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「…………」
「…………」
「…………」
(わたしのことつけとる、よな……?)
(もうちょっとでおうちつくし、走って……いたっ!)コツン
「おまえがっこう来んなよ!」
「ビョーキ持ち!」
「いたっ……いたい、い、石なげんといて」
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「プールとかお前がいたら入れんやろ!」
「ビョーキがうつるやろ!」
「う、うつらんよ……」
「ウソつけ! そんなことだれが言ったんや!」
「お……おかあさんが、言っとったもん……」
「ならお前のおかんもウソつきや」
「ウソつき一家や!」
「ちがう……ちがうよ……おかあさん、うそつかんもん……」ポロポロ
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「うわ! こいつ泣きやがった!」
「ばっちぃ、それさわったらビョーキうつるで!」
「たいじしてやらな! みんな! さわらんように気ぃつけや!」
「石なげればだいじょう、いたっ!」
「だ、だれや! おれになんか投げたの」
「わたしやで」
「あ! お前」
「オレもおるでー」
「な、なんやお前ら……なんか文句あるんか」
「あるで。寄ってたかって女の子に石投げるクズども」
「小学校からやり直してきたほうがええで」
「いや……あいつらもオレらも小学生やからな?」
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「せっかくおれらがビョーキ持ちやっつけとんのにっ」
「なんやお前ら、せいぎのみかたのつもりか!」
「ちゃうで」
「——わたしはかわいい女の子の味方なんや」
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■千里山中学 麻雀部部室
竜華「暑いなぁ、夏やなぁ」
怜「ほんま暑いで……死ぬ……暑さで死ぬわ」グッタリ
セーラ「未だに長袖のお前らが悪いわ」
怜「教室は教室でクーラがガンガン効いててキツイんやもん」
怜「しかし、ほんとに夏真っ盛りって感じやな」
竜華「せやなー……うちらも、もう一年もせんうちに卒業や」
竜華「その前に麻雀部引退も待っとるけど」
竜華「そういえば、二人はもう進路決まった?」
怜「私はまだこれ、というのは決まってないなぁ」
セーラ「オレは決まってとるでー」
怜「お、ほんま?」
セーラ「オレはな、インターミドルで良い成績を残して特待でどっか行こうと思うんや」
怜「おー、すごいなぁ」
セーラ「おまっ、バカにしてんやろー」
怜「してないしてない」
怜「私からはちょっと遠い感じやからさぁ、そういうの」
怜「でも夏の大会が終わって、セーラの行く学校が決まったら私もそこ一般で受けることにするわ」
竜華「私もー」
セーラ「なんだそりゃ……」
怜「ええやんええやん、小学校からの腐れ縁なんやから」
怜「ここまで来たら高校も一緒のとこ行きたいわ」
竜華「うんうん」
セーラ「ええけどな。でも、めっちゃ試験難しいとこにオレが特待で選ばれても知らんで」
竜華「その場合、セーラはセーラで入学後が大変やろ? 勉強も難しくなるから」
セーラ「そやった……」
怜「まあ、私と竜華はだいたい大丈夫やと思うわ」
怜「一緒のとこに入れたら、勉強ぐらい——」
後輩「あ、おったおった」
後輩「江口先輩、清水谷先輩、監督が大会のことで呼ばれてましたよー」
セーラ「おう、わかった。ありがとなー」
竜華「……ごめんな、怜、ちょっと行ってくるわ」
怜「ええよええよ」
怜「二人とも、頑張って優勝旗持って帰ってきてなー」
セーラ「おう、任せとけ!」
竜華「あとでなー」
怜「…………」
怜(麻雀は結構な差がついたからな)
怜(せめて、勉強ぐらい力になりたいわ)
怜(……ダメやな、ちょっと弱気になっとるみたいや)
怜(中学ではレギュラーなれんかったけど、高校では挽回する)
怜(それで、竜華やセーラと一緒に全国の舞台で——)
■千里山女子高校 麻雀部部室
竜華「うわー、いっぱい居るなー」
竜華「みんな麻雀部入ろうとしとるんかな?」
怜「そらそうやろ」
怜「しかし、ほんとに多いな……いま部室におるのは、私ら一年生だけの筈やけど」
セーラ「まあ、千里山女子っていえば関西でも屈指——いや、最強の高校やからな」
セーラ「麻雀部目当てで入る奴らはたくさんおるやろ」
怜(セーラと竜華を応援しに行った時に見た顔が結構おるな)
怜(あの子、確かセーラといい勝負しとったな……あっちの子も、去年は結構惜しい成績やった筈)
怜「……すごいな」
竜華「そやなー、人いっぱいや」
怜「そうやなくて」
竜華「ん?」
怜「……いや、何でも無い」
怜(そうそうたる面子や……私、場違いやないんかな)
竜華「こんだけ麻雀部入りたい子がおる中で特待に選ばれるなんて、やっぱセーラはすごいなぁ」
