非日常も悪くないと思える今日この頃 (29)


ある日、ある図書館。
僕は日課の読書をしていた。
この日課は僕が子供のころ、祖父の趣味である本集めで集めていた本をかってに読んで半殺しにされたことから始まった。

我が祖父は地元でも有名な舞踏家の頑固爺だった。
祖父は自分の者に許可なく触れる者は親族と言えど「即粉砕!」と言う何とも凶暴な人だった。
だが私はそんな祖父に毎週稽古をつけられていたおかげで一トントラックとの接触事故でも耐えられる強靭な肉体を
十歳のころには手に入れていたので本をかってに読んだときは右腕骨折程度て済んだ。

さて、話は変わるが本とは素晴らしい。
祖父が持っていた女性の裸体などの本等とは少し異なるがやはり本とはすばらしい物だ。
その一冊を見るだけで過去を知る事、現実路は違う世界を味わうことのできる、いわば魔法のアイテムだ。
だが最近有名な少し落としのいかれた小説家さんがライトノベルと言う小説とは違う小説にはまったと聞いた。
小説とは違う小説と最初に言われた僕は穴間の中が「?」で埋め尽くされていた。
だがそんな有名な小説家が読むんだ、外れはないだろうと思い僕も今その本を図書館にて読書している。
この図書館は何でもあるな…

さて、本題はここからだ。
このライトノベル、通称「ラノベ」と呼ばれる本…なかなかにいい者ではないか!
今までの小説とは違う世界観、そしてこの作者独自のこの世界観を表す挿絵、実にすばらしい。
内容はどんどん引き込まれていくように謎が深まり解決と同時にまた深まる、これは今までの小説に居もあったが
文字だけで商い用適度にいい感じの挿絵があり楽しめる…、おっと思わず顔がにやけてしまう。

実にいい!

そんなこんなで最近私は一日一冊ラノベを読むようにしていてふと思ったことがある。



━━この世界に飛び込みたい!━━

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まあそんなことを望んでも無理なわけで。
現実と創作は別次元なのだから。

と、普通ならばこう思うだろ?
でも僕は違う。
我が父は世界的に有名なメカニック、時たまおかしな者を作るが世界から期待される程の腕は持っている。
そんな父に頼んでみた。

父さん、二次元にいける装置とかつくれな~い?

まぁ当然そんな物作れるわけもなく父は

無理に決まってんだろ~ドラえもんでもそれは無理だぞ~

と言ってすぐにプリキュアのコスプレ衣装つくりに戻ってしまった。
すぐあきらめるのが人の悪い癖、とは言え度無理な物は無理とわからないほど僕も子供ではない。
ここはあきらめた。あきらめようとした。
が、父はこう続けたのだ。

世界にはいけないけど世界は帰れるよ、ドラちゃんのアニメにもあるだろ公衆電話のアレ。

…あれ……だと!?

そう、アレ、皆さんご存知レトロちっくの公衆電話の形をしてもしも〇〇な世界だったら~的なことを述べると
チーンとなり世界が一瞬にして変わってしまう…あれだ。
その道具が原因で世界が魔法世界になった映画もありましたね、はい、皆さんご存知もしも『ピーーー』です!


…まさか父が本当に作ってしまうとは、これだけでもう一生遊んで暮らせるほどの大金が手に入る気がするんだが。

まぁ、そんなの作るなら無重力装置作る方が楽だけどね~アッハッハッハ

いや父よ、貴方何者?いったいどこの異世界から迷い込んだ天才メカニック?

だが父は結局作ってしまった。
父が僕に見せたそれは黒い縦長方形の物体だった。

これが私が開発した世界変換装置だ。
世界変換装置、聞いてみるとそれはこの今いる世界とどこかにあるであろうラノベのような世界を
コピーしてこの世界に被せてしまおう、と言う物らしい。
ただし一度使うと戻すのには十年かかるらしい。

さぁ息子よ、いや、我が身体についている息子、貴様ではない、わが子種から生まれし息子よ、
このマッスィーンを使う気は…あるかね?

この男、半裸、服だけ来て下を履かない格好で白衣を着ていた。
いままではこちらに背を向けていて気が付かなかったがこれが家の中じゃなかったらアウトだ。
まぁそこまで馬鹿ではないだろう、天才なわけだし。

さて、いきなり使うかどうか聞かれても答えに困る、確かに我が敬愛するラノベの世界に入ってみたい。
だがどうだ、本当にいいのか、これはこれで楽しむものだと自負していたが、手を伸ばせば届く距離に世界がある。
行きたいと望み、言葉にすることは簡単、だがそれを実行できるときにするかしないか、それはまた別。
行動力があろうと心に戸惑いがあればどこかで間違い失敗する。
今まさに僕はそのはざまに立ち、究極の選択を迫られているわけだ。
世界を私利私欲で変えるか否かを今、ここで決断をしなければいけないわけだ。

ま、普通の人ならやっぱりいいや、などと言って他人の人生を勝手に変えるのは~とか偽善者ぶるだろう。
だが僕は違う。
私はこの世界に飽きた。
理想を文字や絵でしか表せぬ世界等、僕はいやだ。
だから僕はこの装置を

使う!

