ゆみ「麻雀に興味があるのか?」京太郎「え?」 (51)

ゆみ「突然声をかけてすまない。君がさっきからじっと麻雀部のポスターを見ているからつい」

京太郎「えーと……そうですね。興味くらいはあります。先輩は麻雀部の部員なんですか?」

ゆみ「ああ。今日もこれから部活があるんだが、もしよければ見学していかないか?」

京太郎「いいんですか?」

ゆみ「もちろんだ。部員がまだ少ないから、新入部員はいつでも歓迎だよ」

京太郎「でも俺初心者でルールとかも全然知らないんですよ。この時期に見学なんて邪魔になりません?」

ゆみ「なに、気にするな。この間初心者が1人入ったばかりだ。ルールはこれから教えていくから邪魔になんてならないさ」

ゆみ「それに部員が5人しかいないし、そのうち2人が3年生なんだ。正直なところこのままでは来年潰れかねないから、是非見学して気に入れば入ってもらいたい」ハハ

京太郎「そうなんですか。じゃあ見学させてください!」

ゆみ「ありがとう。案内するよ。こっちだ」

京太郎「はいっ!」

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ゆみ「みんな、見学者を連れてきたぞ」ガラッ

智美「おお、本当かー?」ワハハ

ゆみ「ああ。ほら、入ってくれ」

京太郎「どうも、初めまし……て?」

智美「おお、男子を連れてきたのか」ワハハ

睦月「麻雀部に男子が来たのは初めてだよ。よろしく」

佳織「ゆっくりしていってね」

京太郎(女子ばっかりだー!?)