セーラ「ふふん、まあそれほどでもないで」
竜華「でも、今年の特待生はセーラ含めて二人やろ?」
竜華「監督とかはどっちの方が強いって見てるんやろうか」
セーラ「オレに決まっとる」
??「うちに決まっとる」
セーラ「……話聞いとったんか? 竜華はどっちの方が強いか、って言ったんやで」
??「聞いとったわ。せやから、うちに決まっとるって言ったんや」
怜「えっと、確か……愛宕」
洋榎「愛宕洋榎や、よろしくなー」
怜「園城寺怜や。よろしくー」
洋榎「おう! よろしくなー」
竜華「うちは清水谷竜華って言うんやー」
セーラ「オレは江口セーラや」
洋榎「お前らは大会で顔会わせとるやろ!」
セーラ「つーか洋榎、何で千里山に来たんや」
セーラ「確か姫松行くとか行ってなかったか?」
洋榎「おか……千里山の監督と同じとこってのはアレやし、そのつもりやったんやけどな」
洋榎「姫松と千里山のレベル比べたら、やっぱり千里山の方が高いし」
洋榎「レギュラー取るのが難しい方が日頃の張り合いがあってええよな、ってことでこっち来たんや」
セーラ「ほー、まあ、頑張ればなれるんやないか? オレより後に」
洋榎「アホ! それはこっちのセリフや!」
竜華「レギュラーを目指してお互いに切磋琢磨する二人……ライバルや!」
セーラ・洋榎「「ちゃうわ!」」
セーラ「こいつがライバルとか御免被るわ、オレの格まで下がるやろ」
洋榎「下がるほど格が無いわ」
セーラ「なんやと!」
洋榎「やるか!?」
竜華「仲ええなー」
怜「あれでライバルやないなら何なんや……っと、監督来たで」
雅枝「はい、注目ー」
雅枝「麻雀部に入るに当たって少し注意事項を——そこの一年二人! いつまでケンカしとるんや!」
雅枝「特待生やからって容赦はせんで!」
雅枝「……よし、静かになったな」
雅枝「私が麻雀部監督の愛宕雅枝や」
雅枝「今日から一年生にも部活動に参加してもらうが、初日からさっそく対局してもらうで」
雅枝「最初の一ヶ月の練習試合は地区大会のメンバー選抜も兼ねる」
雅枝「成績次第では一年生をレギュラーに選ぶこともあるので、新入生も積極的に参加するように」
新入生『はい!』
雅枝「それと、注意事項を一つ言っておく」
雅枝「藤白七実って三年生には対局以外では話をしないように」
雅枝「人相は……そこのドアの隙間から覗いとるヤツがそうや」
七実「…………」
怜・竜華((怖っ!))
七実「先生が部内イジメを助長してるー」
雅枝「去年、蔵垣に変な打ち方を教えてダメにしたのは誰や?」
七実「誰でしたっけ」
雅枝「…………」スッ
七実「あ! 先生! 体罰はダメですよ!?」
雅枝「お前、卒業したら覚えとけよ」
七実「御礼参り予告されてる……!」
雅枝「上級生の中にはコイツのようなのがいるから、パワハラ、セクハラされたら相談するように」
新入生『は、はい……』
■一年生教室
怜「レギュラー入り、惜しかったなセーラ」
セーラ「んー……まあ、補欠としてベンチ入りすることになったけど」
セーラ「これより上は、千里山入って上がってきた以上に厚い気がするな」
セーラ「何となくやけど……まあ、実際に調子よく上がれたのは途中までやからな」
セーラ「やっぱ強いわ」
怜「私は調子良く上がるどころか下がった気がするわ、実際に三軍止まりや」
セーラ「最初の一ヶ月の区分けぐらい気にすんな」
セーラ「オレも怜もまだまだ入ったばっかり何やからな」
怜「ん……まあ、そうなんやけど」
怜「でも、部内レーティングあるやろ?」
怜「セーラも竜華も上位で、私は下位やから上位の二人と打つ機会が減りそうやから」
セーラ「あー……部内ではそうかもしれんけど」
セーラ「部の外で好きに打てばええやん。特訓も兼ねてな、付き合うで」
怜「ありがと、セーラ」
竜華「お待たせー。ごめんな、売店混んどった」
怜「おかえり。何買うてきたん?」
竜華「焼きそばパンとメロンパンとイチゴミルクや」
竜華「何の話しとったん?」
怜「セーラのレギュラー入り、惜しかったなーって」
竜華「ああ、ほんとやな。トップ率はレギュラーの服部先輩と同じなのになぁ」
セーラ「先輩の話だと、レギュラーはレートと連対率重視らしいわ」
セーラ「コンスタンスに勝てるメンバーやな、要は」
怜「そうなんや」
セーラ「かなり特殊なヤツなら起用も考えるらしいけどな」
竜華「特殊?」
セーラ「何て言ったらええかなー……」
セーラ「普通なら見えへんものが見えとったり、来る牌に偏りがあるとか」
セーラ「特定の状況で爆発するように強くなるヤツ」
怜「憩ちゃんみたいな感じか」
怜「ええなぁ……私にもそういう不思議な力が身につかんかな」
竜華「どんなのがほしいん?」
怜「そうやな……必ず天和で上がれるようになりたいな」
セーラ「それは流石に面白くないで、すごい作業ゲーになる」
怜「それもそうか」
怜(……でも、そういう力があれば」
怜(竜華とセーラと、一緒に同じ舞台に立つことが出来るんかな)
■千里山女子高校 麻雀部部室
怜(まあ、無い物ねだりしててもどうしようもない)
