ここはニュー速VIPに立てていたマンゲファイアースレの続きです。
過去スレは以下の3つです。
1スレ目以外はdatに途中で落ちた形なので、これ以上VIPでやるのも何なので移転してきました。
残り数レス程度ですがよろしければお付き合い下さい。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388491601
加治木ゆみが目を覚ました時、視界に入ったのは見知らぬ天井だった。
ついで顔を横に向けると、母親の姿が。
涙を流し悦ぶ母親に、何があったのかを聞く。
誕生日のあの日、デパートの爆発事故に巻き込まれ、病院に運ばれたらしい。
ガラス片が突き刺さり出血していたため入院を余儀なくされていたようだが、
運よく後遺症の類はなかったようだ。
近い内に退院も出来そうである。
淡々とその言葉を聞き、親に心配をかけた旨を謝罪する。
それから、友人達にも連絡を取った。
記憶の最後で一緒に行動をとっていた友人達は、どうやら全員無事だったようだ。
ガラス片を体に受ける遠因となった久も、髪の毛が焦げた程度で済んだらしい。
……まあ、本人は「ハゲた!!2000円札ハゲが出来た!!」と号泣したらしいけど。
ゆみ「ふぅ……」
ゆみ「折角のクリスマスだと言うのに……」
ゆみ「まさか病院で過ごすはめになるとはな」
智美「ワハハ」
智美「遊びに来てあげたんだから感謝しろー」
ゆみ「見舞えよ、何病室でカード麻雀広げてんだ」
智美「私らは私らで暇だしな」
睦月「それロンです」
ゆみ「しかも私抜きでやってるし」
智美「ゆみちんはゆっくりして体力回復させてくれー」 ワハハ
ゆみ「っていうか勉強しろよお前」
智美「さー南入だー」
ゆみ「聞け」
ゆみ「まったく……」
誰も何も言わなかった。
何かが欠けていることには気付いていたのに、誰も何も言えなかった。
ゆみ「……」
東横桃子。
彼女があの事故現場に居合わせたことは、智美達が既にゆみに告げている。
そして――
久『約束通り、レスキュー隊には嘘ついたけど……』
久から、聞いていた。
久『貴女には、伝えておくわ』
桃子が、如何にして、最後の毛と命を燃やし尽くしたのかを。
どのようにして、死人のためのマン毛を使い果たしたのかを。
久『あの娘は、ね――――』
家に、帰ってきた。
久々に、自分の部屋に戻ってきた。
ここ最近は、桃子に会うのは、いつもこの部屋でだった。
本当は、誕生会も、ここでするつもりだったのに。
結局、自分が入院してしまったせいで、誕生会を行うことが出来なかった。
あんなに、桃子が楽しみにしていたのに。
ケーキだって棟居に作り方を聞き手作りしたし、クリスマスプレゼントも用意した。
桃子に言いたい言葉もあった。
全部、全部――
何の覚悟も持てないまま、唐突に、失くしてしまった。
ケーキは腐ってしまったし、プレゼントもあの火災で駄目になった。
桃子も――おそらくは、もう、視認することが出来ない。
ゆみ「……」
部屋の隅に、ひしゃげた箱が置かれている。
久が置いていったらしい。
……桃子が、最後に持っていた荷物。
その中の1つだ。
ゆみ「……これは……」
虚ろな思考回路の元、なんとはなしに中身を開ける。
ガラス部分が破損していて原型があまりないが、それでもそれがコーヒーメーカーだということは分かった。
ゆみ「……プレゼント、か」
そういえば、コーヒーメーカーが欲しいと言ったような気がする。
確か、桃子と二人で回って、色んな人と交流したあの文化祭で。
楽しかったことを想い、胸が締め付けられる。
ゆみ「モモ……」
コーヒーメーカーの中。
薄桃色の手紙が封入されていた。
すっかり焼け焦げて入るが、かろうじて読み解ける。
