憂・紬「ちょっとだけ近道」(61)

   
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高校一年の初夏のこと。
私は生来体が丈夫なほうなのですが、その日は貧血気味でした。

昨日、夜遅くまで菫とおしゃべりしていたこと。
そのせいで寝坊して朝ごはんを食べられなかったこと。
原因はいくつか思い当たるけど、それは重要ではありません。
ともかく。頭がふらついていたから、軽音部はお休みさせてもらって、家に帰ることにしました。

軽音部を休むのは私にとって辛い決断です。
こんな熱い日にはグテーっとバテている唯ちゃんを見るのが、私の楽しみだから。
バテている唯ちゃんに冷たいお茶をあげると一瞬元気になります。
だけどすぐにグテーっとなってしまう。
本当に何をしても唯ちゃんはかわいいんです。
ああ、どうして貧血になっちゃうかなぁ……。
全て体調管理を怠った私の責任なのですが、そのとき私は自分の体を恨めしげに思っていました。

まとめに載ったら読む

長い
三行でまとめてこい

生理か

色々と後悔しながらアスファルトの上を歩いていると、急に視界がぼやけました。
太陽はまだ高いところにあって、私を容赦なく照りつけている。
日射病かもしれないと思った私は、公園の木陰にあるベンチに逃げ込みました。

ベンチに座り込むと、少し楽になりました。
水分を摂ろうと思ったけれども、自販機は少し遠い。
冷たいお茶を学校に持っていったのだけど、唯ちゃん達のために置いてきてしまった。
私は少し休んでから水分を摂取することに決めました。

公園の時間はゆったりしていました。
遊具で遊んでいる小学生ぐらいの子供達以外に、人はいない。
木漏れ日がスカートの上に落ちて揺れて踊る。
幻想的でさえ、あるかも。
しかも……

「あなたは――」

――唯ちゃんと同じ顔をした女の子が目の前にあらわれたのです。

支援

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友達がクラブ活動に行った後、私は一人で家に帰ります。

と言っても寂しいわけではないんです。
夕食の献立を考えながら歩くから。
お姉ちゃんに何を食べてもらおうか考えていればあっという間です。

まずは冷蔵庫の中身を思い浮かべます。
ひき肉、キャベツ、レタス、人参、玉ねぎ、各種調味料。
おおよそ思い出してから献立を考えます。
そういえば冷凍していた豚肉があったっけ。

冷凍と言えば……。

はよ

ういーあいすー。
頭の中で再生して、顔が緩んでしまう。
そういえばアイスはあったっけ。あったよね。
自問自答して、今日の買い物は必要ないと判断。
直接帰るとちょっと早くなりすぎるから……公園にでも寄っていこうかな。

私は公園に行くのが好きです。
正確には子供をみるのが好きなんです。
公園で子供達を見ていると、昔のことを思い出せるから。

公園の中に入ると、お姉ちゃんと同じ制服を着た人がベンチに。
あれ、あの人――。

グロはやめて

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「唯ちゃんじゃないよね」

「琴吹さんですか」

「あなたは」

「平沢憂っていいます」

「憂。唯ちゃんの妹ね」

「知ってるんですか」

「えぇ、唯ちゃんから話は聞いてる」

唯ちゃんと同じ顔をした女の子。
制服からして中学生だろう。
話には聞いたことがある。
いつも唯ちゃんが自慢している妹の憂ちゃんだ。
こんな時に会うなんて運がいいのか悪いのか。
でも、恥ずかしがってる場合じゃない。

「憂さん。悪いのだけど、飲み物を買ってきれくれないかしら。ちょっと貧血気味で」

私がお金を渡すと、憂ちゃんは走って行ってくれた。

憂ちゃんはとても足が早い……ように見えた。
すぐに帰ってきて、私にポカリを渡してくれた。
一気に半分ぐらい飲み干す。
すごく楽になった。

「ありがとう」

と伝える。
自分で言うのもなんだけど、すごくいい笑顔が出来た気がする。
憂ちゃんは、

「どういたしまして」

と、すごくいい笑顔で返してくれた。
このやりとりだけで、唯ちゃんがどうして憂ちゃんを自慢するのかわかってしまった。
この子は、とてもいい子なのだ。

追試の前の話か

シエンタ

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金髪の友達ができたんだよー。そう聞いたとき、私は心配しかできなかった。
でもよく話を聞いてみると、金髪は地毛らしい。