怜(いまはただ必死に打つしか無いやろ)
怜(……二人と違って、私は弱いんやから)
怜「よろしくお願いします」
一年生A「よろしくお願いします」
一年生B「よろしくー」
竜華「…………」
洋榎「おう、休憩中かー?」
竜華「ああ、洋榎……うん、ちょっとな」
洋榎「たそがれとったけど悩みでもあるんか」
竜華「んー……怜がな、大丈夫かなって」
竜華「最近、あんまり一緒に打ててないから」
洋榎「いまは大会前の調整兼ねて、上位は上位のレートで打つことばっかりやからな」
竜華「まあ怜が心配ってのもあるけど、私も寂しくてな」
竜華「なるようにしかならんとは思うけど……せめて、何事も無ければええなぁ」
怜「あれ? ——さん、今日はおらんの?」
一年生B「退部したよ」
怜「え……」
一年生B「思っていた以上に千里山のレベルが高かったから、やめるってさ」
一年生B「私も今日の対局勝てなかったら、やめようかなーって」
怜「…………」
一年生B「冗談だよ、ジョーダン」
一年生B「……でもさ、園城寺さん」
一年生B「勝てないのに麻雀打ってて楽しい?」
一年生B「下位レートで勝って、少し上に行けたと思ったら上ではボコボコ」
一年生B「ラス引きまくって直ぐに下へ蹴落とされる」
一年生B「私達、レギュラーなんてなれると思う?」
怜「……まだ千里山に入って、ちょっとしか経っとらんやろ?」
怜「これからまだ巻き返しできるんやないかな」
一年生B「無理だよ」
一年生B「団体戦のレギュラーは基本的に五人」
一年生B「限られた枠数をこれだけの部員で取り合うんだよ?」
一年生B「私達なんて同年代に愛宕さんと江口さんもいる」
一年生B「他にも清水谷さんとか末原さんとか真瀬さんとか、上位の卓で打ってる子もいる」
一年生B「いまの時期に上まで行けてる子がいるのに、私達がレギュラーになれると思う?」
怜「上級生が引退していけば……」
一年生B「無理だよ。私達が二年、三年になる頃にはもっと才能のある子達が入ってくる」
一年生B「だから、私は面白くないよ」
怜「…………」
一年生B「……ごめん、ちょっと私も監督と話があるから」
怜「あ、ああ……うん」
怜(……麻雀部に入って、一ヶ月と少し経った頃だった)
怜(その頃から、少しずつ一年生が減っていった)
怜(限界を感じた、楽しくない)
怜(皆、やめるに至った理由は殆ど同じだったと思う)
怜(……私も)
■千里山麻雀部 監督室前
怜(……来てしもうた)
怜(今日は部活休みやけど、監督はいるはずやけど)
怜(ノック一つするのも気が重いわ)
怜(……自分で決めたことなんやから、これぐらいはちゃんとやらんと)
怜(竜華とセーラに、相談の一つでもするべきやったかな)コンコン
??「どうぞー」
怜(あれ、監督の声やない……?)
怜「失礼します……?」
七実「お、怜ちゃん、いらっしゃーい」バリボリ
怜「はあ、どうも……何で藤白先輩が」
渓「地区大会前の簡単なミーティング」
怜「岡本先輩」
渓「……監督が席外したら七実はサボり始めたけど」
七実「お煎餅食べる?」バリボリ
怜「いや、いいです……」
七実「まあ、そう言わずに食べよ? あ、甘いものがいい?」
怜「いえ、ほんとにいいんで……監督は帰られたわけじゃないんですよね?」
渓「ちょっと職員室に呼ばれてるだけだから、直ぐに戻ってくると思う」
怜「ありがとうございます。ミーティングされてるようですし、また時間改めるようにします」
七実「ちょ、ちょっと待って」
七実「私、アイス食べたくなっちゃったから怜ちゃんも一緒に行かない? ね?」
渓「七実、ミーティング中」
七実「本ミーティングは別の日やるからいいっしょ」
七実「ね? ナナミお姉さんが奢ったげるからー」
怜「いや、あの……先輩」
渓「七実……この時期に一年生が深刻な顔で監督室に来る用事ぐらいわかるやろ?」
七実「わ、わかりませーん……わかりたくありませーん」
渓「じゃあ単刀直入に聞くけど退部希望?」
怜「そうで」
七実「わー! わー! わー!」
渓「めんどくさいなコイツ……」
七実「怜ちゃん、こんな冷酷な女ほっといてデート行こうよ」
渓「七実」
七実「うっ……」
渓「後輩がやめるのは寂しいんやろうけど、大人になれや」
七実「うぅ……」
渓「……部内で人間関係のトラブルがあったからやめるわけや無いんよね?」
怜「はい」
渓「麻雀部やめたら何かやろうと思ってる?」
怜「いえ、まだそこまでは……」
渓「なら、一つ提案がある」
渓「嫌なら断ってくれていい——けど、受け入れてくれたらそこのバカは喜ぶと思う」
■千里山女子高校 麻雀部部室
セーラ「ロン、7700」
竜華「あっ……」
セーラ「竜華のトビやな」
セーラ「最近、調子悪いな……理由はだいたいわかるけど」
竜華「うぅ……怜が、怜さえおれば」
セーラ「毎日普通に顔合わせとるやろ」
竜華「せやけど部ではそれほど一緒におれんやろ?」
セーラ「このままやと、竜華のレートが下がって部でもよく一緒におれるようになるで」
竜華「……それもええなぁ」
怜「ええわけないやろ」
