京太郎「俺はあなたが欲しい!」ゆみ「黙れ」 (83)

京太郎「やっぱダメじゃねーか」ヒソヒソ

桃子「おかしいっすね。私はこれで一発だったんすけど」ヒソヒソ

ゆみ「お前たち聞こえているぞ」

京太郎「ゆみ先輩! なんで『こんな私でよければ』って言ってくれないんですか!?」

ゆみ「誰が言うか。むしろなぜ言うと思ったんだ」

京太郎「だってモモがこれでイチコロだったっすよっていうから」

桃子「本当っすよ? 先輩にこれを言われて私は一発で落ちたっす」エヘン

京太郎「落ちたのお前かよ! くそ、お前が言ったにしちゃ変だなと思ったんだよ!」

ゆみ「漫才をやるなら他所でやれ。というか須賀は清澄に帰れ」

京太郎「はっ! 確かにそろそろ帰らないとバイトに間に合わない! ゆみ先輩、俺の予定を気にしてくれたんですね!」

ゆみ「まったくそんなことはないが、この際それでもいいからさっさと帰れ。それとゆみ先輩と呼ぶのはやめろと言っているだろう」

京太郎「えーいいじゃないですか。咲も和も優希も下の名前で呼んでるからその流れでですよ!」

ゆみ「……久と染谷のことはなんと呼んでいるんだ?」

京太郎「竹井先輩と染谷部長ですよ?」

ゆみ「……」プルプル

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京太郎「おっと、時間がない! それじゃ帰ります! ゆみ先輩、また来週!」タッタッタッ

