ゆみ「まんまんワイフの毛根蒻畑」 マンゲファイアー (20)

ここはニュー速VIPに立てていたマンゲファイアースレの続きです。
過去スレは以下の3つです。

1スレ目以外はdatに途中で落ちた形なので、これ以上VIPでやるのも何なので移転してきました。
残り数レス程度ですがよろしければお付き合い下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388491601

 
加治木ゆみが目を覚ました時、視界に入ったのは見知らぬ天井だった。

ついで顔を横に向けると、母親の姿が。

涙を流し悦ぶ母親に、何があったのかを聞く。

誕生日のあの日、デパートの爆発事故に巻き込まれ、病院に運ばれたらしい。

ガラス片が突き刺さり出血していたため入院を余儀なくされていたようだが、

運よく後遺症の類はなかったようだ。

近い内に退院も出来そうである。

淡々とその言葉を聞き、親に心配をかけた旨を謝罪する。

それから、友人達にも連絡を取った。

記憶の最後で一緒に行動をとっていた友人達は、どうやら全員無事だったようだ。

ガラス片を体に受ける遠因となった久も、髪の毛が焦げた程度で済んだらしい。

……まあ、本人は「ハゲた!!2000円札ハゲが出来た!!」と号泣したらしいけど。

 
ゆみ「ふぅ……」

ゆみ「折角のクリスマスだと言うのに……」

ゆみ「まさか病院で過ごすはめになるとはな」

智美「ワハハ」

智美「遊びに来てあげたんだから感謝しろー」

ゆみ「見舞えよ、何病室でカード麻雀広げてんだ」

智美「私らは私らで暇だしな」

睦月「それロンです」

ゆみ「しかも私抜きでやってるし」

智美「ゆみちんはゆっくりして体力回復させてくれー」 ワハハ

ゆみ「っていうか勉強しろよお前」

智美「さー南入だー」

ゆみ「聞け」

 
ゆみ「まったく……」

誰も何も言わなかった。

何かが欠けていることには気付いていたのに、誰も何も言えなかった。

ゆみ「……」

東横桃子。

彼女があの事故現場に居合わせたことは、智美達が既にゆみに告げている。

そして――

久『約束通り、レスキュー隊には嘘ついたけど……』

久から、聞いていた。

久『貴女には、伝えておくわ』

桃子が、如何にして、最後の毛と命を燃やし尽くしたのかを。

どのようにして、死人のためのマン毛を使い果たしたのかを。

久『あの娘は、ね――――』

 
家に、帰ってきた。

久々に、自分の部屋に戻ってきた。

ここ最近は、桃子に会うのは、いつもこの部屋でだった。

本当は、誕生会も、ここでするつもりだったのに。

結局、自分が入院してしまったせいで、誕生会を行うことが出来なかった。

あんなに、桃子が楽しみにしていたのに。

ケーキだって棟居に作り方を聞き手作りしたし、クリスマスプレゼントも用意した。

桃子に言いたい言葉もあった。

全部、全部――

何の覚悟も持てないまま、唐突に、失くしてしまった。

ケーキは腐ってしまったし、プレゼントもあの火災で駄目になった。

桃子も――おそらくは、もう、視認することが出来ない。

 
ゆみ「……」

部屋の隅に、ひしゃげた箱が置かれている。

久が置いていったらしい。

……桃子が、最後に持っていた荷物。

その中の1つだ。

ゆみ「……これは……」

虚ろな思考回路の元、なんとはなしに中身を開ける。

ガラス部分が破損していて原型があまりないが、それでもそれがコーヒーメーカーだということは分かった。

ゆみ「……プレゼント、か」

そういえば、コーヒーメーカーが欲しいと言ったような気がする。

確か、桃子と二人で回って、色んな人と交流したあの文化祭で。

楽しかったことを想い、胸が締め付けられる。

 
ゆみ「モモ……」

コーヒーメーカーの中。

薄桃色の手紙が封入されていた。

すっかり焼け焦げて入るが、かろうじて読み解ける。

桃子『先輩、お誕生日おめでとうございます』