竜華「そら怜は怒るわなぁ……って怜!?」
怜「地区大会近いんやから、あんまり腑抜けとったら皆の迷惑になるで」
怜「まあ、私が言えたことでは無いんやけど」
竜華「どしたん、何かあったん?」
竜華「はっ……まさか、うちに会いに来てくれたん!?」
怜「違うわ。マネージャーの仕事しとるだけや」
竜華・セーラ「「マネージャー?」」
怜「うん」
怜「私、マネージャーやらせてもらうことになった」
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渓「なら、一つ提案がある」
渓「嫌なら断ってくれていい——けど、受け入れてくれたらそこのバカは喜ぶと思う」
渓「マネージャーやってみん?」
怜「マネージャー……?」
渓「知っての通り、千里山の麻雀部の部員は多い」
渓「部員が多いと雑用もそれなりの量になる」
渓「基本的には持ち回りでやってるけど、それを専門でやってくれる子がいれば……」
怜「練習に専念できる……?」
渓「そういうこと」
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渓「……ただ、一度部をやめるって決心した以上」
渓「マネージャーとして残るって話は受け入れがたいかもしれない」
渓「ひとまずは話を持ち帰って、よく考えてもらえれば——」
七実「いやいや絶対なるべきだよ! 嫌ならこのまま部員のままでいだぁ!」ベシッ
渓「お前は黙れ」
怜「……迷惑になりませんか?」
渓「ならへん。やってくれる子がいた方が助かる」
渓「一応、監督にも確認しないといけんけど監督も首を縦に振ると思うわ」
怜「それじゃあ……やらせてください」
———————————————————————————————————————
怜「——というわけで、マネージャーやらせてもらえることになったんや」
怜「二人とも雑用とかやってほしいことあったら言ってな?」
竜華「は、はいはい! やってほしいことある! あるで!?」
怜「くだらんことはNGな」
竜華「くだらんことないで! 毎日うちに味噌汁を作ってほしいんや」
怜「作れん。ほなさいなら」
竜華「ああ待って! 行かんといて怜ぃ!」
怜「竜華、これで真面目に仕事しようとしとるんやから邪魔せんといてや」
七実「そーそー、しみずんダメだよ、怜ちゃんの邪魔しちゃ」
竜華「げっ……藤白先輩」
七実「怜ちゃんはこれから私とデート行くんだもんね!」
渓「黙れよ」ゲシッ
七実「お、おぉぉぅ……脛が……!」
渓「園城寺さん、さっそく牌譜の整理手伝ってほしいんやけど」
怜「あ、わかりました」
渓「清水谷さんも江口さんも練習戻り」
渓「特に清水谷さん、最近ダメダメやから気をつけんといかんよ」
竜華「は、はい」
渓「まだ七実がトラックにハネられてレギュラーから外れる可能性があるんやからな」
七実「身の危険を感じる……!」
怜(私はマネージャーとして部活動に参加することになった)
怜(そのおかげで病床に伏すまで麻雀に関わることが出来たんだと思う)
怜(いまでもこの選択を間違いだとは思っていない——先輩たちのおかげだ)
怜(雑用は部内で持ち回りでやっていたおかげで直ぐに慣れた)
怜(掃除、記録取り、牌譜の整理、道具の整理、あとついでに藤白先輩のお守り)
怜(こういった雑用を私がすることで、竜華やセーラ達の力になれていると思えることが嬉しかった)
怜(……インターハイの舞台に、一緒に立つことは出来ないけれども)
■千里山麻雀部 監督室
怜「合宿、ですか?」
雅枝「ああ、まあ合宿というより地区大会突破のご褒美の旅行みたいなもんやけどな」
雅枝「主に後援会の人らが勧めてくれるんやけど……」
七実「監督はそんな遊んでるヒマがあれば練習しろー派ですからねー?」
雅枝「そこまでは言わんけどな。息抜きも大事や」
雅枝「……藤白は息抜きしすぎやけど」
七実「ま、まあ、そんなこんなで合宿に行くんだよん」
七実「今年はレギュラーと控えと監督と怜ちゃんだね」
怜「え、私も?」
雅枝「マネージャーやからな」
雅枝「いつもよりやることは少ないけど、温泉もあるから羽伸ばし」
怜「いや、その……羽伸ばすほど仕事してないと思うんですが」
雅枝「他の部員がな、藤白のお守りしてくれてるのが大変助かるって喜んどったわ」
七実「使用者から続々と喜びの声が」
怜「そんな通販っぽく言われても……」
怜「マネージャーなってそんなに経っとらんのですよ」
怜「実質ご褒美の合宿連れて行ってもらうとか、心苦しいです」
七実「えぇー……一緒に行こうよー」
雅枝「無理にとは言わんけどな」
雅枝「その代わり、留守番はしっかり頼むで」
怜「はい」
怜(この年も地区大会を制したことで、千里山は9年連続インターハイ出場を達成した)
怜(全国ランキングは1位——優勝の最有力候補と目されていた)
怜(ただ、目されているだけで一筋縄でいかないことは全員が理解していた)
怜(なぜなら、千里山の優勝を妨げかねない高校がいくつもあったからだ)