ゆみ「おい待……! たなくていいか。もう来なくていいぞ」ハァ

桃子「相変わらず京太郎に厳しいっすねー。もう少し優しくしてあげてもいいんじゃないっすか?」

ゆみ「初対面で一目惚れしたと言ってきて、その後会うたびに告白してくる奴にどう優しくしろというんだ」

桃子「一途で情熱的でいいことじゃないっすか」

ゆみ「そう思うなら代わってくれ」

桃子「生憎京太郎が好きなのは私じゃなくて先輩っすからね」

ゆみ「いつ開放されるんだろうな」ハァ

桃子「先輩が本気で嫌がればすぐにでもやめると思うっすよ?」

ゆみ「……ふん」

京太郎「ゆみ先輩、今日も綺麗ですね。俺と付き合ってください!」

ゆみ「また来たのか。さっさと帰れ」

京太郎「つれないですね。じゃあ映画に付き合ってください」

ゆみ「振られた直後にデートに誘うとはいい度胸だ」

京太郎「そんなことでめげてたらゆみ先輩と付き合えませんからね! 商店街のくじ引きで映画のチケットが当たったんですよ。行きましょう!」

ゆみ「誰がお前と……む、その映画は」

桃子「先輩が前から行きたいって言ってたやつじゃないっすか。ちょうどいいから行くっすよ!」

ゆみ「お前話したな」

桃子「な、なんのことっすかね」ダラダラ

京太郎「まあまあ、そこはいいじゃないですか。ともかくせっかく当たったんですよ! 一緒に行きましょう!」

ゆみ「いくらタダとはいえお前と行くのはな」

京太郎「そこは大丈夫です」

ゆみ「何が大丈夫なんだ」

京太郎「チケットは3枚あります。席は2つ並んでるのと離れたのが1つですから。その離れた方に俺が座りますよ」

ゆみ「……は?」

京太郎「俺はゆみ先輩と同じ映画を見て感想とか話したいんです! 今回は隣の席に座るのは諦めますから、ゆみ先輩はモモと座ってください」

ゆみ「お前はバカなのか。いや前からそう思ってはいたが」

京太郎「ゆみ先輩と一緒に映画を見たいと思えばこそです!」

桃子「先輩に損はないしいいじゃないっすか。私も見たいっすよ」

ゆみ「モモと須賀で行けばいいだろう」

桃子「私はそれでもいいんすけどね」

京太郎「ゆみ先輩が行かないなら咲にプレゼントします」

桃子「こういうこと言うんすよ」

ゆみ「はぁ……わかった、行こう。実際見たい映画ではあるしな」

京太郎「よし! ついにデレ期が!」

ゆみ「急に用事が出来たから帰るぞ」

桃子「まあまあ、気にせず行くっす」

――映画終了――

ゆみ「終わったな。それじゃあモモ。私は帰るから須賀に帰ったと伝えて――」

桃子「いい映画だったっすね」

ゆみ「ああ、そうだな。柄にもなく感動してしまった」

桃子「ゆみ先輩は涙流してましたしね」

ゆみ「そ、そんなことはないぞ」カアァァ

桃子「結構泣いてる人いましたし気にすることないっすよ」

ゆみ「むぅ……まあそれはそうと私は帰るから須賀に――」

京太郎「ゆみ先輩! 滅茶苦茶いい映画でしたね! 俺もう途中から涙が止まらなくて画面がよく見えませんでしたよ!」

ゆみ「……まさかとは思うがモモ」

桃子「嫌っすよ先輩。京太郎に先輩を引き止めるように言われてたなんてこと全然ないっすからね!」

京太郎「まさかの裏切り!?」

ゆみ「卑劣な真似を」ギロッ

京太郎「そこまで言われます!? でもゆみ先輩照れ屋じゃないですか。こうでもしないと帰っちゃうと思って」アハハ…

ゆみ「……はぁ。まあチケットを貰ったのは私だしな。わかった、喫茶店にでも寄るか」

京太郎「ほんとですか! ありがとうございます!」

ゆみ「それと帰ろうとしたのは決して照れ屋だからではないから、それだけ覚えておけ」

京太郎「わかってますって」ハイハイ

ゆみ「こいつは……!」プルプル

桃子「それやってるといつまでも終わらないからさっさと行くっす」

京太郎「モモはどこのシーンが好きだった?」

桃子「私はあそこっすね。主人公が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくところが……」

京太郎「そんなシーンはねえよ!」

桃子「冗談っすよ。私はやっぱりラストシーンっす。障害を超えて結ばれる2人ってのはいいものっすよ」

京太郎「定番だけどなんだかんだいいもんだよなー」

桃子「京太郎はどこが好きなんすか?」

京太郎「俺はあそこだな。はじめに告白して付き合いだした後のシーン」

ゆみ「……!」ピクッ

桃子「後っすか? あの繋ぎの日常シーンっすよね?」

京太郎「そうだよ。5分位の何でもないシーン」

桃子「私は長いしダレるなーと思ったところっすねえ。珍しいっす」フーン

京太郎「そうか? 普通の生活なんてとても出来なかった2人が普通の暮らしをしてるって凄い胸に来るんだけど」

桃子「そういう見方もあるんすね。私はいまいちわからないっすけど」ウーン

京太郎「ゆみ先輩はどこが好きでした?」

ゆみ「……あ、わ、私か。私は――目が潤んだのはラストシーンだな」

桃子「素直に泣いたって言ってもいいんすよ?」クスクス

ゆみ「う、うるさい!」

京太郎「ラストシーンは結構泣いてる人いましたもんね。俺も大好きなシーンですよ」

桃子「さっきと言ってること違うじゃないっすか」

京太郎「俺は愛のためなら主義も変える男だ!」

ゆみ「そういう人はあまり好きじゃない」

桃子「ついさっき好きなシーンが変わった京太郎的には、今の先輩の発言を受けてどうっすか?」

京太郎「おいおいモモ。俺が好きなのはあの日常シーンだって言ってんだろ?」フゥ

桃子「うわ殴りたいっすねー」

京太郎「ハッハッハッ」

ゆみ「……」

ゆみ(泣いたのはラストシーンだが、一番好きなのは須賀と同じところだ)

ゆみ(あのシーンを好きな人が他にもいるとはな。意外と好みが合――な、何を考えているんだ!)ブンブン

京太郎・桃子「?」

京太郎「遅くなっちゃいますしそろそろ出ましょうか。ここは俺が――」

ゆみ「いい。私が払う」

京太郎「え? そんな俺が誘ったんですし、俺に払わせてくださいよ」

ゆみ「福引の景品だという映画と、実際に金を払っているここは別だ。私がまとめて払う」

京太郎「いえ、好きな人に払って貰うなんて出来ません。ここは俺が払います」

ゆみ「……はぁ。わかった。じゃあ私はモモと私の分を払う。須賀の分はモモが払え」

桃子「え!? 私っすか!?」

ゆみ「映画のチケットを貰ったんだからここの支払いするくらいいいだろう」

桃子「まあそうっすけど、完全に払ってもらう気でいたっすよー」

京太郎「いや、ゆみ先輩のは俺が払うけどお前の分まで払う気はそもそもないぞ」

桃子「えっ!? 差別っす! 酷いっす!」

京太郎「ゆみ先輩を振り向かせるためなのに、なんで俺がお前の分も奢らなきゃいけないんだ。チケットはちゃんと渡したじゃねえか」

桃子「けち臭い男は嫌われるっすよ!」

京太郎「マジっすか!?」クルッ

ゆみ「……いや、無駄遣いしないのはいいことだと思うが」

京太郎「よしっ! 知らぬ間に好感度アップ!!」

ゆみ「それはない」

桃子「無駄遣いって酷いっすよ!?」

ゆみ「そういう意味じゃ……ああもう! ともかく須賀にこれ以上借りは作りたくない! 私とモモの分は私が、須賀の分はモモが払う! いいな!」

桃子「わかったっすよ」クッ

京太郎「……わかりました」

ゆみ「そうか。じゃあこれで私とお前は無関け――」

京太郎「そうですよね。貸し借りがある関係なんて健全じゃありませんよね」

ゆみ「うん?」

京太郎「お互いに対等な関係のままでいたいってことですよね。いつか恋人になる日のために……!」

ゆみ「おいこら。何をいいように解釈している」

京太郎「わかってます。ゆみ先輩は素直になれない人ですから。涙をのんでここは払ってもらいます」

桃子「京太郎の分を払うのは私っすからね?」

京太郎「ゆみ先輩、また来ましょうね」

ゆみ「ああ。まあお前とは来ないがな」

京太郎「そういう恥ずかしがり屋なところも大好きです!」

ゆみ「先に帰っているぞ」

桃子「待ってくださいっすー」

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京太郎「ゆみ先ぱーい! 今日はまた一段と可愛いですね。俺の恋人になってください」

ゆみ「今週も来たか。断る」

京太郎「相変わらず即答ですね。でも今日も会えて嬉しいです!」

ゆみ「なぜ私が行くところ行くところにお前がいるんだろうな」

桃子(毎週駅前をふらついてるからじゃないっすかねー)

京太郎「今日はゆみ先輩の誕生日だって聞きました! だから俺達が出会うのは運命ですよ」

ゆみ「運命の女神が本当にいるのなら呪ってやりたいな」

京太郎「俺もですよ。週一しか会えないなんてつらすぎます」

ゆみ「口の減らないやつだな……それで今日はなんの用だ」

京太郎「実はゆみ先輩が顔に似合わず昼寝が趣味だとの情報を手に入れまして」

ゆみ「たまにお前が私のことを褒めるのは、全部からかっているからじゃないかと思うときがある」

京太郎「そんなことありませんよ! 全部本心からです。好きだから言ってるんです!」

ゆみ「顔に似合わずというのは好きな相手に言う言葉ではないと思うが」

京太郎「ゆみ先輩の凛々しい雰囲気とギャップがあるみたいな意味ですよ。決して好きな子には意地悪したいとかそういうことではないです」

ゆみ「そういうことを考えているところが信用出来ないんだ」

京太郎「だから考えてないですって」

ゆみ「はぁ……まあいい。それで私の趣味が昼寝だからどうした」

京太郎「快眠枕の懸賞に応募したら見事当選したんですよ。先輩に誕生日プレゼントです!」ドウゾ

ゆみ「一口に快眠枕と言っても人それぞれ好みがある。それは須賀が使うといい」

京太郎「ちゃんとゆみ先輩の好みを聞いて応募したんで大丈夫です! 遠慮しないで貰ってください」

ゆみ「しかしな……む、これは」

京太郎「どうですか? 一応細かく好みを確認してオー――」

桃子「京太郎!」ヒソッ

京太郎「――うぼしたんですけど」

ゆみ「……? まあ、確かに高さも硬さも私好みだ。だがこの枕は買うとなるとかなり高いだろう?」

京太郎「そうみたいですね。確か2万円とかそのくらいです」

ゆみ「なら須賀が使え。須賀が当てたものだろう? こんな高いもの私が貰う訳にはいかない」

京太郎「いやいや、先輩の好みに合わせて先輩のために応募したんですからゆみ先輩が使ってください」

ゆみ「懸賞とはいえさすがにな。大体お前と付き合う気はないんだ。貰う理由もない」

京太郎「俺は枕が変わると寝られない質なんです。だから俺が持っててもしょうがないんで、是非ゆみ先輩が貰って下さい」

ゆみ「どうしてもというならモモにあげればいい」

桃子「まあまあ、くれるって言ってるんだし貰えばいいじゃないっすか。好みの枕ではあるんすよね?」

ゆみ「それはそうだが。……というかだな。そもそも須賀に借りを作りたくない」

京太郎「先輩は固いですねー。……じゃあこうしましょう。この枕を先輩にあげますから、今度俺に麻雀を教えてください。それで貸し借りなしってことで」

ゆみ「麻雀? 清澄で十分教わっているだろう?」

京太郎「教わってますけど、俺はゆみ先輩にして欲しいんです!」

ゆみ「清澄の部員に対して失礼になりそうなんだが」

京太郎「言えばわかってくれると思います。というか染谷部長と和はいいんですけど、咲と優希の教え方はちょっと……」

ゆみ(……それについては同情する)