お姉ちゃんと同じ制服を着た、自然な金髪の女の人。
ひと目で琴吹紬さんだとわかった。

私はこの人に興味を持った。

高校でのお姉ちゃん。部活をしているときのお姉ちゃん。私の知らないお姉ちゃん。
それを知っている人だから。

半分は優しさで。半分は興味で。私はこの人を家に誘った。
あっさり頷いた紬さんを、私は連れて帰った。

クーラーのかかった部屋。
私は冷たいお茶を飲ませてあげたあと、少し眠るように言った。
紬さんは言われるまま眠り出した。

眠っている紬さんの顔をまじまじと見つめてみた。
整った顔をしていると思う。
眉毛が細かったら、綺麗過ぎると言ってもいい。
もしかしたら、親しみやすさを出すためにわざと剃っていないのかもしれない。

まだはっきりとは分からないが、悪い人ではなさそうだ。
もし悪い人であれば、私はこの人を排除しなければならない。
お姉ちゃんに近寄らないように。

でも、それは大丈夫そうだ。
あの時、私がポカリを渡した時、
この人は私の目を見てありがとうと言ってくれた。

とてもやさしい笑顔で。

弱っている時に、あんなことはなかなかできない。
少なくとも、私にはできないと思う。

気持ち悪い文章だな
流石、けいおんSSの書き手は作家気取りばっかだ

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目を覚ますと、包丁の音が聞こえてきた。
憂ちゃんが料理をしていたのだ。
この音だけでも憂ちゃんの料理の腕がわかってしまう。

玉ねぎか何かを微塵切りにするときのトントントントンという小気味いい小刻み音。
人参か何かを乱切りしているであろうトン・トン・トンという規則正しい音。
キャベツか何かを真っ二つにするときのシュトンという勢いのある音。

私は立ち上がり憂ちゃんの元へ歩き出した。
彼女は私に気づいて声をかけてくれる。

「もう大丈夫ですか?」

「ええ、もうすっかりよくなったみたい」

「それはよかった。そうだ。夜ご飯食べて行ってください」

「それは悪いわ」

憂ちゃんの料理の腕は唯ちゃんから聞いている。
正直断るには惜しい提案だけど、最初は断っておくのがマナーというもの。

「遠慮しないでください。お姉ちゃんの話とか色々聞きたいですし」

「それなら」

私はこころを踊らせながら、家に夕食は要らないと電話をかけた。
それにしても唯ちゃんの話……。
あっ、でも、そろそろ唯ちゃんが帰ってくるんじゃないかしら。

「ただいまー」

ほら。

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お姉ちゃんと紬さんと私。三人で食卓を囲みました。
紬さんは配膳を手伝ってくれました。
御飯を食べるときもマナーはばっちり。
箸使いも丁寧で好感が持てました。

お姉ちゃんから紬さんはお嬢様かもしれないと聞いていましたが、本当かもしれません。
……3回もおかわりするのは予想外でしたが。

御飯を食べ終わった後、三人でおしゃべりしました。
内容はもちろんお姉ちゃんの高校生活について。

とは言っても、話の内容はとりとめのないものばかりでした。
クラスメイトとお話しているときのお姉ちゃんのお話。
授業中のお姉ちゃんのお話。
部活の時の、紅茶を飲んでいるお姉ちゃんのお話、演奏しているお姉ちゃんのお話。

どれもお姉ちゃんから聞いたお話や、和ちゃんから聞いた話と似たようなもの。
もしくは私が想像していた範囲のお話でした。

支援

だからと言って、収穫がなかったわけではありません。
紬さんという人がとてもお姉ちゃんのことを好きなことがわかりました。

お姉ちゃんの話をしているときの紬さんはとても楽しそうでした。
そしてそれを聞いているときのお姉ちゃんも嬉しそうでした。

和ちゃんがいたから、それほど心配していたわけではありません。
だけど、思っていた以上にお姉ちゃんの高校生活は恵まれているようです。

しばらくお話した後、お迎えの車が来て、その日はお別れしました。

その時私は、

「また遊びにきてください」

と言いました。
お姉ちゃんも、

「また来てね」

と言いました。

私たちの言葉は単なるお世辞ではなく、本心からのものでした。

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ここだけの話です。
実は私は憂ちゃんのことがあまり好きではありませんでした。
と言っても、これは憂ちゃんに会う前のお話。

唯ちゃんはよく憂ちゃんのお話をします。
そのときの唯ちゃんがあまりに幸せそうなので、少し嫉妬してしまっていたんです。
菫だって負けていない、という対抗心も幾分あったのかもしれません。