怜(例えば、14年連続東東京地区代表の臨海女子高校の存在)
怜(少数精鋭且つメンバーを全員留学生で固めた特殊な高校)
怜(選手はいずれも海外で実績を残し、将来が期待された選手ばかり)
怜(大げさに言えば、海外オールスターチームと言ったところか)
怜(そのやり口には批判が多い……けど、毎年実績を残しているのは確かだった)
怜(次に挙げられるのが九州最強の名門校、新道寺女子)
怜(毎年好成績を残している新道寺だったが、この年、かなり大胆なオーダーを採用した)
怜(スターティングメンバーのうち四人に一年生を配するというオーダーを)
怜(名門校と呼ばれる高校がこんなオーダーをすることは殆ど無い)
怜(普通は経験、実力共に下積みのある上級生を配する)
怜(このオーダーには外部から批判の声が相次いだらしい)
怜(——が、地区予選が終わってみればそんな声も上がらなくなった)
怜(理由は単純。ただ一年生レギュラーが他校を圧倒した、それだけ)
怜(この白水哩を筆頭とする一年生四人は引退するまでレギュラーに選ばれ続け)
怜(翌年入学した鶴田姫子を加えた時、過去最強のメンバーとも謳われた)
怜(新道寺が将来有望だとすれば、あの高校はそれと真逆だった)
怜(愛媛県代表、大生院女子)
怜(かつては名門校と呼ばれていたが一昨年前に経営陣が一新)
怜(成績不振の麻雀部へ力を入れるのを辞め、年々力を落としていると言われていた)
怜(事実、この年以降は目立った成績を残せていない)
怜(それでもなお優勝候補の一つに挙げられるのは、後にプロ雀士となる戒能良子の存在が大きい)
怜(ワンマンチームとはいえ、千里山にとっても無視できない脅威となるのは明らかだった)
怜(——あの高校は、臨海、新道寺、大生院と比べればノーマークと言っても良かった)
怜(夏の全国大会が始まるまでは)
怜(以来三年間、千里山の前には常にあの高校が立ちはだかり続けることになる)
■インターハイ 抽選会場
雅枝「今日は抽選のみとはいえ、どこと当たるかがわかる重要な日や」
雅枝「あと、開会式も控えているからあまりうろつかないように」
全員『はい!』
渓「さて、どこと当たるかな」
秋「楽なとこならええねぇ」
怜「……蔵垣先輩は何でそんなに顔色悪いんですか?」
るう子「緊張してきちゃった……吐きそう……」
渓「今日は抽選と開会式だけやろ……」
怜「エチケット袋いります?」
るう子「うん……」
るう子「……あれ? 藤白先輩は?」
渓「……誰か見張ってなかったん?」
叶絵「寝てた」
秋「てっきり渓が首輪でも付けてるのかと」
渓「……マズイ、非常にマズイ」
渓「きっとおそらく何かしらの問題を起こすはず……下手したら出場停止処分」
るう子「…………」カタカタ
セーラ「蔵垣先輩の顔色がさらに悪くなっとる」
渓「とにかく、手分けして探そう」
渓「さすがに会場の中にはいると思うから」
渓「私は念のため心当たりに電話しておく」
全員『はーい』
渓「……あ、もしもし良子? そっちに七実が行ってない?」
■インターハイ 抽選会場 廊下
怜(藤白先輩探しにきたものの……まさか迷うとは)
怜(まあ、私は別に開会式出んでええから迷っててもええけど)
怜(藤白先輩はどうかな……岡本先輩も、さすがに開会式すっぽかすことは無いって言ってたけど)
「あ、千里山の子だ」
怜「?」
「ナナミ捜索中? 大変だねー」
怜「あ、ええ、はい……?」
怜(誰やろこの人、確かどっかで……あ!)
怜「大生院の——戒能良子」
良子「うん?」
良子「どうかした?」
怜「あ、いえ、すみません……こんなところで会うとは思わなかったので」
怜「何されてるんですか?」
良子「ヒマだからフラフラしてた」
怜(ここにも自由人が)
良子「ナナミ、まだ見つからないの?」
怜「はい……どこに行ったのやら」
良子「お腹減ったら戻ってくるよ」
怜「そんな犬や無いんですから」
怜「…………」
怜「……戻ってくるかも」
良子「ね?」
「あーーー!」
怜「あ」
良子「来たよ……」
七実「ヨッシーが怜ちゃんに粉かけてる……!」
良子「かけてない」
七実「私と結婚の約束までしといて……!」
良子「してない」
良子「……ナナミは平常運転だね」
七実「そんなことないよ、もうガッチガチに緊張してるよ」
七実「あ、でもぉ、ヨッシーのアツーイキッスがあれば元気でるよ」
良子「死ね」
良子「ケイから連絡あったけど、ダメじゃない、会場ほっつき歩いてちゃ」
良子「皆に迷惑かかるでしょ?」
七実「えっ、でも、さっき大生院の子がヨッシーのこと探してたよ?」
良子「私はちゃんとほっつき歩いてくるからね、って言って出てきたからいいの」
七実「な、なるほど、今度からそうするよ!」
怜「せんといてくださいね」
七実「……いよいよ高校最後の試合だね」
良子「なに、改まって」
七実「いや、何というか……終わりだと思うと惜しくなってね」
七実「おかげで三年間充実してたよ、戒能良子って目標を常に追っていれたから」
良子「まさか、わざわざそれを伝えにきたの?」
