほうがまだマシなレベル
>>264
書くって言ってんだからもういいじゃないか
あら結局続くのか
外野の意見なんか無視して終わりでもよかったと思うけどな
夜。
勇者「なあ、こんな重装備はいいよ」
戦士「バカを言うな。最終決戦だぞ、最終決戦」
魔法使い「最終じゃなかったらどうするんかいのう」
戦士「だったら、まだ使いドコロがあるってことだ」
勇者「でもな……」
僧侶「勇者様、その、でも、魔王軍も強敵です! 皮製の鎧では……!」
勇者「魔法のかかった兜があるから、大丈夫だと思うんだが」
戦士「いいわけあるか。皮鎧に軽金属を貼っつけただけでやり過ごしていたとか知らんかったわ」
魔法使い「道理でよく出血していると思ったわい」
勇者「いや、節約を……」
戦士「何度も言うが、お前が一番体力もあり、今度の作戦の中心なんだ。きちんと防具も整えろ」
勇者「お、おう」
僧侶「それに、かっこいいですう! この鎧! 勇者様に惚れ直しちゃいます!!」
勇者「そ、そうか」
女商人「決戦前だっていうのに、惚気ないでほしいわ」
僧侶「惚気てません! 単なる感想です!」
勇者「悪いな、商ちゃん。良い装備をかき集めてもらって」
女商人「……むしろ、今までそんな装備で大丈夫だったのかと」
勇者「他にもいろいろ運んでもらったしな」
女商人「移動呪文を使ってもらったのは一度きりでしたからね。移動にかかった費用は全額請求しますよ」
勇者「もちろんだ」
女商人「……精霊の鎧、竜鱗の手甲、その他の値がつけにくい商品も含めて、お得な十二万ぽっきり」
勇者「商ちゃんは商売上手だな」
戦士(といつつ、半分は国債券で支払いとかな……)
女商人(散々粘ってたくせに、どの口が言うんだか)
女商人「それよりも、本気なの?」
勇者「何がだ」
女商人「魔王を倒す決戦なのはいいけど、その……」
勇者「ああ、ここまででいいよ」
女商人「そうじゃなくてね? 半分はその、馬車に積み替えしたけど」
勇者「そりゃ、馬車に入りきらなかったんだから、しょうがないだろ」
女商人「あんたたちも止めなさいよ。なんで馬車に積むレベルの荷物をこいつ一人に持たせるのよ」
勇者「ん?」 ずっしり
戦士「……馬並みか」ニヤ
僧侶「正直、勇者様の体の構造が知りたいです」
魔法使い「意外と何とかなったのう」
女商人「何とかなってないでしょ!? あとうまいこと言ってないわよ、戦士!」
女商人「ねぇ、本当に必要なものなの? 爆弾石大砲とか」
魔法使い「そりゃまあな」
勇者「一応、図示しておくとだな……」
親分「おう、こことここと、ここ。三ヶ所だな、でっかい魔物がいたのは」
勇者「うん。三枚の壁と化している。つまり、真正面から入るなら三連戦しなくちゃならない」
親分「周囲から攻めるのは無理だぜ……自然の要害と化している」
親分「俺達みたいな潜入のプロでも、効率を考えるとそんなルートは取れない」
女商人「あ、はい」
勇者「というわけで、やっぱり体力温存のためにも、大火力で3つほど門をぶっ飛ばす」
戦士「おかしいよな」
僧侶「派手な花火を打ち上げるわけですね!!」
女商人「……それより、親分がここにいることに疑問を持つべきなわけ? 私は」
勇者「盗賊たちには、城門と正面の館をぶっ飛ばしたあと、囮として爆発を定期的に起こしてもらいたい」
盗賊たち『おう!』
勇者「報酬だけど、魔王城の内部の獲物は好きにしていいよ」
親分「へへ、あんたなら魔王くらい、簡単に倒せそうな気がするからな」
女商人「……」
女商人「勇者。私もやっぱり、荷物運びをやるわ。大砲背負った勇者なんか様にならないわよ」
勇者「え? いや」
女商人「大丈夫よ、ちゃんと報酬も請求するし」
女商人「何より、その、あんた一人でそんなに荷物を持つことないわ」
勇者「そうか……ありがとう、商ちゃん」
女商人「いい加減、商ちゃんはやめて」
僧侶「……ふん! 勇者様を騙そうとしていたくせに」
戦士「まったくだな」
魔法使い「ほっほ」
勇者「なら、盗賊たちは、娘さんと女商人の護衛も」
親分「構わんぞ。その……まあ、知らん間ではないしな」
女商人「……よろしく」
親分「ああ」
勇者「さて、と。もう行くかな」
女商人「よ、夜に行動するわけ?」
勇者「ああ。夜目のきく魔物はそれほど多くないらしいし」
魔法使い「行動は早いほうがいいしの」
戦士「まったくだ。これだけの準備とはいえ、少し時間がかかった」
僧侶「ごくっ」
勇者「行こう」
女商人「……」
女商人(はぁ、かっこ良くなっちゃって……)
魔王城。
魔王「側近、いるか」
側近「ここに」
魔王「うむ、軍の配置は済んだか」