ゆみ「うん、みんな揃っているようだな。これが鶴賀麻雀部だ」

京太郎「え? 全員ですか? ひーふーみー……先輩含めても4人だけですよ?」

ゆみ「いや、これで全員だよ」

京太郎「あれ、部員は5人って言ってませんでしたっけ? ……まさか、あのときの会話で俺は入部してることに!?」

ゆみ「そんなわけないだろう」クスッ

智美「君の目の前にいるぞー」ワハハ

京太郎「はい? 目の前になんて誰も……」

桃子「よろしくっすー!!」

京太郎「うおおおぉっ!?」ズザザザッ

京太郎「い、今! 目の前に急に!?」ドキドキドキ

桃子「これだけいいリアクションされると、傷つく通り越して面白いっすねー」アハハ

京太郎「先輩……」チラッ

ゆみ「ああ、彼女が5人目の部員の東横桃――」

京太郎「俺幽霊って初めて見ました!!」キラキラ

桃子「さすがにそこまで言われると聞き過ごせないっすよー」

ゆみ「そうか。幽霊は初めて見たか」フフッ

桃子「ちょ、先輩まで酷いっすよ!」

ゆみ「すまない。彼の反応があんまり面白いからからかってしまった」クスクス

京太郎「触ろうとすると透けんのかな……」ソーッ

桃子「あんたもいい加減にするっす!」パシッ

京太郎「!? ゆ、幽霊に叩かれた!?」ビクッ

桃子「なかなかしつこいっすね」

ゆみ「ふふ、からかって悪かった。モモはれっきとした人間でうちの部員だよ」

京太郎「え? でもさっき急に目の前に現れましたよ?」

桃子「そういう体質なんすよ。ちょっと影が薄いんす」

京太郎「影が薄いってレベルじゃないような……」

桃子「幽霊がいるよりは信じられると思うっすけどね」

京太郎「……それもそうか」ウン

智美「なかなか有望な部員だなー」ワハハ

睦月「何を見て言ってるんですか」

ゆみ「面白い後輩だな」フフッ

佳織「そういえば名前はなんて言うんですか?」

ゆみ「ああ、彼の名前は……まだ聞いていなかったな」

智美「名前なんて真っ先に聞くところじゃないかー?」ワハハ

ゆみ「……麻雀部のポスターを見てる生徒を見かけたのは初めてだから、声をかけることばかり考えてそっちまで気が回らなかったんだ」

智美「ユミちんはたまに抜けたところがあるなー」ワハハ

ゆみ「うるさい。……すまない、今さらだが名前を教えてもらっていいだろうか」

京太郎「はい、それじゃ改めて。俺は1年の須賀京太郎です」

ゆみ「私は3年の加治木ゆみだ。よろしく須賀くん」

智美「蒲原智美だ。私も3年だぞ」ワハハ

睦月「私は2年の津山睦月。よろしくね」

佳織「私は2年の妹尾佳織です。須賀くん、よろしくね」

桃子「東横桃子っす。私は1年だからあんたとタメっすね」

京太郎「今日は見学に来たのでよろしくお願いします」

ゆみ「ああ、よろしく。好きなだけ見ていってくれ」

智美「といってもまあ特別なことが出来るわけじゃないけどなー」

京太郎「いいですよ。普段何してるかのほうが見たいですし」

智美「そういうもんかー。いやーよかった」ワハハ

睦月「見学者なんて今年は初めてですもんね」

京太郎「え、そうなんですか?」

ゆみ「ああ。今年は須賀くんが初めてだ。まあ去年も津山だけなんだが」

京太郎「へー。じゃあ東横さんは見学しないで、最初っから麻雀部に入るって決めてたのか?」

桃子「呼び捨てでいいっすよ。私は学内ネットで麻雀してるときに勧誘されて入ったんすよ」

京太郎「学内ネットで麻雀なんてやってたんだな。そんなとこで勧誘されて見学しないで入ったのか?」

桃子「……あれ、もしかして知らないんすか? 1年A組乱入事件」

ゆみ「!」

京太郎「それは知ってる。3年の先輩がA組の教室に突然入ってきて『私は君が欲しい!』って叫んだって言う……あ、もしかして」

桃子「私がその勧誘された相手なんすよ」フフン

京太郎「あー、東横の影が薄くて見つけられなかったからそんなこと叫んでたのか。なんで叫んだんだって思ってた」

智美「ちなみにそのときに叫んだのがこのユミちんだ」ワハハ

京太郎「えっ。あれって加治木先輩がしたんですか?」

ゆみ「うっ……そ、そうだ」カアァァ

ゆみ「あそこにいるはずなのにどこにも見当たらなかったんだ。だからつい焦ってしまってあんなことを……」

京太郎「加治木先輩凄いです!」

ゆみ「え?」

京太郎「部のためとはいえ、違う学年の教室に来て勧誘なんて中々出来ないですよ。尊敬します!」キラキラ

ゆみ「そ、そうか。そう言ってもらえると嬉しいんだが」テレ

智美「あの事件を単なる勧誘で済ませるのかー」ヒソヒソ

睦月「結構変わってますね」ヒソヒソ

桃子「まあ私は実際嬉しかったっすから、当事者じゃなくてもそう思う人もいるんじゃないっすかね」ヒソヒソ

佳織「そういうものなのかな」ヒソヒソ

ゆみ「ヒソヒソとうるさいぞ!」

京太郎(見た目クールそうだけど結構熱い人なんだな。カッコいい!)