そう、世界をかえて、僕は新世界の髪になる!
とまではいかないが違う世界で新しい人生を始める!


◆ ◇ ◆

こうしてわずが16歳にして少年は世界に飽きて世界を捨てた。


世界の変え方は簡単だった。
なにやら装置とつながっているヘルメットをかぶり理想の世界を頭の中で細かに創造する。
そんな想像にふけっているとみるみる意識が遠のいていく。
ふわっと体が浮いた感覚、ズシンと体の重さが一気に増した感覚の二つが同時にきて
僕の、私の、俺の身体はおかしくなっていく。
そして現在の自分の身体の状態を理解しようとした頭が処理しきれなくなり、考えるのを止めた。

俺の身体はまるで宇宙空間を漂うがごとくどこかを飛んでいる感覚だった。
もちろん飛んだことなどない。
人は飛べないのだから。
でも確かに空を飲んでいる感覚だ。
そう、この肌に伝わる冷たさと風がこすれる感触。
耳に伝わる風の轟音。
視界一面白い雲に青い海。
…そう、おれは空を飛んでいる。

思わず叫んでしまう。

「アイキャンフラァァアアアアアアアアアイ!」

そうしてやっと気づく。
あぁ、俺、飛んでるな、と。


俺が想像した世界は魔法と科学が交差して魔物とか勇者とか魔王とか神とか悪魔とか出てくる世界なのに、
それを見れず俺は死ぬのか?
いや、嫌だよ!自分が想像した世界人来たのにすぐ死ぬとか洒落にならねぇよ!

先程から耳に鳴り響くのは風の音だけではなく黒板を爪でひっかいた時のような音と地響きのような音が混ざった音。
周りをよくみると空を飛んでいるのは飛行機ではなく翼が生え、火や氷の息吹を吐く数頭の龍だった。

この時やっと実感した。
世界が変わったと。
今まではスカイダイビングに失敗して急降下してると半場思っていた。
でもあの姿は俺が想像した通り、とまではいかないが間違いなく神話の本で読んだドラゴンそのもの。
黒光りする巨体、その巨体にも負けず劣らずの巨大で太い尻尾、背中には体の倍はありそうな大きな翼。
そして鋭く、トカゲや猫のような目。
そして何より空を飛ぶあの優雅さと逞しさを兼ね備えた姿。
全てが理想以上の形。

だが今はそれどころじゃない。
いかにしてこの後生き延びるか、だ。


…さて、どうする?
俺に羽はない。空飛ぶマントも箒も黄色いコプターもない。
ではどうする?超能力?魔法?ジェットエンジン搭載リュック?
…まず最後のは無いな。
まず俺の脳内では超能力なんて考えはなかった。
よって導き出される答えは、魔法。
確かに俺の想像した世界は魔法が主だ、ならばここはその魔法に頼るしかないのではないか。
あぁ、きっとそれしかない。

だが使い方なんて知らない俺は結局何も出来ぬまま落ちるしかない…か。

あの親父、恨んでやる!と、逆恨みもいい所な考えをしていると、ふと頭の中に声が響き渡った。
まるで静寂の洞窟の中で雫が一滴一滴滴り落ちるように一言一言が響いた。

人とは知らずの内に自分の力を過信し失敗する者。
その逆の力を不信に思い何もできない者。
そして成功するのは自らの力を知り、使い方を知る者。
魔法とは、己が力を知り、それをいかに制御し使えるか。

「己を知らずは死を意味するぞ、少年」

突如目の前に現れたローブに深くフードをかぶった少し高い声の人物。
その姿に俺は目を引かれた。
その人物は俺にてを差し出してきて「掴まれ」と述べ無理やりに俺の腕を掴むとゆっくりと空中で
動きを止めた。

その出来事に俺は動けないままその人物にお姫様抱っこと言う形で抱きかかえられていた。
まさかこの年で、しかも男で経験するとは思っていなかった。

「少年、すこし軽すぎないか…ちゃんと食べているのか?」

そこですか、つっこむのそこですか?
普通なぜこんな空に?とか……いや、相手も飛んでるんだ、そんなことは普通言わないか。
だんだん普通が分からなくなってきた。
とりあえず俺はこの状態を抜け出したい。
お姫様抱っこというのは誰が見ているわけでもないが恥ずかしいものなんだな。
そういうことで下してほしい、と言わずも相手は表情を読み取ってくれたのか、
かるく笑いながらお姫様抱っこをやめて俺を地面の無い地面へ下してくれた。
今も俺達は空の上にいるわけで、もちろん俺は空なんか飛べないし、魔法なんか使い方知らないわけで
この人が立っているのは空中なわけで、そこに下されたら当然。