京太郎「なので部長とも和とも違った打ち方の人から教えてもらいたいんです!」

ゆみ「むぅ……」

桃子「先輩、枕自体は欲しいんすよね」

ゆみ「もちろんだ! あれは素晴らしい。まるで私に合わせて作られたようだ」

京太郎「」ギクッ

桃子「それならいいじゃないっすか。教えるのと枕の交換っすよ」

ゆみ「私が教える程度では釣り合いが……」

京太郎「俺にとってはゆみ先輩に教えて貰うことのほうがずっと貴重です。むしろ枕のほうがずっと軽いですよ!」

ゆみ「……わかった。それじゃあ私が教えるから、代わりにその枕をくれ」

京太郎「はい、どうぞ貰ってください」

ゆみ「ああっ」ギュッ

京太郎「喜んでもらえたみたいで嬉しいです」

ゆみ「よ、喜んでなんて……まあ、その、なんだ」

ゆみ「………………ありがとう」ボソッ

京太郎「? すみません、よく聞こえなかったんですが」

ゆみ「……知らん! 二度は言わん!」プイッ

京太郎「ええっ!? 気になるじゃないですか!」

ゆみ「知るか!」

京太郎「一度言ったんだからいいじゃないですか……それじゃあさすがに今から麻雀を教えてもらうのは厳しいのでまた来ますね」

ゆみ「お前はそれがなくても来るだろう」

京太郎「教えてもらうときは連絡しますね! モモを通して! なので待っててください」

桃子「勝手に人を使うんじゃないっす!」

京太郎「いいだろそのくらい」

桃子「まあいいっすけど、ジュースくらい奢って欲しいっす」

京太郎「いつものことだけど少しくらい遠慮してもいいんじゃないのか」

桃子「頼むほうが一切遠慮しないのに、なんで頼まれた側が遠慮しなきゃいけないんすかね」

京太郎「ゆみ先輩と連絡取れないんだから仕方ないだろ! あ、そうだ。ゆみ先輩、もしよければこの機会に連絡先を……」

ゆみ「すまないな。たった今充電が切れるところだ」

京太郎「まさに電源を切ってるところですね。ありがとうございます。そういうわけだから頼んだぞモモ」

桃子「仕方ないっすね」

京太郎「それじゃあ今日はこれで帰ります! また来週!」

ゆみ「ああ、須賀と会うのも次が最後になることを祈ってるよ」

京太郎「一週間寂しいと思いますけどその枕を俺と思って大切にしてください!」

ゆみ「どうしようか。急に捨てたくなってきたよ」

桃子「麻雀を教えるのは変わらないんすから、持ってたほうが得っすよ」

ゆみ「なぜあいつは余計なことを言うんだろうな。それがなければ――い、いや、なんでもない」

桃子(……)

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京太郎「こんにちは! 今日も凛々しいですね。俺と彼氏彼女の関係になってください!」

ゆみ「カレカノは好きだがそういう話なら帰れ」

京太郎「今日の本題は別にありますから帰りませんよ。約束通り来ました!」

ゆみ「なぜ私は血迷ってしまったのか……」

京太郎「でも枕は使ってるんですよね?」

ゆみ「ま、まあ貰ったんだから使わないわけには」

京太郎「使ってくれて嬉しいです」フフン

ゆみ「くっ……ところで、確かに私はお前に麻雀を教えると言った」

京太郎「はい! 夢だったんです! ずっと楽しみにしてました!」

ゆみ「言ったが、なぜお前は私の高校に来ているんだ! 普通その辺りの雀荘とかだろう!?」

京太郎「え? 連絡したじゃないですか」

ゆみ「聞いていないぞ!」

京太郎「……おいモモ」

桃子「来ることは伝えたじゃないっすか」フン

ゆみ「高校に集合というから何かと思えば……!」

京太郎「そこまで言ったんなら鶴賀に行くってことも伝えろよ!?」

桃子「お礼のジュースだって言って、缶の味噌汁渡すようなやつに果たす義理はないっす!」

京太郎「ちょっとしたジョークだよ! 大体お前意外とおいしいって言ってたじゃねえか!?」

桃子「それはそれっす」

ゆみ「まあ来てしまったものはしょうがないが、ここで津山たちに追い返されてもまた別の日に教えるということはないからな」

京太郎「あ、それは大丈夫です」

ゆみ「……本当にいいのか? 部外者、しかも男子が女子しかいない部活に来るんだ。普通に考えて追い返されて当然だぞ? どうしてもというなら別の日でも――」

京太郎「いえいえ、それは心配しないでください」

ゆみ「……本当に教えないからな!」

ゆみ(なんでこいつは変なところで意地を――)

京太郎「こんにちはー。宣言通り来ましたよ!」

睦月「須賀くん、こんにちは」

佳織「いらっしゃい。私と同じ初心者なんだよね? 今日はよろしくね」

智美「よくきたな、歓迎するぞー」ワハハ

京太郎「よろしくお願いします!」

ゆみ「……なんなんだこれは!」

智美「わっ! ユミちん、あんまり大声出すんじゃないぞー」ワハハ

ゆみ「なんで親しげなんだ。初対面じゃないのか!?」

京太郎「会うのは初めてですけど、おじゃまするんですから挨拶くらいはしてますよ」

ゆみ「津山たちの連絡先なんて知らないはずだろう!?」

京太郎「モモから連絡先教えてもらったのでそれで」

桃子「ちゃんとむっちゃん先輩たちから了解は取ったっすよ」

ゆみ「なんで教えたんだ!? 見知らぬ男に連絡先を教えるなんて危ないだろう」

睦月「確かに会ったことはなかったですけど、加治木先輩とモモが話してるのはよく聞いてましたから」

佳織「そんな危ない人じゃなさそうですしいいかなーと」

ゆみ「聞いているなら余計に警戒するはずだろう!?」

桃子「不器用でバカな奴だなってくらいが関の山じゃないっすかねえ」

智美「そもそもユミちんしか眼中になさそうだしなー」ワハハ

京太郎「その通りです。俺はゆみ先輩以外眼中にありません!」

ゆみ「なっ」

桃子「見てればわかるっすけど、それはそれで腹立つっすね」ムッ

京太郎「そう言われてもなあ」

佳織「まあまあ、そのくらいで」クスクス

睦月「それじゃあ、お客さんをいつまでも待たせちゃ悪いですしそろそろ始めましょうか」

京太郎「はい。ゆみ先輩、よろしくお願いします!」

ゆみ「はぁ……ああ、わかった」

京太郎「うーん」

ゆみ(5巡目か。今のところ普通に打っているように見えるが……)

京太郎「……」タン

ゆみ(これは降りたのか? なんでこの巡目で?)