桃子『先輩、お誕生日おめでとうございます』
桃子『先輩と、一緒にコーヒー飲みたいっす! 夜明けでも、それ以外でも!』
桃子『だから……』
桃子『私は絶対、意地でも先輩を探し出してしつこくアピールしてやるっすから』
桃子『よかったら……また私を見つけ出してほしいっす』
桃子『そして……また、あったかい手で私の手を握り返して下さい』
きっと、何度も書き直したのだろう。
何と言葉を伝えようか、悩みに悩んだのだろう。
マン毛を練り込んだ蝋燭を全て使いきって以降、桃子は目撃されていない。
きっと、最初から、誕生日を最後に会えなくなる覚悟はしていたのだ。
きっと、その最後の日に、納得行く形で、次に繋がる形でお別れをしようと考えていたのだ。
なのに、そんな願いすら叶えてやることが出来なかった。
ゆみの命を守るため、最後の時間を使い果たし、人知れず、消えてしまった。
ゆみ「モモ……」
ゆみ「今も……お前はここに居るのか……?」
手紙を、ぎゅっと強く握る。
桃子は、未だに、傍にいてくれているのだろうか。
ゆみ「もう……お前を感じることも出来ないよ、モモ……」
どれだけ嘆いても。
もう、ゆみでは桃子を見つけられない。
どれだけ愛しても。
どれだけ、後悔しても。
ゆみ「会いたいよ、モモ……」
ゆみ「モモ……私は……」
ゆみ「会いたいよお、モモォォォォ……」
膝から崩れ落ちる。
堰を切ったように涙が溢れ、感情が爆発する。
どれだけの時間泣いていただろう。
両親にも、きっと慟哭は聞こえていたことだろう。
けれどもそっとしておいてくれた。
泣き疲れて、手に痛みをようやく感じる。
見ると、ぽたりぽたりと赤い雫が滴り落ちていた。
どうやら、砕けたガラスの細かな破片が手紙についていたらしい。
ゆみ「……モモ……」
ずっとこうしていても仕方ない。
それが分かっているから、モモのことで頭の中身を埋めながらも、
とりあえず床に落ちた血を拭こうとする。
ゆみ「あ……」
そして、見つけた。
希望の光を。
ゆみ「これ……」
桃子は、ここ最近ずっとこの部屋でデートをしていた。
その度に、マン毛を燃やし続けていた。
ゆみ「まさか、モモの……」
マン毛は、途中で燃え尽きていた。
しかし――その全てが灰になったわけではない。
マン毛は、常に“桃子が指で摘んでいた”のだ。
鉛筆が、全て鉛筆削りで削り切れて消滅はしないように。
マン毛もまた、その身全てを燃やし尽くさない。
マン毛を摘む桃子の指が防火シャッターのようになり、マン毛を燃やす炎を消していたのだ。
つまり、マン毛は、指に摘まれた部分のみ燃え残って落ちている。
ゆみの、この部屋に。
ゆみ「毛根、なのか……?」
それは、奇跡。
桃子の摘んでいた部分が、偶然にも毛根部分であって。
そして、たまたま部屋の掃除の魔の手を逃れたがゆえの奇跡。
ゆみ「お前は……」
毛根とは、種である。
種さえあれば、実りは必ず訪れる。
毛根さえ存在すれば、髪の毛はまた生える。
これは――――紛れもなく、希望である。
ゆみ「自分の命も危ないのに、存在感を捨ててでも、私を助けてくれたんだよな……」
勿論、そう簡単に培養できるわけではない。
マン毛の再生技術など、まだ確立されていない。
それでも。
ゆみ「なら……今度は、私の番だよな……」
可能性は、0ではない。
ここには確かに、希望の種があるのだから。
そして、大分使いきってしまい、成分も混ざり合ったので完成品とは程遠いものの、
参考になるマン毛キャンドルはここにあるのだ。
ゆみ「私が……絶対に、またお前を見つけ出してやる……!」
決意を新たに、ゆみは前を向く。
ゆみ「お前のマン毛は、私が絶対に再生してみせるッ!」
再び出会って、その手をしっかり握るために。