マントの人物が手を放すと同時に俺の身体はものすごいスピードで再び下降を始めた。

その姿をみて一瞬遅れて再び俺の手を掴み今度は後ろから抱かれる形で、俺は両手を上にあげたまま
陸まで運ばれていった。

後から聞いた話だかその時の俺は目が死んでいたらしい。


それからの記憶はなく、俺は目を覚ますとベットの上で寝ていた。
起きて辺りを見回すが誰もいない。
だが部屋の外から何やら物音が聞こえてくるのでベットから出て部屋の外へと出て行った。

ドアを開けると腰のあたりまで長さがある薄オレンジ色の髪をした女性が首を小刻みに横に振りながら鼻歌を歌って
フライパンを振っていた。

「やぁ、起きたかい、少年」

音を立てた覚えはない。
極力息を殺し、音を立てず気配を消していた。
彼女の前に鏡や姿が見える者は一切ない。
なのに何故、俺の事が分かったのか。

「ん、なんでわかったか気になっちゃう?」

ここまで彼女は一度もこちらを振り向かずにずっと料理をしている。
なのに何故?顔に出ていたとしてもこちらを振り向かない限りわかるはずないのに。

「魔力だよ~、どうやら少年は魔力の使い方を知らない、または忘れているようだね」

ここでようやく彼女はこちらを振り向いた。
ついでにお玉をこちらに突き出してポーズをとった。
お玉からはほんのりあったかい液体が頬に架かったが気にしない。
「少年」その呼びかけに覚えはある。
この声にも。
あの時の空で助けてくれた人だ。
俺は一礼して先程の例を述べた。

「さ、先程はどうも…です」

「別にいいよ~、お腹減ってない?今ね~さっき森で取ってきた鹿を焼いてるんだけど」

「鹿?!」

「あ、嫌いだった?」

「い、いえ、食べたことないので…少し驚いて」

「あぁ、都会の人?そりゃたべないか~あははは」

「ま、ためしに食べてみなよ、おいしいからさ」

彼女はそういって指をパチンッ、と鳴らす。
瞬間、何もなかったテーブルの上にはテーブルかけがあらわれ、もう一度指を鳴らすとお皿が数枚とお皿の中に
湯気が上がっている食べ物が現れた。

「さぁさぁ、座って座って~少し作りすぎたけど、男の子だし大丈夫だよね?大丈夫か!」

自問自答、さすがに多いかな、と思っていたがこれは何が何でも間食せねばならない。
助けてもらったのに残すなんて俺の中の何かが許さないからね!
両手をあわせて…

「いただきます!」

「召し上がれ!」


最初は天国だった。
こんなうまい飯は久々だった、そんな気がしていたから。
でも二皿平らげた辺りからだんだんきつくなるお腹。
こちらを見て微笑み「おいしい?」と何度も聞いてくる彼女の姿を見ていると笑顔で「おいしい」と
言い返すことしかできなかった。

「ご、ごちそうさまでした…ゲプッ」

「お粗末さま…うん!いい食べっぷり!」

「…ふぅ、ちょっと外散歩行ってきても?」

さすがにこのまま動かないでいるのは精神的にもお腹的にも優しくなかった。
俺は立ち上がり外へとつながっているであろう扉を開けた。

「いいけど気負つけてね~…森の夜はくらいからね~」

ドアを開けるとそこは一面真っ暗、この先に地面がちゃんとあるのかもわからない見渡す限り真っ黒の世界。
俺はそっと扉を閉めた。

「ん?行かないの?」

皿を片づけていた手を止めてこちらを向いた。

「いえ、何も…はい、何もなかったです」

「ん?そう?…あ、そうそう、明日君の家まで送るよ~」

家?…そういえば俺の家ってこの世界にある…わけないよな、どう説明しようじか?


◆ ◇ ◆

翌朝、俺は結局寝れなかった。
なぜかこの人は寝る時も俺を放さなかった。
単に布団がなかっただけなのかもしれないが、彼女は俺の事を無理やりベットに引きづり込み
抱き枕の様に両腕で抱きしめ片足を絡ませてきて眠りについた。
もちろん彼女も女性なので出る所は出てました。
それが俺のいたるところに当たってすんごくやわらかかったわけで寝るよりそちらの感触に
集中してしまい寝ることができませんでした。
男とは恐ろしい、こんな状況でも楽しんでしまった。だが生殺しだ。
そうして日が昇り始めたころ、俺はようやく眠りについた。
が、数分でたたき起こされた。
朝のジョギングに付き合わされることになったのだ。

「ごめんね~私の日課に付き合ってもらって」

「いえ、俺も走りたかったですから」

どちらかと言うと無理やり連れられてきたのだが、もう後の祭りだ。

面白いんだから続けろよ

すまん、バイト忙しくて書けなかった

補足・不定期投稿です


朝のジョギングは初心者用の登山道の様な所を一キロほど行って帰ってくる、
系二キロほどの距離で終わった。
山道なだけあり、少し開けた所から見える風景は壮大だった。
一面に広がる空と海の青。さんさんと光で俺らを照らす太陽。空を飛ぶ竜。
海の中からその巨体を露にする首長竜とクジラの群れ。
全てが今までにない、想像してきた世界だった。
 家に帰ると汗をぬぐうタオルを渡され、彼女は朝食の準備を始めた。
数十分して、テーブルに出てきたのはバターとベーコンエッグの乗ったパンと色彩豊かなサラダ、いい匂いのするスープ。
この三種類だった。
昨晩に比べたら拍子抜けするほどにシンプルだった。