七実「いや、えへへ……もし、ヨッシーと対局する前に私が負けちゃったらいけないから」
七実「伝える機会がいましか無いかもって思ったら、居ても立ってもいられなくなってね」
良子「勝手に負けられちゃ、こっちも張り合いが無くて困るんだけど」
七実「ちゃんと勝ちに行くよ。ヨッシーこそ勝手に負けないでね」
七実「今年は追っかけるんじゃなくて、追い越すつもりなんだから」
良子「怖い怖い。しっかり逃げるよ」
七実「そ、そして、私が勝ったら籍を入れに市役所いひゃひゃひゃひゃ!」
七実「いひゃい! いひゃい! ほっふぇふぁはやめふぇ!」ギリギリ
良子「コイツの口取れないかな」
怜「仲いいんですね、お二人とも」
七実「めっちゃ仲良しだよ!」
良子「ウザいから嫌いだよ」
怜「あはは……」
怜(思えば優勝候補のエースプレイヤーがこうして並び立っとるんやな)
怜「……お二人は」
良子「ん?」
怜「お二人は、緊張とかされとらんのですか?」
七実「ちょーしてるよ。だからヨッシー、私にキスいだぁ!」
七実「む、無言で叩かないでください」
良子「叩かれるような発言するのが悪い」
良子「緊張してるよ。対局前になるともっと緊張する」
良子「基本的に負けたらそこで終わりだからね」
良子「やっぱり、普段の対局とは重みが違うよ」
良子「ただ、その緊張が緊張が心地いいんだよね」
七実「あー、あるある。ちょっと中毒性あるよね」
怜「中毒性って……」
怜(……私には縁の無さそうなことやな)
怜「先鋒いうたらエースや無いですか」
怜「それを重いって感じることは?」
良子「あるよ」
七実「あるねー。牌まで重く感じることがあるよ」
七実「これ切ったら振り込んじゃうんじゃないか……皆に迷惑かかるんじゃないか……ってね」
七実「でも、重いって感じるのはイコール皆の期待がかかってるってことだから」
七実「エースの看板って重いけど……それでも面白いよ、麻雀」
七実「でも、みんなそーいう重いもの背負ってるからね」
七実「私の後ろにいてくれる四人とも、勝たなきゃーってプレッシャーと戦ってくれてると思うよ」
七実「……だから、先鋒の私がいっぱい稼ぐ」
七実「そしたら、四人とも少しは楽に打てるようになるんじゃないかなぁ、って思ってる」
七実「普段振り回してばっかりだから、これぐらいは貢献しないとねー」
七実「あと、重いの背負ってるのは怜ちゃんだって同じだかんね」
七実「いつもマネージャーの仕事ありがとう。すごく助かってるよ」
怜「いや、私は……そんな」
七実「照れてる照れてるぅ」
良子「後輩をいびらない」ベシッ
良子「さて……そろそろ戻るかな」
七実「えー、もっと三人でお話しようよー」
良子「いい加減帰らないと」
良子「後輩にすごく真面目な子が入ってね。いまごろ気を揉んでそう」
七実「ほうほう」
良子「まあ、もうすぐ親の都合で転校しなきゃいけないんだけど」
七実「関西にお越しの際は、ぜひ千里山へ!」
良子「関東行くって行ってた」
良子「またね。ナナミ、後輩ちゃん」
怜「はい」
七実「うん、まったねー」
怜「さて……そろそろみんなのところ戻りましょうか」
七実「うん、じゃあ私はちょっとほっつき歩いてくるから」ガチャッ
七実「……ん? なにこれ? 手錠?」
怜「持ってきた甲斐があったなぁ」
七実「ひぇぇぇぇー……」
怜(第69回インターハイ全国大会)
怜(団体戦、Aブロック準決勝で千里山と大生院がぶつかり合うことになった)
怜(先鋒戦は藤白七実と戒能良子の二人が暴れて大荒れ)
怜(残りの二校を突き放し、次鋒戦に繋いだ)
怜(試合が動いたのは中堅戦)
怜(中堅である蔵垣先輩が、小四喜に二度振り込んで1位から3位に転落した)
■千里山女子高校 控え室
るう子「ごめ……なさい……ごめんなさい……」
るう子「わ、わたしの……せいで……」
秋「泣くな。うちも副将戦で取り戻しきれなかったやから」
雅枝「こういうこともあるのが麻雀や、あんまりクヨクヨするな」
セーラ「新道寺の中堅がおかしかっただけですって」
るう子「でも……でも……!」
渓「るう子」
渓「とりあえず、二位以上にはなってくる」
渓「帰ってきたら泣きやんどけ。ええな?」
るう子「……っ、岡本せんぱい……」
渓「——行ってくるわ」
■インターハイ準決勝会場 廊下
怜「先輩……」
渓「大丈夫や。二位で決勝に行けるんやからな」
渓「準決勝で良かったわ」
怜「……何て、言ったらええかわからんのですけど」
怜「頑張ってください。応援してます」
渓「うん、わかっとるよ……ありがとな」
渓「七実」
七実「ん」
渓「七実はいつも期待通りの結果を出してくれたな」
渓「私はお前に期待してばっかりやった……とにかく稼いで、後続に楽させてくれって」
渓「ごめんな、重たいもんばっかり背負わせて」
七実「へっちゃらだもんねー。重たいなんて、ちっとも思ったこと無いもん」
七実「だって私は——千里山のエースなんだから」
渓「そうか。さすが七実や」
渓「まあ、今回はさすがに自分で頑張るわ」
渓「その代わり、決勝では楽させてくれ」
七実「……うん」