ゆみ「と、とりあえず部活を始めるぞ。折角見学に来てくれているんだから、いつまでも話していても仕方がない」

智美「それもそうだなー。須賀くんは役とか分かるかー?」ワハハ

京太郎「すみません、それもさっぱり……」

智美「うん、じゃあまずはルールの説明から始めよう。それが終わったら実際に私たちの対局を見て、それから実戦かなー」ワハハ

ゆみ「ああ、私もそれがいいと思う。須賀くんもそれでいいか?」

京太郎「はい。よろしくお願いします」

ゆみ「よし、それじゃあ説明は私がやろう。みんなは対局をしていてくれ」

睦月「わかりました」

京太郎「え、加治木先輩直々に教えてもらえるんですか」

ゆみ「なんだその大げさな言い方は。私が連れてきたんだから私が教えるのは当然だろう?」

京太郎「でももう後1ヶ月もあれば大会ですよね? 部長として忙しい時期でしょうし、付きっきりで教えてもらうわけには」

智美「ワハハ。その心配はいらないぞ」

京太郎「え? でもさすがに付きっきりは……」

智美「だって部長はユミちんじゃなくて私だからな」ワハハ

京太郎「え"」

智美「だから気にせず部長……じゃなかった。ユミちんから直接教わってていいんだぞ」ワハハ

京太郎「す、すみませんでしたぁ!!」

智美「気にするな。……このくらいでは泣かないから」ワハハ…

京太郎「本当にごめんなさい!!」

ゆみ「こら蒲原。あんまり須賀くんをからかうな」

智美「いやーやっぱりいい反応してくれるなー」ワハハ

京太郎「な、なんだ。からかわれてたんですか」ホッ

智美「傍から見たらどう見たってユミちんが部長だからなー。いつ言おうかとワクワクしてたんだ」ワハハ

桃子「私も騙されたっすよ。気にすることないっす」

京太郎「完全に引っかかっちゃいましたよ。心臓に悪いです」アハハ

智美「ワハハ。まあそういうことだからユミちんから教わってても大丈夫だぞ。一番教えるのが上手いのがユミちんだしなー」

京太郎「はい……ん? あれ?」

智美「さあそれじゃ始めるぞ」

佳織「智美ちゃん。私も一から説明聞いたほうがいいかな?」

智美「そんなことしたら対局が出来ないからやめてくれ」

佳織「でもまだいまいちルールわかってないし……」

桃子「かおりん先輩はルールなんて覚えてなくても大丈夫っすよ。3つと2つを揃えるって覚えておけば十分っす」

睦月「うむ。その通り」

佳織「ええ? でも役くらい覚えないと」

智美「打ちながら覚えればいいさ。ほらやるぞー」

ゆみ「じゃあ須賀くんはここに座っていてくれ。今そこの棚から教本を持ってくるから」

京太郎「あれ? 結局加治木先輩に教えてもらっていいんですか?」

ゆみ「うん? だから蒲原の言った通り……ああ、からかうというのを勘違いしたのか」

京太郎「勘違いって、蒲原先輩が部長だっていうのが嘘でからかってたってことですよね?」

ゆみ「蒲原は間違いなく麻雀部の部長だよ。私は部長じゃない」

京太郎「えぇ!?」

ゆみ(こう素直に驚いてくれると面白いな)フフッ

ゆみ「まあ気持ちはわからなくはないが、あんまり蒲原の前でそういう反応をするなよ?」

京太郎「わかってたらしないですよ! からかうって落ち込んでた方だったんですね……」

ゆみ「実際に接していれば蒲原が部長に相応しいというのがよく分かるんだが、見学に来たばかりだと勘違いしてしまうか」

京太郎「加治木先輩が部長なんだと思ってました」

ゆみ「よく言われるよ。私自身はそんなに向いているとは思わないんだがな」

京太郎「向いてないことはないと思いますよ。でも蒲原先輩に失礼なこと言うところだった……危ねえ」

ゆみ「まあ、仮に聞いていても蒲原はそんなに気にしないさ。それより説明を始めるぞ。まずは一番の基本。和了りかたからだ。順子と刻子というのがあって……」

………

……

ゆみ「今日一日見学してみてどうだった?」

京太郎「凄い楽しかったです! 色々駆け引きとかあるんですね。運だけでほとんど決まると思ってました」

ゆみ「ああ、運が多くを占めていながら、技術があれば負けないように出来るところは麻雀のいいところだと思う」

京太郎「はい。でも逆に運が良ければ勝てるってのも初心者に優しくていいですよね。妹尾先輩とか見てると希望が持てました!」

佳織「私はほんとに運だけだから、私を参考にはしないほうがいいと思うよ?」

ゆみ「……うん。運が良ければ勝てるというのは間違ってはないんだが、妹尾を基準に考えるのはやめておけ」

京太郎「え? でも妹尾先輩が役満和了った時、またかみたいな雰囲気じゃありませんでした?」

智美「普通ないからこそ、佳織が和了った時にまたかって雰囲気になるんだー」

京太郎「なるほど……」

ゆみ「まあ役満なんて狙って出すものではないし、出たらラッキー程度に考えていくのがちょうどいいさ」

ゆみ「妹尾ほどでなくとも、配牌が良ければ上級者とも渡り合える。それが面白いと私も思うよ」

京太郎「そうですね。俺も加治木先輩みたいになりたいです!」

ゆみ「はは、君は人を持ち上げるのが上手いな。……それより、もし須賀くんが良ければまた見学に来てもらいたいんだがどうだろうか」

京太郎「見学はもうやめておきます」

ゆみ「……そうか。まあ仕方がないな」シュン

京太郎「あ、ち、違いますよ! 麻雀部に入部します! だから見学はもうしないって意味です!」

ゆみ「そうか! 早とちりをしてしまったな。すまない」

京太郎「いえ、俺の方こそ紛らわしい言い方してすみません」

智美「須賀くん入部してくれるのかー」ワハハ

京太郎「はい。よろしくお願いします、蒲原部長!」

智美「お、今度はちゃんと部長って言ってくれたなー」

京太郎「も、もう許して下さいよ!」

桃子「私もだいぶ言われたから、しばらくは言われるっすよー」

智美「そろそろ飽きてきたからこれで終わりにしようかな」

桃子「ちょ、酷いっすよ! 私のときはなんだったんすか!」

智美「モモのときに散々やったしなー」ワハハ

桃子「ずるいっすー!」

京太郎「あはは……」

ゆみ「……蒲原がネタばらしした後も勘違いしていたというのは秘密にしておいてやろう」ヒソッ

京太郎「あ、ありがとうございます」

ゆみ「気にするな。私も面白かったしな」クスッ

智美「なんだ、早速内緒話かー? 随分仲良くなったみたいじゃないか」ワハハ

ゆみ「ああ、須賀くんがさっき面白いことを言っていてな。そのことを話していたんだ」

智美「へー。何の話なんだ?」

ゆみ「ああ、それはな」

京太郎「加治木先輩!?」

ゆみ「冗談だよ」クスクス

睦月「もう馴染んでるみたいだね。よろしく須賀くん」

京太郎「よろしくお願いします」

睦月「ところで須賀くんはおせんべいって好き?」

京太郎「はい? 嫌いじゃないですけど」

睦月「よかった! 麻雀部におせんべいが大量に余ってるんだ。男の子ならいっぱい食べられるよね」ドサッ

京太郎「えっ」

京太郎(30袋くらいないか……!?)

桃子「あんまり最初から飛ばさないほうがいいっすよ。ほら、須賀がなんかドン引いてるっす」

京太郎「い、いや。急に言われて驚いただけだから。大丈夫ですよ。このくらい全然いけます」

桃子「あー……」

睦月「ほんと!? よかった。実はまだこの数倍くらいそこの棚に入ってるの。賞味期限が近くなってどうしようかと思ってたんだ」

京太郎「えっ!?」

睦月「ありがとう須賀くん。もちろん私も食べるけど協力よろしくね!」

京太郎「が、頑張ります……」

桃子「忠告したのに自業自得っすね。まあ男1人でハーレム状態なんだからこのくらい我慢するっす」

京太郎「ハーレム……?」ハッ

京太郎(い、言われてみれば女5人に対し男は1人。しかもみんな可愛い! せんべいくらいどうってことないじゃないか!)グッ

桃子「露骨に顔色が良くなったっすね」

智美「なんだ、ハーレムに入りたくて麻雀部に来たのか?」

佳織「そうだったの!? せっかく私と同じ初心者が入ってくれて嬉しかったのに……」

京太郎「ち、違いますから! 大体入るか誘ってくれたのは加治木先輩のほうからですし!」

ゆみ「こらこら、あんまり可愛い新入部員をからかうな」ポン

智美「男子が入るといじりやすくてついなー」ワハハ

佳織「冗談だったの? よかった」パァァ

京太郎(ハーレムっていうかおもちゃだなこれ……)アハハ…

桃子「これで男女揃ったから、男女で全国狙えるっすね」

京太郎「大会は一月後だったと思うんだけど。そんで俺初心者なんだけど」

桃子「死ぬ気でやれば行けるっすよ」

京太郎「いや無理だろ!」

桃子「すぐ諦めるのは良くないっすよ」

ゆみ「ああ、目標は高く持った方がいい」

京太郎「加治木先輩まで何を言ってるんですか」

ゆみ「簡単とは言わないが、女子よりはチャンスがあるからな。君が目指してみたいというなら私たちは協力するよ」

京太郎「……わかりました! 俺全国を目指します」ウオォ!

ゆみ「ああ、その意気だ!」

智美「おお、頑張れー!」

桃子(……今さら冗談だったとは言えない雰囲気。まあノリが9割だとは思うっすけど)

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京太郎「加治木先輩! この筋っていうの教えてください!」

ゆみ「ああ。まず両面待ちを取ることが基本なのは覚えたか?」

京太郎「はい。両面待ちが出る可能性が一番高いんですよね」

ゆみ「場合によるが基本的にはその通りだ。筋というのは両面待ちを相手がしていることを前提にする」

京太郎「ふむふむ」

ゆみ「そういうときに例えば相手が五萬を捨てたとすると、二萬と八萬で和了ることは出来ないだろ? この考え方が筋だ」

京太郎「なるほど! よくわかりました!」

ゆみ「まあ相手が両面待ちをしていることが前提だから、当然筋で打ってもロンされる可能性は十分ある。基本ではあるが、まったく情報がないよりはましという程度のものだな」