側近「計画上ではまだです。最大限、集められる連中は集めましたが」
魔王「ええと、幹部クラスは角悪魔の娘と、機械竜か。この巨大スライムというのは?」
側近「新型です。大魔王様が試しに使えと」
魔王(まーた上司の思いつきかよ……)
側近「それから勇者の動向ですが……」
魔王「判明したのか?」
側近「それが、例の町の住民が口を閉ざすばかりで」
魔王「それ以外にも探す方法くらいはあるだろう!」
側近「偵察部隊によれば、人の出入りが多くなってきて、どれが勇者だか分からないと」
魔王「そんな馬鹿な話があるか」
側近「マジです。例の町で食い止めていた冒険者が、魔王城にまで近寄ってきていることもあります」
魔王「くそっ、北の城もつながりを残しておいたのが裏目に出たかな」
側近「それと、一部部隊で、無理やり任地から召集をかけたことで、不満が上がっています」
側近「現地の方からも、いつ次の増員が来るのかと」
魔王「ほうっておけ! どのみちここが潰されたら人界侵攻は失敗だ」
側近「しかし……」
魔王「……何か言いたいことがあるのか」
側近「いえ……」
魔王「だったらいいだろう! ガス室、催眠室の準備は」
側近「ええ、トラップはきちんと設置しております」
側近「ただ、外から来た部隊が、チェック中に引っかかって寝てしまいましたが」
魔王「コントやってんじゃねーよボケ!」
側近「解除しようとした魔物もうっかり」
魔王「全員ボケか!? ツッコミはいないのか!?」
側近「魔王様でしょう?」
魔王「うるせえ!」
ずどおおおおん……
魔王「お」
側近「ぬ」
魔王「でかい音したな……」
側近「しましたね」
魔王「伝令は?」
側近「伝令ー!」
小悪魔「はいはいはいはい」サササッ
側近「何があったか報告せよ!」
小悪魔「何者かが攻めてきたようです」
側近「……」
魔王「で?」
小悪魔「見張りのものがふっとばされたようでして……いま確認中です」
魔王(使えねぇ……)
側近「直ちに反撃せよ!」
小悪魔「はーい、伝えてきまーす!」
側近「まずいですな」
魔王「何がだ?」
側近「いや、せっかく罠をしかけていたのに、壁ごと壊されたのでは」
魔王「あ……! あの野郎ども!」
魔王「くそっ、せっかく半年くらい考えたパズル要素も吹っ飛ばす気じゃないだろうな!?」
側近(あれ半年もかけてたのか)
魔王「こうなったら、私も出る!」
側近「いえ、報告があるまではじっとしていてくださいよ」
魔王「アホか! どうせ壊されるのを黙って見ているくらいなら、自分から壊しに行くわい」
側近「……」
魔王「まったく、なんてことだ……」ザッザカ
側近「やれやれ」
側近(こいつももう潮時かね)
魔王城、二の城。
勇者「うおおおおおおお!」ズバッ
竜「ぎゃーす!」
戦士「おい!? 勇者、先行しすぎだ!」
僧侶「勇者様ー! まだ大砲の弾が残ってますよー!」
勇者「俺を盾にして撃ってくれ!」
魔法使い「囮を使っとる意味があまりないのう」
機械竜が現れた!
機械竜「ゴンゴンゴンゴン」
勇者「!?」
魔法使い「ほう、こいつは珍しい、機械でできたドラゴンとは」
機械竜「ゴンゴンゴンゴン」
勇者「うおおおお、重いぞ!」
戦士「だから、少しは下がれ!」
魔法使い「ほれ、氷結呪文」 ピキーン!
機械竜「ゴンゴンゴンゴン」 カン!
魔法使い「なるほど、対魔法装甲というわけか」
僧侶「ど、どうするんですか!?」
戦士「くっ、硬いぞ、こいつ!」
魔法使い「んー、ごり押しすれば勝てなくはないが……」
魔法使い「魔王を控えているしのう」
勇者「悠長なことを言ってる場合か!」
機械竜の攻撃! 勇者にダメージ!
勇者「ぐはっ!」
戦士「ちゃんと防げ! お前は!」
勇者「魔法使い! 機械ってのはなんだ!?」
魔法使い「端的に言えば物を動かす装置じゃな。これを多少組み合わせてできたのがあれじゃ」
勇者「装着ってどうすれば止まるんだ!?」
魔法使い「質問ばっかりするな。思い出しとるから待っとれ」
僧侶「回復ー!」
戦士「このっ、硬い!」キン
魔法使い「……ふむ。決まりじゃな」
勇者「どうする」
魔法使い「とりあえず、逃げ出すぞ」
勇者「分かった! みんな、撤退ー!」
戦士・僧侶「なんで!?」
勇者たちは逃げ出した!
魔法使い「ちゃんと扉は閉めておけよ」
戦士「なんなんだよ!」
勇者「一度、作戦タイムってことだ!」
魔法使い「作戦なんぞいらんわい。思い出したから」
僧侶「どういうことですか?」
魔法使い「機械っちゅーのは、組み合わせで複数作れるが、もともと同じ動きしかできん」
戦士「確かに動きは単調だったが……」
魔法使い「ほれ、掘削呪文!」 ボボボボコォ
ガラガシャーン!