「足りなかったらまだ作るけど、どうする?」

「…いえ、十分ですよ」

表情に出てしまっていたのかそう問われ、一瞬の間が生まれてしまった。
だが別に足りないと思ったのではない。
てっきり朝もいっぱい出ると思い、寝不足の胃と共に覚悟を決めていたので少し驚いただけだ。


朝食を食べ終えると彼女は汗を流してくると言ってシャワーを浴びに行った。
食べた皿は置いといてもいいと言われたがさすがに頼りっぱなしは性に合わないので皿を洗うことにした。
全てを洗い終えた頃に彼女がシャワールームから出てきて少し驚いた顔を浮かべて、
すぐに笑顔で「ありがとう」と言った。

それからは特にすることもなく俺は一人再び山道へと足を運んだ。
先程きた場所より奥の方へ、今度はゆっくりと歩きながら。

歩けど道は草木のみ。
整地された道とは言えず、無数の石、砂利、岩がある山岳地帯を上って行く。

山頂に着くまでには三十分程かかったか…?
だがそれでも来たかいがあったかもしれない。

先程開けた所から見た景色とは違い、ここから見える景色は灰色のビルが建ち上る景色。
反対側には海と空の世界。
どうやらここは二つの境にある山の様だ。
さらに街の方の上部分を見ると小さな何かが浮いているのが見えた。

「…なんじゃありゃ」

「あれは浮遊都市さね」

ふとつぶやいた疑問に思いもしていなかった回答が返ってきた。



「だ、だれ…ですか?そもそもいつからそこに」

「一つ、名乗る時は自分から、二つ、少なくとも君が来る前からはここに居た」

指を一本、二本と立てながらそう答えた。

確かに祖父にも言われた。「名乗る時は己から名乗り相手の名乗りを聞いた瞬間にやれ」と。
今思えば物騒な話だが祖父は昔海外のスラム街で師に教わったと言っていた。
海外のスラムと日本を比べるなと常々思っていた。口に出せばひどい目に合うから一度も出したことはなかったが。

「あ、すいません…節美宗助です」

「フシミ…珍しい名前だね」

「そうでしょうか?」

日本では至って普通だと思うが…そういえばここは異世界だったな。
人と話しているとすぐに忘れてしまう。
相手も普通の白シャツにジーパンをはいているから異世界って感覚があまり感じられないのかもしれない。
だが後ろを振り向くとすぐに異世界だと認識できる。

「あの浮遊都市は魔王がすんでるんだよ」

おぉ、それっぽくなってきた!

「魔王ですか」

「常識だぜ、少年」

この世界の人は俺くらいの年の知らない男の子をみな少年と呼ぶ習慣でもあるのだろうか…?

そんな事を思っていると岩の上に座っていた男性は立ち上がってかるく手を振りながら
「俺はユーズ、ユーズ・ベルコリだ。また会おう、フシミ君」と言って横に置いてあった自転車に
またがりでこぼこの斜面を颯爽と駆け降りて行った。


それからは何もないまま少し景色を楽しんだ後、来た道をゆっくりと下り帰路についた。
帰り道も特に何もなく、空に竜が飛んでいる景色を見ていると前から彼女が歩いてきて、俺を視界に納めると
手を振って小走りで駆け上がってきた。

「どうしました?」

普通の清涼でも十分聞こえる距離まで来たところでこちらから話掛ける。
その前から「おーい」とは言っていたがそれ以上は何も言ってこなかった。

「いや、迷ってないかなって思ってね」

「大丈夫ですよ」

「そう、なら少し街に行くんだが、君の家に送ってくよ」

そういえばまだ言ってなかったな、と思って宗助は話を切り出した。否、切り出そうとした。
「それが━━」そう言いかけた所で、全身が震えるほどの地響き、地鳴りが鳴り響いた。

「地震…?!」

おもわず体制を崩し横にあった気に手を掛ける。

「あー、たぶん爆発だね」

「爆発…ですか?」

「そ、まぁ街に行けばわかるよ」

じゃあ行こうか!と何も気に掛けない様子で道を降りていく。
気にしたら負けなのだろうか?と思いながらその後ろを転ばぬように慎重に続く。


家に付き、手渡されたロングコートを着て再び家をでて、今度はのぼりではなく平坦に近い坂を降りていく。
家から街まではそこまで距離はなく、下りだったこともあり、息が切れることなくたどり着けた。
といっても昔から鍛えていたのでこれくらいの距離じゃ汗一つかかない。俺は。
ふと彼女をみると額には太陽に照らされて光る雫が煌めき頬を伝い顎、そして動くたびにチラチラと
除く彼女の胸元へと滴り落ちる。
はっ!と我に返り視線を上げると彼女がこちらを少し口元を吊り上げ目を細めて見ていた。
なんとか誤魔化さなきゃと思うがうまく言葉が出ない。
ここで変な言動を取れば誤解は確信に変わるだろう。
いや、革新と言っても誤解は誤解なのだから誤解であって…あぁ、もう何をすればいいかわからない!
そうだ、笑っておこう。
なぜかそう思いニコッと笑ってみせると彼女は少し驚いた顔を見せた後頬を赤らめて
勢いよく首を振り視線を逸らした。

「な、なんですか…」

逆効果だったか?