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ギィギィと、ロッキングチェアーが揺れる。
研究者として築いた財で改築された大豪邸。
その庭いっぱいに広がる畑を眺め、家主である老人が揺られている。
これが映画のラスト・シーンなら、彼女の視線の先には、元気に畑を駆ける孫娘でも居ることだろう。
しかし現実の老人は独身であり、子供すらいない。
それどころか、ずっと恋人すら居ない孤独な人生を送っていた。
それでも老人の顔は、愛しい人を見つめるような眼差しをしている。
先述の映画で例えるなら、今しがた昔の武勇伝を聞かせたばかりの孫を見つめるかのような眼差し。
退役した英雄という点では、老人は映画の主人公たる資格を得ていると言えるだろう。
だが決して、老人は自分をそのような存在だとは言わないだろう。
老人にとって、ノーベル賞を取ることも、『かつて失ったもの』を取り戻すための過程にすぎないのだ。
何かを得たり、生み出したり、守りぬくような主人公では決してないと、老人は思っていた。
シャーレの中で、パチパチと炎が燃える。
燃やされているのは、老人の前の前に広がる畑の収穫物。
「やっと……出来たよ……」
風に揺れる、黒色の畑。
マン毛のそよぐ音を聞きながら、老人が言葉を紡ぐ。
「今度こそ……ちゃんと、言わなくちゃな……」
老人が、小刻みに震える右手をゆっくり持ち上げる。
力の抜けつつあるはずの手が、空中で固定された。
そこには、何もないはずなのに。
まるでそこに目には見えない何かが居て、その手を取っているかのように。
老人の手は、マン毛畑に向かってしっかり伸びている。
「やっと……また、君を見つけた……」
ざぁ、と一陣の風が吹く。
マン毛を吹き抜ける風と共に、遠い記憶の中にある声が聞こえた気がした。
「約束通り……今度は、もう、離さないよ、モモ――――」
縮れもつれて絡み合っていた様々な想いが、目の前のマン毛畑のマン毛と一緒に風に解きほぐされていく。
老人は、愛しい人と引き離されても、決して諦めなかった。
愛しい人を、そして愛しい人のマン毛を長年追い続けた。
――私は、君のマン毛が欲しい!!
その想いだけを胸に、老人は生き続けてきた。
そうして生み出した畑を前に、今、老人の願いは成就したと言えよう。
成分も、完全に、愛しい人のソレである。
――また、絶対に、お前と、お前のマン毛をこの手に掴んで見せる……っ!
マン毛は、いつの間にかあらゆる場所に現れる神出鬼没な存在。
だから、きっと、老人の熱い想いに応えたのだろう。
諦めずにマン毛を探し続ければ、必ずマン毛に辿り着けるのだ。
シャーレの中のマン毛が、最後に一際大きくなり、そして静かに消えていった。
老人の手が、まるで支えを失ったように、がくんと落ちる。
その反動で、きぃきぃとロッキングチェアーが大きく揺れた。
「…………」
老人は、もうその目を覚まさなかった。
満足そうに笑む老人の頬を撫で、再び、優しい風が吹き抜ける。
愛で育ったマン毛畑だけが、手を取り駆け出す二人の少女を見つめていた。
――――待たせてすまない、モモ。
――――いいんすよ、また見つけてくれただけで、私は十分うれしいっす!
――――なあ、モモ。
――――はい?
――――私もお前が大好きだよ、モモ。
――――えへへ、ずうっと、一緒っすよ!!
カン!
投下終了です。
二度に渡りスレを落としすみませんでした。
からくりサーカス最終巻の表紙をマン毛畑と笑顔のかじゅモモで脳内再生して頂ければ幸いです。
新年早々悪夢を見れそうなオチ
おっ、マン毛燃え尽きたか
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