七実「……期待して、いい?」
渓「ええで」
七実「そっかぁ……じゃあ、ちょっと重いの背負ってもらって、いいかな?」
渓「あいよ」
渓「必ず連れて行く——決勝まで」
七実「うん……頼んだよ、大将さん!」
渓「頼まれたよ、エース」
渓「…………」
七実「ど、どうかした?」
渓「ああ、いや……」
渓「先輩達も、こうやって想いを託してきたんだろうな、って思って」
渓「——悪くないね」
渓「うん、悪くない……むしろ、心地いいよ」
七実「……怜ちゃん、マジック持ってない?」
怜「マジック? ……これでええですか?」
七実「ありがと。ケイ、腕出して」
渓「腕? って、コラ、何書いとんや」
七実「気合注入。寄せ書きみたいに応援メッセージ書いちゃおう」
七実「ほら、怜ちゃんも書いたげて」
怜「えっ」
七実「私、みんな呼んでくるからー!」
怜「え、えぇ……?」
怜「書いてええんですか?」
渓「あー……ええよ」
渓「どうせ七実が書いたからな、一つも二つも大して変わらんわ」
叶絵「なに、渓の腕に落書きすればいいの?」
秋「絵でもええの?」
セーラ「何か気が引けるなぁ……何書こうかなぁ……」
洋榎「点数表とかどうや! 実用性もあるで」
由子「そんなの書いてたらきっと笑われるのよー」
竜華「これ書いてること事体が笑わ……あ、な、何でもないですよー!?」
恭子「自分のペン持って来ました」
渓「一人二人どころの話やなかった……」
七実「他の子も呼んでくるねー」
渓「やめろ!」
るう子「……先輩」
渓「るう子、書いてくれる?」
るう子「は、はい……」
渓「ネガティブなメッセージ書いたらお仕置きやからな、『ごめんなさい』とか」
るう子「うっ、うぅ……」
るう子「……これ、で」
『決勝戦に連れて行ってください』
渓「ん……わかった」
渓「任せとき」
■インターハイ準決勝会場 実況室
実況「さあ、Aブロック準決勝もいよいよ大将戦に突入です」
実況「現在トップは新道寺女子。先鋒戦で大きく失点しましたが、次鋒・中堅・副将で挽回」
実況「今年大将を務めるのは一年生レギュラー、石戸霞」
実況「二位は全国ランキング4位、大生院女子」
実況「新道寺と同じく一年生レギュラーを大将に据えています」
実況「インターミドルでは好成績を残しました。大将、弘世菫」
実況「三位は全国ランキング1位、千里山女子」
実況「この大将戦では唯一の三年生レギュラーです」
実況「平均打点は関西最低ですが、平均和了速度は関西最速の大将、岡本渓」
実況「そして四位はトップと八万点差」
実況「二年ぶりの全国出場となる西東京地区代表、白糸台高校」
実況「かなり厳しい状況で最低でも二位を狙っていかなければいけません」
実況「……が、全国大会一回戦でようやく調子が出てきたのか」
実況「はたまた実力を隠していたのか」
実況「一回戦、二回戦共に十万点以上を単独で稼いだプレイヤーがついに登場です」
実況「白糸台大将——宮永照」
オリキャラ満載にキャラ居る場所変わりまくりとか何がやりたいのかさっぱり分からんな
なんだこれ
怜(一年生の時のインターハイ)
怜(先輩達の頼もしさ、そしてインターハイ優勝にかける想い)
怜(いまでも目を閉じればありありと、あの夏の控え室の熱気と共に思い出すことが出来る)
怜(……けど、あの時、思ってしもうた)
怜(応援するだけじゃなくて、先輩達みたいにあの舞台に立ちたいと)
怜(それはかつて考えていた竜華とセーラと同じ舞台に立ちたいということと、同義であって)
怜(それは無理だと諦めたから……私はマネージャーとして、頑張ろうとしていたのに)
怜(……あの夏以来、心にしこりを抱えてしまった)
怜(正確には——未練か)
■千里山女子高校 麻雀部部室
怜「部長、白糸台の牌譜ここ置いときますよ」
るう子「うん、ありがとう」
るう子「ごめんね、遅くまで手伝わせちゃって……」
怜「手伝ってもろうとるのは私ですよ。これはマネージャーの仕事ですから」
怜「まあ、こういうの恭子の方がまとめるのうまいんですけどね」
怜「私も真似させてもらってるんですけど」
るう子「末原ちゃんかー……うん、確かにわかりやすいよね」
るう子「さて、これかたしたら帰ろっか」
怜「はい」
怜「…………」
るう子「…………」
怜「……今日は部活休みだからってのもありますけど」
怜「何か最近、部室が静かに感じます」
るう子「ん……それは、先輩達が卒業したからじゃないかな」
るう子「何だかんだで藤白先輩は引退しても、ちょくちょく顔出してくれてたし……」
怜「そのたびに部長がひどい目にあってたような」
るう子「あ、あはは……愛のムチ的なものだよ……多分」
るう子「でも、もうすぐ賑やかな部室が戻ってくるよ」
るう子「新入生が入ってくるからね」
怜「ああ……そういう季節でしたね」
るう子「もうすぐ桜も見頃になって……そしたら、皆でお花見行きたいね」
怜「ええですね。席取りは体力自慢に任せときましょう、セーラとか」
るう子「新入生入ってきたら、直ぐに地区大会が待ってるね」
怜「…………」
るう子「……怜ちゃんは、もう選手には戻らないの?」
怜「マネージャーですから」
るう子「そっか……」
怜「……未練が無いわけや、ないですけどね」
るう子「じゃ、じゃあ」
怜「ただ、マネージャーやってて再確認できたことがあります」
るう子「再確認できたこと?」
怜「部長と私とセーラと竜華で打ったら誰が一番勝率低いと思いますか?」
るう子「……それは」
怜「当然、私になると思います」
怜「部員全体のレートで見て下から数えた方が早い……いや、いまなら一番下かもしれません」
怜「昔、私に『麻雀は勝てないとつまらない』って言った子がいたんですよ」
怜「私はそうは思いません」
怜「けど、『レギュラーなんてなれると思う?』とも言われました」
怜「それに関しては……なれないと思います」
怜「なぜなら、千里山の部員の質は高く、それに比べて私は弱いから」
怜「……どうせ、選手を目指しても役に立てないなら」
怜「マネージャーになって、みんなをサポートしようと思ったんです」
るう子「…………」
るう子「……レギュラーだけが全てじゃないよ」
るう子「レギュラー経験者の私が言うと、嫌味に聞こえるかもしれないけど……」
怜「いえ……」
怜「ま、まあ、この話はやめましょ」
るう子「うん……ごめんね」
怜「新入生、楽しみです。先輩としての心構えとかなんかあります?」
るう子「こ、心構え!? う、うーん……?」
怜「しっかりしてくださいよ、ぶちょー」
怜(新入生……私も高二になるんやなぁ)
怜(卒業までもつとええな)
■千里山女子高校 麻雀部部室
怜「——この間、監督が言っとった通り、レギュラー選抜兼ねるから対局頑張ってな」
怜「他に何か質問ある?」
新入生A「は、はい! わからないことあります!」
怜「うん、なに?」
新入生A「園城寺先輩は彼女とかいるんですか!?」
怜「彼氏や無いんか。まあ、どっちにしろおらんで」
新入生B「ま、まじですか……! じゃ、じゃあ私が」
竜華「はいはーい、ちょっと怜借りてくなー! 部長が呼んどるからー!」
るう子「えっ、別に呼んでな……呼ビマシタ清水谷サン」
怜「おおぅ……ごめん、みんなまた後でなー」
新入生A「……園城寺先輩、ええよね」
新入生B「めっちゃ好み。先輩なのにめっちゃ庇護欲そそるわ」
新入生C「わかる。ちょー抱きしめたいわ」
新入生D「うちは無理に先輩っぽく振舞ってほしいなぁ」
新入生D「で、『悪い子やな』って言われながらポカンと頭を叩かれたい」
新入生A「ええなええな。それもええな」
新入生B「でも、ひょっとして清水谷先輩と付き合ってるとかじゃ……」
新入生A「それはそれで良くない? 見守りたい」
新入生E「あの二人、というか江口先輩もやけど幼馴染やで?」
新入生A・B・C・D「「「「なにその美味しい設定」」」」
怜「何の話しとるんやろ……?」
竜華「アカンで怜、聞いたら耳が腐り落ちる!」
竜華「ただでさえ怜はモテモテなのに、新入生も入ってきて私は苦しいわ」
怜「何が苦しいん」
怜「てか、私は別にモテモテやないと思うけど」
竜華「知らぬは怜ばかりや……新入生が入って一週間も経ってないのに慕われとるし」
竜華「卒業した先輩らからも結構人気だったんやから。三年の先輩らは言わずもがな」
怜「そうなん? よくわからんなぁ」
竜華「やっぱ、怜の守ってあげたいオーラがすごいからー」
怜「ふむ? じゃあ、竜華守ってー」
竜華「ま、任せとき!? 一生大事にするわ!」
怜「まあ、そんなことはどうでもええんや」
竜華「そんなこと!?」
怜「竜華は新入生、どう思う?」
竜華「あー、んー……まだ入って一週間やからよくわからんけど」
竜華「結構ええ感じやと思うでー」
怜「上から目線やな」
竜華「怜が聞いてきたんやろ!?」
竜華「えっとな、例えば……洋榎の従姉妹の子とかキッチリ理詰めでやるええ子やな」
竜華「それ一辺倒や無いし。妹ちゃんの方も筋良さそうやったでー」
怜「絹ちゃんか」
竜華「あと、やっぱり頭一つ抜けとるのは——」
憩「あ、それロンなー」
漫「うわ、参ったなぁ……んで、何点?」ジャラジャラ
憩「32000♪」パタン
漫「……トビです」
怜「……やっぱ憩ちゃんやろうなぁ」
竜華「せやなぁ」
怜「憩ちゃんなら宮永照を何とかできるんやないかな?」
竜華「どうやろ。団体戦でうまく直接対決になってほしいなぁ」
怜「そうなると憩ちゃんで枠が一つ埋まって、竜華の出場厳しくなるで?」
竜華「おお、ほんまや」
怜「しっかりせ……」
竜華「怜?」
怜「ん……いや、何でもないで」
竜華「うん?」
怜「ちょっとお手洗い行ってくるわ」
竜華「あ、私もついてったげるー」
怜「恥ずかしいからやめてーや」
部員A「清水谷さーん、卓空いたでー」
怜「ほら、はよ打ってき」
竜華「ちぇっ、はーい」
怜「…………」
怜(……まだ、大丈夫)
怜(ちょっと休めば、直ぐによくなる)
怜(まだ……みんなと一緒におれる)
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