「い、いや……プクク」

笑ってる?…なんで?
顔はそこそこ整っているはずだが?いや、ナルシストではないぞ。

「そこまで必死に隠そうとしなくても…ねぇ?」

笑いをこらえようとしているのだろうが声が震えてまったく隠しきれていない。
それより「隠そうとしなくても」とは…まさか心の中が除かれていたのか?
なんて思っていると彼女は顔をこちらに向いて言った。

「男の子だねェ」

そう言われて無性に恥ずかしくなった。
先程までは誤解と思っていたがそういわれてやはり先程の胸を思い出してしまった。
この言葉に俺は反論できず恥ずかしさ交じりの声で「まいりました」と視線を横に反らしながら告げた。


それから気まずさで口数が少なくなり二人はしばらくして街の中心部についてカフェで一服することにした。

「じゃあチーズケーキとガトーショコラ、と飲み物なににする?」

メニュー表をこちらに向けて飲み物の欄を指さしてきいてくる。

「じゃあ……ストレートティーに…砂糖一粒で」

「かしこまりましたごゆっくりどうぞ…失礼します」

礼儀正しい男女共通のタキシード姿の店員の一礼につられて首だけでお辞儀してしまった。

「ここいいでしょ~食べ物もおいしいんだよ」

「すごいですね…街の中なのに空気がきれいと言うか…ここが特別なのかもしれませんが」

店の周りには数本木が植えられており緑のバックに木でできた照らすに白の大理石でできたテーブルに
椅子は白いキューブ状に五センチ程の溝を作り腰かけ、とは言えないまでも立派な椅子になっている。
見た目は森の奥にあるログハウスのような感じだ。店の壁は丸太で店内の天井には木でできたファンが
ゆっくりと回っていてピアノとヴァイオリンの音楽がゆったりとした雰囲気を醸し出している。
店内には照らすとは違いすべてが木で出来たテーブルと複雑な模様が模られた背もたれのついた椅子があり
カウンターは茶色の大理石の横長のテーブルに横一列に椅子が四個並べられている。カウンターはどこか子供は
近寄りがたい、大人の場所と言わんばかりの雰囲気を醸し出していて立っている店員さんはシェイカーを振っている。

そうして店内を見渡しているとすぐに先程の店員が片手のトレイに飲み物二つとケーキを持ってきて
静かにテーブルの上に置いた。

「失礼します。お待たせいたしました、こちらチーズケーキとガトーショコラ、
ストレートティーお二つ、こちら砂糖一つのストレートティーになります、他に何かご注文在りましたでしょうか?」

「いえ」

「では失礼します、ごゆっくりどうぞ」

左脇にトレイを抱え右でを胸に当て一礼して店内に戻って行く。
見とれてしまうほどに一つ一つが綺麗な姿に目を奪われていると目の前から声を掛けられた。

「見とれるのは分かるけどよそ見してるとケーキ食べちゃうよ?」

「自分のあるでしょう」

話は掛けられても別にそちらを振り向くことなく答えた。

「もう食べた」

「早くないですか?!」

予想もしない言葉で前をむくと皿をまっさらにしてこちらに見せている彼女の姿があった。
いまの店員が戻って見とれていた時間は五秒ほどのはずだ。なのに彼女はこうもあっさりと食べてしまうのか?
そもそも人間そんな早く食べれたっけ?先程のチーズケーキは今俺の目の前にあるのと同じ
十五センチ程の大きさだったはずだが?

「わたし早食いなの~」

いくらなんでも早すぎる。
そして声は笑っていても目が笑っていない。
獲物をロックオンした猛獣の目になっている。気を抜くと同時に駆られてしまいそうな錯覚を覚える。
そして彼女が見つめるのは俺の目の前のケーキ。
俺がフォークでケーキを刺すと今にも泣きそうな表情になった。
口に運んだら目から涙が零れたのを見て俺は耐えられなくなって皿を差し出した。出すしかなかった。
昔の誰かは言った。「涙は女の武器」まさにその通りだと思います。
多分この武器に勝る物ってないんじゃないんですかね?