……



京太郎「ノーテンです」

ゆみ「須賀、一ついいか? なんで5巡目で降りたんだ」

京太郎「えっ、いやだって東一局ですし5巡目だともうテンパッて……あ、あれは優希だけか」アハハ…

ゆみ「そんなに早く聴牌になることはほとんどない。癖になっているようなら直しておけ」

京太郎「はい」

睦月「リーチ!」

京太郎「……」タン

ゆみ(ふむ、東一局はあれだったが、ここまで見た限り牌効率はそれなりに考えられているようだ)フム

ゆみ(まだまだ甘いところはあるが初心者というほどでは――)

京太郎「うーん……えい」タン

ゆみ(は?)

睦月「ロン! 8000」

京太郎「あちゃー。振り込んじゃったか」

ゆみ「あちゃーじゃない! なんでそれを切るんだ!?」

京太郎「えっ!? そんな変なことしました?」

ゆみ「している。リーチした相手になんで無筋の牌を切るんだ。現物がないとか高目を張っているとかならともかく」

京太郎「いや、1枚見えてるので安全かなーと」

ゆみ「1枚見えているからといって安全なわけがないだろう」

京太郎「え? でもカンがな――あ」

ゆみ「宮永じゃないんだ。そう簡単にカンをする選手なんていない」

京太郎「頭ではわかってるんですけど……」

ゆみ「はぁ」

智美「まあとりあえず最後まで打ってみよう」

京太郎「はい、よろしくお願いします」

京太郎「ここでも最下位か……」ズーン

智美「ブランクのせいでなまってるなー」←3位

佳織「あんまり気を落とさないで。私なんて運が良かっただけだから」←2位

睦月「なんとか面目は保ててよかった」←1位

京太郎「ゆみ先輩、俺は何が悪いんですかね?」

ゆみ「まあ全部だな」

京太郎「全否定!?」ガーン

ゆみ「見た限り相手に合わせて戦術を変える麻雀がしたいんだろう?」

京太郎「おお、少し見ただけでよくわかりますね。これは俺たちが通じあってる証拠……!」

ゆみ「ふざけるのなら帰るぞ」

京太郎「じょ、冗談です。すみませんでした!」

ゆみ「話を戻すが、相手に合わせる前に自分の基礎を固めろ。相手に合わせるなんて100年早い」

京太郎「やっぱり基礎ですか……」

ゆみ「当たり前だ。自分の芯がないのに相手に合わせられるわけがない」

ゆみ「幸い原村といういいお手本が身近にいるんだ。あのレベルになれとは言わないが彼女から学べばいい」

京太郎「はい!」

ゆみ「これで十分教えたな。それじゃあ私は――」

桃子「むっちゃん先輩、今日の部活は何時までっすか?」

睦月「一応5時くらいまでやるつもりだよ」

京太郎「まだ時間はたっぷりありますね!」

ゆみ「おいモモ!?」

桃子「ゆっくり指導してあげるといいっすよ」

智美「枕貰ったんだから時間いっぱい教えてあげるくらいいいじゃないか」ワハハ

京太郎「よろしくお願いします!」

ゆみ「くっ……仕方ない。教えるからには容赦しないからな」

京太郎「はい!」

智美(嫌いって言ってる相手に取る態度かなー。真面目なのか、それとも……)