でも、そんなつまらない感情は憂ちゃんに出会って吹っ飛んでしまいました。
私と唯ちゃんが楽しそうに学校の話題で盛り上がってるのを、ニコニコ見ていた憂ちゃん。
彼女は嫉妬とかそういう感情とは無縁の存在なのかもしれません。

憂ちゃんと出会った数日後。とある休みの日に、私は平沢家を訪れました。
介抱してくれたお礼と夕食のお礼を言うために、ちょっとだけ高いお菓子を持って。

扉を開くと憂ちゃんが歓迎してくれました。
唯ちゃんはいなかったけど、意外な人がいました。
真鍋さんです。

真鍋さんはクラスメイトです。
生徒会役員で、唯ちゃんの幼馴染でもある。
唯ちゃんの幼馴染なのだから、憂ちゃんとも幼馴染なのでしょう。
真鍋さんは私を見て少し意外そうな顔をしたけど、すぐに歓迎してくれた。
それから苗字呼びでは堅苦しいからと言って、名前呼びを提案してくれた。
意外に親しみやすい人らしい。

持ってきたお菓子を憂ちゃんと和ちゃんと私の三人で食べた。
二人はとても喜んでくれた。
もちろん唯ちゃんの分は最初に憂ちゃんが除けていた。
流石である。

この日もやっぱり唯ちゃんの話になった。
和ちゃんから見た唯ちゃんというのは、私が感じている印象とは違っていて、とても興味深かった。
それから憂ちゃんの話になった。

憂ちゃんは中学3年生だから今年受験だ。
彼女も桜ヶ丘高校を狙っているらしい。
軽音部に入ったらどうかと軽く勧誘してみると、言葉を濁されてしまった。

ちょっとだけ意外だった。
軽音部には唯ちゃんがいるのに。

その時私は深くは考えず、意外と主体性のある子なのかもしれない、と思っただけでした。

   
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紬さんの誘いをはぐらかしたのには理由があります。
家の掃除、洗濯、料理、ゴミ出しは私の仕事。
それを大変だと思ったことはほとんどないし、むしろ楽しいぐらい。

軽音部に入ることは私も考えた。
和ちゃんに勧められたこともある。
だけど、そうすると間違いなく家のことを疎かにしてしまう。

それでも、軽音部に入りたいという気持ちが以前はそれなりにあった。
けれども、紬さんに会ってから、その気持ちは薄れてしまった。

お姉ちゃんの周りには紬さんがいる。
律さんと澪さんにも会ったけど、とても素敵な人だった。
私がいなくても、間違いなくお姉ちゃんは楽しい高校生活を送れる。

もちろん、お姉ちゃんと一緒に部活をやってみたいという気持ちもある。
だけど、私は家にいる間、お姉ちゃんを独り占めすることができる。
それだけで私には十分過ぎるのだから、軽音部に入る必要はない。

いいペースだ

……と言い切ることはできません。
実はまだ少しだけ迷っているんです。
そんな私に気づいたのか、紬さんが帰った後、和ちゃんはこう言いました。

「私も悪く無いと思うわ。憂が軽音部に入るの」

和ちゃんには色んな事を見透かされている気がします。

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お茶菓子を持っていった後も、しばしば平沢家におじゃまするようになりました。
唯ちゃんと一緒に部活帰りに寄ったり。
憂ちゃん目当てで休みの日に行ったり。

平沢家はとても暖かいところです。
お父様とお母様はほとんど帰ってこないようですが、憂ちゃんがいます。
憂ちゃんはそこに居るだけで場を和ませてくれる。

何も考えなくても、何もしなくても、憂ちゃんといるだけで暖かい気持ちになれる。

その空気が好きで和ちゃんもしばしば遊びに来ているのだと思います。
一ヶ月もしないうちに、私は和ちゃんと仲良くなることができました。

会話を重ねることで、よりはっきりと憂ちゃんのことを知ることもできました。

例えば唯ちゃんに対する考え方とか。

ほうほう

私の場合、自分で唯ちゃんを喜ばせたいと思ってる。
唯ちゃんの笑顔を私が見れないと面白く無いと思っている。

でも、憂ちゃんは違う。
憂ちゃんは、自分でなくてもいいと思っている。
唯ちゃんの笑顔を自分は見れなくてもいいと思ってる。
それでも、唯ちゃんが幸せなれば、それでいいと思っているのだ。