魔法使い「これで終いじゃ」
僧侶「えっと、どういう……」
魔法使い「落とし穴に落としたんじゃ」
魔法使い「目の前の敵を攻撃するようにしかできとらんから、目の前に敵がいないとそこで穴を掘るしかない」
戦士「機械ってのは間抜けなんだな」
魔法使い「使い方次第じゃな。ほうっておけば大穴を深掘りしてとんでもないことになるかもしれんが」
勇者「今は魔王が優先だ、急ぐぞ!」
廊下。
戦士「ちっ、今、どのくらい深く進んだんだ!?」
僧侶「思ったより、爆弾でぶち抜けなかったですもんね……」
魔法使い「ほっ、ほっ、まあ、陽動にはなってたぞい」
勇者「罠の部屋はぶっ壊せたんだ、あとは地図だと……」
勇者「こっちの方だな!」
魔法使い「あー、待て待て。ちょっと休憩」
勇者「お、おう」
戦士「はぁはぁ」
僧侶「ひぃひぃ」
魔法使い「ほれ、全力で走りすぎて、勇者についていけん」
勇者「あ、ごめん」
戦士「くっそ。やっぱり、追いつけないな」
僧侶「勇者様、早すぎますよぅ!」
勇者「そう……か?」
魔法使い「お主、持ってた荷物をほとんど消費したからのう」
魔法使い「ジジイはもちろん、他の娘たちも、追いつく方が難しいわい」
勇者「いや、普通に走ってて……」
戦士「お前、突入前に、重装備って言ってたよな」
勇者「そうだっけか」
僧侶「うう、やっぱり勇者様はすごいです!!」
勇者「あ、ああ、ありがとう」
魔法使い「……魔王はどうしているのかのう」
戦士「そりゃ、玉座でふんぞり返っているんじゃないのか」
勇者「……」
僧侶「どうしました?」
勇者「ああ、俺が魔王なら、どうするのかなってさ」
魔法使い「ふむ」
勇者「……もし、俺が魔王なら、座して待つってわけにはいかないだろう」
魔法使い「そうじゃな」
戦士「……そうか?」
勇者「ああ。敵が一直線に罠に向かってくれれば良かったんだろうが」
勇者「そう、だな……魔法使いが言ってただろう。その、精神攻撃の罠を」
僧侶「ええ。でも、そういうのはなかったですよね?」
魔法使い「おそらく、最初に眠らせたりする罠をしかけたんじゃろ」
魔法使い「目の前で幻惑呪文をかけるのは、なかなかこれで難しいからの」
勇者「うん。でも、それは大砲をぶっ放して、まとめて破壊した」
勇者「すると、やっぱり情報が混乱すると思うんだ。まともに城を攻略する気がないと」
戦士「思わせといて、潜入だからな」
勇者「となれば、伝令の混乱をただ待つというわけにはいかない」
戦士「だったら、どうする?」
魔王「……自ら出向いてやる、というわけだ」
四人『!』
魔王「どうした、こんなところに現れたのがそんなに意外かね」
魔王「くくくはは、お前たちにとってはどこで死のうと変わりはないだろう」
勇者「……」
魔王「だが、どうも部下は弱くて役に立たん。こんな虫けらども相手に……」
勇者「みんな、構えろ!」
魔王「ちっ、話くらい聞け」
勇者「聞いて欲しいのか?」
魔王「……」
勇者「役立たずだの何だの……お前らの言うことはみんな変わらない」
勇者「『虫けら』『くだらん』の見下し発言ばっかりだ!」
魔王「ふん、そんなのは人間も同じ事だろう」
勇者「魔物どもよりはマシさ」
――魔王が襲いかかってきた!
魔王の大火球呪文!
勇者「ぐわーっ!」
魔王「はっはっは、口だけではないか!」
勇者「このやろう!」 ブン
魔王「ぬおっ!? ちょっと待て!」
魔王(くっ、おかしいぞ、こいつ! 一発ぶつけたのにいきなり攻撃に転じただと)
魔王(あと、何を背負ってんだこいつは)
戦士「勇者! 相変わらずお前は!」
僧侶「大丈夫です! 鎧の効果で軽減されてます!」
魔王「だよね」
魔法使い「ほい、こっちも火球呪文じゃ!」 ゴオオッ
魔王「おおっと」
魔法使い「効いとらんな……さすがに魔王か」
魔王「そ、そうだ、私は魔王だ」
魔王「私は魔王なのだ!」
魔王の極大爆発呪文!
勇者「ぬわーっ!」
戦士「くうっ」
僧侶「きゃあーっ」
魔法使い「魔法防御呪文」 ホワワ
勇者「いいかげんにしろ!」 ズバッ
魔王「おまえだっ」
魔王(くっ、こ、こいつなのだな……報告にあった、不死身のバケモノというのは)
魔王(だが、人の身でありながら、不死身など、ありえない)
魔王「勇者よ! 貴様は……」
勇者「僧侶、大丈夫ならみんなを回復!」
僧侶「は、はい!」
魔王「聞けよ」
魔法使い「筋力倍加呪文」 モロロ
戦士「やーっ!」 グサッ
魔王「ぐふっ」
僧侶「回復しますー!! みなさん集まって!」
魔王「させぬ!」
勇者「させる!」ギシッ
魔王「くっ、ぬっ」
勇者「くううううっ」
魔王「……勇者よ、なにゆえ私を倒そうとする?」
魔王「私を倒しても、人間たちはきっと争うに違いない!」
魔王「私を倒したところで、魔物が消えることもないのだぞ!」
勇者「復讐に決まっているだろうが!」
魔王「なんだと」
勇者「自分の親を魔物に殺されたんだ。これ以上の理由はないだろ」
魔王「くだらん、私が殺したわけでもないというのに……」
勇者「そうだな、そのとおりだ」
ガイン!
勇者「あとは富と名声かな!」
魔王「……俗物め」
勇者「高尚なあんたは、どんな理由があって人間を襲うんだ?」
魔王「仕事だからな」
勇者「は?」
魔王「いや、ふん……闇の力を世界に行き渡らせ、魔物に住み良い世界を作ることが私の目的だ」
勇者「なるほど」
戦士「納得するなっ!」
僧侶「そんな世界を人界に求めないでください!!」
魔王「なぜだ? 我らは元来、精霊どもによって貧困な世界に追いやられた種族」
魔王「つまり、被害者なのだよ」
僧侶「え、えう、それは……」
戦士「悩むなっ!」
魔王「確かに敵対して悲劇を幾度も引き起こしただろう」
魔王「だが、我らはそれを無くしていきたいとも考えているのだ」
戦士「嘘をつけっ!」
魔王「本当だとも。お前たちがめちゃくちゃにしたあの町が、まず友好の――」
魔法使い「あそこで襲いかかってきたのは魔物の方からじゃの」
魔王「……先走りがあったのは事実だ」
魔王「だが、友好関係を築くのにも、なめられてはいかんしな」
戦士「めちゃくちゃだっ!」
魔王「さっきからうるさいな、お前」
魔王の痛恨の一撃! 戦士に大ダメージ!
戦士「うわあっ」
勇者「戦士!」
戦士「うぐっ、くっ、うっ」
僧侶「か、回復しますっ」
魔王の竜巻呪文! 僧侶は吹き飛んだ!