---------------------------------------

京太郎「ゆみ先輩、先週教えてもらったの実践したら成績良くなりましたよ」

ゆみ「そうか。一々私に言いに来なくてもいいぞ。清澄でもっと麻雀を打っているといい」

京太郎「もっとゆみ先輩と麻雀を打ちたくなりましたよ。俺と毎日麻雀を打ってください!」

ゆみ「まさかとは思うがそれは告白なのか? ああいや、なんであっても答えはノーだからどうでもいい。答えなくていいぞ」

京太郎「もしかしなくても告白ですよ! って言おうとしてたのに、その前に釘刺されましたか。さすがです」

ゆみ「お前は毎回ワンパターンだからな。それで今日はなんだ」

京太郎「今日は俺とゆみ先輩が結ばれる運命だという証拠を見つけたので、その披露に来ました」

ゆみ「言っている意味がわからんが、まあ言ってみろ」

桃子「あれ、意外と期待してる感じっすか?」

ゆみ「どこがだ」

桃子「いや、いつもなら言わなくていいって言いそうじゃないっすか」

ゆみ「一度言わせて否定したほうがいいと思っただけだ」

京太郎「ふっふっふ。言わせたことを後悔しますよ?」

ゆみ「さっさと言え。無駄に引っ張るなら帰るぞ」

京太郎「ちょ、ちょっと待ってくださいって。もう、そんなに早く聞きたいんですね」

ゆみ「よし帰る」

京太郎「待った! 言います、言いますから!」

桃子「……」ワクワク

ゆみ「……」

京太郎「まずですね。ゆみ先輩の苗字の加治木ですけど、これは楠のことなんですよ」

ゆみ「そうか。それがどうした」

京太郎「そして俺の苗字と同じ、須賀神社という神社もあるんです」

ゆみ「ああ、まったく興味が無い」

京太郎「凄いのはここからですよ? なんと須賀神社には天然記念物の楠があるんです! これがどういうことかわかりますか?」

ゆみ「いや、さっぱりだな。わかろうとも思わんが」

京太郎「つまり俺と加治木先輩の相性は最高だということです。やっぱり俺たちは結ばれる運命なんですよ!」

ゆみ「そうか……ところで須賀、須賀神社が全国にいくつあるか知っているか?」

京太郎「えっ?」

ゆみ「主なものだけでも14だ。全国にはもっと多くの須賀神社がある」

ゆみ「当然、天然記念物の楠も同様に全国にはたくさんある」

京太郎「そ、それがどうしたっていうんですか!」

ゆみ「つまり須賀神社のうちの1つに楠の天然記念物があってもそれは単なる偶然だということだ。私たちの相性には何の関係もない」

京太郎「ぐぬぬ……きょ、今日のところはこれで帰ってあげます! また来ますからね!」ダッ

ゆみ「ああ、帰ってくれ。もう来なくていいぞ」

桃子「…………」

桃子「それで、先輩はなんで須賀神社が全国にいくつあるかなんて知ってたんすか?」ニヤニヤ

ゆみ「う、うるさい!!」

---------------------------------------

京太郎「ゆみ先輩! 今日もスタイルいいですね。一生俺のそばに居てください!」

ゆみ「告白ではなくプロポーズになっているんだが」

京太郎「結婚を前提に付き合うなんてまどろっこしいことは、お互いやめていい時期かなと思いまして」

ゆみ「やめるどころか始まってもいないがな。それ以上言うつもりならもう近づくな」

京太郎「障害があったほうが恋は燃えますけど、そうやって俺に冷たくするのが辛かったらやめてもいいんですよ?」

ゆみ「まったく辛くないからやめるつもりはない。そもそも相手が拒否しているものを障害とは呼ばん」

京太郎「ああ、俺が言ってやめたら意味無いですもんね。そういう頑固なところも大好きです」

ゆみ「まだ言うか……!」

桃子「延々といつまで続ける気なんすか」

京太郎「そうそう、今日はみんなでプールに行きましょう!」

ゆみ「ついに頭がおかしくなったか。今は冬だぞ」

京太郎「室内プールに決まってるじゃないですか。この間出来たところですよ!」

ゆみ「この間というとわくわくざぱーんか? バカを言うな。開店したばかりでチケットがほとんど出回ってないそうじゃないか」

京太郎「商店街の福引で当たったんですよ。ですから行きましょうゆみ先輩!」

ゆみ「それは幸運だったな。だが生憎今日はこれから部活が――」

智美「来たぞ京太郎ー」

睦月「本当に私たちも呼んでもらってよかったの?」

佳織「楽しみだけど清澄の人たちに悪い気が……」

ゆみ「」

京太郎「みなさん来てくれてありがとうございます! 咲たちにはなんとか納得してもらったんで大丈夫です!」

桃子「本当っすか?」

京太郎「ああ。一週間の雑用と引き換えだけどな……」

智美「苦労してるんだなー」ワハハ

京太郎「なんの、これもゆみ先輩とプールに行けると思えばこそです。……ゆみ先輩?」

ゆみ「なんでお前たちが来ているんだ!? というか知っていたのか!?」

京太郎「メールで誘ったら快諾いただきました。先輩にはサプライズを演出しようと思って今日まで秘密にしてもらってたんですよ」アハハ

桃子「私は先輩を駅前に連れてくるよう頼まれてたっす」

ゆみ「なんで私のほうがアウェーなんだ……」

智美「そんなことないぞ。ただでみんなとプールに行けるんだからいいじゃないか」ワハハ

ゆみ「そういう問題じゃ……」

桃子「まあまあとりあえずバスでプールまで行くっすよ」ガシッ

ゆみ「ま、待て! そうだ私は水着を持ってきていな――」

智美「ちゃんと持ってきてるぞ」ワハハ

ゆみ「どこから持ってきたんだ! 返せ!」

智美「ユミちんの家に行って借りてきたんだー」

ゆみ「いつも以上に必死すぎないかお前たち!?」

智美(せっかくのプレミアチケット)ワハハ

桃子(先輩が行けなくなってお流れになったら困るっすからね)ニヤッ

睦月「黒い笑いだなあ」

佳織「黒いねえ」

京太郎「さあ、観念して行きましょう!」

ゆみ「やーめーろー!」

………

……

ゆみ「来てしまった……」ハァ

桃子「まあまあ、来てしまったものはしょうがないから楽しむっすよ」

ゆみ「楽しめと言われてもな……」

京太郎「それじゃ俺は先に中で待ってます!」

智美「わかった。ユミちんの水着姿楽しみにしてるんだぞー」ワハハ


京太郎「まだかなー」ワクワク

桃子「待たせたっすね!」バーン

京太郎「おー」

睦月「中は結構暖かいんだね」

佳織「色んなプールがあるんだねー」

京太郎「おお!」

智美「……この3人より私のほうが先輩のはずだよなー」ワハハ…

京太郎「蒲原さんも、その、凄い似あってますよ。うん」

智美「上手く誤魔化された気がするなー」ワハハ

京太郎「ゆ、ゆみ先輩はどこかなー」クルッ

睦月「あれ、さっきまで後ろにいたはずなんだけど」

桃子「あ、いた。ほら、隠れてないで来るっすよ!」グイッ

ゆみ「わ、ちょ、ちょっと待て!」

京太郎「――――」

ゆみ「な、なんだ。黙ってないでなんとか言ったらどうなんだっ」

京太郎「――はっ! す、すみません。その、綺麗ですとか似合ってますとか色々言おうと思ってたんですけど、実際見たらあんまり綺麗なんで見惚れちゃって……」

ゆみ「なっ!?」カアァァ

京太郎「な、何言ってるんですかね俺。すみません、忘れてください」カアァァ

ゆみ「あ、ああ。うん、嬉しくもなんともないしすぐにでも忘れる」カアァァ

京太郎「あ、ありがとうございます」カアァァ


睦月「先輩って須賀くんのこと嫌ってるって言ってるんだよね?」ヒソヒソ

桃子「少なくとも自分ではそう言ってるっすね」ヒソヒソ

智美「殴っていいかなー」ワハハ

佳織「ぼ、暴力はダメだよ!?」

京太郎「ゆみ先輩流れるプール好きですねー」スイスイ

ゆみ「飽きたなら他のところに行ったらどうだ」プカプカ

京太郎「俺は全然構わないんですけど、部のみんなと一緒にいなくていいんですか? ここ子供向けですし」

ゆみ「浮き輪に乗って流されているのが好きなんだ」

京太郎「そうなんですか。流されてるの気持ちいいですよね。ちょっと飲み物買ってきますんでここにいてくださいね」

ゆみ「流されて移動するから厳しいな」

京太郎「流れるプールにいたら見つけますから。じゃ行ってきます」ザバッ

ゆみ「ふぅ……ようやくいなくなったか」

ゆみ(結局泳げないと言いそびれてしまったな。最初に断ると蒲原たちも行けなくなりそうだから黙っていたが……)

少年「」ワーワー

ゆみ(子供向けも何も大人用のプールなんて怖くて行けるか! まったくあいつはなぜそういうところに気が回らないんだ)

少女「」ワーワー

ゆみ(まあバレたらバレたで弱みを見せるようで嫌なんだが。泳ぎを教えるとか言ってきそうだ。……まあそれも悪くな――」

少年「」ドンッ

ゆみ「っ!?」クルッ

ザパーン!

ゆみ「ガボッゴボッ」

ゆみ(な、なんだ! 何が起きたんだ! まずい、息が……苦し……い……)

京太郎「ゆみ先輩!!」バシャーン!

ゆみ(須……賀…………?)

