モバP「プロデューサーの1日」 (35)


俺は痴漢されていた。

朝の満員電車の中、ドアの前で俺は痴漢されていた。
具体的に述べるなら、下腹部から臀部までの位置に沿って痴漢されていた。
なんという下半身の特定箇所をターゲットとした痴漢なのだ。とても大声をあげることなど。

俺が事務所へと向かう駅で下車すると、先ほどまでの痴漢はぴたりと止む。
尻に残った体温を冷ますため、大きく深呼吸した。
ふう。今日はこんなものか。

この痴漢は、今日に限ったことではないのだ。

毎朝毎朝、俺はこの電車内で痴漢を受けている。
正直に言うと若干癖になっている。
由々しき事態だ。

俺は痴漢をされている際後ろを振り向いたことがない。

どれほどのスキモノお姉さんが俺の尻を触っているのか見たことがない。
肩を叩かれ、声をかけられ、俺は駅長室へ連行された。
ふざけるな。俺は痴漢していない。

していただく側なのだ。



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俺は、連行された後も必死に事情を説明した。

痴漢などしていないこと。
する側ではなく、される側だということを。
なぜ、理由もなく連行されなければならないのかと憤りを覚えた。

俺は頭に被っていたジーパンを脱ぎ捨て、怒りを露わにした。

股間部分から顔を露出していたため、頬にチャックの後が残っていた。
上下ジーパン。ああ、そうじゃない。言うべきことではない。
必死に説得を続け、駅員は理解してくれたようだ。

すみませんでした。真摯に謝罪していただいた。
うん。俺としても、そう言っていただけるなら、構わない。
彼らも仕事なのだ。乗客の身の安全を守るのが、彼らの仕事なのだから。

お互いに謝罪を終え、俺は清々しい気分になっていた。

他の駅員との誤解もとけ、痴漢については調査をしてくれるらしい。
ああ、ありがたい。このままでは快感に身を落とす。
なんと仕事に対して誠実なのだ。

俺はバッグに脱ぎ捨てたジーパンを入れ、新たに女性用下着を被って駅長室を出た。

連行された。

一体どういうことだってばよ

わけがわからないよ

やはり貴様か、支援


警察を呼ばれそうになってしまった。

身元引受人が必要だ、という事態に直面してしまった。
仕方が無いので、携帯から元警官のアドレスを呼び出し、電話をかけた。
片桐早苗。元警官。彼女なら俺が誠実な男性であるということを証明してくれるだろう。

「もしもし。早苗さん、少し困ったことになってしまって」

『え?…うん、わかった。すぐに行くから』

電話を切り、もうすぐ来てくれることを告げた。
まったく、朝から散々な目にあっている。今日はついていない。
事務所に遅れるわけにはいかずとも、俺はその場を動くことはできなかった。