京太郎「あくまで参考程度なんですね。ちなみに裏筋ってのはなんなんですか?」

ゆみ「裏筋というのは……例えば手牌に三萬、五萬、六萬を持っているとき、普通三萬を早めに捨てるだろう?」

京太郎「そうですね」

ゆみ「そうすると三萬を捨てた場合四萬、七萬で待っている可能性が高くなる。この考え方が裏筋だ」

京太郎「うーん。言われればわかりますけど難しいですね」

ゆみ「打っているうちに覚えるさ。まあ裏筋自体あんまり信用性のないものではあるんだが」

京太郎「そうなんですか?」

ゆみ「そもそも裏筋が成立する手牌がそんなに来ないだろうし、統計的に無筋の牌を切るのとあまり変わらないという説もある」

ゆみ「個人的にはまったく何も考えずに捨てるよりはマシだと思うが、単なる参考程度に思っておいたほうがいい」

京太郎「わかりました! ありがとうございます!」

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京太郎「立直をした方がいい場面としないほうがいい場面ってどういう場面なんですか?」

ゆみ「本当に場面によるから一概には言えないが、倍満以上ならダマで待っていていいだろう。立直したところで点数は上がりづらいからな」

ゆみ「後は好形の聴牌なら即リーしていい。手変わりなど待つな」

ゆみ「愚形の場合でも手変わりが少ない場合は立直を勧める。手変わりが多い場合ダマテンに取ってもいいだろう」

京太郎「……頭がパンクしそうです」プシュー

ゆみ「別に難しいことは言っていない。要は基本的には立直しろということだ。まあもちろん状況や試合展開にもよるんだが」

京太郎「状況ですか?」

ゆみ「自分が大幅にリードしていればあえて立直をかける必要はないだろうし、得点で負けていれば立直で点数を上げる、手変わりで大物手を待つといった判断が必要だろう?」

ゆみ「まあ言っていることは当然の話なんだが。知識として勉強した上で何度も打っていればそのうち自分なりの判断基準が出来るさ」

京太郎「自分なりの基準ですか」

ゆみ「ああ、結局のところ自分の思う通りの打つのが一番だよ。私たちは妹尾以外どちらかと言うと守備重視だが、それでもそれぞれ判断基準は違う」

ゆみ「自分の芯を持つのが一番大切だと私は思う。ほら、妹尾だって私から見ると滅茶苦茶な打ち方をしているが、それでも結構勝っているだろう?」

京太郎「妹尾先輩は好きでやっているわけじゃないと思いますよ」クスッ

ゆみ「それもそうだな」フフッ

京太郎「でもわかりました。俺も早く自分の基準を作れるように頑張ります!」

ゆみ「ああ、頑張れ」ポンポン

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京太郎「押し引きの判断はどうすればいいんでしょう」

ゆみ「自分の打点が高ければ押す。自分の待ちが良ければ押す。それだけだ」

京太郎「聞いといてあれですけどすっごい雑ですね!?」

ゆみ「細かい状況判断は色々とあるんだが、一般的に言えるのはそれくらいしかないんだ」

ゆみ「ああ、もちろん相手が親で打点が高ければオリたほうがいい場面が多くなるし、オリれそうな牌が少なければ押したほうが得になる」

京太郎「オリれそうな牌ですか?」

ゆみ「現物が多いとかヤオチュウ牌が多いとかだ。オリ切れなさそうなら初めから押してしまうのも手だよ」

京太郎「なるほど。ちなみに役満二向聴の場合は押しますか?」

ゆみ「点差にもよるが基本は押さないな。一向聴なら考えないでもないが二向聴以上なら役満だろうがオリていい」

京太郎「役満でもオリるんですね。徹底してますね」

ゆみ「和了れなければ意味がないからな。……まあ場の雰囲気で押してしまうこともあるかもしれないが」

ゆみ「後はまあ妹尾や消えた後のモモなら押すだろうな。最終的には打つ者の判断だ」

京太郎「参考になります!」

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京太郎「この局面で捨てるべき牌ってなんでしょうか」

ゆみ「どれどれ……私なら八筒の雀頭を確定させるために七筒、六筒を切るな」

京太郎「そっちを切るんですか。俺は八筒切って順子を作るほうがいいかと思ってました」

ゆみ「残りが三索、四索と五萬、四萬の塔子だから待ちが広いしな。どちらかの面子が確定すると真ん中の牌で雀頭を待つことになって受け入れも狭いし」

京太郎「でも雀頭はすぐ変えられるじゃないですか。筋引っ掛けが出来るかもしれないですし」

ゆみ「その可能性に頼るよりは素直に両面待ちにしたほうが早いさ。そもそも単騎待ちと両面待ちじゃ、ツモでもロンでも出る可能性が全然違う」

京太郎「そっか。ツモ和了りも考えると引っ掛けに頼るより素直に待ちが広い方がいいのか」

ゆみ「ああ、そもそも直撃を取りたい場面でもない限り、素直に和了りを目指したほうが早いし得だ」

京太郎「どうしてもこういう場面見ると順子を確定させたくなっちゃうんですよね」

ゆみ「気持ちは分かるよ。ただまあ基本的にこういう場面では雀頭を確定させたほうが得だと思う」

京太郎「ありがとうございます」

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京太郎「勝つために必要なのは何なんですか?」

ゆみ「また抽象的な質問だな」

京太郎「結構勉強して身についてきたとは思うんですけど、まだ中々順位が上がらないので……」