僧侶「きゃああっ!!」
戦士「げほっ、うっ、くっ」
勇者「くそっ、こっちを狙えよ!」
魔王「……弱いやつから潰すのは定石だろうが」
魔王「いずれにしても、我らは戦いを必ずしも望んではいない……」
魔法使いは魔封じの杖を振るった! 魔王に効果はなかった……
魔法使い「……効かんか」
魔王「……ふん」 ゴスッ
魔法使い「げほっ」
魔王「……無論、抵抗する者はこうなるがな」
勇者「みんな!」
魔王「これが私の『高尚な』理由だ。納得してもらえたかね」
勇者「……」
魔王「脆いな。これ一つをとっても、本来魔物が人間どもの顔色をうかがう存在ではないことは分かるだろう」
魔王「勇者よ、どうやらお前は違うようだ。もし、お前が望むなら、富や名声もくれてやってもいいぞ」
勇者「……」
魔王「そうだ、世界の半分を、お前にくれてもいい」
魔王「無駄な争いをして、互いに傷つけあうよりその方がよほど合理的だ」
魔王「どうだ?」
勇者「……そうだな」
魔王(おっしゃ)
勇者「お前、俺の父親を知ってるか?」
魔王「な、なに?」
勇者「俺の父親も、勇者のようなことをしていたらしい。今は行方不明だが」
魔王「……そんなやつのことは知らん。どこで野垂れ死にしたか」
勇者「強い人だったよ。俺よりずっと」
魔王「何が言いたい?」
勇者「俺は、弱いんだよ」ブルッ
勇者「剣の腕は二流、魔法もダメ、勇気もない……」ガタガタ
勇者「誰も守れないし、世界だって救いたいわけじゃない」ガタガタガタ
勇者「でも、そいつが強いばっかりに、そいつの息子だからってことで期待されて冒険に出た」
勇者「お前と同じさ、魔王討伐なんざ、ただの仕事だ」
魔王「な、なんだと……」
勇者「そうだ、仕事だ」
勇者「そうでなけりゃ、こんなところまで来るものか」
勇者「とにかく、お前をぶっ倒せば、あとはどうなってもいいんだ」
勇者「そう思ってたぜ」
勇者「どいつもこいつも俺を父親と比べて、頼りないだのなんだの……」ブルブル
勇者「知ってるよ、自分が誰も守れないことくらい、弱いことくらい」ガタガタガタ
勇者「けどな」ピタ
勇者「仲間を殺されそうになって、その上バカにされたままで、誰が黙ってますかって!」
魔王「そ、それは」
魔王「実に低能な考え方で……」
勇者「点火ァ!」
勇者は背中の大砲に火をつけた! 轟音とともに、魔王が吹き飛んだ!
魔王「」
勇者「……そ、僧侶、回復!」
僧侶「ひあは、はいぃ!!」
勇者「ま、ほうつか、い、補助呪文かけて!」
魔法使い「……背中が焼けとるぞい、お前さん」
勇者「ほっとけぇ」
戦士「げーっほ、えほっ。くっそ、耐えられなかったか……」
勇者「はぁーっ、はっ、戦士、俺を盾にして攻撃しろ!」
魔王「……おのれ勇者」
勇者「第二弾、点火ァ!」
魔王「やめ」
勇者は大砲に火をつけた!
勇者「ぐうっ……!」
戦士「無茶するからだ」
僧侶「勇者様!」
勇者「回復、頼む……」
僧侶「! はいっ!」
魔法使い「小手先はなかなか通用せんのう、勇者」
勇者「……縦列隊形!」
戦士「ほ、本気か!?」
勇者「俺を先頭に据えて、戦士と僧侶を魔法使いで挟む!」
勇者「俺はもう、攻撃しかしないつもりだから」
魔法使い「後ろは任されたぞ」
僧侶「前は見ません! 回復だけしますから!!」
戦士「ああ、ちくしょう、やってやるよ!」
広間。
魔王「う、ぐ……馬鹿な真似をしおって……」ガラガラ
魔王「自爆テロまがいの……」
ドドドドドド……!
魔王「お、おい」
勇者「うあああああああっ!」
魔王「ばかよせ、まだ態勢が」
勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
戦士が後ろから斧を投げつけた! 剣を投げつけた! 爆弾石を投げつけた!
魔王「やめろ、貴様ら……っ」
魔王の攻撃! 勇者はひるまずに向かってくる!
僧侶の回復呪文! 回復! 回復!
魔法使いは筋力倍加呪文を唱えた! 速度倍加呪文も唱えた!
勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃! 勇者の攻撃!
魔王「こん」
魔王「おかしい」
魔王「ふざけ」
魔王「おのれ」
――魔王を倒した!
魔法使い「……ぜぇはぁー」
勇者「はぁーっ、はあーっ」
僧侶「ひぃ、ふう」
戦士「……終わったか?」
勇者「ああ。動かない」
僧侶「やったー!! で、いいんですよね!?」
魔法使い「うむ、まあな」
戦士「なら、とっとと脱出だ。宝は盗賊たちが片付けるんだし」
僧侶「わわわ、ふら、ふらする」
勇者「大丈夫か?」
僧侶「あ、えへへ……ありがとうございます」
魔法使い「やれやれ」
戦士「勇者。もういい加減、大砲は外しておけ」
勇者「ああ。そうだな……」
魔王「……」
勇者「悪いな」
魔王「わ、たしは、魔王の中でももっとも弱い……」
勇者「は?」
魔王「いや……」
魔王「……私も、仲間さえいれば……」
勇者「知らねぇよ」
魔王「ち……話を聞かないやつめ……」
勇者「……」
側近「やはり、ここまでか」
僧侶「え、え?」
戦士「魔物の残党か!」
側近「おっと、もう抵抗するつもりはない。おとなしくやられるつもりもないがな」
魔法使い「悪いが、もうあんたの上司は死んだよ」
側近「だろうな。無理もない」
側近「やつは弱かったのだ」
勇者「……」
魔法使い「何か用件があるなら、火炎呪文」ボウッ
側近「や、やめろっ!」
魔法使い「もう、面倒くさいことをしとらんで、とっとと地獄に落ちろ」
側近「おのれ、巨大スライムよ!」
巨大スライムが現れた!