………

……

ゆみ「――――ゴホッゴホッ、ゴホッ! ――はぁ、はぁ。んっ」

京太郎「ゆみ先輩! 気がついたんですか!? よかった……ほんとよかった……」ウルウル

ゆみ「私は……いったい何が……」

桃子「浮き輪がひっくり返って溺れちゃってたんっすよ。溺れたって聞いたときは焦ったっす」

少年「」ヒックヒック

ゆみ「この子は……?」

智美「この子がぶつかって浮き輪がひっくり返っちゃったみたいだなー。覚えてないのか?」

ゆみ「ああ、そういえば……」

少年「」ビクッ

ゆみ(しまった、怯えさせてしまったか。大丈夫だと伝えたいがなんと言えば……ダメだ、まだ頭が回らない)アセアセ

京太郎「坊主、お兄ちゃんの言ったとおり、お姉ちゃんちゃんと目が覚めただろ?」ポン

ゆみ「あ……」

少年「うん……」

京太郎「そんなに泣くなよ。大丈夫、お姉ちゃんもきっともう怒ってないから」

少年「うん」

京太郎「でもな、周りを見ないで遊んでちゃダメだぞ? 今回は大丈夫だったけど、それでもお姉ちゃんを怖い目に合わせちゃったんだから」

少年「ごめんなさい……」

京太郎「謝るのは俺にじゃないよ。ほら、お姉ちゃんに怖い目に合わせてごめんなさいってちゃんと言うんだ」

少年「うん。お姉ちゃん、僕のせいで怖い目に合わせちゃってごめんなさい」ペコ

ゆみ「……いや、大丈夫。気にしてないよ。これからは気をつけるんだぞ」

少年「うん! お兄ちゃん、お姉ちゃん、これからは気をつけます」

京太郎「ああ、周りをよく見てからおもいっきり遊ぶんだぞ!」

少年「うん!」タッタッタッ

桃子「ちょっと意外だったっす」

京太郎「何が?」

桃子「京太郎のことだから俺にゆみ先輩に何してんだーってブチ切れるものだと思ってたっす」

京太郎「人のことなんだと思ってんだよ!」

桃子「普段の様子見てるとこんな感じっすよ」

京太郎「いくらなんだってあんな小さい子に切れたりしねえよ……」

ゆみ「須賀」

京太郎「あ、ゆみ先輩。ごめんなさい勝手に先輩がもう怒ってないなんて言っちゃって」

ゆみ「ああいや、それは別にいい。私もあんな子供相手に怒るつもりはないよ」

京太郎「そうですか。それなら良かったです」

京太郎「……それと、泳げないの知らずにプールに誘っちゃってすみません。そのせいでこんな目に合わせてしまってなんて謝ればいいか……」

ゆみ「それについては言わなかった私が悪い。それより助けてくれてあり――」

京太郎「そうだ、人工呼吸はしてませんから安心してください! 素人がやるとあんまり良くないらしいんですよ」

ゆみ「ああ、うん。そうなのか、それは安心した。須賀、助けてく――」

京太郎「心臓マッサージは俺がしたんですよ! ちょっとおもち触っちゃいましたけど勘弁してください」

ゆみ「……ああ、まあ緊急事態だしとやかくいうつもりはない。それより――」

京太郎「いや俺も全然気にしていないですよ。あの辺りと比べるとだいぶ小さめですし、焦ってやってたら全く気にならない程度のボリュームというか」

桃子・佳織「?」←あの辺り

ゆみ「……」

京太郎「ほんと触れてラッキーみたいな感想は一切無いです。だからゆみ先輩も気にしないで――」

ゆみ「」ゲシッ

京太郎「うわっ」

バシャーン!!

京太郎「な、何するんですか!?」ザパッ

ゆみ「いらないことを喋る口も、水の中に入れば声を出せなくなるだろう?」

京太郎「なんのことですか!?」

ゆみ「ふん」スタスタスタ

京太郎「今度俺が泳ぎ教えますよー! 2人で来ましょうねー!」ブンブン

智美「なあユミちん、あんまり怒っちゃダメ――」

ゆみ「わかってる。別に怒ってはいない」

智美「あれ?」

ゆみ「須賀がああいうことを言った理由くらいわかるさ。私に命を助けたという借りを作りたくないんだろう」

智美「わかってたんだなー」

ゆみ「これでもお前より長く須賀に付きまとわれているんだぞ。当たり前だ。まあ、素直に借りを作っておけばいいとは思うが」

智美「そうするとユミちんは多かれ少なかれそれを気にしちゃうからなー。そういうアクシデントに頼りたくないんだろー」

ゆみ「そういうときの行動も含めてその人間の価値だと思うがな」

智美「私もそう思うなー」ワハハ

ゆみ「大体あいつは自分では上手く隠しているつもりなんだろうが、大抵バレバレなんだ」

智美「そうなのかー?」

ゆみ「開園したばかりのプールの人気チケットが福引で出回るには早すぎるだろう。大体6枚も当たるわけがない」

智美「言われてみればそうだなー」

ゆみ「あのときは気づかなかったけれど、映画のチケットが3枚当たるというのも不自然だし、枕も懸賞で当たったにしては私の好みに合いすぎていた」

智美「確かにバレバレだなー」ワハハ

ゆみ「……なんで素直にプレゼントしますって言わないんだろうな」

智美「ユミちんは京太郎がそう言ったら受け取ってたかー?」

ゆみ「……」

智美「感謝されなくてもユミちんに喜んで欲しいんだろー。可愛いじゃないか」

ゆみ「……気づかれてしまったら意味がないだろう」フイッ

智美「まあそうだなー」ワハハ

ゆみ「それじゃ私は帰るから、みんなによろしく伝えてくれ」

智美「帰るのかー?」

ゆみ「ああ、さすがに少し疲れたよ」

智美「そうか。京太郎には心配しないように言っておくぞー」ワハハ

ゆみ「……好きにしろ」テクテクテク

智美(……意識させられてるし、無意味ってことはなさそうだなー)ワハハ

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京太郎「ゆみ先輩! 今日も前髪が八の字に決まってますね!」