ゆみ「そう簡単に抜けれたら私たちの立つ瀬がないさ。まあ妹尾のような豪運がない以上、初心者の君は経験を積むことが第一だろう」

京太郎「やっぱり経験ですか」

ゆみ「理論を知っていても実戦を経験しないとわからないことというのはたくさんあるからな」

ゆみ「まあそのうちに勝てるようになってくるさ。大丈夫、須賀くんは強くなっているよ」

京太郎「なってますか? 自分じゃ実感が全然ないです」

ゆみ「自分では分からないかもしれないが、傍から見ているとよく分かるよ。迂闊な打ち込みが少なくなった」

京太郎「いやでもそれって当たり前のことじゃないですか」

ゆみ「最初の頃はそれも出来なかっただろう?」

京太郎「……それはそうですけど」

ゆみ「そうやって一歩ずつ強くなっていくしかないんだ。安心しろ、君は私なんかよりずっと順調に成長しているさ」

京太郎「加治木先輩より順調って……そんなことないですよ」

ゆみ「私のときは指導者はいなかったが、それを差し引いても須賀くんは凄いよ。……ああ、でも私のほうが君より優っていたところが1つあるな」

京太郎「それってなんですか!?」グイッ

ゆみ「そうがっつくな。技術とかじゃなく心構えの話だ」

京太郎「心構えですか?」

ゆみ「ああ。どんなに負けそうなときでも諦めないこと。麻雀で勝つために一番必要なのはこれだと私は思う」

京太郎「ダンラスのときとかは諦めちゃってますけど、そういうときでもってことですか?」

ゆみ「ああ、そうだ。大会本番ではダンラスだからといって諦めるわけにはいかないだろう?」

京太郎「そりゃまあそうですけど、今やってるのは練習ですよ」

ゆみ「練習で諦めているのに、急に本番で諦めないようにしようとしても中々上手くいかないさ。そういうのは普段の積み重ねだ」

ゆみ「それに常に諦めないようにするというのは、ダンラスじゃない場面でも上を目指す癖がつくから、普段からそうしたほうがいいと思う」

京太郎「なるほど……分かりました。そうしてみます!」

ゆみ「ああ、頑張れ」

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智美「随分京太郎から懐かれてるなー」ワハハ

ゆみ「懐くってまるでペットみたいな言い方だな……いや、ある意味正しいか」クスッ

智美「後輩男子をペット扱い……まさか親友が魔性の女だったなんて……!」

ゆみ「そうじゃない! なんというか、仔犬のように慕ってついてきてくれるからな。モモともまた違った可愛らしさがある」

智美「身長が20センチも高い男子を仔犬に例えるのは初めて聞いたな」ワハハ

ゆみ「須賀くんは素直だし、私のことを慕ってくれるし、よく私に付いてくるからな。尻尾をパタパタと振られているような気さえする」クスクス

智美「麻雀のことは大体ユミちんが京太郎に教えてるからなー」ワハハ

ゆみ「あんなふうに教えられるのは津山以来だから楽しいよ。モモは最初から教えるまでもなかったし、妹尾は教えても中々な」

智美「かおりんは不真面目ってわけじゃないんだぞ」

ゆみ「わかっている。向き不向きというのがあるんだろう。入ってくれただけでもありがたいよ」

ゆみ「まああの豪運に技術も備わったら……と考えなくもないが」

智美「そこまでは仕方ないさ。高望みってやつだ」ワハハ

ゆみ「ああ。だからこそ、というわけではないが、教えれば教えただけ応えてくれる須賀くんは見ていてとても楽しいよ」

智美「大会まであと少しだけど、本当に決勝リーグくらいなら行けるかもしれないな」ワハハ

ゆみ「決勝はよほど運が悪くなければ行けるだろう。あのときは勢いで言ったが、運が良ければ本当に全国にも行けるかもしれない」

智美「随分京太郎のこと買ってるんだな」ワハハ

ゆみ「手塩にかけて育てているからな」フフッ

京太郎「加治木先ぱーい! 言われてた牌譜検討やって来ましたよ!」

ゆみ「ああ、お疲れ様。やらせてしまってすまなかったな」

京太郎「いえいえ。勉強になりましたから。それより明日の買い出しですけどどこに集合しますか?」

ゆみ「駅前の銅像のところにしよう。遅れるなよ?」

京太郎「もちろんですよ! それじゃあ先に帰ってますね」

ゆみ「ああ、また明日」

智美「……ユミちん。あんまり人の目の前でデートの約束はしないで欲しいな」

ゆみ「デート? 今言った通り買い出しに行くんだが」

智美「土曜日で2人きりでお出かけだろ?」

ゆみ「土曜日で2人きりで買い出しだが?」

智美「……京太郎のこと好きだったりしないのか?」

ゆみ「まさか。須賀くんは可愛い後輩だし考えたこともないよ」アハハ

智美(考えたことがないだけじゃないかなー。……まあいいか)ワハハ

---------------------------------------

京太郎「何切る今週号と飲み物と教本と自動卓の掃除用具と……このくらいですかね」

ゆみ「ああ、これくらいで十分だろう」

京太郎「麻雀部ってあんまり買うものないんですね」

ゆみ「まあ一度揃えてしまえば同じものを使いまわすだけだからな。人数が増えれば買う量も増えるんだろうが」

京太郎「麻雀以外にやることが少ないのはいいことですよ」

ゆみ「ポジティブに考えるのはいいことだな」

京太郎「……そういえば、プロ麻雀せんべいを買えたら買ってって津山先輩から頼まれてたんですがどうしましょう」

ゆみ「あいつはプロ麻雀せんべいのことになると人が変わるな……まあ在庫も少なくなったし、1袋だけならいいか」