差し出した皿は一秒足らずで新品の皿の様に綺麗になった。
早食いって胃の中に瞬間移動してるんじゃないのか?
と初めて思った。

おいおい浮翌遊都市ってSAGAじゃないだろうな


そう、どうでもいいことを考えているうちに無意識に飲み干していたストレートティー(砂糖入り)のカップを
テーブルに置くと通りかかった店員が「おかわりはいかがですか?」と腰を少し曲げて聞いてきた。
つづけて「無料ですよ?」と言われ俺は即決でお代わりをお願いした。
人とは無料って言葉に弱いな。
お代わりのカップは直ぐに来た。
そのお変わりも飲み終えると目の前の彼女は店員を呼びテーブルで会計を済まし、俺達は店を後にした。

聞くとこの都心は昼間、働く人、遊ぶ人が来るだけで夜にはほぼ無人になると言う。
そう、この街には家がない。人が住むと言う目的で作られた家がない。
だから今僕たちが立っている普通の二階建ての赤い三角屋根の家は人が住むのではなく、立派な会社なのだ。
ノックもなくドアを開けると普通の人が三人横に立つと一杯になるほどの幅の玄関に右奥に階段、左側には部屋へつながる
ドアが奥と手前に二つ。階段の手前にドアが一つあると言う普通の一軒家の見た目だが、会社だ。
そう思うのにも無理を感じつつも案内されるがままに右の奥にあるドアを開けた。
ドアの向こう側も、他と変わりない普通のリビングがあった。
部屋の真ん中にテーブル、その前に三人掛けのソファ。ソファの正面、テーブルを挟んでテレビがある。
横にある庭に続く窓からは光が煌々と差し込みテーブルの上に置いてある氷が数個入ったお茶のグラスが綺麗に光っている。

「さぼってるかーい?」

宗助を押して通る、と言うことはせず、後ろから宗助の顔の横から顔を出してソファに座っている人物へと声を掛ける。

「み~ての通り」

声に反応してソファに背中を押しつけて視界が反対になる体制でこちらを見て苦しそうな声でそう答えてすぐに
視線をテレビへと戻す。
テレビでは黄緑の怪獣とピンクの花の着ぐるみを着た2人が大勢の子供と歌って踊っている。
見るからに子供向けの番組を見た目三十路後半のごつい体の男が食い入るように見ている。

「今いい所なんだよ」

邪魔しないでくれ、と言わんばかりに不機嫌そうな感じ丸出しの声でテレビを見つめている。
呆れた顔でため息をつくと彼女は俺の背中を軽く左手で押して右手で室内へ入るように促した。
その動作に答え部屋に入り男性がいるのと反対側には高さ一メートル、大人の腰より少し高い位のテーブルに椅子が置いてある。
そちらに座るように言われて座っているとドアが開いて新しい人物が入ってきた。


「おはよーございまぁ~…ふわぁ」

見た目はジャージ一色の髪の長いすらっとした女性。
ジャージの上は全壊で中はブラが丸見え。丸見えと言うより何も着ていない。
健全な青少年には目に毒であり癒しだった。

「おや、燐火、新人さん?」

燐火、と言うのはたぶん彼女の名前だろう。

「ん、まぁ…」

「なにその曖昧な返事…まぁいいけど」

そういって俺の座る正面の席に座りテーブルの上に両腕を置き、その上に胸を置くと言う何とも言えぬ
体制になりこちらを観察するように見てくる。
不思議と嫌にならない。

「ふむ、私は西条春。よろしく」

胸とテーブルの間から手を出し握手を求めてくる。
特に何も思わず握ったその手はほんのり暖かく湿っていた。

「おっと、ごめんね、胸の所為ですぐ蒸れるんだ」

何食わぬ顔で笑う彼女を尻目にこちらは赤面の一歩手前で愛想笑いを浮かべていた。


顔を真っ赤なリンゴの様に赤く染めて差し伸べられた手を握っていると横から、そういえば、と言って彼女が会話に入ってきた━そもそも会話という会話をしてはいなかったが━ので顔を向ける。

「まだ私達自己紹介して無かったね」

「そ、そうですね…」

「え、なにそれ?じゃあなんでこの子ここに連れてきたの?!」

春がもっともなことを述べる横で苦笑気味に自分の名前を述べる。

「燐火・D・ミレイアよ、燐火って呼んでね」

「節美宗助です」

よろしく、と言って差し伸べられた手を取って、こちらこそと言って挨拶は終わった。
実に簡潔だが、これ以上に必要なことはないと思い燐火は冷蔵庫からお茶と棚からコップを三つ出してテーブルの上に置き
コップの中にお茶を注ぐ。

「あ、それとあそこの精神年齢子供のおっさんは『ベル・アント』。見た通りの変人だ」

お茶を注ぎ終え宗助の前にコップを置き横のテレビに熱中している男の名前を教えて宗助の横に腰かけた。
それからは特に話すこともなく三人はテレビを横目にお茶を飲んでいた。


テレビでやっていた番組が終わると燐火が手をパンパンパン、と三回叩き注目を集める。
と言っても注目を集めると言う目的より驚かせるという成果になってしまった。
突然の破裂音に驚き春が「ひぇっ?!」とどこから出たのかわからない声をだし、手を叩いた本人
の燐火が目をまるくして春を見つめ、申し訳なさそうに薄ら笑みを浮かべ話し始めた。