ゆみ「喧嘩を売りに来たのか?」

京太郎「そんなことありませんよ! 俺の人生半分あげますから、先輩の人生半分ください!」

ゆみ「作中で否定された告白だな」

京太郎「しまった、そうだった! まあそれは置いておきましょう。今日は――」

ゆみ「……なあ須賀。お前は私のどこが好きなんだ?」

京太郎「え? 全てに決まってるじゃないですか。むしろ嫌いなところなんて1つも――」

ゆみ「……」ジッ

京太郎「……じゃあゆみ先輩の好きなところを少しだけ言いますね」

京太郎「クールな見た目なのに感情を隠すのが下手なところが大好きです」

京太郎「俺が急に誘った映画なのに、帰りに奢ってくれようとする律儀なところが大好きです」

京太郎「昼寝が趣味なちょっと可愛いところも大好きです」

京太郎「約束とはいっても、嫌な相手に本気で麻雀を教えてくれる熱心なところが大好きです」

京太郎「嫌いな相手と同じ名前の神社の数なんてことまで、詳しく調べる真面目なところが大好きです」

京太郎「子供のせいで溺れかけて命の危険も会ったのに、その子を笑って許す優しいところが大好きです」

ゆみ「……」

京太郎「でも何より一番は最初に見たときの印象ですね。綺麗でかっこ良くて。憧れました」

ゆみ「……そうか」

京太郎「それよりゆみ先輩。今日は――」

ゆみ「……今日は帰ってくれ」

京太郎「やだなー。来たばっかりじゃないですか。いつにも増して厳しいですね」

ゆみ「頼む」

京太郎「……わかりました。来週、また来てもいいですか?」

ゆみ「……勝手にしろ」

京太郎「ありがとうございます! それじゃまた来週!」

ゆみ「……はぁ」

桃子「どうしたんすか? 先輩」

ゆみ「モモか。どうせ見ていたんだろう」

桃子「はいっす。突然あんなこと聞くなんて珍しいっすね」

ゆみ「聞いたのは初めてだからな」

桃子「そういえばそうだったっすね。なんで聞こうと思ったんすか?」

ゆみ「別に意味なんてない。気になっただけだ。ただ……」

桃子「ただ?」

ゆみ「……あれだけ好きな理由を並べておきながら、一番の理由が見た目というのはな」ハァ

桃子「見た目……? ああ、そっか。先輩にはまだ言ってなかったんすね」

ゆみ「何がだ?」

桃子「一目惚れって麻雀の打ち筋のことっすよ。団体戦決勝のを見て一目惚れしたらしいっす」

ゆみ「は? まて、何を言っているんだ。それならなぜ須賀はそう言わないんだ」

桃子「なんかそういう本気の言葉伝えるのは恥ずかしいらしいっすよ? 普段のほうがよっぽど恥ずかしいと思うっすけど」

ゆみ「そうだったのか……」

桃子「……先輩は京太郎の何が不満なんすか?」

ゆみ「え?」

桃子「見た目も悪くないし、背も高い。先輩に一途で真面目で性格もいい。結構いい相手だと思うっすよ? 生理的に無理ってわけでもないみたいっすし」

ゆみ「……別に理由はない。ただ好きではないというだけだ」

桃子「見た目で好きになったわけじゃないってわかってもっすか?」

ゆみ「……ああ」

桃子「本当に好きじゃないんすか?」

ゆみ「そうだ」

桃子「そうっすか。……ならいいっすよね」ボソッ

ゆみ「うん? 何がだ?」

桃子「何でもないっす。それじゃ先輩。私はこれで」タッタッタッ

ゆみ「ああ……」

ゆみ(なんだろう。胸がざわつく)

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ゆみ「先週あんなことを言ってしまったが、今週は来るかな。今日はもう少しちゃんと話を……」