『彼から話を伺っていると思いますが、片桐早苗です』

社会人らしいその姿に感服した。だが、その煌めく服。
酒の席の後の2日酔いの起床と丸わかりではないか。
彼女は、右手に大五郎を抱え、俺の元へと来た。

「お世話になりました」

『申し訳ありませんでした』

俺と彼女は揃ってみなに頭を下げ、歩き出した。すみません。
早苗さんに思っていたことを告げた。
ボディコン。

今度は早苗さんに連行された。


『…それで、プロデューサーさんは亀甲縛りで事務所に来たんですか?』

呆れる顔も美しい。ちひろさんは困ったような表情で言った。
縄の網目に沿って彼女は視線を這わせていく。
興奮してしまうではないか。

「ええ、そういうことなんです」

『それで…大丈夫なんですか、その縄』

「大丈夫ですよ。ちゃんと気持ちいいですから」

『うん?』

「ああ、そうではなくて。犬と呼んでください」

ちひろさんは俺を無視して事務作業に戻ってしまった。
なるほど。放置プレイか。高度すぎる。
興奮を抑えきれない。

「キッコーマンと呼んでください」

『醤油ですか』


違う。亀甲マンだ。声を荒げそうになってしまった。

せっかく早苗さんに亀甲縛りをしていただいたと言うのに。
彼女はあまり俺に感心を示してくれなかった。
少しだけ悲しみを背負った。

あまりの興奮に我を忘れそうであったが、仕事に戻った。

きちんと書類を整理し、棚に整理していく。
事務仕事1つと言えど、プロデューサーの仕事なのだ。
そして、俺はふと書類を見ていると、気付いたことがあったのだ。

WとYだ。

それだけで十分だ。若干胸部が尖っているようにも見えてしまうが。
ロケットボイン。ニードルボインだろうか?どちらだ。
なお、ちひろさんからの視線が刺々しい。

ニードルボインに決定だ。

そして、ちひろさんは思いついたように俺に話を振ってきた。
ただし、決して視線は合わせてくれないのだ。
やはり、ただものではない。

『そういえば…職場体験の収録、今日でした。犬』


「ええ、俺は犬です」

『そこではなくて』

俺は社長、ちひろさんから話は既に聞いていた。
アイドル職場体験。今回の収録はそう決まっているのだ。
アイドルが各職を紹介し回っていく、というよくある収録なのだ。

彼女らは東京の各地に別れ、今も収録を行っている。

つまるところ、俺はその様子を見に行くことになっているのだ。
もちろん、何か問題が起きれば携帯に連絡が来る。
アイドルの精神面でのフォローだ。

「では…女王様。行って参ります」

『ほら、レアメダルですよ。取ってきてください』

ちひろさんは、嬉々とした表情で事務所の外にレアメダルを投げた。
俺も嬉々とした表情でレアメダルを追いかけた。
彼女はすぐにドアに鍵をかけた。

追い出されてしまった。

またお前か

Pa社長いつもお疲れ様です!


俺はレアメダルを拾い上げると、ポケットにしまった。

すると、ポケットから声が聞こえる。フェイフェイダヨー。
なんということだ。ふむ。フェイフェイか。
会いに行くことにしようか。

俺は縄を強く縛り直し、強く1歩を踏み出した。

道行く人誰しもが俺を見ている。
この力強さに憧れすら抱いているだろう。
下腹部が隆起していることなど当然と言えるだろう。

改めて、バッグに女性用下着からジーパンを被り直して地図を見た。
なるほど。彼女は、ファミレスでの接客業か。
ちょうど小腹も減っている。

きっと、調理なども任されているだろうし、手料理が食べられるかもしれない。
アイドルの手料理か。あまり口にする機会もない。楽しみだ。
俺は上半身のポケットに地図をしまった。

さて、ファミレスに向かおう。


『たまご…はおすぎに、なられますか?』

俺は耳を疑った。
たまごから…おすぎに、変化?
どういうことだ。突然変異するのか。謎すぎる。

フェイフェイの顔を見ると、何だか困ったような顔をしている。
それを見て、奥の店員が彼女に耳打ちをしていた。
正確な表現を教えているのだろう。

『たばこは、おすぎに、なられますか?』

惜しい。惜しいのだが違う。意味はわかった。
一体おすぎのどこに着火するというのだろうか。
日本語は難しいから仕方が無いとも言えるのだが。

たまごにたばこはおすぎにはなられません。
おすぎはそんな柔軟に変化しないよ。
同じ人間だよ。ピーコです。

「ちょっと心配だったけど、上手くやってるみたいだな」

『ばっちりダヨー』

少なくともばっちりではない。
突然変異を客に尋ねているうちは、ばっちりではない。
ああ、そろそろ昼食を兼ねて多めに食べるとしようか。さて、メニューはどこだ。

『こっちネー』


手渡されたメニューの中身は、なかなか一般的なものだった。

ファミレスらしい値段、ファミレスらしい品揃え。
よく見ると下の方に小さくスタミナドリンクと書かれている。
関与しているのは…鬼や悪魔に風評被害を出している謎の事務員だろう。

しかも単位がモバコインだ。日本の通貨は円なのだ。マニーでもないのだ。

とりあえず、俺は何を頼んでいいのか決まらず、彼女に任せた。
すると彼女の口から驚くべき言葉が飛び出す。
レアメダルのからあげ。

なんだそれは。食えるのか?そもそも食い物なのか。

事務所内のみに適用される通貨、とばかり思っていた。
外見は100円玉程度のサイズ、それがなぜか狐色をしているのだ。
瞳を輝かせながら俺の一口を待っているフェイフェイを横目に口をつけた。