「えーと、まず、新人になる予定の宗助君だ、二人とも仲良くな」

「あーい」

大きく手を挙げてにこにこと満面の笑みを浮かべている。

「…ベルです、よろしく」

「よろ…しくです」

一礼するとベルは部屋から出て行ってしまった。

「ごめんね、あいつ仕事以外は人と接するの苦手なんだよ」

「別にいいですよ…ていうか新人予定ってなんですか?そもそもここはなんですか?」

ずっと思っていたことを言葉に出すと前からガタッ、と音を立てて椅子から立ち上がりズイッと
テーブルに身を乗り出し燐火に顔を近づけて話し出す。

「何も言ってないの?!ここの事とか…さっきの自己紹介もそうだけどあんたいろいろ説明不足すぎよ!
……まさかこの子洗脳して拉致なんかしてないでしょうね?」

「私もそこまで悪魔じゃないよ!?宗助君の家さがしのために連れてきたんだよ!」

「ならなんで新人予定とか言ったのよ!」

「人員不足なのよ!」

「その前にうちはお金不足で給料なんかでないでしょうが!」

「………言うな!」

二人がもめている横でたまに飛んでくる唾を顔で受け止めながら何のことかわからず、
テーブルの上に置かれているお茶の入ったピッチャーを手に取り空っぽになったコップにお茶を淹れ
音を立てずにゆっくり飲む。

「……ほっ」


二人の口論が続いてる中、家の中にチャイムが鳴り響く。
それに気づいているのかいないのかは定かではないが行く気配がないしさっきからずっと五秒ごと位に
なっているチャイムに、ベルも出る気配がないと悟って宗助は出ることにした。

来た道を戻るだけ。

玄関の扉はステンドガラスが模られた円い枠がある。
そこから入ってくる光はとても綺麗で、そしてそこに映る黒い人影がどこか神々しく
ガラスの光を引き立てる。
ステンドガラスに映った影は髪の長い、おそらく女性の姿。
この家は特に靴を脱ぐと言うことは必要としないので、もちろんずっと靴を履いたままだった。
だから玄関の壁に手を掛けて前かがみになりながらドアを開ける必要などなく普通にドアを開けた。
ふわっ、といい匂いが鼻をくすぐった。
(いい匂い…甘い匂い)
目線を下に下げると肩にかかるほどの長さのブロンドヘアーに足首より数センチ上の丈がある白い
ワンピースに目深にかぶった黒いキャスケット帽子の少女が立ってこちらを防止の隙間からチラチラと
身体を震わせながら見ていた。
今日の外の気温は夏(?)の昼過ぎと言えど少し肌寒い。
なのにこの子はなぜこんな薄着をしているのだろうか?
そう思いながらも震えている少女を見て中に入れようと思い、おいで、と手招きをすると
「いいの?」と震えた声でそう聞いてきた。
この震えはどこか寒さより恐怖を感じているときの声に感じた。

「いいよ、寒いでしょ」

そういうと目深にかぶった帽子の隙間から少しだけ少女の笑顔が見えた気がした。

トコトコと歩く少女の前に立ち奥の扉を開けて中に居れる。
先程までの喧嘩のような声は聞こえず二人はこちらを観察するように見ていた。
見ていたのは主に少女の方。


「…お嬢ちゃん、その帽子取ってみてくれる?」

暫く無言のまま少女を見つめていた燐火が言うと少女は肩を一度上下にビクッ、と震わせて勢いよく頭を左右に振る。
その反応に口元を緩めて微笑み立ち上がりゆっくりと少女に近づく。
燐火が近づいて来るのに気付いて頭を振るのをやめて宗助の後ろに身を隠す。
宗助の後ろに入ると少女の身体はほとんど見えない。
だがそれも全て見ていた燐火にはお構いなしなこと。
宗助の肩を掴み無理やりに避けて━━宗助は別に避けることを拒んではいない━━少女の目線に合わせるため膝を曲げ
その場に立ち膝になり少し屈みになり帽子のツバを掴み俯き身体を震わせている少女の手を優しく握る。
手を握られた瞬間体が再び震えたが燐火が軽く頭をなでると震えは止まり、顔を上げて目を合わせた。

「お名前は?」

手を握られ(掴まれ)て逃げられない状況で少女は助けを求めるように宗助を見たがその思いは届かない。
暫くキョロキョロと視線を固定できずに見ていたがチラチラ、と燐火の目を見始め、問いに答えたのは
五分程が過ぎた頃だった。

「あ……アンジェリーナ…ロッテ」

「アンジェリーナ・ロッテ…アンジーね、よろしく」

「よ、……よろしく」

そういって放された手を少し物足りなさそうに見てすぐに宗助の後ろに身をひそめた。

「節美宗助…です、よろしくね」

「……」

無言で頷き服の裾をギュっと握って離そうとしない。
とりあえず立っているのは何だったのでソファに座るように言うと「いっしょに」と言って聞かなかったので
ソファに座ると横にチョコン、と、拾われてきた猫の様に座った。