京太郎「分かりました。じゃああそこのスーパーに行きましょうか」

ゆみ「ああ。……そういえば今さらなんだが、なんで麻雀を始めようと思ったんだ」

京太郎「なんでって加治木先輩から誘われたからじゃないですか」

ゆみ「そうじゃない。あのとき麻雀部のポスターを見つめていた理由だよ」

京太郎「ああ、そのことですか」

ゆみ「麻雀部に入ろうとするにしても時期が中途半端だろう? ネット麻雀を見てというわけでもなかったようだし」

京太郎「別に大した理由じゃないですよ。幼馴染が麻雀を始めたって聞いて俺もやってみようかと思っただけです」

ゆみ「へえ。そうだったのか。その幼馴染は強いのか?」

京太郎「自分じゃ全然強くないって言ってますね。まああいつ自身人見知りなところのあるやつなんで、そんなに強くないと思います」

ゆみ「人見知りと麻雀の強さには関係がないと思うぞ」

京太郎「まあそうなんですけど、あいつが強かったら凄い違和感あります。笑っちゃうかもしれないですね」アハハ

ゆみ「そうなのか。その幼馴染はどこの高校に行ったんだ?」

京太郎「清澄って高校です」

ゆみ「……すまない。聞いたことがない」

京太郎「まあ良くも悪くも普通な高校ですからね。俺もあいつが行ってなきゃ多分知らないです」

ゆみ「そうか。大会で会えるといいな」

京太郎「はい」

---------------------------------------

ゆみ「ついに大会か。緊張するな……」

智美「ユミちんでも緊張なんてするんだな」ワハハ

ゆみ「当たり前だ。大会に出るのは初めてなんだぞ」

智美「私もそうだけど、ここまで来たら逆に緊張しなくなったなー」ワハハ

ゆみ「そういうところを見るとお前のほうが部長に向いていると思うよ」

智美「照れるなー」ワハハ

睦月「うぅ……緊張する。気持ち悪い」

佳織「津山さん。だ、大丈夫!?」

智美「むっきーは次の部長なんだから慣れておかないとダメだぞ」ワハハ

睦月「頑張ります……胃が痛い」

桃子「先輩がこうやって緊張してるの見ると緊張がほぐれてくるっすね」

京太郎「俺は元から緊張してないけどな」

桃子「京太郎は試合がないじゃないっすか」

京太郎「それを言われたら困る」

桃子「大会会場でまでバカなことを言わないで欲しいっすね」

京太郎「俺なりに緊張をほぐそうと思ってだなあ」

桃子「もうほぐれたって言ったんすけど」

京太郎「……あっはっは」

桃子「笑って誤魔化すんじゃないっす!」

ゆみ「……後輩を見ていると気が楽になってくるな」フフッ

智美「こればっかりは上級生の特権だなー」ワハハ

智美「それじゃあみんな。まずは予選突破頑張るぞー!」ワハハ

一同「おー!」

…………

………

……

――決勝戦後――

ゆみ(……はぁ。負けてしまったか。みんなで全国に行きたかったんだが……)

ゆみ(天江も宮永も池田も強かった。あと一歩で逆転出来そうだったが、そのあと一歩が遠かった)ハァ

ゆみ(……少しそこのベンチで休んでいくか。落ち込んだ顔はあまり見せたくない)ポスッ

京太郎「……」キョロキョロ

ゆみ(あれは須賀くん? 出迎えに来てくれたのかな。声をかけ――)

咲「あ、京ちゃん」

京太郎「ん? よう、咲」

咲「こんなところで何してるの?」

京太郎「加治木先輩を探してんだよ。戻りが遅いからどうかしたのかと思って」

咲「終わってからそんなに経ってないと思うけど、心配し過ぎじゃない?」

京太郎「……言われればそうかも。まあお前が遅くなったときはだいたい迷ってた時だから、遅くなったときは探しに行くのが癖になってんだよ」

咲「いきなり人のこと言わないでよ! もう、久しぶりに会ったっていうのにそれ?」

京太郎「悪い悪い。ついな」

ゆみ(……あんな顔も出来るのか。心を許した笑顔とでも言うのだろうか。私には、向けてくれたことがない)

咲「でもそっか。京ちゃん鶴賀に入ったって言ってたね。本当だったんだ」

京太郎「お前こそそんな麻雀強かったんだな。全然知らなかった」

咲「昔家族でよく麻雀やってたんだ。知ってる? 高校チャンプの宮永照って私のお姉ちゃんなんだ」

京太郎「ああ、あの人見たとき、どっかで見たことあるなって思ったけどそれでか。のほほんとしたお前と全然違うから分からなかった」

咲「あ、ひどい!」ムッ

京太郎「本当のことだろ」

ゆみ(ああいう一面もあるのか。……見たことがなかったな)

京太郎「……」

咲「……京ちゃん」

京太郎「謝るなよ。俺は一緒に戦えなかったけど、先輩たちだってそんなの望んでないと思う」

咲「……うん」

京太郎「全国で先輩たちの分も頑張ってこいよ」ニッ

咲「うん! 絶対優勝してくるから!」

京太郎「じゃあ俺は加治木先輩探しに行くからまたな」

咲「私も控室に戻るよ。またね」

ゆみ「……」

ゆみ(宮永とあんなに仲がいいなんて……そうか。前に話していた幼馴染が宮永なのか。私が敵わなかった宮永が幼馴染……)

京太郎「やべ、つい話し込んじゃったな。加治木先輩は……」

ゆみ「!」

京太郎「あ、いた! 加治木先輩。お疲れ様でした」

ゆみ「あ、ああ」

京太郎「惜しかったですね。オーラスで国士無双がもう少し早く成立していれば……」

ゆみ「たらればを言ってもしょうがないさ」

京太郎「そうですね。俺が言うことじゃありませんでした」

ゆみ「いや、気持ちは嬉しいよ」

ゆみ(うん、普通に話せているな。別に動揺する理由があったわけじゃないが)