京太郎「」テクテク

ゆみ「あ、いた。おーい、須賀……」

京太郎「あんまりくっつくなよ」テクテク

京太郎「え? 俺との仲を見せつけたいって? 恥ずかしいこというなよ。……いや、別に嫌ってわけじゃないんだけどな」テクテク

ゆみ「……行ってしまった」

ゆみ「あいつは1人で何をやっていたんだ? ついに頭がおかしくなったか。まるで恋人がすぐ傍にいるような態度をしていたが……」

桃子「先輩」

ゆみ「モモ。どうしたんだ今日は。遅かったじゃないか」

桃子「……わからなかったっすか?」

ゆみ「? 一体何の話を――」ハッ

ゆみ「……さっき須賀は1人でいるように見えたが、まさかモモ……?」

桃子「まあ見てのとおりっすよ」クスッ

ゆみ「一体いつからっ!」

桃子「うーん、今週っすね」

ゆみ「どうして……」

桃子「京太郎も人間っすから。心変わりしても仕方ないっすよ」

ゆみ「……でも、先週はまた今週も来るって言って――」

桃子「先週あんな言い方したから疲れたんじゃないっすかね。少し話したら私に靡いてくれたっす」

ゆみ「…………そうか。どちらにしろ私には関係がない。付きまとわれなくなってせいせいした」

桃子「そうっすか。少し罪悪感があったんすけど、それなら気にしないことにするっす!」

ゆみ「…………ああ」

桃子「それじゃ私はこの先の喫茶店に行くのでここで。京太郎が待ってるっすから!」タッタッタッ

ゆみ「……ああ」

ゆみ「この先の喫茶店……あそこか」

……



ゆみ「……あ」

京太郎「」アハハ

桃子「」ウフフ

キャッキャッ

ゆみ「…………帰ろう」フラッ

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ゆみ「あれは須賀か……」

京太郎「え? 今日? そうだなー映画でも行くか」

京太郎「何見るかってあれでいいじゃん。お前好きだったろ?」

京太郎「2回目? いいじゃん別に。いい映画なんだし、2人で見るのは初めてなんだし」

ゆみ「……ふん」

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ゆみ「……あいつはよくこっちに来ているんだな」

京太郎「今日は約束通り麻雀を教えてくれ」

京太郎「本当に私でいいのかって? そりゃ彼女なんだからいいに決まってるだろ?」

京太郎「そうだよ。俺が一番教わりたいのはお前なんだから」

ゆみ「っ!」

---------------------------------------

ゆみ「今週もいるのか……」

京太郎「今日? そうだなー。この間行ったプールにでも行くか。そろそろ空いてきてるだろ」

京太郎「え? 泳ぎが苦手? 俺が教えるから心配するなって」

京太郎「いいよ、俺だって一緒に泳ぎたいんだから」

ゆみ「……!」ダッ

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京太郎「あ、先輩」バッタリ

ゆみ「……須賀か。こうして話すのは久しぶりだな」

京太郎「そうですね。色々とありまして」アハハ

ゆみ「色々か……今日は1人なのか?」

京太郎「今日? はい、1人ですけど」

ゆみ「そうか……私は用事があるから。じゃあな」スタスタ

京太郎「あ、ちょっと待って下さい――」




京太郎「――加治木先輩」


ゆみ「――!」ダッ

京太郎「え、ちょ、せ、先輩!? どこ行くんですか!?」ダッ

ゆみ「うるさい! 付いて来るな!」

京太郎「そういうわけには行きませんって!」ガシッ

ゆみ「っ!」

京太郎「なんで急に逃げ出すんですか……ってど、どうしたんですか!?」

ゆみ「……」ポロポロ

京太郎「だ、誰に泣かされたんですか!?」

ゆみ「誰に……? お前は何を」グスッ

京太郎「ゆみ先輩の敵は俺の敵です! 一体誰に何をされたんですか!? 俺がぶん殴ってきます!」

ゆみ「なっ……!」ブチッ

ゆみ「私を泣かせたのはお前だ! ふざけるな、なんなんだお前は!」ポロポロ

京太郎「えっ!?」

ゆみ「悪いのは私だ。近づくなと言ったし、もう来るなとも言った」

ゆみ「実際そうなってせいせいしたと思った。でも違ったんだ。須賀が私のところに来なくて寂しくて、辛くて……」

ゆみ「私が傷ついているのは私のせいだ。自分の気持ちに気付かなかった私が悪い!」

ゆみ「……でもなんで私に見せつけるんだ! あてつけなのか!? なんで苗字で呼んだんだ! 私の胸がどれだけ痛んだかお前にわかるか!?」

ゆみ「なのに、なのになんで泣いたからって優しくしようとするんだ! 優しくするな! お前はモモを選んだんだろう!?」

京太郎「ちょ、ちょっと待って下さい! 色々言いたいことはありますけど、俺がモモを選んだって何の話ですか!?」

ゆみ「今さらとぼけるな! お前は私の前で何度もモモと一緒にデートしていただろう!」

京太郎「デートって俺とモモがですか? 付き合ってもないですし俺がモモとするわけないじゃないですか」

ゆみ「……え? お前はモモと付き合って――」

京太郎「ませんよ。俺はゆみ先輩一筋です。前からずっと言ってるじゃないですか」

ゆみ「じゃあ最近私の前でやっていたことはなんだというんだ!」

京太郎「あれはゆみ先輩と付き合ったらこんな男になるというアピールです」

ゆみ「は?」

京太郎「モモに言われたんですよ。押してダメなら引いてみろ。付き合えと言う前に付き合ったらこんな男になるとアピールするべきっすよって」

ゆみ「……ということはお前は本当に1人であんなことをしていたのか? モモとじゃなくて?」

京太郎「当たり前じゃないですか。モモとなんてしませんよ」

京太郎「そ、それより先輩。さ、さっきの言葉はその……」

ゆみ「……モモーーー!!!! どこだ!!! 出てこい!!!!!」

京太郎「ど、どうしたんですか!?」

ゆみ「モモ!!! どうせ見ているんだろう!!?? さっさと姿を見せろ!!!!」

京太郎「ゆみ先輩、ちょ、ちょっと落ち着いて……」

桃子「京太郎、今っすよ。先輩が落ち着いたらあの決め台詞を言うっす」ヒソッ

京太郎「モモ! お前ゆみ先輩に何言ったんだ!?」

桃子「そんなことは後回しっす。いいっすか。絶対言うっすよ」

ゆみ「モモ!! そこか!!」

京太郎「ひいっ!?」

桃子「見つかったっすか!」

ゆみ「モモ、これはどういうことだ!? 須賀は1人であの演技をしていたといったぞ!?」

桃子「私は見てのとおりって言ったじゃないっすか。見てのとおり1人芝居をしてたんすよ」

ゆみ「……心変わりというのは?」

桃子「押して押して押すってやり方から一度引いてみるってやり方に心変わりしたんすよ?」

ゆみ「……疲れた京太郎は私に靡いたとも言っていたな」

桃子「私が引いてみろって提案したんすよ。押してばっかりじゃ先輩は振り向かないっすよって。その提案にスッと靡いたっす。きっと押すのも疲れてたんすよ」

ゆみ「…………あの喫茶店はなんなんだ?」

桃子「先輩は友達と喫茶店に行かないんすか?」

ゆみ「……なんだ、そうだったのか」フゥ

桃子「わかってくれて何よりっす!」

アッハッハ……

ゆみ「モモ、覚悟はいいな?」ゴッ

桃子「よくないっす!!」スゥ…

ゆみ「あ、こら!!! 消えるなーーー!!!!」

ゆみ「クソッ、モモめ。次に会ったら容赦しないぞ……」

京太郎「あの、ゆみ先輩」

ゆみ「な、なんだ須賀」ビクッ

スゥーッ


京太郎「俺は! あなたが欲しい!!」

ゆみ「!!」

京太郎「なんだかよくわかりませんが、俺はゆみ先輩を一目見たときからずっとゆみ先輩一筋です。それだけはわかってください」

京太郎「ですから、俺と付き合って――」

ゆみ「……ああ、こんな私で良ければ」ニコッ

京太郎「せめて言い終わるまで待ってくださいよ! はぁ……これで100連ぱ……い、今なんて言いました!!!??」

ゆみ「こんな私で良ければ、お前の恋人にしてくれ」

京太郎「ほ、ほんとですか!? じょ、冗談とかじゃないですよね!?」

ゆみ「」コクッ

京太郎「……あ、ありがとうございます! でもなんで突然――」

ゆみ「それより、お前の方こそ私でいいのか?」

京太郎「え? いいに決まってるじゃないですか。なんでですか?」

ゆみ「私はお前にずっと冷たい態度を取っていたし、今回も馬鹿な勘違いをして理不尽な怒りをぶつけてしまったし……」

京太郎「俺は楽しんでましたよ。それにちゃんと話してくれてたじゃないですか。全然冷たくなんてないです」

京太郎「今回のはよくわかりませんけどモモが悪いんですよ」

ゆみ「……そうか。うん、ありがとう」ニコッ

京太郎「っ!」ドキッ

ゆみ「うん?」

京太郎「な、なんでもありません! その、本当に俺でいいんですか?」

ゆみ「お前がいいんだ。……そうだな、半分と言わず、私の人生全部をあげるよ」

京太郎「うぁ……その、嬉しすぎて夢みたいです」

ゆみ「ん、そうか。それなら――」クイッ

ゆみ「ん……」チュッ

京太郎「!?」

ゆみ「……これで現実だとわかってくれたか?」カアァァ

京太郎「は、はい」コクコク

ゆみ「それならよかった」フフッ

京太郎「……ゆみ先輩、大好きです」

ゆみ「ああ、私も愛してるよ。京太郎」ニコッ

カン!

12月21日はかじゅの誕生日です
ゆみたんイェイ~

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月18日 (土) 23:30:32   ID: x1IU994t

まーた京太郎厨が作品レイプか

2 :  SS好きの774さん   2014年10月13日 (月) 03:05:53   ID: Nb7eZWAV

まーたssに対して作品レイプとか言ってるのか

3 :  SS好きの774さん   2015年09月10日 (木) 13:12:11   ID: lmhV6-Wc

京太郎の存在感からするとあり得なくもないと思うんだけど

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