戦士「ちっ、面倒な」
勇者「なんのつもりだ?」
側近「ここを漁られても困るのでな。悪いが魔王城は破壊させてもらう」
僧侶「何をする気ですか!?」
側近「せいぜいお前たちはスライムと戯れていろ」タタタッ
戦士「うおおっ」 ザシュッ
戦士の攻撃! スライムは斬撃を受け止めた!
戦士「剣が効かないぞ!?」
魔法使い「火炎呪文」ボワッ
魔法使いの攻撃! スライムは炎を吸収した……
魔法使い「ふーむ、この調子じゃ粗方の魔法が効きそうにないのう」 ドォオン!
僧侶「ゆ、勇者様、城が揺れてますよ!」
勇者「爆発音がしたな……」
スライムはプルプル震えている……
勇者「……」
魔法使い「氷結も効かんな。竜巻もじゃ」
戦士「剣も槍も効かないか……」
僧侶「ど、どうしましょう!?」
勇者「魔法使い。天井に向けて爆裂呪文を撃ってくれ」
魔法使い「ほいほい」 ドオォン!
勇者「……まだ、小さいな」
魔法使い「なるほど。わしにも読めたぞ」 ドン!
勇者「けど、あの魔物がわざわざ出てきた理由がわからない……」
戦士「上司が死んだんだ。顔見せにくらいくるだろう」
勇者「そんなものかな」
魔法使い「……」
勇者「よし、みんな俺に掴まれ!」
僧侶「きゃ」ギュウー
戦士「ん」ギュッ
魔法使い「ほいほい」ニギッ
勇者は移動呪文を唱えた!
今夜はここまで。
あと一回でおしまいです。
乙
乙
一時はどうなることかと乙
作者が終わらせた作品を外野が騒いで続きを書かせたりするとだいたい質が落ちるのにこの作品は全然落ちてないな
素晴らしい
何が言いたいかって言うと乙
お城。
国王「よくぞやってくれた! 勇者よ!」
勇者「はあ」
国王「うむ、父親を超えたようだな」
勇者「そうですか」
国王「まさか魔王を倒してみせるとは思わなんだ……」
国王「褒美については、その……」
勇者「ああ。もちろん、宝物庫をまるごといただくなんてことはしませんよ」
国王「こないだのように、その、国債券などをまぜこぜに要求されても困るんじゃが……」
勇者「そうですか? 現金一括払いでもいいんですが」
国王「やめてくれ!」
勇者「とりあえず、金百万相当をパーティー分として……」
国王「分かったから! 後でな! 宴会も用意しているし!」
勇者「……ま、いいでしょう」
広間。
兵士「おお、勇者様! あなたこそ、真の勇者です」
勇者「はあ」
大臣「お父上を超えられましたな!」
勇者「そうですかね」
姫「なんて男らしい……」
勇者「そうでもないです」
町人「いやあ、勇者様って本当にすごかったんですね!」
勇者「どうですかね」
子ども「勇者様は勇者のお父さんより強かったんだねー」
勇者「どうだろう」
商人「おお、勇者様、ほら、宴会の準備ができておりますぞ!」
勇者「いや、休ませてもらってもいいかな」
勇者「結構怪我がひどくて……」
兵士「そ、そうなのですか?」
勇者「仲間はもう飲み食いしてるの?」
姫「ええ、お仲間はあちらに」
勇者「……おーい」
魔法使い「うーむ、やっぱりこの国の尻は柔らかさが違うの」サワッ
メイド「きゃあーっ」
戦士「おい、ジジイ」
僧侶「もう、いい加減にしてください!!」
勇者「おーい」
僧侶「あ、勇者様!」
勇者「悪いんだけど、俺、まだ背中が痛くて……」
戦士「ああ。まだ癒えてないのか?」
勇者「ああ、さすがに大砲を背中でぶっ放したのは……」
女商人「当たり前でしょう。というか、そんなことをして生きている時点で人間じゃないわ」
勇者「商ちゃん」
女商人「……その呼び方はやめてって言ったでしょう」
勇者「悪いな。いろいろと」
女商人「そうね、まさか空から降ってきて力尽きているとかね」
戦士「ふん」
僧侶「面目ないです……」
魔法使い「さすがに疲れきっとったからな」
女商人「回収費用はサービスにしておくわよ」
勇者「太っ腹だねぇ」
女商人「……そんなに出てないわよ」
勇者「ともかく、そういうわけだ。俺は実家に帰るよ」
戦士「実家って、お前一人だったよな?」
勇者「ああ、家政婦さんに月一で掃除だけはしてもらってたから」
勇者「みんなはこれから、どうするんだ?」
戦士「私は……兄の墓参りでもするさ。それが済んだら、また冒険屋稼業かな」
勇者「そうか」
僧侶「私、修道院に報酬を寄附しに帰ります」
僧侶「それで、そのあとは、その……まだ、少し考えてる最中です」
勇者「一人で大丈夫?」
僧侶「だ、大丈夫ですよ!! 私、怪我も少ないですし」
勇者「うん。じいさんは?」
魔法使い「向こうの大陸に、わしも墓参りするかな。あと、気になることがあっての」
勇者「うん?」
魔法使い「……ま、大したことじゃないがな」
戦士「勇者こそ、どうするんだ。これから」
勇者「俺は、まあ、褒美ももらったし、ぐーたら暮らすさ」
僧侶「なな、ダメですよ! そんな自堕落な!」
勇者「……商ちゃんは?」
女商人「私は、もうそろそろ逃げるわ。違法な商売をしてたのは知ってるでしょ?」
勇者「しかし、勇者の手伝いをしたとかで」
女商人「ふーっ、それじゃあ、あなたの立場が悪くなるでしょう」
女商人「……それより、本当に顔色が悪いわよ。こっちに戻る途中も、ずっと臥せってたみたいだし」
勇者「あ、ああ。気が抜けてしまってな」
戦士「……」
僧侶「勇者様、無理しちゃダメですよ? まだ優れないのでしたら、本当に」
勇者「うん、そうさせてもらうよ」
姫「あら!? 勇者様はお帰りになるのですか?」
勇者「ええ、まあ」
姫「残念ですわ……せっかくご馳走も用意しましたのに」