ゆみ「……私のこと、探しに来てくれたのか?」

京太郎「え!? い、いえ。加治木先輩が迷うなんてことはないと思ったんですけど、ちょっと心配になったので……」

ゆみ「そうか。ありがとう」

ゆみ「……出られるだけで十分だと思っていたんだ。結果はどうだっていい。そう思っていたのに」

ゆみ「それが素晴らしい部員に恵まれて。決勝まで進めて。2位という好順位で私まで回ってきて……それでも1位になれなかった」

ゆみ「思い上がった考えなんだろうが、全国に行けるんじゃないかとそう思ったよ。私さえ未熟じゃなければ……」

京太郎「1位になれなかったのは先輩のせいなんかじゃないです。ただ相手が強かったってだけです」

ゆみ「ああ。だからそう。悔しいというより残念な気分だ。私はずっとあの場にいたかった」

ゆみ「あの対局に勝ってみんなで全国に。もっと長く。もっとみんなで楽しみたかったんだ……」ポロッ

京太郎「加治木先輩……」

ゆみ「おかしいな。こんな、泣くつもりはなかったんだが」ポロポロ

ゆみ「すまない、先に戻っていてくれないか。こんな姿をみんなに見せるわけには――」

京太郎「加治木先輩!」ギュッ

ゆみ「す、須賀くん!?」

京太郎「……その、そんなに落ち込まないでください。俺は団体戦じゃ力になれませんし、個人戦で全国に行けるって約束もできません」

京太郎「でも加治木先輩を支えることはきっと出来ますから。愚痴を言ってくれてもいいですし、雑用だってなんだってやります」

京太郎「だから泣いたりしないでください。そんな加治木先輩は見たくないです」ギュッ

ゆみ「須賀くん……」

ゆみ(……ああ、落ち着く。このまま抱きしめられるのもいいかもしれない)

ゆみ(須賀くんにはこんな頼りがいのある一面もあったんだな。知らなか――)

京太郎『全国で先輩たちの分も頑張ってこいよ』ニッ
咲『うん! 絶対優勝してくるから!』

ゆみ「――ぃやっ!」ドンッ

京太郎「あ……」

ゆみ「……あ。ち、違う。今のは……」

ゆみ(私は今なにを……)

京太郎「ご、ごめんなさい。ゆみ先輩がつらそうに見えたんでつい力になれればなんて思っちゃって……」

ゆみ「い、いや私は……」

京太郎「すみませんでした!」タタタッ

ゆみ「私は……なんで……」

京太郎『全国で先輩たちの分も頑張ってこいよ』ニッ

ゆみ(ああ、そうか。私は、私の知らない笑顔を彼が見せていたことが――)