もちろん私だって見てないところで唯ちゃんが不幸になるのは嫌だ。
憂ちゃんだって唯ちゃんと一緒にいるのは大好きだ。
けれども、傾向があるのは間違いないと思う。

家事が忙しいからといって、軽音部を選ばないのはこれが理由なのだろう。

あるいは、他にも理由もあるのかもしれない。

親しい仲であっても、近すぎるとお互いの存在を疎ましく思うものだ。
人間関係には適度な距離が必要だ。
唯ちゃん達のようにとても仲の良い姉妹なら話は別だと思うかもしれないが、むしろ逆なのかもしれない。

唯ちゃんと憂ちゃんがとても仲良しなのは、二人が適度な距離感を保っているからこそ。
唯ちゃんは憂ちゃんに依存しているけど、決して頼りすぎたりはしない。
憂ちゃんの負担になりすぎると感じれば、和ちゃんに頼るし、私に頼ることもある。

憂ちゃんも唯ちゃんのことが大好きだけど、近寄り過ぎたりはしない。
軽音部に入りたがらないのも、適度な距離感を維持するためなのかもしれない。

きっと頭で考えてはいない。
唯ちゃんも憂ちゃんも本能的に適度な距離感を知っているのだ。
だから、この二人はずっとずっと仲良しでいられる……のかもしれないと思う。

続けてくれ給え

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出会ってから約半年。
紬さんは家にしばしば遊びに来るようになりました。
逆に私が紬さんの家に遊びに行ったこともあります。
あの時は楽しかったなぁ……。

ただおしゃべりしたり、ゲームしたり、たまにはお菓子を一緒に作ったり。

紬さんと一緒にいると暖かい感じがします。
お母さんと一緒にいるみたいな……と言っても私のお母さんとは全然違います。
なんて言えばいいのかな。
絵本の中のお母さんってこんな感じかな、って思わせるような暖かさが紬さんにはあります。

和ちゃんもお母さんみたいなところはあるけど、それとはちょっと違う、絵本風の優しいお母さん。
紬さんはそんな感じがします。

お姉ちゃんと二人でいても紬さんのことを話すことが多くなりました。
そしてある日、お姉ちゃんがこんなことを言いました。

「ムギちゃん憂のこと狙ってるのかな」

私は絶句しました。
紬さんは女の子同士が仲良くしているのを見るのが好き、というのは聞いていました。
だけども、それを同性愛とつなげたことなどなかったからです。

紬さんのそれは、同性愛というより子供達を見守る優しい目だと思っていました。
私が反論すると、お姉ちゃんは特に不満そうな顔もせず、話を流しました。

紬さんが私のことを好き……。
そんなことありえるのでしょうか。

だけど考えてみれば、思い当たる節はある。
軽音部に私を勧誘しているのは、私と一緒にいたいから……。
お姉ちゃんがいないときでも遊びに来ますし、私を家に誘いました……。

……よくよく考えてみると、狙われているのかもしれません。

紬さんのことは決して嫌いじゃありません。
お姉ちゃんほどじゃないけど、大好きです。
でも、付き合いたいかと言われたら……。

付き合ったらキスとかするんですよね。
紬さんの唇が思い浮かびました。
優しくてやわらかそう。

……告白されちゃったらどうしよう。

   
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2月22日は憂ちゃんの誕生日でした。
誕生会に誘われたのだけど、今回は断りました。
ずっと唯ちゃんと和ちゃんと三人で祝ってきたと聞いて、お邪魔するのは悪い気がしたから。

そのかわり誕生日プレゼントは前渡しさせてもらった。
プレゼントとして美味しい番茶のいれかたを教えてあげたのだ。

昔茶道の先生にコツを教えてもらった。
……アクリル容器を使った、茶道とは無縁のコツなのだけども。

お茶のいれからをプレゼントに選んだのには理由がある。
残るものより、唯ちゃんを喜ばせるために役立つことのほうが、憂ちゃんにはいいと思ったから。

予想通り憂ちゃんはとても喜んでくれた。

憂ちゃんにプレゼントを渡した後、
唯ちゃんと二人きりになるタイミングがあった。
その時、唯ちゃんにこう言われた。

「ムギちゃんもしかして……」

私が唯ちゃんのほうを向くと、こう続けた。

支援

「憂のこと狙ってる?」

私は慌てて否定しました。

そういう勘違いをされることは少なくない。
私は女の子同士が仲良くしているところを見るのが好きだ。
だからそっち方面の人だと思われることは結構ある。

私自身が女の子に目がないかと言えば、そんなことはない。
もちろん憂ちゃんなら、私には勿体無いぐらいだ。
付き合って欲しいと言われればあっさりいえすと答えるぐらいには好きです。