勇者「またいつでも食べられますよ」
姫「本当ですか? またお城に来てくださいます?」
勇者「はあ」
姫「……もし、勇者様が良ければ、その……」
勇者「……」
勇者「ま、そのうち。どうせ城下町で暮らしてますし」
姫「ぜひ!」
戦士「……ちっ」
魔法使い「これこれ、露骨じゃぞ」
戦士「分かってるが」
僧侶「むぅーっ」
町。
町人「お、勇者様!」
勇者「はい」
武器屋「へへ、立派になったもんだな、親父よりよ」
勇者「どうかな」
マスター「勇者くん、今度うちの店で飲んでってよ!」
勇者「気が向いたらね」
防具屋「サインをもらっていいかい? 親子二代で飾るぜ!」
勇者「適当にでっち上げといて」
シスター「勇者様、あなたの勇気が魔王を打ち砕いたのです」
勇者「勝手なことを言うなよ……」
勇者「……」
勇者の家。
勇者「……」
勇者「ただいま」
勇者「父さん、母さん」
勇者「……」
勇者「あー、背中いてぇなー」
勇者「……」
勇者「……寝よう」
寂れた裏山。
戦士「……」
元仲間「おい、お前、戦士じゃないか?」
戦士「うん?」
元仲間「俺だよ、俺! いやあ、すげぇな、魔王を倒したんだって?」
戦士「……」
元仲間「へへへ、勇者とのパーティーは解散したんだろ」
元仲間「そうしたらさ、また俺とパーティーを組み直さないか」
戦士「……」
元仲間「おい、黙ってないで……」
戦士「ここは墓前だ。私の兄の」
戦士「騒ぐのはやめろ」
元仲間「な、なんだよ」
戦士「……私は金は食うし、リーダーの指示には従わない」
元仲間「あ?」
戦士「仕事も危険なものを受けたがる……だったか」
元仲間「前に外したことを恨んでるのか? そんなこと気にするなよ」
元仲間「お前ほどの腕の持ち主なら、他の冒険者だっていくらでも貢いでくれるだろ」
元仲間「聞いてるぜ、ファンの連中がお前の村に押しかけてきて」
戦士「ああ。だから、兄の墓も、村より奥に移してもらった」
戦士「どこで嗅ぎつけてきたか知らんが、この場所のことは忘れろ。私もお前と会ったことを忘れてやる」
元仲間「なんだよ。な、なんだったら、今度はお前がリーダーでも」
戦士「私はお前をそれなりには信頼していた、かつてはな」
元仲間「なに?」
戦士「だが、今は違う。分かるだろう」
元仲間「……けっ、お高くとまりやがって」
戦士「そういうことじゃない。まさか私が、何も知らない間抜けだと思っているのか」
元仲間「な、なに?」
戦士「手っ取り早く稼ぐ手段として、麻薬の密売を引き受けたこと、知っているぞ」
戦士「捕まりそうになったところで、それを仲間の女商人に押し付けたのもな」
元仲間「は」
戦士「彼女はしばらく、盗賊団やら権力者やらに身を売りながら生活していたそうだ」
戦士「本人から聞いた」
元仲間「……そういえば、魔王退治に商人が関わってるって」
戦士「そうだ。その彼女だ」
元仲間「くそっ、まだ生きてやがったのか!」
戦士「……ちっ」
戦士「私はな、竜の巣退治でも乗り越えてきた間柄だ。まさかと思っていたよ」
戦士「だが、金目当てに仲間を売る、真性のクズだとはな」
元仲間「へ……へっ!」
元仲間「そんなもの、お前の大事な勇者様だって似たようなもんだろうが!」
元仲間「知ってるぜ? お前らが各国にいくらせしめてたか」
元仲間「もちろん、そんなに表沙汰にはなってないが、結局カネだろ、お前らも!」
戦士「勇者はな、何か理由がないと動けないんだよ」
元仲間「はあ!?」
戦士「あいつはな、富と名声だの、親父を乗り越えるためだの、自分なりに理由をつくらないとダメだったんだ」
戦士「あいつは、結局、他人のためにしか戦ってない」
戦士「すぐ自分で抱え込んで、自分ばかり犠牲にするんだ」
戦士「お前みたいに他人を犠牲にするやつとは違うんだよ!」チャキ
元仲間「うっ」
戦士「墓前だ。斬るのはやめてやる」
戦士「だが、これ以上つきまとうなら……」
元仲間「……ち、ちっ」
戦士「他の連中にも近寄るなよ。今度こそ、私がやつの盾になるつもりだから」
元仲間「ふ、ふん、どうせ、誰も魔王を倒したことなんか喜んじゃいない」
元仲間「どうせすぐ忘れて、不満を言い始める」
戦士「結構だな。不満が言えるだけ健全だ」
元仲間「こ、後悔するなよ!」
戦士「後悔するのはお前のほうだろ」
元仲間「な、なんだと」
戦士「麻薬の栽培を行なっていた貴族が処刑されてな」
戦士「密売を頼んだ時の契約書が出てきたそうだ」
元仲間「うぐっ」
戦士「お前のサイン入りのも入ってるそうだ」
元仲間「ち、ちくしょう!」ダダダッ
戦士「……ふん」
教会。
神父「僧侶よ」
僧侶「はい! なんでしょう、神父様!」
神父「こ、声が大きいですね」
僧侶「えへへー、元気が私の取り柄ですから!!」
神父「い、いえ、それは良いのですが」
僧侶「何かあったんですか?」
神父「ええ、まあ、なんと言いますか……」
僧侶「あ、今日の晩御飯についてですかね!?」
神父「ち、違いますよ」
僧侶「買い物なら、私、準備しますよ!」
神父「そ、そうではなくてですね……」
神父「僧侶よ。聞きなさい」
僧侶「はい?」
神父「お前にはこの教会を出てもらうかもしれません」
僧侶「ええー!?」
神父(声が大きい)
僧侶「……なんて、やっぱりそうですよね……」
神父「分かっていたのですか」
神父「いくら教会に所属しているとはいえ、お前は世界を救った英雄です」
僧侶「そんなことはないんですけど……」