智美「……覗き見に来たらえらい修羅場に出くわしてしまった」ヒソヒソ

桃子「どうするっすか? ちょっと今からは出ていけないんすけど」ヒソヒソ

睦月「と、とりあえず控室に戻りましょう。今会ったら気まずすぎます」ヒソヒソ

佳織「そ、そうだね。とりあえず戻ろう」ヒソヒソ

ゆみ「須賀くん……」

---------------------------------------

京太郎「加治木先輩! 今日は個人戦ですね! 団体戦は残念でしたけど、加治木先輩なら個人戦でも全国を狙えますよ!」

ゆみ「あ、ああ。ありがとう。君も個人戦頑張れよ」

京太郎「はい!」

ゆみ「そ、それじゃあ私は早めに対局場に行って準備してくるから」タタタッ

京太郎「あ……」

桃子「すっごい気まずいんすけどどうしたらいいっすかね」ヒソヒソ

智美「ほっとけばそのうち直ると思ったんだが、一週間経ってもこれとはなー」ワハハ

佳織「何か出来ることってないのかな」ヒソヒソ

睦月「下手に口を挟める話題じゃないからなあ……」ヒソヒソ

桃子「2人とも個人戦に影響が出ないか心配っすね」ヒソヒソ

智美「切り替えてくれるといいんだけどなー」ワハハ

---------------------------------------
――9月中旬――

智美「ユミちん。ちょっと話いいかー?」ワハハ

ゆみ「どうした蒲原。お前からそんなこと言い出すなんて珍しいじゃないか」

智美「いやーユミちんが全然部活に来ないから気になってな」ワハハ

ゆみ「私はもう引退したんだ。個人戦も全国に出られなかったし受験勉強もあるし当然だろう。むしろなんでお前はまだ出ているんだ」

智美「私たちがまったく出ないと麻雀部は4人だけじゃないか。面子は揃うけど固定メンバーだけなのはちょっとなー」ワハハ

ゆみ「……」

智美「他にちゃんと理由があるだろー?」

ゆみ「……須賀くんの様子はどうだ?」

智美「ムードメーカー的な感じでよくやってるぞ。麻雀も上達してきたしな」ワハハ

ゆみ「そうか。それなら私が行ってわざわざ雰囲気を悪くすることもないだろう」

智美「ユミちんが来たからって雰囲気が悪くなるわけないじゃないか」ワハハ

ゆみ「どうせ知っているんだろう? 私が須賀くんをあんな風に拒絶してしまったんだ。須賀くんが気にしないわけがない」

智美「個人戦のときもその後も、どっちかというと避けてるのはユミちんの方だったと思うけどなー」ワハハ

ゆみ「……」

智美「なあユミちん。ユミちんはあのとき嫌だったのかー?」ワハハ

ゆみ「……そういうわけじゃない。ただあの直前、須賀くんが宮永と親しくしているのを見てしまったんだ」

ゆみ「その後に須賀くん抱きしめられたとき、宮永と須賀くんが楽しそうに笑っているところが頭に浮かんで真っ白になってしまって……」

智美「それなら京太郎が嫌で突き放したってわけじゃないんだな?」

ゆみ「ああ。私自身の問題だ」

智美「よかった。抱きしめられたのがショックで、ユミちんがずっと落ち込んでるならどうしようかと思ったぞ」ワハハ

ゆみ「抱きしめられるのがショックだったとしても、こんなに長引くわけがないだろう!」

智美「落ち込んでたってのは否定しないんだな」ワハハ

ゆみ「うっ……」

智美「結局京太郎と疎遠になったのが落ち込んだ原因だったんだなー。いやあよかった」

ゆみ「いいことはないだろう」

智美「いや、実は京太郎をここに呼び出してるんだ。抱きしめられたのが嫌でとかだったら困ったことになったからなー」

ゆみ「……は?」

智美「おっと。もうすぐ時間だ。私は退散するぞー」タタタッ

ゆみ「おい蒲原! 待てー!」

智美「ワハハ」タタタッ

ゆみ「あいつ何を勝手なことを……」

京太郎「あ、あれ? 加治木先輩? 蒲原先輩は……?」キョロキョロ

ゆみ「あいつはどこかへ行った」

ゆみ(……こうなっては仕方がない。折角蒲原がお膳立てしてくれた状況だ。勢いでやってしまおう)フゥ

京太郎「えええ……じゃ、じゃあ俺はこれで」

ゆみ「待った。実は蒲原に頼んで私が須賀くんを呼び出したんだ」

京太郎「か、加治木先輩がですか?」ビクッ

ゆみ「ここのところあまり話せなかったからな。わざわざ呼び出してすまない」

京太郎「いえ、大丈夫です。どうしたんですか? あ、もしかして俺が上達しないから退部勧告とか……」

ゆみ「夏の大会のときのことだ」

京太郎「……すみませんでした。先輩の助けになれるんじゃないかって俺勘違いしちゃって。馬鹿ですよね、身の程も知らないで」

ゆみ「違う。あれは違うんだ」

京太郎「すみません、気を使わせちゃって、なかったことに……なんて俺が言うのは虫がいいですね。先輩の好きなようにしてください」

ゆみ「そうじゃない! 私はあのとき清澄に負けて、その後可愛い後輩だと思っていた君が、見たことない表情で宮永と親しそうに話しているのを見て頭の中がごちゃごちゃになって」

ゆみ「その後も君はいつもどおりにしてくれたのに、私が意識してしまってそれで君が離れていって……」

ゆみ「辛いんだ、苦しいんだ。君がいないと寂しいんだ」

京太郎「せ、先輩……?」

ゆみ「また以前のように君に麻雀を教えたい。強くなっていく君を見たい。買い出しに2人で行ったり、麻雀で順位を競いあいたい!」

ゆみ「自分の気持ちに気づいたんだ。……私は君が好きだ!

京太郎「……え?」

ゆみ「……あんなふうな拒絶をしてしまった後で、君が受け入れてくれるとは思っていないが、それでも気持ちだけは伝えておきたかった」

ゆみ「返事はいらない。ただこれからは部活に顔を出すから、そのときは以前のように気軽に質問をして――」

京太郎「加治木先輩! 俺は、今だってあなたのことが大好きです!」

ゆみ「……今、なんて?」

京太郎「俺が加治木先輩を嫌いになるわけないじゃないですか! むしろ俺の方こそ嫌われてないかってビクビクしてたのに……」

京太郎「先輩が辛いときは俺が支えます。……先輩は俺の憧れなんです。だから先輩。いつもの通り、これからも俺に麻雀を教えて下さい」

ゆみ「……須賀くん!」ギュッ

京太郎「先輩!」ダキッ

智美「……物陰から見てたけど予想通りの展開だったなー」ワハハ

桃子「予定調和もいいところっすね」

睦月「その、もう少し祝福してもいいんじゃないでしょうか」

智美「痴話喧嘩で振り回された側としてはなー」

佳織「ま、まあまあ。ともかく、これで長野県選抜にもいい影響が出そうですね」

智美「あ」

桃子「どうしたんすか?」

智美「……ユミちんに伝えてなかった」

睦月「まさか選抜があるのに加治木先輩が部活に来なかったのはそのせいですか?」

智美「……ワハハ」ダッ

桃子「笑いながら逃げるんじゃないっす!」ダッ

睦月「……いつ加治木先輩に伝えよう」

佳織「あれが終わったらでいいんじゃないかな」


京太郎「先輩のこと、これからはゆみ先輩って読んでいいですか?」ギュー

ゆみ「ああ。私は京太郎と呼ぼう。……別にゆみでもいいんだぞ?」ギュー

京太郎「……しばらくはゆみ先輩で」ギュッ

ゆみ「うん。そうか。わかったよ京太郎」ギュッ


佳織「……いつまで続くのかな」ゲンナリ

睦月「……さあ」ゲンナリ

――長野県選抜大会――

ゆみ「また決勝の相手が君か。よくよく縁があるな」

咲「はい。今回もよろしくお願いします」

ゆみ「ああ、よろしく」

咲「そういえば加治木さん、京ちゃんの彼女さんだったんですね」

ゆみ「ん? ああ、そうだよ。君のおかげだ」

咲「え?」

ゆみ「君が私と京太郎のキューピッドだったという話だ」

咲「なんですかそれ?」

ゆみ「ふふ、まあもうすぐ試合だし今はおいておこう。今度は負けないぞ」

咲「……? でもわかりました。私だって負けません!」

ゆみ(京太郎が見ているんだ。相手が誰であろうと諦めるものか。私は彼の憧れで居続けたいんだ!)

ゆみ「行くぞ宮永!」

咲「はい!」

カン

12月21日はかじゅの誕生日です
みんなSS書けばいいと思うよ

重箱の隅をつつくみたいで嫌だが>>32で京太郎がゆみ先輩と呼んでるのが残念でならない
他は良かったと思う

>>43
oh...正しくは加治木先輩ですね
最後だけ書きためてたのが裏目った
予定ではもっと長めのSSで、そこじゃもうゆみ先輩呼びだったんだ

京太郎「あ……」

ゆみ「……あ。ち、違う。今のは……」

ゆみ(私は今なにを……)

京太郎「ご、ごめんなさい。加治木先輩がつらそうに見えたんでつい力になれればなんて思っちゃって……」

ゆみ「い、いや私は……」

京太郎「すみませんでした!」タタタッ

ゆみ「私は……なんで……」

京太郎『全国で先輩たちの分も頑張ってこいよ』ニッ

ゆみ(ああ、そうか。私は、私の知らない笑顔を彼が見せていたことが――)

智美「……覗き見に来たらえらい修羅場に出くわしてしまった」ヒソヒソ

桃子「どうするっすか? ちょっと今からは出ていけないんすけど」ヒソヒソ

睦月「と、とりあえず控室に戻りましょう。今会ったら気まずすぎます」ヒソヒソ

佳織「そ、そうだね。とりあえず戻ろう」ヒソヒソ

ゆみ「須賀くん……」

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