桃子『先輩と、一緒にコーヒー飲みたいっす! 夜明けでも、それ以外でも!』

桃子『だから……』

桃子『私は絶対、意地でも先輩を探し出してしつこくアピールしてやるっすから』

桃子『よかったら……また私を見つけ出してほしいっす』

桃子『そして……また、あったかい手で私の手を握り返して下さい』

きっと、何度も書き直したのだろう。

何と言葉を伝えようか、悩みに悩んだのだろう。

マン毛を練り込んだ蝋燭を全て使いきって以降、桃子は目撃されていない。

きっと、最初から、誕生日を最後に会えなくなる覚悟はしていたのだ。

きっと、その最後の日に、納得行く形で、次に繋がる形でお別れをしようと考えていたのだ。

なのに、そんな願いすら叶えてやることが出来なかった。

ゆみの命を守るため、最後の時間を使い果たし、人知れず、消えてしまった。

 
ゆみ「モモ……」

ゆみ「今も……お前はここに居るのか……?」

手紙を、ぎゅっと強く握る。

桃子は、未だに、傍にいてくれているのだろうか。

ゆみ「もう……お前を感じることも出来ないよ、モモ……」

どれだけ嘆いても。

もう、ゆみでは桃子を見つけられない。

どれだけ愛しても。

どれだけ、後悔しても。

ゆみ「会いたいよ、モモ……」

ゆみ「モモ……私は……」

ゆみ「会いたいよお、モモォォォォ……」

膝から崩れ落ちる。

堰を切ったように涙が溢れ、感情が爆発する。

 
どれだけの時間泣いていただろう。

両親にも、きっと慟哭は聞こえていたことだろう。

けれどもそっとしておいてくれた。

泣き疲れて、手に痛みをようやく感じる。

見ると、ぽたりぽたりと赤い雫が滴り落ちていた。

どうやら、砕けたガラスの細かな破片が手紙についていたらしい。

ゆみ「……モモ……」

ずっとこうしていても仕方ない。

それが分かっているから、モモのことで頭の中身を埋めながらも、

とりあえず床に落ちた血を拭こうとする。

ゆみ「あ……」

そして、見つけた。

希望の光を。

 
ゆみ「これ……」

桃子は、ここ最近ずっとこの部屋でデートをしていた。

その度に、マン毛を燃やし続けていた。

ゆみ「まさか、モモの……」

マン毛は、途中で燃え尽きていた。

しかし――その全てが灰になったわけではない。

マン毛は、常に“桃子が指で摘んでいた”のだ。

鉛筆が、全て鉛筆削りで削り切れて消滅はしないように。

マン毛もまた、その身全てを燃やし尽くさない。

マン毛を摘む桃子の指が防火シャッターのようになり、マン毛を燃やす炎を消していたのだ。

つまり、マン毛は、指に摘まれた部分のみ燃え残って落ちている。

ゆみの、この部屋に。

ゆみ「毛根、なのか……?」

それは、奇跡。

桃子の摘んでいた部分が、偶然にも毛根部分であって。

そして、たまたま部屋の掃除の魔の手を逃れたがゆえの奇跡。

 
ゆみ「お前は……」

毛根とは、種である。

種さえあれば、実りは必ず訪れる。

毛根さえ存在すれば、髪の毛はまた生える。

これは――――紛れもなく、希望である。

ゆみ「自分の命も危ないのに、存在感を捨ててでも、私を助けてくれたんだよな……」

勿論、そう簡単に培養できるわけではない。

マン毛の再生技術など、まだ確立されていない。

それでも。

ゆみ「なら……今度は、私の番だよな……」

可能性は、0ではない。

ここには確かに、希望の種があるのだから。

そして、大分使いきってしまい、成分も混ざり合ったので完成品とは程遠いものの、

参考になるマン毛キャンドルはここにあるのだ。

ゆみ「私が……絶対に、またお前を見つけ出してやる……!」

決意を新たに、ゆみは前を向く。

ゆみ「お前のマン毛は、私が絶対に再生してみせるッ!」

再び出会って、その手をしっかり握るために。

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