神父「問題なのは、それを妬む人がいるということです。同じ、聖職者でありながら」
僧侶「私、間違っていたんでしょうか? 報酬は寄附に回しました」
僧侶「まだ、一人で布教を行うほどの資格はありませんから、教会所属は当然ですし……」
神父「いいえ、お前は何も間違っておりません」
僧侶「だったら、どうしてなんですか!」
神父「それは……それは、まだ我々も未熟だからです」
僧侶「おかしいですよ! 非がある方が誤りを認めるべきではないでしょうか!」
神父「……」
僧侶「……いえ、神父様に言っても仕方ないです。周りにも直接言っているのですが」
神父「私も手は尽くしているのですが」
神父「なぜ、信仰を持つ者同士ですらこのような……」
僧侶「それより、私は、勇者様の風評の方が気になるんです」
神父「勇者、あの若者ですか」
僧侶「はい、あの、神父様も心配なさっていた」
神父「彼は、彼もまた、悩み苦しむ旅人でした」
神父「魔王を倒したと聞き、お前と一緒に帰ってきた時の、彼の晴れやかな顔は忘れられません」
僧侶「そうですよね! あの時はびっくりしちゃって、私も!!」
神父「そ、僧侶、声が大きいですよ」
僧侶「は、すみません!」
神父「コホン」
神父「……ですが、最近では、悪人との付き合いがあっただの」
僧侶「勇者様は、清濁併せ呑む人ではありましたから……」
僧侶「でも! 魔王を倒せたのは、勇者様をおいて他にはいませんでした!」
神父「うむ、彼の功績によって、多くの子どもたちが救われたことは間違いありません」
僧侶「神父様、私は悔しいです……!」
神父「う、うむ」
僧侶「もし、神父様が、やはり教会を出て行けとおっしゃるなら、私はそうします」
僧侶「やっぱり、勇者様の下で、神の御意思をまっとうしたい」
神父「……それは」
僧侶「私に、命じていただければ!」
神父「……僧侶よ。指導部から、お前を破門すべきでは、との意見が出ているのです」
僧侶「は、もん!?」
神父「破門です。つまり、お前が、神に並べて、勇者を信仰しているのではないか、と」
僧侶「そ、それは、信仰なんかじゃありませんー!」カァ
神父「う、うむ?」
僧侶「勇者様を、その、その……とにかく、勇者様を思う気持ちは、また、別ですから!」
神父「ふふっ」
僧侶「もうー! 笑わないでくださいよ!!!」
神父「お前の気持ちはよくわかりました」
僧侶「……むーっ」
神父「……ひょっとして、我慢していたのですか?」
僧侶「へ、へ?」
神父「勇者の下で暮らしたい、と思っていたのではないですか」
僧侶「そ、そんなこと! ……チョット。でも、私にとってはですね!」
神父「ふふっ、良いのですよ」
神父「自らの心に素直に向き合わねば、真の信仰など得られませんよ?」
僧侶「も、もうっ!」
神父「いずれにせよ、このまま放っておくつもりもありません」
僧侶「はい……」
神父「……僧侶よ」
僧侶「はいっ!」
神父「お前が、修道院から冒険者へと出された理由は、私も聞き及んでいます」
僧侶「……はい」
神父「その時と比べれば、お前はずっと成長しました」
僧侶「そうでしょうか?」
神父「少なくとも、他人を陥れるような人間ではないはずです」
僧侶「……それは」
神父「罪は消えません。けれど、お前が示した愛もまた、消えないものです」
僧侶「わ、私はその……!」
神父「ふむ。これを否定するとなれば、また一から学ぶ必要がありますよ?」
僧侶「あう……」
神父「……私はお前の愛を信じましょう。そして、それが指し示した光を、絶やさぬようにしましょう」
僧侶「は、はいっ!」
勇者の家。
ドンドン。
勇者「……」
ドンドン。
勇者「……調子悪いから! 帰ってくれないか!」
勇者「……」
勇者「はあーっ」
勇者「……」
勇者「親父と比べて、人を散々馬鹿にしたような目で見てたくせに……」
勇者「手のひらを返されると、こうも不愉快なものかな……」
勇者「……」
勇者「みんな、どうしてるかな……」
勇者「あー……」
ドンドン。ドンドン。
勇者「……ちっ」
勇者「うるせぇぞっ!」ガチャッ
魔法使い「わしじゃよー」
勇者「うおおわっ!?」
魔法使い「ほい、おじゃまするぞい」
勇者「ま、魔法使い!? お前、墓参りがどうとかって」
魔法使い「そんなもん、何週間前だと思ってるんじゃ」
魔法使い「戦士や僧侶と違って、わしゃ移動呪文も使えるしの」
勇者「いや、けど、なに?」
魔法使い「どうせ、家の中で腐っとると聞いてな」
勇者「いや、そうだけどよ……」
魔法使い「うひゃひゃ、エッチなダンスショーにどうかと思ってな」
勇者「……マジで言ってんのか?」
魔法使い「マジじゃよ」
勇者「そこは嘘でいいだろ」
魔法使い「で、本気で腐っとるなら、説明するが」
勇者「あー、例の気になること、か?」
魔法使い「大当たりじゃ。さすがにそこまでは抜けとらんかったか」
勇者「……なんだよ」
魔法使い「お前さんも気にしとったろう。魔王城を破壊したあの魔物」
勇者「ああ、そうだな」
魔法使い「盗賊どもががれきの山をずっと漁っててな」
勇者「おお……そういえば」
親分『まあ、魔王を倒すだろうとは思ってたけどよ、まさか城ごと壊すかね……』
勇者「とかなんとか」
魔法使い「うむ、で、どうも彼奴らが調べたところによると、あの下に大穴が空いてるそうでな」
勇者「……よく沈まなかったな」
魔法使い「例の機械竜がずっと掘ってて、開けちまった、のかもしれん」
勇者「嫌な展開だな」
魔法使い「で、どうする?」
勇者「どうするって、なんだよ。悪いが俺は土木工事屋じゃあないぜ」