だからといって、憂ちゃんと付き合いたくてしょうがないとか、そういうことではない。
無論、唯ちゃんに対してもそうだし、菫に対してもそうである。
だから私が憂ちゃんを狙っているというのは的を射ていない。

……と言い切ることはできません。
実は別の意味で、私は憂ちゃんを狙っていたから。

憂ちゃんに軽音部に入って欲しい。
そう。私はまだ諦めきれていませんでした。

たとえ、家事が忙しくても。
たとえ、距離感が必要でも。
たとえ、お姉ちゃんと一緒にいなくてもいいと思っていたとしても。

私は、私の理由で憂ちゃんを軽音部に誘いたかった。

私は仲良くしている二人を見るのが好きなのだ。
憂ちゃんと一緒にいるのも好きなのだ。

憂ちゃんと一緒に演奏してみたいという想いもあります。
私、唯ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん、そして憂ちゃん。
五人でやるセッションはどんな音を奏でるのか。
想像しただけで胸が高鳴ります。

家事が忙しいなら、私が遊びにいって手伝えばいい。
距離感が必要なら、私が調整すればいい。
それに憂ちゃんは音楽の楽しみを知りません。
唯ちゃんと一緒に演奏することは、憂ちゃんにとって最高の体験になるはずです。

誕生日の数日後、メールで憂ちゃんを呼び出しました。
お願いがある、と書いた簡単なメール。
……断られたら、すっぱり諦めるつもりでした。

がんばれ

_憂-side

紬さんに呼び出された私は覚悟を決めました。
会ってすぐ紬さんは私のことを褒めました。
すごく気が利くとか、一緒に音楽をやったらどんな感じなのかな、とか言ってた気がします。
それから紬さんは、

「あのっ……」

と言い淀みました。
どんな言葉が続くかはわかっています。

……実は私の答えはもう決まっています。

私はこの人と付き合ってもいいと思っています。
とても優しくて、お姉ちゃんのことを大好きな人。
私のことをとても大好きな人。
絵本の中のお母さんみたいに暖かい人。

だから、私から言うことにしました。

「私も好きです」

豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしている紬さんの口を塞ぎました。
紬さんは真っ赤になってしまった。

   
_紬-side

キスされてから30秒ほど呆けた後、私はすべてを理解した。
驚いたけど、嬉しかった。
……とっても。

だから、本当のことは言わなかった。
軽音部に誘うことなど忘れてしまった。
満たされ過ぎてしまったから。

憂ちゃんは恥ずかしそうに微笑んでいた。

かわいいと思う。
抱きしめたいと思う。
キスしたいと思う。

だから今度は私からキスをした。
目を閉じて赤くなった憂ちゃんは、より一層かわいかった。

しばらくお話した後、二人で手を繋いで帰った。
平沢家に着くと唯ちゃんが笑顔で迎えてくれた。

ふむ

それから私と憂ちゃんは付き合いはじめたけど、特に何か変わったわけではありません。

強いて言うなら、平沢家に遊びに行く頻度が増えたぐらい。
唯ちゃんだけではなく和ちゃんも祝福してくれたのが嬉しかった。

もちろん唯ちゃんと憂ちゃんは仲良しのままだ。
ごく稀に三人でお菓子作りをするようになった。
今の夢は和ちゃんも誘って四人でわいわいお菓子作りをすることです。

憂ちゃんを部活に誘うのはやめておきました。
これ以上幸せになるのはちょっと怖かったから。

もちろん一緒に演奏してみたいという想いはあったけど、それ以上に幸せだったから。
春から同じ学校に憂ちゃんが来てくれる。そだけで、十分すぎて。

――

――

――

――

――

――

_部室-side

新学期。
ドアを叩く音がする。
数秒後、二人の少女が入ってきた。

一人は特徴的なツインテールを携えている。
不安そうにキョロキョロとあたりをみまわしている。

もう一人は部員の一人にそっくりだ。
二つの見知った顔を見つけ、にっこりと笑った。





例えばこんな物語――





おしまいっ!

憂ちゃん誕生日おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

終わったか乙
憂は入部してもよかったよな

乙!
面白かった

あずにゃんペロペロ(^ω^)

おつ

きめえな死ねよ

乙!


こういうのもいいな

珍しいカプだな乙

ムギ憂もなかなかいいね

乙でした!
憂ちゃんムギちゃんカップルとは新鮮だね

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