もぐ、もぐ、もぐ、と咀嚼する。

フェ、フェ、フェイフェイダヨー。

なんだこれは。


噛む度に口の中でフェイフェイの声がする。

これはまさか、本物?
ならば目の前の彼女は何人目だ。
笑えばいいと思うのだが、とても笑えない。

性的な意味ではなくもはやこれはカニバリズムだ。

かなり高度な性的な趣味を持っていないと厳しい。
あいにく俺はそんな趣味はないのだ。
口をつけるのをやめた。

食器を下げる彼女の後ろ姿…もとい、短いスカート。
後少し。後少し屈めば見えそうなのだが。
あ…ああ、見えなかった。

上下ジーパンの俺は手をつくことすら難しく、床に手をついた。

おかげさまで頭を打ってしまった。
なかなか痛い。そして縄が食い込んでしまう。
もう少し右のほうに向かって食い込んでくれないだろうか。

『…頭、大丈夫?』


彼女…ええと、渋谷凛はどちらの心配をしているのだろうか。

俺の頭の表面の打撲の話についてなのだろうか。
それとも、俺の頭の中身の精神的なものについてなのだろうか。
実家が花屋な彼女は、きっとこういう仕事もしてみたかったのだろう。そうだ。

「ああ、凛もここだったんだな」

『うん。結構、楽しいかも』

ジーパンの股間部分から顔を出す俺と楽しそうに話す渋谷凛。
その事に気付いたのか、彼女は顔の部分のチャックを閉めてしまった。
前が見えない。密閉されたその中は、俺の股間の香りが充満してしまっていた。

アルファベットで今の俺の状況を明確に述べるなら、Hだろう。
ついでに言うと心理的な状態も、当然ながらHだ。
連行されるからもうやめよう。

俺は文字通り手も足も出ず、チーズグラタンを犬のように食べ尽くした。
顔と上半身のジーパンが汚れてしまったので、着替えた。
下半身は下着のみ。上半身は下のジーパン。

下半身に開放感を覚えた俺は、代金をきちんと精算し、店を出た。

連行された。


1時間に渡り拘束された俺は、興奮していた。

あまりの悔しさに涙がこぼれてしまった。
下着は履いていた。上にジーパンも履いていた。
俺の何が、彼らの琴線に触れてしまっていたというのか。

股間が隆起することなど、男性なら誰しもあるだろう。

たまたま公然たる店内で天保山が出来ただけではないか。
ひとつ上の男になる。そう誓ったのに。
雑誌の裏見たのに。

俺は1時間の間、ずっとないていた。
…30分に渡り、悔しさで泣いてしまった。
そして更に30分、警官に鳴かされてしまった。

署のロビーで警官2人に別れを告げ、彼らに謝罪を繰り返した。

すみませんでした。もう、いいんだよ。
そう言って笑ってくれる彼らの優しさに、また涙した。
俺はなんと愚かなことをしてしまったのか。これからは気をつけよう。

上半身には一般的なTシャツを貸してもらい、下半身にはジーパン直履きだ。

連行される際破れてしまったのだ。買い直さなければならない。
彼らと別れ、署内のトイレを貸してもらって、気付いた。
上にジーパンを被り…下にTシャツを履けばいい。

そう気付いた俺は、早速個室の中で実行に移した。

まずはTシャツの袖の部分に足を通して、最後にジーパンを被り、ベルトで締める。

ああ…やはり、こちらの方が落ち着く。俺は満足して、外へ出た。

下半身に夏を告げるような、からっとした風が通り抜ける。

連行された。


首元から俺の頭が露出していた為、連行されたらしい。

意味が分からない。下半身にも頭はあるのだ。
…人間どちらにひっくり返っても前へは進めるのだ。
何もない俺から、さらに人間性まで奪うというのだろうか。

1日に何度連行されているのだろうか。私的なものを含めれば4回だ。

そろそろ、気をつけて露出しなければならない。
昼を少し過ぎたところで、俺は学校の方へと歩き出した。
確か、学校には今、荒木比奈がいたはずだ。彼女が教師役だったか。

「すみません、荒木比奈のプロデューサーです」

そう告げ、事前に送付されていた通行証を提示する。
確認を終えたようで、俺はその足で美術室へと向かっていた。
彼女の授業は美術だそうだ。確かに非常に絵が上手いと記憶している。

美術室の後ろのドアを開け俺が入っても、彼女は構わず続けている。
やはり、この辺はアイドルというより、プロ意識があるのだろう。
比奈は辺りを大きく見回し、大きな声で生徒にテーマを告げた。

『えーと、身近な言葉をテーマに絵を描いてほしいっス』


ふむ。こういうテーマなら、俺も学生時代によくやったものだ。

改めて見回してみると、どうにも女性比率が多い。
中に男子生徒など、数えるほどしかいないではないか。
その中から、1人の女子生徒が手を上げて、彼女に問うた。

「身近な言葉…って言うと、例えば、どういうものでしょうか」

『ああ、何でもいいっスよ。とりあえず、なテーマっスから』

『セイシュン、だとか、バラ色の季節…そんなのでもいいんスよ』

「わかりました。私の考えは、あながち間違ってはいなかったようで、よかった」

『…あながち、あながち。なら、君のテーマは、あながちで短文作って描いてみて欲しいっス』

「わかりました!」

みな、各自でテーマを決めたようで、好きな言葉を絵に描いていく。
ふふふ、と俺の方を見て微笑んでいる比奈を見て、俺も喜んだ。
さらさらとデッサンの進む音だけが響いていく、教室内。

『あ、プロデューサーもみて回ってくれていいっスよ』

「そっか、わかった」

適当に生徒のデッサンを見ていく。
中には俺が通るとそそくさと隠してしまう人もいる。
だが、気持ちはわかる。俺も教員が通ったときは恥ずかしくて隠した。

『じゃ、発表していくっスよー』

頭が沸騰しちゃうよお…


『ふむふむ…みな、上手いっス』

『えーと、教室には42人の生徒さんが居て…と』

『25人が薔薇…13人が兜、4人が本番…っス』

うん?あまりにもテーマが偏りすぎていませんか。
確かにどの薔薇も赤く刺々しく美しい。
兜も本物より立派だ。

『ちょっとあの兜、左に曲がってるっス』

『そっちの生徒さんのは、小さく書きすぎかも』

『…あ、そこの君。これ、持って帰っていいっスか?』

構図も整っているし文句の付け所がない。

どこを見ても薔薇と兜と…あと、本番?
俺は恐る恐る集められた絵を見て、思った。
男性が男性に跨るその姿を。そして、気付いた。

比奈の受け持つ授業は美術。
美術と言えば…芸術。

ゲイ術だった。


本番とは男性同士の本番行為の事であったか。

最近の世代は生殖方法が幅広いと知ってしまった。
だってよく分からない穴開いてたもん。
通称謎穴。やおい穴。

『これ、よく描けてるっスよ』

欠けてるのは収録中という緊張感だろう。
これを全国の奥様方にはとても見せられないのだが。
そして賭けているのは俺のプロデューサーとしてのクビだろうか。

『あながち、で短文出来たっスか?』

「はい!」

嬉しそうに頷く女子生徒。なんだろうこれは。
少ない男子生徒の君。頬を染めている場合では、ないよ。
数人の男子生徒が俺の臀部に謎穴を溶接しようとしているのがわかった。

「あながち…」

「あながち」

「穴が違う」

確かに焦っている男性の絵なのだが。

あながち間違いではない、と思いたかった。
俺の尻の穴は数人の男子生徒によって拡張された。
どれもこれも個性的で見事だが、文字通り地獄絵図だった。

俺はバイセクシャルだ。


休憩します。明日までには書く予定です…


他にも数人のアイドルの元を周り、状態を報告する為、事務所に戻った。

そういえば鍵、と思案していたにも関わらず、すんなりドアは開いてしまった。
他のみなもやはり出ているようで、それでも物音1つしなかった。
どういうことだろう。ちひろさんがいるはずでは。

「ちひろさん?」

返事はない。
どこへ行ってしまったんだ?
昼食の時刻は過ぎている。そして、見つけた。

仁奈に留守番を任せた、という書き置きを。

ふむ。なら、仁奈はどこにいるのだろうか?
今度は、大きな声で、仁奈の名前を呼んでみた。

『はい?』

「あれ?ちひろさん、いたんですか」

『え?』

「ほら、書き置きがあったので…それで、仁奈は?」

『居ますよ?』

ちひろさんは笑顔でそう言うが、どこにも見つからない。
まさか、誘拐でもされていないだろうか。
そんなことがあったなら。

『ただいま戻りました。あ、プロデューサーさん!』

「………」

「ちひろさんが…2人?」

『え?』

なら、俺が今まで話していたのは…つまり。
千川ちひろだと思っていた形がゆっくりと崩れていく。
そしてそれは小さくなっていき、やがて、1つの形を形成した。

『………』

『………』

『人間の気持ちを知るですよ』

俺は逃げるように事務所を出た。


そのままその足で俺は帰宅することにした。

収録は今日だけではない。まだしばらく続くのだ。
時間はまだある。これからゆっくりと回っていけばよいのだ。
帰りの電車の社内では座ることができ、俺は痴漢にあうこともなかった。

尻だけではなく乳首も痴漢してほしいのだが、それはぜいたくだろうか。

俺はTSUTAYAに寄り、谷亮子の出演するDVDをいくつか借りて店を出た。
店を出ると、ランドセルを背負った川島瑞樹が通りかかった。
俺は声をかけるべきではないと判断し、通り過ぎた。

あれはきっと俺と同様に何かのプレイなのだ。小学生は15年以上前に体験したであろう。

ああ、そういえば、俺は今ノーパンではないか。
ノーパン。自分で反芻し興奮してきた。
ユニクロに行かなければ。

このジーパン1枚を隔て、俺の股間は外気に触れているのだ。

駅から降り、そこから10分ほど歩き、ユニクロに到着した。
いくつか衣類を買っておいてもいいかもしれない。
そう思っていたときのことだった。

『プロデューサーさん!』


「卯月じゃないか」

しまむら卯月がユニクロに居ていいのだろうか。
ひらがな表記は色々誤解を生みそうなのでやめておこう。
俺が彼女に尋ねる前に、先に、目的を尋ねられてしまっていた。

「ああ、そろそろ服とか下着とか、買い換えようかなって」

『そうだったんですか!』

『あ!よかったら、一緒に見て回りませんか?』

『服とか、私でよければ選びますから!』

その一言で、俺と卯月は適当に服を見繕った。
安価ながら耐久性に優れている点に関しては、俺も歓心している。
卯月は満足そうにある程度の買い物を終え、今度は俺の番へと移ったようだった。

『プロデューサーさんは、何を買うつもりなんですか?』

「ええと…そうだな。とりあえず、下着かな」

「卯月、言ってたよな。選んでくれるって」

『え!は、はい…で、でも、私、男性の下着とか、そういうのは…』

「………」

「何言ってるんだ?」

『え?』

「俺が穿くのは、女性用だ」

「行こう」


俺は女性用下着売り場でゆっくりと深呼吸していた。

ふむ。俺はBカップだから、色や柄も選べる。
可能ならば、花がらのブラをしてみたいところだ。
卯月は嬉しそうに俺にたくさんの種類のブラを押し付けた。

「いいじゃないか、ありがとう」

そう言って笑うと、彼女はアヘ…えへ顔ダブルピースをしてくれた。
少し違うだけで[らめぇぇっ!]なんこつからのビデオレターだ。
いつも…大変お世話になっております。

『えっと…それ、プロデューサーさんが?』

「ああ」

「俺が、穿くんだ」

『…そう、ですか』

「帰り…付き合って欲しい店があるんだ」

『え…はい!行きます!』

よかった。彼女はまた笑ってくれた。
俺の行きつけの店に向かう。
よかった、本当に。

「また、さ。色々、選んでくれ…今日の仕事も、お疲れさま」

『はい。人の趣味って、自由ですから!』

「それで…付き合ってほしい店、ってのが、ここなんだ」

『ここって…また、ランジェリーショップ?』

『あ!もしかして、私に…?』

「ああ」










「俺の、被るための女性用下着を…選んで欲しい」

通報された。


>>27

[ × ]

そう言って笑うと、彼女はアヘ…えへ顔ダブルピースをしてくれた。
少し違うだけで[らめぇぇっ!]なんこつからのビデオレターだ。
いつも…大変お世話になっております。

[ ○ ]

そう言って笑うと、彼女はアヘ…えへ顔ダブルピースをしてくれた。
少し違うだけでみさくらなんこつからのビデオレターだ。
いつも…大変お世話になっております。

としてお読みください。失礼しました。


本日5度目の連行である。おまわりさんさっきぶりです。

なかなか趣味というものは理解してもらえないものだ。
卯月に下着をプレゼントなんてなんと淫猥なのだ。
そんなことをする人はきっと変態に違いない。

さすがに限界だったのか、俺は塀の中で一泊が決まってしまった。

池上彰のヌード写真集と谷亮子のDVD、神崎かおりの直筆サインが押収された。
あれらは、俺の大切な家宝と呼んでよいものたちなのだ。
可能なら大切に預かってほしい。

もう寝なさいと看守に諭されたのだが、やはり夏前でも寒いのだ。
すみません、と口頭で伝え、下着が欲しいことを伝えた。
…なるほど。ノーパンだもの。そう言われた。

「看守さんの下着でもいいので、貸してください。寒くて、寝られないんです」

『………』

俺の熱意が伝わったのか、看守は目の前でストリップショーさながらだった。
なんだこいつは。人の前で堂々と露出し恥を知らないのか。
そして生暖かい下着を受け取った。

「ありがとう、ございます」

「本当に…ありがとうございます」

「では、おやすみなさい」

彼に涙を流して礼を伝え、俺はその下着を頭から被った。
そしてゆっくりと深呼吸を終えていた。
夢は見られなかった。

頭が寒いと眠れないのだ。





彼の下着の主に股間部分は俺の唾液でなんだか湿っていた。

俺は快適な睡眠が取れたので、その下着を洗わずに彼に返した。
彼は嬉しそうに下着の履き心地を確かめていた。
さて、やっと釈放となる。

彼は股間部分の湿りに対し俺に憤りを露わにしていたが、俺の関知するところではない。

見ず知らずの他人に下着を譲渡する恐ろしさを知るがいい。
荷物を再確認され、俺へと返却された。
よかった、池上彰。

俺はもうしません、と心からの気持ちで告げ、署を後にした。

ちひろさんに電話すると、着信拒否されてしまっていた。
100万MCとだけ書いて送信すると、愛していると返信された。
リーマンの3ヶ月から4ヶ月分の給料で買える愛とはなんなのだろうか。

「もしもし、ちひろさん。今から、1度家に戻ってから出社します」

『わかりました、キッコーマン。社長も今出ているので、そう伝えます』

「よろしくお願いします」

俺は財布の中身が苦しく、警官に数百円小銭を借りて家に戻った。
自宅に戻って、とりあえずシャワーで入念に身体を洗った。
そして生まれ変わったような気持ちで外へ出ていた。

もう悪いことはしないよ。

携帯を開くと、ちひろさんから愛のメールとアイドルからもメールが届いていた。
プロデューサーなら、間違いなく黒のブラが似合うと記載されていた。
なんだこのアイドルは。黒を勧めるなど変態のすることだ。

東京はやはり人の人数が多いと再確認する。

たまたま到着した満員電車に身体を埋め、いつもの位置を陣取った。
ああ、ここから事務所のある駅までは随分あるぞ。
もしかしたら、今日も、痴漢が?

俺は楽しみでたまらなかった。

そうだ。今日こそスキモノお姉さんの顔を確認するのだ。
頬を紅潮させつつ触る女の顔をみてやるのだ。
そう思っているときに、来た。

主に俺の溶接された穴をさらに広げようとする魔の手が。

ふう。深呼吸をして、俺はゆっくりと後ろを振り返る。

そこには、確かに頬を紅潮させた人がいて。










『君ィ…!』

事務所まで、後40分。

満員電車の中で、誰にも気付かれることはない。

                           おわり


以上です。ありがとうございました。
html化依頼を出させていただきます。

ああ……(遠い目)

社長……

あのさあ…(笑顔)

よくわからなかった(コナミ)

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