ソファの横に椅子を持ってきて座る燐火。

「ようこそ、何でも屋『ナンバーズ』へ」

そういって横から牛乳の入ったコップをテーブルの上に置いてソファの端っこの腕掛けに腰を掛けて
アンジーの頭をなでる。
少し肩をすくめて置かれた牛乳を口へ運ぶ。

「さて、今日はどのような用件で?アンジー」

そう聞かれた瞬間コップを勢いよくテーブルにけっして零さぬように置き
勢いよく立ち上がって声を上げた。

「ま、まま!」

「ママ?」

「ママを助けてください!」

二人は目を合わせて一つ頭を縦に振った。

「詳しく話してもらえるかな?」

燐火がそう尋ねるとアンジーはただ「ママを助けて」と叫ぶだけだった。
何度聞いても同じなのでひとまず落ち着かせるために牛乳をもう一杯渡した。
それで落ち着いたかどうかは分からないがアンジーは話し始めた。


話を聞くとアンジーの家はその土地では有名なお金持ちの家庭、と言うことくらいしかわからなかった。
その母親がなぜか捕まり今はほかの住民により監禁されていて、そこからアンジーだけを母親が何とか逃がしたと言う事らしい。

「アンジー、君はお母さんが捕まった理由を知っているよね」

そう問われて三度、肩が上下した。
だがそんなことは知らない、と言わんばかりに言葉をつづける。

「君たちは異端の種、耳長族、またの名をエルフ…だよね」

今まで震えていた体が一瞬にして止まり、カチカチに固まっている。

「…大丈夫、私たちは何もしないから、だからその帽子を取って見せてくれないかな?」

先程までの頑なな態度が嘘だったかのように、あっさりと帽子に手を掛けてためらいなくその帽子を取って見せた。
帽子を取るとピョコッ、とその小さい顔とは不釣り合いなほどに(いや、これはこれで合っているのかもしれない)横に
細長く伸びて先が細くとがったように見える耳が姿を見せ、帽子の中に隠れていた髪がバサッ、音を立てて流れてくる。
髪の一本一本が光っているかのごとく煌めき、小柄な少女の身長以上の長さはあるであろう。

「…長いね」

今のは髪の事であって耳の事ではない。
だがそんな事はアンジーにとってわからないからか、耳をその小さな手で頑張って隠そうとしている。


「燐火、確かエルフのいる所って言ったら」

「確か海を越えた先、西の大陸の山の中だった気がする」

「でもこんな子があんな海を越えられるはず…」

「エルフだから何とも言えないが…お母さんに逃がしてもらったと言ってたろ…たぶんこの子の母親
転送魔法の使い手だろう、この国では人種差別はない、と〝表”では言われてるからな。わずかな望みで
この国に飛ばしたんだろう…それが吉と出たかどうかは知らないが」

春と燐火が話しているとアンジーが袖を引っ張ってきた。
首を曲げ視線を下に向けると笑顔でアンジーがこういった。

「お母さんがここにこれば絶対にまた一緒に暮らせるって言ってたんだ!」

その言葉を聞いて話していた二人が血相を変えてこちらに顔を向けて食い入ってきた。
二人の形相に驚いたのか再び帽子を、今度は耳を隠すことはなく目深にかぶってしまった。

「…お金もちのエルフ、西の国、……か」

ボソッ、とつぶやく燐火。
続けて同じことを呟く春。
そして二人は声をそろえてこう続ける。

「クリスかぁ…」

がっかり、または呆れた声で肩を下した。


「宗助君、悪いが家探しは一人でやってくれ、私たちは少しこの国はなれるから」

いきなりの事についていけない、と心の中で思う。
だが探すも何もこの世界に家がない場合はどうすればいいのだろうか…どう説明したものか。
そう悩んでいると腕を勢いよく引かれ、思い切り引き締められる。
横を見るとアンジーが腕を掴んでいた。

「ど、どうしたの?」

春がそういって無理に放そうとする。
が、一向に離れる気配がない。

「お、お兄さん、一緒に行かないの?」

「え?…うん、行かないと思うよ?」

そういうとアンジーの目から光る何かが落ちた。
それは間違いなく涙だった。

「え?ちょ!…えぇ?!」

どうしたらいいかわからない、と慌てる宗助。
だがアンジーは横からの言葉ですぐに泣き止んだ。

「宗助君も一緒に行くよ」

先程とは言ってることが違いやしませんか燐火さん。
もう何が何だかわからない。

「すまない、やっぱり一緒に来てくれ…このままじゃらちが明かない」

小さい声で耳元で燐火がささやいた。
本当に何が何だかわからない。
でも断る理由も、ここでお別れ、はいさようなら。と言われてもどうしたらいいかわからないので
無言で頷きそれを了承した。

「ありがとう、じゃあ…まぁ出発は明日、それでいいかい?アンジー」

先程までの涙が嘘のように(嘘じゃないと言ってほしい)笑顔のアンジーが元気よく頷く。
この年でこの少女、いや、彼女は女の武器を手に入れてしまっているのだろうか。
そんな宗助の心の中など分かる筈もなくうれしそうにこちらを見ている。

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