魔法使い「そうじゃなくてな」
勇者「……そうだな」
勇者「あの魔物がわざわざ姿を現した理由は考えていたんだが……」
勇者「要するに、何か重要なものを隠すために、囮になったんだと思っていた」
勇者「それが、その大穴だってのか?」
魔法使い「かもしれんの。罠かもしれんが」
勇者「……かもしれない、か」
魔法使い「暇なら劇場に寄るついでに、そっちにも寄ってみんか?」
勇者「そっちがついでかよ」
魔法使い「どうせ気晴らしもできとらんのじゃろ」
勇者「……ああ」
勇者「なんつーか、その、魔王を倒して、おしまいってつもりではいたんだけど」
勇者「そうじゃないんだな。みんな、結局、態度が変わるだけで、前と同じだ」
魔法使い「それが分かっただけ、大したもんじゃ」
勇者「なんだよ、急に褒めて」
魔法使い「ほっほ」
勇者「……正直、しんどい」
魔法使い「勇者父もそう思ってたのかもな」
勇者「……そうかな」
魔法使い「さて。で、お前さんはどうしたいんじゃ」
勇者「実は、この家はもう譲渡することに決めてたんだ」
勇者「この間こもってたのは、財産を整理するのに書類を作っててな」
魔法使い「ほほう」
勇者「俺もさ、親父や母さんに、こだわりすぎてたかもしれなくて……その」
勇者「ただ、それ以上は、何をやったらいいか、分からなくて」
魔法使い「ほっほ、ええんじゃ、そんなもの」
魔法使い「たとえどれほど知識を蓄えても、道を見失うことは多々あることでな」
勇者「……魔法使いもか?」
魔法使い「血迷わなければ、お前さんについて魔王を倒しに行こうなんて思わんしな」
勇者「……」
魔法使い「何じゃ、どう思い出しても、会ったばかりのお前さんは頼りなかったぞ?」
勇者「うるせえな」
魔法使い「ほっほ」
勇者「そうと決まれば、もう旅に出る準備はしてあるんだ。どうせ出ていくと思って」
魔法使い「そりゃ都合がいい」
勇者「しっかし、ジジイと二人旅ってのも色気がないな」
魔法使い「何を言ってる。外に戦士と僧侶がおるぞ」
勇者「え?」
魔法使い「じゃからな、戦士も僧侶も、一時的に戻っただけで、またお前さんと一緒に旅したいと思ってたのよ」
勇者「……」
魔法使い「どうせ、故郷に帰ると聞いて、これでお別れだと勘違いしとったろ」
勇者「いや、だってさ……」
魔法使い「あの時も暗い顔しとったが、まさかそれで泣きそうになってたのか?」
勇者「……いや、その」
魔法使い「甘いのう、勇者は」
勇者「……うるさいな」
魔法使い「うひゃひゃ」
勇者「まったく、どいつもこいつも」
魔法使い「ま、わしもどこまでついていけるか分からんしのう」
勇者「ふん、死んだら適当に埋めてやるよ」
魔法使い「期待しとこうかのう」
戦士「……おい、勇者は説得できたのか」ヒョイ
僧侶「勇者様、僧侶ですよー……!」ヒョイ
勇者「お、おう」
戦士「どうもまだ冒険できる余地は残ってそうだからな」
僧侶「こ、今度は、私が勇者様をお助けする番ですよっ!」
勇者「……うん」
勇者「……ああ、ちくしょう」
勇者「やっぱり、パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」
おしまい
乙
というわけで。
まあ、僧侶とのチョメチョメとかいろいろ出てましたけど、これでおしまいですよ。
今回はエピソード主義的に作ったのでので、全部は書かないように心がけました。
書いてないことは想像で補えばいいと思うですよ。
(でも、せっかくだから、戦士の元仲間と女商人のつながりはちゃんと書いたけど)
なんかその他、カスとか言った人には「チクショー!」って言っておくよ。
じゃあね~
おつおつ
かすおつ
乙!
まわりに急かされて書いたのにいい出来とかすごいなー
落ちも綺麗でよかった乙ん
乙!
乙
なんでぇ、ちゃんとキレイに終わらせられる実力持ってんじゃねーかww
肝心なトコで手ェ抜こうとしやがってww
とりあえず乙だwwww
まあ、もうちょっと続きが読みたいと思う程度にはおもしろかったゾwwww
乙です
自分も続きを無理強いした感はあるので申し訳ないですが、このラストまで読めて嬉しかったです
勇者の悩んで進んでいくあり様、魔法使いの爺さんの描き方が好きでした
次作も楽しみにしてます
なんて優秀な作者なんだ
無理強いされたのにより完成度をあげるなんて
もう一度無理強いしたくなるな
乙
ここまで作ってたんじゃねーのか実は・・・
そう思わせるほどに完成されてたと思う
>>345
ちょっと同意したくなるなwwwwww
おつんこ
gdgdになると思ったけど素晴らしい出来だった、乙
おっつん
>>343
くっせえ
なかなかに良い勇者物だった
長さもほどほど
魔法使いの爺が良いジジイしてるな
大穴でギアガの大穴イメージして続くのかと期待してしまった。
とりあえず乙。
おつ
出来れば大穴ストーリーも書いて欲しいな
伏線はっただけにきになる
乙面白かった
これで終わりでいいんじゃないか?俺は綺麗に終わったと思うけどな
気がむいた時にまたスレ立ててやればいいと思うけど
乙
追加分も含めて面白かった!
またなんか書いてくださいね
乙!面白かった!
次回作にも期待してるからなー
面白かったよ
乙乙
おつんこ
こんだけすごいのに適当に終わらせようとしてたのかよwwww
お疲れさまでした
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません