嬢「私のブラウス知らない?」 執事「すみません、存知あげません」(448)

前スレ落ちちゃってたのでまた書いていきます

嬢「ええ、どこ置いたっけ…?」

執事「昨日脱ぎ散らかしていたでしょう。もう洗濯にだしたのかもしれませんよ」

嬢「そ、そんな!あれまだ着れるのに!」

執事「…はぁ。服は一日おきに洗濯するのが常識でしょう?」

嬢「いや、だから半日しか着てなかったの…」

執事「わかりました。あとで探しておきますから、とりあえず他の服を着てください」

執事「今日は久々に、ご家族と朝食をとるのでしょう。待たせてはいけませんよ」

嬢「う、うん。分かった。そうだね…」

嬢「よし、これでいいや」クルン

執事「…お嬢様、お言葉ですがその組み合わせは少々」

嬢「え?変かな?」

執事「…珍妙ですね」

嬢「なっなにおう!?」

執事「無難にワンピースにしてはいかかでしょうか」

嬢「…へいへーい」

執事「お嬢様は、そういった女性らしいお洋服のほうが似合いますよ」

嬢「これでいい?どうかな?」

執事「はい、よくお似合いですよ」

嬢「んふふー、そうかな」クル

嬢「ねぇねぇ、今日の朝ごはんって何?」

執事「今朝はパンケーキですね。お好きでしょう?」

嬢「!!やったー!あの苺いっぱい乗ってるやつ!やったああ!!」

執事「そんなに興奮なさらないでください」

嬢「は、はやく!早く行こう、食べたい!早く食べたい!」

メイド「お早うございますー、お嬢様」

嬢「あっ、お早うメイドちゃん!ハグミー!」

メイド「あらあら、はい。ぎゅー」ギュー

嬢「相変わらずでっかいおっぱい!わはは!」

メイド「朝から何なんですか…」

執事「朝食のメニューに、少し興奮してるんです」

メイド「もう17なのに…。子供っぽいんですからー」ムニ

嬢「らって、パンケーキおいひいじゃん。ほっぺら離しれよぉ」

嬢「あ、そういえば」

メイド「どうしましたか?」

嬢「メイドちゃん、私のブラウス洗濯した?」

メイド「え?さぁ…記憶にないですね」

嬢「あれ、そっかー。うーん、どこなんだろ。まぁいいや!それより、パンケーキだ」ダダダ

執事「ろ、廊下は歩いてください!」

嬢「パンケーキが呼んでる!呼んでるんだ!!」ダダダ

メイド「朝から元気なことですね」クス

嬢「おっはー、父上」

父「おっはー娘よ。足音がここまで聴こえてたぞ」

執事「…はぁ」

嬢「んふふー、まだかなまだかな」ブラブラ

執事「お嬢様、お行儀が悪いですよ」

嬢「いいじゃん…。ケーチ」

執事「…はぁ…」

父「はは、執事も大変だな、こんな娘の世話係なんて」

執事「いえ、そんなことは全く…」

嬢「父上、執事はドMだからこのくらい平気なんだよー。ねえ?」ツンツン

執事「なっ…」

父上「そうか、執事はソッチ系だったのか…。親近感が沸いてきたな」

執事「だっ、旦那様…。誤解です、私はそんな」

嬢「マゾマゾ」ニヤニヤ

執事「…お嬢様っ」

嬢「あはは、怒られちゃった。ごめんなさーい」クスクス

父「それにしても、見ない間に少し背が伸びたな。髪も、伸ばし始めたのか?」

嬢「うん。父上はちょっと太った?お腹でてる」

父「がはは。行く先々の接待でこうなったんだ!私のせいじゃない」

嬢「頭も薄くなっちゃったね…。可愛そうに」

父「そこは言うな…」

嬢「あ、執事が笑いこらえてる」

執事「!?」

父「え、なにそれショック」

執事「い、いえ私は、そんな」

嬢「肩がプルプルしてたよー」

執事「う、嘘おっしゃい!笑っていません!」

父「…」

嬢「はいはいごめん、嘘でしたー」アハハ

父「な、なあああんだ、良かった」

執事「お、お嬢様…!」

父「相変わらず仲がいいのー。羨ましいぞ」

父「君を嬢の専属執事にして、もう4年近くたつな」

執事「はい」

父「どうだ、最近娘の調子は?」

執事「…ええ、毎日明るく過ごされておりますよ。勉強は少し頑張らないといけませんが」

嬢「おいこら待つんだ。雲行きが怪しい」

父「うーん?勉強ができんのか?」

執事「芳しくないですね。このあいだ、数学のテストで…」

嬢「シャラアアアアアアアップ!!!」

父「うお、びっくりしたぞ」

嬢「執事…。こんな楽しい場でそんな残酷な話をしないでくれ…」

嬢「ほ、ほら。父上の頭頂部がもっと寂しくなってしまうでしょ?」

執事「お、お嬢様!」

父「ははは、まあいいさ。嬢はのびのび育ってほしいからな!数学なんて、足し算引き算ができればよいのよ」

嬢「さっすが父上、分かってるぅ」

執事「お嬢様…。いけませんよ!」

嬢「はいはい分かってますぅー。執事、そんなことより楽しい事聞かせてあげてよ」

父「そうだな、そういうことも聞きたいなあ」



執事「そうですね、最近剣術が上達してきています」

父「おお!すごいじゃないか嬢!」

嬢「ふふーん」

執事「お相手の殿方に勝ってしまったり…。筋が非常によろしいかと」

父「本当か!じゃあそろそろ専属の教師をつけてやらねばな」

嬢「本当!?じゃ、じゃあ金髪の巨乳美人にして!」

父「あほか、そんなの私の教師にしたいわ。お前なんかに回すか」

嬢「くぅ、いじわる」

「失礼しまーす」

嬢「この匂い…まさか」

コック「お待たせしました、ご朝食ですぞぉ」

嬢「うわあぁあああ!!」ガタンッ

執事「お座りくださいね」

嬢「…」ストン

コック「ははは、そんなに待ち遠しかったのですか?お嬢様」

嬢「…う、うん」ギラギラ

父「野獣だ。目が野獣」

嬢「コック大好き…愛してるよ…」

コック「光栄です」コト

父「おお!相変わらず料理の腕は衰えんなあ」

コック「当たり前です!ところで旦那様は毛根が衰えましたなぁ」

父「おっ、お前が言うな!」

コック「私は料理人ですから、髪なんて邪魔なだけですわぁー」

父「はああああああん???」

執事「…」クスリ

執事「賑やかですね、お嬢様」

嬢「…」モグモグ

執事「お嬢様…」

父「すでにパンケーキしか眼中にないのか…」

コック「嬉しい限りですな…。料理人冥利につきます」

嬢「……」モグモグ

嬢「ふう、ごちそうさまでした」

父「うむ、ごちそうさま」

嬢「あ、ねぇねぇ父上、この間さあ…」

ご主人様、そろそろ会合のお時間です」

父「お、そうか」ガタ

嬢「…」

父「すまんな、行かねば…。今度出先に手紙をだして、聞かせてくれ」

嬢「…今度はいつ帰ってくるの?」

父「さあ、分からない。良い子に待っておれよ」クシャ

嬢「…」

父「執事、頼んだぞ」

執事「お任せください」ペコ

嬢「…」

執事「ほら、お嬢様」

嬢「…えへへー、父上、いってらっしゃーい!」ニコ

父「ああ」

嬢「…お仕事、がんばってね!」

父「おう、頑張るぞ」

嬢「…うりゃー!」ガバ

父「うお!!?」

嬢「いってらっしゃいデブチン!!大好き!」チュ

父「こ、これ!」

嬢「どうだ若さ溢れる少女からのチュウは」

父「何言ってんだお前は…ばか者め」ポン

執事「…ふふ、お暑いですね」クス

嬢「相思相愛だからね」

嬢「…行っちゃった」

執事「寂しいですか?」

嬢「めちゃくちゃ寂しい」シュン

執事「…お嬢様」

嬢「よっしゃ、剣術の稽古行こーっと!執事、またあいつ呼んで!!」

執事「ものすごい感情の変化ですね」

嬢「ヘコんでてもしょうがないんじゃー!はやく剣振り回したい!」

執事「はいはい、では稽古着に着替えてくださいね」

=中庭=

嬢「おらああああああああ!!父上の仇ぃいいいいいい!!」ブン

少年「!うおおおおおおおおおおおおお!?」

嬢「土に還れ!!」ブン

少年「いきなりうちこんで来るな!馬鹿!」

執事「お、お嬢様!」

少年「いや、大丈夫です!こいつのテンション、慣れてますから」

執事「…ご苦労かけます」

少年「今日こそはボコボコにしてやるからな!」

嬢「馬鹿め!どの口が言うんだ」

少年「いつまでも負けてたまるか!」

執事「…」

メイド「ふふっ。お嬢様、なんだか今日はいやに元気ですね」

執事「いいえ、空元気ですよ。寂しさを紛らわしてるんです」

メイド「…なるほど」

執事「健気なものです」ハァ

嬢「てやっ、とう、はーっ」カンカン

少年「くっ、この…」

嬢「…すきあり!」ブン

少年「…わわっ」

嬢「…ふふん。首とったり」ニマ

少年「…く、くそっ」

嬢「やあああだあああまた負けちゃったのぉおおお?」

少年「う、うるさいうるさい!」

嬢「しつじー!!!また勝ったーーーっ」

執事「左様でございますか。お強いですね」

嬢「ふふん、もっと言って頂戴」

執事「しかしあのように大きく踏み込まれては、隙ができてしまいますよ」

嬢「う、うるさい」コツン

執事「いたっ。も、申し訳ございません」

少年「あはは、言われてやんの」

嬢「一言余計なの!いっつも」フン

嬢「あー動いたらお腹すいちゃった」ノビ

少年「もう昼時だな」

嬢「よし、少年!ご飯食べていけ!」ガシ

少年「え、まじで…?いいの?」

嬢「いいのいいの!執事ー、準備してね!」

執事「分かりました。しかしその前に、着替えをしてくださいね?」

嬢「はーい了解」タッ

執事「…」

嬢「ふー汗かいたかいた」ヌギ

嬢「…えーっと、今度は何を着ようかな」

嬢「…あれ?」

嬢「…あの黒いスカート、どこやったっけ…?」

嬢「…メイドー!」トコトコ

メイド「あらあら、下着姿で。はしたないですよ」

嬢「私の黒いスカート知らない?ないんだけど」

メイド「今朝言っていたブラウスと洗濯に出されたのでは?」

嬢「えー違うよ。最後に着たの三日前だもん」

メイド「あら…どこにいったのでしょう?探しておきますね」

嬢「…んー」

メイド「他の物を着ればいいじゃないですか」

嬢「分かった…」

メイド「あっ、待って」

嬢「?」

メイド「私がコーディネートしますね」

嬢「じ、自分でできるもん!」

メイド「いえ、お嬢様のファッションセンスは、その…。人とかけ離れていらっしゃいますので」

嬢「!な、なにー!」

メイド「うふふ、一般受けしないということですよ」

嬢「う、何よこのおっぱい星人!」

メイド「あらあら。お嬢様だって、随分ご立派になられましたよ?」

嬢「…運動するとき、邪魔なんだけどな」ムニ

メイド「ふふ、いつか必要になるときが来るんですよ」

嬢「うわ…ね、それっていつ?」

メイド「うふふ、あらあら」

嬢「ねえ何時?いついつー?」

メイド「お嬢様ももう17なんですから、分かるでしょう?」

嬢「えーわかんなーい」クネッ

メイド「もう、お戯れを」クスクス

嬢「あはは、メイドちゃんは本当可愛いなー」

メイド「あら、お嬢様こそ」

前スレに引き続きよろしく支援

嬢「おまたせー」

少年「おう、今日はシチューだってよ!」

嬢「本当!?やったああああ」

嬢「…あれ、執事は?」

少年「ああ、雑務があるんだってよ」

嬢「じゃあ、二人きり…だね///」

少年「なんだそれ、気色わりいー!」

嬢「おいこら」

……


嬢「そんじゃ、また明日ー」

少年「おう、今度は負けないからな!」

嬢「言っとけ!」

執事「さようなら、少年様」ペコ

少年「さようならー!ご馳走さまでしたっ」

嬢「…さて」

執事「お嬢様、お勉強のじかんです」ニッコリ

嬢「ちょっとトイレ」

執事「お手洗いはそちらではありません。そしてさっき行っていましたよ」

嬢「…やだー」

執事「今日はちゃんと公式を覚えてもらいますからね」

嬢「お、鬼!!お前の血は何色d」

執事「さあ行きましょう」ニッコリ

嬢「うわああああああああ」

執事「…違います、ここは正の数になるんですよ」

嬢「あ、そっか」

嬢「…んー?」

執事「ほら、公式を思い出して」

嬢「…えっと、こ、こう?」カキカキ

執事「正解です。流石お嬢様です」

嬢「…!ビ、ビクトリー!私天才だわ!」

執事「では次の応用問題にいきましょう」サラリ

嬢「ちょっ、ちょっと待って。休憩しよう」

執事「…しょうがありませんね。よろしいですよ」

嬢「や、やったー!んぅー!」ノビー

執事「…お嬢様、そんなに体を伸ばしては、お腹が見えてしまいますよ」

嬢「うるさーい」

執事「普段からおしとやかにすることも大事ですよ?」

嬢「いいじゃーん。パーティーとかでは大人しーくするんだし」

執事「そういう問題ではありません」

嬢「もー、ここはお家なんだからいいじゃん。それに」

嬢「私が上品になって、冗談とか言わなくなったら、きっと楽しくないよ?」

執事「…そうかもしれませんね」

嬢「執事だって明るい私が好きでしょー?ねえー?」スリ

執事「!こ、こら」

嬢「あはははは、何照れてるの」クスクス

執事「…!」カァ

嬢「あらら、赤くなっちゃってるし」

執事「…赤くなどなっておりません」

嬢「なってますよ!自分でよっく分かるでしょ?」クスクス

執事「…じょ、冗談はおやめください」

嬢「んもーウブなんだから…。執事って今いくつだっけ」

執事「に、25になります」

嬢「わお、男盛りぃ。…なんか、ここから出ないでただ私の世話をしてるってのも、可愛そうだね」

執事「そんなことはございません!」

嬢「う、うわびっくりした」

執事「あ、申し訳ございません…。ですがお嬢様、私はこの仕事が好きですから…」

嬢「そっかあ…。なんか嬉しい、かも」

嬢「…でもさ、彼女とかいないの?」

執事「お、お嬢様、それは」

嬢「…メイドちゃん?」ニヤ

執事「いいえ、断じて」

嬢「ちぇー、つまんないの…。あ、じゃあメイド長さん?」

執事「私の恋人にするには、お年が釣り合いませんし、第一配偶者がいらっしゃいます」

嬢「冗談だって…本当にいないの?仕事一筋?」

執事「そうですね」

嬢「でも気になる子くらいいるでしょ?ねえねえ、恋バナしようよー」

執事「さあ、そろそろ勉強に戻りましょうか」

嬢「えっなんで!?」

執事「休憩は終わりです。教科書を開いてください」

嬢「う、うわあああノリ悪いなあ」ペラペラ

執事「はいでは、ここの応用問題からですよ」

嬢「執事のケチー」

執事「お嬢様、私の話なんて聞いても面白くありませんよ?」

嬢「面白いよ!多分!ねえねえ、じゃあ、元カノとかは?」

執事「…」

嬢「黙秘権か」

執事「さあ、解いてください」

嬢「あほー!執事のあほー!」

執事「時間がありませんよ!夕食の時間を削ってもいいのですか?」

嬢「解け、解くんだ嬢!!!」バババ

嬢「…」ピタリ

嬢「…なにこれ、問題文すら理解できない」

執事「…くすっ」

嬢「わ、笑うなぁ。こ、これどういうこと?」

執事「ですから、ここはこの値を求めるのですよ」

嬢「な、なるほど」

執事「お嬢様、頑張ってください」

嬢「…っ、ああー。終わったー」

執事「お疲れさまでした」

嬢「さ、お風呂入ってこよーっと」ガタン

執事「はい。湯冷めに気をつけてくださいね」

嬢「分かってますって」タタタ

……


嬢「ふんふん…」ヌギヌギ

嬢「うう、寒い寒いっ」ポイ

嬢「…」タタタ

ザバン…

嬢「ふー…」

嬢(…あーあ、疲れたなー)

嬢(…父上、今なにしてるかな)

嬢(あーあ、仕事も楽しそうだけど、たまには一緒にゆっくり過ごしたい)

(さて、あがろう)ザバ

ガララ

嬢「湯冷めしちゃう…!」ガタガタ

嬢(あ、パジャマ用意されてる)

嬢(…あれ?いつもと、なんか違う…?)

嬢(生地にツヤがあるような。それに、新しい…?)

嬢「…」ヒネリ

嬢「ま、いいや」モゾモゾ

嬢「ふー良いお湯でした」

執事「あ、お嬢様」

嬢「ん?なに?」

執事「探していらっしゃったブラウス、ありましたよ」

嬢「え?どこに?」

執事「やはり洗濯場に。ちゃんと直しておきましたので、ご安心を」

嬢「そっか、よかったぁ。あ、でもスカートはどこなんだろう」

執事「…スカート?」

嬢「うん。黒い、フリフリついたスカート。あれもなくなっちゃった」

執事「…そう、でしたか」

執事「分かりました。探しておきましょう」

嬢「うん、ありがとー」

執事「夕飯を食べたら、今度は外国語の勉強をしましょうね」

嬢「ええええええいいよ」

執事「素直なんですね、案外」

嬢「だってー、数学以外は割りと好きだもん」

……


嬢「ふー、やっぱり私天才かも」

執事「お見事でした。小テストも満点でしたし…。お嬢様は文系がお強いのですね」

嬢「でもさー、『私達は一晩中庭で火を燃やし続けました』とか、使う?あの例文いらなくない?」

執事「まあ、あの文には少々疑問を感じますが」クス

嬢「…ふあ」

執事「そろそろ消灯のお時間ですね」

嬢「うん…今日は疲れちゃった」ゴシ

執事「では、どうぞ横になってください」

嬢「うん…」トコトコ

嬢「…ん」ボフン

執事「お布団、かけますね」

嬢「ありがと…」

執事「いえいえ。お疲れさまでした」

嬢「…おやすみ、執事」

執事「おやすみなさい、お嬢様」

嬢「…」スゥ

執事「…」ソッ

執事「…」ナデナデ

執事(…さて)

執事(このあとの仕事は…あ、そうだ。お嬢様の探し物)

執事(黒いスカート、か…。あまり履いてなかったものなのに、どうして今更…)

執事(…)

執事「…」

メイド長「あら、執事」

執事「あ、メイド長さん。お疲れ様です」

メイド長「お嬢様はもうご就寝かしら?」

執事「ええ、さきほど」

メイド長「そう。あ、旦那様からあなた宛に手紙が届いているわよ。はい」ポン

執事「あろがとうございます」

メイド長「まだ何か仕事が残っているのかしら?歩き回って」

>>50
ミス 

執事「ありがとうございます」

執事「え?…いえ、もうなにも」

メイド長「そう?」

執事「ええ。今から自室に戻りますので」

メイド長「お疲れ様、おやすみなさいね」

執事「はい、おやすみなさい」

執事「…」クル

執事(旦那様からの手紙…何でしょう?)

バタン

執事(えっと、ペーパーナイフは…)ゴソゴソ

執事(あ、ありました)

ビリビリ

執事(えー…と)

「 親愛なる執事へ
  
   三日後に新人くるからヨロでーす 

             旦那様より」

執事(…短い)

執事(しかし、新人とは…?新しく誰かを雇ったのでしょうか)

執事(…そういえば、剣術の先生をつけると話していましたね)

執事(三日後とはまた急な…)

……


お嬢様、ご起床のお時間ですよ」

嬢「ん、う…はぁい…」モゾ

執事「朝食、冷めてしまいますよ」

嬢「うん、起きる、起きるよぉ」ズリズリ

嬢「…着替え面倒だなあ」

執事「今日はこれなどはいかがでしょうか?」

嬢「あ、あれ!?探してたスカート!あったの?」

執事「ええ。お探ししておきましたよ」

嬢「なんだー、よかったあ。あ、じゃあ昨日のブラウスと一緒に着よう」ゴソゴソ

嬢(…?)

執事「どうかなされましたか?お嬢様」

嬢「いや、このスカートもブラウスも…。生地こんなに厚かったかな、って」

嬢「…あれー?」サワサワ

執事「…?」

執事「そうですか?私には同じに思えますが…」

嬢「…うーん、まあでも気のせいかな?」

執事「ええ、きっと。では着替え終わりましたら、声をおかけください」

嬢「うん、分かったー」

……

嬢「ふー、ごっそさん」

執事「ごちそうさま、でしょう」

嬢「う、ご、ごちそうさま」

嬢「コックのじっちゃん、今日も美味しかったよ!愛してる!」

コック「んがはは、毎日美味しそうに食べてくれて、こっちも作りがいがあるよ」

嬢「んふふー。おやつも期待してるからね。プリンかプリンでいいよ!」

コック「はいはい、プリン作っておきますよ」

嬢「んふふー。できる奴よの」

嬢「さっ」ガタン

執事「剣術の稽古ですか?」

嬢「うーん、そうしよっかなぁ」

バタバタ バタバタ

嬢「…?」

メイド長「…はぁ、はぁ。あ、いた!」

メイド長「ちょっと執事!」

執事「は、はい?何かありましたでしょうか」

メイド長「どうもこうもないわ!お嬢様の剣術の教師だって男が門まで来ているのよ!」

嬢「えっ」

執事「!?教師の方は、3日後に来る予定だったんじゃ」

メイド長「旦那様から言いつけを預かってるのは貴方でしょう?確かめてちょうだい!」

執事「は、はい只今」

嬢「私も行くー!」

メイド長「なりませんよ、怪しい輩かもしれません」

嬢「大丈夫だもん!執事、はやく行こう!」グイ

執事「…どういうことでしょう?」

嬢「父上のことだから、連絡ミスでしょー?っていうか」

嬢「しんっじらんない、あのデブチン!」ダン

執事「え、え?」

嬢「妥協して黒髪アジアン美女剣士でもいいって言ったのに…!男かよ!」

執事「…それは一体、どういった」

嬢「良い匂いのする可愛い先生に、やさしーく教えてもらいたかったのにー」ムス

執事「…お、お嬢様はその…。い、いえなんでもありません」

ガヤガヤ

嬢「げ、皆が集まってる…」

執事「ええ、急いで確かめます」

メイド「…」ピョンピョン

嬢「あ、メイドちゃんー。仕事しないで、何野次馬しとるかー」

メイド「あっ。うふふー。お嬢様の新しい先生を見にきたのですよ」

嬢「ミーハーねー、全く」

メイド「うふふ、それが…。お嬢様、良かったですねぇ。ラッキーですよお」ニコニコ

嬢「え、どういうこと?」

執事「メイドさん、一体…」

メイド「ふふ、では、私仕事に戻ります」タタ

嬢「…何か嫌な予感しません?」

執事「同感です」

嬢「うわあああ、何だ、何なんだああ」

執事「すみません、執事です、通してください!」グイグイ

「あ、やっと来たー。どうも、剣士です。こちらのお嬢様に剣術を教えにきました」

執事「…」

執事「すみませんが、三日後からの契約ではございませんでしたか?」

剣士「いやね、意外と早くついちゃったんです。入れてもらってもいいですか?」

執事「契約書、お持ちですか?」

剣士「あー、えっと…」ゴソゴソ

剣士「はい、どうぞ」ピラ

執事(…この家の判子。本物だ)

嬢「ちょ、ちょっと!皆どいてどいてー」

剣士「…?」

嬢「見えないんだって、おい!ってか仕事戻ろうよ?ねえ!」ピョンピョン

剣士「あっ、あの方ですか」ズカズカ

執事「!ちょ…」

剣士「ご機嫌麗しゅう、お嬢様」ペコ

嬢「!…あ」

剣士「俺、お嬢様の剣術を磨くために、はるばる都から来た剣士です。どうぞよろしく」ギュ

嬢「!う、うわ。むぅ?」

執事「…な!いきなり何を」

剣士「嫌だなあ、抱きしめるのは挨拶ですよ」ニコ

嬢「む、あ、あの」

剣士「あはは、びっくりしちゃいました?でも、早くお近づきになりたくって」

嬢「…」カァ

剣士「これからよろしくお願いします、お嬢様」ニコ

嬢「…は、はい」

執事「……」

剣士「とりあえず、荷物置いてきていいですかー?俺の部屋、どこです?」

使用人「は、はあ。案内するよ」

バタン

嬢「…」

執事「…」

嬢「何アレ、めっっっっっちゃ良い男じゃないですか」

執事「…そのようで」

嬢「う、うわぁ。参っちゃったなあ、どうしよ」カァ

……


嬢「そうそう、で、目が大きくて垂れてて、可愛いのに、眉はキリってしてるの!」

メイド「それにあの高い身長と筋肉!すごいですよお、うふふ」ニヤニヤ

嬢「しかも何かやけにフレンドリーだし…」

メイド「あー、お嬢様、羨ましいです」

メイド長「…ふん、理解しがたいですね。若い娘の好みというのは…」

嬢「そぉんなこと言って、メイド長もお尻ずうっと見てたじゃない!」

メイド長「なっ…!お嬢様!」

<キャーキャー

執事「…」カリカリ

使用人「よう、執事ぃ」ポン

執事「あ、ああ。こんにちは」

使用人「見ろよ、家の女たち全員あんなかんじだぜ、全く」ハァ

執事「…そうですね」

使用人「しかも、お嬢様まで黄色い声だしちゃってさあ。もー、年頃だねえ」

執事「…」ドサドサ

使用人「!あ、あいたっ!?」

執事「あ、ああすみません!ボーっとしておりました」

使用人「お前も気になるのかー?ん?」

執事「い、いえそんなことは」

使用人「そうだよなぁ。あいつったら、いきなりお嬢様にハグだもんなぁ」ニヤニヤ

執事「…!」

使用人「おー、まさか妬いて」

執事「しっ、仕事が残っているので失礼します!」ガタン

嬢「あ、執事ー」

執事「は、はい。何でしょうか」

嬢「え、えっとさー。この格好変じゃないかな?」

執事「…普通だと思います」

嬢「ん、そっかー。えっと、これで剣術の稽古受けても変じゃない?」

執事「…ブラウスとパンツでですか?いつものように稽古着では…」

嬢「え、だ、だってあれ、結構擦り切れたりしてるし」

執事「…動きやすいのならそれでいいのではないでしょうか」

「あ、いたいたー。お嬢様ー」

嬢「!」

執事「あ…」

剣士「準備できましたか?稽古、はじめましょうかー」

嬢「は、はい!よろしくお願いします」

剣士「はいこちらこそ。じゃあ、行きましょうか」

嬢「はい!」

執事「……」

執事「…」カリカリ

執事「…」チラッ

執事「…」カリカリ

執事「…」チラッ

メイド「うふふ」

執事「!な、なにか」

メイド「いえ、さっきからチラチラ中庭のほうを見ているので…くす」

執事「い、いえ。見ていません。仕事に集中していますよ」

使用人「…」ニヤニヤ

執事「…っ」カァ

メイド「少年さんも一緒に稽古をうけていますし、大丈夫ですよ」

使用人「え、メイド、お前見に行ったのか?」

メイド「ええ。ちらっと。楽しそうでしたよ」

使用人「へー、そう…。なあ、執事。俺らもさあ」

執事「ま、まだ書類が終わってませんよ」

使用人「は?あとそれだけじゃん。行こうぜ、気になってんだろ?」ニヤニヤ

執事「…っ、で、ですから」

メイド「まあまあ、そんなに使用人さんは一人で行きたくないのですかー」クスッ

使用人「へ?」

メイド「意気地がないのですねえ。しょうがありません、執事さん、一緒に行ってあげてください」

執事「…は、はあ」

使用人「え、ちょ」

メイド「行け」

使用人「は、はひ」ビク

使用人(…メイドこっわ…。目がマジだったぜ)

執事「で、では仕方がありません。行きましょう」

使用人「ん?お、おお。たすかるぜー。ひとりではきがひけてよー」アハハ

=中庭=

「やっ、たぁっ!」

「うん、いいよ。少年君、少し剣先上げて。お嬢様は、もっと体を前に倒して」

使用人「お、やってるやってる。…ん?」

メイド長「…」ジー

執事「…メイド長さん?」

メイド長「!!!」バッ

使用人「あのう、見学ですか?」

メイド長「え、ええまあ。お、お嬢様の様子が気になったもので、で、では」

パタパタ…

執事「…」

使用人「…5対5だな」

執事「え?」

使用人「剣士のお尻見たさとお嬢様への心配」

執事「…成る程」

「…うーん、お嬢様、少し姿勢が悪いですね」

「え、そうですか?」

使用人「お、おお?」

「ええ、もっと、こう…。」

ピト

執事「…!」

「少し猫背気味ですよ。ほら、伸ばして」

「は、はい…」

使用人「…わーお」

使用人「…」チラ

執事「…」クイ

使用人(め、眼鏡をあげた)

執事「…そろそろ行きましょうか」

使用人「え?も、もういいのかよ」

執事「ええ。お二人とも頑張っていらっしゃいますし。問題ないでしょう」

使用人「お、おお?そう、だなー」

執事「…」スタスタ

使用人「…」

……


嬢「はあ、はあ、ありがとうございましたー」

少年「ありがとうございましたっ」

剣士「うん、二人ともすごく筋がいいですね。感心しました」ニコ

剣士「お嬢様は、女性とは思えないほど太刀筋が力強いですし」

嬢「ほ、本当ですか?やったー」

少年「えー、先生、俺はー?」

剣士「少年君は、磨けばまだまだ光るさ。頑張ろう」

少年「えええええ何この落差」

嬢「まっ、所詮才能だよ才能」ニマニマ

少年「キーッ」

剣士「いやいや、本当にどちらとも、伸ばしがいがありますよ」

剣士「少年君、このあとどうするの?」

少年「あ、俺、近所に住んでるんでこのまま帰ります。ありがとうございました」タッ

剣士「ん、じゃあね。また明日」

嬢「ばいばーい」

剣士「…さて、じゃあお嬢様、お屋敷まで戻りましょうか」

嬢「はい」

剣士「お疲れですか?」

嬢「いえっ、大丈夫です」ニコ

少年「…ふんふん」タタタ

「いつも贔屓にどうも。これ、新しい品ね」

「ありがとうございます。またお願いします」

「毎度ありー」

少年「…あ。執事さんだ!おーい」

執事「!し、少年さん」

少年「あ、荷物受け取ったの?なにこれ?」

執事「…新しいテーブルクロスです。それより、稽古は終わったのですか?」

少年「うん!帰るとこ!稽古すごかったよ、本格的でさ!」

執事「そうですか、それはよかった」

少年「俺も一緒に稽古うけて良かったのかなぁ」

執事「はい。旦那様も望んでいますし」

少年「そっかー!やっぱおじちゃんは優しいな!先生も一流だったし」

少年「…んー、でも」

執事「何か?」

少年「いや、なーんかあの先生に嬢がデレデレしちゃってさ。なんか変なかんじ」

執事「…!」

少年「まあ格好いいのは分かるけどさぁー」

執事「す、すみません。その」

少年「?」

執事「デ、デレデレ、とは…。具体的にどのような」

少年「…」

少年「きになるの?」ニマア

執事「え!?い、いえ、お嬢様の世話係として、その。知っておくべきかと」

少年「…んふふ、自分の目で確かめてみたら?そんじゃ!」タタタ

執事「あ、ちょっ…!」

執事「…」

執事(デレデレ、ですか……)

……


剣士「はあ、汗かきましたねー」

嬢「はい。結構な運動量でした」

剣士「すみません、つい指導に熱が入っちゃって」

嬢「いえいえ、本格的なことが知れて良かったです」

剣士「…ところで、少年君って…?」

嬢「え、少年ですか?」

剣士「ええ。最初はお嬢様の弟さんかなあって思いましたが、庶民のようですし」

嬢「あ、そうですね。ここのコックの息子なんです。近くに住んでますよ」

剣士「ああ、そうなんですか…」

剣士「でも、なんだかすごいですね」

嬢「…何がですか?」

剣士「いえ、お嬢様は名家の令嬢ですが、つんけんしたところがなくって」

嬢「そうですか?」

剣士「こう、令嬢といえば、庶民とは仲良くしませんし、私のような使用人には態度も横柄なイメージが」

嬢「と、都会のお嬢様はそんな感じですよね…。私、あんまり長く街には住んでなかったので」

剣士「ここは、楽しそうですね…。こんな明るくて優しいお嬢様がいらっしゃって」

嬢「!そ、そんな」カァ

剣士「ふふ。謙遜しなくってもいいんです。お世辞じゃありませんから」

剣士「なんだか、良い職場を見つけてしまいました」ニコ

嬢「そ、そうですか…」

「…あ、お嬢様。お疲れさまです」

嬢「あ、執事!」

剣士「あ。では、私はここで。お疲れ様、お嬢様」ペコ

嬢「は、はい。お疲れ様でした」

執事「…」

嬢「…はー」

執事「稽古、いかがでしたか」

嬢「もうすごいよ…。体が動きやすくて。目から鱗ってかんじだよ」

執事「そうですか。よろしかったですね」

嬢「あ、でもつい夢中で夕方までしちゃった…。勉強どうしよう」

執事「しょうがありませんね…。今日は一科目だけにしましょう」

嬢「やった!流石執事!!」

執事「…ふふ。お疲れになったでしょう。汗を流してきてはどうですか」

嬢「うん!分かったー!」タタタ

……


嬢「っふー…。ホカホカだ」テクテク

嬢(今日の勉強は何するんだっけ)

嬢(あー、地理だったかな?予習、はやめにしとかなきゃ怒られるかも…)

メイド「あ、お嬢様。お風呂あがったのでしたら、いつものようにトランプを…」

嬢「あ、ごめんねメイドちゃん、私予習忘れちゃっててさー」

メイド「あら、そうでしたか…?じゃあ、使用人さんでも誘います」

嬢「そうして!じゃあ」タタタ

嬢(予習、予習)タタタ

嬢(…あれ?私の部屋、明かりついてる…?)

嬢(…付けっ放しにしてたっけ?)

嬢「…」キィ

ガチャ

「う、うわっ!!?」

嬢「うわあああああああ!?び、びっくりしたー!」

執事「お、お嬢様…!!」

嬢「な、何やってんの執事!?」

執事「え?い、いえ私はただ教材の準備をしていただけですが…!」アセアセ

嬢「そ、そう。びっくりしたあ…泥棒かと思った」

執事「も、申し訳ございません。驚かしてしまって…」

嬢「はぁ。いや、いいよいいよ。…その持ってる大きい箱、もしかして教材?多くない?」

執事「え?…あ…予備の教材ですが、今日は使わないかもしれません」

嬢「なあんだ。もー、紛らわしいな」

執事「…はは…」

嬢「ねぇー執事ー。今日予習しなきゃだめ?」

執事「…何故急に猫なで声になるんですか」

嬢「だってぇ…。ねー、だめ?」ニコニコ

執事「…っ、はあ。しょうがないですね。今日は授業だけでいいです」

嬢「やったー!ありがとう執事!できる眼鏡!」

執事「か、からかわないでください」

嬢「んふふー、いいじゃん。細いフレームが似合ってって」ツン

執事「ちょっ…ち、近いです、お嬢様…」

嬢「よいではないかよいではないかー。もそっと近うよれ?ん?」ジリ

執事「わ…っ」ガタン

嬢「なんで逃げる…」

執事「も、申し訳ありません。ですが…」

嬢「うわー、真っ赤っか」クスクス

執事「…っ、ごほんっ」

執事「その、少々無駄話がすぎました…。もう始めますよ」

嬢「ちぇー。時間短くしようとしてたのバレたか」

……


執事「はい、今日はここまでです。大事な事ですから、しっかり覚えておいてくださいね」

嬢「はーい」

執事「では、お疲れさまでした。もう、お休みになりますか?」

嬢「うん、えへへ、眠たーい」

執事「明日はきっちり二科目しますからね?」

嬢「ちぇ。…あ、そうだ」タタ

嬢「今日は冷えるから、長靴下履いて寝ようっと。…えーと」ゴソゴソ

嬢「…あれ、ないぞ?」

執事「いかがなされました?」

嬢「…う、長靴下がない、です」

執事「どうしても今、必要なのですか?」

嬢「う、うん…。どうしてかなー?ここの段に入ってたはずなのに」

執事「…」

嬢「お、怒らないでよ…。整理しようとはいっつも思うけど、苦手なの」

嬢「多分奥のほうに…」ゴソゴソ

執事「お嬢様、予備のものがありますよ」スッ

嬢「え?…なにそれ、気が利く」

執事「こういうことが多いので、この間頼んでおいたんですよ。どうぞ」

嬢「わあ、ありがと!可愛い。ここ、花の刺繍が入ってる」

執事「お気に召しましたか…その、私が選んだので…。あんまり」

嬢「ううん、すっごく可愛い。大事にするね!よいしょ」グイ

執事「!い、今履くのですか」

嬢「え?何か変?」グイ

執事「…お嬢様、その…男性、というか他人の前で足をむやみに出してはいけませんよ」

嬢「執事なんだからいいじゃん。嫌なら見なきゃいいでしょ…うんしょ」

執事「…」フイ

嬢「あ、顔そむけた」

執事「じろじろ見るのは失礼にあたりますので」

嬢「お前と私の仲じゃないかー。ほら、どうだ?華の17歳の生足だぞ」

執事「…お嬢様」

嬢「はい、すみませぇん」

嬢「…ふう、履けた。すごい、足のサイズぴったりだ」

執事「それはよかったです」

嬢「太ももも全然締められてる感じしないし…。流石執事。良い買い物したね」

執事「い、いえ。執事として当然です」

嬢「…ね、似合う?」

執事「…お、お似合いですよ」

嬢「可愛い?」クス

執事「も、勿論です。非常に可愛らしいです」

嬢「あはは、そんなに執事って花柄好きなの?乙女ー」

執事「え?」

嬢「だって『非常に可愛らしいです(キリッ』って」

執事「あ、そ、そちらでしたか…」

嬢「?逆にどちらよ?」

執事「い、いえ何でもありません」

嬢「変なの。…はあ、じゃあ寝よう…。おやすみ」ボフン

執事「はい、おやすみなさいませ、お嬢様」

……


嬢「おはよ…ふわあ」

執事「お早うございます、お嬢様」

嬢「んー…」ゴシゴシ

剣士「やあ、お早うございますお嬢様」

嬢「!け、剣士さんお早うございます」シャキッ

剣士「今朝もお美しいですね」

嬢「…や、やだ」アハハ

剣士「これから朝食ですか?」

嬢「はい、そうですけど…」

剣士「そうですか。あの…使用人の分際で図々しいのかもしれませんが…。ご一緒にどうです?」

嬢「え?全然いいですけど…」

剣士「ありがとうございます。…あ」チラ

執事「…」

剣士「彼は…えっと」

執事「あ、いえ。私は仕事が有りますのでお二人で」

嬢「え、しつ…」

剣士「そうですか、残念ですねー…。お仕事頑張ってください」

執事「はい。ありがとうございます」

剣士「ではお嬢様、行きましょう」ポン

嬢「はい…」

執事「ごゆっくりどうぞ」

執事「…」クル

カツカツ

使用人「よーお、しっつじ君っ」ドン

執事「いたっ。…使用人さん」

使用人「いやいやー、切ないねぇ」

執事「なにがですか…?」

使用人「たった二日目にして朝食の席まで盗られちゃったのね…」

メイド「あらあら、使用人さんその言い方は無粋なんじゃないですか?」

使用人「だってさあ、俺後ろから見てて辛かったぜぇ?」

使用人「剣士ってばよ、お嬢様の肩に手なんか乗せちまってよぉ」

執事「…お嬢様が望まれたことですし…」

使用人「かーっ、健気だねええ」

執事「…」

メイド「うふふ、使用人さん。…黙れ」

使用人「」ビクッ

執事「…」

メイド「口より手を動かしてくださいねー」ニコ

使用人「はっ、はっ、はいい」

使用人「…ったく、メイドのやつ。ゴミ捨てなんか押し付けて…よいしょ」

執事「文句を言ってはなりません。メイドさんは女性なんですから」

使用人「待て、俺はあいつが、でっかい寸胴なべを片手で持つところを見…」

嬢「…」

執事「あ、お嬢様!」

嬢「あ、執事、使用人」

使用人「こんなところでどうしたんですかぁ?」

嬢「か、隠れてるの」

使用人「隠れてる?そりゃどうして」

嬢「い、いや剣士が…」

執事「…!」ハッ

執事「剣士さん!?剣士さんがどうかしたんですか!?」

「あ、お嬢様見つけましたよ!」

嬢「あ、うわあああ…もう、二人のせいで見つかった」

執事「…え?」

使用人「どゆことっすか」

剣士「はい、三回見つかったのでお嬢様の負けです。ははっ」

嬢「み、見つけるのお上手ですね…」

執事「…?お嬢様、これは」

剣士「今、二人でかくれんぼしてたんですよー」

嬢「そう。何処に隠れてもすぐ見つかっちゃう」

剣士「いえいえ、この家って広いので骨は折れますよ…でもコツがあるんです」

嬢「ずるくないですか、それー」クスクス

使用人(…ええええ、仲良っ!?二日目にしてそれかよ!?)

嬢「あ、そういえばこの後、古典の授業だったっけ。ねえ、良い天気だから外でやろうよ!」

執事「中々良い案ですね…よろしいですよ」

剣士「お嬢様、このあとお勉強ですか?」

嬢「はい。古典の詩を読むんです」

剣士「詩!俺、結構得意分野なんですよ、それ」

嬢「え、本当ですか?」

剣士「いいなあ。ご一緒してもいいですか、執事さん」

執事「え?お、お嬢様しだいですが」

嬢「えっじゃあー、是非!」

剣士「本当ですか。嬉しいなあ」

執事「…」

使用人(あわわわわわわ)

……


執事「…」ゲッソリ

使用人「オ、オカエリー」

メイド「あらあら…。どうしたんですか?随分疲れてらっしゃいますね」

執事「いえ、今日は古典の授業をしたんですが…。少し、その」

使用人「あ、まさか剣士が」

メイド「まあ?」

執事「…ええ、何時にもまして話は脱線しますし、人は集まってくるしで半分も進められませんでした」

執事「おまけに、『蝶』という詩に触発されて、蝶の捕獲まで始めましたし…はあ」

使用人「そ、そりゃ大変なこったなあ」

メイド「ギャラリーが剣士さん見たさで寄ってくるのでしょうね…」

使用人「まあそこは分かるが、蝶って、おい」

メイド「まあ、お嬢様は楽しんでらしたんでしょう?」

執事「…それが」

使用人「あ、嫌な予感」

執事「剣士さんが、授業の講師を名乗り出てきて…。お断りしたのですが、お嬢様が」

使用人「…あー…」

メイド「あらまあ…」

執事「…はぁ」

執事「昼の授業を、結局剣士さんにお願いしたのですが…はあ、心配です」

メイド「まあでも、あなたの負担が減るのだからいいのでは…?」

使用人「メイドオォオオオ!お前はぜんっぜん分かってない!」

メイド「…はい?」

使用人「分かってんの!?ポっと出のイケメンに、大事な大事なお嬢様を奪われる感覚!」

執事「し、使用人さん!?」

使用人「カーッ、辛いね…!女は何時だって都会的なイケメンに流される…!」

使用人「悔しいのう、悔しいのう、執事ぃ」

メイド「…それは違うんじゃないでしょうか?」

使用人「は?」

メイド「その言い方ですと第一、執事さんが美形でないという認識になってしまいますし…」

執事「えっ」

使用人「えっそこ?」

メイド「執事さん、気にしないで結構ですよ。お嬢様は、一番あなたを信頼してるんですから」

執事「…そ、そうでしょうか?」

メイド「ええ!勿論です。雰囲気を見れば分かります」

メイド「きっと執事さんの所へ自然と戻ってきますよ」

執事「い、いえ別に私は…。お嬢様を私に縛りたいわけでは…。おこがましい…」

使用人「うわ、謙虚ぉおおおお」

メイド「使用人さんが無粋なだけですー。執事さん、こんなブサイクの僻み聞かなくてもいいんですよ」

使用人「ファッ!!!!!?おいメイドてめええ」

執事「…」クス

使用人「わ、笑わないでぇえええ!」

メイド「さ、切り替えて!頑張ってお仕事お仕事!」

……

嬢「ああ、やっと終わりかぁ」ノビー

執事「お嬢様、昼の分は私の授業で取り戻しますからね」

嬢「むー。おにー。楽しかったのに」

執事「…」

嬢「よし、じゃあ寝るね。…あ、靴下靴下」

嬢「これすっごく温かくて寝やすかった。重宝するわ」

執事「もったいないお言葉です」

嬢「じゃあ、おやすみなさい」

執事「はい、おやすみなさいませ」

バタン

執事「…ふー」

執事(…あ、鏡が曇ってますね…。拭かないと)

執事(…)チラ

執事(…お嬢様は、やっぱり垂れた大きな目が好きなのでしょうか)

執事(髪も…。黒より、金色でふわふわとしている方が…?)

執事(…)ペタペタ

執事(私の体は、貧弱でしょうか?)

執事(…剣士さんほどではありませんが、私だって、一応…)

執事「…」ハッ

執事(な、何を考えてるのですか!!?何を!!?)

執事(そ、そうではなくて、鏡を掃除しなければ…)タッ

ドン!

「…わっ!」

剣士「いたた…」

執事「も、申し訳ございません…!」

剣士「いえいえ…。あ、執事さん」

執事「…剣士さんでしたか、こんばんは」

剣士「あはは、急いでどうしたんです?仕事熱心なんですね」

執事「い、いえそんな」

剣士「…あのー」

執事「は、はい?」

剣士「いや、ここのお屋敷って広くて迷っちゃいまして…」

執事「ああ、ご自室をお探しですか?」

剣士「…まあ、はい…」

剣士「あ、もしかしてお嬢様のお部屋って、ここですか?」

執事「…!そうです、が…」

剣士「へぇ、そうなんですか…。ふーん」

剣士「…では、おやすみなさい」クルッ

執事「はい…おやすみなさい」

執事(…)

執事(あ、あれ?お部屋は分かるんでしょうか…)

……


執事「…」カリカリ

使用人「…やあ、執事」

執事「お早うございます、使用人さん」

使用人「その…剣士が来てから2週間経ったな」

執事「ええ、そうですね」カリカリ

使用人「いやあ、早いな」

執事「ええ、とても」カリカリ

使用人「…んでさ」

執事「はい」カリカリ

使用人「君はー…いっつもここにいるね?」

執事「ええ」カリカリ

使用人「いっつも書類書いてるね?いっつもカリカリしてるね?」

執事「ええ、書類も仕事のうちですから」カリカリ

使用人「へーそっかー。…でも君の本職は何だい?」

執事「…」カリカリ

使用人「…」

執事「…」カリカリ

使用人「OK.執事君、筆を置いて僕の目を見ようか」

執事「すみません、仕事に集中し」

使用人「執事ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

メイド「うるっせーよ」ガン

使用人「アウチ!!!!」

執事「…」ハァ

メイド「すみませんね、執事さん…。無粋な男で」

使用人「お願い!お願いメイドさん言わせて!」ジタバタ

メイド「黙れっつってんだろ」ゲシッゲシッ

使用人「あう!あう!!」

執事「…使用人さん、メイドさん…すみません、私」

メイド「今のは…使用人さんなりに、その…。気を使ったのですよ?」

執事「ええ…」

使用人「そ、そうだよ!」

使用人「この二週間!お前とお嬢様の距離は遠くなりっぱなしじゃねーか!」

メイド「…言わないようにしていましたが、私もそう思います」

使用人「朝昼晩!食事から勉強まで!犬のごとく着いて回る奴があああああ」

メイド「…剣士さん」

執事「…」

使用人「おい執事ぃ…。俺見てるだけでせつねぇんだよぉ…」

使用人「お嬢様の傍じゃなくて、こんな薄暗いとこでカリカリカリカリしてるあんたを見るとよぉ…」

メイド「私も、少し切ないです」

執事「…仕方のないことです」

使用人「んあはああああああああああ切ないよおおおお死んじゃうううう」ゴロゴロ

メイド「執事さん、やっぱり…」

執事「あ、手紙を出してこないとなりませんね」ガタ

使用人「お、おい待て」

執事「では」ガチャ

バタン

メイド「…」

使用人「…」

メイド「わ、私達が気にしすぎなのでは?」

使用人「えらいあっさりだよ、なあ」

メイド「…ですが、なんだか気に入りませんねあの金髪」

使用人「は?お前だってキャーキャー言ってたくせに」

メイド「…いつまでたっても屋敷内をうろちょろしますし」

メイド「なんだか…。なんか生理的に、こう、だめなんですよね」

使用人「ふ、ふーん」

メイド「この間仕事をしてると、近づいてきて」

メイド「…お嬢様と執事さんの関係を根堀り葉掘り聞いてきたんです」

使用人「はあ?なんで」

メイド「…何か、嫌なんですよね」

使用人「…女のカンってやつか。どうなんだろ」

執事(…仕事、あらかた終わってしまいました)

執事(お嬢様がいないと、こんなに暇なものなのですね…)

執事(…ですが、お嬢様が楽しんでいらっしゃるなら、それで)

嬢「…わっ」

執事「…!!」ビクッ

嬢「ふふー、ご機嫌麗しゅう、執事」

執事「お、お嬢様…。剣の稽古をなされていたのでは」

嬢「ん、抜けてきちゃった」

執事「…い、いけませんよ?」

嬢「いいじゃん…。なんか、疲れちゃったしさぁ。ここ、座って良い?」

執事「…どうぞ」

嬢「ありがとー。よいしょっと」ストン

嬢「はあー…。良い天気だね」

執事「ええ、とっても」

嬢「執事、最近あんまり喋らないね」

執事「え」

嬢「…何か言っても、ええ、とかはい、とか返事だけ」

執事「…そう、でしょうか」

嬢「それ!それです!」

執事「!」

嬢「…何かあったの?」

執事「い、いえ…」

嬢「あのさー、執事…。私、やっぱ…」

「お嬢様ー!」

しえん

続き、私、気になります!

嬢「あっ、剣士…」

剣士「やっと見つけましたよ!さあ、少年君も待っていますから、戻りましょう」

嬢「えへへー、見つかっちゃった」

嬢「じゃあ、執事、またねっ」サッ

執事「…!」

嬢「また、今夜お話しよう?ね」ボソッ

執事「…は、はい」

……


執事「…」ボー

メイド「…うふふ」

使用人「何であんた呆けちゃってるの、やだあー」

執事「すっ、すみません」

メイド「お嬢様とコンタクトとれたんですね?ふふ、分かりやすいです」

執事「…」カァ

メイド「まあそんな執事さんに朗報です」

執事「…はい?」

メイド「明日は何の日でしょうか?」

執事「…?えっと…」

使用人「明日のスケジュールも忘れるなんて重症だなw」

メイド「うふふ、明日は街へ買出しに行く日ですよぉ」

執事「…!そうでしたね」

使用人「んふふふふふー」ニヤニヤ

メイド「実はですねえ、メイド長さんが発表した買い物班には、剣士さんが含まれてるんです」

使用人「そうそう、俺とメイド長とメイドと剣士な!」

メイド「この意味、分かります?うふふ」

執事「…?」

使用人「だぁかぁら、お前買出しの班が戻ってくるまでの2日間、お嬢様とほぼふたりっきり状態なの!」

執事「」

メイド「うふふ、固まっちゃった」

使用人「可愛いんだからー」

執事「わ、私がですか!?」

使用人「びっくりするよなー。いつもは街嫌いのメイド長までもが行くんだからよー」ニヤニヤ

メイド「あの人も気を遣ってるんですよー?分かりますかー?」ニヤニヤ

執事「…そ、そんな」

使用人「よかったねええええええ??」

執事「そんなあ…」

使用人「そんな泣きそうな顔しちゃって、心の中では喜びのマイムマイム踊ってるんでしょう??」ニヤニヤア

メイド「マイムマイムレッセッセー」ニヤニヤ

執事「」ガタンッ

執事「よ、夜の授業があります、ので!失礼しますっ」

使用人「がんぶわってぬぇ~」ヒラヒラ

執事「…」タタタ

執事「」コケッ

使用人「何あの子チョー可愛いんですけどー」

メイド「うふふ、上手くいくといいですね」

使用人「だなー」

ガタンッ

嬢「」ビクッ

「あ、ああっ!」

バサバサ…

嬢(…何やってんだ執事)

ガチャ

執事「し、失礼します」

嬢「こんばんは。遅かったねぇ、珍しい」

執事「も、申し訳ございません」

嬢「いや、気にしなくていいよー。…それより、何でそんなに慌ててるの?」

執事「…そ、そうですか?」

嬢「髪もちょっと崩れちゃってるし…ほら」サワ

執事「も、申し訳ございません。申し訳ございません」

嬢「な、なんでそんな謝るんだ。どしたの今日は」

執事「いえ…っ」

嬢「ふふ、何か面白い」クス

執事「あ、あのお嬢様」

嬢「んー?なにー?」

執事「お知らせが…その…明日のことなんですが」

嬢「あ、買出しの話?」

執事「はい…。今回は、メイドさんとメイド長さん、使用人さん剣士さんで行く事になりまして」

嬢「あ、執事は行かないんだね!よかった」

執事「!で、ですから…。一応、お嬢様のお傍にいれるのは私だけですので」

嬢「んー、そっかそっか」

執事「不安かもしれませんが、その…」

嬢「は?不安?ないないないない」

執事「…!」

嬢「執事がいるのといないのとでは、全然違うよー」

執事「そうですか…う、嬉しいです」

嬢「でも今回はやけに多く行くね?いっぱい買い物するのかなあ」

執事「そう、かもしれませんね」

嬢「お土産楽しみだねー?」

執事「そうですね」クス

嬢「よっしゃあああ、何かさ、大勢いても楽しいけど、人数が少ないのもわくわくするよね!」

執事「…ええ、いつもと違うのは少し心が浮きますね」ニコ

嬢「よーし、人いないし、いつもはできないことやろうよ!」

嬢「枕投げとか、二人でピクニックとか、わいわいやろう!そうしよう!」ウキウキ

嬢「いえええええ!お留守番最高!ね?執事もそう思うよね!?」

執事「…」

執事「はい!」ニコッ

……


メイド長「では、留守のことは頼みましたよ、執事」

執事「はい、お任せください」

使用人・メイド「…」ニヤニヤ

剣士「…」

嬢「皆、お土産待ってるからー!」

メイド長「では、馬車を外に待たせてますので、行って来ます」

執事「行ってらっしゃいませ」

執事「…行きましたね」

嬢「そうだね」

執事「…で、では午前の授業を」

嬢「ていやっ」ドンッ

執事「…わっ!?」ドサ

嬢「わははは、タッチー!執事が鬼ー!」

執事「お、お嬢様…!」

嬢「おっにさんこっちら、手のなるほうへー!」タタタ

執事「…もう…」

嬢「ほらー、早く早く!」クスクス

執事「…覚悟してください、お嬢様!」ダッ

嬢「きゃああー!」クスクス

……


使用人「いやー、あの二人どうしてっかなー」

メイド「気になりますねえ」

使用人「いやあ、いいねぇ。青春だねえ」ニヤニヤ

メイド長「…全く、よくもそんな軽口がたたけるものですこと」フン

メイド「メイド長さん、そんなこと言って…。今回の班作りも貴方ですのに」クス

メイド長「べ、別に私はそんなつもりじゃあ…」

剣士「…」ハァ

剣士(…)

剣士「あの、すみません……」
……

嬢「……」

「どこですか、お嬢様ー」

嬢「……」クスクス

「…ここでしょうか?」ガラッ

嬢(違う、違うよ執事。ふふ、まだまだだな)

執事「…と、見せかけてここでしょう?」ガラッ

嬢「うわあああああああ」

執事「はい、タッチですお嬢様」

嬢「く、くうう…!何で何で何でぇえ?」

執事「お嬢様が隠れそうな場所といえば、ここですから」

嬢「く、くう…!次はすぐ見つけてやる!覚悟しなさい!」

執事「では、早く数を数えてください」

嬢「いーち、にーい、さーんっ…」

執事「…ふふ」タタタ

嬢「…しーい、ごーお…」

嬢「…ろくしちはちきゅじゅっ!!!!」

執事「!?」

嬢「待てぇええええええ」ダダダ

執事「は、反則ですよ!!」ダダダ

嬢「私がルールブックだあああああああ」

執事「ええええええ!?」

嬢「あははははは!たっ、楽しいいい」

執事「お嬢様、なんだか怖いですよ!」

嬢「はぁ、はぁ…」

執事「はぁ、はぁ…」

嬢「…私2時間もぶっ通しで走ったのはじめてかも」

執事「わ、私も…。はぁ、流石に疲れましたね」

嬢「…風きもちいー。こう、空を見ながら大の字っていいよね」

執事「そうですね…」

嬢「…スーツに草ついちゃうけど、いいの?」

執事「ええ。気にしませんよ…。お嬢様は、不快ではありませんか?」

嬢「ううん、全然ー」ノビー

執事「…次は何をいたしましょうか?」

嬢「…ふふ」

執事「何か…?」

嬢「執事ってさぁ、私と二人のときは意外と饒舌だったりするよねえ」

執事「…そうでしょうか」

嬢「んー、次はねー…」

嬢「あ、そうだ、一緒にお昼ご飯作ろう!お昼ごはん!」

執事「…?コックはいますが…?」

嬢「いいじゃんいいじゃん、ほらっ立って!」グイ

執事「分かりました…」

嬢「サンドイッチでも作って、二人で食べよう!で、終わったら書庫で本を読みたいなあ」

執事「ええ、そうしましょう」

嬢「んふふー。人目を気にしないって気持ち良い」

嬢「…あれっ」

執事「どうかなさいましたか?」

嬢「…執事、何かあそこに見えない?」

執事「…?ああ、何かこっちに来てますね」

嬢「…馬?」

執事「そのようですが…」

嬢「あ、正門入った。誰かなあ、行こう!」グイ

執事「は、はい」

嬢「はぁ、はぁ。おーい?」ブンブン

執事「お嬢様、息が切れていますよ…。お体は大丈夫ですか」

嬢「平気平気、おーい」

ギイ…

「…すみません、戻ってきてしまいました」

嬢「…あれ、剣士…?」

執事「…?」

剣士「すみません、旅の最中に気分が悪くなってしまって…」

嬢「そうなの?大丈夫?」

剣士「ええ、今は大分良くなったのですが…」

嬢「あちゃー、お留守番になっちゃったねー」

剣士「申し訳ありません」

嬢「いいのいいの、ね?執事」

剣士「はい…。体調の変化は予測し辛いものですから」

剣士「…いやあ、二人とも優しいんですね」

剣士「それじゃあ、仕事を頑張らないとなあ」

剣士「お嬢様、このあとお暇ですか?よろしければお相手を」

嬢「え…うーん。いいけど…」

嬢「…」チラ

執事「では、私も見学を」

嬢「…!そうだね、そうしよう!」

剣士「…」

嬢「さっ、早く行こう二人とも!」

執事(…少し曇ってきましたね。こういう日は…)

剣士「では、まずは…」

嬢「おーい、執事ぃー!やっほー!」ブンブン

執事「!…お、お嬢様。稽古に集中してください」

嬢「んふふー。いいじゃん、別に」

剣士「…仲がよろしいのですね」

嬢「でしょ?執事は良い奴だもん」

剣士「…」

カンッ、カンッ

嬢「てやっ、とおっ…!」

執事「お嬢様、頑張ってください!」

嬢「はぁ、よーし…」ブン

剣士「おっと。浅いですよ、お嬢様」カンッ

嬢「はぁ、はぁ…。うう、じゃあもう一回…」

執事「…」

嬢「…はぁっ、はぁ…」

剣士「甘いです。ほらっ」カン

嬢「…あ」グラ

執事「…!」ガタン

嬢「…」

ドサッ

剣士「…え?」

執事「お嬢様っ!!!!!」ダッ

嬢「…」

剣士「お、お嬢様?どうしたんです、ねえ!」ユサユサ

嬢「…っ」

執事「…触らないでくださいっ!!!」

剣士「…!」ビクッ

執事「お嬢様、しっかりしてください」クイッ

嬢「…はあ、はあ…」

執事(…また、あれか…)

執事「お嬢様、少々服を緩めますからね」

剣士「こ、これは…?」

執事「すみません、後で説明しますので、剣士さんは水を取ってきてくれますか?」

剣士「わ、分かった」タッ

執事「お嬢様、…苦しいですね。今薬を飲ませますから…」

嬢「…はぁっ…」ギュ

執事「…良いですよ、掴まって。安心してください、私がついていますから」

嬢「……」コクン

剣士「水です、ほらっ…」

執事「ありがとうございます。お嬢様、お口、開けられますか?」

嬢「…」

執事「…お薬です、飲んだらすぐ楽になりますからね」

嬢「…」ゴク

嬢「…」

執事「…ふう、一旦落ち着きました…。良かったです」

執事「すみません、お嬢様をお運びしますので、ドアを開けてください」

剣士「は、はあ…」

……


ガチャ

剣士「…お嬢様は…?」

執事「ええ、よく眠っていらっしゃいます。もう大丈夫ですよ」

剣士「い、一体何があったんだ…?いきなり発熱して…」

執事「…お嬢様の持病です。こういった天気の変わり目や、激しい運動の後に出たりするんです」

剣士「で、でも普段俺との稽古では…」

執事「ここ3ヶ月は、体が鍛えられたのか出ていなかったんです…。油断していました」

剣士「…信じられない、あんなに元気そうなのに」

執事「お嬢様のお母様からの遺伝ですので…。どうしようもないんです」

剣士「お、俺が悪かったのかな」

執事「いえ、私の不注意です。気に病むことはありません」

剣士「でも…くそっ」

剣士「…っ」

剣士「俺に何かできることって、あるかな…?」

執事「いいえ、今は何も…。むしろ何もせず、そっとしておく方が良いんです」

剣士「…そっか、ははっ…何か、すごいな」

執事「え?」

剣士「いや、執事さん、全然慌てないで対処すんだもん」

執事「慣れていますので…」

剣士「…羨ましいな」

執事「…はい?すみません、聞こえませんでした」

剣士「いや、なんでもない」

執事「そうですか」

……


「失礼します、お嬢様」

嬢「…ん…」

執事「具合はどうでしょうか?」

嬢「…大分いい…」ハハ

執事「お食事をお持ちしましたよ。食べられますか?」

嬢「うん、食べたい…」

嬢「…それ、お粥…?」

執事「はい。栄養ありますから、我慢なさってください」

嬢「うう…」

執事「…ふー、ふー。ほら、お嬢様…お口あけてください」

嬢「…」アーン

執事「熱くないですか?」

嬢「らいじょうぶ」モグモグ

執事「そうですか、良かったです」

嬢「…ごめん、執事」

執事「謝る事はありませんよ。お嬢様は悪くありません」

嬢「剣士、気にしてない?」

執事「…彼、相当気に病んでいましたね。お嬢様の世話をさせてほしいと」

嬢「…あちゃー…」

執事「大丈夫ですよ、きちんと説明しておきますから…。ほら、あーん」

嬢「…」アム

執事「お嬢様はただ、自分の体を休める事に集中してください」

執事「温かいお茶も、どうぞ」

嬢「ありがと。…ん…」

執事「あ、私が…」

嬢「これくらい、一人で飲める…」

嬢「…!」

バシャッ

執事「あっ…」

嬢「…ごめん、なさい…」

執事「手がまだ震えるのでしょう?無理なさらなくていいんですよ」

嬢「…だって、執事に迷惑が」

執事「…もう、そんなこと気にしなくていいんです」

嬢「…う」

執事「お嬢様、水、かかっていませんか?」

嬢「…ちょっとかかっちゃった」

執事「…汗もかいていますし、着替えをしたほうがいいですね」

嬢「…はい」

執事「待っていてください、今メイドさんを呼んで体を…」

執事「…」ピタッ

嬢「…」

執事「…」

嬢「…あの、」

執事「そうでしたね…。忘れておりました」

執事「こ、困りましたね。どうしたら…」

嬢「…」

執事(ど、どうしましょう。でもこのまま放置したら、体温が…)

嬢「…して…」

執事「は、はい?」

嬢「ごめん、執事…。着替え、手伝って…」

執事「!!え、えっと」

嬢「…ごめん、嫌だよね」

執事「そんなことありません!」

嬢「…じゃあ、お願い」

執事「…お、お嬢様はよろしいのですか?私は全く、構いませんが…」

嬢「…寒い、から…。早く」

執事「!も、申し訳ございません。すぐ用意します」

嬢「…ん」

執事「…し、失礼、します…」

嬢「…」

執事「…ボ、ボタン外しますね」

嬢「…」

プチプチ

執事(なるべく見ない、なるべく見ない)

執事「…えっと、とりあえず、上半身を拭きますね」

嬢「はい」

執事(…)ギュウッ

嬢「…ふふ」

執事「!く、くすぐったかったですか」

嬢「だって、執事、目をぎゅってつむってるんだもん…」

執事「で、ですから…。失礼ですので」カァ

嬢「うん、ごめんね、気を使わせちゃって」

執事「い、いえ。執事として当然です」フキフキ

嬢「…ありがと」

執事「い、いえ」

執事(…やわら、かい…。布ごしなのに、指が沈んで…)

執事(…む、無心です)

執事「…ふー」

執事「で、では次は背中を拭きますね」

嬢「うん…よいしょ」ゴロ

執事「…!」

執事「……」ゴク

執事「し、失礼します…」

執事(いけない、何も考えてはいけない…)

嬢「…ん、気持ち良い」

執事「…ふー、よ、よろしいでしょうか、もう…」

嬢「うん、スッキリした…。ありがとう」

執事「で、では新しい服を着せますね」

嬢「ほんと、ごめんね…」

執事「いえいえ。お気になさらず」

嬢「…ねえ、執事…」

執事「はい?」

嬢「…あのさ、眠るまでここに、いて」

執事「は、はい。分かりました」

嬢「ありがと…」

執事「…」

嬢「…手、ちょうだい」

執事「は、はい」

ギュッ

嬢「…安心する。ママみたい」

執事「さ、左様でございますか」

くっそかわいいな

支援

執事がだろ?

メイドがな

執事「…」ギュ

嬢「…」

執事(眠ってしまわれましたか)

執事(…子供みたいな寝顔です。おいたわしい)

執事「…」ソッ

執事「おやすみなさいませ、お嬢様…」

バタン

……

=街の酒場=

メイド「ああああああああああファッキンゴオオオオオオオオッド!!」

使用人「おおおお落ち着けメイドォォ!!」

メイド「うっせーハゲ!これが呑まずにいられるかああ」ドカッ

使用人「ぐはっ!?き、気持ちは分かるけどよお前、のみすぎだって!」

メイド「シラフじゃやってられねーっつのぉ…畜生が」ヒクッ

使用人「半端ねぇ、荒れ方が半端じゃねえ」ガタガタ

メイド「全く、何なんですかあの金髪豚野郎はああ」

メイド「人が!折角!良い雰囲気に!もって!いった!のにっ」

使用人「いてててて!髪を引張るなよ!俺関係ねーだろ!」

メイド「あのボケナスゥウウウ!なあにが『気分が悪いので帰ります』だ!」

メイド「病人が!あんな!華麗な!馬さばきができんのかぁああ!?」ブチブチ

使用人「抜けてる!姐さん抜けてりゅうううう」

メイド「帰ったらタダじゃおかねぇ、あのKY剣士…っ」

「…おい、今剣士って」

「ああ、言った言った」

メイド「…あーん?見せ物じゃねえぞガキ共ぉおおお!」

使用人「やめてえええお願いいいい」

男「い、いえすみません…。でも、今あなた剣士って言いましたよね?」

メイド「言ったけどぉ?それがなにかぁ?」

男「…ほら、やっぱり」

男2「い、いや…でもそんな」

メイド「何かあんならハッキリ言えゴルァアア!!」ダンッ

男・男2・使用人「ヒッ」

男「あ、あのっ。人違いかもしれないんですけど…!」

メイド「はよ話せや…」

男2「!け、剣士っていえば、ちょっと前までここの常連だったんですよ!」

使用人「へ、へえ。まああいつ、街の出だからな」

男「…毎日のようにここに入り浸って、女と酒ばっかりで…」

男2「ですが、最近パッと姿を見せなくなったんです」

メイド「…はあ?剣士が?ねーちゃん連れてここで酒ぇ?」

使用人「イ、イメージわかねぇえ」

男「…噂に寄れば」

メイド「…?」

男2「あいつ、多額の借金があるとかどうとか…」

使用人「まじでか」

男「い、いえでも、人違いかもしれないですけど…。お知り合いに?」

メイド「お知り合いも何も、ウチの同僚だっつーの!」ダン

男2「ああ、じゃ、じゃあまっとうに働いてるんですかねぇ…」

使用人「…なる、ほど」

メイド「…怪しい」

使用人「そ、そうか?借金返すために働いてるだけじゃあ」

メイド「…甘い」

使用人「…お前、顔色が某ナ●ック星人みたいになってるけど、大丈夫かよ」

メイド「…あ」

使用人「…お、い」

メイド「やっべ、これヤバいやつかも」バタン

使用人「メイドちゃああああん!!!?」

……


執事「~♪~♪」

嬢「にひひー」ヒョコ

執事「あ、お嬢様!いけませんよ、ベッドから出られては…」

嬢「もう大分平気だもーん。あ、それ朝ごはん?」

執事「ええ。食べられますか?」

嬢「食べたい!」

執事「では、セットしますので少々お待ちを」カチャカチャ

嬢「あ、卵のお粥だ。おいしそう」

執事「ええ、コックさんも心配していましたよ。早く良くなってくださいね」

嬢「分かってるよ、心配かけてごめん」

執事「いえいえ…。どうぞ」

嬢「…」アーン

執事「…?」

嬢「え、食べさせてくれるんじゃなかったの?」

執事「…!け、今朝はお嬢様一人で大丈夫なのでは…」

嬢「…冷たいなー。嬢悲しい」

執事「…で、ですがお嬢様がお望みなら、その…」

嬢「ん?何か言った?」モグモグ

執事「…」

執事「いえ、なにも」

嬢「お粥も結構イケるなぁ。だしが効いててすっごく美味しい」ニコニコ

執事「良かった、大分元気になられましたね」

嬢「んー、そうだけど。あーあ、折角の2日間が部屋になっちゃったな」

執事「お着替え、済ませられたんですね」

嬢「うん、あ…。でも足が寒いから、執事からもらった靴下履こうかな」

執事「…」

嬢「…えっと、ここらへんに」

執事「お嬢様」

嬢「なーに?」

執事「いえ、靴下だけでは今日は…」

嬢「私が履きたいんだからいいの!…あれ」

嬢「あれ?あれ?」ゴソゴソ

執事「お嬢様、厚手のタイツがありますから、どうぞこれに…」

嬢「嫌…。あれ、ない。ないよ…?」

執事「お嬢様…」

嬢「し、執事から貰った靴下…ない…」

嬢「ど、どうしよう…ごめんなさい、執事…」

執事「…いえ、探しておきますよ。お気になさらず」

嬢「…」シュン

嬢「どうして…私、大事にしようって決めたのに」

執事「お嬢様…」

嬢「何でなくしちゃうのかな、…嫌な子」

執事「…お嬢様、申し訳ありませんっ…」

嬢「な、なんで執事が謝るの?」

執事「…!い、いえ」

嬢「…ごめん、タイツ、履く…。靴下もちゃんと探します。執事から貰った、大事なものだから」

執事「…お嬢様」

執事(…お嬢様、あんなに落ち込んで)

執事(…私は…)

剣士「…あ、執事さん」

執事「剣士さん。こんにちは」

剣士「いやあ、お嬢様のご機嫌を伺おうと思ったんだけど、部屋から出てきてくれなくって」

執事「そうですか…」

剣士「はは、執事さんは簡単に入れるのにな。…壁を感じちゃうな」

執事「剣士さん、お嬢様はそんなこと思っておりません」

執事「お嬢様は、家のもの皆を家族のように思っていますよ。あなただって」

剣士「…家族、ね」

執事「ええ、そうです」

剣士「…」

執事「…その、よろしかったら…私と少し話をしませんか?」

剣士「…え?」

執事「思いつめていらっしゃるようですので…。大丈夫、仕事は今のところ何もありませんから」

剣士「…じゃあ、お願いしようかな」

執事「コーヒーでよろしかったでしょうか?」コト

剣士「ああ、ありがとう執事さん」グイ

剣士「…ふー」

剣士「…執事さんは、お嬢様の傍にお使えして何年になるのかな」

執事「えー、ざっと4年ですね」

剣士「そっか…。仕事、楽しい?」

執事「ええ、とても。充実しております」

剣士「でも、すごいなあ4年って…。そりゃ距離も近いわけだ」

執事「剣士さんは、前はどのようなお仕事を?」

剣士「…俺?俺は…まぁ、パッとしないな」

剣士「護衛とか傭兵とかで、ぼちぼち食いつないできた感じだよ」

執事「そうですか。しかし街の剣士となると…」

剣士「いやあ、たいしたことないんだよ」

剣士「…それよりさ、お嬢様ってもう、17だよね?」

執事「はい。先月17歳の誕生日を迎えられました」

剣士「じゃあ、その…。そろそろ話ももちあがってくるね」

執事「…話?とは?」

剣士「…えっと、つまり縁談だよ、縁談」

執事「」バシャッ

剣士「!?だ、大丈夫!?」

執事「い、いえ!失礼しました」フキフキ

執事「そ、そうですね。女性ともなれば、そろそろ…。それが普通ですよね」

剣士「旦那様は、何て?」

執事「わ、分かりません…。そんな話は一切なさりませんので」

剣士「いやあ、でも家柄とかの問題もあるし」

執事「そもそも、旦那様はお嬢様から子離れできていらっしゃらない節がありますし…」

執事「あ、それにお嬢様自身も、きっとご結婚なんて微塵も考えていらっしゃらないかと」

執事「まずお嬢様は、他の家との接触も少ないですので、男性と関わること自体…」

剣士「えっと、つまり」

執事「…今のところは全く」

剣士「へぇー、そっか」

剣士「そっかあ…」

嬢「…」ガサガサ

嬢(ない、ここにも…どうして)

嬢(貰った日に履いて寝て、そのあと畳んで…)

嬢(置いた、確かにこの段の一番目立つ場所に置いた…)

嬢「…ごほっ、ごほっ…!」

嬢「…はぁ、はぁ…」

嬢(動きすぎたかな…。でも早く探さないと)

「お嬢様、失礼します」

嬢「!ま、まって…」

執事「え?あ…」

執事「何故横になっていないのですか?それに、クローゼットから服をこんなに出して…」

嬢「だ、大丈夫だって…ごほっ!」

執事「咳が出ていらっしゃいますよ。いけません、ベッドに戻ってください」

嬢「は、はい…。ごめんなさい」

執事「埃は体に障ります。どうぞ安静になさってください」

執事「…私が差し上げたものを、お探しに?」

嬢「う、うん…」

執事「お嬢様、そんなに気に入られたのでしたら、同じものを…」

嬢「そ、それは駄目だよ。自分でちゃんと探す」

執事「…そうですか」

執事「ですが、今はお休みになってくださいね」

嬢「ちぇー。暇なんだけど…」

嬢「…執事、仕事ある?」

執事「いえ、特にはありません」

嬢「じゃあ、私が与えてしんぜよう。ね、ベッドの横に来て」

執事「は、はい」

嬢「座って」

執事「はあ…」ストン

嬢「何か面白い話して!」

執事「え、ええ…?」

嬢「はやくはやくはやくー」

執事「…」

嬢「あらら、固まっちゃった。アドリブ弱いな」

執事「も、申し訳ありません」

嬢「じゃあ、私が勝手に話すから相槌うって」

執事「はい」

嬢「…昨日の夜、執事と初めて会ったときのこと夢に見たの」

執事「そうなのですか」

嬢「うん、すっごくリアルでびっくりした。あ、覚えてるんだなぁって」

嬢「…確か、春ごろだったよね」

執事「ええ」

嬢「執事は覚えてる?」

執事「ええ、よく」

嬢「じゃあ、そのこと話してよ」

執事「え…、つまらない話ですよ。よろしいですか?」

嬢「うん、聞きたい」ニコ

執事「…ええと、今から4年半ほど前ですね…」

執事「私、学校を卒業した後にある家にお仕えしていました」

嬢「へえ、そうだったんだ」

執事「しかし、あるミスをして、家から叩き出されたのです」

嬢「ええええ、意外」

執事「私も若かったものですから、その後は何もやる気がおきず、何とか食いつないでおりました」

嬢「なにそれ衝撃」

執事「そんな中、街の募集広告を見たんです。実にシンプルでしたね」

執事「『娘の面倒見れる人はこちらまで』という文と簡単な地図だけでした」

嬢「間違いない、親父です」

執事「…ふふ、でも何故かその広告に惹かれていくように、お屋敷を訪ねていました」

執事「不思議でしたね。もう屋敷仕えはしたくないと思っていたのですが」

嬢「ふーん…」

執事「屋敷の門まで来たとき、私はある女の子に出会いました」

嬢「…?」

執事「…くす。名家のお嬢様ですのに、まるで庶民と変わらない格好をして、庭を駆け回る貴方でした」

嬢「…!え、ええ!」

執事「驚きました。普通ご令嬢というものは、こんな風に振舞ったりしません」

執事「私、あまりのことに見入ってしまったんです」

嬢「…し、失礼な」

執事「いえ、なんと言うか…。新鮮で、心地よいお嬢様だと思ったのです。…ですが、彼女は」

執事「裸足で走っていたと思えば、いきなり地面につっぷして泣きはじめたんです」

嬢「…」

執事「彼女は誰もいない、木陰に移動して、顔を覆って泣きはじめました」

執事「怪我でもしたのだろうかと心配していると、押し殺したような声で『ママ』と仰りました」

嬢「…そっか、4年半前って」

執事「はい…。嫌なことを思い出させてしまいましたか?」

嬢「ううん。続けていいよ」

執事「…はい。私は、そのときお声をかけるかどうか、散々迷いました」

執事「ですが私が悩んでいる間に、いきなり彼女は泣き止んだのです」

執事「それはもう、いきなり。緩んだ糸が、またピンと張るかのようでした」

嬢「…」

執事「何があったのだろうと思っていると、裏口からメイドが一人入ってきたのです」

執事「彼女は、さっきまで大泣きしていたのに、メイドに笑顔で飛びつきました」

執事「そのとき、私、分かってしまったんです」

執事「誰もいない庭で、悲しい事があって、気を紛らわそうと一人遊びしていたお嬢様は」

執事「ふと、どうしようもなく泣きたくなって、一人縮こまって泣いていたんです」

嬢「…」

執事「ですが、それを誰にも悟られないよう、メイドの足音が聞こえた途端泣き止んだのです」

執事「…そうですよね、お嬢様」

嬢「…どうだったかな」

執事「…その様子に気づいて、私は広告へ応募することを決めました」

執事「このお嬢様に是非お仕えしたい、と思いました。こんなことは初めてで…」

執事「旦那様も、とても心優しい方でした」

執事「お母様を亡くされ、明るく振舞ってはいても傷心しているお嬢様に気づいて…」

執事「それで、娘の悲しみを癒してくれる世話係を探されていた、と」

嬢「…そっかあ」

執事「…以上が私の昔話です。…いかがでしたか?」

嬢「な、なんか執事が意外だったし…。ええ、あれ見られてたのかあ」

執事「いえ、しかし…」

嬢「?何?」

執事「私、面接には落ちたと思っていたんですよ」

嬢「あああ、だったね!」

嬢「めちゃくちゃ動きはぎこちないし、緊張してるし、酷かったねあれは」

執事「は、はい…。おまけに周りはベテランの方や女性がいましたし」

執事「…そんな中で、どうして私なんかが」

嬢「ああ、あれはねー…。私が選んだの」

執事「…へ?」

嬢「父上がやめとけ、って止めたけど。私が選んだの!」クス

執事「そ、そんな。どうして…」

嬢「…んー」

嬢「…面白かったから、かな」

執事「」

嬢「だってぇ、執事学校卒業したのに皿割るとか!逆にすごいなこの人って思って」クスクス

嬢「面接だってカミカミだったし。サ行発音できてなかったし」

執事「」

嬢「ふふ、赤いね」

執事「…う…」

嬢「まあ、それもあるけど…。目線、かな」

執事「目線…?」

嬢「うん。面接のとき、ずうっと私の方を見てたから。他の人は父上を見てたけど」

嬢「それで、あ、この人いいなあ。一緒にいたら面白そうって思った」

執事「…そうでしたか」

嬢「ふふ、実際君といると全然飽きないけどね」

執事「!そ、それは喜んでいいのでしょうか」

嬢「いいんだよ!あったりまえじゃん」

執事「…くす。ありがとうございます、お嬢様。とっても嬉しいです」

嬢「おー。私に選ばれたんだから、自信もてもて」

執事「…はい!」ニコッ

……


「では、おやすみなさいませお嬢様」

バタン

執事(…ふふ。今日はお嬢様から色々な話が聞けて、良かったです)

執事(お嬢様が私を…)

執事「…♪」

執事(…では、自室に戻り…)

執事「…?」ピタ

執事(…裏口に人影?)

執事(あっ、入って…!)

執事(ど、どうしましょう!)タッ

「…だから、アテはあるんだって」

「お前、2ヶ月前からそればっかりじゃねえか!いい加減に耳そろえろ!」

「だ、だから!お願いだから待ってくれ。2週間、2週間でいいんだ」

執事「…あの」

剣士「…!!!?」ビクッ

はよ

支援あげ

はよはよー

あげ

支援

しえん

支援

つづきはよ

剣士「おっ、お願いだ!人に見つかっちまう、とりあえず出てくれよ!」グイグイ

「お、おい!押すんじゃねえ!」

バタン

執事「…誰かいらっしゃるのですか?」

剣士「あ、ああ。俺だよ」

執事「わっ…。剣士さんでしたか!びっくりしました。…こんな所で何を?」

剣士「い、いや…。ちょっと、一服しようかって」

執事「…何か別の人の声も聞こえたようですが?」

剣士「は?気のせいじゃないかな…。風吹いてるし、木のざわめく音とかかもな」ドキ

執事「そうですか…。安心しました。てっきり侵入者かと」

剣士「いや、ないない!そんな奴いたら、俺がすぐ追い出すよ…」

執事「頼もしい限りです。では、私は自室に戻りますね」クル

剣士「あ、ああ。おやすみ」

執事「…あ。剣士さん、ところで…」

剣士「な、何だい?」

執事「…煙草がお好きなんですか?」

剣士「…あ、ああ…」

執事「そうですか。では、おやすみなさい」

バタン

剣士「…」

「おい、もう出てきていいか?」

剣士「…ああ」

「ふぅー。へへ、同僚だったか?随分信頼されてるようだな」ニヤ

剣士「…いや」

剣士「畜生、ボロ出しちまった」ギリッ

来てた!

剣士「くそっ…!」ダン!

「は、はあ?何だってんだよ」

剣士「体を動かす仕事をしてる俺が煙草なんて、吸う訳無いだろ…!」

剣士「しかも煙草を吸っていれば煙とか匂いで分かる!あいつは、知ってて聞いたんだ…」

「…はあ」

剣士(くそっ、大人しい愚図だと思ってたのに…)

剣士「…邪魔だな」ボソ

「まあ、何にせよ金は返してくれよ。でなかったら…」

「お前の…ひひっ。どうなっても知らないからな」ニヤ

剣士「…っ」

剣士「分かってる。だから、もう少し待ってくれ。あては、ここにある…」

「この家からたかろうってか?相当な悪人だな」クスクス

剣士「…もう帰ってくれ、見つかる」

「はいはい。また来るからな、剣士さんよ」

バタン

剣士「…くそ…」

剣士「…執事っ…!」ギリ

執事(…うーん)

執事(煙草、ですか。やっぱり、吸うなんてことはないでしょうし…)

執事(それにあの話し声…。誰かと話をしていたのでしょう。でも、何を隠すことがあるのでしょう)

執事(…何か匂いますね)

執事(しかし…。お嬢様からの信頼も厚いようですし、私が邪推するのも…)

執事(…はぁ)

執事(何も起きなければ良いのですが…。もし、お嬢様に危害が及ぶようなことがあったら…)

執事「…そのときは、私が」ボソ

執事「…」ガチャ

バタン

執事(…そういえば)

執事(お嬢様、私が差し上げた長靴下を探していました…)

執事(…お嬢様)

執事(…申し訳ありません)

執事「…」

執事(「こんなこと」、もう…)

……


剣士(大体、あいつに一番注意すべきだった)

剣士(どんなに大人しくても、ここの執事で、お嬢様のこともよく理解してる)

剣士(くそっ…)

剣士(まずい、弱みを握られたら…どうする。くそっ、くそっ)

剣士「…?」ピタ

剣士(あそこの部屋…明かりがついてる)

剣士(…お嬢様の部屋、じゃないよな)

剣士(ってことは、あいつの…)

剣士「…」カツカツ

剣士(…いる、か?)キィ

剣士(…)チラ

「……」

剣士(何やってんだ…?クローゼットの前でぼんやりしてる)

剣士(…変な奴だな)

「……」ガチャ

剣士(…あ、開けた)

剣士(何か出した…。箱、か?)

「…はぁ」ドサ

剣士(箱の中から、何か…)

剣士(くそ、よく見えねえ…!)グッ

「…お嬢様、申し訳ございません…」

剣士(…あ?)

剣士(…お嬢様?)

剣士(何だ、何してんだ。あいつ…)

剣士(…そういえば、お嬢様って)

『最近、よく衣類を失くしちゃうんだ』

剣士(…おい)

『すぐ執事が見つけてくれるんだけど。何でかなぁ…ちゃんと片付けてるのに』

剣士(あいつ…)

剣士(まさ、か)

「…」ゴソゴソ

剣士(いや、まさかな)

剣士(そんなはずは)

「…あ」ヒラ

剣士(……嘘、だろ。あれって、やっぱり…)

剣士(…ああ)

剣士(なるほど、なぁ…)ニヤ

ガチャ

執事「…!」ビクッ

剣士「…よお、こんばんは」

執事「け、剣士…さん」

執事「…っ」バッ

剣士「ああ、隠さなくていいよ」ニヤ

剣士「…だってさ」

剣士「俺、見ちゃった」

……


コンコン

嬢「あ、来た来た」

嬢「執事ー、おは」

剣士「お早うございます、お嬢様」ニコ

嬢「…え。お、おはよう?」

剣士「昨日はよく眠れましたか?熱は?ありませんか?」

嬢「う、うん。平気。それより、えっと、執事は?」

剣士「ああ。彼は別の仕事をしていますよ」

嬢「…そ、そう」

剣士「今日はメイド長さんたちが帰ってくる日ですね。お迎えをしませんと」

嬢「うん…」

嬢(…変なの。朝起こしに来るのは、いつも執事なのに)

剣士「さぁ、朝食ができていますよ」

嬢「分かった。行くー」

……


メイド「っ…う、えっ…」グッタリ

使用人「おいおい、大丈夫かよメイド」

メイド「っ…これが大丈夫に、見えますかぁ?」

メイド長「見えませんね。全く、昨日も酒場でたらふく呑んだのでしょう」

使用人「ご名答です」キラッ

メイド長「…全く…!若い娘がこんなに酔っ払って!」ペシ

メイド「あう、ううっ」

使用人「おい、もうすぐお屋敷着くぞー」ユサユサ

メイド「揺らさないでっ…ください、うっ」

使用人「…あの話、覚えてるよな?」コソ

メイド「…ええ、勿論。いくら酔っても忘れません」

使用人「そうか。帰ったらまず、執事に相談しような」

メイド「そうですね…うぐ」バッ

使用人「あれれ?め、メイドちゃん?」

メイド「(自主規制)」

使用人「うわあああああああああああああああああああああああ」

……


メイド長「只今帰りました、お嬢様」

使用人「ただいま…お嬢様」ゲッソリ

メイド「たらいま」グッタリ

嬢「お帰りーー!皆ー!」

執事「お帰りなさいませ」

剣士「お帰りなさい」

メイド長「留守中、何かご不便はありませんでしたか?」チラ

執事「…あ、実は…」

剣士「いやあ、お嬢様の持病が出てしまいまして。そうですよね?お嬢様」

嬢「え?う、うん」

メイド長「ま、まぁ…!また発作ですか。お体は、どうですか?もう…?」

剣士「今はもうすっかり良いみたいです」

メイド長「そうですか…。安心しました」

執事「…」

かわいいので支援!

……


執事「…」カリカリ

使用人「しっつじちゃーーーん」ドン

メイド「うふふ、執事さん」チョン

執事「お、お二人とも…。お疲れ様です」

使用人「いやあ、そんなこと無いさ。そっちこそ留守番お疲れ」

メイド「お嬢様の発作が出て大変だったとか…」

執事「…ええ」

使用人「で、どうだった」ニヤ

執事「どう、とは?」

メイド「まぁノコノコ帰ったお邪魔虫はいましたが…。どうでした?」

執事「…」

執事「いつもどおりでしたが」

使用人「え?」

メイド「は?」

執事「ですから、いつもどおりです。私は仕事をしただけなのですが…?」

使用人(えっ、そこは照れながらも話すところじゃない?ノリ悪)

メイド(というか全体的にピリピリしてませんか?)

使用人「お、おうそっかー。…あ、そうだメイド。あの話!」

メイド「あ、ああ。そうでしたね…。執事さん実は、ちょっと街で興味深い話が」

執事「…興味深い話、ですか?」

使用人「おう。酒場で聞いたんだがな…」

メイド「やっぱりあの剣士、ちょっときな臭いんですよ」

メイド「どうやら、街で多額の借金を抱えていたようでして」

執事「借金…!?」

使用人「おう。何か、怪しくねえか?借金あるのにここでのんびり働いてよ」

執事「……っ」

メイド「やっぱり、何かあるんじゃ…?」

執事「…根も葉もない噂ではありませんか?」

使用人「えっ」

執事「そんなに切迫した状況でしたら、ここで働いているのはたしかに不自然ですし…」

執事「酒場で、酔っている相手から聞いた根拠の無い噂なのでしょう?」

メイド「で、ですけど」

執事「別の人です。剣士さんではありませんよ」

執事「…私は、同僚を疑うような行為はしたくありません。剣士さんに失礼です」

執事「すみません、別の仕事がありますので、失礼します」ガタ

バタン

使用人「…え」

メイド「お、怒られ、ましたね…」

使用人「…何だこの悲しさ」

使用人「疑ってる自分が浅ましいみたいな…」ガーン

メイド「確かに、信憑性のない話なような。執事さんにそう言われたら…」

使用人「だ、だよな」

メイド「…」

使用人「…」

メイド「忘れましょう」

使用人「おう」

執事「…」スタスタ

執事「…はぁ…」

嬢「おーい、執事ー」ヒョコ

執事「あ、お嬢様…」

嬢「えへへ、朝から全然お話してなかったから、来ちゃった」ニコ

執事「…そうですか」

嬢「あのね、使用人がお土産くれたんだー。見て!美味しそうなチョコレートでしょ」

嬢「ねぇねぇ、お茶淹れて一緒に食べようよ!」ギュ

執事「…ですが、仕事がありまして」

嬢「お嬢様命令です。ちょっと休んだ方がいいよ。疲れた顔してる」

執事「…では…」

『じゃあ、取引をしよう』

執事「…!」ビクッ

『俺は今見たことを、誰にも話さない。だから、君は』

嬢「…執事?」

執事「……」

嬢「ど、どうしたの?顔が真っ青だよ!」

『…君は…』

執事「いえ、何でもありません。…大丈夫です」

嬢「どこが大丈夫なの?顔色が悪」

執事「仕事があります…。すみません、失礼します」ガタ

嬢「あ、ちょっと待ってよ…!」

バタン

嬢「…何なの」ムス

嬢「今朝から話しかけても目を合わせないし」

嬢「…冷たい。どうしちゃったの」

嬢「…チョコレート、こんなに多く一人じゃ食べれないよ」

嬢「……」

……

嬢「…」トボトボ

剣士「あ、お嬢様!」

嬢「…あ、剣士さん」

剣士「良かった、探したんですよ。どうです、お暇でしたら俺と…」

嬢「ちょっと今はそんな気分じゃない」スッ

剣士「…!」

嬢「ねぇ…。執事見なかった?」

剣士「…いえ」

剣士「…お嬢様、彼は今仕事で手一杯なんですよ。お嬢様の世話なら、俺が」

嬢「…」

嬢(…何か違う)

剣士「あ、そうだ。珍しい紅茶が入ったんです。どうですか?」ニコ

嬢「ごめんね。だから、今は」

剣士「…」

剣士「俺と一緒じゃ、不満、ですか」

嬢「…え?」

剣士「…いえ。何でも…」フイ

剣士「あはは、そうですか。すみません、しつこくしちゃって。じゃあ」

嬢「…うん、ごめんね。また今度」

嬢「…はぁ」

嬢(執事、どこかなー)トボトボ

剣士「…」

剣士「……くそっ…」

嬢「…」

「きゃあ、こんな…。うふふ、困りましたわ」

嬢(…な、何だ?茂みの向こうから声…?)

嬢「…誰?」ガサ

メイド「!!!?お、お嬢様!?」バッ

嬢「うわっ、メイド!?何してるの、こんな所で」

メイド「お、お嬢様、これはですねえっと、その」

嬢「…今後ろに隠したもの、なぁに?」

メイド「か、隠してませんわ。何も」

嬢「嘘だ!何?気になるよ、見せてー」ジリ

メイド「だ、駄目です!」バッ

嬢「…む。じゃあ、このチョコレート3つあげるから」

メイド「!?…う、うふふふ。3つじゃあ私は買収できませんよ」

嬢「じゃあ、6つ」

メイド「………」

嬢「…10個ならどう?」

メイド「しょ、しょうがありませんね…。お嬢様がそこまで仰るなら」

嬢「はい、10個ね。見せてー」ポン

メイド「…あむ。美味しい…!えっと、じゃあ。どうぞ」

嬢「…何コレ?本?」

メイド「うふふ、街で流行の…その」

嬢「…??表紙が無地だよ?」

メイド「うふふ…。お嬢様も大人なんですから、そのぉ…」カァ

嬢「…?」ペラ

嬢「……」

メイド「…」カァ

嬢「…きゃっ!?」バッ

メイド「あ、ああっ。投げないでください!手に入れるの大変だったんですから!」

嬢「あ、あのっ。こ、これ…」カァア

メイド「その…。つまり、18歳以上は見ちゃいけない感じの本です」

嬢「…セ、セクハラ!!」カァッ

メイド「お嬢様が見たいって仰ったのでしょう!?酷いです!」

>>266

ミス

メイド「その…。つまり、18歳未満は見ちゃいけない感じの本です」

嬢「な、何てもの買ってるの!」

メイド「わ、私だって22歳の健全な女の子なんです!こういうものに興味はあります!」

嬢「うっ…。で、でもこれ。うわぁ…」ペラ

メイド「と、とか言いつつお嬢様も見ているじゃありませんか」

嬢「こ、こんなものが流行ってるんだーって思っただけだもん!」ペラ

嬢「う、うわっ…。何、これ…」カァ

メイド(やっぱりお嬢様も思春期なのですね…。何故か安心)

嬢「ね、ねぇメイド」クイクイ

嬢「この子…。どうして女の子なのに、その、裸…」カァ

メイド「え?…ああ、女の子みたいですけど、男の子なんですよ」

嬢「…えっと?」

メイド「つまりですね、男の子ですけど、女の子みたいなことがしたい…ってことです」

メイド「男のむすめ、と書いて男の娘ってやつですよぉ」

嬢「ふ、ふーん…うわ」ペラ

メイド「…良かったら、貸しましょうか?」クス

嬢「い、いらないっ。もういい、から…」パタン

メイド「あらあら。興味があって当然なんですよ?貸しますよ」グイ

嬢「な、何か嫌だ。共犯みたいで!」

メイド「あらぁ、何も悪い事ないじゃないですか!ほらほら」グイグイ

嬢「…うっ…」

嬢「わ、分かった…!借りる、借りるから押し付けないでっ」

メイド「うふふ。いい子いい子」

嬢「うう…。もう、馬鹿」カァ

メイド「感想待ってますからね。うふふ」

メイド……腐ってやがった……

……


嬢「……」ペラ

剣士「お嬢様」ポン

嬢「!!!?け、剣士!」バッ

剣士「こんなところで読書ですか?」

嬢「う、うん。ちょっとね」

剣士「そうですか。…えっと、そろそろ昼の授業を」

嬢「…あ、あのね。そのことなんだけど」

剣士「…?何か?」

嬢「やっぱり、その、執事にお願いしたいなーって」

剣士「…!わ、私の教え方ではご不満でしたか?」

嬢「ううん。剣士の授業は楽しいよ。けど、私…」

嬢「剣士の仕事も増やしたくないし、やっぱり執事に」

剣士「……っ」

剣士「…どうして彼なんですか」

嬢「え?」

剣士「執事執事って…。あなたはそればっかりだ」ジリ

嬢「…そ、そうかな?」

剣士「…俺にだって、あなたの世話くらいできます。お傍にいることだって」

剣士「守る事だって、執事よりずっと簡単にできるんです。なのに…」ジリッ

嬢「ど、どうしたの?剣士、ちょっと…」

剣士「…お嬢様、俺は…」

剣士「…お嬢様」ギュ

嬢「!ちょ、っと…。あはは、手…離してよ」

剣士「嫌です。お嬢様、俺は」

「…何をしているのですか?」

剣士「!」バッ

執事「…剣士さん、お嬢様と何を」

嬢「あ、し、執事!」ダッ

剣士「…あっ…」

嬢「…」ギュ

執事「お嬢様、どうされたのです?」

嬢「う、ううん。何でもないよ」ニコ

剣士「…」ジロッ

執事「…」

執事「…お嬢様」フイ

執事「あちらでメイドさんが呼んでいましたよ。行ってあげてください」

嬢「わ、分かった」タッ

剣士「…」

執事「…お嬢様を怖がらせないでください」

剣士「はっ…。何だよ、随分良いタイミングで割り込んでくるんだな」

執事「…」

剣士「お嬢様の行動を追ってたのか?…俺の言ったこと、忘れた?」

執事「あのことは、関係ありません。お嬢様に不快感を与える事は許しませんよ」

剣士「…お前。そんな口聞ける立場なのか?」

執事「…っ」

剣士「昨日の約束、忘れてないよな」

執事「…勿論です」

剣士「あはは、笑わせるなよ…。あんなことしておいて、今更執事面か」

剣士「バラされたくなかったら、俺の言う事聞けって言ったよな」

執事「…」

剣士「お嬢様には必要以上に近づくな。俺の悪い噂は流させるな。」

剣士「どうしてこんな簡単なことができねぇかな…。なあ?」

執事「あなたが言った事は、自分なりに守っているつもりです」

剣士「だから足りないっつってんだよ」ギリ

剣士「お前が離れてるのに、お嬢様はどうしてお前に近づきたがる?」

剣士「俺が傍に居るっていうのに、お前ばっかり…!」

執事「…それは」

剣士「足りねえんだよ!こんなんじゃ!…くそっ」ダン

執事「…あなたは、一体何を」

剣士「うるさい!お前は黙って言う事を徹底的に聞いてればいいんだよ!」

執事「…っ。私は…」

剣士「お前だって、ここでの信用を失いたくないだろ?ん?」

剣士「…お嬢様は、お前がしたことを聞いたら、どう思うんだろうな…?」クス

執事「…っ」

執事「私は、あなたにできる限り協力はします。あなたが何を考えているのかは、知りませんが…」

執事「でも、もしそれが…。お嬢様やお屋敷に危害が加わることだったら…」

剣士「…だったら、何だよ」

執事「…私はあなたには従いません」

剣士「…はあ??」

執事「そのときは、どうぞ遠慮なく話してくださって結構です」

執事「私は…。ここを辞める覚悟くらいあります。あなたと違って」

剣士「っ…おい!」

執事「失礼します」ガチャ

バタン

剣士「…」

剣士「…くそっ!!」バン

剣士「あの野郎…っ!!黙って言う事聞いてればいいんだよ!」ギリ

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剣士(役に立たない奴…!時間が無いってのに)

剣士(くそっ、どうすれば…!!)

剣士「…」

『私は…。ここを辞める覚悟くらいあります』

剣士「…そう、か」

剣士「あいつを利用するんじゃない…」



剣士「……居なくなってもらえば、いいんだ…」

……


メイド「でですね、注目してもらいたいのが、このページの…」

嬢「あーああーーもう聞きたくないーー」

メイド「どうしてですか!私の萌えポイントレクチャーを!」

嬢「だからっ、もう…!」

剣士「…お嬢様」

嬢「…!け、剣士」ビク

剣士「昼は失礼しました。…すみません、少しどうかしていて」

嬢「ううん。大丈夫だよ!気にしないで」

剣士「…ありがとうございます。ところで」

剣士「……執事さんが、呼んでいましたよ。お嬢様に話があるとか」

嬢「え、執事が!」ガタ

剣士「ええ。彼の部屋にいると思いますよ」

嬢「どうしたんだろ…!ありがとう、すぐ行くね!」タッ

剣士「はい…」

嬢(執事から話があるなんて…)タタタ

嬢(あはは、冷たいと思ったのに、いきなりどうしたのかな)タタタ

嬢「…はぁ、はあ」

嬢(あ、部屋明かりついてる!)

嬢「…執事ー。私だよ!話って何?」コンコン

嬢「…」

嬢「…おーい?」コンコン

嬢「…あれ?おーい、おーいってば」コンコン

嬢「…いないのかな?」ガチャ

嬢「鍵、開いてる…のに」キィ

嬢「…執事ー?」

嬢「…お邪魔しますよー?」トコトコ

嬢(あれ、やっぱりいない。呼び出しておいて…あいつ…)ムッ

嬢(…相変わらず綺麗な部屋だなー…)

嬢「…あ、れ」

嬢(ベッドの上に、何かある…?)

嬢「…?」ギシッ

嬢(え、これ、って…)

嬢「私…の」

ガチャ

嬢「!!」ビクッ

執事「…!!」

嬢「し、執事…!」

執事「…お嬢様…」

嬢「…え、えっと」

執事(…ああ)

嬢「か、勝手に入ってごめんなさい。で、でも…」

執事(…遂に、ですか)

嬢「……これ、このベッドに乗ってるの…」





嬢「わ、私の服…だよね?無くなっての、全部…」

執事「…」

嬢「これも、これも…。あ…この前失くした長靴下も」

執事「お、お嬢様…」

嬢「ど、どういうこと。ねえ」

執事「……っ、それは…」

嬢「…執事、だったの。服が無くなってたの、全部執事が…?」

執事「……申し訳ございません」

嬢「……!そ、そうなの?…どうして…!」

嬢「……」

執事「…っ。お嬢様、これは、その…!」

嬢「ねぇ、まさか…」

嬢「執事、これ…」

執事「……っ!」ギュウ



嬢「…着たかったの?」

執事「」

執事「は、はい?」

嬢「え、だから…。着たかったの?」

執事「え、え?」

嬢「執事も、その…男の、娘…?ってやつ、なんだね」

執事「お、おとこのこ?いえ、ですから」

嬢「な…なんだー!そんなことは早く言ってくれればよかったのに!」バシン

執事「!?」

嬢「成る程…!女物に興味があったから、私の服選びのセンスも良かったんだね!」バシンバシン

よかったw

執事(お、お嬢様は一体何を)

嬢「でも、勝手に盗っちゃうのは駄目だよ!」ムギュ

執事「は、はひ?れすから、わたしは…!」

嬢「言ったら貸してあげるのにぃ…。ええ、何だー。今までこんなこと隠して!」

執事(…勘違い、なされている?で、でも…)

嬢「もう、これからは私に相談してね!分かった?」

執事「は、はい」

嬢「んふふー。執事は、男の娘、かぁー」ニヤニヤ

(アカン)

嬢「話したいことって、これだったんでしょ?」ニコ

執事「え、っと…?」

嬢「うーん、確かに世間では白い目で見られるかもしれない…」

嬢「けど、私は執事の味方だよ!全然気にしない!それでも執事は執事だもん!」

執事「…!」

嬢「今まで言えなくて辛かったね。でももう大丈夫だから。ね?」ナデナデ

執事「…お、お嬢様…」

嬢「執事、私、味方だから。大丈夫だよ、誰にも言わないし」

嬢「…でも、とりあえず私の服は入らないから、返してもらうね」

執事「は、はい」

嬢「じゃあ、運ぶの手伝って」ヒョイ

執事「かしこまりました…」ヒョイ

ガチャ

嬢「…あれ、剣士さん」

剣士「お、お嬢様。どうでしたか、話は…」

嬢「…ううん。大したことじゃなかった!」ニコ

剣士「え?大したことじゃ、ない…?!」

剣士(な、何でそんなに飄々としてるんだ!ベッドには、あれを…!)

執事「…」チラ

嬢「さ、行こう執事」

執事「は、はい」タタ

剣士「…」

剣士「何で…っ」

剣士「……っ!!」ガンッ

……


嬢「…」ジッ

執事「お嬢様、問題を解く手が止まっています」

嬢「えへへ。…あのね、今執事に似合いそうな服を考えてたの」

執事「!」ガタ

嬢「背が高くて、すらってしてるから…。きっと色々な服が似合うよね」ニコ

執事「…い、今は問題に集中してください」

嬢「ねぇ、こっち向いて」ガシ

執事「!んむ…!」

嬢「目も切れ長だし、鼻も高いし…。インテリ美女ってかんじになるのかなぁ」ナデ

執事「お、おやめください」ビクッ

嬢「お化粧とかに興味ないの?私、手伝える事ならなんでもするよ?」

執事「…っ」チク

執事(お嬢様…。私になんか…)

嬢「えへへ、何か執事と私だけの秘密ってかんじでいいね」ニコニコ

嬢「何だか、もっと仲良くなれたみたいでさ」クス

執事「…」

嬢「…執事?」

執事「いえ。…お嬢様、そろそろお終いにしましょうか」

嬢「え!も、もういいの!やっさしー」

執事「今日は…。その、お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありませんでした」

嬢「ううん!いいんだよ、執事が私に秘密を打ち明けてくれて、寧ろ嬉しい」

執事「…左様ですか」

……


執事「…はぁ」

執事(何てことでしょう…)

執事(お嬢様は、完全に誤解なさっています…。わ、私に女装趣味なんてありません)

執事(…もっと)

執事(…もっと恥ずべきこと、が)

執事(…でも、言えません。こんなの卑怯だって分かっています。お嬢様への裏切りだということも)

執事(…お嬢様の傍に…)

執事(…私は何て身勝手なのでしょうか)

執事(自分が嫌になります…。こんなことを)

執事(こんなことをしておいて、まだ)

執事(お嬢様の、一番近くにいたい、なんて)

執事「…」ハァ

執事(どうしたら…)

執事(…お嬢様…)

今日はここまでです。保守をしてくれた皆様、ありがとうございました

おつ
執事くんがんばれ

おつ!

おつです
また楽しみにしてる!

執事「…」

「よう、執事さん」

執事「…!剣士、さん」

剣士「随分上手くことが運んだようで…。驚いたな」クス

執事「…あなたなんですね。私の部屋の…」

剣士「ああ。俺だよ。俺がお前の隠してたもの、全部放ってやった」

執事「……っ」

剣士「お嬢様に見てもらうよう小細工をしたのも俺だよ」

執事「…約束が違います」

剣士「…はっ。まぁ確かにそうだけど」

剣士「だってよ、よく考えたら不安だったんだよ」

剣士「お嬢様の一番近くにいる男が」





剣士「よりにもよって、お嬢様の衣類を盗んでいた奴、だなんてさ。…なぁ、執事」

執事「…」

剣士「さぁて、盗んだ服で何をしていたのやらねー?でも、良からぬ事には違いないよな」

剣士「そんな危険な奴が、のうのうとお嬢様にお使えしてていいのかよ?」

執事「…」

剣士「今回は運が良くて、どういうことかは知らないが、お嬢様に核心部分はバレなかったようだが」

剣士「……ああ、心配でたまらない。今度はいつ盗まれてしまうんだろう」

執事「…っ」

剣士「そう睨むなよ…?今回の事は俺なりの善意だったんだよ…。お嬢様に対しての」

まだかのぉ

続き待ってます

保守ありがとうございます
できたら明日から投下していきます

待ってる

くるかな

剣士「…なぁ、黙ってないで何とか言ったらどうなんだ」

執事「…」ギュッ

剣士「黙ってるってことは、自分がお嬢様にとって危険な男だって、認めたってことでいいよな?」

執事「…私、は」

執事「…」

剣士「なあ、そうだろうが?」

執事「…失礼します」

剣士「おい、待てよ逃げ…」

バタン

執事「…」

執事(私が、危険…)

執事(……本来、お嬢様の一番の信頼を得なくてはならない立場の私が)

執事(…こんな、男…)

執事(…)

執事(…私は、何て愚かなんでしょうか…)

……


執事「…」

嬢「……ん」

執事「…」

嬢「…ふあ」モゾ

嬢「って、うわっ!執事!?何突っ立ってんの。起こしてよ!」ビクッ

執事「あ、も、申し訳ありません」

嬢「そんなドア越しに言われても…。どうしたんだ君は」

嬢「…何か、顔色悪くない?」

執事「そうでしょうか…?」

嬢「うん。目に隈できてるし…。全体的に覇気がないよ?」

執事「申し訳ありません、その、…雑務が重なりまして」

嬢「熱でもあるんじゃないかな?…どれどれ」スッ

執事「…!」ビク

執事「いっ、いけません!」

嬢「え、え!?何で怒鳴るの?」ビクッ

執事「あ、あの…。すみません、本当に私は大丈夫ですので」サッ

嬢「そう?…なら、いいけど」ムッ

執事「…ご朝食の準備ができています。どうぞ」

嬢「んー」

嬢「…」チラ

執事「…」

嬢(何故なんだ執事くん、どうして目を合わせてくれない)

嬢(な、何か怒られるようなことしたっけ?あああ、まさか数学のテストの件まだ引きずってる?)

嬢(執事のテンションって最近浮き沈みが激しいな)モグモグ

執事「…」ボー

嬢「ね、執事ー。そこのお塩取ってもらっていい?」

執事「……。…あっ、はい。どうぞ」サッ

嬢(やっぱり動きが若干緩慢なんですけども)

嬢「…ありがとう、執事」ニコ

執事「…いえ」

嬢(あ、また下向いた…)

嬢「ね、ねえ執事」

執事「はい、何でしょうか」

嬢「そのー…。今日はさ、一緒にボードゲームでもしない?倉庫から盤を見つけたんだ」ニコニコ

執事「…」ギュ

執事「申し訳ありません。…仕事が多いので、どうぞ他の人を誘ってください。…剣士さん、とか」

嬢「えー…。私は、執事と…」

執事「…その、申し訳ありません」

嬢「…忙しいなら、いい…」

……

嬢「…はい、あがり」パチン

使用人「っだあああ、マジかよお嬢様!強すぎる!!」ガクッ

嬢「使用人が弱いだけですし」ムスッ

メイド「そうですねー。うふふ、見ていてイライラするレベルでした」

使用人「皆ひどい…」

メイド「あらあら、開始5分で負けたくせに被害者面ですか」

嬢「……」ムス

メイド(…お嬢様が沈痛な面持ちをされています。謝れコラ)ボソ

使用人(ええええ、な、何で俺!?何かしたっけ?)

メイド(あなたが負けまくるからでしょう!この能無し!)

使用人「…お、お嬢様…。へへ、すみません。俺、相手にならなくって」

嬢「…あ、違うの…。そういうことじゃなくて」

嬢「…」ハァ

メイド「どうされたのですか?」

嬢「…んー、と。執事のことが気になって」

使用人「き、気になる!?それは一体どういう」

嬢「いや…。今朝から距離が離れてて」

メイド「…なんだ、そういうことですか」チッ

嬢「そ、そういうことって何よ!こっちは真剣に悩んでるのに…」

使用人「馬鹿、メイド!…えっと、あららー、執事ちゃん元気ないんですか?」

嬢「…うん。なんかしょんぼりしてる」

メイド(まーたですかあの眼鏡)

使用人(お前最近攻撃的すぎるぞ!更年期か!)

メイド「そのですねー、彼はどうでもいいことで思いつめる癖があるんですよ」

使用人「そうそう。物事を真剣に捉えすぎちゃうんです」

嬢「…うん、確かに」

メイド「どうせしょうもない事でウジウジしてるんですよ。あの眼鏡」

嬢「お、おお?」

使用人「気にしないで、コイツ今更年」

メイド「ああ?」

使用人「何でもありましぇん」ビク

嬢「…悩んでること、あるのかな」

メイド(そ、そりゃあもう盛大に…。お嬢様関連で)

嬢「…どうしよー」ハァ

メイド「…こういうときは、お嬢様の持ち前の明るさを発揮したらいいのですよ」

嬢「…?」

使用人「そうそう。ああいうのは、無理にでもくっついて話を聞き出せばいいんです」

メイド「きっとお嬢様が笑いかければ、彼もじき元気になりますよ」

嬢「…そ、っか」

使用人「奴の負のオーラなんか気にせず、ガンガンいっちゃえー」

嬢「成る程…」

嬢「そっかー!」ピョン

メイド「うふふ、行けそうですか?」

嬢「うんもう、ばっちり!今すぐ探しに行く!」ニコ

使用人「おお、いってらっしゃーい」

嬢「うん!…あ、使用人。ボードゲームはまずルールから理解しなおしてね。じゃ」タタタ

使用人「」

嬢「…おーい!!」ブンブン

執事「…」

嬢「しっつじくーーん」ガバッ

執事「!?う、うわっ!」

嬢「お仕事ちょっと休憩しなよー。働きすぎだよ」ギュッ

執事「お、お嬢様!い、いきなり…」

嬢「はい決定、後は他の人に任せて!ね!」グイグイ

執事「え、えっと…!?」

……


嬢「ね、ちょっとここで待ってて」

執事「あ、あのお嬢様…?」

嬢「ふふ、執事にサプライズあるから。目、開けたら駄目だよ!」タタ

執事「…は、はい…」ギュ

嬢「~♪」ゴソゴソ

嬢(執事に元気になってもらいたい。恩返ししなきゃ…)

嬢「…よしっ」

嬢「…じゃあ、いいよ。目を開けて」

執事「は、はい…」

執事「……!!」

執事「お、お嬢様!これは…」

嬢「あはは、これ、お母さんから貰ったドレス」ニコッ

執事「今までクローゼットに保管していたのでは…。どうして出したのですか」

嬢「…えっとね、執事に着てもらおうと思って」

執事「…!?」

嬢「お母さんって、背が高かったから、今の私じゃこのドレスは入りそうにないし」

嬢「執事に着てもらいたいなあって」ニコ

執事「お、お嬢様…。いけません、お母様の形見なんて」

嬢「いいんだよ!きっと執事に似合うし…ほら!」ピト

執事「お、お嬢」

嬢「ああ、やっぱり丈もデザインもしっくりくる…!執事、可愛いよ!」ニコニコ

執事「……っ」

嬢「執事の身長に合う女物って、なかなかないもんね…。辛かったよね」

嬢「ほら、手伝うから着て!」

執事「…できません。こんな、大切な品を私になんて」

嬢「…だって、ずっと悩んでたでしょ」

執事「え…」

嬢「今朝からずーっと、悩んでるって顔してた…。きっとこれが原因なんでしょ?」

執事(…お嬢様)

執事(こんな、こんな。私なんかの為に)

嬢「……執事に元気になってほしい。だから、遠慮しないでいいんだよ」ニコ

嬢「私、馬鹿だからこんなことしか思いつかないけど…。それでも、執事が元気になるんだったら」ニコ

執事(私に元気になってもらうために…?)

執事(こんな、健気になって…)

執事(なのに、私は)

嬢「…執事?」

執事「…」

執事(私、は)

執事「…お嬢様、申し訳ありません」

嬢「何で謝るの…?」

執事「…っ」

執事「私は、嬉しいです。お嬢様が、こんな優しいお方で」

嬢「執事?」

執事「…それに比べて、私、は…」

嬢「…執事」

執事「申し訳ありません。私は、私は」

嬢「…泣いてる、の?」

嬢「…どうして泣くの?」ナデ

執事「わ、私は…。こんな慈悲をかけてもらっては、いけない人間なんです…」

嬢「何言ってるの?執事は立派だよ!」

執事「違うんです、お嬢様。私はどうしようもなく…」

嬢「馬鹿!自分をそんな風にけなすな!執事は頑張り屋さんだし、頼りになる!すごく尊敬できるんだって!」ワシャワシャ

執事(…胸が苦しい)

執事(お嬢様、違うんです。私はあなたに褒めてもらえる人間じゃない。…もっと)

執事(…苦しい)

嬢「ねえ、執事…」

執事(…楽になりたい。もう、これ以上騙したくない)

嬢「ほら、笑って欲しいなー…執事」ニコ

執事「…っ」

執事「…お嬢様」フラ

嬢「ん?何」

執事「…お嬢様は、純粋なんですね」

嬢「…え?」

執事「お嬢様だって、もう年頃の女性ですよね?」カツ

嬢「え、う、うん。そうだけど」

執事「…違和感はなかったのですか?」カツ

嬢「…えっと、執事?」

執事「一番身近にいる男に、自分の私物を盗まれていたんですよ?違和感はありませんか?」カツ

嬢「…ちょっと?どういう」

執事「私が、あなたの私物をどうしていたのか、なんて」カツ

嬢「だ、だから。興味があった…んだよね?女の人が着る服に。自分も着てみたかった、って」

執事「…やっぱり、純粋です」カツ

嬢「何が…。執事、どうしちゃったの」

執事「…お嬢様」カツ

執事「…他に、何か思いつくことは?無いですか?」カツ

嬢「…え」

嬢「っ」ドン

嬢(…か、壁が後ろに…)

執事「お嬢様…」カツ

嬢「な、何か執事変だよ?」

執事「…ええ。変ですね」カツ

嬢「あ、の…。早く着付けしない?」

執事「…しません」カツ

執事「…私に、女装の趣味なんかありませんから」カツ

嬢「…え」

執事「…」カツ

嬢「…執事。そこで止まって」ビク

執事「…お嬢様、お気づきになりませんか」ギュッ

嬢「!!きゃっ…」

執事「私は、汚い男です」ギュウッ

嬢「執事、手…!離してよ…!」

執事「いいえ。分かってもらえるまで離しません。お嬢様、私は」

嬢「い、嫌。執事!おかしいよ!ねえ!」

執事「私は…」

嬢「執事…!」

「だーかーら、この駒は斜めにしか動かせないんです。何度も説明したでしょう」

「はあー?初耳なんですけどー」

執事「…!」ビクッ

嬢「……!」

「だあもう、お前説明へたくそすぎるんだよ!もういい、お嬢様に聞くから」

コンコン

執事「…失礼しました。…使用人さんが、お呼びですよ」フイ

嬢「…っ」

嬢「…執事、今のどういうこと」

執事「仕事がありますので、私はこれで」

嬢「執事っ!」

執事「…」ガチャ

バタン

嬢「……」

使用人「お嬢様ー、失礼しますよっと」

メイド「もうこの人ったら、何回説明しても、駒の役割すら覚えないんですよ」

嬢「…」

メイド「…お嬢様?」

嬢「メ、イド…」ギュウ

メイド「わ、わっ。どうしたんですか、いきなり」

使用人「うわ、お暑いねー。いきなり抱擁ですか」

嬢「……」ギュウウ

嬢「…怖かっ、た」

メイド「え?…何か仰いましたか?」ナデナデ

……


執事(…申し訳ありません)

執事(でも、もうこうするしかないのです)

執事(…)フラフラ

ドンッ

剣士「!いって…。おい、周りをよく見て歩けよ」

執事「…ああ、剣士さん」

剣士「何だ、あんた…。顔色が悪いぞ」

執事「…私は、最低です」ボソ

剣士「ああ?」

執事「…お嬢様を、よろしくお願いします」

剣士「は?何言って…」

執事「…」フラフラ

剣士「お、おい…!」

……

嬢「…」ゴロ

嬢(何だったんだ、あれ)

嬢(…いつもの執事じゃなかった。目つきが全然違った)

嬢(手首を壁に押し付けられたとき、すごく怖かった…。別人みたいで)

嬢(…執事に、あんな力があるなんて知らなかった)

コンコン

「お嬢様ー。お夕飯の準備ができていますよ」

嬢「…んー」ムク

嬢(…女装なんて興味なかった、って。…勘違いだったんだ)ボー

嬢(だったら、どうして…。私の服なんか)

嬢(分からない…。…そんなに思い悩むことなの?執事)

メイド「お、おーい?」フリフリ

嬢「…言ってくれなきゃ、分からないよ」

メイド「あ、す、すみません!今日のメニューはですね」

嬢「!あ、違う!独り言」

メイド「そ、そうですか?はぁ…」

嬢「…」キョロキョロ

嬢「あ、あの…。執事どこ?食卓にいないんだけど」

コック「執事さんか?…あれ、どこだっけ」

メイド「さあ?昼ごろから会ってませんね」

使用人「あ、俺もー。部屋かな?」

嬢「……」

「…ちょ、ちょっと!!!」

嬢「!?」ビクッ

メイド「やだ、もうー。メイド長さん、大声出さないでくださいよ」

メイド長「こ、これ!一体どういうことなの!!」バタバタ

嬢「ど、どうしたの?」

メイド長「お、お嬢様…!し、執事が…!」

嬢「え…」

メイド長「さっき彼の部屋を訪ねたら、荷物が無くなっていたんです!つ、机にはこれが」パサ

嬢「…」

嬢「…辞、表?」

使用人「は?じひょー?」

メイド「…え、っと」

嬢「……」

メイド長「お嬢様、彼は一体…」

剣士「…罪悪感、かな」ボソ

メイド長「…は?」

剣士「…お嬢様、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」ポン

嬢「…」

剣士「…貸してくださいね。えっと…」

剣士「『私、執事は誠に勝手な都合ながら、本日をもってこのお屋敷勤めを辞職いたします。』」

剣士「『お世話になった同僚の方、先輩方、今までありがとうございました』…ですって。ちゃんと印もありますね」

メイド「な、何で!?どうしていきなり!」

使用人「嘘だろぉおおお!こんな天国みたいな職場辞めるなんて考えられねえええ!」

剣士「…彼には辞めるべき理由があったからですよ」

剣士「そうですよね、お嬢様」

嬢「…!」

メイド長「どういうことです、剣士」

剣士「どうもこうもありません。彼はこの職場での信頼を失くすような」

嬢「…剣士、黙って」

剣士「!」

嬢「…彼がいなくなったのは、昼頃なのね?」

メイド「は、はい。確かに」

嬢「…徒歩で向かったのなら、まだ間に合う」ボソ

剣士「お嬢様?」

嬢「…。なんでもない。ねえ、その辞表返して」

剣士「…ですが」

嬢「…」バッ

嬢「…」スタスタ

メイド「お嬢様…?」

嬢「ごめんなさい、部屋に…。戻る」

剣士「待ってください、俺も」

嬢「一人でいい、から…」

バタン

嬢「…」

嬢「…」ピラッ

嬢(…あれ、もう一枚紙がある…。『お嬢様へ』…?)

嬢「…」ジッ

嬢「…」



嬢「…馬鹿」ボソ

……

=港=

執事「…」

執事(この土地ともお別れですか。…街になら、仕事もあるでしょうし)

執事(…最後に、お嬢様を怖がらせてしまったことだけが心残りですが)

「…おい、にーちゃん」

執事「…はい?」

中年「へへ、街行きの便に乗るのかい?」ニヤニヤ

執事(…お酒の匂い…)

執事「はい、そうですが。あなたもですか?」

中年「いんや、俺は今来たばっかりなのよー。街からここへねー」

執事「そうですか。お疲れ様です」

中年「…んー」ジー

中年「やっぱ、あんたどこかで見たことあんなー」

執事「え?」

中年「へへっ、その真面目そーな面…。見覚えがあるんだよなー…。えっとぉ」

中年「ああーーー!思い出した!」ポン

執事「!は、はあ?」

中年「あんたさあ、ここのでっけーお屋敷に勤めてた奴だろ?!そうだろぉ?」バシバシ

執事「そ、そうですが…。どうしてそれを」

中年「んふふー、俺、お屋敷にちょくちょくお邪魔してたのよ」ヘラヘラ

執事「あなたが…?失礼ですが、どちら様ですか…」

中年「あれー??剣士の野郎から聞いてないのー?」

中年「俺、剣士の借金取りなんだよー」ヘラッ

執事「…!」

中年「あのやろー、返す返すって言ってズルズル引き伸ばしやがるんだよぉ。困ったもんだろう?」

中年「色々金作るのに努力したみてーだけどよお…。全然たらねえー」

執事「…そんな」

中年「でもさー、あいつ、そろそろ耳そろえて返せるかもしんねーよなあ」

執事「…どうしてです?」

中年「そりゃあ、あんな大きいお屋敷勤めだしー?」

中年「……お屋敷には、可愛い年頃のお嬢様がいるんだってな?」ニヤ

執事「…」ピク

中年「あいつ、顔だけはいいからよぉー。俺、アドバイスしてやったわけ」

中年「世間知らずなお嬢によ、ちょーっと色目使って…」

執事「…!」

中年「年頃の娘なんざ、コロっといくさ。あっははは」





中年「…手篭めにして、そのまま家の財産使っちまえばいいのさぁ!」

きてたのか
取りあえずここまでかな?
お疲れさま

続き来てたの気づかなかった

続きはよ続きはよ

……


嬢「…」モゾ

嬢「…」ムクッ

嬢(…静かだ。大丈夫、皆寝てる)

嬢(きっと怒られるけど…。ここで行かないと執事に二度と会えない気がする)

嬢「…」ガチャ

バタン

嬢「…」タタタ

嬢「おーい、もしもし」ポンポン

馬「…」チラッ

嬢「こんばんは。寝てるところ悪いけど、ちょっと乗せて」

馬「…」フンフン

嬢「うん。ありがとう…。今、鞍を取ってくるからね」ニコ

「…何をしているんですか」

嬢「!」ビクッ

剣士「お嬢様、こんな時間に何を」

嬢「…剣士、えっとこれは…」

剣士「何故寝間着を着替えているのですか?馬を起こしているのですか?」

嬢「…」

剣士「…お嬢様」

剣士「…執事を追いかけるんですね」

嬢「…そうだよ」

剣士「…っ」

剣士「どうしてですか?彼はここを辞めて」

嬢「ここの主人は、父上が居ない間は私です。私の許可もなく辞める事は許しません」

剣士「…それが理由ですか」

嬢「…ううん。私が寂しいんだ。執事に居なくなって欲しくないから」

剣士「…」

嬢「執事、きっと何か悪い事をしてしまったんだと思う。だから、責任を感じて辞めたの」

剣士「…そうです。彼はあなたを裏切ったんです」

嬢「…」

剣士「彼が何をしたか分かってるんですか?盗みですよ?主人のあなたに対する」

剣士「その上…」

嬢「…んー、でも。何か、さ」

嬢「執事が悪意があってしたとは思えないんだ…。そういう奴だから」

剣士「…そんなこと分からないじゃないですか!」

嬢「分かるよ。何年も一緒にいたんだもん…。だから、連れ戻す」

剣士「…っ」

嬢「どいて。鞍が取れない」

剣士「…あなたは、あの男を過大評価しすぎている」

嬢「あはは、そうかもね。身内ひいきかも」

嬢「…でも、本当、単純に…。居なくなって欲しくない」

嬢「あの人がいないなんて考えられない。…寂しいよ、こんなの」

剣士「…」

剣士「お嬢様…」

嬢「だから、行かせて。今なら多分間に合うから」

剣士「……」

嬢「剣士。どいて」

剣士「…嫌、です」

嬢「…どうして」

剣士「あなたが心配だからです。…あの男に関わらせたくありません」

嬢「…」

剣士「これ以上、あいつに関わって傷つくあなたを見たくないんです」

嬢「傷つかないよ。今、執事が居なくなっちゃうほうがよっぽど」

剣士「…何で…」

剣士「……っ」ギリ

剣士「執事、執事、執事…。あなたはいつもそればっかりだ」

嬢「…剣士?」

剣士「…寂しいなら、俺が居るじゃないですか!俺じゃ、駄目なんですか!?」

嬢「…!」

剣士「俺が、あいつの代わりになります!あいつより、ずっと誠実に、あなたの傍に!」

剣士「お嬢様…!」ガシッ

嬢「け、剣士!?痛い、離しっ…」

剣士「お嬢様、俺…」グイ

嬢「……っ、君、何がしたいの!」

剣士「…!」

嬢「私が心配なんて嘘!ただ執事が邪魔だっただけなんだよね?」

剣士「な、何を」

嬢「君の目は、何だか嫌だよ…。嘘ばっかり言う目なの」

嬢「…君、何を企んでるの?」

剣士「……っ!」

嬢「…離せっ!」ドン

剣士「!」フラ

嬢「…もう、間に合わなくなるから。行くね」

剣士「……」

剣士(嘘だろ、この娘…!)

剣士「……もう少しだったのに。何でだよ」ギリッ

嬢「…え?」

剣士「……くそっ…!!」

剣士「…このっ…!!」グイッ

嬢「!!きゃっ…!」

ドサッ

剣士「ふざけんじゃねぇ!!こんな所で負けてたまるか…!!」ギリギリ

嬢「……!」

剣士「俺には時間がねぇんだよ!畜生、畜生っ…!!」ギリギリ

嬢(嫌、だ。…怖い。ふりはらえない)

嬢(……誰か、助け)

剣士「お前さえ、お前さえ気づかなければ、俺はっ…!!」

嬢(…執事…!助けて…!)

ガンッ

剣士「…!!?」グラ

嬢「え…」

剣士「っ…!!」ドサッ

「……お嬢様に、汚い手で触らないでください」

嬢「……!」

剣士「て、めえっ…!」

嬢「しっ、執事…!!」ダッ

執事「お嬢様…!」

嬢「うわああああ怖かったあああああ!!ありがとう、ありがとおおお」ギュウウウ

執事「お、お怪我は!?お怪我はありませんか!」

嬢「ないいいい!うわぁあああん!!」ポロポロ

剣士「~っ」クラッ

剣士(くそっ、鞍で殴られたのか…!力が、入らない…!)

執事「もう大丈夫ですから…!」ナデナデ

嬢「……っ」コクン

剣士(…どうしてだ)

剣士(上手くいくと思ってたのに)

剣士(何で、邪魔するんだ)

剣士(……)ユラ

剣士「……ふざ、けんなよ」ボソ

嬢「!し、執事っ…!後ろ、後ろっ…!」

執事「……!」

「なにしとんじゃワレェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

ガンッ!!

剣士「ぐはっ!?」

嬢「……!?ず、寸胴なべ…!?」

執事「…ま、まさか」

メイド「この金髪豚野郎がぁあああああ!!!お嬢様に何さらしとんじゃあああ!!」ドドド

使用人「うおおおおおおおおお!!!お嬢様ぁああああ!!!」ドドド

メイド長「うちの大事なお嬢様にぃいいい!!」ドドド

剣士「…!!」

メイド「てめぇえええええ!死ね!百篇死んで来い!!」ゲシッゲシッ

使用人「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!!!」バキッバキッ

メイド長「………」ガスッガスッ

剣士「」

嬢「」

執事「」

嬢「……」ポカーン

嬢「…え!!?」ハッ

メイド「息の根止めてやらぁあああああ!!」ドカッドカッ

嬢「ま、待てぇえええ!!死ぬ!本当に死んじゃうううう!!」ガシッ

執事「ど、どうか落ち着いてください!」ガシッ

剣士「…」

使用人「…はあ、はあっ」

メイド「くそっ…ぜぇ、くそがっ…」

メイド長「……」

……


剣士「…くっ…」グタッ

執事「み、皆さん、やりすぎです」

嬢「本当に殺しかねない勢いだったでしょ」

メイド「うふふ、アドレナリンが湧き上がってきまして」

使用人「軽くトランス状態だったわ…」

嬢「メイド長に至っては無言で鬼の形相だったし…。家の使用人達は軍隊なの?」

メイド長「お嬢様の危機と思いましたら、老体でも居ても立ってもいられず…」

メイド「でもぉ、お嬢様。こいつ、縄で縛っているだけでいいんですか?また何をするか…」

剣士「…」ビクッ

嬢「…うん。いいの」

嬢「…剣士、大丈夫?喋れる?」

剣士「…」コク

使用人「てめぇ口開け!横着すんな、殺すぞ!」バキッ

嬢「だからもう良いってば!」

剣士「…くそっ」

使用人△

嬢「…ねえ、剣士」

剣士「…」

嬢「どうしてあんなことしたの…?何があったか、教えてくれない?」

剣士「…」フイ

執事「…多額の借金、ですよね」

剣士「…」ピク

嬢「…借金、か」

メイド「や、やっぱり酒場で聞いたことは本当だったんじゃないですか!」

使用人「てんめえええ!この家に集ろうとしたのかよ!」

剣士「…ふん。ああ、そうだ」

執事「…港で、あなたの借金取りと名乗る男性に会いました」

執事「この屋敷に入り、お嬢様を…その」

剣士「ちっ、あのじじい全部話したのかよ…」

剣士「あー、そうだ。若いお嬢様と契って、借金返してもらおうと思ったんだよ」

メイド「ああああん!!?」

嬢「…」ジッ

剣士「…すみませんねぇ。でも、こっちだって切羽つまっていてね」

使用人「て、てめぇ…!お嬢様、こんな奴さっさと警察にでも突き出して…」

剣士「…!」

嬢「待って」

嬢「…執事、あのさ。私の部屋からあのドレス持って来てもらっていいかな」

執事「…あの、形見の…でしょうか?」

嬢「そう。持ってきて」

執事「…かしこまりました」タタタ

剣士「…」

嬢「剣士、どうして借金なんかしたの?」

剣士「…」

メイド「おい、てめぇの口にジャッキ入れてこじ開けてやろうか?ああ?」

嬢「メイド!……ね、教えて」

剣士「…くだらないことですよ」

執事「…お嬢様、どうぞ」

嬢「ありがと。…はい、剣士。これ」

剣士「…!?」

嬢「持って行って。お金に換えたら結構な額になるから」

使用人「だ、駄目です!お嬢様、それは夫人の形見で…!」

嬢「…いいの。これで助かる人がいるなら。ね、執事」

執事「…お嬢様の、したい通りになさるとよいです」

剣士「…」ポカン

嬢「使用人、縄ほどいてあげて」

使用人「え、うう…。分かりましたよ」シュル

剣士「あ、あんた…」

嬢「はい」ポン

嬢「……借金のかたに、誰かご家族でも捕まってるんでしょう?」ボソ

剣士「!」

嬢「…多分、妹さんでしょう。女の子の扱い方が上手だったし…」

剣士「お、お嬢様…」

嬢「助けてあげなさい。大事にしないと駄目だよ、兄妹なんだから」

剣士「…分かりません、どうしてこんな俺に」

嬢「んー…」ボリボリ

嬢「父上に、教えられたから。…使用人たちは家族だって」

執事「…!」

嬢「使用人たちはいつも、私のために働いてくれる。だから、困った時は恩返しをしなくては駄目でしょう?」

剣士「……」

嬢「そんなことより早く、換金してきなさい!お嬢様命令です!」バシン

剣士「ありがとう、ございます…!」

……


嬢「…はー」

執事「行っちゃいましたね」

嬢「うん。上手くいくと良いけど」

執事「お嬢様、あの対応は流石に甘すぎると私は思いますが」

嬢「そう?…でも事情あったみたいだし。いいじゃん」

執事「お母様の形見は、いいのですか?」

嬢「形見なんてただの形だよ。大事なのは、私がママを覚えてるってことだと思う」

嬢「…ふあー」

執事「あ…お疲れですか」

嬢「あったりまえじゃん。誰かさんが逃げ出したから、眠れなかったし」

執事「!…申し訳ありません」

嬢「いいよ、別に。帰ってきてくれたんだし」ギュッ

執事「い、いえ私は」

嬢「ねぇ、執事、眠い…。寝室まで連れて行ってよ」ギュウ

執事「…はい、かしこまりました」

乙ー

執事「…ええと、お嬢様?いかがされましたか」

嬢「…歩け、ない」

執事「なっ…」

嬢「割と本気で、足に力が入らないもん…。ちょっと…助けて」

執事「ど、どうぞ。腕に掴まってください」

メイド「チッ」

使用人「ちげーだろ、鈍ちん!!!」

メイド長「あなたねぇ…。全く、甲斐性の無い」

執事「な、何故怒っているのですか…」

使用人「歩けないって言ってんだから、やることは一つだろーが!」バシン

執事「…え、えーと」

嬢「……」カクン

メイド「お、お嬢様!?座り込んだまま寝てはいけませんよ!…ほら、早くしろ眼鏡」

執事「……し、失礼しますね」ヒョイ

嬢「……」スゥスゥ

使用人「ひゅー、お暑いねぇー!」ニヤニヤ

メイド「お姫様だっこですかー」ニヤニヤ

執事「き、緊急時ですのでしかたがないです」

執事「で…ではおやすみなさい」スタスタ

バタン

メイド「…ふー」

使用人「一件落着、かなー」

執事「…お嬢様、降ろしますよ」スッ

嬢「…」

執事(子供みたいな寝顔です…。何も無くて良かった)

執事「おやすみなさいませ、お嬢様」ナデ

嬢「…」ガシッ

執事「!!?」

嬢「…執事」ギュ

執事「お、お嬢様!起きていらっしゃったのですか」

嬢「ううん。…今起きた。執事の手が、離れちゃったから」

執事「も、申し訳ございません。起こしてしまいましたか…」

嬢「…別に、いいけど」

嬢「…執事の手、温かいね」ギュ

執事「…そ、そうでしょうか」

嬢「うん。温かくて、大きくて、安心する」

嬢「…ねぇ、執事」

執事「はい。どうされましたか、お嬢様」

嬢「……。…何処にも、行かないでよ」ギュウ

執事「…!」

嬢「執事がいなくなって、すごく不安だった。寂しかった」

嬢「ママがいなくなった時みたいに…。空っぽになった気分だったんだよ」

執事「お、お嬢様…」

嬢「…もう二度と、私にこんな思いさせないでよ。ね、お願い」

執事「…」

執事「お嬢様、申し訳ありませんでした」ギュ

嬢「…怒ってるんだからね、私」

嬢「…執事、ずっと傍にいてよ」

執事「…」

嬢「…私を、一人に」

嬢「……しないでよ…」

執事「…」

嬢「…」スゥ

執事「…お嬢様」

執事「…はぁ…」

執事「…」

執事「大丈夫ですよ、お嬢様」

執事「私が居なくたって、あなたは寂しくなんかないですから」

執事「この家の使用人に、旦那様に、少年様に…。たくさんの人がいるじゃないですか」

執事「旦那様は、あなたのことを大事に大事に想っていらっしゃいますから…」

執事「…きっとすぐ優秀な、別の執事を見つけてくるでしょう」

執事「……」

執事「そのほうが、ずっと良いんです。私が居るより、ずっと」

執事「…」スッ

執事「…お嬢様」

執事「今まで、お世話になりました」

執事「…さようなら」ガチャ

バタン

執事「……」

執事「…っ」

「え、何泣いてるの君」

執事「!!?」ビクッ

執事「え、ええ…!?」

父「やっほー。ひさしぶりだなー。元気してたか?」トコトコ

執事「だっ、旦那様!?」

父「おー。仕事で近くまで来たので戻ってきたぞ。嬢は?寝たか」

執事「は、はい」

父「おう、そうかそうか…。残念だな」

父「で」

父「何か大変だったみたいだな、留守の間」

執事「は、はい…」

父「事情は大体メイドちゃんから聞いておるわ。全く、剣士のやつ…」

父「ケッ、酔った勢いでヘッドハンティングしちゃったけど、もう少し考えればよかったな」

執事「ヘ、ヘッドハンティング!?」

父「申し訳ない…。いやー、奴め、自分を売り込むのがこの上なく上手くての」テヘヘ

執事「~~っ」クラッ

父「いやー、でも本当になにもなくて良かった!」

父「嬢が押し倒されたとき、颯爽とお前が現れたそうじゃないか!ヒュー、かっこいい」ツンツン

執事「いっ、いえっ…」

父「やっぱり嬢の執事にお前を選んで良かったな…!うんうん、目に狂いはなかった!」バシバシ

執事「…」

執事「旦那様、そのことなのですが」

父「えっ何だ?」

執事「…これを」スッ

父「…何だこれは。辞表、だと…!?」

執事「申し訳ありません。私は、お嬢様の執事を続けることができない失態を犯してしまいました」

父「なっ、何を!言っておくが、剣士の件は君の不手際ではないぞ!」アタフタ

執事「…っ」

執事「旦那様、違うのです…」

父「な、何だ…!言ってみろ、怒らないから!多分」

執事「…っ」

執事「わ、私は…。あなたの、大切なご令嬢に…っ」

父「…」ゴクリ

執事「…っ…。端的に言いますと、お嬢様の衣服を…盗んでしまいました」

父「えっ」

執事「申し訳ありません!!どうぞ、私を煮るなり焼くなり…!!」バッ

父「ええええど、土下座!?待って待って、起きてくれ執事!!」

執事「私は…私はっ…」

父「えーと、待て待て!なッ、何でだ!何で盗んじゃったの!」

父「はっ、まさかお金に困っていたのか!?給与に不満があったんだな!あああ」

父「なんてことだっ…!言ってくれれば昇給でも何でも」

執事「…違います!そうではなくて…」

父「…ち、違う?ならどうして」

執事「……」ギュ

父「…」

父「…」ジッ

執事「……」

父「あ、待って。なんとなく分かったかも」ニヤァ

執事「!!」

父「んっふふふふ、何だ、そういうことか」

父「執事、お前もやはり、アレという訳だな。んふふふ」ニヤニヤ

執事「だ、旦那様」

父「とりあえずそこに座ってくれ。少し私の話を聞くんだ」

執事「し、しかし…」

父「座れ!!」グイ

執事「わっ…」ボスン

父「…執事よ、少し私の昔話を聞いてくれ」

執事「…は、はい」

父「あれは、そう…。私が16かそこらの頃だ…」

父「あの頃私は、街のしがない学生をやっておった。家柄はごく普通、頭も並、顔はまぁそこそこイケるレベルだった」

執事「…」

父「何だその目は。後半に不満があるのか」ジロッ

執事「…な、何も言ってません!誤解です」

父「そ、そうか?じゃあ続けるぞ」

父「私は不真面目な学生だった…。その日も学校をサボって、一人でぼうっとしておった」

父「お気に入りの場所だった、木の下で昼寝をしておった。すると、ある人を見つけたのだ」

執事「…?」

父「向かいの大きなお屋敷の庭を歩く、それはそれは美しい女性だった…」ウットリ

父「私はその令嬢にすっかり目を奪われた。モロ好みのタイプだったのだ」

執事「は、はあ」

父「その日から毎日、私は屋敷を覗き込んでは彼女の姿を探すようになった」

執事「…」

父「彼女は庭にいるのが好きなようだった。そこで本を読んだり、お茶を飲んだり…。見ていて飽きなかったな」

父「白いワンピースがよく似合っていてのー。まるで女神に恋をした気分だった」

執事「そうですか」

父「ある日の事だ。私は夜、学校に忘れた宿題を取りに行く途中、屋敷を通りかかった」

父「中を覗いてみるが、明かりはない。彼女の姿も当然なかった」

執事「…」

父「ふと、中庭に目を向けると、洗濯物が干してあった。恐らくメイドが取り込み忘れたんだろうな」

執事「…」

父「洗濯物は、夜風に揺られてヒラヒラと揺れていた…。よく見たら、それは」

父「…あの令嬢が着ていたワンピースだったのだ」

執事「……あ、の」

父「私は誘われるように物干し竿に近づいた。手を伸ばせば届く距離にそれはあったのだ」

執事「…」

父「そうだ、執事」



父「私はやってしまたのだ」

……


父(少年期)「…」ジー

父(だ、大丈夫だよな。昨日の夜のこと、バレてないよな)ソワソワ

少女「…」チラ

父(げっ、目が合った!?)ビク

少女「…御機嫌よう」

父「ごっ、御機嫌よう!!」

少女「…あなた、いつもそこにいるのね」クス

父「!はっ、はい!ここお気に入りで」

少女「まあ、そうなの…。ふふ、こっちを見てくるから気になってたの」

父「しゅ、しゅみましぇんっ!失礼、でしたよね!!?」

少女「いいえ。…ねぇ、ここの門を開けるから入ってきてちょうだい」

父「え、ええ!?」

少女「退屈していたの。お話し相手になってくださらない?」

父(や、やったああああああ!!)

……


父「彼女は、いつもこちらを凝視する私に気づいていた」

父「そして、あろうことか私を友達にしてくれたのだ」

父「妄想が現実になった…。あれほど幸運な日はない」ウットリ

執事「…」

父「月日は過ぎ、私と彼女の仲は少しずつだが深くなっていった」

父「とはいっても、美しい彼女に私はずっと片思いだった」

父「相手は名家のお嬢様…。私には釣り合わない」

父「しかし逆境の中でこそ恋は燃え上がるものだ」ダン

執事「!」ビク

父「私の思いは日に日に強くなっていった!」

父「そのたびに、まあ、なんだ。その…」

執事「…」

父「やってしまっていた」

執事(その表現気に入ったのですね…)

父「今思えば、アホかという感じだったが…。若かった、私も」

……


父「…」ソロー

父(よし、皆寝てるよな。中庭に回って…)サササ

父(やった、今日はスカートか…)

父(…ごめんよ、少女さん…。こんなことしかできない俺を許し)

少女「何してるんです」

父「」

少女「父、そこで何をしているのですか」カツカツ

父「しょ、少女さん!!?あはは、えっと忘れ物を取りに」

少女「忘れ物?見せてください」

父「……」ダラダラ

少女「…っ!」バッ

父「!ああっ…」

少女「…。私の、スカートですね」

父(あばばばばばばばばばばb)

少女「…やっぱりあなたでしたか」

父「あ、うう…っ」

少女「…卑劣な!!」バシッ

父「うわっ…!も、申し訳ありまs」

少女「…ふざっけんじゃねぇよ!この野郎!」バシバシ

父「ひいいいいぃっ!!」

少女「隠れてこんなコソコソしたことをしてっ…!」ゲシッ

父「すっ、すみませっ…!!」

少女「立てコラァアアアアアア!!!」グイ

父(なっ、何だこの人!力めっちゃ強い!うわあああ)

少女「…っ、父!」

父「はっ、はいい!」

少女「男がこんなコソコソしたことをするなぁあああっ!!」

父「はいいいいいい!!」

少女「慕っているなら慕っていると本人に直接言ええええええええ!!」

父「は、はい……え?」

少女「全く…!馬鹿か!この猿!」バシン

父「あ、あでっ…!」

少女「さあ言え!男らしく!」

父「え、ええ!?」

少女「はよせんかい絞め殺すぞワレぇえええ!!!」ガクガク

父「すっ、好きです!!お慕いしていますっっ!!」

少女「私もです」

父「」

父「え、え…?」

少女「いいこと。ウジウジするより、こうやって直球で思いを伝えないと女はなびかないのよ」

少女「あんた、見てくれもよくないんだから…!自分から攻めなさいよ!」ゲシ

父「えっえっ」

少女「…ったく、いつまで待たせるのよ」グイ

父「!む…」

少女「…」チュッ

父「!!!?」

少女「…何顔赤くしてんのよ。初めて?」

父「……っ」コクコク

少女「あっそ童貞。私も初めて」

父「そ、そんな…」

少女「…来い」グイ

父「ひっ、ど、何処へ!?」

少女「私の部屋にに決まってんだろうが童貞!!黙って着いて来い!!」グイグイ

父「ななな、何をするんですか!?まさか…」

少女「この展開から察せないの?」

父「……」パクパク

少女「あーあ。初めてはエスコートされたかったのに」

父「そっ、その!駄目です、いけません!」

少女「ああ!?人の服盗んでヨロシクやってた奴につべこべ言う権利ないの!」

少女「覚悟決めなさいよ!男でしょう!!?」

男「はっ、はいいいい!!!」

>男「はっ、はいいいい!!!」

誰だお前

父は『男』になるってことだよ

逞しいなww

嬢は母親似だなぁw

しえんしえん

はよ続きを

支援

はよ

おーい

はよしろおおおう

あのー

 ぬ

支援

まつ

うぬ

まつ

マダー?

んんん

待機

まだか

待機ー

まだー?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月13日 (水) 19:45:29   ID: IdvWXIg-

続きはよ
 

2 :  SS好きの774さん   2015年10月04日 (日) 07:49:46   ID: erQiZMNP

つ、続きを…

3 :  SS好きの774さん   2016年03月17日 (木) 03:53:23   ID: S7eL0hgX

続きを…

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